説明

スイッチング電源装置

【課題】 軽負荷時の電源の変換効率向上を図るとともに、トランスサイズの変更なく、短期間の負荷増加にも対応することが可能となるスイッチング電源装置を提供する。
【解決手段】 1次巻線、補助巻線、複数の2次巻線を有したトランスと、前記トランスの1次巻線に一端が接続され補助巻線に制御端子を接続したスイッチング素子と、前記複数の2次巻線の一端に発生する交番電圧を平滑整流する平滑整流手段を備えた不連続モードで動作するフライバックコンバータにおいて、前記複数の2次巻線のインダクタンス値を変化させる選択手段と、機器の動作状態を判断する制御手段を有し、前記制御手段により、前記複数の2次巻線のインダクタンス値を選択する前記選択手段を動作させることで、前記複数の2次巻線のインダクタンス値を変化させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消費電力の観点から見て複数の動作状態が存在する機器に対して電力供給を行うスイッチング電源装置に関するものである。
【0002】
特に軽負荷時における効率向上及び電力変換に用いるスイッチングトランスの有効利用を図るための回路構成及び制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
一般に不連続モードで動作するフライバックコンバータ等のスイッチング電源装置は、熱設計の観点からスイッチング電源が搭載される機器に求められる最大負荷の状態において効率が最大となるように設計される。
【0004】
そのため、機器休止等、すなわち負荷が軽くなればなるほど効率が低下する。
【0005】
また、スイッチング電源装置に用いるトランスは、トランスに用いるコアの飽和の観点から最大負荷の状態において飽和状態に至らないように設計される。
【0006】
この軽負荷時の効率低下を回避するための方法として特許文献1が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第03475904号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の特許文献1で提案されているトランスの複数の2次側巻線を接続する方法では、トランスの出力巻線同士の接続になるため、電流バランスが崩れてしまう。
【0009】
電流バランスが崩れると、電位の高い方の巻線からの電流供給が増え、強いてはトランスの異常発熱を招く。
【0010】
軽負荷時の発振周波数を下げることができたとしても、トランスの異常発熱による損失増加は決して無視できるものではない。また、トランスの発熱を抑えるために、よりインピーダンスの低い巻線を用いなければならず、トランスの小型化への大きな障害になる。一方、スイッチング電源は軽負荷時のみならず、機器動作時にはさまざまな負荷に対応しなければならないが、入力電力によって必要なトランスサイズが決定されるため、機器の小型化を実現するのが難しいという課題があった。以下、これらの課題について動作原理も含めて順次説明する。
【0011】
(スイッチング電源装置の基本動作)
不連続モードで動作するフライバックコンバータとして図6に示したリンギングチョークコンバータ(RCC)を例に説明する。絶縁トランスT601は入力側の1次巻線Nと出力側の2次巻線Nおよび1次側の補助巻線Nにて構成されている。
【0012】
補助巻線Nは主スイッチング素子Q601の制御端子の導通/非導通制御を行うスイッチング素子Q602の駆動用巻線である。入力電圧VinはAC入力電圧をブリッジダイオードで整流し、アルミ電界コンデンサにて平滑された直流電圧であり、アルミ電解コンデンサの両端の電圧である。本図ではブリッジダイオード、アルミ電解コンデンサ、入力フィルタ等は図示していない。入力電圧Vinは1次巻線Nの一端と主スイッチング素子Q601の電流流出端子の間に印加され、入力電圧の(+)側は1次巻線Nの一端、入力電圧の(−)側は主スイッチング素子Q601の電流流出端子に接続されている。また、補助巻き線Nは1次巻き線Nと同極に、2次巻線Nは異極に接続されている。
【0013】
入力電圧の(+)側と主スイッチング素子Q601の制御端子間には起動抵抗R601が接続されている。
【0014】
また、主スイッチング素子Q601の制御端子と直流電圧Vinの(−)側との間には抵抗R602が接続され、起動抵抗R601と直流電圧Vinを分圧することにより主スイッチング素子Q601が導通するに充分な電圧を発生する。
【0015】
主スイッチング素子Q601の制御端子と補助巻線Nの1次巻線との同極側との間にはコンデンサC601と抵抗R603、R604が接続されている。抵抗R604の両端には補助巻線Nb側をカソードの向きにしたダイオードD601が接続されており、主スイッチング素子Q601のターンオン、ターンオフのスピードを調整している。
【0016】
スイッチング素子Q602は主スイッチング素子Q601の導通/非導通を制御するために設けられており、電流流入端子は主スイッチング素子Q601の制御端子に、電流流出端子は直流電圧Vinの(−)側に接続され、制御端子と電流流出端子との間にはコンデンサC602が接続されている。補助巻線Nとスイッチング素子Q602の制御端子との間には抵抗R605が接続され、コンデンサC602との間で時定数回路を構成している。
【0017】
フォトカプラIC601の1次側の電流流入端子と主スイッチング素子Q601の制御端子との間には抵抗R606が接続され、フォトカプラIC601に流れる電流を制限している。フォトカプラIC601のフォトトランジスタの電流流出端子はスイッチング素子Q602の制御端子に接続されている。絶縁トランスT601の2次巻線Nsの1次巻線との異極側には整流用のダイオードD602のアノード側が接続され、ダイオードD602のカソード側と2次巻線Nsの1次巻線と同極側との間には電界コンデンサC603が接続され、ダイオードD602にて整流された交番電圧の平滑を行っている。
【0018】
出力電圧Voutは抵抗R607、R608によって分圧され、分圧された電圧はエラーアンプIC602の検出端子に接続され、エラーアンプIC602は検出電圧を、基準電圧と比較することで出力端子の電圧を変化させ、抵抗R610を介してフォトカプラIC601の発光側のダイオードに流れる電流を制御している。
【0019】
主スイッチング素子Q601は起動抵抗R601と抵抗R602により制御端子に電圧が印加され導通状態となる。
【0020】
主スイッチング素子Q601が導通状態になると1次巻線Nに入力電圧Vinが印加され、補助巻線Nに1次巻線と同極側を正とする電圧が誘起される。このとき2次巻線Nにも電圧が誘起されるが、整流ダイオードD602のアノード側を負とする電圧であるため2次側には電圧は伝達されない。
【0021】
このとき、励磁電流は時間に比例し、オン時間ton後には(1)に従った電流I1pとなる。
【0022】
【数1】

【0023】
1次巻線Npを流れる電流は絶縁トランスT601の励磁電流だけで絶縁トランスT601には励磁電流の2乗に比例したエネルギーが蓄積される。以下(2)式に従ってトランスにエネルギーが蓄積される。
【0024】
【数2】

【0025】
その後、時定数回路を構成している抵抗R605、コンデンサC602には補助巻線Nから電荷が充電され、コンデンサC602の両端の電圧がスイッチング素子Q602の閾値より高くなるとスイッチング素子Q602が導通状態となり、主スイッチング素子Q601の制御端子電圧が低下することで主スイッチング素子Q601は非導通状態となる。
【0026】
このとき絶縁トランスT601の各巻線には起動時と逆極性の電圧が発生し、2次巻線には整流ダイオードD602のアノード側を正とする電圧が発生するため、絶縁トランスT601に蓄積されたエネルギーが整流・平滑され、2次側に伝達される。(2)式に従って絶縁トランスT601に蓄えられているエネルギーが2次側にすべて伝達されると主スイッチング素子Q601は再び導通状態となる。これは2次側にエネルギーの伝達が終わるとバックスイングによりCカップリングしているコンデンサC601から再び主スイッチング素子Q601の制御端子が正方向にバイアスされるためである。
【0027】
フォトカプラIC601からの電流は出力電圧Voutが高いときに電流を多く流すので、それによってコンデンサC602に電流が供給され、充電時間が短くなる。これは主スイッチング素子Q601の導通時間が短くなることを示しており、
これによって絶縁トランスT601に蓄積されるエネルギーが減少することで出力電圧Voutが下がり、定電圧動作を行っている。出力電圧が低い場合は逆の動作になる。
【0028】
リンギングチョークコンバータのオフ時間toffは以下の基本式(3)により算出される。
【0029】
【数3】

【0030】
一方、(2)よりオン時間tonは式(4)になる。
【0031】
【数4】

【0032】
f=1/(ton+toff)から、式(3)、(4)より発振周波数fは以下の式(5)になる。
【0033】
【数5】

【0034】
式(5)よりPin(入力電力)が大きくなるほど、発振周波数fは低下することになる。逆に軽負荷になればなるほど発振周波数が増加することになる。また、入力電圧Vinが高くなるほど、発振周波数fが上昇することになる。
【0035】
また、入力電圧Vinが高いほど、(4)式よりDuty(ton/T)は小さくなる。
【0036】
以上がリンギングチョークコンバータにおける基本的な動作になる。
【0037】
図7はある単一負荷状態におけるリンギングチョークコンバータの各部の波形を示している。Vdsは主スイッチング素子Q601の電流流入端子、電流流出端子間電圧を、I1pは主スイッチング素子Q601に流れる電流を、Iは2次側の整流ダイオードD602に流れる電流を示している。まず、主スイッチング素子Q601のオン期間について説明する。
【0038】
起動抵抗により制御端子に電圧が印加され、制御端子の電位が上昇することによって主スイッチング素子Q601は導通状態となり、I1pは時間とともに正の傾きで直線的に増加し、絶縁トランスT601にエネルギーが蓄積される。
【0039】
このときVdsは主スイッチング素子Q601が導通状態であるため、電位はほぼ零になっており、2次側の整流ダイオード逆バイアスされているためIは流れない。主スイッチング素子Q601が非導通状態となると、I1pは零になり、主スイッチング素子Q601のドレインソース間電圧Vdsは入力電圧Vinと2次側出力電圧の巻線比倍の電圧、およびサージ電圧を重畳したものとなる。このとき2次側の整流ダイオードは導通状態となり、絶縁トランスT601に蓄積されたエネルギーが2次側に伝達される。Iは負の傾きで直線的に減少する。
【0040】
主スイッチング素子Q601が導通状態になった直後には、ダンピング用コンデンサC604の放電電流が流れる。ダンピング用コンデンサC604は非導通状態になったときの主スイッチング素子Q601の電流流入端子、電流流出端子間電圧Vdsの上昇を抑制する働きをしている。
【0041】
また、一方で、トランス設計する際は飽和させない動作条件として、以下の(6)式を満たさなければならない。
【0042】
【数6】

【0043】
(6)式のBは磁束密度を表しており、Sがトランスの断面積を表している。
【0044】
一方、一次インダクタンスLは(7)式で表される。μは透磁率、l0はギャップ長である。
【0045】
【数7】

【0046】
(1)、(6)、(7)式より
【0047】
【数8】

【0048】
一般的に(2)式より同一周波数f、オン時間tonにて入力容量(強いては出力容量)を増加させる場合、I1pを増加させる手法がとられる。ギャップ長l0は必要以上には大きくしない(漏れ磁束の上昇を防止)。
【0049】
(8)式よりトランスの飽和をまねくことなく、I1pを増加させるためには一次インダクタンスLを低下させるか、断面積Sを増加させる必要がある。一次インダクタンスLはNpの2乗に比例するため、具体的にはNを下げるとともに断面積Sを大きくする手法がとられる。
【0050】
(課題となる動作)
通常の機器特にOA機器の場合、例えば電動機等のモータ負荷、制御機器、その他バイアス回路等で構成されていることが多い。そのため、負荷に必要な電流の推移としては図8の下図のようになる。機器の形態にもよるが、モータ負荷の総負荷に占める割合が高く、特にモータの起動時に大きな負荷電流が必要になるケースが多い。そのため、トランス設計をする場合にはモータ起動時の負荷電流を満足するよう設計することになる。
【0051】
図8は機器動作状態と負荷電流及びとリンギングチョークコンバータの動作波形の推移を示したものである。
【0052】
本波形には機器の負荷電流の推移、機器動作状態の推移も合わせて記載してある。
【0053】
図8よりスタンバイ時(すなわち軽負荷時)は(5)式より発振周波数が高いため、オン時間が短くなっている。モータが起動されると負荷電流が増加し、オン時間が最大となり、発振周波数は最も低くなる。
【0054】
このときI1pは最大値Ip1(max)に達する。このIp1(max)が(8)式を満足するよう、トランスサイズが決定されることになる。
その後モータが通常回転状態に達すると負荷電流が低下し、オン時間が短くなるとともに発振周波数が増加する。
モータ動作が終了しスタンバイ状態に移行するとさらにオン時間がさらに短くなるとともに発振周波数がさらに増加する。
【0055】
例として入力電力Pinと発振周波数f、磁束密度Bとの関係を式(5)、(8)から計算すると下記になる。
【0056】
【表1】

【0057】
表1の負荷1はスタンバイ等の軽負荷の状態を表しており、負荷2から負荷4へ入力電力(強いては出力電力)が増加していくに従って、発振周波数fは低下し、磁束密度Bが増加しているのがわかる。
【0058】
一般的なフェライトコアの場合、磁束密度の上限は2000Gauss程度であるため、表1より負荷4の状態は満足できない。フェライトコアの磁束密度上限を超えて動作させた場合には、一次インダクタンスLが極端に低下し、1次巻線Npを流れる電流I1pが極端に増加するため、絶縁トランスT601の異常発熱、主スイッチング素子Q601の故障等を招くことになる。
【0059】
負荷4を満足するためには上述したように(8)式に従い、一次インダクタンスLを下げ、断面積Sを大きくする必要がある。すなわち、機器の電力消費を増加に対応するためには負荷4を満足すべく、トランスサイズを大きくする必要がある。
【0060】
以上のような理由により、入力電力により基板への設置面積、容積が大きいトランスサイズが決定されるため、機器の小型化を実現するのが難しいという課題があった。
【0061】
一方、図8に示すように(5)式よりリンギングチョークコンバータは軽負荷時に発振周波数が上昇し、スイッチングロス、高周波ノイズが大きくなるという課題がある。表1の例では発振周波数fが341kHzにも達している。
【0062】
特登録03475904に記載されているスイッチング電源装置では、軽負荷時の発振周波数の上昇を抑制するために、スイッチ手段S601を配置し、複数の2次巻線出力間(図6ではNs2とN)を接続し、補助巻線Nのバイアス電圧を低下させる手段を提案している。
【0063】
しかしながら、複数の2次巻線出力間を接続するという手段では、出力巻線同士の接続になるため、高電位側の巻線である巻線Ns2からの電流供給が多くなるため、電流バランスが崩れる。そのため、高電位側からの電流の流れ込みが増え、トランスが異常発熱し、強いては飽和することになる。
【0064】
加えてトランスの発熱を抑えるために、よりインピーダンスの低い巻線(線径大)を用いなければならず、トランスの小型化への障害になるという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0065】
上記目的を達成するため、本出願に係る第1の発明は、
1次巻線、補助巻線、複数の2次巻線を有したトランスと、前記トランスの1次巻線に一端が接続され補助巻線に制御端子を接続したスイッチング素子と、前記複数の2次巻線の一端に発生する交番電圧を平滑整流する平滑整流手段を備えた不連続モードで動作するフライバックコンバータにおいて、
前記複数の2次巻線のインダクタンス値を変化させる選択手段と、機器の動作状態を判断する制御手段とを有し、
前記制御手段により前記複数の2次巻線のインダクタンス値を選択する前記選択手段を動作させることで、前記複数の2次巻線のインダクタンス値を変化させるという手段を提供する。
【0066】
本出願に係る第2の発明は、
前記スイッチング電源装置は負荷に供給する電流を検知する電流検知手段を有し、前記検知電流手段からの出力により、前記複数の2次巻線のインダクタンス値を選択する前記選択手段を動作させることで、前記複数の2次巻線のインダクタンス値を変化させるという手段を提供する。
【0067】
本出願に係る第3の発明は、
前記切換手段を前記2次巻線のバイアスに同期して断続動作されるスイッチング素子によって構成するという手段を提供する。
【0068】
本出願に係る第4の発明は、
前記選択手段により選択される動作状態を機器動作の変化の有無に関わらず、一定時間以上動作状態を固定せず、任意の動作状態間を遷移させるという手段を提供する。
【発明の効果】
【0069】
本出願に係る第1の発明により、トランスサイズを変更することなく、短期間の負荷増加にも対応が可能となる。加えて軽負荷時の効率向上も図ることが可能となり、例えばスタンバイ状態の機器の待機電力削減にも大いに貢献できることになる。
【0070】
本出願に係る第2の発明である同期整流方式の切換回路を適用した場合、いずれの負荷条件においてもスイッチング電源装置の効率向上が図ることが可能となる。特に待機時の消費電力の低減に大きく貢献できることになる。
本出願に係る第3の発明では、コントローラIC101を介することなく、スイッチング電源装置からの負荷電流を検出することで、動作切換が可能となる。そのため、コントローラIC101からスイッチング電源装置までの信号線の削除が可能となり、機器レイアウトがしやすくなるというメリットがある。
【0071】
本出願に係る第4の発明では、スイッチング電源装置の発振周波数を任意のタイミングで制御することが可能となるため、スイッチング電源装置からの外来ノイズを低下させることが可能となり、強いては図示していないが、商用電源側へのフィルタ回路の簡素化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の第1の実施例を説明するための回路構成図
【図2】本発明の第1の実施例を説明するための各部動作波形
【図3】本発明の第1の実施例を説明するための各部動作波形
【図4】本発明の第2の実施例を説明するための回路構成図
【図5】本発明の第3の実施例を説明するための回路構成図
【図6】本発明の従来例を説明するための回路構成図
【図7】本発明の従来例を説明するための各部動作波形
【図8】本発明の従来例を説明するための各部動作波形
【発明を実施するための形態】
【0073】
[実施例1]
図1は本実施例を第1の実施例を説明するためのスイッチング電源の回路構成を示したものであり、従来例との違いは機器動作状態によって、複数の2次巻線を任意に選択するようにしたところに特徴がある。
【0074】
図6の従来例と同一機能の箇所については符号を省略して説明することにする。
【0075】
本実施例では2次側のインダクタンス値を変化させる手段として選択する巻線を変更する方法について述べる。
【0076】
図1の絶縁トランスT101は複数の2次側端子を有しており、2次巻線が順次巻き上げられているところに特徴がある。
【0077】
例えば4本端子の場合を考慮すると、端子1から端子2に5ターン、端子2から端子3に5ターン、端子3から端子4に5ターンという具合に巻線される。
【0078】
本実施例では巻線の例として、端子1から端子2に10ターン(巻線1)、端子2から端子3に8ターン(巻線2)、端子3から端子4に10ターン(巻線3)を例としている。
【0079】
また、機器動作状態判断手段として、機器動作制御用のコントローラIC101を用いる。
【0080】
コントローラIC101は機器に用いるモータ制御、その他各種制御を行う。
【0081】
巻線1の一端は出力電圧Voutの低電位側に接続され、他端には整流用のダイオードD101のアノード側が接続され、ダイオードD101のカソード側には、選択動作をするスイッチング素子Q101の電流流入端子が接続されている。
【0082】
巻線2の一端は巻線1と共通である。巻線2の他端は同じく整流用のダイオードD102のアノード側が接続され、ダイオードD102のカソード側には、選択動作をするスイッチング素子Q102の電流流入端子が接続されている。
【0083】
巻線3の一端は巻線2と共通である。巻線2の他端には同じく整流用のダイオードD103のアノード側が接続され、ダイオードD103のカソード側には、選択動作をするスイッチング素子Q103の電流流入端子が接続されている。
【0084】
スイッチング素子Q101〜Q103の電流流出端子には電界コンデンサC603が接続され、電解コンデンサC603のもう一端は出力電圧Voutの低電位側に接続されている。
【0085】
定電圧制御を行うエラーアンプIC602の検出端子には電界コンデンサC603の高電位側が接続され、電解コンデンサC603の端子電圧が一定電圧となるよう制御を行う。
【0086】
スイッチング素子Q101〜Q103の制御端子は抵抗R101〜R103を介して、各々コントローラIC101のポートP1〜P3に接続されている。コントローラIC101はポートP1〜P3をLowレベルに維持することで、選択手段であるスイッチング素子Q101〜Q103の導通状態に維持することが可能となる。
【0087】
図2は本実施例の動作波形の一部を示すものである。
【0088】
図2は従来例同様、主スイッチング素子Q601の電流流入端子、電流流出端子間電圧Vds、主スイッチング素子Q601に流れる電流I1p、2次側の整流ダイオードに流れる電流Iを示している。
【0089】
また、本波形には機器の負荷電流の推移、機器動作状態の推移、コントローラIC101のポートP1〜P3の状態も合わせて記載している。
【0090】
機器動作状態判断手段であるコントローラIC101は、機器がスタンバイ状態のときはポートP3をLowレベルにすることで、2次側のインダクタンス値が高い状態で動作させる。また、機器が動作状態に移行し、負荷が大きい状態(モータ起動時等)ではポートP3をHighインピーダンス状態にするともにポートP1をLowレベルに維持する。これにより2次側のインダクタンス値を低い状態にする。また、スタンバイ状態よりは負荷電流が大きく、過渡期な負荷が小さい状態(モータ回転時等)では、ポートP1、P3をHighインピーダンスにするとともにポート2をLowレベルにする。
【0091】
図2にはスタンバイ状態から機器の動作開始(モータ起動)までの各部の波形と、ポート状態が示されている。
【0092】
図2よりスタンバイ時にはポートP3がLowレベルに維持されていることで、2次側インダクタンス値が高い状態になるため、主スイッチング素子Q601のオフ時間が長くなるため、発振周波数は従来例より低くなっている。
【0093】
これは2次側のインダクタンス値が大きくなることより、(5)式によって導かれる。このとき主スイッチング素子Q601のオン時間であるが、これは(4)式に従い長くなることになる。オン時間、オフ時間ともに長くなるため、スイッチング周波数が下がり、スイッチングロスの軽減を図れることになる。
【0094】
一方、スタンバイ状態からモータ起動状態に移行するときにはポートP3をHighインピーダンスにするとともに、ポートP1をLowレベルにする。これにより主スイッチング素子Q601のオフ時間を短くする。これは式(5)より理解できる。ポートP1をLowにすることにより、2次側のインダクタンス値が小さくなる。(5)式によればNsが小さくなることで発振周波数fが上昇することになる。一方でオン時間は発振周波数fが上がることから、(4)式より短くなる。オン時間、オフ時間共に短くなることから、単位時間当たりの発振回数の上昇が可能になり、トランスからよりエネルギーを取り出せることになる。すなわち図2にも示したが、同一負荷状態においてはI1pの傾きは変わらず、tonが短くなることでI1pは小さくなる。また、Iの傾きはインダクタンス値が小さくなっていることから傾きが小さくなるともに、Iのピーク値は大きくなることになる。
【0095】
モータ起動状態が終了するのに十分な時間経過後、コントローラIC101はポートP1をHighインピーダンス状態にするとともにポートP2をLowレベルにする。ポートP2がLowレベルになることにより、2次側インダクタンス値は軽負荷時と起動負荷時の間に位置する負荷(今回で言えばモータ定常回転負荷)に最適な値に維持される。図3は図2以降のスタンバイ動作に復帰するまでの動作波形を示したものである。
【0096】
モータが定常回転後、機器動作終了する際はポートP2をHighインピーダンス状態にし、ポートP3をLow状態にすることで図2のスタンバイ状態と同じ動作状態になる。
【0097】
図2、3で主スイッチング素子Q601の電流流入端子、電流流出端子間電圧Vdsが各動作状態において大きさが変化しているのは以下の式(9)による。
【0098】
【数9】

【0099】
式(9)によれば、Vdsは入力電圧VinとVoutの巻線比倍の電圧、サージ分Vsの合計によって決まる。今回は特に巻線比を変化させているため動作状態に応じて巻線比がかわり、Vdsが変化している。当然のことながら、すべての状態において主スイッチング素子Q601のVds間の耐圧を満足するような巻線比が選択されることになる。
【0100】
次の表2は本実施例での動作状態を従来例と同一条件にて比較したものである。
【0101】
【表2】

【0102】
表2を従来例での計算例と比較すると、負荷1では従来例では発振周波数が341kHzであるのに対し、本実施例では183kHzに低減可能となる。また、負荷4では従来例では発振周波数は49kHzであるが、磁束密度が2203Gaussと、判断基準である2000Gaussを越えているのに対し、本実施例では発振周波数が97kHzとなり、磁束密度が1560Gaussとなる。これは負荷4の状態でもトランスが飽和することなく、動作可能であることを示している。
【0103】
発振周波数が増加することで、スイッチング損失に加え、ヒステリシス損、うず電流損等の鉄損が増加することになるが、モータ起動等に要する数100ms程度の短期間であれば、熱的に問題になることはない。
【0104】
以上に述べているように、機器動作時に短時間の負荷増加が存在する機器において、トランスサイズを変更することなく、電力供給が可能になる。すなわち機器の機能アップ等により電力消費が増加する場合にも短期間の負荷増加であればトランスサイズを変更することなく対応可能であることを示している。
【0105】
一方、スタンバイ等の状態にて発振周波数を下げることが可能になる効果は大きく、機器の待機電力削減にも大いに貢献できることになる。
【0106】
本実施例では軽負荷時には2次側インダクタンス値を上げ、負荷が大きい時には2次側インダクタンスを下げるような構成になっているが、いずれかのみの場合でも対応した効果が得られることは言及するに及ばない。
【0107】
また、本実施例では不連続モードで動作するフライバックコンバータの例としてリンギングチョークコンバータを取り上げたが、本実施例に該当する方式としては他に不連続モードで動作するフライバック方式であえば適用可能である。
【0108】
[実施例2]
図4は本実施例を説明するためのスイッチング電源の回路構成を示したものであり、第1の実施例との違いは整流用のダイオードと2次巻線の選択動作をするスイッチング素子の直列回路を、スイッチング素子を2個直列に接続した同期整流回路構成にしたところに特徴がある。
【0109】
以下、図1の第1の実施例と同一機能の箇所については符号を省略して説明することにする。
【0110】
巻線1の一端は出力電圧Voutの低電位側に接続され、他端にはスイッチング素子Q201の電流流入端子が接続され、スイッチング素子Q201の電流流出端子にはスイッチング素子Q202の電流流出端子が接続されている。スイッチング素子Q202の電流流入端子には電界コンデンサC603が接続され、電解コンデンサC603のもう一端は出力電圧Voutの低電位側に接続されている。
【0111】
巻線2の一端は巻線1と共通である。巻線2の他端には同じくスイッチング素子Q203の電流流入端子が接続され、スイッチング素子Q203の電流流出端子にはもう一対のスイッチング素子Q204の電流流出端子が接続されている。
【0112】
スイッチング素子Q204の電流流入端子には電界コンデンサC603が接続されている。
【0113】
巻線3の一端は巻線2と共通である。巻線3の他端には同じくスイッチング素子Q205の電流流入端子が接続され、スイッチング素子Q206の電流流出端子にはもう一対のスイッチング素子Q206の電流流出端子が接続されている。
【0114】
スイッチング素子Q206の電流流入端子には電界コンデンサC603が接続されている。
【0115】
スイッチング素子Q201〜Q206の電流流出端子と制御端子間には各々抵抗R201、R202,R203が接続され、抵抗R204、R205、R206を介して出力電圧Voutの低電位側に接続されている。
【0116】
バイアス用巻線である巻線4の一端は巻線3と共通となっており、他端は抵抗207を介して、選択手段であるスイッチング素子Q205、Q206の制御端子との間にスイッチング素子Q207が接続されている。
【0117】
同様にして選択手段であるスイッチング素子Q203、Q204の制御端子と巻線3の他端との間には、抵抗R208を介してスイッチング素子Q208が接続されている。
【0118】
選択手段であるスイッチング素子Q201、Q202も同様に巻線2と制御端子との間に抵抗R209を介してスイッチング素子Q209が接続されている。
【0119】
スイッチング素子Q207〜Q209の制御端子は抵抗R210〜R212を介してコントローラIC101のポートP1〜P3に接続されている。
【0120】
機器動作状態判断手段であるコントローラIC101は、機器がスタンバイ状態のときはポートP3をLowレベルにすることで、2次側のインダクタンス値が高い状態で動作させる。また、機器が動作状態に移行し、負荷が大きい状態(モータ起動時等)ではポートP3をHighインピーダンス状態にするともにポートP1をLowレベルに維持する。これにより2次側のインダクタンス値を低い状態にする。また、スタンバイ状態よりは負荷電流が大きく、過渡期な負荷が小さい状態(モータ回転時等)では、ポートP1、P3をHighインピーダンスにするとともにポート2をLowレベルにする。
【0121】
例として用いているリンギングチョークコンバータの切換動作時の波形は実施例1と同様であるため、本実施例では省略する。
【0122】
整流ダイオードは順方向電圧降下が存在し、電流依存性はあるものの順方向電圧降下は例えば0.7V以上の値になるのが常である。そのため、フライバックコンバータ等の2次側整流ダイオードに流れる電流の平均値を乗じた導通損失が発生する。そのため、この導通損による効率低下が課題となる。一方MOSFET等のスイッチング素子はオン時の抵抗成分による損失はあるが、オン抵抗成分は数10mΩと小さいため、平均電流値にもよるが導通損は整流ダイオードに比べると小さいという特徴がある。
【0123】
本実施例では切換手段として用いているNチャネルMOSFETに整流ダイオードの役割も兼ねているところに特徴がある。NチャネルMOSFETを直列に接続するのは内蔵ダイオードによるトランスの逆励磁を防止するためである。
【0124】
整流ダイオード方式と本実施例のような同期整流方式を比べた場合、選択する素子のスペックにもよるが、例えば整流ダイオードでは0.7V×3A=2.1Wが導通損として発生する場合には、同期整流方式では20mΩ×3A×3A×2=0.36Wの導通損失となる。
【0125】
以上のような動作により同期整流方式の切換回路を適用した場合、いずれの負荷条件においてもスイッチング電源装置の効率向上が図れる。特に待機時の消費電力の低減に大きく貢献できることになる。
【0126】
[実施例3]
図5は本実施例を説明するためのスイッチング電源の回路構成を示したものであり、第2の実施例との違いは、電流検出回路を設け、電流検出回路により選択手段を動作させるところに特徴がある。
【0127】
以下、図4の第2の実施例と同一機能の箇所については符号を省略して説明することにする。
【0128】
R501は出力電圧Voutの高電位側に挿入され、R501の降下電圧を検出することで、切換手段を選択する。
【0129】
R501の電圧降下は抵抗R502〜R507によって検出レベルが決められ、コンパレータIC501、IC502の反転入力端子及び非反転入力端子にレベル信号が入力される。負荷電流が増加し、R501の電圧降下が規定値に到達すると、コンパレータIC501の出力端子がLowレベルに反転することで、NANDゲートとNORゲートで構成される論理回路IC503の動作により、スイッチング素子Q501が非導通状態、Q502が導通状態となる。この動作によりスイッチング素子Q205、Q206が非導通の状態となり、スイッチング素子Q203、Q204が導通状態となる。
【0130】
また、さらに負荷電流が増加するとコンパレータIC502の出力端子がLowレベルに反転し、スイッチング素子Q502が非導通状態、Q503が導通状態となる。この動作によりスイッチング素子Q203、Q204が非導通状態となるとともにスイッチング素子Q201,Q202が導通状態となる。
【0131】
論理回路IC503は軽負荷時には2次側のインダクタンス値が大きくなるように優先的に選択し、負荷増加に伴って2次側インダクタンス値が小さくなるように切り換える論理動作を行っており、動作波形等は実施例1にて述べた内容と違いがないため、説明は省略する。
【0132】
本実施例ではコントローラIC101を介することなく、スイッチング電源装置からの負荷電流を検出することで、動作切換が可能となる。そのため、コントローラIC101からスイッチング電源装置までの信号線の削除が可能となり、機器レイアウトがしやすくなるというメリットがある。
【符号の説明】
【0133】
T101 ・・・・絶縁トランス
IC101 ・・・・コントローラ
Q101〜Q103 ・・・・スイッチング素子
Q201〜Q206 ・・・・同期整流用スイッチング素子
R501 ・・・・電流検出抵抗
IC501、IC502 ・・・・コンパレータ
IC503 ・・・・論理回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次巻線、補助巻線、複数の2次巻線を有したトランスと、
前記トランスの1次巻線に一端が接続され補助巻線に制御端子を接続したスイッチング素子と、
前記複数の2次巻線の一端に発生する交番電圧を平滑整流する平滑整流手段を備えた不連続モードで動作するフライバックコンバータにおいて、
前記複数の2次巻線のインダクタンス値を変化させる選択手段と、
機器の動作状態を判断する制御手段を有し、
前記制御手段により、前記複数の2次巻線のインダクタンス値を選択する前記選択手段を動作させることで、
前記複数の2次巻線のインダクタンス値を変化させることを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項2】
前記スイッチング電源装置は負荷に供給する電流を検知する電流検知手段を有し、
前記検知電流手段からの出力により、
前記複数の2次巻線のインダクタンス値を選択する前記選択手段を動作させることで、
前記複数の2次巻線のインダクタンス値を変化させること特徴とする請求項1に記載のスイッチング電源装置。
【請求項3】
前記切換手段は前記2次巻線のバイアスに同期して断続動作されるスイッチング素子によって構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスイッチング電源装置。
【請求項4】
前記選択手段により選択される動作状態を機器動作の変化の有無に関わらず、
一定時間以上動作状態を固定せず、
任意の動作状態間を遷移させることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のスイッチング電源装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−143112(P2012−143112A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1141(P2011−1141)
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】