説明

スクラッチ加工用積層ポリエステルフィルム

【課題】 フィルム表面の易スクラッチ性と耐熱性の両方を同時に満足するポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】 ポリエステルからなるB層の一方の面にポリエステルからなるA1層が積層され、もう一方の面にポリエステルからなるA2層が積層された二軸配向積層ポリエステルフィルムであって、A1層およびA2層の総厚さが全フィルム厚さの5〜30%の範囲であり、下記式(1)〜(3)を同時に満足することを特徴とするスクラッチ加工用積層ポリエステルフィルム。
0.55dl/g≦フィルムの極限粘度≦0.70dl/g …(1)
nz≧1.495 …(2)
FB≧200MPa …3)
(上記式中、nzは、A1層およびA2層の厚さ方向の屈折率、FBはフィルム長手方向の引張強さを意味する)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクラッチ加工性(引っ掻き加工)および耐熱性(熱しわ)が良好であって、特に転写箔用ベースフィルムとして好適なポリエステルフィルムに関するものであり、詳しくは、スクラッチ加工によって生じた糸屑状の引っ掻き屑が残らず、かつ種々のコーティング加工における耐熱性に優れたスクラッチ加工用積層ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムの片面に離型層、着色層等をコーティングし、さらに金属蒸着層、接着剤層を順次コーティングを施した転写箔用が広範囲の用途に用いられている。この転写箔は、各種プラスチック成形品、皮革、紙等に図形、文字、模様等を熱転写用の用途に用いられている。この各種転写用の中にヘアライン箔と呼ばれる転写箔があり、熱転写された図形、文字、模様等の艶消し用としてヘアライン模様の加飾転写箔用に使用され、広く一般的に知られている。
【0003】
ヘアライン加飾用転写箔は、最初の加工工程でフィルム表面の片面にスクラッチ加工が施される。このスクラッチ加工とはベースフィルムの表面を、例えば回転ブラシや研磨ベルトのようなもので引っ掻き、連続的に広い面積にわたって長手方向に微細な引っ掻き傷を付与し、次いでその際に生じた引っ掻き屑を適当な手段で吸引除去した後、強く拭い取って除去し、巻き取るという工程からなる。この工程では、フィルムに強い張力を与えながらフィルム表面を引っ掻いた後、引っ掻き屑を全面に渡り拭き取り除去する操作が必要である。スクラッチ加工を施したフィルムは、次いで他の種類の転写用の場合と同様に、スクラッチ加工面に離型層、着色層などのコーティングや金属蒸着、接着剤のコーティングを施して加飾転写箔の最終製品となる。
【0004】
転写用のベースフィルムには通常ポリエステル(主にポリエチレンテレフタレート)の二軸延伸フィルムが使用される。ヘアライン箔用にもポリエチレンテレフタレート二軸延伸フィルムが用いられているが、そのベースフィルムには、スクラッチ加工した際に削り屑の端がフィルム表面から剥がれ落ちずに一部残る問題点がある。これは上述のように、スクラッチ加工によって生じた糸屑状の引っ掻き屑を適当な手段で吸い取ったり、または拭き取ったりするが、その結果、得られたフィルムのスクラッチ面に削り屑端部がフィルム面から剥ぎ取られずに残る現象が多く見られるということである。このような削り屑が多く残ると、最終製品の転写箔で熱転写した際に、被転写体の転写仕上がり面に削り屑の跡がそのまま転写されるため外観不良、または、商品価値の低い転写仕上がりとなり好ましくない。
【0005】
近年、転写仕上がりの意匠性が高度化し、精細なライン目が要求されるようになり、易スクラッチ性の良好なポリエステルフィルムの要求に対応するため以下の提案がなされている。
【0006】
このようなことから、分子量と結晶化度(密度)がある特定の範囲にあるポリエステルフィルムを用いることが提案され、実用上において、ある程度は有効であることを確認されている。(特許文献1、特許文献2参照)。
【0007】
しかしながら、近年、ヘアライン箔も多種多様な用途に用いられるようになり、それらの意匠性がさらに高度な精細なライン目が要求されて来ており、上記の従来技術では、スクラッチ加工後の削り屑問題を完全には解決できない。このため、スクラッチ加工後の削り屑が残らずに削り落ちが良好となる提案がなされている。すなわち、さらなる易スクラッチ性に最適なフィルム特性を考案されている(特許文献3参照)。
【0008】
これらの提案によれば、二軸延伸フィルムの極限粘度[η]、密度、面配向度を特定範囲に入れることを特徴として提案がなされており、この考案の意図する特性範囲を満たすことで、易スクラッチ性は良好となり、目的とする削り屑問題はさらに改良されることが確認されている。しかしながら、この特性範囲を満たしたベースフィルムではアライン加工後の離型層、着色層、保護層等のコーティングにおいて、乾燥炉で熱しわが発生しやすいなどの問題でフィルム面状に熱的歪が生じて転写仕上がり面の意匠性が損なわれる欠点となる。この耐熱性とはコーティング後の乾燥工程で高温熱とテンションの影響を受けてフィルムの長手方向に伸び歪が生じて起きる現象であり、いわゆる一般的に耐熱性不足による熱しわの発現を指す。
【0009】
この熱しわ起因の耐熱性向上に関して、転写仕上がり面の意匠性が良好となる以下の方法が提案されている。しかしながら、この耐熱性とフィルム面の易スクラッチ性の両方を同時に満足する転写箔用のベースフィルムが得られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭54−83514号公報
【特許文献2】特公昭60−11628号公報
【特許文献3】特開平10−138334号公報
【特許文献4】特開2001−322396号公報
【特許文献5】特開2002−096438号公報
【特許文献6】特開2002−096439号公報
【特許文献7】特開2008−279704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、上記問題点に鑑み、鋭意検討した結果、特定の構成を有するフィルムによれば、上記課題を容易に解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は、ポリエステルからなるB層の一方の面にポリエステルからなるA1層が積層され、もう一方の面にポリエステルからなるA2層が積層された二軸配向積層ポリエステルフィルムであって、A1層およびA2層の総厚さが全フィルム厚さの5〜30%の範囲であり、下記式(1)〜(3)を同時に満足することを特徴とするスクラッチ加工用積層ポリエステルフィルムに存する。
【0013】
0.55dl/g≦フィルムの極限粘度≦0.70dl/g …(1)
nz≧1.495 …(2)
FB≧200MPa …3)
(上記式中、nzは、A1層およびA2層の厚さ方向の屈折率、FBはフィルム長手方向の引張強さを意味する)
【発明の効果】
【0014】
本発明のスクラッチ加工用積層フィルムは、スクラッチ加工を有する工程において、削り屑が残り難い易スクラッチを有し、かつ耐熱性に優れた二軸配向積層ポリエステルフィルムを提供するものであり、その工業的価値は高い。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、本発明のポリエステルフィルム(以下、「フィルム」と略称することがある)で使用するポリエステル樹脂について説明する。
【0016】
本発明に用いられるポリエステルフィルムとは、芳香族ジカルボン酸またはそのエステルとグリコ−ルとを主たる出発原料として得られるポリエステルであり、繰り返し構造単位の80%以上がエチレンテレフタレ−ト単位またはエチレン−2,6−ナフタレ−ト単位を有するポリエステルを指す。そして、上記の範囲を逸脱しない条件下に他の第三成分を含有していてもよい。芳香族ジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸以外に、例えば、イソフタル酸、フタル酸、アジピン酸、セバシン酸、オキシカルボン酸(例えば、p−オキシエトキシ安息香酸等)等を用いることができる。グリコ−ル成分としては、エチレングリコ−ル以外に、例えば、ジエチレングリコ−ル、プロピレングリコール、ブタンジオ−ル、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコ−ル等の一種または二種以上を用いることができる。
【0017】
重合触媒としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等のアンチモン化合物やゲルマニウム化合物やチタン化合物があげられる。
チタン化合物では、例えばテトラアルキルチタネート、テトラアリールチタネート、シュウ酸チタニル塩類、シュウ酸チタニル、チタンを含むキレート化合物、チタンのテトラカルボキシレート等であり、具体的にはテトラエチルチタネート、テトラプロピルチタネート、テトラフェニルチタネートまたはこれらの部分加水分解物、シュウ酸チタニルアンモニウム、シュウ酸チタニルカリウム、チタントリアセチルアセトネート等が挙げられる。
また、本発明のポリエステル系フィルムは無機粒子、有機塩粒子や架橋高分子粒子を添加することができる。
【0018】
無機粒子としては、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、リン酸リチウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、フッ化リチウム、非晶質シリカ等が挙げられる。
【0019】
有機塩粒子としては、蓚酸カルシウムやカルシウム、バリウム、亜鉛、マンガン、マグネシウム等のテレフタル酸塩等が挙げられる。
【0020】
架橋高分子粒子としては、ジビニルベンゼン、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸またはメタクリル酸のビニル系モノマーの単独または共重合体が挙げられる。その他ポリテトラフルオロエチレン、ベンゾグアナミン樹脂、熱硬化エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂などの有機粒子を用いてもよい。
【0021】
本発明のポリエステルフィルムは延伸工程中および、又はその後のフィルムに接着性、帯電防止性、滑り性、離型性等の機能を付与するために、フィルムの片面に塗布層を形成する方法やコロナ処理等の表面処理を施してもよい。
【0022】
本発明の転写箔用ポリエステルフィルムの総厚みは、本発明の転写箔用ポリエステルフィルムが使用される用途に応じ適宜選択されるため特に限定されないが、機械的強度、ハンドリング性、生産性、および経済性などの点から、12〜100μmが好ましい。
【0023】
本発明の積層フィルムは、内層(B層)と外層(A1層およびA2層)で構成する原料の極限粘度が異なる。外層は極限粘度を低くすることでフィルム表面の易スクラッチ性を高め、内層は極限粘度を高めることでフィルムの耐熱性を付与し、かかるコーティング乾燥炉での熱的歪(熱しわ)を向上させことを目的とする。さらには原料コスト面において、外層にコストの高い粒子を含有し、内層には無粒子原料やリサイクル原料を配合することで製造コスト削減を図ることができる。
【0024】
本発明において、ポリエステルA1層およびA2層の総厚さが全フィルム厚さの5〜30%の範囲であり、より好ましくは10〜25%である。全フィルム厚さの5%未満ではA層(外層)の削り厚さが制限され、好ましくなくない。30%を超えると、本目的の耐熱性が保つことが困難で、熱しわが発生しやすくなり、好ましくない。
【0025】
本発明において、フィルムの極限粘度は0.55〜0.70dl/gの範囲である。フィルムの極限粘度が0.55dl/g未満では、フィルムの耐熱性が劣り、0.70dl/gを超えると、易スクラッチ性が悪化する。
【0026】
本発明において、A1層およびA2層におけるフィルム厚さ方向の複屈折率(nz)が1.495以上、好ましくは1.480以上である。フィルム厚さ方向の複屈折率(nz)が1.495以下では易スクラッチ性が劣り好ましくない。
【0027】
本発明において、フィルム長手方向の引張強さは200MPa以上、好ましくは230MPa以上である。引張強さが200MPa未満では、コーティング乾燥で伸び歪が発生しやすく、熱しわ原因となり好ましくない。
【0028】
本発明において、フィルム片面(背面)に帯電防止能とブロキング防止能を併せ持つ帯電防止層を有する基材フィルムとして用いることが好ましい。
【0029】
以下、帯電防止剤の詳細について説明する。
【0030】
帯電防止剤は低分子量のアニオン系帯電防止剤を用いると、ポリエステルフィルムをロール状に巻いた状態で、帯電防止剤が転写層の離型層をコートする面に転移し、離型層のコートに悪影響を及ぼしたり、転写層を加工後に巻き上げた際に帯電防止剤が接着剤層に転移したりして、接着剤が所望した性能を発揮できないということが起こる。このような帯電防止剤の転移を防止するには、高分子量アニオン性化合物を用いるのが良い。また、カチオン系帯電防止剤の場合も、高分子量カチオン性化合物を用いることが望ましい。帯電防止層の表面固有抵抗は、通常1×1013Ω以下、好ましくは1×1012Ω以下、さらに好ましくは1×1011Ω以下である。表面固有抵抗が1×1013Ωを超えると、帯電防止性能が劣り、工程での帯電起因による不具合を改善できないことがある。
【0031】
帯電防止層は、上記のように帯電防止剤の転移が少ないか、ないことが特徴であるが、同時に転写層の接着剤とのブロキングを生じてはいけない。ブロッキングの生じない目安として、粘着テープ(セロテープ(登録商標))の粘着層との剥離力が2.4N/cm以下であることが好ましく、さらに好ましくは2.0N/cm以下、特に好ましくは1.7N/cm以下である。この値が2.4N/cmを超えると、ブロキング性改良効果は出ないことがある。
【0032】
このような特性を満たす帯電防止剤としては、例えば、4級アンモニウム塩基を有する化合物がある。これは、分子中の主鎖や側鎖に、4級アンモニウム塩基を含む構成要素を持つ化合物を指す。そのような構成要素としては、例えば、ピロリジウム環、アルキルアミンの4級化物、さらにこれらをアクリル酸やメタクリル酸と共重合したもの、N−アルキルアミノアクリルアミドの4級化物、ビニルベンジルトリメチルアンモニウム塩、2−ヒドロキシ3−メタクリルオキシプロピルトリメチルアンモニウム塩等を挙げることができる。さらに、これらを組み合わせて、あるいは他の樹脂と共重合させても構わない。また、これらの4級アンモニウム塩の対イオンとなるアニオンとしては例えば、ハロゲン、アルキルサルフェート、アルキルスルホネート、硝酸等のイオンが挙げられる。
【0033】
また本発明においては、4級アンモニウム塩基を有する化合物は高分子化合物であることが望ましい。分子量が低すぎる場合は、帯電防止層から接着剤層へ静防剤が転移し、所望の接着効果が出なかったり、転写時に加熱ロールや金型に付着したりする。このような不具合を生じないためには、4級アンモニウム塩基を有する化合物の数平均分子量が、通常は1000以上、さらには2000以上、特に5000以上であることが望ましい。また一方で、かかる化合物は分子量が高すぎる場合は、塗布液の粘度が高くなりすぎる等の不具合を生じる場合がある。そのような不具合を生じないためには、数平均分子量が500000以下であることが好ましい。
【0034】
粘着テープの粘着剤との剥離力を2.4N/cm以下とするには、帯電防止剤の選択が重要なだけではなく、剥離力をより小さくするには、ポリオレフィン系樹脂および/またはフッ素系樹脂を積極的に配合することが有効である。ポリオレフィン系樹脂やフッ素系樹脂としては、帯電防止剤と同様に転移の少ないもの、好ましくは転移のないものを配合することが好ましい。
【0035】
本発明における塗布層は、インラインコーティングにより設けられるのが好ましい。インラインコーティングは、ポリステルフイルム製造の工程内で塗布を行う方法であり、具体的には、ポリエステルを溶融押出ししてから二軸延伸後熱固定して巻き上げるまでの任意の段階で塗布を行う方法である。通常は、溶融・急冷して得られる実質的に非晶状態の未延伸シート、その後に長手方向(縦方向)に延伸された一軸延伸フィルム、熱固定前の二軸延伸フィルムの何れかに塗布する。これらの中では、一軸延伸フィルムに塗布した後に横方向に延伸する方法が優れている。斯かる方法によれば、製膜と塗布乾燥を同時に行うことができるために製造コスト上のメリットがあり、塗布後に延伸を行うために薄膜塗布が容易であり、塗布後に施される熱処理が他の方法では達成されない高温であるために塗膜とポリエステルフィルムが強固に密着する。
【0036】
塗布層の厚さは、乾燥後の厚さとして、通常0.001〜10μm、好ましくは0.010〜5μm、さらに好ましくは0.015〜2μmである。塗布層の厚さが0.001μm未満の場合は、帯電防止効果が十分に改良されない場合がある。塗布層の厚さが10μmを超える場合は、塗布層が粘着剤のような作用してロールに巻き上げたフィルム同士が相互に接着する、いわゆる謂ブロッキングを生じることがある。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
(1)フィルム層の厚み
透過型電子顕微鏡(TEM)によるフィルム断面の観察にて行った。すなわち、フィルムサンプルの小片を、エポキシ樹脂に硬化剤、加速剤を配合した樹脂に包埋処理し、ウルトラミクロトームにて厚み約200nmの切片を作成し、観察用サンプルとした。得られたサンプルを日立(株)製透過型電子顕微鏡(H−9000)を用いて断面の顕微鏡写真を撮影し、表層の厚みを測定した。ただし、加速電圧は300KV、倍率は表層厚みに応じ、1万倍〜10万倍の範囲で設定した。厚み測定は50点行い、測定値の厚い方から10点、薄い方から10点を削除して30点を平均して測定値とした。
【0039】
(2)極限粘度[η]
測定試料をフェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量部)の溶媒に溶解させて濃度c=0.01g/cmの溶液を調製し、30℃にて溶媒との相対粘度ηを測定し、下記式より極限粘度[η]を求めた。
(η−1)/c=[η]+[η]k’c
(ただし、上記式中、k’は0.33とした)
【0040】
(3)厚さ方向の屈折率(nz)
アタゴ製アッベ式屈折計を使用した。ヨウ化メチレンをマウントして、試料フィルムを測定面が下になるようにプリズムに密着させ、単色光ナトリウムD線(589nm)を光源として厚み方向の屈折率を測定した。
【0041】
(4)表面固有抵抗
横河・ヒューレット・パッカード社の内側電極50mm径、外側電極70mm径の同心円型電極である16008A(商品名)を23℃、50%RHの雰囲気下で試料に設置し、100Vの電圧を印加し、同社の高抵抗計である4329A(商品名)で試料の表面固有抵抗を測定した。
【0042】
(5)引張強さ(FB)
(株)インテスコ製引張試験機インテスコモデル2001型を用いて、温度25℃において長さ50mm,幅15mmの試料フィルムを、200mm/分の速度で引張試験を行い、縦方向の破断時応力を求めた。
【0043】
(6)易スクラッチ性
25μmの片面フィルムに25MPaのテンションを与え、1200rpmを有する回転ブラシをフィルム面に接触させて削り取った後、研磨ベルトで面状を仕上げ、吸引装置と水洗いにより削り紛を除去し、光沢度は60±5グロスの範囲としたヘアライン面調のフィルムを得た。得られたフィルムを1m切り出し、目視でフィルム面の削り残りの欠点数を数えて以下の基準にて判定した。
◎:削り残りの欠点数が無く、良好
○:削り残りの欠点数が10個以下であり、実用上使用可能なレベルである
×:削り残りの欠点数が10個以上であり、実用上使用不可のレベルにある(不合格)
【0044】
(7)耐熱性(熱しわの外観品位)
上記(8)にて作成したロール状フィルムを9MPaのテンションで巻き出し、離型コートした後、165℃の乾燥炉で10秒間処理して巻き取った。得られたフィルムを3m長さに切り出して目視で観察し、熱しわレベルを以下の基準にて判定した。
◎: 熱しわレベルが極めて軽微であり良好
○: 少し熱しわが観察されるが実用上使用可能レベルである
×: 熱しわが強く観察され、実用上使用不可のレベルにある(不合格)
【0045】
次に実施例に使用するポリエステル原料について説明する。
<ポリエステル1>
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸、多価アルコール成分としてエチレングリコールを使用し、定法の溶融重合法にて極限粘度が0.62dl/gとする滑剤粒径を含有しな
ポリエステルチップを製造した。
【0046】
<ポリエステル2>
溶融重縮合反応で得た上記ポリエステル1のチップを減圧下で180℃から240℃にて1時間から20時間程度保ち固相重合により、極限粘度が0.84dl/gに高めた滑剤粒径を含有しないポリエステルチップを製造した。
【0047】
<ポリエステル3>
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸、多価アルコール成分としてエチレングリコールを使用し、定法の溶融重合法にて極限粘度が0.62dl/gとし、平均粒径2.5μmの非晶質シリカを0.60部含有してポリエステルチップを製造した。
【0048】
比較例1:
A層(外層)、B(内層)の原料配合率は表1に示すとおり配合した後、押出機にて溶融させて、積層ダイに供給し、フィルム状に押出して35℃の冷却ドラム上にキャストして急冷固化し未延伸フィルムを作製した。次いで80℃の加熱ロールで予熱した後、赤外線加熱ヒーターと加熱ロールを併用して85℃のロール間で縦方向に3.3倍延伸した後、フィルム片面にグラビアコーターで5μm厚みとなるよう帯電防止コートを行い、次いでフィルム端部をクリップで把持してテンター内に導き、100℃の温度で加熱しつつ横方向に3.8倍延伸し、236℃で4秒間の熱処理を施した後、180℃で幅方向に3%弛緩し、積層フィルムからなる25μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。この時のA層の厚さが全厚さの15%で、A層、B層が同じフィルム極限粘度[η]の0.56とし 得られたフィルム特性は表1に示すとおりであった。この結果より、B層(内層のコアー部)のフィルム極限粘度[η]が低いため耐熱性が低下し、熱しわに劣る。
【0049】
比較例2:
A層、B層の原料配合率は表1のとおりで、A層の厚さ比率は比較例1と同様に全厚さの15%とし、製造条件は上記比較例1を適用して厚さ25μmの積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表1に示すとおりであった。この結果より、A層(外層)のフィルム極限粘度[η]が高いため易スクラッチ性に劣る。
【0050】
比較例3:
A層、B層の原料配合率は表1のとおりで、A層の厚さ比率は比較例1と同様に全厚さの15%とし、製造条件は上記比較例1を適用して、縦倍率を 3.3倍から3.7倍に、横倍率を3.8倍から4.0倍に高倍率化に変更し、厚さ25μmの積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表1に示すとおりであった。この結果より、厚さ方向のフィルム屈折率の値が低いため易スクラッチ性に劣る。
【0051】
比較例4:
A層、B層の原料配合率は表1のとおりで、A層の厚さ比率は比較例1と同様に全厚さの15%とし、製造条件は上記比較例1を適用して、縦倍率を 3.3倍から3.0倍に、横倍率を3.8倍から3.6倍に低倍率化に変更し、且つ、熱処理温度を236℃から239℃に変更して厚さ25μmの積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表1に示すとおりであった。この結果より、フィルム強度不足起因による加工で伸び歪が生じ耐熱性が劣る。
【0052】
比較例5:
A層、B層の原料配合率は表1のとおりで、A層の厚さ比率は全厚さの4%とし、製造条件は上記比較例1を適用して、熱処理温度のみ236℃から238℃に変更し 厚さ25μmの積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表1に示すとおりであった。この結果より、A層(外層)の厚さが薄いため、削り深さがフィルム極限粘度の高いB層(内層)に達したため易スクラッチ性に劣る。
【0053】
比較例6:
A層、B層の原料配合率は表1のとおりで、A層の厚さ比率は全厚さの32%とし、製造条件は上記比較例5を適用して、厚さ25μmの積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表1に示すとおりであった。この結果より、A層の厚さが厚いため、B層(内層のコアー部)の厚さが薄くなり耐熱性に劣る。
【0054】
実施例1:
A層、B層の原料配合率は下記表2のとおりで、A層の厚さ比率は全厚さの28%とし、製造条件は上記比較例5を適用して、厚さ25μmの積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表2に示すとおりであった。この結果より、易スクラッチ性は良好であり、耐熱性も使用上に実害ない範囲で良化した。
【0055】
実施例2:
A層、B層の原料配合率は表2のとおりで、A層の厚さ比率は全厚さの15%とし、製造条件は上記比較例5を適用して、厚さ25μmの積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表2に示すとおりであった。この結果より、易スクラッチ性、耐熱性共に良好な結果を得た。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のフィルムは、例えば、スクラッチ加工される転写箔用ベースフィルムとして好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルからなるB層の一方の面にポリエステルからなるA1層が積層され、もう一方の面にポリエステルからなるA2層が積層された二軸配向積層ポリエステルフィルムであって、A1層およびA2層の総厚さが全フィルム厚さの5〜30%の範囲であり、下記式(1)〜(3)を同時に満足することを特徴とするスクラッチ加工用積層ポリエステルフィルム。
0.55dl/g≦フィルムの極限粘度≦0.70dl/g …(1)
nz≧1.495 …(2)
FB≧200MPa …3)
(上記式中、nzは、A1層およびA2層の厚さ方向の屈折率、FBはフィルム長手方向の引張強さを意味する)

【公開番号】特開2010−260276(P2010−260276A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113199(P2009−113199)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】