説明

スクリーン印刷装置

【課題】印刷材料を所定のパターンで印刷するスクリーン印刷装置及びスクリーン印刷方法において、磁力を用いてマスクを引き上げて被印刷体とマスクとの離版性を高めるのと同時に、マスクを引き上げる磁力を容易に調整可能にする。
【解決手段】
被印刷体の一面に所定のパターンで印刷材料を印刷するスクリーン印刷装置において、弾性及び軟磁性を具備した印刷部材と該印刷部材を支持する支持部とを備えた印刷手段と、前記印刷材料を該印刷領域に供給するとともに前記印刷部材の上方を少なくとも一方向に移動可能に配設された供給手段と、前記供給手段と同期して移動するとともに前記印刷部材を引き上げる磁力発生手段とを有し、前記印刷部材を挟んで前記磁力発生手段と相対して配設されて軟磁性体からなる磁力調整手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷材料を被印刷体に印刷するスクリーン印刷装置およびスクリーン印刷方法に関するものであり、特に、半導体素子が形成されるウエハ、または、電子素子が実装される回路基板等の電子部品に、半田ペースト、フラックス等を所定のパターンに印刷する際に好適な、スクリーン印刷装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明は、例えば、樹脂、セラミックス、ガラス等の基体に、塗料、インク、接着剤、樹脂等を印刷する技術に適用することが可能であるが、以下の背景技術では、半田ペースト、フラックス等の印刷材料を半導体素子が形成されたウエハに印刷する例を用いて本発明を説明する。
【0003】
例えば、回路基板にLSI・コンデンサ素子・抵抗素子等、電子素子を実装する際には、回路基板に半田ペーストを印刷した後、半田ペースト上に電子素子を装着し、リフロー処理で半田ペーストを溶融して回路基板に電子素子を接合する。また、ウエハ等に半田ボールにより半田バンプを形成する際には、ウエハにフラックスを印刷した後、フラックス上に半田ボールを装着し、リフロー処理で半田ボールを溶融して半田バンプを形成する。
【0004】
上記の回路基板等に半田ペーストやフラックス(以下半田ペースト、フラックスも含めてペーストと言う場合がある。)等を印刷するには、通常スクリーン印刷装置が用いられる。スクリーン印刷装置による印刷では、印刷部材であるマスクの貫通開口部を通して、回路基板等の所定の位置にペーストが供給される。
【0005】
従来のスクリーン印刷装置は、図8(a)の符号8に示されるように、回路基板W上に配置された電極等のパターンに対応した貫通開口部813を有するマスク811が、枠部812に張設されて回路基板Wに位置合わせされ、マスク811の上面に供給されたペーストfが、スキージ82で塗り広げられながら貫通開口部813に押圧・供給された後、マスク811が回路基板Wから離版することでペーストfが回路基板Wに配置される、印刷手段81を有している。ここに示す従来のスクリーン印刷装置8は、いわゆるオフコンタクト方式の構成であり、スクリーン印刷装置8に用いられるマスク811は、自体が弾性を有するか、あるいは、弾性を有する部材を介して枠部812に張設され、マスク811の下面と回路基板Wの上面との間に所定の初期間隙G(以下スナップオフと言う場合がある。)が設けられ、貫通開口部813にペーストfが供給される際、スキージ82の押圧力でマスク811の下面が回路基板Wの上面に当接され、ペーストfが供給された後には、再び弾性によりスナップオフGが形成される形状に復元する。
【0006】
近年、電子素子の実装密度は高まる一方であり、一括生産が好まれることから、印刷エリアは大面積化する傾向にある。そして、配線の狭ピッチ化により高い印刷精度が要求されることで、間隙であるスナップオフGは小さくなる傾向にあり、一層の高精度印刷が要求される場合には、マスク811と回路基板Wとを接触させた状態で印刷する、いわゆるコンタクト方式も採用されている。ここで、図8(b)に示すように、オフコンタクト方式においてスナップオフGを狭小にして印刷した場合、あるいは、図8(c)に示すように、マスク811と回路基板Wとを接触させてコンタクト方式で印刷した場合、貫通開口部813に供給されたペーストfは、密着したマスク811と回路基板Wの間隙に滲み出し、マスク811と回路基板Wとが粘着して、回路基板Wからマスク811が離版し難くなることがある。このような離版性の悪化は、印刷パターンの滲みと印刷厚みのバラつきが大きくなることにつながるので、高精度が要求される印刷においては好ましくない。さらに、印刷エリアが大面積化するのに伴ってマスク811が大型化すると、離版性の悪化はさらに顕著になる傾向にある。
【0007】
一方で、図8(a)に示すように、上記ペーストfの滲みを少なくするようスナップオフGを広くすると、印刷中にマスク811のたわみ量が大きくなり、印刷パターンにズレを生じる危険性があるのと同時に、マスク811が離版して初期の形状に復元するときに、印刷されたペーストfが形崩れを起こす危険性もある。したがって、高精度が要求される印刷ではスナップオフGを広くしすぎることも好ましくない。
【0008】
上記問題を解決するための検討は種々行われており、そのうち、印刷後のマスクを磁石(磁力発生手段)により強制的に引き上げ、離版性の問題を解決しようとした例が、下記特許文献1、2に記載されている。
【0009】
特許文献1の図5には、磁性材からなるマスクを被印刷体に位置あわせし、マスク上に供給されたインクをスキージで塗り広げて被印刷体上にインクパターンを印刷するにあたり、スクリーンと被印刷体の間のインクによる粘着力を打ち消す方向に磁力による引き上げ力を与え、インクパターンが印刷された後にマスクを版離れさせる構成のスクリーン印刷装置が開示されている。かかる特許文献1のスクリーン印刷装置によれば、インクをスキージで塗り広げた直後に、磁石の磁力により強制的にマスクを被印刷体から引き上げるので、被印刷体からのマスクの離版性が良好になるというものである。
【0010】
また、特許文献2には、弾性および軟磁性を具備したマスクの上方を、スキージと同期して一方向に移動しながら印刷部材を引き上げる磁力発生手段を備え、その磁力発生手段のマスクと相対する一面に複数の磁区が配されているスクリーン印刷装置が開示されている。かかる特許文献2のスクリーン印刷装置によれば、磁力発生手段からマスクを通る磁束密度を、マスク全体に渡りより均一にすることができるので、マスクがより均一に上方へ引き上げられ、印刷部材と被印刷体との離版性を良好にすることができ、また、マスク以外への磁力の広がりを抑止できるので、マスクに効率よく磁力を作用させることができる。
【0011】
ここで、特許文献1の図5のスクリーン印刷装置は、マスクに対する磁石の距離および角度を調整することにより、マスクを引き上げる磁力の設定が可能であるとしている。また、特許文献2の図11のスクリーン印刷装置でも、磁区とマスクとの距離を調整することにより、マスクを引き上げる磁力を調整することが可能であるとしている。しかしながら、磁石(磁区)によりマスクが引き上げられる力は、マスクに対する磁石の距離および角度の変化に対して敏感に変化する。したがって、マスクの開口パターンやマスク材料の磁気特性が異なる場合、あるいはマスクの厚みが異なる場合、マスクを引き上げる磁力を調整するために、磁石の距離および角度を調整して、厳密な位置決め作業をする必要がある。また、マスクに対する磁石の距離および角度を変えずに最適な磁力を得るためには、最適な磁力をもった磁石に交換する作業が必要になる。したがって、工業的には、マスクを交換する度にマスクを引き上げる磁力の調整が必要になることになる。このような磁石の厳密な位置決め、もしくは、磁石の交換作業は、工数が増加するので、工業的には好ましいものではない。したがって、磁石の位置を調整せず、マスクを引き上げる磁力を容易に調整可能な装置が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平8−34110号公報
【特許文献2】特開2007−137046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記従来の技術の問題点を解決するものであり、電子部品等の被印刷体の一面に、半田ペーストやフラックス等の印刷材料を所定のパターンに印刷するスクリーン印刷装置及びスクリーン印刷方法において、磁力を用いてマスクを引き上げて、被印刷体とマスクとの離版性を良好にするのと同時に、マスクを引き上げる磁力を容易に調整可能にしたスクリーン印刷装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のスクリーン印刷装置は、被印刷体の一面に所定のパターンで印刷材料を印刷するスクリーン印刷装置であり、前記パターンに対応する貫通開口部、前記貫通開口部を含み前記印刷材料が供給される印刷領域及び前記被印刷体の一面に対し所定の位置関係にて位置合わせされる一面とを有する弾性及び軟磁性を具備した印刷部材と、該印刷部材を支持する支持部とを備えた印刷手段と、前記被印刷体に位置合わせされた前記印刷部材の他面側から前記印刷領域を加圧しつつ前記印刷材料を該印刷領域に供給するとともに前記印刷部材の上方を少なくとも一方向に移動可能に配設された供給手段と、前記供給手段の移動方向に対し前記供給手段の後方に当該供給手段の移動方向に対し直交する方向において前記印刷領域を包含するように配設され前記供給手段と同期して移動するとともに前記印刷部材を引き上げる磁力発生手段とを有し、前記印刷部材を挟んで前記磁力発生手段と相対して配設されて軟磁性体からなる磁力調整手段を有することを特徴としている。
【0015】
ここで、

前記磁力調整手段を移動して前記磁力調整手段と前記磁力発生手段との間隔を調整可能にする昇降手段を有する構成がより好ましいものである。印刷部材を挟んで相対する磁力発生手段と磁力調整手段との間隔を調整することで、印刷部材の引き上げに作用する磁力発生手段からの磁力密度を変化させることができ、印刷部材を引き上げる磁力を容易に調整することができる。かかる手段によれば、磁力発生手段の位置を変化させる必要はなく、磁力調整手段の位置を調整するだけで、印刷部材を引き上げる力を容易に調整することができるので、工業的には好ましい装置とすることができる。そして、前記磁力発生手段は永久磁石とする構成がより好ましい。
【0016】
また、本発明のスクリーン印刷装置は、前記磁力調整手段が複数に分割して配置され、分割された個々の磁力調整手段が独立して前記印刷部材との間隔を調整可能に配設される装置としてもよい。
【0017】
さらに、本発明のスクリーン印刷装置は、前記磁力調整手段が前記供給手段と同期して前記供給手段と同方向に移動可能に配設される装置としてもよい。
【発明の効果】
【0018】
上記説明のように、本発明のスクリーン印刷装置によれば、従来技術の問題を解決し、マスクを引き上げる磁力を容易に調整可能なスクリーン印刷装置を提供するという、本発明の目的を達成することができる。なお、上記スクリーン印刷装置の好ましい態様及びその効果については、以下詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施態様のスクリーン印刷装置で対象とするウエハの斜視図である。
【図2】本発明の第1実施態様のスクリーン印刷装置の概略構成を示す斜視図である。
【図3】図2のスクリーン印刷装置の拡大断面図、平面図である。
【図4】図2のスクリーン印刷装置の磁力発生手段の詳細を説明する図である。
【図5】図2のスクリーン印刷装置の印刷部材の引き上げ力が調整される原理を説明する図である。
【図6】図2のスクリーン印刷装置の動作を説明する図である。
【図7】本発明の第2実施態様のスクリーン印刷装置の概略構成を示す断面図である。
【図8】従来のスクリーン印刷装置の動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明にかかるスクリーン印刷装置を、その各種態様に基づき図面を参照しつつ説明する。なお、下記の実施態様のスクリーン印刷装置が印刷対象とする印刷体は、図1に示すようなウエハWであり、所定パターンに配列された平面状電極pに、直径が20〜150μm程度の半田ボールBが搭載されるものである。そして、下記実施態様のスクリーン印刷装置を用いて、ペースト状のフラックスが電極pに印刷される。
【0021】
[第1実施態様]
本発明の第1実施態様について、図2〜6に基づいて説明する。図2は第1実施態様のスクリーン印刷装置1の概略構成を示す斜視図、図3は図2のスクリーン印刷装置の拡大断面図および平面図、図4は図2のスクリーン印刷装置の磁力発生手段の断面図、図5は図2のスクリーン印刷装置において印刷部材の引き上げ力が調整される原理を説明する図、図6は図2のスクリーン印刷装置の動作を説明する図である。
【0022】
第1実施態様のスクリーン印刷装置1において、符号11は印刷手段である。印刷手段11は、弾性を有するか、あるいは、弾性を有する部材によって周囲から張設された平板状のマスク(印刷部材)111と、マスク111を支持する枠状の支持部112とを有している。マスク111には、図1のウエハWの電極pの配列パターンに対応する複数の貫通開口部113が形成されている。また、マスク111は、フラックスが充填される複数の貫通開口部113を含む印刷領域114と、電極pが配列されたウエハWの上面(一面)に対して所定の位置関係で位置合わせされる裏面(一面)115とを有している。マスク111は軟磁性を有する磁性ステンレスやNiからなり、その厚みは20〜100μm程度である。なお、マスク111の厚みは、半田ボールの大きさや電極pの大きさ等を考慮して適宜設定されるものであり、貫通開口部113は、レーザ加工やエッチング加工、精密電気鋳造法などの周知の加工方法で形成されている。
【0023】
ここで、図3(a)に示すように、本実施態様のスクリーン印刷装置1はオフコンタクト方式を採用しており、マスク111は、ウエハWの上面に対して裏面115が所定の間隙、すなわちスナップオフGが形成されるようにして位置合わせされている。なお、図2における符号15は上記ウエハWが載置される平板状のテーブルである。このテーブル15にウエハWを真空吸着する真空吸着手段を備えれば、載置されたウエハWはテーブル15に吸着固定されるので、より好ましい固定状態にて印刷することが可能になる。
【0024】
(供給手段)
符号12は、本実施態様の供給手段であるプラスティック系やゴム系の材料からなる平板状のスキージである。スキージ12は、ウエハWに対して位置合わせされたマスク111の上面に対してその下端を当接して、印刷領域114を包含可能な大きさからなる。また、スキージ12の側面とマスク111の上面とがなす角度は20〜80度が好ましい。スキージ12は、図2において矢示するように、マスク111の一端から他端に向かい水平に移動可能な水平移動手段14に取付けられており、マスク111の上面に供給されたフラックスを印刷領域114に供給・押圧して貫通開口部113に充填するのに用いられる。
【0025】
(磁力発生手段)
符号13は、図3(a)において矢示するように、マスク111を上方に引き上げる磁力発生手段である。磁力発生手段13は、スキージ12の移動方向においてはスキージ12の後方にスキージ12と所定の間隔を維持するようにして水平移動手段14に固定され、スキージ12の移動方向に直交する方向においてはスキージ12とほぼ同じ幅にして、マスク111の印刷領域114を包含可能に設けられている。このときスキージ12と水平移動手段14の間隔は、5〜20mm程度が好ましい。
【0026】
以下、本実施態様の磁力発生手段13の構成ついて、図4を参照ながら説明する。本実施様態の磁力発生手段13には、図4(a)の正面図と図4(b)の底面図に示すように、両端にN極及びS極を有する複数の角柱状の磁石131を互いに側面同士を接触する状態にして一列直線状に並べ、磁石131の並びの方向がスキージ12の移動方向と直交するよう配設された磁力発生手段13にするのが好ましい。この場合、マスク111と相対する磁力発生手段13の下面Lは、隣接する磁石131の磁極面が、N極,S極,N極,S極…の順に異なるようにして並べるのが好ましい。かかる磁力発生手段13は、磁束Mを形成してマスク111の引き上げに作用する磁力を発生するが、その磁力は隣接する複数の磁石131間全てに分散して発生するので、ウエハWからマスク111をより均一に上方へ引き上げるのには好ましい構成である。
【0027】
磁力発生手段13に用いる磁石131には電磁石を用いることもできるが、この場合、電磁石の構成部品であるコイルを冷却するのに別途冷却手段が必要になり、装置が大型化することになる。したがって、磁石131には永久磁石を用いるのが好ましく、特に、単位体積あたりの磁気エネルギーが大きい希土類系の永久磁石が好ましい。
【0028】
磁力発生手段13は、各磁石131の磁力を同一にすることでマスク111の引き上げに作用する磁力を均一にすることができるが、マスク111部分の引き上げやすさに応じて、敢えて各磁石131の磁力が異なるよう設定してもよい。例えば、マスク111の支持部112近傍部分やマスク111の開口密度が高い部分では、変形したマスク111の復元力が大きいので、マスク111の引き上げに作用する磁力を他の部分と比較して相対的に小さなものに設定してもよい。かかる設定により、ウエハWからマスク111をより均一に上方へ引き上げられることもできる。
【0029】
また、磁力発生手段13において、各磁石131の磁極面内では磁力は不均一になるので、各磁石131を可能な限り小さくして磁極面を小さくするのが好ましい。磁極面を小さくすることで磁力の分布をより所望の分布に近づけることができるので、ウエハWからマスク111をより均一に上方へ引き上げるのにより好ましい磁力発生手段にすることができる。
【0030】
さらに、図4(c)に示すように、磁力発生手段13の上面U側に、該上面を包含できる大きさの軟磁性片132を設けてもよい。かかる軟磁性片132を設けることで、隣接した各磁石131の上面Uから装置外に漏洩する磁束を抑制でき、マスク111を引き上げるのに磁力を有効利用可能にするのとともに、磁力発生手段13cから漏洩する磁界が装置周囲に与える悪影響を防止することができる。
【0031】
(磁力調整手段)
図2における符号16は、磁力発生手段13から発生してマスク111の引き上げに作用する磁力を調整する磁力調整手段である。この磁力調整手段16は、板状の軟磁性体からなり、ウエハWを挟んで磁力発生手段13と相対して配置される。
【0032】
磁力調整手段16は、接続する昇降手段17により磁力発生手段13との間隔を調整することで、マスク111の引き上げられる力が調整されるものである。図2の磁力調整手段16は、4本のネジ式の昇降手段17に接続して支持されており、各々の昇降手段17の軸が回転することで磁力調整手段16が上下して、磁力発生手段13と磁力調整手段16との間隔が調整できる。以下に、磁力調整手段16と昇降手段17とが一体的に動作してマスク111の引き上げられる力が調整される原理を説明する。
【0033】
図5は、図2のスクリーン印刷装置1の磁力発生手段13近傍の拡大断面図であり、図5(a)はマスク111と磁力調整手段16との間隔が広い状態を示す図、図5(b)はマスク111と磁力調整手段16との間隔が、図5(a)の状態から狭まった状態を示す図である。
【0034】
磁力発生手段13と磁力調整手段16に挟まれたマスク111は、磁力発生手段13から発生した磁力の作用により上方に引き上げられる力(図中の矢印)を受けるが、磁力発生手段13から発生した磁束Mの大部分は、軟磁性であるマスク111を透過して、磁力調整手段16に吸収される。ここで、磁力調整手段16を、図5(a)のような状態から図5(b)のような状態にマスク111に接近させると、磁力発生手段13から発生した磁束Mは、磁力調整手段16により多く吸収されるようになるのと同時に、磁力発生手段13直下の磁束Mの広がりが抑制され、マスク111近傍の磁束密度が高まることでマスク111はより強い力で上方に引き上げられるようになる。
【0035】
このように、磁力発生手段13と磁力調整手段16の間隔を調整してマスク111を引き上げる力を調整する方法は、磁力発生手段13とマスク111との間隔を調整してマスク111を引き上げる力を調整する方法と比較して、マスク111近傍の磁束密度変化が小さく、マスク111を引き上げる力の変化量も小さい。したがって、本実施態のスクリーン印刷装置1では、マスク111を引き上げる力の微妙な調整を容易に行うことができる。
【0036】
また、磁力調整手段16は、磁力発生手段13から発生した磁束Mを吸収してマスク111近傍の磁束密度を調整し、マスク111を引き上げる力を調整できる材料であるのが好ましく、特に、磁性ステンレス鋼板やNi板など、軟磁性体の板材を用いるのが好ましい。本実施態様の磁力調整手段16に用いる材料としては、透磁率が大きい軟磁性材料ほど磁束Mを吸収しやすいので好ましいものである。
【0037】
また、本実施態様の磁力調整手段16は、磁束Mを吸収してマスク111を引き上げる力が確実に変化するよう、適当な板厚にする必要がある。そして、磁力調整手段16に用いられる軟磁性体の板材は、通常均一な板厚の板材を用いればよいが、敢えて板厚が不均一な磁力調整手段16としてもよい。かかる磁力調整手段16によれば、マスク111を引き上げる力をマスク111の部分ごとに変えることができるので、例えば、マスク111がスキージ12により変形しても復元しやすい部分については、磁力調整手段16の板厚を他の部分と比較して相対的に薄くし、マスク111がより均一に上方へ引き上げられるよう設定することもできる。
【0038】
本実施様態では、磁力発生手段13と磁力調整手段16との間隔を調整し、マスク111を引き上げる力を調整する磁力調整手段16について説明してきたが、本発明のスクリーン印刷装置は、必ずしもかかる磁力調整手段16に拘るものではない。たとえば、磁力発生手段16を軟磁性体の薄板を重ねあわせたものとし、薄板の枚数を変えることで磁力発生手段16の実効的な厚みを調整し、マスク111を引き上げる力を調整する磁力調整手段16にしてもよい。
【0039】
(スクリーン印刷装置1の動作)
上記構成のスクリーン印刷装置1の動作について図6を参照しながら説明する。
まず、図6(a)に示すように、テーブル15(不図示)の所定位置にウエハWを載置し、ウエハWの上面とマスク111の裏面115との間に所定のスナップオフGが形成されるようマスク111を位置合わせする。
【0040】
このとき、磁力調整手段16とマスク111の間隔を適当な間隔に設定する。この間隔は、例えば、予め行なったテスト印刷により最適な印刷結果を示す間隔を見つけ出して設定すればよい。
【0041】
次いで、図6(b)に示すように、マスク111の上面にフラックスfを供給し、マスク111の右端(一端)にスキージ12の下端を当接し、マスク111をウエハWに押付けながらフラックスfを加圧する。マスク111は弾性を有するので、スキージ12が当接している部分が下方に湾曲し、当該部分がウエハWの上面に接触する。また、スキージ12の移動方向に対して後方に設けられた磁力発生手段13は、該磁力発生手段13の直下にあるマスク111を上方に引き上げる。
【0042】
次いで、図6(c)に示すように、マスク111の右端から左端(他端)に向って水平移動手段14によりスキージ12を移動させる。この移動にともない、スキージ12はフラックスfを印刷領域に塗り広げていき、印刷領域の貫通開口部113にフラックスfを充填し、押圧する。ここで、磁力発生手段13は、スキージ12と同期して、該スキージ12の後方を移動している。したがって、フラックスfが貫通開口部113に充填された直後のマスク111は、ウエハWとの間に粘着性を有するフラックスfが存在することで一旦はウエハWと密着状態になるが、磁力発生手段13で上方に引き上げられてスナップオフGを有する初期の状態に復元される。したがって、本実施態様によれば、フラックスfがマスク111とウエハW間に滲み出す前にマスク111が引き上げられるので、印刷精度が高く、高コントラストで滲みの少ない印刷パターンを形成することが可能であり、同時に、フラックスfによるマスクの裏面115の汚染を抑止することも可能である。また、磁力発生手段13が、スキージ12の移動方向に対し、スキージ12の後方の印刷領域114を包含可能な大きさに設けられ、さらに複数の磁石を並べることによって構成されるものであれば、磁力発生手段13の下方にあるマスク111をより均一に上方へ引き上げるのに好ましい装置にすることが可能である。
【0043】
次いで、図6(d)に示すように、マスク111の左端までスキージ12を移動し、フラックスfの印刷が終了する。
【0044】
上記の例では、予め磁力調整手段16とマスク111とを所定の間隔に設定して、その設定した間隔を用いて印刷を行なう動作について説明したが、本実施態様のスクリーン印刷装置1は必ずしもこの動作に拘るものではない。例えば、移動するスキージ12の後方にスキージ12と同期して移動しながらウエハWからのマスク111の版離れ量(距離)をモニターするセンサを配置し、センサで検出される版離れ量(距離)に応じて磁力調整手段16とマスク111の間隔を随時調整する構成としてもよい。この構成によれば、予めテスト印刷をして磁力調整手段16とマスク111の間隔を設定する必要がない上、マスク111がより均一に上方へ引き上げられるよう磁力発生手段13と磁力調整手段16との間隔を微妙に調整することができる。
【0045】
[第2実施態様]
本発明の第2実施態様について、図7を参照しながら説明する。図7は、第2実施態様のスクリーン印刷装置2,3の概略構成を示す断面図であり、テーブル15及び水平移動手段14、昇降手段17は省略している。なお、第1実施態様のスクリーン印刷装置1と同一の構成要素については図2と同一符号を付し、説明を省略する。
【0046】
図7(a)のスクリーン印刷装置2は、磁力調整手段16がスキージ12および磁力発生手段13と同期して移動可能な構成になっている。この構成では、例えば、図示されていない水平移動手段14と昇降手段17とが一体として移動可能な構成としてもよい。
【0047】
図2のスクリーン印刷装置1の磁力調整手段16には、軟磁性体であり適度な厚みを有する磁性ステンレス鋼板やNi板を用いることが可能であるが、被印刷体であるウエハWの径が大きくなると、少なくとも印刷領域114を包含する必要がある磁力調整手段16は大きくなってしまい、磁力調整手段16を上下させる昇降手段17への重量負荷が問題になる可能性がある。そこで、図7(a)のスクリーン印刷装置3の構成のように、マスク111を挟んで磁力発生手段13と相対する位置にのみ磁力調整手段16を配置すれば、磁力調整手段16が小型化・軽量化できるので、磁力調整手段16を上下させる昇降手段17への重量負荷を小さくすることができる。
【0048】
また、図7(b)のスクリーン印刷装置3は、磁力調整手段16が複数に分割して配置され、個々の磁力調整手段16´は独立してマスク111との間隔が調整可能な構成になっている。磁力調整手段16を複数の磁力調整手段16´に分割することで、スキージ12で変形後の復元力の差に起因して、マスク111の離版性が不均一になる問題を解消することができる。
【0049】
たとえば、マスク111の中央部は支持部112から遠いために剛性が小さく、スキージ12で変形後の復元力が小さいので、磁力調整手段16´を近づけて強い力でマスク111を引き上げるように設定し、逆に、マスク111の端部は支持部112に近いため剛性が大きく、スキージ12で変形後の復元力が大きいので、磁力調整手段16´を遠ざけて弱い力でマスク111を引き上げるように設定する。

また、マスク111の開口パターンに疎密差がある場合、マスク111の開口パターンが密な部分は、マスク111とウエハWがフラックスfを介して粘着しにくく、スキージ12で変形後の復元力が大きいので、磁力調整手段16´を遠ざけてマスク111を弱い力で引き上げるように設定し、逆に、マスク111の開口パターンが疎な部分は、マスク111とウエハWがフラックスfを介して強く粘着しやすく、スキージ12で変形後の復元力が小さいので、磁力調整手段16´を近づけてマスク111を強い力で引き上げるようにする。このように磁力調整手段16´を配置すれば、マスク111をより均一に上方へ引き上げるのに好ましいスクリーン印刷装置3とすることができる。
【0050】
磁力調整手段16をどのように分割するかは適宜設計可能であり、スキージ12の移動方向をx、それに垂直な方向をyとして、x−yのマトリックスで格子分割することも可能である。また、上記のように、マスク111内において離版性が不均一になる問題を解消するために、マスク111の支持部112の近傍とマスク111の中央部分、あるいは、マスク111の開口パターンが密な部分と疎な部分に分割することもできる。
【0051】
また、この構成では、磁力調整手段16が複数の小さな磁力調整手段16´に分割されているので、磁力調整手段16´を可動にする昇降手段17の重量負荷を軽減することもできる。
【符号の説明】
【0052】
1,2,3:スクリーン印刷装置
11:印刷手段
111:マスク(印刷部材)
112:支持部
113:貫通開口部
114:印刷領域
115:マスクの裏面(一面)
12:スキージ
13,13´:磁力発生手段
131:磁石
134:軟磁性片
14:水平移動手段
15:テーブル
16:磁力調整手段
17:昇降手段
8:従来のスクリーン印刷装置
81:印刷手段
811:マスク
812:枠部
813:貫通開口部
82:スキージ
f:フラックス,ペースト
p:電極
B:半田ボール
G:スナップオフ,初期間隙
L:上面
M:磁束
U:下面
W:ウエハ,回路基板



【特許請求の範囲】
【請求項1】
被印刷体の一面に所定のパターンで印刷材料を印刷するスクリーン印刷装置において、
前記パターンに対応する貫通開口部、前記貫通開口部を含み前記印刷材料が供給される印刷領域及び前記被印刷体の一面に対し所定の位置関係にて位置合わせされる一面とを有する弾性及び軟磁性を具備した印刷部材と該印刷部材を支持する支持部とを備えた印刷手段と、
前記被印刷体に位置合わせされた前記印刷部材の他面側から前記印刷領域を加圧しつつ前記印刷材料を該印刷領域に供給するとともに前記印刷部材の上方を少なくとも一方向に移動可能に配設された供給手段と、
前記供給手段の移動方向に対し前記供給手段の後方に当該供給手段の移動方向に対し直交する方向において前記印刷領域を包含するように配設され前記供給手段と同期して移動するとともに前記印刷部材を引き上げる磁力発生手段とを有し、
前記印刷部材を挟んで前記磁力発生手段と相対して配設されて軟磁性体からなる磁力調整手段を有することを特徴とするスクリーン印刷装置。
【請求項2】
前記磁力調整手段を移動して前記磁力調整手段と前記磁力発生手段との間隔を調整可能にする昇降手段を有することを特徴とする請求項1に記載のスクリーン印刷装置。
【請求項3】
前記磁気発生手段が永久磁石から構成されることを特徴とする請求項1または2に記載のスクリーン印刷装置。
【請求項4】
前記磁力調整手段が複数に分割して配置され、分割された個々の磁力調整手段が独立して前記印刷部材との間隔を調整可能に配設されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のスクリーン印刷装置。
【請求項5】
前記磁力調整手段が前記供給手段と同期して前記供給手段と同方向に移動可能に配設されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のスクリーン印刷装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−179779(P2012−179779A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43591(P2011−43591)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】