説明

スクレーパ層板

【課題】摩耗を考慮した上での改善された擦り取り機能を示すスクレーパ層板を提供すること。
【解決手段】スクレーパリングに関して軸方向に移動可能なロッドの外面を擦るためのスクレーパリング(1)が提供される。スクレーパリング(1)は、キャリアリング(2)の中断部(A)によって分離される少なくとも2つのセグメントで構成されるキャリアリング(2)と、キャリアリング(2)の内周に配置される少なくとも2つのスクレーパ層板とを有する。キャリアリング(2)の中断部(A)のそれぞれでは、隣接する2つのセグメントが、キャリアリング(2)の軸方向からの突出部において、重なり合う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクレーパ層板(scraper lamella)に対して軸方向に移動可能なロッドの外面を擦るスクレーパ層板に関し、また、そのようなスクレーパ層板を含むスクレーパリングを参照する。さらに、本発明は、内燃機関のためのグランドパッキンに関し、また、そのようなスクレーパリングを備える内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
スクレーパリングに関して軸方向に移動可能なロッドの外面を擦るためのスクレーパリングが広く知られている。このタイプのスクレーパリングは、そのロッドの外周における、例えば潤滑油膜等の、各用途で提供される流体膜を擦る役割を果たす。特に、スクレーパリングは、2つの空間を互いに対して区切るために用いられる。相対運動によって、1つの空間における潤滑油が外側の空間に移動しないようにするためである。
【0003】
それらの用途のためのスクレーパリングは、スクレーパリングと、関連するロッドとの間の相対運動による若干の摩耗にさらされる。スクレーパリングの機能を維持するために、一方では、最適化された材料の組み合わせが提案され、また、他方では、特定の幾何学的形状によって、そのスクレーパリングの機能を適合させる可能性がある。
【0004】
ロッドの外周面に押しやられる複数のセグメントを有するスクレーパリングに関して軸方向に移動可能なロッドの外面を擦るためのスクレーパリングは既に知られている。
【0005】
欧州特許出願公開第0318349号には、2つの部品で設計され得るスクレーパ層板を備えるスクレーパリングが開示されている。そのスクレーパリングにおける2つの部品の接触面は、対応する態様で面取りされるように設計されている。そのスクレーパ層板は、複数の真っ直ぐな端部分を備え、半径方向内側に突出する。可動ロッドにおける、流体が擦り取られる外面と接触するためである。
【0006】
米国特許第2692152号は、複数のスクレーパリングを受けるグランドパッキンを示す。具体的な実施例では、4つの重ね合わせたスクレーパリングが多部品構成で提供されている。欧州特許出願公開第0318349号で示されるように、それらのスクレーパリングは、真っ直ぐな端部分を有する半径方向内側を向く層板を有する。それらを用いて所望の擦り取り効果が達成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0318349号明細書
【特許文献2】米国特許第2692152号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、摩耗を考慮した上での改善された擦り取り機能を示すスクレーパ層板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
その目的は、本発明にしたがい、請求項1における複数の特徴の組み合わせを有するスクレーパ層板によって達成される。
【0010】
本発明にしたがい、スクレーパ層板に関して軸方向に移動可能なロッドの外面を擦るためのスクレーパ層板が提案される。そのスクレーパ層板では、少なくとも2つのスクレーパ層板が、キャリアリングの軸方向において互いに間隔を空けて配置され、それらスクレーパ層板のそれぞれは、そのキャリアリングの中断部のそれぞれの周辺領域に層板中断部を有する。本発明によるスクレーパリングの機能は、軸方向に間隔を空けて配置される2つのスクレーパ層板を提供することによって、キャリアリングにおける中断部を有するスクレーパリングの詳細設計による特に有利的な方法で実現され得る。そのスクレーパリングに配置されるスクレーパ層板が擦り取り機能を満たし、また、摩耗の補償が確保されながらも、擦り取られる流体がその中断部を通過するのが防止されるように、層板中断部が、キャリアリングの中断部の周囲領域に配置されるためである。
【0011】
本発明の別の望ましい実施例にしたがって、キャリアリングにおける中断部に関連付けられる層板中断部が、キャリアリングの軸方向からの突出部において重なり合わないように、それら層板中断部は構成される。これは、スクレーパリングと、関連するロッドとの間の軸方向の相対運動の場合に、流体膜が、キャリアリングにおける中断部を通過するのが防止されるように、キャリアリングの中断部と、その内周に配置される層板中断部を有するスクレーパ層板との双方の具体的な構成を設計することを可能にする。
【0012】
本発明の別の望ましい実施例によると、スクレーパリングは、スクレーパ層板の内周面とロッドの外面との接触が維持されるように、ロッドに取り付けられた状態で、スクレーパリングに作用する付勢手段によって付勢される。このように、スクレーパ層板と、擦り対象のロッドの外面との確実な接触が確保され、また同時に、動作中のスクレーパ層板の摩耗の場合には、そのような摩耗に対する補償が、キャリアリングにおける中断部を考慮した上で、自動的にもたらされる。
【0013】
本発明にしたがって、さらに、少なくとも2つのセグメントで構成されるスクレーパリングの内周に取り付けられるようにスクレーパ層板が提供され、そのスクレーパ層板は、周方向における層板中断部によって形成される対応する数のセグメントを有し、層板中断部を区切るスクレーパ層板の端面は、摩耗によって引き起こされるスクレーパ層板の擦り面の変化を少なくとも部分的に補うために、スクレーパ層板の半径方向に関して傾斜するよう構成される。
【0014】
スクレーパリングの内周に取り付けられるスクレーパ層板は、動作中、摩耗にさらされる。少なくとも2つのセグメントで構成されるスクレーパリングを備えることによって、スクレーパ層板の摩耗による周方向の変化が補償され得る。前述のスクレーパリングにおいてスクレーパ層板を用いることの目的は、ロッドの外周のできるだけ多くの部分を擦ることである。基本的には、この目的のために、スクレーパ層板のセグメントの周方向における両端のところに十分に大きな空間が提供され得る。しかしながら、これにより、未使用のスクレーパ層板を動作させる際に、周方向における著しく大きな距離が提供され、その結果、スクレーパリングの機能が最適に実行され得ない結果となる。しかしながら、この距離の低減は、特に、漸進的な摩耗の場合に、さらなる問題を引き起こす。
【0015】
層板中断部を区切る端面がスクレーパ層板の半径方向に関して傾斜しているところのスクレーパ層板によって、擦り対象の周面は、動作中、ほとんど大部分が維持され得る。
【0016】
本発明の望ましい実施例によると、スクレーパ層板は、端面と、スクレーパ層板の内周にあり、且つ、そのセグメントの端部にある点に描画される接線との間に90°未満の範囲内の面取り角を有するように提供される。スクレーパ層板を形成するセグメントの数が2つの場合、面取り角は0°であり、スクレーパ層板を形成するセグメントの数が大きくなるにつれて徐々に増大する。90°未満の角度で面取り角を配置することは、動作開始の際のスクレーパ層板におけるセグメント間の過度に大きな距離、及び、漸進的な摩耗による問題が双方とも発生しないという有利点を既に示している。
【0017】
本発明の別の望ましい実施例にしたがって、同心摩耗(concentric wear)によってもたらされる最適な理論的な面取り角から逸脱して面取り角が定められる。理論的な同心摩耗は、ロッドの外周面と接触するスクレーパ層板における全ての内周領域が均一な摩耗にさらされるという事実をもたらす。ここでは、理論的な面取り角は、幾何学的考察によってもたらされる。しかしながら、本発明によると、面取り角は、同心摩耗によってもたらされる計算可能な理論的な面取り角から逸脱して定められる。このようにして、さらに改善された機能性が、実現されるスクレーパ層板に対してもたらされるように、実際の摩耗状態が考慮される。
【0018】
本発明の別の望ましい実施例にしたがって、面取り角は、スクレーパ層板の内周における同心摩耗の前提に基づいて算出される理論的な角度に補正係数を掛けることによって定められる。補正係数は、スクレーパ層板の内周における偏摩耗を考慮に入れる。理論的に導き出される計算可能な角度からの逸脱では、そのような補正係数によって、実際の摩耗状態に最適に適合されるスクレーパ層板が提供され得る。特に望ましくは、スクレーパ層板に備えられる面取り角は、補正後の面取り角以上であり、理論的な面取り角以下である。
【0019】
本発明のさらに別の望ましい実施例によると、補正係数は、スクレーパ層板の周方向における、スクレーパ層板を形成するセグメントの距離を考慮して定められる。異なる適用では、異なる距離が許容され、或いは、スクレーパ層板におけるセグメント間にさえも異なる距離が必要とされ得る。著しく大きな距離の場合、これらの事実は、幾何学的理論的仕様及び偏摩耗の実際的な前提に補正係数を適合させることによって、考慮されなければならない。
【0020】
本発明のさらに別の望ましい実施例によると、スクレーパ層板を形成するセグメントの数が2つである場合、補正係数は0であり、また、それは、スクレーパ層板を形成するセグメントの数が増加する場合に1に近づく。例えば、その層板を形成するセグメントの数が大きい場合、同心摩耗と偏摩耗との間の違いは、セグメントの数が2つの場合よりも小さいことが判明した。
【0021】
本発明によると、前述したように、少なくとも2つのスクレーパ層板を含む前述のタイプのスクレーパリングが提案される。各スクレーパ層板における層板中断部の数及び位置は、特に周方向において、キャリアリングの中断部の数及び位置に適合される。すなわち、スクレーパリングは、各スクレーパ層板が、周方向における層板中断部によって形成される適切な数のセグメントを有するところの少なくとも2つのスクレーパ層板を含む。層板中断部を区切るスクレーパ層板の端面は、摩耗によって引き起こされるスクレーパ層板の擦り面の変化を少なくとも部分的に補うために、スクレーパ層板の半径方向に関して傾斜するように構成される。層板中断部は、スクレーパリングのキャリアリングにおける中断部の領域に、円周位置に関連して、配置される。
【0022】
このようにして、擦り対象である関連するロッドの表面が最適化され、また同時に、キャリアリングにおけるセグメント間の中断部によってもたらされるギャップを通じて、擦り対象である流体が、相対運動中にスクレーパリングとその関連するロッドとの間を通過するのが防止されるという効果のためにスクレーパ層板の摩耗が考慮されるところのスクレーパリングがもたらされる。同時に、層板の偏摩耗を随意的に考慮に入れることによって、スクレーパリングの機能性が最適化される。少なくとも2つのスクレーパ層板の軸方向に間隔を空けられた配置により、層板中断部は、スクレーパリングの軸方向突起部における何れの点においても重なり合うことがないよう、配置され且つ調整される。
【0023】
本発明にしたがって、さらには、内燃機関のグランドパッキン、特に、少なくとも1つのシリンダを有する2ストロークの大型ディーゼルエンジンのグランドパッキンが提供される。なお、内燃機関では、例えばピストンロッドの形をとるロッドを用いて、クロスヘッドに接続されるピストンが往復運動するように配置される。本発明に係るグランドパッキンは、一方の空間から他方の空間に、特に、エア受け入れ空間からクランクケースに、ロッドをガイドする役割を果たす。本発明によるグランドパッキンは、前述のタイプの少なくとも1つのスクレーパリングを有し、スクレーパリングは、特に、前述のタイプのスクレーパ層板を有する。
【0024】
本発明のさらに別の望ましい実施例によると、グランドパッキンには、キャリアリングの内周に備えられたスクレーパ層板をロッドの外面に対して付勢するために、キャリアリングの外周に付勢手段が提供される。その結果、スクレーパ層板の漸進的な摩耗の場合、それらの内面は、付勢手段によって、ロッドの外面との接触が維持される。それ故に、スクレーパリングによって、グランドパッキンの正確な機能がもたらされ、また同時に、スクレーパ層板における同心摩耗を考慮して、変化した幾何学的状態の自動的な補償が行われる。
【0025】
本発明にしたがって、さらに別の内燃機関、特に、前述のタイプのグランドパッキンが2つの空間の間に、特に、エア受け入れ空間とクランクケースとの間に提供される、ピストンロッドの形をとるロッドを有する2ストロークの大型ディーゼルエンジンが提供される。
【0026】
全体的には、本発明は、メンテナンス作業の必要性が最小限に抑制され得るようにしながら、耐用年限に関する特定の要件に従う内燃機関に適用された場合に、その効果を明らかにする。
【0027】
しかしながら、本発明は、内燃機関での使用に限定されるものではない。スクレーパリング及びスクレーパ層板の双方が、スクレーパリング又はスクレーパ層板に関して軸方向に移動可能なロッドの外面の擦り取りが必要となる技術的応用毎に、具体的には、2つの空間を互いから分離し、且つ、ロッドに付着する流体、特に潤滑油が一方の空間から他方の空間に入るのを防止するために使用され得る。ここでの例は、液圧式線形駆動装置、ピストンコンプレッサ、ポンプ、及び他のアクチュエータであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第1実施例にしたがった2つのスクレーパ層板を有するスクレーパリングの三次元図を示す。
【図2】第1実施例の変形例にしたがった2つのスクレーパ層板を有するスクレーパリングの三次元図を示す。
【図3a】スクレーパリングに組み込まれる第2実施例にしたがったスクレーパ層板を示す。
【図3b】キャリアリングの中断部の領域における、図3aの切り出しを示す。
【図4】特定の例における、本発明にしたがったスクレーパ層板での幾何学的条件の図を示す。
【図5】偏摩耗したスクレーパ層板での幾何学的条件の図を示す。
【図6】本発明にしたがったグランドパッキンを含む、クロスヘッドの領域における内燃機関の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施例を上述の図面を参照しながら以下で説明する。
【実施例1】
【0030】
図1を参照して本発明の第1実施例を説明する。図1は、スクレーパリング1を三次元図で示す。スクレーパリング1は、本実施例では3つのセグメント2a、2b、2cで構成されるキャリアリング2を含む。キャリアリング2における隣り合う2つのセグメントは、参照符号Aを用いて図1に示すように、中断部によって互いに分離される。複数のセグメントで構成されるキャリアリング2は、円形断面を有する。複数の中断部Aは、キャリアリング2における個別のセグメントの間にギャップを形成する。
【0031】
図1及び後続の図では、スクレーパリングの軸方向を矢印Xで示す。さらに、それらの図では、スクレーパリングの周方向を対応する矢印Uで示す。特に、その軸方向は、キャリアリング2の対称軸に平行に伸びる。その周方向は、その円形のスクレーパリングの周囲に沿って伸びる。
【0032】
図1では、説明の明確化のため、スクレーパリングを分離された態様で示す。すなわち、関連するロッドに搭載された状態ではない態様で示す。
【0033】
内周において、特に、スクレーパリング1の内面において、より正確に言うと、キャリアリング2を形成する複数のセグメントの内面において、本実施例では、軸方向に間隔を空けて配置されるスクレーパ層板3a及び3bが提供される。スクレーパ層板3a、3bは、複数のセグメントで形成される。スクレーパ層板を形成するセグメントの数は、キャリアリング2を形成するセグメントの数に等しい。スクレーパ層板3a、3bにおけるそれらセグメントは、層板中断部B及びCによって、互いに分離される。層板中断部B、Cは、キャリアリング2の周方向に関し、キャリアリング2における中断部Aに対応する位置に設けられる。
【0034】
スクレーパ層板3a、3bは、本実施例では、キャリアリングの内周面に形成される溝に挿入される。スクレーパ層板3a、3bは、スクレーパリングの動作中に周方向に移動できない態様で、溝に挿入される。
【0035】
代案として、スクレーパ層板3a、3bは、例えば溶接によって或いは別の方法によって、キャリアリング2の内周面に直接的に付けられてもよい。さらに、キャリアリング2の内周で切断される方式でスクレーパ層板3a、3bを設計することが可能である。
【0036】
図1は、3つの中断部Aを有するキャリアリング2を示す。キャリアリング2におけるそれら中断部Aは、キャリアリング2を形成するセグメント2a、2b、2cが軸方向からの突出部において重なり合うよう、斜めになるように形成される。スクレーパ層板3a、3bは、図1から推測されるように、層板中断部B、Cにおけるスクレーパ層板3a、3bのセグメントの端部が、キャリアリング2の中断部A内に僅かに突出するように設計される。
【0037】
スクレーパ層板3a、3bのそれぞれの間にある層板中断部B、Cは、キャリアリング2の中断部Aの設計を考慮して、キャリアリング2の中断部Aに関連付けられる層板中断部B、Cのそれぞれがキャリアリング2の軸方向からの突出部において重なり合わないように、配置される。
【0038】
図1に示すスクレーパリング1は、キャリアリング2の外周にそれぞれ備えられる付勢手段又はスプリング4によって半径方向内側に付勢されている。組み立てられた状態では、キャリアリング2のセグメント2a、2b、2cは、提供されるスクレーパ層板3a、3bによって、関連するロッドの外周に隣接し、また、所定の力によってスクレーパ層板3a、3bがロッドの外周に押し付けられるように、付勢力がスプリング4によってそれらセグメントにかけられている。取り付けられた状態では、キャリアリング2の内周に備えられる層板3a、3bが、関連するロッドの外周上を滑らかに動くように、相対軸方向運動が、スクレーパリング1とその関連するロッドとの間で許容される。ロッドがスクレーパリング1に関して動かされる間、スクレーパリング1が動かないようにされてもよく、一方で、ロッドが動かないようにされ、且つ、スクレーパリング1がロッドに関して軸方向に移動可能とされてもよい。上述の状況の双方の組み合わせは、スクレーパリング1とその関連するロッドとの間の相対運動が許容される限り、同様に起こり得る。
【0039】
キャリアリング2における複数のセグメントが内側に付勢され得るという機能が満たされる限り、スプリング4とは異なる付勢手段が提供されてもよい。
【0040】
図示されたスクレーパリング1は、2つの空間の分離をもたらすために用いられ、一方で、関連するロッドは、上述の方法で、スクレーパリング1内で、スクレーパリング1に関して移動可能に配置される。スクレーパリング1又はロッドが動かないか否かは重要でない。確保されなければならないのは、単に、スクレーパリング1とロッドとの間の相対移動性であるためである。それらの空間は、閉じられた空間である必要はなく、周囲と連通していてもよい。
【0041】
特に、スクレーパリング1は、スクレーパリング1とロッドとの間の相対軸方向運動によって、それら空間のうちの何れか一方におけるロッドの外面に適用される、ロッドに付着する流体を擦るため、また、ロッドのところに提供される流体膜が他方の空間内に入るのを防止するために用いられる。これらの応用は、液圧アクチュエータ、液圧アプリケーション、コンプレッサを含み、また、特に、ピストンロッドとしてのロッドが、クランクケースのような一方の空間内で潤滑油膜を備え、一方で、内燃機関におけるエア受け入れ空間のような他方の空間にその潤滑油が入るのが防止されるところの内燃機関での応用を含む。
【0042】
本発明にしたがって、スクレーパリング1は、以下の効果を有する厳密に設定された中断部Aを備える。
【0043】
スクレーパリング1の動作中、摩耗は、スクレーパ層板3a、3bとロッドの外面との間の接触によるスクレーパリング1とその関連するロッドとの間の相対運動によって生じる。この摩耗は、層板3a、3bからの材料の摩滅を引き起こし、その結果、スクレーパ層板3a、3bの幾何学的寸法は、動作中に変化する。スクレーパ層板3a、3bの摩耗は、キャリアリング2の外周に提供される付勢手段4により、付勢手段4による半径方向内側に作用する力によるいくらかの摩耗の後であっても、関連するロッドの外面にスクレーパ層板3a、3bを接触させ続けることによって補われる。そのため、キャリアリング2を構成するセグメント2a、2b、2cの間の中断部、及び、スクレーパ層板3a、3bを構成するセグメントの間の中断部を形成する層板中断部B、Cは、スクレーパ層板3a、3bの摩耗の際に、半径方向内側に向けられた運動を許容する役割を果たす。そのような運動の場合、キャリアリング2の外周が全体的に減少するためである。キャリアリング2の外周の減少は、キャリアリング2のセグメント2a、2b、2cの間の中断部Aが閉じられるまで進行し得る。
【0044】
キャリアリング2を形成するセグメント2a、2b、2cが軸方向突出部において重なり合うようにする、中断部Aの具体的な構造、すなわち、斜め形状によって、2つの層板3a、3bとの相互作用により、関連するロッドに付着する流体膜が中断部Aを通過するのが防止される。このようにして、基本的には、関連するロッドに付着する流体膜が一方の空間から他方の空間に入るのを防止することであるスクレーパリング1の機能が一緒に改善される。なお、それらの空間は、スクレーパリング1によって分離されている。
【0045】
キャリアリング2の中断部Aの位置に対応する位置に配置される層板中断部B、Cを含む2つのスクレーパ層板3a、3bの具体的な配置は、主として、この機能をサポートする。
【0046】
以下では、図2を参照して、第1実施例の変形例について説明する。
【0047】
図2のスクレーパリング1aの構造は、要部において、図1のスクレーパリング1の構造と同様である。しかしながら、キャリアリング2の中断部Aが修正設計されている。
【0048】
図2で見られるように、キャリアリング2の中断部Aは、キャリアリング2を形成するセグメント2a、2b、2cの間でギャップが周方向に提供されるように、段付きとなっている。一方で、それらセグメントの端部は、その周方向で段付きとなっている。具体的には、キャリアリング2の中断部Aのそれぞれにおいて、キャリアリング2の軸方向からの突出部で、隣接するセグメントが重なり合うように、中断部Aのところで、各セグメントは2段階にカットされている。図2から推測されるように、スクレーパ層板3a、3bのそれぞれが、中断部Aにおける段部の1つと関連付けられるように、2つのスクレーパ層板3a、3bは、軸方向に間隔を空けるように配置される。より正確に言うと、スクレーパ層板3a、3bのセグメントは、キャリアリング2における中断部Aの段付き構成のため、異なる周方向延長部を伴って延びる。この変形例でも、スクレーパ層板3a、3bを形成するセグメントの端部は、キャリアリング2の中断部A内に僅かに突出する。
【0049】
図2の配置によって、図1の配置によって達成されるのと実質的に同じ効果が達成される。
【0050】
図2では、キャリアリング2の隣接するセグメントが軸方向においても互いに間隔を空けて配置されるように、中断部Aにおけるセグメントの段付き端部が示されている。そのような間隔は、層板3a、3bの摩耗による直径の簡単な補償を維持するように構成される。
【0051】
しかしながら、別の変形例では、隣接するセグメントの段付き端部は、中断部Aのところで軸方向に接触していてもよい。中断部Aのところで周方向の距離が変化する際に、接触する面同士が滑らかに動くようにするためである。そのような配置は、スクレーパリング全体の改善された位置あわせ安定性をもたらすように構成される。
【実施例2】
【0052】
図3a、図3b、及び図4に基づいて、本発明の第2実施例を説明する。第2実施例は、スクレーパ層板3cに関する。第2実施例のスクレーパ層板3cは、少なくとも2つのセグメントで構成されるスクレーパリング1bに取り付けられるのに適している。さらに、第2実施例のスクレーパ層板3cは、第1実施例で説明したスクレーパリング1、1aに取り付けられるのにも適している。
【0053】
第2実施例の説明のため、図示するスクレーパ層板3cの、4つのセグメント2a、2b、2c、2dで構成されるスクレーパリング1bへの適用を説明する。図3aは、4つのセグメントで構成されるスクレーパリング1bに取り付けられるスクレーパ層板3cを示す。第2実施例のスクレーパリング1bの機能は、第1実施例におけるスクレーパリング1、1aの機能と実質的に同じである。
【0054】
図3aは、中断部Aによって4つのセグメント2a、2b、2c、2dに分割されるキャリアリング2を有するスクレーパリング1bを示す。それらセグメントには、キャリアリング2におけるそれらセグメントの設計に合わせて設計される少なくとも1つのスクレーパ層板3cが提供される。具体的には、スクレーパ層板3cは、スクレーパリング1bのために提供されるキャリアリングにおけるセグメントの数と同じ数の、層板中断部Bによって分割されるセグメントを備える。図3aでは、それらセグメントの数はそれぞれ4つである。ここでもまた、スプリングとして例示され得る付勢手段4が、キャリアリング2の外周に備えられている。
【0055】
図3aからの切り出しである図3bは、キャリアリングの中断部Aの領域を示す。ここでは、互いに向き合う或いは層板中断部Bの領域において隣接するスクレーパ層板3cにおけるセグメントの端面の面取部がより明確に示されている。
【0056】
図4の例は、周方向Uにおけるα=90°の拡がりを有する本発明によるスクレーパ層板3cを示す。
【0057】
第2実施例は、スクレーパ層板3cを形成する複数のセグメントの端部の具体的な構成に関する。図4の例ではスクレーパ層板3cにおける1つのセグメントが示されているのみであるが、図3aに示す4つのセグメントで構成されるスクレーパリング1bに取り付けられるのに適したスクレーパ層板3cが、図4に示すタイプの4つのセグメントで構成されることは明らかである。
【0058】
図4は、以下で説明する本発明にしたがったスクレーパ層板3cの角度関係を示す。図4に示すスクレーパ層板3cにおけるセグメントの端部は、半径方向から逸脱するようにカットされる。具体的には、図4に示すセグメントの端部は、そのセグメントの内周のところで且つそのセグメントの端点のところに適用される接線Tと断面積Sとの間に形成される角度ηでカットされる。ここでは、角度αが90°の場合にそのセグメントの外面の拡がりの角度βがαより小さいこととなる。以下では、本発明によるスクレーパ層板3cを維持するために角度ηを決定するための基本概念を説明する。
【0059】
図4に示すセグメントを4つ備えることで構成されるスクレーパ層板3cを用いる場合、動作開始の際に、そのセグメントにおける円弧長bを有する内周は、関連するロッドの外面と接触する。その円弧は、半径rを有する。摩耗が進行する際、スクレーパ層板3cの各セグメントの内面から材料が摩滅する。それ故に、その内面は、円弧長Bを有するように構成されるそのセグメントの外面の方向に移動する。それらセグメントの端面Sが半径方向にカットされている場合、これらの用途では今まで一般的であったように、スクレーパ層板3cにおけるセグメントの内周の摩耗の場合、スクレーパ層板3cとその関連するロッドの外面との間の接触面積の変化が結果として生じる。具体的には、摩耗の際、セグメント毎の接触面積における周方向の拡がり及び円弧長のそれぞれは増大する。その結果、今までのところ、この変化は、スクレーパ層板におけるセグメント間の十分なギャップによって考慮されなければならなかった。
【0060】
しかしながら、そのようなギャップは、潤滑油等のロッドに付着する流体が、軸方向の相対運動によって、スクレーパ層板3cとその関連するロッドとの間を通過する事態を引き起こす。本発明による、スクレーパ層板3cにおけるセグメントが傾斜端を有する構成は、スクレーパ層板3cを形成するセグメント間の間隔を最小限にするよう構成される。さらに、その隙間の寸法の大きな変化は、本発明による構成によって防止され得る。
【0061】
以下では、角度εの定義を詳細に説明する。
【0062】
図4は、図4に示す幾何学的設計に基づいて、内周における円弧長bの値が外周における円弧長Bの値と等しくなるように、両側において角度αから差し引かれる必要がある角度γを示す。セグメントの外周の拡がりにおける円弧長とセグメントの内周の拡がりにおける円弧長とは、
b=π×2r×α/360°・・・(1)
B=π×2r×β/360°・・・(2)
で導き出される。
【0063】
スクレーパ層板3cの隣接するセグメントの端部が互いに隣接すると仮定すると、4つの層板セグメントの場合、αに対しては値90°が導き出される。半径r=132mm、半径R=142mmという例示的な前提の場合、
β=132×90°/142=83.66°・・・(3)
が導き出される。
【0064】
角度関係は、以下のように表される。
α−2γ=β・・・(4)
その結果、図4に書き入れられる角度εは、
ε=arctan(Δb/(R−r))=
arctan[(π×2R×γ)/(360°(R−r))]・・・(5)
として導き出される。
【0065】
角度γに関しては、b及びBが同じ値でなければならないという数値例を考慮して、値3.17°が導き出される。その結果、本実施例では、(5)式より、角度εに関して、値38.17°が導き出される。
【0066】
η=90°−ε・・・(6)
という前提に基づいて、4つのセグメントを有するスクレーパ層板3cに関して値51.9°が導き出される。なお、スクレーパ層板3cでは、動作開始の際にセグメントの端部が互いに隣接し、且つ、摩耗した場合に内周のところで円弧長B及びbの値が等しくなるように維持され、その角度は、スクレーパ層板3cでの理想的な同心摩耗の前提で算出されるため、ηkonzと称される。
【0067】
本実施例では、セグメントの内周で且つその端部に適用される接線Tと傾斜端面Sとの間で測定される角度η=ηkonz=51.9°が導き出される。角度η=51.9°でセグメントの端部が面取りされるよう構成される4つのセグメントを有するスクレーパ層板が挿入されるスクレーパリングは、動作中、特に、スクレーパ層板3cのセグメントの内周面の摩耗の際に、スクレーパ層板の内周面の周方向の拡がりを一定に維持するという結果をもたらす。このようにして、セグメント間の過度に大きなギャップが回避され、それによって、区切られるべき2つの空間の間の、擦り取るべき流体の通過が最小限に抑制され得る。
【0068】
本実施例は、スクレーパ層板3cが4つのセグメントで構成され、特定の内径及び外径を前提とする一例として説明された。この例は、単に、セグメントの端部が面取り設計を有するスクレーパ層板3cの機能を説明するのに役立つものにすぎない。特に、r及びRの値は、本発明を理解する上で重要ではなく、説明を完全なものとするのに役立つにすぎない。
【0069】
以下では、特に本発明の効果をさらに改善する、本発明の有利的な別の改良点を表す第2実施例の変形例について説明する。
【0070】
実施例に示すスクレーパ層板3cは、4つのセグメントを有する。しかしながら、スクレーパ層板3cは、2つのセグメント、3つのセグメント、又は5つ以上のセグメントを有するように設計されてもよい。さらに、それらセグメントで構成されるスクレーパ層板の内径及び外径は、その用途に適合され得る。
【0071】
本発明の基本概念によると、スクレーパ層板3cは、周方向における層板中断部によって形成される多くのセグメントで構成され、層板中断部を区切るスクレーパ層板3cにおけるそれらセグメントの端面Sは、摩耗によって引き起こされるスクレーパ層板3cの擦り面の変化を少なくとも部分的に補うために、スクレーパ層板3cの半径方向に関して傾斜するように構成される。
【0072】
本発明の基本概念によると、スクレーパ層板3cのセグメントの端面Sと、スクレーパ層板3cの内周に位置し、且つ、セグメントの端部に位置する点に適用される接線Tとの間にある角度ηは、η=ηkonzに関する前述の考慮により定められる。
【0073】
この計算は、3つ以下或いは5つ以上のセグメント、例えば20個のセグメント、さらには20個より多いセグメントで構成されるスクレーパ層板に関しても同様に利用可能である。
【0074】
図5を参照して第2実施例の特に有利的な変形例について説明する。図5は、どのような幾何学的関係がスクレーパ層板3cの偏摩耗をもたらすかを概略的に示す。この主旨のため、図5には、スクレーパ層板の中心を根幹とする最大偏摩滅が書き込まれている。
【0075】
角度ηkonzの定義は、上述から分かるように、同心摩耗に基づく。しかしながら、実際には、理論的に想定された同心摩耗とは違い、スクレーパ層板3cの内周では、偏摩耗が生じる。
【0076】
以下では、上述の偏摩耗の事実を考慮に入れた図5と、図3a、図3b、及び図4とを参照して、第2実施例の特に有利的な変形例について説明する。
【0077】
図3a、図3b、及び図4に示す例によって、スクレーパ層板3cにおけるセグメントの同心で均一な摩耗を考慮に入れるために、角度η=ηkonz=51.9°が、4つのセグメントで構成されるスクレーパ層板3cに関して最適であることを説明した。このようにして、それらセグメントの内周面の周方向の拡がり及び円弧長b、Bは、想定される同心摩耗によって一定に維持される。
【0078】
第2実施例のさらなる改良点は、偏摩耗の場合には図5に示すようにスクレーパ層板3cの内周における曲率が外周における曲率と一致しないため、実際に考慮される偏摩耗が、スクレーパ層板3cの機能を最適化するための根拠として別の角度を採用しなければならないという前提に基づく。実際には、結果としての幾何学的形状は、同心摩耗から導き出されるものと、図5に示す最大偏摩滅から導き出されるものとの間のものとなり得る。この文脈において、発明者らは、偏摩耗を考慮に入れる場合に、スクレーパ層板3cで形成される角度ηが補正されなければならないことを見出した。4つのセグメントで構成されるスクレーパ層板の例では、角度η=ηkonz=51.9°が導き出されたが、発明者らは、スクレーパ層板の偏摩耗のために、η=45°で最良の機能が提供され得ることを確認した。これより、同心摩耗から導き出される理論的に計算可能な角度ηkonzがスクレーパ層板の機能を改善するために補正され得ることが理解され得る。この考慮に基づき、第2実施例のこの展開にしたがって、補正係数kがもたらされ、それにより、スクレーパ層板の最大可能偏摩耗を考慮に入れる補正後の角度ηexが得られるように、角度ηkonzが掛け算されなければならない。
【0079】
4つのセグメントを有するスクレーパ層板の場合の補正係数kは0.868であり、この文脈では、スクレーパ層板3cの極端な偏摩耗が、基礎として採用される。スクレーパ層板の最適化に関するさらなる考慮は、補正係数kが常に1未満であるという事実をもたらした。以下の表1は、セグメントの数に対応する補正係数kに関して分かったことの結果を示す。セグメントの数、それから導き出される角度α及びβは、スクレーパ層板における同心摩耗から導き出されるηkonzの値と比較される。さらに、補正係数k及びその結果としての補正後の値ηexを提示する。
【0080】
【表1】

スクレーパ層板3cを構成するセグメントの数が多い場合、補正係数kが値1に近いことが表から見て取れる。さらに、セグメントの数が2の場合、補正係数kが0であり、そのため、補正後の角度ηexが0°であることが分かる。本発明によると、偏摩耗のために、端面Sがスクレーパ層板3cの内周に関して接線方向に延びるように、補正後の角度ηexとして0°が導き出される。
【0081】
その結果、
ηex=ηkonz・k・・・(7)
が導き出される。
【0082】
設定された補正係数kが最大偏摩耗の限度を表し、また、実際には、上述の表で与えられるkの値と1との間の値が、本発明による有利な効果を達成するために選択され得る。これにより、偏摩耗に関するスクレーパ層板の機能が最適化される値の幅が導き出される。言い換えれば、本発明によると、以下の式が適用可能なスクレーパ層板が有利的である。
ηex≦η≦ηkonz・・・(8)
【実施例3】
【0083】
本発明の第3実施例を以下で説明する。本発明の第3実施例によると、第1実施例で説明されるような少なくとも2つのスクレーパ層板を有するスクレーパリングが提供される。スクレーパリングは、少なくとも2つのセグメントを有するキャリアリング2で構成される。キャリアリングの内周には、同様に複数のセグメントで構成される、軸方向に間隔を空けられた2つのスクレーパ層板3d、3eが備えられる。第3実施例のキャリアリング2、及び、特に、キャリアリング2を構成するそれらセグメントの間にある中断部Aは、第1実施例に一致するように形成される。さらに、第3実施例によると、スクレーパ層板3d、3eは、スクレーパ層板3cを参照して第2実施例で説明されたように構成される。
【0084】
これにより、キャリアリング2の各中断部Aのところで、隣接するセグメントが、キャリアリング2の軸方向からの突出部において重なり合うといった、特に有利的なスクレーパリングがもたらされる。第1実施例で示す変形例もまた、第3実施例のスクレーパリングに適用され得る。この構成に加え、第3実施例のスクレーパリングでは、複数のセグメントで構成される2つのスクレーパ層板3d、3eが備えられ、それらのそれぞれが、そのキャリアリングと同じ数のセグメントを有する。スクレーパ層板3d、3eにおけるセグメントは、周方向における層板中断部によって形成され、それら層板中断部を区切るスクレーパ層板の端面は、摩耗によって引き起こされるスクレーパ層板の擦り面の変化を少なくとも部分的に補うために、スクレーパ層板の半径方向に関して傾斜するように構成される。
【0085】
第2実施例に示すスクレーパ層板3cの、第2実施例に示す変形例もまた、第3実施例で提供される2つのスクレーパ層板3d、3eに適用され得る。
【0086】
全体的には、キャリアリング2におけるセグメント間の中断部の設計によるばかりでなく、スクレーパ層板3d、3eにおけるセグメントの端部の詳細設計によっても、関連するロッドとスクレーパリングとの間の相対運動の際にその関連するロッドに付着する流体を擦り取る機能が大幅に改善され、また、その関連するロッドとスクレーパリングとの間の相対運動によって、一方の空間から他方の空間に流体が導入されるのが防止されるところのスクレーパリングがもたらされる。なお、それらの空間は、スクレーパリングによって分離される必要がある。
【実施例4】
【0087】
第1実施例及び第3実施例に記載されたスクレーパリング、並びに、第2実施例に記載されたスクレーパ層板は、例えば、内燃機関に搭載されるグランドパッキンで使用され得る。
【0088】
図6は、本発明にしたがったグランドパッキン10を含むクロスヘッドの領域における、内燃機関の断面図を示す。図6は、クランクケース30及びエア受け入れ空間40を示す。クランクケース30とエア受け入れ空間40とを分離するために、グランド10がパーティション内に備えられる。グランド10は、内燃機関のピストンロッド20の周りに同軸に配置される。ピストンロッド20は、例えばクロスヘッド装置を通じて、内燃機関のクランクシャフトに接続される。ピストンロッド20は、内燃機関の動作中、グランド10に関して軸方向に移動する。
【0089】
グランドパッキン10では、クランクケース30の領域においてピストンロッド20に適用される、ピストンロッド20に付着する潤滑油を擦り取るために、また、それをクランクケース30に戻すために、複数の、例えば4つのスクレーパリング1が軸方向に連続的に配置される。これは、エア受け入れ空間40の領域におけるピストンロッド20のところで、ピストンロッド20に付着する潤滑油の量が最小限に抑制され、また同時に、エア受け入れ空間40からクランクケース30への通過領域における汚染が最小限に抑制され得ることを伴う。
【0090】
グランド10に挿入されるスクレーパリングは、第1実施例にしたがって設計され得る。スクレーパリング1、1aのキャリアリング2を形成するセグメント間にある中断部Aの領域における面取部の詳細な構成により、ピストンロッドに付着する潤滑油の通過が、軸方向に間隔を空けて配置される2つのスクレーパ層板3a、3bを用いて、最小限に抑制され得るようにするためである。
【0091】
この機能は、第2実施例ではスクレーパ層板3d、3eとして記載され且つ称される、2つのスクレーパ層板3cを利用するキャリアリング2を備えるスクレーパリングによってさらに改善され得る。
【0092】
最適化された解決策では、第4実施例のグランド10は、キャリアリング2のセグメント間の中断部の最適設計、及び、スクレーパ層板3d、3eにおける複数のセグメントの端部の設計の双方が採用される第3実施例で定められるようなスクレーパリングを含む。
【0093】
本発明は、前述の実施例に限定されることはない。具体的には、本発明の、内燃機関のためのグランドパッキンへの適用は単なる一例であり、本発明は、その効果を、スクレーパリングによって2つの空間が分離されなければならない全ての用途に広げる。それらの用途では、そのスクレーパリングに関連付けられるロッドは、その関連するロッドとそのスクレーパリングとの間の相対運動の際に、そのスクレーパリングによって擦られる。
【0094】
実施例に記載されたグランドパッキンのためのスクレーパ層板の数、セグメントの数、又は、スクレーパリングの数は、単なる例示であり、用途に応じて変更され得る。
【符号の説明】
【0095】
1、1a、1b・・・スクレーパリング 2・・・キャリアリング 2a、2b、2c、2d・・・ セグメント 3a、3b、3c、3d、3e・・・スクレーパ層板 4・・・付勢手段 10・・・グランド 20・・・ピストンロッド 30・・・クランクケース 40・・・エア受け入れ空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つのセグメントで構成されるスクレーパリングの内周に取り付けられるスクレーパ層板であって、
周方向において層板中断部によって形成される、対応する数のセグメントを有し、
前記層板中断部を区切る前記スクレーパ層板の端面は、
摩耗によって引き起こされる当該スクレーパ層板の擦り領域の変化を少なくとも部分的に補うために、当該スクレーパ層板の半径方向に関して傾斜するよう構成される、
スクレーパ層板。
【請求項2】
前記端面と、当該スクレーパ層板の内周にあり、且つ、前記セグメントの端部にある点に適用される接線との間には、90°未満の範囲内にある面取り角(η)が提供され、特に、当該スクレーパ層板を形成する前記セグメントの数が2つの場合、前記面取り角(η)は0°である、
請求項1に記載のスクレーパ層板。
【請求項3】
前記面取り角は、同心摩耗の場合にもたらされる理論的な面取り角(ηkonz)から逸脱して、該理論的な面取り角(ηkonz)よりも著しく小さくなるように決定される、
請求項1又は2に記載のスクレーパ層板。
【請求項4】
補正後の面取り角(ηex)は、当該スクレーパ層板の内周における同心摩耗を前提として計算される理論的な面取り角(ηkonz)に補正係数(k)を掛けることによって決定され、該補正係数(k)は、当該スクレーパ層板の内周における同心摩耗を可能にし、且つ、当該スクレーパ層板に備えられる面取り角(η)は、前記補正後の面取り角(ηex)に等しい、
請求項1乃至3の何れか一項に記載のスクレーパ層板。
【請求項5】
当該スクレーパ層板に備えられる前記面取り角(η)は、前記補正後の面取り角(ηex)以上であり、且つ、前記理論的な面取り角(ηkonz)以下である、
請求項4に記載のスクレーパ層板。
【請求項6】
前記補正係数(k)は、当該スクレーパ層板を形成するセグメントの、当該スクレーパ層板の周方向における距離を考慮して決定される、
請求項4又は5に記載のスクレーパ層板。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか一項に記載のスクレーパ層板を少なくとも2つ含むスクレーパリングであって、
前記スクレーパ層板のそれぞれにおける前記層板中断部の数及び位置は、キャリアリングの中断部の数及び位置に適合される、
スクレーパリング。
【請求項8】
内燃機関、特に、ピストンロッドの形をとるロッドを用いてクロスヘッドに接続されるピストンが往復動されるように配置される少なくとも1つのシリンダを有する2ストロークの大型ディーゼルエンジンのグランドパッキンであって、該グランドパッキンは、エア受け入れ空間からクランクケースへ前記ロッドを通過させる役割を果たし、前記グランドパッキンは、請求項7に記載のスクレーパリングを少なくとも1つ有する、
グランドパッキン。
【請求項9】
前記キャリアリングの内周に提供される前記スクレーパ層板を前記ロッドの外面に対して付勢する付勢手段が、前記キャリアリングの外周に提供され、前記スクレーパ層板の段階的な摩耗の場合に、前記付勢手段によって、前記スクレーパ層板の内面と、前記ロッドの外面との接触が維持されるようにする、
請求項8に記載のグランドパッキン。
【請求項10】
内燃機関、特に、2ストロークの大型ディーゼルエンジンであって、エア受け入れ空間からクランクケースへ前記ピストンロッドを通過させるために、請求項8又は9に記載のグランドパッキンが提供されるところのピストンロッドを有する、
内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−64504(P2013−64504A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−205940(P2012−205940)
【出願日】平成24年9月19日(2012.9.19)
【出願人】(509217714)ヴァルツィラ・スウィッツァランド・リミテッド (4)
【Fターム(参考)】