説明

スクロール圧縮機

【課題】回転性能を向上させた縦型のスクロール圧縮機を提供すること。
【解決手段】ケーシング11の内部に下部軸受部材30と電動機35と圧縮機構40および駆動軸20が設けられている縦型スクロール圧縮機10であって、前記駆動軸20は複数の玉軸受31,47によって支持され、前記玉軸受31,47は外輪1、内輪2、複数の玉3、および前記玉を等間隔に保持するポケット面5を有する保持器4によって構成されており、前記保持器4のポケット面5には潤滑油を保持する凹部6が設けられ、前記凹部6が各玉3の直下に配置されるように前記軸受31,47が組込まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール圧縮機の回転性能向上策に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のスクロール圧縮機として、特許文献1では、図5に示すように、いわゆる全密閉形に構成されたスクロール圧縮機10が開示されている。このスクロール圧縮機10は、縦長で円筒形の密閉容器状に形成されたケーシング11を備えている。ケーシング11の内部には、下から上へ向かって順に、下部軸受部材30と、電動機35と、圧縮機構40とが配置されている。また、ケーシング11の内部には、上下に延びる駆動軸20が設けられている。
【0003】
ケーシング11の胴部には、吸入管14が取り付けられている。この吸入管14は、ケーシング11内の第2室13に開口している。一方、ケーシング11の上端部には、吐出管15が取り付けられている。この吐出管15は、ケーシング11内の第1室12に開口している。
【0004】
駆動軸20は、主軸部21と鍔部22と偏心部23とを備えている。鍔部22は、主軸部21の上端に形成されており、主軸部21よりも大径の円板状となっている。一方、偏心部23は、鍔部22の上面に突設されている。この偏心部23は、主軸部21よりも小径の円柱状となっており、その軸心が主軸部21の軸心に対して偏心している。駆動軸20の主軸部21は、圧縮機構40のハウジング41を貫通している。この主軸部21は、ころ軸受42を介してハウジング41に支持されている。
【0005】
駆動軸20には、スライドブッシュ25が取り付けられている。スライドブッシュ25は、円筒部26とバランスウェイト部27とを備え、鍔部22の上に載せられている。スライドブッシュ25の円筒部26には、駆動軸20の偏心部23が回転自在に挿入されている。
【0006】
下部軸受部材30は、ボルト32によってハウジング41に固定されている。そして、下部軸受部材30は、玉軸受31を介して駆動軸20の主軸部21を支持している。
【0007】
電動機35は、固定子36と回転子37とによって構成されている。固定子36は、下部軸受部材30と共にボルト32によってハウジング41に固定されている。一方、回転子37は、駆動軸20の主軸部21に固定されている。
【0008】
圧縮機構40は、固定スクロール55やハウジング41の他に、可動スクロール50とオルダムリング43とスラストリング46とを備えている。この圧縮機構40では、固定スクロール55の固定側ラップ58と、可動スクロール50の可動側ラップ52とを噛み合わせることで圧縮室45が形成される。固定スクロール55は、固定側ラップ58の他に、固定側平板部56と縁部57とを備えている。
【0009】
固定スクロール55は、ボルト44によってハウジング41に固定されている。固定スクロール55の縁部57がケーシング11と密着することで、ケーシング11内が第1室12と第2室13に仕切られる。
【0010】
固定側ラップ58は、固定側平板部56の下面側に立設され、固定側平板部56と一体に形成されている。この固定側ラップ58は、高さが一定の渦巻き壁状に形成されている。固定側ラップ58の側面は、後述する可動側ラップ52の包絡面となっている。
【0011】
可動スクロール50は、可動側平板部51、可動側ラップ52、及び突出部53を備えている。
【0012】
可動側平板部51は、やや肉厚の円板状に形成されている。突出部53は、円筒状に形成されており、可動側平板部51の下面のほぼ中央に突設されている。この突出部53には、スライドブッシュ25の円筒部26が挿入されている。つまり、可動スクロール50は、スライドブッシュ25を介して駆動軸20の偏心部23に係合している。
【0013】
可動側ラップ52は、可動側平板部51の上面側に立設され、可動側平板部51と一体に形成されている。図5にも示すように、可動側ラップ52は、高さが一定の渦巻き壁状に形成されている。この可動側ラップ52は、その先端側から見た形状がインボリュート曲線を描く渦巻き状になっている。
【0014】
可動スクロール50は、オルダムリング43及びスラストリング46を介してハウジング41の上に載置されている。
【0015】
オルダムリング43には、二対のキーが形成されている。このオルダムリング43は、一対のキーが可動スクロール50の可動側平板部51に、残りの一対のキーがハウジング41にそれぞれ係合し、可動スクロール50の自転運動を規制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2005−201140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、従来の上記スクロール圧縮機においては、駆動軸を支持する各軸受への潤滑油の供給は運転時にしか行われない構造であるため、運転停止中は各軸受に潤滑油が供給されることはない。さらに運転停止中には、軸受内部に残存していた潤滑油も重力によって軸受の外部に流れ出てしまう。よって、運転が再開された回転初期時には、各軸受の潤滑油量が不十分な状態となり、軌道面での摩耗が起こり易くなるという問題があった。
【0018】
さらに、従来の上記スクロール圧縮機では、駆動軸を支持している上部側の軸受に円筒ころ軸受を使用しているが、玉軸受に比べて回転トルクが大きくなるという問題があった。
【0019】
そこで、本発明は、上述した従来例の有する不都合を改善し、回転初期時に駆動軸を支持する軸受の損傷を防止し、さらに回転性能を向上させた縦型のスクロール圧縮機を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するために、本発明は、ケーシングの内部に軸受部材と電動機と圧縮機構および駆動軸が設けられている縦型のスクロール圧縮機において、前記駆動軸は複数の玉軸受によって支持され、前記玉軸受は外輪、内輪、複数の玉、および前記玉を等間隔に保持するポケット面を有する保持器によって構成されており、前記保持器のポケット面には潤滑油を保持する凹部が設けられ、前記凹部が各玉の直下に配置されるように前記軸受が組込まれていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、以上のような構成を有しており、駆動軸を支持する軸受がすべて玉軸受で構成されているため、低トルク化を実現できる。また、玉の直下のポケット面に凹部を有しているため、長期間停止中も保持器から油が流れ落ちる事がなく潤滑油を確実に保持する事が可能になる。そのため、回転初期の潤滑油が十分に供給されない時にも玉を介して軌道面に潤滑油を供給することができ、回転初期の摩耗や焼き付きを防止することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態1のスクロール圧縮機の軸方向断面を示す図である。
【図2】図1の玉軸受の軸方向断面を示す拡大図である。
【図3】図2の保持器の斜視図を示す拡大図である。
【図4】実施形態2のスクロール圧縮機の玉軸受の軸方向断面を示す拡大図である。
【図5】従来のスクロール圧縮機の軸方向断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、この発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0024】
(実施例1)
図1は本発明に関わる実施形態を示すスクロール圧縮機の軸方向断面図、図2は図1の玉軸受を示す拡大図、図3は図2の保持器を示す拡大図である。
【0025】
本発明に関わるスクロール圧縮機10の構成を図1に示している。同図において、駆動軸20を支持する軸受はすべて玉軸受31,47で構成されている。これにより、低トルク化を実現することが可能となる。
【0026】
また、図2および3に示すように、保持器4のポケット面5に設けられた凹部6が、玉3の直下に配置されるように軸受を駆動軸20に組込んでいる。以上の構成により、運転停止時においても凹部6に潤滑油を確実に保持する事ができる。そのため、回転初期時のように潤滑油が十分に供給されない場合でも、玉3を介して軌道面7,8に潤滑油を供給することができ、初期の摩耗や焼き付きを防止することが可能となる。
【0027】
図3は組込まれる保持器の形状の一例であり、一般的に冠形と呼ばれる保持器である。
【0028】
図4に他の形状の保持器4’の実施形態を示す。これは、一般的にプレス保持器といわれる形状である。この実施形態でも玉3’の直下のポケット面に凹部6’を有することから、前記の実施例1と同様の効果を発揮する。なお、本実施形態の場合、保持器4’をどちら向きに組んでも(図中の上下を反転させても)初期摩耗を抑制する事ができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のスクロール圧縮機は、特に、各種冷凍機の冷媒を圧縮するための圧縮機として好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0030】
1,1’ 外輪
2,2’ 内輪
3,3’ 玉
4,4’ 保持器
5 ポケット面
6,6’ 凹部
7,7’ 軌道面(外輪)
8,8’ 軌道面(内輪)
10 スクロール圧縮機
11 ケーシング
12 第1室
13 第2室
14 吸入管
15 吐出管
20 駆動軸
21 主軸部
22 鍔部
23 偏心部
25 スライドブッシュ
26 円筒部
30 下部軸受部材
31 玉軸受
32 ボルト
35 電動機
36 固定子
37 回転子
40 圧縮機構
41 ハウジング
42 ころ軸受
43 オルダムリング
44 ボルト
45 圧縮室
46 スラストリング
47,47’ 玉軸受
50 稼動スクロール
51 可動側平板部
52 可動側ラップ
53 突出部
55 固定スクロール
56 固定側平板部
57 縁部
58 固定側ラップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングの内部に軸受部材と電動機と圧縮機構および駆動軸が設けられている縦型スクロール圧縮機において、前記駆動軸は複数の玉軸受によって支持され、前記玉軸受は外輪、内輪、複数の玉、および前記玉を等間隔に保持するポケット面を有する保持器によって構成されており、前記保持器のポケット面には潤滑油を保持する凹部が設けられ、前記凹部が各玉の直下に配置されるように前記軸受が組込まれていることを特徴とする縦型スクロール圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−94546(P2011−94546A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249818(P2009−249818)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】