スクロール圧縮機
【課題】ラップの巻終り部分の強度を向上することができ、しかも圧縮機構の小型化を達成できるスクロール圧縮機を提供する。
【解決手段】可動スクロール26のラップ26bは、巻始めから中間部にかけての区間のみ巻角が大きくなるに従いインボリュートの基礎円半径が小さくなり、しかも、その中間部から巻終りにかけての区間は巻角が大きくなるに従いインボリュートの基礎円半径が大きくなるか、またはインボリュートの基礎円半径が一定になる渦巻き形状である。
【解決手段】可動スクロール26のラップ26bは、巻始めから中間部にかけての区間のみ巻角が大きくなるに従いインボリュートの基礎円半径が小さくなり、しかも、その中間部から巻終りにかけての区間は巻角が大きくなるに従いインボリュートの基礎円半径が大きくなるか、またはインボリュートの基礎円半径が一定になる渦巻き形状である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
空気調和機の室外機などに用いられるスクロール圧縮機においては、能力幅を広くするためインバータモータを採用した圧縮機が増加しているが、より広い能力幅を得るためにさらなる高回転運転が求められているのが現状である。
【0003】
しかし、高回転運転の弊害として、可動スクロール等の螺旋状のラップが損傷する可能性が高くなるという問題がある。
【0004】
すなわち、高回転運転をすれば、公転運動をする可動スクロールの遠心力が大きくなり、可動スクロールの遠心力は、駆動軸であるクランク軸と可動スクロールの軸受け部分であるボスとの間、あるいは可動スクロールのラップと固定スクロールのラップとの間に作用する。
【0005】
一方、渦巻き状のラップは、実際の加工において理想形状と相違が生じる場合があり、特に可動スクロールのラップの最外周の巻終りは、いわば片持ち支持の状態になるため、加工誤差が生じやすく、固定スクロールのラップと接触しやすい。
【0006】
また、固定スクロールのラップの最外周の巻終りが薄肉の翼形状ではなく剛性の高い厚肉のブロック状の場合には、可動スクロールのラップと固定スクロールのラップが接触した場合に、固定スクロール側のラップがほとんどたわまず、いわば、応力緩和となるような逃げが生じなくなる。このため、相手側の可動スクロールラップに発生する応力が大きくなる。
【0007】
以上のように、高回転運転により、可動スクロールのラップに作用する遠心力が大きくなるに従い、遠心力に耐えうるラップ形状にする必要がある。
【0008】
ここで、従来では、ラップのインボリュート曲線により構成される渦巻き状の形状は、例えば、ラップの歯厚が巻始めから巻終りまで一定(すなわち、インボリュートの基礎円半径が一定)である形状や、ラップの歯厚が中央の巻始めから最外周の巻終りに向かうにつれて小さくなる(すなわち、インボリュートの基礎円半径が小さくなる)形状が一般に知られている。
【0009】
そこで、ラップの巻終りの強度を向上させるために、特許文献1(特公平5−29796号公報)に記載されているスクロール圧縮機では、ラップの歯厚が巻始めから巻終りまで一定であるが、可動スクロールのラップの巻終りにおいて、ラップ外側に膨出部を設けている。
【0010】
また、特許文献2(特開2000−179478号公報)に記載されているスクロール圧縮機では、ラップの歯厚が巻始めから巻終りまで一定であるが、可動スクロールのラップの巻終りを延伸して、ラップの他の部分よりも板厚を薄くしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のように、ラップの歯厚を巻始めから巻終りに向かうにつれて小さくすれば(ラップの巻角が大きくなるにしたがってインボリュートの基礎円半径を小さくすれば)、ラップの巻終りの強度が低下するという問題がある(図11参照)。
【0012】
一方、ラップの歯厚が一定(インボリュートの基礎円半径が一定)の場合でも、巻終りの強度を向上させるためにラップの歯厚を大きくすると、圧縮機構の容積を同じとするために圧縮機構を大型化しなければならないという問題がある。また、強度を向上させるためにラップの高さを低くすると、圧縮機構の容積を同じとするためには、やはり圧縮機構を大型化しなければならないという問題がある。
【0013】
さらに、特許文献1または2に記載されるように、可動スクロールのラップの巻終りの強度を向上させるために、ラップの巻終りの外側を膨らませた場合、もしくはラップの巻終りを延伸した場合、固定スクロールとの干渉を避けるための空間が大きくなり、この場合も圧縮機構を大型化しなければならないという問題がある。また、吸入工程での圧力損失が大きくなり、効率低下を招くという問題もある。
【0014】
さらに、ラップの巻終りの延伸部の歯厚を薄くした場合、延伸部長さを長くして、荷重発生ポイントから延伸部終端の距離を大きくしなければ(いわば、両持ち支持の状態にしなければ)、薄肉部での発生応力が大きくなるので、結果的に圧縮機構を大型化しなければならないという問題がある。また、吸入工程での圧力損失が大きくなり、性能低下を招くという問題もある。
【0015】
本発明の課題は、ラップの巻終りの強度を向上することができ、しかも圧縮機構の小型化を達成できるスクロール圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1観点に係るスクロール圧縮機は、固定スクロールおよび可動スクロールを備えている。固定スクロールおよび可動スクロールは、それぞれの鏡板の一方の面に螺旋状のラップが設けられている部材である。固定スクロールのラップと可動スクロールのラップは、互いに組み合わされることにより、隣接する固定スクロールのラップと可動スクロールのラップとの間に圧縮室を形成する。固定スクロールまたは可動スクロールのうちの少なくともいずれか一方のラップは、そのラップの巻き始めから中間部にかけての区間では、巻角が大きくなるに従いラップの内側および外側のインボリュートの基礎円半径が小さくなる渦巻き形状である。同時に、当該いずれか一方のラップは、そのラップの中間部から巻終りにかけての区間では、巻角が大きくなるに従いラップの内側のインボリュートの基礎円半径が小さくなり、かつ、ラップの外側のインボリュートの基礎円半径が大きくなるかまたは一定になる渦巻き形状である。または、当該いずれか一方のラップは、そのラップの中間部から巻終りにかけての区間では、巻角が大きくなるに従いラップの内側のインボリュートの基礎円半径が一定になり、かつ、ラップの外側のインボリュートの基礎円半径が大きくなる渦巻き形状である。そして、この構成により、ラップの巻き始め付近における歯厚t1と、ラップの中間部における歯厚t2と、ラップの巻終り付近における歯厚t3とが、t2<t3<t1またはt2<t1<t3の関係を満たす。
【0017】
また、本発明の第1観点に係るスクロール圧縮機では、ラップは、圧縮室形成ポイントの巻角が、ラップの内側のインボリュート終点の巻角よりも小さい渦巻き形状である。圧縮室形成ポイントは、最外圧縮室を形成し、かつ、ラップの外側のインボリュートに含まれ、かつ、ラップの外側のインボリュート終点に最も近いポイントである。最外圧縮室は、鏡板の径方向の最も外側に位置する圧縮室である。「ラップの内側のインボリュート終点」は、径方向内側のラップ壁面を平面視したインボリュート曲線の径方向外側の端点を意味する。そして、この構成により、可動スクロールのラップの巻終りが両持ちで支持され、かつ、吸入完了時の可動スクロールのラップの外側の圧縮室と吐出直前の可動スクロールのラップの外側の圧縮室との容積比と、吸入完了時の可動スクロールのラップの内側の圧縮室と吐出直前の可動スクロールのラップの内側の圧縮室との容積比との差が小さくなる。これにより、可動スクロールのラップの内側の圧縮室と、可動スクロールのラップの外側の圧縮室との圧力差が小さく、そのために漏れ損失が小さい。ここで、「内側の圧縮室」および「外側の圧縮室」は、それぞれ、スクロール圧縮機の圧縮機構の吐出口から吐出する直前におけるラップの内側および外側の圧縮室であり、または、スクロール圧縮機の圧縮機構の吸入が完了する時点におけるラップの内側および外側の圧縮室である。
【0018】
このスクロール圧縮機では、固定スクロールまたは可動スクロールのうちの少なくともいずれか一方のラップの巻始めから中間部にかけての区間において、ラップの内側および外側のインボリュートの基礎円半径を小さくすることにより、歯厚を小さくして圧縮機構の小型化を達成している。それとともに、ラップの中間部から巻終りにかけての区間において、ラップの内側のインボリュートの基礎円半径が小さくなり、ラップの外側のインボリュートの基礎円半径が大きくなるかまたは一定であるか、あるいは、ラップの内側のインボリュートの基礎円半径が一定であり、ラップの外側のインボリュートの基礎円半径が大きくなる。ここで、「内側」および「外側」は、それぞれ、鏡板の径方向の内側および外側を意味し、以下同様である。このスクロール圧縮機では、巻終りの歯厚を確保して巻終りの強度の向上を図っている。従って、このスクロール圧縮機では、圧縮機構の小型化および巻終りの強度の向上を達成できる。
【0019】
また、このスクロール圧縮機では、ラップの巻終りにおいて、ラップの内側のインボリュート終点の巻角よりも、ラップの外側の圧縮室形成ポイントの巻角の方が小さい。これにより、ラップの巻終りにおいて、ラップが両持ちで支持されるので、ラップの巻終りの根元に発生する応力を緩和することができる。その結果、巻終りの強度向上を図ることができる。しかも、ラップの内側と外側との圧縮室の圧力差を小さくすることができ、圧縮機の効率を向上することが可能である。
【0020】
本発明の第2観点に係るスクロール圧縮機は、固定スクロールおよび可動スクロールを備えている。固定スクロールおよび可動スクロールは、それぞれの鏡板の一方の面に螺旋状のラップが設けられている部材である。固定スクロールのラップと可動スクロールのラップは、互いに組み合わされることにより、隣接する固定スクロールのラップと可動スクロールのラップとの間に圧縮室を形成する。固定スクロールまたは可動スクロールのうちの少なくともいずれか一方のラップは、そのラップの巻き始めから中間部にかけての区間では、巻角が大きくなるに従いラップの内側および外側のインボリュートの基礎円半径が小さくなる渦巻き形状である。同時に、当該いずれか一方のラップは、そのラップの中間部から巻終りにかけての区間では、巻角が大きくなるに従いラップの内側のインボリュートの基礎円半径が一定になり、かつ、ラップの外側のインボリュートの基礎円半径が一定になる渦巻き形状である。そして、この構成により、ラップの巻き始め付近における歯厚t1と、ラップの中間部における歯厚t2とが、t2<t1の関係を満たす。
【0021】
また、本発明の第2観点に係るスクロール圧縮機では、ラップは、圧縮室形成ポイントの巻角が、ラップの内側のインボリュート終点の巻角よりも小さい渦巻き形状である。圧縮室形成ポイントは、最外圧縮室を形成し、かつ、ラップの外側のインボリュートに含まれ、かつ、ラップの外側のインボリュート終点に最も近いポイントである。最外圧縮室は、鏡板の径方向の最も外側に位置する圧縮室である。「ラップの内側のインボリュート終点」は、径方向内側のラップ壁面を平面視したインボリュート曲線の径方向外側の端点を意味する。そして、この構成により、可動スクロールのラップの巻終りが両持ちで支持され、かつ、吸入完了時の可動スクロールのラップの外側の圧縮室と吐出直前の可動スクロールのラップの外側の圧縮室との容積比と、吸入完了時の可動スクロールのラップの内側の圧縮室と吐出直前の可動スクロールのラップの内側の圧縮室との容積比との差が小さくなる。これにより、可動スクロールのラップの内側の圧縮室と、可動スクロールのラップの外側の圧縮室との圧力差が小さく、そのために漏れ損失が小さい。ここで、「内側の圧縮室」および「外側の圧縮室」は、それぞれ、スクロール圧縮機の圧縮機構の吐出口から吐出する直前におけるラップの内側および外側の圧縮室であり、または、スクロール圧縮機の圧縮機構の吸入が完了する時点におけるラップの内側および外側の圧縮室である。
【0022】
このスクロール圧縮機では、固定スクロールまたは可動スクロールのうちの少なくともいずれか一方のラップの巻始めから中間部にかけての区間において、ラップの内側および外側のインボリュートの基礎円半径を小さくすることにより、歯厚を小さくして圧縮機構の小型化を達成している。それとともに、ラップの中間部から巻終りにかけての区間において、ラップの内側のインボリュートの基礎円半径が一定であり、ラップの外側のインボリュートの基礎円半径が一定である。従って、このスクロール圧縮機では、圧縮機構の小型化および巻終りの強度の向上を達成できる。
【0023】
また、このスクロール圧縮機では、ラップの巻終りにおいて、ラップの内側のインボリュート終点の巻角よりも、ラップの外側の圧縮室形成ポイントの巻角の方が小さい。これにより、ラップの巻終りにおいて、ラップが両持ちで支持されるので、ラップの巻終りの根元に発生する応力を緩和することができる。その結果、巻終りの強度向上を図ることができる。しかも、ラップの内側と外側との圧縮室の圧力差を小さくすることができ、圧縮機の効率を向上することが可能である。
【0024】
本発明の第3観点に係るスクロール圧縮機は、第1観点または第2観点に係るスクロール圧縮機であって、ラップの中間部は、内側中間ポイントから外側中間ポイントまでの範囲である。内側中間ポイントは、ラップの外側のインボリュート始点からラップの外側のインボリュート終点に向かってラップ1/2〜1巻き分だけ離れた位置にあるポイントである。外側中間ポイントは、ラップの外側のインボリュート終点からラップの外側のインボリュート始点に向かってラップ1/2〜1巻き分だけ離れた位置にあるポイントである。「ラップの外側のインボリュート始点」は、径方向外側のラップ壁面を平面視したインボリュート曲線の径方向内側の端点を意味する。「ラップの外側のインボリュート終点」は、径方向外側のラップ壁面を平面視したインボリュート曲線の径方向外側の端点を意味する。「ラップ1/2〜1巻き分だけ離れた」ポイントは、インボリュート曲線に沿って1/2〜1回転だけ離れたポイントを意味する。
【0025】
このスクロール圧縮機では、ラップの中間部は、ラップ全体のうち、巻き始めからラップ1/2〜1巻き分と巻終りからラップ1/2〜1巻き分を除いた範囲に相当する。従って、圧縮機構の小型化および巻終りの強度の向上を両方とも確実に達成することが可能である。
【0026】
本発明の第4観点に係るスクロール圧縮機は、第1観点から第3観点のいずれか1つに係るスクロール圧縮機であって、可動スクロールの鏡板の面であって、ラップが設けられている面の反対側の面に、座ぐり部が形成されている。
【0027】
このスクロール圧縮機では、可動スクロールの鏡板のラップと反対側の面に座ぐり部が形成されているので、可動スクロールの軽量化が可能である。
【0028】
本発明の第5観点に係るスクロール圧縮機は、第1観点から第4観点のいずれか1つに係るスクロール圧縮機であって、可動スクロールのラップの巻終りから1巻き分の範囲における可動スクロールのラップ外周面と固定スクロールのラップ内周面との半径方向隙間は、巻き始め付近における半径方向隙間より大きい。
【0029】
このスクロール圧縮機では、可動スクロールのラップの巻終りから1巻き分の範囲における可動スクロールのラップ外周面と固定スクロールのラップ内周面との半径方向隙間は、巻き始め付近における半径方向隙間より大きいので、可動スクロールのラップの巻終りにおける固定スクロールのラップの巻終り付近の剛性の高い部分との接触時に受ける接触荷重を緩和することが可能である。
【0030】
本発明の第6観点に係るスクロール圧縮機は、第5観点に係るスクロール圧縮機であって、可動スクロールのラップの巻終りから1巻き分の範囲における可動スクロールのラップの外周面と固定スクロールのラップ内周面との半径方向隙間δは、
固定スクロールの溝幅L、
可動スクロールの歯厚T、
可動スクロールの旋回半径D、
可動スクロールのボスとそれに連結するクランク軸との間のピン軸受隙間P、
クランク軸とそれを支持する主軸受との間の主軸受隙間Mとした場合に、
(L−T−D×2)≦δ≦(L−T−D×2+P+M)の範囲にある。
【0031】
このスクロール圧縮機では、少なくともラップ同士が接触して圧縮室をシールする点であるシールポイントにおける半径方向隙間δをおおよそ0になるように設定し、性能低下を抑制するために、ピン軸受隙間および主軸受隙間の分を最大とする逃げ量以下の半径方向隙間δを設定していることにより、ラップ間の隙間は0以上確実に確保することが可能である。
【発明の効果】
【0032】
本発明の第1乃至第3観点に係るスクロール圧縮機では、圧縮機構の小型化およびラップの巻終りの強度の向上を両方達成することができる。また、ラップの巻終りの根元に発生する応力を緩和することができ、その結果、巻終りの強度向上を図ることができる。しかも、ラップの内側と外側との圧縮室の圧力差を小さくすることができ、圧縮機の効率を向上することができる。
【0033】
本発明の第4観点に係るスクロール圧縮機では、可動スクロールの軽量化を達成することができる。
【0034】
本発明の第5観点に係るスクロール圧縮機では、可動スクロールのラップの巻終りにおける固定スクロールのラップの巻終り付近の剛性の高い部分との接触時に受ける接触荷重を緩和することができる。
【0035】
本発明の第6観点に係るスクロール圧縮機では、ラップ間の隙間は0以上確実に確保することができ、圧縮機の性能の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態に係るスクロール圧縮機の平面図。
【図2】図1の可動スクロールのラップの形状を示す平面図。
【図3】図1の可動スクロールのラップの外側に形成される圧縮室におけるガスが吐出直前の位置を示す平面図。
【図4】図1の可動スクロールのラップの内側に形成される圧縮室におけるガスが吐出直前の位置を示す平面図。
【図5】図1の可動スクロールのラップの外側に形成される圧縮室におけるガスが圧縮室内部に吸入完了した直後の位置を示す平面図。
【図6】図1の可動スクロールのラップの内側に形成される圧縮室におけるガスが圧縮室内部に吸入完了した直後の位置を示す平面図。
【図7】図1の固定スクロールのラップと可動スクロールのラップとの間の半径方向隙間を示す平面図。
【図8】図1の可動スクロールの背面側に形成された座ぐり部の配置を示す平面図。
【図9】図1の可動スクロールのラップの最も外側に形成される圧縮室近傍の拡大図。
【図10】本発明の変形例(F)に係る可動スクロールのラップの最も外側に形成される圧縮室近傍の拡大図。
【図11】本発明の比較例として、インボリュートの基礎円半径が巻始めから巻終りにかけて小さくなる可動スクロールのラップの配置を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
〔実施形態〕
本発明のスクロール圧縮機の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0038】
図1に示されるスクロール圧縮機1は、高低圧ドーム型のスクロール圧縮機であり、蒸発器や、凝縮器、膨張機構などと共に冷媒回路を構成し、その冷媒回路中のガス冷媒を圧縮する役割を担うものであって、主に、縦長円筒状の密閉ドーム型のケーシング10、スクロール圧縮機構15、オルダム継手39、駆動モータ16、下部主軸受60、吸入管19、および吐出管20から構成されている。以下、このスクロール圧縮機1の構成部品についてそれぞれ詳述していく。
【0039】
〔スクロール圧縮機1の構成部品の詳細〕
(1)ケーシング
ケーシング10は、略円筒状の胴部ケーシング部11と、胴部ケーシング部11の上端部に気密状に溶接される椀状の上壁部12と、胴部ケーシング部11の下端部に気密状に溶接される椀状の底壁部13とを有する。そして、このケーシング10には、主に、ガス冷媒を圧縮するスクロール圧縮機構15と、スクロール圧縮機構15の下方に配置される駆動モータ16とが収容されている。このスクロール圧縮機構15と駆動モータ16とは、ケーシング10内を上下方向に延びるように配置されるクランク軸17によって連結されている。そして、この結果、スクロール圧縮機構15と駆動モータ16との間には、間隙空間18が生じる。
【0040】
(2)スクロール圧縮機構
スクロール圧縮機構15は、図1に示されるように、主に、ハウジング23と、ハウジング23の上方に密着して配置される固定スクロール24と、固定スクロール24に噛合する可動スクロール26とから構成されている。また、スクロール圧縮機構15は、容量アップや効率向上のため、固定スクロール24および可動スクロール26のそれぞれの渦巻き状のラップ24b、26bは非対称の形状になっており、可動スクロール26のラップ26bと比較して、固定スクロール24のラップ24bがその内周側を半周程度延長している。
【0041】
以下、このスクロール圧縮機構15の構成部品についてそれぞれ詳述していく。
【0042】
(2−1)固定スクロール
固定スクロール24は、図1〜3に示されるように、主に、平板状の鏡板24aと、鏡板24aの下面に形成された渦巻き状(インボリュート状)のラップ24bとから構成されている。
【0043】
鏡板24aには、後述する圧縮室40に連通する吐出口41が鏡板24aの略中心に貫通して形成されている。吐出口41は、鏡板24aの中央部分において上下方向に延びるように形成されている。
【0044】
さらに、鏡板24aの上面には、吐出口41に連通する拡大凹部42(図1参照)が形成されている。拡大凹部42は、鏡板24aの上面に凹設された水平方向に広がる凹部により構成されている。そして、固定スクロール24の上面には、この拡大凹部42を塞ぐように蓋体44がボルト44aにより締結固定されている。そして、拡大凹部42に蓋体44が覆い被せられることによりスクロール圧縮機構15の運転音を消音させる膨張室からなるマフラー空間45が形成されている。固定スクロール24と蓋体44とは、図示しないガスケットを介して密着させることによりシールされている。
【0045】
(2−2)可動スクロール
可動スクロール26は、図1に示されるように、主に、鏡板26aと、鏡板26aの上面に形成された渦巻き状(インボリュート状)のラップ26bと、鏡板26aの下面に形成された軸受部であるボス26cと、鏡板26aの両端部に形成されるキー溝26d(図8参照)とから構成されている。ボス26cは、クランク軸17のピン軸部17aの外側に嵌合する。
【0046】
可動スクロール26は、キー溝26dにオルダム継手39のキー部(図示せず)が嵌め込まれることによりハウジング23に支持される。また、ボス26cにはクランク軸17の上端部であるピン軸部17aが嵌入される。可動スクロール26は、このようにスクロール圧縮機構15に組み込まれることによってクランク軸17の回転により自転することなくハウジング23内を公転する。そして、可動スクロール26のラップ26bは固定スクロール24のラップ24bに噛合させられており、両ラップ24b,26bの接触部の間には圧縮室40が形成されている。そして、この圧縮室40では、可動スクロール26の公転に伴い、両ラップ24b,26b間の容積が中心に向かって収縮する。本実施形態に係るスクロール圧縮機1では、このようにしてガス冷媒を圧縮するようになっている。
【0047】
圧縮室40は、可動スクロール26の公転する位置によって容積変化し、固定スクロール24の略中心の吐出口41付近の吐出直前の位置には、A室40a1と、B室40b1とを有している。ここで、A室40a1は、図3に示されるように、可動スクロール26のラップ26bの外周面26b1と固定スクロール24のラップ24bの内周面24b2とによって囲まれることにより形成されている。また、B室40b1は、図4に示されるように、可動スクロール26のラップ26bの内周面26b2と固定スクロール24のラップ24bの外周面24b1とによって囲まれることにより形成されている。
【0048】
図3に示されるA室40a1が形成された後、可動スクロール26の公転がさらに進行すると、A室40a1内の圧縮された高圧ガスは、可動スクロール26のラップ26bの中心側先端と固定スクロール24のラップ24bの内周面の隙間を通して、吐出口41へ流れる。
【0049】
一方、図4に示されるB室40b1が形成された後、可動スクロール26の公転がさらに進行すると、B室40b1内の圧縮された高圧ガスは、可動スクロール26の鏡板26aの略中心付近に形成された座ぐり凹部24a1(図1参照)および固定スクロール24のラップ24bの中心側先端と可動スクロール26のラップ26bの内周面の隙間を通して、吐出口41に流れる。
【0050】
図2に示されるように、本実施形態の可動スクロール26のラップ26bは、そのラップ26bの巻始め26bsから中間部26bmにかけての区間S1のみ巻角θ(巻始め26bsからの回転角)が大きくなるに従いインボリュートの基礎円半径が小さくなっている。
【0051】
例えば、図2では、中間部26bmにおけるインボリュートの基礎円半径R2は、巻始め26bs付近のインボリュートの基礎円半径R1よりも小さくなっている(すなわち、R2<R1)。これに伴って、ラップ26bの中間部26bmにおける歯厚t2は、巻始め26bs付近における歯厚t1よりも小さくなっている(すなわち、t2<t1)。
【0052】
このように、ラップ26bの巻始め26bsから中間部26bmにかけての区間のみに限定してインボリュートの基礎円半径R2を小さくしていき、それに伴って歯厚t2を小さくしていくので、スクロール圧縮機構15の小型化を達成することが可能である。
【0053】
一方、中間部26bmから巻終り26beにかけての区間S2は、巻角θが大きくなるに従いインボリュートの基礎円半径が大きくなっている。例えば、図2では、中間部26bmにおけるインボリュートの基礎円半径R2は、巻終り26be付近のインボリュートの基礎円半径R3よりも小さくなっている(すなわち、R2<R3)。これに伴って、ラップ26bの中間部26bmにおける歯厚t2は、巻終り26be付近における歯厚t3よりも小さくなっている(すなわち、t2<t3)。なお、図2では、インボリュートの基礎円半径はR2<R3<R1の関係になり、歯厚はt2<t3<t1の関係になる。
【0054】
このように、中間部26bmから巻終り26beにかけての区間S2では、インボリュートの基礎円半径R3を大きくしているので、巻終り26beの歯厚t3を確保して巻終り26beの強度の向上が可能である。
【0055】
一方、比較例として、図11に示される従来の可動スクロール126のラップ126bでは、始め126bsから巻終り126beにかけて巻角が大きくなるにつれてインボリュートの基礎円半径は小さくなっていくので(R11>R12>R13)、歯厚もそれに合わせて小さくなっていく(t11>t12>t13)。その結果、ラップ26bの巻終り126beの歯厚t13は薄くなり、巻終り126beの強度を確保することが難しくなっている。
【0056】
また、図2に示されるように、ラップ26bの中間部26bmは、内側端部26bm1から外側端部26bm2までの範囲である。以下、径方向外側のラップ26b壁面を平面視したインボリュート曲線の径方向内側の端点を「インボリュート始点」と云うと共に、径方向外側のラップ26b壁面を平面視したインボリュート曲線の径方向外側の端点を「インボリュート終点」と云う。本実施形態では、内側端部26bm1は、インボリュート始点からインボリュート終点に向かって、インボリュート曲線に沿って1/2回転だけ進んだポイントである。また、外側中間ポイントは、インボリュート終点からインボリュート始点に向かって、インボリュート曲線に沿って1/2回転だけ進んだポイントである。すなわち、ラップ26bの中間部26bmは、ラップ26b全体のうち、巻始め26bsからラップ1/2巻き分の範囲(図2における、外側のインボリュート始点から内側端部26bm1までの範囲)と、巻終り26beからラップ1/2巻き分(図2における、外側のインボリュート終点から外側端部26bm2までの範囲)を除いた範囲(図2に示される斜線部の範囲)である。この中間部26bmの範囲内に、インボリュートの基礎円半径が最も小さくなる極小点26bm0が含まれる。
【0057】
中間部26bmが巻始め26bsからラップ1/2巻き分よりも巻始め26bs側まで含むと、スクロール圧縮機構15の小型化の達成が困難になり、一方、巻終り26beからラップ1/2巻き分よりも巻終り26be側まで含むと、巻終り26beの強度の向上が困難になる。そこで、スクロール圧縮機構15の小型化および巻終り26beの強度の向上を両方とも確実に達成するためには上記の範囲であるのが実用上好ましい。
【0058】
しかも、ラップ26bは、図9に示されるように、ラップ26bの巻終り26beにおいて、ラップ26bの内側のインボリュート終点(図9において、符号26i1で示されるポイント)の巻角θ2よりもラップ26bの外側のインボリュート曲線上に位置する圧縮室形成ポイント26i3の巻角の巻角θ1を小さくした形状である。圧縮室形成ポイント26i3は、最外圧縮室40zを形成し、かつ、ラップ26bの外側のインボリュート終点(図9において、符号26i2で示されるポイント)に最も近いポイントである。最外圧縮室40zは、可動スクロール26の鏡板26aの径方向の最も外側にある圧縮室である(図5において、最外圧縮室は圧縮室40a1である)。圧縮室形成ポイント26i3は、可動スクロール26のラップ26bと固定スクロール24のラップ24bとが最接近するポイントである。圧縮室形成ポイント26i3は、ラップ26bの外側のインボリュート終点26i2とは異なるポイントである。本実施形態では、巻角θ1が巻角θ2よりも小さいことにより、固定スクロール24のラップ24b最外周の剛性が高い部分と接触し、かつ、片持ち構造となる可動スクロール26のラップ26b終端に延伸部分を設けることができるので、ラップ26bの巻終り26beが両持ちで支持され、その結果、ラップ26bの巻終り26beの根元に発生する応力を緩和することができる。また、可動スクロール26の内側ラップで形成される圧縮室40の組込み圧縮比と、可動スクロール26の外側ラップで形成される圧縮室40の組込み圧縮比との差が小さくなり、内側の圧縮室と外側の圧縮室との圧力差を小さくすることができるため、漏れ損失を小さくして、効率の向上を図ることができる。
【0059】
具体的には、図3〜6に示されるように、吐出口41から吐出直前のラップ26bの外側の圧縮室40であるA室40a1の容積をVdo、圧力をPdo(図3参照)、吐出口41から吐出直前のラップ26bの内側の圧縮室40であるB室40b1の容積をVdi、圧力をPdi(図4参照)、吸入完了時のラップ26bのA室40a1の容積をVso、圧力をPso(図5参照)、吸入完了時のB室40b1の容積をVsi、圧力をPsi(図4参照)として容積比を見た場合、
(Vsi/Vdi)<(Vso/Vdo) (式1)
の関係となり、外側のA室40a1の方が内側のB室40b1より圧縮比が大きくなる。
【0060】
このため、吐出直前の圧力は、
Pdi<Pdo (式2)
の関係となり、外側のA室40a1の方が内側のB室40b1より圧力が高くなる。
【0061】
そこで、本実施形態では、ラップ26bの外側のインボリュートの基礎円半径R2を大きくする、または、巻終り26beにおいて、ラップ26bの内側のインボリュート終点の巻角θ2よりもラップ26bの外側のインボリュート終点の巻角θ1を小さくすることによって、可動スクロール26のラップ26bの内側の圧縮室40b1の容積比Vsi/Vdiと、可動スクロール26のラップ26bの外側の圧縮室40a1の容積比Vso/Vdoとの差を小さくすることができる。すなわち、可動スクロール26の内側ラップで形成される圧縮室40の組込み圧縮比と、可動スクロール26の外側ラップで形成される圧縮室40の組込み圧縮比との差を小さくし、内側の圧縮室と外側の圧縮室との圧力差を小さくすることができる。その結果、漏れ損失を小さくして、効率の向上を図ることができる。
【0062】
さらに、図8に示されるように、可動スクロール26の鏡板のラップ26bが形成された側と反対側の面には、可動スクロール26の軽量化のために、キー溝26dを避けた位置に複数の座ぐり部61が形成されている。
【0063】
さらに、図7に示されるように、可動スクロール26のラップ26bは、その巻終り26beにおける接触荷重の緩和のために、巻終り26beから1巻き分の範囲における可動スクロール26のラップ26bの外周面26b1と固定スクロール24の内周面24b2との半径方向隙間δ1は、巻始め26bs付近における半径方向隙間δ2より大きくなっている。
【0064】
具体的には、図7に示されるように、可動スクロール26のラップ26bの巻終り26beから1巻き分の範囲における可動スクロール26のラップ26bの外周面26b1と固定スクロール24のラップ24bの内周面24b2との半径方向隙間δは、以下の(式3)の範囲にあるように設定されている。
【0065】
ここで、図7に示されるように、
L:固定スクロール24の溝24fの幅、
T:可動スクロール26のラップ26bの歯厚、
D:可動スクロール26の旋回半径、
P:可動スクロール26のボス26cと、それに連結するクランク軸17のピン軸部17aとの間のピン軸受隙間、
M:クランク軸17と、それを支持する主軸受、すなわちハウジング23の軸受メタル34との間の主軸受隙間として、
半径方向隙間δは、
(L−T−D×2)≦δ≦(L−T−D×2+P+M) (式3)
の範囲にあるように設定されている。
【0066】
(2−3)ハウジング
ハウジング23は、その外周面において周方向の全体に亘って胴部ケーシング部11に圧入固定されている。つまり、胴部ケーシング部11とハウジング23とは全周に亘って気密状に密着されている。このため、ケーシング10の内部は、ハウジング23下方の高圧空間28とハウジング23上方の低圧空間29とに区画されていることになる。また、このハウジング23には、上端面が固定スクロール24の下端面と密着するように、固定スクロール24がボルト38により締結固定されている。また、このハウジング23には、上面中央に凹設されたクランク室31と、下面中央から下方に延設された軸受部32とが形成されている。そして、この軸受部32には、上下方向に貫通する軸受孔33が形成されており、この軸受孔33にクランク軸17が軸受メタル34を介して回転自在に嵌入されている。
【0067】
(2−4)その他
また、このスクロール圧縮機構15には、固定スクロール24とハウジング23とに亘り、連絡通路46が形成されている。この連絡通路46は、固定スクロール24とハウジング23に切欠形成されたハウジング側通路48とが連通するように形成されている。そして、連絡通路46の上端は拡大凹部42に開口し、連絡通路46の下端、即ちハウジング側通路48の下端はハウジング23の下端面に開口している。つまり、このハウジング側通路48の下端開口により、連絡通路46の冷媒を間隙空間18に流出させる吐出口49が構成されていることになる。
【0068】
(3)オルダム継手
オルダム継手39は、上述したように、可動スクロール26の自転運動を防止するための部材であって、ハウジング23に形成されるオルダム溝(図示せず)に嵌め込まれている。なお、このオルダム溝は、長円形状の溝であって、ハウジング23において互いに対向する位置に配設されている。
【0069】
(4)駆動モータ
駆動モータ16は、本実施形態においてブラシレスDCモータであって、主に、ケーシング10の内壁面に固定された環状のステータ51と、ステータ51の内側に僅かな隙間(エアギャップ)をもって回転自在に収容されたロータ52とから構成されている。そして、この駆動モータ16は、ステータ51の上側に形成されているコイルエンド53の上端がハウジング23の軸受部32の下端とほぼ同じ高さ位置になるように配置されている。
【0070】
ステータ51には、ティース部に銅線が巻回されており、上方および下方にコイルエンド53が形成されている。また、ステータ51の外周面には、ステータ51の上端面から下端面に亘り且つ周方向に所定間隔をおいて複数個所に切欠形成されているコアカット部が設けられている。そして、このコアカット部により、胴部ケーシング部11とステータ51との間に上下方向に延びるモータ冷却通路55が形成されている。
【0071】
ロータ52は、上下方向に延びるように胴部ケーシング部11の軸心に配置されたクランク軸17を介してスクロール圧縮機構15の可動スクロール26に駆動連結されている。また、連絡通路46の吐出口49を流出した冷媒をモータ冷却通路55に案内する案内板58が、間隙空間18に配設されている。
【0072】
(5)下部主軸受
下部主軸受60は、駆動モータ16の下方の下部空間に配設されている。この下部主軸受60は、胴部ケーシング部11に固定されるとともにクランク軸17の下端側軸受を構成し、クランク軸17を支持している。
【0073】
(6)吸入管
吸入管19は、冷媒回路の冷媒をスクロール圧縮機構15に導くためのものであって、ケーシング10の上壁部12に気密状に嵌入されている。吸入管19は、低圧空間29を上下方向に貫通すると共に、内端部が固定スクロール24に嵌入されている。
【0074】
(7)吐出管
吐出管20は、ケーシング10内の冷媒をケーシング10外に吐出させるためのものであって、ケーシング10の胴部ケーシング部11に気密状に嵌入されている。そして、この吐出管20は、胴体内面から中心に下方に向かって突き出した位置で開口されている。
【0075】
<実施形態の特徴>
(1)
実施形態のスクロール圧縮機1では、可動スクロール26のラップ26bの巻始め26bsから中間部26bmにかけての区間のみに限定してインボリュートの基礎円半径を小さくして(すなわち、歯厚を小さくして)スクロール圧縮機構15の小型化を達成している。それとともに、それ以外の中間部26bmから巻終り26beにかけての区間では、インボリュートの基礎円半径大きくすることにより、巻終り26beの歯厚を確保して巻終り26beの強度の向上を図ることが可能である。
【0076】
(2)
したがって、実施形態のスクロール圧縮機1では、可動スクロール26の遠心力が高回転運転時に大きくなり、可動スクロール26と固定スクロール24との接触が生じる場合に、ラップ26bの巻終り26beに大きな遠心力が作用しても、ラップの巻終り26beの強度が十分あるので、ラップ26bの割れなどの不具合を解消することができる。その結果、ラップ26bの巻終り26beの強度を向上することができ、しかもスクロール圧縮機構15の小型化を達成できる。
【0077】
(3)
いいかえれば、実施形態のスクロール圧縮機1では、可動スクロール26のラップ26bの強度を向上し、割れにくいラップ26bとするとともに、スクロール圧縮機構15の小型化を図り、性能向上を図るラップ26bとしており、結果として、ラップ26bの形状によってラップ26bの強度向上を達成している。
【0078】
ラップ26bの巻始め26bsから中間部26bmにかけては巻角θが大きくなるに従いインボリュートの基礎円半径が小さく(歯厚が小さくなる)ラップ26bとすることにより、スクロール圧縮機構15の小型化を図っている。
【0079】
そして、スクロール圧縮機1では構造上固有の圧縮比を持つため、高圧縮比運転時などで大きな荷重が作用してもラップ26bの巻始め26bsで割れが発生しないようにすることが可能であり、しかも、スクロール圧縮機構15の小型化を図ることができる。
【0080】
さらに、ラップ26b中間部26bmから巻終り26beにかけて、ラップ26b巻角θが大きくなるに従い、インボリュートの基礎円半径が大きくなる(歯厚が厚くなる)ラップ26bとしている。これにより、ラップ26b巻終り26beの歯厚を厚くし、巻終り26beの強度を向上している。
【0081】
(4)
また、実施形態のスクロール圧縮機1では、ラップ26bの中間部26bmは、ラップ26b全体のうち、巻始め26bsからラップ1/2巻き分と巻終り26beからラップ1/2巻き分を除いた範囲(斜線部の範囲)であるので、スクロール圧縮機構15の小型化および巻終り26beの強度の向上を両方とも確実に達成することが可能である。
【0082】
(5)
また、実施形態のスクロール圧縮機1では、図2に示されるように、ラップ26bは、ラップ26bの中間部26bmから巻終り26beの区間S2では、ラップ26bの内側のインボリュートの基礎円半径R2が小さくなり、一方、ラップ26bの外側のインボリュートの基礎円半径R2が大きくなっているので、スクロール圧縮機構15の小型化および巻終り26beの強度の向上を達成できる。
【0083】
(6)
すなわち、ラップ26bの中間部26bmから巻終り26beにかけて可動スクロール26の内側インボリュート曲線部分は基礎円半径が小さくなるラップ26bとし、外側インボリュート曲線部分は基礎円半径が大きくなるようにしており、その結果、内側インボリュート曲線部分でスクロール圧縮機構15の小型化を図ることが可能である。
【0084】
(7)
また、実施形態のスクロール圧縮機1では、ラップ26bは、ラップ26bの巻終り26beにおいて、ラップ26bの内側のインボリュート終点の巻角θ2よりもラップ26bの外側のインボリュート終点の巻角θ1を小さくした形状である。
【0085】
これにより、固定スクロール24のラップ24b最外周の剛性が高い部分と接触し、かつ片持ち構造となる可動スクロール26のラップ26b終端に延伸部分を設けることで、ラップ26bの巻終り26beにおいてラップ26bが両持ちで支持されるので、ラップ26bの巻終り26beの根元に発生する応力を緩和することができる。このため、可動スクロール26のラップ26bの巻終り26beの根元部に発生する応力を緩和することができる。その結果、ラップ26bの巻終り26beの強度向上を図ることができる。
【0086】
しかも、可動スクロール26内側ラップ26bで形成される圧縮室40の組込み圧縮比を大きくし、内側の圧縮室と外側の圧縮室との圧力差を小さくすることができるため、漏れ損失を小さくして、効率の向上を図ることができる。
【0087】
(8)
また、実施形態のスクロール圧縮機1では、可動スクロール26の鏡板のラップ26bが形成された側と反対側の面には、キー溝26dを避けた位置に複数の座ぐり部61が形成されている。これにより、可動スクロール26を軽量化することが可能である。
【0088】
しかも、上述のように可動スクロール26のラップ26bの巻終り26be側を厚くすることで、可動スクロール26の重量が大きくなり、遠心力は増大するが、遠心力を小さくするために、座ぐり部61を形成することにより、軽量化を図ることが可能である。
【0089】
(9)
また、実施形態のスクロール圧縮機1では、可動スクロール26のラップ26bの巻終り26beから1巻き分の範囲における可動スクロール26のラップ26b外周面26b1と固定スクロール24の内周面24b2との半径方向隙間δ1は、巻始め26bs付近における半径方向隙間δ2より大きくなっている。
【0090】
(10)
また、実施形態のスクロール圧縮機1では、可動スクロール26のラップ26bの巻終り26beから1巻き分の範囲における可動スクロール26のラップ26bの外周面26b1と固定スクロール24のラップ24bの内周面24b2との半径方向隙間δは、以下の(式3)の範囲にあるように設定されている。
【0091】
ここで、図7に示されるように、
L:固定スクロール24の溝24fの幅、
T:可動スクロール26のラップ26bの歯厚、
D:可動スクロール26の旋回半径、
P:可動スクロール26のボス26cと、それに連結するクランク軸17のピン軸部17aとの間のピン軸受隙間、
M:クランク軸17と、それを支持する主軸受、すなわちハウジング23の軸受メタル34との間の主軸受隙間として、
半径方向隙間δは、
(L−T−D×2)≦δ≦(L−T−D×2+P+M) (式3)
の範囲にあるように設定されている。
【0092】
このように半径方向隙間δを設定することにより、ラップ間の隙間を0以上確実に確保することが可能であり、接触荷重を確実に緩和することが可能である。
【0093】
いいかえれば、可動スクロール26のラップ26bの巻終り26be側と固定スクロール24のラップ24bの剛性の高い部分(すなわち厚肉部分)との接触荷重を緩和することが可能である。
【0094】
ここで、上述の(L−T−D×2)で示される隙間の広さは、理想状態の場合には、その隙間は0になるが、これに対し、加工誤差、組立誤差により可動スクロール26のラップ26bと固定スクロール24のラップ24bとが互いに接触する場合、すなわち、隙間が0以下の場合は、ラップ26bは、ピン軸受隙間および主軸受隙間の分だけ逃げることになる。
【0095】
一方、ラップ26bの半径方向隙間δを大きくしすぎると、半径方向隙間δからの圧縮室40から圧縮ガスの漏れが大きくなり、圧縮機の性能低下を招く。このため、性能低下を抑制するためには、適切な半径方向隙間δの設定が必要となる。半径方向隙間δは、理想的には0が望ましいが、実際の製造では0〜50ミクロン程度になっている。
【0096】
そこで、本実施形態では、少なくともラップ24b、26b同士が接触するシールポイントにおける半径方向隙間δをおおよそ0になるように設定し、性能低下を抑制するために、ピン軸受隙間および主軸受隙間の分を最大とする逃げ量以下の半径方向隙間δを設定しているので、上述のように、ラップ間の隙間は0以上確実に確保することが可能である。
【0097】
これにより、可動スクロール26のラップ26bの巻終り26beにおける固定スクロール24のラップ24bの巻終り付近の剛性の高い部分(すなわち厚肉部分)との接触時に受ける接触荷重を緩和することが可能である。
【0098】
<実施形態の変形例>
(A)
上記実施形態のスクロール圧縮機1では、可動スクロール26のラップ26bが、その中間部26bmから巻終り26beにかけての区間では、巻角θが大きくなるに従いインボリュートの基礎円半径が大きくなっているが、巻き始め26bsから中間部26bmにかけての区間におけるインボリュートの基礎円半径の最小値よりも、インボリュートの基礎円半径が大きい渦巻き形状であってもよい。この場合も、ラップ26bの巻終り26beの強度が向上するとともに圧縮機構の小型化を達成することが可能である。
【0099】
(B)
上記実施形態のスクロール圧縮機1では、可動スクロール26のラップ26bが、その中間部26bmから巻終り26beにかけての区間では、巻角θが大きくなるに従いインボリュートの基礎円半径が大きくなっているが、巻角θが大きくなるに従い、ラップの内側のインボリュートの基礎円半径が小さくなると共にラップの外側のインボリュートの基礎円半径が大きくなるかまたは一定になる渦巻き形状であってもよく、巻角が大きくなるに従い、ラップの内側のインボリュートの基礎円半径が一定になると共にラップの外側のインボリュートの基礎円半径が大きくなるかまたは一定になる渦巻き形状であってもよい。この場合も、ラップ26bの巻終り26beの強度が向上するとともに圧縮機構の小型化を達成することが可能である。
【0100】
(C)
上記実施形態のスクロール圧縮機1では、可動スクロール26のラップ26bが、その中間部26bmから巻終り26beにかけての区間では巻角θが大きくなるに従いインボリュートの基礎円半径が大きくなっているが、ラップ26bの中間部26bmから巻終り26beにかけての区間では巻角θが大きくなるに従い、ラップ26bの内側のインボリュートの基礎円半径が小さくなり、一方、ラップ26bの外側のインボリュートの基礎円半径が大きくなるか一定になっていてもよい。この場合も、ラップ26bの巻終り26beの強度が向上するとともに圧縮機構の小型化を達成することが可能である。
【0101】
(D)
上記実施形態のスクロール圧縮機1では、インボリュートの基礎円半径がR2<R3<R1の関係になり、歯厚がt2<t3<t1の関係になっているが、インボリュートの基礎円半径がR2<R1<R3の関係になり、歯厚がt2<t1<t3の関係になっていてもよい。この場合も、ラップ26bの巻終り26beの強度が向上するとともに圧縮機構の小型化を達成することが可能である。
【0102】
(E)
上記実施形態のスクロール圧縮機1では、ラップ26bの中間部26bmは、内側端部26bm1から外側端部26bm2までの範囲であるが、より狭い範囲であってもよい。例えば、内側端部26bm1は、インボリュート始点からインボリュート終点に向かって、インボリュート曲線に沿って1/2〜1回転の範囲内の任意の値だけ進んだポイントであってもよく、外側中間ポイントは、インボリュート終点からインボリュート始点に向かって、インボリュート曲線に沿って1/2〜1回転の範囲内の任意の値だけ進んだポイントであってもよい。この場合も、ラップ26bの巻終り26beの強度が向上するとともに圧縮機構の小型化を達成することが可能である。
【0103】
(F)
上記実施形態のスクロール圧縮機1では、図9に示されるように、圧縮室形成ポイント26i3は、ラップ26bの外側のインボリュート終点26i2とは異なるポイントであるが、圧縮室形成ポイント26i3が、ラップ26bの外側のインボリュート終点26i2と同じポイントであってもよい。本変形例では、図10に示されるように、圧縮室形成ポイント26i3とラップ26bの巻終り26beとの間の区間であって、圧縮室の形成に関係しない区間は、インボリュート形状でなくてもよい。この場合も、ラップ26bの巻終り26beの強度が向上するとともに圧縮機構の小型化を達成することが可能である。
【0104】
(G)
上記実施形態では、可動スクロール26のラップ26bの形状を変更することにより、ラップ26bの巻終り26beの強度が向上するとともに圧縮機構の小型化を達成しているが、固定スクロール24のラップ24bの形状を上記実施形態のように変更してもよい。この場合も固定スクロール24のラップ24bの巻終りの強度が向上するとともに圧縮機構の小型化を達成することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明は、スクロール圧縮機であれば広く適用することが可能であり、ラップの強度向上と圧縮機構の小型を両方達成することができる。
【符号の説明】
【0106】
1 スクロール圧縮機
24 固定スクロール
24a 鏡板
24b ラップ
26 可動スクロール
26a 鏡板
26b ラップ
26bm1 内側中間ポイント(内側端部)
26bm2 外側中間ポイント(外側端部)
40 圧縮室
40z 最外圧縮室
【先行技術文献】
【特許文献】
【0107】
【特許文献1】特公平5−29796号公報
【特許文献2】特開2000−179478号公報
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
空気調和機の室外機などに用いられるスクロール圧縮機においては、能力幅を広くするためインバータモータを採用した圧縮機が増加しているが、より広い能力幅を得るためにさらなる高回転運転が求められているのが現状である。
【0003】
しかし、高回転運転の弊害として、可動スクロール等の螺旋状のラップが損傷する可能性が高くなるという問題がある。
【0004】
すなわち、高回転運転をすれば、公転運動をする可動スクロールの遠心力が大きくなり、可動スクロールの遠心力は、駆動軸であるクランク軸と可動スクロールの軸受け部分であるボスとの間、あるいは可動スクロールのラップと固定スクロールのラップとの間に作用する。
【0005】
一方、渦巻き状のラップは、実際の加工において理想形状と相違が生じる場合があり、特に可動スクロールのラップの最外周の巻終りは、いわば片持ち支持の状態になるため、加工誤差が生じやすく、固定スクロールのラップと接触しやすい。
【0006】
また、固定スクロールのラップの最外周の巻終りが薄肉の翼形状ではなく剛性の高い厚肉のブロック状の場合には、可動スクロールのラップと固定スクロールのラップが接触した場合に、固定スクロール側のラップがほとんどたわまず、いわば、応力緩和となるような逃げが生じなくなる。このため、相手側の可動スクロールラップに発生する応力が大きくなる。
【0007】
以上のように、高回転運転により、可動スクロールのラップに作用する遠心力が大きくなるに従い、遠心力に耐えうるラップ形状にする必要がある。
【0008】
ここで、従来では、ラップのインボリュート曲線により構成される渦巻き状の形状は、例えば、ラップの歯厚が巻始めから巻終りまで一定(すなわち、インボリュートの基礎円半径が一定)である形状や、ラップの歯厚が中央の巻始めから最外周の巻終りに向かうにつれて小さくなる(すなわち、インボリュートの基礎円半径が小さくなる)形状が一般に知られている。
【0009】
そこで、ラップの巻終りの強度を向上させるために、特許文献1(特公平5−29796号公報)に記載されているスクロール圧縮機では、ラップの歯厚が巻始めから巻終りまで一定であるが、可動スクロールのラップの巻終りにおいて、ラップ外側に膨出部を設けている。
【0010】
また、特許文献2(特開2000−179478号公報)に記載されているスクロール圧縮機では、ラップの歯厚が巻始めから巻終りまで一定であるが、可動スクロールのラップの巻終りを延伸して、ラップの他の部分よりも板厚を薄くしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のように、ラップの歯厚を巻始めから巻終りに向かうにつれて小さくすれば(ラップの巻角が大きくなるにしたがってインボリュートの基礎円半径を小さくすれば)、ラップの巻終りの強度が低下するという問題がある(図11参照)。
【0012】
一方、ラップの歯厚が一定(インボリュートの基礎円半径が一定)の場合でも、巻終りの強度を向上させるためにラップの歯厚を大きくすると、圧縮機構の容積を同じとするために圧縮機構を大型化しなければならないという問題がある。また、強度を向上させるためにラップの高さを低くすると、圧縮機構の容積を同じとするためには、やはり圧縮機構を大型化しなければならないという問題がある。
【0013】
さらに、特許文献1または2に記載されるように、可動スクロールのラップの巻終りの強度を向上させるために、ラップの巻終りの外側を膨らませた場合、もしくはラップの巻終りを延伸した場合、固定スクロールとの干渉を避けるための空間が大きくなり、この場合も圧縮機構を大型化しなければならないという問題がある。また、吸入工程での圧力損失が大きくなり、効率低下を招くという問題もある。
【0014】
さらに、ラップの巻終りの延伸部の歯厚を薄くした場合、延伸部長さを長くして、荷重発生ポイントから延伸部終端の距離を大きくしなければ(いわば、両持ち支持の状態にしなければ)、薄肉部での発生応力が大きくなるので、結果的に圧縮機構を大型化しなければならないという問題がある。また、吸入工程での圧力損失が大きくなり、性能低下を招くという問題もある。
【0015】
本発明の課題は、ラップの巻終りの強度を向上することができ、しかも圧縮機構の小型化を達成できるスクロール圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1観点に係るスクロール圧縮機は、固定スクロールおよび可動スクロールを備えている。固定スクロールおよび可動スクロールは、それぞれの鏡板の一方の面に螺旋状のラップが設けられている部材である。固定スクロールのラップと可動スクロールのラップは、互いに組み合わされることにより、隣接する固定スクロールのラップと可動スクロールのラップとの間に圧縮室を形成する。固定スクロールまたは可動スクロールのうちの少なくともいずれか一方のラップは、そのラップの巻き始めから中間部にかけての区間では、巻角が大きくなるに従いラップの内側および外側のインボリュートの基礎円半径が小さくなる渦巻き形状である。同時に、当該いずれか一方のラップは、そのラップの中間部から巻終りにかけての区間では、巻角が大きくなるに従いラップの内側のインボリュートの基礎円半径が小さくなり、かつ、ラップの外側のインボリュートの基礎円半径が大きくなるかまたは一定になる渦巻き形状である。または、当該いずれか一方のラップは、そのラップの中間部から巻終りにかけての区間では、巻角が大きくなるに従いラップの内側のインボリュートの基礎円半径が一定になり、かつ、ラップの外側のインボリュートの基礎円半径が大きくなる渦巻き形状である。そして、この構成により、ラップの巻き始め付近における歯厚t1と、ラップの中間部における歯厚t2と、ラップの巻終り付近における歯厚t3とが、t2<t3<t1またはt2<t1<t3の関係を満たす。
【0017】
また、本発明の第1観点に係るスクロール圧縮機では、ラップは、圧縮室形成ポイントの巻角が、ラップの内側のインボリュート終点の巻角よりも小さい渦巻き形状である。圧縮室形成ポイントは、最外圧縮室を形成し、かつ、ラップの外側のインボリュートに含まれ、かつ、ラップの外側のインボリュート終点に最も近いポイントである。最外圧縮室は、鏡板の径方向の最も外側に位置する圧縮室である。「ラップの内側のインボリュート終点」は、径方向内側のラップ壁面を平面視したインボリュート曲線の径方向外側の端点を意味する。そして、この構成により、可動スクロールのラップの巻終りが両持ちで支持され、かつ、吸入完了時の可動スクロールのラップの外側の圧縮室と吐出直前の可動スクロールのラップの外側の圧縮室との容積比と、吸入完了時の可動スクロールのラップの内側の圧縮室と吐出直前の可動スクロールのラップの内側の圧縮室との容積比との差が小さくなる。これにより、可動スクロールのラップの内側の圧縮室と、可動スクロールのラップの外側の圧縮室との圧力差が小さく、そのために漏れ損失が小さい。ここで、「内側の圧縮室」および「外側の圧縮室」は、それぞれ、スクロール圧縮機の圧縮機構の吐出口から吐出する直前におけるラップの内側および外側の圧縮室であり、または、スクロール圧縮機の圧縮機構の吸入が完了する時点におけるラップの内側および外側の圧縮室である。
【0018】
このスクロール圧縮機では、固定スクロールまたは可動スクロールのうちの少なくともいずれか一方のラップの巻始めから中間部にかけての区間において、ラップの内側および外側のインボリュートの基礎円半径を小さくすることにより、歯厚を小さくして圧縮機構の小型化を達成している。それとともに、ラップの中間部から巻終りにかけての区間において、ラップの内側のインボリュートの基礎円半径が小さくなり、ラップの外側のインボリュートの基礎円半径が大きくなるかまたは一定であるか、あるいは、ラップの内側のインボリュートの基礎円半径が一定であり、ラップの外側のインボリュートの基礎円半径が大きくなる。ここで、「内側」および「外側」は、それぞれ、鏡板の径方向の内側および外側を意味し、以下同様である。このスクロール圧縮機では、巻終りの歯厚を確保して巻終りの強度の向上を図っている。従って、このスクロール圧縮機では、圧縮機構の小型化および巻終りの強度の向上を達成できる。
【0019】
また、このスクロール圧縮機では、ラップの巻終りにおいて、ラップの内側のインボリュート終点の巻角よりも、ラップの外側の圧縮室形成ポイントの巻角の方が小さい。これにより、ラップの巻終りにおいて、ラップが両持ちで支持されるので、ラップの巻終りの根元に発生する応力を緩和することができる。その結果、巻終りの強度向上を図ることができる。しかも、ラップの内側と外側との圧縮室の圧力差を小さくすることができ、圧縮機の効率を向上することが可能である。
【0020】
本発明の第2観点に係るスクロール圧縮機は、固定スクロールおよび可動スクロールを備えている。固定スクロールおよび可動スクロールは、それぞれの鏡板の一方の面に螺旋状のラップが設けられている部材である。固定スクロールのラップと可動スクロールのラップは、互いに組み合わされることにより、隣接する固定スクロールのラップと可動スクロールのラップとの間に圧縮室を形成する。固定スクロールまたは可動スクロールのうちの少なくともいずれか一方のラップは、そのラップの巻き始めから中間部にかけての区間では、巻角が大きくなるに従いラップの内側および外側のインボリュートの基礎円半径が小さくなる渦巻き形状である。同時に、当該いずれか一方のラップは、そのラップの中間部から巻終りにかけての区間では、巻角が大きくなるに従いラップの内側のインボリュートの基礎円半径が一定になり、かつ、ラップの外側のインボリュートの基礎円半径が一定になる渦巻き形状である。そして、この構成により、ラップの巻き始め付近における歯厚t1と、ラップの中間部における歯厚t2とが、t2<t1の関係を満たす。
【0021】
また、本発明の第2観点に係るスクロール圧縮機では、ラップは、圧縮室形成ポイントの巻角が、ラップの内側のインボリュート終点の巻角よりも小さい渦巻き形状である。圧縮室形成ポイントは、最外圧縮室を形成し、かつ、ラップの外側のインボリュートに含まれ、かつ、ラップの外側のインボリュート終点に最も近いポイントである。最外圧縮室は、鏡板の径方向の最も外側に位置する圧縮室である。「ラップの内側のインボリュート終点」は、径方向内側のラップ壁面を平面視したインボリュート曲線の径方向外側の端点を意味する。そして、この構成により、可動スクロールのラップの巻終りが両持ちで支持され、かつ、吸入完了時の可動スクロールのラップの外側の圧縮室と吐出直前の可動スクロールのラップの外側の圧縮室との容積比と、吸入完了時の可動スクロールのラップの内側の圧縮室と吐出直前の可動スクロールのラップの内側の圧縮室との容積比との差が小さくなる。これにより、可動スクロールのラップの内側の圧縮室と、可動スクロールのラップの外側の圧縮室との圧力差が小さく、そのために漏れ損失が小さい。ここで、「内側の圧縮室」および「外側の圧縮室」は、それぞれ、スクロール圧縮機の圧縮機構の吐出口から吐出する直前におけるラップの内側および外側の圧縮室であり、または、スクロール圧縮機の圧縮機構の吸入が完了する時点におけるラップの内側および外側の圧縮室である。
【0022】
このスクロール圧縮機では、固定スクロールまたは可動スクロールのうちの少なくともいずれか一方のラップの巻始めから中間部にかけての区間において、ラップの内側および外側のインボリュートの基礎円半径を小さくすることにより、歯厚を小さくして圧縮機構の小型化を達成している。それとともに、ラップの中間部から巻終りにかけての区間において、ラップの内側のインボリュートの基礎円半径が一定であり、ラップの外側のインボリュートの基礎円半径が一定である。従って、このスクロール圧縮機では、圧縮機構の小型化および巻終りの強度の向上を達成できる。
【0023】
また、このスクロール圧縮機では、ラップの巻終りにおいて、ラップの内側のインボリュート終点の巻角よりも、ラップの外側の圧縮室形成ポイントの巻角の方が小さい。これにより、ラップの巻終りにおいて、ラップが両持ちで支持されるので、ラップの巻終りの根元に発生する応力を緩和することができる。その結果、巻終りの強度向上を図ることができる。しかも、ラップの内側と外側との圧縮室の圧力差を小さくすることができ、圧縮機の効率を向上することが可能である。
【0024】
本発明の第3観点に係るスクロール圧縮機は、第1観点または第2観点に係るスクロール圧縮機であって、ラップの中間部は、内側中間ポイントから外側中間ポイントまでの範囲である。内側中間ポイントは、ラップの外側のインボリュート始点からラップの外側のインボリュート終点に向かってラップ1/2〜1巻き分だけ離れた位置にあるポイントである。外側中間ポイントは、ラップの外側のインボリュート終点からラップの外側のインボリュート始点に向かってラップ1/2〜1巻き分だけ離れた位置にあるポイントである。「ラップの外側のインボリュート始点」は、径方向外側のラップ壁面を平面視したインボリュート曲線の径方向内側の端点を意味する。「ラップの外側のインボリュート終点」は、径方向外側のラップ壁面を平面視したインボリュート曲線の径方向外側の端点を意味する。「ラップ1/2〜1巻き分だけ離れた」ポイントは、インボリュート曲線に沿って1/2〜1回転だけ離れたポイントを意味する。
【0025】
このスクロール圧縮機では、ラップの中間部は、ラップ全体のうち、巻き始めからラップ1/2〜1巻き分と巻終りからラップ1/2〜1巻き分を除いた範囲に相当する。従って、圧縮機構の小型化および巻終りの強度の向上を両方とも確実に達成することが可能である。
【0026】
本発明の第4観点に係るスクロール圧縮機は、第1観点から第3観点のいずれか1つに係るスクロール圧縮機であって、可動スクロールの鏡板の面であって、ラップが設けられている面の反対側の面に、座ぐり部が形成されている。
【0027】
このスクロール圧縮機では、可動スクロールの鏡板のラップと反対側の面に座ぐり部が形成されているので、可動スクロールの軽量化が可能である。
【0028】
本発明の第5観点に係るスクロール圧縮機は、第1観点から第4観点のいずれか1つに係るスクロール圧縮機であって、可動スクロールのラップの巻終りから1巻き分の範囲における可動スクロールのラップ外周面と固定スクロールのラップ内周面との半径方向隙間は、巻き始め付近における半径方向隙間より大きい。
【0029】
このスクロール圧縮機では、可動スクロールのラップの巻終りから1巻き分の範囲における可動スクロールのラップ外周面と固定スクロールのラップ内周面との半径方向隙間は、巻き始め付近における半径方向隙間より大きいので、可動スクロールのラップの巻終りにおける固定スクロールのラップの巻終り付近の剛性の高い部分との接触時に受ける接触荷重を緩和することが可能である。
【0030】
本発明の第6観点に係るスクロール圧縮機は、第5観点に係るスクロール圧縮機であって、可動スクロールのラップの巻終りから1巻き分の範囲における可動スクロールのラップの外周面と固定スクロールのラップ内周面との半径方向隙間δは、
固定スクロールの溝幅L、
可動スクロールの歯厚T、
可動スクロールの旋回半径D、
可動スクロールのボスとそれに連結するクランク軸との間のピン軸受隙間P、
クランク軸とそれを支持する主軸受との間の主軸受隙間Mとした場合に、
(L−T−D×2)≦δ≦(L−T−D×2+P+M)の範囲にある。
【0031】
このスクロール圧縮機では、少なくともラップ同士が接触して圧縮室をシールする点であるシールポイントにおける半径方向隙間δをおおよそ0になるように設定し、性能低下を抑制するために、ピン軸受隙間および主軸受隙間の分を最大とする逃げ量以下の半径方向隙間δを設定していることにより、ラップ間の隙間は0以上確実に確保することが可能である。
【発明の効果】
【0032】
本発明の第1乃至第3観点に係るスクロール圧縮機では、圧縮機構の小型化およびラップの巻終りの強度の向上を両方達成することができる。また、ラップの巻終りの根元に発生する応力を緩和することができ、その結果、巻終りの強度向上を図ることができる。しかも、ラップの内側と外側との圧縮室の圧力差を小さくすることができ、圧縮機の効率を向上することができる。
【0033】
本発明の第4観点に係るスクロール圧縮機では、可動スクロールの軽量化を達成することができる。
【0034】
本発明の第5観点に係るスクロール圧縮機では、可動スクロールのラップの巻終りにおける固定スクロールのラップの巻終り付近の剛性の高い部分との接触時に受ける接触荷重を緩和することができる。
【0035】
本発明の第6観点に係るスクロール圧縮機では、ラップ間の隙間は0以上確実に確保することができ、圧縮機の性能の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態に係るスクロール圧縮機の平面図。
【図2】図1の可動スクロールのラップの形状を示す平面図。
【図3】図1の可動スクロールのラップの外側に形成される圧縮室におけるガスが吐出直前の位置を示す平面図。
【図4】図1の可動スクロールのラップの内側に形成される圧縮室におけるガスが吐出直前の位置を示す平面図。
【図5】図1の可動スクロールのラップの外側に形成される圧縮室におけるガスが圧縮室内部に吸入完了した直後の位置を示す平面図。
【図6】図1の可動スクロールのラップの内側に形成される圧縮室におけるガスが圧縮室内部に吸入完了した直後の位置を示す平面図。
【図7】図1の固定スクロールのラップと可動スクロールのラップとの間の半径方向隙間を示す平面図。
【図8】図1の可動スクロールの背面側に形成された座ぐり部の配置を示す平面図。
【図9】図1の可動スクロールのラップの最も外側に形成される圧縮室近傍の拡大図。
【図10】本発明の変形例(F)に係る可動スクロールのラップの最も外側に形成される圧縮室近傍の拡大図。
【図11】本発明の比較例として、インボリュートの基礎円半径が巻始めから巻終りにかけて小さくなる可動スクロールのラップの配置を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
〔実施形態〕
本発明のスクロール圧縮機の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0038】
図1に示されるスクロール圧縮機1は、高低圧ドーム型のスクロール圧縮機であり、蒸発器や、凝縮器、膨張機構などと共に冷媒回路を構成し、その冷媒回路中のガス冷媒を圧縮する役割を担うものであって、主に、縦長円筒状の密閉ドーム型のケーシング10、スクロール圧縮機構15、オルダム継手39、駆動モータ16、下部主軸受60、吸入管19、および吐出管20から構成されている。以下、このスクロール圧縮機1の構成部品についてそれぞれ詳述していく。
【0039】
〔スクロール圧縮機1の構成部品の詳細〕
(1)ケーシング
ケーシング10は、略円筒状の胴部ケーシング部11と、胴部ケーシング部11の上端部に気密状に溶接される椀状の上壁部12と、胴部ケーシング部11の下端部に気密状に溶接される椀状の底壁部13とを有する。そして、このケーシング10には、主に、ガス冷媒を圧縮するスクロール圧縮機構15と、スクロール圧縮機構15の下方に配置される駆動モータ16とが収容されている。このスクロール圧縮機構15と駆動モータ16とは、ケーシング10内を上下方向に延びるように配置されるクランク軸17によって連結されている。そして、この結果、スクロール圧縮機構15と駆動モータ16との間には、間隙空間18が生じる。
【0040】
(2)スクロール圧縮機構
スクロール圧縮機構15は、図1に示されるように、主に、ハウジング23と、ハウジング23の上方に密着して配置される固定スクロール24と、固定スクロール24に噛合する可動スクロール26とから構成されている。また、スクロール圧縮機構15は、容量アップや効率向上のため、固定スクロール24および可動スクロール26のそれぞれの渦巻き状のラップ24b、26bは非対称の形状になっており、可動スクロール26のラップ26bと比較して、固定スクロール24のラップ24bがその内周側を半周程度延長している。
【0041】
以下、このスクロール圧縮機構15の構成部品についてそれぞれ詳述していく。
【0042】
(2−1)固定スクロール
固定スクロール24は、図1〜3に示されるように、主に、平板状の鏡板24aと、鏡板24aの下面に形成された渦巻き状(インボリュート状)のラップ24bとから構成されている。
【0043】
鏡板24aには、後述する圧縮室40に連通する吐出口41が鏡板24aの略中心に貫通して形成されている。吐出口41は、鏡板24aの中央部分において上下方向に延びるように形成されている。
【0044】
さらに、鏡板24aの上面には、吐出口41に連通する拡大凹部42(図1参照)が形成されている。拡大凹部42は、鏡板24aの上面に凹設された水平方向に広がる凹部により構成されている。そして、固定スクロール24の上面には、この拡大凹部42を塞ぐように蓋体44がボルト44aにより締結固定されている。そして、拡大凹部42に蓋体44が覆い被せられることによりスクロール圧縮機構15の運転音を消音させる膨張室からなるマフラー空間45が形成されている。固定スクロール24と蓋体44とは、図示しないガスケットを介して密着させることによりシールされている。
【0045】
(2−2)可動スクロール
可動スクロール26は、図1に示されるように、主に、鏡板26aと、鏡板26aの上面に形成された渦巻き状(インボリュート状)のラップ26bと、鏡板26aの下面に形成された軸受部であるボス26cと、鏡板26aの両端部に形成されるキー溝26d(図8参照)とから構成されている。ボス26cは、クランク軸17のピン軸部17aの外側に嵌合する。
【0046】
可動スクロール26は、キー溝26dにオルダム継手39のキー部(図示せず)が嵌め込まれることによりハウジング23に支持される。また、ボス26cにはクランク軸17の上端部であるピン軸部17aが嵌入される。可動スクロール26は、このようにスクロール圧縮機構15に組み込まれることによってクランク軸17の回転により自転することなくハウジング23内を公転する。そして、可動スクロール26のラップ26bは固定スクロール24のラップ24bに噛合させられており、両ラップ24b,26bの接触部の間には圧縮室40が形成されている。そして、この圧縮室40では、可動スクロール26の公転に伴い、両ラップ24b,26b間の容積が中心に向かって収縮する。本実施形態に係るスクロール圧縮機1では、このようにしてガス冷媒を圧縮するようになっている。
【0047】
圧縮室40は、可動スクロール26の公転する位置によって容積変化し、固定スクロール24の略中心の吐出口41付近の吐出直前の位置には、A室40a1と、B室40b1とを有している。ここで、A室40a1は、図3に示されるように、可動スクロール26のラップ26bの外周面26b1と固定スクロール24のラップ24bの内周面24b2とによって囲まれることにより形成されている。また、B室40b1は、図4に示されるように、可動スクロール26のラップ26bの内周面26b2と固定スクロール24のラップ24bの外周面24b1とによって囲まれることにより形成されている。
【0048】
図3に示されるA室40a1が形成された後、可動スクロール26の公転がさらに進行すると、A室40a1内の圧縮された高圧ガスは、可動スクロール26のラップ26bの中心側先端と固定スクロール24のラップ24bの内周面の隙間を通して、吐出口41へ流れる。
【0049】
一方、図4に示されるB室40b1が形成された後、可動スクロール26の公転がさらに進行すると、B室40b1内の圧縮された高圧ガスは、可動スクロール26の鏡板26aの略中心付近に形成された座ぐり凹部24a1(図1参照)および固定スクロール24のラップ24bの中心側先端と可動スクロール26のラップ26bの内周面の隙間を通して、吐出口41に流れる。
【0050】
図2に示されるように、本実施形態の可動スクロール26のラップ26bは、そのラップ26bの巻始め26bsから中間部26bmにかけての区間S1のみ巻角θ(巻始め26bsからの回転角)が大きくなるに従いインボリュートの基礎円半径が小さくなっている。
【0051】
例えば、図2では、中間部26bmにおけるインボリュートの基礎円半径R2は、巻始め26bs付近のインボリュートの基礎円半径R1よりも小さくなっている(すなわち、R2<R1)。これに伴って、ラップ26bの中間部26bmにおける歯厚t2は、巻始め26bs付近における歯厚t1よりも小さくなっている(すなわち、t2<t1)。
【0052】
このように、ラップ26bの巻始め26bsから中間部26bmにかけての区間のみに限定してインボリュートの基礎円半径R2を小さくしていき、それに伴って歯厚t2を小さくしていくので、スクロール圧縮機構15の小型化を達成することが可能である。
【0053】
一方、中間部26bmから巻終り26beにかけての区間S2は、巻角θが大きくなるに従いインボリュートの基礎円半径が大きくなっている。例えば、図2では、中間部26bmにおけるインボリュートの基礎円半径R2は、巻終り26be付近のインボリュートの基礎円半径R3よりも小さくなっている(すなわち、R2<R3)。これに伴って、ラップ26bの中間部26bmにおける歯厚t2は、巻終り26be付近における歯厚t3よりも小さくなっている(すなわち、t2<t3)。なお、図2では、インボリュートの基礎円半径はR2<R3<R1の関係になり、歯厚はt2<t3<t1の関係になる。
【0054】
このように、中間部26bmから巻終り26beにかけての区間S2では、インボリュートの基礎円半径R3を大きくしているので、巻終り26beの歯厚t3を確保して巻終り26beの強度の向上が可能である。
【0055】
一方、比較例として、図11に示される従来の可動スクロール126のラップ126bでは、始め126bsから巻終り126beにかけて巻角が大きくなるにつれてインボリュートの基礎円半径は小さくなっていくので(R11>R12>R13)、歯厚もそれに合わせて小さくなっていく(t11>t12>t13)。その結果、ラップ26bの巻終り126beの歯厚t13は薄くなり、巻終り126beの強度を確保することが難しくなっている。
【0056】
また、図2に示されるように、ラップ26bの中間部26bmは、内側端部26bm1から外側端部26bm2までの範囲である。以下、径方向外側のラップ26b壁面を平面視したインボリュート曲線の径方向内側の端点を「インボリュート始点」と云うと共に、径方向外側のラップ26b壁面を平面視したインボリュート曲線の径方向外側の端点を「インボリュート終点」と云う。本実施形態では、内側端部26bm1は、インボリュート始点からインボリュート終点に向かって、インボリュート曲線に沿って1/2回転だけ進んだポイントである。また、外側中間ポイントは、インボリュート終点からインボリュート始点に向かって、インボリュート曲線に沿って1/2回転だけ進んだポイントである。すなわち、ラップ26bの中間部26bmは、ラップ26b全体のうち、巻始め26bsからラップ1/2巻き分の範囲(図2における、外側のインボリュート始点から内側端部26bm1までの範囲)と、巻終り26beからラップ1/2巻き分(図2における、外側のインボリュート終点から外側端部26bm2までの範囲)を除いた範囲(図2に示される斜線部の範囲)である。この中間部26bmの範囲内に、インボリュートの基礎円半径が最も小さくなる極小点26bm0が含まれる。
【0057】
中間部26bmが巻始め26bsからラップ1/2巻き分よりも巻始め26bs側まで含むと、スクロール圧縮機構15の小型化の達成が困難になり、一方、巻終り26beからラップ1/2巻き分よりも巻終り26be側まで含むと、巻終り26beの強度の向上が困難になる。そこで、スクロール圧縮機構15の小型化および巻終り26beの強度の向上を両方とも確実に達成するためには上記の範囲であるのが実用上好ましい。
【0058】
しかも、ラップ26bは、図9に示されるように、ラップ26bの巻終り26beにおいて、ラップ26bの内側のインボリュート終点(図9において、符号26i1で示されるポイント)の巻角θ2よりもラップ26bの外側のインボリュート曲線上に位置する圧縮室形成ポイント26i3の巻角の巻角θ1を小さくした形状である。圧縮室形成ポイント26i3は、最外圧縮室40zを形成し、かつ、ラップ26bの外側のインボリュート終点(図9において、符号26i2で示されるポイント)に最も近いポイントである。最外圧縮室40zは、可動スクロール26の鏡板26aの径方向の最も外側にある圧縮室である(図5において、最外圧縮室は圧縮室40a1である)。圧縮室形成ポイント26i3は、可動スクロール26のラップ26bと固定スクロール24のラップ24bとが最接近するポイントである。圧縮室形成ポイント26i3は、ラップ26bの外側のインボリュート終点26i2とは異なるポイントである。本実施形態では、巻角θ1が巻角θ2よりも小さいことにより、固定スクロール24のラップ24b最外周の剛性が高い部分と接触し、かつ、片持ち構造となる可動スクロール26のラップ26b終端に延伸部分を設けることができるので、ラップ26bの巻終り26beが両持ちで支持され、その結果、ラップ26bの巻終り26beの根元に発生する応力を緩和することができる。また、可動スクロール26の内側ラップで形成される圧縮室40の組込み圧縮比と、可動スクロール26の外側ラップで形成される圧縮室40の組込み圧縮比との差が小さくなり、内側の圧縮室と外側の圧縮室との圧力差を小さくすることができるため、漏れ損失を小さくして、効率の向上を図ることができる。
【0059】
具体的には、図3〜6に示されるように、吐出口41から吐出直前のラップ26bの外側の圧縮室40であるA室40a1の容積をVdo、圧力をPdo(図3参照)、吐出口41から吐出直前のラップ26bの内側の圧縮室40であるB室40b1の容積をVdi、圧力をPdi(図4参照)、吸入完了時のラップ26bのA室40a1の容積をVso、圧力をPso(図5参照)、吸入完了時のB室40b1の容積をVsi、圧力をPsi(図4参照)として容積比を見た場合、
(Vsi/Vdi)<(Vso/Vdo) (式1)
の関係となり、外側のA室40a1の方が内側のB室40b1より圧縮比が大きくなる。
【0060】
このため、吐出直前の圧力は、
Pdi<Pdo (式2)
の関係となり、外側のA室40a1の方が内側のB室40b1より圧力が高くなる。
【0061】
そこで、本実施形態では、ラップ26bの外側のインボリュートの基礎円半径R2を大きくする、または、巻終り26beにおいて、ラップ26bの内側のインボリュート終点の巻角θ2よりもラップ26bの外側のインボリュート終点の巻角θ1を小さくすることによって、可動スクロール26のラップ26bの内側の圧縮室40b1の容積比Vsi/Vdiと、可動スクロール26のラップ26bの外側の圧縮室40a1の容積比Vso/Vdoとの差を小さくすることができる。すなわち、可動スクロール26の内側ラップで形成される圧縮室40の組込み圧縮比と、可動スクロール26の外側ラップで形成される圧縮室40の組込み圧縮比との差を小さくし、内側の圧縮室と外側の圧縮室との圧力差を小さくすることができる。その結果、漏れ損失を小さくして、効率の向上を図ることができる。
【0062】
さらに、図8に示されるように、可動スクロール26の鏡板のラップ26bが形成された側と反対側の面には、可動スクロール26の軽量化のために、キー溝26dを避けた位置に複数の座ぐり部61が形成されている。
【0063】
さらに、図7に示されるように、可動スクロール26のラップ26bは、その巻終り26beにおける接触荷重の緩和のために、巻終り26beから1巻き分の範囲における可動スクロール26のラップ26bの外周面26b1と固定スクロール24の内周面24b2との半径方向隙間δ1は、巻始め26bs付近における半径方向隙間δ2より大きくなっている。
【0064】
具体的には、図7に示されるように、可動スクロール26のラップ26bの巻終り26beから1巻き分の範囲における可動スクロール26のラップ26bの外周面26b1と固定スクロール24のラップ24bの内周面24b2との半径方向隙間δは、以下の(式3)の範囲にあるように設定されている。
【0065】
ここで、図7に示されるように、
L:固定スクロール24の溝24fの幅、
T:可動スクロール26のラップ26bの歯厚、
D:可動スクロール26の旋回半径、
P:可動スクロール26のボス26cと、それに連結するクランク軸17のピン軸部17aとの間のピン軸受隙間、
M:クランク軸17と、それを支持する主軸受、すなわちハウジング23の軸受メタル34との間の主軸受隙間として、
半径方向隙間δは、
(L−T−D×2)≦δ≦(L−T−D×2+P+M) (式3)
の範囲にあるように設定されている。
【0066】
(2−3)ハウジング
ハウジング23は、その外周面において周方向の全体に亘って胴部ケーシング部11に圧入固定されている。つまり、胴部ケーシング部11とハウジング23とは全周に亘って気密状に密着されている。このため、ケーシング10の内部は、ハウジング23下方の高圧空間28とハウジング23上方の低圧空間29とに区画されていることになる。また、このハウジング23には、上端面が固定スクロール24の下端面と密着するように、固定スクロール24がボルト38により締結固定されている。また、このハウジング23には、上面中央に凹設されたクランク室31と、下面中央から下方に延設された軸受部32とが形成されている。そして、この軸受部32には、上下方向に貫通する軸受孔33が形成されており、この軸受孔33にクランク軸17が軸受メタル34を介して回転自在に嵌入されている。
【0067】
(2−4)その他
また、このスクロール圧縮機構15には、固定スクロール24とハウジング23とに亘り、連絡通路46が形成されている。この連絡通路46は、固定スクロール24とハウジング23に切欠形成されたハウジング側通路48とが連通するように形成されている。そして、連絡通路46の上端は拡大凹部42に開口し、連絡通路46の下端、即ちハウジング側通路48の下端はハウジング23の下端面に開口している。つまり、このハウジング側通路48の下端開口により、連絡通路46の冷媒を間隙空間18に流出させる吐出口49が構成されていることになる。
【0068】
(3)オルダム継手
オルダム継手39は、上述したように、可動スクロール26の自転運動を防止するための部材であって、ハウジング23に形成されるオルダム溝(図示せず)に嵌め込まれている。なお、このオルダム溝は、長円形状の溝であって、ハウジング23において互いに対向する位置に配設されている。
【0069】
(4)駆動モータ
駆動モータ16は、本実施形態においてブラシレスDCモータであって、主に、ケーシング10の内壁面に固定された環状のステータ51と、ステータ51の内側に僅かな隙間(エアギャップ)をもって回転自在に収容されたロータ52とから構成されている。そして、この駆動モータ16は、ステータ51の上側に形成されているコイルエンド53の上端がハウジング23の軸受部32の下端とほぼ同じ高さ位置になるように配置されている。
【0070】
ステータ51には、ティース部に銅線が巻回されており、上方および下方にコイルエンド53が形成されている。また、ステータ51の外周面には、ステータ51の上端面から下端面に亘り且つ周方向に所定間隔をおいて複数個所に切欠形成されているコアカット部が設けられている。そして、このコアカット部により、胴部ケーシング部11とステータ51との間に上下方向に延びるモータ冷却通路55が形成されている。
【0071】
ロータ52は、上下方向に延びるように胴部ケーシング部11の軸心に配置されたクランク軸17を介してスクロール圧縮機構15の可動スクロール26に駆動連結されている。また、連絡通路46の吐出口49を流出した冷媒をモータ冷却通路55に案内する案内板58が、間隙空間18に配設されている。
【0072】
(5)下部主軸受
下部主軸受60は、駆動モータ16の下方の下部空間に配設されている。この下部主軸受60は、胴部ケーシング部11に固定されるとともにクランク軸17の下端側軸受を構成し、クランク軸17を支持している。
【0073】
(6)吸入管
吸入管19は、冷媒回路の冷媒をスクロール圧縮機構15に導くためのものであって、ケーシング10の上壁部12に気密状に嵌入されている。吸入管19は、低圧空間29を上下方向に貫通すると共に、内端部が固定スクロール24に嵌入されている。
【0074】
(7)吐出管
吐出管20は、ケーシング10内の冷媒をケーシング10外に吐出させるためのものであって、ケーシング10の胴部ケーシング部11に気密状に嵌入されている。そして、この吐出管20は、胴体内面から中心に下方に向かって突き出した位置で開口されている。
【0075】
<実施形態の特徴>
(1)
実施形態のスクロール圧縮機1では、可動スクロール26のラップ26bの巻始め26bsから中間部26bmにかけての区間のみに限定してインボリュートの基礎円半径を小さくして(すなわち、歯厚を小さくして)スクロール圧縮機構15の小型化を達成している。それとともに、それ以外の中間部26bmから巻終り26beにかけての区間では、インボリュートの基礎円半径大きくすることにより、巻終り26beの歯厚を確保して巻終り26beの強度の向上を図ることが可能である。
【0076】
(2)
したがって、実施形態のスクロール圧縮機1では、可動スクロール26の遠心力が高回転運転時に大きくなり、可動スクロール26と固定スクロール24との接触が生じる場合に、ラップ26bの巻終り26beに大きな遠心力が作用しても、ラップの巻終り26beの強度が十分あるので、ラップ26bの割れなどの不具合を解消することができる。その結果、ラップ26bの巻終り26beの強度を向上することができ、しかもスクロール圧縮機構15の小型化を達成できる。
【0077】
(3)
いいかえれば、実施形態のスクロール圧縮機1では、可動スクロール26のラップ26bの強度を向上し、割れにくいラップ26bとするとともに、スクロール圧縮機構15の小型化を図り、性能向上を図るラップ26bとしており、結果として、ラップ26bの形状によってラップ26bの強度向上を達成している。
【0078】
ラップ26bの巻始め26bsから中間部26bmにかけては巻角θが大きくなるに従いインボリュートの基礎円半径が小さく(歯厚が小さくなる)ラップ26bとすることにより、スクロール圧縮機構15の小型化を図っている。
【0079】
そして、スクロール圧縮機1では構造上固有の圧縮比を持つため、高圧縮比運転時などで大きな荷重が作用してもラップ26bの巻始め26bsで割れが発生しないようにすることが可能であり、しかも、スクロール圧縮機構15の小型化を図ることができる。
【0080】
さらに、ラップ26b中間部26bmから巻終り26beにかけて、ラップ26b巻角θが大きくなるに従い、インボリュートの基礎円半径が大きくなる(歯厚が厚くなる)ラップ26bとしている。これにより、ラップ26b巻終り26beの歯厚を厚くし、巻終り26beの強度を向上している。
【0081】
(4)
また、実施形態のスクロール圧縮機1では、ラップ26bの中間部26bmは、ラップ26b全体のうち、巻始め26bsからラップ1/2巻き分と巻終り26beからラップ1/2巻き分を除いた範囲(斜線部の範囲)であるので、スクロール圧縮機構15の小型化および巻終り26beの強度の向上を両方とも確実に達成することが可能である。
【0082】
(5)
また、実施形態のスクロール圧縮機1では、図2に示されるように、ラップ26bは、ラップ26bの中間部26bmから巻終り26beの区間S2では、ラップ26bの内側のインボリュートの基礎円半径R2が小さくなり、一方、ラップ26bの外側のインボリュートの基礎円半径R2が大きくなっているので、スクロール圧縮機構15の小型化および巻終り26beの強度の向上を達成できる。
【0083】
(6)
すなわち、ラップ26bの中間部26bmから巻終り26beにかけて可動スクロール26の内側インボリュート曲線部分は基礎円半径が小さくなるラップ26bとし、外側インボリュート曲線部分は基礎円半径が大きくなるようにしており、その結果、内側インボリュート曲線部分でスクロール圧縮機構15の小型化を図ることが可能である。
【0084】
(7)
また、実施形態のスクロール圧縮機1では、ラップ26bは、ラップ26bの巻終り26beにおいて、ラップ26bの内側のインボリュート終点の巻角θ2よりもラップ26bの外側のインボリュート終点の巻角θ1を小さくした形状である。
【0085】
これにより、固定スクロール24のラップ24b最外周の剛性が高い部分と接触し、かつ片持ち構造となる可動スクロール26のラップ26b終端に延伸部分を設けることで、ラップ26bの巻終り26beにおいてラップ26bが両持ちで支持されるので、ラップ26bの巻終り26beの根元に発生する応力を緩和することができる。このため、可動スクロール26のラップ26bの巻終り26beの根元部に発生する応力を緩和することができる。その結果、ラップ26bの巻終り26beの強度向上を図ることができる。
【0086】
しかも、可動スクロール26内側ラップ26bで形成される圧縮室40の組込み圧縮比を大きくし、内側の圧縮室と外側の圧縮室との圧力差を小さくすることができるため、漏れ損失を小さくして、効率の向上を図ることができる。
【0087】
(8)
また、実施形態のスクロール圧縮機1では、可動スクロール26の鏡板のラップ26bが形成された側と反対側の面には、キー溝26dを避けた位置に複数の座ぐり部61が形成されている。これにより、可動スクロール26を軽量化することが可能である。
【0088】
しかも、上述のように可動スクロール26のラップ26bの巻終り26be側を厚くすることで、可動スクロール26の重量が大きくなり、遠心力は増大するが、遠心力を小さくするために、座ぐり部61を形成することにより、軽量化を図ることが可能である。
【0089】
(9)
また、実施形態のスクロール圧縮機1では、可動スクロール26のラップ26bの巻終り26beから1巻き分の範囲における可動スクロール26のラップ26b外周面26b1と固定スクロール24の内周面24b2との半径方向隙間δ1は、巻始め26bs付近における半径方向隙間δ2より大きくなっている。
【0090】
(10)
また、実施形態のスクロール圧縮機1では、可動スクロール26のラップ26bの巻終り26beから1巻き分の範囲における可動スクロール26のラップ26bの外周面26b1と固定スクロール24のラップ24bの内周面24b2との半径方向隙間δは、以下の(式3)の範囲にあるように設定されている。
【0091】
ここで、図7に示されるように、
L:固定スクロール24の溝24fの幅、
T:可動スクロール26のラップ26bの歯厚、
D:可動スクロール26の旋回半径、
P:可動スクロール26のボス26cと、それに連結するクランク軸17のピン軸部17aとの間のピン軸受隙間、
M:クランク軸17と、それを支持する主軸受、すなわちハウジング23の軸受メタル34との間の主軸受隙間として、
半径方向隙間δは、
(L−T−D×2)≦δ≦(L−T−D×2+P+M) (式3)
の範囲にあるように設定されている。
【0092】
このように半径方向隙間δを設定することにより、ラップ間の隙間を0以上確実に確保することが可能であり、接触荷重を確実に緩和することが可能である。
【0093】
いいかえれば、可動スクロール26のラップ26bの巻終り26be側と固定スクロール24のラップ24bの剛性の高い部分(すなわち厚肉部分)との接触荷重を緩和することが可能である。
【0094】
ここで、上述の(L−T−D×2)で示される隙間の広さは、理想状態の場合には、その隙間は0になるが、これに対し、加工誤差、組立誤差により可動スクロール26のラップ26bと固定スクロール24のラップ24bとが互いに接触する場合、すなわち、隙間が0以下の場合は、ラップ26bは、ピン軸受隙間および主軸受隙間の分だけ逃げることになる。
【0095】
一方、ラップ26bの半径方向隙間δを大きくしすぎると、半径方向隙間δからの圧縮室40から圧縮ガスの漏れが大きくなり、圧縮機の性能低下を招く。このため、性能低下を抑制するためには、適切な半径方向隙間δの設定が必要となる。半径方向隙間δは、理想的には0が望ましいが、実際の製造では0〜50ミクロン程度になっている。
【0096】
そこで、本実施形態では、少なくともラップ24b、26b同士が接触するシールポイントにおける半径方向隙間δをおおよそ0になるように設定し、性能低下を抑制するために、ピン軸受隙間および主軸受隙間の分を最大とする逃げ量以下の半径方向隙間δを設定しているので、上述のように、ラップ間の隙間は0以上確実に確保することが可能である。
【0097】
これにより、可動スクロール26のラップ26bの巻終り26beにおける固定スクロール24のラップ24bの巻終り付近の剛性の高い部分(すなわち厚肉部分)との接触時に受ける接触荷重を緩和することが可能である。
【0098】
<実施形態の変形例>
(A)
上記実施形態のスクロール圧縮機1では、可動スクロール26のラップ26bが、その中間部26bmから巻終り26beにかけての区間では、巻角θが大きくなるに従いインボリュートの基礎円半径が大きくなっているが、巻き始め26bsから中間部26bmにかけての区間におけるインボリュートの基礎円半径の最小値よりも、インボリュートの基礎円半径が大きい渦巻き形状であってもよい。この場合も、ラップ26bの巻終り26beの強度が向上するとともに圧縮機構の小型化を達成することが可能である。
【0099】
(B)
上記実施形態のスクロール圧縮機1では、可動スクロール26のラップ26bが、その中間部26bmから巻終り26beにかけての区間では、巻角θが大きくなるに従いインボリュートの基礎円半径が大きくなっているが、巻角θが大きくなるに従い、ラップの内側のインボリュートの基礎円半径が小さくなると共にラップの外側のインボリュートの基礎円半径が大きくなるかまたは一定になる渦巻き形状であってもよく、巻角が大きくなるに従い、ラップの内側のインボリュートの基礎円半径が一定になると共にラップの外側のインボリュートの基礎円半径が大きくなるかまたは一定になる渦巻き形状であってもよい。この場合も、ラップ26bの巻終り26beの強度が向上するとともに圧縮機構の小型化を達成することが可能である。
【0100】
(C)
上記実施形態のスクロール圧縮機1では、可動スクロール26のラップ26bが、その中間部26bmから巻終り26beにかけての区間では巻角θが大きくなるに従いインボリュートの基礎円半径が大きくなっているが、ラップ26bの中間部26bmから巻終り26beにかけての区間では巻角θが大きくなるに従い、ラップ26bの内側のインボリュートの基礎円半径が小さくなり、一方、ラップ26bの外側のインボリュートの基礎円半径が大きくなるか一定になっていてもよい。この場合も、ラップ26bの巻終り26beの強度が向上するとともに圧縮機構の小型化を達成することが可能である。
【0101】
(D)
上記実施形態のスクロール圧縮機1では、インボリュートの基礎円半径がR2<R3<R1の関係になり、歯厚がt2<t3<t1の関係になっているが、インボリュートの基礎円半径がR2<R1<R3の関係になり、歯厚がt2<t1<t3の関係になっていてもよい。この場合も、ラップ26bの巻終り26beの強度が向上するとともに圧縮機構の小型化を達成することが可能である。
【0102】
(E)
上記実施形態のスクロール圧縮機1では、ラップ26bの中間部26bmは、内側端部26bm1から外側端部26bm2までの範囲であるが、より狭い範囲であってもよい。例えば、内側端部26bm1は、インボリュート始点からインボリュート終点に向かって、インボリュート曲線に沿って1/2〜1回転の範囲内の任意の値だけ進んだポイントであってもよく、外側中間ポイントは、インボリュート終点からインボリュート始点に向かって、インボリュート曲線に沿って1/2〜1回転の範囲内の任意の値だけ進んだポイントであってもよい。この場合も、ラップ26bの巻終り26beの強度が向上するとともに圧縮機構の小型化を達成することが可能である。
【0103】
(F)
上記実施形態のスクロール圧縮機1では、図9に示されるように、圧縮室形成ポイント26i3は、ラップ26bの外側のインボリュート終点26i2とは異なるポイントであるが、圧縮室形成ポイント26i3が、ラップ26bの外側のインボリュート終点26i2と同じポイントであってもよい。本変形例では、図10に示されるように、圧縮室形成ポイント26i3とラップ26bの巻終り26beとの間の区間であって、圧縮室の形成に関係しない区間は、インボリュート形状でなくてもよい。この場合も、ラップ26bの巻終り26beの強度が向上するとともに圧縮機構の小型化を達成することが可能である。
【0104】
(G)
上記実施形態では、可動スクロール26のラップ26bの形状を変更することにより、ラップ26bの巻終り26beの強度が向上するとともに圧縮機構の小型化を達成しているが、固定スクロール24のラップ24bの形状を上記実施形態のように変更してもよい。この場合も固定スクロール24のラップ24bの巻終りの強度が向上するとともに圧縮機構の小型化を達成することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明は、スクロール圧縮機であれば広く適用することが可能であり、ラップの強度向上と圧縮機構の小型を両方達成することができる。
【符号の説明】
【0106】
1 スクロール圧縮機
24 固定スクロール
24a 鏡板
24b ラップ
26 可動スクロール
26a 鏡板
26b ラップ
26bm1 内側中間ポイント(内側端部)
26bm2 外側中間ポイント(外側端部)
40 圧縮室
40z 最外圧縮室
【先行技術文献】
【特許文献】
【0107】
【特許文献1】特公平5−29796号公報
【特許文献2】特開2000−179478号公報
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれの鏡板(24a、26a)の一方の面に螺旋状のラップ(24b、26b)が設けられた固定スクロール(24)および可動スクロール(26)を備え、
前記固定スクロール(24)の前記ラップ(24b)と前記可動スクロール(26)の前記ラップ(26b)は、互いに組み合わされることにより、隣接する前記固定スクロール(24)の前記ラップ(24b)と前記可動スクロール(26)の前記ラップ(26b)との間に圧縮室(40)を形成し、
前記固定スクロール(24)または前記可動スクロール(26)のうちの少なくともいずれか一方の前記ラップ(24b、26b)は、前記ラップ(24b、26b)の巻き始めから中間部にかけての区間では、巻角が大きくなるに従い前記ラップ(24b、26b)の内側および外側のインボリュートの基礎円半径が小さくなる渦巻き形状であり、かつ、前記ラップ(24b、26b)の中間部から巻終りにかけての区間では、巻角が大きくなるに従い前記ラップ(24b、26b)の内側のインボリュートの基礎円半径が小さくなり前記ラップ(24b、26b)の外側のインボリュートの基礎円半径が大きくなるかまたは一定になる渦巻き形状であるか、または、巻角が大きくなるに従い前記ラップ(24b、26b)の内側のインボリュートの基礎円半径が一定になり前記ラップ(24b、26b)の外側のインボリュートの基礎円半径が大きくなる渦巻き形状である構成により、前記ラップ(24b、26b)の巻き始め付近における歯厚t1と、前記ラップ(24b、26b)の中間部における歯厚t2と、前記ラップ(24b、26b)の巻終り付近における歯厚t3とが、t2<t3<t1またはt2<t1<t3の関係を満たし、
前記ラップ(24b、26b)は、前記鏡板(24a、26a)の径方向の最も外側に位置する圧縮室である最外圧縮室(40z)を形成し、かつ、前記ラップ(24b、26b)の外側のインボリュートに含まれ、かつ、前記ラップ(24b、26b)の外側のインボリュート終点に最も近いポイントである圧縮室形成ポイントの巻角が、前記ラップ(24b、26b)の内側のインボリュート終点の巻角よりも小さい渦巻き形状である構成により、前記可動スクロール(26)の前記ラップ(26b)の巻終りが両持ちで支持され、かつ、吸入完了時の前記可動スクロール(26)の前記ラップ(26b)の外側の圧縮室(40a1)と吐出直前の前記可動スクロール(26)の前記ラップ(26b)の外側の圧縮室(40a1)との容積比と、吸入完了時の前記可動スクロール(26)の前記ラップ(26b)の内側の圧縮室(40b1)と吐出直前の前記可動スクロール(26)の前記ラップ(26b)の内側の圧縮室(40b1)との容積比との差が小さくなり、これにより、前記可動スクロール(26)の前記ラップ(26b)の内側の圧縮室(40b1)と、前記可動スクロール(26)の前記ラップ(26b)の外側の圧縮室(40a1)との圧力差が小さく、そのために漏れ損失が小さく、
前記ラップ(24b、26b)の中間部は、前記ラップ(24b、26b)の外側のインボリュート始点から前記ラップ(24b、26b)の外側のインボリュート終点に向かってラップ1/2〜1巻き分だけ離れた位置にある内側中間ポイント(26bm1)から、前記ラップ(24b、26b)の外側のインボリュート終点から前記ラップ(24b、26b)の外側のインボリュート始点に向かってラップ1/2〜1巻き分だけ離れた位置にある外側中間ポイント(26bm2)までの範囲である、
スクロール圧縮機(1)。
【請求項2】
前記可動スクロール(26)の前記鏡板(26a)の面であって、前記ラップ(26b)が設けられている面の反対側の面に座ぐり部が形成されている、
請求項1に記載のスクロール圧縮機(1)。
【請求項3】
前記可動スクロール(26)の前記ラップ(26b)の巻終りから1巻き分の範囲における前記可動スクロール(26)の前記ラップ(26b)外周面と前記固定スクロール(24)の前記ラップ(24b)の内周面との間の半径方向隙間は、巻き始め付近における半径方向隙間より大きい、
請求項1または2に記載のスクロール圧縮機(1)。
【請求項4】
前記可動スクロール(26)の前記ラップ(26b)の巻終りから1巻き分の範囲における前記可動スクロール(26)の前記ラップ(26b)の外周面と前記固定スクロール(24)の前記ラップ(24b)の内周面との間の半径方向隙間δは、
前記固定スクロールの溝幅L、
前記可動スクロールの歯厚T、
前記可動スクロールの旋回半径D、
前記可動スクロールのボスとそれに連結するクランク軸のピン軸部との間のピン軸受隙間P、
前記クランク軸とそれを支持する主軸受との間の主軸受隙間Mとした場合に、
(L−T−D×2)≦δ≦(L−T−D×2+P+M)の範囲にある、
請求項3に記載のスクロール圧縮機(1)。
【請求項1】
それぞれの鏡板(24a、26a)の一方の面に螺旋状のラップ(24b、26b)が設けられた固定スクロール(24)および可動スクロール(26)を備え、
前記固定スクロール(24)の前記ラップ(24b)と前記可動スクロール(26)の前記ラップ(26b)は、互いに組み合わされることにより、隣接する前記固定スクロール(24)の前記ラップ(24b)と前記可動スクロール(26)の前記ラップ(26b)との間に圧縮室(40)を形成し、
前記固定スクロール(24)または前記可動スクロール(26)のうちの少なくともいずれか一方の前記ラップ(24b、26b)は、前記ラップ(24b、26b)の巻き始めから中間部にかけての区間では、巻角が大きくなるに従い前記ラップ(24b、26b)の内側および外側のインボリュートの基礎円半径が小さくなる渦巻き形状であり、かつ、前記ラップ(24b、26b)の中間部から巻終りにかけての区間では、巻角が大きくなるに従い前記ラップ(24b、26b)の内側のインボリュートの基礎円半径が小さくなり前記ラップ(24b、26b)の外側のインボリュートの基礎円半径が大きくなるかまたは一定になる渦巻き形状であるか、または、巻角が大きくなるに従い前記ラップ(24b、26b)の内側のインボリュートの基礎円半径が一定になり前記ラップ(24b、26b)の外側のインボリュートの基礎円半径が大きくなる渦巻き形状である構成により、前記ラップ(24b、26b)の巻き始め付近における歯厚t1と、前記ラップ(24b、26b)の中間部における歯厚t2と、前記ラップ(24b、26b)の巻終り付近における歯厚t3とが、t2<t3<t1またはt2<t1<t3の関係を満たし、
前記ラップ(24b、26b)は、前記鏡板(24a、26a)の径方向の最も外側に位置する圧縮室である最外圧縮室(40z)を形成し、かつ、前記ラップ(24b、26b)の外側のインボリュートに含まれ、かつ、前記ラップ(24b、26b)の外側のインボリュート終点に最も近いポイントである圧縮室形成ポイントの巻角が、前記ラップ(24b、26b)の内側のインボリュート終点の巻角よりも小さい渦巻き形状である構成により、前記可動スクロール(26)の前記ラップ(26b)の巻終りが両持ちで支持され、かつ、吸入完了時の前記可動スクロール(26)の前記ラップ(26b)の外側の圧縮室(40a1)と吐出直前の前記可動スクロール(26)の前記ラップ(26b)の外側の圧縮室(40a1)との容積比と、吸入完了時の前記可動スクロール(26)の前記ラップ(26b)の内側の圧縮室(40b1)と吐出直前の前記可動スクロール(26)の前記ラップ(26b)の内側の圧縮室(40b1)との容積比との差が小さくなり、これにより、前記可動スクロール(26)の前記ラップ(26b)の内側の圧縮室(40b1)と、前記可動スクロール(26)の前記ラップ(26b)の外側の圧縮室(40a1)との圧力差が小さく、そのために漏れ損失が小さく、
前記ラップ(24b、26b)の中間部は、前記ラップ(24b、26b)の外側のインボリュート始点から前記ラップ(24b、26b)の外側のインボリュート終点に向かってラップ1/2〜1巻き分だけ離れた位置にある内側中間ポイント(26bm1)から、前記ラップ(24b、26b)の外側のインボリュート終点から前記ラップ(24b、26b)の外側のインボリュート始点に向かってラップ1/2〜1巻き分だけ離れた位置にある外側中間ポイント(26bm2)までの範囲である、
スクロール圧縮機(1)。
【請求項2】
前記可動スクロール(26)の前記鏡板(26a)の面であって、前記ラップ(26b)が設けられている面の反対側の面に座ぐり部が形成されている、
請求項1に記載のスクロール圧縮機(1)。
【請求項3】
前記可動スクロール(26)の前記ラップ(26b)の巻終りから1巻き分の範囲における前記可動スクロール(26)の前記ラップ(26b)外周面と前記固定スクロール(24)の前記ラップ(24b)の内周面との間の半径方向隙間は、巻き始め付近における半径方向隙間より大きい、
請求項1または2に記載のスクロール圧縮機(1)。
【請求項4】
前記可動スクロール(26)の前記ラップ(26b)の巻終りから1巻き分の範囲における前記可動スクロール(26)の前記ラップ(26b)の外周面と前記固定スクロール(24)の前記ラップ(24b)の内周面との間の半径方向隙間δは、
前記固定スクロールの溝幅L、
前記可動スクロールの歯厚T、
前記可動スクロールの旋回半径D、
前記可動スクロールのボスとそれに連結するクランク軸のピン軸部との間のピン軸受隙間P、
前記クランク軸とそれを支持する主軸受との間の主軸受隙間Mとした場合に、
(L−T−D×2)≦δ≦(L−T−D×2+P+M)の範囲にある、
請求項3に記載のスクロール圧縮機(1)。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−15147(P2013−15147A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−233274(P2012−233274)
【出願日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【分割の表示】特願2011−8663(P2011−8663)の分割
【原出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【分割の表示】特願2011−8663(P2011−8663)の分割
【原出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】
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