説明

スケール付着防止剤の塗布方法

【課題】オレフィン系単量体、特に、塩化ビニルの重合において、長期間の連続運転を可能にする、重合反応器内部表面のスケール付着防止方法を提供すること。
【解決手段】(1)重合反応器内にスケール付着防止剤を攪拌下に噴霧し、該重合反応器内壁に沿って上昇流を、また重合反応器中心部に下降流を生起させることにより、重合反応器内でスケール付着防止剤を循環させ、重合反応器内部表面にスケール付着防止剤を塗布することを特徴とするスケール付着防止剤の塗布方法、(2)攪拌を重合反応器の撹拌機により行う上記1記載のスケール付着防止剤の塗布方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合反応器内壁へのスケール付着防止剤の塗布方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、オレフィン系単量体の重合方法としては、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法、気相重合法、塊状重合法等が知られているが、これらの重合法においては、いずれの場合にも、重合反応器内部表面に重合体スケールの付着が生起し易い。
重合体スケールが重合反応器内部表面に付着すると、重合体の収率、重合反応器冷却能力等が低下するばかりでなく、この重合体スケールが剥離して重合体中に混入する結果、重合体から得られる生成物の品位が低下する問題が発生する。
そのため、重合反応器内部に付着した重合体スケールを除去することが必要になるが、この除去方法としては、重合反応器に人が入って付着物を取り除くか又は重合反応器のマンホールを開放し、高圧水ジェット洗浄装置を使用して付着した重合物にジェット水流を当てて取り除く方法等が考えられる。
しかし、これらの除去方法については、過大な労力と時間を要するのみならず、この重合体スケール中には未反応の単量体が含まれているため人体障害の危険性があるから、スケール除去作業を如何に少なくするかが重要な課題となっている。
【0003】
このため、従来から、重合反応器内部表面の重合体スケールの付着を防止する方法として、重合体スケール付着防止剤の皮膜を重合反応器内部表面に形成する方法が知られている。
例えば、重合反応器内上部に設けた液体−気体の流体噴霧ノズルより、単量体もしくは重合体が接触する器壁、管壁、その他の装置部表面に、あらかじめスケール付着防止剤を噴霧してスケール付着防止塗膜を形成した後、このノズルより注水しながら重合を行うことを特徴とする重合反応器内壁等へのスケール付着防止法(特許文献1)、フイルムの形でポリマービルドアップを防止することのできるコーティング物質のコーティング溶液を作成すること、上記コーティング物質のためのキャリアーとして作用する塩化ビニルのガスの上記コーティング溶液に対する作用によって重合反応器の表面に上記コーティング物質を適用すること、及びついで上記重合反応器のコーティングされた内部表面と常に接触させながらモノマーの重合を行うことを含む、重合反応器の内部表面上のポリマービルドアップを実質的に排除する方法(特許文献2)、等がある。
【0004】
しかし、上述した従来方法のように、スプレー方式でスケール付着防止剤の塗布を行う方法では、例えば容積が80m以上の大型重合反応器の内壁面にスケール付着防止剤皮膜を均一に形成することが困難である。即ち、スケール付着防止剤を噴霧するためのスプレーノズルは、一般的に重合反応器上部に設置されるが、重合反応器が大型になるほど、該ノズルと重合反応器の底部との距離が長くなるため、スケール付着防止剤塗布液の液滴を十分な量だけ重合反応器底部に運ぶことが難しく、この結果として、スケール付着防止剤皮膜を重合反応器内壁に均一に形成することが困難となっているのである。
このような傾向は、閉鎖された重合系において一層顕著である。例えば、閉鎖されている重合反応器内で、スプレーノズルを用いて噴霧を行った場合、重合反応器の下部に器内ガスの滞留を生じ、重合反応器下部までのガスの流れが生じにくくなる。このために、重合反応器内壁面の下部に十分な量のスケール付着防止剤を塗布することが一層困難となっており、これらの部分へのスケール付着の発生を有効に防止することが出来ないという欠点があった。
そこで、このような欠点を解消するための方法として、閉鎖された重合反応器の上部からスケール付着防止剤を含有する塗布液を噴霧すると同時に、重合反応器底部より器内ガスの吸引を行い、余剰の塗布液を排出して重合反応器内壁にスケール付着防止剤皮膜を生成する方法(特許文献3)が開発されている。
【0005】
【特許文献1】特公平1−31522号公報
【特許文献2】特公平1−38544号公報
【特許文献3】特開平7−126305号公報
【0006】
しかしながら、上記の方法は、重合反応器底部より器内ガスの吸引を行いながら、スケール付着防止剤皮膜を形成する方法であるので、どうしてもスケール付着防止剤が排出ガスに同伴して排出されるため、スケール付着防止剤の無駄が避けられない点で、十分なものとはいえない。
そして、近年のスケール付着防止剤の性能向上には目を見張るものがあるが、その塗布方法については問題がある。即ち、精々100バッチ良くて300バッチの繰返し重合後には、反応器に人が入って付着物を取り除くか、又は重合反応器のマンホールを開放して、高圧水ジェット洗浄装置により、付着した重合物を除去する等の作業をしなくてはならない。
従って、長期間の連続運転、例えば、一年間以上あるいは1000バッチ以上の重合後であっても、付着による生産停止の必要のない、重合反応器内部表面のスケール付着防止技術の開発が待たれている。
特に、塩化ビニル系モノマーの重合の場合、塩化ビニルモノマーは有害であり、大気中に放出される量を削減する取り組みがなされているだけに、上記の課題は重要なテーマである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、オレフィン系単量体、特に、塩化ビニルの重合において、長期間の連続運転を可能にする、重合反応器内部表面のスケール付着防止剤の塗布方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意研究を重ねたところ、オレフィン系単量体、特に、塩化ビニルの重合反応器内部表面にスケール付着防止剤の皮膜を形成する場合、単にスケール付着防止剤を散布したのでは、スケール付着防止剤が器内全体に十分に行き渡らないが、該スケール付着防止剤を噴霧して、2つのガス流(上昇流と下降流)を生起させ、スケール付着防止剤を器内で循環させれば、該反応器内部表面にスケール付着防止剤の皮膜を均一に形成し得ることを知り、更に研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、以下の発明から構成されるものである。
1 重合反応器内にスケール付着防止剤を攪拌下に噴霧し、該重合反応器内壁に沿って上昇流を、また重合反応器中心部に下降流を生起させることにより、重合反応器内でスケール付着防止剤を循環させ、重合反応器内部表面にスケール付着防止剤を塗布することを特徴とするスケール付着防止剤の塗布方法。
2 攪拌が、重合反応器の撹拌機により行うものである上記1記載のスケール付着防止剤の塗布方法。
3 重合反応器の内部表面近傍におけるスケール付着防止剤の流れを、鉛直方向の上昇流と水平方向の水平流に分解したとき、上昇流および水平流がそれぞれ下記式(1)及び(2)を満足するものである上記1又は2記載のスケール付着防止剤の塗布方法。
上昇流 1≦u×t/L≦80 (1)
水平流 3≦uH ×tH /LH ≦240 (2)
ただし、上記式中、
:上昇流の平均流速(0.3〜2m/秒)
:上昇流を与える時間(秒)
:重合反応器をその鉛直軸を通る鉛直平面で切断したときの断面内周(m)
H:水平流の平均流速(0.8〜5m/秒)
H:水平流を与える時間(秒)
H:重合反応器を水平平面で切断したときの断面内周(m)
4 重合反応器内の気体重量に占めるスケール付着防止剤の重量が0.05〜0.15%である上記1、2又は3記載のスケール付着防止剤の塗布方法。
なお、本発明にいう重合反応器断面内周は、重合反応器の縦、横、高さ等の寸法から算出される値であり、該重合反応器の内壁や付属装置(バッフル、バッフルサポート、撹拌翼、撹拌翼軸、温度計、レベル計、内装配管等)によって形成される凹凸を無視したものである。例えば、重合反応器が上下に半球状の蓋部(鏡部という)を有する円筒形状の場合には、重合反応器断面内周は以下の方法により求めることができる。
(1)重合反応器 鉛直断面内周(Lv)
Lv=H+L+2/4×c
H:重合反応器 高さ
L:重合反応器 直胴長さ
c:重合反応器 鏡部1:2楕円周長さ
c=2×π×√{(a+b)÷2}
(a:楕円長軸長さ、b:短軸長さ)
(2)重合反応器 水平断面内周(Lh)
Lh=π×D
D:重合反応器 直径
【0010】
本発明の重合反応器内部表面のスケール付着防止方法は、重合反応器の上部からスケール付着防止剤を撹拌下に噴霧させて、該反応器内壁に沿ってガス上昇流を、反応器中心部にガス下降流を、それぞれ生起させることにより、重合反応器内でスケール付着防止剤を循環させ、重合反応器内部表面にスケール付着防止剤を塗布することを特徴とするものである。
本発明によれば、重合反応器内壁や付属装置等の表面をスケール付着防止剤で均一に被覆し得るため、長時間の連続運転が可能となり、その効果は大である。
【0011】
本発明は、以下の知見に基づいてなされたものである。
(1)重合反応器内部表面にスケール付着防止剤を塗布する場合、単にスケール付着防止剤を散布したのでは、該反応器内部に装入するスケール付着防止剤含有液の初速度だけでは、該スケール付着防止剤が全体に充分行き渡らないので、スケール付着防止剤を均一に塗布することはできない。
(2)そこで、スケール付着防止剤を装置内に上昇または下降するガス流として、均一散布しようとすることも考えられるが、その場合、スケール付着防止剤散布の所要時間を長くするか又はスケール付着防止剤を多量に使用する必要が出てくる。
(3)ところが、重合反応器内にスケール付着防止剤を攪拌下に噴霧させて、2つのガス流、即ち、重合反応器内壁に沿ってガス上昇流を、重合反応器の中心部にガス下降流をそれぞれ生起させて、スケール付着防止剤を重合反応器内で循環すれば、該ガス流に同伴したスケール付着防止剤が、短時間に均一に、重合反応器内部表面に塗布されることをつきとめた。
上記の撹拌手段としては、重合反応器に付属設置された撹拌機を使用することが本発明において好ましい実施態様である。
【0012】
このように、本発明では、重合反応器内部表面に、スケール付着防止剤を効率的に均一に塗布することができるが、その理由は、以下の通りである。
(1)撹拌翼による重合反応器内のガス流動は、元来、塩化ビニル系樹脂製造に適した撹拌条件(構造物による撹拌流動をも考慮した流動解析の結果が撹拌翼、バッフル等の諸条件を加味して設計されたもの)を設定したものであることから、流体が液からガスに変わっても反応器内の隅々まで、反応機内をガスが循環すると考えられる。
(2)2つのガス流(上昇流と下降流)が自然に形成されるのは、上昇流と下降流との間に仮想境界が形成されるためであると推察される。
何れにしても、本発明の特徴は、重合反応器内に霧状(平均粒径10〜200μmと推定される)のスケール付着防止剤を撹拌下装入して、反応器内に上昇するガス流及び下降するガス流を作ることにより、スケール付着防止剤を重合反応器内で循環させて、重合反応器内部表面にスケール付着防止剤を均一に塗布した点にあり、そのための手段として、重合反応器に付設した撹拌翼をそのまま利用できる点において、簡便であり、経済的であるとともに、本発明によれば、長時間の連続運転が可能となる。
【0013】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の重合反応器内部表面のスケール付着防止方法は、重合反応器の上部からスケール付着防止剤を攪拌下に噴霧し、該重合反応器内壁に沿って上昇流を、重合反応器中心部に下降流を生起させることにより、重合反応器内でスケール付着防止剤を循環させ、重合反応器内部表面にスケール付着防止剤を均一に塗布することを特徴とするものである。
【0014】
そこで、上記の本発明の構成要件について、説明する。
(1)スケール付着防止剤
スケール付着防止剤は、通常のものが使用し得る。
スケール付着防止剤としては、例えば、ポリアミノベンゼン、多価フェノール、アミノフェノール、アルキル置換アミノフェノール、ジフェニルアミン又はアルキル置換ジフェノールアミンから選ばれた一種又は二種以上の化合物の縮合反応によって得られる他、芳香族アミン;レゾルシン、ヒドロキノン、カテコール又はフロログロシン等の多価フェノールの自己縮合物;又は多価ナフトールの自己縮合物等が用いられる。
スケール付着防止剤は、通常、適当な溶媒に溶解させた溶液または分散液からなる塗布液を調製して使用するのがよい。
上記の溶媒としては、例えばメタノール、エタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン類;N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒;フルフラール、テトラヒドロフラン等のエーテル類;エチレンジクロライド、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;水及びこれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0015】
(2)皮膜の形成
本発明のスケール付着防止剤の皮膜の形成は、重合反応器内にスケール付着防止剤を攪拌下に噴霧し、該重合反応器内壁に沿って上昇流を、また重合反応器中心部に下降流を生起させることにより、重合反応器内でスケール付着防止剤を循環させ、重合反応器内部表面にスケール付着防止剤を均一に塗布する点に特徴を有する。
本皮膜の形成法は、重合反応器の上部からスケール付着防止剤からなる塗布液を、撹拌下に噴霧することにより行うことが必須の要件であるが、その際の撹拌条件が重要であり、撹拌は、2種類のガス流、即ち、該反応器内壁に沿ってガス上昇流を、反応器中心部にガス下降流を、それぞれ生起させるとともに、重合反応器内でのスケール付着防止剤の循環を十分に行うものであることが必要がある。その結果、重合反応器の内部表面に均一な皮膜を形成することができる。
本皮膜の形成法は、重合反応器の大きさ等に影響を受けるので、撹拌は、以下の条件を満足するものを採用するのがよい。
重合反応器の内部表面近傍におけるスケール付着防止剤の流れを、鉛直方向の上昇流と水平方向の水平流に分解したとき、上昇流および水平流が、それぞれ下記式(1)及び(2)を満足するもの。
上昇流 1≦u×t/L≦80 (1)
好ましくは3〜60、更に好ましくは7〜50とするのがよい。
水平流 3≦uH ×tH /LH ≦240 (2)
好ましくは10〜200、更に好ましくは24〜180とするのがよい。
ただし、上記式中、
:上昇流の平均流速(0.3〜2m/秒)
:上昇流を与える時間(秒)
:重合反応器をその鉛直軸を通る鉛直平面で切断したときの断面内周(m)
H:水平流の平均流速(0.8〜5m/秒)
H:水平流を与える時間(秒)
H:重合反応器を水平平面で切断したときの断面内周(m)
蒸気のガス上昇流又はガス下降流のガス平均速度は、0.3〜2m/秒とするのが好ましい。
噴霧は、スプレーノズルから散布することにより実施し得るが、このためのスプレーノズルは、一流体ノズルや二流体ノズル等の公知のものでよく、また個数は1個に限定されず、複数個のノズルを設置することもできる。
スプレー塗布による条件としては、通常、スプレー圧力196〜1960KPa(ゲージ圧)、好ましくは294〜785KPa(ゲージ圧)とするのがよい。
スプレー用ガスとしては、水蒸気、空気、窒素、一酸化炭素、塩化ビニル等が用いられる。
重合反応器内の気体重量に占めるスケール付着防止剤の重量は、スケール付着防止剤の効果を十分に発揮させると共に無駄な使用とならないようにするために、一般には0.05〜0.15%とするのが好ましい。
撹拌は、特別な攪拌装置を用意するよりは、重合反応器に付設された撹拌機をそのまま用いるのが有利である。
【0016】
(3)重合方法
重合反応器内部表面にスケール付着防止剤の皮膜の形成を行った後、該反応器内に所定の重合成分を供給して、常法により重合を行うが、この際、該反応器内部表面に均一にスケール付着防止剤皮膜が形成されているため、反応器内部表面へのスケール付着が防止され、重合体品質や生産性の低下を回避することができる。
本発明方法は、オレフィン単量体の重合時におけるスケール付着の防止に適用されるが、重合方法としては、例えば、塩化ビニル等のハロゲン化ビニル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;アクリル酸、メタクリル酸、これらのエステル又は塩;マレイン酸、フマル酸、これらのエステル又は無水物;ブタジエン、クロロプレン、イソプレン等のジエン;塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン;ビニルエーテル;スチレン;アクリロニトリル等の重合方法に適用し得る。特に、塩化ビニル等の塩化ビニル系単量体の重合方法に最適である。
また、スケール付着防止剤皮膜によるスケール防止効果は、モノマー以外に添加される各種の重合成分、例えば、重合開始剤(触媒)、水等の分散媒、懸濁剤、固体分散剤、カチオン性、アニオン性等の液体分散剤、充填剤、可塑剤、安定剤、連鎖移動剤、pH調整剤等が存在していた場合においても、十分発揮される。
従って、重合形式も特に制限されず、懸濁重合、乳化重合、溶液重合、塊状重合等の何れにも本発明方法を適用して、所望のスケール防止効果を発現させることができる。
【発明の効果】
【0017】
(1)本発明によれば、重合反応器内部表面のスケール付着防止剤皮膜は均一に被覆されるので、長時間の連続運転が可能となり、一年間以上あるいは1000バッチ以上の重合後であっても、スケール付着による生産停止の必要がない。
(2)従来方法のスプレー方式でスケール付着防止剤の塗布を行う方法では、特別な工夫をしない限り(例えば、特許文献3参照)、容積が80m以上の大型重合反応器の内部表面にスケール付着防止剤皮膜を均一に形成することが困難であったが、本発明によれば、このような大型重合反応器を用いる場合においても、スケール付着防止剤皮膜を均一に形成することができる。
(3)本発明では、撹拌は必須であるが、その撹拌手段としては、例えば、重合反応器に付設された撹拌機をそのまま使用可能であるから有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、実施例等をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらのものに限定されない。
なお、以下の実施例および比較例において、ガス流速は以下の方法によって測定した。 直径4.2m、高さ8.4mの重合反応器のガス水平流、上昇流の測定にあたっては、日本カノマックス社製の風速計(MODEL6071)を用いて、重合反応器の内壁より500mm離れた重合反応器底部挿入の撹拌翼上部より3000mm上方の位置に、風速計センサーを取り付け固定し、鉛直中心線に並行して上昇するガス流速(上昇流)を、及び水平方向に旋回するガス流速(水平流)の風速を計測した。
重合反応器鉛直中心線まわりを下降する下降ガス流の測定は、上記風速計センサーを重合反応器上鏡部の中心位置ノズルから挿入し、上鏡部より3m下の位置に固定して計測した。下降するガス流速は、上記の方法で測定した上昇流と同じ値であった。
(実施例1)
懸濁重合法で塩化ビニル樹脂を回分式で重合する反応器(直径4.2m、長さ8.4m、上下鏡部1:2楕円、付属装置:内部ジャケット、ファウドラー後退翼、D型バッフル内臓、還流式熱交換器付属)を使用し、月間およそ200バッチの平均重合度1040のパイプ用PCVを製造するプロセスにおいて、重合反応器に塩化ビニルモノマー41.4m、脱塩水41.4m、分散剤A700ppm(対モノマー、ポリビニルアルコールケン化度80モル%)、分散剤B150ppm(対モノマー、ポリビニルアルコール、ケン化度35モル%)及び油溶性開始剤(有機過酸化物)600ppm(対モノマー)を添加して撹拌し、反応温度を57℃に調節しながら反応を進め、重合率25%に到達する前までに、重合反応器内の非凝縮ガス(主に窒素ガス)を還流熱交換器の頂部に設けたイナートガスベント弁を一定時間開けて、重合反応器及び還流熱交換器から系外へ移動させ、重合率が25%に到達した頃に、還流熱交換器のジャケットに冷却水を通し、冷却を開始させ、冷却開始50分後には、除熱量を5850MJ/Hrまで上昇させて反応を進めた。反応が進み、重合反応器圧力が637KPa(ゲージ圧)に到達したときに反応を打ち切り、重合反応器底に設置された重合スラリー抜き出し弁を開けてスラリーを脱ガス槽に取り出した後、反応器内の残圧を反応器気相部に設置したモノマー回収弁を開けて、重合反応器内圧力が39KPa(ゲージ圧)に達するまで未反応モノマーを回収した。回収途中、高圧水ジェット洗浄装置による反応器内のジェット洗浄を始め、ジェット洗浄後に次バッチの重合のために、スケール付着防止剤の散布を実施した。
スケール付着防止剤の散布は、はじめに反応器内の残液なしの確認からスタートし、噴霧媒体(蒸気)とスケール付着防止剤を装入する配管内を蒸気によるブローを行って、配管内のドレンを排出させた後、重合反応器撹拌翼電動機を始動させて、回転速度を30r/m(翼周速度=4m/秒)に調整し、次いで、スケール付着防止剤(多価フエノール縮合反応生成物)の噴霧を実施した。蒸気の圧力は490KPa(ゲージ圧)、流量は500kg/Hr、スケール付着防止剤は240kg/Hrの速度で蒸気配管内に装入した。重合反応器残留モノマーに対し0.14重量(%)の量が装入された時に散布を停止し、撹拌翼は噴霧開始より2分間経過した時に停止した。その後2分間の放置を経て反応器内を脱塩水により水洗し、排水した。この後、次バッチの仕込み、反応、スラリーのブローダウン、未反応モノマーの回収、ジェット洗浄を繰り返し行った。
バッチ重合操作を繰返しながら、高圧水ジェット洗浄により発生するドレンの排出時に、反応器内からスケールが取り出されるので、毎バッチあるいは日毎のスケール量の計測を行って、スケール付着防止剤散布効果を確認した。バッチ毎の平均スケール発生量は334グラムであった。1000バッチ以上(1年間)連続して生産が行えた。途中3ヶ月毎に、重合反応器内部を目視確認したが、重合反応器内局部にスケール発生はなく、バッフルの裏にこぶし大のスケールが観察されたのみであった。
【0019】
(実施例2)
撹拌翼をスケール付着防止剤の噴霧開始より5分経過した時に停止したこと以外は、実施例1と同様にして重合バッチを繰返し行い、バッチ毎の平均スケール量は63グラム、1000バッチ以上連続して生産が行えた。途中3ヶ月毎に、重合反応器内部を目視確認したが、重合反応器内局部にスケール発生はなく、バッフルの裏に僅かなスケールが観察されたに過ぎなかった。
【0020】
(実施例3)
スケール付着防止剤量を残留ガスに対し0.13重量(%)とし、散布中の撹拌翼回転数を80r/m、撹拌付与時間を3分間に変更して散布した以外は、実施例1と同様にして重合バッチを繰り返して行い、バッチ毎の平均スケール量は34グラム、1000バッチ以上連続して生産が行えた。途中3ヶ月毎に、重合反応器内部を目視確認したが、重合反応器内局部にスケール発生はなく、バッフルの裏に僅かなスケールが観察されたに過ぎなかった。
【0021】
(実施例4)
スケール付着防止剤量を残留ガスに対し0.07重量(%)とし、散布中の撹拌翼回転数を80r/m、撹拌付与時間を5分間に変更して散布した以外は、実施例1と同様にして重合バッチを繰り返して行い、バッチ毎の平均スケール量は22グラム、1000バッチ以上連続して生産が行えた。途中3ヶ月毎に、重合反応器内部を目視確認したが、重合反応器内局部にスケール発生はなく、バッフルの裏に僅かなスケールが観察されたに過ぎなかった。
【0022】
(実施例5)
スケール付着防止散布量を残留ガスに対し0.07重量(%)とし、散布中の撹拌翼回転数を80r/m、撹拌付与時間を15分間に変更して散布した以外は、実施例1と同様にして重合バッチを繰り返して行い、バッチ毎の平均スケール量は15グラム、1000バッチ以上連続して生産が行えた。途中3ヶ月毎に、重合反応器内部を目視確認したが、重合反応器内局部にスケール発生はなく、バッフルの裏に僅かなスケールが観察されたに過ぎなかった。
【0023】
(比較例1)
スケール付着防止剤を撹拌翼を回さないで噴霧し、スケール付着防止剤散布量を残量ガスに対して、0.13重量(%)として実施した以外は実施例1と同様にして重合バッチを繰り返して行い、バッチ毎の平均スケール量は833グラム、200バッチ連続して生産し終えた頃より、スケールの発生量が増えはじめ2000グラムを超えるために288バッチ生産し終えた後、生産を停止して、重合反応器内を目視確認したところ、局所にスケールの存在が認められ、バッフル裏にはスケールが多量に存在していた。3ケ月の連続生産には至らず、重合反応器内に人が入ってスケールの除去を2日間に渡って行った。
【0024】
【表1】

【0025】
表1の結果から、本発明の方法により、スケール付着防止剤を撹拌し、噴霧すると、優れたスケール付着防止効果が達成されることが解る。
【産業上の利用可能性】
【0026】
塩化ビニルモノマーの重合の場合、塩化ビニルモノマーは有害であり、大気中に放出される量を削減する取り組みがなされているだけに、本発明の重合反応器内部表面のスケール防止方法は、非常に有用な技術である。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合反応器内にスケール付着防止剤を攪拌下に噴霧し、該重合反応器内壁に沿って上昇流を、また重合反応器中心部に下降流を生起させることにより、重合反応器内でスケール付着防止剤を循環させ、重合反応器内部表面にスケール付着防止剤を塗布することを特徴とするスケール付着防止剤の塗布方法。
【請求項2】
攪拌が、重合反応器の撹拌機により行うものである請求項1記載のスケール付着防止剤の塗布方法。
【請求項3】
重合反応器の内部表面近傍におけるスケール付着防止剤の流れを、鉛直方向の上昇流と水平方向の水平流に分解したとき、上昇流および水平流がそれぞれ下記式(1)及び(2)を満足するものである請求項1又は2記載のスケール付着防止剤の塗布方法。
上昇流 1≦u×t/L≦80 (1)
水平流 3≦uH ×tH /LH ≦240 (2)
ただし、上記式中、
:上昇流の平均流速(0.3〜2m/秒)
:上昇流を与える時間(秒)
:重合反応器をその鉛直軸を通る鉛直平面で切断したときの断面内周(m)
H:水平流の平均流速(0.8〜5m/秒)
H:水平流を与える時間(秒)
H:重合反応器を水平平面で切断したときの断面内周(m)
【請求項4】
重合反応器内の気体重量に占めるスケール付着防止剤の重量が0.05〜0.15%である請求項1、2又は3記載のスケール付着防止剤の塗布方法。





【公開番号】特開2006−193689(P2006−193689A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−9075(P2005−9075)
【出願日】平成17年1月17日(2005.1.17)
【出願人】(597012286)新第一塩ビ株式会社 (9)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】