説明

スタフィロコッカス−アウレウスIsdたんぱく質ベースの抗感染薬

本発明は、スタフィロコッカス-アウレウス(S.アウレウス)鉄被調節型表面決定因子IsdA、IsdB、及びIsdCに作用する新規な抗感染剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その内容全体を引用をもってここに編入することとする、2004年10月25日出願の米国仮出願第 60/621,921号に基づく優先権を主張するものである。
【0002】
背景
鉄は大半の微生物の成長にとって絶対的な要件であり、例外として考えられるは乳酸桿菌 (Archibald (1983) FEMS Microbiol. Lett. 19:29-32) 及びボレリア-ブルグドーフェリ(原語:Borrelia burgdorferi (Posey and Gherardini
(2000) Science 288:1651-1653)である。鉄は、地殻で4番目に最も豊富な元素であるにも係わらず、しばしば成長を制限する栄養物質である。好気条件環境及び生理的pHでは、鉄は三価鉄 (Fe3+) 状態で存在し、不溶性の水酸化物及びオキシ水酸化物沈殿物を形成する。哺乳動物は、鉄を可溶化してホスト細胞に送達する役目をするトランスフェリン及びラクトフェリンなどの高親和性鉄結合糖たんぱく質を持つことにより、鉄の制限を克服する (Weinberg (1999) Emerg. Infect. Dis. 5:346-352)。この結果、細胞外の遊離鉄の制限が更に起きるため、ヒト身体中の遊離鉄の濃度は、生産的な細菌感染を支援するのに必要なそれよりも数オーダー低い濃度である10-18Mの濃度であると推定される (Braun et al., (1998) Bacterial iron transport:
mechanisms, genetics, and regulation, p. 67-145. In A. Sigel and H. Sigel (ed.), Metal Ions in Biological Systems,
vol. 35. Iron transport and storage in microorganisms, plants, and animals.
Marcel Dekker, Inc., New York)。鉄の隔絶は細菌感染に対する重要な生来的防御である (Skaar and
Schneewind (2004) Microbes and Infect. 6:390-397)。
【0003】
鉄制限を克服するために、細菌はこの必須栄養分を獲得する複数の異なる機序を進化させた。例えばパスツレラ科の仲間は、鉄負荷型のトランスフェリン及びラクトフェリンを認識する受容体を発現すると考えられる (Gray-Owen and Schryvers, (1996) Trends Microbiol. 4:185-91)。しかし最もよくある鉄獲得機序の一つは、シデロフォアと呼ばれる低分子量高親和性の鉄キレート物質と、三価鉄−シデロフォアの複合体を能動的に内部移行させる役目をするコグネート細胞エンベロープ受容体の利用を通じたものである。多くのシデロフォアはホストの鉄をめぐってトランスフェリン及びラクトフェリンと成功裏に競合することができる。実際、鉄−シデロフォアの取り込み系が発現することが、敗血性E.コリ(原語:E. coli )(Williams (1979)
Infect. Immun. 26:925-932)、ビブリオ-アンギラルム(原語:Vibrio anguillarum )(Crosa et
al. (1980) Infect. Immun. 27:897-902)、エルウィニア-クリサンセミ(原語:Erwinia chrysanthemi )(Enard et
al. (1988) J. Bacteriol. 170:2419-2426) 及びシュードモナス-アエルギノーサ(原語:Pseudomonas aeruginosa )(Meyer et
al. (1996) Infect. Immun. 64:518-523)などの細菌において重要な菌力因子である。
【0004】
スタフィロコッカス-アウレウス(原語:Staphylococcus aureus )(S. aureus)は、sstABCD (Morrissey et al. (2000)
Infect. Immun. 68:6281-6288)、sirABC (Heinrichs et al. (1999)
J. Bacteriol. 181:1436-1443) 、fhuCBG (Sebulsky et al. (2000) J. Bacteriol. 182:4394-4400)、及びsbn(Dale et
al., (2004) Infect. Immun. 72:29-37) オペロンにコードされたものを含め、いくつかの異なる鉄調節ABCトランスポータを持つ。このsst 及びsir 系については輸送される基質は未知であるが、 fhuCBG 遺伝子は、fhuD1 及びfhuD2 と協調して(Sebulsky and Heinrichs (2001) J. Bacteriol. 183:4994-5000)、鉄(III)-ヒドロキサメート複合体の獲得に関与する。多くのコアグラーゼ陰性スタフィロコッカス (CoNS) 及びS.アウレウスの株を含むスタフィロコッカスのいくつかの仲間がシデロフォアを産生する。これらのシデロフォアのうちの二つ、スタフィロフェリンA (Konetschny-Rapp et al.
(1990) Eur. J. Biochem. 191:65-74; Meiwes et
al. (1990) FEMS Microbiol. Lett. 67:201-206) 及びスタフィロフェリンB (Dreschel et al. (1993)
BioMetals. 6:185-192; Haag et al.
(1994) FEMS Microbiol. Lett. 115:125-130)はポリカルボキシレート・クラスのものであるが、三番目のアウレオケリン (Courcol et al. (1997)
Infect. Immun. 65:1944-1948)は化学的に特徴付けられていない。更に、sbnオペロンにコードされた更なるシデロフォアはS.アウレウスに特異的であると思われ、また、他のCoNS株に比較してS.アウレウスの菌力の鍵となる決定因子であるようである (Dale et al., (2004) Infect. Immun. 72:29-37)。
【0005】
しかし、人体において鉄の源として最も豊富なものはヘム含有たんぱく質(血液たんぱく質)に封鎖されている。ヘムはポルフィリンの四つの環状窒素原子に結合した一個の鉄原子を含有する環状分子である。血液たんぱく質は数多くの細胞機能を担い、ヘモグロビン及びミオグロビンは、哺乳動物において最も豊富なヘム含有たんぱく質である。鉄は細菌性病原体の生存に必須であるため、細菌は遊離ヘム及び血液たんぱく質から鉄を捕集する多くのいくつかの機序を獲得してきた。特にS.アウレウスは、ヘム又は血液たんぱく質から、鉄調節型表面決定因子(Isd) 系を通じて鉄を獲得することができる。Isd系は、細菌細胞の細胞壁を横切ってヘムに結合して輸送することのできる細胞表面たんぱく質や、ヘムから鉄を抽出することのできる少なくとも一種の細胞質たんぱく質を含む (Mazmanian et al., (2003)
Science 299:906-909; Clarke et al., (2004)
Mol. Microbiol. 51:1509-1519)。更に、Isdたんぱく質、特にIsdA は、限定はしないがフィブリノーゲン及びフィブロネクチン (Clarke et al.,
(2004) Mol. Microbiol. 51:1509-1519) やトランスフェリン (Taylor and Heinrichs (2002) Mol. Microbiol. 43:1603-1614) 及びヘミン (Mazmanian et al., (2003) Science 299:906-909)を含め、幅広い範囲の細胞外マトリックスたんぱく質に結合するようである。
【0006】
S.アウレウスは、小さな皮膚及び創傷感染から、心内膜炎、骨髄炎及び敗血症(Archer (1998) Clin. Infect. Dis. 26:1179-1181)などのより重篤な続発症に至るまで、幅広い感染症を引き起こす流行性のヒト病原体である。S.アウレウスが多くの組織に侵襲して定着する能力は、組織接着を支援するフィブロネクチン-、エラスチン-、及びコラーゲン-結合性のたんぱく質など、いくつかの菌力因子や、組織破壊及び細菌播種を起こす複数のエキソトキシン及びプロテアーゼの発現能に拠るものであろう。この細菌がin vivoでの成長中に鉄を獲得する能力は、その病理発生にとっても重要であると思われ、複数の研究グループが、その産物がホストの鉄化合物の結合及び/又は輸送に関与しているいくつかの異なる遺伝子を特徴付けている (Mazmanian et al., (2003)
Science 299:906-9; Modun et al.,
(1998) Infect. Immun. 66:3591-3596; Taylor
and Heinrichs (2002) Mol. Microbiol. 43:1603-1614)。
【0007】
もともと、ペニシリンは最悪のS.アウレウス感染さえも治療するために用いることができた。しかし、S.アウレウスのペニシリン耐性株が出現したことで、S.アウレウス感染を治療する上でのペニシリンの有効性は低下してしまい、今日、院内感染で遭遇する大半のS.アウレウス株はペニシリンに応答しない。S.アウレウスのペニシリン耐性株は、ペニシリンをペニシリン酸に転化することで抗生物活性を破壊するベータ-ラクタマーゼを産生する。更に、このベータ-ラクタマーゼ・コーディング遺伝子はしばしば、エピソームで、典型的にはプラスミド上で伝播し、またしばしば、集合的に多剤耐性をもたらすエピソーム性因子上の複数の遺伝子の一つでもある。
【0008】
1960年代に導入されたメチシリンは、S.アウレウスのペニシリン耐性という問題を概ね克服した。これらの化合物では、ペニシリンのうちで抗生物活性を担う部分が保存され、ラクタマーゼを失活させるための良好な基質にペニシリンが成っている所以の他の部分が改変又は変更されている。しかし、アミノグリコシド、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、マクロライド及びリンコサミドを含め、S.アウレウスに対して有効な数多くの他の抗生物質に対する耐性と一緒に、メチシリン耐性もこの生物で出現した。 実際に、一般的なS.アウレウスのメチシリン耐性株は多剤耐性である。メチシリン耐性S.アウレウス(MRSA)は、世界中で最も重要な院内病原体の一つになっており、感染コントロール上の深刻な問題を投げかけている。今日では、数多くの株が、事実上全ての抗生物質に対して多耐性であり、その例外はバンコマイシン型糖ペプチド抗生物質である。S.アウレウス感染の薬物耐性は、著しい治療上の問題を呈しているが、その問題は、新しい治療薬が開発されない限り更に悪化するであろう。このように、S.アウレウス感染を治療するための新規かつ有効な治療薬が医学上、緊急に求められているが、未だ満たされていない。
【0009】
発明の概要
本発明は、少なくとも部分的に、S.アウレウスにおいてヘム及び血液たんぱく質由来の鉄の内部移行に関与するIsd系の一部であるIsd(鉄被調節型表面決定因子)たんぱく質 IsdA、IsdB、及び IsdCの同定及び特徴付けに基づくものである。IsdA、IsdB、及びIsdC はS.アウレウスの細胞表面上で発現するが、in vivoでの鉄制限下での成長及び生存において重要である。結果的に、IsdA、IsdB、及びIsdC たんぱく質は、阻害すればin vivoで細菌成長が損なわれるであろうと考えられる魅力的なワクチン・ターゲットである。更に、IsdA、IsdB、及びIsdC たんぱく質は、S.アウレウス特異的抗生物質を同定するためのスクリーニング検定で用いることのできる魅力的な薬物ターゲットである。
【0010】
ある局面では、本発明はIsd たんぱく質ベースのワクチンを特徴とする。ある例示的な実施態様では、IsdベースのワクチンはIsdAポリペプチド及び薬学的に許容可能な担体を含む。ある実施態様では、IsdA ポリペプチドはSEQ ID
NO: 3の完全長アミノ酸配列を含む。別の実施態様では、IsdA
ポリペプチドはSEQ ID NO: 3のうちの少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45、又は50 個のアミノ酸から成るペプチドである。別の実施態様では、Isd ワクチンは、IsdB ポリペプチド及び薬学的に許容可能な担体を含む。いくつかの実施態様では、IsdB ポリペプチドは SEQ ID NO: 6の完全長アミノ酸配列を含む。 別の実施態様では、IsdB ポリペプチドは、SEQ ID
NO: 6のうちの少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45、 又は50 個のアミノ酸から成るペプチドである。別の実施態様では、Isd ワクチンは、IsdC ポリペプチド及び薬学的に許容可能な担体を含む。いくつかの実施態様では、IsdC ポリペプチド はSEQ ID NO: 9の完全長アミノ酸配列を含む。別の実施態様では、IsdC ポリペプチド はSEQ ID NO: 9のうちの少なくとも5、 10、 15、 20、 25、 30、 35、 40、 45、又は50 個のアミノ酸から成るペプチドである。本ワクチン組成物を注射用調合物として調合してもよく、更にアジュバントを含めてもよい。
【0011】
別の局面では、本発明は、抗体、アンチセンス核酸、及びsiRNAを含め、スタフィロコッカス-アウレウス(S.アウレウス)への鉄取り込みを阻害する新規な抗生物質を特徴とする。本発明は、IsdA、IsdB 及び/又はIsdCに対する抗体を特徴とする。 いくつかの実施態様では、IsdA ポリペプチドに対する抗体を、SEQ ID NO: 3の完全長組換えアミノ酸配列に対して、あるいは、 SEQ ID NO: 3 のうちの少なくとも5、 10、 15、 20、 25、 30、 35、 40、 45、 又は50 個のアミノ酸から成るペプチドに対して生じさせられよう。IsdB ポリペプチドに対する抗体は、SEQ ID NO: 6の完全長組換え組換えアミノ酸配列に対して、あるいはSEQ ID NO: 6のうちの少なくとも5、 10、 15、 20、 25、 30、 35、 40、 45、 又は50個のアミノ酸から成るペプチドに対して生じさせられよう。IsdC ポリペプチドに対する抗体は、SEQ ID NO: 9の完全長組換えアミノ酸配列に対して、あるいは、SEQ ID NO: 9のうちの少なくとも5、 10、 15、 20、 25、 30、 35、 40、 45、又は50 個のアミノ酸から成るペプチドに対して、生じさせられよう。Isd ポリペプチドに対する抗体はモノクローナルでも、又はポリクローナルでもよい。Isd ポリペプチドに対する抗体を、注射用調合物に調合してもよく、そして抗菌治療として投与してもよい。
【0012】
更なる局面では、本発明は、Isdたんぱく質のいずれかの発現レベル及び/又は機能を阻害又は干渉する作用物質を同定するスクリーニング検定を特徴とする。ある例示的な実施態様では、本発明は、IsdAの発現及び/又は機能を阻害する作用物質のスクリーニング検定を特徴とする。ある実施態様では、本検定は結合検定であり、isd遺伝子産物に結合することでその生化学的機能に干渉する作用物質は候補S.アウレウス特異抗体である。別の実施態様では、本検定は発現検定であり、Isdポリペプチドの発現レベルを減少させる作用物質は候補S.アウレウス特異抗体である。
【0013】
更なる局面では、Isdたんぱく質を、限定はしないがS.アウレウス、コリネバクテリウム-ジフテリア(原語:Corynebacterium diphtheriae)、リステリア-モノサイトゲネス(原語: Listeria monocytogenes)、及びバシラス-アンスラシス(原語:Bacillus anthracis)を含むグラム陽性細菌上に発現させてもよい。このように、ここで解説するようにIsdたんぱく質を標的とするワクチン及び阻害剤を用いると、哺乳動物で疾患を引き起こす数多くの病原性グラム陽性細菌株を治療できよう。
【0014】
開示する本発明の更なる特徴及び利点を、以下の詳細な説明及び請求項との関連から下に論じることとする。
【0015】
発明の詳細な説明
1. 概説
ここで解説するように、ヘムの取り込みを通じて鉄の内部移行は、isdA、isdB、及びisdC などのisd遺伝子をノックアウトすると弱毒化できると思われる病原性の特性である。更に、ここで解説するように、ヘムに結合したIsdたんぱく質はホストにおいてS.アウレウス生存を促進する付加的な役割を果たしているようである。ヘムに結合したIsdたんぱく質は細胞をフリーラジカルの悪影響から保護する酸化的バッファとして働いていると思われる。従って、Isdたんぱく質の発現のない変異型は過酸化水素に弱いが、他方、野生型S.アウレウスがより高濃度の過酸化水素中でも生存することができる。
【0016】
ここで解説する通りのIsdたんぱく質はin vivoのS.アウレウス感染に必須であり、S.アウレウス感染中に高度に発現する。S.アウレウスがホストに進入すると、それは鉄の制限された環境に遭遇することになるが、その後、Iadたんぱく質発現が上方調節される。鉄の制限されたホストにおいては、Isd 発現は、S.アウレウスが鉄を捕集する間、上方調節されたままである可能性が高い。特にIsdAは、ここで解説するように免疫優性である。なぜならコバレンセント(原語:covalescent)な患者(即ちS.アウレウス感染患者)由来の血清の1:4000希釈液は、ウェスタン・イムノブロットで4マイクログラムの精製済みIsdAたんぱく質と陽性反応したからである。このように、Isdたんぱく質はワクチン開発にとって魅力的なターゲットである。Isdたんぱく質の抗原性ペプチドをワクチン・ターゲットとして用いれば、S.アウレウスに対する有効な免疫応答を生じさせられるであろう。更に、Isdたんぱく質の機能をIsd特異的抗体、アンチセンスRNA、siRNA又は低分子阻害剤を用いて阻害する方法は、S.アウレウスの菌力を弱毒化する有効な方法であろう。
【0017】
ここで解説するIsdたんぱく質はS.アウレウス上で発現するものである。更なる実施態様では、Isdたんぱく質は他のグラム陽性細菌で発現するものであろう。Isdたんぱく質を発現するグラム陽性病原体の非限定的な例には、S. アウレウス、コリネバクテリウム-ジフテリア、リステリア-モノサイトゲネス、及びバシラス-アンスラシスがある。このように、ここで解説するように、Isdたんぱく質を標的とするワクチン及び阻害剤を用いれば、哺乳動物で疾患を引き起こす他の病原性グラム陽性細菌株を治療できよう。
【0018】
2. 定義
便宜上、本明細書、実施例及び付属の請求項で用いるいくつかの用語及び文言の意味を下に提供する。他に定義しない限り、ここで用いられる全ての技術及び科学用語は、本発明が属する当業の当業者が通常理解するものと同じ意味を有する。
【0019】
冠詞「一つの(原語:"a“)及び「一つの(原語:”an”)は、ここではこの冠詞の文法上の目的語の一つ又は二つ以上(即ち少なくとも一つ)を言うために用いられている。例を挙げると、「一つの要素」とは、一つの要素又は二つ以上の要素を意味する。
【0020】
ここで用いられる場合の用語「アジュバント」とは、特異抗原と組み合わせて用いた場合に免疫応答の亢進を惹起する物質を言う。
【0021】
用語「作用物質」は、ここでは、化合物、化合物の混合物、生物巨大分子(例えば核酸、抗体、たんぱく質又はこれらの部分、例えばペプチド)、あるいは、細菌、植物、真菌又は動物(特に哺乳動物)細胞又は組織から作製された抽出物を指すために用いられている。作用物質は、以下に解説されたスクリーニング検定により、同定できよう。このような作用物質は、スタフィロコッカス-アウレウスにおけるIsd媒介方鉄取り込みの阻害剤でも、又はアンタゴニストでもよい。このような作用物質の活性により、それは、対象において局所的又は全身的に作用する生物学的、生理学的、又は薬理学的に活性な一物質(又は複数の物質)である「治療薬」として適するものになるであろう。
【0022】
用語「アンタゴニスト」又は「阻害剤」とは、あるたんぱく質の少なくとも一つの生物活性を下方調節する(例えば抑制する又は阻害する)作用物質を言う。アンタゴニストは、あるたんぱく質と、例えば標的ペプチド又は酵素基質などの別の分子との間の相互作用を阻害する又は減少させる化合物であろう。またアンタゴニストは、遺伝子の発現を下方調節する、あるいは、存在する発現たんぱく質の量を減少させる、化合物であってもよい。
【0023】
ここで用いられる場合、用語「抗体」とは、免疫グロブリンや、免疫グロブリン(例えばIgG、IgD、IgA、IgM 及び IgE)のうちのいずれかの抗原結合部分、即ち、抗原に特異的に結合する(「免疫反応する」)、抗原結合部位を含有するポリペプチド、を言う。抗体は、少なくとも一つのジスルフィド結合で相互に連結された少なくとも一つの重(H)鎖及び少なくとも一つの軽(L)鎖を含む場合がある。用語「VH」とは、抗体の重鎖可変領域を言う。用語「VL」とは、抗体の軽鎖可変領域を言う。例示的な実施態様では、用語「抗体」は具体的にはモノクローナル抗体及びポリクローナル抗体を網羅するものである。「ポリクローナル抗体」とは、一種又は複数種の抗原で免疫された動物の血清から得られた抗体を言う。「モノクローナル抗体」とは、ハイブリドーマ細胞の一個のクローンにより産生される抗体を言う。モノクローナル抗体を作製する技術には、限定はしないが、ハイブリドーマ技術(Kohler & Milstein (1975) Nature 256:495-497を参照されたい);トリオーマ技術;ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozbor, et al. (1983) Immunol. Today 4:72を参照されたい)、EBV ハイブリドーマ技術(Cole, et al., 1985 In: Monoclonal
Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc., pp. 77-96を参照されたい)及びファージ・ディスプレイがある。
【0024】
ポリクローナル又はモノクローナル抗体には、更に操作又は改変を加えてキメラ又はヒト化抗体を作製することができる。「キメラ抗体」は、軽鎖及び重鎖遺伝子が異なる種に属する免疫グロブリンセグメントから成るように遺伝子操作された免疫グロブリン遺伝子にコードされている。例えば、例えばここで解説された通りに得られるものなど、マウスモノクローナル抗体由来の遺伝子の可変(V)セグメントの実質的な部分を、ヒト定常(C)セグメントの実質的な部分に接合できよう。このようなキメラ抗体は、マウスモノクローナル抗体よりもヒトに対する方が抗原性に少ない可能性が高い。
【0025】
ここで用いられる場合の用語「ヒト化抗体」(HuAb)とは、非ヒト抗体由来のCDRを有しながらも、ヒトフレームワークに実質的に同一(即ち少なくとも85%)なフレームワーク領域を持つキメラ抗体であって、この場合、いずれかの定常領域が、ヒト免疫グロブリン定常領域に対して少なくとも約85-90%、そして好ましくは約95%のポリペプチド配列同一性を有するようなキメラ抗体を言う。例えば、PCT 公報WO 90/07861 及びヨーロッパ特許No. 0451216を参照されたい。おそらくはCDRであるものを除き、このようなHuAbの全部は、一つ以上の天然ヒト免疫グロブリン配列の相当する部分に実質的に同一である。用語「フレームワーク領域」とは、ここで用いられる場合、免疫グロブリン軽鎖及び重鎖可変領域のうちで、Kabat, et al. (1987) Sequences of Proteins of Immunologic
Interest, 4th Ed.,
US Dept. Health
and Human Servicesに定義されているように、単一種内の異なる免疫グロブリン間で比較的に保存されている(即ち、CDR以外)部分を言う。ヒト定常領域DNA配列は、公知の手法に従い多種のヒト細胞から分離することができるが、好ましくは不死化B細胞から分離するとよい。
ヒト化抗体を作製するための可変領域又はCDRは、抗原に結合することができるモノクローナル抗体を由来としてもよいが、マウス、ラット、ウサギ、又は他の脊椎動物を含め、いずれの都合のよい哺乳動物源でも産生されよう。
【0026】
用語「抗体」は更に抗体フラグメントも包含する。抗体フラグメントの例には、Fab、Fab'、Fab'-SH、F(ab')2、及びFvフラグメント;限定はしないが、一本鎖Fv(scFv)分子、付属する重鎖部分のない、一つの軽鎖可変ドメインのみを含有する一本鎖ポリペプチド、又は軽鎖可変ドメインの三つのCDRを含有するそのフラグメント、及び(3)付属する軽鎖部分のない、一つの重鎖可変領域のみを含有する一本鎖ポリペプチド、又は重鎖可変領域の三つのCDRを含有するそのフラグメント、を含め、中断のない、一つながりの連続したアミノ酸残基から成る一次構造を有するジアボディやいずれかの抗体フラグメント;並びに抗体フラグメントから形成される多重特異的又は多価構造、がある。一つ以上の重鎖を含む抗体フラグメントにおいては、前記(複数の)重鎖には、インタクト抗体の非Fc領域に見られるいずれの定常ドメイン配列(例えばIgGアイソタイプ中のCH1)を含めることもでき、及び/又は、インタクト抗体に見られるいずれのヒンジ領域配列を含めることもでき、及び/又は、重鎖のヒンジ領域配列又は定常ドメイン配列に融合させた又は配置させたロイシン・ジッパー配列を含めることもできる。適したロイシン・ジッパー配列には、Kostelney et al., (1992)
J. Immunol., 148: 1547-1553が教示するjun 及びfos ロイシン・ジッパーや、米国特許第6,468,532号に解説されたGCN4 ロイシン・ジッパーがある。Fab 及びF(ab')2
フラグメントはインタクト抗体のFc フラグメントを欠くものであり、典型的にはパパイン(Fabフラグメントの作製のため)又はペプシン(F(ab)2フラグメントの作製のため)などの酵素を用いたたんぱく質分解により、生じる。
【0027】
ある抗体が他の抗原に比べてある抗原に優先的に結合する場合、その抗体は、その抗原に、又はその抗原のエピトープに「特異的に結合する」ことになる。例えば抗体は、一つ以上の他のエピトープに対しては約50%、20%、10%、5%、1% 又は0.1%の交差反応性しか有さない場合がある。
【0028】
用語「保存的置換」とは、広い意味で同様な分子特性を持つアミノ酸同士の間の変更を言う。例えば、脂肪族の基アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシンの内の交換は、保存的とみなすことができる。時には、これらのうちの一つへのグリシンの置換も保存的とみなすことができる。他の保存的な交換には、脂肪族の基アスパラギン酸及びグルタミン酸間;アミド基アスパラギン及びグルタミン間;水酸基セリン及びスレオニン間;芳香族基フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファン間;塩基性の基リジン、アルギニン及びヒスチジン間;及び含硫基メチオニン及びシステイン間のもの、がある。時には、メチオニン基及びロイシン基内での置換も保存的とみなすことができる。好適な保存的置換基は、アスパラギン酸−グルタミン酸;アスパラギン−グルタミン;バリン−ロイシン−イソロイシン;アラニン−バリン;フェニルアラニン−チロシン−トリプトファン;リジン−アルギニン;及びヒスチジン−リジン−アルギニン、である。
【0029】
「有効量」とは、治療したときに有益又は所望の臨床結果を生ずるのに充分な量である。有効量は、一回以上の用量にして患者に投与することができる。治療の観点では、有効量とは、患者の感染を減少させるために充分な量である。有効量を達成するための適当な投薬量を決定する場合には、複数の因子が典型的に考慮に入れられる。これらの因子には、患者の年齢、性別及び体重、治療しようとする状態、状態の重篤度、投与される薬剤の形状及び有効濃度、がある。
【0030】
用語「エピトープ」とは、抗原のうちで、抗体が優先的かつ特異的に結合する領域を言う。モノクローナル抗体は、ある分子のうちで、分子的に定義することのできる単一の特異的なエピトープに優先的に結合する。あるたんぱく質のエピトープは、そのたんぱく質上で、例えば5−15残基など、直線状又は非直線状の構成になった限られた数のアミノ酸残基から成るであろう。
【0031】
核酸又はヌクレオチド配列を説明するときに用いられる「均等な」とは、機能的に均等なポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を言う。均等なヌクレオチド配列には、対立遺伝子バリアントなど、一箇所以上のヌクレオチドの置換、追加又は欠失を違いとする配列が含まれ、従って、遺伝暗号の縮重が原因で異なるような配列が含まれよう。例えば、核酸バリアントには、ヌクレオチドの置換、欠失、又は追加により生ずるものが含まれよう。当該の置換、欠失、又は追加は、一つ以上のヌクレオチドが関与していてもよい。バリアントは、コーディング領域、非コーディング領域、又は両者に変化があるものでもよい。コーディング領域の変化は、保存的又は非保存的なアミノ酸置換、欠失又は追加を生ずる可能性がある。
【0032】
「相同性」又は代替的には「同一性」とは、二つのペプチド間又は二つの核酸分子間の配列類似性を言う。相同性は、比較を目的としてアライメントできると思われる各配列中のある一つの位置を比較することにより、決定できよう。比較された配列中のある位置が、同じ塩基又はアミノ酸で占められていれば、その分子はその位置において相同である。配列間の相同性の程度は、これら配列に共通の対合する又は相同な位置の数の関数である。用語「パーセント同一である」とは、二つのアミノ酸配列間又は二つのヌクレオチド配列間の配列同一性を言う。同一性は、比較を目的としてアライメントできると思われる各配列中のある一つの位置を比較することにより、決定できよう。比較された配列中の均等な位置が同じ塩基又はアミノ酸で占められていれば、その分子はその位置において同一である;均等な部位が同じ又は類似のアミノ酸残基(例えば立体及び/又は電子の性質で類似など)で占められていれば、その分子はその位置において相同(類似)であると言ってよい。相同性、類似性、又は同一性のパーセンテージとしての表現とは、比較された配列に共通の位置にある同一又は類似のアミノ酸の数の関数を言う。FASTA、BLAST、又はENTREZを含め、多様なアライメント・アルゴリズム及び/又はプログラムを用いてよい。FASTA 及びBLASTは、GCG配列解析パッケージ(ウィスコンシン州マジソン、ウィスコンシン大学)の一部として入手可能であり、デフォルト設定などをして用いてもよい。ENTREZ は、メリーランド州ベセズダ、米国国立保健研究所、ナショナル・ライブラリー・オブ・メディスン、ナショナル・センター・フォー・バイオテクノロジー・インフォメーションを通じて入手可能である。ある実施態様では、二つの配列のパーセント同一性を、例えば各アミノ酸ギャップをそれが二つの配列間の単一のアミノ酸又はヌクレオチドのミス対合であるかの如く重みを付けるなど、ギャップ・ウェイトを1にしたGCGプログラムにより判定してもよい。アライメントのための他の技術はMethods in Enzymology, vol. 266: Computer Methods for Macromolecular
Sequence Analysis (1996), ed. Doolittle, Academic Press, Inc., a division of
Harcourt Brace & Co., San Diego, California, USAに解説されている。好ましくは、配列中のギャップを許容するアライメント・プログラムを利用して列をアライメントするとよい。スミス-ウォーターマンは、配列アライメントでギャップを許容するアルゴリズムの一種である。Meth. Mol. Biol. 70: 173-187 (1997)を参照されたい。更にニードルマン及びワンシュのアライメント法を用いたGAPプログラムを用いて配列をアライメントしてもよい。代替的な検索戦略は、MASPARコンピュータで作動するMPSRCHソフトウェアを用いるものである。MPSRCHはスミス-ウォーターマンのアルゴリズムを用いて大規模並列コンピュータで配列を採点する。このアプローチは、関係の遠い対合を拾い出す能力に優れており、特に、小さなギャップやヌクレオチド配列エラーに寛容である。核酸にコードされたアミノ酸配列を用いて、たんぱく質及びDNAの両方のデータベースを検索できよう。個々の配列を持つデータベースは、上記のMethods in Enzymology, ed. Doolittleに解説されている。データベースにはGenbank、EMBLや、日本のDNAデータベース(DDBJ)がある。
【0033】
ここで用いられる場合の用語「感染」とは、臨床上著明でなかったり、あるいは競合的な代謝、毒素、細胞内複製又は抗原抗体応答が原因で局所的な細胞損傷に至る場合のある、S.アウレウスなどの微生物の身体組織中への侵襲及び増殖を言う。身体の防御機序が有効であれば、感染は局部的、臨床レベル以下及び一時的であったりする。局所感染は、存続したり、広がって急性、亜急性又は慢性の臨床感染又は疾患状態になったりすることがある。また、微生物がリンパ系又は血管系へ到達できた場合には、局所感染が全身性になることもある。
【0034】
ここで用いられる場合の用語「鉄被調節型表面決定因子系」又は「Isd系」とは、総体的に推定上のヘム取り込み系をコードする5つの異なる転写単位にコードされた数多くの遺伝子を含むS.アウレウスIsd遺伝子座を言う。この5つの転写単位はisdA、isdB、isdCDEFsrtBisdG、isdH、及びisdIである。isd遺伝子の転写は、Furプロモータの制御上、環境中の鉄により調節を受ける。Isd 遺伝子座、IsdA、IsdB、IsdC、及びIsdHにコードされたたんぱく質のうちの4つが、ポリペプチド鎖のC末端とペプチドグリカンとの間のアミド結合により、細胞壁に共有結合により繋がれている。IsdA、IsdB、及びIsdH はLPXTG モチーフ(即ち、ソーターゼAにより認識されるモチーフ)と呼ばれるC末端ソーティング・シグナルを有するとして特徴付けられている。 IsdCはNPQTN モチーフ(即ち、S.アウレウス中でソーターゼBにより認識されるモチーフ)と呼ばれるC末端ソーティング・シグナルを有するとして特徴付けられている。IsdA、IsdB、及びIsdHは細胞壁にソーターゼA (srtA)という、細胞表面たんぱく質をLPXTGモチーフで切断してポリペプチドとペプチドグリカンとの間のアミド結合の形成を触媒する膜結合型トランスペプチダーゼにより繋がれている。IsdC 細胞壁にソーターゼB
(srtB)という、ソーターゼAに似たトランスペプチダーゼにより繋がれているIsd遺伝子座にコードされた他のたんぱく質には、推定上の膜転位因子であるIsdD、IsdE、及びIsdFや、ヘムから鉄を抽出することに関与しているかも知れない細胞質内ヘム−鉄結合たんぱく質であるIsdG 及びIsdIがある。
【0035】
ここで用いられる場合の「IsdA ポリペプチド」とは、鉄被調節型表面決定因子Aを言う。IsdA ポリペプチドの配列はSEQ ID NO: 3 に記載した通りであり、SEQ ID NO: 1にコードされている。この用語は更に、IsdA ポリペプチドのいずれかのフラグメント、バリアント、類似体、アゴニスト、化学的誘導体、機能的誘導体又は機能的フラグメントも包含する。「IsdA イムノゲン」とは、対象において免疫応答を惹起することができるIsdA ポリペプチドである。
【0036】
ここで用いられる場合の「IsdB ポリペプチド」とは、鉄被調節型表面決定因子Bをいう。IsdB ポリペプチドの配列はSEQ ID NO: 6に記載した通りであり、SEQ ID NO: 4にコードされている。この用語は更に、IsdB ポリペプチドのいずれかのフラグメント、バリアント、類似体、アゴニスト、化学的誘導体、機能的誘導体又は機能的フラグメントも包含する。「IsdB イムノゲン」とは、対象において免疫応答を惹起することができるIsdB ポリペプチドである。
【0037】
ここで用いられる場合の「IsdC ポリペプチド」とは、鉄被調節型表面決定因子Cをいう。IsdC ポリペプチドの配列はSEQ ID NO: 9に記載した通りであり、SEQ ID NO: 7にコードされている。この用語は更に、IsdC ポリペプチドのいずれかのフラグメント、バリアント、類似体、アゴニスト、化学的誘導体、機能的誘導体又は機能的フラグメントも包含する。「IsdC イムノゲン」とは、対象において免疫応答を惹起することができるIsdC ポリペプチドである。
【0038】
「標識」又は「検出可能な標識」とは、限定はしないが、放射性同位体、蛍光体、化学発光成分、酵素、酵素基質、酵素コファクター、酵素阻害剤、染料、金属イオン、リガンド(例えばビオチン又はハプテン)等を含む検出可能な分子を言う。「蛍光体」とは、検出可能な範囲の蛍光を示すことのできる物質又はその一部分を言う。適した標識の具体的な例には、フルオレセイン、ローダミン、ダンジル、ウンベリフェロン、テキサス・レッド、ルミノール、NADPH、アルファ-又はベータ-ガラクトシダーゼ及び西洋わさびペルオキシダーゼ、がある。
【0039】
ここで遺伝子に関して用いられる用語「変異型」とは、変異型たんぱく質をコードする遺伝子を言う。ここでたんぱく質に関して用いられる用語「変異型」とは、その通常又は正常な生理学的役割を果たさないたんぱく質を意味する。S.アウレウスポリペプチド変異型はアミノ酸の置換、欠失又は追加により、生ずる場合がある。前記の置換、欠失、又は追加には一つ以上の残基が関与することがある。これらの中でも特に好適なのは、S.アウレウスたんぱく質の特性又は活性を変化させる置換、追加及び欠失である。
【0040】
用語「ポリヌクレオチド」及び「核酸」は、デオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドあるいはこれらの類似体に関係なく、いずれかの長さの重合体型のヌクレオチドを交換可能に言うために用いられている。以下はポリヌクレオチドの非限定的な例である:ある遺伝子又は遺伝子断片のコーディング又は非コーディング領域、連鎖解析から定義される一つ(又は複数の)遺伝子座、エキソン、イントロン、メッセンジャーRNA (mRNA)、トランスファーRNA、リボソームRNA、リボザイム、cDNA、アンチセンス核酸、組換えポリヌクレオチド、分枝状ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクタ、いずれかの配列の分離されたDNA、いずれかの配列の分離されたRNA、核酸プローブ、及びプライマ。ポリヌクレオチドには、メチル化ヌクレオチド及びヌクレオチド類似体など、修飾されたヌクレオチドを含めてもよい。存在する場合のヌクレオチド構造に対する修飾は、当該ポリマのアセンブリ前に付加されたものでも、又は後に付加されたものでもよい。ヌクレオチドの配列の途中には、非ヌクレオチド成分があってもよい。更に、ポリヌクレオチドを、重合体形成後に、標識成分との結合などにより修飾してもよい。用語「組換え」ポリヌクレオチドは、天然では生じないか、又は、非天然の編成で別のポリヌクレオチドに連結してある、ゲノム、cDNA、半合成、又は合成起源のポリヌクレオチドを意味する。「オリゴヌクレオチド」とは、例えば約75、50、25、又は10 ヌクレオチド未満など、約100 ヌクレオチド未満を有する一本鎖ポリヌクレオチドを言う。
【0041】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「たんぱく質」(一本鎖の場合)は、ここでは、アミノ酸の重合体を言うために交換可能に用いられている。該重合体は直線状でも、又は分枝状でもよく、また修飾されたアミノ酸を含んでいてもよく、また途中に非アミノ酸を持っていてもよい。この用語は更に、例えばジスルフィド結合の形成、糖鎖付加、脂質化、アセチル化、ホスホリル化、又は標識成分との結合などのいずれか他の操作などにより修飾されたアミノ酸重合体も包含するものである。ここで用いられる場合のこの用語「アミノ酸」とは、グリシン及びDもしくはL型光学異性体の両者、並びにアミノ酸類似体及びペプチドミメティックを含む、天然及び/又は非天然即ち合成のアミノ酸のいずれをも言う。
【0042】
用語「低分子」とは、約5 kD未満、約2.5 kD未満、約1.5 kD未満、又は約0.9 kD未満の分子量を有する化合物を言う。低分子は、例えば、核酸、ペプチド、ポリペプチド、ペプチド核酸、ペプチドミメティック、糖、脂質又は他の有機(炭素を含有する)又は無機分子であってよい。数多くの製薬会社が、しばしば真菌、細菌、又は藻類抽出物の、化学的及び/又は生物学的混合物、広範なライブラリを有しており、このライブラリを本発明の検定のいずれかでスクリーニングすることができる。用語「低有機分子」とは、有機又は医療用化合物としてしばしば同定されると共に核酸、ペプチド又はポリペプチドのみである分子を含まない低分子を言う。
【0043】
用語「特異的にハイブリダイズする」とは、検出可能かつ特異的な核酸の結合を言う。本発明のポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド及び核酸は、核酸鎖に、非特異的核酸への相当量の検出可能な結合を抑えるようなハイブリダイゼーション条件及び洗浄条件下で選択的にハイブリダイズする。選択的なハイブリダイゼーション条件を達成するために、当業で公知であり、ここで論じるようなストリンジェントな条件を用いてもよい。一般的には、本発明のポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、及び核酸と、目的の核酸配列との間の核酸配列相同性は、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、98%、99%、又はそれ以上であろう。場合によっては、ハイブリダイゼーション条件及び洗浄条件を、従来のハイブリダイゼーション手法に従って、そしてここで更に解説する通りのストリンジェントな条件下で行う。
【0044】
用語「ストリンジェントな条件」又は「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」とは、二重鎖を形成するような二つの相補的ポリヌクレオチド鎖間の特異的ハイブリダイゼーションを促進する条件を言う。ストリンジェントな条件は、規定のイオン強度及びpHのときのポリヌクレオチド二重鎖の熱融解点(Tm)よりも約5℃下になるように選択されよう。相補なポリヌクレオチド鎖の長さや、それらのGC含有量が、当該二重鎖のTm、ひいては所望のハイブリダイゼーション特異性を得るのに必要なハイブリダイゼーション条件を決定するであろう。Tmとは、あるポリヌクレオチド配列の50%が、完全に対合する相補鎖にハイブリダイズする(規定のイオン強度及びpH下での)温度である。場合によっては、ハイブリダイゼーション条件のストリンジェント度を、特定の二重鎖のTmにほぼ等しくなるように高めることが好ましい場合がある。
【0045】
Tmを推測する多種の技術が利用できる。典型的には、ある二重鎖中のG-C塩基対が、そのTmの約3℃に寄与すると推定され、他方、A-T塩基対は、約2℃に寄与すると推定されており、このとき理論最大値の約80−100℃を上限とする。しかしながら、G-Cのスタッキング相互作用、溶媒効果、所望の検定温度等を考慮に入れる、より洗練された形のTmが利用できる。例えば、ほぼ60℃の解離温度(Td)を有するプローブを、式:Td
= (((((3 x #GC) + (2 x #AT)) x 37) - 562)/#bp) -5;(式中 #GC、#AT、及び#bp はそれぞれ、当該二重鎖の形成に関与する、グアニン−シトシン塩基対の数、アデニン−チミン塩基対の数、及び全塩基対の数である)を用いてデザインすることができる。
【0046】
ハイブリダイゼーションは、5xSSC、4xSSC、3xSSC、2xSSC、1xSSC 又は0.2xSSC中で、少なくとも約1時間、2時間、5時間、12時間、又は24時間の間、行わせてよい。ハイブリダイゼーションの温度は、例えば約25℃(室温)から約45℃、50℃、55℃、60℃、又は65℃になど、反応のストリンジェント度を調節するために高くしてもよい。更にハイブリダイゼーション反応には、ストリンジェン度に影響する別の物質も含めてもよく、例えば50%ホルムアミドの存在下でハイブリダイゼーションを行うと、規定の温度でのハイブリダイゼーションのストリンジェント度が高くなる。
【0047】
ハイブリダイゼーション反応の後に一回の洗浄ステップを続けても、又は、二回以上の洗浄ステップを、同じ又は異なる塩度及び温度で続けてもよい。例えば、約25℃(室温)から約45°C、50°C、55°C、60°C、65°C、又はそれ以上に洗浄の温度を上げて、ストリンジェント度を高めてもよい。洗浄ステップを、例えば0.1又は0.2%のSDSなど、界面活性剤の存在下で行ってもよい。例えば、ハイブリダイゼーションの後にそれぞれ65℃での二回の洗浄ステップを約20分間、2×SSC、0.1%のSDS中で行ってもよく、そして選択によってはそれぞれ65℃での更に2回の洗浄ステップを約20分間、0.2×SSC、0.1%のSDS中で行ってもよい。
【0048】
ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件例には、50% ホルムアミド、10xデンハーツ(0.2% フィッコール、0.2% ポリビニルピロリドン、0.2% ウシ血清アルブミン)及び200μg/mlの変性済み担体 DNA、例えばせん断したサケ精子DNAを含む、又はこれらから成る溶液中での65℃での一晩のハイブリダイゼーション、続いて2xSSC、0.1% SDSでの約20分間のそれぞれ65℃での二回の洗浄ステップ、そして0.2xSSC、0.1%SDS中での約20分間のそれぞれ65℃での二回の洗浄ステップ、がある。
【0049】
ハイブリダイゼーションは、溶液中の二つの核酸をハイブリダイズさせるステップ、又は、溶液中の一つの核酸をフィルタなどの固体の支持体に付着させた核酸にハイブリダイズさせるステップ、を含むであろう。一方の核酸が固体の支持体上にあるとき、プレハイブリダイゼーション・ステップをハイブリダイゼーション・ステップの前に行ってもよい。プレハイブリダイゼーションは、ハイブリダイゼーション溶液と同じ溶液及び同じ温度で、(相補的なポリヌクレオチド鎖のない状態で)少なくとも約1時間、3時間又は10時間、行ってよい。
【0050】
適したストリンジェント度の条件は当業者に公知であるか、あるいは、当業者が経験的に判断してもよい。例えば Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, N.Y.
(1989), 6.3.1-12.3.6; Sambrook et al.,
1989, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press, N.Y; S.
Agrawal (ed.) Methods in Molecular Biology, volume 20; Tijssen (1993)
Laboratory Techniques in biochemistry and molecular biology-hybridization with
nucleic acid probes, e.g., part I chapter 2 “Overview of principles of
hybridization and the strategy of nucleic acid probe assays”, Elsevier, New York;
and Tibanyenda, N. et al., Eur. J.
Biochem. 139:19 (1984) and Ebel, S. et al.,
Biochem. 31:12083 (1992)を参照されたい。
【0051】
核酸又はアミノ酸配列に関して用いられる場合の用語「実質的に相同な」とは、互いに配列上実質的に同一又は類似であるために、コンホメーションの相同性が生じ、ひいては、一つ以上の生物学的(免疫学的も含む)活性が有用な程度、保持されるような配列を言う。この用語は、配列の通常の進化を意味することは意図されていない。
【0052】
「対象」とは、ヒトを含む、オス又はメスの哺乳動物を言う。
【0053】
Isdポリペプチドの「バリアント」とは、 IsdA、IsdB、又はIsdCに実質的に類似の分子を言う。バリアント・ペプチドは、当業で公知の方法を用い、バリアント・ペプチドの直接的化学合成により、共有結合により、調製できよう。更にIsdポリペプチドのバリアントは、アミノ酸配列内に、例えば残基の欠失、挿入又は置換を含んでいてもよい。更に、欠失、挿入、及び置換のいずれかの組合せを用いれば、最終的なコンストラクトが所望の活性を持っていれば、最終的コンストラクトに至れるであろう。これらのバリアントは、当該ペプチド分子をコードするDNA中のヌクレオチドの部位指定変異誘発法(Adelman et al., DNA 2: 183 (1983)に例示されたように)を行って、当該バリアントをコードするDNAを作製した後、このDNAを組換え細胞培養株で発現させることにより、調製できよう。バリアントは典型的には野生型Isdポリエップチ度と同じ質的生物活性を示す。当業においては、ある公知のポリペプチドのすべての可能な単一アミノ酸置換を合成できるであろうということが知られている(Geysen et al., Proc. Nat. Acad. Sci. (USA) 18:3998-4002 (1984))。異なる置換の効果は必ずしも相加的ではないが、あるIsdポリペプチドのうちの異なる残基位置で二つの好ましい又は中性の単一の置換を、Isdたんぱく質活性を失わせずに安全に組み合わせることができると予測するのは妥当であろう。縮重ポリペプチドを調製する方法はRutterの米国特許第5,010,175号;Haughter
et al., Proc.
Nat. Acad. Sci. (USA) 82:5131-5135 (1985); Geysen et al., Proc. Nat. Acad. Sci. (USA) 18:3998-4002 (1984); WO86/06487;
及び WO86/00991に解説された通りである。置換戦略を計画する際、当業者であれば、どの残基を変更すべきか、そしてどのアミノ酸又はクラスのアミノ酸が適した置換であるかを判断することであろう。更に、ファミリー又は天然発生型の相同たんぱく質の配列バリエーションの研究も考慮に入れてよいであろう。いくつかのアミノ酸置換は他のものよりもしばしば許容度が高く、これらはしばしば、元のアミノ酸とその置換との間のサイズ、電荷等での類似性に相関している。アミノ酸の挿入又は欠失も、上述したように作製できよう。置換は保存的であることが好ましい。例えば両者とも、引用をもってその全文をここに編入することとする Schulz et al., Principle of Protein Structure
(Springer-Verlag, New York (1978)); and Creighton, Proteins: Structure and
Molecular Properties (W. H. Freeman & Co.,
San Francisco (1983))を参照されたい。
【0054】
あるIsdポリペプチドの「化学的誘導体」は、通常はIsdA、IsdB、又はIsdC アミノ酸配列の一部ではない付加的な化学的部分を含むことができる。このような化学的修飾は、当該ポリペプチドの標的とされるアミノ酸残基を、選択された側鎖又は末端残基と反応することのできる有機誘導体化剤に反応させることにより、Isdポリペプチドに導入できよう。アミノ末端残基はコハク酸又は他の無水カルボン酸に反応させることができる。アルファ-アミノ含有残基を誘導体化させるために適した他の試薬には、メチルピコリンイミデートなどのアミド-エステル;リン酸ピリドキサール;ピリドキサール;クロロボロヒドリド;トリニトロベンゼンスルホン酸;O-メチルイソウレア;2,4-ペンタンジオン;及び、グリオキシレートと反応させるトランスミナーゼ−カタラーゼ、がある。チロシル残基自体の特異的修飾は広範に研究されているが、特に興味がもたれるのは芳香族ジアゾニウム化合物又はテトラニトロメタンとの反応によりチロシル残基に分光標識を導入する方法である。最も一般的には、N-アセチルイミダゾール及びテトラニトロメタンを用いてそれぞれO-アセチルチロシル種および3-ニトロ誘導体を形成する。アスパルチル又はグルタミルなどのカルボキシル側鎖は、1-シクロヘキシ-3-[2-モルホリニル-(4-エチル)] カルボジイミド又は1-エチル-3-(4-アゾニア-4,4-ジメチルペンチル) カルボジイミドなどのカルボジイミド(R'N--C--N--R')との反応により、選択的に修飾することができる。更に、アスパルチル又はグルタミル残基はアンモニウム・イオンとの反応によりアスパラギニル及びグルタミニルに転化させることができる。
【0055】
「ベクタ」とは、挿入された核酸分子をホスト細胞内へ、及び/又は、ホスト細胞間で、輸送する自己複製性の核酸分子である。この用語は、主に核酸分子の細胞内への挿入のために機能するベクタ、主に核酸の複製のために機能するベクタの複製、及び、DNAもしくはRNAの転写及び/又は翻訳のために機能する発現ベクタ、を含む。更に、上記の機能の二つ以上を提供するベクタも含まれる。ここで用いられる場合の「発現ベクタ」は、適したホスト細胞に導入されたときにポリペプチドに転写及び翻訳され得るポリヌクレオチドであると、定義しておく。「発現系」とは、通常、所望の発現産物を生じるように機能することのできる発現ベクタから成る、適したホスト細胞を意味する。
【0056】
3. Isd遺伝子
Isd 遺伝子座、isdA、isdB、及びisdC の三つの遺伝子は、S.アウレウス細胞壁に共有結合により繋がれた細胞表面たんぱく質をコードしている。図1−3は、isdA (SEQ ID NO: 1)、isdB (SEQ
ID NO: 4)、及びisdC (SEQ ID NO: 7)の核酸配列を提供するものである。
【0057】
更に本発明の核酸はここで解説するisd ヌクレオチド配列のいずれかを含む、いずれかから成る、又はいずれかから基本的に成っていてもよい。更に他の核酸は、isd遺伝子に対して少なくとも約70%、80%、90%、95%、98% 又は 99% の同一性又は相同性を有するヌクレオチド配列を含む、ヌクレオチド配列から成る、又はヌクレオチド配列から基本的に成るものである。実質的に相同な配列は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件を用いて特定できよう。
【0058】
遺伝暗号の縮重が原因で本発明の核酸とは異なる単離された核酸も、本発明の範囲内にある。例えば、数多くのアミノ酸が2つ以上のトリプレットによりデザインされている。同じアミノ酸を明示するコドン、即ち同義(例えばCAU 及び CACはヒスチジンについて同義である)の結果、当該たんぱく質のアミノ酸配列に影響しない「サイレントな」変異が起きる場合がある。しかしながら、本発明のポリペプチドのアミノ酸配列の変化につながらないDNA配列多型も存在するだろうと予測される。当業者であれば、天然の対立遺伝子の差異があるために、ある特定の種の間で、本発明の特定のたんぱく質をコードする核酸の一つ以上(ヌクレオチドの1%未満から最高で約3又は5%又はおそらくはそれ以上)のヌクレオチドにこれらの差異があり得ることは理解されよう。このようなヌクレオチドの差異や、結果的なアミノ酸多型は、いずれも、本発明の範囲内である。
【0059】
ここで開示されたポリペプチドに進化上関係するアミノ酸配列を有するたんぱく質をコードする核酸が提供されるが、この場合「進化上関連する」とは、(例えば対立遺伝子の差異や、又は、示差的なスプライシングにより)天然で生じた異なるアミノ酸配列を有するたんぱく質や、コンビナトリアル変異誘発などにより得られた、本発明のたんぱく質の変異型バリアントを言う。
【0060】
本ポリペプチドの生物学的に活性な部分をコードする、本発明のポリヌクレオチドのフラグメントも提供される。ここで用いられる場合の、ここで開示されたポリペプチドの活性部分をコードする核酸のフラグメントとは、本発明のポリペプチドの完全長アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列よりも少ないヌクレオチドを有するヌクレオチド配列であって、ここで定義された通りの完全長Isdたんぱく質の生物学的活性の少なくとも一部分を保持しているか、あるいは選択的には、当該完全長たんぱく質の生物学的活性のモジュレータとして機能的であるポリペプチドをコードしているものを言う。例えば、このようなフラグメントには、当該ポリペプチドの由来となった元の完全長たんぱく質のうちで、別の分子(例えばポリペプチド、DNA、RNA等)との当該たんぱく質の相互作用を媒介する一ドメインを含有するポリペプチドが含まれる。
【0061】
ここで提供される核酸には、更に、このような組換えポリペプチドの分子クローニング、発現又は精製に有用なリンカ配列、改変された制限エンドヌクレアーゼ部位及び他の配列を含めてもよい。
【0062】
ここで提供されるIsdポリペプチドをコードする核酸は、ここで解説されたプロトコルや、当業で公知のものに従って、いずれかの生物を由来とするmRNA又はゲノムDNAから得られよう。例えば本発明のポリペプチドをコードするcDNAは、例えば細菌、ウィルス、哺乳動物等の生物から全mRNAを単離することにより、得られよう。次に、二重鎖cDNAをこの全mRNAから調製した後、適したプラスミド又はバクテリオファージ・ベクタに、数多くの公知の技術のいずれか一つを用いて挿入してもよい。本発明のポリペプチドをコードする遺伝子は、本発明の提供するヌクレオチド配列情報に従って、確立されたポリメラーゼ連鎖反応技術を用いてもクローニングできよう。ある局面では、本発明の核酸又はその一フラグメントを増幅する方法は、(a)そのそれぞれが本発明の核酸配列に対して相補な、少なくとも8ヌクレオチド長である一対の一本鎖オリゴヌクレオチドを提供するステップであって、この場合、前記オリゴヌクレオチドが相補的である相手の配列は、少なくとも10ヌクレオチド、離れている、ステップと、(b)前記オリゴヌクレオチドを、本発明の核酸を含む核酸を含む試料に、前記対のオリゴヌクレオチド間に位置する領域の増幅が可能な条件下で接触させることにより、前記核酸を増幅するステップとを含むであろう。
【0063】
Isdたんぱく質を、組換えベクタ、前記組換えベクタを含有するホスト細胞、及び、コードされたS.アウレウスポリペプチドを作製する方法から発現させてもよい。適したベクタは、感染、形質導入、トランスフェクション、トランスベクション、エレクトロポレーション及び形質転換などの公知の技術を用いてホスト細胞に導入できよう。ベクタは例えばファージミド、プラスミド、ウィルス又はレトロウィルス・ベクタなどであってもよい。レトロウィルス・ベクタは複製コンピテントでも、又は複製欠陥性でもよい。後者の場合、一般的にウィルスの増殖は補完的なホスト細胞内でのみ、起きるであろう。
【0064】
ベクタは、ホスト内での増殖に関する選択マーカを含有していてもよい。一般に、プラスミドベクタは、リン酸カルシウム沈殿物などの沈殿物に入れて、あるいは、荷電した脂質との複合体に入れて、導入される。ベクタがウィルスである場合、適したパッケージング細胞株を用いてそれをin vitroでパッケージした後に、ホスト細胞に導入できよう。
【0065】
好適なベクタは、目的のポリヌクレオチドに対するcis作用性制御領域を含むものである。適したtrans作用性因子は、ホストに提供させても、補完的なベクタに提供させても、又は、ホスト細胞への導入時にそのベクタ自体に提供させてもよい。
【0066】
いくつかの実施態様では、ベクタは、誘導性及び/又は細胞種特異的であってもよい特異的発現に役立つ。このようなベクタの中で特に好適なのは、温度及び栄養物質添加剤など、操作が容易な環境因子により誘導できるものである。
【0067】
本発明において有用な発現ベクタには、染色体由来、エピソーム由来、及びウィルス由来ベクタがあり、例えば細菌性プラスミド、バクテリオファージ、酵母エピソーム、酵母染色体因子、バキュロウィルス、パポヴァウィルス、ワクシニアウィルス、アデノウィルス、鶏痘ウィルス、偽狂犬病ウィルス及びレトロウィルスなどのウィルス、並びに、コスミド及びファージミドなど、これらの組合せを由来とするベクタなど、がある。
【0068】
当該のDNAインサートは、他にもあるがファージ・ラムダPLプロモータ、E. coli lac、trp 及びtacプロモータ、SV40初期及び後期プロモータ、並びにレトロウィルスLTRのプロモータなどの適したプロモータに作動的に連鎖していなくてはならない。他の適したプロモータは当業者には公知であろう。発現コンストラクトには、更に、転写開始、終了のための部位や、転写領域には翻訳用のリボゾーム結合部位が含まれるであろう。当該コンストラクトが発現する成熟転写産物のコーディング部分は、好ましくは、翻訳されるべきポリペプチドの初めに翻訳開始部位と、その終わりに適切に配置された終了コドン (UAA、UGA 又はUAG) とが含まれるとよいであろう。
【0069】
提示したように、発現ベクタには、少なくとも一つの選択マーカが含まれることが好ましいであろう。このようなマーカには、真核細胞株の場合にはジヒドロ葉酸レダクターゼ又はネオマイシン耐性遺伝子、そしてE. coli及び他の細菌での培養の場合には、テトラサイクリン、カナマイシン、又はアンピシリン耐性遺伝子がある。適したホストの代表的な例には、限定はしないが、E. coli、ストレプソミセス(原語:Streptomyces )及びサルモネラ-チフィムリウム(原語:Salmonella typhimurium )細胞などの細菌細胞:酵母細胞などの真菌細胞;ドゥロソフィラ(原語:Drosophila )S2 及びSf9 細胞などの昆虫細胞;CHO、COS 及びBowes 黒色腫細胞などの動物細胞;並びに植物細胞、がある。上記のホスト細胞のために適した培地及び条件は当業で公知である。
【0070】
細菌で用いるために好適なベクタの中には、Qiagen社から入手可能なpQE70、pQE60 及びpQE9、pQE10 ;Stratagene社から入手可能な pBS ベクタ、Phagescript ベクタ、Bluescript ベクタ、pNH8A、pNH16a、pNH18A、pNH46A ;Novagen社から入手可能な pET シリーズのベクタ;及びPharmacia社から入手可能なptrc99a、pKK223-3、pKK233-3、pDR540、pRIT5、がある。好適な真核性ベクタの中には、Stratagene社から入手可能なpWLNEO、pSV2CAT、pOG44、pXT1 及びpSG;並びにPharmacia社から入手可能なpSVK3、pBPV、pMSG 及びpSVL がある。他の適したベクタは当業者には容易に明白であろう。
【0071】
本発明で用いるのに適した公知の細菌性プロモータには、E. coli
lacI 及びlacZプロモータ、T3、T5 及びT7 プロモータ、gptプロモータ、ラムダPR 及びPLプロモータ、trp プロモータ並びにxyI/tet
キメラ・プロモータがある。適した真核性プロモータには、CMV最初期プロモータ、HSVチミジンキナーゼプロモータ、初期及び後期SV40プロモータ、ラウス肉腫ウィルス(RSV)のものなどのレトロウィルスLTRのプロモータ、並びに、マウスメタロチオネイン-I プロモータなどのメタロチオネインプロモータ、がある。
【0072】
ホスト細胞へのコンストラクトの導入は、リン酸カルシウム沈殿法、DEAE-デキストラン媒介性トランスフェクション、陽イオン性脂質媒介性トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、感染又は他の方法で行うことができる。このような方法は、数多くの標準的な研究室用手引き(例えばDavis, et al., Basic Methods in Molecular Biology
(1986))に解説されている。
【0073】
高等真核生物による本発明のポリペプチドをコードするDNAの転写は、ベクタにエンハンサ配列を挿入することにより、高められよう。エンハンサとは、通常約10乃至300ヌクレオチドであり、ホスト細胞種でプロモータの転写活性を増す作用をするcis作用性のDNA因子である。エンハンサの例には、複製開始点であるヌクレオチド100位から後ろ側の270位までに位置するSV40エンハンサ、サイトメガロウィルス初期プロモータエンハンサ、複製開始点の後ろ側にあるポリオーマエンハンサ、及びアデノウィルスエンハンサ、がある。
【0074】
翻訳後のポリペプチドの小胞体ルーメン内へ、ペリプラズム間隙へ、又は細胞外環境への分泌のために、例えばアミノ酸配列KDELなどの適した分泌シグナルを、発現されるポリペプチドに取り入れてもよい。前記のシグナルは当該のポリペプチドにとって内因性でも、又はそれらは異種のシグナルであってもよい。
【0075】
目的のポリペプチドのコーディング配列を、異なるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む融合遺伝子の一部として取り入れてもよい。本発明は、本発明の核酸と、本発明の核酸のヌクレオチド配列に対してイン-フレームで連鎖させた少なくとも一つの異種配列とを含むことで、この異種ポリペプチドを含む融合たんぱく質をコードするようにした単離された核酸を考察するものである。前記の異種ポリペプチドを、(a)本発明の核酸にコードされたポリペプチドのC末端、(b)前記ポリペプチドのN末端、又は(c)前記ポリペプチドのC末端及びN末端、に融合させてもよい。場合によっては、前記異種の配列は、それを融合させる相手のポリペプチドの検出、単離、可溶化及び/又は安定化を可能にするポリペプチドをコードするものである。更に他の実施態様では、前記の異種の配列は、polyHis tag、myc、HA、GST、プロテインA、プロテインG、カルモジュリン結合ペプチド、チオレドキシン、マルトース結合たんぱく質、polyアルギニン、poly
His-Asp、FLAG、免疫グロブリンたんぱく質の一部分、及び経細胞輸送ペプチドから成る群より選択されるポリペプチドをコードするものである。
【0076】
本発明のポリペプチドの免疫原性フラグメントを作製したい場合は、融合発現系が有用であろう。例えばロタウィルスのVP6カプシドたんぱく質を、モノマー型又はウィルス粒子の形のいずれかで、ポリペプチドの部分の免疫原性担体たんぱく質として用いてよい。対する抗体を生じさせたい、本発明のポリペプチド部分に対応する核酸配列を、後期ワクシニアウィルス構造たんぱく質のコーディング配列を含む融合遺伝子コンストラクトに取り入れて、当該たんぱく質の部分をビリオンの一部として含む融合たんぱく質を発現する一組の組換えウィルスを作製してもよい。更に、B型肝炎表面抗原もこの役割に利用してよい。同様に、本発明のポリペプチドの一部分と、ポリオウィルスカプシドたんぱく質とを含有する融合たんぱく質をコードするキメラコンストラクトを作製して免疫原性を高めてもよい(例えばEP 公報NO: 0259149;
and Evans et al., (1989) Nature 339:385; Huang et al., (1988) J. Virol. 62:3855; and Schlienger et al., (1992) J. Virol.
66:2を参照されたい)。
【0077】
融合たんぱく質は、たんぱく質の発現及び/又は精製を容易にするであろう。例えば本発明のポリペプチドをグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)融合たんぱく質として作製してもよい。このようなGST融合たんぱく質を用いれば、例えばグルタチオン誘導体化マトリックスを用いるなどして、本発明のポリペプチドの精製を簡便化できよう(例えばCurrent Protocols in
Molecular Biology, eds. Ausubel et al., (N.Y.: John Wiley & Sons,
1991) を参照されたい)。別の実施態様では、組換えたんぱく質の所望の部分のN末端にあるpoly-(His)/エンテロキナーゼ開裂部位配列など、精製リーダ配列をコードする融合遺伝子があれば、Ni2+金属樹脂を用いたアフィニティ・クロマトグラフィによる発現後の融合たんぱく質の精製が可能になるであろう。その後、この精製リーダ配列をエンテロキナーゼによる処理で除去して、精製済みたんぱく質を提供できよう(例えばHochuli et al., (1987) J. Chromatography 411: 177; 及び Janknecht et al., PNAS USA 88:8972を参照されたい)。
【0078】
融合遺伝子を作製する技術は公知である。基本的には、異なるポリペプチドをコードする多様なDNA断片の接合は、平滑末端又は付着末端をライゲーションに用い、制限酵素消化を行って適した末端にし、適宜付着末端を充填し、アルカリホスファターゼ処理して不要な接合を防ぎ、酵素によるライゲーションを行うといった常法に従って行われる。別の実施態様では、自動DNA合成装置を含む常法により、融合遺伝子を合成してもよい。代替的には、アンカー・プライマを用いて遺伝子断片のPCR増幅を行うことで、二つの連続する遺伝子断片間に相補な突出部を生じさせ、その後この突出部をアニールしてキメラ遺伝子配列を作製してもよい(例えば
Current Protocols in
Molecular Biology, eds. Ausubel et al., John Wiley & Sons: 1992を参照されたい)。
【0079】
他の実施態様では、本発明の核酸を、プレート、微量定量プレート、スライド、ビーズ、粒子、スフィア、フィルム、ストランド、沈殿物、ゲル、シート、管材料、容器、キャピラリ、パッド、スライス等を含む固体の表面上に固定してもよい。本発明の核酸を、アレイの一部としてチップ上に固定してもよい。該アレイは、ここで解説された通りの本発明のポリヌクレオチドを一つ以上、含んでいてもよい。ある実施態様では、該チップは、本発明の一つ以上のポリヌクレオチドを、ポリヌクレオチド配列のアレイの一部として含む。
【0080】
別の局面は、「アンチセンス療法」における本発明の核酸の使用に関する。ここで用いられる場合のアンチセンス療法とは、本発明のポリペプチドの一つをコードする細胞内mRNA及び/又はゲノムDNAに細胞条件下で特異的にハイブリダイズ又は結合することで、転写及び/又は翻訳を阻害するなどによりそのポリペプチドの発現を阻害するようなオリゴヌクレオチド・プローブ又はそれらの誘導体の投与又はin situ での生成を言う。結合は従来の塩基対相補性によるものでも、又は、例えばDNA二重鎖への結合の場合、二重鎖の大溝との特異的相互作用によるものでもよい。一般的には、アンチセンス療法とは、当業で一般に用いられる範囲の技術を言い、その中には、オリゴヌクレオチド配列への特異的結合に依拠するあらゆる療法が含まれる。
【0081】
当該のオリゴヌクレオチドを、例えばペプチド、ハイブリダイゼーションで惹起される架橋剤輸送剤、ハイブリダイゼーションで惹起される開裂剤等の別の分子に結合させてもよい。アンチセンス分子は「ペプチド核酸(PNA)」でもよい。PNAとは、少なくとも約5ヌクレオチド長を含むオリゴヌクレオチドを、リジンで終わるアミノ酸残基のペプチド骨格に連結して含むアンチセンス分子又は抗遺伝子剤を言う。この末端のリジンは可溶性を当該組成物にもたらす。PNAは相補性の一本鎖DNA又はRNAに優先的に結合して転写の伸長を停止させ、またPEG化すればそれらの細胞内での寿命を伸長させることができよう。
【0082】
本発明のアンチセンス・コンストラクトを、細胞内で転写された時に、本発明のポリペプチドをコードするmRNAの少なくとも固有部分に対して相補的なRNAを生じる発現プラスミドなどとして、送達してもよい。代替的には、本アンチセンス・コンストラクトは、ex vivoで生成されると共に、細胞内に導入されたときに本発明のポリペプチドをコードするmRNA及び/又はゲノム配列にハイブリダイズすることで、発現阻害を引き起こすオリゴヌクレオチド・プローブであってよい。このようなオリゴヌクレオチド・プローブは、エキソヌクレアーゼ及び/又はエンドヌクレアーゼなどの内因性ヌクレアーゼに対して耐性であるためにin vivoで安定な修飾されたオリゴヌクレオチドであってよい。アンチセンスオリゴヌクレオチドとして用いられる核酸分子の例は、DNAのホスホールアミデート、ホスホチオエート及びメチルホスホネート類似体である(更に米国特許第5,176,996号;第5,264,564号;及び第5,256,775号を参照されたい)。加えて、アンチセンス療法で有用なオリゴマーを構築する一般的なアプローチが、例えばvan der Krol et al.,
(1988) Biotechniques 6:958-976; and
Stein et al., (1988) Cancer Res 48:2659-2668に解説されている。
【0083】
更なる局面では、二本鎖の低分子干渉性RNA
(siRNA)や、同RNAを投与する方法が提供される。siRNAは遺伝子発現を減少又は遮断する。理論に縛られることを望むわけではないが、siRNAは、配列特異的なmRNA分解を媒介することにより遺伝子発現を阻害するものだと広く考えられている。RNA干渉 (RNAi) は、特に動物及び植物における配列特異的な転写後遺伝子サイレンシングのプロセスであり、サイレントになる遺伝子に対して配列上相同な二本鎖RNA (dsRNA)により開始される
(Elbashir et al. Nature 2001;
411(6836): 494-8)。従って、本発明のポリヌクレオチドの全部又は一部分に対して実質的な配列同一性を有するsiRNA及び長いdsRNAを用いれば、本発明の核酸の発現を阻害できるであろうと考えられる。
【0084】
代替的には、ここで解説されたIsd ポリペプチドの発現を減少させる又は遮断するsiRNAを、当該標的遺伝子に対する複数のsiRNAコンストラクトを検査することにより、判定してもよい。ある標的遺伝子に対するこのようなsiRNAを化学合成してもよい。個々のRNA鎖のヌクレオチド配列は、その鎖が、阻害しようとする標的遺伝子に対して一つの相補性領域を有するように、選択される(即ち、相補なRNA鎖は、標的遺伝子の発現時に形成されるmRNA転写産物の一領域に対して、又はそのプロセッシング産物の一領域に対して、又は、(+)鎖ウィルスの一領域に対して、相補なヌクレオチド配列を含む)。RNA鎖を合成するステップは、固相合成を含んでいてもよく、この場合、個々のヌクレオチドは、連続する合成サイクル中にヌクレオチド間の3’-5’ホスホジエステル結合の形成を通じて端同士で接合される。
【0085】
ここでは、ここで解説した通りのisd核酸の配列から基本的に成るヌクレオチド配列を含むsiRNAを提供する。siRNA分子は、その一方が基本的に標的遺伝子の配列に相当する、互いに少なくとも基本的に相補なヌクレオチド配列を各鎖が含むような二本の鎖を含むであろう。標的遺伝子の配列に基本的に相当する該配列を、siRNAの「センス標的配列」と言及し、それに対して基本的に相補な配列を「アンチセンス標的配列」と言及する。センス及びアンチセンス標的配列は連続する約15乃至約30ヌクレオチド長;連続する約19乃至約25ヌクレオチド長;連続する約19乃至23ヌクレオチド長、あるいは約19、20、21、22又は23ヌクレオチド長であってよい。センス及びアンチセンス配列の長さは、その長さのセンス及びアンチセンス標的配列を有するsiRNAが、標的遺伝子の発現を、好ましくはホストのインターフェロン応答を著しく誘導することなく、阻害することができるように、決定される。
【0086】
siRNA標的配列は、web.mit.edu/mmcmanus/www/home1.2files/siRNAs
の拡張子を付けたmmcmanusのワールド・ワイド・ウェブで提供されたアルゴリズムのいずれかを用いて予測できよう。
【0087】
センス標的配列は、標的核酸のコーディング又は非コーディング部分あるいはこれらの組合せに基本的又は実質的に同一であってよい。例えば、センス標的配列は、標的核酸あるいはその相補配列の5'側又は3'側非翻訳領域、プロモータ、イントロン又はエキソンに基本的に相補であってよい。更にそれは、このような二つの遺伝子領域間の境界を含む領域に対しても基本的に相補であってもよい。
【0088】
センス標的配列のヌクレオチド塩基組成は、約50%のアデニン (As) 及びチミジン (Ts) 並びに50%のシチジン(Cs) 及びグアノシン(Gs)であってよい。代替的には、塩基組成は、少なくとも50%のCs/Gsであってよく、例えば約60%、70%又は80%のCs/Gsなどであってよい。従って、センス標的配列の選択はヌクレオチドの塩基組成に基づくであろう。siRNAによる標的核酸への到達性に関しては、このようなものは、例えばLee et al. (2002) Nature
Biotech. 19:500で解説されている通りなどで決定することができる。このアプローチは、細胞抽出物中などでの基質到達性を判定するためにプローブとして標的核酸に相補なオリゴヌクレオチドを使用することを含む。このオリゴヌクレオチド・プローブと二重鎖を形成した後は、基質はRNaseHに対して感受性になる。従って、PCRなどで判断したときの、あるプローブに対するRNaseH感受性の程度は、選択された部位の到達性を反映したものであり、対応するsiRNAがこの標的遺伝子の転写を阻害する上でどの程度良好に機能するかどうかの予測値となるであろう。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検定用に、あるいは、第一標的配列を同定するためのアンチセンス・オリゴヌクレオチドを特定するために、アルゴリズム特定プライマを用いてもよい。
【0089】
センス及びアンチセンス標的配列は、両者の配列を含むsiRNAが標的遺伝子の発現を阻害できるように、即ち、RNA干渉を媒介できるように、充分に相補的であることが好ましい。例えば、該配列は、細胞内でなど、所望の条件下でハイブリダイゼーションが可能なように充分に相補的であってもよい。従って、センス及びアンチセンス標的配列は、少なくとも約95%、97%、98%、99%、又は100%同一であってもよく、また、せいぜい5個、4個、3個、2個、1個又は0個のヌクレオチド分で異なっていてもよい。
【0090】
センス及びアンチセンス標的配列は、標的核酸又はその相補体以外の配列とはあまり相互作用しないであろう配列であることも好ましい。これは、選択された配列を、標的細胞のゲノム中の他の配列に比較するなどにより、確認することができる。配列の比較は、例えばここで更に解説するBLASTアルゴリズムを用いるなど、当業で公知の方法に従って行うことができる。もちろん、小規模な実験を行って、特定の第一標的配列が、標的核酸の発現を特異的に阻害することができ、他の遺伝子のそれは基本的には阻害しないことを確認することもできる。
【0091】
更にsiRNAは、センス及びアンチセンス配列に加えて配列を含んでいてもよい。例えば、siRNAは、少なくとも一本の鎖が3'側の突出部を有するような、二本の鎖のRNAから成るRNA二重鎖であってもよい。他方の鎖は平滑末端でも、又は突出部を有していてもよい。当該RNA分子が二本鎖であり、両方の鎖が突出部を含むような実施態様では、突出部の長さは、各鎖毎に同じであっても、又は異なっていてもよい。ある具体的な実施態様では、siRNAは、そのそれぞれが一本のRNA鎖上にあり、対になる約19乃至25個のヌクレオチドから成り、約1個乃至約3個、特に約2個のヌクレオチドの突出部をRNAの両方の3’側末端に有するようなセンス及びアンチセンス配列を含む。本発明のRNAの安定性を更に高めるには、3'側突出部を分解に対して安定化させることができる。ある実施態様では、アデノシン又はグアノシンヌクレオチドなどのプリン系ヌクレオチドを含めることで、RNAを安定化させる。代替的には、例えばウリジン2ヌクレオチド3'側突出部を2'-でオキシチミジンに置換するなど、ピリミジン系ヌクレオチドを修飾類似体に置換することも許容され、RNAiの効率に影響しない。2’ヒドロキシルがあまり存在しないことも、少なくとも組織培養培地では、突出部のヌクレアーゼ耐性を高めるであろう。siRNAのRNA鎖は、5’リン酸基及び3’水酸基を有していてもよい。
【0092】
ある実施態様では、siRNA分子は、二重鎖を形成する二本の鎖のRNAを含む。別の実施態様では、siRNAは、センス及びアンチセンス標的配列がハイブリダイズするヘアピン・ループを形成する一本のRNA鎖から成り、二つの標的配列間の配列は、このヘアピン構造のループを基本的に成すスペーサ配列である。該スペーサ配列は、ヌクレオチドのいずれの組合せでもよく、また、いずれの長さでもよいが、但し条件として、この配列を有するスペーサにより連結される二本の相補なオリゴヌクレオチドがヘアピン構造を形成でき、このときスペーサの少なくとも一部分は、ヘアピンの閉じた末端でループを形成しなければならない。例えば、スペーサ配列は、約3乃至約30ヌクレオチド、約3乃至約20ヌクレオチド、約5乃至約15ヌクレオチド、約5乃至約10ヌクレオチド、又は約3乃至約9ヌクレオチドであってよい。その配列は、ヘアピン構造の形成に干渉しなければいずれの配列であってもよい。特に、スペーサ配列は、好ましくは、第一又は第二の標的配列に対して著しい相同性を有する配列でないとよい。なぜなら、それはヘアピン構造の形成に干渉しかねないからである。またスペーサ配列は、当該核酸が導入されるであろう細胞のゲノム配列など、他の配列に類似でないことも好ましい。なぜならそれにより細胞内で望ましくない効果があるかも知れないからである。
【0093】
当業者であれば、RNAなどの核酸に言及する場合、このRNAは、天然で生じるヌクレオチドや、又は、当該核酸により高い安定性などを提供するヌクレオチド誘導体を含む、から成る場合があることは、理解されよう。当該核酸が所望の態様で機能することができれば、いずれの誘導体も許容できる。例えば、あるsiRNAが標的遺伝子の発現を阻害することができれば、そのsiRNAはヌクレオチド誘導体を含んでいてもよい。
【0094】
例えば、siRNAは、安定性又は他の理由から、一つ以上の修飾された塩基及び/又は修飾された骨格を含んでいてもよい。例えば、天然RNAのホスホジエステル結合を修飾して、窒素又は硫黄へテロ原子の少なくとも一つを含むようにしてもよい。更に、例を挙げるとイノシンなどの通常でない塩基や、あるいは、トリチル化塩基などの修飾された塩基などを含むsiRNAを本発明で用いることができる。当業者に公知の多くの有用な目的を果たさせる、多様な修飾をRNAに施すことができることは理解されよう。ここで用いられる場合のsiRNAという用語は、それが内因性のテンプレートを由来とすることを条件に、このような化学的に、酵素的に、又は代謝的に修飾された形のsiRNAを包含する。
【0095】
siRNAを合成する態様には制限はない。従って、手動及び/又は自動化法を用いて、それをin vitro
又は in vivoで合成してもよい。in vitro 合成は、化学的に行っても、あるいは、例えばDNA(又はcDNA)テンプレートの転写用にクローニングされたRNAポリメラーゼ(例えばT3、T7、SP6)などを用いて酵素的に行っても、あるいは両方の混合法で行ってもよい。更に、二本の鎖のそれぞれを化学的などで合成し、この二本の鎖をハイブリダイズさせて二重鎖を形成させることにより、siRNAを調製してもよい。in vivoでは、siRNA を当業で公知の組換え技術を用いて合成してもよい(例えばSambrook, et al.,
Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition (1989); DNA Cloning,
Volumes I and II (D. N Glover ed. 1985); Oligonucleotide Synthesis (M. J. Gait
ed, 1984); Nucleic Acid Hybridisation (B. D. Hames & S. J. Higgins eds.
1984); Transcription and Translation (B. D. Hames & S. J. Higgins eds.
1984); Animal Cell Culture (R. I. Freshney ed. 1986); Immobilised Cells and Enzymes
(IRL Press, 1986); B. Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning (1984);
Methods in Enzymology シリーズ(Academic
Press, Inc.); Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells (J. H. Miller and M. P. Calos eds. 1987,
Cold Spring Harbor Laboratory), Methods in Enzymology Vol. 154 and Vol. 155 (それぞれWu and Grossman, and Wu,編集), Mayer and Walker, eds. (1987),
Immunochemical Methods in Cell and Molecular Biology (Academic Press, London),
Scopes, (1987), Protein Purification:
Principles and Practice, Second Edition (Springer-Verlag, N.Y.),並びにHandbook of Experimental Immunology,
Volumes I-IV (D. M. Weir and C. C. Blackwell eds 1986)を参照されたい)。例えば、細菌細胞を、siRNAの由来となるDNAテンプレートを含む発現ベクタで形質転換することができる。
【0096】
細胞外で合成された場合のsiRNAを、細胞への導入前に精製してもよい。精製は、溶媒(例えばフェノール/クロロホルム)又は樹脂による抽出、沈殿(例えばエタノール中で)、電気泳動法、クロマトグラフィ、又はこれらの組合せによってよい。しかしながら、精製によってsiRNAが失われる場合があり、従って最小限であっても、あるいは全く行われなくてもよい。siRNAを保存用に乾燥させても、あるいは、RNA鎖のアニーリング及び/又は安定化を促進するために緩衝剤又は塩類を含有させてもよい水溶液中に溶解させてもよい。
【0097】
二本鎖構造は、一本の自己相補性RNA鎖に形成させても、あるいは二本の別々の相補性RNA鎖に形成させてもよい。
【0098】
哺乳動物細胞は細胞外siRNAに応答することができることが公知であるため、dsRNAの輸送機序を有すると考えられる(Asher et al. (1969) Nature 223
715-717)。従って、siRNAを哺乳動物の体腔、間質腔、循環中に細胞外的に投与しても、あるいは経口的に導入してもよい。経口導入の方法には、哺乳動物の食物とのRNAの直接的な混合や、食物として用いられる種を操作して当該RNAを発現するようにした後、 導入しようとする哺乳動物に給餌するといった操作されたアプローチがある。例えばラクトコッカス-ラクティス(原語:Lactococcus lactis)などの食物細菌を形質転換させてdsRNAを産生するようにしてもよい(WO93/17117、WO97/14806を参照されたい)。血管又は血管外循環、血液又はリンパ系や、脳脊髄液は、RNAを注射してもよい部位である。
【0099】
RNAを細胞内的に細胞に導入してもよい。この点では核酸を導入する物理的方法を用いてもよい。siRNAを、Zernicka-Goetz et al. (1997) Development
124, 1133-1137 及び Wianny et al. (1998) Chromosoma 107, 430-439で解説されたマイクロ注射技術を用いて投与してもよい。
【0100】
核酸を細胞内的に導入する他の物理的方法には、例えばsiRNAを金粒子上に固定して、創傷部位に直接、撃ち込むといった遺伝子ガン技術など、siRNAで被覆された粒子の照射がある。このように、本発明は、標的遺伝子の発現を阻害するために遺伝子ガンにsiRNAを用いることを提案するものである。更に、siRNA及び金粒子を含む遺伝子ガン療法に適した組成物も提供される。代替的な物理法には、siRNAの存在下で細胞膜を電気穿孔する方法がある。この方法では大規模なRNAiが可能である。例えば脂質媒介型担体輸送、リン酸カルシウム等の化学的媒介性輸送など、細胞に核酸を導入するための、当業で公知の他の方法を用いてもよい。siRNAを、以下の活性のうちの一つ以上を果たす成分と一緒に導入してもよい:細胞によるRNA取り込みを高める、二重鎖のアニーリングを促進する、アニール後の鎖を安定化させる、あるいは、標的遺伝子の阻害を増加させる。
【0101】
いずれの公知の遺伝子治療法を用いても、RNAを投与することができる。ウィルス粒子中にパッケージングされたウィルス・コンストラクトは、細胞内への発現コンストラクトの効率的な導入と、この発現コンストラクトにコードされたsiRNAの転写の両方を達成するであろう。このように、siRNAを細胞内で生成させることもできる。あるsiRNA分子の一本又は二本の鎖をコードする核酸を含む発現ベクタなどのベクタを、この目的に用いてもよい。当該核酸には、更に、センス標的配列に対して基本的に相補なアンチセンス配列が含まれるであろう。当該核酸には、更に、センス及びアンチセンス標的配列間のスペーサ配列が含まれていてもよい。当該核酸には、更に、例えばRNAポリメラーゼII又はIIIプロモータ及び転写終了シグナルなど、細胞内でセンス及びアンチセンス配列の発現を命令するプロモータも含まれるであろう。前記配列は作動可能に連鎖しているであろう。
【0102】
ある実施態様では、核酸は、RNAコーディング領域(例えばセンス又はアンチセンス標的配列)を、RNAポリメラーゼIIIプロモータに作動可能に連鎖させて含む。このRNAコーディング領域のすぐあとには、pol
IIIによるRNA合成の終了を命令する pol IIIターミネータ配列が来ていてもよい。pol III ターミネータ配列は、一般に、4個以上の連続したチミジン ("T")残基を有する。ある好適な実施態様では、5個の連続したT残基の集まりをターミネータとして用い、このターミネータにより、pol III の転写が、DNAテンプレートの2番目又は3番目のTで停止させられるため、2乃至3個のウリジン("U")
残基がコーディング配列の3’側末端に加えられるだけである。ヒト又はマウス起源の、あるいはいずれか他の種を由来とするH1
RNA 遺伝子又はU6 snRNA 遺伝子を由来とするプロモータ断片などを含め、多種のpol III プロモータを本発明で用いることができる。加えて、pol IIIプロモータを改変/操作することで、全身的又は組織特異的態様のいずれかでの低化学分子による被誘導能など、他の所望の特性を取り入れることもできる。例えば、ある実施態様では、プロモータをテトラサイクリンにより活性化してもよい。別の実施態様では、プロモータをIPTG(lacI系)により活性化してもよい。
【0103】
siRNAは、細胞をベクタなどの二つの核酸で形質転換することにより細胞内で生成させることができ、この場合の各核酸は発現カセットを含み、更にこの各発現カセットはプロモータ、RNAコーディング配列(一方がセンス標的配列であり、そして他方がアンチセンス標的配列である)及び終了シグナルを含む。代替的には、一個の核酸がこれら二つの発現カセットを含んでいてもよい。更に別の実施態様では、核酸は、センス標的配列を、アンチセンス標的配列に連鎖したスペーサに連鎖させて含む、一本鎖RNAをコードしている。該核酸はベクタ内に存在していてもよく、例えば導入された先の細胞でセンス及びアンチセンス標的配列の発現を可能にする真核性の発現ベクタなどの発現ベクタ内などに存在していてもよい。
【0104】
siRNAを生成するベクタは、例えばPaul et al. (2002) Nature Biotechnology
29:505; Xia et al. (2002) Nature Biotechnology 20:1006; Zeng et al. (2002) Mol. Cell 9:1327; Thijn et
al. (2002) Science 296:550; BMC
Biotechnol. 2002 Aug 28;2(1):15; Lee et
al. (2002) Nature Biotechnology
19: 500; McManus et al. (2002) RNA 8:842; Miyagishi et al. (2002) Nature Biotechnology 19:497; Sui et al. (2002) PNAS
99:5515; Yu et al. (2002) PNAS 99:6047; Shi et al. (2003) Trends Genet.
19(1):9; Gaudilliere et al. (2002) J. Biol. Chem. 277(48):46442;
US2002/0182223; US 2003/0027783; WO 01/36646 及び WO 03/006477などに解説されている。更にベクタは市販のものも入手できる。例えばpSilencer はGene Therapy Systems社から入手でき、pSUPER RNAi 系はOligoengineから入手できる。
【0105】
更にここでは、一つ以上のsiRNAを含む、又は、あるsiRNAのRNAコーディング領域をコードする一つ以上の核酸を含む、組成物も提供する。組成物は医薬組成物であってもよく、薬学的に許容可能な担体を含んでもよい。更に、組成物を、この組成物を細胞に又は対象に投与するための器具に入れて提供してもよい。例えば組成物はシリンジ中又はステント上に在ってもよい。更に組成物は、siRNA又は核酸の細胞内への進入を促す薬剤を含んでいてもよい。
【0106】
一般的には、オリゴヌクレオチドは、引用をもってそのそれぞれの全文をここに援用することとするCaruthers et al., Methods in Enzymology (1992) 211:3-19;
Thompson et al., International PCT
Publication No. WO 99/54459; Wincott et
al., Nucl. Acids Res. (1995)
23:2677-2684; Wincott et al., Methods
Mol. Bio., (1997) 74:59; Brennan et
al., Biotechnol. Bioeng. (1998)
61:33-45; and Brennan, 米国特許第6,001,311号などに解説された通りに、当業で公知のプロトコルを用いて合成できよう。一般的には、オリゴヌクレオチドの合成では、5'側末端のジメトキシトリチル、そして3'側末端のホスホールアミジトなど、従来の核酸保護基及びカップリング基を用いる。ある非限定的な例では、小規模な合成を、Applied Biosystems社(ドイツ、ヴァイテルシュタット)から販売されているExpedite 8909 RNA 合成装置で、ChemGenes Corporation 社(米国マサチューセッツ州01721、アッシュランド、ホーマーアベニュー200、Ashland Technology Center)から販売されているリボヌクレオシド・ホスホールアミジトを用いて行う。代替的には、Protogene 社(米国カリフォルニア州、パロ・アルト)が製造する装置など、96ウェル・プレート合成装置や、あるいは、引用をもってそのそれぞれの全文をここに援用することとするUsman et al., J. Am. Chem. Soc. (1987) 109:7845;
Scaringe et al., Nucl. Acids Res. (1990) 18:5433; Wincott et al., Nucl. Acids Res.
(1990) 23:2677-2684; 及び Wincott et al., Methods Mol. Bio. (1997) 74:59に解説されたものなどの方法により、合成を行うこともできる。
【0107】
本発明の核酸分子を別々に合成してもよく、またdsRNA
を、例えばライゲーション(Moore et al., Science (1992) 256:9923; Draper et
al., 国際PCT 公報No. WO 93/23569; Shabarova et al., Nucl. Acids Res. (1991) 19:4247; Bellon et al., Nucleosides & Nucleotides (1997)
16:951; 及びBellon et al., Bioconjugate Chem. (1997) 8:204; あるいは合成及び/又は脱保護後のハイブリダイゼーションなどにより、合成後に形成してもよい。核酸分子は、ゲル電気泳動法により従来の方法を用いて精製することも、あるいは、高速液体クロマトグラフィ(HPLC;上記の Wincott et al.を参照されたい。その全文を引用をもってここに援用することとする)で精製して水中に再懸濁させることもできる。
【0108】
別の実施態様では、細胞中の特定のmRNA又はポリペプチドのレベルを、リボザイム又はこのようなリボザイムをコードする核酸を細胞内に導入することにより、減少させる。mRNA転写産物を触媒作用により切断するようにデザインされたリボザイム分子を、細胞に導入するか、あるいは細胞内で発現させて、標的遺伝子の発現を阻害することもできる(例えばSarver et al., 1990, Science 247:1222-1225 及び米国特許第5,093,246号を参照されたい)。よく用いられるリボザイム・モチーフの一つは、そのための基質配列要件が小さいハンマーヘッドである。ハンマーヘッド・リボザイムのデザインはUsman et al., Current Opin. Struct. Biol. (1996) 6:527-533に開示されている。Usmanはまた、リボザイムの治療的使用も論じている。更にリボザイムはLong et al., FASEB J. (1993) 7:25; Symons, Ann.
Rev. Biochem. (1992) 61:641; Perrotta et al., Biochem. (1992)
31:16-17; Ojwang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. (USA) (1992)
89:10802-10806; 及び米国特許第5,254,678号に解説された通りにも調製及び使用することができる。HIV-I RNA のリボザイムによる切断は米国特許第5,144,019号に解説されており;リボザイムを用いたRNAの切断法は米国特許第5,116,742号に解説されており;そしてリボザイムの特異性を増す方法は米国特許第5,225,337号及びKoizumi et al., Nucleic Acid Res.
(1989) 17:7059-7071に解説されている。ハンマーヘッド構造におけるリボザイム断片の調製及び使用も、Koizumi et al., Nucleic Acids Res. (1989) 17:7059-7071に解説されている。ヘアピン構造におけるリボザイム断片の調製及び使用はChowrira and
Burke, Nucleic Acids Res. (1992) 20:2835に解説されている。またリボザイムは、Daubendiek and Kool, Nat.
Biotechnol. (1997) 15(3):273-277が解説するようにローリング転写によっても作製することができる。
【0109】
標的遺伝子の調節領域(即ち、遺伝子プロモータ及び/又はエンハンサ)に相補なデオキシリボヌクレオチド配列をターゲティングして、身体内での標的細胞中の遺伝子の転写を妨げる三重螺旋構造を形成させることで、遺伝子発現を減少させることができる(概略的にはHelene (1991) Anticancer Drug
Des., 6(6):569-84; Helene et al.
(1992) Ann. N.Y.
Acad. Sci., 660:27-36; 及び Maher (1992) Bioassays 14(12):807-15を参照されたい)。
【0110】
更なる実施態様では、RNAアプタマーを細胞内に導入するか、又は細胞内で発現させることができる。RNAアプタマーは、Tat 及びRev RNA (Good et al.
(1997) Gene Therapy 4: 45-54) などのたんぱく質の翻訳を特異的に阻害することのできる、このようなたんぱく質の特異的RNAリガンドである。
【0111】
4. Isdポリペプチド
ここで解説されたIsdA (SEQ ID NO: 3)、IsdB (SEQ ID NO: 6)、及びIsdC (SEQ ID NO: 9) (Figures 1-3) を含むS. アウレウス ポリペプチドには、天然で精製された産物、化学合成法の産物、及び、細菌、酵母、高等植物、昆虫、及び哺乳動物細胞を含め、原核性又は真核性ホスト細胞から組換え技術により作製された産物、が含まれる。いくつかの実施態様では、ここで開示されたポリペプチドは、Isdポリペプチドの機能を阻害するものである。
【0112】
ポリペプチドは、更に、ここで開示されたアミノ酸配列のいずれかを含む、いずれかから成る、あるいはいずれかから基本的に成るものでもよい。更に他のポリペプチドは、Isdポリペプチドに対して少なくとも約70%、80%、90%、95%、98% 又は99% の同一性又は相同性を有するアミノ酸配列を含む、アミノ酸配列から成る、又はアミノ酸配列から基本的に成るものである。例えば、約1、2、3、4、5又はそれ以上のアミノ酸分で天然型Isdたんぱく質の配列とは異なるようなポリペプチドも考えられる。この違いは保存的置換などの置換、欠失又は追加であってもよい。この違いは、好ましくは、異なる種間では大きく保存されていない領域にあるとよい。このような領域は、多様な種を由来とするIsdたんぱく質のアミノ酸配列をアライメントすることにより、特定できよう。これらのアミノ酸を、例えば別の種に見られるものなどと置換することができる。これら又は他の位置で置換、挿入又は欠失させてもよい他のアミノ酸は、変異誘発研究を生物学的検定と組み合わせることで、特定することができる。
【0113】
更に、たんぱく質は、一つ以上の非天然型アミノ酸を含んでいてもよい。例えば、非伝統的なアミノ酸又は化学的アミノ酸類似体を、たんぱく質への置換又は追加として導入することができる。非伝統的なアミノ酸には、限定はしないが、通常のアミノ酸のD型異性体、2,4-ジアミノ酪酸、アルファ-アミノイソ酪酸、4-アミノ酪酸、Abu、2-アミノ酪酸、ガンマ-Abu、イプシロン-Ahx、6-アミノヘキサン酸、Aib、2-アミノイソ酪酸、3-アミノプロピオン酸、オルニチン、ノルロイシン、ノルバリン、ヒドロキシプロリン、サルコシン、シトルリン、ホモシトルリン、システイン酸、t-ブチルグリシン、t-ブチルアラニン、フェニルグリシン、シクロヘキシルアラニン、ベータ-アラニン、フルオロ-アミノ酸、ベータ-メチルアミノ酸、Calpha-メチルアミノ酸、ナルファ-メチルアミノ酸などのデザイナーアミノ酸、及び一般的なアミノ酸類似体がある。更に、アミノ酸はD型(右旋性)でも、又はL型(左旋性)でもよい。
【0114】
ここに包含される更に他のたんぱく質は、修飾アミノ酸を含むものである。たんぱく質の例は、糖鎖付加、PEG化、リン酸化、又は、由来となった基のたんぱく質の少なくとも一つの生物学的機能を残すいずれか類似のプロセス、により修飾されたものであってもよい誘導体たんぱく質である。
【0115】
たんぱく質を実質的に純粋な製剤として用いてもよく、例えばこの場合、製剤中のたんぱく質の少なくとも約90%が所望のたんぱく質であるなどである。所望のたんぱく質の少なくとも約50%、60%、70%、又は80% を含む組成物も用いてよい。S.アウレウスポリペプチドは、組換え細胞培養株から、硫安塩析又はエタノール沈殿法、酸抽出法、陰イオン又は陽イオン交換クロマトグラフィ、ホスホセルロースクロマトグラフィ、疎水性相互作用クロマトグラフィ、アフィニティ・クロマトグラフィ、ヒドロキシルアパタイト・クロマトグラフィ、レクチン・クロマトグラフィ及び精製に用いられる高速液体クロマトグラフィ(「HPLC」) を含む公知の方法により、回収及び精製することができる。製剤中のたんぱく質の少なくとも約90%が所望のたんぱく質であるなど、たんぱく質を実質的に純粋な製剤として用いてもよい。所望のたんぱく質の少なくとも約50%、60%、70%、又は80%含む組成物も用いてよい。
【0116】
たんぱく質を変性させても、又は未変性のままでもよく、また、その結果凝集させても、又は未凝集のままでもよい。たんぱく質は、当業で公知の方法に従って変性させることができる。
【0117】
いくつかの実施態様では、ここで解説されたIsdポリペプチドは、その可溶性を増す、及び/又は、その精製、同定、検出及び/又は構造上の特徴付けを容易にする、ドメインを含有する融合たんぱく質であってもよい。ドメインの例には、例えば、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、プロテインA、プロテインG、カルモジュリン結合ペプチド、チオレドキシン、マルトース結合たんぱく質、HA、myc、poly アルギニン、poly His、poly His-Asp 又はFLAG 融合たんぱく質及びタグがある。ドメインの更なる例には、例えばシグナルペプチド、タイプIII分泌系標的決定ペプチド、経細胞輸送ドメイン、核内局在シグナルなど、たんぱく質のin vivoでの局在を変化させるドメインがある。多様な実施態様では、本発明のポリペプチドは、一種以上の異種融合を含んでいてもよい。ポリペプチドは同じ融合ドメインの多数のコピーを含んでいてもよく、あるいは、二つ以上の異なるドメインへの融合を含んでいてもよい。融合は、当該ポリペプチドのN末端にあっても、当該ポリペプチドのC末端にあっても、あるいは当該ポリペプチドのN及びC末端の両方にあってもよい。更に、融合たんぱく質の構築を容易にしたり、あるいは、融合たんぱく質のたんぱく質発現又は構造上の拘束を最適化したりするために、本発明のポリペプチドと、融合ドメインとの間にリンカ配列を含めることも、本発明の範囲内にある。別の実施態様では、たんぱく質発現後又はその後にタグを取り外すために、融合ポリペプチドと、本発明のポリペプチドとの間にプロテアーゼ開裂部位を含めるように、本ポリペプチドを構築してもよい。適したエンドプロテアーゼの例には、例えばXa因子及びTEV プロテアーゼがある。たんぱく質をシグナル配列に融合させてもよい。例えば、組換えにより調製された場合、当該ペプチドをコードする核酸を、その5'側末端でシグナル配列に連結して、このたんぱく質が細胞から分泌されるようにしてもよい。
【0118】
いくつかの実施態様では、本発明のポリペプチドを化学的に合成しても、無細胞系でリボゾームにより合成しても、あるいは細胞内でリボゾームにより合成してもよい。本発明のポリペプチドの化学合成は、段階的固相合成、コンホメーション支援されたペプチド断片の再ライゲーションを通じた半合成、クローニングされた又は合成のペプチド・セグメントの酵素ライゲーション、及び、化学的ライゲーション、を含め、多種の当業で公知の方法を用いて行えよう。天然の化学的ライゲーションでは、二つの保護されていないペプチド・セグメントの化学選択的反応を利用して、過渡的なチオエステルで連結された中間体を生成させる。次に、この過渡的なチオエステルで連結された中間体に自発的に転位を行わせて、天然のペプチド結合をライゲーション部位に有する完全長ライゲーション産物を提供する。完全長ライゲーション産物は、無細胞合成で生成されるたんぱく質と化学的に同一である。完全長ライゲーション産物を、可能であればフォールディング修正及び/又は酸化させて、天然のジスルフィド含有たんぱく質分子を形成させてもよい(例えば米国特許第6,184,344号及び第6,174,530号;並びにMuir et
al., Curr. Opin. Biotech. (1993):
vol. 4, p 420; Miller et al., Science
(1989): vol. 246, p 1149; Wlodawer et al.,
Science (1989): vol. 245, p 616;
Huang et al., Biochemistry (1991): vol. 30, p 7402; Schnolzer, et al., Int. J. Pept. Prot. Res. (1992): vol. 40, p 180-193; Rajarathnam et al., Science (1994): vol. 264, p 90; R. E. Offord, “Chemical Approaches
to Protein Engineering”, in Protein Design and the Development of New
therapeutics and Vaccines, J. B. Hook, G. Poste, Eds., (Plenum Press, New York,
1990) pp. 253-282; Wallace et al., J. Biol. Chem. (1992): vol. 267, p 3852;
Abrahmsen et al., Biochemistry
(1991): vol. 30, p 4151; Chang, et al.,
Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1994) 91:
12544-12548; Schnlzer et al., Science (1992): vol., 3256, p 221; 及び Akaji et
al., Chem. Pharm. Bull. (Tokyo)
(1985) 33: 184を参照されたい)。
【0119】
いくつかの実施態様では、本発明のポリペプチドの天然型又は実験由来ホモログを提供することも有利であろう。このようなホモログは、天然型の本ポリペプチドの生物活性のうちのいくつかを促進又は阻害するモジュレータとして、限られた能力ではあるが機能するであろう。このように、特定の生物学的効果を、限られた機能のホモログで処理することで、本発明のポリペプチドの生物学的活性の全てに向かうアゴニスト又はアンタゴニストによる処理に比較して、より小さい副作用で、惹起できよう。例えば、野生型である本発明のポリペプチドの特定のたんぱく質への結合能には干渉するが、当該天然ポリペプチドと他の細胞内たんぱく質との間の複合体形成には実質的に干渉しないようなアンタゴニスト性のホモログを作製できよう。
【0120】
ポリペプチドは、本発明の完全長ポリペプチドを由来としてもよい。そのようなポリペプチドの単離されたペプチジル部分は、このようなポリペプチドをコードする核酸のうちの対応する断片から組換えにより作製されたポリペプチドをスクリーニングすることにより、得られよう。加えて、従来のメリフィールド固相f-Moc又はt-Boc化学法など、当業で公知の技術を用いて、断片を化学合成してもよい。例えば、断片に重複のない所望の長さの断片に、たんぱく質を任意に分割してもよく、あるいは、所望の長さの重複断片に分割してもよい。断片を(組換え又は化学合成により)作製してもよく、本発明のポリペプチドのモジュレータとして機能する能力など、所望の特性を有するペプチジル断片を特定するために検査してもよい。ある例示的な実施態様では、本発明のたんぱく質のペプチジル部分を、本発明のたんぱく質の離散した部分をそれぞれが含有するチオレドキシン融合たんぱく質などとして発現させることにより、結合活性や阻害活性について、検査できよう(例えば米国特許第5,270,181号及び第5,292,646号;並びにPCT公報 WO94/02502を参照されたい)。
【0121】
別の実施態様では、切断型のポリペプチドを調製してもよい。切断型のポリペプチドは、N末端及びC末端のいずれか又は両方から取り出された1乃至20個又はそれ以上のアミノ酸残基を有するものである。このような切断型ポリペプチドは、完全長ポリペプチドよりも発現、精製又は特徴付けがし易いと思われる。例えば切断型のポリペプチドは、完全長ポリペプチドよりも、結晶化し易く、高品質の回折結晶を生じ易く、あるいは高い輝度ピークを持つと共に重複するピークは最小限であるようなHSQCスペクトルを生じ易いと考えられる。加えて、切断型のポリペプチドを使用すると、完全長ポリペプチドのうちで特徴付けがより容易な安定かつ活性なドメインを特定できよう。
【0122】
更に、本発明のポリペプチドの構造を、治療上もしくは予防上の効験、又は安定性(例えばex vivoでの貯蔵寿命、in vivoにおけるたんぱく質分解に対する耐性等)を向上させるなどの目的に向けて、改変することも可能である。このような改変されたポリペプチドは、天然型の当該たんぱく質の少なくとも一つの活性を残すようにデザインされていれば、ここで更に詳述されるポリペプチドの「機能的均等物」と考えられる。このような改変されたポリペプチドは、例えばアミノ酸置換、欠失、又は追加などにより作製でき、またこの場合の置換も、全体的又は部分的に保存的アミノ酸置換から成るものであろう。
【0123】
例えば、ロイシンをイソロイシン又はバリンに、アスパラギン酸をグルタミン酸に、スレオニンをセリンに置換するなど、保存的アミノ酸置換を単独で行っても、その結果できる分子の生物学的活性に大きな影響はないだろうと予測するのは妥当である。あるポリペプチドのアミノ酸配列に変更をした結果、機能的ホモログができるかどうかは、そのバリアント・ポリペプチドの、野生型たんぱく質のそれと類似の応答を生じる能力を評価することで、容易に判断できよう。二箇所以上の置換が起きたポリペプチドは、同じ態様で容易に検査できよう。
【0124】
本発明のポリペプチドの一揃いのコンビナトリアル変異型や切断変異型を作製する方法が提供され、潜在的なバリアント配列(例えばホモログ)を特定するために特に有用である。このようなコンビナトリアル・ライブラリをスクリーニングする目的は、本発明のポリペプチドの活性を調節すると思われるホモログなどを作製したり、あるいは選択的には、まったく新規な活性を持つホモログを作製したりすることである。天然型のたんぱく質と比べて選択的な効力を有するコンビナトリアル由来のホモログを作製してもよい。このようなホモログは治療薬の開発に使用できよう。
【0125】
同様に、変異誘発法により、対応する野生型たんぱく質とは劇的に異なる細胞内半減期を有するホモログが生ずる場合がある。例えば、変更後のたんぱく質を、たんぱく質分解を引き起こす、又は、当該たんぱく質の破壊又は失活を起こす他の細胞プロセスに対してより安定又は不安定にできよう。このようなホモログや、それらをコードする遺伝子を、当該たんぱく質の半減期を調節することによりたんぱく質発現を変化させるために、利用できよう。上述したように、このようなたんぱく質を、治療薬又は治療法の開発に使用できよう。
【0126】
同様な態様で、対応する野生型たんぱく質の活性に干渉することができるため、アンタゴニストとして作用するたんぱく質ホモログを、前記のコンビナトリアル法で作製してもよい。
【0127】
この方法の代表的な実施態様では、ある一集団のたんぱく質ホモログのアミノ酸配列を、好ましくは可能な限り相同性が最も高くなるようにアライメントする。このような一集団のバリアントには、例えば一つ以上の種由来のホモログや、あるいは、同じ種ではあるが変異のために異なるものを由来とするホモログが含まれよう。アライメント後の配列の各位置にあるアミノ酸を選抜して、縮重した組のコンビナトリアル配列を作製する。いくつかの実施態様では、前記のコンビナトリアル・ライブラリを、潜在的なたんぱく質配列の少なくとも一部分をそれぞれが含む一ライブラリのポリペプチドをコードする遺伝子の縮重ライブラリを利用して、作製する。例えば、合成オリゴヌクレオチドの混合物を酵素的にライゲートして遺伝子配列にし、縮重組の潜在的ポリヌクレオチド配列が個々のポリペプチドとして、あるいは選択的には一組のより大きな(ファージ・ディスプレイ用など)融合たんぱく質として、発現可能なようにしてもよい。
【0128】
潜在的なホモログのライブラリを縮重オリゴヌクレオチド配列から作製できると思われる数多くの方法がある。縮重遺伝子配列の化学合成を自動DNA合成装置で行ってもよく、またその後、当該の合成遺伝子を、発現に向けて適したベクタにライゲートしてもよい。縮重組の遺伝子の目的の一つは、一個の混合物中に、所望の一揃いの潜在的たんぱく質配列をコードする配列の全てを提供することである。縮重オリゴヌクレオチドの合成は当業で公知である(例えばNarang (1983) Tetrahedron
39:3; Itakura et al. (1981) Recombinant DNA, Proc. 3rd Cleveland Sympos.
Macromolecules, ed. AG Walton, Amsterdam:
Elsevier pp. 273-289; Itakura et al.
(1984) Annu. Rev. Biochem. 53:323;
Itakura et al. (1984) Science 198:1056; Ike et al., (1983) Nucleic Acid Res. 11:477を参照されたい)。このような技術は、他のたんぱく質の定方向開発に用いられてきた(例えばScott et al. (1990) Science 249:386-390; Roberts et al. (1992) PNAS USA 89:2429-2433; Devlin et
al. (1990) Science 249: 404-406;
Cwirla et al. (1990) PNAS USA 87: 6378-6382; や米国特許第5,223,409号、第5,198,346号、及び 5,096,815を参照されたい)。
【0129】
代替的には、他の形の変異誘発法を用いてコンビナトリアル・ライブラリを作製してもよい。例えば、アラニン・スキャンニング変異誘発法等 (Ruf et al. (1994) Biochemistry 33:1565-1572; Wang et al. (1994) J. Biol. Chem. 269:3095-3099; Balint et al. (1993) Gene
137:109-118; Grodberg et al. (1993) Eur. J. Biochem. 218:597-601; Nagashima et al. (1993) J. Biol. Chem. 268:2888-2892; Lowman et al. (1991) Biochemistry
30:10832-10838; 及び Cunningham et al., (1989) Science 244:1081-1085) 、リンカ・スキャンニング変異誘発法 (Gustin et al. (1993) Virology 193:653-660; Brown et al. (1992) Mol. Cell Biol. 12:2644-2652; McKnight et al. (1982) Science
232:316); 飽和変異誘発法 (Meyers et al. (1986) Science 232:613); PCR 変異誘発法 (Leung et al. (1989) Method Cell Mol Biol 1:11-19); 又はランダム変異誘発法 (Miller et al. (1992) A Short Course in Bacterial Genetics, CSHL Press,
Cold Spring Harbor, NY; and Greener et
al. (1994) Strategies in Mol Biol
7:32-34) を用いてスクリーニングすることにより、たんぱく質ホモログ(アゴニスト及びアンタゴニスト型の両方)を作製し、ライブラリから単離できよう。リンカ・スキャンニング変異誘発法は、特にコンビナトリアル環境において、生理活性のあるたんぱく質の切断型を同定するために魅力的な方法である。
【0130】
点変異及び切断により作製されたコンビナトリアル・ライブラリの遺伝子産物をスクリーニングしたり、特定の性質を有する遺伝子産物を探してcDNAライブラリをスクリーニングしたりするには、幅広い技術が当業で公知である。このような技術は、一般に、コンビナトリアル変異誘発法により作製された、たんぱく質ホモログの遺伝子ライブラリの高速スクリーニングに合うように、適合させられよう。大型の遺伝子ライブラリをスクリーニングするために最も広く用いられている技術は、典型的に、複製可能な発現ベクタ中に遺伝子ライブラリをクローニングするステップと、その結果できたベクタのライブラリで適した細胞を形質転換するステップと、所望の活性を検出すると、その産物が検出された遺伝子をコードするベクタの単離が比較的に容易になるような条件下で当該のコンビナトリアル遺伝子を発現させるステップと、を含む。
【0131】
ある例示的なスクリーニング検定の実施態様では、候補コンビナトリアル遺伝子産物を細胞表面上に呈示させ、そのコンビナトリアル遺伝子産物に対する特定の細胞又はウィルス粒子の結合能を「パンニング検定」で検出する。例えば、ある細菌細胞の表面膜たんぱく質の遺伝子中に当該遺伝子ライブラリをクローニングし (Ladner et al., WO
88/06630; Fuchs et al., (1991) Bio/Technology 9:1370-1371; 及び Goward et
al., (1992) TIBS 18:136-140)、その結果できた融合たんぱく質を、FITC-基質など、この細胞表面たんぱく質に結合する蛍光標識された分子を用いるなど、パンニングにより検出して、潜在的に機能的なホモログについて採点してもよい。細胞は視覚的に検査し、蛍光顕微鏡下で分離してもよく、あるいは、細胞の形態から可能であれば、蛍光標示式細胞分取器で分離してもよい。この方法を用いれば、本発明のポリペプチドと相互作用することのできる基質又は他のポリペプチドを特定できよう。
【0132】
同様な態様で、遺伝子ライブラリを融合たんぱく質としてウィルス粒子の表面上に発現させてもよい。例えば、繊維状ファージ系では、外来のペプチド配列を感染性ファージの表面上に発現させて2つの利点をもたらしてもよい。第一に、これらのファージはアフィニティ・マトリックスに大変高い密度で付着すると考えられるため、多数のファージを一度にスクリーニングできよう。第二に、各感染性ファージがコンビナトリアル遺伝子産物をその表面上に呈示するため、特定のファージがアフィニティ・マトリックスから低い収量で回収されたら、そのファージをもう一回感染させて増幅してもよい。ほとんど同一のE. coli繊維状ファージM13、fd、及びf1群がファージ呈示ライブラリで最も頻繁に用いられているが、それは、ファージgIII 又は gVIII 膜たんぱく質のいずれを用いても、ウィルス粒子の最終的なパッケージングを破壊することなく融合たんぱく質を作製できるからである(Ladner et al., PCT 公報 WO 90/02909; Garrard et al., PCT 公報WO 92/09690;
Marks et al., (1992) J. Biol. Chem. 267:16007-16010;
Griffiths et al., (1993) EMBO J. 12:725-734; Clackson et al., (1991) Nature 352:624-628; 及びBarbas et al., (1992) PNAS USA 89:4457-4461)。他のファージ膜たんぱく質も適宜用いてよい。
【0133】
ここで開示されたポリペプチドを還元して、基準たんぱく質の別の細胞内パートナーへの結合を模倣することのできる、ペプチド又は非ペプチド物質などのミメティックを作製してもよい。上述したものなどの変異技術やチオレドキシン系も、あるたんぱく質のうちで、別のたんぱく質とのたんぱく質対たんぱく質間相互作用に参与する決定基をマッピングするために特に有用である。実例を挙げると、あるたんぱく質のうちで、基質たんぱく質の分子認識に関与する重要な残基を決定し、この残基を用いて、この基質たんぱく質に結合するであろうペプチド・ミメティックを作製してもよい。次に、このペプチド・ミメティックを基質に結合させ、野生型たんぱく質との相互作用に必要な重要な残基を覆うことで、この野生型たんぱく質の阻害剤として用いて、このたんぱく質と基質との間の相互作用を妨げられよう。例えば、スキャンニング変異誘発法を利用するなどにより、あるたんぱく質のうちで基質ポリペプチドの結合に関与するアミノ酸残基をマッピングすると、基質への結合時にこの残基を模倣するペプチド・ミメティック化合物を作製できよう。
【0134】
例えば、ここで解説されたIsdたんぱく質の誘導体は化学修飾されたペプチド及びペプチド・ミメティックでもよい。ペプチド・ミメティックとは、ペプチド及びたんぱく質に基づく、又は、ペプチド及びたんぱく質を由来とする、化合物である。ペプチド・ミメティックは、非天然のアミノ酸、コンホメーション上の拘束、等配電子置換等を用いた、公知のペプチド配列の構造修飾により、得ることができる。当該のペプチド・ミメティックは、ペプチドと非ペプチド合成構造との間の構造空間の連続体を構成する。従ってペプチド・ミメティックは、ファーマコフォアの輪郭を描出したり、そして、ペプチドを親ペプチドの活性を持つ非ペプチド化合物に翻訳したりする際に有用であろう。
【0135】
更に、当該ペプチドのミメトープを提供することもできる。このようなペプチド・ミメティックには、加水分解不能であること(例えば、対応するペプチドを分解するプロテアーゼ又は他の生理条件に対する安定性が高いなど)、特異性が高いこと、及び/又は、細胞分化を刺激する効力が高いこと、などの属性を有させることができる。例示を目的とすると、このような残基の加水分解不能なペプチド類似体は、ベンゾジアゼピン(例えばFreidinger et al., in peptides: Chemistry and Biology, G.R.
Marshall ed., ESCOM Publisher: Leiden, Netherlands, 1988) を参照されたい)、アゼピン(例えばHuffman et al., in Peptides:
Chemistry and Biology, G.R. Marshall ed., ESCOM Publisher: Leiden,
Netherlands, 1988を参照されたい)、置換ガンマラクタム環 (Garvey et al., in Peptides: Chemistry and Biology, G.R.
Marshall ed., ESCOM Publisher: Leiden, Netherlands, 1988)、ケト-メチレンシュードペプチド(Ewenson et al.,(1986) J. Med. Chem. 29:295; 及びEwenson et
al., in Peptides: Structure and
Function (Proceedings of the 9th American Peptide Symposium) Pierce
Chemical Co. Rockland, IL, 1985)、β-ターンジペプチド・コア(Nagai et al., (1985) Tetrahedron Lett 26:647; 及びSato et al. (1986) J Chem Soc Perkin Trans 1:1231)、及びβ-アミノアルコール(Gordon et al. (1985) Biochem Biophys Res Commun 126:419; 及び Dann et
al. (1986) Biochem Biophys Res Commun
134:71)を用いて作製できよう。
【0136】
ペプチド・ミメティックを作製するために実施可能な多種の側鎖置換に加え、本明細書では、ペプチド二次構造のコンホメーション上拘束のあるミミックの使用を具体的に考察する。数多くのサロゲートが、ペプチドのアミド結合の代わりに開発されてきた。アミド結合によく用いられるサロゲートには、以下のグループ:(i)trans-オレフィン、(ii)フルオロアルケン、(iii)メチレンアミノ、(iv)ホスホンアミド、及び(v)スルホンアミド、がある。
【0137】
【化1】

【0138】
サロゲートの例:
【0139】
【化2】

【0140】
加えて、ペプチド骨格のより実質的な修飾に基づくペプチド・ミメティックを用いることもできる。このカテゴリーに入るペプチド・ミメティックには(i)レトロ-インベルソ類似体、及び(ii)N-アルキルグリシン類似体(所謂ペプトイド)がある。
【0141】
【化3】

【0142】
類似体の例:
【0143】
【化4】

【0144】
更に、コンビナトリアル化学法は、新しいペプチド・ミメティックの開発で注目されている。例えば、ある実施態様の所謂「ペプチド・モーフィング」戦略では、幅広いペプチド結合置換体を含むペプチド類似体のライブラリのランダムな作製に焦点が当てられている。
【0145】
【化5】

【0146】
ある実施態様では、ペプチド・ミメティックを当該ペプチドのレトロ-インベルソ類似体として得ることができる。このようなレトロ-インベルソ類似体は、例えばSisto et al. の米国特許第4,522,752号で解説されたものなど、当業で公知の方法に従って作製することができる。あるレトロ-インベルソ類似体は、例えばWO 00/01720で解説された通りに作製することができる。例えば通常のペプチド結合をいくつか含むなどの混合したペプチドを作製してもよいことは理解されよう。一般的な指針として、たんぱく質分解を最も起こし易い部位を変更することが一般的であり、ミメティックの切り換えには、より変化を起こしにくいアミド結合が最適である。最終的な生成物又はその中間体はHPLCで精製することができる。
【0147】
ペプチドは、D型立体異性体である少なくとも一つのアミノ酸又は全てのアミノ酸を含んでいてもよい。他のペプチドは、反転した少なくとも一つのアミノ酸を含むものでもよい。反転したアミノ酸はD型異性体であってもよい。あるペプチドの全てのアミノ酸が反転していても、及び/又は、すべてのアミノ酸がD型立体異性体であってもよい。
【0148】
別の例示的な実施態様では、ペプチド・ミメティックを、あるペプチドのレトロ-エナンチオ類似体として得ることができる。これなどのレトロ-エナンチオ類似体は、市販のD型アミノ酸(又はその類似体)と、例えばWO 00/01720に解説された通りの標準的な固相又は液相ペプチド合成技術とで、合成することができる。最終的な生成物をHPLCで精製すると、純粋なレトロ-エナンチオ類似体が得られよう。
【0149】
更に別の例示的な実施態様では、trans-オレフィン誘導体を当該ペプチドに代えて作製することができる。trans-オレフィン類似体はY.K. Shue et al. (1987) Tetrahedron
Letters 28:3225 の方法や、WO 00/01720に解説された通りに合成することができる。更に、上記の方法で合成されたシュードジペプチドを他のシュードジペプチドに結び付けて、アミド官能基の代わりにいくつかのオレフィン官能基を持つペプチド類似体を作製することも可能である。
【0150】
更に別のクラスのペプチド・ミメティック誘導体にはホスホン酸誘導体がある。このようなホスホン酸誘導体の合成は、公知の合成スキームから適合させることができる。例えばLoots et al. in Peptides: Chemistry and Biology, (Escom Science
Publishers, Leiden, 1988, p. 118); Petrillo et
al. in Peptides: Structure and
Function (Proceedings of the 9th American Peptide Symposium, Pierce
Chemical Co. Rockland, IL, 1985)を参照されたい。
【0151】
数多くの他のペプチド・ミメティック構造が当業で公知であり、当該のペプチド・ミメティックでの使用に容易に適合させることができる。実例を挙げると、ペプチド・ミメティックには、1-アザビシクロ[4.3.0]ノナンサロゲート(Kim et al. (1997) J. Org. Chem. 62:2847を参照されたい)、又はN-アシルピペラジン酸(Xi et al. (1998) J. Am. Chem.
Soc. 120:80を参照されたい)、又は2-置換ピペラジン部分を、拘束のあるアミノ酸類似体(Williams et al. (1996) J.
Med. Chem. 39:1345-1348を参照されたい)として、取り入れてもよい。更に他の実施態様では、いくつかのアミノ酸残基を、例えば単環式もしくは二環式の芳香族又はヘテロ芳香族の核、あるいは二芳香族、芳香族−へテロ芳香族、あるいは二へテロ芳香族の核などのアリール又は二アリール部分と置換することができる。
【0152】
当該のペプチド・ミメティックを、例えば高スループットのスクリーニングと組み合わせたコンビナトリアル合成技術などにより、最適化することができる。
【0153】
更に、ミメトープの他の例には、限定はしないが、たんぱく質ベースの化合物、糖質ベースの化合物、脂質ベースの化合物、核酸ベースの化合物、天然有機化合物、合成由来の有機化合物、抗イディオタイプ抗体及び/又は触媒性抗体、あるいはこれらのフラグメント、がある。ミメトープは、例えば天然及び合成化合物のライブラリを、細胞生存及び/又は腫瘍成長を阻害することのできる化合物を探してスクリーニングするなどにより、得ることができる。更にミメトープは、例えば天然及び合成化合物のライブラリ、具体的には化学的又はコンビナトリアル・ライブラリ(即ち、配列又はサイズでは異なるが、同じビルディング・ブロックを有する化合物のライブラリ)などから得ることができる。更に合理的な薬物デザインなどでもミメトープを得ることができる。合理的薬物デザイン法においては、本発明のある化合物の三次元構造を、核磁気共鳴法(NMR)又はX線結晶学などにより、解析することができる。こうして、この三次元構造を用いれば、コンピュータ・モデリングなどにより潜在的なミメトープの構造を予測することができる。次に、この予測されたミメトープ構造を、例えば化学合成、組換えDNA技術などにより、あるいは、天然源(例えば植物、動物、細菌及び真菌)からミメトープを単離したりすることにより、作製することができる。
【0154】
「ペプチド、そのバリアント及び誘導体」又は「ペプチド及びその類似体」は「ペプチド治療薬」に含まれ、例えばここで解説されたペプチド・ミメティックなど、ペプチド又はその修飾型のいずれをも含むことが意図されている。好適なペプチド治療薬は、細胞生存率を低下させるか、又はアポトーシスを増加させるものである。例えば、ここで解説された検定などで判断した場合に、少なくとも約2、5、10、30又は100の因数で、これらは細胞生存率を低下させる、あるいは、アポトーシスを増加させるであろう。Isdたんぱく質、そのフラグメント又はバリアントの活性は、適した基質又は結合相手、あるいは、以下に解説する通りの予測された活性について検査するために適した他の試薬を用いて、検定できよう。
【0155】
別の実施態様では、ポリペプチドの活性は、RNA及び/又はタンパク質分子の発現レベルについて検定することにより、判定できよう。転写レベルは、例えばノーザン・ブロット、オリゴヌクレオチド・アレイに対するハイブリダイゼーションを用いたり、あるいは、結果的なたんぱく質産物のレベルを検定したりするなどにより、判定できよう。翻訳レベルは、例えばウェスタン・ブロット法を用いたり、あるいは、たんぱく質産物が生じる検出可能なシグナル(例えば蛍光、発光、酵素活性など)を特定したりすることにより、判定できよう。特定の状況に応じて、単一の遺伝子又は複数の遺伝子の転写及び/又は翻訳のレベルを検出することが好ましいであろう。
【0156】
あるいは、細胞内でのDNA複製、転写及び/又は翻訳の全体的速度を測定することが好ましいこともある。一般的には、これは、結果的なDNA、RNA、又はたんぱく質産物に取り込まれる検出可能な代謝産物の存在下で、細胞を成長させることにより、行われよう。例えばDNA合成の速度は、新たに合成されたDNAに取り込まれるBrdUの存在下で細胞を成長させることにより、判定できよう。こうして、BrdUの量を、抗BrdU抗体を用いて組織化学的に判定できよう。
【0157】
他の実施態様では、本発明のポリペプチドをプレート、微量定量プレート、スライド、ビーズ、粒子、スフィア、フィルム、ストランド、沈殿物、ゲル、シート、管材料、容器、キャピラリ、パッド、スライス等を含む固体表面に固定してもよい。本発明のポリペプチドを、アレイの一部として「チップ」に固定してもよい。複数のアドレスを有するアレイは、これらのアドレスの一つ以上に一つ以上の本発明のポリペプチドを含んでいてもよい。ある実施態様では、前記のチップは、アレイの一部として、一つ以上の本発明のポリペプチドを含む。
【0158】
5. Isdワクチン
IsdA、IsdB、及びIsdC ポリペプチドは、S.アウレウスが発現する細胞表面たんぱく質であり、in vivoでの完全な菌力にとって必須である(腎感染のマウス・モデルを用いて示す)。更に、IsdAは、抗IsdAが抗体がコバレセント(原語:covalescent)なヒト血清中で検出さっるように免疫優性である。このように、IsdA、IsdB、及び/又は IsdC ポリペプチドを、S.アウレウス感染を治療するためにワクチン療法として用いてもよい。
【0159】
IsdA、IsdB、及び/又はIsdC ポリペプチド又はポリヌクレオチドをワクチンに調合してもよく、また、ある対象でIsdA、IsdB、及び/又はIsdC に対する免疫応答(例えば細胞性又は体液性)を誘導するためにその対象に投与してもよい。
【0160】
ワクチンに含有させるIsdAたんぱく質の一例は完全長IsdA ポリペプチド又はIsdA ペプチドである。いくつかの実施態様では、組換えIsdA たんぱく質をワクチンに用いることになるであろう。代替的な実施態様では、ワクチンとして用いるIsdB 又はIsdC たんぱく質は完全長IsdB 又はIsdCで、IsdB 又はIsdCのペプチドフラグメントでも、
あるいは組換えIsdB 又はIsdC たんぱく質でもよい。
【0161】
抗原性であると共にワクチンとして用いられるIsd
ペプチドは、多様な方法を用いて判別できよう。あるアプローチでは、抗原性の配列を含有するペプチドを、広く許容された潜在的な抗原性及び/又は暴露の基準を基に、選抜してもよい。このような基準には、たんぱく質の表面暴露分析で判断される、親和性及び想定的抗原指数がある。適した基準の判断は当業者には公知であり、例えばHopp et al., Proc Natl Acad Sci USA 1981; 78: 3824-8;
Kyte et al., J Mol Biol 1982; 157: 105-32; Emini, J Virol
1985; 55: 836-9; Jameson et al., CA BIOS 1988; 4: 181-6;
and Karplus et al., Naturwissenschaften 1985; 72: 212-3に解説されている。これらの基準により表面に露出していると予測されたアミノ酸ドメインは、より疎水性と予測されたドメインよりも優先的に選抜されるであろう。
【0162】
抗原性であると判断されたIsdA、IsdB 及び/又はIsdCの部分は、個々のアミノ酸から当業で公知の方法により化学合成できよう。たんぱく質フラグメントを合成する適した方法はStuart and Young の“Solid Phase ペプチド Synthesis,” Second Edition, Pierce
Chemical Company (1984)に解説されている。
【0163】
代替的には、IsdA、IsdB 又はIsdC の抗原性の直線状のエピトープを、対応するIsd抗体を用いたミメトープ分析により、特定できよう。簡単に説明すると、ミメトープ分析には、ポリペプチドを、重複のあるフラグメントの小さく分割することになるであろう。例えば、重複のある15個のアミノ酸によるペプチドを合成して、完全長ポリペプチドの全長を網羅するようにする。各15アミノ酸のペプチドは、3つのアミノ酸分で重複する。代替的には、15個のアミノから成るペプチド・フラグメントをタンデムな順番でデザインして、直線状アミノ酸配列全体を網羅してもよい。次に、各ペプチドをビオチン化処理して、96ウェル・プレート中でストレプトアビジンで被覆したウェルに結合できるようにしてもよい。多様な抗血清の反応性を、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)で検出してもよい。非特異的な結合を遮断した後、抗Isd抗体を各ウェルに加え、続いてペルオキシダーゼ結合二次抗体、及びペルオキシダーゼ基質を順に添加してもよい。抗Isd抗体は、親和性精製済みの抗完全長組換えIsdであっても、あるいは親和性精製済みの抗IsdA ペプチドであってもよい。代替的には、抗Isd抗体はIsdB又はIsdCに対するものであってもよい。各ウェルの光学密度を450nmで読み取り、二重又は三重にしたウェルを平均化してもよい。同様なELISAからコントロール血清(即ち免疫前血清)から得られた平均値をこの検査免疫グロブリン値から減算し、その結果の値を表にして、どの直線状エピトープが免疫グロブリンによって認識されるかを判断してもよい。
【0164】
更に、直線状エピトープを表す合成ペプチドを用いた競合的結合検定法を用いて、抗原性のフラグメントを決定してもよい。いくつかの実施態様では、抗原性フラグメントは標識済みの鉄の取り込みを阻害するものであろう。
【0165】
更にここでは、IsdA、IsdB、及び/又はIsdC ペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むDNAワクチンも提供する。DNAワクチンの例は、二種以上のIsdAペプチドをコードするものである。代替的なDNAワクチンは、二種以上のIsdB又はIsdCペプチド、あるいは二種以上のIsdA、IsdB、又はIsdC ペプチドのいずれかの組合せをコードするものであろう。候補ワクチン(ペプチド又はDNA)の効験は、ラット、マウス、モルモット、サル及びヒヒなどの適した動物モデルで検査できよう。ワクチンの防御的又は正の効果は、実験動物の生殖能低下に反映されるはずである。
【0166】
IsdA、IsdB、又はIsdC免疫原をコードする核酸は、ゲノムDNA、cDNA、RNA(例えばRT-PCRにより)又はクローニングされた配列を由来とする遺伝子断片のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による増幅により、得られよう。PCRプライマは、当該遺伝子又はcDNAから、それが比較的に反復しない断片の増幅を起こさせるような公知の配列に基づき、選択される。コンピュータ・プログラムを、必要な特異性及び至適増幅目的を持つプライマの設計に用いてもよい。例えば Oligo バージョン5.0
(National Biosciences社製)を参照されたい。増幅用のプライマの設計及び選択に適合する因子は、例えばRylchik, W.
(1993) “Selection of Primers for Polymerase Chain Reaction.” In Methods in Molecular
Biology, vol. 15, White B. ed., Humana Press, Totowa, N.Jに解説されている。配列をGenBank 又は他の公共のソースから得てもよい。代替的には、本発明の核酸を当業で公知の標準的方法、例えば自動DNA合成装置(このような合成装置はBiosearch社、Applied
Biosystems社などから市販されている)を用いるなどして、合成してもよい。ホスト又は細胞内で発現するIsdポリペプチドに適したクローニング・ベクタは上述した標準的技術に従って構築できよう。
【0167】
代替的にはIsd免疫原をインタクト・Isdポリペプチドの酵素切断から調製してもよい。たんぱく質分解酵素の例には、限定はしないが、トリプシン、キモトリプシン、ペプシン、パパイン、V8プロテアーゼ、サブチリシン、プラスミン、及びトロンビンがある。インタクト・ポリペプチドを一種以上のプロティナーゼと一緒に、同時でも、又は順次でもインキュベートすることができる。代替的には、又は加えて、インタクトIsd ポリペプチドをジスルフィド還元性作用物質で処理することができる。次に、限定はしないがゲル濾過クロマトグラフィ、ゲル電気泳動法、及び逆相HPLCを含む当業で公知の技術により、ペプチドを互いに分離できよう。
【0168】
6. Isd抗体及びその使用
IsdA、IsdB、及び/又はIsdCに対する抗体を作製するには、ホスト動物に完全長Isdポリペプチド又はIsdペプチドを注射してもよい。ホストには、所望の配列を包含する異なる長さのペプチドを注射してもよい。例えば、少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145 又は150アミノ酸であるペプチド抗原を用いてもよい。代替的には、あるたんぱく質のうちの一部分がエピトープを規定してはいるが抗原性であるには短すぎる場合、抗体を作製するためにそれを担体分子に結合させてもよい。いくつかの適した担体分子には、キーホール・リンペット・ヘモシアニン、Ig 配列、TrpE、及びヒト又はウシ血清アルブミン、がある。結合は当業で公知の方法で行えよう。このような方法の一つは、フラグメントのシステイン残基を担体分子のシステイン残基に化合させることである。
【0169】
加えて、三次元のエピトープ、即ち非線形エピトープ、に対する抗体を、例えばたんぱく質の結晶データに基づいて調製してもよい。該注射で得られた抗体を、IsdA、IsdB、又はIsdCの短い抗原に対してスクリーニングしてもよい。Isdペプチドに対して調製された抗体は、そのペプチドに対する活性や、完全長Isdたんぱく質に対する活性について、検査できよう。抗体は、少なくとも約10-6M、10-7M、10-8M、10-9M、10-10M、10-11M 又は 10-12M の親和性を、Isd ペプチド及び/又は完全長Isdたんぱく質に対して有していてよい。
【0170】
当該のDNA配列にとって適した細胞や、抗体発現及び分泌のためのホスト細胞は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(“Catalogue of Cell Lines and Hybridomas”
5th edition (1985) Rockville, Md., U.S.A.)を含め、数多くのソースから得ることができる。
【0171】
ポリクローナル及びモノクローナル抗体は、当業で公知の方法により、作製できよう。モノクローナル抗体は、Kohler and Milstein, Nature
1975; 256: 495-7; 及びCampbellの“Monoclonal Antibody Technology, The Production and Characterization
of Rodent and Human Hybridomas” in Burdon et
al., Eds. Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology,
Volume 13, Elsevier Science Publishers, Amsterdam (1985)が解説した免疫学的方法や、Huse et al, Science (1989) 246: 1275-81が解説した組換えDNA法を含め、公知の手法を用いて調製されたハイブリドーマに産生させてもよい。
【0172】
抗体の精製法は当業で公知である。例えばHarlow and Lane (1988) Antibodies: A Laboratory Manual,
Cold Spring Harbor Laboratory, N.Yを参照されたい。精製法には、塩析沈殿(例えば硫安による)、イオン交換クロマトグラフィ(例えば陽イオン又は陰イオン交換カラム上で中性pHで泳動させ、次第にイオン強度を上げた段階的勾配で溶出させるなど)、ゲル濾過クロマトグラフィ(ゲル濾過HPLCを含む)、及びプロテインA、プロテインG、ハイドロキシアパタイト、及び抗抗体などの親和性樹脂上のクロマトグラフィ、が含まれよう。抗体は、当業で公知の方法に従ってアフィニティ・カラム上でも精製できよう。
【0173】
他の実施態様には抗体の機能的均等物があり、その中には、例えば、キメラ化、ヒト化、及び一本鎖抗体や、これらのフラグメントがある。機能的均等物を作製する方法はPCT 出願WO 93/21319;ヨーロッパ特許出願No. 239,400;PCT 出願WO 89/09622;ヨーロッパ特許出願
388,745; 及びヨーロッパ特許出願EP 332,424に開示されている。
【0174】
機能的均等物には、本発明の抗体の可変又は超可変領域のアミノ酸配列と実質的に同じアミノ酸配列を持つポリペプチドがある。「実質的に同じ」アミノ酸配列を、ここで、Pearson and Lipman, (1988) Proc
Natl Acd Sci USA 85:
2444-8に従ったFASTA検索法で判定したときに別のアミノ酸配列に対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも約80%、そしてより好ましくは少なくとも90%の相同性を持つ配列として、定義しておく。
【0175】
キメラ化抗体は、ヒト抗体定常領域を実質的又は排他的に由来とする定常領域と、ヒト以外の哺乳動物由来の可変領域の配列を実質的又は排他的に由来とする可変領域とを含むものであろう。ヒト化抗体は、対応するヒト抗体領域を実質的に又は排他的に由来とする相補性決定領域(CDR)以外の定常領域及び可変領域と、ヒト以外の哺乳動物を実質的又は排他的に由来とするCDRとを含むものであろう。
【0176】
ヒト以外の適した哺乳動物には、モノクローナル抗体作製のもとになると思われるいずれの哺乳動物も含まれよう。ヒト以外の哺乳動物の適した例には、例えば、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、ヤギ、又は霊長類が含まれよう。
【0177】
上述した通りに調製されたIsdA、IsdB又はIsdCに対する抗体は、抗感染剤としても用いられよう。他の実施態様では、機能的Isdフラグメントを認識する抗体を、ランダム・ペプチド・ファージ表示技術で用いてもよい (Eidne et al., Biol Reprod. 63(5):1396-402 (2000))。簡単に説明すると、15又は12量体のランダム・ペプチド・ファージ表示ライブラリを用いて、Isd抗体のFabフラグメントの競合的変位により、機能的Isdペプチドと相互作用すると思われるペプチドを判定することができる。このために、固定されたS.アウレウス細胞を、マルチウェル・プレートのウェル内に付着させた後、IsdA、IsdB 又はIsdCに伴う免疫染色を、ファージ・ライブラリが発現する固有及びランダム・ペプチドの非存在下及び存在下で評価してもよい。競合的ペプチドがアミノ酸配列解析で判別したら、より多くの量のペプチドを合成し、機能的フラグメントを狙った抗体に対する代替的分子アンタゴニストとして用いることができる。もう一つの代替法は、低分子ライブラリを、Fabフラグメントを機能的IsdA、IsdB、又はIsdCフラグメントに競合的に変位させる能力についてスクリーニングする方法である。この態様で同定された分子アンタゴニストを用いれば、Isdポリペプチド又はポリヌクレオチド・ワクチンに対する免疫応答で生じた抗体の効果を中和できよう。
【0178】
更なる実施態様では、IsdA、IsdB、又はIsdC に対する抗体(全抗体又は抗体フラグメント)を、ポリエチレングリコール分子(PEG) などの生体適合性ある物質に当業者に公知の方法に従って結合させて、抗体の半減期を増してもよい。例えば米国特許第6,468,532号を参照されたい。官能化させたPEGポリマは、例えばNektar Therapeutics社から入手できる。市販のものを入手可能なPEG誘導体には、限定はしないが、アミノ-PEG、PEGアミノ酸エステル、PEG-ヒドラジド、PEG-チオール、PEG-スクシネート、カルボキシメチル化PEG、PEG-プロピオン酸、PEGアミノ酸、PEGスクシンイミジルスクシネート、PEGスクシンイミジルプロピオネート、カルボキシメチル化PEGのスクシンイミジルエステル、PEGのスクシンイミジルカルボネート、アミノ酸PEGのスクシンイミジルエステル、PEG-オキシカルボニルイミダゾール、PEG-ニトロフェニルカルボネート、PEGトレシレート、PEG-グリシジルエーテル、PEG-アルデヒド、PEGビニルスルホン、PEG-マレイミド、PEG-オルトピリジル-ジスルフィド、ヘテロ官能性PEG、PEGビニル誘導体、PEGシラン、及びPEGホスホリド、がある。これらのPEG誘導体を結合させる反応条件は、当該ポリペプチド、PEG化の所望の程度、及び利用するPEG誘導体に応じて、様々であろう。PEG誘導体の選択に関与するいくつかの因子には、所望の付着点(例えばリジン又はシステインR基)、誘導体の加水分解安定性及び反応性、結合の安定性、毒性及び抗原性、分析のための適性等がある。
【0179】
6. 医薬組成物
精製済みIsdA、IsdB、又はIsdC ポリペプチド及び核酸は、調合の上、経口、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、膣内、及び、乱切(即ち分岐ニードルを用いるなどして皮膚の一番上の層を引っ掻く)
又はいずれか他の標準的な免疫処理経路を通じてワクチンとして導入できよう。更にIsd ポリペプチドを、腸内で溶解してパイエル板の抗原提示細胞で取り込まれることとなる腸溶カプセルによりワクチンとして経口送達してもよい。Isdポリペプチドの経口送達には、Isdポリペプチドの注射を補ってもよい。
【0180】
更に、ここで解説する通りのS.アウレウス抗Isd抗体、isdアンチセンス核酸及びsiRNAは、それらの目的の用途に応じ、当業で公知のように、多様な手段により投与できよう。例えば、このようなS.アウレウス・アンタゴニスト組成物を経口投与する場合は、これらを錠剤、カプセル、顆粒、粉末又はシロップとして調合してもよい。代替的には、本発明の調合物を、注射(静脈内、筋肉内又は皮下)、点滴輸注製剤又は座薬として非経口投与してもよい。眼粘膜経路による適用の場合、本発明の組成物を目薬又は眼用軟膏として調合してもよい。これらの調合物を従来の手段により調製してよいが、必要な場合には、本組成物を、例えば医薬品添加物、結合剤、崩壊剤、潤滑剤、矯正薬、可溶化剤、懸濁剤、乳化剤又はコーティング剤など、いずれの従来の添加剤と混合してもよい。
【0181】
本発明の処方中、湿潤剤、乳化剤及び潤滑剤、例えばラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウムなど、や、着色剤、剥離剤、コーティング剤、甘味料、着香料及び芳香剤、保存剤及び抗酸化剤が、調合された薬剤中に存在していてもよい。
【0182】
当該の組成物は経口、鼻腔、局所(口腔及び舌下を含む)、直腸、膣、エーロゾル及び/又は非経口投与に適したものであってよい。本調合物を適宜、単位剤形で提供してもよく、そして製薬業で公知のいずれの方法で調製してもよい。一回分の用量を作製するのに担体物質と配合してもよい組成物量は、治療しようとする対象、及び特定の投与形態に応じて様々である。
【0183】
これらの調合物の調製法には、本発明の組成物を担体、そして選択的には一つ以上の付属成分と会合させるステップが含まれる。一般的には、本調合物は、薬剤を液体の担体、又は微細に分割された固体の担体、又は両者に均一かつ密に会合させた後、必要に応じてその生成物を成型することにより、調製される。
【0184】
経口投与に適した調合物は、それぞれが所定量の当該組成物を活性成分として含む、カプセル、カシェ剤、丸剤、錠剤、ロゼンジ(着香した基剤、通常はショ糖及びアカシアゴム又はトラガカントを用いて)、粉末、顆粒の形でも、あるいは、水性もしくは非水性の液体に入れた溶液又は懸濁液として、あるいは、水中油又は油中水液体乳液として、あるいはエリキシル又はシロップとして、あるいは香錠(不活性の基剤、例えばゼラチン及びグリセリン、又はショ糖及びアカシアゴムなどを用いて)としてもよい。また本発明の組成物を巨丸剤、舐剤、又はペーストとして投与してもよい。
【0185】
経口投与用の固体剤形(カプセル、錠剤、丸剤、糖衣錠、粉末、顆粒等)では、本組成物を、クエン酸ナトリウム又はリン酸二カルシウムなどの一種以上の薬学的に許容可能な担体、及び/又は、以下:(1)でんぷん、乳糖、ショ糖、ブドウ糖、マンニトール及び/又は珪酸などの充填剤又は増量剤;(2)カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ショ糖及び/又はアカシアゴムなどの結合剤;(3)グリセロールなどの湿潤剤;(4)寒天、炭酸カルシウム、いも又はタピオカでんぷん、アルギン酸、いくつかの珪酸塩、及び炭酸ナトリウムなどの崩壊剤;(5)パラフィンなどの溶解遅延剤;(6)4級アンモニウム化合物などの吸収加速剤;(7)アセチルアルコール及びモノステアリン酸グリセロールなどの湿潤剤;(8)カオリン及びベントナイト・クレイなどの吸収剤;(9)タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固形ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、及びこれらの混合物などの潤滑剤;並びに(10)着色剤、のいずれか、と混合する。カプセル、錠剤及び丸剤の場合、本組成物には更に緩衝剤を含めてもよい。同様な種類の固形組成物も、ラクトース即ち乳糖や高分子量ポリエチレングリコール等の医薬品添加物を用いて軟質及び硬質充填ゼラチンカプセルの充填剤として用いてもよい。
【0186】
錠剤は、圧縮又は鋳型成型により、選択的には一種以上の付属成分と一緒に作製できよう。圧縮錠剤は、結合剤(例えばゼラチン又はヒドロキシプロピルメチルセルロース)、潤滑剤、不活性の希釈剤、保存剤、崩壊剤(例えばでんぷんグリコール酸ナトリウム又は架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム)、界面活性剤又は分散剤を用いて調製できよう。成型錠剤は、不活性の液体希釈剤で湿らせた本組成物の混合物を適した機械で成型することにより、作製できよう。錠剤や、例えば糖衣錠、カプセル、丸剤及び顆粒などの他の固形剤形は、選択に応じて、切り込みを付けたり、あるいは、腸溶コーティングなどのコーティング及びシェルや、製薬業で公知の他のコーティングと一緒に調製してもよい。
【0187】
経口投与用の液体剤形には、薬学的に許容可能な乳液、マイクロ乳液、溶液、懸濁液、シロップ及びエリキシルがある。当該組成物に加え、液体剤形は、水又は他の溶媒などの当業で通常用いられる不活性の希釈剤、例えばエチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、油類(特に綿実油、落花生、コーン、胚芽、オリーブ、ひまし及びゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフリルアルコール、ポリエチレングリコール及びソルビタンの脂肪酸エステル、並びにこれらの混合物などの可溶化剤及び乳化剤を含むであろう。
【0188】
懸濁液は、本組成物に加え、例えばエトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトール及びソルビタンエステル、微結晶セルロース、メタ水酸化アルミニウム、ベントナイト、寒天及びトラガカント、並びにこれらの混合物などの懸濁化剤を含んでいてもよい。
【0189】
直腸又は経膣投与用の調合物を座薬として提供してもよく、この座薬は、当該組成物を、例えばココアバター、ポリエチレングリコール、座薬用ろう又はサリチル酸塩などを含み、室温では固体であるが体温で液体となるために体腔内で融解して活性物質を放出するような一種以上の適した非刺激性医薬品添加物又は担体と混合することにより、調製できよう。経膣投与に適した調合物には、更に、当業において適していることが公知の担体を含むペッサリ、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、フォーム又はスプレー調合物がある。
【0190】
当該組成物の経皮投与用の剤形には、粉末、スプレー、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、溶液、パッチ及び吸入剤がある。活性成分は、薬学的に許容可能な担体と、そして必要に応じていずれかの保存剤、緩衝剤、又は推進薬と、無菌条件下で混合できよう。
【0191】
軟膏、ペースト、クリーム及びゲルには、当該組成物に加えて、動物及び植物脂肪、油類、ろう、パラフィン、でんぷん、トラガカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコーン、ベントナイト、珪酸、タルク及び酸化亜鉛、又はこれらの混合物などの医薬品添加物を含めてよい。
【0192】
粉末及びスプレーは、当該組成物に加え、乳糖、タルク、珪酸、水酸化アルミニウム、珪酸カルシウム、及びポリアミド粉末、あるいはこれらの物質の混合物などの医薬品添加物を含有していてもよい。スプレーには、付加的に、クロロフルオロカーボンや、ブタン及びプロパンなどの揮発性非置換炭化水素など、通例の推進薬を含めてもよい。
【0193】
選択によっては本発明の組成物をエーロゾルで投与してもよい。これは、本化合物を含有する水性のエーロゾル、リポソーム性製剤、又は固形粒子を調製することにより、達成される。非水性の(例えばフルオロカーボン推進薬)懸濁液を用いることもできよう。音波ネブライザを用いてもよい。なぜならこれらは、当該組成物中に含まれた本化合物の分解を引き起こしかねないせん断力に対する当該作用物質の暴露を抑えるからである。
【0194】
通常、水性のエーロゾルは、本組成物の水溶液又は懸濁液を、従来の薬学的に許容可能な担体及び安定化剤と一緒に調合することにより、作製される。担体及び安定化剤は、特定の当該組成物の要件に依って様々であるが、その中には、典型的には、非イオン性の界面活性剤(Tweens、Pluronics、又はポリエチレングリコール)、血清アルブミンなどの無害のたんぱく質、ソルビタンエステル、オレイン酸、レシチン、グリシンなどのアミノ酸、緩衝剤、塩類、糖類又は糖アルコール類、がある。エーロゾルは一般に等張の溶液から調製される。
【0195】
加えて、Isdベースのワクチンを注射液(静脈内、筋肉内又は皮下)として非経口投与してもよい。本発明のワクチン組成物には、選択的に一種以上のアジュバントを含めてもよい。水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、植物及び動物油等のいずれの適したアジュバントを用いることもできるが、アジュバントの量は、用いる特定のアジュバントの性質に応ずる。更に、抗感染性ワクチン組成物には、ソルビトール、マンニトール、でんぷん、ショ糖、デキストリン、及びグルコースなどの糖質や、アルブミン又はカゼインなどのたんぱく質、及びアルカリ金属リン酸塩等の緩衝剤などの少なくとも一種の安定化剤を含有させてもよい。
好適なアジュバントにはSynerVax(登録商標) アジュバントがある。
【0196】
非経口投与に適した本発明の医薬組成物は、当該の組成物を一種以上の薬学的に許容可能な無菌の等張の水性又は非水性溶液、分散液、懸濁液又は乳液と、あるいは、使用直前に再構築して無菌の注射用溶液又は分散液にできる無菌粉末と、組み合わせて含むものであり、これらには抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、当該調合物を意図するレシピエントの血液と等張にする溶質、あるいは懸濁剤又は増粘剤を含有させてもよい。
【0197】
本発明の医薬組成物に用いてもよい適した水性及び非水性の担体の例には、水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、及びこれらの適した混合物、オリーブ油などの植物油、並びにオレイン酸エチルなどの注射用有機エステル、がある。適した流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング剤を用いたり、分散液の場合には必要な粒子サイズを維持したり、そして界面活性剤を用いるなどにより、維持できよう。
【0198】
更に、本発明のIsd免疫原又はIsd抗体をリポソーム中に封入して注射で投与してもよい。市販のものを入手可能なリポソーム送達系がメリーランド州ロックビル、Novavax社から、名称Novasomes(登録商標)で得られる。これらのリポソームは、免疫原又は抗体送達用に特に調合されている。本発明のある実施態様では、Isdペプチド又は抗体分子を、これらの非ホスホリピドの正の荷電を持つリポソームの表面に結合させて含有するNovasomes(登録商標) を用いてもよい。
【0199】
ここで解説された医薬組成物を用いて、限定はしないがフルンケル、慢性フルンケル症、インペチゴ、急性骨髄炎、肺炎、心内膜炎、熱傷様皮膚症候群、トキシックショック症候群、及び食中毒を含むS.アウレウス感染を原因とする状態又は疾患を防止又は治療できよう。
【0200】
8.Isdの阻害剤のスクリーニング検定例
一般的には、鉄被調節型表面決定因子(Isd)に干渉することで病原性菌力を減らすことのできる作用物質又は化合物は、開示された検定を用いて、天然生成物又は合成(又は半合成)抽出物又は化学的ライブラリの両方の大型ライブラリをスクリーニングすると、同定することができる。薬物発見及び開発の当業者であれば、作用物質の精確なソース(例えば検査抽出物又は化合物)は、本発明のスクリーニング法にとっては重要でないことを理解されよう。従って、実質的にいかなる数の化学的抽出物又は化合物を、ここで解説された方法を用いてスクリーニングすることができる。このような作用物質、抽出物、又は化合物の例には、限定はしないが、植物-、真菌-、原核生物-又は動物-ベースの抽出物、発酵ブロス、及び合成化合物や、既存する化合物の修飾型がある。限定はしないが、糖質-、脂質-、ペプチド-、及び核酸-ベースの化合物を含め、いずれかの数の化合物のランダム又は定方向合成(例えば半合成又は全合成)を発生させるためには、数多くの方法が利用可能である。合成化合物ライブラリはBrandon Associates 社(ニューハンプシャー州メリマック)及びAldrich Chemical 社(ウィスコンシン州ミルウォーキー)から市販のものを入手可能である。代替的には、細菌、真菌、植物、及び動物抽出物の形の天然化合物のライブラリが、Biotics社 (英国サセックス)、Xenova社(英国スロー)、Harbor
Branch Oceangraphics Institute (フロリダ州ファウンテイン・ピース)及びPharmnaMar, U.S.A.社(マサチューセッツ州ケンブリッジ)を含む数多くのソースから市販のものを入手可能である。加えて、天然及び合成的に作製されたライブラリは、必要に応じ、例えば標準的な抽出及び画分法など、当業で公知の方法に従って作製される。更に、必要であれば、いずれのライブラリ化合物も、標準的な化学的、物理的、又は生化学的方法を用いて容易に改変される。
【0201】
加えて、薬物発見及び開発の当業者であれば、それらの抗病原性活性が既知の物質の複製物又は反復配列のデレプリケーション(例えば分類学的デレプリケーション、生物学的デレプリケーション、及び化学的デレプリケーション、又はこれらのいずれかの混合物など)や削除の方法を、可能であれば用いるべきであることを容易に理解するところである。
【0202】
粗抽出物が抗病原性又は抗菌力活性あるいは結合活性を有することが見出されたら、陽性のリード化合物の更なる分画を行って、観察された効果を担う化学的成分を単離することが必要である。このように、抽出、分画、及び精製プロセスの目的は、抗病原性活性を有する粗抽出物中の化学的実体の慎重な特徴付け及び同定である。このような異種の抽出物を分画及び精製する方法は当業で公知である。必要に応じ、病原性の治療にとって有用な作用物質であることが示された化合物を、当業で公知の方法に従って化学修飾する。
【0203】
Isdにコードされたポリペプチドの潜在的な阻害剤又はアンタゴニストには、本発明の核酸配列又はポリペプチドに結合することで、その活性を阻害する又は消滅させるような有機分子、ペプチド、ペプチド・ミメティック、ポリペプチド、及び抗体が含まれよう。潜在的なアンタゴニストには、更に、当該ポリペプチドの結合部位に結合することでこれを占拠して細胞結合分子への結合を妨げ、ひいては正常な生物活性が妨げられるといった低分子がある。他の潜在的なアンタゴニストにはアンチセンス分子がある。
【0204】
更に、ここで解説されたスクリーニング検定法により同定されたS.アウレウス抗Isdアンタゴニストは、上述したように、それらの意図した用途に応じ、多様な手段で投与できよう。
【0205】
8.1 相互作用検定
精製された及び組換えIsdA、IsdB、及びIsdC ポリペプチドを用いて、Isd 遺伝子産物に結合して、たんぱく質対たんぱく質の相互作用を破壊する作用物質を探してスクリーニングする検定法を開発してもよい。IsdA、IsdB、又はIsdCの潜在的阻害剤又はアンタゴニストには、IsdA、IsdB、又はIsdC のいずれかに結合することでその活性を減らす又は無くす低有機分子、ペプチド、ポリペプチド、ペプチド・ミメティック、及び抗体があるであろう。
【0206】
いくつかの実施態様では、Isdポリペプチドに結合して鉄の取り込みを阻害する作用物質を同定してもよく、本方法は、(i)Isdポリペプチドを適した相互作用性分子に、ある作用物質の存在下で、該Isdポリペプチドと相互作用性分子との間の相互作用が、作用物質の非存在下では可能な条件下で接触させるステップと、(ii)該Isdポリペプチドと相互作用性分子との間の相互作用のレベルを判定するステップであって、前記作用物質の存在下における該Isdポリペプチドと相互作用性分子との間の相互作用のレベルが前記作用物質の非存在下に比較して異なることは、前記作用物質が該Isdポリペプチドと相互作用性分子との間の相互作用を阻害することの指標である、ステップとを含む。
【0207】
別の実施態様では、Isdポリペプチドと相互作用性分子との間の相互作用を破壊する作用物質を同定してもよい。ある結合検定例では、IsdA、IsdB、又はIsdCのいずれかの少なくとも一つの生物学的活性部分と、目的の作用物質と、適した相互作用性分子とを含むように反応混合物を作製してもよい。相互作用分子の例はヘモたんぱく質、ヘミン、トランスフェリン、フィブリノーゲン又はフィブロネクチンであろう。ある例示的な実施態様では、目的の作用物質は特定のIsdポリペプチドに対する抗体である。ある抗体がIsdポリペプチドに結合すると、そのIsdポリペプチドのヘム又はヘモたんぱく質への結合機能が阻害されるであろう。ある特定のIsdポリペプチドと適した相互作用性分子との相互作用を検出及び定量すると、該相互作用を阻害する際のある作用物質の効験を判定する手段となる。該作用物質の効験は、多様な濃度の検査対象の作用物質を用いて得られたデータから採った用量反応曲線を作成することにより、評価することができる。更に、コントロール検定も行って、比較のための基線を提供することもできる。このコントロール検定では、ある特定のIsdポリペプチドと適した相互作用性分子との相互作用を、検査対象の作用物質の非存在下で定量してもよい。
【0208】
ある特定のIsdポリペプチドと適した相互作用性分子との間の相互作用は、多種の技術により検出できよう。複合体形成の調節は、例えば放射性標識、蛍光標識、又は酵素標識されたポリペプチドなどの検出可能に標識されたたんぱく質などを用いて、イムノアッセイにより、又は、クロマトグラフィ検出により、定量することができる。
【0209】
ある特定のIsdたんぱく質と適した相互作用性分子との相互作用の測定は、光学バイオセンサ装置で表面プラズモン共鳴技術を用いて直接、観察してもよい。この方法は、大型の(5kDaを超える)ポリペプチドの相互作用を測定するために特に有用であり、また、たんぱく質間相互作用の阻害剤を求めてスクリーニングを行うように適合させることができる。
【0210】
代替的には、ある特定のIsdポリペプチド又は適した相互作用性分子を固定すると、一方又は両方のたんぱく質の錯体形成していない形から錯体を分離したり、検定の自動化に適応したりするために、好ましいであろう。例えば候補作用物質の存在下及び非存在下などでの、ある特定のIsdたんぱく質の相互作用性分子への結合は、反応体を容れるのに適したいずれの容器内でも行わせることができる。例には、微量定量プレート、試験管、及びマイクロ遠心管がある。ある実施態様では、当該たんぱく質をマトリックスに結合可能にするドメインを加えた融合たんぱく質を提供することができる。例えばグルタチオン-S-トランスフェラーゼ/IsdA (GST/IsdA)融合たんぱく質をグルタチオンセファロース・ビーズ(ミズーリ州セントルイス、Sigma Chemical社)又はグルタチオン誘導体化微量定量プレートに吸着させた後、これを例えば35S-標識相互作用性分子と検査対象の作用物質とに配合した後、この混合物を複合体形成を誘導する条件下、例えば塩及びpHの生理条件でインキュベートするがことができるが、よりストリンジェントな条件が好ましいであろう。インキュベート後、ビーズを洗浄して未結合の標識を取り除き、マトリックスを固定し、放射性標識を直接(例えばビーズをシンチラント剤に入れるなど)、判定するか、あるいは、その後複合体を解離させた後に上清中で判定することができる。代替的には、複合体をマトリックスから解離させ、SDS-PAGEで分離し、ビーズ画分中に見られる相互作用性分子のレベルを、標準的な電気泳動技術を用いてゲルから定量することができる。
【0211】
たんぱく質及び他の分子をマトリックス上に固定する他の技術も、この検定で用いるために入手できる。例えば、ある特定のIsdたんぱく質又は適した相互作用性分子のいずれかをビオチン及びストレプトアビジンの結合を利用して固定することができる。例えば、ビオチン化IsdA、IsdB、又はIsdCを、ビオチン-NHS (N-ヒドロキシ-スクシンイミド)から当業で公知の技術(例えばビオチニレーション・キット、Pierce Chemicals社、イリノイ州ロックフォード)を用いて調製し、ストレプトアビジンで被膜した96ウェル・プレート(Pierce Chemical社)のウェルに固定することができる。代替的にはIsdA、IsdB、又はIsdCのいずれかと反応性ではあるが、当該ポリペプチドの相互作用性分子との間の相互作用には干渉しないような抗体をプレートのウェルに誘導体化することができ、IsdA、IsdB、又はIsdC を抗体結合によりこのウェルに捕獲してもよい。上述したように、相互作用性分子及び検査化合物の製剤を、プレートのポリペプチドを提示するウェル中でインキュベートしてもよく、ウェル内に捕獲された化合物の量を、検査対象の作用物質の存在下又は非存在下で定量することができる。このような複合体を検出する方法の例は、GST固定化複合体に関して上述したものに加え、相互作用性分子と反応性の抗体を用いた複合体の免疫検出法や、あるいは、相互作用性分子に伴う酵素活性の検出に依拠する酵素結合検定法がある。
【0212】
例えば、酵素を化学的に結合させたり、あるいは、相互作用性分子との融合たんぱく質として提供したりすることができる。実例を挙げると、相互作用性分子を西洋わさびペルオキシダーゼに化学的に架橋又は遺伝子融合させ、この複合体中に捕獲されたポリペプチドの量を、当該酵素の色素産生性の基質、例えば3,3'-ジアミノ-ベンザジンテトラヒドロクロリド又は4-クロロ-1-ナフトールなど、で評価することができる。同様に、当該ポリペプチド及びグルタチオン-S-トランスフェラーゼを含む融合たんぱく質を提供することができ、複合体形成を、そのGST活性を1-クロロ-2,4-ジニトロベンゼンを用いて定量することができる(Habig et al. (1974) J.
Biol. Chem. 249:7130)。
【0213】
8.2 発現検定
更なる実施態様では、鉄取り込みのアンタゴニストは、 isdA、isdB、及びisdC核酸又はたんぱく質の発現に影響を与えるものでもよい。 このスクリーニングでは、S.アウレウス細胞を対象の化合物で処理した後、
isdA、isdB、及びisdC核酸又はたんぱく質発現に対するこの化合物の効果について検定してもよい。
【0214】
いくつかの実施態様では、スタフィロコッカス・アウレウスにおけるIsdポリペプチドの発現を阻害する作用物質を同定してもよく、本方法は、(i)前記作用物質の存在下又は非存在下で野生型スタフィロコッカス・アウレウス株を培養するステップと、(ii)Isdポリペプチドの発現を比較するステップであって、前記作用物質で処理された細胞におけるIsdポリペプチドの発現減少がより大きいことは、前記作用物質が、スタフィロコッカス・アウレウスにおいてIsdポリペプチドの発現を阻害することの指標である、ステップとを含む。
【0215】
ある代替的な実施態様では、スタフィロコッカス・アウレウスにおけるisd核酸の発現を阻害する作用物質を同定してもよく、本方法は、(i)前記作用物質の存在下又は非存在下で野生型スタフィロコッカス・アウレウス株を培養するステップと、(ii)isd核酸の発現を比較するステップであって、前記作用物質で処理された細胞におけるisd核酸の発現減少がより大きいことは、前記作用物質が、スタフィロコッカス・アウレウスにおいてisd核酸の発現を阻害することの指標である、ステップとを含む。
【0216】
例えば、検査対象の作用物質の存在下又は非存在下で培養されたS.アウレウス細胞から、全RNAを、Chomczynski et al. (1987) Anal. Biochem. 162:156-159に解説された一段階グアニジニウム-チオシアネート-フェノール-クロロホルム法などのいずれかの適した技術を用いて、単離することができる。次に、isdA、isdB、又はisdC の発現を、ノーザン・ブロット分析、ポリメラーゼ連鎖反応法 (PCR)、ポリメラーゼ連鎖反応法と組み合わせた逆転写法(RT-PCR)、及びリガーゼ連鎖反応法と組み合わせた逆転写法 (RT-LCR)などの適した方法により、検定してもよい。
【0217】
ノーザン・ブロット分析は、Harada et al. (1990) Cell 63:303-312に解説された通りに行うことができる。簡単に説明すると、検査対象の作用物質の存在下で培養されたS.アウレウス細胞から全RNA を調製する。ノーザン・ブロットに向けて、このRNAを適した緩衝液(例えばグリオキサール/ジメチルスルホキシド/リン酸ナトリウム緩衝液)中で変性させ、アガロースゲル電気泳動法を行い、ニトロセルロース・フィルタに写し取る。UVリンカによりこのRNAがフィルタに結合したら、このフィルタを、ホルムアミド、SSC、デンハーツ液、変性サケ精子、SDS、及びリン酸ナトリウム緩衝液を含有する溶液中でプレハイブリダイズさせる。S.アウレウスisdA、isdB、又はisdC DNA 配列は、いずれかの適した方法(例えば32P-多重添加DNA標識系(Amersham社))で標識し、プローブとして用いられよう。一晩ハイブリダイズさせた後、フィルタを洗浄し、X線フィルムに感光させる。更に、コントロールも行って、比較のための基線を提供することもできる。コントロールでは、S.アウレウス中のisdA、isdB、又はisdCの発現を、検査対象の作用物質の非存在下で定量してもよい。
【0218】
代替的には、isdA、isdB、又はisdポリペプチドをコードするmRNAのレベルを、Makino et al. (1990) Technique 2:295-301に解説されたRT-PCR法を用いるなどして検定してもよい。簡単に説明すると、この方法は、検査対象の作用物質の存在下で培養されたS.アウレウス細胞から単離された全RNAを、RTプライマ及び適した緩衝液を含有する反応混合物に加えるステップを含む。プライマをアニールさせるインキュベート後、該混合物にRT 緩衝液、dNTP、DTT、RNase 阻害剤及びリバース・トランスクリプターゼを添加することができる。インキュベートしてRNAの逆転写を行わせた後、標識済みプライマを用いてRT産物のPCRを行う。代替的には、プライマを標識する代わりに、標識済みdNTPをPCR反応混合物に含めることができる。PCR増幅は常法に従ってDNA熱サイクラで行うことができる。適した回数の増幅後、PCR反応混合物をポリアクリルアミドゲルで電気泳動させる。このゲルを乾燥させた後、適したバンドの放射活性を、画像分析装置を用いて定量してもよい。RT 及びPCRの反応成分や条件、試薬及びゲル濃度、並びに標識法は当業で公知である。RT-PCR法の変更例は当業者には明白であろう。本発明の核酸を検出することのできる他のPCR法はPCR Primer: A Laboratory Manual (Dieffenbach et al. eds., Cold
Spring Harbor
Lab Press, 1995)に見ることができる。更にコントロールも行って比較のための基線を提供することもできる。このコントロールにおいては、S.アウレウス中のisdA、isdB、又はisdCポリペプチドの発現を、検査対象の作用物質の非存在下で定量してもよい。
【0219】
代替的には、isdA、isdB、及びisdCポリペプチドの発現を、S.アウレウス細胞を検査対象の作用物質で処理した後にイムノアッセイなどの抗体ベースの方法を用いて定量してもよい。限定はしないが、ウェスタン・ブロット、ラジオイムノアッセイ、ELISA(酵素結合免疫吸着検定)、「サンドイッチ」イムノアッセイ、免疫沈降検定法、沈降素反応、ゲル拡散沈降素反応、免疫拡散検定、凝集反応検定、補体−固定検定、免疫放射線測定法、蛍光イムノアッセイ及びプロテインAイムノアッセイなどの技術を用いた競合的及び非競合的検定系を含め、いずれの適したイムノアッセイを用いることもできる。
【0220】
例えば、 isdA、isdB、又はisdCポリペプチドは、検査対象の作用物質で処理されたS.アウレウス細胞から得られる試料中で、例えば二段階サンドイッチ検定法などにより、検出することができる。一番目の段階では、捕獲試薬(例えばIsdA、IsdB、又はIsdC抗体のいずれか)を用いて、特定のポリペプチドを捕獲する。この捕獲試薬は選択によっては固相に固定することができる。二番目のステップでは、直接的又は間接的に標識された検出試薬を用いて、捕獲されたマーカを検出する。ある実施態様では、前記の検出試薬は抗体である。検査対象の作用物質で処理されたS.アウレウス細胞中に存在するIsdA、IsdB、又はIsdC ポリペプチドの量を、未処理のS.アウレウス細胞中に存在する量を参照して計算することができる。
【0221】
適した酵素標識には、例えば、基質と反応することで過酸化水素の生成を触媒するオキシダーゼ群のものがある。グルコースオキシダーゼは、良好な安定性を有し、またその基質(グルコース)が容易に利用できるため、特に好適である。あるオキシダーゼ標識の活性は、酵素で標識された抗体/基質反応により形成される過酸化水素の濃度を測定することにより、検定できよう。酵素を除く他の適した標識には、ヨウ素 (125I、121I)、炭素 (14C)、硫黄 (35S)、トリチウム (3H)などの放射性同位体がある。
【0222】
適した蛍光標識の例には、フルオレセイン標識、イソチオシアネート標識、ローダミン標識、フィコエリトリン標識、フィコシアニン標識、アロフィコシアニン標識、o-フタルデヒド標識、及びフルオレスカミン標識、がある。
【0223】
適した酵素標識の例には、マレイン酸デヒドロゲナーゼ、スタフィロコッカスヌクレアーゼ、デルタ-5-ステロイドイソメラーゼ、酵母-アルコールデヒドロゲナーゼ、アルファ-グリセロールホスフェートデヒドロゲナーゼ、トリオースホスフェートイソメラーゼ、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、アスパラギナーゼ、グルコースオキシダーゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース-6-ホスフェートデヒドロゲナーゼ、グルコアミラーゼ、及びアセチルコリンエステラーゼがある。化学発光標識の例には、ルミノール標識、イソルミノール標識、芳香族アクリジニウムエステル標識、イミダゾール標識、アクリジニウム塩標識、オキサレートエステル標識、ルシフェリン標識、ルシフェラーゼ標識、及びエクオリン標識がある。
【0224】
実施例
以上、概略的に解説した本発明は、以下の実施例を参照されればより容易に理解されよう。しかし、以下の実施例は単に本発明の特定の局面及び実施態様の描写を目的として含まれたものであり、いかなる態様でも本発明を限定するものとしては意図されていない。
【0225】
実施例1: IsdA、IsdB 及びIsdC たんぱく質の発現
IsdA、IsdB、及びIsdC たんぱく質又はこれらのフラグメントは図4に示すように(S. アウレウス- Fe)鉄制限下で発現する。図4に示すSDS-PAGE ゲルは、IsdA、IsdB、及びIsdC たんぱく質はS.アウレウスが発現する最も主な鉄被調節型たんぱく質のうちの三つであることを示している。これらのたんぱく質は、S.アウレウス細胞を鉄豊富な培地(S.アウレウス−Fe)で培養した場合に発現することから、in vivoではおそらく、高度に発現することが推論される。
【0226】
IsdA、IsdB、及びIsdCや、E.coli内での融合体のようにIsdEが過剰発現すると、ライセートが濃く着色する。吸光及び磁気円2色性分光法を用いて、この着色が、E. coli細胞質内から様々な形のプロトポルフォリン及びヘムを捕集するというこれらのたんぱく質の能力が原因であることを確認し、それらのヘム結合における役割を確認した。
【0227】
実施例2: isd遺伝子ノックアウト変異体の作製
更に、isdA、isdB、及びisdCのコーディング領域又はこれらの部分を個別に中断を入れて、isd遺伝子のそれぞれに一箇所の変異を含有する株を作製することができる。isdAコーディング領域には、テトラサイクリンに対する耐性をコードするカセットを挿入して中断を入れた。isdBコーディング領域には、エリスロマイシンに対する耐性をコードするカセットを挿入して中断を入れた。isdCコーディング領域には、カナマイシンに対する耐性をコードするカセットを挿入して中断を入れた。次に、ファージ形質導入法を用いて各変異を同じ遺伝子バックグラウンドに動かし、Sebulsky et al., (2001) J.
Bacteriol. 183:4994-5000に解説された通りの適した耐性を用いて選抜した。更に、isd遺伝子のうちの二つ以上をノックアウトした変異を含有する株(例えばisdA、isdB、及びisdCで変異した株)も作製してもよい。
【0228】
実施例3: 腎感染のマウス・モデルでの生存研究
体重25gのメスのSwiss-Webster マウスをカナダのCharles River Laboratories 社から購入し、マイクロアイソレータ・ケージ内に入れた。細菌を Tryptic Soy
Broth (TSB)中で一晩、成長させ、採集し、無菌の生理食塩水内で3回、洗浄した。パイロット実験では、S.アウレウスNewmanはこのモデルの方がRN6390よりも良好に定着し、急性の、しかし致命的ではない腎感染を得るために尾の静脈に注射するS.アウレウスNewmanの至適量は1×10CFUであることが実証された。無菌生理食塩水に懸濁させた細菌を尾の静脈を通じて静脈内投与した。注射された生存細菌数を、TSB上に接種材料の連続希釈液をプレートすることで確認した。注射後6日目にマウスをと殺し、腎臓を無菌的に取り出した。PowerGen 700 ホモジナイザを用いて腎臓を45秒間、0.1% Triton X-100を含有する無菌PBS中で均質化し、ホモジネート希釈液をTSB寒天上にプレートして、生存細菌を計数した。提示したデータはマウス1匹当りで回収された対数CFUである。
【0229】
結果から、IsdA単独に変異がある、又は、IsdA、IsdB、及びIsdCの全てに変異を持つ株、のいずれかでS.アウレウスの菌力が減衰していることが、S.アウレウス感染のマウス腎膿瘍モデルを用いて示された。興味深いことに、注射から6日後では、回収された変異細菌は、野生型から回収された数の90%、減少しており、これらのたんぱく質は、細菌細胞表面上で発現すると、感染中のその細菌の健康状態において必須の役割を果たすことを示している。更にこのことは、in vivoでこれらのたんぱく質の阻害があると、Isdを発現する細菌の感染が妨げられる(即ち、Isdベースのワクチンの場合)、あるいは、いったん感染が開始された後のIsd発現細菌の除去につながる、可能性があることも示している。
【0230】
実施例4: 次第に高くした過酸化水素濃度下におけるS.アウレウスの生存
ヘムに結合したIsdたんぱく質は、S.アウレウス細胞を、フリーラジカルの有害な効果から防御する酸化的緩衝剤として作用するようである。ヘムの存在下でインキュベートしたNewman株を、IsdA、IsdB、及びIsdCを欠失させてヘムの存在下でインキュベートしたNewman株と直接比較すると、変異細胞は、濃度を高くした過酸化水素では生存できなかったことが示される(図6)。このように、複数のIsdたんぱく質の発現を欠く変異体は、過酸化水素による刺激に対して感受性が高い。
【0231】
図7は、(A)クーマシー及び(B)TMBZ(テトラメチルベンジジン)で染色したSDS-PAGE上を泳動させた野生型S.アウレウス及びS.アウレウスisdA::kmCの両方におけるIsdAの発現を、ヘムのプラス時又はマイナス時で示す。ヘム結合型のIsdAに伴うカタラーゼ活性は、TMBZ化合物を切断して着色した反応生成物を生じる。従って、ヘム結合したIsdAは貪食細胞による酸化的致死に抵抗する助けとなるであろうカタラーゼ活性を有する。
【0232】
実施例5: Isdワクチン
組換えIsdAポリペプチドを含むワクチンは、全身性及び局所的S.アウレウス感染に対してマウスで防御免疫を確立することができる。組換えIsdAたんぱく質は標準的技術を用いて調製できよう。12乃至15匹のSwiss-Webster マウス(25g)の群を全免疫実験に用い、腹腔内(IP)注射することができる。次に、マウスに様々な異なる時点で注射により追加刺激を施すことができる。実験経過にわたって、抗IsdA抗体価について血清を観察することができる。ほぼ30日目には、マウスに静脈内により1×10体のS.アウレウスを負荷し、更に7日間、観察することができる。我々は以前、この数の生物を注射すると、致死的でない腎感染が起きることを示している。感染後様々な時点でマウスをと殺して、腎組織に感染した生物数を観察することができる。更に、予め免疫してあるマウスから採集された血清を用いて受動的免疫実験を行い、他の群のマウスで感染を防止する上でのそれらの効果を調べることもできる。同様な免疫実験は、IsdB 及びIsdC ポリペプチドでも行うことができる。
【0233】
実施例6: IsdA、IsdB、及びIsdC 抗体
A.完全長Isdたんぱく質に対するモノクローナル抗体の作製
BALB/c マウスをまず完全長組換えIsdA、IsdB、又はIsdC の腹腔内注射で免疫し、それから約6週後に天然IsdA、IsdB、又はIsdC で同様に追加刺激することができる。マウスは適したアジュバントで免疫することができる。二回目の注射からほぼ10日後にマウスから血清を得た後、抗HRP活性についてELISAで検査することができる。血清が高レベルの抗HRP活性を示すマウスを細胞融合に選抜することができる。脾臓をこれらのマウスから採集し、ダルベッコの改良イーグル培地(DMEM)で潅流して細胞懸濁液を調製することができる。
【0234】
Bリンパ球及びマクロファージを含有する脾細胞懸濁液を脾臓の潅流により調製することができる。この細胞懸濁液を遠心分離で洗浄及び採集することができる。骨髄腫細胞もこの態様で洗浄することができる。生きた細胞を計数し、その細胞を37℃の水槽内に配置することができる。1mLの50%ポリエチレングリコール(PEG)をDMEMに添加することができる。Balb/c
脾細胞をSP 2/0-Ag 14 マウス骨髄腫細胞にPEGで融合させることができ、その結果のハイブリドーマをヒポキサンチン(H)、アミノプテリン(A)及びチミジン(T) (HAT) 選抜組織培養培地に20%のウシ胎児血清を加えたものの中で成長させることができる。生存中の細胞をコンフルエントになるまで成長させることができる。使用済み培地を抗体価、特異性、及び親和性についてチェックすることができる。細胞をPEG内で1乃至1.5分間、37℃でインキュベートした後、DMEM培地をゆっくりと加えることでPEGを希釈した。細胞をペレットにし、10%のウシ胎児結成を含有する35乃至40mLのDMEMを加えてもよい。次に細胞を組織培養プレート中に分取し、37℃、5%のCO2で加湿したインキュベータ内でインキュベートすることができる。
【0235】
翌日、ヒポキサンチン(H)、アミノプテリン(A)及びチミジン(T)培地(HAT培地)を含有するDMEM-FCSを各ウェルに加えることができる。加えようとする培地中のHATの濃度は必要な最終濃度の2倍にすることができ、即ち., Hfinal =1 × 10-4M; Afinal =4 ×10-7M; 及びTfinal =1.6 × 10-5Mである。
【0236】
次に、プレートをHAT培地と一緒に2週間の間、2乃至3日置きにインキュベートすることができる。その後、融合細胞をHAT培地を含有するDMEM-FCS中で培養することができる。融合細胞がウェルの底面上で1/2乃至3/4までコンフルエントになったら、上清の組織培養流体を取り出し、ELISAでIsdA、IsdB、又はIsdC 特異抗体について検査することができる。マクロファージ又は胸腺細胞フィーダ・プレート上で限界希釈することにより陽性のウェルをクローニングし、DMEM-FCS中で培養することができる。クローニングされたウェルを検査し、3回、再クローニングしてから、統計上有意なモノクローナル抗体を得ることができる。使用済み培地を抗体産生クローンについて検査することができる。
【0237】
B. 完全長Isdたんぱく質に対するポリクローナル抗体の作製
結合していない精製済み組換えIsdA、IsdB 及び/又は IsdC を抗原として用いて二匹のウサギを免疫することができる。簡単に説明すると、1 mgの組換えIsdA、IsdB、又はIsdC を1mlのリン酸緩衝生理食塩水中に再懸濁させ、等容の完全フロイント・アジュバントで乳化させ、ほぼ1ml(全体積のほぼ半分)を各ウサギに腹腔内注射することができる。2及び3週間後に2回目及び3回目の免疫処理を不完全フロイント・アジュバントを用いて行うことができる。血清を酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)を用いて検査して、組換えIsdA、IsdB 又はIsdC 特異抗体価を判定してもよい。ELISAの結果で高い抗体価を示す抗組換えIsdA、IsdB、及び/又はIsdC 含有血清をアフィニティ・クロマトグラフィで、対応するIsdポリペプチドを結合させたセファロース・カラム上で精製することができる。抗組換えIsdA、IsdB、及びIsdC免疫グロブリンを検査して、S.アウレウス感染の菌力を減衰する能力について調べることができる。
【0238】
実施例7: 発現検定
S.アウレウスにおいてIsdAの発現を破壊する作用物質をスクリーニングする検定は以下の通りに行うことができる。野生型S.アウレウス細胞はトリプシン大豆ブロス(TSB)(Difco社)中で、検査作用物質の存在下又は非存在下で一晩、培養することができる。24時間の培養後、細胞を1×PBS(リン酸緩衝生理食塩水)中で洗浄した後、10μgのリゾスタフィンのSTE溶液(0.1 M NaCl、10 mM Tris-HCl
[pH 8.0]、1 mM EDTA [pH 8.0])を用いて37℃で溶解させることができる。次にこの細胞ライセートを、抗IsdA抗体で予め被覆してあるプレートに移し、45乃至60分間、室温でインキュベートすることができる。コントロールとして、未処理のS.アウレウス細胞からの細胞ライセートを用いることができる。水で3回、洗浄した後、アルカリホスファターゼ(A)又は西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)のいずれかに結合させた二次抗体を加え、1時間、インキュベートすることができる。その後、個のプレートを洗浄して遊離抗体複合体から結合したものを分離することができる。化学発光性基質(西洋わさびペルオキシダーゼにはアルカリホスファターゼ又はPierce社製のSuper Signal ルミノール溶液)を用いて結合抗体を検出することができる。マイクロプレート・ルミノメータを用いて、化学発光シグナルを検出することができる。検査対象の作用物質で処理された細胞から得られた細胞ライセート試料中にシグナルがないことは、その検査対象の作用物質が、IsdAの発現を阻害することの指標であろう。同様な発現検定をIsdB及びIsdCについて行ってもよい。
【0239】
本発明の実施にあたっては、他に指定しない限り、当業者の技術範囲内である細胞生物学、細胞培養、分子生物学、トランスジェニック生物学、微生物学、組換えDNA、及び免疫学の従来技術を用いるであろう。このような技術は文献に記載されている。例えばMolecular Cloning: A
Laboratory Manual, 2nd Ed., ed. by
Sambrook, Fritsch and Maniatis (Cold Spring Harbor Laboratory Press: 1989); DNA Cloning, Volumes I and II (D. N.
Glover ed., 1985); Oligonucleotide
Synthesis (M. J. Gait ed., 1984); Mullis et al. 米国特許第4,683,195号;Nucleic
Acid Hybridization (B. D. Hames & S. J. Higgins
eds. 1984); Transcription And Translation
(B. D. Hames & S. J. Higgins eds. 1984); Culture Of Animal Cells (R. I. Freshney, Alan R. Liss, Inc., 1987);
Immobilized Cells And Enzymes (IRL
Press, 1986); B. Perbal, A Practical Guide
To Molecular Cloning (1984); the treatise, Methods In Enzymology (Academic Press, Inc., N.Y.); Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells
(J. H. Miller and M. P. Calos eds., 1987, Cold Spring Harbor Laboratory); Methods In Enzymology, Vols. 154 and 155
(Wu et al. eds.), Immunochemical Methods In Cell And Molecular
Biology (Mayer and Walker, eds., Academic Press, London, 1987); Handbook Of Experimental Immunology,
Volumes I-IV (D. M. Weir and C. C. Blackwell, eds., 1986); Antibodies: A
Laboratory Manual, and Animal Cell Culture (R. I. Freshney, ed. (1987)), Manipulating the Mouse Embryo, (Cold
Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1986)を参照されたい。
【0240】
引用による援用
ここで言及したすべての公開文献及び特許を、各個々の公開文献又は特許を具体的かつ個別に、引用により援用することを提示したのと同じく、それらの全文を引用をもってここに援用するものとする。矛盾があれば、ここでのいずれかの定義を含め、本出願を上位とする。
【0241】
均等物
当業者であれば、ごく慣例的な実験を用いるのみで、ここに記載した本発明の具体的な実施例の均等物を数多く、認識され、あるいは確認できることであろう。このような均等物は以下の請求項に包含されるものとして、意図されている。

【図面の簡単な説明】
【0242】
【図1】図1は、(A) IsdAをコードする核酸配列(SEQ ID NO: 1)、(B)SEQ ID NO: 1の逆相補配列(SEQ ID NO: 2)、及び(C) IsdAの対応するアミノ酸配列(SEQ ID NO: 3)を示す。
【図2】図2は、(A)IsdB (SEQ ID NO: 4)をコードする核酸配列、(B)SEQ ID NO: 4 の逆相補配列(SEQ ID NO: 5)、及び(C)IsdB の対応するアミノ酸配列(SEQ ID NO: 6)を示す。
【図3】図3は、(A)IsdC をコードする核酸配列(SEQ ID NO: 7)、(B)SEQ ID NO: 7の逆相補配列(SEQ ID NO: 8)、及び(C)IsdC の対応するアミノ酸配列(SEQ ID NO: 9)を示す。
【図4】図4は、鉄豊富な培地及び鉄枯渇培地で成長させたS.アウレウスの全細胞ライセートを示すSDS-PAGEゲルである。
【図5】図5は、10体の細菌を尾の静脈内に注射してから6日後のマウスの腎臓から採集されたS.アウレウス数を示すグラフである。
【図6】図6は、ヘムに結合させた野生型S.アウレウスIsdたんぱく質が、isdA、 isdB、isdC をノックアウトしてあるS.アウレウスに比較して高い過酸化水素(H2O2)条件下で生存することができることを示す表である(Pは細菌の生存率が90%を越えることを示す)
【図7】図7A及び7Bは、(A)クーマシー(全たんぱく質に対し)で染色した及び(B)TMBZ(テトラメチルベンジジン)で染色した、野生型及びisdAノックアウトS.アウレウス由来のたんぱく質を示すSDS-PAGEゲルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
IsdA (SEQ ID NO: 3) ポリペプチド及び薬学的に許容可能な担体を含むワクチン。
【請求項2】
前記ワクチンが注射用調合物中にある、請求項1に記載のワクチン。
【請求項3】
アジュバントを更に含む、請求項1に記載のワクチン。
【請求項4】
IsdB (SEQ ID NO: 6) ポリペプチド 及び薬学的に許容可能な担体を含むワクチン。
【請求項5】
前記ワクチンが注射用調合物中にある、請求項4に記載のワクチン。
【請求項6】
アジュバントを更に含む、請求項4に記載のワクチン。
【請求項7】
IsdC (SEQ ID NO: 9) ポリペプチド 及び薬学的に許容可能な担体を含むワクチン。
【請求項8】
前記ワクチンが注射用調合物中にある、請求項7に記載のワクチン。
【請求項9】
アジュバントを更に含む、請求項7に記載のワクチン。
【請求項10】
IsdA(SEQ ID NO: 3)に結合する有効な抗菌量の抗体と薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物。
【請求項11】
IsdB(SEQ ID NO: 6)に結合する有効な抗菌量の抗体と薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物。
【請求項12】
IsdC(SEQ ID NO: 9)に結合する有効な抗細菌量の抗体と薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物。
【請求項13】
SEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 4、又はSEQ ID NO: 7 に対してアンチセンスな核酸と薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物。
【請求項14】
SEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 4、又はSEQ ID NO: 7 の核酸を含むsiRNA分子と薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物。
【請求項15】
対象に請求項1、4、又は7のいずれかのワクチンを有効量、投与するステップを含む、前記対象においてスタフィロコッカス-アウレウスの感染により引き起こされる、又は寄与する疾患又は状態を治療又は防止する方法。
【請求項16】
対象に請求項10に記載の医薬組成物を有効量、投与するステップを含む、前記対象においてスタフィロコッカス-アウレウスの感染により引き起こされる、又は寄与する疾患又は状態を治療又は防止する方法。
【請求項17】
対象に請求項11に記載の医薬組成物を有効量、投与するステップを含む、前記対象においてスタフィロコッカス-アウレウスの感染により引き起こされる、又は寄与する疾患又は状態を治療又は防止する方法。
【請求項18】
対象に請求項12に記載の医薬組成物を有効量、投与するステップを含む、前記対象においてスタフィロコッカス-アウレウスの感染により引き起こされる、又は寄与する疾患又は状態を治療又は防止する方法。
【請求項19】
対象に請求項13に記載の医薬組成物を有効量、投与するステップを含む、前記対象においてスタフィロコッカス-アウレウスの感染により引き起こされる、又は寄与する疾患又は状態を治療又は防止する方法。
【請求項20】
対象に請求項14に記載の医薬組成物を有効量、投与するステップを含む、前記対象においてスタフィロコッカス-アウレウスの感染により引き起こされる、又は寄与する疾患又は状態を治療又は防止する方法。
【請求項21】
(i)Isdポリペプチドを適した相互作用性分子に、ある作用物質の存在下で、前記Isdポリペプチドと相互作用性分子との間の相互作用が、前記作用物質の非存在下では可能な条件下で接触させるステップと、
(ii)前記Isdポリペプチドと相互作用性分子との間の相互作用のレベルを判定するステップであって、前記作用物質の存在下における前記Isdポリペプチドと相互作用性分子との間の相互作用のレベルが前記作用物質の非存在下に比較して異なることは、前記作用物質が該Isdポリペプチドと相互作用性分子との間の相互作用を阻害することの指標である、ステップと
を含む、Isdポリペプチドに結合して鉄の取り込みを阻害する作用物質を同定する方法。
【請求項22】
前記Isdポリペプチドがスタフィロコッカス-アウレウス IsdA、IsdB、及びIsdCから成る群より選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
(i)ある作用物質の存在下又は非存在下で野生型スタフィロコッカス・アウレウス株を培養するステップと、
(ii)Isdポリペプチドの発現を比較するステップであって、前記作用物質で処理された細胞におけるIsdポリペプチドの発現減少がより大きいことは、前記作用物質が、スタフィロコッカス・アウレウスにおいてIsdポリペプチドの発現を阻害することの指標である、ステップと
を含む、スタフィロコッカス・アウレウスにおいて
IsdA、IsdB、及びIsdCポリペプチド定する方法。
【請求項24】
(i)ある作用物質の存在下又は非存在下で野生型スタフィロコッカス・アウレウス株を培養するステップと、
(ii)isd核酸の発現を比較するステップであって、前記作用物質で処理された細胞におけるisd核酸の発現減少がより大きいことは、前記作用物質が、スタフィロコッカス・アウレウスにおいてisd核酸の発現を阻害することの指標である、ステップと
を含む、スタフィロコッカス・アウレウスにおいてisdA、isdB及びisdC核酸から成る群より選択される核酸の発現を阻害する作用物質を同定する方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−517900(P2008−517900A)
【公表日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−537422(P2007−537422)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【国際出願番号】PCT/IB2005/004126
【国際公開番号】WO2006/059247
【国際公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(507136349)ザ ユニバーシティ オブ ウェスタン オンタリオ (1)
【氏名又は名称原語表記】The Universityof Western Ontario
【住所又は居所原語表記】2−1151 RichmondStreet, London, Ontario N6A 5B8 (CA).
【Fターム(参考)】