説明

スタンパ取付装置および熱転写プレス機械

【課題】 スタンパの浮き上がりを良好に防止でき、加熱、冷却効率を良好にできるスタンパ取付装置および熱転写プレス機械を提供すること。
【解決手段】 スタンパホルダ23(23A,23B)にスタンパ24(24A,24B)の全面に対応する位置に貫通孔231(231A,231B)を形成する。貫通孔231(231A,231B)を連通溝232(232A,232B)で連通し、温調プレート22(22A,22B)の両側において吸引用孔222(222A,222B)と連通させる。スタンパ24(24A,24B)を全面にわたって吸着保持できるので、スタンパ24(24A,24B)の中央部の浮き上がりを防止できる。またスタンパ24(24A,24B)がスタンパホルダ23(23A,23B)を介して温調プレート22(22A,22B)に良好に密着するので、加熱、冷却効率を良好にできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタンパ取付装置およびこのスタンパ取付装置を備えた熱転写プレス機械に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、1次成形された樹脂板に、微細な凹凸面を有するスタンパを加熱してプレスすることにより、スタンパの凹凸パターンを樹脂板表面に転写する熱転写プレス機械が開発されている(例えば、特許文献1参照)。この熱転写プレス機械では、スタンパを金型に取り付けるために、金型にエア通路が形成されており、スタンパの周辺部をエア通路から吸引することにより、スタンパを金型に吸着させている。
しかしながら、この熱転写プレス機械では、スタンパの周辺部を吸引しているので、中央部を良好に吸引することができず、スタンパが浮き上がってしまい、スタンパの中央部を十分に加熱することができない。したがって、良好な転写性能を得ることができない場合がある。特に、熱転写プレス機械が得意とする大型の材料への熱転写の場合には、スタンパの寸法も大きくなるため、問題はより深刻となる。
【0003】
このスタンパの浮き上がりの問題を解決する方法として、スタンパ全面を吸引する方法が考えられる。例えば、溶融樹脂を射出して成形品を得る射出成形機においても、微細な凹凸が形成されたスタンパを金型内に配置して射出成形品の表面に凹凸を形成する場合がある。このような射出成形機では、金型においてスタンパが配置される領域に等間隔に貫通孔が形成されており、これらの貫通孔からエアを吸引することによってスタンパを金型に吸着する(例えば特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2003−1705号公報(第3頁、第1図および第2図)
【特許文献2】特開2004−130515号公報(第1図および第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この射出成形機においては、金型を加熱または冷却するために金型内部に流体通路が形成されている。したがって、スタンパを吸着するための貫通孔は、これらの流体通路の形成位置を避けて形成しなければならない。つまり反対に、流体通路は、貫通孔の形成位置を避けて形成されなければならないため、十分な数の流体通路を確保できず、金型の加熱、冷却効率が悪くなってしまうという問題がある。このため、金型の加熱または冷却に時間がかかり、成形のサイクルタイムが長くなってしまう。したがって、この構造を熱転写プレス機械に適用したとしても、加熱、冷却効率が悪いため、サイクルタイムを短くすることが大変困難である。
【0006】
本発明の目的は、スタンパの浮き上がりを良好に防止でき、加熱、冷却効率を良好にできるスタンパ取付装置、およびこのスタンパ取付装置を備えた熱転写プレス機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、スタンパの凹凸パターンを基材に転写する熱転写プレス機械に、スタンパを取り付けるスタンパ取付装置であって、熱転写プレス機械に取り付けられるとともに、スタンパを所定温度に調整する温調プレートと、温調プレートとスタンパとの間に設けられるスタンパホルダとを備え、スタンパホルダには、スタンパが当接される領域全体にわたってエア吸引用の複数の貫通孔が形成され、温調プレートおよびスタンパホルダのうち少なくともいずれか一方には、貫通孔に連通する連通路が形成されることを特徴とする。
【0008】
第2の発明は、第1の発明のスタンパ取付装置において、連通路は、スタンパホルダの温調プレートに対向する面に形成される連通溝とされることを特徴とする。
第3の発明は、第1の発明または第2の発明のスタンパ取付装置において、貫通孔は、略等間隔に配置され、連通路は、複数の貫通孔を連通することを特徴とする。
第4の発明は、第1の発明から第3の発明のいずれかのスタンパ取付装置において、温調プレートには、内部に温度調整用の流体が流通する流体通路が形成され、流体通路が形成される領域の外側には、連通路に連通するプレート貫通孔が形成されることを特徴とする。
第5の発明は、第4の発明のスタンパ取付装置において、温調プレートのスタンパホルダに対向する面には、複数の連通路とプレート貫通孔とを連通するプレート連通溝が形成されることを特徴とする。
【0009】
第6の発明は、第1の発明から第5の発明のスタンパ取付装置を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明によれば、スタンパホルダに貫通孔が形成され、温調プレートおよびスタンパホルダのうち少なくともいずれか一方に連通路が形成されているので、連通路内のエアを吸引すると、連通路および貫通孔を介してスタンパがスタンパホルダ側に吸引され、スタンパホルダに吸着する。このとき、貫通孔がスタンパが当接される領域全体にわたって形成されているので、スタンパ全面がスタンパホルダに吸着され、スタンパの浮き上がりが防止される。さらに、スタンパホルダは連通路のエアが吸引されることによって温調プレートに吸着される。これにより、温調プレートからの熱がスタンパの中央部にも良好に伝達され、熱転写プレス機械でプレスを行った場合に、スタンパの凹凸パターンが良好に基材に転写される。
また、スタンパホルダに、スタンパの領域全部にわたる貫通孔が形成されているので、温調プレートには例えばスタンパの中央部分に対応する位置に貫通孔を設ける必要がない。したがって、温調プレートの全面を利用してスタンパの温度調整を行うことが可能となるので、スタンパの加熱、冷却効率が良好となる。また、例えば温調プレートの温度調整を流体で行い、温調プレート内部に流体が流通する流体通路を形成する場合にも、流体通路を回避しながら貫通孔を形成する必要がないので、流体通路を多数設けることが可能となり、これによっても加熱、冷却効率が良好となる。
【0011】
第2の発明によれば、連通路が連通溝となっているので、例えばエッチングなどの適宜な方法によってスタンパホルダ表面に溝を形成すればよく、連通路を孔で構成する場合に較べて、連通路の形成が簡単となる。また、連通路が、スタンパホルダの温調プレートに対向する面に形成されているので、スタンパに対向する面には連通路が露出しない。したがって、熱転写プレス機械によってスタンパを基材にプレスする際にも、連通溝の形状が基材に転写されるおそれがなく、転写の品質が良好となる。
【0012】
第3の発明によれば、貫通孔が略等間隔に配置されているので、スタンパの保持性能が安定し、スタンパの吸着が確実となる。また、連通路が複数の貫通孔を連通するので、貫通孔の数に対して連通路の数が少なくてすみ、スタンパホルダおよび/または温調プレートの構成が簡略化し、製造が簡単となる。
【0013】
第4の発明によれば、プレート貫通孔が流体通路の領域外側に形成されているので、温調プレートの温度調整に必要な流体通路の面積や寸法が確保される。またこの場合でも、連通路および貫通孔によってスタンパ全面が吸着されるので、温調プレートの性能を良好に確保しながら、スタンパが確実に取り付けられる。
【0014】
第5の発明によれば、温調プレートにプレート連通溝が形成されているので、複数の連通路がプレート連通溝によって連通される。したがって、例えばスタンパの寸法が大きく、スタンパホルダに多数の貫通孔が形成されている場合などでも、連通路を複数形成し、その連通路の端部をプレート連通溝まで伸ばすことによって容易にスタンパ吸引用の通路が確保できる。また、プレート連通溝によって、複数のプレート貫通孔を連通すれば、プレート貫通孔内の空気圧を均一化させることができ、スタンパの吸引力を均一化できる。
【0015】
第6の発明によれば、熱転写プレス機械が前述のスタンパ取付装置を備えているので、前述のスタンパ取付装置と同様の効果が得られ、スタンパの中央部の浮き上がりが防止され、スタンパが熱転写プレス機械に確実に取り付けられる。したがって、スタンパに熱が良好に伝達されるので、温調が確実となり、凹凸パターンの転写性能が良好となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1には、本発明の一実施形態にかかる熱転写プレス機械1の正面図が示されている。本実施形態では、熱転写プレス機械1は、基材に凹凸パターンを熱転写することによって、液晶ディスプレイのバックライトに用いられる導光板を製造するものである。
図1において、熱転写プレス機械1は、ベッド10上に立設される4本のアプライト11(図1ではそのうちの2本を図示)と、アプライト11の上面に設置されるクラウン12と、クラウン12の下方に設けられるスライド13と、スライド13に対向し、ベッド10上に配置されるボルスタ14と、スライド13の下方に設けられスタンパ24(24A)を取り付けるスタンパ取付装置20(20A)と、ボルスタ14上に設けられスタンパ24(24B)を取り付けるスタンパ取付装置20(20B)と、スタンパ24(24A,24B)とを備えている。
クラウン12内部には、スライド13を上下動させるスライド駆動装置が内蔵されており、このスライド駆動装置によってスライド13が上下動すると、スタンパ24(24A,24B)が近接離間し、スタンパ24(24A,24B)の間に配置される基材(図示せず)がプレスされる。
【0017】
図2には、熱転写プレス機械1のスタンパ取付装置20(20A,20B)が示されている。この図2において、スタンパ取付装置20(20A,20B)は、スライド13の下面およびボルスタ14の上にそれぞれ配置されて一対設けられている。これらのスタンパ取付装置20(20A,20B)は、スライド13の下面またはボルスタ14の上面に設けられる真空吸引用部材15,16と、この真空吸引用部材16の下面または真空吸引用部材15の上面に設けられる断熱材21(21A,21B)と、断熱材21(21A,21B)の下面または上面に設けられる温調プレート22(22A,22B)と、温調プレート22(22A,22B)の下面または上面に設けられるとともに、スタンパ24(24A,24B)を吸引保持するスタンパホルダ23(23A,23B)と、真空吸引用部材15,16に接続される図示しない真空装置(エア吸引装置)と、真空吸引用部材15,16に設けられ熱転写プレス機械1がプレスを行う際にスタンパ24(24A,24B)周辺を真空にするプレス用真空装置25とを備えている。
【0018】
真空吸引用部材15,16の内部には、エア吸引用の通路151,161がそれぞれ形成されている。通路151,161は、真空吸引用部材15,16の側面に開口部152,162を有し、これらの開口部152,162に真空装置が接続されている。通路151,161は、真空吸引用部材15,16の表面に対して略平行に形成され、断熱材21(21A,21B)が当接される領域の外周部に対応する位置に略矩形状に形成されている。この通路151,161の途中には、真空吸引用部材15,16の厚み方向に沿って複数箇所の通路153,163が形成されている。これらの通路153,163は、通路151,161と真空吸引用部材15,16の外側とを連通しており、真空吸引用部材15,16において断熱材21(21A,21B)に対向する側の表面に開口している。
断熱材21(21A,21B)は、所定厚みを有し、真空吸引用部材15,16と温調プレート22(22A,22B)との間に介装されている。これらの断熱材21(21A,21B)は、温調プレート22(22A,22B)から真空吸引用部材15,16への熱の伝達を防止している。断熱材21(21A,21B)には、真空吸引用部材15,16の通路153,163の開口部に対応する位置に、厚み方向に貫通する複数の貫通孔211(211A,211B)が形成されている。
【0019】
温調プレート22(22A,22B)は、厚み約8mm〜10mmの平板状部材であり、その一方の面(上面)が断熱材21(21A,21B)に密着して取り付けられている。温調プレート22(22A,22B)の内部には、厚み方向略中央に、温調用流体が流通する流体通路221(221A,221B)が形成されている。流体通路221(221A,221B)は、直径約5mmの断面円形状に形成されており、温調プレート22(22A,22B)の表面に対して略平行に形成され、互いに略平行に約7mmのピッチで配置されている。これらの流体通路221(221A,221B)内部に流体を流通させることにより、温調プレート22(22A,22B)を所定の温度に調整し、スタンパ24(24A,24B)を加熱および/または冷却する。
【0020】
ここで、流体通路221(221A,221B)は、流体の熱が温調プレート22(22A,22B)に良好に伝達され、スタンパ24(24A,24B)の加熱および/または冷却が迅速に行われるように流体通路221(221A,221B)の内周面積が大きくなるように設定されることが望ましい。つまり、流体通路221(221A,22B)の径寸法は、できるだけ大きく設定されることが望ましい。ところが一方で、温調プレートは、スライド13とボルスタ14との間で加圧されるため、ある程度の強度を確保する必要がある。したがって、温調プレート22(22A,22B)の材料や寸法、および流体通路221(221A,221B)の断面寸法、配列のピッチなどは、これらの条件を勘案して適宜設定されることが望ましい。
なお、流体通路221(221A,221B)に流通させる流体としては、例えばパーフルオロポリエーテルなどのフッ素系不活性液体や水、蒸気などの流体が採用できる。
【0021】
温調プレート22(22A,22B)において、流体通路221(221A,221B)が形成される領域の外側には、断熱材21(21A,21B)の貫通孔211(211A,211B)に対応する位置にそれぞれプレート貫通孔としての吸引用孔222(222A,222B)が形成されている。吸引用孔222(222A,222B)は、直径約5.0mmに形成されている。
【0022】
温調プレート22(22A,22B)のスタンパホルダ23(23A,23B)に対向する面には、吸引用孔222(222A,222B)の開口部分を連通するプレート連通溝223(223A,223B)が形成されている。これらのプレート連通溝223(223A,223B)は、図3に二点鎖線で示すように、スタンパ24(24A,24B)が配置される領域よりも外側の長手方向両側に配置されている。これら二つのプレート連通溝223(223A,223B)により、複数(本実施形態では三つずつ)の吸引用孔222(222A,222B)が互いに連通している。このようにスタンパホルダ23(23A,23B)に近接した位置において複数の吸引用孔222(222A,222B)が互いに連通しているので、真空装置によってエアを吸引する際に、それぞれの吸引用孔222(222A,222B)による吸引力がこれらのプレート連通溝223(223A,223B)によって平均化され、均一な吸引力が得られる。なお、プレート連通溝223(223A,223B)の幅寸法は、本実施形態では、約1.5mmに設定されている。また、プレート連通溝223(223A,223B)の深さ寸法は、約2mmに設定されている。
【0023】
ここで、吸引用孔222(222A,222B)は、流体通路221(221A,221B)が形成される領域の外側に配置されている。つまり、スタンパ24(24A,24B)が取り付けられる領域には、吸引用孔222(222A,222B)が設けられていないため、流体通路221(221A,221B)をより多く配置できる。したがって、流体の熱を温調プレート22(22A,22B)に良好に伝達することができ、温調プレート22(22A,22B)の熱伝達効率を向上させることができる。
【0024】
図3には、スタンパホルダ23(23A,23B)の平面図が示されている。この図3において、スタンパホルダ23(23A,23B)は、ニッケルで構成された薄板状部材であり、スタンパ24(24A,24B)が配置される領域全体にわたって貫通孔231(231A,231B)が形成されている。貫通孔231(231A,231B)は、所定間隔を有して縦横に略等間隔に配置されている。本実施形態では、貫通孔231(231A,231B)の孔径は、約0.3mmであり、複数の貫通孔231(231A,231B)が約10mmのピッチ(所定間隔)で形成されている。
【0025】
ここで、スタンパホルダ23(23A,23B)は、熱伝達率を向上させるために、できるだけ薄く構成されることが望ましい。本実施形態では、スタンパホルダ23(23A,23B)は、約0.25mmの厚みに設定されている。また、貫通孔231(231A,231B)の孔径は、スタンパ24(24A,24B)の厚み寸法と同等あるいは当該厚み寸法より小さく設定されていることが望ましい。このような寸法に設定すれば、スタンパ24(24A,24B)を基材にプレスした際に、貫通孔23(23A,23B)の形状が基材に転写されるのを防止できる。
スタンパホルダ23(23A,23B)の材料は、スタンパ24(24A,24B)との位置ずれを防止するために、スタンパ24(24A,24B)とほぼ同じ熱膨張係数の材料を選択することが望ましく、より望ましくは、同一材料で構成されるとよい。本実施形態ではスタンパホルダ23(23A,23B)およびスタンパ24(24A,24B)は、いずれも同一材料であるニッケルで構成されている。
【0026】
図4は、スタンパホルダ23(23A,23B)の一部を示す拡大断面図である。また、図5は、スタンパホルダ23(23A,23B)の一部を示す別の拡大断面図である。ここで、図4は、図3のIV-IV断面図であり、図5は、図3のV-V断面図である。これらの図4、図5および前述の図3に示されるように、スタンパホルダ23(23A,23B)において温調プレート22(22A,22B)に対向する面には、複数の貫通孔231(231A,231B)同士を連通する連通溝(連通路)232(232A,232B)が形成されている。これらの連通溝232は、スタンパ24(24A,24B)の短手方向に沿って直線状に並んだ複数の貫通孔231(231A,231B)を連通するものであり、複数の連通溝232(232A,232B)が互いに略平行に配置されている。これらの連通溝232(232A,232B)の両端部は、それぞれ温調プレート22(22A,22B)のプレート連通溝223(223A,223B)に対応する位置に配置されている。
【0027】
このような形状の連通溝232(232A,232B)により、温調プレート22(22A,22B)にスタンパホルダ23(23A,23B)を重ねて配置すると、連通溝232(232A,232B)の両端部がプレート連通溝223(223A,223B)に連通することとなる。したがって、プレート連通溝223によって、吸引用孔222(222A,222B)と複数の連通溝232(232A,232B)とが連通されている。
また、連通溝232(232A,232B)が、スタンパ24(24A,24B)に対向する面ではなく、反対側の温調プレート22(22A,22B9)に対向する面に形成されているので、スタンパ24(24A,24B)の凹凸パターンを基材に転写する際に連通溝232(232A,232B)の形状が基材に転写されるのを防止できる。また、複数の貫通孔231(231A,231B)を連通溝232(232A,232B)で連通しているので、貫通孔231(231A,231B)の形成数に対して、連通溝232(232A,232B)の形成数を低減できるから、スタンパホルダ23(23A,23B)の製造を簡略化できるとともに、スタンパホルダ23(23A,23B)の強度の低下を防止でき、また基材に連通溝232(232A,232B)の形状が転写するのをより効果的に抑制できる。
【0028】
ここで、連通溝232(232A,232B)の寸法は、スタンパ24(24A,24B)を基材にプレスしたときに連通溝232(232A,232B)の形状が基材に転写されないように設定されればよく、連通溝232(232A,232B)の深さ寸法および幅寸法は、スタンパホルダ23(23A,23B)の板厚の1/3以下であることが望ましい。本実施形態では、連通溝232(232A,232B)の寸法は、幅寸法が約0.1mm、深さ寸法が約0.05mmに設定されている。なお、このような連通溝232(232A,232B)は、エッチングなどの適宜な方法により形成される。
【0029】
スタンパ24(24A,24B)において、スタンパホルダ23(23A,23B)に対向する面とは反対側の面(表面)には、微細な凹凸パターンが形成されている。スタンパ24(24A,24B)は、スタンパホルダ23(23A,23B)と同様にニッケルで構成され、厚み寸法は約0.3mmに設定されている。本実施形態では、液晶ディスプレイのバックライト用の導光板を作成するため、凹凸パターンは、プリズムパターンとなっているが、凹凸パターンとしては、これに限らず転写したいパターンに応じて任意に採用でき、例えばドットパターンなどが挙げられる。
【0030】
プレス用真空装置25は、真空吸引用部材15,16に取り付けられた一対の壁部251A,251Bと、壁部251A,251Bに設けられる真空パッキン252A,252Bと、壁部251A,251Bで囲まれた領域を真空にするための図示しないエア吸引装置とを備えている。壁部251A,251Bは、スタンパ24(24A,24B)、スタンパホルダ23(23A,23B)、温調プレート22(22A,22B)、および断熱材21(21A,21B)の外周を囲うように配置され、互いに近接する方向に突出している。真空パッキン252A,252Bは、壁部251Aと壁部251Bとが対向する端部に設けられている。
【0031】
次に、このような構成の熱転写プレス機械1の動作について説明する。
まず、スタンパ24(24A,24B)を熱転写プレス機械1に取り付ける場合には、温調プレート22(22A,22B)の上面または下面にスタンパホルダ23(23A,23B)を配置し、その上面または下面にさらにスタンパ24(24A,24B)を配置して位置決めする。この際、スタンパ24(24A,24B)を吸着する前にスタンパ24(24A,24B)およびスタンパホルダ23(23A,23B)の位置がずれないようにこれらの外周をビスやテープで止めたり、温調プレート22(22A,22B)に保持枠を設けるなどの適宜な保持手段により仮止めするとよい。
【0032】
真空装置で真空吸引用部材15,16の通路151,161からエアを吸引すると、通路151,161、通路153,163、断熱材21(21A,21B)の貫通孔211(211A,211B)、吸引用孔222(222A,222B)、プレート連通溝223(223A,223B)、連通溝232(232A,232B)、および貫通孔231(231A,231B)を介してエアが吸引されるため、スタンパ24(24A,24B)がスタンパホルダ23(23A,23B)に、スタンパホルダ23(23A,23B)が温調プレート22(22A,22B)に吸着される。
【0033】
スタンパホルダ23(23A,23B)およびスタンパ24(24A,24B)を温調プレート22(22A,22B)に吸着させることによって取り付けるので、例えば従来スタンパを両面テープで貼っていた場合に較べて、脱着が格段に容易となる。従来では、スタンパの取外の際、両面テープを剥がすとスタンパが曲がってしまうので、剥がしたスタンパは使用できなくなるか、一度両面テープでスタンパを貼り付けたら、スタンパの寿命までプレスを行わなければならず、作業工程を柔軟にできないという問題があった。これに対し、本実施形態では、吸着によってスタンパ24(24A,24B)を取り付けているので、取外の際にスタンパ24(24A,24B)が損傷するのを防止できる。またスタンパ24(24A,24B)の交換が簡単なので、多品種少生産にも柔軟に対応できる。
【0034】
また、スタンパホルダ23(23A,23B)の貫通孔231(231A,231B)がスタンパ24(24A,24B)の全面に対応する領域に形成されているので、スタンパ24(24A,24B)を全面にわたって均一に吸着できる。したがって、スタンパ24(24A,24B)がスタンパホルダ23(23A,23B)に確実かつ良好に密着するから、温調プレート22(22A,22B)からスタンパ24(24A,24B)への熱伝達効率を良好にでき、スタンパ24(24A,24B)の加熱、冷却効率を良好にできる。そして、スタンパ24(24A,24B)の中央部の浮き上がりを防止できるので、転写品質を向上させることができる。
【0035】
ここで、従来例えば温調プレートに貫通孔を設けた場合では、貫通孔が形成された領域よりも小さい寸法のスタンパを使用する際には、スタンパの外側に、スタンパが当接されない貫通孔が発生する。この場合には、貫通孔を塞ぐなどの処置が必要となり、作業が繁雑となる。また反対に、貫通孔が形成された領域よりも大きい寸法のスタンパを使用する場合には、スタンパの外周部分に貫通孔が配置されないため、当該外周部分の吸着ができず、スタンパを確実に保持することができない。また、温調プレートに貫通孔を加工する場合、ドリル加工や放電加工で加工を行わなければならず、加工が困難な上に、貫通孔の数によって加工コストが増加する。
【0036】
これに対して本実施形態のスタンパ取付装置20(20A,20B)では、温調プレート22(22A,22B)には流体通路221(221A,221B)の外側に吸引用孔222(222A,222B)およびプレート連通溝223(223A,223B)が形成されているのみで、スタンパ24(24A,24B)を吸着する貫通孔231(231A,231B)は、スタンパホルダ23(23A,23B)に形成されている。したがって、異なる寸法のスタンパを使用する場合には、そのスタンパの寸法に応じたスタンパホルダを用意し、スタンパの寸法に応じて貫通孔を形成すればよい。よって、スタンパの交換を簡単に行えるとともに、スタンパの寸法にかかわらず、スタンパ全面を良好に吸着保持できる。したがって、寸法が比較的大きな基材に凹凸パターンを転写する場合でも、良好に対応できるから、転写対象物の大型化を促進できる。
また、スタンパホルダ23(23A,23B)への貫通孔231(231A,231B)や連通溝232(232A,232B)の加工はエッチングで容易に行えるため、貫通孔231(231A,231B)や連通溝232(232A,232B)の数に加工コストが依存することがない。
【0037】
温調プレート22(22A,22B)の流体通路221(221A,221B)に加熱用流体を流通させて温調プレート22(22A,22B)を所定温度に加熱する。ここで、所定温度は、基材の熱軟化温度や温調プレート22(22A,22B)、スタンパホルダ23(23A,23)、およびスタンパ24(24A,24B)の熱伝達効率などを勘案して設定され、例えば基材がアクリル樹脂である場合には、熱軟化温度は約95℃であるため、所定温度は約120℃〜140℃に設定される。
ここで、スタンパ24(24A,24B)は、スライド13が上昇位置にある状態で加熱されるため、スタンパ24(24A,24B)の全面が吸着されてスタンパホルダ23(23A,23B)を介して温調プレート22(22A,22B)に密着することは、熱伝達効率を向上させる上で重要である。
【0038】
温調プレート22(22A,22B)熱がスタンパホルダ23(23A,23B)およびスタンパ24(24A,24B)に伝達されてスタンパ24(24A,24B)が所定温度に加熱される。ボルスタ14側のスタンパ24(24B)上に基材が配置されると、スライド駆動装置によってスライド13が下降し、ボルスタ14に近接する。すると、壁部251A,251Bも近接し、真空パッキン252A,252Bが接触して、壁部251A,251Bに囲まれた領域が密閉される。この状態で、エア吸引装置により壁部251A,251B内部のエアを吸引すると、壁部251A,251Bに囲まれた領域が真空となり、スタンパ24(24A,24B)周辺も真空となる。
【0039】
このようにプレス用真空装置25によってスタンパ24(24A,24B)周辺を真空にすることにより、スタンパ24(24A,24B)を基材にプレスした際にスタンパ24(24A,24B)と基材との間に空気が巻き込まれるのを防止できる。これにより、スタンパ24(24A,24B)の凹凸パターンを基材に良好に転写でき、転写不良などの不具合の発生を防止できる。
なお、このとき、壁部251A,251B内を真空にすることにより、スタンパ24(24A,24B)の吸着力が低減した場合でも、スタンパ24(24A,24B)の外周を適宜な保持手段で保持しているので、スタンパ24(24A,24B)が外れたり位置がずれたりするおそれがない。
【0040】
次に、スライド13をさらに下降させて、スタンパ24(24A,24B)を基材に対して加圧(プレス)する。所定圧力で所定時間保持し、基材の表面のみを溶融させ、スタンパ24(24A,24B)の凹凸パターンを基材の両面に転写する。なお、スタンパ24(24A,24B)が基材に密着したら、プレス用真空装置25による吸引を停止し、壁部251A,251Bの内部を大気に開放してもよい。
【0041】
基材の表面が溶融して凹凸パターンが転写されたら、温調プレート22(22A,22B)の流体通路221(221A,221B)の内部の流体を冷却用流体に切り替え、温調プレート22(22A,22B)を所定温度まで冷却する。ここで、所定温度は、基材の材料や温調プレート22(22A,22B)、スタンパホルダ23(23A,23B)、およびスタンパ24(24A,24B)の熱伝達効率などを勘案して適宜設定され、例えば基材がアクリル樹脂の場合では、約70℃〜50℃まで冷却する。
基材の表面が冷却されて樹脂が固化した後、スライド13を上昇させて加圧を解き、熱転写プレス機械1から凹凸パターンが転写された基材を取り出す。
【0042】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
スタンパは、ボルスタ上方およびスライド下方の両方に設けられていたが、これに限らず、ボルスタ上上またはスライド下方のいずれかのみに設けられていてもよい。この場合には、熱転写プレス機械は、基材の片面のみに凹凸パターンの転写を行う。
【0043】
スタンパホルダに形成された貫通孔を連通する連通溝は、スタンパホルダにおいて温調プレートに対向する面に形成されていたが、これに限らず例えば連通溝は、温調プレートにおいてスタンパホルダに対向する面に形成されていてもよい。あるいは、連通溝は、温調プレートおよびスタンパホルダの両方に形成されていてもよい。要するに、連通溝は、温調プレートおよびスタンパホルダのうち少なくともいずれか一方に形成されていればよい。
貫通孔を連通する連通路は、スタンパホルダおよび温調プレートのうち少なくともいずれか一方に形成された連通溝に限らず、例えば貫通孔を連通する連通孔であってもよい。
プレート用連通溝は、スタンパホルダに形成されていてもよい。
【0044】
本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ、説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
したがって、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質などの限定の一部もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、液晶パネルのバックライト用導光板の製造に用いる熱転写プレス機械として利用できる他、例えば燃料電池セルのセパレータや、意匠プレートを製造するための熱転写プレス機械にも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施形態にかかる熱転写プレス機械の全体を示す正面図。
【図2】前記実施形態に係るスタンパ取付装置を示す正面図。
【図3】前記実施形態に係るスタンパホルダを示す平面図。
【図4】前記実施形態に係るスタンパホルダの一部を示す拡大断面図。
【図5】前記実施形態に係るスタンパホルダの一部を示す別の拡大断面図。
【符号の説明】
【0047】
1…熱転写プレス機械、22(22A,22B)…温調プレート、23(23A,23B)…スタンパホルダ、24(24A,24B)…スタンパ、222(222A,222B)…吸引用孔(プレート貫通孔)、223(223A,223B)…プレート連通溝、231(231A,231B)…貫通孔、232(232A,232B)…連通溝(連通路)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタンパ(24,24A,24B)の凹凸パターンを基材に転写する熱転写プレス機械(1)に、前記スタンパ(24,24A,24B)を取り付けるスタンパ取付装置(20,20A,20B)であって、
前記熱転写プレス機械(1)に取り付けられるとともに、前記スタンパ(24,24A,24B)を所定温度に調整する温調プレート(22,22A,22B)と、
前記温調プレート(22,22A,22B)と前記スタンパ(24,24A,24B)との間に設けられるスタンパホルダ(23,23A,23B)とを備え、
前記スタンパホルダ(23,23A,23B)には、前記スタンパ(24,24A,24B)が当接される領域全体にわたってエア吸引用の複数の貫通孔(231,231A,231B)が形成され、
前記温調プレート(22,22A,22B)および前記スタンパホルダ(23,23A,23B)のうち少なくともいずれか一方には、前記貫通孔(231,231A,231B)に連通する連通路(232,232A,232B)が形成される
ことを特徴とするスタンパ取付装置(20,20A,20B)。
【請求項2】
請求項1に記載のスタンパ取付装置(20,20A,20B)において、
前記連通路(232,232A,232B)は、前記スタンパホルダ(23,23A,23B)の前記温調プレート(22,22A,22B)に対向する面に形成される連通溝とされる
ことを特徴とするスタンパ取付装置(20,20A,20B)。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のスタンパ取付装置(20,20A,20B)において、
前記貫通孔(231,231A,231B)は、略等間隔に配置され、
前記連通路(232,232A,232B)は、複数の前記貫通孔(231,231A,231B)を連通する
ことを特徴とするスタンパ取付装置(20,20A,20B)。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載のスタンパ取付装置(20,20A,20B)において、
前記温調プレート(22,22A,22B)には、内部に温度調整用の流体が流通する流体通路(221,221A,221B)が形成され、
前記流体通路(221,221A,221B)が形成される領域の外側には、前記連通路(232,232A,232B)に連通するプレート貫通孔(222,222A,222B)が形成される
ことを特徴とするスタンパ取付装置(20,20A,20B)。
【請求項5】
請求項4に記載のスタンパ取付装置(20,20A,20B)において、
前記温調プレート(22,22A,22B)の前記スタンパホルダ(23,23A,23B)に対向する面には、複数の前記連通路(232,232A,232B)と前記プレート貫通孔(222,222A,222B)とを連通するプレート連通溝(223,223A,223B)が形成される
ことを特徴とするスタンパ取付装置(20,20A,20B)。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載のスタンパ取付装置(20,20A,20B)を備えたことを特徴とする熱転写プレス機械(1)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−175617(P2006−175617A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−368552(P2004−368552)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(394019082)コマツ産機株式会社 (103)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】