スチールコードの製造方法、スチールコード及び空気入りタイヤ
【課題】スチールコードの撚り構造を安定化させゴム侵入性を確保し耐久性能に優れるとともに、従来よりも安価に供給することができる多層構造スチールコードを提供する。
【解決手段】コード中心に配した1〜3本のフィラメント12からなるコア11を有し、スチールコードのシース13、15を構成する各フィラメント14、16相互隣接間に平均0.01mm以上の隙間Sを形成する多層構造のスチールコード10を製造する方法であって、該スチールコード10の撚線工程において、コアフィラメント12の供給装置と撚線機の間にゴム糊Gを溜める浴を配し、前記コアフィラメント12の少なくとも1本を前記ゴム糊浴中に浸漬し該コアフィラメントの表面に所定厚みのゴム糊被覆層Rを形成しながら前記撚線機を運転し、前記コアフィラメント12とシースフィラメント14、16とを撚り合わせる。
【解決手段】コード中心に配した1〜3本のフィラメント12からなるコア11を有し、スチールコードのシース13、15を構成する各フィラメント14、16相互隣接間に平均0.01mm以上の隙間Sを形成する多層構造のスチールコード10を製造する方法であって、該スチールコード10の撚線工程において、コアフィラメント12の供給装置と撚線機の間にゴム糊Gを溜める浴を配し、前記コアフィラメント12の少なくとも1本を前記ゴム糊浴中に浸漬し該コアフィラメントの表面に所定厚みのゴム糊被覆層Rを形成しながら前記撚線機を運転し、前記コアフィラメント12とシースフィラメント14、16とを撚り合わせる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチールコードの製造方法、スチールコード及び空気入りタイヤに関し、さらに詳しくは空気入りタイヤ、特にラジアルタイヤのカーカスやベルトの補強材として好適な耐久性能に優れるとともに、従来製法よりも安価に供給することができるスチールコードの製造方法とその方法により製造されたスチールコード及びそれを補強材に用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
トラック・バス用など大型車両用の空気入りタイヤのカーカスやベルトには、タイヤ強度や剛性を確保し、重荷重、高速走行等の過酷な使用条件に対する耐久性能と、耐摩耗性や操縦安定性、転がり抵抗性(燃費性)等を得るために、補強材としてスチールコードが一般的に使用されている。
【0003】
従来より、カーカス用コードとしては、3+9+15×0.175mm又は0.22mm(+1)等の3層構造、3+9又は3+8×0.22mm等の2層構造のスチールコードが一般的であった。一方、ベルト用コードとしては、カーカス用と同様の3+9+15構造や3+9構造の他に、3×0.20+6×0.35〜0.38mm等の比較的太径フィラメントを撚り合わせた2層構造のスチールコードが使用されてきた。
【0004】
上記のスチールコードは、コード強度と、剛性あるいは可撓性などのコード特性をカーカスやベルトに使い分けることで、タイヤ強度を確保して耐摩耗性や操縦安定性、転がり抵抗性等のタイヤ性能を向上している。
【0005】
しかしながら、従来のスチールコードは、タイヤ走行中にコードにかかる引張や圧縮歪みによるフレッチング摩耗に基づくコード強力の低下の問題や、コード軸方向に連続する空隙を形成し、外傷や溝底クラックから侵入する水分により耐腐食性が劣り、接着力の低下や錆によるコード消失などからセパレーションを発生するという問題があった。また、その製造工程が多く、コードコストの上昇を招いていた。
【0006】
そこで、耐フレッチング性やゴム侵入性、コストの問題を解消しようとした、1本のコアフィラメントの周囲に2層のシースを配置し、このシース層を同一方向、同一ピッチで撚り合わせてフィラメント相互間のラインコンタクト化を図るコンパクト撚りの1+18構造のスチールコード(特許文献1)や、シースフィラメントの細径化やその本数を間引いてゴムの浸透性を改善し、さらにラッピングワイヤを除去した1+6+(10〜11)構造のスチールコード(特許文献2、3)が開示され、フレッチング摩耗の低減と撚線工数を減じた低コストのスチールコードが提案されている。
【0007】
しかし、上記文献1〜3に開示のスチールコードは、フィラメントのラインコンタクト化によりフレッチング摩耗が低減し耐疲労性の向上とコードコストの点で有利となるが、反面で構成フィラメントがコード内部に充填配置されるためコード断面輪郭が非円形の多角形状になるという特徴を持ち、やはりゴムの侵入性は不十分であり前記耐腐食疲労性や、コードにかかる衝撃やせん断歪みによりコードがばらけたり、一部のフィラメントが先行破断するおそれがあり、上記問題点を充分に解消するには至っていない。
【0008】
そこで、コード内部にゴムを充填させるものとして、コアフィラメントを予め未加硫ゴムで被覆し、コアとシースフィラメントを撚り合わせたスチールコードが提案されている(例えば、特許文献4、5)。
【0009】
しかし、上記文献4、5の技術によると、スチール製のフィラメントに未加硫ゴムを一定の被覆厚みで、かつ連続的に均一に被覆することは極めて困難な作業であり、この未加硫ゴムの被覆が不完全であると上記問題は解消することができない。また、撚線工程の前工程として撚線機に設けた被覆用未加硫ゴムの押出機や、この押出機と撚線機とを同調運転させるための制御装置等の未加硫ゴム被覆設備や押出機にゴムを供給する供給設備などの付帯設備を要し、さらにゴム被覆の処理速度に合わせて撚線機を運転する必要があることから撚線速度が大幅に低下してしまいスチールコードの生産性が大きく低下するという問題を抱えている。
【0010】
また、上記の1+18構造など、コアを1本のフィラメントで構成するスチールコードは、コアフィラメントの周囲に複数のシースフィラメントを配置するため、適正な型付けをシースフィラメントに付与したとしても、撚線機内での高速回転運転やカレンダー装置によるトッピング加工時に、シースフィラメントがコアフィラメント上を動いて偏りやすく、その結果フィラメント間の隙間を閉じてしまい、所期のゴム侵入性向上の目的が達成し難くなるという問題がある。これは、スチールフィラメント同士の摩擦係数が小さいことが一因となっている。
【特許文献1】実公平3−29355号公報
【特許文献2】特開平8−232179号公報
【特許文献3】特表2003−519299号公報
【特許文献4】特開2002−302885号公報
【特許文献5】特開2004−190199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑み、空気入りタイヤ、特に大型ラジアルタイヤのカーカスやベルトの補強材として好適なスチールコードの撚り構造を安定化させゴム侵入性を確保することで耐久性能に優れるとともに、従来よりも安価に供給することができる多層構造のスチールコードの製造方法とその方法により得られるスチールコード及びそのスチールコードを補強材に用いた空気入りタイヤを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、金属や合成樹脂、繊維製品とゴムとの接着に使用されている液状のゴム糊をコアフィラメントに所定厚みで連続的に塗布(被覆処理)しフィラメント表面に未加硫ゴム被膜を形成することで、均一な未加硫ゴム被膜がコアフィラメントに得られ、これを用いて多層構造スチールコードを連続的に製造することでシースフィラメント隣接相互間に安定な隙間を形成しゴム侵入効果を確実なものとして、さらにゴム糊組成を特定することで接着性を向上し得ることを見出したものである。
【0013】
すなわち、請求項1に記載の発明は、コード中心に配した1〜3本のフィラメントからなるコアを有し、スチールコードのシースを構成する各フィラメント相互隣接間に平均0.01mm以上の隙間を形成する多層構造のスチールコードを製造する方法であって、該スチールコードの撚線工程において、コアフィラメントの供給装置と撚線機の間にゴム糊を溜める浴を配し、前記コアフィラメントの少なくとも1本を前記ゴム糊浴中に浸漬し該コアフィラメントの表面に所定厚みのゴム糊被覆層を形成しながら前記撚線機を運転し、前記コアフィラメントとシースフィラメントとを撚り合わせることを特徴とするスチールコードの製造方法である。
【0014】
請求項2に記載の発明は、前記コアフィラメントのゴム糊被覆厚みが、該フィラメント径の0.05〜0.5倍になるようにしたことを特徴とする請求項1に記載のスチールコードの製造方法である。
【0015】
請求項3に記載の発明は、前記スチールコードは、L+M+N構造(L=1〜3、M=L+3〜5、N=M+5〜7、又は0でもよい(N=0の時は2層構造である))で表されることを特徴とする請求項1又は2に記載のスチールコードの製造方法である。
【0016】
請求項4に記載の発明は、ジエン系ゴム成分を含有するゴム成分100重量部に対し、下記(A)〜(D)成分が配合されてなる未加硫ゴム組成物を有機溶媒に溶解してなるゴム糊を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスチールコードの製造方法である。
(A)ゴム補強用充填剤 20〜200重量部、(B)イオウ 1〜10重量部、(C)フェノール類化合物をホルマリンで縮合したフェノール系樹脂またはフェノール類化合物 0.1〜10重量部、及び、(D)ヘキサメチレンテトラミンまたはメラミン誘導体 0.2〜20重量部。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載のスチールコードの製造方法により製造されたことを特徴とするスチールコードである。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のスチールコードを補強材に用いたことを特徴とする空気入りタイヤである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、1〜3本のコアフィラメントを有する多層構造スチールコードのゴム侵入性を良好なものとすることができるので、スチールコードの耐食疲労性と耐フレッチングを両立してカーカスおよびベルトの耐久性を向上し、しかも耐熱、耐湿熱接着性に優れるゴム組成物をコード内部に充填できるのでさらに接着性能を大幅に改善しタイヤのロングライフ化を実現することができる。しかも、このスチールコードは撚線工程において連続的に安定した均一な品質で、生産性を低下させずに安価に供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明の実施形態に係るスチールコード製造方法及び空気入りタイヤについて図面を参照し説明する。
【0021】
図1は、本発明の1実施形態のトラック・バス用の空気入りタイヤの1例を示すラジアルタイヤTの半断面図であり、符号3はトレッド部、5はサイドウォール部、4はビード部、CLはタイヤセンターである。
【0022】
タイヤTは、トレッド部3と、該トレッド部3の両ショルダー部で連なる一対のサイドウォール部5と該サイドウォール部5に続くビード部4とを備え、ラジアル配列されたスチールコードの端部を左右一対のビードコア6で折り返して係止した1層のカーカス2と、スチールコードをタイヤ周方向に対して傾斜し配列した4層のベルト層からなるベルト1をカーカス2のタイヤ径方向外側のトレッド部3に有している。該ベルト1は、タイヤ内側から2番目、3番目のベルト層1B間でそのベルトコードが交差され配置されている。
【0023】
タイヤTは、カーカス2やベルト1の構成するスチールコードが、コード中心に配した1〜3本のフィラメントからなるコアを有し、コアの周囲にインナーシースとアウターシスとが撚り合わされた多層構造(L+M+N構造)のスチールコードからなり、前記コアの周囲に配されたシース層を構成する各シースフィラメント相互の隣接間の隙間が平均0.01mm以上に保持されている。
【0024】
本発明に係るスチールコード構造としては、L+M+N構造(L=1〜3、M=L+3〜5、N=M+5〜7、又は0でもよい(N=0の時は2層構造である))で表されものが好ましく挙げられる。コアフィラメントは撚られていても撚られていなくてもよいが、2本又は3本の場合はコアの耐疲労性を維持する観点から撚られていることが好ましい。
【0025】
L+M+N構造の好ましい具体的な構造例としては、例えば、1+5+10、1+5+11、1+5+12、1+6+10、1+6+11、1+6+12、2+5+11、2+5+12、2+6+10、2+6+11、2+6+12、2+7+12、2+7+13、3+6+11、3+6+12、3+7+12、3+7+13、3+6+12、3+6+13、3+7+12、3+7+13、3+8+13、3+8+14等の3層構造、1+5、1+6、2+5、2+6、2+7、3+6+、3+7、3+8等の2層構造が挙げられる。
【0026】
図2は、本発明に係るL+M+N構造スチールコードの1例である1+6+11構造のスチールコード10を示すコード断面図であり、コード中心に配したコア11を構成するフィラメント径dcのコアフィラメント12と、該コア11の周囲に配したインナーシース13を構成するフィラメント径diの6本のインナーシースフィラメント14と、該インナーシース13の周囲に配置したアウターシース15を構成するフィラメント径doの11本のアウターシースフィラメント16とからなり、インナーシース13とアウターシース15とを同一方向に撚り合わせている。
【0027】
コア、シースのフィラメント径としては、特に制限されないが、コアフィラメントのゴム糊被覆厚み、及びコード構造とフィラメント径の組み合わせで上記0.01mm以上の隙間がシースフィラメント14、16のそれぞれ相互隣接間に形成できるものであればよい。
【0028】
中でもフィラメント径は0.15〜0.40mmの範囲が好ましく、0.15mm未満になるとコード強度、剛性の確保が困難になり、また伸線コストも上昇する。0.40mmを超えるとフィラメントが剛直となり、特にカーカスの場合は耐疲労性やタイヤ成型性に悪影響し、乗り心地性や操縦安定性も低下する。好ましいフィラメント径の範囲は、カーカス用コードでは0.175〜0.23mm、ベルト用コードでは0.20〜0.38mmである。
【0029】
例えば、上記1+6+11構造において、コアフィラメント12のフィラメント径dcは0.20mm、インナーシース13とアウターシース15のフィラメント径dsを0.18mmとすることで、カーカス用コードとしての強力、耐疲労性、可撓性等を確保した上で同一シース内のシースフィラメント相互の隣接間にゴムの侵入する0.01mm以上の隙間S1、S2を形成することが容易となる。
【0030】
ここで、コアを1本のフィラメントとした1+6+11構造の場合、コアフィラメント径dcと、インナーシースフィラメント14及びアウターシースフィラメント16を構成するフィラメント径dsとの関係は、1<dc/ds≦1.2程度にコアフィラメントを太径に設計することが好ましい。
【0031】
図2に示す1+6+11構造の場合、コアフィラメント径dcをインナーシース及びアウターシースフィラメント径dsより若干太くすることにより、コードの真直性を良好にし、インナーシースフィラメント14及びアウターシースフィラメント16相互の隣接間に、コード10内部にゴムが侵入する隙間S1とS2を形成することができる。この隙間S1、S2は共に平均0.01mm以上である必要があり、好ましくは0.02mm以上、より好ましくは0.02〜0.04mmである。
【0032】
また、コアフィラメント径dcを若干太くすることで、コアフィラメント12とインナーシースフィラメント14間の接触圧を下げて耐疲労性の低下を防ぐことができる。しかし、コアフィラメント径dcとシースフィラメント径dsの差を1.2倍よりも大きくすると、両者の疲労性の差が大きくなり、また後述するゴム糊被覆を施したとしてもインナーシースフィラメント14がコアフィラメント12の周りで動きやすくなる傾向にあり、フィラメント14が偏ってゴム侵入性の低下やコアフィラメント12のフレッチング摩耗が増えて耐疲労性が低下するので好ましくない。
【0033】
この時、インナーシースフィラメント12の径diとアウターシースフィラメント16の径doは、全て同一のフィラメント径dsであってもよく、diとdoとが異なるものでもよい。また、同一シース13及び15内で複数の異径フィラメントを組み合わせてもよいが、フィラメント部材数の増加、撚線工程が煩雑となるなどコード生産性に影響するので、コード製造コストを抑える観点からは同一シース内には同一径のフィラメントを用いることが好ましい。
【0034】
また、本発明に係るスチールコードは、1回の撚線工程で得られる1×n構造(nは6本以上が好ましい)が挙げられ、撚線効率を高めてコードコスト的に有利なものとなる。
【0035】
この1×n構造としては、コアフィラメントが1〜3本で構成され、実用的には、1×7〜27構造が好ましく、例えば、1×18構造の場合はコード断面内にコア/インナーシース/アウターシースのフィラメント配置が1/6/11本の断面形状に配され、1×19構造の場合はコード断面内にコア/インナーシース/アウターシースのフィラメント配置が1/6/12本の断面形状に配され、1×27構造の場合はコード断面内にコア/インナーシース/アウターシースのフィラメント配置が3/9/15本の断面形状に配されて、すべてのフィラメントを集束板に集めて1回の撚線工程でコードに撚り上げることができる。図3に全てのフィラメントが同一径からなる1×27構造スチールコードの断面図を例示する。
【0036】
すなわち、本発明に係るスチールコードにおけるコア及びシースのフィラメント径は、コード構造とコアフィラメントのゴム糊被覆厚みを考慮した上で、シースフィラメント相互の隣接間に0.01mm以上の隙間を確保できる範囲であれば、同径、異径フィラメントを組み合わせること、コアフィラメントをシースフィラメントより太くすることも細くすることも自由に設計することができる。
【0037】
本発明に係るスチールコード10は、コアフィラメント12がスチールコード10の撚り合わせ前に予めゴム糊により被覆されており、図2に示すようにコアフィラメント12の周囲に6本のアウターシースフィラメント14がゴム糊の被覆層を介して密着し撚り合わされるので、両者の摩擦係数が大きくなり撚り線時に撚線機内での高速回転運転やカレンダー装置によるトッピング加工時にシースフィラメント14がコアフィラメント12上を動き難くしてコード断面形状を理想形状に保持し、ゴム侵入性向上の目的を達成することができる。
【0038】
また、本発明に係るスチールコード10は、前記インナーシース13とアウターシース15の撚り方向が同一方向であることが好ましい。これにより、層撚りコードのコード強力低下の主原因であるインナーシース13とアウターシース15の異方向撚りに基づくフィラメントの点接触によるフレッチング摩耗の問題を軽減し、耐フレッチング性を改善することができる。
【0039】
この場合、図4に示すように、スチールコード10は、インナーシースフィラメント14の該コード軸Oに対する撚り角度θ1と、アウターシースフィラメント16の該コード軸Oに対する撚り角度θ2との交差角θ(θ1−θ2)が10°以下であることが好ましい。
【0040】
これにより、インナーシースフィラメント14、14間の谷間にアウターシースフィラメント16が落ち込むのを防いで、スチールコード10の断面形状を円に近づけることで上記の隙間S1、S2を確保しゴム侵入性を確実にするとともに、断面多角形状コードの特定フィラメントへの応力集中の問題を解消することができる。
【0041】
また、本発明に係るスチールコードを構成する各フィラメントは、炭素含有量が0.70〜0.95重量%程度にある高炭素鋼(例えば、JIS G3502に規定のピアノ線材)からなり、2500〜3500N/mm2程度の抗張力を有し、さらに軽量化の観点から抗張力は2700N/mm2以上が好ましく、さらに2900N/mm2以上にある高抗張力フィラメントであることがより好ましい。しかし、抗張力が3500N/mm2を超えるとフィラメントの伸線加工性の悪化や鋼の脆化により耐疲労性の低下を招き好ましくない。
【0042】
さらに、フィラメント表面には、ゴムとの接着性を良好にするために銅比率が63〜67%のブラスめっきが、4〜6g/Kg程度の付着量で被覆されている。また、ブラスにコバルトやニッケルなどの第3金属を少量含む3元合金めっきでもよい。
【0043】
本発明に係るスチールコードは、コアフィラメントが該スチールコードの撚り合わせ前に予めゴム糊により被覆されていることを特徴としている。
【0044】
ゴム糊としては、ジエン系ゴム成分を含有するゴム成分100重量部に対し、下記(A)〜(D)成分が配合されてなる未加硫ゴム組成物を有機溶媒に溶解してなるものが使用できる。(A)ゴム補強用充填剤 20〜200重量部、(B)イオウ 1〜10重量部、(C)ヘキサメチレンテトラミンまたはメラミン誘導体0.2〜20重量部、(D)フェノール樹脂、レゾルシン、レゾルシン誘導体及びクレゾール樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種0.1〜10重量部。
【0045】
ジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、及び、ハロゲン化ブチルゴムが挙げられる。これらの複数を組み合わせたゴムブレンドであってもよい。好ましいゴム成分は、例えば、天然ゴム単独、または、天然ゴムを70重量部以上含むジエン系合成ゴムとのブレンドである。天然ゴムが70重量部未満であると、粘着性が低下し、ゴム糊のスチールフィラメントへのいわゆる「のり」が悪くなり、均一な被膜が形成しずらくなる。
【0046】
上記ゴム成分に添加される配合剤として、(A)ゴム補強用充填剤は、上記ゴム成分100重量部に対して20〜200重量部添加される。充填剤としては、一般に、カーボンブラックまたはシリカが用いられ、これらを混合して用いることもできる。カーボンブラックやシリカとしては、特に限定されないが、GPF、FEF、HAF級のカーボンブラックが挙げられ、シリカとしては湿式シリカが好ましい。
【0047】
また、(B)架橋剤として、イオウ系架橋剤が一般的であり、上記ゴム成分100重量部に対し1〜10重量部添加され、適量のイオウにより適度の架橋を実現する。イオウの添加量が1重量部未満であると、充分な架橋密度が得られないためフィラメント及びスチールコード被覆ゴムとの良好な接着性が得られない。
【0048】
前記ゴム糊に用いるゴム組成物には、(C)フェノール類化合物、またはフェノール類化合物をホルマリンで縮合したフェノール系樹脂が上記ゴム成分100重量部に対し0.1〜10重量部添加される。好ましくは0.5〜5重量部であり、より好ましくは1〜3重量部である。ここで、フェノール系樹脂は、未硬化の樹脂であって、液状または熱流動性を有するものである。
【0049】
また、ゴム組成物には、フェノール系樹脂等を反応、硬化させる、(D)ヘキサメチレンテトラミンまたはメラミン誘導体が0.2〜20重量部添加される。また、フェノール系樹脂等の添加量が1〜3重量部である場合に、その1.5〜2.5倍程度が好ましい。
【0050】
前記フェノール類化合物には、フェノール、レゾルシンまたはこれらのアルキル誘導体が含まれる。アルキル誘導体には、クレゾール、キシレノールといったメチル基誘導体の他、ノニルフェノール、オクチルフェノールといった比較的長鎖のアルキル基による誘導体も含まれる。
【0051】
また、フェノール類化合物をホルマリンで縮合したフェノール系樹脂には、レゾルシン・ホルマリン樹脂、フェノール・ホルマリン樹脂、クレゾール・ホルマリン樹脂等の他、複数のフェノール化合物からなるホルマリン樹脂が含まれる。しかし、ゴム成分や他の成分との相溶性の見地からは、アルキルフェノールを含むものが好ましく、硬化後の樹脂の緻密さ及び信頼性の見地からはレゾルシンまたはその誘導体を含むものが好ましい。そこで、特に好ましいフェノール系樹脂として、レゾルシン・アルキルフェノール共縮合ホルマリン樹脂を挙げることができる。
【0052】
さらに、スチールフィラメントとの接着成分として、ステアリン酸コバルト、ナフテン酸コバルトなどの有機金属塩を少量添加してもよい。
【0053】
上記した各成分の他に、芳香族系オイルなどのプロセスオイル、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、軟化剤、可塑剤、活性剤、滑剤等の各種添加剤を必要に応じて添加することができる。
【0054】
上記のゴム糊に使用されるゴム組成物は、スチールコードとの初期接着性を確保するとともに、耐熱接着性や耐湿熱接着性を向上するもので、タイヤ走行中の発熱やタイヤ内外からの水分に対してスチールコード内部においても良好な接着性を保持することができ、特に上記ゴム侵入効果により水分の浸入が抑制されたとしても、タイヤ内部に蓄積される熱により劣化を受けると、ゴムの破壊靱性及び強度が低下するとともにフィラメントとの接着性が低下し、上記ゴム侵入効果が損なわれる結果となる。
【0055】
本発明に係るゴム糊を調製する方法としては、特に限定されることなく公知の方法を使用することができる。例えば、上記各成分と必要に応じて他の添加剤をバンバリーミキサーやロールなどを用いて混練し、得られたゴム組成物を、ゴム用揮発油やトルエン、キシレンなどのゴムを溶解する揮発性の有機溶剤中に撹拌し、溶解・分散させることにより調製することができる。ゴム組成物と有機溶剤との配合比率は特に限定されないが、通常、重量比でゴム組成物/有機溶剤=1 /5〜1/15であることが好ましい。
【0056】
ここで得られたゴム糊の粘度は、5000〜15000mPa・sであることが好ましい。粘度が5000mPa・s未満であると、フィラメントへの付着量にバラツキが生じやすく、またゴム糊の固化に時間を要して撚線機のローラ等に付着するなどの不具合を生じることがある。逆に、粘度が15000mPa・sを超えると、フィラメントへの付着厚みのバラツキが大きくなってしまうことがある。この観点から、粘度は13000mPa・s以下が好ましく、5000〜10000mPa・sの範囲が特に好ましい。
【0057】
本発明に係るスチールコードの製造方法は、コアフィラメントがスチールコードの撚り合わせ前に予め前記ゴム糊によりその表面が被覆されるものであり、図4に示すように、スチールコードの撚線工程において、コアフィラメント12の供給装置21と撚線機22の間に前記ゴム糊Gを溜める浴23を配しておき、この浴23にゴム糊を溜めてコアフィラメント12を該浴中に浸漬し撚線機22を運転することで、コアフィラメント12に連続的にゴム糊Gの被膜を均一に形成しながらスチールコードの1+6構成(インナーシース部分)を製造することができる。
【0058】
このコアフィラメント12は、ゴム糊浸漬後に撚線機22に導入される前に、液状のゴム糊Gはある程度乾燥されることが好ましく、例えば温風機を用いて熱風をフィラメントに吹き付ける、あるいは温風乾燥器24中を通過させる等により液状ゴム糊の有機溶媒分を揮発させ乾燥状態あるいは半乾燥状態とすることができる。
【0059】
この際のコアフィラメント12のゴム糊被覆厚みは、該フィラメント径の0.05〜0.5倍になるようにすることが好ましい。ゴム糊がフィラメントに対して多少過剰に付着したとしても、撚線時の張力による締め込み力や加硫時の圧力でゴム分が変形あるいは流動することで良好なコード断面形状を得られる。
【0060】
このゴム糊のフィラメントへの付着量(被覆厚み)は、ゴム糊の配合組成、上記粘度や濃度、処理速度、浴長、浴温度などにより適宜調整することができる。また、ゴム糊の付着性を良好にするために、浸漬処理前にフィラメントを50〜100℃程度に加熱してもよい。
【0061】
このスチールコードの製造は、例えばスチールコード10では、コアフィラメント12の周囲に配されたインナーシース13の6本のフィラメント14が鏡板から集合ボイス25に集束され、通常のバンチャー式撚線機やチューブラー式撚線機の撚線機22に導入されて所定ピッチで撚り合わされ1+6構造が形成される(図5参照)。
【0062】
次に、一旦ボビンに巻き取った前記1+6構造を引き出しその周囲にアウターシース15の11本のフィラメント16を配し鏡板から集合ボイスに集束し、通常のバンチャー式撚線機やチューブラー式撚線機に導入して、前記1+6構造と同一方向に所定ピッチで撚り合わされることで、1+6+11構造のスチールコード10が2回の撚線工程により製造される。
【0063】
このスチールコード10の製造に際し、コアフィラメント12の供給装置21と第1の撚線機22の間にゴム糊の浴23が配置されており、ボビンから引き出されたフィラメント12がゴム糊浴22に溜められたゴム糊Gに浸漬され所定厚みにゴム糊が被覆処理される。必要に応じ、浴は複数を設けてもよく、液状のゴム糊を乾燥させる温風装置や乾燥器24を設けてもよい。撚線機22内で1+6構造に撚り合わされる時、コアフィラメント12はシースフィラメント14に周囲から押圧され締め込まれることで、図6に示すように、コアフィラメント12の被覆ゴムRはシースフィラメント14間に食い込むようになり、フィラメント間に隙間Sを均一に形成し、かつシースフィラメント14の動きを抑制するようになる。
【0064】
また、スチールコードの製造方法としては、同一ライン上に連結された2台のバンチャー式撚線機を用い、第1のアウト−イン−アウト式バンチャー式撚線機で1+6構造のインナーシースを撚り合わせ、これに連続して前記1+6構造の周囲に11本のアウターシースフィラメント16を配置して鏡板から集合ボイスに集束して第2のアウト−イン式バンチャー式撚線機に導入し1+6+11構造スチールコード10を1工程で製造することもできる。
【0065】
また、上記バンチャー式撚線機に代えて、上記同一ライン上に連結された2台のチューブラー式撚線機を用いても同様に1+6+11構造スチールコード10を1工程で製造することができる。また、第1撚線機をバンチャー式撚線機とし、第2撚線機をチューブラー式撚線機としても、またその逆に配置したものでもよい。この場合も、上記と同様のゴム糊の被覆処理がコアフィラメントに施される。
【0066】
1×n構造スチールコードの場合は、例えば図3に示す1×27構造スチールコードでは、3本のコアフィラメント22の周囲に配された9本のインナーシースフィラメント23と15本のアウターシースフィラメント24が鏡板から集合ボイスに集束され、通常のバンチャー式撚線機やチューブラー式撚線機に導入されて所定ピッチで撚り合わされ1×27構造のスチールコードが1回撚りで形成される。この場合も、コアフィラメントの供給装置と撚線機の間にゴム糊の浴が配置されており、ボビンから引き出された3本のフィラメントが浴に溜められたゴム糊に浸漬され所定厚みにゴム糊が被覆処理され撚線機に導入される。
【0067】
上記コアフィラメント22が3本の場合も、被覆ゴムRがシースフィラメント23間に食い込むようになり、シースフィラメント間に隙間Sを形成しゴム侵入性を向上する。もちろん、3本のコアフィラメント22の中心部もゴムで充填されるようになる(図7参照)。
【0068】
そして、本発明の空気入りタイヤは、上記スチールコードを補強材としてカーカスやベルトプライ、あるいはチェーハーなどに用いることで、ゴム侵入性と耐フレッチング性をバランス良く向上しかつ接着性に優れて、耐久性のよいロングライフ化が図られる空気入りタイヤとすることができる。タイヤ用途としては、トラックやバス用などの大型車両用、建設車両用、オフロード用車両のタイヤに好適に使用することができる。
【実施例】
【0069】
次に本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0070】
[ゴム糊の調製]
天然ゴム(RSS#1)100重量部、HAFカーボンブラック(東海カーボン製、シースト3)60重量部、亜鉛華(三井金属鉱業製、亜鉛華1号)4重量部、硫黄(細井化学工業製、ゴム用粉末硫黄150メッシュ)3重量部、加硫促進剤CBS(大内新興化学工業製、ノクセラー6C)1.5重量部、コバルト金属塩(日本鉱業製、ステアリン酸コバルト)を金属分換算で0.2重量部に、レゾルシン・アルキルフェノール共縮合ホルマリン樹脂(住友化学製、スミカノール620)2重量部とヘキサメトキシメチルメラミン(三井サイテック製、サイレッツ963)4重量部を配合し、20Lバンバリーミキサーにより常法にて混練しゴム組成物を製造した。ゴム用揮発油100重量部に、得られたゴム組成物を各3、10、15、20、25重量部投入し、攪拌、溶解した5種類の濃度のゴム糊を調製した。
【0071】
[スチールコードの製造]
図2に示す0.20+(6+11)×0.18mm構造のスチールコードをタンデムに配置した2台のチューブラー式撚線機を用い、コアフィラメント供給ボビンと第1撚線機の間にゴム糊用浴(浴長1m)を配置してフィラメントを浸漬処理し、その後80℃の温風乾燥器槽内(槽長1m)を通過させてゴム糊を乾燥させ、第1撚線機に導入し、1+6構造を撚り合わせ、連続して第2撚線機にて1+6+11構造のスチールコードを撚りピッチS6/S12mmにて製造した。ゴム糊は上記5種類のものを使用した。また、コントロール(比較例1)としてゴム糊未使用のスチールコードを製造した。
【0072】
得られた各スチールコードのコード断面形状安定性、ゴム侵入性、耐疲労性(ベルト疲労試験)及びタイヤの耐久性能を下記の方法により評価した。さらに、タイヤサイドウォール部から切り出したカーカスプライの耐熱接着性を評価した。結果を、表1に示す。
【0073】
[コード断面形状安定性]
評価A)撚線後のスチールコードを、ポリエチレン樹脂に埋め込み、コード断面方向面を金属研磨機を用いて鏡面状態に研磨し、光学顕微鏡を用いて(20倍)コード断面のインナーシースおよびアウターシースフィラメントの配置状態(フィラメントの偏り)を観察した。比較例1と相対比較し、劣る場合を「×」、同等を「△」、良好を「○」、優れるを「◎」として示した。
【0074】
評価B)後述するゴム侵入性の評価Dのトッピング反より取り出したコードを用いた以外は、評価Aと同様にして評価した。
【0075】
[ゴム侵入性]
評価C)撚線後のスチールコードを、コード打ち込み本数を10本/25mmとして平行に配列し、コードの上下にスチールコード用配合のゴムシート(厚み3mm)を配してサンドイッチ状に成形したものをサンプルとし、モールド実効圧力200kPaにて150℃×30分でプレス加硫した後、加硫サンプルから取り出したコードを、アウターシース、インナーシースの順に丁寧にほぐし、コアとインナーシースのゴム付着を目視で観察した。コアフィラメント及びインナーシースのゴム付着率を比較例1と相対比較し、劣る場合を「×」、同等を「△」、良好を「○」、優れるを「◎」として示した。
【0076】
評価D)コード打ち込み本数を17本/25mmとして、タイヤ生産用カレンダー装置を用いてゴム引き加工したトッピング反をサンプルとした以外は、評価Cと同様にして評価した。
【0077】
[耐疲労性(ベルト疲労試験)]
1)コード強力保持率
各スチールコードを、コード打ち込み本数を17本/25mmとして平行に配列し、コードの上下にスチールコード用配合のゴムシート(厚み1.2mm)を配してサンドイッチ状に成形し、モールド実効圧力200kPaにて150℃×30分でプレス加硫した幅25mmのベルトストリップサンプルを作製し、ファイアストーン型ベルト疲労試験機(直径25mmの1本プーリー、雰囲気温度23℃)にて、5000回屈曲疲労させ、その後サンプルからコード10本を取り出し、引張試験(JIS G3510に準拠)にてコード強力を測定し、コード強力保持率を求めた。10本の平均値を比較例1を100して指数表示した。数値が大きいほど良好である。
【0078】
2)耐フレッチング性
上記ベルト疲労試験後のコードを解体し、インナーシースとアウターシースのフレッチングを実体顕微鏡(10倍)にて観察し評価した。フレッチングによるフィラメントの摩滅状態を、比較例1と相対比較し、劣る場合を「×」、同等を「△」、良好を「○」、優れるを「◎」として示した。
【0079】
[タイヤ耐久性]
上記評価Dのトッピング反をカーカスプライに適用した、サイズ265/60R22.5のラジアルタイヤを試作し、耐久性を下記条件のドラム試験にて評価した。なお、カーカス以外の各部位には全て共通の部材を使用した。
ドラム試験条件:表面が平滑な鋼製の直径1707mmの回転ドラムを有するドラム試験機により、周辺温度38±3℃、タイヤ内圧900KPa、速度56Km/hで一定として、JATMA規定の最大荷重の66%で4時間、次ぎに最大荷重の84%で16時間、最大荷重の101%で24時間、さらに最大荷重の110%で24時間走行させた後異常がなければ、12時間毎に最大荷重の10%ずつ荷重を増加し故障が発生するまで走行させた。故障発生までの走行距離を、比較例1を100とする指数で表1に示した。指数が大きいほど耐久性に優れることを示す。
【0080】
[耐熱接着性]
上記の各タイヤから切り出したサイドウォール部(周方向幅10cm、径方向長さ20cm)を、160℃に調整した熱風乾燥機中で96時間老化させた後、サイドウォールゴムを剥離しカーカスプライを露出させ、そのゴム付着率(%)を100点満点で評価した。数値が大きいほど耐熱接着性に優れる。
【0081】
【表1】
【0082】
比較例2は、ゴム糊濃度が低いためゴム糊粘度が低く、コアフィラメントへの付着量にバラツキがあり、シースフィラメントの偏りが生じてコード断面形状が不安定な部分がコード長手方向に所々発生した。このため、ゴム侵入性が不十分となり、比較例1(コントロール)に対して、耐疲労性、タイヤ耐久性の向上が見られない。また、比較例3は、ゴム糊濃度が高いためゴム糊粘度が高くなりすぎ、コアフィラメントへの付着量にバラツキがあり、シースフィラメントの偏りが生じコード断面形状が不安定となる部分がコード長手方向の随所に発生した。このため、ゴム侵入性が比較例2より劣り、耐疲労性、タイヤ耐久性も悪化した。
【0083】
これら比較例に対して、本発明に係る各実施例は、シースフィラメントの偏りを生じることなくコード断面形状が安定し、ゴム侵入性を良好にして、耐疲労性、タイヤ耐久性に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上説明したように、本発明のスチールコードは、各種用途の空気入りタイヤの補強材に適用することができ、特にトラックやバスなどの大型車両用の空気入りタイヤのカーカスやベルト材に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】空気入りタイヤの半断面図である。
【図2】実施形態の1+6+11構造スチールコードの断面図である。
【図3】実施形態の1×27構造スチールコードの断面図である。
【図4】フィラメント撚り角度を説明するシース側面図である。
【図5】実施形態のスチールコード製造例の説明図である。
【図6】1+6構造の断面図である。
【図7】3/9構造の断面図である。
【符号の説明】
【0086】
10……スチールコード
11……コア
12……コアフィラメント
13……インナーシース
14……インナーシースフィラメント
15……アウターシース
16……アウターシースフィラメント
G……ゴム糊
R……ゴム糊被覆層
S1、S2……シースフィラメント間の隙間
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチールコードの製造方法、スチールコード及び空気入りタイヤに関し、さらに詳しくは空気入りタイヤ、特にラジアルタイヤのカーカスやベルトの補強材として好適な耐久性能に優れるとともに、従来製法よりも安価に供給することができるスチールコードの製造方法とその方法により製造されたスチールコード及びそれを補強材に用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
トラック・バス用など大型車両用の空気入りタイヤのカーカスやベルトには、タイヤ強度や剛性を確保し、重荷重、高速走行等の過酷な使用条件に対する耐久性能と、耐摩耗性や操縦安定性、転がり抵抗性(燃費性)等を得るために、補強材としてスチールコードが一般的に使用されている。
【0003】
従来より、カーカス用コードとしては、3+9+15×0.175mm又は0.22mm(+1)等の3層構造、3+9又は3+8×0.22mm等の2層構造のスチールコードが一般的であった。一方、ベルト用コードとしては、カーカス用と同様の3+9+15構造や3+9構造の他に、3×0.20+6×0.35〜0.38mm等の比較的太径フィラメントを撚り合わせた2層構造のスチールコードが使用されてきた。
【0004】
上記のスチールコードは、コード強度と、剛性あるいは可撓性などのコード特性をカーカスやベルトに使い分けることで、タイヤ強度を確保して耐摩耗性や操縦安定性、転がり抵抗性等のタイヤ性能を向上している。
【0005】
しかしながら、従来のスチールコードは、タイヤ走行中にコードにかかる引張や圧縮歪みによるフレッチング摩耗に基づくコード強力の低下の問題や、コード軸方向に連続する空隙を形成し、外傷や溝底クラックから侵入する水分により耐腐食性が劣り、接着力の低下や錆によるコード消失などからセパレーションを発生するという問題があった。また、その製造工程が多く、コードコストの上昇を招いていた。
【0006】
そこで、耐フレッチング性やゴム侵入性、コストの問題を解消しようとした、1本のコアフィラメントの周囲に2層のシースを配置し、このシース層を同一方向、同一ピッチで撚り合わせてフィラメント相互間のラインコンタクト化を図るコンパクト撚りの1+18構造のスチールコード(特許文献1)や、シースフィラメントの細径化やその本数を間引いてゴムの浸透性を改善し、さらにラッピングワイヤを除去した1+6+(10〜11)構造のスチールコード(特許文献2、3)が開示され、フレッチング摩耗の低減と撚線工数を減じた低コストのスチールコードが提案されている。
【0007】
しかし、上記文献1〜3に開示のスチールコードは、フィラメントのラインコンタクト化によりフレッチング摩耗が低減し耐疲労性の向上とコードコストの点で有利となるが、反面で構成フィラメントがコード内部に充填配置されるためコード断面輪郭が非円形の多角形状になるという特徴を持ち、やはりゴムの侵入性は不十分であり前記耐腐食疲労性や、コードにかかる衝撃やせん断歪みによりコードがばらけたり、一部のフィラメントが先行破断するおそれがあり、上記問題点を充分に解消するには至っていない。
【0008】
そこで、コード内部にゴムを充填させるものとして、コアフィラメントを予め未加硫ゴムで被覆し、コアとシースフィラメントを撚り合わせたスチールコードが提案されている(例えば、特許文献4、5)。
【0009】
しかし、上記文献4、5の技術によると、スチール製のフィラメントに未加硫ゴムを一定の被覆厚みで、かつ連続的に均一に被覆することは極めて困難な作業であり、この未加硫ゴムの被覆が不完全であると上記問題は解消することができない。また、撚線工程の前工程として撚線機に設けた被覆用未加硫ゴムの押出機や、この押出機と撚線機とを同調運転させるための制御装置等の未加硫ゴム被覆設備や押出機にゴムを供給する供給設備などの付帯設備を要し、さらにゴム被覆の処理速度に合わせて撚線機を運転する必要があることから撚線速度が大幅に低下してしまいスチールコードの生産性が大きく低下するという問題を抱えている。
【0010】
また、上記の1+18構造など、コアを1本のフィラメントで構成するスチールコードは、コアフィラメントの周囲に複数のシースフィラメントを配置するため、適正な型付けをシースフィラメントに付与したとしても、撚線機内での高速回転運転やカレンダー装置によるトッピング加工時に、シースフィラメントがコアフィラメント上を動いて偏りやすく、その結果フィラメント間の隙間を閉じてしまい、所期のゴム侵入性向上の目的が達成し難くなるという問題がある。これは、スチールフィラメント同士の摩擦係数が小さいことが一因となっている。
【特許文献1】実公平3−29355号公報
【特許文献2】特開平8−232179号公報
【特許文献3】特表2003−519299号公報
【特許文献4】特開2002−302885号公報
【特許文献5】特開2004−190199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑み、空気入りタイヤ、特に大型ラジアルタイヤのカーカスやベルトの補強材として好適なスチールコードの撚り構造を安定化させゴム侵入性を確保することで耐久性能に優れるとともに、従来よりも安価に供給することができる多層構造のスチールコードの製造方法とその方法により得られるスチールコード及びそのスチールコードを補強材に用いた空気入りタイヤを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、金属や合成樹脂、繊維製品とゴムとの接着に使用されている液状のゴム糊をコアフィラメントに所定厚みで連続的に塗布(被覆処理)しフィラメント表面に未加硫ゴム被膜を形成することで、均一な未加硫ゴム被膜がコアフィラメントに得られ、これを用いて多層構造スチールコードを連続的に製造することでシースフィラメント隣接相互間に安定な隙間を形成しゴム侵入効果を確実なものとして、さらにゴム糊組成を特定することで接着性を向上し得ることを見出したものである。
【0013】
すなわち、請求項1に記載の発明は、コード中心に配した1〜3本のフィラメントからなるコアを有し、スチールコードのシースを構成する各フィラメント相互隣接間に平均0.01mm以上の隙間を形成する多層構造のスチールコードを製造する方法であって、該スチールコードの撚線工程において、コアフィラメントの供給装置と撚線機の間にゴム糊を溜める浴を配し、前記コアフィラメントの少なくとも1本を前記ゴム糊浴中に浸漬し該コアフィラメントの表面に所定厚みのゴム糊被覆層を形成しながら前記撚線機を運転し、前記コアフィラメントとシースフィラメントとを撚り合わせることを特徴とするスチールコードの製造方法である。
【0014】
請求項2に記載の発明は、前記コアフィラメントのゴム糊被覆厚みが、該フィラメント径の0.05〜0.5倍になるようにしたことを特徴とする請求項1に記載のスチールコードの製造方法である。
【0015】
請求項3に記載の発明は、前記スチールコードは、L+M+N構造(L=1〜3、M=L+3〜5、N=M+5〜7、又は0でもよい(N=0の時は2層構造である))で表されることを特徴とする請求項1又は2に記載のスチールコードの製造方法である。
【0016】
請求項4に記載の発明は、ジエン系ゴム成分を含有するゴム成分100重量部に対し、下記(A)〜(D)成分が配合されてなる未加硫ゴム組成物を有機溶媒に溶解してなるゴム糊を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスチールコードの製造方法である。
(A)ゴム補強用充填剤 20〜200重量部、(B)イオウ 1〜10重量部、(C)フェノール類化合物をホルマリンで縮合したフェノール系樹脂またはフェノール類化合物 0.1〜10重量部、及び、(D)ヘキサメチレンテトラミンまたはメラミン誘導体 0.2〜20重量部。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載のスチールコードの製造方法により製造されたことを特徴とするスチールコードである。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のスチールコードを補強材に用いたことを特徴とする空気入りタイヤである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、1〜3本のコアフィラメントを有する多層構造スチールコードのゴム侵入性を良好なものとすることができるので、スチールコードの耐食疲労性と耐フレッチングを両立してカーカスおよびベルトの耐久性を向上し、しかも耐熱、耐湿熱接着性に優れるゴム組成物をコード内部に充填できるのでさらに接着性能を大幅に改善しタイヤのロングライフ化を実現することができる。しかも、このスチールコードは撚線工程において連続的に安定した均一な品質で、生産性を低下させずに安価に供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明の実施形態に係るスチールコード製造方法及び空気入りタイヤについて図面を参照し説明する。
【0021】
図1は、本発明の1実施形態のトラック・バス用の空気入りタイヤの1例を示すラジアルタイヤTの半断面図であり、符号3はトレッド部、5はサイドウォール部、4はビード部、CLはタイヤセンターである。
【0022】
タイヤTは、トレッド部3と、該トレッド部3の両ショルダー部で連なる一対のサイドウォール部5と該サイドウォール部5に続くビード部4とを備え、ラジアル配列されたスチールコードの端部を左右一対のビードコア6で折り返して係止した1層のカーカス2と、スチールコードをタイヤ周方向に対して傾斜し配列した4層のベルト層からなるベルト1をカーカス2のタイヤ径方向外側のトレッド部3に有している。該ベルト1は、タイヤ内側から2番目、3番目のベルト層1B間でそのベルトコードが交差され配置されている。
【0023】
タイヤTは、カーカス2やベルト1の構成するスチールコードが、コード中心に配した1〜3本のフィラメントからなるコアを有し、コアの周囲にインナーシースとアウターシスとが撚り合わされた多層構造(L+M+N構造)のスチールコードからなり、前記コアの周囲に配されたシース層を構成する各シースフィラメント相互の隣接間の隙間が平均0.01mm以上に保持されている。
【0024】
本発明に係るスチールコード構造としては、L+M+N構造(L=1〜3、M=L+3〜5、N=M+5〜7、又は0でもよい(N=0の時は2層構造である))で表されものが好ましく挙げられる。コアフィラメントは撚られていても撚られていなくてもよいが、2本又は3本の場合はコアの耐疲労性を維持する観点から撚られていることが好ましい。
【0025】
L+M+N構造の好ましい具体的な構造例としては、例えば、1+5+10、1+5+11、1+5+12、1+6+10、1+6+11、1+6+12、2+5+11、2+5+12、2+6+10、2+6+11、2+6+12、2+7+12、2+7+13、3+6+11、3+6+12、3+7+12、3+7+13、3+6+12、3+6+13、3+7+12、3+7+13、3+8+13、3+8+14等の3層構造、1+5、1+6、2+5、2+6、2+7、3+6+、3+7、3+8等の2層構造が挙げられる。
【0026】
図2は、本発明に係るL+M+N構造スチールコードの1例である1+6+11構造のスチールコード10を示すコード断面図であり、コード中心に配したコア11を構成するフィラメント径dcのコアフィラメント12と、該コア11の周囲に配したインナーシース13を構成するフィラメント径diの6本のインナーシースフィラメント14と、該インナーシース13の周囲に配置したアウターシース15を構成するフィラメント径doの11本のアウターシースフィラメント16とからなり、インナーシース13とアウターシース15とを同一方向に撚り合わせている。
【0027】
コア、シースのフィラメント径としては、特に制限されないが、コアフィラメントのゴム糊被覆厚み、及びコード構造とフィラメント径の組み合わせで上記0.01mm以上の隙間がシースフィラメント14、16のそれぞれ相互隣接間に形成できるものであればよい。
【0028】
中でもフィラメント径は0.15〜0.40mmの範囲が好ましく、0.15mm未満になるとコード強度、剛性の確保が困難になり、また伸線コストも上昇する。0.40mmを超えるとフィラメントが剛直となり、特にカーカスの場合は耐疲労性やタイヤ成型性に悪影響し、乗り心地性や操縦安定性も低下する。好ましいフィラメント径の範囲は、カーカス用コードでは0.175〜0.23mm、ベルト用コードでは0.20〜0.38mmである。
【0029】
例えば、上記1+6+11構造において、コアフィラメント12のフィラメント径dcは0.20mm、インナーシース13とアウターシース15のフィラメント径dsを0.18mmとすることで、カーカス用コードとしての強力、耐疲労性、可撓性等を確保した上で同一シース内のシースフィラメント相互の隣接間にゴムの侵入する0.01mm以上の隙間S1、S2を形成することが容易となる。
【0030】
ここで、コアを1本のフィラメントとした1+6+11構造の場合、コアフィラメント径dcと、インナーシースフィラメント14及びアウターシースフィラメント16を構成するフィラメント径dsとの関係は、1<dc/ds≦1.2程度にコアフィラメントを太径に設計することが好ましい。
【0031】
図2に示す1+6+11構造の場合、コアフィラメント径dcをインナーシース及びアウターシースフィラメント径dsより若干太くすることにより、コードの真直性を良好にし、インナーシースフィラメント14及びアウターシースフィラメント16相互の隣接間に、コード10内部にゴムが侵入する隙間S1とS2を形成することができる。この隙間S1、S2は共に平均0.01mm以上である必要があり、好ましくは0.02mm以上、より好ましくは0.02〜0.04mmである。
【0032】
また、コアフィラメント径dcを若干太くすることで、コアフィラメント12とインナーシースフィラメント14間の接触圧を下げて耐疲労性の低下を防ぐことができる。しかし、コアフィラメント径dcとシースフィラメント径dsの差を1.2倍よりも大きくすると、両者の疲労性の差が大きくなり、また後述するゴム糊被覆を施したとしてもインナーシースフィラメント14がコアフィラメント12の周りで動きやすくなる傾向にあり、フィラメント14が偏ってゴム侵入性の低下やコアフィラメント12のフレッチング摩耗が増えて耐疲労性が低下するので好ましくない。
【0033】
この時、インナーシースフィラメント12の径diとアウターシースフィラメント16の径doは、全て同一のフィラメント径dsであってもよく、diとdoとが異なるものでもよい。また、同一シース13及び15内で複数の異径フィラメントを組み合わせてもよいが、フィラメント部材数の増加、撚線工程が煩雑となるなどコード生産性に影響するので、コード製造コストを抑える観点からは同一シース内には同一径のフィラメントを用いることが好ましい。
【0034】
また、本発明に係るスチールコードは、1回の撚線工程で得られる1×n構造(nは6本以上が好ましい)が挙げられ、撚線効率を高めてコードコスト的に有利なものとなる。
【0035】
この1×n構造としては、コアフィラメントが1〜3本で構成され、実用的には、1×7〜27構造が好ましく、例えば、1×18構造の場合はコード断面内にコア/インナーシース/アウターシースのフィラメント配置が1/6/11本の断面形状に配され、1×19構造の場合はコード断面内にコア/インナーシース/アウターシースのフィラメント配置が1/6/12本の断面形状に配され、1×27構造の場合はコード断面内にコア/インナーシース/アウターシースのフィラメント配置が3/9/15本の断面形状に配されて、すべてのフィラメントを集束板に集めて1回の撚線工程でコードに撚り上げることができる。図3に全てのフィラメントが同一径からなる1×27構造スチールコードの断面図を例示する。
【0036】
すなわち、本発明に係るスチールコードにおけるコア及びシースのフィラメント径は、コード構造とコアフィラメントのゴム糊被覆厚みを考慮した上で、シースフィラメント相互の隣接間に0.01mm以上の隙間を確保できる範囲であれば、同径、異径フィラメントを組み合わせること、コアフィラメントをシースフィラメントより太くすることも細くすることも自由に設計することができる。
【0037】
本発明に係るスチールコード10は、コアフィラメント12がスチールコード10の撚り合わせ前に予めゴム糊により被覆されており、図2に示すようにコアフィラメント12の周囲に6本のアウターシースフィラメント14がゴム糊の被覆層を介して密着し撚り合わされるので、両者の摩擦係数が大きくなり撚り線時に撚線機内での高速回転運転やカレンダー装置によるトッピング加工時にシースフィラメント14がコアフィラメント12上を動き難くしてコード断面形状を理想形状に保持し、ゴム侵入性向上の目的を達成することができる。
【0038】
また、本発明に係るスチールコード10は、前記インナーシース13とアウターシース15の撚り方向が同一方向であることが好ましい。これにより、層撚りコードのコード強力低下の主原因であるインナーシース13とアウターシース15の異方向撚りに基づくフィラメントの点接触によるフレッチング摩耗の問題を軽減し、耐フレッチング性を改善することができる。
【0039】
この場合、図4に示すように、スチールコード10は、インナーシースフィラメント14の該コード軸Oに対する撚り角度θ1と、アウターシースフィラメント16の該コード軸Oに対する撚り角度θ2との交差角θ(θ1−θ2)が10°以下であることが好ましい。
【0040】
これにより、インナーシースフィラメント14、14間の谷間にアウターシースフィラメント16が落ち込むのを防いで、スチールコード10の断面形状を円に近づけることで上記の隙間S1、S2を確保しゴム侵入性を確実にするとともに、断面多角形状コードの特定フィラメントへの応力集中の問題を解消することができる。
【0041】
また、本発明に係るスチールコードを構成する各フィラメントは、炭素含有量が0.70〜0.95重量%程度にある高炭素鋼(例えば、JIS G3502に規定のピアノ線材)からなり、2500〜3500N/mm2程度の抗張力を有し、さらに軽量化の観点から抗張力は2700N/mm2以上が好ましく、さらに2900N/mm2以上にある高抗張力フィラメントであることがより好ましい。しかし、抗張力が3500N/mm2を超えるとフィラメントの伸線加工性の悪化や鋼の脆化により耐疲労性の低下を招き好ましくない。
【0042】
さらに、フィラメント表面には、ゴムとの接着性を良好にするために銅比率が63〜67%のブラスめっきが、4〜6g/Kg程度の付着量で被覆されている。また、ブラスにコバルトやニッケルなどの第3金属を少量含む3元合金めっきでもよい。
【0043】
本発明に係るスチールコードは、コアフィラメントが該スチールコードの撚り合わせ前に予めゴム糊により被覆されていることを特徴としている。
【0044】
ゴム糊としては、ジエン系ゴム成分を含有するゴム成分100重量部に対し、下記(A)〜(D)成分が配合されてなる未加硫ゴム組成物を有機溶媒に溶解してなるものが使用できる。(A)ゴム補強用充填剤 20〜200重量部、(B)イオウ 1〜10重量部、(C)ヘキサメチレンテトラミンまたはメラミン誘導体0.2〜20重量部、(D)フェノール樹脂、レゾルシン、レゾルシン誘導体及びクレゾール樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種0.1〜10重量部。
【0045】
ジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、及び、ハロゲン化ブチルゴムが挙げられる。これらの複数を組み合わせたゴムブレンドであってもよい。好ましいゴム成分は、例えば、天然ゴム単独、または、天然ゴムを70重量部以上含むジエン系合成ゴムとのブレンドである。天然ゴムが70重量部未満であると、粘着性が低下し、ゴム糊のスチールフィラメントへのいわゆる「のり」が悪くなり、均一な被膜が形成しずらくなる。
【0046】
上記ゴム成分に添加される配合剤として、(A)ゴム補強用充填剤は、上記ゴム成分100重量部に対して20〜200重量部添加される。充填剤としては、一般に、カーボンブラックまたはシリカが用いられ、これらを混合して用いることもできる。カーボンブラックやシリカとしては、特に限定されないが、GPF、FEF、HAF級のカーボンブラックが挙げられ、シリカとしては湿式シリカが好ましい。
【0047】
また、(B)架橋剤として、イオウ系架橋剤が一般的であり、上記ゴム成分100重量部に対し1〜10重量部添加され、適量のイオウにより適度の架橋を実現する。イオウの添加量が1重量部未満であると、充分な架橋密度が得られないためフィラメント及びスチールコード被覆ゴムとの良好な接着性が得られない。
【0048】
前記ゴム糊に用いるゴム組成物には、(C)フェノール類化合物、またはフェノール類化合物をホルマリンで縮合したフェノール系樹脂が上記ゴム成分100重量部に対し0.1〜10重量部添加される。好ましくは0.5〜5重量部であり、より好ましくは1〜3重量部である。ここで、フェノール系樹脂は、未硬化の樹脂であって、液状または熱流動性を有するものである。
【0049】
また、ゴム組成物には、フェノール系樹脂等を反応、硬化させる、(D)ヘキサメチレンテトラミンまたはメラミン誘導体が0.2〜20重量部添加される。また、フェノール系樹脂等の添加量が1〜3重量部である場合に、その1.5〜2.5倍程度が好ましい。
【0050】
前記フェノール類化合物には、フェノール、レゾルシンまたはこれらのアルキル誘導体が含まれる。アルキル誘導体には、クレゾール、キシレノールといったメチル基誘導体の他、ノニルフェノール、オクチルフェノールといった比較的長鎖のアルキル基による誘導体も含まれる。
【0051】
また、フェノール類化合物をホルマリンで縮合したフェノール系樹脂には、レゾルシン・ホルマリン樹脂、フェノール・ホルマリン樹脂、クレゾール・ホルマリン樹脂等の他、複数のフェノール化合物からなるホルマリン樹脂が含まれる。しかし、ゴム成分や他の成分との相溶性の見地からは、アルキルフェノールを含むものが好ましく、硬化後の樹脂の緻密さ及び信頼性の見地からはレゾルシンまたはその誘導体を含むものが好ましい。そこで、特に好ましいフェノール系樹脂として、レゾルシン・アルキルフェノール共縮合ホルマリン樹脂を挙げることができる。
【0052】
さらに、スチールフィラメントとの接着成分として、ステアリン酸コバルト、ナフテン酸コバルトなどの有機金属塩を少量添加してもよい。
【0053】
上記した各成分の他に、芳香族系オイルなどのプロセスオイル、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、軟化剤、可塑剤、活性剤、滑剤等の各種添加剤を必要に応じて添加することができる。
【0054】
上記のゴム糊に使用されるゴム組成物は、スチールコードとの初期接着性を確保するとともに、耐熱接着性や耐湿熱接着性を向上するもので、タイヤ走行中の発熱やタイヤ内外からの水分に対してスチールコード内部においても良好な接着性を保持することができ、特に上記ゴム侵入効果により水分の浸入が抑制されたとしても、タイヤ内部に蓄積される熱により劣化を受けると、ゴムの破壊靱性及び強度が低下するとともにフィラメントとの接着性が低下し、上記ゴム侵入効果が損なわれる結果となる。
【0055】
本発明に係るゴム糊を調製する方法としては、特に限定されることなく公知の方法を使用することができる。例えば、上記各成分と必要に応じて他の添加剤をバンバリーミキサーやロールなどを用いて混練し、得られたゴム組成物を、ゴム用揮発油やトルエン、キシレンなどのゴムを溶解する揮発性の有機溶剤中に撹拌し、溶解・分散させることにより調製することができる。ゴム組成物と有機溶剤との配合比率は特に限定されないが、通常、重量比でゴム組成物/有機溶剤=1 /5〜1/15であることが好ましい。
【0056】
ここで得られたゴム糊の粘度は、5000〜15000mPa・sであることが好ましい。粘度が5000mPa・s未満であると、フィラメントへの付着量にバラツキが生じやすく、またゴム糊の固化に時間を要して撚線機のローラ等に付着するなどの不具合を生じることがある。逆に、粘度が15000mPa・sを超えると、フィラメントへの付着厚みのバラツキが大きくなってしまうことがある。この観点から、粘度は13000mPa・s以下が好ましく、5000〜10000mPa・sの範囲が特に好ましい。
【0057】
本発明に係るスチールコードの製造方法は、コアフィラメントがスチールコードの撚り合わせ前に予め前記ゴム糊によりその表面が被覆されるものであり、図4に示すように、スチールコードの撚線工程において、コアフィラメント12の供給装置21と撚線機22の間に前記ゴム糊Gを溜める浴23を配しておき、この浴23にゴム糊を溜めてコアフィラメント12を該浴中に浸漬し撚線機22を運転することで、コアフィラメント12に連続的にゴム糊Gの被膜を均一に形成しながらスチールコードの1+6構成(インナーシース部分)を製造することができる。
【0058】
このコアフィラメント12は、ゴム糊浸漬後に撚線機22に導入される前に、液状のゴム糊Gはある程度乾燥されることが好ましく、例えば温風機を用いて熱風をフィラメントに吹き付ける、あるいは温風乾燥器24中を通過させる等により液状ゴム糊の有機溶媒分を揮発させ乾燥状態あるいは半乾燥状態とすることができる。
【0059】
この際のコアフィラメント12のゴム糊被覆厚みは、該フィラメント径の0.05〜0.5倍になるようにすることが好ましい。ゴム糊がフィラメントに対して多少過剰に付着したとしても、撚線時の張力による締め込み力や加硫時の圧力でゴム分が変形あるいは流動することで良好なコード断面形状を得られる。
【0060】
このゴム糊のフィラメントへの付着量(被覆厚み)は、ゴム糊の配合組成、上記粘度や濃度、処理速度、浴長、浴温度などにより適宜調整することができる。また、ゴム糊の付着性を良好にするために、浸漬処理前にフィラメントを50〜100℃程度に加熱してもよい。
【0061】
このスチールコードの製造は、例えばスチールコード10では、コアフィラメント12の周囲に配されたインナーシース13の6本のフィラメント14が鏡板から集合ボイス25に集束され、通常のバンチャー式撚線機やチューブラー式撚線機の撚線機22に導入されて所定ピッチで撚り合わされ1+6構造が形成される(図5参照)。
【0062】
次に、一旦ボビンに巻き取った前記1+6構造を引き出しその周囲にアウターシース15の11本のフィラメント16を配し鏡板から集合ボイスに集束し、通常のバンチャー式撚線機やチューブラー式撚線機に導入して、前記1+6構造と同一方向に所定ピッチで撚り合わされることで、1+6+11構造のスチールコード10が2回の撚線工程により製造される。
【0063】
このスチールコード10の製造に際し、コアフィラメント12の供給装置21と第1の撚線機22の間にゴム糊の浴23が配置されており、ボビンから引き出されたフィラメント12がゴム糊浴22に溜められたゴム糊Gに浸漬され所定厚みにゴム糊が被覆処理される。必要に応じ、浴は複数を設けてもよく、液状のゴム糊を乾燥させる温風装置や乾燥器24を設けてもよい。撚線機22内で1+6構造に撚り合わされる時、コアフィラメント12はシースフィラメント14に周囲から押圧され締め込まれることで、図6に示すように、コアフィラメント12の被覆ゴムRはシースフィラメント14間に食い込むようになり、フィラメント間に隙間Sを均一に形成し、かつシースフィラメント14の動きを抑制するようになる。
【0064】
また、スチールコードの製造方法としては、同一ライン上に連結された2台のバンチャー式撚線機を用い、第1のアウト−イン−アウト式バンチャー式撚線機で1+6構造のインナーシースを撚り合わせ、これに連続して前記1+6構造の周囲に11本のアウターシースフィラメント16を配置して鏡板から集合ボイスに集束して第2のアウト−イン式バンチャー式撚線機に導入し1+6+11構造スチールコード10を1工程で製造することもできる。
【0065】
また、上記バンチャー式撚線機に代えて、上記同一ライン上に連結された2台のチューブラー式撚線機を用いても同様に1+6+11構造スチールコード10を1工程で製造することができる。また、第1撚線機をバンチャー式撚線機とし、第2撚線機をチューブラー式撚線機としても、またその逆に配置したものでもよい。この場合も、上記と同様のゴム糊の被覆処理がコアフィラメントに施される。
【0066】
1×n構造スチールコードの場合は、例えば図3に示す1×27構造スチールコードでは、3本のコアフィラメント22の周囲に配された9本のインナーシースフィラメント23と15本のアウターシースフィラメント24が鏡板から集合ボイスに集束され、通常のバンチャー式撚線機やチューブラー式撚線機に導入されて所定ピッチで撚り合わされ1×27構造のスチールコードが1回撚りで形成される。この場合も、コアフィラメントの供給装置と撚線機の間にゴム糊の浴が配置されており、ボビンから引き出された3本のフィラメントが浴に溜められたゴム糊に浸漬され所定厚みにゴム糊が被覆処理され撚線機に導入される。
【0067】
上記コアフィラメント22が3本の場合も、被覆ゴムRがシースフィラメント23間に食い込むようになり、シースフィラメント間に隙間Sを形成しゴム侵入性を向上する。もちろん、3本のコアフィラメント22の中心部もゴムで充填されるようになる(図7参照)。
【0068】
そして、本発明の空気入りタイヤは、上記スチールコードを補強材としてカーカスやベルトプライ、あるいはチェーハーなどに用いることで、ゴム侵入性と耐フレッチング性をバランス良く向上しかつ接着性に優れて、耐久性のよいロングライフ化が図られる空気入りタイヤとすることができる。タイヤ用途としては、トラックやバス用などの大型車両用、建設車両用、オフロード用車両のタイヤに好適に使用することができる。
【実施例】
【0069】
次に本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0070】
[ゴム糊の調製]
天然ゴム(RSS#1)100重量部、HAFカーボンブラック(東海カーボン製、シースト3)60重量部、亜鉛華(三井金属鉱業製、亜鉛華1号)4重量部、硫黄(細井化学工業製、ゴム用粉末硫黄150メッシュ)3重量部、加硫促進剤CBS(大内新興化学工業製、ノクセラー6C)1.5重量部、コバルト金属塩(日本鉱業製、ステアリン酸コバルト)を金属分換算で0.2重量部に、レゾルシン・アルキルフェノール共縮合ホルマリン樹脂(住友化学製、スミカノール620)2重量部とヘキサメトキシメチルメラミン(三井サイテック製、サイレッツ963)4重量部を配合し、20Lバンバリーミキサーにより常法にて混練しゴム組成物を製造した。ゴム用揮発油100重量部に、得られたゴム組成物を各3、10、15、20、25重量部投入し、攪拌、溶解した5種類の濃度のゴム糊を調製した。
【0071】
[スチールコードの製造]
図2に示す0.20+(6+11)×0.18mm構造のスチールコードをタンデムに配置した2台のチューブラー式撚線機を用い、コアフィラメント供給ボビンと第1撚線機の間にゴム糊用浴(浴長1m)を配置してフィラメントを浸漬処理し、その後80℃の温風乾燥器槽内(槽長1m)を通過させてゴム糊を乾燥させ、第1撚線機に導入し、1+6構造を撚り合わせ、連続して第2撚線機にて1+6+11構造のスチールコードを撚りピッチS6/S12mmにて製造した。ゴム糊は上記5種類のものを使用した。また、コントロール(比較例1)としてゴム糊未使用のスチールコードを製造した。
【0072】
得られた各スチールコードのコード断面形状安定性、ゴム侵入性、耐疲労性(ベルト疲労試験)及びタイヤの耐久性能を下記の方法により評価した。さらに、タイヤサイドウォール部から切り出したカーカスプライの耐熱接着性を評価した。結果を、表1に示す。
【0073】
[コード断面形状安定性]
評価A)撚線後のスチールコードを、ポリエチレン樹脂に埋め込み、コード断面方向面を金属研磨機を用いて鏡面状態に研磨し、光学顕微鏡を用いて(20倍)コード断面のインナーシースおよびアウターシースフィラメントの配置状態(フィラメントの偏り)を観察した。比較例1と相対比較し、劣る場合を「×」、同等を「△」、良好を「○」、優れるを「◎」として示した。
【0074】
評価B)後述するゴム侵入性の評価Dのトッピング反より取り出したコードを用いた以外は、評価Aと同様にして評価した。
【0075】
[ゴム侵入性]
評価C)撚線後のスチールコードを、コード打ち込み本数を10本/25mmとして平行に配列し、コードの上下にスチールコード用配合のゴムシート(厚み3mm)を配してサンドイッチ状に成形したものをサンプルとし、モールド実効圧力200kPaにて150℃×30分でプレス加硫した後、加硫サンプルから取り出したコードを、アウターシース、インナーシースの順に丁寧にほぐし、コアとインナーシースのゴム付着を目視で観察した。コアフィラメント及びインナーシースのゴム付着率を比較例1と相対比較し、劣る場合を「×」、同等を「△」、良好を「○」、優れるを「◎」として示した。
【0076】
評価D)コード打ち込み本数を17本/25mmとして、タイヤ生産用カレンダー装置を用いてゴム引き加工したトッピング反をサンプルとした以外は、評価Cと同様にして評価した。
【0077】
[耐疲労性(ベルト疲労試験)]
1)コード強力保持率
各スチールコードを、コード打ち込み本数を17本/25mmとして平行に配列し、コードの上下にスチールコード用配合のゴムシート(厚み1.2mm)を配してサンドイッチ状に成形し、モールド実効圧力200kPaにて150℃×30分でプレス加硫した幅25mmのベルトストリップサンプルを作製し、ファイアストーン型ベルト疲労試験機(直径25mmの1本プーリー、雰囲気温度23℃)にて、5000回屈曲疲労させ、その後サンプルからコード10本を取り出し、引張試験(JIS G3510に準拠)にてコード強力を測定し、コード強力保持率を求めた。10本の平均値を比較例1を100して指数表示した。数値が大きいほど良好である。
【0078】
2)耐フレッチング性
上記ベルト疲労試験後のコードを解体し、インナーシースとアウターシースのフレッチングを実体顕微鏡(10倍)にて観察し評価した。フレッチングによるフィラメントの摩滅状態を、比較例1と相対比較し、劣る場合を「×」、同等を「△」、良好を「○」、優れるを「◎」として示した。
【0079】
[タイヤ耐久性]
上記評価Dのトッピング反をカーカスプライに適用した、サイズ265/60R22.5のラジアルタイヤを試作し、耐久性を下記条件のドラム試験にて評価した。なお、カーカス以外の各部位には全て共通の部材を使用した。
ドラム試験条件:表面が平滑な鋼製の直径1707mmの回転ドラムを有するドラム試験機により、周辺温度38±3℃、タイヤ内圧900KPa、速度56Km/hで一定として、JATMA規定の最大荷重の66%で4時間、次ぎに最大荷重の84%で16時間、最大荷重の101%で24時間、さらに最大荷重の110%で24時間走行させた後異常がなければ、12時間毎に最大荷重の10%ずつ荷重を増加し故障が発生するまで走行させた。故障発生までの走行距離を、比較例1を100とする指数で表1に示した。指数が大きいほど耐久性に優れることを示す。
【0080】
[耐熱接着性]
上記の各タイヤから切り出したサイドウォール部(周方向幅10cm、径方向長さ20cm)を、160℃に調整した熱風乾燥機中で96時間老化させた後、サイドウォールゴムを剥離しカーカスプライを露出させ、そのゴム付着率(%)を100点満点で評価した。数値が大きいほど耐熱接着性に優れる。
【0081】
【表1】
【0082】
比較例2は、ゴム糊濃度が低いためゴム糊粘度が低く、コアフィラメントへの付着量にバラツキがあり、シースフィラメントの偏りが生じてコード断面形状が不安定な部分がコード長手方向に所々発生した。このため、ゴム侵入性が不十分となり、比較例1(コントロール)に対して、耐疲労性、タイヤ耐久性の向上が見られない。また、比較例3は、ゴム糊濃度が高いためゴム糊粘度が高くなりすぎ、コアフィラメントへの付着量にバラツキがあり、シースフィラメントの偏りが生じコード断面形状が不安定となる部分がコード長手方向の随所に発生した。このため、ゴム侵入性が比較例2より劣り、耐疲労性、タイヤ耐久性も悪化した。
【0083】
これら比較例に対して、本発明に係る各実施例は、シースフィラメントの偏りを生じることなくコード断面形状が安定し、ゴム侵入性を良好にして、耐疲労性、タイヤ耐久性に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上説明したように、本発明のスチールコードは、各種用途の空気入りタイヤの補強材に適用することができ、特にトラックやバスなどの大型車両用の空気入りタイヤのカーカスやベルト材に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】空気入りタイヤの半断面図である。
【図2】実施形態の1+6+11構造スチールコードの断面図である。
【図3】実施形態の1×27構造スチールコードの断面図である。
【図4】フィラメント撚り角度を説明するシース側面図である。
【図5】実施形態のスチールコード製造例の説明図である。
【図6】1+6構造の断面図である。
【図7】3/9構造の断面図である。
【符号の説明】
【0086】
10……スチールコード
11……コア
12……コアフィラメント
13……インナーシース
14……インナーシースフィラメント
15……アウターシース
16……アウターシースフィラメント
G……ゴム糊
R……ゴム糊被覆層
S1、S2……シースフィラメント間の隙間
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コード中心に配した1〜3本のフィラメントからなるコアを有し、スチールコードのシースを構成する各フィラメント相互隣接間に平均0.01mm以上の隙間を形成する多層構造のスチールコードを製造する方法であって、
該スチールコードの撚線工程において、コアフィラメントの供給装置と撚線機の間にゴム糊を溜める浴を配し、前記コアフィラメントの少なくとも1本を前記ゴム糊浴中に浸漬し該コアフィラメントの表面に所定厚みのゴム糊被覆層を形成しながら前記撚線機を運転し、前記コアフィラメントとシースフィラメントとを撚り合わせる
ことを特徴とするスチールコードの製造方法。
【請求項2】
前記コアフィラメントのゴム糊被覆厚みが、該フィラメント径の0.05〜0.5倍になるようにした
ことを特徴とする請求項1に記載のスチールコードの製造方法。
【請求項3】
前記スチールコードは、L+M+N構造(L=1〜3、M=L+3〜5、N=M+5〜7、又は0でもよい(N=0の時は2層構造である))で表される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のスチールコードの製造方法。
【請求項4】
ジエン系ゴム成分を含有するゴム成分100重量部に対し、下記(A)〜(D)成分が配合されてなる未加硫ゴム組成物を有機溶媒に溶解してなるゴム糊を用いる
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスチールコードの製造方法。
(A)ゴム補強用充填剤 20〜200重量部、(B)イオウ 1〜10重量部、(C)フェノール類化合物をホルマリンで縮合したフェノール系樹脂またはフェノール類化合物 0.1〜10重量部、及び、(D)ヘキサメチレンテトラミンまたはメラミン誘導体 0.2〜20重量部。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のスチールコードの製造方法により製造された
ことを特徴とするスチールコード。
【請求項6】
請求項5に記載のスチールコードを補強材に用いた
ことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項1】
コード中心に配した1〜3本のフィラメントからなるコアを有し、スチールコードのシースを構成する各フィラメント相互隣接間に平均0.01mm以上の隙間を形成する多層構造のスチールコードを製造する方法であって、
該スチールコードの撚線工程において、コアフィラメントの供給装置と撚線機の間にゴム糊を溜める浴を配し、前記コアフィラメントの少なくとも1本を前記ゴム糊浴中に浸漬し該コアフィラメントの表面に所定厚みのゴム糊被覆層を形成しながら前記撚線機を運転し、前記コアフィラメントとシースフィラメントとを撚り合わせる
ことを特徴とするスチールコードの製造方法。
【請求項2】
前記コアフィラメントのゴム糊被覆厚みが、該フィラメント径の0.05〜0.5倍になるようにした
ことを特徴とする請求項1に記載のスチールコードの製造方法。
【請求項3】
前記スチールコードは、L+M+N構造(L=1〜3、M=L+3〜5、N=M+5〜7、又は0でもよい(N=0の時は2層構造である))で表される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のスチールコードの製造方法。
【請求項4】
ジエン系ゴム成分を含有するゴム成分100重量部に対し、下記(A)〜(D)成分が配合されてなる未加硫ゴム組成物を有機溶媒に溶解してなるゴム糊を用いる
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスチールコードの製造方法。
(A)ゴム補強用充填剤 20〜200重量部、(B)イオウ 1〜10重量部、(C)フェノール類化合物をホルマリンで縮合したフェノール系樹脂またはフェノール類化合物 0.1〜10重量部、及び、(D)ヘキサメチレンテトラミンまたはメラミン誘導体 0.2〜20重量部。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のスチールコードの製造方法により製造された
ことを特徴とするスチールコード。
【請求項6】
請求項5に記載のスチールコードを補強材に用いた
ことを特徴とする空気入りタイヤ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2008−202196(P2008−202196A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−42889(P2007−42889)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】
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