説明

ステアリング装置用トルク伝達装置

【課題】構成部材に衝撃的なトルクが加わった場合に、その事を運転者が容易且つ確実に認識できるステアリング装置を得られるステアリング装置用トルク伝達装置を実現する。
【解決手段】(A)に示す様に、ヨーク10の雌スプライン部14と、シャフト11の雄スプライン部18とを、各歯部15、19同士の間に周方向隙間を介在させた状態で、圧入嵌合させる。圧入嵌合部に作用する摩擦力により伝達可能なトルクの最大値(閾値)を、車両が停止した状態でステアリングホイールを操作した場合に加わる、平常時最大伝達トルクよりも大きくする。衝突事故等により前記ヨーク10と前記シャフト11との間に、前記閾値を超える大きさの衝撃的なトルクが加わると、(B)に示す様に、これらヨーク10とシャフト11との回転方向に関する位相がずれる。この結果、直進状態でのステアリングホイールの姿勢が変化するので、前記衝撃的なトルクが加わった事が分かる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両(自動車)の操舵輪(フォークリフト等の特殊車両を除き、通常は前輪)に舵角を付与する為のステアリング装置を構成して、ステアリングホイールの動きをステアリングギヤユニットに伝達するトルク伝達装置の改良に関する。具体的には、衝突事故や、運転操作の誤りにより操舵輪を縁石に乗り上げる等により、前記ステアリングギヤユニットの側から、前記ステアリング装置の構成部品の損傷に結び付く様な衝撃が加わった場合に、運転操作を可能にしつつ、この様な衝撃が加わった事実を運転者に分かる様にするものである。
【背景技術】
【0002】
ステアリング装置として、例えば図11に示す様な構造が、広く知られている。このステアリング装置は、車体1に支持された円筒状のステアリングコラム2の内径側にステアリングシャフト3を、回転自在に支持している。そして、このステアリングコラム2の後端開口よりも後方に突出した、前記ステアリングシャフト3の後端部分に、ステアリングホイール4を固定している。このステアリングホイール4を回転させると、この回転が、前記ステアリングシャフト3、自在継手5a、中間シャフト6、自在継手5bを介して、ステアリングギヤユニット7の入力軸8に伝達される。この入力軸8が回転すると、このステアリングギヤユニット7の両側に配置された1対のタイロッド9、9が押し引きされて左右1対の操舵輪に、前記ステアリングホイール4の操作量に応じた舵角が付与される。
【0003】
上述の様なステアリング装置には、前記ステアリングホイール4から前記入力軸8までの間に、それぞれが操舵の為のトルクを伝達する部材同士の結合部が、複数箇所存在する。例えば、前記両自在継手5a、5bを構成するヨークの基端部と、これら両自在継手5a、5bにより結合されるシャフトの先端部(前記ステアリングシャフト3の前端部、前記中間シャフト6の両端部、前記入力軸8の基端部)との結合部も、上述の様な結合部に該当する。この様なシャフトと自在継手のヨークとの結合部に関しては、従来から、これらシャフトの先端部とヨークの基端部とを、締り嵌めによる嵌合、セレーション嵌合、溶接、かしめ、これらの併用等(例えば特許文献1、2参照)により、回転方向の相対変位を完全に阻止した状態で、トルク伝達可能に結合している。
【0004】
上述の様なステアリング装置を搭載した車両が衝突事故を起こしたり、運転操作の誤りにより操舵輪を縁石に乗り上げたりした場合、前記ステアリングギヤユニット7の側から前記ステアリング装置の構成部材に、衝撃的なトルクが加わる場合がある。そして、この様な衝撃的トルクに基づいて、この構成部材の全部又は一部が損傷し、継続的な安全運行に支障をきたす可能性がある。この様な場合に、使用者が当該車両を修理工場に持ち込んで、直ちに検査、修理を受ければ良いが、一部の使用者は、特に異常を感じないで、そのまま車両の使用を継続する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−291679号公報
【特許文献2】特開2007−40420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、構成部材に衝撃的なトルクが加わった場合に、加わった事実を運転者が容易且つ確実に認識できるステアリング装置を得られるステアリング装置用トルク伝達装置を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のステアリング装置用トルク伝達装置は、互いに同心に配置されてトルクの伝達方向に関して互いに直列に接続された、第一、第二両トルク伝達部材を備える。そして、ステアリングホイールの動きをステアリングギヤユニットの入力軸に伝達するトルク伝達機構の途中に設けられて、前記ステアリングホイールとこの入力軸との間でのトルク伝達に供される。
【0008】
特に、本発明のステアリング装置用トルク伝達装置に於いては、前記第一トルク伝達部材の一部に形成された結合孔と、前記第二トルク伝達部材の一部に形成されると共に、この結合孔の内側に挿入された結合杆部とを備える。このうちの結合孔の内周面には、周方向に関して互いに異なる位置に、外径側摩擦面部と外径側衝合面部とが設けられている。又、前記結合杆部の外周面には、周方向に関して互いに異なる位置に、内径側摩擦面部と内径側衝合面部とが設けられている。そして、このうちの外径側、内径側両摩擦面部は、互いに摩擦係合する事により、この摩擦係合した部分に作用する摩擦力に基づいて、前記第一、第二両トルク伝達部材同士の間でのトルクの伝達を可能とし、且つ、これら第一、第二両トルク伝達部材同士の間に閾値を超える大きさのトルクが入力された場合にのみ、周方向に関して互いに摺動する。又、前記閾値は、車両が停止した状態で前記ステアリングホイールを操作した場合にこのステアリングホイールから前記入力軸に伝達される、平常時最大伝達トルク以上の大きさに設定されている。又、前記外径側、内径側両衝合面部は、初期状態では、周方向に関して互いに離隔した位置に配置されており、且つ、前記外径側、内径側両摩擦面部同士が周方向に摺動する事に基づいて、前記第一、第二両トルク伝達部材同士の相対位置が初期状態の相対位置から回転方向の各側に所定量ずれた場合にのみ、互いに衝合して、この相対位置が回転方向の各側にそれ以上ずれる事を阻止する。
【0009】
本発明を実施する場合に、好ましくは、請求項2に記載した発明の様に、前記第一、第二両トルク伝達部材同士の間に、前記結合孔から前記結合杆部が抜け出る事を防止する為の抜け止め構造部を設ける。
又、本発明を実施する場合には、請求項3に記載した発明の様に、前記第一、第二トルク伝達部材同士を溶接する事もできる。
この場合に、好ましくは、請求項4に記載した発明の様に、前記第一、第二トルク伝達部材同士を溶接している溶接部の強度を、前記平常時最大伝達トルクでは破損せず、前記ステアリングギヤユニット側から前記第一、第二トルク伝達部材同士の間に加わる、前記閾値を超える大きさの衝撃的なトルクにより破損する大きさとする。
【0010】
又、本発明を実施する場合の具体的形態としては、例えば請求項5に記載した発明の様に、前記第一トルク伝達部材と前記第二トルク伝達部材とのうちの一方のトルク伝達部材を自在継手のヨークとし、前記結合孔をこのヨークの基端部に形成する。同じく他方の部材をシャフトとし、前記結合杆部をこのシャフトの端部に設ける。
【発明の効果】
【0011】
上述の様に構成する本発明のステアリング装置用トルク伝達装置によれば、このステアリング装置用トルク伝達装置を搭載した車両が衝突事故を起こしたり、或いは運転操作の誤りにより操舵輪を縁石に乗り上げたりする事で、ステアリング装置の構成部材に、閾値を超える大きさの衝撃的なトルクが加わった場合に、加わった事実を運転者が容易且つ確実に認識できる。
即ち、前記衝撃的なトルクが加わると、第一、第二両トルク伝達部材同士が、外径側、内径側両摩擦面部同士を摺動させつつ、外径側、内径側両衝合面部同士が衝合するまでの間、回転方向(トルクの作用方向)に関して相対変位する。この結果、前記第一、第二両トルク伝達部材同士の相対位置が、前記衝撃的なトルクが加わる前の状態である初期状態の相対位置から、回転方向に所定量ずれる。これに伴い、車両を直進状態とする為の、ステアリングホイールの中立状態の姿勢が変化する。この変化は、運転者にとって容易且つ確実に認識できる。この為、運転者に、修理を促す事ができて、損傷した車両の運行を継続する事に伴う危険を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す、シャフトとヨークとの結合部の断面図。
【図2】図1のa−a断面を、衝撃的なトルクが加わる前の状態(A)と加わった後の状態(B)とで示す図。
【図3】図1のb部拡大図。
【図4】ステアリングホイールの中立位置を、衝撃的なトルクが加わる前の状態(A)と加わった後の状態(B)とで示す正面図。
【図5】本発明の実施の形態の第1例に関する、2つの変形例を示す、図2の(A)と同様の図。
【図6】本発明の実施の形態の第2例を示す、図2と同様の図。
【図7】同第3例を示す、図2と同様の図。
【図8】同第4例を示す、図3と同様の図。
【図9】同第5例を示す、図3と同様の図。
【図10】同第6例を示す、図1と同様の図。
【図11】従来から知られているステアリング装置の1例を示す部分切断側面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[実施の形態の第1例]
図1〜4は、請求項1、2、5に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例は、自在継手を構成するヨーク10とシャフト11(ステアリングシャフト又は中間シャフト)との結合部に本発明の構造を適用した例である。尚、前記ヨーク10を含む自在継手の構造及び作用に就いては、従来から周知であるから、図示並びに説明は、省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0014】
第一トルク伝達部材である、前記ヨーク10の基部12の径方向中央部には、結合孔13を軸方向に形成している。この結合孔13の内周面は、雌スプライン部14としている。この雌スプライン部14を構成する各歯部15、15の先端面(内周面)と各溝部16、16の底面(内周面)とは、それぞれこの雌スプライン部14と同心の部分円筒状の凹面としている。一方、第二トルク伝達部材である、前記シャフト11の先端部に、基端寄り部分に比べて外径が小さくなった、結合杆部17を形成している。この結合杆部17の外周面は、雄スプライン部18としている。この雄スプライン部18を構成する各歯部19、19の先端面(外周面)と各溝部20、20の底面(外周面)とは、それぞれこの雄スプライン部18と同心の部分円筒状の凸面としている。又、前記雌スプライン部14を構成する各溝部16、16の周方向幅寸法を、前記雄スプライン部18を構成する各歯部19、19の周方向幅寸法よりも、この雄スプライン部18を構成する各溝部20、20の周方向幅寸法を、前記雌スプライン部14を構成する各歯部15、15の周方向幅寸法よりも、それぞれ同じ量(同じ中心角ピッチ分)だけ大きくしている。
【0015】
上述の様なヨーク10とシャフト11とは、前記結合孔13の内側に前記結合杆部17を挿入する事により、図2の(A)に示す様に、前記雌スプライン部14と前記雄スプライン部18とを係合させている。即ち、それぞれが外径側衝合面部である、前記雌スプライン部14の各歯部15、15の周方向両側面と、それぞれが内径側衝合面部である、前記雄スプライン部18の各歯部19、19の周方向両側面部との間に、それぞれ均等な大きさの周方向隙間を介在させている。これと共に、それぞれが外径側摩擦面部である、前記雌スプライン部14の各溝部16、16の底面に、それぞれが内径側摩擦面部である、前記雄スプライン部18の各歯部19、19の先端面を、締め代を持たせた状態で摩擦係合させている。
【0016】
特に、本例の場合には、これら各溝部16、16の底面と各歯部19、19の先端面との間に作用する摩擦力に基づいて伝達可能なトルクの最大値(閾値)を、据え切り操作{車両が停止した状態で行うステアリングホイール4(図4、11参照)の操作}時に、このステアリングホイール4からステアリングギヤユニット7の入力軸8(図11参照)に伝達される、平常時最大伝達トルクよりも少しだけ大きい値としている。即ち、前記ヨーク10と前記シャフト11との間に、前記閾値を超える大きさのトルクが入力された場合にのみ、前記各溝部16、16の底面と前記各歯部19、19の先端面とが周方向に摺動する様にしている。
【0017】
又、本例の場合、上述の様に結合孔13の内側に結合杆部17を挿入した状態で、前記結合孔13から突出した、前記雄スプライン部18の先端縁部分に、径方向外方に突出するかしめ部21を、プレスかしめ加工により形成している。そして、このかしめ部21と、前記結合孔13の先端側の開口部の周囲部分に存在する段部22との係合に基づいて、前記結合杆部17が前記結合孔12から基端側に抜け出る事を防止できる様にしている。本例の場合には、これらかしめ部21と段部22とが、特許請求の範囲に記載した抜け止め構造部に相当する。
【0018】
上述の様に本例のステアリング装置用トルク伝達装置の場合には、前記各溝部16、16の底面と前記各歯部19、19の先端面との間に作用する摩擦力に基づいて伝達可能なトルクの最大値(閾値)を、前記平常時最大伝達トルクよりも少しだけ大きい値としている。この為、通常の運転状態では、前記ステアリングホイール4の操作に基づいて前記ヨーク10と前記シャフト11との相対位置が、図2の(A)に示した、初期状態から、回転方向(トルクの作用方向)にずれる事はない。従って、車両が直線状態にある場合に、前記ステアリングホイール4の姿勢は、図4の(A)に示した、初期状態の姿勢に維持される。
【0019】
これに対し、衝突事故や操舵輪の縁石乗り上げに伴って、前記ヨーク10と前記シャフト11との結合部に、前記閾値を超える大きさの衝撃的なトルクが加わると、これらヨーク10とシャフト11とが、例えば図2の(A)→(B)の順に示す様に、前記各溝部16、16の底面と前記各歯部19、19の先端面とを周方向に摺動させつつ、前記各歯部15、15の周方向片側面と、前記各歯部19、19の周方向片側面とが衝合するまでの間、回転方向(トルクの作用方向)に関して相対変位する。この結果、前記ヨーク10と前記シャフト11との相対位置が、前記衝撃的なトルクが加わる前の状態である初期状態から、回転方向に所定量ずれる。これに伴い、車両を直進状態とする為の、前記ステアリングホイール4の中立状態の姿勢が、例えば図4の(A)→(B)の順に示す様に変化する。この変化は、運転者にとって容易且つ確実に認識できる。この為、運転者に修理を促す事ができて、損傷した車両の運行を継続する事に伴う危険を回避できる。
【0020】
尚、本例の場合、前記衝撃的なトルクが加わる事によって、或いは、この衝撃的なトルクが加わった後、通常運転時の操舵トルクが繰り返し加わる事によって、前記各溝部16、16の底面と前記各歯部19、19の先端面との摩擦係合部に塑性変形等が生じる事に基づき、この摩擦係合部に作用する摩擦力が大幅に低下乃至喪失した場合には、前記雌スプライン部14と前記雄スプライン部18との係合部に周方向のがたつきが生じる様になる。この結果、このがたつきの分だけ、前記ステアリングホイール4の遊び(操舵輪の舵角変化に結び付かない操作範囲)が増加すると共に、場合によっては、前記がたつきに基づいて生じる振動が前記ステアリングホイール4に伝わったり、このがたつきに基づいて生じる異音が車室内に響いたりする様になる。この様な状況の変化は、運転者が容易に感じ取れる為、運転者は、この様な状況の変化によっても、前記衝撃的なトルクが加わった事実を容易に認識できる。
【0021】
尚、上述した実施の形態の第1例の構造では、互いに摩擦係合させる外径側、内径側両摩擦面部の組み合わせとして、前記雌スプライン部14を構成する総ての溝部16、16の底面と、前記雄スプライン部18を構成する総ての歯部19、19の先端面との組み合わせを採用した。但し、本発明を実施する場合には、前記両摩擦面部の組み合わせとして、雌スプライン部を構成する一部の溝部の底面と、雄スプライン部を構成する一部の歯部の先端面との組み合わせを採用する事もできる。例えば、図5の(A)(B)に示す様に、雄スプライン部18a、18bを構成する一部の歯部19a、19aの高さを、残部の歯部19、19の高さよりも低くする事により、互いに対向する、これら残部の歯部19、19の先端面と、雌側スプライン部14を構成する一部の溝部16、16の底面との組み合わせを、前記両摩擦面部の組み合わせとする事ができる。又、図示は省略するが、雌スプライン部を構成する少なくとも一部の歯部の先端面と、雄スプライン部を構成する少なくとも一部の溝部の底面との組み合わせも、前記両摩擦面部の組み合わせとして採用する事ができる。
【0022】
[実施の形態の第2例]
図6は、請求項1、2、5に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合には、ヨーク10aの結合孔13aの内周面と、シャフト11aの結合杆部17aの外周面との構造が、上述した第1例の場合と異なる。本例の場合、これら結合孔13a及び結合杆部17aの断面形状を、それぞれ略小判形としている。即ち、このうちの結合孔13aの内周面は、互いに平行な1対の平面部23、23と、これら両平面部23、23の幅方向端部同士を連結する、それぞれが前記結合孔13aの中心軸を中心とする部分円筒状の凹曲面部24、24とから成る。本例の場合には、このうちの両平面部23、23の幅方向(周方向)両端部が、それぞれ外径側衝合面部に相当し、前記両凹曲面部24、24が、それぞれ外径側摩擦面部に相当する。一方、前記結合杆部17aの外周面は、互いに平行な1対の平面部25、25と、これら両平面部25、25の幅方向端部同士を連結する、それぞれが前記結合杆部17aの中心軸を中心とする部分円筒状の凸曲面部26、26とから成る。本例の場合には、このうちの両平面部25、25の幅方向(周方向)両端部が、それぞれ内径側衝合面部に相当し、前記両凸曲面部26、26が、それぞれ内径側摩擦面部に相当する。そして、前記結合孔13aの内側に前記結合杆部17aを挿入する事により、図6の(A)に示す様に、前記両平面部23、23と前記両平面部25、25とを、比較的大きい隙間を介して互いに平行に対向させた状態で、前記両凹曲面部24、24と前記両凸曲面部26、26とを、締め代を持たせた状態で摩擦係合させている。そして、これら両凹曲面部24、24と両凸曲面部26、26との間に作用する摩擦力に基づいて伝達可能なトルクの最大値(閾値)を、据え切り操作時に作用する平常時最大伝達トルクよりも少しだけ大きい値としている。
【0023】
この様な構成を採用する事により、本例の場合には、通常の運転状態で、ステアリングホイール4(図4、11参照)の操作に基づいて伝達されるトルクが、前記ヨーク10aと前記シャフト11aとの結合部に加わった場合でも、これらヨーク10aとシャフト11aとの相対位置が、図6の(A)に示した、初期状態の相対位置から、回転方向(トルクの作用方向)にずれない様にしている。これに対し、衝突事故や操舵輪の縁石乗り上げに伴って、前記ヨーク10aと前記シャフト11aとの結合部に、前記閾値を超える大きさの衝撃的なトルクが加わった場合には、これらヨーク10aとシャフト11aとが、例えば図6の(A)→(B)の順に示す様に、前記両凹曲面部24、24と前記両凸曲面部26、26とを周方向に摺動させつつ、前記両平面部23、23の幅方向片端部と前記両平面部25、25の幅方向片端部とが衝合するまでの間、回転方向(トルクの作用方向)に関して相対変位する様にしている。その他の部分の構成及び作用は、上述した第1例の場合と同様であるから、重複する図示並びに説明は省略する。
【0024】
[実施の形態の第3例]
図7は、請求項1、2、5に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の場合も、ヨーク10bの結合孔13bの内周面と、シャフト11bの結合杆部17bの外周面との構造が、前述の図1〜4に示した第1例の場合と異なる。即ち、前記結合孔13bの内周面は、外径側円筒面部27と、この外径側円筒面部27の周方向一部分から内径側に突出する状態で設けられた、軸方向に長いキー28とから成る。本例の場合には、このうちの外径側円筒面部27が、外径側摩擦面部に相当し、前記キー28の周方向両側面が、それぞれ外径側衝合面部に相当する。一方、前記結合杆部17bの外周面は、内径側円筒面部29と、この内径側円筒面部29の周方向一部分に設けられた、軸方向に長いキー溝30とから成る。本例の場合には、このうちの内径側円筒面部29が、内径側摩擦面部に相当し、前記キー溝30の周方向両内側面が、それぞれ外径側衝合面部に相当する。そして、前記結合孔13bの内側に前記結合杆部17bを挿入する事により、図7の(A)に示す様に、前記キー28の周方向両側面と前記キー溝30の周方向両内側面との間に、それぞれ均等な大きさの周方向隙間を介在させた状態で、前記外径側円筒面部27と前記内径側円筒面部29とを、締め代を持たせた状態で摩擦係合させている。そして、これら外径側円筒面部27と内径側円筒面部29との間に作用する摩擦力に基づいて伝達可能なトルクの最大値(閾値)を、据え切り操作時に作用する平常時最大伝達トルクよりも少しだけ大きい値としている。
【0025】
この様な構成を採用する事により、本例の場合には、通常の運転状態で、ステアリングホイール4(図4、11参照)の操作に基づいて伝達されるトルクが、前記ヨーク10bと前記シャフト11bとの結合部に加わった場合でも、これらヨーク10bとシャフト11bとの相対位置が、図7の(A)に示した、初期状態の相対位置から、回転方向(トルクの作用方向)にずれない様にしている。これに対し、衝突事故や操舵輪の縁石乗り上げに伴って、前記ヨーク10bと前記シャフト11bとの結合部に、前記閾値を超える大きさの衝撃的なトルクが加わった場合には、これらヨーク10bとシャフト11bとが、例えば図7の(A)→(B)の順に示す様に、前記外径側、内径側両円筒面部27、29同士を周方向に摺動させつつ、前記キー28の周方向側面と前記キー溝30の周方向内側面とが衝合するまでの間、回転方向(トルクの作用方向)に関して相対変位する様にしている。その他の部分の構成及び作用は、前述の図1〜4に示した第1例の場合と同様であるから、重複する図示並びに説明は省略する。
【0026】
[実施の形態の第4例]
図8は、請求項1、2、5に対応する、本発明の実施の形態の第4例を示している。本例の場合には、シャフト11cを、円管状としている。これと共に、このシャフト11cの先端部に設けた結合杆部17cの先端縁部分を、ローリングかしめ加工により外径側に曲げ起こす事で、この曲げ起こした部分を、抜け止めの為のかしめ部21aとしている。その他の部分の構造及び作用は、前述の図1〜4に示した第1例の場合と同様であるから、同等部分には同一符号を付して、重複する図示並びに説明は省略する。
【0027】
[実施の形態の第5例]
図9は、請求項1、2、5に対応する、本発明の実施の形態の第5例を示している。本例の場合には、ヨーク10の結合孔13の内側に、シャフト11dの結合杆部17dを挿入するのに先立って、この結合杆部17dの外周面の先端部に、大径雄スプライン部31を設けている。この大径雄スプライン部31のピッチ円直径は、前記結合杆部17dの外周面の中間部乃至基端部に設けた雄スプライン部18のピッチ円直径よりも、少しだけ大きくしている。本例の場合、前記結合孔13の内側に前記結合杆部17dを挿入する際には、前記シャフト11dに大きな圧入荷重を加える事によって、前記大径雄スプライン部31を、雌スプライン部14の内側に圧入し、更にこの雌スプライン部14の内側を通過させる。そして、図示の様に、この雌スプライン部14と前記雄スプライン部18とを係合させると共に、前記大径雄スプライン部31の全体を、前記雌スプライン部14の外側に配置した状態とする。この様な構成を有する本例の場合、前記結合孔13の内側から前記結合杆部17dが抜け出る傾向となった場合には、前記大径雄スプライン部31の基端縁と前記雌スプライン部14の先端縁とが、軸方向に関して機械的に係合する。これにより、前記結合孔13の内側から前記結合杆部17dが抜け出る事を防止される。本例の場合には、これら大径雄スプライン部31の基端縁と雌スプライン部14の先端縁とが、抜け止め構造部に相当する。その他の部分の構造及び作用は、前述の図1〜4に示した実施の形態の第1例の場合と同様であるから、同等部分には同一符号を付して、重複する図示並びに説明は省略する。
【0028】
[実施の形態の第6例]
図10は、請求項1〜5に対応する、本発明の実施の形態の第6例を示している。本例の場合には、ヨーク10の基端面の内周部分とシャフト11の外周面の先端寄り部分とに溶接金属32を掛け渡す状態で、これらヨーク10とシャフト11とを溶接している点が、前述の図1〜4に示した第1例の場合と異なる。この溶接金属32の強度は、据え切り操作時に作用する平常時最大伝達トルクでは破損せず、衝突事故や操舵輪の縁石乗り上げに伴って作用する、前記閾値を超える大きさの衝撃的なトルクにより破損する大きさとしている。この様な構成を有する本例の場合には、据え切り操作時を含めて、平常運転時には、前記ヨーク10と前記シャフト11との間でのトルク伝達を、主として前記溶接金属32を介して行う。これに対して、衝突事故や操舵輪の縁石乗り上げに伴う衝撃荷重が加わった場合には、前記溶接金属32が破損すると共に、前記ヨーク10と前記シャフト11とが、雌スプライン部の溝部の底面と雄スプライン部の歯部の先端面とを周方向に摺動させつつ、回転方向に関して相対変位する。この結果、車両が直線状態にある場合であっても、ステアリングホイール4の姿勢が、図4の(B)に示した、初期状態とは異なる状態となる。その他の部分の構造及び作用は、前述の図1〜4に示した第1例の場合と同様であるから、同等部分には同一符号を付して、重複する図示並びに説明は省略する。
尚、ヨークとシャフトとを溶接する構造は、上述した第2〜5例の構造でも採用できる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明を実施する場合、外径側、内径側両摩擦面部同士の間に作用する摩擦力に基づいて伝達可能なトルクの最大値(閾値)は、平常時最大伝達トルク以上の大きさであれば良く、設計の条件等により、自由に設定できる。即ち、上述した各実施の形態では、前記閾値を、平常時最大伝達トルクよりも少しだけ大きい値に設定したが、この閾値は、平常時最大伝達トルクよりも十分に大きい値(想定を超える様な十分に大きい値)に設定する事もできる。この様に設定する事により、例えば、操舵輪が縁石に軽くぶつかった程度(平常時最大伝達トルクよりも或る程度大きい値を持ってはいるが、設定した閾値よりも小さい値を持ったトルクが入力された程度)では、第一、第二両トルク伝達部材同士が相対回転しない様にする事ができる。
又、本発明を実施する場合で、第一、第二トルク伝達部材同士を溶接する場合、この溶接部の強度も、設計の条件等により、自由に設定できる。即ち、この溶接部の強度は、前記閾値よりも少しだけ大きい値の衝撃的なトルクによって破損する大きさとする事もできるし、前記閾値よりも十分に大きい値(想定を超える様な十分に大きい値)の衝撃的なトルクによらなければ破損しない大きさとする事もできる。
又、本発明は、シャフトと自在継手のヨークとの結合部に限らず、ステアリング装置を構成して、ステアリングホイールに加えられたトルクをステアリングギヤユニットの入力軸に伝達する部分であれば、何れの部分でも実施できる。例えば、ステアリングシャフト或いは中間シャフトを構成するインナシャフトを軸方向に2分割し、これら両分割シャフトの端部同士の結合部に、本発明の構造を適用する事もできる。
【符号の説明】
【0030】
1 車体
2 ステアリングコラム
3 ステアリングシャフト
4 ステアリングホイール
5a、5b 自在継手
6 中間シャフト
7 ステアリングギヤユニット
8 入力軸
9 タイロッド
10、10a、10b ヨーク
11、11a〜11d シャフト
12 基部
13、13a、13b 結合孔
14 雌スプライン部
15 歯部
16 溝部
17、17a〜17d 結合杆部
18、18a、18b 雄スプライン部
19、19a 歯部
20 溝部
21、21a かしめ部
22 段部
23 平面部
24 凹曲面部
25 平面部
26 凸曲面部
27 外径側円筒面部
28 キー
29 内径側円筒面部
30 キー溝
31 大径雄スプライン部
32 溶接金属

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに同心に配置されてトルクの伝達方向に関して互いに直列に接続された、第一、第二両トルク伝達部材を備え、ステアリングホイールの動きをステアリングギヤユニットの入力軸に伝達するトルク伝達機構の途中に設けられて、前記ステアリングホイールとこの入力軸との間でのトルク伝達に供されるステアリング装置用トルク伝達装置に於いて、前記第一トルク伝達部材の一部に形成された結合孔と、前記第二トルク伝達部材の一部に形成されると共に、この結合孔の内側に挿入された結合杆部とを備え、このうちの結合孔の内周面には、周方向に関して互いに異なる位置に、外径側摩擦面部と外径側衝合面部とが設けられており、前記結合杆部の外周面には、周方向に関して互いに異なる位置に、内径側摩擦面部と内径側衝合面部とが設けられており、このうちの外径側、内径側両摩擦面部は、互いに摩擦係合する事により、この摩擦係合した部分に作用する摩擦力に基づいて、前記第一、第二両トルク伝達部材同士の間でのトルクの伝達を可能とし、且つ、これら第一、第二両トルク伝達部材同士の間に閾値を超える大きさのトルクが入力された場合にのみ、周方向に関して互いに摺動するものであり、前記閾値は、車両が停止した状態で前記ステアリングホイールを操作した場合にこのステアリングホイールから前記入力軸に伝達される、平常時最大伝達トルク以上の大きさに設定されており、前記外径側、内径側両衝合面部は、初期状態では、周方向に関して互いに離隔した位置に配置されており、且つ、前記外径側、内径側両摩擦面部同士が周方向に摺動する事に基づいて、前記第一、第二両トルク伝達部材同士の相対位置が初期状態の相対位置から回転方向の各側に所定量ずれた場合にのみ、互いに衝合して、この相対位置が回転方向の各側にそれ以上ずれる事を阻止するものである事と特徴とするステアリング装置用トルク伝達装置。
【請求項2】
前記第一、第二両トルク伝達部材同士の間に、前記結合孔から前記結合杆部が抜け出る事を防止する為の抜け止め構造部が設けられている、請求項1に記載したステアリング装置用トルク伝達装置。
【請求項3】
前記第一、第二トルク伝達部材同士を溶接している、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載したステアリング装置用トルク伝達装置。
【請求項4】
前記第一、第二トルク伝達部材同士を溶接している溶接部の強度が、前記平常時最大伝達トルクでは破損せず、前記ステアリングギヤユニット側から前記第一、第二トルク伝達部材同士の間に加わる、前記閾値を超える大きさの衝撃的なトルクにより破損する大きさである、請求項3に記載したステアリング装置用トルク伝達装置。
【請求項5】
前記第一トルク伝達部材と前記第二トルク伝達部材とのうちの一方のトルク伝達部材が自在継手のヨークであって、前記結合孔がこのヨークの基端部に形成されており、同じく他方の部材がシャフトであって、前記結合杆部がこのシャフトの端部に設けられている、請求項1〜4のうちの何れか1項に記載したステアリング装置用トルク伝達装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−35469(P2013−35469A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174460(P2011−174460)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】