説明

ステアリング装置

【課題】異音の発生を防ぐとともに応答性の向上を図ることができるステアリング装置を提供する。
【解決手段】ステアリング装置の舵角比可変機構は、カムフォロア23を軸線方向底部側に押圧するばね部材51を備え、カムフォロア23の外周面52及びカム溝22の各摺動面53を、ばね部材51によりカムフォロア23が押圧されることにより、これら各面52,53が互いに接触するように、それぞれカム溝22の開口部22b側から底部22a側に向かって傾斜して形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のステアリング装置には、例えばステアリングに連結された第1軸と、転舵輪に連結された第2軸とを互いに所定量偏心して配置し、これら各軸を舵角比可変機構により回転伝達可能に連結することにより、操舵角変化と転舵輪の舵角(転舵角)変化との関係が非線形となるように構成したものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
詳しくは、この舵角比可変機構は、第1軸と一体回転可能に連結され、各軸の軸線方向と直交する方向に延びた断面コ字状のカム溝を有するカム部材と、カム溝内を摺動可能に設けられた円筒形状のカムフォロアと、第2軸から上記所定量よりも大きく偏心した位置において該第2軸とカムフォロアとを連結する偏心ピンとを備えてなる。このような舵角比可変機構では、ステアリング操作により生じる第1軸の回転は、カム溝内におけるカムフォロアの摺動及び偏心ピンを中心としたカムフォロアの回転を伴って該偏心ピン(カムフォロア)が第2軸の同心円上を移動することで、第2軸に伝達される構成となっている。これにより、偏心ピンのカム溝内における位置に応じて、ステアリング操作により生じる第1軸の回転角変化と、転舵輪の転舵角変化を規定する第2軸の回転角変化との関係、すなわち操舵角変化と転舵輪の舵角変化との関係を非線形なものとすることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−143429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、カムフォロアはカム溝内に摺動可能に挿入されるものであり、各構成部品の製造公差を許容すべく、カムフォロアの外形寸法はカム溝の幅(各軸の軸線方向及びカム溝の長手方向と直交する方向の長さ)よりも僅かに小さく設定される。従って、図8に示すように、偏心ピン71に連結されたカムフォロア72の外周面73と、カム溝74における上記外周面73と摺動する各摺動面75との間には、カム溝74の幅方向(図8において左右方向)においてガタ(隙間)が形成される。
【0006】
そのため、例えばステアリング操作によって第1軸(図示略)とともにカム部材76が回転し始めるときに、カムフォロア72の外周面73とカム溝74の摺動面75とが衝突し、異音が発生する虞がある。また、上記外周面73と摺動面75とが当接するまでの間は第1軸の回転角変化が第2軸に伝達されないため、ステアリング操作に対する転舵輪の舵角変化の応答性を向上させる観点から、なお改善の余地があった。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、異音の発生を防ぐとともに応答性の向上を図ることができるステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、互いに所定量偏心して配置された第1軸及び第2軸と、これら前記第1軸及び前記第2軸を回転伝達可能に連結する舵角比可変機構とを備え、前記舵角比可変機構は、前記第1軸に連結されるとともにカム溝を有するカム部材と、前記カム溝内を摺動可能に設けられたカムフォロアと、前記第2軸と前記カムフォロアとを連結する偏心ピンとを備えてなり、前記カム溝は、前記各軸の軸線方向と直交する方向に延びるとともに前記第2軸側に開口し、前記偏心ピンは、前記第2軸から前記所定量よりも大きく偏心した位置において該第2軸と前記カムフォロアとを連結するものであるステアリング装置において、前記カムフォロアを押圧する押圧手段を備え、該押圧手段は該カムフォロアを前記軸線方向における前記カム溝の底部側に押圧するものであり、前記カムフォロアの外周面及び前記カム溝の前記外周面との各摺動面は、前記押圧手段によって前記カムフォロアが押圧されることにより、前記外周面と前記各摺動面とが互いに接触するように、それぞれ前記軸線方向における前記カム溝の開口部側から底部側に向かって傾斜して形成されたことを要旨とする。
【0009】
上記構成によれば、押圧手段によりカムフォロアが押圧され、外周面と各摺動面とが互いに接触することでこれらの間のガタが詰められるため、例えばステアリング操作によって第1軸が回転する際に外周面と摺動面とが衝突せず、異音が発生することを防止できる。また、外周面と各摺動面とが互いに接触しているため、速やかに第1軸の回転角変化が第2軸に伝達され、応答性の向上を図ることができる。
【0010】
また、第1軸又は第2軸が回転する際に押圧手段に作用する力は、カム部材とカムフォロアとの間で伝達される伝達力のうち、外周面及び摺動面の傾斜に応じた分力となるため、ステアリング操作に伴って押圧手段に作用する荷重を低く抑えることができる。さらに、カムフォロア及び偏心ピンを軸線方向に沿ってカム溝内に挿入することにより、ガタを詰めた状態で舵角比可変機構を組み付けることができるため、その組み付け性が良い。さらにまた、押圧手段はカムフォロアを軸線方向に押圧するものであるため、カムフォロアの大きさ(外径等)によらず、同じ押圧手段を用いることが可能になり、大きさの異なるカムフォロアを採用した舵角比可変機構間において、部品を共通化し、コストの低減を図ることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のステアリング装置において、前記外周面は、前記カム溝の長手方向視で該カム溝の開口部側から底部側に向かうにつれて先細となる直線状に形成され、前記各摺動面は、前記長手方向視で前記外周面における該各摺動面が当接する部分と平行な直線状にそれぞれ形成されたことを要旨とする。
【0012】
上記構成によれば、カムフォロアの外周面とカム溝の各摺動面とが面接触するため、これらの間に作用する圧力が過大になることを抑制し、例えばカムフォロア及びカム溝(カム部材)の長寿命化を図ることができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のステアリング装置において、前記偏心ピンには、径方向外側に延びるフランジ部が形成され、前記押圧手段は、前記フランジ部と前記カムフォロアとの間に設けられた弾性体であることを要旨とする。
【0014】
上記構成によれば、別途設けられる弾性体によってカムフォロアが押圧されるため、例えば偏心ピンに押圧手段となる部分を一体形成する場合に比べ、偏心ピンの形状を簡素化することができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1又は2に記載のステアリング装置において、前記押圧手段は、前記偏心ピンから径方向外側に延出形成された弾性フランジ部であり、該弾性フランジ部は、径方向外側に向かうにつれて前記軸線方向における前記カム溝の底部側に傾斜するとともに該軸線方向に弾性変形可能に構成されたことを要旨とする。
【0016】
上記構成によれば、偏心ピンに一体形成された弾性フランジ部により、カムフォロアが押圧されるため、カムフォロアを押圧するための弾性体を別途設ける場合に比べ、部品点数を削減することができる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項3又は4に記載のステアリング装置において、前記カムフォロアには挿通孔が形成され、該カムフォロアは前記挿通孔に前記偏心ピンが挿通されることにとより、該偏心ピンを中心として回転可能に連結されるものであり、前記偏心ピンにおける前記軸線方向の前記底部側には規制部材が設けられ、該規制部材は前記カムフォロアが前記偏心ピンに対して前記軸線方向における前記カム溝の底部側に移動することを規制するものであることを要旨とする。
【0018】
上記構成によれば、規制部材によってカムフォロアが偏心ピンから脱落することを防止でき、組み付け性の向上を図ることができる。また、規制部材によって、舵角比可変機構の組み付け前に弾性体又は弾性フランジ部を弾性変形させておくことができ、押圧手段によりカムフォロアが軸線方向に押圧される荷重を容易に設定することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、異音の発生を防ぐとともに応答性の向上を図ることが可能なステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ステアリング装置のステアリングコラム付近の断面図。
【図2】舵角比可変機構近傍の拡大断面図。
【図3】偏心ピンを用いた舵角比可変機構の作用説明図。
【図4】本実施形態の偏心ピン近傍のカム溝の長手方向と直交する断面図。
【図5】弾性体が変形した状態における偏心ピン近傍のカム溝の長手方向と直交する断面図。
【図6】別の偏心ピン近傍のカム溝の長手方向と直交する断面図。
【図7】別の偏心ピン近傍のカム溝の長手方向と直交する断面図。
【図8】従来の偏心ピン近傍のカム溝の長手方向と直交する断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、ステアリング装置1において、一端(同図中、右側の端部)にステアリング2が固定されたステアリングシャフト3を構成するコラムシャフト4は、その両端部が軸受5a,5bに軸支されることによりステアリングコラム6内において回転可能に収容されている。このコラムシャフト4の他端(同図中、左側の端部)は、舵角比可変機構7を介して、同コラムシャフト4の軸線L1からその径方向に所定量偏心して配置された出力軸8の一端に回転伝達可能に連結されている。そして、出力軸8の他端は、自在継手(図示略)を介してインターミディエイトシャフト(図示略)に連結されることにより、そのステアリング操作に伴う回転(操舵トルク)が、ステアリングギヤ(ラック&ピニオン機構)等の図示しない転舵輪の舵角を変更する転舵機構へと伝達されるように構成されている。
【0022】
本実施形態のコラムシャフト4は、ステアリング2が固定される中空状のアッパーシャフト11と、該アッパーシャフト11にスプライン嵌合されることにより同アッパーシャフト11に対して軸線方向への摺動が許容されるロアシャフト12とを備えている。また、ステアリングコラム6は、軸受5aを介してアッパーシャフト11を収容支持するアウタチューブ13と、軸受5bを介してロアシャフト12を収容支持するインナチューブ14とを備えており、アウタチューブ13は、その内周にインナチューブ14が挿入されることにより同インナチューブ14に対して軸線方向に摺動可能に設けられている。そして、インナチューブ14及びロアシャフト12に対してアウタチューブ13及びアッパーシャフト11を相対移動させることにより、その軸線方向におけるステアリング位置の調整を可能とするテレスコ機能を実現する構成となっている。
【0023】
なお、本実施形態のステアリングコラム6は、図示しないリンク機構により上下方向に傾動可能に支持されており、当該ステアリングコラム6とともにコラムシャフト4を傾動させることにより、上下方向におけるステアリング位置の調整を可能とするチルト機能を実現する構成となっている。
【0024】
図2に示すように、舵角比可変機構7は、コラムシャフト4(ロアシャフト12)の他端に一体回転可能に連結された略直方体状のカム部材21を備えている。このカム部材21には、コラムシャフト4及び出力軸8の軸線方向と直交する方向に延びるとともに出力軸8側に開口した略直線状のカム溝22が形成されている。また、舵角比可変機構7は、カム部材21に形成されたカム溝22内を摺動可能に設けられたカムフォロア23と、上記所定量(コラムシャフト4と出力軸8との偏心量)よりも大きく偏心した位置において該出力軸8とカムフォロア23とを連結する偏心ピン24とを備えている。つまり、本実施形態では、コラムシャフト4が第1軸に相当し、出力軸8が第2軸に相当する。
【0025】
詳述すると、ロアシャフト12の他端には嵌合穴31が形成されるとともに、カム部材21には軸線方向のロアシャフト12側に突出する突出部32が形成されており、同突出部32が嵌合穴31に嵌合することにより、カム部材21はロアシャフト12(コラムシャフト4)と一体回転可能に連結されている。また、出力軸8の一端側には、略円環状の連結部材34が該出力軸8と同軸状に固定されている。この連結部材34には、その中心、すなわち出力軸8の軸線L2から上記所定量よりも大きく離れた位置に、偏心ピン24の他端が固定される取付孔35が形成されている。なお、偏心ピン24は、その軸線L3がコラムシャフト4の軸線L3及び出力軸8の軸線L2と平行になるように設けられている。そして、カムフォロア23には、軸線L3方向に貫通する挿通孔36が形成されており、偏心ピン24の一端は、挿通孔36内にニードルベアリング37を介して挿通されることにより、カムフォロア23と連結されている。これにより、カムフォロア23は偏心ピン24を中心として回転可能に構成されている。なお、本実施形態では、出力軸8の先端は、カム溝22内に挿入されており、カム溝22における出力軸8が挿入される部分の形状は、カム部材21の回転を妨げないように、円弧状に形成されている(図3参照)。
【0026】
従って、コラムシャフト4に連結されたカム部材21の回転は、カム溝22内におけるカムフォロア23の摺動、及び偏心ピン24を中心とした同カムフォロア23の回転により許容される。そして、舵角比可変機構7は、図3に示すように、カムフォロア23に連結された偏心ピン24がカム部材21の回転に伴い出力軸8の同心円上を移動することにより、コラムシャフト4の回転が出力軸8に伝達される構成となっている。
【0027】
ここで、同図において、破線で示す円は上記カム部材21の回転に伴い移動する偏心ピン24(の軸心)の軌跡を示す。また、二点鎖線で示す各円は、実線で示すステアリング中立位置(操舵角ゼロ)にある偏心ピン24の位置(P0)から、カム部材21の回転(60°間隔)に応じた同偏心ピン24の位置(P1,P2,P1´,P2´,P3)を示している。そして、同図に示されるように、偏心ピン24の位置が「P0」に近いほど、カム部材21の回転角変化に対する同偏心ピン24の位置変化が小さく、また同偏心ピン24の位置が「P3」に近いほど、カム部材21の回転角変化に対する同偏心ピン24の位置変化が大きくなる。
【0028】
このように舵角比可変機構7は、互いに偏心配置されたコラムシャフト4及び出力軸8を回転伝達可能に連結し、且つステアリング操作により生じるコラムシャフト4の回転角変化と出力軸8の回転角変化との関係、すなわち操舵角変化と転舵輪の舵角(転舵角)変化との関係を非線形なものとすることが可能となっている。
【0029】
また、ステアリング装置1は、所謂コラム式の電動パワーステアリング装置として構成されている。詳述すると、図1及び図2に示すように、出力軸8は、軸受41a〜41cに軸支されることにより、ステアリングコラム6の他端に固定されたセンサハウジング42及びウォームハウジング43内において回転自在に収容されている。また、出力軸8の外周には、ウォームホイール44が固定されている。そして、このウォームホイール及び図示しないウォームギヤにより構成される変速機構によりモータ(図示略)の回転を減速してその出力軸8に伝達することにより、操舵系に対してアシスト力を付与することが可能な構成となっている。
【0030】
ここで、ステアリング装置1には、コラムシャフト4を介して伝達される操舵トルクを検出するためのトルクセンサ46が内蔵されている。具体的には、出力軸8は、上記連結部材34に連結される上側軸47と、上記ウォームホイール44が設けられた下側軸48とをトーションバー49を介して連結することにより構成されている。そして、トルクセンサ46は、そのトーションバー49の捻れ角を測定することにより、操舵系に入力される操舵トルクを検出するように構成されている。そして、図示しない制御装置がトルクセンサ46により検出される操舵トルクに基づいて、操舵系に対して付与するアシスト力を制御する構成となっている。
【0031】
(舵角比可変機構のガタ詰め構造)
次に、本実施形態における舵角比可変機構のガタ詰めの構成について説明する。
上述のように、カムフォロア23とカム溝22との間にガタ(隙間)が形成されると、同ガタに起因して異音が発生する虞があるといった問題が生じる。
【0032】
この点を踏まえ、図4に示すように、舵角比可変機構7には、カムフォロア23を偏心ピン24の軸線方向におけるカム溝22の底部22a側(以下、軸線方向底部側という)に押圧する押圧手段としてのばね部材51が設けられている。なお、本実施形態では、ばね部材51は、ウェーブワッシャや皿ばね等により構成される。そして、カムフォロア23の外周面52及びカム溝22の外周面52との各摺動面53は、ばね部材51によりカムフォロア23が押圧されることにより、外周面52と各摺動面53とが互いに接触するように、それぞれ軸線方向におけるカム溝22の開口部22b側から底部22a側に向かって傾斜して形成されている。
【0033】
詳述すると、外周面52は、カム溝22の開口部22b側から底部22a側に向かうにつれて先細となるように形成されており、各摺動面53は、カム溝22の開口部22b側から底部22a側に向かうにつれて互いに近接するように形成されている。具体的には、図4に示されるように、外周面52は、カム溝22の長手方向視で該カム溝22の開口部22b側から底部22a側に向かうにつれて先細となる直線状に形成されている。一方、各摺動面53は、長手方向視で外周面52における該各摺動面53が当接する部分と平行な直線状にそれぞれ形成されている。なお、本実施形態では、外周面52及び各摺動面53は、それぞれ偏心ピン24の軸線L3に対する角度が傾斜角θ(例えば、2〜3°)となるように形成されている。
【0034】
また、偏心ピン24には、径方向に沿って延出された円環状のフランジ部55が形成されている。そして、ばね部材51はカムフォロア23とフランジ部55との間に配置され、該カムフォロア23を軸線方向底部側(図4における上側)に向かって押圧するようになっている。さらに、偏心ピン24の軸線方向底部側には、規制部材としてのナット56が固定されており、このナット56によりカムフォロア23が該偏心ピン24の軸線方向底部側に移動することが規制されるようになっている。
【0035】
このように構成された舵角比可変機構7では、ステアリング操作によりコラムシャフト4とともにカム部材21が回転し、同カム部材21(カム溝22)からカムフォロア23に径方向に沿った伝達力Fが作用すると、図5に示すように、カムフォロア23が軸線方向におけるカム溝22の開口部22b側に移動し、ばね部材51が弾性変形する。このとき、上記のようにカム溝22の摺動面53及び外周面52が軸線L3に対して所定角度θ傾斜して形成されているため、カムフォロア23からばね部材51には分力f1(=Ftanθ)のみが作用する構成となっている。
【0036】
従って、本実施形態の舵角比可変機構7では、ばね部材51が傾斜角θに応じた伝達力Fの分力f1を受けることで、ステアリング操作に伴う回転(操舵トルク)が出力軸8に伝達される。なお、ばね部材51は、伝達力F(分力f1)の減少に伴って元の形状に戻るため、カム溝22とカムフォロア23との間に伝達力Fが作用しない場合には、カムフォロア23の外周面52とカム溝22の各摺動面53との間のガタは詰められた状態となる。
【0037】
以上記述したように、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(1)ステアリング装置1は、互いに所定量偏心して配置されたコラムシャフト4及び出力軸8を回転伝達可能に連結する舵角比可変機構7を備えた。この舵角比可変機構7は、コラムシャフト4に連結され、カム溝22を有するカム部材21と、カム溝22内を摺動可能に設けられたカムフォロア23と、出力軸8とカムフォロア23とを連結する偏心ピン24とを備えてなる。そして、カムフォロア23を軸線方向底部側に押圧するばね部材51を備え、カムフォロア23の外周面52及びカム溝22の各摺動面53を、ばね部材51によりカムフォロア23が押圧されることにより、これら各面52,53が互いに接触するように、それぞれカム溝22の開口部22b側から底部22a側に向かって傾斜して形成した。
【0038】
上記構成によれば、ばね部材51によりカムフォロア23が押圧され、外周面52と各摺動面53とが互いに接触することでこれらの間のガタが詰められるため、例えばステアリング操作によってコラムシャフト4が回転する際に外周面52と摺動面53とが衝突せず、異音が発生することを防止できる。また、外周面52と各摺動面53とが互いに接触しているため、速やかにコラムシャフト4の回転角変化が出力軸8に伝達され、応答性の向上を図ることができる。
【0039】
また、コラムシャフト4が回転する際にばね部材51に作用する力は、カム部材21とカムフォロア23との間で伝達される伝達力Fのうち、外周面52及び摺動面53の傾斜角θに応じた分力f1となるため、ステアリング操作に伴ってばね部材51に作用する荷重を低く抑えることができる。これにより、ばね部材51に大きな荷重が加わり、劣化することを抑制できる。さらに、カムフォロア23及び偏心ピン24を軸線方向に沿ってカム溝22内に挿入することにより、ガタを詰めた状態で舵角比可変機構7を組み付けることができるため、その組み付け性が良い。さらにまた、ばね部材51はカムフォロア23を軸線方向に押圧するものであるため、カムフォロア23の大きさ(外径等)によらず、同じばね部材51を用いることが可能になり、大きさの異なるカムフォロアを採用した舵角比可変機構間において、部品を共通化し、コストの低減を図ることができる。
【0040】
(2)外周面52をカム溝22の長手方向視で該カム溝22の開口部22b側から底部22a側に向かうにつれて先細となる直線状に形成し、各摺動面53を長手方向視で外周面52における該各摺動面53が当接する部分と平行な直線状にそれぞれ形成した。上記構成によれば、カムフォロア23の外周面52とカム溝22の各摺動面53とが面接触するため、これらの間に作用する圧力が過大になることを抑制し、例えばカムフォロア23及びカム溝22(カム部材21)の長寿命化を図ることができる。
【0041】
(3)偏心ピン24に、径方向外側に延びるフランジ部55を形成し、フランジ部55とカムフォロア23との間にばね部材51を設けることで、カムフォロア23を軸線方向底部側に押圧するようにした。上記構成によれば、例えば偏心ピン24にカムフォロア23を押圧する部分を一体形成する場合に比べ、偏心ピン24の形状を簡素化することができる。
【0042】
(4)カムフォロア23に挿通孔36を形成し、該挿通孔36に偏心ピン24を挿通することにとより、偏心ピン24を中心としてカムフォロア23を回転可能に連結し、偏心ピン24に、カムフォロア23が該偏心ピン24に対して軸線方向底部側に移動することを規制するナット56を設けた。上記構成によれば、ナット56によってカムフォロア23が偏心ピン24から脱落することを防止でき、組み付け性の向上を図ることができる。また、ナット56によって、舵角比可変機構7の組み付け前に予めばね部材51を弾性変形させておくことができ、ばね部材51によりカムフォロア23が軸線方向に押圧される荷重を容易に設定することができる。
【0043】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の態様にて実施することもできる。
・上記実施形態では、偏心ピン24に径方向に沿って延出するフランジ部55を形成し、同フランジ部55とカムフォロア23との間に配置されるばね部材51により押圧手段を構成したが、これに限らない。例えば図6に示すように、偏心ピン24に、該偏心ピン24から延出形成され、径方向外側に向かうにつれて軸線方向におけるカム溝22の底部22a側に傾斜するとともに該軸線方向に弾性変形可能な弾性フランジ部61を一体形成し、同弾性フランジ部61により、カムフォロア23を押圧するようにしてもよい。なお、同図において、弾性フランジ部61が弾性変形した状態を二点鎖線にて示す。この構成によれば、カムフォロア23を押圧するためのばね部材51を別途設ける場合に比べ、部品点数を削減することができる。
【0044】
・上記実施形態では、ウェーブワッシャ等のばね部材51により弾性体を構成したが、これに限らず、ゴムや樹脂材料等により弾性体を構成するようにしてもよい。
・上記実施形態では、カム部材21を略直方体状に形成したが、これに限らず、軸線方向と直交する方向に延びるとともに出力軸8側に開口したカム溝22が形成されていれば、カム部材21を円板状等の他の形状に形成してもよい。
【0045】
・上記実施形態では、外周面52をカム溝22の長手方向視で該カム溝22の開口部22b側から底部22a側に向かうにつれて先細となる直線状に形成したが、これに限らず、図7に示すように、外周面52を径方向外側に突出する曲面状に形成してもよい。同様に、カム溝22の各摺動面53を径方向内側に突出する曲面状としてもよく、カムフォロア23が底部側に押圧されることにより、外周面52と各摺動面53とが互いに接触すれば、その他の形状にしてもよい。
【0046】
・上記実施形態では、偏心ピン24の先端側にナット56を設けたが、これに限らず、ナット56等の規制部材を設けない構成としてもよい。
・上記実施形態では、コラムシャフト4を第1軸として構成し、出力軸8を第2軸として構成した。しかし、これに限らず、出力軸8を第1軸として構成して該出力軸8にカム部材21を設けるとともに、コラムシャフト4を第2軸として構成して該コラムシャフト4に偏心ピン24を設けるようにしてもよい。
【0047】
・上記実施形態では、本発明をコラムアシスト式の電動パワーステアリング装置(EPS)として構成されたステアリング装置1に具体化した。しかし、これに限らず、例えば所謂ラックアシスト式等、コラムアシスト以外のEPSや油圧式のパワーステアリング装置、或いはノンアシスト型のステアリング装置に適用してもよい。
【符号の説明】
【0048】
1…ステアリング装置、2…ステアリング、3…ステアリングシャフト、4…コラムシャフト、7…舵角比可変機構、8…出力軸、21…カム部材、22…カム溝、22a…底部、22b…開口部、23…カムフォロア、24…偏心ピン、36…挿通孔、51…ばね部材、52…外周面、53…摺動面、55…フランジ部、56…ナット、61…弾性フランジ部、θ…傾斜角。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに所定量偏心して配置された第1軸及び第2軸と、これら前記第1軸及び前記第2軸を回転伝達可能に連結する舵角比可変機構とを備え、
前記舵角比可変機構は、前記第1軸に連結されるとともにカム溝を有するカム部材と、前記カム溝内を摺動可能に設けられたカムフォロアと、前記第2軸と前記カムフォロアとを連結する偏心ピンとを備えてなり、
前記カム溝は、前記各軸の軸線方向と直交する方向に延びるとともに前記第2軸側に開口し、
前記偏心ピンは、前記第2軸から前記所定量よりも大きく偏心した位置において該第2軸と前記カムフォロアとを連結するものであるステアリング装置において、
前記カムフォロアを押圧する押圧手段を備え、該押圧手段は該カムフォロアを前記軸線方向における前記カム溝の底部側に押圧するものであり、
前記カムフォロアの外周面及び前記カム溝の前記外周面との各摺動面は、前記押圧手段によって前記カムフォロアが押圧されることにより、前記外周面と前記各摺動面とが互いに接触するように、それぞれ前記軸線方向における前記カム溝の開口部側から底部側に向かって傾斜して形成されたことを特徴とするステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載のステアリング装置において、
前記外周面は、前記カム溝の長手方向視で該カム溝の開口部側から底部側に向かうにつれて先細となる直線状に形成され、
前記各摺動面は、前記長手方向視で前記外周面における該各摺動面が当接する部分と平行な直線状にそれぞれ形成されたことを特徴とするステアリング装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のステアリング装置において、
前記偏心ピンには、径方向外側に延びるフランジ部が形成され、
前記押圧手段は、前記フランジ部と前記カムフォロアとの間に設けられた弾性体であることを特徴とするステアリング装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のステアリング装置において、
前記押圧手段は、前記偏心ピンから径方向外側に延出形成された弾性フランジ部であり、該弾性フランジ部は、径方向外側に向かうにつれて前記軸線方向における前記カム溝の底部側に傾斜するとともに該軸線方向に弾性変形可能に構成されたことを特徴とするステアリング装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のステアリング装置において、
前記カムフォロアには挿通孔が形成され、該カムフォロアは前記挿通孔に前記偏心ピンが挿通されることにとより、該偏心ピンを中心として回転可能に連結されるものであり、
前記偏心ピンにおける前記軸線方向の前記底部側には規制部材が設けられ、該規制部材は前記カムフォロアが前記偏心ピンに対して前記軸線方向における前記カム溝の底部側に移動することを規制するものであることを特徴とするステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−131723(P2011−131723A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292620(P2009−292620)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】