説明

ステアリング装置

【課題】ステアリングシャフトを回転可能に軸支する転がり軸受を備え、アッパーコラムとロアーコラムが軸方向に摺動可能に嵌合するステアリング装置に適し、高速走行中のステアリングホイールの操縦安定性を向上させたステアリング装置を提供する。
【解決手段】Oリング64の弾性力によって、雌ステアリングシャフト31の外周面312がブッシュ6の円筒面661によって締め付けられる。従って、雌ステアリングシャフト31の外周面312とブッシュ6の円筒面661との間に所定の摩擦力が生じ、高速走行中のステアリングホイールの操縦安定性が向する。また、Oリング64が第1のロアーコラム21の内周面211に押圧されて潰れた状態になっているため、雌ステアリングシャフト31の振動がOリング64によって吸収され、車軸の振動がステアリングホイールに伝達することを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はステアリング装置、特に、アッパーコラムとロアーコラムが軸方向に摺動可能に嵌合することによって、ステアリングホイールのテレスコピック位置の調整を行うようにしたテレスコピック式のステアリング装置、または、二次衝突時に車体前方側にコラプス移動して衝撃荷重を吸収するステアリング装置であって、ステアリングシャフトを回転可能に軸支する転がり軸受を備えたステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステアリングシャフトを回転可能に軸支する転がり軸受は、摩擦抵抗が小さく、摩擦抵抗が安定しているため、極めて滑らかなハンドル操作を行うことができる。しかし、転がり軸受は振動吸収特性が小さいため、高速走行中の路面の起伏等による車軸の振動がステアリングホイールにそのまま伝達して、ステアリングホイールが回転方向や上下方向に微振動し、操縦安定性が低下する問題がある。
【0003】
特許文献1のステアリング装置は、すべり軸受をコラムの内周面とステアリングシャフトの外周面との間に弾性体を介して装着することによって、ステアリングシャフトに摩擦抵抗を付与し、ステアリングホイールの振動を吸収して、操縦安定性を向上させている。しかし、特許文献1のステアリング装置は、すべり軸受に適用したものであって、転がり軸受に適用したものではない。
【0004】
特許文献2のステアリング装置は、転がり軸受で前端が回転可能に軸支されたステアリングシャフトの後端外周面を、円筒状の摩擦付加部材をOリングを介して装着することによって、ステアリングシャフトに摩擦抵抗を付与し、ステアリングホイールの振動を吸収して、操縦安定性を向上させている。しかし、特許文献2のステアリング装置は、アッパーコラムとロアーコラムが軸方向に摺動可能に嵌合するステアリング装置に適用するのが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−303387号公報
【特許文献2】特開2005−53292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ステアリングシャフトを回転可能に軸支する転がり軸受を備え、アッパーコラムとロアーコラムが軸方向に摺動可能に嵌合するステアリング装置に適し、高速走行中のステアリングホイールの操縦安定性を向上させたステアリング装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は以下の手段によって解決される。すなわち、第1番目の発明は、ロアーコラム、上記ロアーコラムに軸方向に相対的に摺動可能に嵌合されたアッパーコラム、上記アッパーコラムのアッパー側に設けられた転がり軸受によって上記アッパーコラムに回転可能に軸支され、車体後方側にステアリングホイールを装着した雌ステアリングシャフト、上記ロアーコラムのロアー側に設けられた転がり軸受によって上記ロアーコラムに回転可能に軸支され、上記雌ステアリングシャフトに軸方向に相対的に移動可能に、かつ回転トルクを伝達可能に係合して、上記ステアリングホイールの回転を車輪に伝達する雄ステアリングシャフト、上記ロアーコラムの内周面と雌ステアリングシャフトの外周面との間に介挿され、軸方向のスリットが形成された中空円筒状のブッシュ、上記ブッシュの外周面とロアーコラムの内周面との間に介挿され、ブッシュを縮径する方向に付勢して、ブッシュの内周面を雌ステアリングシャフトの外周面に押圧する弾性部材を備えたことを特徴とするステアリング装置である。
【0008】
第2番目の発明は、第1番目の発明のステアリング装置において、上記ブッシュの軸方向の中間部内周面に形成され、雌ステアリングシャフトの外周面に接触可能な円筒面と、上記ブッシュの軸方向の両端内周面に形成され、軸方向の端部側が軸心から離れる方向に傾斜するテーパー面とを備え、上記弾性部材が上記ブッシュの軸方向の中間部に配置されていることを特徴とするステアリング装置である。
【0009】
第3番目の発明は、第1番目から第2番目までのいずれかの発明のステアリング装置において、上記ブッシュは、上記雄ステアリングシャフトと雌ステアリングシャフトの係合部の雌ステアリングシャフトの外周面に配置されていることを特徴とするステアリング装置である。
【0010】
第4番目の発明は、第1番目から第2番目までのいずれかの発明のステアリング装置において、上記ブッシュの外周面に形成された環状フランジ部と、上記ロアーコラムの内周面に形成され、上記環状フランジ部が嵌入して上記ブッシュの軸方向移動を阻止する環状凹溝とを備えたことを特徴とするステアリング装置である。
【0011】
第5番目の発明は、第1番目から第2番目までのいずれかの発明のステアリング装置において、上記ロアーコラムの内周面に形成され、上記ブッシュの外周面が内嵌する大径内周面と、上記大径内周面よりもアッパー側のロアーコラムの内周面に形成された小径の内周面と、上記大径内周面と小径の内周面との接続部に形成され、上記ブッシュの一方の端面に当接する段差部と、上記大径内周面に形成された環状凹溝に嵌入してブッシュの他方の端面に当接し、ブッシュの軸方向移動を阻止する止め輪とを備えたことを特徴とするステアリング装置である。
【0012】
第6番目の発明は、第1番目から第2番目までのいずれかの発明のステアリング装置において、上記スリットは、上記ブッシュの軸方向の左右両側の端面から中央へ向かうに従って傾斜して形成されていることを特徴とするステアリング装置である。
【0013】
第7番目の発明は、第1番目から第2番目までのいずれかの発明のステアリング装置において、上記スリットは、上記ブッシュの軸方向の一方の端面から他方の端面へ向かうに従って傾斜して形成されていることを特徴とするステアリング装置である。
【0014】
第8番目の発明は、第1番目から第2番目までのいずれかの発明のステアリング装置において、上記スリットには、スリットを挟んで対向する箇所に互いに係合可能な矩形の凸部と矩形の凹部が形成されていることを特徴とするステアリング装置である。
【0015】
第9番目の発明は、第1番目から第2番目までのいずれかの発明のステアリング装置において、上記弾性部材は、上記ブッシュの軸方向に離間して複数配置されていることを特徴とするステアリング装置である。
【0016】
第10番目の発明は、第1番目から第2番目までのいずれかの発明のステアリング装置において、上記ブッシュの外周面に形成された複数の半径方向突起と、上記ロアーコラムの内周面に形成され、上記半径方向突起が係合して、ロアーコラムに対するブッシュの回転を阻止する係合溝とを備えたことを特徴とするステアリング装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のステアリング装置は、アッパーコラムのアッパー側に設けられた転がり軸受によってアッパーコラムに回転可能に軸支され、車体後方側にステアリングホイールを装着した雌ステアリングシャフトと、ロアーコラムのロアー側に設けられた転がり軸受によってロアーコラムに回転可能に軸支され、雌ステアリングシャフトに軸方向に相対的に移動可能に、かつ回転トルクを伝達可能に係合して、ステアリングホイールの回転を車輪に伝達する雄ステアリングシャフトと、ロアーコラムの内周面と雌ステアリングシャフトの外周面との間に介挿され、軸方向のスリットが形成された中空円筒状のブッシュと、ブッシュの外周面とロアーコラムの内周面との間に介挿され、ブッシュを縮径する方向に付勢して、ブッシュの内周面を雌ステアリングシャフトの外周面に押圧する弾性部材とを備えている。
【0018】
従って、雌ステアリングシャフトの外周面とブッシュの内周面との間に所定の摩擦力が生じて、ステアリングホイールの座りが良好になり、高速走行中のステアリングホイールの操縦安定性が向する。また、雌ステアリングシャフトの振動が弾性部材によって吸収され、車軸の振動がステアリングホイールに伝達しにくくなるため、操舵感が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例のステアリング装置を車両に取り付けた状態を示す全体斜視図である。
【図2】本発明の実施例のステアリング装置の要部を示す一部を断面した正面図である。
【図3】(a)は本発明の実施例1のブッシュ近傍の拡大断面図であり、(b)は(a)のP部拡大断面図である。
【図4】(a)は本発明の実施例1のブッシュの拡大正面図であり、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図5】(a)は本発明の実施例2のブッシュ近傍の拡大断面図であり、(b)は(a)のQ部拡大断面図である。
【図6】(a)は本発明の実施例2のブッシュの拡大正面図であり、(b)は(a)のB−B断面図である。
【図7】(a)は本発明の実施例3のブッシュの拡大正面図であり、(b)は(a)のC−C断面図である。
【図8】(a)は本発明の実施例4のブッシュの拡大正面図であり、(b)は(a)のD−D断面図である。
【図9】(a)は本発明の実施例5のブッシュの拡大正面図であり、(b)は(a)のE−E断面図である。
【図10】(a)は本発明の実施例6のブッシュの拡大正面図であり、(b)は(a)のF−F断面図である。
【図11】(a)は本発明の実施例7のブッシュ近傍の拡大断面図であり、(b)は(a)のR部拡大断面図である。
【図12】(a)は本発明の実施例7のブッシュの拡大正面図であり、(b)は(a)のG−G断面図である。
【図13】(a)は本発明の実施例8のブッシュの拡大正面図であり、(b)は(a)のH−H断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて本発明の実施例1から実施例8を説明する。
【実施例1】
【0021】
図1は本発明の実施例のステアリング装置101を車両に取り付けた状態を示す全体斜視図である。図1に示すように、中空円筒状のコラム102が車体に取付けられ、このコラム102にはステアリングシャフト104が回転可能に軸支されている。ステアリングシャフト104には、その右端(車体後方側)にステアリングホイール103が装着され、ステアリングシャフト104の左端(車体前方側)には、自在継手105を介して中間シャフト106が連結されている。
【0022】
中間シャフト106は、雄スプラインが形成された中実の中間インナーシャフト106aと、雌スプラインが形成された中空円筒状の中間アウターシャフト106bで構成され、中間インナーシャフト106aの雄スプラインが、中間アウターシャフト106bの雌スプラインに伸縮可能(摺動可能)に、かつ回転トルクを伝達可能に嵌合している。
【0023】
さらに、中間アウターシャフト106bの車体後方側が上記自在継手105に連結され、中間インナーシャフト106aの車体前方側が自在継手107に連結されている。自在継手107には、ステアリングギヤ108の図示しないラックに噛合うピニオンが連結されている。
【0024】
運転者がステアリングホイール103を回転操作すると、ステアリングシャフト104、自在継手105、中間シャフト106、自在継手107を介して、その回転力がステアリングギヤ108に伝達され、ラックアンドピニオン機構を介して、タイロッド109を移動し、操舵輪110の操舵角を変えることができる。
【0025】
図2は本発明の実施例のステアリング装置の要部を示す一部を断面した正面図、図3(a)は本発明の実施例1のブッシュ近傍の拡大断面図であり、図3(b)は図3(a)のP部拡大断面図である。図2、図3に示すように、アッパーコラム(アウターコラム)1は、アッパー車体取付けブラケット52によって、図示しない車体に固定されている。中空円筒状のアッパーコラム1の車体前方側(図2の左側)には、アッパーコラム1の内周面に、中空円筒状の第1のロアーコラム(インナーコラム)21の外周面が、軸方向にテレスコピック位置調整可能に密に嵌合している。
【0026】
第1のロアーコラム21の車体前方側(図2の左側)には、第1のロアーコラム21の外周面213に、中空円筒状の第2のロアーコラム(インナーコラム)22の内周面221が、軸方向にコラプス移動可能に密に嵌合している。第2のロアーコラム22の車体前方端は、ロアー車体取付けブラケット51によって、図示しない車体に枢動可能に固定されている。第2のロアーコラム22の内周面221は第1のロアーコラム21の外周面213にかしめ加工によって締め付けられており、二次衝突時に車体前方側に衝撃力が加わると、かしめ部分が塑性変形して、第2のロアーコラム22に対して第1のロアーコラム21が車体前方側にコラプス移動する。
【0027】
アッパーコラム1の軸心には雌ステアリングシャフト(アッパーステアリングシャフト)31が挿入され、アッパーコラム1の内周面の右端(アッパー側)に圧入された転がり軸受(図示せず)によって、雌ステアリングシャフト31の右端(アッパー側)が回転可能に軸支されている。雌ステアリングシャフト31の右端(車体後方側)には、図1のステアリングホイール103が装着されている。
【0028】
第2のロアーコラム22の内周面221には、雄ステアリングシャフト32が挿入され、第2のロアーコラム22の内周面221の左端(ロアー側)に圧入された転がり軸受(深溝玉軸受)41によって、雄ステアリングシャフト32の左端(ロアー側)が回転可能に軸支されている。雄ステアリングシャフト32の右側には、雄スプライン321が形成され、雌ステアリングシャフト31の左側に形成された雌スプライン311に軸方向に相対的に移動可能に、かつ回転トルクを伝達可能にスプライン係合している。
【0029】
図3(a)、図3(b)に示すように、雌ステアリングシャフト31の外周面312には、軸方向で見てスプライン嵌合部と第1のロアーコラム21の内周面211との間に、図4に示す合成樹脂製のブッシュ6が介挿されている。図4に示すように、ブッシュ6は中空円筒状で、軸方向の全長に渡ってスリット61が1個形成されている。
【0030】
ブッシュ6の外周面62には、軸方向(図3(b)の左右方向)の中間部に環状凹溝63が形成され、環状凹溝63に断面が円形で環状のOリング(弾性部材)64が挿入されている。Oリング64は、合成ゴム等の弾性材料で形成されている。また、ブッシュ6の外周面62には、軸方向の左端に、外周面62よりも大径の環状フランジ部65が形成されている。
【0031】
ブッシュ6の内周面66には、軸方向の中間部に円筒面661が形成され、軸方向の両端部にテーパー面662、662が形成されている。テーパー面662、662は、軸方向の端部側が軸心から離れる方向に傾斜して形成されている。ブッシュ6を第1のロアーコラム21の内周面211に挿入する前の状態では、ブッシュ6の円筒面661の内径寸法は、雌ステアリングシャフト31の外周面312の外径寸法よりも若干大きく形成されている。
【0032】
ブッシュ6を第1のロアーコラム21の内周面211に挿入すると、ブッシュ6はスリット61の間隔が狭まって縮径し、第1のロアーコラム21の内周面211に容易に挿入することができる。縮径したブッシュ6を第1のロアーコラム21の内周面211に挿入して行くと、第1のロアーコラム21の内周面211に形成された環状凹溝(図3(b)参照)212にブッシュ6の環状フランジ部65が嵌入して、ブッシュ6の軸方向移動が阻止される。
【0033】
また、Oリング64が第1のロアーコラム21の内周面211に押圧されて潰れ、Oリング64の弾性力によって、ブッシュ6の円筒面661の内径寸法が、雌ステアリングシャフト31の外周面312の外径寸法よりも若干小さくなる。Oリング64は円筒面661と同一の軸方向位置に配置されているため、Oリング64の弾性力によって、ブッシュ6の円筒面661を精度良く縮径することができる。
【0034】
その後、雌ステアリングシャフト31を組み込んだアッパーコラム1を第1のロアーコラム21に外嵌する。また、雄ステアリングシャフト32を組み込んだ第2のロアーコラム22を第1のロアーコラム21に外嵌し、第1のロアーコラム21の外周面213にかしめ加工によって締め付ける。
【0035】
ブッシュ6の内周面66には、軸方向の両端部にテーパー面662、662が形成されているため、雌ステアリングシャフト31の外周面312はテーパー面662に案内されて、ブッシュ6の円筒面661に円滑に挿入される。また、ブッシュ6の軸方向の両端部にテーパー面662、662が形成されているため、テレスコピック位置調整時に、雌ステアリングシャフト31の外周面312は、ブッシュ6の円筒面66に沿って円滑に摺動することができる。
【0036】
雌ステアリングシャフト31の外周面312がブッシュ6の円筒面661に挿入されると、Oリング64の弾性力によって、雌ステアリングシャフト31の外周面312がブッシュ6の円筒面661によって締め付けられる。ブッシュ6が雌ステアリングシャフト31の外周面312を締め付ける軸方向位置は、雄ステアリングシャフト32と雌ステアリングシャフト31のスプライン係合部である。
【0037】
本発明の実施例1では、雌ステアリングシャフト31の外周面312とブッシュ6の円筒面661との間に所定の摩擦力が生じて、ステアリングホイール103の座りが良好になり、高速走行中のステアリングホイール103の操縦安定性が向する。また、Oリング64が第1のロアーコラム21の内周面211に押圧されて潰れた状態になっているため、雌ステアリングシャフト31の振動がOリング64によって吸収され、車軸の振動がステアリングホイール103に伝達しにくくなるため、操舵感が向上する。
【0038】
上記実施例1では、ブッシュ6の外周面62には、外周面62よりも大径の環状フランジ部65が形成されているが、大径の環状フランジ部65の無いブッシュ6を使用し、第1のロアーコラム21の内周面211に形成した軸方向に長い環状凹溝に、ブッシュ6の全体を嵌入してもよい。環状フランジ部65の無いブッシュ6を使用すれば、ブッシュ6の肉厚の制限、または、第1のロアーコラム21の外径寸法が大きくなる問題が緩和されるため、好ましい。
【実施例2】
【0039】
次に本発明の実施例2について説明する。図5(a)は本発明の実施例2のブッシュ近傍の拡大断面図であり、図5(b)は図5(a)のQ部拡大断面図である。図6(a)は本発明の実施例2のブッシュの拡大正面図であり、図6(b)は図6(a)のB−B断面図である。以下の説明では、上記実施例と異なる構造部分についてのみ説明し、重複する説明は省略する。また、同一部品には同一番号を付して説明する。実施例2は実施例1の変形例であって、実施例1の環状フランジ部65を省略したブッシュ6の例である。
【0040】
図に示すように、実施例2では、第1のロアーコラム21の内周面には、第1のロアーコラム21の左端(ロアー側)から所定長にわたって大径内周面216が形成されている。そして、大径内周面216の右端(アッパー側)に隣接して内周面211が形成されている。大径内周面216および内周面211はどちらも円筒形であり、その内径寸法は大径内周面216よりも内周面211の方が小さく形成されている。大径内周面216と内周面211との接続部には段差部214が形成されている。
【0041】
雌ステアリングシャフト31の外周面312には、軸方向で見てスプライン嵌合部と第1のロアーコラム21の大径内周面216との間に、図6に示す合成樹脂製のブッシュ6が介挿されている。図6に示すように、ブッシュ6は中空円筒状で、軸方向の全長に渡ってスリット61が1個形成されている。
【0042】
実施例2のブッシュ6の外周面62は、軸方向の全長に渡って同一の外径寸法に形成され、実施例1の環状フランジ部65は形成されていない。外周面62には、軸方向(図6(b)の左右方向)の中間部に環状凹溝63が形成され、環状凹溝63に断面が円形で環状のOリング(弾性部材)64が挿入されている。Oリング64は、合成ゴム等の弾性材料で形成されている。
【0043】
ブッシュ6の内周面66には、軸方向の中間部に円筒面661が形成され、軸方向の両端部にテーパー面662、662が形成されている。テーパー面662、662は、軸方向の端部側が軸心から離れる方向に傾斜して形成されている。ブッシュ6を第1のロアーコラム21の大径内周面216に挿入する前の状態では、ブッシュ6の円筒面661の内径寸法は、雌ステアリングシャフト31の外周面312の外径寸法よりも若干大きく形成されている。
【0044】
ブッシュ6を第1のロアーコラム21の大径内周面216に挿入すると、ブッシュ6はスリット61の間隔が狭まって縮径し、大径内周面216に容易に挿入することができる。縮径したブッシュ6を第1のロアーコラム21の大径内周面216に挿入して行き、第1のロアーコラム21の内周に形成された段差部(図5(b)参照)214にブッシュ6の一方の端面を当接させる。その後、大径内周面216に形成されている環状凹溝215にC形止め輪又はCリング等の止め輪7を嵌入し、止め輪7をブッシュ6の他方の端面に当接させることで、ブッシュ6の軸方向移動を阻止する。
【0045】
また、Oリング64が第1のロアーコラム21の大径内周面216に押圧されて潰れ、Oリング64の弾性力によって、ブッシュ6の円筒面661の内径寸法が、雌ステアリングシャフト31の外周面312の外径寸法よりも若干小さくなる。Oリング64は円筒面661と同一の軸方向位置に配置されているため、Oリング64の弾性力によって、ブッシュ6の円筒面661を精度良く縮径することができる。
【0046】
その後、雌ステアリングシャフト31を組み込んだアッパーコラム1を第1のロアーコラム21に外嵌する。また、雄ステアリングシャフト32を組み込んだ第2のロアーコラム22を第1のロアーコラム21に外嵌し、第1のロアーコラム21の外周面213にかしめ加工によって締め付ける。
【0047】
ブッシュ6の内周面66には、軸方向の両端部にテーパー面662、662が形成されているため、雌ステアリングシャフト31の外周面312はテーパー面662に案内されて、ブッシュ6の円筒面661に円滑に挿入される。また、ブッシュ6の軸方向の両端部にテーパー面662、662が形成されているため、テレスコピック位置調整時に、雌ステアリングシャフト31の外周面312は、ブッシュ6の円筒面661に沿って円滑に摺動することができる。
【0048】
雌ステアリングシャフト31の外周面312がブッシュ6の円筒面661に挿入されると、Oリング64の弾性力によって、雌ステアリングシャフト31の外周面312がブッシュ6の円筒面661によって締め付けられる。ブッシュ6が雌ステアリングシャフト31の外周面312を締め付ける軸方向位置は、雄ステアリングシャフト32と雌ステアリングシャフト31のスプライン係合部である。
【0049】
本発明の実施例2では、ブッシュ6に大径の環状フランジ部65が無いため、ブッシュ6の肉厚の制限が緩和されるとともに、第1のロアーコラム21の外径寸法が大きくなる問題が緩和されるため、好ましい。
【実施例3】
【0050】
次に本発明の実施例3について説明する。図7(a)は本発明の実施例3のブッシュの拡大正面図であり、図7(b)は図7(a)のC−C断面図である。以下の説明では、上記実施例と異なる構造部分についてのみ説明し、重複する説明は省略する。また、同一部品には同一番号を付して説明する。実施例3は実施例2の変形例であって、実施例2のスリット61をV形形状とした例である。
【0051】
図7(b)に示すとおり、ブッシュ6には軸方向の全長に渡ってスリット61が形成されている。図7(b)で見て、スリット61の上側には、軸方向の左右両側の端面から中央へ向かうに従って互いに周方向下側へ向かって傾斜する傾斜面611、611が形成されている。同様に、図7(b)で見て、、スリット61の下側には、軸方向の左右両側の端面から中央へ向かうに従って互いに周方向下側へ向かって傾斜する傾斜面612、612が形成されている。
【0052】
対向する傾斜面611と612とは互いに平行に形成されている。傾斜面611、611は凸形状を形成し、傾斜面612、612は凹形状を形成することで、スリット61は略V形の形状を形成している。図7(b)ではスリット61の幅(傾斜面611と傾斜面612との間の隙間)を誇張して広く描いている。しかし、ブッシュ6の円筒面661の内径寸法が縮径して、雌ステアリングシャフト31の外周面312の外径寸法よりも若干小さくなれば、スリット61の幅は狭くても構わない。
【0053】
本発明の実施例3では、スリット61をV形形状とすることで、ブッシュ6の円筒面661と雌ステアリングシャフト31の外周面312とが互いに摺動する場合、及び第1のロアーコラム21の大径内周面216にブッシュ6を挿入する場合に、スリット61を挟んだブッシュの対向面が互いに軸方向に相対移動しにくくなる。
【0054】
つまり、図7(b)で見て、傾斜面611、611が左側へ動き、傾斜面612、612が右側へ動いてしまった場合に、傾斜面611と傾斜面612とが互いに当接して、ブッシュ6が捩れてしまうことを防止することが可能となる。従って、ブッシュ6の円筒面661が常に円筒形状を維持し続けることにより、雌ステアリングシャフト31の外周面312とブッシュ6の円筒面661との間の摩擦力が安定し、高速走行中のステアリングホイール103の操縦安定性が向上する。また、ブッシュ6単品を輸送する際に、複数のブッシュ6を一つの箱に収納しても、ブッシュ6同士が絡みにくくなるため、ブッシュ6の取り扱いが容易になる。
【実施例4】
【0055】
次に本発明の実施例4について説明する。図8(a)は本発明の実施例4のブッシュの拡大正面図であり、図8(b)は図8(a)のD−D断面図である。以下の説明では、上記実施例と異なる構造部分についてのみ説明し、重複する説明は省略する。また、同一部品には同一番号を付して説明する。実施例4は実施例2の変形例であって、実施例2のスリット61を凹凸形状とした例である。
【0056】
図8(b)に示すとおり、ブッシュ6には軸方向の全長に渡ってスリット61が形成されている。図8(b)で見てスリット61の上側には、軸方向中央部に周方向下側へ向かって矩形の凸部613が形成されており、その両側には端部615、615が形成されている。同様に、図8(b)で見てスリット61の下側には、凸部613と相補関係となるよう軸方向中央部に周方向下側へ向かって矩形の凹部614が形成されており、その両側には端部616、616が形成されている。
【0057】
図8(b)で見て、凸部613と凹部614の幅は、それぞれ円筒面661の幅よりも大きくなっている。つまり、凸部613に円筒面661が全て形成されている。凸部613の幅は凹部614の幅よりも少し小さくすることで、互いに係合可能としている。スリット61を挟んで互いに対向する凸部613と凹部614との間にはブッシュ6が縮径可能な程度に隙間を設けていればよい。同様に、互いに対向する端部615と端部616との間にも、ブッシュ6が縮径可能な程度に隙間を設けていればよい。このようにスリット61を挟んで対向する箇所に凸部613と凹部614を形成し、互いに係合することでスリット61が凹凸形状となっている。
【0058】
本発明の実施例4では、スリット61を凹凸形状とすることで、ブッシュ6の円筒面661と雌ステアリングシャフト31の外周面312とが互いに摺動する場合、及び第1のロアーコラム21の大径内周面216にブッシュ6を挿入する場合に、スリット61を挟んだブッシュ61の対向面が互いに軸方向に相対移動しにくくなる。
【0059】
つまり、図8(b)で見て、凸部613が左側へ動き、凹部614が右側へ動いてしまった場合に、凸部613と凹部614とが互いに当接して、ブッシュ6が捩れてしまうことを防止することが可能となる。従って、ブッシュ6の円筒面661が常に円筒形状を維持し続けることにより、雌ステアリングシャフト31の外周面312とブッシュ6の円筒面661との間の摩擦力が安定し、高速走行中のステアリングホイール103の操縦安定性が向上する。また、ブッシュ6単品を輸送する際に、複数のブッシュ6を一つの箱に収納しても、ブッシュ6同士が絡みにくくなるため、ブッシュ6の取り扱いが容易になる。
【実施例5】
【0060】
次に本発明の実施例5について説明する。図9(a)は本発明の実施例5のブッシュの拡大正面図であり、図9(b)は図9(a)のE−E断面図である。以下の説明では、上記実施例と異なる構造部分についてのみ説明し、重複する説明は省略する。また、同一部品には同一番号を付して説明する。実施例5は実施例2の変形例であって、実施例2のスリット61を傾斜形状とした例である。
【0061】
図9(b)に示すとおり、ブッシュ6には軸方向の全長に渡ってスリット61が形成されている。図9(b)で見て、スリット61の上側には、軸方向の右側の端面から左側の端面へ向かうに従って周方向下側へ向かって傾斜する傾斜面617が形成されている。同様に、図9(b)で見て、、スリット61の下側には、軸方向の右側の端面から左側の端面へ向かうに従って周方向下側へ向かって傾斜する傾斜面618が形成されている。
【0062】
対向する傾斜面617と618とは互いに平行に形成されている。図9(b)ではスリット61の幅(傾斜面617と傾斜面618との間の隙間)を誇張して広く描いている。しかし、ブッシュ6の円筒面661の内径寸法が縮径して、雌ステアリングシャフト31の外周面312の外径寸法よりも若干小さくなれば、スリット61の幅は狭くても構わない。
【0063】
本発明の実施例5では、スリット61を傾斜形状とすることで、ブッシュ6の円筒面661と雌ステアリングシャフト31の外周面312とが互いに摺動する場合、及び第1のロアーコラム21の大径内周面216にブッシュ6を挿入する場合に、スリット61を挟んだブッシュの対向面が互いに軸方向に相対移動しにくくなる。
【0064】
つまり、図9(b)で見て、傾斜面617が右側へ動き、傾斜面618が左側へ動いてしまった場合に、傾斜面617と傾斜面618とが互いに当接して、ブッシュ6捩れてしまうことを防止することが可能となる。従って、ブッシュ6の円筒面661が常に円筒形状を維持し続けることにより、雌ステアリングシャフト31の外周面312とブッシュ6の円筒面661との間の摩擦力が安定し、高速走行中のステアリングホイール103の操縦安定性が向上する。また、ブッシュ6単品を輸送する際に、複数のブッシュ6を一つの箱に収納しても、ブッシュ6同士が絡みにくくなるため、ブッシュ6の取り扱いが容易になる。
【実施例6】
【0065】
次に本発明の実施例6について説明する。図10(a)は本発明の実施例6のブッシュの拡大正面図であり、図10(b)は図10(a)のF−F断面図である。以下の説明では、上記実施例と異なる構造部分についてのみ説明し、重複する説明は省略する。また、同一部品には同一番号を付して説明する。実施例6は実施例2の変形例であって、ブッシュ6の外周面62に複数のOリング64を配置した例である。
【0066】
図10(b)に示すとおり、ブッシュ6は中空円筒状で、軸方向の全長に渡ってスリット61が1個形成されている。ブッシュ6の外周面62は、軸方向の全長に渡って同一の外径寸法に形成され、実施例1の環状フランジ部65は形成されていない。外周面62には、軸方向(図10(b)の左右方向)の二箇所に環状凹溝63、63が形成され、環状凹溝63、63に断面が円形で環状のOリング(弾性部材)64、64が各々挿入されている。Oリング64、64は、合成ゴム等の弾性材料で形成されている。
【0067】
ブッシュ6の内周面66には、軸方向の中間部に円筒面661が形成され、軸方向の両端部にテーパー面662、662が形成されている。テーパー面662、662は、軸方向の端部側が軸心から離れる方向に傾斜して形成されている。ブッシュ6を第1のロアーコラム21の大径内周面216に挿入する前の状態では、ブッシュ6の円筒面661の内径寸法は、雌ステアリングシャフト31の外周面312の外径寸法よりも若干大きく形成されている。
【0068】
ブッシュ6を第1のロアーコラム21の大径内周面216に挿入すると、ブッシュ6はスリット61の間隔が狭まって縮径し、大径内周面216に容易に挿入することができる。また、Oリング64、64が第1のロアーコラム21の大径内周面216に押圧されて潰れ、Oリング64、64の弾性力によって、ブッシュ6の円筒面661の内径寸法が、雌ステアリングシャフト31の外周面312の外径寸法よりも若干小さくなる。Oリング64、64の弾性力が作用する円筒面661の軸方向長さを長くすることができるため、Oリング64、64の弾性力によって、ブッシュ6の円筒面661を精度良く縮径することができる。
【0069】
本発明の実施例6では、複数のOリングの弾性力によってブッシュ6の円筒面661を精度良く縮径するため、雌ステアリングシャフト31の外周面312とブッシュ6の円筒面661との間の摩擦力が大きくなるとともに、摩擦力が安定し、高速走行中のステアリングホイール103の操縦安定性が向上する。また、雌ステアリングシャフト31の振動を複数のOリング64によって吸収するため、車軸の振動がステアリングホイール103に伝達しにくくなるため、操舵感が向上する。
【実施例7】
【0070】
次に本発明の実施例7について説明する。図11(a)は本発明の実施例7のブッシュ近傍の拡大断面図であり、図11(b)は図11(a)のR部拡大断面図である。図12(a)は本発明の実施例7のブッシュの拡大正面図であり、図12(b)は図12(a)のG−G断面図である。以下の説明では、上記実施例と異なる構造部分についてのみ説明し、重複する説明は省略する。また、同一部品には同一番号を付して説明する。実施例7は実施例2の変形例であって、ブッシュ6の外周面62に複数の半径方向突起を形成した例である。
【0071】
図に示すように、実施例7では、実施例1と同様に、第1のロアーコラム21の内周面には、第1のロアーコラム21の左端(ロアー側)から所定長にわたって大径内周面216が形成されている。そして、大径内周面216の右端(アッパー側)に隣接して内周面211が形成されている。大径内周面216および内周面211はどちらも円筒形であり、その内径寸法は大径内周面216よりも内周面211の方が小さく形成されている。大径内周面216と内周面211との間には段差部214が形成されている。
【0072】
雌ステアリングシャフト31の外周面312には、軸方向で見てスプライン嵌合部と第1のロアーコラム21の大径内周面216との間に、図12に示す合成樹脂製のブッシュ6が介挿されている。図12に示すように、ブッシュ6は中空円筒状で、軸方向の全長に渡ってスリット61が1個形成されている。
【0073】
実施例7のブッシュ6の外周面62は、軸方向の全長に渡って同一の外径寸法に形成され、実施例2と同様に環状フランジ部65は形成されていない。外周面62には、軸方向(図12(b)の左右方向)の中間部に環状凹溝63が形成され、環状凹溝63に断面が円形で環状のOリング(弾性部材)64が挿入されている。Oリング64は、合成ゴム等の弾性材料で形成されている。
【0074】
実施例7では、ブッシュ6の外周面62には、2個の半径方向突起67、68が形成されている。一方の半径方向突起67は、2個の半径方向突起67A、67Bで構成され、2個の半径方向突起67A、67Bは、スリット61を挟んで円周方向に対向する箇所に形成されている。他方の半径方向突起68は、一方の半径方向突起67に対して180度位相の異なる位置に形成されている。
【0075】
図11に示すように、第1のロアーコラム21の大径内周面216には、半径方向突起67、68が係合可能な係合溝(図11では一方の半径方向突起67が係合可能な係合溝217だけが示されている)217、217が形成されている。係合溝217、217は、第1のロアーコラム21の左端(ロアー側)から右端に向かって形成され、大径内周面216の軸方向長さよりも若干短く形成されている。
【0076】
ブッシュ6を第1のロアーコラム21の大径内周面216に挿入すると、ブッシュ6の半径方向突起67、68が係合溝217、217に係合する。縮径したブッシュ6を第1のロアーコラム21の大径内周面216に挿入して行き、第1のロアーコラム21の内周に形成された段差部(図11(b)参照)214にブッシュ6の一方の端面を当接させる。その後、大径内周面216に形成されている環状凹溝215にC形止め輪又はCリング等の止め輪7を嵌入させ、ブッシュ6の他方の端面に当接させる。その結果、ブッシュ6の軸方向移動が阻止されるとともに、第1のロアーコラム21に対してブッシュ6の回転方向移動が阻止される。
【0077】
本発明の実施例7では、雌ステアリングシャフト31を回転して雌ステアリングシャフト31から雄ステアリングシャフト32に回転トルクを伝達した時に、第1のロアーコラム21に対してブッシュ6が回転することを確実に阻止することができる。従って、スリット61の隙間の間隔が変動して、ブッシュ6が捩れてしまうことを防止することが可能となる。その結果、雌ステアリングシャフト31の外周面312とブッシュ6の円筒面661との間の摩擦力が安定し、高速走行中のステアリングホイール103の操縦安定性が向上する。
【実施例8】
【0078】
次に本発明の実施例8について説明する。図13(a)は本発明の実施例8のブッシュの拡大正面図であり、図13(b)は図13(a)のH−H断面図である。以下の説明では、上記実施例と異なる構造部分についてのみ説明し、重複する説明は省略する。また、同一部品には同一番号を付して説明する。実施例8は実施例7の変形例であって、ブッシュ6の外周面62の半径方向突起を3個形成した例である。
【0079】
実施例8では、ブッシュ6の外周面62には、3個の半径方向突起67、68、69が形成されている。半径方向突起67は、2個の半径方向突起67A、67Bで構成され、2個の半径方向突起67A、67Bは、スリット61を挟んで円周方向に対向する箇所に形成されている。半径方向突起69は、半径方向突起67に対して+120度位相の異なる位置に形成され、半径方向突起68は、半径方向突起67に対して−120度位相の異なる位置に形成されている。図示はしないが、第1のロアーコラム21の大径内周面216には、半径方向突起67、68、69が係合可能な係合溝217、217、217が形成されている。係合溝217、217、217は、第1のロアーコラム21の左端(ロアー側)から右端に向かって形成され、大径内周面216の軸方向長さよりも若干短く形成されている。
【0080】
ブッシュ6を第1のロアーコラム21の大径内周面216に挿入すると、ブッシュ6の半径方向突起67、68、69が係合溝217、217、217に係合する。縮径したブッシュ6を第1のロアーコラム21の大径内周面216に挿入して行き、第1のロアーコラム21の内周に形成された段差部214にブッシュ6の一方の端面を当接させる。その後、大径内周面216に形成されている環状凹溝215にC形止め輪又はCリング等の止め輪7を嵌入させ、ブッシュ6の他方の端面に当接させる。その結果、ブッシュ6の軸方向移動が阻止されるとともに、第1のロアーコラム21に対してブッシュ6の回転方向移動が阻止される。
【0081】
本発明の実施例8では、雌ステアリングシャフト31を回転して雌ステアリングシャフト31から雄ステアリングシャフト32に回転トルクを伝達した時に、第1のロアーコラム21に対してブッシュ6が回転することを確実に阻止することができる。従って、スリット61の隙間の間隔が変動して、ブッシュ6が捩れてしまうことを防止することが可能となる。その結果、雌ステアリングシャフト31の外周面312とブッシュ6の円筒面661との間の摩擦力が安定し、高速走行中のステアリングホイール103の操縦安定性が向上する。
【0082】
上記実施例では、断面が円形のOリング64を使用しているが、合成ゴム製で断面がX字形状または断面がU字形状の環状リングを使用してもよい。上記実施例では、ブッシュ6には、軸方向の全長に渡って1個のスリット61が形成されているが、円周上の複数箇所に、ブッシュ6の軸方向の長さよりも短いスリットを形成してもよい。
【0083】
上記実施例は、アッパーコラムがアウターコラムで、ロアーコラムがインナーコラムのステアリング装置に適用しているが、アッパーコラムがインナーコラムで、ロアーコラムがアウターコラムのステアリング装置に適用してもよい。
【0084】
また、上記実施例は、アッパーステアリングシャフトが雌ステアリングシャフトであり、ロアーステアリングシャフトが雄ステアリングシャフトのステアリング装置に適用しているが、アッパーステアリングシャフトが雄ステアリングシャフトであり、ロアーステアリングシャフトが雌ステアリングシャフトのステアリング装置に適用してもよい。
【符号の説明】
【0085】
101 ステアリング装置
102 コラム
103 ステアリングホイール
104 ステアリングシャフト
105 自在継手
106 中間シャフト
106a 中間インナーシャフト
106b 中間アウターシャフト
107 自在継手
108 ステアリングギヤ
109 タイロッド
110 操舵輪
1 アッパーコラム(アウターコラム)
21 第1のロアーコラム(インナーコラム)
211 内周面
212 環状凹溝
213 外周面
214 段差部
215 環状凹溝
216 大径内周面
217 係合溝
22 第2のロアーコラム(インナーコラム)
221 内周面
31 雌ステアリングシャフト(アッパーステアリングシャフト)
311 雌スプライン
312 外周面
32 雄ステアリングシャフト(ロアーステアリングシャフト)
321 雄スプライン
41 転がり軸受(深溝玉軸受)
51 ロアー車体取付けブラケット
52 アッパー車体取付けブラケット
6 ブッシュ
61 スリット
611 傾斜面
612 傾斜面
613 凸部
614 凹部
615 端部
616 端部
617 傾斜面
618 傾斜面
62 外周面
63 環状凹溝
64 Oリング(弾性部材)
65 環状フランジ部
66 内周面
661 円筒面
662 テーパー面
67 半径方向突起
67A、67B 半径方向突起
68 半径方向突起
69 半径方向突起
7 止め輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロアーコラム、
上記ロアーコラムに軸方向に相対的に摺動可能に嵌合されたアッパーコラム、
上記アッパーコラムのアッパー側に設けられた転がり軸受によって上記アッパーコラムに回転可能に軸支され、車体後方側にステアリングホイールを装着した雌ステアリングシャフト、
上記ロアーコラムのロアー側に設けられた転がり軸受によって上記ロアーコラムに回転可能に軸支され、上記雌ステアリングシャフトに軸方向に相対的に移動可能に、かつ回転トルクを伝達可能に係合して、上記ステアリングホイールの回転を車輪に伝達する雄ステアリングシャフト、
上記ロアーコラムの内周面と雌ステアリングシャフトの外周面との間に介挿され、軸方向のスリットが形成された中空円筒状のブッシュ、
上記ブッシュの外周面とロアーコラムの内周面との間に介挿され、ブッシュを縮径する方向に付勢して、ブッシュの内周面を雌ステアリングシャフトの外周面に押圧する弾性部材を備えたこと
を特徴とするステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたステアリング装置において、
上記ブッシュの軸方向の中間部内周面に形成され、雌ステアリングシャフトの外周面に接触可能な円筒面と、
上記ブッシュの軸方向の両端内周面に形成され、軸方向の端部側が軸心から離れる方向に傾斜するテーパー面とを備え、
上記弾性部材が上記ブッシュの軸方向の中間部に配置されていること
を特徴とするステアリング装置。
【請求項3】
請求項1から請求項2までのいずれかに記載されたステアリング装置において、
上記ブッシュは、
上記雄ステアリングシャフトと雌ステアリングシャフトの係合部の雌ステアリングシャフトの外周面に配置されていること
を特徴とするステアリング装置。
【請求項4】
請求項1から請求項2までのいずれかに記載されたステアリング装置において、
上記ブッシュの外周面に形成された環状フランジ部と、
上記ロアーコラムの内周面に形成され、上記環状フランジ部が嵌入して上記ブッシュの軸方向移動を阻止する環状凹溝とを備えたこと
を特徴とするステアリング装置。
【請求項5】
請求項1から請求項2までのいずれかに記載されたステアリング装置において、
上記ロアーコラムの内周面に形成され、上記ブッシュの外周面が内嵌する大径内周面と、
上記大径内周面よりもアッパー側のロアーコラムの内周面に形成された小径の内周面と、
上記大径内周面と小径の内周面との接続部に形成され、上記ブッシュの一方の端面に当接する段差部と、
上記大径内周面に形成された環状凹溝に嵌入してブッシュの他方の端面に当接し、ブッシュの軸方向移動を阻止する止め輪とを備えたこと
を特徴とするステアリング装置。
【請求項6】
請求項1から請求項2までのいずれかに記載されたステアリング装置において、
上記スリットは、
上記ブッシュの軸方向の左右両側の端面から中央へ向かうに従って傾斜して形成されていること
を特徴とするステアリング装置。
【請求項7】
請求項1から請求項2までのいずれかに記載されたステアリング装置において、
上記スリットは、
上記ブッシュの軸方向の一方の端面から他方の端面へ向かうに従って傾斜して形成されていること
を特徴とするステアリング装置。
【請求項8】
請求項1から請求項2までのいずれかに記載されたステアリング装置において、
上記スリットには、
スリットを挟んで対向する箇所に互いに係合可能な矩形の凸部と矩形の凹部が形成されていること
を特徴とするステアリング装置。
【請求項9】
請求項1から請求項2までのいずれかに記載されたステアリング装置において、
上記弾性部材は、
上記ブッシュの軸方向に離間して複数配置されていること
を特徴とするステアリング装置。
【請求項10】
請求項1から請求項2までのいずれかに記載されたステアリング装置において、
上記ブッシュの外周面に形成された複数の半径方向突起と、
上記ロアーコラムの内周面に形成され、上記半径方向突起が係合して、ロアーコラムに対するブッシュの回転を阻止する係合溝とを備えたこと
を特徴とするステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−32131(P2013−32131A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239674(P2011−239674)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】