説明

ステレオコンプレックスポリ乳酸の製造方法

【課題】本発明の目的は、重量平均分子量(Mw)が15万を超える高い分子量を有し、且つ、溶融と結晶化を繰り返してもステレオコンプレックス結晶のみが成長するポリマーの製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、ポリ乳酸の存在下で、ラクチドを開環重合させステレオコンプレックスポリ乳酸を製造する方法であって、
(i) ポリ乳酸は、L−乳酸単位またはD−乳酸単位を主として含有し、重量平均分子量(Mw)が10万〜30万で、ラクチド含有量が1〜5,000ppmであり、
(ii) ラクチドは、ポリ乳酸中の乳酸単位とはキラリティを異にする乳酸単位を有するラクチドであり、ラクチドの量は、ポリ乳酸100重量部に対して30〜200重量部であることを特徴とするステレオコンプレックスポリ乳酸の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステレオコンプレックスポリ乳酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油由来のプラスチックの多くは軽く強靭であり耐久性に優れ、容易かつ任意に成形することが可能であるので、量産されて我々の生活を多岐にわたって支えてきた。しかし、これらプラスチックは、環境中に廃棄された場合、容易に分解されずに蓄積する。また、焼却の際には大量の二酸化炭素を放出し、地球温暖化に拍車を掛けている。
かかる現状に鑑み、脱石油原料から成る樹脂、或いは微生物によって分解される生分解性プラスチックが盛んに研究されるようになってきた。現在検討されているほとんどの生分解プラスチックは、脂肪族カルボン酸エステル単位を有し、微生物により分解され易い。その反面、熱安定性に乏しく、溶融紡糸、射出成形、溶融製膜などの高温に晒される成形工程における分子量低下、或いは色相悪化が深刻である。
その中でもポリ乳酸は、耐熱性に優れ、色相、機械強度のバランスが取れたプラスチックであるが、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートに代表される石油化学系ポリエステルと比較すると耐熱性が低く、例えば、織物にした場合、アイロンが掛けられないといった課題を抱えている。
このような現状を打開すべく、ポリ乳酸の耐熱性向上について検討がなされてきた。そのひとつにステレオコンプレックスポリ乳酸が挙げられる。ステレオコンプレックスポリ乳酸とはステレオコンプレックス結晶を含むポリ乳酸であり、一般的なホモ結晶からなるポリ乳酸よりも30℃乃至50℃高い融点を示す。
【0003】
しかしながら、ステレオコンプレックス結晶は常に現れるわけではなく、特に高分子量領域ではむしろホモ結晶が現れることが多い。また、ステレオコンプレックス結晶のみから成るステレオコンプレックスポリ乳酸であっても、再溶融の後、結晶化を行った場合、ホモ結晶が混在する場合がある。このような現象を改善すべく、ステレオコンプレックス結晶のみを成長させる結晶核剤について研究が行われている。
例えば特許文献1には、重量平均分子量(Mw)が約12万のポリL乳酸とポリD乳酸とのクロロホルム/ヘキサフルオロ−2−プロパノール溶液を、オキサミド誘導体の存在下で混合して得られた混合物は、DSC測定の結果、ステレオコンプレックス結晶のみから成るステレオコンプレックスポリ乳酸であることが示されている。
また特許文献2には、特許文献1と同様の方法で芳香族尿素系化合物を使用すると、ステレオコンプレックス結晶のみから成るステレオコンプレックスポリ乳酸が得られることを教示されている。
しかしながら、これらの方法でステレオコンプレックスポリ乳酸を製造する場合、大量の含ハロゲン系有機溶媒を使用するため、回収のためのプロセスが必要であり、環境負荷も著しくなる。また、オキサミド誘導体や芳香族尿素系化合物は、含窒素化合物であるため分子量低下が問題となり、実質Mwが15万以上のステレオコンプレックスポリ乳酸を得ることは不可能である。
更に特許文献3には、Mwが10万未満の鎖長の比較的に短いポリL−乳酸とポリD−乳酸から成るマルチブロックコポリマーの製造方法が教示されており、該コポリマーはステレオコンプレックス結晶のみを含むステレオコンプレックスポリ乳酸であるとされる。然しながら該コポリマーのブロック数を増やす度に再沈殿を実施しなくてはならず、工業生産には不向きである。
【0004】
上記のように、Mwが15万を超え、溶融と結晶化を繰り返してもステレオコンプレックス結晶のみが成長するステレオコンプレックスポリ乳酸の製造方法は提案されていない。
【特許文献1】特開2005−255806号公報
【特許文献2】特開2005−269588号公報
【特許文献3】特開2002−356543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高い分子量および融点を有し、ステレオコンプレックス結晶含有率が高いポリ乳酸を製造する方法を提供することにある。また本発明の目的は、また、溶融と結晶化を繰り返しても、融点の低下が少なく、ホモ結晶の成長が極めて少なく、ステレオコンプレックス結晶が優先的に成長するポリ乳酸を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、溶融と結晶化を繰り返してもステレオコンプレックス結晶の含有率の低下が少ないポリ乳酸を製造する方法について、鋭意検討した。その結果、一定の分子量を有しラクチド含有量の少ないポリ乳酸の存在下で、ポリ乳酸とキラリティを異にするラクチドを開環重合させると、融点、ステレオコンプレックス結晶の含有率が高く、且つ溶融と結晶化を繰り返してもステレオコンプレックス結晶が優先的に成長するポリ乳酸が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明は、ポリ乳酸の存在下で、ラクチドを開環重合させステレオコンプレックスポリ乳酸を製造する方法であって、
(i) ポリ乳酸は、L−乳酸単位またはD−乳酸単位を主として含有し、重量平均分子量(Mw)が10万〜30万で、ラクチド含有量が1〜5000ppmであり、
(ii) ラクチドは、ポリ乳酸中の乳酸単位とはキラリティを異にする乳酸単位を有するラクチドであり、ラクチドの量は、ポリ乳酸100重量部に対して30〜200重量部であることを特徴とするステレオコンプレックスポリ乳酸の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、高い融点を有し、ステレオコンプレックス結晶含有率が高いポリ乳酸を製造することができる。また、示差走査熱量計(DSC)測定において、20〜250℃の昇温過程と250〜20℃の急冷過程とから成るプログラムを三回繰り返しても、融点およびステレオコンプレックス結晶含有率の低下が極めて少ないポリ乳酸を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
(ポリ乳酸)
ポリ乳酸は、ポリL−乳酸(PLLA)またはポリD−乳酸(PDLA)である。ポリ乳酸は、下記式で表されるL−乳酸単位またはD−乳酸単位を主として含有する。
【0010】
【化1】

【0011】
PLLAは、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは98モル%以上のL−乳酸単位を含有する。他の単位としては、D−乳酸単位、乳酸以外の単位が挙げられる。D−乳酸単位、乳酸以外の単位は、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下、さらに好ましくは2モル%以下である。
PDLAは、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは98モル%以上のD−乳酸単位を含有する。他の単位としては、L−乳酸単位、乳酸以外の単位が挙げられる。L−乳酸単位、乳酸以外の単位は、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下、さらに好ましくは2モル%以下である。
PLLAまたはPDLA中の他の単位として、2個以上のエステル結合形成可能な官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等由来の単位およびこれら種々の構成成分からなる各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリカーボネート等由来の単位が例示される。
【0012】
ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。多価アルコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の脂肪族多価アルコール等あるいはビスフェノールにエチレンオキシドが付加させたものなどの芳香族多価アルコール等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸として、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸等が挙げられる。ラクトンとしては、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
PLLAまたはPDLAの重量平均分子量は、好ましくは10万〜30万、より好ましくは12万〜20万、さらに好ましくは14万〜18万である。
PLLAは、Lラクチドを開環重合したものであり、PDLAは、Dラクチドを開環重合したものであることが好ましい。開環重合は、ラクチドを反応容器内で金属触媒の存在下、加熱することにより行うことができる。
【0013】
金属触媒としては、アルカリ土類金属、希土類金属、第三周期の遷移金属、アルミニウム、ゲルマニウム、スズおよびアンチモンからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属元素を含む化合物である。アルカリ土類金属として、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムなどが挙げられる。希土類元素として、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウムなどが挙げられる。第三周期の遷移金属として、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、チタンが挙げられる。
金属触媒は、これらの金属のカルボン酸塩、アルコキシド、アリールオキシド、或いはβ−ジケトンのエノラート等として添加することができる。重合活性や色相を考慮した場合、オクチル酸スズ、チタンテトライソプロポキシド、アルミニウムトリイソプロポキシドが特に好ましい。また重合開始剤としてアルコールを用いてもよい。かかるアルコールとしては、ポリ乳酸の重合を阻害せず不揮発性であることが好ましく、例えばデカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノールなどを好適に用いることができる。
触媒量は、ラクチド100重量部に対して、好ましくは0.001〜0.1重量部、より好ましくは0.003〜0.01重量部である。添加雰囲気としては窒素、アルゴン等の不活性気体雰囲気が好ましい。反応時間は、好ましくは15分〜3時間、好ましくは30分〜2時間である。反応温度は、好ましくは150〜250℃、より好ましくは170〜210℃である。開環重合は、従来公知の製造装置、例えばヘリカルリボン翼等、高粘度用撹拌翼を備えた縦型反応容器を用いて行うことができる。
【0014】
ポリ乳酸は、ラクチドの含有量が少ない方が好ましい。ポリ乳酸のラクチド含有量は、1〜5,000ppm、好ましくは1〜4,500ppmである。
ポリ乳酸は、ラクチドを開環重合した後、余剰のラクチドを除去したものであることが好ましい。ポリ乳酸から未反応のラクチドを除去することによって、ステレオコンプレックスポリ乳酸がランダムコポリマー化することを回避することができ、得られるステレオコンプレックスポリ乳酸の融点が190℃以上となる。余剰ラクチドの除去は、反応系内の減圧、有機溶剤による洗浄等の操作により行うことができる。余剰ラクチドの除去は、操作の簡易性から反応系内を減圧することにより行うことが好ましい。
【0015】
(ラクチド)
本発明では、ポリ乳酸の存在下で、ポリ乳酸中の乳酸単位とはキラリティを異にする乳酸単位を有するラクチドを開環重合させる。即ち、ポリ乳酸がポリL−乳酸のとき、Dラクチドを開環重合させる。またポリ乳酸がポリD−乳酸のとき、Lラクチドを開環重合させる。
ラクチドの純度は、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは98モル%以上である。他の成分は、キラリティを異にするラクチドまたは乳酸以外の成分である。他の成分は、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下、さらに好ましくは2モル%以下である。他の成分として、2個以上のエステル結合形成可能な官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等が挙げられる。これらの具体例は前述の通りである。
Dラクチドの開環重合またはLラクチドの開環重合は、ポリ乳酸の項で説明した方法と同じ方法で行うことができる。即ち、金属触媒、反応条件、反応装置等は前述のポリ乳酸の項で説明した通りである。
ラクチドの量は、ポリ乳酸100重量部に対して、好ましくは30〜200重量部、より好ましくは50〜150重量部である。ラクチドの量が少なすぎたり、多すぎる場合は、ステレオコンプレックスポリ乳酸が生成せず、ポリL−乳酸やポリD−乳酸のみが生成する。反応雰囲気は、窒素、アルゴン等の不活性気体雰囲気下であることが好ましい。このような方法を採ることによって、本発明の目的とする、Mwが15万を超える高い分子量を有し、且つ、溶融と結晶化を繰り返してもステレオコンプレックス結晶のみが成長するステレオコンプレックスポリ乳酸を得ることができる。
【0016】
本発明は、(i)Lラクチドの開環重合を行い、次いでDラクチドを添加し、続けて開環重合を行うことにより実施できる。また(ii)Dラクチドの開環重合を行い、次いでLラクチドを添加し、続けて開環重合を行うことにより実施できる。更に好ましくは(iii)Lラクチドの開環重合後に余剰Lラクチドを除去し、次いでDラクチドを添加し、続けて開環重合を行うことにより実施できる。また(iv)Dラクチド開環重合後に余剰Dラクチドを除去、次いでLラクチドを添加し、続けて開環重合を行うことにより実施できる。
【0017】
<ステレオコンプレックスポリ乳酸>
得られるステレオコンプレックスポリ乳酸の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは15万〜30万、より好ましくは18万〜25万である。ステレオコンプレックスポリ乳酸のMwが上記範囲外であると、機械強度が乏しい、あるいは成形加工性に難が生じる。重量平均分子量(Mw)は溶離液にクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量値である。
得られるステレオコンプレックスポリ乳酸の結晶融点(Tm)は、好ましくは200〜250℃、より好ましくは200〜220℃である。
ステレオコンプレックス結晶含有率(S)は、好ましくは80〜100%、より好ましくは90〜100%、さらに好ましくは95〜100%、特に好ましくは99〜100%である。ステレオコンプレックス結晶含有率(S)は、下記式(3)で表される。
S={△Hb/(△Ha+△Hb)}×100(%) (3)
式中△Haと△Hbは、それぞれ示差走査熱量計(DSC)の昇温過程において150℃以上190℃未満に現れる結晶融点の融解エンタルピー(△Ha)と190℃以上250℃未満に現れる結晶融点の融解エンタルピー(△Hb)を示す。
ステレオコンプレックスポリ乳酸が優れた耐熱性を示す為には、ステレオコンプレックス結晶含有率(S)、結晶融点が上記数値範囲にあることが好ましい。
【0018】
得られるステレオコンプレックスポリ乳酸のラクチド含有量は、好ましくは1〜5,000ppm、より好ましくは1〜1,000ppmである。ラクチド含有量を上記範囲未満にする為には長時間を要し、生産性とポリ乳酸の色相の面から好ましくない。また上記範囲を超えると、キラリティを異にするラクチド同士がランダム共重合を起こし、(イ)〜(オ)を満足するステレオコンプレックスポリ乳酸を得ることができない。
【0019】
ステレオコンプレックスポリ乳酸のランダム化率(R)は前述したランダム共重合の程度を定量評価する指標であり、下記式(4)で表される数値である。
R=(P1/P2)×100 (%) (4)
式中P1、P2はそれぞれポリ乳酸の10重量%重クロロホルム/1,1,1,2,2,2−ヘキサフルオロ−2−プロパノール=9/1混合溶液中で測定した同核デカップリングH−NMRにおいて、ケミカルシフト5.250〜5.150ppmに現れるメチンプロトンピークの4連子(SIS、SII、IIS、III、ISI)合計積分強度と、ケミカルシフト5.175ppmのIII四連子ピークの積分強度である。なお四連子のSはシンジオタクティック二連子を、Iはアイソタクティック二連子を指す。
ステレオコンプレックスポリ乳酸のランダム化率(R)は0.001〜2.5%である。Rを0.001%未満とすることは、ポリ乳酸の重合中に生じるキラル反転(エピ化という)のため実質不可能である。またRが2.5%を超えると(イ)〜(エ)が満足されない。逆に、Rが上記範囲内であれば、ステレオコンプレックスポリ乳酸がランダム共重合成分、或いはD−乳酸とL−乳酸の存在比に傾斜が見られる所謂テーパーランダム共重合体を包含していても構わない。
【0020】
ステレオコンプレックスポリ乳酸中のL乳酸単位とD乳酸単位の比(L/D)は特に限定しないが、好ましくは30/70〜70/30、より好ましくは40/60〜60/40である。L/Dが上記範囲を外れると結晶化度が低下する。
得られるステレオコンプレックスポリ乳酸の最大の特徴は、DSCにおいて、20〜250℃の昇温過程と250〜20℃の急冷過程からなるプログラムを3回繰り返しても、昇温過程で観測される結晶融点(Tm)が200〜250℃の範囲にあり、ステレオコンプレックス結晶含有率(S)が80〜100%に維持されることである。即ち、溶融と結晶化を繰り返してもステレオコンプレックス結晶が優先的に成長することを意味する。
【0021】
以上のようにステレオコンプレックスポリ乳酸は、
(ア)重量平均分子量(Mw)が15万〜30万、
(イ)結晶融点(Tm)が200〜250℃、
(ウ)ステレオコンプレックス結晶含有率(S)が80〜100%、
(エ)示差走査熱量計(DSC)測定において、20〜250℃の昇温過程と250〜20℃の急冷過程とから成るプログラムを三回繰り返しても、要件(イ)および(ウ)を満たす、
(オ)ランダム化率(R)が0.001〜2.5%であることが好ましい。
【0022】
本発明により得られるステレオコンプレックスポリ乳酸には、本発明の目的を損なわない範囲内で、通常の添加剤、例えば、可塑剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、滑剤、離形剤、各種フィラー、帯電防止剤、難燃剤、発泡剤、充填剤、抗菌・抗カビ剤、核形成剤、染料、顔料を含む着色剤等を所望に応じて含有することができる。
本発明により得られるステレオコンプレックスポリ乳酸を用いて、射出成形品、押出成形品、真空圧空成形品、ブロー成形品、フィルム、シート不織布、繊維、布、他の材料との複合体、農業用資材、漁業用資材、土木・建築用資材、文具、医療用品またはその他の成形品を得ることができ、成形は常法により行うことができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。実施例において組成物の物性は以下の方法で測定した。
(1)重量平均分子量(Mw):
重量平均分子量(Mw)はショーデックス製GPC−11を使用し、試料50mgを5mlのクロロホルムに溶解させ、40℃のクロロホルムにて展開した。重量平均分子量(Mw)、はポリスチレン換算値として算出した
(2)DSCの三回繰り返し測定:
試料片5mgを専用アルミニウムパンに入れ、TAインスツルメンツ社製の示差走査熱量計(DSC2920)を用いて測定を行った。測定条件は下記(a)〜(c)の順序で実施し、結晶融解エンタルピーは、DSCチャートに現れる結晶融解ピークとベースラインで囲まれる領域の面積によって算出した。
(a)20〜250℃を20℃/分で昇温。
(b)250℃到達後ドライアイスで20℃まで急冷。
(c)上記(a)および(b)の繰り返しを計3回実施。
【0024】
(3)ステレオコンプレックス結晶含有率(S):
ステレオコンプレックス結晶含有率(S)は、上記DSCにおいて150℃以上190℃未満に現れる結晶融解エンタルピーΔHaと、190℃以上250℃未満に現れる結晶融解エンタルピーΔHbから下記式(5)にて算出した。
S={ΔHb/(ΔHa+ΔHa)}×100(%) (5)
【0025】
(4)ランダム化率(R)
ランダム化率(R)はポリ乳酸の10重量%重クロロホルム/1,1,1,2,2,2−ヘキサフルオロ−2−プロパノール=9/1混合溶液中で測定した同核デカップリングH−NMRにおいて、ケミカルシフト5.250〜5.150ppmに現れるメチンプロトンピークの4連子(SIS、SII、IIS、III、ISI)合計積分強度と、ケミカルシフト5.175ppmのIII四連子ピークの積分強度を用い、下記式5から算出した。なお四連子のSはシンジオタクティック二連子を、Iはアイソタクティック二連子を指す。
【0026】
(5)ラクチド含有量
ラクチド含有量はポリ乳酸の10重量%重クロロホルム溶液中で測定したH−NMRにおいて、ケミカルシフト5.25〜5.10ppmに現れるポリ乳酸のメチンプロトンピーク面積Pと、4.98ppm〜5.05ppmに現れるラクチドのメチンプロトンの面積Lを用い、式(6)から計算した。
ラクチド含有量=L/(P+L)×10 (ppm)
【0027】
<合成例1>(PLLAの合成)
冷却留出管を備えた重合反応容器の原料仕込み口から、窒素気流下でLラクチド(株式会社武蔵野化学研究所製)100重量部およびステアリルアルコール0.15重量部を仕込んだ。続いて反応容器内を5回窒素置換し、Lラクチドを190℃にて融解させた。Lラクチドが完全に融解した時点で、原料仕込み口から2−エチルヘキサン酸スズ0.05重量部をトルエン500μLと共に添加し、190℃で1時間重合した。次に、反応容器内を133kPaに減圧し、30分間保持して余剰のLラクチドを除去した。得られたPLLAのMwとラクチド含有量を表1に示す。
【0028】
<合成例2>(PLLAの合成)
ステアリルアルコール0.15重量部を0.25重量部に変更したこと以外は合成例1と同じ操作を行い、PLLAを得た。得られたPLLAのMwとラクチド含有量を表1に示す。
【0029】
<合成例3>(PDLAの合成)
Lラクチドの代わりにDラクチド(株式会社武蔵野化学研究所製)を用いた以外は、合成例1と同じ操作を行い、PDLAを得た。得られたPDLAのMwとラクチド含有量を表1に示す。
【0030】
<合成例4>(PLLAの合成)
余剰のLラクチドの除去を行わない以外は合成例1と同じ操作を行い、PLLAを得た。得られたPLLAのMwとラクチド含有量を表1に示す。
【0031】
<実施例1>
合成例1で得られた溶融状態のPLLA100重量部に、原料仕込み口から窒素気流下でDラクチド(株式会社武蔵野化学研究所製)100重量部を仕込んだ。反応容器を190℃に維持し、開環重合を2時間続けた。重合終了後、反応容器を230℃に昇温し、133kPaに減圧しつつ余剰のDラクチドを除去した。最後に反応容器の吐出口からポリマーを非晶ストランドとして吐出し、水冷しながらペレット状に裁断した。得られたステレオコンプレックスポリ乳酸のMw、ランダム化率(R)を表2に示す。またペレットのDSC測定結果とステレオコンプレックス結晶含有率(S)を表3に示す。
【0032】
<実施例2>
合成例2で得られたPLLAを用いる以外は、実施例1と同様の方法でペレットを製造した。得られたステレオコンプレックスポリ乳酸のMw、ランダム化率(R)を表2に示す。またペレットのDSC測定結果とステレオコンプレックス結晶含有率(S)を表3に示す。
【0033】
<比較例1>
合成例1で得られたPLLAと、合成例3で得られたPDLAとを東洋製機製ラボプラストミル50C150を使用し、240℃で10分間混練しペレットを得た。得られたステレオコンプレックスポリ乳酸のMw、ランダム化率(R)を表2に示す。またペレットのDSC測定結果とステレオコンプレックス結晶含有率(S)を表3に示す。
【0034】
<比較例2>
合成例4で得られたPLLAを使用した以外は実施例1と同様の方法でステレオコンプレックスポリ乳酸の製造を行った。得られたステレオコンプレックスポリ乳酸のMw、ランダム化率(R)を表2に示す。またペレットのDSC測定結果とステレオコンプレックス結晶含有率(S)を表3に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のステレオコンプレックスポリ乳酸は、耐熱性に優れるので、溶融成形して、糸、フィルム、各種成形体にすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸の存在下で、ラクチドを開環重合させステレオコンプレックスポリ乳酸を製造する方法であって、
(i) ポリ乳酸は、L−乳酸単位またはD−乳酸単位を主として含有し、重量平均分子量(Mw)が10万〜30万で、ラクチド含有量が1〜5,000ppmであり、
(ii) ラクチドは、ポリ乳酸中の乳酸単位とはキラリティを異にする乳酸単位を有するラクチドであり、ラクチドの量は、ポリ乳酸100重量部に対して30〜200重量部であることを特徴とするステレオコンプレックスポリ乳酸の製造方法。
【請求項2】
ポリ乳酸は、ラクチドを開環重合した後、余剰のラクチドを除去したものである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ポリ乳酸のラクチド含有量が1〜4,500ppmである請求項1または2に記戴の製造方法。
【請求項4】
得られるステレオコンプレックスポリ乳酸が以下の要件(ア)〜(オ)を満たす請求項1に記載の製造方法。
(ア)重量平均分子量(Mw)が15万〜30万、
(イ)結晶融点(Tm)が200〜250℃、
(ウ)ステレオコンプレックス結晶含有率(S)が80〜100%、
(エ)示差走査熱量計(DSC)測定において、20〜250℃の昇温過程と250〜20℃の急冷過程とから成るプログラムを三回繰り返しても、要件(イ)および(ウ)を満たす、
(オ)ランダム化率(R)が0.001〜2.5%である。
但し、ステレオコンプレックス結晶含有率(S)は下記式(1)から算出される値である。
S={△Hb/(△Ha+△Hb)}×100(%) (1)
[式中△Haと△Hbは、それぞれ示差走査熱量計(DSC)の昇温過程において150℃以上〜190℃未満に現れる結晶融点の融解エンタルピー(△Ha)と190℃以上250℃未満に現れる結晶融点の融解エンタルピー(△Hb)を示す。]
また、ランダム化率(R)は下記式(2)で表される値である。
R=(P1/P2)×100 (%)
[式中P1、P2はそれぞれポリ乳酸の10重量%重クロロホルム/1,1,1,2,2,2−ヘキサフルオロ−2−プロパノール=9/1混合溶液中で測定した同核デカップリングH−NMRにおいて、ケミカルシフト5.250〜5.150ppmに現れるメチンプロトンピークの4連子(SIS、SII、IIS、III、ISI)合計積分強度と、ケミカルシフト5.175ppmのIII四連子ピークの積分強度である。なお四連子のSはシンジオタクティック二連子を、Iはアイソタクティック二連子を指す。]
【請求項5】
請求項1〜4に記載の方法により得られたステレオコンプレックスポリ乳酸からなる成形品。

【公開番号】特開2008−248176(P2008−248176A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93632(P2007−93632)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【出願人】(390022301)株式会社武蔵野化学研究所 (63)
【Fターム(参考)】