説明

ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物及びその製造方法

【課題】
本発明は、従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果、達成されたものであり、その目的とするところは、溶融後も高分子量を有しながら、ステレオコンプレックスを安定して形成することのできるステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物、およびその効率的で簡便な製造方法を提供することにある。
【解決手段】
ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを、分子量200〜1000のエステル化合物、結晶核剤の存在下でカオス混合により溶融混練することで、溶融後も高分子量を有しながら、ステレオコンプレックスを安定して形成することのできるステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物を製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステレオコンプレックスポリ乳酸及びその製造方法に関する。特に、本発明は、溶融後も高分子量を有しながら、ステレオコンプレックスを安定して形成することのできるステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物、およびその効率的で簡便な製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護の見地から、自然界に存在する微生物の作用により自然環境下で分解される生分解性ポリマーが注目され、様々な生分解性ポリマーが開発されている。
【0003】
これらのうち溶融成形が可能な生分解性ポリマーとして、例えばポリヒドロキシブチレートやポリカプロラクトン、コハク酸やアジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸成分とエチレングリコールやブタンジオールなどのグリコール成分とからなる脂肪族ポリエステル、およびポリ乳酸などが知られている。
【0004】
中でもポリ乳酸は比較的コストが安く、融点もおよそ170℃とすぐれた耐熱性を有していることから、溶融成形可能な生分解性ポリマーとして期待されている。また、最近ではモノマーである乳酸が微生物を利用した発酵法により安価に製造されるようになり、より一層低コストでポリ乳酸を生産できるようになってきたため、生分解性ポリマーとしてだけでなく、汎用ポリマーとしての利用も検討されるようになってきた。
【0005】
しかし、ポリエチレンテレフタレート樹脂やポリブチレンテレフタレート樹脂に代表される石油化学系ポリエステルと比較を行うと、耐熱性が低く、容器として用いた場合電子レンジにかけられないといった課題がある。
【0006】
一方、乳酸には光学異性体が存在し、それぞれL−乳酸とD−乳酸の重合体であるポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合物からなるステレオコンプレックス結晶を形成させると、ポリ−L−乳酸あるいはポリ−D−乳酸単独結晶よりも融点が上昇することが知られている。しかしながら、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を単に溶融混練して得た組成物では、ステレオコンプレックス結晶と共に、一部、ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸単独結晶が残存し、完全な高融点を有するステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物を得るには至っておらず、耐熱性に課題があった。
【0007】
そこで、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とのジブロックコポリマーを用いる方法(特許文献1)が開示されている。また、特許文献2にはエステル交換剤の存在下、せん断をかけながら混練することでステレオコンプレックスを製造する方法が開示されている。
【0008】
しかし、これらの手法では、ステレオコンプレックス結晶の含有率は向上するが、ステレオコンプレックス結晶に由来する融解ピークの半値幅が広く、完全なステレオコンプレックスを得ることが困難であった。また、溶融と結晶化を繰り返すとステレオコンプレックス結晶のみが復元する様になるが、これは重合触媒、エステル交換剤の影響で分子量が低下したことによるものと考えられ、これらの手法では、機械特性が低下してしまう課題があった。また、特許文献1の手法ではブロック共重合後に再度溶融混練をしなければならず、特許文献2の手法では2度溶融混練を必要とするなど、プロセスが煩雑であった。
【0009】
また、特許文献3にはポリL乳酸とポリD乳酸とのクロロホルム/ヘキサフルオロ−2−プロパノール溶液を、オキサミド誘導体存在下で混合して得られた混合物は、示差走査熱量計測定の結果、降温時にステレオコンプレックス結晶のみが形成されるということが示されている。しかし、示差走査熱量計測定前には分子量が高いため、完全なステレオコンプレックスとはならず、また、示差走査熱量計測定での滞留条件が255℃、5分と厳しい条件であり、そのため分子量が大幅に低下するため、機械特性を十分に向上させることはできなかった。
【0010】
このように、上述した従来技術では、高分子量を有しながら、溶融後もステレオコンプレックスを形成する、安定な高純度のステレオコンプレックスポリ乳酸を製造することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−248022号公報
【特許文献2】国際公開2008/096895号
【特許文献3】特開2005−255806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、溶融後も高分子量を有しながら、ステレオコンプレックスを安定して形成することのできるステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物、およびその効率的で簡便な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討した結果、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを、分子量200〜1000のエステル化合物、結晶核剤の存在下でカオス混合により溶融混練することで、溶融後も高分子量を有しながら、ステレオコンプレックスを安定して形成することのできるステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(i)示差走査熱量計測定において、結晶融解ピーク温度が215℃以上であり、結晶融解エンタルピーが60J/g以上の単一ピークであって、且つピーク半値幅が12℃以下であり、さらには240℃3分滞留後の重量平均分子量を5万以上有しながら、降温結晶化時のステレオコンプレックス形成率を50%以上保持することを特徴とするステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物。
(ii)(A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸を主成分とするポリ乳酸100重量部に対し、(C)分子量200〜1000のエステル化合物を0.01〜10重量部配合してなる(i)に記載のステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物。
(iii)(A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸を主成分とするポリ乳酸100重量部に対し、(D)結晶核剤を0.01〜10重量部配合してなる請求項(i)または(ii)に記載のステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物。
(iv)(A)ポリ−L−乳酸および、(B)ポリ−D−乳酸を(C)分子量200〜1000のエステル化合物の存在下でカオス混合により溶融混練することを特徴とするステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物の製造方法。
(v)(A)ポリ−L−乳酸および、(B)ポリ−D−乳酸を(D)結晶核剤の存在下でカオス混合により溶融混練することを特徴とする(iv)に記載のステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物の製造方法。
である。
【発明の効果】
【0014】
示差走査熱量計測定において、結晶融解ピーク温度が215℃以上であり、結晶融解エンタルピーが60J/g以上の単一ピークであって、且つピーク半値幅が12℃以下であり、さらには240℃3分滞留後の分子量を5万以上有しながら、降温結晶化時のステレオコンプレックス形成率を50%以上保持することを特徴とするステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物は、高融点であり、優れた耐熱性を有しており、溶融後も高分子量を維持し、高いステレオコンプレックス形成率を維持することができる。そして、このようなステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物は、カオス混合により、効率的かつ簡便に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0016】
本発明は、示差走査熱量計測定において、結晶融解ピーク温度が215℃以上であり、結晶融解エンタルピーが60J/g以上の単一ピークであって、且つピーク半値幅が12℃以下であり、さらには240℃3分滞留後の分子量を5万以上有しながら、降温結晶化時のステレオコンプレックス形成率を50%以上保持するステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物である。
【0017】
本発明のポリ乳酸ステレオコンプレックス樹脂組成物は、好ましくは、結晶融解ピーク温度が217℃以上235℃以下の単一ピークを持ち、より好ましくは、結晶融解ピーク温度が220℃以上233℃以下の単一ピークを持つ。
【0018】
本発明のポリ乳酸ステレオコンプレックス樹脂組成物は、好ましくは、ピーク半値幅が6℃以上11℃以下であり、より好ましくは、ピーク半値幅が6.5℃以上10.5℃以下である。
【0019】
本発明のポリ乳酸ステレオコンプレックス樹脂組成物は、好ましくは、結晶融解エンタルピーが65J/g以上95J/g以下であり、より好ましくは、70J/g以上90J/g以下である。
【0020】
本発明における結晶融解ピーク温度が215℃以上であり、結晶融解ピークが単一ピークであるとは、示差走査熱量測定において得られたDSCカーブにおいて、215℃以上に結晶融解ピーク温度が存在し、結晶融解ピークが単一であることを意味する。本発明において、ピークが単一であるとは、示差走査熱量測定において得られたDSCカーブにおいて、結晶融解ピークの最大値のみが存在し、最大値に付属した極大値が存在しないことを意味する。結晶融解ピークが変曲点を有する場合も、最大値に付属した極大値が存在しない場合は、単一ピークと見なす。また、結晶融解エンタルピーが2J/g以下の結晶融解ピークが存在する場合は、結晶融解ピークは、存在しないものと見なす。160℃〜170℃間での結晶融解ピークは、(A)ポリ−L−乳酸、あるいは(B)ポリ−D−乳酸が各々単独で結晶化する際に生じるものである。
【0021】
本発明におけるピーク半値幅とは示差走査熱量測定において得られたDSCカーブの結晶融解ピークの頂点(点a)からグラフ縦軸に平行な直線を引き、該直線とDSCカーブのベースラインとの交点(点b)としたとき、(点a)と(点b)を結ぶ線分の中点(点c)におけるピークの幅である。なお、ここで言うピークの幅とは、ベースラインに平行で、かつ(点c)を通る直線上の幅のことである。
【0022】
結晶融解ピーク温度が215℃未満である場合、あるいは、結晶融解ピークが2つ以上のピークである場合は、ホモ結晶が残存するため耐熱性が不十分となり、織物にした場合、アイロンがかけられないといった問題がある。
【0023】
ピーク半値幅が12℃より大きい場合、あるいは、結晶融解エンタルピーが60J/g未満である場合は、完全なステレオコンプレックスが形成されておらず、結晶化度が低いため、耐薬品性や機械特性が不十分となる。
【0024】
本発明のステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物は、示差走査熱量計測定において、降温結晶化ピーク温度が165℃以上であり、降温結晶化ピークが単一ピークであることが好ましく、降温結晶化ピーク温度が167℃以上であり、降温結晶化ピークが単一ピークであることが、より好ましい。
【0025】
本発明のステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物は、240℃3分滞留後の重量平均分子量が5万以上を有しながら、降温結晶化時のステレオコンプレックス形成率を50%以上保持していることが特徴である。本発明のステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物は、240℃3分滞留後も重量平均分子量が大きく、ステレオコンプレックス形成率も高いことから、優れた耐熱性、機械的特定を維持しており、溶融成形後もこれらの優れた特性を有した樹脂組成物であり、実用上有用である。
【0026】
本発明における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した標準ポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量の値である。
【0027】
また、ステレオコンプレックス形成率は、DSC測定(示差走査熱量測定)により求めた降温結晶化ピークが2つのピークとなる場合に、低温側をホモポリ乳酸結晶、高温側をステレオコンプレックスポリ乳酸結晶とし、降温時のホモ結晶化ピークから求めた(ΔHmc , homo)と降温時のステレオコンプレックス結晶化ピークから求めた(ΔHmc , stereo)から下記式:
ステレオコンプレックス形成率(%) ={(ΔHmc , stereo)/((ΔHmc , homo) + (ΔHmc , stereo))} × 100
によって求めた値である。
【0028】
本発明のポリ乳酸ステレオコンプレックスは、好ましくは、(A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸との合計を100重量部として、(A)ポリ−L−乳酸30〜70重量部、(B)ポリ−D−乳酸30〜70重量部を配合した組成物100重量部に対し、(C)分子量200〜1000のエステル化合物を配合してカオス混合することで得られる。(A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸の重量比(A)/(B)は、35/65〜65/35であることがより好ましく、40/60〜60/40であることが特に好ましい。(A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸との重量比(A)/(B)が、30/70〜70/30であると、得られるポリ乳酸ステレオコンプレックスの融点の上昇が大きく、ステレオコンプレックスを形成しやすい。
【0029】
本発明において、(A)ポリ−L−乳酸とは、L−乳酸を主たる構成成分とするポリマーであり、(B)ポリ−D−乳酸とは、D−乳酸を主たる構成成分とするポリマーである。高融点を有するポリ乳酸樹脂組成物を得るためには、(A)ポリ−L−乳酸に、L−乳酸が80モル%以上含まれることが好ましく、90モル%以上含まれることがより好ましく、95モル%以上含まれることが特に好ましい。高融点を有するポリ乳酸樹脂組成物を得るためには、(B)ポリ−D−乳酸に、D−乳酸が80モル%以上含まれることが好ましく、90モル%以上含まれることがより好ましく、95モル%以上含まれることが特に好ましい。
【0030】
本発明において、本発明の目的を損なわない範囲で、それぞれの主たる構成成分以外の共重合成分を含んでいてもよい。
【0031】
他の共重合成分単位としては、例えば、多価カルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸およびラクトンなどが挙げられ、具体的には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、フマル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸などの多価カルボン酸類、イソソルビド、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ−ル、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ビスフェノ−ルA、ビスフェノールにエチレンオキシドを付加反応させた芳香族多価アルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの多価アルコール類、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸類、およびグリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトンなどのラクトン類などが挙げられ、それ以外にも、(A)ポリ−L−乳酸には、D−乳酸を含んでいてもよく、(B)ポリ−D−乳酸には、L−乳酸を含んでいてもよい。
【0032】
本発明において、使用する(A)ポリ−L−乳酸または(B)ポリ−D−乳酸の重量平均分子量は、5万以上であることが好ましく、10万以上であることがカオス混合後良好な機械特性を有するポリ乳酸ステレオコンプレックスが得られるという点でより好ましく、特に、15万以上120万以下であることが成形性および機械特性の点でさらに好ましい。
【0033】
(A)ポリ−L−乳酸または(B)ポリ−D−乳酸を製造する方法としては、特に限定されず、一般のポリ乳酸の製造方法を利用することができる。具体的には、L−乳酸またはD−乳酸を原料として、一旦、環状2量体であるL−ラクチドまたはD−ラクチドを生成せしめ、その後、開環重合を行う2段階のラクチド法と、当該原料を溶媒中で直接脱水縮合を行う一段階の直接重合法などが知られており、いずれの製法を利用してもよい。
【0034】
また、重合反応に触媒を用いることにより、重合時間を短縮することができる。 触媒としては、例えば、錫、亜鉛、鉛、チタン、ビスマス、ジルコニウム、ゲルマニウム、アンチモン、アルミニウムなどの金属およびその誘導体が挙げられる。
【0035】
誘導体としては、金属アルコキシド、カルボン酸塩、炭酸塩、酸化物、ハロゲン化物が好ましい。具体的には、塩化錫、オクチル酸錫、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、酸化鉛、炭酸鉛、塩化チタン、アルコキシチタン、酸化ゲルマニウムおよび酸化ジルコニウムなどが挙げられる。これらの中でも、錫化合物が好ましく、特にオクチル酸錫がより好ましい。
【0036】
触媒の添加量は、使用する原料(L−乳酸、D−乳酸、L−ラクチドまたはD−ラクチド等)100重量部に対して0.001〜2重量部が好ましく、とくに0.001〜1重量部がより好ましい。触媒量が0.001重量部未満では重合時間の短縮効果が低下し、2重量部を越えると良好な機械物性を有するポリ乳酸ステレオコンプレックスを形成するのに十分な重量平均分子量を有するポリマーが得られにくい傾向となる。
【0037】
また、重合後、上記触媒は取り除かれているか、失活されていることが好ましい。触媒が活性であると、ポリ乳酸樹脂組成物の分解を促進させ、良好な機械物性を有するポリマーが得られにくくなる。
【0038】
本発明のポリ乳酸ステレオコンプレックスの製造方法では、(A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸との合計を100重量部として、(A)ポリ−L−乳酸30〜70重量部および(B)ポリ−D−乳酸30〜70重量部に(C)分子量200〜1000のエステル化合物を配合してカオス混合(chaotic mixing)する。
【0039】
示差走査熱量計測定において、結晶融解ピーク温度が215℃以上であり、結晶融解ピークが単一ピークであって、且つピーク半値幅が12℃以下であり、該結晶融解エンタルピーが60J/g以上であるポリ乳酸ステレオコンプレックスを形成させるためには、溶融混練を行う際に、(A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸の引き伸ばし及び折り畳みを繰り返すカオス混合(chaotic mixing)を行うことが重要である。
【0040】
カオス混合は、(A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸の引き伸ばし及び折り畳みを繰り返すことにより(A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸間の界面の面積を指数関数的に増大させることが可能となる。
【0041】
カオス混合について説明する。2つの流体の混合を考えた場合、初期の2流体の境界面上のすべての点に対して、その位置を初期値として流体粒子の運動を支配する方程式を解くと、境界面の時間発展を求めることができる。2流体がすみやかに混合するためには,この境界面は小さい間隔で折りたたまれていく必要があることから、境界面の面積は急激に増加しなければならず、最初に、ごく近くにいた境界面上の2点間の距離は、急激に増大する必要がある。この様に、流体の運動を支配する方程式の解で、2点間の距離が、時間と共に指数関数的に増大するカオス解をもつ混合のことをカオス混合と呼ぶ。カオス混合は、例えば、Chaos, Solitons & Fractals Vol.6 p425-438に記載されている。
【0042】
本発明では、カオス混合は、粒子追跡法(particle tracking method)において、線長さ(L)、初期線長さ(L)とするとき、仮想的な線の伸びの対数(lnL/L)が、2以上となるカオス混合であることが好ましい。仮想的な線の伸びの対数(lnL/L)が大きい場合、流体の運動を支配する方程式の解で、2点間の距離が、時間と共に指数関数的に増大しやすいことを意味している。かかる粒子追跡法は、時間t=0で評価するスクリューの上流面の断面内に1000個の粒子の初期位置をランダムに決め、解析によって求めた評価するスクリューの速度場に伴う移動をシミュレーションにより追跡する方法であり、各粒子の座標の履歴の記録から、線長さ(L)、初期線長さ(L)とするときの仮想的な線の伸びの対数(lnL/L)を求めることができる。粒子追跡法は、例えば、Journal of Non-Newtonian Fluid Mechanics Vol.91, Issues 2-3, 1 July 2000, p273-295に記載されている。
【0043】
カオス混合しつつ溶融混練させる方法としては、押出機としてはニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー、単軸または2軸押出機等の通常使用されている公知の混合機を用いることができるが、溶融混練時に、ポリマー溶融後に混練温度を下げ、溶融粘度を上げることや、後述のカオス混合状態に有効なスクリューを用いることにより、始めて、(A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸、必要に応じて後述する(C)分子量200〜1000のエステル化合物、(D)結晶核剤、(E)末端封鎖剤の存在下で引き伸ばし及び折り畳みを繰り返すカオス混合を生じさせることができる。かかるポリマー溶融後の混練温度とは、バレル設定温度のことを言い、60℃〜195℃に設定することが好ましく、60℃〜190℃に設定することがより好ましく、60℃〜185℃に設定することが最も好ましい。さらに2軸押出機を用いる際には、ポリマー溶融後の混練温度は、60℃〜150℃に設定することが好ましく、60℃〜140℃に設定することがより好ましく、60℃〜130℃に設定することが最も好ましい。(C)分子量200〜1000のエステル化合物、(D)結晶核剤、(E)末端封鎖剤を加える場合、(C)分子量200〜1000のエステル化合物、(D)結晶核剤は溶融混練前に配合するのが好ましく、(E)末端封鎖剤は溶融混練時に添加するのが好ましい。
【0044】
混練温度を、60℃未満に設定した場合、溶融粘度が高くなることで溶融混練することが難しくなり、また195℃を超して高く設定した場合、(A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸の引き伸ばしが十分にできずカオス混合状態とならないため好ましくない。
【0045】
本発明では、カオス混合状態に有効なスクリューとは、粒子追跡法において、線長さ(L)、初期線長さ(L)とするとき、仮想的な線の伸びの対数(lnL/L)が、2以上となるスクリューであることが好ましく、さらには3以上となるスクリューであることが好ましく、最も好ましくは4以上となるスクリューであることが好ましい。
【0046】
本発明のポリ乳酸ステレオコンプレックスの製造方法では、(A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸との合計100重量部に対し、(C)分子量200〜1000のエステル化合物を0.01〜10重量部を配合してカオス混合することが重要である。(C)分子量200〜1000のエステル化合物を配合してカオス混合をすることで、さらに完全なポリ乳酸ステレオコンプレックスを得ることができ、240℃3分滞留後の重量平均分子量が5万以上であり、降温結晶化時のステレオコンプレックス形成率を50%以上に保持することができるステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物を得ることができる。
【0047】
(C)分子量200〜1000のエステル化合物の配合量は、A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸との合計100重量部に対し、より好ましくは0.01〜7重量部、さらに好ましくは0.05〜5重量部である。(C)分子量200〜1000のエステル化合物の配合量を0.01〜10重量部とすることは、降温結晶化ピーク温度が高く、且つ降温結晶化エンタピーが大きく、さらに結晶融解ピーク温度が高くなり、耐薬品性、機械特性、耐熱性に優れたポリ乳酸ステレオコンプレックス樹脂組成物を得られる点、240℃3分滞留後の重量平均分子量が5万以上であり、降温結晶化時のステレオコンプレックス形成率を50%以上に保持することができるステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物を得られる点で好ましい。
【0048】
本発明のポリ乳酸ステレオコンプレックスの製造方法では、(A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸との合計100重量部に対し、さらに(D)結晶核剤0.01〜10重量部を配合してカオス混合することによって、より完全なステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物を得ることができる。
【0049】
本発明のポリ乳酸ステレオコンプレックスの製造方法では、(A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸との合計100重量部に対し、さらに(E)末端封鎖剤0.01〜10重量部をカオス混合状態の組成物に添加し、溶融混練することで、より安定な高分子量のステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物を得ることができる。
【0050】
(C)分子量200〜1000のエステル化合物は、分子内にエステル結合を有するものであり、具体例としては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジベンジル、フタル酸ブチルベンジルなどのフタル酸エステル、トリメリット酸トリブチル、トリメリット酸トリオクチル、トリメリット酸トリヘキシルなどのトリメリット酸エステル、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジプロピル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ビス(2‐エチルブチル)、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ジペンチル、アジピン酸ジヘプチル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジウンデシル、アジピン酸ジドデシル、アジピン酸ジトリデシル、アジピン酸n−オクチル−n−デシル、アジピン酸ジ(2-メトキシエチル)、アジピン酸ビス(2‐ブトキシエチル)、アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ジシクロヘキシル、アジピン酸メチルジグリコールブチルジグリコール、アジピン酸ベンジルメチルジグリコール、アジピン酸ベンジルブチルジグリコール、大八化学工業(株)製の商品名DAIFATTY−101などの混基アジピン酸エステル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチルなどのクエン酸エステル、アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシルなどのアゼライン酸エステル、セバシン酸ジブチル、及びセバシン酸ジ−2−エチルヘキシルなどのセバシン酸エステルなどを挙げることができる。
【0051】
本発明で使用する(C)分子量200〜1000のエステル化合物としては、上記に例示したものの中でも、特に分子量が220〜800のものが好ましく、より好ましくは分子量250〜700であり、最も好ましくは300〜600である。本発明に使用する分子量200〜1000のエステル化合物は、1種のみでもよく、また2種以上の併用を行ってもよい。
【0052】
本発明のポリ乳酸ステレオコンプレックスの製造方法において、(A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸との合計100重量部に対し、さらに(D)結晶核剤0.01〜10重量部を配合する場合、(D)結晶核剤の配合量は、より好ましくは0.01〜5重量部、さらに好ましくは0.05〜3重量部である。(D)結晶核剤の配合量を0.01〜10重量部とすることは、降温結晶化ピーク温度が高く、且つ降温結晶化エンタピーが大きくなり、耐薬品性、機械特性に優れたステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物を得られる点で好ましい。
【0053】
(D)結晶核剤としては、一般にポリマーの結晶核剤として用いられるものを用いることができ、無機系結晶核剤及び有機系結晶核剤のいずれをも使用することができる。無機系結晶核剤の具体例としては、タルク、カオリナイト、モンモリロナイト、合成マイカ、クレー、ゼオライト、シリカ、グラファイト、カーボンブラック、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタン、硫化カルシウム、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化アルミニウム、酸化ネオジウム及びフェニルホスホネートの金属塩などを挙げることができる。この中でもタルク、マイカ、シリカが好ましく、タルクがより好ましい。これらの無機系結晶核剤は、組成物中での分散性を高めるために、有機物で修飾されていることが好ましい。
【0054】
有機系結晶核剤の具体例としては、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸カルシウム、安息香酸マグネシウム、安息香酸バリウム、テレフタル酸リチウム、テレフタル酸ナトリウム、テレフタル酸カリウム、シュウ酸カルシウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、ミリスチン酸カルシウム、オクタコサン酸ナトリウム、オクタコサン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カルシウム、トルイル酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸カリウム、サリチル酸亜鉛、アルミニウムジベンゾエート、カリウムジベンゾエート、リチウムジベンゾエート、ナトリウムβ−ナフタレート、ナトリウムシクロヘキサンカルボキシレートなどの有機カルボン酸金属塩、p−トルエンスルホン酸ナトリウム、スルホイソフタル酸ナトリウムなどの有機スルホン酸塩、ステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、パルチミン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、トリメシン酸トリス(t−ブチルアミド)などのカルボン酸アミド、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソプロピレン、ポリブテン、ポリ−4−メチルペンテン、ポリ−3−メチルブテン−1、ポリビニルシクロアルカン、ポリビニルトリアルキルシラン、エチレン−アクリル酸またはメタクリル酸コポリマーのナトリウム塩、スチレン−無水マレイン酸コポリマーのナトリウム塩などのカルボキシル基を有する重合体のナトリウム塩またはカリウム塩(いわゆるアイオノマー)、ベンジリデンソルビトール及びその誘導体、(株)ADEKA製の商品名NA−11およびNA−71などのリン酸エステル金属塩、及び2,2−メチルビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ナトリウムなどを挙げることができる。この中でも、エチレンビスラウリン酸アミド、ベンジリデンソルビトール及びその誘導体、有機カルボン酸金属塩、カルボン酸アミド、ADEKA社製のNA−11およびNA−71などのリン酸エステル金属塩が好ましく、特にADEKA社製のNA−11およびNA−71などのリン酸エステル金属塩がより好ましい。
【0055】
本発明で使用する結晶核剤は、1種のみでもよくまた2種以上の併用を行ってもよいが、無機系結晶核剤と有機系結晶核剤を併用することが好ましい。
【0056】
本発明のポリ乳酸ステレオコンプレックスの製造方法において、(A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸との合計100重量部に対し、さらに(E)末端封鎖剤0.01〜10重量部を配合する場合、(E)結晶核剤の配合量は、より好ましくは0.01〜5重量部、さらに好ましくは0.05〜3重量部である。(E)末端封鎖剤の配合量を0.01〜10重量部とすることは、ステレオコンプレックスを安定化させ、且つ高分子量体となり、耐薬品性、機械特性に優れたステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物を得られる点で好ましい。
【0057】
(E)末端封鎖剤としては、ポリマーのカルボキシル末端基または水酸基を封鎖することのできる化合物であれば特に制限はなく、ポリマーの末端封鎖剤として用いられているものを用いることができる。このような末端封鎖剤としては、カルボジイミド化合物などが挙げられ、具体的には、例えば、 カルボジイミド化合物の例としては、ジフェニルカルボジイミド、ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジオクチルデシルカルボジイミド、ジ−o−トルイルカルボジイミド、ジ−p−トルイルカルボジイミド、ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、ジ−p−クロルフェニルカルボジイミド、ジ−o−クロルフェニルカルボジイミド、ジ−3,4−ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ−2,5−ジクロルフェニルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−o−トルイルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−p−クロルフェニルカルボジイミド、2,6,2’,6’−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド、ヘキサメチレン−ビス−シクロヘキシルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジフェニルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N’−ジ−o−トリイルカルボジイミド、N,N’−ジフェニルカルボジイミド、N,N’−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N’−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,6−ジ−tert −ブチルフェニルカルボジイミド、N−トルイル−N’−フェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N’−ジ−p−トルイルカルボジイミド、N,N’−ベンジルカルボジイミド、N−オクタデシル−N’−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N’−フェニルカルボジイミド、N−オクタデシル−N’−トリルカルボジイミド、N−シクロヘキシル−N’−トリルカルボジイミド、N−フェニル−N’−トリルカルボジイミド、N−ベンジル−N’−トリルカルボジイミド、N,N’−ジ−o−エチルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−p−エチルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−o−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−p−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−o−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−p−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,6−ジエチルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2−エチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2−イソブチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,4,6−トリメチルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,4,6−トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,4,6−トリイソブチルフェニルカルボジイミドなどのモノ又はジカルボジイミド化合物、ポリ(1,6−ヘキサメチレンカルボジイミド)、ポリ(4,4’−メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(1,3−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(1,4−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)、ポリ(メチル−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)などのポリカルボジイミドなどが挙げられる。
【0058】
本発明によって得られるステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物は、粉末状で得ることができその平均粒子径は、500μm以下が好ましく、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは、10μm以下である。ポリ乳酸樹脂用結晶核剤の平均粒径は小さい方が、比表面積が大きくなるため、結晶核剤としての効果が大きくなるため好ましい。
【0059】
一方、平均粒子径が500μmより大きくなると、結晶核剤としての効果が低くなる可能性がある。
【0060】
ここで平均粒径は、流動法BET一点法比表面積測定装置により得られた比表面積(m/g)から、密度(g/cm)を用いて次式により
平均粒径=6/(密度×比表面積)
算出した値である。
【0061】
本発明のステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物は、そのまま耐熱性に優れたポリ乳酸樹脂として用いることができ、本発明の目的を損なわない範囲で、通常の添加剤、例えば可塑剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、滑剤、離形剤、染料および顔料を含む着色剤などの1種または2種以上を添加し、ポリ乳酸樹脂組成物として種々の用途に用いることができる。
【0062】
本発明によって得られるステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物の重量平均分子量は、5万以上であることが好ましく、10万以上であることが良好な機械特性を有するポリ乳酸ステレオコンプレックスが得られるという点でより好ましく、特に、12万以上120万以下であることが成形性および機械特性の点でさらに好ましい。
【0063】
また、本発明によって得られるステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物は、示差走査熱量計測定での240℃3分滞留後の分子量は、5万以上であり、8万以上であることがより好ましく、10万以上であることが良好な機械特性を有するステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物の成型品を得られるという点でさらに好ましい。
【0064】
本発明では、ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物を粉末状で得ることができ、ポリ乳酸樹脂などの核剤として用いることも有効である。
【0065】
本発明のステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物を含有するポリ乳酸樹脂用核剤は、完全なステレオコンプレックスを形成しているため、通常の方法でポリ乳酸樹脂に配合することで、ポリ乳酸樹脂の結晶化を促進する効果が大きい。特に、(A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸の混合物に本発明のポリ乳酸ステレオコンプレックスを含有する核剤を配合することにより、通常の溶融混練を行うだけでステレオコンプレックスを形成したポリ乳酸樹脂組成物を得ることができる。
【0066】
本発明のステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物を含有するポリ乳酸樹脂用結晶核剤の配合割合は、(A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸との合計重量100重量部に対し、0.01重量部〜30重量部の割合で配合することが好ましく、より好ましくは0.1重量部〜20重量部、さらに好ましくは0.5重量部〜15重量部である。配合割合が0.01重量部未満である場合、結晶核剤としての効果が低くなる可能性があり、一方、30重量部を越えるとポリ乳酸樹脂中の分散が悪くなる可能性がある。また、ステレオコンプレックスを形成した樹脂組成物を得るためには、(A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸との配合割合は、両者の合計を100重量部として、30〜70重量部/30〜70重量部が好ましく、40〜60重量部/40〜60重量部がより好ましく、45〜55重量部/45〜55重量部が特に好ましい。
【0067】
本発明のステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物を含有するポリ乳酸樹脂用結晶核剤の平均粒子径は、500μm以下が好ましく、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは、10μm以下である。ポリ乳酸樹脂用結晶核剤の平均粒径は小さい方が、比表面積が大きくなるため、結晶核剤としての効果が大きくなるため好ましい。一方、平均粒子径が500μmより大きくなると、結晶核剤としての効果が低くなる可能性がある。
【0068】
粒径500μm以下のポリ乳酸樹脂用結晶核剤を得るためには、(A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸の引き伸ばし及び折り畳みを繰り返すカオス混合を行うことが有効である。さらに、カオス混合しつつ溶融混練を行うことは、平均粒子径が500μm以下の粉末状のポリ乳酸樹脂用結晶核剤を効率的に得ることができるため好ましい。
【0069】
また、本発明のステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物を含有するポリ乳酸樹脂用核剤を配合してなるポリ乳酸樹脂組成物は、容易にステレオコンプレックスを形成することができ、優れた特性を発現することができる。
【0070】
本発明のポリ乳酸ステレオコンプレックスを含有するポリ乳酸樹脂用結晶核剤を配合したポリ乳酸樹脂組成物は、(A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸に、ポリ乳酸樹脂用結晶核剤を配合することで、ポリ乳酸ステレオコンプレックスの結晶化を促進し、耐薬品性、機械特性、耐熱性に優れ、さらには透明性に優れたポリ乳酸ステレオコンプレックスを得ることができ、これらの特性を活かした種々の用途に有用である。
【0071】
本発明のステレオコンプレックス樹脂組成物は、成形品として広く用いることができる。成形品とは、フィルム、シート、繊維・布、不織布、射出成形品、押出し成形品、真空圧空成形品、ブロー成形品、および他の材料との複合体などであり、農業用資材、園芸用資材、漁業用資材、土木・建築用資材、文具、医療用品またはその他の用途として有用である。
【実施例】
【0072】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ここで、実施例中の部数は、重量部を示す。
【0073】
(ポリ乳酸の重量平均分子量の測定法)
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した標準ポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量の値である。GPCの測定は、検出器にWATERS社示差屈折計WATERS410を用い、ポンプにWATERS社MODEL510を用い、カラムにShodex GPC HFIP−806MとShodex GPC HFIP−LGを直列に接続したものを用いて行った。測定条件は、流速0.5mL/minとし、溶媒にヘキサフルオロイソプロパノールを用い、試料濃度1mg/mLの溶液を0.1mL注入した。
【0074】
(示差走査熱量計測定法)
ポリ乳酸ステレオコンプレックス、ポリ乳酸樹脂組成物などのサンプルについて、示差走査熱量計(DSCQ200(TAInstruments社製))を用い、測定を行った。測定により得られたDSCカーブから結晶融解ピーク温度、ピーク半値幅、結晶融解エンタルピー、降温結晶化ピーク温度、降温結晶化エンタルピーを求めた。測定条件は試料10mg、窒素雰囲気下中、30℃から昇温速度20℃/分で240℃まで昇温し、そのまま240℃で3分間等温後、降温速度20℃/分で30℃まで降温した。
【0075】
DSC測定(示差走査熱量測定)により求めた降温結晶化ピークが2つのピークとなる場合は、低温側をホモポリ乳酸結晶、高温側をステレオコンプレックスポリ乳酸結晶とし、降温時のホモ結晶化ピークから求めた(ΔHmc , homo)と降温時のステレオコンプレックス結晶化ピークから求めた(ΔHmc , stereo)から下記式:
ステレオコンプレックス結晶比率(%) ={(ΔHmc , stereo)/((ΔHmc , homo) + (ΔHmc , stereo))} × 100
により、降温時のステレオコンプレックス形成率を求めた。
【0076】
(混合機)
実施例1では、ラボプラストミル50C150型(東洋精機製作所製)に、左右共、バンバリ型スクリューを装着したバンバリ型ミキサを使用した。比較例1ではラボプラストミル50C150型(東洋精機製作所製)に、左右共、ローラ型スクリューを装着したローラ型ミキサを使用した。
【0077】
[実施例1]
Lラクチド50部を、ビス(2−エチルヘキサノエート)スズ触媒(ラクチド対触媒モル比=10000:1)存在させて窒素雰囲気下180℃で220分間重合を行い、その後反応物をクロロホルムに溶解させ、メタノール(クロロホルムの10倍量)中で撹拌しながら沈殿させ、重量平均分子量21万の(A)ポリ−L−乳酸を得た。
【0078】
Dラクチド50部を、ビス(2−エチルヘキサノエート)スズ触媒(ラクチド対触媒モル比=10000:1)存在させてチッソ雰囲気下180℃で220分間重合を行い、その後反応物をクロロホルムに溶解させ、メタノール(クロロホルムの10倍量)中で撹拌しながら沈殿させ、モノマーを完全に除去して、重量平均分子量17万の(B)ポリ−D−乳酸を得た。
【0079】
この(A)ポリ−L−乳酸、(B)ポリ−D−乳酸と(C−1)分子量200〜1000のエステル化合物(混基アジピン酸エステル:DAIFATTY−101:Mw=338(大八化学工業社製))と(D)結晶核剤(タルク:MicroAceP−6(日本タルク製))を、(A)/(B)/(C−1)/(D)=50/50/1/1の重量割合で、予めドライブレンドした後、スクリュー回転数10rpmとしたバンバリ型ミキサに供給し、バレル設定温度185℃で混練を行った。実施例1では混練中に紛状物が析出し、混練時間30秒程で全量紛状となり、平均粒子径5μmのポリ乳酸樹脂粉末を得た。バンバリ型ミキサでの混練時に、ミキサ上部窓からサンプルの混合状態を観察した結果、実施例1では、(A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸の引き伸ばし及び折り畳みを繰り返すカオス混合状態が生じていた。
【0080】
上記サンプルおよびについて示差走査熱量計を用い、測定を行った。測定により得られたDSCカーブから結晶融解ピーク温度、ピーク半値幅、結晶融解エンタルピー、降温結晶化ピーク温度、降温結晶化エンタルピーを求め、その結果を表1に記載した。また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によって得られた上記サンプルと240℃3分滞留後の分子量データについても表1に記載した。結晶融解ピーク温度は単一ピークとなり、また降温結晶化ピークは2つのピークが観測され、高温側のピークの結晶化エンタルピーは低温側のピークの結晶化エンタルピーを上回ることを確認した。また、240℃3分滞留後の分子量は12万であり、240℃3分滞留後も5万以上の分子量を有しながら、ステレオコンプレックスポリ乳酸を50%以上形成していることを確認した。
【0081】
[実施例2]
実施例1と同様に(A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸を準備した。この(A)ポリ−L−乳酸、(B)ポリ−D−乳酸と(C−2)分子量200〜1000のエステル化合物(アジピン酸ジイソデシル:Mw=427(東京化成工業社製))と(D)結晶核剤(タルク:MicroAceP−6(日本タルク製))を、(A)/(B)/(C−2)/(D)=50/50/1/1の重量割合で、予めドライブレンドした後、スクリュー回転数10rpmとしたバンバリ型ミキサに供給し、バレル設定温度185℃で混練を行った。実施例1では混練中に紛状物が析出し、混練時間30秒程で全量紛状となり、平均粒子径5μmのポリ乳酸樹脂粉末を得た。バンバリ型ミキサでの混練時に、ミキサ上部窓からサンプルの混合状態を観察した結果、実施例2では、(A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸の引き伸ばし及び折り畳みを繰り返すカオス混合状態が生じていた。
【0082】
上記サンプルについて示差走査熱量計を用い、測定を行い、実施例1と同様に各データを求め、その結果を表1に記載した。また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によって得られた上記サンプルと240℃3分滞留後の分子量データについても表1に記載した。結晶融解ピーク温度は単一ピークとなり、また降温結晶化ピークは2つのピークが観測され、高温側のピークの結晶化エンタルピーは低温側のピークの結晶化エンタルピーを上回ることを確認した。また、240℃3分滞留後の分子量は12万であり、240℃3分滞留後も5万以上の分子量を有しながら、ステレオコンプレックスポリ乳酸を50%以上形成していることを確認した。
【0083】
[実施例3]
実施例1と同様に(A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸を準備した。この(A)ポリ−L−乳酸、(B)ポリ−D−乳酸と(D−3)分子量200〜1000のエステル化合物(アジピン酸ジブチル:Mw=258(東京化成工業社製))と(D)結晶核剤(タルク:MicroAceP−6(日本タルク製))を、(A)/(B)/(C−3)/(D)=50/50/1/1の重量割合で、予めドライブレンドした後、スクリュー回転数10rpmとしたバンバリ型ミキサに供給し、バレル設定温度185℃で混練を行った。実施例1では混練中に紛状物が析出し、混練時間30秒程で全量紛状となり、平均粒子径5μmのポリ乳酸樹脂粉末を得た。バンバリ型ミキサでの混練時に、ミキサ上部窓からサンプルの混合状態を観察した結果、実施例3では、(A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸の引き伸ばし及び折り畳みを繰り返すカオス混合状態が生じていた。
【0084】
上記サンプルについて示差走査熱量計を用い、測定を行い、実施例1と同様に各データを求め、その結果を表1に記載した。また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によって得られた上記サンプルと240℃3分滞留後の分子量データについても表1に記載した。結晶融解ピーク温度は単一ピークとなり、また降温結晶化ピークは2つのピークが観測され、高温側のピークの結晶化エンタルピーは低温側のピークの結晶化エンタルピーを上回ることを確認した。また、240℃3分滞留後の分子量は12万であり、240℃3分滞留後も5万以上の分子量を有しながら、ステレオコンプレックスポリ乳酸を50%以上形成していることを確認した。
【0085】
[実施例4]
実施例1と同様に(A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸を準備した。この(A)ポリ−L−乳酸、(B)ポリ−D−乳酸と(C−1)分子量200〜1000のエステル化合物(混基アジピン酸エステル:DAIFATTY−101:Mw=338(大八化学工業社製))と(D)結晶核剤(タルク:MicroAceP−6(日本タルク製))を、(A)/(B)/(C−1)/(D)=50/50/1/1の重量割合で、予めドライブレンドした後、スクリュー回転数10rpmとしたバンバリ型ミキサに供給し、バレル設定温度185℃で混練を行った。(A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸の引き伸ばし及び折り畳みを繰り返すカオス混合状態が生じていることを確認し、(A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸を主成分とするポリ乳酸100重量部に対し、(E)末端封鎖剤(ポリカルボジイミド:カルボジライトHMV−8CA(日清紡製))を1重量部添加し、185℃で混練を行った。
【0086】
上記サンプルについて示差走査熱量計を用い、測定を行い、実施例1と同様に各データを求め、その結果を表1に記載した。また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によって得られた上記サンプルと240℃3分滞留後の分子量データについても表1に記載した。結晶融解ピーク温度は単一ピークとなり、また降温結晶化ピークは2つのピークが観測され、高温側のピークの結晶化エンタルピーは低温側のピークの結晶化エンタルピーを上回ることを確認した。また、240℃3分滞留後の分子量は16万であり、240℃3分滞留後も5万以上の分子量を有しながら、ステレオコンプレックスポリ乳酸を50%以上形成していることを確認した。
【0087】
[比較例1]
実施例1と同様に(A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸を準備した。(A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸と(F)エステル交換剤(オクチル酸錫)とを、(A)/(B)/(F)=50/50/0.005の重量割合で、予めドライブレンドした後、スクリュー回転数120rpmとしたローラ型ミキサに供給し、バレル設定温度190℃で滞留時間が10秒となるように混練を行い、ポリ乳酸樹脂粉末を得た。ローラ型ミキサでの混練時に、ミキサ上部窓からサンプルの混合状態を観察した結果、比較例1では、(A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸の引き伸ばし及び折り畳みを繰り返すカオス混合状態は生じていなかった。
【0088】
次に、得られた粉体を小型の一軸スクリュー押出機(Φ10mm、L/D=10、回転
数12rpm)を用いて250℃で溶融混練した。滞留時間は5分とした。
【0089】
上記サンプルについて示差走査熱量計を用い、測定を行い、実施例1と同様に各データを求め、その結果を表1に記載した。また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によって得られた上記サンプルと240℃3分滞留後の分子量データについても表1に記載した。結晶融解ピーク温度、降温結晶化ピークとも単一のピークが得られたが、実施例と比較し、結晶融解エンタルピーは小さく、半値幅は大きかった。また240℃3分滞留後の分子量は4万と低い値であり、比較例1では、高純度で安定なステレオコンプレックスポリ乳酸を得ることはできなかった。
【0090】
[比較例2]
Lラクチド100部およびステアリルアルコール0.15部を冷却留出管のついた反応容器中で、窒素雰囲気下、190℃で融解させた。Lラクチドが完全に融解した時点で、原料仕込み口からオクチル酸錫0.05重量部をトルエン500μLと共に添加し、190℃で1時間重合して(A)ポリ−L−乳酸を得た。(A)ポリ−L−乳酸の開環重合終了後、反応容器内を133kPaに減圧し、余剰のLラクチドを除去した。続いてDラクチド100重量部を仕込んだ。反応容器中を190℃に維持し、開環重合を2時間続けた。重合終了後、反応容器を230℃に昇温し、133kPaに減圧しつつ余剰のDラクチドを除去し、重量平均分子量16万のステレオコンプレックスポリ乳酸を得た。
【0091】
上記サンプルについて示差走査熱量計を用い、測定を行い、実施例1と同様に各データを求め、その結果を表1に記載した。結晶融解ピーク温度、降温結晶化ピーク温度とも単一のピークが得られたが、実施例と比較し、結晶融解エンタルピーは小さく、半値幅は大きかった。また240℃3分滞留後の分子量は4万と低い値であり、比較例2では、高純度で安定なステレオコンプレックスポリ乳酸を得ることはできなかった。
【0092】
[比較例3]
D−ラクチド100g、ドデシルアルコール0.1g 、オクチル酸スズ100mgを反応容器に入れ、1.33Paまで減圧した。続いて、十分攪拌しながら徐々に温度を上昇させ、160℃で1時間保持した。得られた反応生成物をクロロホルムに溶解し、メタノールに滴下して、重量平均分子量12万の(B)ポリ−D−乳酸を得た。次に、(A)ポリ−L−乳酸(トヨタ自動車社製、#5400、重量平均分子量14万)0.5g、前記のようにして得られた(B)ポリ−D−乳酸0.5g及びN,N’−ビス(2−ヒドロキシエチル)オキサミド(アルドリッチ社製)0.05gを10mlのクロロホルム/ヘキサフルオロイソプロパノール混合溶媒(ヘキサフルオロイソプロパノール5容量%)を用いて攪拌しながら混合した。得られた混合物をシャーレに垂らし、常圧乾燥及び減圧乾燥により溶媒を除去し、ポリ乳酸樹脂組成物のフィルムを作製した。
【0093】
上記サンプルについて示差走査熱量計を用い、測定を行い、実施例1と同様に各データを求め、その結果を表1に記載した。結晶融解ピーク温度、降温結晶化ピーク温度とも2つのピークが得られ、実施例と比較し、ステレオコンプレックス結晶融解エンタルピーは小さく、半値幅は大きかった。また240℃3分滞留後の分子量は8万であったが、比較例2では、ステレオコンプレックスポリ乳酸形成率は50%以下となった。
【0094】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明により得られるステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物は、溶融後も高分子量を有しながら、ステレオコンプレックスを安定して形成することのできるステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物であり、その結果、耐熱性、機械特性、耐薬品性に優れており、これらの特性を活かして成形品として広く用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
示差走査熱量計測定において、結晶融解ピーク温度が215℃以上であり、結晶融解エンタルピーが60J/g以上の単一ピークであって、且つピーク半値幅が12℃以下であり、さらには240℃3分滞留後の重量平均分子量を5万以上有しながら、降温結晶化時のステレオコンプレックス形成率を50%以上保持することを特徴とするステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項2】
(A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸を主成分とするポリ乳酸100重量部に対し、(C)分子量200〜1000のエステル化合物を0.01〜10重量部配合してなる請求項1に記載のステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項3】
(A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸を主成分とするポリ乳酸100重量部に対し、(D)結晶核剤を0.01〜10重量部配合してなる請求項1または2に記載のステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項4】
(A)ポリ−L−乳酸と(B)ポリ−D−乳酸を主成分とするポリ乳酸100重量部に対し、(E)末端封鎖剤を0.01〜10重量部配合してなる請求項1〜3に記載のステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項5】
(A)ポリ−L−乳酸および、(B)ポリ−D−乳酸を(C)分子量200〜1000のエステル化合物の存在下でカオス混合により溶融混練することを特徴とするステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
(A)ポリ−L−乳酸および、(B)ポリ−D−乳酸を(D)結晶核剤の存在下でカオス混合により溶融混練することを特徴とする請求項5記載のステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
(A)ポリ−L−乳酸および、(B)ポリ−D−乳酸を(E)末端封鎖剤の存在下でカオス混合により溶融混練することを特徴とする請求項5、6記載のステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
(E)末端封鎖剤をバレル設定温度が60〜195℃の領域で添加することを特徴とする請求項7記載のステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2012−188656(P2012−188656A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−34790(P2012−34790)
【出願日】平成24年2月21日(2012.2.21)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】