説明

ステロイドホルモン受容体を調節するリガンドを産生またはスクリーニングする機能的方法

この出願は、核ホルモンリガンド活性化受容体スーパーファミリーのメンバーであるビタミンD3受容体(VDR)と、足場タンパク質(scaffolding protein)であるMNARとの相互作用の発見を示すものである。この相互作用の結果、VDR、MNARおよびSrcまたはチロシンキナーゼのファミリーであるPI3 キナーゼ間の三元複合体が形成され、細胞、特に骨芽細胞おけるシグナル伝達を媒介する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
(技術分野)
本発明は、骨粗鬆症およびVDRを経由するシグナル伝達が含まれる他の疾患の治療に用いることができるビタミンD受容体(VDR)の特定のリガンドを機能的に設計する、または、スクリーニングにより同定する方法を提供する。本発明は、VDRが、以前に他の核ホルモン受容体と相互作用することが証明された足場タンパク質(scaffolding protein)であるMNARと相互作用すること、VDRおよびMNARの間のリガンド依存性相互作用がSrc/MAPキナーゼ経路の活性化を導くことを見出したことに関する。
【0002】
(背景技術)
核ホルモン受容体
核ホルモン受容体は、クラスとして遺伝子発現のリガンド依存性転写調節に関わるリガンド誘導性転写因子のスーパーファミリーである。特異的なリガンドが結合すると受容体分子の高次構造の変化が誘導され、受容体と他の転写因子との相互作用に影響を及ぼし、そして最終的に前開始複合体が形成される。この過程は、遺伝子の転写速度を調節する(D. J. Mangelsdorfら、Cell 1995; 83: 835-9)。
【0003】
核ホルモン受容体スーパーファミリーには、ステロイドホルモン受容体、非ステロイドホルモン受容体および孤児受容体(オーファンレセプター)がある。グルココルチコイド(GR)、鉱質コルチコイド(MR)、プロゲスチン(黄体ホルモン)(PR)、アンドロゲン(AR)およびエストロゲン(ER)の受容体が、古典的なステロイド受容体の例である。ステロイドホルモン受容体に加えて、この核ホルモン受容体スーパーファミリーはビタミンD3、甲状腺ホルモンおよびレチノイドなどの非ステロイドホルモン受容体から成り立っている。さらに、いわゆる“孤児”受容体をコードする、核受容体に似た配列の領域が同定されている。これらの孤児受容体は推定上のリガンドが未だ同定されていないのだが、構造的に関係があり、それゆえ核ホルモン受容体として分類されている(Cell 1995, 83: 851-857)。
【0004】
核ホルモン受容体のスーパーファミリーは、構造的および機能的に、6の異なる構造的および機能的ドメインAからFから構成されるモジュラー構造に特徴がある。より具体的に、これらの受容体は可変N末端領域(ドメインA/B);続いて中央に位置する、高度に保存されたDNA結合ドメイン(以下、DBDという;ドメインC);可変ヒンジ領域(ドメインD);保存されたリガンド結合ドメイン(以下、LBDという;ドメインE);および可変C末端領域(ドメインF−Cell、上記)を有する。
【0005】
N末端領域は、サイズおよび配列において非常に不定であり、スーパーファミリーの異なるメンバー間であまり保存されていない。受容体のこの部分は転写活性化の調節に関わる。
【0006】
DBDは約66から70のアミノ酸からなり、DNA結合活性を担う:このドメインは、染色体上の特異的な標的遺伝子の転写調節単位内のホルモン応答性エレメント(以下、HREという)と呼ばれる特異的なDNAを受容体のターゲット(標的)とする。GR、MR、PRおよびARのようなステロイド受容体は、よく似たHRE DNA配列を認識するが、ERは異なるDNA HRE配列を認識する。DNAに結合した後、ステロイド受容体は基礎的な転写機構の構成要素および配列特異的な転写因子と相互作用し、それによって特異的な標的遺伝子の発現を調節すると考えられている。
【0007】
LBDは受容体のC末端部分に位置し、主にリガンド結合活性を担う。このように、LBDはホルモンリガンドの認識と結合とに不可欠であり、さらに転写活性化機能を有し、それによって受容体のホルモン応答の特異性および選択性を決定する。構造は適度に保存されているが、LBDは核ホルモン受容体スーパーファミリーのそれぞれのメンバー間で相同性においてかなり異なることが知られている。
【0008】
核受容体に対するホルモンリガンドが細胞内に入り、LBDにより認識されると、ホルモンリガンドは特異的な受容体タンパク質に結合し、それにより受容体タンパク質のアロステリック変化が始まる(Cell、上記)。この変化の結果として、リガンド/受容体複合体は転写的に活性な状態に切り換わり、そして、このように染色体DNA上の対応するHREに高い親和性を有するDBDの存在を通じて結合することができる。このように、リガンド/受容体複合体は特異的な標的遺伝子の発現を調節する。この受容体ファミリーによって獲得された多様性は、異なるリガンドに応答するそれらの能力に由来するものである。
【0009】
ゲノムの活性の調節に加えて、ホルモン受容体複合体は重要で多様な非遺伝子性効果を有する。この非遺伝子性活性は、増殖や分化などの細胞の機能に影響するいくつかの重要なシグナル伝達経路を敏速に一時的に活性化するという特徴がある。
【0010】
より一般的に、ステロイドホルモン受容体は胚発生、成人の恒常性(ホメオスタシス)および器官生理と関連がある。種々の疾患および障害は、ステロイドホルモンの作用の乱れによって生じるものであると考えられる。ステロイド受容体は、ホルモン活性化型転写調節因子としておよび非遺伝子性活性のホルモン活性化型刺激因子として影響を及ぼすので、これらの受容体を変更したり、相互作用させたり、または、調節したりする種々のアプローチへの更なる研究は、非常に重要な領域である。例えば、これらの受容体の過剰刺激またはブロッキングだけでなく、これらの受容体の変異または欠損は、ホルモン情報伝達経路の基礎をなすメカニズムに関するよりよい洞察を提供するかもしれず、その結果、広い種々のステロイド受容体関連の疾患や障害の治療において効力の増加を導くことになる。
【0011】
ビタミンD3およびVDRおよび細胞調節
ビタミンD3受容体(VDR)は核ホルモン受容体スーパーファミリーに属する。過去数年の間に、ビタミンD3(VitD3)の種々の類似体の敏速なシグナル伝達作用を立証する証拠が劇的に増加してきた。VitD3は、細胞膜を越えるカルシウムの経細胞移動を引き起こすことが分かっている。
【0012】
VitD3の古典的なシグナル伝達経路は、VitD3標的遺伝子の転写因子であるVDRを利用するものである。この経路の効果には、細胞の成長および浸潤の阻害が含まれる。同様に成長と分化だけでなくアポトーシスも調節しうる細胞質シグナル伝達経路がますます認識されている。VitD3は、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤p27およびp21を上方制御することによって、および、サイクリンD1を阻害することによって細胞周期をG1/Sチェックポイントで阻害する。間接的なメカニズムに、TGF−βの上方制御および上皮成長因子受容体の下方制御がある。
【0013】
VitD3はインスリンのような成長受容体および腫瘍壊死因子−αへの効果を通じて間接的に、または、Bcl−2ファミリーシステム、セラミド経路、細胞死受容体(例えば、Fas)およびストレス活性化タンパク質キナーゼ経路(JunN末端キナーゼおよびp38)経由でより直接的に、アポトーシスを誘導することもできる。
【0014】
骨粗鬆症および他の骨の障害
骨の成長と恒常性は主に2つの異なる細胞型によって調節されている:骨芽細胞および破骨細胞である。骨基質は、骨芽細胞により分泌される。骨芽細胞は、既存する骨基質の表面にあり、その上に骨の新しい層を形成する細胞である。成熟破骨細胞は、石灰化した骨基質を再吸収する単核球/マクロファージ由来の多核細胞である。通常、これらの2つの細胞型の活性は生物の骨の構造と完全性とを保つためにしっかりと調整されている。しかしながら、これらの2つの細胞型の活性を調節するメカニズムについては、ほとんど理解されておらず、ほとんど知られていない。
【0015】
多くの疾患や障害は、異常な骨の成長または骨量の異常な増加もしくは減少と関係する。例えば、大理石骨病は骨基質の肥厚であり、破骨細胞が骨を吸収できなくなる、破骨細胞の成熟における障害と関連している(例えば、Kongら、Nature, 1999, 397:315-323; Sorianoら、Cell 1991, 64:693-702; Iotsovaら、Nat. Med. 1997, 3:1285-1289を参照)。対照的に骨粗鬆症は破骨細胞の活性の増加が特徴であり、結果として非常に多孔性で砕けやすく、そして直りにくい骨となる。異常な骨の成長および再吸収を伴うまたは関連する多くの疾患および障害が知られており、ほんの数例を挙げると、パジェット病、骨形成不全症、繊維性骨異形成症、低フォスファーゼ血症、原発性副甲状腺機能亢進症、関節炎および歯周病がある。さらに骨溶解は、骨の中または骨から離れたところにある多くの悪性腫瘍、例えば、乳房、肺、前立腺、甲状腺および腎臓の癌における骨転移、悪性腫瘍の間の体液性高カルシウム血症および多発性骨髄腫によって引き起こされる。
【0016】
このような疾患や障害は、アメリカ合衆国および他の国における主要な国民の健康への関心を象徴している。例えば、すでに一千万人のアメリカ人、そしてその80%が女性、が骨粗鬆症に苦しんでいると推定されており、一方で他に一千万人の骨密度が低く、それゆえこの疾患に対する危険性が増大している。
【0017】
それゆえ、骨芽細胞および/または破骨細胞(例えば細胞内または組織試料内の)のような細胞を同定し、このような細胞の活性を制御または調節するために用いることができる方法や組成物が必要とされている。例えば骨芽細胞および破骨細胞の活性を調節することによって、上述した疾患を含む異常な骨の成長や再吸収に関連する疾患や障害を治療するための方法や組成物も必要とされている。技術分野におけるこれらのおよび他の必要なものは、本発明によって記載される。
【0018】
Vit D3および骨の組織修復。
骨芽細胞においては、Vit D3を用いて処理するとSrcおよびホスホリパーゼCの活性化ならびにイノシトール三リン酸の形成が導かれる。Vit D3はTGF−βおよびTGF−β受容体の発現を増加させる。これらはいずれも骨の形成と再吸収の連関に重要な役割を果たし、それによって骨量の維持に重要な役割を果たしているものである。Vit D3はまた、TGF−β受容体の活性化から下流のSmadシグナル伝達システムと相互作用する。
【0019】
Vit D3は骨の組織修復の局部的な調節に重要な影響を与える。それは、破骨細胞の活性や形成を刺激することにより骨の再吸収に必須の役割を果たす一方で、骨芽細胞に対して抗増殖性および前分化(prodifferentiative)作用を有する。しかしながら骨芽細胞と異なり、破骨細胞はVDRを発現しない。それゆえ破骨細胞形成や破骨細胞機能の調節に関与するいくつかのサイトカイニンや成長因子の発現を調節することによって、Vit D3はそれらを間接的に調節する。
【0020】
Vit D3および皮膚。
ビタミンD受容体はほとんどの皮膚細胞で検出され、このことは、角質化、髪の成長、メラニン形成、繊維形成、血管新生および免疫依存性過程がビタミンD3の潜在的なターゲットであることを意味する。
【0021】
Vit D3は、正常なメラニン形成細胞においてチロシナーゼ活性(メラニン形成またはメラニン生産に必要)を抑制することによってメラニン形成細胞の機能を調節することが分かっている(Abdel-Malekら、J Cell Physiol. 1988;136(2):273-80)。さらに、Vit D3の生理的濃度が初期のメラニン形成細胞において成長阻害効果を示すこと、および、腫瘍壊死因子−アルファおよび紫外線照射を含むプログラム細胞死のいくつかの誘導原に対する耐性を与えることが分かっている(Sauerら、Melanoma Res. 2003;13(4):339-47)。
【0022】
Vit D3および癌。
証明されている腫瘍の浸潤や転移反応の潜在能力を阻害するメカニズムには、セリンプロテアーゼ、メタロプロテイナーゼおよび血管新生の阻害がある。
【0023】
体系的な癌におけるVit D3の効果の証拠のラインは、細胞の成長、分化、アポトーシス、悪性細胞浸潤および転移反応における効果の証明である;癌の発生および結果とビタミンD3およびその前駆体の乱れとの関連;そしてVDRの機能的多型性とある種の癌の発生との関係の疫学的な発見。さらに、Vit D3アナログは癌の化学療法の薬剤として開発されている。
【0024】
ビタミンD3/1,25(OH)2D3/VDR系が悪性メラノーマ中に含まれていることの証拠が蓄積されている。メラノーマ細胞はVDRを発現し、培養されたメラニン形成細胞、メラノーマ細胞およびメラノーマ異種移植片において1,25(OH)2D3の抗増殖性および前分化効果が示されている。近年メラノーマ細胞の広がりへの阻害効果が証明された。さらに患者における1,25(OH)2D3の低い血清レベルが報告されており、VDR遺伝子多型が悪性メラノーマの発生および結果の両方に関連することが分かっている。
【0025】
他の癌のように、メラノーマにおけるVit D3の保護作用に関する証拠があるが、Vit D3の主要な源である紫外線照射は変異原性である。
【0026】
エストロゲンおよびERおよび細胞調節
エストロゲン(E2)は、ERとの相互作用を通して種々の組織に多くの生物学上の作用を及ぼす。ERのアミノ酸配列分析、一過的な形質移入の研究および変異的解剖によって、ERは上述したような古典的なモジュラー構造を有していることが示唆された。ERのN末端A/Bドメインは、転写活性化機能1(TAF−1)と呼ばれるトランス活性化機能を含む。DBDは2つのジンク(亜鉛)フィンガーを含み、DNA認識を担う。LBDおよびTAF−2と呼ばれる第二のトランス活性化機能はERのC末端に位置する。
【0027】
ホルモンに結合すると、ERは活性化と転換工程を経る。活性化されたERは、エストロゲン調節遺伝子のプロモーター領域にあり、その標的遺伝子の転写に影響を与える特異的なエストロゲン応答因子(EREs)と相互作用する。過去10年間にわたり、多くの研究がER上のリガンド(アゴニスト/アンタゴニスト)の効果およびERの構造と機能との関係の両方についての基礎的な理解を提供してきた。それにもかかわらず、ERの非遺伝子性活性に関するメカニズムについてはほとんどわかっていない。
【0028】
ERβは、ERαと呼ばれる一般的に知られているエストロゲン受容体と異なっているように見える。集合的にERαおよびERβをここではERという。ERβのDBDは、ERαのそれと90%同じである。しかしながら、ERαおよびERβのリガンド結合ドメイン(LBD)の間の全体的な相同性は55%未満である。ERαと同様に、ERβはリガンド依存的な態様でEREからの転写を刺激することができる。
【0029】
エストロゲンがカルシウムやcAMPを含む細胞内のセカンドメッセンジャー量の敏速で一時的な増加を誘導すること、および、エストロゲンがマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)およびホスホリパーゼCの活性化を誘導することが証明された(CollinsおよびWebb、1999)。事実、多くの研究によって、エストロゲンがSrc/Ras/MAPキナーゼリン酸化経路のすばやく一時的な活性化を誘導することが証明されている。この経路の活性化は、細胞の増殖および分化を含む重要な細胞の機能を誘引する。これらの急な現象のタイムコースはペプチドホルモンによって引き起こされるものに類似し、したがって、これらの現象がエストロゲンの‘古典的な’ゲノム作用を含まないという仮説を立証する。
【0030】
最近のデータも、エストロゲン受容体とマイトジェン活性化プロテイン(MAP)キナーゼシグナル伝達カスケードとの間に直接的なつながりがあることを示唆している。MAPキナーゼは、種々のシグナルに応答してリン酸化され、そして活性化されるセリン−トレオニンキナーゼのファミリーである。これらの酵素は、細胞外シグナルを多様な膜受容体から転写因子、細胞骨格タンパク質および酵素を含む細胞内のターゲットへ伝達する。MAPキナーゼファミリーは、Ras、Rafおよびマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MEK)の連続的な活性化を含む経路を通じてシグナルを伝達する細胞外シグナル伝達調節キナーゼ(ERK)、p38およびcJun N末端キナーゼを含む(S. M. Thomas, J. S. Brugge, Annual Review of Cell & Developmental Biology 13, 513-609, 1997)。肺の内皮細胞、神経細胞、骨芽細胞および破骨細胞では、17β−エストラジオール(E2)が敏速にMAPK経路を活性化し、その結果として急性的な血管の拡張の誘導、グルタミン酸興奮毒性後の一次皮質ニューロンにおける神経保護、および、骨形成の増加を導く破骨細胞における細胞の増殖および分化の調節のような活性が起こると報告されている。
【0031】
乳癌由来の細胞株において、E2はシグナル伝達Src/Ras/Erk経路を活性化する。Src/Ras/ERkシグナル伝達経路は、成長因子の公知のターゲットである。さらに重要なことに、この経路の活性化にはERとSrcが直接相互作用することが必要である。この経路の活性化は、増殖または分化のような異なる細胞の応答を引き起こす。
【0032】
アンドロゲンおよびアンドロゲン受容体および細胞の調節
アンドロゲン受容体(AR)は、多岐にわたる標的遺伝子の調節を通じて高度に選択的で組織特異的な効果を引き出すリガンド活性型転写因子である。
【0033】
エストロゲン受容体(MNAR)の非遺伝子性活性のモジュレーター
本発明者らは近年、MNAR(modulator of nongenomic activity of estrogen receptor:エストロゲン受容体の非遺伝子性活性のモジュレーター)と呼ばれる新規な足場タンパク質(スカッフォールドプロテイン:scafold protein)を同定した。MNARはエストロゲン受容体(ER)と相互作用し、この相互作用は17β−エストラジオール(E2)によって高められる。MNARは、チロシンキナーゼのSrcファミリーのメンバーであるp60src(Src)およびp56lck(Lck)とERとの相互作用を調節する。この相互作用はSrc酵素活性を刺激し、MAPキナーゼ経路を活性化する(Wongら、Proc Natl Acad Sci USA 2003; 99: 14783-14788)。
【0034】
MNARがPXXPモチーフを通してSrcのSH3ドメインを介してSrcと相互作用すること、および、ERがSrcのSH2ドメインを介してSrcと相互作用することが証明された。近年、ERと同様にMNARがAR/MNAR/Srcの三元複合体を介してARシグナル伝達を媒介することも分かった(Unniら、Cancer Res. 2004; 64: 7156-68.)。
【0035】
これらのデータは、MNARが細胞の作用の調節において、より全般的な役割を潜在的に果たせることを示唆する。このことに加えて、MNARの構造―機能的機構の分析は、MNARが多様なタンパク質―タンパク質同士の接触の形成を可能とする足場タンパク質であることを示唆している。MNAR分子中にいくつかのLXXLLモチーフが存在することは、MNARが多様なNRの結合に適応できることを示している。また、LXXLLを用いるERとの相互作用に加えて、PR、GRおよびARとの相互作用も確認された。 さらに、広範囲のプロリンリッチなモチーフおよびいくつかの古典的なPXXPモチーフの存在は、多様なキナーゼおよび他のシグナル伝達分子中に存在するSH3ドメインを含むタンパク質と相互作用する可能性があることを示唆している。また近年、MNARがSrcおよびPI3キナーゼの制御サブユニットであるp85のSH3ドメインと相互作用することも分かっている。
【0036】
核受容体が直接的な転写調節以外のメカニズムを用いて細胞の作用を調節することができることが十分に確立されてきた。ER、PR、ARおよび他の核受容体は、細胞の増殖、分化および生存にとって決定的に重要な遺伝子の発現を調節する多様なシグナル伝達カスケードを活性化することができる。したがって、MNAR機能的機構の分析と同様に以前に示されたデータは、MNARが主要な連結物でないとしても、潜在的にNRおよび他のシグナル伝達分子の作用を細胞の伝達カスケードに組み込むリンカータンパク質の少なくとも一つでありうることを示唆している。
【0037】
したがって、MNARが重要な細胞機能を調節することができる核受容体のリガンドの機能上選択的なリガンドを開発するための重要なターゲットを潜在的に与えることができると提案することは妥当である。
【0038】
以前に、Vit D3の存在下でVDRがcSrと相互作用することがわかっている。また以前に、Vit D3は骨芽細胞系統の細胞においてオステオカルシンやアルカリホスファターゼの発現を増大させることもわかっている。
【0039】
したがって本発明者らは、骨肉腫UMR 106細胞(ATCC CRL 1661またはECACC 90111314)およびROS 17/2.8細胞におけるオステオカルシンおよびアルカリホスファターゼの発現に対するMNARの過剰発現の効果を評価することに着手した。オステオカルシンおよびアルカリホスファターゼはいずれも骨芽細胞の分化に対する重大なマーカーであると考えられるので、MNARによるいかなる調節もMNARが骨の発育の重要な制御因子であることを示している。
【0040】
(発明の開示)
本発明は、核受容体(MNAR)の非遺伝子性活性のタンパク質モジュレーターとVit D3核ホルモン受容体(VDR)との間の新規な相互作用を提供する。すなわち、VDRがMNARアミノ酸配列内の5番目の“LXXLL”モチーフに結合することを発見した。このリガンド依存性相互作用によってMNARタンパク質はVDRと相互作用し、そしてVDR/MNAR/Src三元複合体の形成を経てMAPキナーゼシグナル伝達を活性化し、VDRの転写活性の増大を導く。
【0041】
一の実施形態において、本発明はMNARポリペプチドおよびVDRポリペプチドの反応混合物に試験化合物を添加し、そして試験化合物が存在しない同じ反応混合物と比較して結合複合体の形成を評価することによって、MNARとVDRとの相互作用を調節するリガンドを同定する方法を提供する。
【0042】
上記反応混合物が無細胞系であるか、細胞系であるかは熟考される。
さらなる実施形態において、上記方法はVDRおよび試験化合物間の複合体を検出する工程を含む。
【0043】
本発明はまた、MNARポリペプチドおよび機能性VDRを含む宿主細胞を含む反応混合物に接触させ、試験化合物の存在下および不存在下でのVDRの活性を検出することにより、MNARの存在下でVDRの活性を調節するリガンドを同定する方法を提供する。
【0044】
一の実施形態においては、上記活性がMAPキナーゼのリン酸化である。
具体的な実施形態において、上記キナーゼがErk1および/またはErk2である。
別の実施形態においては、上記活性がVDRの活性化により誘導される遺伝子の発現である。
具体的な実施形態においては、上記遺伝子がオステオカルシンまたはアルカリホスファターゼである。
【0045】
本発明はまた、機能性VDRを発現する細胞におけるリガンド依存性活性を調節する方法であって、VDRリガンドの存在下MNARポリペプチドを細胞に接触させる工程を含む方法を提供する。
【0046】
一の実施形態においては、上記活性がMAPキナーゼのリン酸化である。
具体的な実施形態において、上記キナーゼがErk1および/またはErk2である。
別の実施形態においては、上記活性がVDRの活性化により誘導される遺伝子の発現である。
具体的な実施形態においては、上記遺伝子がオステオカルシンまたはアルカリホスファターゼである。
【0047】
(図面の簡単な記載)
図1. MNARはVDRのリガンド結合ドメインと相互作用する。完全長のMNARをインビトロでの転写/翻訳によって35S放射標識し、100nMの1,25(OH)Vit D3の存在下または不在下でGST−VDRリガンド結合ドメイン融合タンパク質と共にインキュベートした。結合物を、グルタチオン−セファロースを用いて単離し、SDS−PAGEおよびオートラジオグラフィーによって分析した。
図2. VDRはMNARのLXXLL#5と相互作用する。 GST−VDR−LBDを溶媒または100nM濃度1,25(OH)Vit.D3を用いてインキュベートし、その後種々のMNAR LXXLLモチーフに対応する固定化ペプチドと共にインキュベートした。VDRの結合はHRP融合抗GST抗血清を用いて、Wallac Victor 1420 Multi label Counterで検出された。MNAR LXXLLモチーフは、最N末端モチーフから始めて番号をつけ、それぞれLXXLL1−9として設計された。
図3. MNARはビタミンD3に刺激されるErkの活性化を高める コントロールまたはMNAR発現プラスミドを用いて形質移入されたUMR−106細胞を、10nMの1,25(OH)Vit.D3で0、5、10または20分間処理した。細胞を回収し、Erk1および2のリン酸化量をウェスタンブロッティング分析によって決定した。
図4. MNARはVDR依存性遺伝子発現を調節する A.コントロールまたはMNAR発現プラスミドを用いて形質移入され、溶媒または100nMの1,25(OH)Vit.D3で24時間処理したUMR−106細胞から単離したRNAから、TaqMan分析を用いてオステオカルシンのRNA量を決定した。
B.コントロールまたはMNAR発現プラスミドを用いて形質移入され、溶媒または100nMの1,25(OH)Vit.D3で48時間処理したRos17/2.8細胞から単離したRNAから、TaqMan分析を用いてアルカリホスファターゼのRNA量を決定した。
図5. この図は、MNARの構成の模式図を描いている。MNARのN末端部分は、多様なLXXLLモチーフの存在により核受容体相互作用ドメイン(NRID)と呼ばれ、 一方MNARのC末端領域は、多数のプロリンおよびグルタミン酸が存在するためにプロリンおよびグルタミン酸リッチドメイン(PERD)と呼ばれる。LXXLLおよびPXXPモチーフは、最N末端モチーフから始めて番号をつけ、それぞれ1−10および1−2として設計された。
【0048】
(発明の詳細な記載)
本発明は、VDR MNARとcSrcとがリガンド依存的な態様で相互作用することを証明する。VDR/MNARとVDR/cSrcとの間の直接的な相互作用はVDRのリガンド結合ドメインを通して媒介されるが、VDR/MNAR相互作用はMNARのLXXLLモチーフ 番号5を必要とする。さらに、VDR/Src相互作用はcSrcのSH2ドメインがあれば十分であるが、MNAR/Src相互作用は、以前に示されたようにSrcのSH3ドメインによって生じる。
【0049】
本発明は、MNARがVDRと相互作用し、そしてSrcと三元複合体を形成すること、MNARの過剰発現がUMR 106およびROS 17/2.8骨肉腫細胞におけるオステオカルシンおよびアルカリホスファターゼ遺伝子の発現を強力に増やすことを証明する。上述したように、オステオカルシンおよびアルカリホスファターゼはいずれも骨芽細胞の分化に関する重大なマーカーであるので、これらのデータはMNARが骨の成長の重要な制御因子であることを示唆している。したがって、MNARとVDRとの相互作用を調節し、それゆえオステオカルシンおよびアルカリホスファターゼの発現を調節する機能的に選択されるリガンドの産生または同定は、骨粗鬆症の治療に有効である。
【0050】
これらの結果は、MNARがSrcが媒介する細胞シグナル伝達に核受容体作用を組み込む足場タンパク質であるという更なる証拠を提供し、そしてMNAR作用のモデルと一致する。
【0051】
定義
ビタミンD3およびその前駆体である1,25−ジヒドロキシビタミンD3(それぞれVit D3および1,25(OH)2D3)は、コレカルシフェロール、(+)−5,7−コレスタジエン−3β−オールまたはラクミン(Racumin)D(CAS No. 67−97−0)としても知られており、吸収を刺激することによりカルシウムおよびリンの利用に必要であり、そしてビタミンAの同化に必要である。
【0052】
ヒトのビタミンD3受容体、すなわちVDRは、具体的な実施形態においてSwisProt Database No.P11473およびGenBank 受入れ番号J03258に記載されている配列を含む。ヒトVDRに関するcDNAヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を、配列番号1および2にそれぞれ示す。
【0053】
“機能性VDR”とは、例えばErk1およびErk2のようなMAPキナーゼ経路におけるキナーゼのリン酸化のようなセカンドメッセンジャーシグナル伝達をすることができる、および/または、例えばオステオカルシンまたはアルカリホスファターゼのようなリガンド依存性遺伝子の転写を調節することができる、または、天然のまたは合成のリガンドとの接触によって、証明されている他の何らかの活性を引き出すことができる、宿主細胞で発現されたVDRである。
【0054】
“VDRリガンド”は、1,25(OH)2D3のような、あらゆるVDRの天然のリガンド、および、あらゆる合成リガンドまたはアナログも含む。3000以上のVit D3の合成アナログが知られている(Carlbergら、Expert Opin. Ther. Patents 2003; 13(6): 761-72)。
【0055】
“VDRリガンド結合ドメイン”すなわちVDR−LBDは、最小限、配列番号:2のアミノ酸配列のC末端領域、または、VDRの他のオルソログを含む。VDR LBD配列は121番目の残基から始まり、大体427番目の残基まで続く。好ましくは、LBDが110−427番目の残基を包含することである。
【0056】
エストロゲン受容体の非遺伝子性活性のモジュレーター(Modulator of nongenomic activity of estrogen receptor)(MNAR)とは、GenBank 受入れ番号AF547989(それぞれ配列番号:3および4)に記載されているヌクレオチドおよびアミノ酸配列を有するタンパク質をいう。図5に示されるように、LXXLLモチーフはN末端領域にあり、番号1−10である。
【0057】
ここで使われる“三元複合体”とは、核ホルモン受容体、MNARおよびSrcまたはpI3キナーゼ(または他のシグナル伝達キナーゼ)を含む複合体のことをいう。一の実施形態において、三元複合体はVDR/MNAR/Src複合体またはVDR/MNAR/PI3キナーゼ複合体である。より具体的には、VDR/MNAR/Src複合体は、VDRのリガンド結合ドメインと、MNARのLXXLLドメイン番号5を介するMNARとの相互作用、および、cSrcのSH2ドメインを介するcSrcとの相互作用;およびMNARのPXXPモチーフとcSrcのSH3ドメインとの相互作用を通して形成される。さらに三元複合体はER/MNAR/PI3キナーゼおよびAR/MNAR/srcも含む。
【0058】
“骨形成(bone formation)”の用語は、骨の合成および石灰化の過程である。骨芽細胞はこの過程を調節する。
【0059】
“骨の成長”は、骨格の伸長の過程である。この過程は2つの方法のうちの1つによって起こる:(1)膜内の骨形成は、間葉系または骨髄細胞から直接起こる;(2)縦方向のまたは軟骨内の骨形成は、軟骨由来の骨で起こる。
【0060】
“骨形成(osteogenesis)”の用語は、上に定義した骨形成と同義語である。
【0061】
ここで一般的に用いられる“骨の成長に関連する障害”、“骨の成長に関する障害”、“骨の成長の障害”、“骨の成長の疾患”およびこれらのこのようなバリエーションは、骨組織の異常な成長、修復成長、再吸収、分解または恒常性に関連するどのような疾患または障害をも意味する。骨の成長に関連する障害は、個々における骨量の異常な減少だけでなく増加に関連する疾患や障害をも含む。また、本発明の課題である骨の成長に関連する障害には、破骨細胞の異常な(例えば、増加したまたは減少した)活性と関連する障害が含まれるが、これに限定されるものではない。本発明の課題である骨の成長に関連する障害にはさらに、骨芽細胞の異常な(例えば、増加したまたは減少した)活性も含まれる。
【0062】
本発明の方法および組成物により診断されるまたは治療される典型的な骨の成長に関連する障害としては、ほんの数例を挙げると、大理石骨病、骨粗鬆症、パジェット病、骨形成不全症、繊維性骨異形成症、低ホスファターゼ血症、原発性副甲状腺機能亢進症、歯周病および骨髄腫血液疾患がある。さらに骨溶解は、骨の中または骨から離れたところにある多くの悪性腫瘍、例えば、乳房、肺、前立腺、甲状腺および腎臓の癌における骨転移、悪性腫瘍の間の体液性高カルシウム血症および多発性骨髄腫によって引き起こされうる。
【0063】
ヒトのオステオカルシンはbone gla proteinまたはBGPとしても知られており、GenBank 受入れ番号NM_199173で見出され、それぞれ配列番号:5および6に記載される核酸(cDNA)およびアミノ酸配列を有する。
【0064】
アルカリホスファターゼは、直接関係のある分野において公知である。例として、ここで詳述されるラットの骨肉腫細胞株において見いだされるラットのアルカリホスファターゼの核酸およびアミノ酸配列は、GenBank受入れ番号J03572で見出すことができ、それぞれ配列番号:7および8に記載される。
【0065】
“ラベル”の用語は、直接検出することができる、または、検出可能な他の分子に結合することができる実体について用いられる。直接のラベルとしては、酵素、フルオロフォア、クロモフォア(発色団)、放射性同位体、染料、コロイド状の金、コロイド状の炭素、ラテックス粒子および化学発光剤が挙げられる。間接的なラベルとして、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(グルタチオンおよび抗体に結合する);抗体に結合するフラッグ(FLAG)、mycタグ;ニッケルにキレートするHisタグ;アビジンに結合するビオチン;ストレプトアビジン(またはビオチンに結合する3つのうちの何れも);および抗体およびFc分子に結合するIg定常部ドメインが挙げられる。
ラベルは共有結合的に導入することができ、例えば、融合コンストラクトの部分としてコンジュゲーションケミストリーを用いる(以下に例示するように)ことができる。
【0066】
分子生物学
ここで用いられる“単離された”の用語は、言及された物質が、それが通常見いだされる環境から移されることを意味する。このように、単離された生物学的物質は、細胞の構成要素すなわちその物質が見出されるまたは生産される細胞の構成要素が取り除かれている。核酸分子の場合、単離された核酸分子として、PCR産物、単離されたmRNA、cDNAまたは制限断片が挙げられる。他の実施形態において、単離された核酸は、それが見出される染色体から切り取られるのが好ましく、単離された核酸は、染色体で見出されたときにはその単離された核酸分子に含まれる遺伝子の上流または下流に位置する非調節、非コード領域または他の遺伝子と、もはや結合していないことがより好ましい。さらに別の実施形態において、単離された核酸は1または2以上のイントロンが欠如している。単離された核酸分子として、プラスミド、コスミド、人工染色体などに挿入された配列が挙げられる。このように、特定の実施形態においては、組換え型の核酸が単離された核酸である。単離されたタンパク質は、細胞内において結合していた他のタンパク質または核酸またはそれらの両方と結合していてもよく、または、それが膜結合型タンパク質の場合には細胞膜と結合していてもよい。単離された細胞小器官、細胞または組織は、それが生物体において見出される構造上の部位から移される。単離された物質は精製される必要はないが、精製されてもよい。
【0067】
ここで用いられる“精製された”の用語は、関係ない物質、すなわちその物質が得られた元々の物質を含む混入物の存在を減少させるまたは除去する条件下で単離された物質をいう。例えば、精製されたタンパク質は、細胞内で結合している他のタンパク質や核酸を実質的に含まないものであることが好ましい;精製された核酸分子は、細胞内でその核酸分子と共に見られるタンパク質や他の関係ない核酸分子を実質的に含まないものであることが好ましい。ここで用いられる“実質的に含まない”の用語は、物質の分析試験に関する状況において操作上用いられる。好ましくは、実質的に混入物を含まない精製された物質は、少なくとも純度50%である;より好ましくは少なくとも純度90%、さらに好ましくは少なくとも純度99%である。純度は、クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、免疫アッセイ組成分析、生物学的アッセイおよび技術分野において公知のその他の方法によって評価することができる。
【0068】
精製方法は、技術分野において公知である。例えば、核酸は、沈殿、クロマトグラフィー(調製用の固相クロマトグラフィー、オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションおよび三重へリックスクロマトグラフィーを含む)、超遠心分離およびその他の手法により精製することができる。ポリペプチドおよびタンパク質は、種々の手法、調製用ディスクゲル電気泳動、等電点電気泳動、HPLC、逆相HPLC、ゲルろ過、イオン交換および分配クロマトグラフィー、沈殿および塩析クロマトグラフィー、抽出および向流分配により精製することができるが、これらの手法に限定されない。目的のために、タンパク質が精製を容易とするような付加的な配列タグ−ポリヒスチジン配列またはFLAGやGSTのような抗体に結合する特別な配列が挙げられるが、これらに限定されない−を含む組換えシステムによりポリペプチドを製造することが好ましい。ポリペプチドは、その後適当な固相マトリックス上でのクロマトグラフィーにより、宿主細胞の未精製溶解物から精製することができる。また、タンパク質またはそこから誘導されたペプチドに対して製造された抗体も、精製試薬として用いることができる。細胞は、遠心分離、マトリックス分離(例えば、ナイロンウール分離)、選別および他の免疫選択技術、ディプリーション(例えば、混入した細胞の補体ディプリーション)および細胞分取(例えば、蛍光標識細胞分取[FACS])などの様々な技術により精製することができる。他の精製方法も可能である。精製された物質は、最初に結合していた細胞の成分の約50%未満を含んでいてもよく、好ましくは約75%未満、最も好ましくは約90%未満である。“実質的に純粋である”とは、技術分野において知られている従来の精製技術を用いて達成されうる最も高い純度を意味する。
【0069】
好ましい実施形態において、“約”および“おおよそ”の用語は、一般に測定の性質や精度を考慮に入れて測定された量に対する許容可能な誤差の程度を意味する。典型的な模範的な誤差の程度は、特定の値または値の範囲の20パーセント(%)以内であり、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内である。また、そして特に生物学的システムにおいては、“約”および“おおよそ”の用語は、特定の値の一桁以内の値を意味してもよく、好ましくは5倍以内であり、より好ましくは2倍以内である。特に断らない限り、ここで与えられる数量はおおよそであり、明確に記載されない場合でも“約”および“おおよそ”の用語が暗に含まれている。
【0070】
“分子”の用語は、1または2以上の原子を含む別個のまたは区別可能な物質の構造単位をいい、例えば、ポリペプチドおよびポリヌクレオチドが挙げられる。
【0071】
ここで用いられる“リガンド”の用語は、化合物、ペプチドおよびペプチド類似物を含む分子であって、MNARおよびVDRに結合し、それによってVDRを発現する細胞の機能や作用を変えたり影響したりするもの、または、他の生物学的に活性なタンパク質が別のやり方でこれらの細胞に及ぼす影響を阻害したり変えたりするものについて用いられる。リガンドおよび化合物の用語は、合理的な薬剤設計、スクリーニングおよび相互作用アッセイについて言及する際には、互換的に使用される。
【0072】
“試験物質”または“試験化合物”または“試験リガンド”(ペプチドおよびペプチド類似体を含む)は、MNARと相互作用することが同定された、または、相互作用するように設計された物質である。好ましくはMNARのLXXLLモチーフを介し、それによってMNARとVDRとの相互作用も可能となるものである。
【0073】
“リード化合物”は、MNARに結合し、MNARおよびVDRの相互作用によってVDRを通してセカンドメッセンジャー活性を調節(例えば、転写調節)することが示された試験化合物である。
【0074】
ヒト以外の動物としては特に限定されないが、マウス、ラット、ウサギ、ハムスター、モルモットなどの実験動物;イヌやネコなどの家畜;ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウマ、ウシなどの家畜が挙げられ、ヒトまたはマウスのMNARおよび/またはVDRを用いてトランスジェニックにしたこれらの動物が好ましい。
【0075】
本発明においては、この技術分野における従来の分子生物学、微生物学および組換えDNA技術を用いることができる。このような技術は、文献に十分に説明されている。例えば、Sambrook、FitschおよびManiatis、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition (1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York (ここでは"Sambrookら、1989"を参照); DNA Cloning: A Practical Approach, Volume IおよびII (D.N. Glover監修、1985); Oligonucleotide Synthesis (M.J. Gait監修、1984); Nucleic Acid Hybridization (B.D. HamesおよびS.J. Higgins監修、1984); Animal Cell Culture (R.I. Freshney監修、1986); Immobilized Cells and Enzymes (IRL Press, 1986); B.E. Perbal、A Practical Guide to Molecular Cloning (1984); F.M. Ausubelら、(監修), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc. (1994)を参照。
【0076】
“遺伝子”は、機能的な“遺伝子産物”をコードしているヌクレオチド配列である。一般的に、遺伝子産物は機能性タンパク質である。しかしながら、遺伝子産物には、RNA (例えば、tRNAまたはrRNA)のような細胞内の他のタイプの分子もある。本発明の目的に関して、遺伝子産物は細胞内に見られるmRNA配列をも言う。例えば、本発明によって遺伝子の発現量を測定することは、mRNA量を測定することに相当してもよい。遺伝子は、コード配列だけでなく、調節(すなわち非コード)配列を含んでもよい。典型的な調節配列として、例えば遺伝子が発現する条件を決定するプロモーター配列が挙げられる。遺伝子の転写領域は、イントロン、5’−非翻訳領域(5’−UTR)および3’−非翻訳領域(3’−UTR)を含む非翻訳領域をも含んでいてもよい。
【0077】
“コード配列”、または、RNA、ポリペプチド、タンパク質または酵素のような発現産物を“コードしている”配列は、発現するとRNA、ポリペプチド、タンパク質または酵素を産出するヌクレオチド配列である;すなわちヌクレオチド配列はRNAまたはそれがコードしているポリペプチド、タンパク質または酵素に対するアミノ酸配列を“コードする”。
【0078】
“プロモーター配列”は、細胞内でRNAポリメラーゼに結合することができ、下流(3’方向)コード配列の転写を開始することができるDNA調節領域である。本発明を定義するため、プロモーター配列は転写開始部位によってその3’末端の境界とされ、そしてバックグラウンドより上の検出可能な量の転写を開始するのに必要な最小限の数の塩基または要素を含むために上流(5’方向)に広がる。プロモーター配列内には、RNAポリメラーゼの結合を担うタンパク質結合ドメイン(共通配列)だけでなく、転写開始部位(例えば、ヌクレアーゼS1を用いるマッピングによって好都合に見つけられる)も見出される。
【0079】
コード配列は、RNAポリメラーゼがコード配列をRNAに転写する際に、細胞内の転写および翻訳調節配列の“支配下”にある、または、これらの配列と“作用的に提携する”。転写されたRNAはその後トランスRNAスプライスされ(それがイントロンを含む場合)、配列がタンパク質をコードしている場合には、タンパク質に翻訳される。
【0080】
“発現する”および“発現”の用語は、遺伝子またはDNA配列中の情報の顕在化を可能とするまたは引き起こすこと、例えば、対応する遺伝子またはDNA配列の転写および翻訳に関与する細胞の機能を活性化することによって RNA(rRNAまたはmRNAなど)またはタンパク質配列を産生することを意味する。DNAは細胞によって発現されてRNA(例えば、mRNAまたはrRNA)またはタンパク質のような“発現産物”を形成する。発現産物それ自体、例えば、結果として生じるRNAまたはタンパク質もまた、細胞により“発現された”ということができる。
【0081】
“トランスフェクション(形質移入)”の用語は、外来性の核酸を細胞に導入することをいう。“トランスフォーメーション(形質転換)”の用語は、宿主細胞が導入された遺伝子または配列を発現して所望された物質、本発明においては導入された遺伝子または配列によってコードされるRNAが典型であるが、それだけでなく導入された遺伝子または配列によってコードされるタンパク質や酵素を生産するために、“外来性”(すなわち外因性または細胞外の)遺伝子を導入することを意味する。導入された遺伝子または配列は、“クローン化された”または“外来性”遺伝子または配列とも呼ばれ、調節または制御配列(例えば、開始、停止、プロモーター、シグナル、分泌または細胞の遺伝的な機構によって用いられる他の配列)を含んでもよい。遺伝子または配列は、非機能性配列または知られている機能がない配列であってもよい。導入されたDNAまたはRNAを受け入れて発現する宿主細胞は、“形質転換された”そして“形質転換体”または“クローン”である。宿主細胞に導入されるDNAまたはRNAはいかなる出所由来のものであってもよく、宿主細胞と同じ属または種の細胞由来であってもよく、異なる属または種の細胞由来であってもよい。
【0082】
“ベクター”、“クローニングベクター”および“発現ベクター”の用語は、宿主細胞を形質転換し、そして導入した配列の発現(例えば、転写および翻訳)を促進するように、それによってDNAまたはRNA配列(例えば、外来性遺伝子)を宿主細胞に導入する媒介物をいう。ベクターとしては、プラスミド、ファージ、ウイルスなどが挙げられ、以下により詳しく記載される。
【0083】
“カセット”の用語は、発現産物をコードし、ベクターの定められた制限部位に挿入されるDNAコード配列またはDNAセグメントを意味する。カセットの制限部位は、適当な読み枠中にカセットを確実に挿入できるように設計される。一般的に、外来性DNAはベクターDNAの1または2以上の制限部位で挿入され、ベクターによって伝達性ベクターDNAと共に宿主細胞に運搬される。発現ベクターのように挿入されたまたは付加されたDNAを有するDNAセグメントまたは配列は、“DNAコンストラクト”とも呼ばれる。通常の型のベクターは“プラスミド”であるが、これは一般的に二重鎖DNAの自己充足的な分子であり、通常はバクテリア由来で、容易に付加された(外来性の)DNAを受け入れることができ、容易に適当な宿主細胞に導入されうる。プラスミドや真菌のベクターを含む多くのベクターは、種々の真核生物または原核生物宿主における複製および/または発現について詳述されている。“宿主細胞”の用語は、細胞による物質の生産のためにあらゆる方法で選択され、変更され、形質転換され、生育されまたは使用されまたは操作された、あらゆる生物のあらゆる細胞をいう。例えば宿主細胞は、特定の遺伝子、DNAまたはRNA配列、タンパク質または酵素を発現するために処理されたものであってもよい。さらに宿主細胞は、以下に詳述されるスクリーニングや他のアッセイに用いることができる。宿主細胞は、インビトロまたは、ヒト以外の動物(例えば、トランジェニック動物または一過的に形質移入された動物)における1または2以上の細胞中で培養することができる。
【0084】
“発現系”の用語は、適当な条件下、例えば、ベクターにより運搬され、宿主細胞に導入される外来性DNAによってコードされるタンパク質の発現のための適当な条件下の、宿主細胞および適合するベクターを意味する。通常の発現系としては、イー・コリ(E. coli)宿主細胞およびプラスミドベクター、Sf9、Hi5またはS2細胞のような昆虫宿主細胞およびバキュロウイルスベクター、ショウジョウバエ細胞(Schneider細胞)および発現系、ならびに、哺乳類宿主細胞およびベクターが挙げられる。例えば、MNARまたはVDRは、PC12、COS−1またはC2C12細胞で発現される。他の好適な細胞としては、CHO細胞、HeLa細胞、293T(ヒトの腎臓の細胞)、マウスの一次筋芽細胞およびNIH3T3細胞が挙げられる。好ましい実施形態においては、細胞が骨肉腫細胞である。
【0085】
“異種の(heterologous)”の用語は、自然には起こらない要素の組合せのことをいう。例えば、本発明は、rRNA配列およびrRNA配列の一部ではない異種のRNA配列を含むキメラRNA分子を含む。この文脈において、異種のRNA配列とは、自然の状態ではリボゾームRNA配列内に存在しないRNA配列のことをいう。また、異種のRNA配列は自然の状態でリボゾームRNA内に存在するが、自然の状態では起こらないrRNA配列中の位置で見つけられる。他の例として、異種のDNAとは、自然の状態では細胞内または細胞の染色体位置に存在しないDNAをいう。好ましくは、異種のDNAが細胞への外来性遺伝子を含むことである。異種の発現調節要素は、自然において作用上関連している遺伝子と異なる遺伝子と作用上関連する調節要素である。
【0086】
“変異体”および“変異”の用語は、遺伝的物質、例えばDNA、または、あらゆる過程、メカニズムにおけるあらゆる検出可能な変化、または、このような変化の結果のことをいう。これは、遺伝子の構造(例えば、DNA配列)が変化する遺伝子変異、あらゆる変異過程から生じるあらゆる遺伝子またはDNA、修飾された遺伝子またはDNA配列により発現されるあらゆる発現産物(例えば、RNA、タンパク質または酵素)を含む。“変異体”の用語は、修飾または変更された遺伝子、DNA配列、RNA、酵素、細胞など;すなわちあらゆる種類の変異体を示すために用いることもできる。例えば、本発明は、自然では配列の一部でないまたは自然ではrRNA配列のその位置に存在しない異種のRNA配列を挿入することにより変更されたrRNA配列を含む、変更したまたは“キメラ”RNA分子に関する。このようなキメラRNA配列は、それらをコードするDNAおよび遺伝子と同様に、ここでは“変異体”配列と呼ばれる。
【0087】
さらに、変異体はターゲット、例えばMNARまたはVDRへの結合の増大を示す改変された化学的性質を有する修飾されたタンパク質またはペプチド断片を含み、ある種の通常遭遇する遺伝的にコードされないアミノ酸を含むものが用いられてもよく、特に限定されないが、[ベータ]−アラニン(B−Ala);および3−アミノプロピオン酸(Dap)、2,3−ジアミノプロピオン酸(Dpr)、4−アミノ酪酸などの他のオメガ−アミノ酸;α−アミノイソ酪酸(Aib);ω−アミノヒキサン酸(aminohyxanoic acid)(Aha);Δ−アミノイソ吉草酸(Ava);N−メチルグリシンまたはサルコシン(MeGly);オルニチン(Orn);シトルリン(Cit);t−ブチルアラニン(t−BuA);t−ブチルグリシン(t−BuG);N−メチルイソロイシン(MeIle);フェニルグリシン(phg);シクロヘキシルアラニン(Cha);ノルロイシン(Nle);2−ナフチルアラニン(2−Nal);4−クロロフェニルアラニン(Phe(4−Cl));2−フルオロフェニルアラニン(Phe(2−F));3−フルオロフェニルアラニン(Phe(3−F));4−フルオロフェニルアラニン(Phe(4−F));ペニシラミン(Pen);1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン−3−カルボン酸(Tic);[ベータ]−2−チエニルアラニン(thienylalanine)(Thi);メチオニンスルホキシド(MOS);ホモアルギニン(hArg);N−アセチルリジン(AcLys);2,3−ジアミノ酪酸(Dab);2,3−ジアミノ酪酸(Dbu);p−アミノフェニルアラニン(Phe(pNH2));N−メチルバリン(MeVal);ホモシステイン(hCys)およびホモセリン(hSer)が挙げられる。
【0088】
"アレイ"および"マイクロアレイ"の用語は互換的に用いられ、ここでは"プローブ"と呼ばれる、一般にあらゆる秩序ある配列(例えば、表面または基質上の)または種々の分子に適用される。アレイの各異なるプローブは、ここで"ターゲット(標的)"と呼ばれる特定の分子を特異的に認識するおよび/または結合する。マイクロアレイはそれゆえ、例えば試料中の多数の異なるターゲット分子の存在または不在を同時に検出するために有用である。好ましい実施形態においては、本発明で用いられるアレイは、各異なるプローブが特定の"アドレス"と結びついている"アドレス可能なアレイ(addressable array)"である。例えば、好ましい実施形態では、プローブは表面または基質上に固定化され、アドレス可能なアレイの各異なるプローブが表面または基質上の特定の知られた位置に固定化されていてもよい。試料中のプローブのターゲット分子の存在または不在は、したがってターゲットが表面または基質上の特定位置に結合するかどうかを単に判断することによって敏速に判断することができる。
【0089】
核酸分子の一本鎖型を、温度および溶液のイオン強度の適当な条件下で他の核酸分子とアニールすると、核酸分子は、他の核酸分子(例えば、cDNA、ゲノムのDNAまたはRNA)に“ハイブリダイズ可能”である(例えば、上記のSambrook et al.参照)。温度およびイオン強度の条件がハイブリダイゼーションの“厳密性”を決定する。“ハイブリダイゼーション”は、相補的な配列を含む2つの核酸分子を必要とし、ハイブリダイゼーションの厳密性によるが、塩基間のミスマッチがあっても可能である。核酸をハイブリダイズするための好適な厳密性は核酸の長さと相補性の程度に依存し、この技術分野において公知の変数である。2つのヌクレオチド配列間の相似性または相同性の度合いが大きいほど、このような配列を有する核酸のハイブリッドのためのTの値が大きくなる。
【0090】
長さが100ヌクレオチド以上のハイブリッドに関して、Tを計算するための方程式が見出されている(Sambrookら、上記9.50-9.51を参照)。
【0091】
特別な実施形態において、“標準的なハイブリダイゼーション条件”の用語は、約55℃のTで上述されたような条件を使用することをいう。好ましい実施形態においては、Tが60℃である;より好ましい実施形態においては、Tが65℃である。具体的な実施形態において、“高い厳密性”の用語は、0.2xSSC中68℃で、50%ホルムアミド、4xSSC中42℃で、またはこれらの2つののいずれかの条件下において観察されるのと同等のレベルのハイブリダイゼーションを与える条件下でのハイブリダイゼーションおよび/または洗浄をいう。
【0092】
融解温度約55℃に相当する低い厳密性のハイブリダイゼーション条件を用いることができる(例えば、5xSSC、0.1%SDS、0.25%牛乳、そしてホルムアミドを含まない;またはその代わりに30%ホルムアミド、5xSSCおよび0.5%SDS)。中程度厳密なハイブリダイゼーション条件は、より高いT、例えば、40%ホルムアミドと5xまたは6xSSCに相当する。高い厳密性のハイブリダイゼーション条件は、最も高いT、例えば、50%ホルムアミド、5xまたは6xSSCに相当する。1xSSC溶液は、0.15M NaClおよび0.015M クエン酸ナトリウムを含む溶液と理解される。
【0093】
応用と利用
本発明は、MNARがVDRと相互作用し、それによってリガンドのVDRへの結合を媒介することを発見したことに関する。MNARは、MNARのアミノ酸配列(配列番号2)中の5番目のLXXLLモチーフを特異的に介してVDRと相互作用する。したがって、このモチーフに結合し、それによってMNARに結合するVDRを苦しめるまたは拮抗するリガンドは、例えばcSrcまたはPI3キナーゼを介する、VDRを経由するシグナル伝達の調節への使用のために企図される。
【0094】
ここで記載される方法を用いると、MNARやVDRと結合するまたは別の方法で相互作用するリード化合物またはペプチドを同定することや、合理的に設計された化合物やリガンドを試験することも可能となる。例えばVit D3は、Vit D3が存在しない場合に、その試験化合物がMNAR−VDR相互作用および/または活性の代用となることができるかどうか、MNAR−VDR相互作用および/または活性を媒介することができるかどうかを決定するために、MNAR−VDRを含む反応への試験化合物の結合に拮抗させるために使用される。
【0095】
最小限、本発明の方法はMNAR中のLXXLLモチーフ 番号5(図1を参照)、VDR LBDを包含しそしてMNARに結合するVDRのアミノ酸110−427に依存する。
【0096】
相互作用および活性測定
相互作用アッセイ
MNAR機能のアゴニストまたはアンタゴニストは、MNARとVDRまたは他の核ステロイドホルモン受容体との間の相互作用、または、MNARとcSrcもしくはPI3 キナーゼまたは他のキナーゼとの間の相互作用を調節するか、または、MNARまたはVDRまたは他のステロイドホルモン受容体の活性を調節することによって作用する。公知の二重ハイブリッドアッセイまたは試験化合物によるタンパク質―タンパク質相互作用およびその崩壊を研究するための他の従来のアッセイを採用することができる。本発明によるMNARに特異的に結合する能力を有するリードリガンドを同定するためのインビトロシステムを敏速に設計することができる。一般的にこのようなスクリーニングアッセイは、2つの化合物が相互作用(例えば、結合)できるのに十分な条件と時間をかけた、野生型のMNARタンパク質および試験化合物を含む反応混合物の調製を含み、それによって検出可能な複合体が形成される。アッセイは、マイクロアレイの使用を含む様々な異なる方法で行われてもよい。
【0097】
タンパク質結合アッセイおよびゲルシフトアッセイは、結合を検出するのに有効なアプローチである。典型的なアッセイ法は、ラベルされたVDRまたはcSrcが固定化されたMNARに結合するのを、そして、ラベルされたMNARまたはMNARペプチドが固定化された核受容体(例えば、VDR)またはモジュレーター、例えばcSrcに結合するのを測定することを含む。多くの好適なアッセイ法はスケールアップして、多量の薬剤のスクリーニングに有用なハイスループットで使うことができる。用いられる好適なアッセイ法は、MNARの相互作用の特別な性質によって決定される。アッセイには、単一のMNAR、MNAR断片、MNAR融合産物、部分的なMNAR複合体またはMNARの核酸を含む基礎的な転写複合体全体を用いてもよい。
【0098】
MNAR−VDR−キナーゼ複合体の検出は、免疫アッセイおよびビオチン/アビジン(ストレプトアビジン、ニュートラアビジンを含む)結合相互作用のような特異的な結合アッセイを用いて達成される。本発明を実施するために用いることができるVDRやcSrcなどのキナーゼに対する市販の抗体、mycやFLAGタグなどの種々のラベル、および、セカンドメッセンジャーキナーゼは、R&D Systems社、ミネアポリス(Minneapolis)、MNおよびSanta Cruz Biotechnology社、サンタクルス(Santa Cruz)、CAを含む複数の製造元から利用可能である。MNARに対する抗体は、PCT出願WO2004/031223の公開された中に記載されており、ここでは参考文献により全文が含まれる。このような免疫アッセイとしては、ラジオイムノアッセイ(放射性免疫測定法)、ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)、“サンドウィッチ”免疫測定法、免疫放射線測定法、ゲル拡散沈降反応、免疫拡散測定法、in situ免疫測定法(例えば、コロイド状の金、酵素または放射線同位体ラベルを用いる)、ウェスタンブロット、沈降反応、凝集測定法(例えば、ゲル凝集測定法、血球凝集測定法)、補体固定測定法、免疫蛍光測定法、プロテインAアッセイおよび免疫電気泳動測定法が挙げられる。一の実施形態において、抗体の結合は、一次抗体上のラベルを検出することによって検出される。他の実施形態においては、一次抗体は、一次抗体に結合した二次抗体またはリガンドを検出することによって検出される。さらなる実施形態においては、二次抗体はラベルされている。免疫測定法における結合を検出する技術分野において多くの方法が知られており、これらは本発明の範囲に含まれる。
【0099】
その他のアッセイ法としては特に限定されず、二重ハイブリッドアッセイおよび表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイ法が挙げられ、このような相互作用の同定に用いることができる。酵母の二重ハイブリッドアッセイはYoungおよびOzenbergerによって米国特許第5989808号に記載されており、ここでは参考文献によって含まれる。SPRは、 Wegnerら、Anal. Chem. 2002; 74: 5161-5168; Cooperら、Anal Bioanal Chem. 2003;377(5):834-42;およびGambari、Curr Med Chem Anti-Canc Agents. 200;1(3):277-91に記載されている。
【0100】
マイクロアレイ
"アレイ"および"マイクロアレイ"の用語は互換的に用いられ、ここでは"プローブ"と呼ばれる、一般にあらゆる秩序ある配列(例えば、表面または基質上の)または種々の分子に適用される。アレイの各異なるプローブは、ここで"ターゲット(標的)"と呼ばれる特定の分子を特異的に認識するおよび/または結合する。マイクロアレイはそれゆえ、例えば試料中の多数の異なるターゲット分子の存在または不在を同時に検出するために有用である。試料中のプローブのターゲット分子の存在または不在は、したがってターゲットが表面または基質上の特定位置に結合するかどうかを単に判断することによって敏速に判断することができる。
【0101】
従来のマイクロアレイは、一般的にガラスのスライドやコンピュータのチップのような固体の非多孔性基質からなる。典型的なマイクロアレイの利用において、基質は、分析されるバイオマテリアルを含む試料と接触させられる。それから基質は、ラベルされた核酸、ポリペプチドまたは他の分子などのプローブ分子と接触させられる。ラベルされた分子は、試料中でその分子と結合する。結合しないプローブ分子は、例えば洗浄することにより除去され、マイクロアレイはその後適したシグナル検出装置、例えば蛍光発光、によって読み取られる。
【0102】
例えば、ある実施形態は、タンパク質、例えばMNAR、または、試験リガンド、例えばVDRまたはcSrcを固相上に固着する工程、反応の終わりの時点で、結合していないリガンドを除去(例えば、洗浄により)する工程を行った後、固相上のタンパク質と試験リガンドとの複合体を検出する工程を含む。例えば、このような方法の一の好ましい実施形態においては、タンパク質が固体表面に固着され、ラベルされた化合物またはポリペプチドがその表面に接触させられる。試験リガンドを、タンパク質と試験化合物またはポリペプチドとの間で複合体が形成されるのに十分な時間十分な条件下でインキュベートした後、結合していない試験リガンドの分子は表面から除去(例えば、洗浄により)され、そして残っているラベルされた分子が検出される。
【0103】
一の実施形態においては、変異体または変異タンパク質が固体表面または支持体に固着される。固体表面に固着されたタンパク質に結合する他のラベルされたタンパク質(試験化合物)は、タンパク質分解性酵素を用いて処理され、その断片が固体表面に固着されたタンパク質と相互作用する。洗浄後、処理されたタンパク質の短いラベルされたペプチドは、固着しているタンパク質と結合したままである。これらのペプチドは単離され、それらが由来する完全長のタンパク質の領域がアミノ酸配列によって同定される。
【0104】
また別の実施形態においては、1または2以上の異なる試験化合物が固相に付着され、タンパク質分子(例えば、ラベルされたMNARポリペプチド)がそこに接触させられてもよい。このような実施形態においては、変異タンパク質に結合する試験化合物が、固相または表面の上で結合したタンパク質の位置を決定することによって同定されるように、異なる試験化合物の分子を固相上の特定の位置で固相に付着させることが好ましい。再び、変異体および変異タンパク質を試験化合物として用いることができる。
【0105】
さらに、MNARおよびVDRポリペプチドを含むウェルにアンタゴニストとしてVit D3を用いてスクリーニングを行うことができ、試験化合物はVit D3の存在下または不在下でそのウェルに添加される。試験化合物/MNAR/VDRの相互作用のいかなる結合および形成も、ラベルされていないVit D3を添加することによって阻害されるであろう。
【0106】
オートメーション化されたマルチウェル型は、最もよく開発されたハイスループットスクリーニングシステムである。オートメーション化された96ウェルのプレートベースのスクリーニングシステムが最も広く使われている。プレートベースのスクリーニングシステムの最近の傾向は、反応ウェルの容積をさらに減らす方向にあり、それによってプレートあたりのウェルの密度が増加している(プレートあたり96ウェルから384および1536ウェルまで)。反応容積の減少は結果として処理量を増やし、生物試薬のコストを劇的に減少させ、そしてオートメーションによって処理されるのに必要なプレートの数を減少させる。ハイスループットスクリーニングに用いられるタンパク質アレイの説明に関しては、米国特許第6475809号、第6406921号、第6197559号を参照、ここでは引用文献により含まれる。
【0107】
活性測定。
いったんリード化合物やMNARタンパク質に特異的に結合する化合物が設計されまたは同定され、そして特徴付けられると、VDRを経由するシグナル伝達を調節できるかどうかを判断するためのアッセイに用いることができる。測定の例は、以下および実施例に記載される。
【0108】
活性測定は一般的に、試験薬剤の存在下または不在下での標的タンパク質の活性を測定するように計画されている。活性測定としては特に限定されないが、VDR転写活性を観察できる哺乳類形質移入アッセイが挙げられ、リードリガンドの同定に用いることができる。例えば、リガンドは、MNARによるVDR転写活性の増加を調節する能力によって選別されうる。またリガンドは、Src、ホスホリパーゼC、Erkキナーゼ1および2のようなセカンドメッセンジャーシグナル伝達に影響する能力によって選別されうる。このような化合物はMNARとVDRとの相互作用を調節することができる、または、例えばオステオカルシンまたはアルカリホスファターゼの転写活性、例えばリン酸化のようなキナーゼの活性化または酵素活性を含むMNARまたはVDRの既知のまたは未知の活性を調節することができる。
【0109】
MNARとVDRの活性を調節するリガンドのスクリーニングに用いられる一つの方法は、(a)VDRに結合できるLXXLLモチーフを含むMNARポリペプチドと試験化合物とを接触させる工程;および(b)該試験化合物が特異的に該ポリペプチドに結合するかどうかを判断する工程を含む。さらにこの方法は、(a)MNARポリペプチドとVDR受容体とを含む細胞に試験化合物を添加する工程;および(b)該化合物の添加前後のMNAR活性を比較する工程を含む。この方法へのさらなるアプローチは、MNAR活性を欠いているか、または、MNAR活性が非常に減少している変異体細胞を含むコントロール試料に試験化合物を添加する工程を含む。
【0110】
核受容体の非遺伝子性活性または遺伝子活性に影響する化合物を同定するための数多くのアプローチがある。一の実施形態においては、(a)試験化合物をMNARおよびVDRの複合体を含む細胞に添加する工程;および(b)前後の非遺伝子性活性に対する遺伝子活性を比較する工程を含む。特定の遺伝子活性は、従来の方法により測定することができる。好ましくは、MNARおよびVDRの存在下で細胞に試験化合物を添加した後、測定される非遺伝子性活性、例えば転写の増加または正の効果が、MNARの不在下での試験化合物を用いた遺伝子活性と比較して2倍増加することである。そしてMNAR不在下では、該試験化合物の添加後、非遺伝子性活性には変化が見られない。これらの方法においては、核受容体の少なくとも1つのリガンドが細胞内に存在するか、または、このようなリガンドに活性化されたキナーゼが存在するか、または、両方が存在することが好ましい。
【0111】
また、非遺伝子性活性のために試験化合物を選ぶ際には、該試験化合物をMNAR−VDRの存在下で細胞に添加した後、MNARの不在下における試験化合物の非遺伝子的活性と比較して少なくとも約2倍の増加が、例えば転写においてあるべきである。そしてそこでは、該試験化合物の添加後遺伝子活性には変化が観察されない。MNARの存在下でVDRの転写活性における増加または減少を判断することによって、効果を測定することができる。
【0112】
これらの各方法においては、化合物の非遺伝子性活性(または遺伝子活性)を評価するためにコントロールを用い、そしてそのコントロールはMNARおよびVDRの存在下で細胞に化合物を投与し、それからMNARの不在下で実験を繰り返し、非遺伝子性活性、例えばキナーゼ活性の量を比較する工程を含む。好ましい方法は、MNARまたはVDRおよび/またはcSrcもしくはPI3キナーゼ、または、これらの2つまたは3つすべてを過剰発現する細胞を用いる。化合物の遺伝子活性は、VDRを作用上受容体遺伝子と結合させることによって検出される。
【0113】
セカンドメッセンジャー活性を検出する1つの方法は、キナーゼアッセイを経由するものである。これは、無細胞系、細胞系または動物モデル系のアッセイを用いて行うことができる。このようなアッセイは、一次スクリーンにおいて選択された候補化合物の活性に対する二次スクリーンとして用いることができる。キナーゼアッセイは、一般的に32Pを細胞に取込ませ、細胞のタンパク質を単離し、リン酸化に特異的な抗体を用いる免疫ブロッティング法によってキナーゼのリン酸化状態を検出する。このようなアッセイは、技術分野において公知である。
【0114】
例えば、遺伝子から例えばmRNAへの転写における増加または減少の変化を検出するためのアッセイは、技術分野において公知である。このようなアッセイとしては、定量的なRT−PCRを含むRT−PCR、ノーザンハイブリダイゼーション、興味ある遺伝子を受容体遺伝子に連鎖させる形質移入アッセイなどが挙げられる。
【0115】
最適化
いったんターゲットに対する薬剤リードが1または2以上生み出されるかまたは同定されるかすると、多くの場合はまだその薬理学的な効果を改良するためにリードを最適化する必要がある。リードの最適化と呼ばれるこの工程においては、ターゲットへの結合を増加または減少させるため、分解性経路への感受性を変更するため、または、その薬物動態を変更するために、合成化学者がリードを化学的に修飾する。
【0116】
合理的なリード最適化は、実験的にリード−ターゲットの結合をスクリーニングする以前に、特定のターゲットに対するリード候補として有望な集合を判断する理論的な方法を用いることができる。合理的なリード最適化は、可能性があるリード−ターゲットスクリーンの数を減らすことによって、薬剤の発見時間と費用とを減らせる可能性を提供する。
【0117】
MNARにより媒介されるVDRアゴニスト/アンタゴニストのための合理的な薬剤設計およびスクリーニング
薬剤の発見は、2つの工程で行われる:1)ターゲットの同定および2)リードの同定および最適化。ターゲットを同定する第一の工程においては、ターゲット(標的)と呼ばれる細胞表面の受容体または細胞内タンパク質であってもよいが特に限定されない多数の分子が、関心のある特定の生物学的な経路または構造をもって同定される。いったん有望なターゲットが同定されると、そのターゲットが低分子との結合および相互作用に適当であるかどうかを判断するために、非常に多数の低分子に対して選別されなければならない。
【0118】
MNAR−VDR相互作用モデルは、MNARにより媒介されるVDRのリガンド、例えば、VDRが媒介する転写に影響を与えないが、例えば、MAPキナーゼ経路やホスホリパーゼC−ガンマ経路(PLCγ)の活性化を含むVDRが媒介する細胞シグナル伝達を調節するリガンドを創作するために用いることができる。
【0119】
構造の同定
モジュレーターの同定とスクリーニングは、X線結晶解析、中性子回折、核磁気共鳴分光法および構造決定のための他の技術を用いてタンパク質、例えばMNARまたはMNARとVDRとの相互作用の構造特性を決定することによって、さらに促進される。これらの技術は、アゴニストおよびアンタゴニストならびに部分的なアゴニストおよびアンタゴニストを含むモジュレーターの合理的な設計または同定を提供する。
【0120】
小さな分子やペプチド類似体の設計のために、1または2以上の化合物ペプチドのファルマコフォアに関する三次元構造を知ることは有益である。“ファルマコフォア”の用語は、標的タンパク質、例えばMNAR、に相補的な態様で三次元的な空間に位置し、標的タンパク質へのリガンドの結合の結果として生物学的活性を担う化合物またはペプチド類似体上の官能基のコレクションに適用される。有用な三次元ファルマコフォアモデルは、ターゲットの結晶学的な構造または核磁気共鳴構造から最もよく得られるが、関連するターゲットの構造に基づく相同モデルや、以前に発見された活性化合物の一連から見出される三次元の定量的構造−活性相関からも得られる。
【0121】
X線結晶解析技術は、技術分野においてよく知られており、通常の技能の範囲内である。例えば、CantorおよびSchimmel、Biophysical Chemistry 1980 (Vols. I-III) W. H. Freeman and Company (特に、Vol.IのChapter1-13およびVol.IIのChapter13)を参照。また、Macromolecular Crystallography, Parts A-B (CarterおよびSweet監修): Methods Enzymol. 1997, Vols. 276-277; Jan Drenth、Principles of Protein X-Ray Crystallography (New York: Springer-Verlag, 1994)を参照。
【0122】
天然のリガンドに結合したVDRの結晶構造は知られている(Rochelら、Mol Cell. 2000;5(1):173-9)。同様に、VDRのアゴニストの立体構造の構造的および機能的に重要なアミノ酸が知られており、アミノ酸残基H229、D232、E269、F279およびY295がある(Vaisanenら、Mol Pharmacol. 2002;62(4):788-94)。したがって、Vit D3へのMNARの結合に関与するLXXLLモチーフを与えると、活性化のためにリガンドに結合しなければならないVDRの重要な領域に連結するので、合理的に設計されたリガンドは、これらの活性の特定の局面を真似るように設計することができる。
【0123】
また、MNAR−VDR相互作用の三次元構造はたいてい、技術分野において公知の核磁気共鳴(NMR)技術によって決定することができる。NMRデータの取得は、適切な構造が得られることを確実にする生理的な条件に近く似ている水系において行われることが好ましい。簡単に言うと、NMR技術は、磁気モーメントまたはスピンを有する特定の原子核(H、13C、15Nおよび31Pなど)の磁気特性を利用して、このような核の化学的環境を分析する。NMRデータは、三次元モデルまたは分子を引き出すために用いることができる分子中の原子間の距離を決定するのに用いることができる。
【0124】
潜在的なリガンド
本発明においては、リガンドとしてペプチドリガンド(さらに線状または環状のペプチド類似体を含む)または化学化合物が挙げられる。このようなリガンドはVDRとMNARとの相互作用のような生物学的に活性なタンパク質の生物学的活性を選択的に真似ている、または、生物学的に活性なタンパク質の活性を選択的に阻害または選択的に拮抗するものである。
【0125】
化合物。
分子間、例えばVDRとMNARとの相互作用を媒介し、VDR受容体(またはVDR様の受容体)を発現する細胞に生物学的活性も与える構造ドメインは、合理的な設計化合物モジュレーターに用いることができる。これらの構造ドメインや、これらの構造ドメインの活性を調節できる他の機能的ドメインはすべて、生物学的活性を増大または減少させるために、種々の方法、特に限定されないが部位特異的変異導入法のような方法によって修飾することができる。これらのドメインの構造および形態は、VDRまたはVDR−MNAR複合体の活性および/またはVDR/MNAR/他のタンパク質複合体の活性の調節(増加または減少)のために、薬剤(低分子の従来の薬剤または新規な炭化水素、脂質、DNA/RNAまたはタンパク質ベースの高分子量の生物学的化合物)の合理的な設計の基礎として用いることができる。例えば、構造的な予想計算を用い、ことによると核磁気共鳴、円二色性および他の物理化学構造データような分光学的データまたは結晶学的データまたはこれら両方と組み合わせて、MNARおよび/またはVDRの構造に関する分子モデルを生み出すことができる。これらのモデルは、同様に合理的な薬剤設計に重要である。
【0126】
スクリーニングに関して、同定される化合物のクラスとしては特に限定されず、巨大分子(例えば、分子量約2kD以上の分子)だけでなく、低分子(例えば、分子量約2kD未満、より好ましくは分子量約1kD未満の有機または無機分子)も挙げられる。これらのスクリーニングアッセイにより同定された化合物としては、好ましくはペプチドやポリペプチドである。例えば、可溶性ペプチド、コンビナトリアルライブラリのメンバーである融合ペプチド(Lamら、Nature 1991, 354:82-84;およびHoughtonら、Nature 1991, 354:84-86により記載されるようなもの);D−および/またはL−立体配置のアミノ酸の分子ライブラリのようなコンビナトリアルケミストリーによって得られたライブラリのメンバー;ランダムまたは部分的に変性させた、定方向ホスホペプチドライブラリのメンバーのようなホスホペプチド(リンペプチド)(例えば、Songyangら、Cell 1993, 72:767-778を参照)。さらに、薬理学的な活性が十分に文書で立証されている高純度の有機低分子リガンドおよびペプチドアゴニストのライブラリが、Sigma-Aldrich社から入手可能である(LOPAC LIBRARYTM およびLIGAND-SETSTM)。またSigma-Aldrich社から入手可能なものに、植物の抽出物や微生物的培養物を含む100,000より多い低分子化合物の多様なライブラリであるAldrich Library of Rare Chemicalsがある。他の化合物ライブラリは Tripos社(LeadQuest)、TimTech社 (キナーゼモジュレーターに対するターゲットライブラリを含む)から入手可能である。
【0127】
化合物のライブラリを供給する他の会社として、以下の会社が挙げられる:3-Dimensional Pharmaceuticals, Inc.; Advanced ChemTech; Abinitio PharmaSciences; Albany Molecular; Aramed Inc.; Annovis, Inc. (以前はBearsden Bio, Inc.); ASINEX; AVANT Immunotherapeutics; AXYS Pharmceuticals; Bachem; Bentley Pharmaceuticals; Bicoll Group; Biofor Inc.; BioProspect Australia Limited; Biosepra Inc.; Cadus Pharmaceutical Corp.; Cambridge Research Biochemicals; Cetek Corporation; Charybdis Technologies, Inc.; ChemBridge Corporation; ChemDiv, Inc.; ChemGenics Pharmaceuticals Inc.; ChemOvation Ltd.; ChemStar, Ltd.; Chrysalon; ComGenex, Inc.; Compugen Inc.; Cytokinetics; Dextra Laboratories Ltd.; Discovery Partners International Inc.; Discovery Technologies Ltd.; Diversa Corporation; Dovetail Technologies, Inc.; Drug Discovery Ltd.; ECM Pharma; Galilaeus Oy; Janssen Pharmaceutica; Jerini Bio Tools; J-Star Research; KOSAN Biosciences, Inc.; KP Pharmaceutical Technology, Inc.; Lexicon Genetics Inc.; Libris Discovery; MicroBotanica, Inc.; MicroChemistry Ltd.; MicroSource Discovery Systems, Inc.; Midwest Bio-tech Inc.; Molecular Design & Discovery; MorphoSys AG; Nanosyn, Inc.; Ontogen Corporation; Organix, Inc.; Pharmacopeia, Inc.; Pherin Pharmaceuticals; Phytera, Inc.; PTRL East, Inc.; REPLICor Inc.; RSP Amino Acid Analogues, Inc.; Sanofi- Synthelab Pharmaceuticals; Sequitur, Inc.; Signature BioScience Inc.; Spectrum Info Ltd.; Talon Cheminformatics Inc.; Telik, Inc.; Tera Biotechnology Corporation.; Tocris Cookson; Torrey Pines Institute for Molecular Studies; Trega Biosciences, Inc.;およびWorldMolecules/MMD。
【0128】
さらに、ハーバード医療学校(Harvard Medical School)によって維持されているInstitute of Chemistry and Cell Biology(ICCB)は、スクリーニングのために、天然物ライブラリを含む以下の化学のライブラリを供給する: Chem Bridge DiverSet E (16,320化合物); Bionet 1 (4,800化合物); CEREP (4,800化合物); Maybridge 1 (8,800化合物); Maybridge 2 (704化合物); Peakdale 1 (2,816化合物); Peakdale 2 (352化合物); ChemDiv Combilab and International (28,864化合物); Mixed Commercial Plate 1 (352化合物); Mixed Commercial Plate 2 (320化合物); Mixed Commercial Plate 3 (251化合物); Mixed Commercial Plate 4 (331化合物); ChemBridge Microformat (50,000化合物); Commercial Diversity Set1 (5,056化合物); NCI コレクション: Structural Diversity Set, version 2 (1,900化合物); Mechanistic Diversity Set (879化合物); Open Collection 1 (90,000化合物); Open Collection 2 (10,240化合物);既知の生理活性コレクション: NINDS Custom Collection (1,040化合物); ICCB Bioactives 1 (489化合物); SpecPlus Collection (960 化合物); ICCB Discretes Collections。以下のICCB化合物は、ハーバードのICCBや他の共同研究機関で化学者から個別に集められた: ICCB1 (190化合物); ICCB2 (352化合物); ICCB3 (352化合物); ICCB4 (352化合物)。天然物抽出物: NCI海洋抽出物(352ウェル); 有機物の分画- NCI植物および真菌抽出物(1,408ウェル);フィリピンの植物抽出物1(200ウェル); ICCB-ICG Diversity Oriented Synthesis (DOS) Collections; DDS1 (DOS Diversity Set) (9600ウェル)。
【0129】
好ましい実施形態においては、化合物またはペプチドライブラリは、ターゲットを基にして設計される。広く多様なものよりむしろ、より焦点をあわせた化合物のライブラリを創作するために利用可能な数多くの技術がある。Chemical Computing Group, Inc.(モントリオール)は、ハイスループット薬剤設計への新しいアプローチを備えたソフトウェアを開発した。この会社の方法は、確率的なQSAR(Quantitative Structure Activity Relationship:定量的構造活性相関)モデルを創造するためにハイスループットスクリーニング(HTS)の実験データを用いる。このモデルは、後で仮想的なコンビナトリアルライブラリにおいて構築物を選択するために用いられる。これは、標準回帰分析の代わりに統計的な見積もりを基にする。
【0130】
さらに、ArQule,Inc.(Woburn,MA)もまたリードの最適化のために、化学化合物のハイスループット、オートメーション化した製造を行うためおよび既知の構造で高純度のこれらの化合物の十分量を届けるための統合した技術を持っている。そのAMAPTM(Automated Molecular Assembly Plant:オートメーション化した分子組立て工場) は、化合物の発見の各段階に関するハイスループット化学合成を行う。
【0131】
同様の化合物は、選択的な化合物の“サクランボ摘み”のために、しばしばオンラインデータベース上またはCD-ROM上で供給される。例えば、AbInitio PharmaSciences; ActiMol; Aral Biosynthetics; ASDI Biosciences; Biotechnology Corporation of America; Chembridge; ChemDiv; Florida Center - Heterocyclic Compounds; Microsource /MSDI; NorthStar; Peakdale; Texas Retaining Group; Zelinsky Institute; Advanced ChemTech; Ambinter; AnalytiCon Discovery; Aurora Fine Chemicals; Biofocus; Bionet /Key; Comgenex; Key Organics; LaboTest; Polyphor; SPECS and Biospecs;およびBharavi Laboratoriesを参照。
【0132】
ペプチド。
スクリーニングに有用なペプチドライブラリは、以下のソースから利用可能である: American Peptide Co., Inc.; BIOMOL Research Laboratories Inc.; Cell Sciences Inc.; GenoMechanix, LLC; Phoenix Pharmaceuticals Inc.; United States Biological; Advanced ChemTech Inc.; AerBio Ltd.; Amphotech Ltd.; AnaSpec Inc.; ANAWA Trading SA; Biomar Diagnostic Systems GmbH; BioSource International Inc.; Dalton Chemical Laboratories Inc.; Enzyme Systems Products Inc.; Peptides International Inc.; Princeton BioMolecules Corp.; Protein Technologies Inc.; Sigma-RBI; Synpep Corp.;およびXaia Custom Peptides。
【0133】
他のアプローチは、多数のライブラリを作るために組換えバクテリオファージを用いる。"ファージ法" (ScottおよびSmith、Science 1990, 249:386-390; Cwirlaら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1990, 87:6378-6382; Devlinら、Science 1990, 49:404-406)を用いると、非常に多くのライブラリを構築することができる(106−108の化学実体)。第二のアプローチは、Geysen法(Geysenら、Molecular Immunology 1986, 23:709-715; Geysenら、J. Immunol. Meth. 1987, 102:259-274;およびFodorらの方法(Science 1991, 251:767-773))が例である化学的方法を、主として用いる。Furkaら(14th International Congress of Biochemistry 1988, Volume #5, Abstract FR:013; Furka, Int. J. Peptide Protein Res. 1991, 37:487-493)、Houghton (米国特許第4631211)およびRutterら(米国特許第5010175号)は、アゴニストまたはアンタゴニストとして試験されうるペプチド混合物の製造方法を記載している。ファージディスプレイキットは、例えば、Ph.D.TMから入手可能である。
【0134】
ペプチドは、タンパク質−タンパク質相互作用、例えばMNARおよびVDR、に関係する生物学的に活性なタンパク質の特定の線状で制約された不連続部分を同定することによって合理的に設計され、産生される。このような特定の不連続部分を同定することによって、生物学的に活性なタンパク質の生物学的活性を真似る、または、生物学的に活性なタンパク質の活性を阻害する、または、生物学的に活性なタンパク質を選択的に活性化する生物学的に活性なペプチドを構築することができる。このように、細胞の受容体部位に結合することによって機能または作用を変えるかまたは影響する、または、天然の生物学的に活性なタンパク質が受容体に結合するのを妨げ、それによって生物学的に活性なタンパク質の細胞への作用を妨げる、または、受容体を選択的に調節する、哺乳動物細胞上で作用するリガンドのように作用する生物学的に活性なペプチドを構築することができる。
【0135】
ペプチドは、技術分野において通常の技能を有するものによって、公知の技術および容易に利用可能な出発物質を用いて合成することができる。本発明において、ペプチドを合成または構築する参考文献は、ここでは、タンパク質−タンパク質相互作用に関係すると同定されたMNARおよびVDRの対応する領域と配列または構造において同様のペプチドの生産について言及するためであると解釈される。これらのペプチドは、技術分野において知られているいかなる方法−真核生物または原核生物の発現系でインビトロまたはインビボでの生物学的合成だけでなく化学合成も含むがこれに限定されない−を用いて製造されてもよい。ペプチドは対応する領域のみからなるものでもよく、対応する配列および付加的な配列を含んでいてもよい。
【0136】
本発明のペプチドは、生産されたときに生物学的に活性であるかもしれないが、生物学的に活性である三次元構造を推定するために修飾を必要とするかもしれない。一般的に、ペプチドは生産されたときに活性である。しかしながら、活性のためにいくらかの修飾が必要な場合もあり、活性を改良したり変更したりするために、いくらか修飾することが望ましい場合がある。
【0137】
修飾は、本発明においては特に限定されない標準的な技術を用いて行うことができ、環化、ジスルフィド結合の形成、グリコシル化(糖修飾)、リン酸化または天然のペプチドおよび/または類似体中には一般的に見出されない化学結合によって有用な三次元立体配置を作るのに働くアミノ酸残基を含むアミノ酸残基の付加または削除が挙げられる。このようなものとしては特に限定されず、Freidingerら、1980, Science 210:656; Hindsら、1988, J. Chem. Soc. Chem. Comm. 1447; Kempら、1984, J. Org. Chem. 49:2286; Kempら、1985, J. Org. Chem. 50:5834; Kempら、1988, Tetrahedron Lett. 29:5077; Jonesら、1988, Tetrahedron Lett. 29:3853に記載されているものが挙げられる。
【0138】
さらに、本発明においてループまたはマルチループ構造のダイマーまたはオリゴマーを創るために、標準的な技術を用いて修飾を行ってもよい。
【0139】
ペプチド類似体。
ペプチド類似体はMNARの少なくとも一部が修飾された化合物で、ペプチド類似体の三次元構造は、実質的には成熟したMNARタンパク質の関連がある相互作用領域と同じままであり、この化合物は依然としてVDRと結合することができ、そしてVDRを調節することができる。一の実施形態において、ペプチド類似体は、リガンド依存的な態様でVDRに結合するように設計される。他の実施形態においては、ペプチド類似体は、単一の分子としてMNAR結合領域(VDRへの)およびVDRの天然または合成リガンドの領域両方を真似る。そしてその結果、MNAR−リガンド−VDR相互作用に類似する様式でVDRを調節する。
【0140】
ペプチド類似体は、それ自体が、MNAR配列に1または2以上の置換または他の修飾を含む環状ペプチドであるペプチドアナログであってもよい。また、MNARの三次元構造が実質的に保持されるように、少なくとも配列の一部が非ペプチド構造で置き換えられていてもよい。言い換えると、結合を改良するために、例えばLXXLL配列内の1、2または3つのアミノ酸残基が非ペプチド構造によって置き換えられていてもよい。
【0141】
さらに、必要ではないが、MNARの他のペプチド部分が非ペプチド構造に置き換えられてもよい。ペプチド類似体(ペプチドおよび非ペプチド性アナログの両方)は、改良された性質(例えば、タンパク質分解の減少、保持の増加または生物学的利用能の増加)を有していてもよい。ペプチド類似体は一般的に経口有効性が改良されており、癌や骨粗鬆症のような状態の治療に特に適したものとなる。ペプチド類似体が類似の二次元化学構造を有しているまたは有していない場合でも、共通の三次元構造特性および配置を共有していることは注目すべきである。各ペプチド類似体はさらに、1または2以上の特有のさらなる結合要素を有する。本発明は、ペプチド類似体を同定する方法を提供する。ペプチド修飾の種々の修飾が技術分野において知られており、ペプチド類似体化合物を生産するために用いることができる。例えば、国際特許公報WO01/53331号を参照。以下記載する特異的な修飾だけでなく、このような修飾も本発明においてペプチド類似体化合物を生成するために用いることができる。
【0142】
すべてのペプチド類似体は、例えばMNARのLXXLLモチーフの三次元構造と実質的に類似する三次元構造を有していることが好ましい。一般的に2つの三次元構造は、QUANTAプログラム(QUANTAは、Molecular Simulations Inc., San Diego, Calif.から入手できる)の中のMolecular Similarity moduleを用いて計算されるそれらのファルマコフォアの原子の配置が1オングストロームより少ないかまたは等しい根平均二乗変異(RMSD)を有する場合に、互いに実質的に構造が類似していると言われる。すべてのペプチド類似体は、MNARの低エネルギー三次元構造の少なくとも1つと実質的に類似する低エネルギー三次元構造を少なくとも1つ有する。
【0143】
インビボスクリーニング
本発明の一の実施形態においては、例えば、骨粗鬆症、骨芽細胞消失マウス(Mizunoら、Biochem Biophys Res Commun. 1998 29;247(3):610-5) または可溶性破骨細胞分化因子を過剰発現するマウス(Mizunoら、Bone Miner Metab. 2002;20(6):337-44)のようなトランスジェニックマウスまたはノックアウトマウスを妨げるために、タンパク質−タンパク質複合体の活性または形成を阻害する薬物を同定し、試験し、または、最適化する。ノックアウトまたはトランスジェニック動物のアッセイシステムは、MNARのような薬物の標的タンパク質の発現または活性を調節することによって骨粗鬆症または他の骨の障害を減少させるか防ぐ薬剤または薬物、特にMNARおよびVDRおよび/またはcSrcもしくはPI3キナーゼ間の相互作用を調節する薬物の試験に用いることができる。
【0144】
本発明の他の態様においては、骨の障害やMNARと相互作用することがわかっているステロイドホルモン受容体に関連する他の疾患におけるMNARの役割をさらに解明するために、または、MNARが相互作用し、それらの活性を調節する他のタンパク質を解明するために、MNARトランスジェニックまたはノックアウトマウスを用いることができる。
【0145】
本発明のために用いられるトランスジェニックマウスは、どのような方法によっても準備することができ特に限定されず、胚性肝(ES)細胞の修飾や芽細胞へのヘテロ核の注入が挙げられ、そしてこのような方法は技術分野において知られている(例えば、Coffman、 Semin. Nephrol. 17:404, 1997; Estherら、Lab. Invest. 74:953, 1996; Heddle, Environ Mol Mutagen 32:110 4, 1998; Wernerら、Arzneimittelforschung 48:870 80, 1998;米国特許第4,736,866号 (LederおよびSteward);第4,870,009号(Evansら);第5,718,883号(HarlanおよびJune);第5,614,396号(Bradleyら);および第5,650,503号(Archibaldら)参照。
【0146】
“ノックアウト哺乳動物”は、遺伝子ターゲッティング方法により不活性化された特定の遺伝子をそのゲノム中に含む哺乳動物(例えば、マウス)である(例えば、米国特許第 5777195号および第5616491号を参照)。ノックアウト哺乳動物は、ヘテロ接合性ノックアウト(すなわち1つは欠損対立遺伝子座で、1つは野生型対立遺伝子座)であってもよく、ホモ接合性の変異体であってもよい。
【0147】
“ノックイン(knocked-in)”哺乳動物は、内因性遺伝子が異種遺伝子で置換された哺乳動物である(Roamerら、New Biol. 1991;3:331)。好ましくは、相同遺伝子の発現または機能を評価する目的で(この場合、遺伝子はレポーター遺伝子であってもよい:Elegantら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA; 95:11897, 1998を参照)、異種遺伝子が興味ある遺伝子座に“打ち込まれ(knocked-in)”、それによって、異種遺伝子の発現を適当なプロモーターから転写につなげる。これは、相同性組換え、トランスポゾン(WestphalおよびLeder、Curr Biol 1997;7:530)、変異体の組換え部位を用いる (Arakiら、Nucleic Acids Res, 25:868; 1997)、またはPCR(ZhangおよびHenderson、Biotechniques 1998;25:784)により達成される。例えば、MNAR遺伝子がトランスジェニック動物のゲノムに安定的に挿入されると;または、例えば遺伝子活性化技術によって動物が恒常的に内因性MNARを発現するように遺伝子的に操作されると、トランスジェニック“ノックイン”動物が創られる。
【0148】
骨の障害、皮膚障害および癌の治療
ここで用いられる“治療上の有効量”の用語は、骨の減少に特徴がある疾患にかかりやすい、または、病んでいる個々の人に化合物の治療上の有効量を投与した場合に、その個々人において骨の減少率が減少すると観察される医療上の効果を生じる化合物の量を意味する。治療上の有効量は一般的に、活性成分を含まない組成物が同じ状態の個々人に投与される場合に観察される効果と比較した効果によって決定される。
【0149】
例えば、MAPキナーゼ活性を選択的に刺激することが知られているVDRのリガンドは、カルシウムの恒常性には影響を与えずに骨を節約する重要な作用を有し、骨粗鬆症の治療に用いることができる。また、VDRが媒介する細胞のシグナル伝達を選択的に調節するVDRのリガンドは、皮膚癌の患者の治療に用いることができる。これらの薬物はVit D3の高カルシウム血症効果を有さないので、Vit D3を用いる治療の重要な改良である。最後に、合理的に設計されたリガンドの選択的な性質は、しばしば結果として吐気、頭痛、骨痛、高血圧および腎臓障害を引き起こす高カルシウム血症のような、Vit D3の治療としばしば関連する多数の副作用を減少または抑制する。
【実施例】
【0150】
本発明は、特定の実施例を用いても説明される。しかし、このような実施例の使用は、単なる例示であり、本発明や例示されたいかなる用語の範囲や意味を限定するものではない。同様に本発明は、ここに記載されるいかなる特定の好ましい実施形態にも限定されない。実際、本発明の多くの変更や変種は、この明細書を読んだこの技術分野の当業者には明らかであろうし、その趣旨および範囲から外れることなく行われうる。したがって本発明は、請求項が権利を与えられるのと同等のものの全範囲に加えて、添付の請求項の用語によってのみ限定される。
【0151】
以下の実験は、VDRがリガンド依存的にMNARと相互作用すること、および、この相互作用がMNARのLXXLLモチーフ 番号5によって媒介されることを示唆する。VDRは、Vit D3の存在下でcSrcと相互作用し(cSrcのSH2ドメインを介して)、そしてMNARの過剰発現は、Vit D3に誘導されるMNAR−cSrc相互作用(srcのSH3ドメインを経てPXXPモチーフを通して)を経るMAPキナーゼ経路の活性化、および、Erkキナーゼ1および2のリン酸化を増加させる。
【0152】
VDRl/MNAR/PI3キナーゼの相互作用も、以下に記載されるER/MNAR/PI3キナーゼが関与する三元複合体の形成に観察される結果を元に予測される。cSrcと同様に、MNARがPI3キナーゼのp85サブユニットのSHドメインを介してPI3キナーゼと相互作用することがわかった。
【0153】
これらの結果は、MNARが核受容体相互作用をキナーゼに媒介される細胞シグナル伝達に組み込む足場タンパク質(scaffolding protein)であることのさらなる証拠を提供するものであり、そして以前に提案されたMNAR作用のモデルと一致する。
【0154】
実施例1: MNARとVDRとの結合
方法
試薬。
1,25(OH)Vit D3は、Sigma社から入手した。種々のMNAR LXXLLモチーフに対応するビオチン化したペプチドはWyeth Research でPeptide Chemistry groupによって合成され、精製された。グルタチオンセファロースビーズは、Sigma社から入手した。抗ホスホチロシン抗体、SuperSignal Elisa Pico ペルオキシダーゼ基質およびReacti-BindTM NeutrAvidinTM でコートしたマイクロプレートは、Pierce社から入手した。
【0155】
GSTプルダウン相互作用分析。
GST−VDR−LBDと呼ばれるVDRのリガンド結合ドメインであるアミノ酸110−427へのGST融合物がBL−21細胞で発現され、グルタチオン−セファロース4B(Amersham Biosciences社、Piscataway, NJ)に結合した。野生型MNARはPromega社のTNT Quick Coupled Transcription /Translation System (Madison, WI)を用いて転写され/翻訳されそして35S放射標識され、室温で1時間グルタチオン−セファロース4Bに結合したGST−VDR−LBD融合タンパク質と共に、100nM 1,25(OH)2Vit.D3の不在下または存在下で結合バッファー(50mM Tris pH8.0、150mM NaCl、1mM DTT、1mM PMSF、1mM EDTA、0.05% NP−40、1Xプロテアーゼ混合物)中でインキュベートされた。ビーズをその後結合バッファーで4回洗浄し、結合しているタンパク質をSDSバッファーを添加して溶出させ、SDS−PAGEおよびオートラジオグラフィーで分析した。
【0156】
ELISAをベースにしたVDR−MNAR相互作用分析。
迅速な、非アイソトープのELISA型方法がVDR−MNAR相互作用を評価するために用いられた。種々のMNARのLXXLLモチーフに対応するビオチン化されたペプチドモチーフ(最N末端モチーフから、連続して1−9まで設計された)が合成され、Reacti-BindTM NeutrAvidinTMでコートされたマイクロプレート(Pierce Biotechnology社、Rockford, IL)上に固定化された。マイクロプレートを結合バッファー(50mM Tris−HCL、pH8.0、150mM NaCl、1mM DTT、1mM EDTA、0.01% NP−40および0.01%BSA)で2回洗浄した。ペプチドは、100μlの結合バッファーで最終濃度50μMに希釈し、Reacti-BindTM NeutrAvidinTMでコートしたマイクロプレートと共に1時間室温でインキュベートし、結合バッファーで4回洗浄した。溶媒または1μM 1,25(OH)D3でプレインキュベートしたGST−VDR−LBDを、各MNAR LXXLモチーフのうちの1つに対応する固定化されたペプチドと室温で2時間相互作用させた。プレートを結合バッファーで4回洗浄し、HRP(Sigma社、St. Louis, MO)に融合させた抗GST抗体と共に結合バッファー中で1時間インキュベートし、さらに4回洗浄した。抗原/抗体複合体を検出するためにSuperSignal ELISA Pico Chemiluminescent Substrate (Pierce Biotechnology社、Rockford, IL) を用い、Wallac Victor2 1420 Multilabel Counter (PerkinElmer Lifesciences社、Boston, MA)を用いてシグナルを読んだ。
【0157】
結果
MNARはVDRのリガンド結合ドメインと相互作用する。
GSTプルダウンは、MNARとVDRとの相互作用を証明する。図1に示されるデータは、MNARがリガンド依存的態様でVDR−LBDと直接相互作用することを示唆する。
【0158】
VDRはMNARのLXXLLモチーフ#5と相互作用する。
MNARは、潜在的にMNARと核ホルモン受容体の相互作用を媒介することができる10の推定上のLXXLLモチーフを有する。HRPに融合した抗GST抗体を用いたELISAアッセイの結果(図2)は、VDRリガンド結合ドメインがMNARのLXXLLモチーフ#5に対応するペプチドとリガンド依存的に相互作用したことを証明する。
【0159】
実施例2: MNARによるVDR活性のアゴニスト活性化
方法
ウェスタンブロッティング分析。
UMR−106細胞を、コントロールまたはMNAR発現ベクターを用い、Lipofectamine 2000試薬を用いて製造会社が示す手順に従って形質移入した。形質移入に次いで、細胞をさらに2%チャコール処理FBSを補った培地中で48時間培養した。48時間後、細胞を10nM 1,25(OH)2D3で指示された時間処理した。細胞をすすぎ、冷たいPBS中で回収し、その後遠心分離し、そして上澄みを除去した。細胞を、2倍の体積の溶解バッファー(20mM Tris−HCL pH7.5、150mM NaCl、1mM Na2EDTA、1mM EGTA、1% Triton、2.5mM リン酸ナトリウム、1mM ベータグリセロホスフェート、1mM NaVO4、1μg/μlロイペプチン)を用いて溶解させた。細胞の残骸を遠心分離によって除去し、等量のタンパク質をSDS−PAGEにかけた。分離されたタンパク質はニトロセルロース膜に移され、MNAR、ERKおよびp−ERKの量がウェスタンブロッティング分析によって決定された。
【0160】
定量的PCR(TaqMan)分析。
UMR−106およびROS 17/2を、コントロールまたはMNAR発現ベクターを用い、Lipofectamine 2000試薬を用いて製造会社が示す手順に従って形質移入した。次いで細胞を2%チャコール処理FBSを補った培地中で培養した。16時間後、形質移入細胞を100nM 1,25(OH) Vit.D3で24または48時間処理した。細胞を溶解させ、全RNAをRNeasy Kit(Quiagen社)を用いて単離した。UMR−106 細胞中のオステオカルシン量およびROS 17/2.8細胞中のアルカリホスファターゼ量を決定するために定量的PCR(TaqMan)を行った。
【0161】
結果
MNARはErk活性のビタミンDの刺激作用を高める。
UMR−106細胞を、コントロールまたはMNAR発現ベクターを用いて形質移入し、そして10nM 1,25(OH) Vit.D3で0、5、10または20分間処理した。UMR−106細胞抽出物中のErk1および2のリン酸化レベルを、リン酸化されたErk1および2に対する抗体を用いたウェスタンブロッティング分析によって評価した(図3)。UMR−106細胞を1,25(OH) Vit D3で10または20分間処理すると、その結果MNARの不在下でリン酸化Erk1および2の量が増加した。しかしながら、MNARの過剰発現は、Erkのリン酸化の劇的な増加を導いた。これらの結果は、MNARが 1,25(OH) Vit D3に誘導されるMAP キナーゼ経路の活性化を調節することを示している。
【0162】
MNARはビタミンD依存の遺伝子発現を調節する
MNARが1,25(OH) Vit D3に誘導される遺伝子発現に影響をあたえるかどうかを調べるため、1,25(OH) Vit.D3で処理したUMR 106およびRos 17/2.8細胞から単離されたRNAを用いて定量的PCRを行った。UMR−106細胞を、コントロールまたはMNAR発現プラスミドを用いて形質移入し、RNAを単離してTaqMan分析によって分析した(図4)。1,25(OH) Vit D3を用いた処理自体は、オステオカルシンの発現量に影響を与えなかった。しかしながらMNARの過剰発現は、結果としてオステオカルシンの基礎的および1,25(OH) Vit D3に刺激された量の両方に対して強い増強となった。
【0163】
MNARが、骨芽細胞の分化に関する重要なマーカーであるアルカリホスファターゼ(AP)の発現に影響を及ぼすかどうかについても調べられた。コントロールまたはMNAR発現プラスミドを用いて形質移入され、溶媒または1,25(OH) Vit.D3で処理されたRos 17/2.8細胞由来のRNAを単離し、TaqMan分析に用いた(図4B)。MNARの過剰発現は、AP発現量の1,25(OH) Vit D3の誘導を強力に高めた。これらの結果は、MNARが1,25(OH) Vit.D3依存性遺伝子発現や骨芽細胞の分化を調節することができることを証明し、MNARがVit D3に媒介される骨の成長において重要な役割を果たしていることを示唆する。
【0164】
実施例 3: MNARによるERにおけるPI3キナーゼの調節
方法
近年MNARが、ERにおけるPI3/Aktキナーゼにより媒介されるシグナル伝達に、ER/MNAR/PI3キナーゼ三元複合体の形成を介して作用することが分かった。MNARが、VDRを通してシグナル伝達するPI3/Aktキナーゼに同様の効果を有することが予想される。
【0165】
形質移入および細胞溶解物の調製。
MCF−7細胞を、コントロール、MNAR発現ベクター、非特異的siRNAまたはMNAR特異的siRNAを用い、Lipofectamine 2000試薬を用いて製造会社が示す手順に従って形質移入した。形質移入に次いで、細胞を2%チャコール処理FBSを補った培地中で48時間培養した。48時間後、細胞を10nMの17β−エストラジオールで指示された時間処理した。細胞をすすぎ、冷たいPBS中で回収し、その後遠心分離し、そして上澄みを除去した。細胞を、2倍の体積の溶解バッファー(20mM Tris−HCL pH7.5、150mM NaCl、1mM NaEDTA、1mM EGTA、1% Triton、2.5mMリン酸ナトリウム、1mMベータグリセロホスフェート、1mM NaVO4、1μg/μlロイペプチン)を用いて溶解させた。細胞の残骸を遠心分離によって除去した。非特異的siRNAまたはMNAR特異的siRNAは、RNA干渉のためにDharmacon社によって開発された。
【0166】
免疫沈降およびキナーゼアッセイ。
ERαを、モノクローナル抗ERα抗体(D12, Santa Cruz社)を用いて60分間4℃で細胞溶解物(1mg/mlのタンパク質)から免疫沈降し、その後protein G−Sepharoseの50%懸濁液を20μl添加し、さらに60分間インキュベートした。試料を遠心分離し、ペレットを1mlの溶解バッファーで4回洗浄し、免疫ブロットによって分析した。p85を、抗p85ポリクローナル抗体(Upstate Biotech社)を用いて細胞溶解物(1mg/mlのタンパク質)から免疫沈降した。
【0167】
PI3−K反応のために、p85を上述したように細胞溶解物から免疫沈降した。免疫沈降物におけるキナーゼ活性は、Echelon Biosciences 社からのPI3−キナーゼELISAキットを用い、製造会社の説明書に従って検出された。簡単に言うと、反応は、5μlの10X反応バッファーおよび10μlのPI(4,5)P2基質溶液(10μM)をp85免疫沈降物に加えることによって体積50μlで行われる。PI3−K反応が完了すると、反応生成物は、まずPI(3,4,5)P3検出抗体と混合され、インキュベートされ、その後、競合的結合のためにPI(3,4,5)P3でコートしたマイクロプレートを添加される。プレートに結合したPI(3,4,5)P3検出抗体を検出するために、ペルオキシダーゼAに連結された二次検出試薬および比色の検出を用いた。比色のシグナルは、PI3−K活性によって生成したPI(3,4,5)P3量に反比例した。
【0168】
Aktキナーゼ活性は、 Cell Signaling社からのキット(cat# 9840)を用いて、抗Akt抗体を用いる免疫沈降において検出された。簡単にいうと、1mgのGSK−3融合タンパク質をAkt−免疫沈降物に基質として添加した。製造会社から供給された反応バッファー中でキナーゼ反応を行った。キナーゼ反応において生産されたp−GSK−3量はウェスタンブロッティング分析によって分析された。
【0169】
ウェスタンブロッティング分析。
細胞溶解物からの等量のタンパク質をSDS−PAGEにかけた。分離されたタンパク質はニトロセルロース膜に移され、Aktおよびp−Aktの量がウェスタンブロッティング分析によって決定された。Akt抗体は、Cell Signaling社のからのものである(抗-Akt cat#9272, 抗-p-Akt cat# 9271)。
【0170】
結果
ERα、MNARおよびp85はMCF−7細胞において相互作用する。
ERがPI3キナーゼのp85サブユニットと相互作用することは、以前に分かっていた(Migliaccioら、J. Steroid Biochem. Mol. Biol. 2002;83(1-5):31-5)。内因性のER、MNARおよびPI3−Kの調節サブユニット−p85がMCF7細胞において相互作用するかどうか、初めて評価された。この問題に取り組むため、静止状態のMCF−7細胞を刺激しないか、または、10nMエストラジオールで20分間刺激した。溶解バッファーを用いて細胞を溶解させ、細胞溶解物を、抗ERαまたは抗p85α抗体と共に免疫沈降した。各免疫沈降物を、抗p85α、抗ERαまたは抗MNAR抗体を用いて免疫ブロットによって分析した。結果から、エストラジオールによる処理が、MNAR、p85およびERαの免疫共沈降を誘発したことが分かった。コントロールの免疫沈降物においては、会合は検出されなかった。これらのデータは、内因性MNAR−ERαおよびp85がMCF7細胞において相互作用することを示している。特に、MNARはp85のSH3ドメインを介してp85と相互作用する。
【0171】
PI3−Kのエストラジオール依存性活性化におけるMNARの役割
エストラジオールに誘導されるPI3−Kの活性化に関するMNARの効果を調べるために、MNARを発現するプラスミドまたはMNARの発現を減少させるためにMNAR特異的siRNAを用いてMCF−7細胞を形質移入した。形質移入の48時間後、細胞を未処理でまたは10nMエストラジオールで20分間処理し、回収し、細胞抽出物におけるPI3−K活性の量を評価した。PI3キナーゼ活性を評価するために、p85免疫沈降物によるPtdIns−3Pの生成を測定した。結果から、エストラジオールでMCF−7細胞を処理するとPI3−キナーゼ活性を刺激することが分かった。MNAR過剰発現は、PI3−Kのエストロゲン依存性活性化を増大させた。対照的に、MNAR特異的siRNAを用いて細胞がMNARを欠乏すると、その結果エストラジオールによるPI3−Kの活性化量が減少した。さらに、ERアンタゴニストであるICI 182 780と同様に、PI3−K阻害剤であるLY294002は、PI3−K活性におけるエストラジオールの効果を阻害した。これらのデータは、MNAR−ERおよびp85間の相互作用がPI3キナーゼの活性化を導くことを示唆している。
【0172】
MNARはAktのエストラジオール依存性活性化を調節する。
PI3キナーゼの活性化がAktの活性化を導くこと、および、AktがPI3−Kに開始されるシグナル伝達の主要な媒介物質であることは、十分証明されている。下流のターゲットの活性を調節することによって、Aktは細胞の生存および細胞周期の進行を促進する。MNARがエストラジオールへの応答におけるAktのリン酸化および活性化に作用するかどうかを評価するため、MCF−7細胞をMNAR発現プラスミドまたはMNAR特異的siRNAで形質移入した。形質移入の48時間後、細胞を処理しないか、または、10nMエストラジオールで20分間処理した。その後細胞抽出物を調製し、ウェスタンブロッティング分析を用いてリン酸化されたAkt量を分析した。エストラジオールを用いたMCF−7細胞の処理は、リン酸−Aktを増加させた。このことに加えて、MNARに特異的なsiRNAを用いて形質移入した細胞においてAktのリン酸化の強力な減弱化が観察されたが、非特異的siRNAを用いて形質移入された細胞では観察されなかった。これらの結果は、空のベクターを用いて形質移入された細胞と比較して、MNAR発現プラスミドを用いて形質移入された細胞において検出されたリン酸化Aktが強力な増加を示したことと一致する。これらのデータは、MNARがエストラジオールへの応答におけるAktのリン酸化量を調節することを示唆する。
【0173】
Aktのリン酸化の増加がその活性化を導くかどうかを調べるため、空のベクターまたはMNAR過剰発現のためのプラスミドを用いてMCF−7細胞を形質移入した。形質移入の48時間後、細胞を未処理でまたはエストラジオールで20分間処理し、その後回収し、Aktを抗Akt抗体を用いて免疫沈降した。キナーゼ反応は、GSK−3由来のポリペプチド基質を用いて沈殿したAktを用いて行った。活性化されたAktがGSK−3をリン酸化することは、公知である。ウェスタンブロッティング分析を用いてGSK−3のリン酸化量を評価した。この実験結果は、MNARの過剰発現がエストラジオールに誘導されるAktの活性化を刺激することを証明する。
【0174】
まとめると、これらのデータは、MNARがエストラジオールへの応答におけるPI3/Aktキナーゼ経路の活性化において非常に重要な役割を果たしていることを証明する。同様のことが、VDR/MNAR/p85の相互作用および三元複合体の形成を経る、VDRを介するPI3/Aktキナーゼシグナル伝達から予想される。
【0175】
本発明は、ここに記載された特定の実施形態によって範囲を限定されない。実際、ここに記載されたことに加えて、本発明の種々の変更は、前述の記載および添付の図面から、当業者にとって明らかとなるであろう。このような変更は、添付の請求項の範囲内となるように意図される。
さらに、すべての値はおおよそであり、説明のために提供されると理解される。
【0176】
特許、特許出願、出版物、製品の説明およびプロトコルがこの出願の至る所に引用されており、これらの開示は、すべての目的に関してここでは引用文献によってそれらの全体が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0177】
【図1】MNARがVDRのリガンド結合ドメインと相互作用することを示す。
【図2】VDRがMNARのLXXLL#5と相互作用することを示す。
【図3】MNARがビタミンD3に刺激されるErkの活性化を高めることを示す。
【図4】MNARがVDR依存性遺伝子発現を調節することを示す。
【図5】MNARの構成の模式図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MNARとビタミンD3受容体との相互作用を調節するリガンドを同定する方法であって、
(a)(i)5番目のLXXLLモチーフを含むMNARポリペプチド;および
(ii)リガンド結合ドメインを含むビタミンD3受容体ポリペプチド
を含む反応混合物に試験化合物を接触させる工程、
そしてこの工程においては、該反応混合物の状態が、結合複合体を形成するMNARポリペプチドのビタミンD3受容体ポリペプチドへの結合を可能にする;
(b)該反応混合物における該試験化合物の存在下での該結合複合体の形成量を検出する工程;および
(c)該試験化合物の存在下で形成された該結合複合体の量と、該試験化合物の不在下で形成された該結合複合体の量とを比較する工程、
そしてこの工程においては、該試験化合物の存在下で形成された該結合複合体の量の増加が、該試験化合物がリード化合物であるかもしれないことを示唆する、
を含む方法。
【請求項2】
前記MNARポリペプチドが配列番号:4に表されるアミノ酸配列を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反応混合物が細胞系(Cell−based)である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記反応混合物が無細胞系(Cell−free)である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記MNARポリペプチドが最小限LXXLLモチーフ 番号5を含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記方法がさらに試験化合物のビタミンD3受容体ポリペプチドへの結合を検出する工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項7】
MNARとビタミンD3受容体との相互作用におけるビタミンD3受容体の活性を調節するリガンドを同定する方法であって、
(a)(i)MNARポリペプチド;および
(ii)機能性ビタミンD3受容体ポリペプチドを含む宿主細胞
を含む反応混合物に試験化合物を接触させる工程、
そしてこの工程においては該反応混合物の状態が、結合複合体を形成するMNARポリペプチドのビタミンD3受容体ポリペプチドへの結合を可能にする;
(b)該反応混合物における該試験化合物の存在下でのビタミンD3受容体の活性を検出する工程;および
(c)該試験化合物の存在下での該活性量と、該試験化合物の不存在下での該活性量とを比較する工程
そしてこの工程においては該試験化合物の存在下での活性量の増加が、該試験化合物がVDRの活性を調節するリガンドであるかもしれないことを示唆する、
を含む方法。
【請求項8】
前記MNARポリペプチドが配列番号:4に表されるアミノ酸配列を含む請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記MNARポリペプチドがLXXLLモチーフ 番号5を含む請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記方法がさらに試験化合物のビタミンD3受容体ポリペプチドへの結合を検出する工程を含む請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記宿主細胞が骨肉腫細胞である請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記骨肉腫細胞がUMR 106細胞またはROS 17/2.8細胞である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記検出される活性がErk1またはErk2キナーゼのリン酸化である請求項7に記載の方法。
【請求項14】
前記検出される活性がビタミンD3受容体の活性化により誘導される遺伝子の発現である請求項7に記載の方法。
【請求項15】
前記遺伝子がオステオカルシンまたはアルカリホスファターゼである請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記遺伝子が配列番号:5に表されるヌクレオチド配列を有するオステオカルシン、または、配列番号:5に表されるヌクレオチド配列にハイブリダイズするヌクレオチド配列である請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記遺伝子が配列番号:7に表されるヌクレオチド配列を有するアルカリホスファターゼ、または、配列番号:7に表されるヌクレオチド配列にハイブリダイズするヌクレオチド配列である請求項15に記載の方法。
【請求項18】
細胞内におけるVDRのリガンド依存性活性を調節する方法であって、
(i)機能性ビタミンD3受容体ポリペプチドを含む宿主細胞;および
(ii)ビタミンD3リガンド
を含む反応混合物にMNARポリペプチドを接触させる工程、
そしてこの工程においては該反応混合物における該MNARポリペプチド存在下でのビタミンD3受容体の活性が、該MNARポリペプチド不在下でのビタミンD3受容体の活性と比較して異なる、
を含む、方法。
【請求項19】
前記宿主細胞が骨肉腫細胞である請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記骨肉腫細胞がUMR 106細胞またはROS 17/2.8細胞である請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記検出される活性がErk1またはErk2キナーゼのリン酸化である請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記検出される活性がビタミンD3受容体の活性化により誘導される遺伝子の発現の増加である請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記遺伝子がオステオカルシンまたはアルカリホスファターゼである請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記遺伝子が配列番号:5に表されるヌクレオチド配列を有するオステオカルシン、または、配列番号:5に表されるヌクレオチド配列にハイブリダイズするヌクレオチド配列である請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記遺伝子が配列番号:7に表されるヌクレオチド配列を有するアルカリホスファターゼ、または、配列番号:7に表されるヌクレオチド配列にハイブリダイズするヌクレオチド配列である請求項23に記載の方法。
【請求項26】
MNARのLXXLLモチーフ 番号5および検出可能なラベルを含むペプチドであって、
MNARの断片である、ペプチド。
【請求項27】
前記ペプチドがLPGLLTSLLである請求項26に記載のペプチド。
【請求項28】
前記ラベルがビオチンである請求項26に記載のペプチド。
【請求項29】
請求項1に記載の成分を含む組成物。
【請求項30】
VDR受容体を介するシグナル伝達を調節するリガンドを同定する方法であって、
(a)(i)5番目のLXXLLモチーフを含むMNARポリペプチド;および
(ii)リガンド結合ドメインを含むビタミンD3受容体ポリペプチド
(iii)機能性cSrcまたはPI3キナーゼ;
を含む反応混合物に試験化合物を接触させる工程、
そしてこの工程においては該反応混合物の状態が、三元複合体を形成するMNARポリペプチドのビタミンD3受容体ポリペプチドへの、および、cSrcまたはPI3キナーゼへの結合を可能にする;
(b)該反応混合物における該試験化合物の存在下での三元複合体の形成量を検出する工程;および
(c)該試験化合物の存在下で形成された該三元複合体の量と、該試験化合物の不在下で形成された結合複合体の量とを比較する工程、
そしてこの工程においては該試験化合物の存在下で形成された該三元複合体の量の増加が、該試験化合物がリード化合物であるかもしれないことを示唆する、
を含む、方法。
【請求項31】
MNARとビタミンD3受容体との相互作用におけるビタミンD3受容体の活性を調節するリガンドを同定する方法であって、
(a)(i)MNARポリペプチド;ならびに
(ii)機能性ビタミンD3受容体ポリペプチドおよび機能性cSrcまたはPI3キナーゼを含む宿主細胞
を含む反応混合物に試験化合物を接触させる工程、
そしてこの工程においては該反応混合物の状態が、三元複合体を形成するMNARポリペプチドのビタミンD3受容体ポリペプチドへの、および、cSrcまたはPI3キナーゼへの結合を可能にする;
(b)該反応混合物における該試験化合物の存在下でのビタミンD3受容体の活性を検出する工程;および
(c)該試験化合物の存在下での該活性量と、該試験化合物の不存在下での該活性量とを比較する工程、
そしてこの工程においては該試験化合物の存在下での活性量の増加が、該試験化合物がVDRの活性を調節するリガンドであるかもしれないことを示唆する、
を含む、方法。
【請求項32】
前記キナーゼがPI3キナーゼである請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記検出される活性がAktキナーゼのリン酸化である請求項32に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−527422(P2007−527422A)
【公表日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−500801(P2007−500801)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【国際出願番号】PCT/US2005/006406
【国際公開番号】WO2005/084266
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(591011502)ワイス (573)
【氏名又は名称原語表記】Wyeth
【Fターム(参考)】