説明

ステロールの5−エン−3−オン体又は3,6−ジオン体の製造方法、脂質代謝改善剤、飲食品及び動物用飼料の製造方法、並びに分析方法

【課題】 ステロールの5−エン−3−オン体又は3,6−ジオン体を収率よく合成することができる製造方法、並びに該ステロールの5−エン−3−オン体又は3,6−ジオン体を含有する脂質代謝改善剤、飲食品及び動物用飼料の製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明のステロールの5−エン−3−オン体又は3,6−ジオン体の製造方法は、コレステロールオキシダーゼ活性を示す微生物であるアルスロバクター属細菌を含む培養液を調製し、次いで、この培養液に等量のヘキサンを添加し、水層−炭化水素系溶媒層で構成される二層溶液を調製し、その後、基質であるステロール又はその誘導体を含有させて、30℃で2日間、コレステロールオキシダーゼによる反応を行い、次いでエタノールを添加して炭化水素系溶媒層を分離し、その後、真空乾燥機により乾固させて5−エン−3−オン体又は3,6−ジオン体を得ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステロールの5−エン−3−オン体又は3,6−ジオン体、脂質代謝改善剤、飲食品及び動物用飼料の製造方法、並びに分析方法に関する。更に詳しくは、本発明は、抗肥満及び脂質代謝改善等の生理作用に優れたステロールの5−エン−3−オン体又は3,6−ジオン体を収率よく合成することができる製造方法、並びに該ステロールの5−エン−3−オン体又は3,6−ジオン体を含有する脂質代謝改善剤、飲食品及び動物用飼料の製造方法、並びにステロールの5−エン−3−オン体及び3,6−ジオン体を同時に且つ効率的に分析できる分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コレステロール誘導体には、様々な生理的作用があることが知られており、現在、医薬、飲食品及び飼料等の様々な分野で使用されている。例えば、下記特許文献1には、24−アルキルコレスタン−3−オン又は24−アルキルコレステン−3−オン等を有効成分として含む抗肥満剤及び脂質代謝改善剤が開示されている。また、下記特許文献2には、ステロールの5−エン−3−オン体である24−メチルコレスト−5−エン−3−オンを有効成分として含む抗肥満剤及び脂質代謝改善剤が開示されている。更に、ステロールの4−エン−3−オン体と比べて、5−エン−3−オン体や3,6−ジオン体の方が抗肥満及び脂質代謝改善作用に優れていることが知られている。
【0003】
コレスロール誘導体の合成方法としては、化学的な合成方法の他、微生物等を培養することによる生物学的な合成方法等が知られている。生物学的な合成方法として、例えば、下記非特許文献1には、コレステロール又はその誘導体を基質とし、酵素であるコレステロールオキシダーゼによりコレスト−4−エン−3−オンが得られることが開示されている。この方法では、基質であるコレステロール又はその誘導体から酸化反応により5−エン−3−オン体が得られ、次いで速やかに異性化反応を経て4−エン−3−オン体が生成する。そして、下記非特許文献2には、水層/有機溶媒の2層系で、コレステロールオキシダーゼを産生する性質を有する微生物(アルスロバクター)を用いて、生物学的にコレステロールからコレスト−4−エン−3−オンへ変換する方法が記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平11−193296号公報
【特許文献2】特開2001−240544号公報
【非特許文献1】「バイオサイエンスとインダストリー」 Vol.57 No.7(’99) 464−467
【非特許文献2】「Enzyme and Microbial Technology」 1996,Vol.18:184−189,
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、コレステロールオキシダーゼでは、酸化速度は異性化速度に比べ、数倍から数十倍程度小さく、反応の律速は、酸化過程にあることが知られている。よって、上記非特許文献1のようなコレステロールオキシダーゼを用いた生物学的な合成方法の場合、速やかに異性化が進んで4−エン−3−オン体となり、5−エン−3−オン体の収率が極めて低いという問題がある。また、上記非特許文献2も、単に生物学的に4−エン−3−オン体を得ることが記載されているのみであり、生物学的な合成方法において、5−エン−3−オン体の収率を向上させる点についての技術的知見は存在しない。更に、上記非特許文献1及び2には、3,6−ジオン体の生物学的な合成についての開示はない。そこで、従来の方法よりも生産性に優れたステロールの5−エン−3−オン体の製造方法及び3,6−ジオン体の製造方法の開発が望まれていた。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、抗肥満及び脂質代謝改善等の生理作用に優れたステロールの5−エン−3−オン体又は3,6−ジオン体を収率よく合成することができる製造方法、並びに該ステロールの5−エン−3−オン体又は3,6−ジオン体を含有する脂質代謝改善剤、飲食品及び動物用飼料の製造方法、並びにステロールの5−エン−3−オン体及び3,6−ジオン体を同時に且つ効率的に分析できる分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、全く意外にも、アルカン等の炭化水素系溶媒層と水層とからなる二層溶媒で、ステロール及びその誘導体を基質とし、コレステロールオキシダーゼ又はコレステロールオキシダーゼ活性を示す微生物を培養することにより、従来よりも高収率でステロールの5−エン−3−オン体又は3,6−ジオン体を得ることができることを見出して、本発明を完成するに至った。また、ステロールの5−エン−3−オン体及び3,6−ジオン体を分析する際、移動相及びカラム温度を特定することにより、従来は困難であった高速液体クロマトグラフィ(以下、「HPLC」という。)法によるステロールの5−エン−3−オン体及び3,6−ジオン体の同時分離定量が可能になることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は以下に示す通りである。
〔1〕コレステロールオキシダーゼ含有液からなる水層と、炭化水素溶媒からなる炭化水素溶媒層で構成される二層溶液に、ステロール又はその誘導体を含有させて反応させることを特徴とするステロールの5−エン−3−オン体又は3,6−ジオン体の製造方法。
〔2〕上記コレステロールオキシダーゼ含有液は、コレステロールオキシダーゼ活性を示す微生物の培養液である上記〔1〕記載のステロールの5−エン−3−オン体又は3,6−ジオン体の製造方法。
〔3〕上記微生物は、アルスロバクター(Arthrobacter)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、ブレビバクテリウム(Brevibacteriumu)属、又はロドコッカス(Rhodococcus)属、及びバチスル属に属する細菌の1種又は2種以上である上記〔1〕又は〔2〕記載のステロールの5−エン−3−オン体又は3,6−ジオン体の製造方法。
〔4〕上記〔1〕乃至〔3〕のいずれかに記載の方法により得られたステロールの5−エン−3−オン体又は3,6−ジオン体を含有させることを特徴とする脂質代謝改善剤の製造方法。
〔5〕上記〔1〕乃至〔3〕のいずれかに記載の方法により得られたステロールの5−エン−3−オン体又は3,6−ジオン体を含有させることを特徴とする飲食品の製造方法。
〔6〕上記〔1〕乃至〔3〕のいずれかに記載の方法により得られたステロールの5−エン−3−オン体又は3,6−ジオン体を含有させることを特徴とする動物用飼料の製造方法。
〔7〕アセトニトリル及びイソプロピルアルコールを体積基準で(3〜5)/(5〜7)の割合で混合して得られた混合液を移動相として、HPLC法にてステロールの5−エン−3−オン体及び3,6−ジオン体を同時に分離定量することを特徴とするステロールの5−エン−3−オン体及び3,6−ジオン体の分析方法。
〔8〕HPLC法におけるカラムの温度を10〜30℃とする上記〔7〕記載のステロールの5−エン−3−オン体及び3,6−ジオン体の分析方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のステロールの5−エン−3−オン体又は3,6−ジオン体の製造方法は、上記構成を備えることにより、抗肥満及び脂質代謝改善等の生理作用に優れたステロールの5−エン−3−オン体又は3,6−ジオン体を、従来よりも高収率で得ることができる。
また、本発明の脂質代謝改善剤、飲食品、動物用飼料の製造方法は、上記構成を有することにより、上述の優れた作用を奏する脂質代謝改善剤、飲食品及び動物用飼料を、従来よりも効率的に得ることができる。
更に、本発明のステロールの5−エン−3−オン体及び3,6−ジオン体の分析方法によれば、従来は困難であったHPLC法によるステロールの5−エン−3−オン体及び3,6−ジオン体の同時分離定量を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を説明する。
本発明の上記「二層溶液」を構成する上記「コレステロールオキシダーゼ含有液からなる水層」は、水系溶媒中にコレステロールオキシダーゼを含有する層である。該水系溶媒の種類は、上記炭化水素系溶媒と混合せずに二層に分離する性質を有する限り、特に限定はない。上記水系溶媒として、通常は水が用いられる。
【0011】
上記「コレステロールオキシダーゼ」は、3β−ヒドロキシステロイド1分子と酸素1分子との間の反応を触媒し、相当する3−オキソステロイドと過酸化水素とを生じる酵素である(EC.1.1.3.6)。上記コレステロールオキシダーゼは、通常は微生物が産生する天然由来のコレステロールオキシダーゼが用いられるが、上記反応を触媒する性質を有する限り、遺伝子工学的手法等により、アミノ酸配列や高次構造が改変されたコレステロールオキシダーゼを用いてもよい。
【0012】
上記コレステロールオキシダーゼ含有液は、通常は、水系溶媒にコレステロールオキシダーゼを直接添加含有させることにより調製されるが、その他、水系溶媒中にコレステロールオキシダーゼ活性を示す微生物を添加し、培養することにより調製してもよい。即ち、上記コレステロールオキシダーゼ含有液は、コレステロールオキシダーゼ活性を示す微生物の含有液をも含む。
【0013】
上記「微生物」は、コレステロールオキシダーゼ活性を示す微生物であれば、その種類に特に限定はない。例えば、上記「微生物」としては、アガリカス属やカワラタケ等の担子菌類、アスペルギルス属及びモナスカス属等の糸状菌類、アルスロバクター(Arthrobacter)属、ストレプトマイセス属、ブレビバクテリウム(Brevibacteriumu)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、並びにバチスル属に属する細菌等が挙げられる。上記微生物として具体的には、例えば、アルスロバクター シンプレックス(Arthrobacter Simplex、別名ノカルディオイデス シンプレックス〔Nocardioidos Simplex〕)等が挙げられる。
【0014】
上記微生物は、通常は、市販されている微生物が用いられるが、その他、自然的又はEMS(エチルメタンスルフォネート)、ジエチルサルフェート、NTG(N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン)及びニトロソグアニジン等の化学物質、並びにX線、γ線及び紫外線等による人為的変異手段により得られ、菌学的性質が変異した微生物であっても、コレステロールオキシダーゼ活性を示す限り、利用することができる。また、コレステロールオキシダーゼをコードする遺伝子を適当なベクター等により大腸菌等の微生物内に導入し、形質転換を行ってコレステロールオキシダーゼの発現を可能にした形質転換微生物も使用することができる。
【0015】
上記コレステロールオキシダーゼ含有液のpHは、コレステロールオキシダーゼの活性を損なわない限り特に限定はなく、用いるコレステロールオキシダーゼや微生物の種類等に合わせて種々の範囲とすることができる。上記コレステロールオキシダーゼ含有液のpHは、通常は5.0〜9.0、好ましくは6.0〜8.0、更に好ましくは6.5〜7.5である。上記コレステロールオキシダーゼ含有液のpHの調節は、例えばアンモニア水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液等の塩基性溶液、リン酸等の酸性溶液の添加によって行うことができる。
【0016】
上記コレステロールオキシダーゼ含有液は、上記コレステロールオキシダーゼ又は上記コレステロールオキシダーゼ活性を示す微生物を必須として含むが、本発明の作用効果を損なわない限り、他の成分を含んでもよい。例えば、上記コレステロールオキシダーゼ活性を示す微生物の生育に必要な炭素源、窒素源、無機塩類、アミノ酸、及びビタミン等を含んでいてもよい。また、上記コレステロールオキシダーゼの働きを助けるための補酵素を含めることもできる。更に、上記コレステロールオキシダーゼ含有液のpHを調整するためのpH調整剤を含んでいてもよい。
【0017】
上記コレステロールオキシダーゼ含有液中の上記コレステロールオキシダーゼの含有量及び微生物の植菌数についても特に限定はなく、必要に応じて適宜の含有量及び植菌数とすることができる。
【0018】
本発明の上記「二層溶液」を構成する上記「炭化水素系溶媒からなる炭化水素系溶媒層」は、上記二層溶液を構成する上記水層と完全に混合せず、二層に分離する性質を有する溶媒であれば使用することができる。上記「炭化水素溶媒」は、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、及び芳香族炭化水素系溶媒のいずれでも構わない。また、これら1種のみでもよく、あるいは2種以上の混合溶媒でもよい。上記「炭化水素溶媒」の炭素数についても特に限定はないが、通常は炭素数4以上、好ましくは炭素数4〜12、更に好ましくは炭素数5〜8の炭化水素系溶媒が使用される。上記炭化水素系溶媒としては、例えば、アルカンの具体例としては、例えば、n−ブタン、n−ヘキサン及びヘプタン等のアルカン、シクロヘキサン等のシクロアルカン等が挙げられる。また,上記炭化水素系溶媒には、本発明の作用効果を阻害しない限り、他の物質を含んでいてもよい。
【0019】
本発明では、コレステロールオキシダーゼ含有液からなる水層に炭化水素系溶媒を添加して、水層−炭化水素系溶媒層の二層からなる二層溶液を調製する。尚、該二層溶液を調製する場合、上記コレステロールオキシダーゼ含有液と上記炭化水素系溶媒の添加順序については特に限定はない。例えば、上記炭化水素系溶媒に上記コレステロールオキシダーゼ含有液を加えてもよく、逆に、上記コレステロールオキシダーゼ含有液に上記炭化水素系溶媒を加えてもよい。また、上記二層溶液における上記水層と上記炭化水素系溶媒層の割合についても特に限定はなく、必要に応じて種々の範囲とすることができる。通常、上記水層と上記炭化水素系溶媒層との比(体積比)は、1:(0.2〜2)、好ましくは1:(0.4〜1.5)、更に好ましくは1:(0.5〜1)である。
【0020】
本発明では、上記二層溶液に、基質となる「ステロール又はその誘導体」を含有させ、上記コレステロールオキシダーゼによる反応を行う。上記「ステロール」の種類には特に限定はなく、必要に応じて様々な誘導体を使用することができる。上記「ステロール又はその誘導体」としては、例えば、植物ステロール(植物由来のステロール及びその誘導体、例えば、β−シトステロール、カンベステロール、スティグマステロール等)、コレステロール、エルゴステロール、ラノステロール、並びにコレスタン−3−オン、コレステン−3−オン及びこれらの24−アルキル体等の誘導体等が挙げられる。
【0021】
上記二層溶液に上記「ステロール又はその誘導体」を含有させる方法については特に限定はない。例えば、上記二層溶液を調製後、「ステロール又はその誘導体」を添加してもよい。あるいは、上記二層溶液を調製する前の上記コレステロールオキシダーゼ含有液又は上記炭化水素系溶媒に「ステロール又はその誘導体」を添加し、次いで上記コレステロールオキシダーゼ含有液と上記炭化水素系溶媒とを混合し、上記二層溶液の調製と同時に上記「ステロール又はその誘導体」を含有させてもよい。
【0022】
上記反応の条件については特に限定はない。例えば、反応温度は通常25〜42℃、好ましくは28〜38℃とすることができる。また、反応時間は通常5〜72時間、好ましくは24〜48時間とすることができる。更に、反応中は適宜振とう又は攪拌を行うこともできる。
【0023】
本発明により得られたステロールの5−エン−3−オン体又は3,6−ジオン体の精製、回収方法については特に限定はなく、必要に応じて適宜に手段により回収、精製することができる。通常は、上記反応液のうち、ステロールの5−エン−3−オン体又は3,6−ジオン体が含まれる炭化水素溶媒層を分離し、必要に応じて溶媒留去等により有効成分を濃縮した後、凍結乾燥、噴霧乾燥、真空乾燥等の適宜の方法で乾燥することにより回収することができる。また、この精製、回収方法において、必要に応じて上記反応液又は分離した炭化水素溶媒層を滅菌フィルターに通す等の処理をすることにより、滅菌処理をすることもできる。尚、上記回収方法において、上記反応液にメタノール、エタノール等のアルコールを添加すると、上記反応液を水層−炭化水素溶媒層の二層に分けることが容易になり、その結果、ステロールの5−エン−3−オン体又は3,6−ジオン体の精製、回収が容易になることから好ましい。
【0024】
本発明により得られる「ステロールの5−エン体−3−オン体」は、ステロール骨格の5位に二重結合を有し、3位にケトン基を有する限り、特にその構造に限定はない。また、本発明により得られる「ステロールの3,6−ジオン体」は、ステロール骨格の3位及び6位にケトン基を有する限り、特にその構造に限定はない。例えば、ステロール骨格又は側鎖にアルキル基(メチル基、エチル基等)等の適宜の官能基を有していてもよい。また、二重結合の数についても特に限定はなく、ステロール骨格又は側鎖中に1個以上、好ましくは1〜4個、更に好ましくは1〜2個の他の二重結合を有していてもよい。
【0025】
上記「ステロールの5−エン−3−オン体」として具体的には、例えば、24−アルキルコレスト−5−エン−3−オン、24−アルキルコレスト−5,7−ジエン−3−オン、24−アルキルコレスト−5,8−ジエン−3−オン、24−アルキルコレスト−5,9(11)−ジエン−3−オン、24−アルキルコレスト−5,22−ジエン−3−オン、24−アルキルコレスト−5,7,22−トリエン−3−オン、24−アルキルコレスト−5,8,22−トリエン−3−オン、24−アルキルコレスト−5,9(11),22−トリエン−3−オン、24−アルキルコレスト−5,25(27)−ジエン−3−オン等が挙げられる。尚、上記各物質中の「アルキル」としては、メチル基やエチル基等が挙げられる。また、上記「ステロールの3,6−ジオン体」として具体的には、例えば、4−コレステン−3,6−ジオン、4−カンペスト−3,6−ジオン、24−アルキルコレスト−4−エン−3,6−ジオン等が挙げられる。
【0026】
本発明は、5−エン−3−オン体を得るために行ってもよく、3,6−ジオン体を得るために行ってもよい。更に、本発明では、5−エン−3−オン体及び3,6−ジオン体の両方を同時に得ることができるので、両者を同時に得るために行ってもよい。
【0027】
本発明により得られるステロールの5−エン−3−オン体及び3,6−ジオン体の分離定量方法については特に限定はなく、必要に応じて種々の方法により行うことができる。通常は、以下に詳述する本発明の分析方法により行うことができる。
【0028】
本発明により得られたステロールの5−エン−3−オン体及び3,6−ジオン体は、ステロールの4−エン−3−オン体と比べて、優れた抗肥満及び脂質代謝改善作用等の生理作用を有する。よって、本発明により得られたステロールの5−エン−3−オン体は、様々な用途に用いることができる。例えば、抗肥満剤及び脂質代謝改善剤等の医薬品、飲食品への添加剤、飼料用添加剤として用いることができる。その結果、ステロールの5−エン−3−オン体を含有する抗肥満剤及び脂質代謝改善剤等の医薬品、抗肥満及び脂質代謝改善作用を有する健康飲料又は健康食品、肉質改善等を目的とした家畜用飼料又は魚類用飼料、及び愛玩動物の肥満等の防止のためのペットフード等を得ることができる。
【0029】
本発明のステロールの5−エン−3−オン体及び3,6−ジオン体の分析方法は、アセトニトリル及びイソプロピルアルコールを体積基準で(3〜5)/(5〜7)の割合で混合して得られた混合液を移動相として、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)法にてステロールの5−エン−3−オン体及び3,6−ジオン体を同時に分離定量することを特徴とする。
【0030】
本発明のステロールの5−エン−3−オン体及び3,6−ジオン体の分析方法において、上記混合液は、アセトニトリル及びイソプロピルアルコールを用いる。そして、アセトニトリル及びイソプロピルアルコールの割合は、体積基準で(3〜5)/(5〜7)、好ましくは(3.5〜4.5)/(5.5〜6.5)の割合である。かかる範囲とすることにより、従来は困難であったステロールの5−エン−3−オン体及び3,6−ジオン体の同時分離定量を実現することができる。また、上記HPLC法において、その他の条件については特に限定はなく、カラムの種類、長さ、温度、移動相の流量等は必要に応じて種々の範囲とすることができる。例えば、分離効率及び作用効率の観点から、カラムの長さは20〜80cm、好ましくは40〜60cmとすることができる。また、カラムの温度を10〜30℃、好ましくは15〜25℃とすることができる。更に、移動相の流量としては 0.1〜5ml/minが好ましく、0.1〜1ml/minがより好ましい。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
前培養培地として、以下の表1(A)に記載の組成の水系液体培地(pH;7.0±0.1)を調製した。また、本培養培地として、以下の表1(B)に記載の組成の水系液体培地(pH;7.0±0.1)を調製した。更に、使用菌体として、グラム陽性桿菌である市販のアルスロバクター シンプレックス(Arthrobacter Simplex)を用いた。
【0032】
【表1】

【0033】
アクティブスラントより1白金耳の上記菌体を掻き取り、上記前培養培地に植菌した。そして、30℃、約180rpmの条件で2日間振とう培養した。次いで、植菌濃度が2%程度となるように、上記前培養培地を上記本培養培地に植菌した。そして、通気量を1VVM、pHを7.0±0.2、温度を30℃±0.3、羽根の回転を250rpm、溶存酸素を適宜調整するという条件で、2日間培養を継続した。この際、コレステロールオキシダーゼの誘導剤として、植物ステロールの一種である「PHS−FK」(タマ生化学社製)を0.1%、乳化剤「O−10V」(花王株式会社製)を0.1%添加した。
【0034】
培養終了後、該本培養培地100mlに、これと等量のヘキサンを添加し、更に、最終濃度が1%となるように、以下の表2に記載の基質をそれぞれ添加して、水層−炭化水素系溶媒層からなる二層溶液を調整した。そして、該本培養培地を密閉後、上層と下層が混合する程度に攪拌しながら2日間反応を継続した。反応終了後、上記二層溶液の2倍量のエタノールを添加して攪拌を行い、更に少しずつエタノールを添加し、上層(炭化水素系溶媒層)と下層(水層)とを分離した。下層を完全除去後、上層を滅菌フィルターに通塔し、次いで、真空乾燥機にて乾固することにより、生成物を粉末状で回収した。この生成物をHPLCにて分析した。その結果を以下の表2に示す。尚、比較例として、基質としてコレステロールを用い、上記ヘキサンを加えない他は、上記と同様の方法により反応を行って、生成物を分析した。その結果を以下の表2に併記する。
【0035】
生成物のHPLC分析は、以下の方法により行った。
アセトニトリル及びイソプロピルアルコールを4/6(体積基準)の割合で混合し、アスピレーターを用いて減圧脱気することにより、移動相を調製した。次いで、該移動相をカラムボリュームの10倍量通液し、カラムの平衡化を行った。カラムの平衡化は、ベースラインをモニターし、ベースラインが安定したら完了した。
そして、上記生成物を正確に秤量し、上記移動相に0.2%(v/v)となるように溶解した。溶解後、該溶液をフィルター処理(0.42μm)し、HPLC試料とした。そして、以下の条件でHPLCを行った。
〔HPLC条件〕
カラム;「Cadenza CD C−18」(4.6×500mm;インタクト社製)
流量;0.55ml/min
検出器及び検出波長;「UV detecter」 210nm
カラム温度;18℃
試料溶解溶媒;移動相と同じ
注入量;20μl
得られたピーク面積の値と検量線から試料中の各成分の含量を求め、以下の式により各成分濃度を定量した。
各成分濃度(%、v/v)=検量線より求めた試料中の各成分の含量×100/40
【0036】
【表2】

【0037】
表2より、炭化水素系溶媒であるヘキサン層がない状態で反応を行った場合、比較例1に示すように、得られるのは4−エン体のみであり、本願発明が目的とする5−エン体及び3,6−ジオン体は得ることができなかったことが分かる。
一方、コレステロールオキシダーゼ含有液からなる水層と、炭化水素系溶媒であるヘキサン層で構成される二層溶液に基質であるコレステロールを添加し、反応を行った実施例1では、比較例1と異なり、5−エン体を得ることができることが分かる。また、植物ステロールを基質として用いた場合、実施例2に示すように、5−エン体を得ると共に、3,6−ジオン体をも得ることができることが分かる。
【0038】
尚、本発明では、上記具体的実施例に示すものに限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、優れた抗肥満及び脂質代謝改善作用等の生理作用を有するステロールの5−エン−3−オン体又は3,6−ジオン体を効率よく製造することができる。本発明は、飲食品、医薬品、動物用飼料等の分野に好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コレステロールオキシダーゼ含有液からなる水層と、炭化水素系溶媒からなる炭化水素系溶媒層とで構成される二層溶液に、ステロール又はその誘導体を含有させて反応させることを特徴とするステロールの5−エン−3−オン体又は3,6−ジオン体の製造方法。
【請求項2】
上記コレステロールオキシダーゼ含有液は、コレステロールオキシダーゼ活性を示す微生物の培養液である請求項1記載のステロールの5−エン−3−オン体又は3,6−ジオン体の製造方法。
【請求項3】
上記微生物は、アルスロバクター(Arthrobacter)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、ブレビバクテリウム(Brevibacteriumu)属、又はロドコッカス(Rhodococcus)属、及びバチスル属に属する細菌の1種又は2種以上である請求項1又は2記載のステロールの5−エン−3−オン体又は3,6−ジオン体の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の方法により得られたステロールの5−エン−3−オン体又は3,6−ジオン体を含有させることを特徴とする脂質代謝改善剤の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載の方法により得られたステロールの5−エン−3−オン体又は3,6−ジオン体を含有させることを特徴とする飲食品の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれかに記載の方法により得られたステロールの5−エン−3−オン体又は3,6−ジオン体を含有させることを特徴とする動物用飼料の製造方法。
【請求項7】
アセトニトリル及びイソプロピルアルコールを体積基準で(3〜5)/(5〜7)の割合で混合して得られた混合液を移動相として、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)法にてステロールの5−エン−3−オン体及び3,6−ジオン体を同時に分離定量することを特徴とするステロールの5−エン−3−オン体及び3,6−ジオン体の分析方法。
【請求項8】
高速液体クロマトグラフィ(HPLC)法におけるカラムの温度を10〜30℃とする請求項7記載のステロールの5−エン−3−オン体及び3,6−ジオン体の分析方法。

【公開番号】特開2007−284348(P2007−284348A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−207885(P2004−207885)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(504271973)有限会社テクノフローラ (3)
【出願人】(591155884)株式会社東洋発酵 (21)
【Fターム(参考)】