説明

ステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤの製造方法及びそれにより製造されたフラックス入りワイヤ

【課題】送給性に優れ、耐欠陥性の良好な、継ぎ目を有するステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、継ぎ目を有する細径(0.9〜1.6mm直径)のステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤの製造方法に関する。本発明は、帯鋼(フープ;ステンレス鋼304L或いは316L)をU字状に成形し、混合されたフラックスをU字状に成形された帯鋼の内部に充填し(108)、継ぎ目を有した管形に成形する段階と、管形に成形したワイヤを潤滑剤を使用して1次引抜する段階(103)と、1次引抜されたワイヤの加工硬化程度を緩和させるために熱処理する段階(104)と、熱処理以後の累積減面率が38〜60%になるように2次引抜する段階(105)と、2次引抜されたワイヤ表面の残留潤滑剤を物理的方法で除去する段階(106)と、ワイヤ表面に表面処理剤を塗布する段階(107)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤ(Flux cored weLding wire, FCW)の製造方法に関し、特に手溶接だけでなく半自動及びロボット溶接に適するように設計された継ぎ目を有するステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ステンレス鋼の溶接はMIG溶接、TIG溶接、フラックス入りワイヤによる溶接等の溶接法で行われている。
【0003】
まず、MIG溶接の場合、シールドガスを高価のAr不活性ガスまたはAr不活性ガスとO2或いはCO2ガスを2〜5%で混合して使用するため、スパッタの発生量を最小化することができ、容積移行の形態がスプレー(spray)形であるため、アークが安定し、美麗な溶接ビードが得られるという長所はあるが、Ar不活性ガス或いはAr不活性ガスとO2或いはCO2ガスを混合したシールドガスを使用して溶接を行う場合、CO2ガスをシールドガスとして使用して溶接を行う場合に比べて溶込み部の深さが浅くなり、高電流領域でよりは低電流領域で安定した溶接が可能になり、中板以下のステンレス鋼溶接に適するという限界を持つ。さらに、最近、全世界的に原副資材の品切れ現象など、原資材の価格が天井知らずに上昇している傾向により、零細な中小企業等においては相対的に高価のAr不活性ガスを使用して溶接を行うよりは、CO2ガスを使用して溶接を行うことが好まれていた。
【0004】
また、ステンレス鋼のTIG溶接の場合、1mm以下の薄板溶接においても溶落現象が起こらなく、特に良好な溶接部が得られるという長所を持つが、20mm以上の中・厚板溶接において溶接効率性の側面で相当に劣り、特に専門の溶接師ではない場合、溶接自体に相当な困難さを持つため、やはり限界性を持つ。
【0005】
これに反して、フラックス入りワイヤによる溶接の場合、溶接の能率性に優れて生産性を向上させることができ、溶接が苦手な素人もやはり短時間に溶接技量を習えるという長所と、通常的にCO2ガスの使用による原価節減及び美麗な溶接ビードが得られるという点のため、その活用範囲が非常に広い。
【0006】
最近の産業技術の発達に伴い、鋼板の高強度化、軽量化及び高耐食性などの多様な側面から求められる条件が増大されており、特にステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤの場合、化学プラント、原子力だけでなく海水用構造物溶接等、その利用分野が拡大されている実情である。従って、ステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤはその適用分野の多様化により使用量が増加しており、ユーザーの要求条件もまた多様化されている。特に、生産性の低下による問題点を解決して効率性を高めるために、過去の手溶接に依存していたステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤの溶接を半自動または全自動ロボット溶接に転換する企業が増加しつつある実情である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、半自動溶接やロボット溶接が生産性の向上及び省力化など、多くの部分で長所を持つ反面、管理運営の側面で多少の困難さを持っていることが事実である。何よりも、既存の手溶接に比べて半自動及びロボット溶接の場合、溶接ワイヤを供給する装置部分でケーブルの長さ(7〜10m)が多少長くなり、屈曲部が形成され易くなり、溶接速度もまた増加される傾向にあるが、ここで重要な要素が溶接材料の送給性であることは否認できない。
【0008】
現在、一部の軟鋼及びステンレス鋼溶接材料の場合、ベーキング処理を行ってワイヤの表面に堅固な皮膜を被せることにより送給性を向上させ、引抜時に付着した残留潤滑剤を最小化することにより、溶接部の耐欠陥性を向上させている。しかし、ベーキング処理したワイヤの場合、ベーキング処理していないワイヤに比べて、溶接時に通電性が不足して、溶接作業性が多少劣悪になるという短所があり、特に、長時間の溶接時にベーキング皮膜によりヒューム(fume)の発生量もまた増加する。
【0009】
これだけでなく、ロボットを利用した長時間溶接の場合、通電性の低下により溶接チップ(Tip)の温度上昇と共に溶接チップの磨耗が促進され、溶接ケーブル(conduit cable)の内に酸化皮膜及び伸線潤滑剤が集積し、溶接時のアーク安定性を落とすことにより、スパッタの発生量増加など溶接作業性を低下させる要因になる。また、ベーキング処理したワイヤの上記のような溶接性の問題と製造工程上の効率性及び製造コストの低減のために、ベーキング処理を省略したワイヤに関する研究が多く進行されたが、ベーキング処理を省略したワイヤの場合は、ベーキング処理を行ったワイヤと比較して、残留潤滑剤の除去効果が大きくないため、溶接時に溶接部の耐欠陥性を低下させるという問題点を持つ。
【0010】
本発明の目的は、ベーキング処理を省略したワイヤの長所である製造工程上の効率性、製造コストの低減及び良好な溶接性を確保し、残留潤滑剤による耐欠陥性の問題を改善することにより、送給性に優れ、耐欠陥性の良好な、継ぎ目を有するステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、継ぎ目を有する細径(0.9〜1.6mm直径)のステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤの製造方法において、帯鋼(フープ;ステンレス鋼304L或いは316L)をU字状に成形し、混合されたフラックスをU字状に成形された帯鋼の内部に充填し、継ぎ目を有した管形に成形する段階;管形に成形したワイヤを潤滑剤を使用して1次引抜する段階;1次引抜されたワイヤの加工硬化程度を緩和させるために熱処理する段階;熱処理以後の累積減面率が38〜60%になるように2次引抜する段階;2次引抜されたワイヤ表面の残留潤滑剤を物理的方法で除去する段階;及び、ワイヤ表面に表面処理剤を塗布する段階;から構成されることを特徴とする、ステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤの製造方法を提供することにより達成される。
【0012】
ここで、ステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤの送給性と耐欠陥性を向上させるために、送給性と耐欠陥性に影響を及ぼす因子として、帯鋼の表面粗度(Ra、μm)、帯鋼の内部に充填される混合されたフラックスの総水分量(ppm)、1、2次引抜時に使用される潤滑剤の種類、2次引抜段階における累積減面率(%)、引抜方法(PCDまたはCRD)に分類し、各因子を制御することにより最終製品でのワイヤの物性、即ち、真引張強度(kgf/mm2;最終ワイヤの断面中、空隙部を除いた残り面積部の引張強度)、ワイヤ表面の微細硬度(Hv)、表面粗度(Ra)、ワイヤ表面の総水分量(ppm)を統合して管理することが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施例について製造工程別に分けて詳しく説明する。
【0014】
まず、洗浄工程段階及び帯鋼について説明する。
【0015】
原材料のステンレス304Lまたは316L帯鋼(化学成分は表1を参考)を洗浄液を使用し、加工時に表面に付着した加工油や汚染物質を脱脂させる。これは、加工油や汚染物質が帯鋼の表面に残留する場合、溶接時にアーク不安定や気孔などを誘発する原因になれるため、これを前もって除去するためである。
【0016】
このとき、使用される帯鋼の場合、表面粗度(Ra)を0.30〜0.60μmの範囲に設定することが好ましく、帯鋼の表面粗度(Ra)を適正範囲に管理することにより、最終製品ワイヤの表面粗度(Ra)を管理することが容易で、ワイヤ表面の水分量が制御できる。また、帯鋼の表面粗度(Ra)は多様な圧延方法で制御可能である。
【0017】
帯鋼の表面粗度(Ra)が0.30μm未満の場合、管形に成形する段階で引抜性が不均一で充填率のバラツキを生じさせることがあり、引抜時に潤滑剤を均一に保持できなくなる。一方、0.60μmを超えて高すぎる場合、引抜時に残留する潤滑剤の量が多くなり、最終製品の表面粗度(Ra)もやはり高くなる傾向が起こり、ワイヤの送給性及び耐欠陥性を低下させる。
【0018】
【表1】

*残部は、Fe及びその他の不純物
【0019】
以下、混合フラックスについて説明する。
【0020】
下記の表2に示された成分の構成でステンレス管形の内部に充填され、充填される混合フラックスの総水分量(吸着水分+結晶水分)は混合フラックスの重量を基準に、500ppm以下に含有されるように設計することが好ましい。
【0021】
ここで、吸着水分は化学的で結合しておらず、但し、物質の表面に吸着している状態であるため、100℃以上の温度で加熱したときに蒸発する水分を意味し、結晶水分は化学的に結合していないが、H+、OH-の形態で分子構造の隔子部ではない空隙位置に浸入されており、通常、950℃以上の温度で1時間以上加熱したとき、大気中に抜け出る水分を意味する。
【0022】
管形の内部に充填される混合フラックスの総水分量が500ppm以上であれば、最終ワイヤの製造時にフラックスの総水分量が及ぼす影響が大きくなり、溶接時に溶接ビードの表面の溶接欠陥を起こすため好ましくない。
【0023】
吸着水分及び結晶水分量の関する内容は、下記の実施例で具体的に説明する。このとき、水分量の測定方法には原材料の混合フラックス50gを950℃以上の温度で少なくとも1時間加熱する場合、蒸発する水分を測定する重量減少法を使用するが、その方法は下記式の通りである。
【0024】
混合フラックス内の総水分量(ppm)={(Wa−Wb)/Wa}×106・・・式1
(ここで、Wa:原材料の混合フラックスの重量(g)、Wb:原材料の混合フラックスを950℃の温度で1時間加熱した後、測定された重量(g)である)
【0025】
混合フラックスは、主に鉱産物や金属類または2成分系以上の酸化物から構成され、このようなフラックスは不可避に精製途中の吸着または分子構造の空隙部に浸入される水分量と、精製の後、大気から吸収される水分量などをすべて含み、これら水分量の一部は熱処理(Bright annealing:高温の還元雰囲気でワイヤの加工硬化を緩和させ、表面の残留潤滑剤を焼いて除去する熱処理)工程の途中に継ぎ目を通して蒸発するが、一部は管形の内部にそのまま残留する。このような残留した水分は、結局、溶接時に溶接欠陥を誘発する主要要因になるため、本発明では前もってこのような水分量を管理することにより、ベーキング処理を行うことなく耐欠陥性の向上を図ることができる。
【0026】
このような混合フラックスの総水分量を最小化する方法には、それぞれの原料フラックス中の吸着水分と結晶水分の含有量を個別のフラックス別に最終混合フラックスの総水分含有量の測定方法と同一な重量減少法で測定し、その含有量が高かったり、水分を追加的に多量吸収できることを徹底的に排除して使用する方法を選択し、また表2に示された混合フラックスの設計(a、b)において、TiO2、SiO2、ZrO2、K2O等の酸化物に対する供給源として多様な原料フラックスを使用することにより、酸化物の最終含有量は変化させることなく、混合されたフラックスの総水分量だけを調整する方法で、その影響度を評価することができた。一般的に、TiO2の供給源には、天然ルチルサンド(Rutile sand)、イルミナイト(Ilmenite)、精製されたルチル(Rutile)などを挙げられる。
【0027】
【表2】

【0028】
以下、フラックスの充填及び成形段階について説明する。
【0029】
表面粗度(Ra)が管理された原材料のステンレス帯鋼を管形に成形する工程であり、成形ローラーを直列に配置し、成形段階に配置される成形ローラーの個数は帯鋼の幅、厚さまたは帯鋼の硬度及び強度などの成形条件により適切に選択、配置される。
【0030】
帯鋼を管形に完全に成形する前、総水分量が500ppm以下に管理された混合フラックスを内部に充填するが、このとき充填率が10%未満の場合は、充填されたワイヤの長手方向への充填率変動が激しくなり、溶接ワイヤの品質特性を低下させる。一方、30%を超える場合は、充填時に混合フラックスが管形の外部に溢れる場合が起こることがあり、引抜工程で断線の問題を起こすことがあるため、本発明ではその充填率をワイヤの全重量に対する重量比を基準に10〜30%の範囲内に規定する。
【0031】
以下、ワイヤの引抜段階について説明する。
【0032】
成形されたワイヤは表3に記載された潤滑剤を使用して1、2次引抜段階を経ることになるが、ステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤの場合、引抜時の加工硬化の程度がひどいため、1次引抜工程の以後、熱処理工程(1000〜1200℃)を経て加工硬化程度を緩和させ、熱処理工程の以後を基準に2次引抜段階の累積減面率が38〜60%の範囲になるように2次引抜を行う。このとき、2次引抜段階での累積減面率は複数個のダイスを通過するとき、それぞれのダイスでの減面率をすべて合わせた値を言う。
【0033】
また、本発明ではステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤを製造するにあって使用可能な引抜方法に、(1)PCDを1、2次引抜段階に適用する方法、(2)CRDを1次引抜に、そしてPCDを2次引抜段階に適用する方法、(3)CRDを1、2次引抜段階に適用し、最終的にPCDを適用して最後の引抜する方法などを適用することにより、最終製品ワイヤを真引張強度が110〜150kgf/mm2、表面粗度(Ra)が0.15〜0.50μm、表面微細硬度(Hv)が370〜500(Hv)を維持するように制御することが好ましい。
【0034】
このとき、引抜段階でPCDまたはCRDのいずれかを使用しても、最終ワイヤの特性を上記のような範囲内に管理すると、送給性と耐欠陥性に優れたステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤが製造できる。特に、2次引抜工程でCRDを使用する場合、PCDを使用して最後の引抜工程を行わなければならないが、これは最後の引抜時までCRDを使用すると、ワイヤ形状の制御、即ち真円を達成し難いためである。
【0035】
さらに、2次引抜段階で累積減面率が38%未満の場合は、最終製品ワイヤを十分に硬化させることができず、表面硬度が低く、真引張強度が低いため、送給性が不安定になる。一方、累積減面率が60%を超える場合は、最終製品ワイヤの表面粗度(Ra)が低くなり、送給時に送給ローラーでスリップ(slip)現象が起こり、最終製品ワイヤの加工硬化程度が増加し、伸線速度の減少及びダイス消耗量の増加により生産性が低下するという問題点が生じるため、これもまた好ましくない。
【0036】
以下、乾式潤滑剤について説明する。
【0037】
1次及び2次引抜段階でPCDを使用する場合は、ステアリン酸ナトリウム及び脂肪酸が含有された乾式潤滑剤を使用して引抜し、CRDを使用する場合は、二硫化モリブデン(MoS2)とグラファイトなどが含有された乾式潤滑剤を使用して引抜し、特に2次引抜段階ではワイヤ表面の残留潤滑剤量を最小化するため、最後のPCD引抜に先立って潤滑剤容器を空ける方式で設計することにより、この後、残留潤滑剤を物理的に除去する段階で脱脂力を優秀にした。
【0038】
1次及び2次引抜段階でPCDを使用したとき、使用の潤滑剤内にステアリン酸ナトリウム及び脂肪酸が含有されておらず、無機物質のみから構成される場合、引抜性を悪化させ、引抜速度が高い場合、ワイヤが断線するという問題を誘発する。また、ステアリン酸がC、H、O基から構成されているため、このような成分が最終製品のワイヤ表面に過多に残留する場合、溶接欠陥の問題を起こすこともあるため、このような欠点を補完するために、ステアリン酸ナトリウムに二硫化モリブデン(MoS2)及びグラファイトなどを少量添加することにより、耐欠陥性を向上させると共に、送給性の向上を図ることができる。
【0039】
このとき、その組成には潤滑剤の全重量に対して、ステアリン酸ナトリウム及び脂肪酸からなる群から選ばれた少なくとも一つを40〜85%、炭酸ナトリウム及び水酸化カルシウムからなる群から選ばれた少なくとも一つを10〜50%、及びその残部として二硫化モリブデン、滑石及びグラファイトからなる群から選ばれた少なくとも一つからなる組成を使用したほうが良い。上記のような範囲限定の理由を説明すると、ステアリン酸ナトリウム及び脂肪酸からなる群から選ばれた少なくとも一つの含量が40%未満の場合は、PCDを使用した引抜方法で重要視される潤滑性を十分に確保できなく、これにより引抜性が落ちると共に溶接時の送給性が不良になる。一方、85%を超える場合は、ワイヤの送給ローラーでスリップ(slip)を起こしてアーク不安定を誘発し、ワイヤの表面に残留する潤滑剤量が増加し、溶接時に溶接欠陥を誘発する。従って、ステアリン酸ナトリウム及び脂肪酸からなる群から選ばれた少なくとも一つを40〜85%の範囲に管理することが好ましく、これにより溶接時のワイヤの送給性を向上させる。
【0040】
そして、炭酸ナトリウム及び水酸化カルシウムからなる群から選ばれた少なくとも一つの含量が10%未満の場合、引抜性が劣って作業効率が減少するという問題点を持っており、50%を超える場合は、ワイヤの表面に残留する潤滑剤量が増加することにより、溶接時に溶接欠陥を誘発する。従って、引抜性と溶接特性を良好にするために、炭酸ナトリウム及び水酸化カルシウムからなる群から選ばれた少なくとも一つを10〜50%の範囲に維持することが好ましい。
【0041】
一方、1次及び2次引抜段階でCRDを使用したとき、二硫化モリブデン(MoS2)及びグラファイトなど、無機物質ではないステアリン酸ナトリウム及び脂肪酸のような有機物質を潤滑剤として使用する場合、CRDの破損を促進させて製造コストの上昇及び製造工程上の効率性を悪化させるという問題をもたらす。
【0042】
このとき、その組成には潤滑剤の全重量に対して、二硫化モリブデン20〜40%、グラファイト及びフッ化カーボンからなる群から選ばれた少なくとも一つを50〜75%、及びその残部として工業用鉱油、ナフタレンなどからなる群から選ばれた少なくとも一つからなる組成を使用したほうが良い。上記のような範囲限定の理由を説明すると、二硫化モリブデンの場合、溶接時に溶接ケーブル内でワイヤの送給抵抗を減少させて送給性を向上させるために添加される成分であって、その含量が20%未満の場合は、ワイヤ送給抵抗の減少効果が微々になり、不安定な送給を誘発し、これにより溶接作業性が悪くなる。一方、40%を超える場合は、ワイヤの表面に付着する潤滑剤量が増加し、溶接時に溶接ケーブル(conduit cable)内に潤滑剤が集積し、送給性に悪影響を及ぼす。従って、二硫化モリブデンの場合は、20〜40%の範囲に管理することが好ましい。
【0043】
そして、グラファイト及びフッ化カーボンからなる群から選ばれた少なくとも一つの含量が50%未満の場合、引抜作業性が悪くなり、溶接チップとワイヤとの間の通電が不安定であり、アークが不安定になる。一方、75%を超える場合は、ワイヤから剥離されて溶接ケーブル(conduit cable)及び溶接チップの内面に集積することにより、ワイヤの送給性及び通電性が悪くなり、アークが不安定になる。従って、ワイヤの送給性と通電性を向上させるために、グラファイト及びフッ化カーボンからなる群から選ばれた少なくとも一つの含量を50〜75%の範囲に維持することが好ましい。
【0044】
そして、2次引抜工程で最後の1ブロック(block)以上に対して潤滑剤を詰めずに引抜する方法で、潤滑剤量を最小化することにより、その後、物理的潤滑剤の除去工程における脱脂力の向上を図ることができる。
【0045】
以下では、熱処理段階について説明する。
【0046】
1次引抜された中間線の加工硬化を緩和させ、引抜時に残留する潤滑剤を除去する目的で、高温の還元雰囲気でワイヤの加工硬化を緩和させ、表面の残留潤滑剤を焼いて除去する熱処理段階では、1000〜1200℃でN2、H2またはNH4ガスを利用した還元雰囲気下に10〜30秒間行うことが好ましい。
【0047】
以下、表面の残留潤滑剤を物理的な方法で除去する段階について説明する。
【0048】
引抜後、ワイヤの表面に残留する潤滑剤は物理的な方法を利用して除去するが、除去手段には洋毛フェルトまたはディスク形のたわしを利用した表面研磨法を挙げられ、研磨石を利用することもできる。
【0049】
以下、ワイヤの表面に表面処理剤を塗布する段階について説明する。
【0050】
本発明では、最終製品ワイヤの表面に送給性及び耐欠陥性を向上させる目的で表面処理剤を塗布するが、このときに使用される表面処理剤は表面処理剤の全重量に対する比率で、二硫化モリブデン20〜40%、グラファイト及びフッ化カーボンからなる群から選らばれた少なくとも一つを50〜75%、及びその残部として工業用鉱油、ナフタレンなどからなる群から選ばれた少なくとも一つを含有した無機物質の表面処理剤を使用する。また、表面処理剤が過多にワイヤの表面に塗布されることを防止するために、表面処理剤の塗布後、連続的に研磨布を利用して拭き取ることにより、より均一なワイヤの表面状態を管理することができる。
【0051】
以下、最終ワイヤの特性について説明する。
【0052】
上記のような段階で製造されたステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤの良好な送給性と優れた耐欠陥性のためには、ワイヤの真引張強度が110〜150kgf/mm2、ワイヤの表面微細硬度が370〜500Hv、ワイヤの表面粗度(Ra)が0.15〜0.50μm、最終ワイヤ表面の総水分量が500ppm以下に管理されることが好ましい。
【0053】
上記のような範囲限定の理由を説明すると、まずワイヤの真引張強度が110kgf/mm2未満であると、溶接時に溶接ワイヤが溶接ケーブル(conduit cable)内で曲げ変形が起こって送給性が悪くなり、150kgf/mm2を超えると、屈曲した溶接ケーブル(conduit cable)内で摩擦抵抗が大きくなり、ワイヤの送給性が不良になる。また、靭性が極めて低下して製造時に断線が起こる。従って、最終ワイヤの真引張強度は110〜150kgf/mm2に管理することが好ましい。
【0054】
また、ワイヤの表面微細硬度が370Hv未満であると、ワイヤの送給時に送給ローラー部で曲げ変形が起こり、送給及び溶接が中断する現象が起こり、500Hvを超えると、引抜作業時に引抜性が悪化して断線の問題を誘発する。従って、最終ワイヤの表面微細硬度は370〜500Hvに管理することが好ましい。
【0055】
ワイヤの表面粗度(Ra)が0.15μm未満であると、溶接時にワイヤの送給ローラー部でワイヤがスリップ(slip)したり、ワイヤ表面の凹凸部に二硫化モリブデン(MOS2)、グラファイトのような表面処理剤を均一に保持させることができなく、溶接ケーブル(conduit cable)内の摩擦抵抗が大きくなることによりワイヤの送給性が不良になり、0.50μmを超えると、ワイヤの表面凹凸部に潤滑剤を多量保持させることにより、長時間の溶接時に溶接ケーブル(conduit cable)内に潤滑剤が集積し、ワイヤの送給抵抗が大きくなる。従って、最終ワイヤの表面粗度(Ra)は0.15〜0.50μmに管理することが好ましい。
【0056】
最終ワイヤ表面の総水分量の場合、製造工程中に、吸湿した水分量まで含んだ総水分量が500ppmを超えると、溶接時に溶接ビードの表面に溶接欠陥を起こす。従って、最終ワイヤ表面の総水分量は、500ppm以下に管理することが好ましい。
【0057】
以下、本発明を添付する図面を参照して好適な実施例を説明するが、必ずこれに限定するものではない。
【0058】
〔実施例〕
上記の表1に示された各成分のステンレス帯鋼(100)に洗浄、脱脂した後(101)、表2に示された2種の混合フラックス中の1種を選択して充填し(108)、成形ローラー(102a、102b)を使用して管形に成形した後(102)、表3から選択したそれぞれの潤滑剤を塗布し(109a、109b)、1次及び2次に分けて引抜を行った。引抜の前に使用される混合フラックスの場合、ルチルサンド(Rutile sand)、珪石及び鉄粉(Iron powder)を始めとする少なくとも10種以上が使用されており、各フラックスを混合した後、950℃以上で少なくとも1時間加熱して蒸発する量を重量法で計算し、これを混合フラックスの重量に対する総水分量として管理した。特に、混合フラックスの総水分量の効果を把握するために、混合フラックスの設計を原材料のフラックスに対する入庫先別または同一酸化物に対する供給源として多様な原料フラックスを選定して使用し、最終フラックスの成分は表2に示した。
【0059】
1次引抜時に、PCD及びCRD方法のいずれかを選択し、下記の表3から選択した潤滑剤を使用して引抜を行い(103)、1次引抜された中間線の加工硬化を緩和させ、引抜時に残留する潤滑剤を除去するために、1000〜1200℃でN2、H2またはNH4ガスを利用した還元雰囲気下に10〜30秒間熱処理を行った(104)。
【0060】
【表3】

【0061】
熱処理後、2次引抜段階(105)でCRDが使用される場合、最終製品直径の1.1倍以下までCRDで圧延した後、最後にPCDを使用して最終製品直径で製造し、最終製品ワイヤの特性を制御するために、熱処理の後に累積減面率(38〜60%)を変化させながら、最終製品ワイヤの真引張強度、表面微細硬度、表面粗度(Ra)を測定した。
【0062】
まず、最終製品の真引張強度の測定方法は次の通りである。
(1)最終製品ワイヤを断面方向に切断し、最終1μm粒子の大きさまでグラインディング(grinding)、ポリシング(polishing)を行う。
(2)映像分析システムを利用し、図3に示したワイヤの断面からワイヤの断面積と内部空隙部の面積を求める。このとき、使用された映像分析システムはメディアサイバネティックス(Media Cybernetics)のイメージプロプラス(Image-pro plus)4.0を利用する。
(3)上記(2)で求めたワイヤの断面積から内部空隙部を除いた部分を、真引張強度の面積として使用する。
(4)最終製品ワイヤを約20cm切断した後、Zwick社のZ050引張試験機を使用して試験片当たり10回ずつ引張試験し、その平均値を引張試験の結果としてとり、上記(2)、(3)に記載された真引張強度の面積を利用して真引張強度値を得る。
【0063】
また、最終製品の表面微細硬度の測定方法は次の通りである。
(1)最終製品ワイヤを5cm程度に切断してサンプリングする。
(2)LEICA社のVMHTMOT硬度測定器を使用し、1gの圧荷重でワイヤの長手方向の表面に対して加工面に沿って連続して12点を測定する。
(3)上記(2)で測定した結果から最大値と最小値を除いた残り10点の平均を微細硬度値にする。
【0064】
また、最終製品の表面粗度の測定方法は次の通りである。
(1)最終製品ワイヤを10cm程度の長さに切断してサンプリングする。
(2)DIAVITE社のDH−5表面粗度測定器を使用し、試験片の種類別に継ぎ目(seam)を除いた残りの4方向について5回以上測定する。
(3)上記(2)で測定した表面粗度値の平均値をとり、試験片の表面粗度にした。
参考的に、ステンレス帯鋼の表面粗度(Ra)による最終製品ワイヤの表面粗度(Ra)の変化を図2に示した。図2に示した結果は、1次及び2次引抜をPCDを使用して行い、2次引抜段階で累積減面率が50%である場合の結果として、帯鋼の表面粗度(Ra)が増加することにより、最終製品ワイヤの表面粗度(Ra)もまた増加することが確認できた。
【0065】
2次引抜後、ワイヤ表面の残留潤滑剤を物理的に除去し、最終製品ワイヤの送給性及び耐欠陥性を向上させるために表面処理剤を均一に塗布し、耐欠陥性に影響を及ぼす製品表面の総水分量はLECO社のRC412分析機器を用いて測定した。
【0066】
本発明の発明例と比較例を表6と表7にそれぞれ示した。発明例及び比較例でそれぞれのワイヤに対する送給性及び耐欠陥性を評価したが、送給性は図4と同様に任意に屈曲部が形成された試験装備を利用して評価したもので、100%CO2ガスを使用し、1.2mm線径の最終製品を基準に表4に明示された溶接条件で溶接を行い、1回の試験時、3分間連続的に溶接してアークの切れなく送給が持続する場合を○、送給の途中に1〜2回程度のアークの切れが起こる場合を△、送給がよく不安定でワイヤの供給が中断する場合を×と評価した。
【0067】
【表4】

【0068】
そして、耐欠陥性に対する評価は表4の溶接条件により、100%CO2ガスを使用し、AWS A5.22の機械物性試片の製作条件で多層溶接の後、X−Ray判読で内部欠陥の発生有無を評価する方法(1)と、1.2mm線径の最終製品を基準に表5に明示された溶接条件で、100%CO2ガスを使用して溶接を行ったとき、溶接部表面のウォームホール(wormhole)の発生有無を評価する方法(2)を観察して(1)と(2)がともに良好である場合を○、(2)は良好であるが(1)で溶接部の内部に気孔が1〜2点発生する場合を△、(2)で発生したり、(1)と(2)でともに溶接欠陥が発生する場合を×と評価した。
【0069】
【表5】

【0070】
【表6】

【0071】
【表7】

【0072】
上記の表6及び表7に示されたように、発明例1〜20では、本発明で意図した原材料帯鋼の表面粗度(Ra)及び混合フラックスの総水分量が徹底的に管理され、表3に示された潤滑剤を引抜方法により適切に使用して1次、2次引抜し、熱処理を行って加工硬化を緩和させることにより、製造時に断線の問題が起こらなく、特に2次引抜段階で累積減面率を38〜60%になるようにすることで、PCDまたはCRDの使用に関係なく、最終製品の送給性及び耐欠陥性が良好なものと表れた。
【0073】
一方、比較例21、22では、使用される原材料のステンレス帯鋼の種類にかかわらず、2次引抜段階での累積減面率が低すぎて、最終ワイヤの表面微細硬度及び真引張強度値が余りにも低くなり、最終ワイヤの送給時に送給ローラーの位置で曲げ変形が起こり、送給が一時中断する現象が起こった。
【0074】
一方、比較例23、24では、2次引抜段階での累積減面率が高すぎた場合で、最終製品にあって加工硬化がひどくなり、靭性が低下し、製造時に断線の問題が起こった。また、送給時に屈曲した溶接ケーブル(conduit cable)内の摩擦抵抗が大きくなって送給性が落ちることにより、結局、アーク不安定の現象が起こった。特に、比較例23の場合、ワイヤ表面の水分量が高くて耐欠陥性が悪いことが確認できた。
【0075】
比較例25、26では、管形の内部に充填される混合フラックスに含まれた総水分量が多く、表5の溶接条件で溶接を行ったとき、部分的にウォームホール(wormhole)が発生した。これは、溶接時に管形内部の混合フラックスに吸着した水分量と結晶水分が、溶接欠陥の発生に重要な影響を及ぼす因子であることを示す。さらに、比較例25の場合は、熱処理を行っておらず、多層の溶接時にX−Rayの判読結果、内部に気孔が多量発生し、最終ワイヤの表面微細硬度及び真引張強度値が上昇し、溶接時に溶接ケーブル(conduit cable)内の摩擦抵抗が上昇して送給性が不良だった。
【0076】
比較例27、28では潤滑剤d、eを使用してPCDを通して1次、2次引抜を行ったが、この場合は引抜性が不足して断線の問題がよく起こり、表面粗度(Ra)が高くて送給性の評価時にアークが切れる現象がよく起こった。さらに、比較例27の場合は、原材料のステンレス帯鋼の表面粗度(Ra)が高く、これは最終製品の表面粗度を増加させる傾向を示し、多層溶接時に溶接部に多量の気孔を発生させた。
【0077】
比較例29、30の場合は、原材料のステンレス帯鋼の表面粗度(Ra)が低く、ワイヤの表面凹凸部に表面処理剤を均一に保持させることができず、溶接ケーブル(conduit cable)内の摩擦抵抗が大きくなり、送給性が不良になる。また、管形に成形するとき、成形性が悪くて充填率のバラツキが生じて引抜段階で引抜性が悪かった。そして、最終製品の表面粗度(Ra)が低く、溶接時に送給ローラーからスリップ(slip)現象が起こり、送給性を劣化させた。
【0078】
比較例31では、CRDを使用して1次引抜段階で圧延を試みたが、原材料のステンレス帯鋼の表面粗度が高すぎ、2次引抜段階での累積減面率が低く、送給性の評価時にワイヤの曲げ現象が起こり送給が中断し、耐欠陥性の評価もまた最終ワイヤの表面凹凸部に多量の残留潤滑剤が残存することにより、溶接部の表面に少量のウォームホール(wormhoLe)が発生した。
【0079】
比較例32では、有機物質の潤滑剤を使用して1次、2次引抜を共にCRD圧延方法により製造したものであって、表5の溶接条件で100%CO2シールドガスを利用して溶接を行ったとき、管形の内部に充填された混合フラックスの総水分量が多く、溶接時に溶接ビードの表面に微細な溶接欠陥が発生し、2次引抜段階の累積減面率が低く、不十分なワイヤ表面の微細硬度の影響により、溶接時に送給ローラーで曲げ変形が起こり、送給性が不安定な現象が起こった。また、CRD圧延時に有機物質の潤滑剤aを使用することによりCRDの寿命が減少し、製造コストを上昇させるという問題点をもたらした。
【0080】
比較例33の場合は、無機物質の潤滑剤を使用して1次、2次引抜を共にCRD圧延方法を利用し、管形内部の混合フラックスの総水分量を管理するとともに、2次引抜段階の累積減面率が最終製品のワイヤを十分に加工硬化させるように設計したが、初期に使用される帯鋼(フープ)の表面粗度(Ra)が高く、熱処理を行っておらず、最終製品の表面に残留する潤滑剤量が過多になり、溶接欠陥の問題を起こした。
【0081】
比較例34の場合は、無機物質の潤滑剤を使用して1次、2次引抜を共にCRD圧延方法で設計し、混合フラックスの総水分量と2次引抜段階の累積減面率を適正に管理したが、2次引抜段階の最後にPCDを使用しておらず、最終製品のワイヤ断面形状の真円度(精密度)が減少することにより、ワイヤの送給性に悪影響を及ぼした。
【0082】
比較例35の場合、無機物質の潤滑剤を使用して1次、2次引抜を共にPCD引抜方法で行ったが、使用された潤滑剤の潤滑性が良くなく、2次引抜段階で累積減面率が高くてワイヤの引抜中に断線の問題が良く起こり、溶接時にワイヤが送給ローラーで滑る現象がよく起こった。また、混合フラックスの総水分量が高く、溶接時の耐欠陥性もやはり良くなかった。
【0083】
比較例36の場合も、比較例35と類似する現象が起こっているが、使用された潤滑dがPCD引抜方法を使用するには潤滑性が良くなく、引抜工程における断線の問題を誘発し、最終製品の溶接時に送給性が良好ではなかった。また、帯鋼の表面粗度(Ra)が高く、最終製品の表面に残留する潤滑剤が過多になり、耐欠陥性もやはり良くなかった。即ち、帯鋼の表面粗度(Ra)が高い場合、最終製品の表面粗度(Ra)も高くなり、これにより残留潤滑剤の量が増加するため、結果として溶接時に欠陥が発生する頻度が増加することが確認できた。
【0084】
〔発明の効果〕
上記のように、本発明の方法によると、送給性と耐欠陥性に優れた 継ぎ目を有する、ステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤを製造できる。
【0085】
特に、PCD引抜方式、PCDとCRDの組合方式またはCRD圧延方式で製品を製造することにあって、最終製品ワイヤの様々な物性及びワイヤの総水分量を制御することにより、ベーキング処理を経ることなく送給性に優れ、耐欠陥性を向上させることができる、ステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤが製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の一実施例による継ぎ目を有するステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤの製造方法の工程概略図である。
【図2】PCD方式で1次及び2次引抜し、2次引抜段階で累積減面率が50%である場合における、本発明の一実施例による帯鋼の表面粗度(Ra)に応じる最終製品ワイヤの表面粗度(Ra)の変化を示したグラフである。
【図3】本発明の一実施例による最終製品ワイヤの断面形状の正面図である。
【図4】本発明の一実施例による最終製品ワイヤの送給性を評価するための任意の屈曲部が形成された試験装備の概略図である。
【符号の説明】
【0087】
100 帯鋼
101 洗浄段階
102 継ぎ目を有した管形に成形する段階
103 1次引抜段階
104 熱処理段階
105 2次引抜段階
106 脱脂段階
107 表面処理段階
201 最終製品ワイヤの外皮(帯鋼)部分
202 最終製品ワイヤの空隙部
300 スプール
301 供給機
302 溶接トーチ
303 任意の屈曲部の形成部材
304 溶接ケーブル(conduit cable)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
継ぎ目を有する細径(0.9〜1.6mm直径)のステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤの製造方法において、
帯鋼(フープ;ステンレス鋼304L或いは316L)をU字状に成形し、混合されたフラックスをU字状に成形された帯鋼の内部に充填し、継ぎ目を有した管形に成形する段階;
管形に成形したワイヤを潤滑剤を使用して1次引抜する段階;
1次引抜されたワイヤの加工硬化程度を緩和させるために熱処理する段階;
熱処理以後の累積減面率が38〜60%になるように2次引抜する段階;
2次引抜されたワイヤ表面の残留潤滑剤を物理的方法で除去する段階;及び、
ワイヤ表面に表面処理剤を塗布する段階;から構成されることを特徴とする、ステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤの製造方法。
【請求項2】
上記帯鋼の表面粗度(Ra)を0.30〜0.60μmの範囲内になるようにすることを特徴とする、請求項1記載のステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤの製造方法。
【請求項3】
上記のU字状に成形された帯鋼の内部に充填される混合フラックスの総水分量を500ppm以下になるようにすることを特徴とする、請求項1記載のステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤの製造方法。
【請求項4】
上記管形に成形されたワイヤから最終製品の直径直前の直径を持つワイヤまでPCDまたはCRDを使用して引抜し、PCDにより最後の引抜を実行することを特徴とする、請求項1記載のステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤの製造方法。
【請求項5】
上記PCD引抜段階における潤滑剤には、潤滑剤の全重量に対してステアリン酸ナトリウム及び脂肪酸からなる群から選ばれた少なくとも一つを40〜85%、炭酸ナトリウム及び水酸化カルシウムからなる群から選ばれた少なくとも一つを10〜50%、及びその残部として二硫化モリブデン、滑石及びグラファイトからなる群から選ばれた少なくとも一つからなる潤滑剤を使用し、
上記CRD引抜段階における潤滑剤には、二硫化モリブデン20〜40%、グラファイト及びフッ化カーボンからなる群から選ばれた少なくとも一つを50〜75%及びその残部として工業用鉱油及びナフタレンからなる群から選ばれた少なくとも一つからなる潤滑剤を使用することを特徴とする、請求項4記載のステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤの製造方法。
【請求項6】
引抜段階の後、最終ワイヤの真引張強度を110〜150kgf/mm2、表面粗度(Ra)を0.15〜0.50μm、そしてワイヤの長手方向の表面に対して、加工面に沿って連続して12点を測定し、最大値と最小値を除いた残り10点の平均値である表面微細硬度を370〜500(Hv)の範囲内になるようにすることを特徴とする、請求項1記載のステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤの製造方法。
【請求項7】
上記ワイヤの表面に最終的に塗布する表面処理剤には、表面処理剤の全重量に対して二硫化モリブデン20〜40%、グラファイト及びフッ化カーボンからなる群から選らばれた少なくとも一つを50〜75%、及びその残部として工業用鉱油、ナフタレン等からなる群から選ばれた少なくとも一つを含有した無機物質の表面処理剤を使用することを特徴とする、請求項1記載のステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤの製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の方法により製造された最終ワイヤ表面の総水分量がワイヤの全体重量を基準に500ppm以下である、ステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−54890(P2007−54890A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−221912(P2006−221912)
【出願日】平成18年8月16日(2006.8.16)
【出願人】(506279458)キスウェル リミテッド (7)
【Fターム(参考)】