説明

ストリーミング測定値からストリーミング信号を再構築するための方法

【課題】方法が、測定値の作業セット、測定システムの作業スナップショット、内部作業信号推定値、及び外部作業信号推定値を保持することによって、ストリーミング測定値からストリーミング信号xを再構築する。
【解決手段】現在の測定値の作業セットを使用して、内部作業信号推定値、測定システムの作業スナップショット、及び信号スパース性のモデルが精緻化される。外部作業信号推定値がリフレッシュされる。外部作業信号推定値の係数のサブセットが出力にコミットされる。次のストリーミング測定値及び対応する次の測定ベクトルが受信される。測定値の作業セット、測定システムの作業スナップショット、及び内部作業信号推定値が更新されて、次の測定値及び対応する測定ベクトルが組み込まれる。最も古い測定値及び対応する最も古い測定ベクトル、並びにコミットされた係数のサブセットの効果が除去される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包括的にはスパース信号に関し、より詳細にはスパースストリーミング信号を再構築することに関する。
【背景技術】
【0002】
信号を誤りなく表現するには、その信号の最高周波数の少なくとも2倍のレート、すなわちナイキストレートでその信号をサンプリングしなくてはならないことがよく知られている。しかしながら、対象となるほとんどの信号は、多くの場合、サンプリング後に圧縮され得る。これは、そのような信号が、サンプリングプロセス(多くの場合に取得プロセスと呼ばれる)において利用されていない構造を有することを実証する。明らかに、これによってリソースが無駄になる。スパース性は、信号構造の最も一般的な形態のうちの1つである。そのようなスパース信号を効率的に取得し、その後再構築するのに、圧縮検知(CS:Compressive sensing)を使用することができる。
【0003】
CSは、信号のスパース性構造を活用して、ナイキストレートよりも大幅に低いレートでサンプリングすることを可能にする。CSでは、ランダム化された線形非適応測定を使用し、その後非線形最適化を使用した再構築が続く。CSの成功によって、取得中のランダム化されたインコヒーレントな測定、及び信号再構築中に増加する計算に大きく重点を置くシステム及び方法が提供された。
【0004】
しかしながら、従来のCSベースのシステムの開発における重点は、ストリーミング信号に対するものではない。そうではなく、従来の再構築は、有限長の信号に焦点を当てる。すなわち信号長は予め知られている。さらに、そのような再構築によって必要とされる実行時間及び処理は、信号長が増加するにつれて大幅に増加する。
【0005】
従来のCSハードウェア及び取得技法が、オーディオ信号及びビデオ信号のようなスパースストリーミング信号を取得するのに使用されるとき、信号は通常、有限長を有する離散ブロックとして処理される。各離散ブロックは、個々に圧縮サンプリングされ、既知の有限次元法を使用して個々に再構築される。
【0006】
このブロッキング手法を従来の方法と共に使用することによって、ブロック間の境界に重大なアーティファクトが生じ得る。さらに、従来の方法は、個々のブロックに対し、処理遅延に対する保証を提供することができない。この保証は、多くの場合に、ビデオデータ又はオーディオデータのストリームを生成するリアルタイムシステムに対する重大な要件である。このため、遅延要件を満たすために、入力の有意なバッファリング又は処理リソースの過剰な配分が必要とされている。
【0007】
図5Aは、従来の信号取得及び再構築システムの一般的な形式を示している。図5Bは、図5Aのシステムの均等な離散化バージョンを示している。
【0008】
A信号x(t)101は、y102において表される、時間単位あたりM個のサンプルという平均レートで、取得システム(Acq.)110を使用して取得される。信号は、推定信号x(t)(ハット)103として再構築される(Recon.)(120)。最も従来型の取得システムは、アナログ対デジタル変換器(ADC)を使用する。ADCは、ローパスアンチエイリアス処理フィルタを使用して線形測定値を得て、その後、均一時間サンプリング及び量子化を行う。従来のシステムにおける再構築構成要素(Recon.)120は、デジタル対アナログ変換器(DAC)であり、サンプルyの線形帯域限定補間(linear band limited interpolation)を実行する。
【0009】
図5Bは、時間期間あたりN個の係数による信号x(t)の離散表現x104を使用する、図5Aのシステムの離散した均等物を示している。従来の帯域限定サンプリング及び帯域限定補間において、x=x(nT)であり、ここでTはナイキスト期間である。このケースでは、取得構成要素及び再構築構成要素は恒等であり、すなわちm=n、及びx(ハット)105=y102=x104である。推定信号x(t)(ハット)は、x(ハット)の帯域限定補間である。
【0010】
ナイキスト定理によれば、サンプリングレートMは、入力レートN以上でなくてはならない。そうでない場合、システムは可逆でなく、情報が失われる可能性がある。しかしながら、信号構造に関する追加の情報を用いて、入力レートよりもはるかに小さいサンプリングレートMで信号を取得し、それでもなお再構築をできるようにすることが可能である。スパース性は、圧縮検知によって利用されるそのような情報の例である。
【0011】
CSによって、わずかな線形測定値を使用して、スパースであるか又は圧縮可能な有限長信号xを効率的にサンプリング及び再構築することができる。信号xは、次式(1)に従って測定される。
【0012】
【数1】

【0013】
ここで、yは測定ベクトルを表し、Φは測定行列である。信号xはKスパースであり、すなわち信号はK個の非ゼロ係数しか有しない。
【0014】
測定行列に対するいくつかの条件の下では、信号は、凸最適化を使用して再構築することができる(次式(2))。
【0015】
【数2】

【0016】
測定行列Φは、次数2Kの制限付等長性(RIP:restricted isometry property)を有する。RIPは、Kスパース信号xについて以下となるような定数δ2K<1が存在する場合に満たされる。
【0017】
【数3】

【0018】
RIPは、行列がスパースベクトルに作用しているとき、ほぼ正規直交であるかのように振舞うこの行列を特徴付ける。測定行列ΦのRIP定数δ2Kが十分小さい場合、式(2)の凸最適化によって信号xの正確な再構築がもたらされる。さらに、小さなRIPによって、測定雑音の存在下での回復、及びスパースではないがスパース信号によって良好に近似することができる信号のサンプリングが保証される。
【0019】
RIPは、凸最適化の代わりに、特定のグリーディ(欲張り)再構築アルゴリズムを使用するときに、同様の保証をもたらすのにも十分である。そのようなグリーディ法は、グリーディ探索を使用して信号のサポートを回復し、線形再構築のみを使用してそのサポートにわたって信号を再構築する。グリーディ探索は通例、未解明の残差を使用して反復フィードバックループ内で実行され、信号xのためのサポートの推定値を改善する。
【0020】
CSのほとんどのハードウェア実装は、RIPを満たすランダム投影の実施を可能にする。しかしながら、信号が有限長ブロック内で処理されることが想定される。各ブロックは、他のブロックから独立して、既知の有限次元法のうちの1つ(上述した凸最適化又はグリーディアルゴリズム等)を使用して圧縮サンプリング及び再構築される。しかしながら、ストリーミング信号及び対応する取得された測定値は、基本的に連続した無限次元ベクトルである。このため、従来の有限次元法を使用した再構築は機能しない。
【0021】
ストリーミング信号のための定式化は、固定長の信号と比較して大きな困難を課す。ストリーミング信号及び対応する測定値は、基本的に無限次元ベクトルである。このため、スパース性及び次元低減の通常のCS定義は有効でなく、レートとして再定式化しなくてはならない。
【0022】
従来技術における別の方法を使用して無限次元信号を再構築することができる。しかしながら、その方法は、信号が周波数領域内にマルチ帯域構造を有することを明示的に想定する。この方法は、別個のシステム構成要素を使用してその構造を回復しようと試みる。この方法は次に、この構造を使用して再構築を制御する。この方法は、計算及び入出力遅延の保証を提供せず、時間領域又は何らかの他の領域においてスパースであるストリーミング信号には適していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
したがって、時間、ウェーブレット、又は周波数のような任意の領域においてスパースであるストリーミング信号を再構築することができる方法を有することが所望されている。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の実施の形態は、時間領域又は周波数領域においてスパースであるストリーミング信号を、保証された計算コストで、明示的に再構築するためのリアルタイムの方法を提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の実施の形態による再構築方法は、オーディオ信号又はビデオ信号のようなストリーミングデータに特に適している。本方法は、固定の入力レートで動作し、入力測定値あたり固定のコストで再構築し、固定の出力レートで推定ストリーミング信号を出力する。
【0026】
本方法は、スライディング窓を使用することによって、ブロック内の信号の処理を明示的に回避し、したがってブロッキングアーティファクトを回避する。さらに、本方法は、厳密な性能保証、及び入出力遅延と、再構築性能と、計算との間の明示的なトレードオフを提供する。これらの特徴によって、本方法はリアルタイムアプリケーション、及び時間領域においてスパースな信号のための明示的な再構築に良好に適したものとなる。
【0027】
本方法は、代替的な非スパース信号モデル、量子化された測定値、及び非線形に歪んだ測定値のような、文献において確立された信号モデル及び測定プロセスにおける変形形態に対応するように容易に変更することもできる。変更形態は、非ストリーミング方法のための文献において確立されているように、精緻化ステップにおいて直接的な変更しか必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1A】本発明の実施の形態による測定システムのパラメーターの概略図である。
【図1B】図1Aの測定システムの制限付等長性の概略図である。
【図2】本発明の実施の形態による、スパース信号を再構築するための方法の擬似コードのブロック図である。
【図3A】本発明の実施の形態による作業行列の展開の概略図である。
【図3B】本発明の実施の形態による作業行列の展開の概略図である。
【図4】図2の方法の推定ステップ及び精緻化ステップの擬似コードのブロック図である。
【図5A】従来の信号取得及び再構築システムのブロック図である。
【図5B】従来の離散化された信号取得及び再構築システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本明細書では、以下の規則及びシンボルを使用する。斜体の小文字x、y、aは信号全体、測定値、及び測定システムを表すのに使用される。太字のx、y、Aは、信号、測定値、及び測定システムの作業スナップショットを表すのに使用される。なお、本明細書の数式を除く本文では、斜体に相当する小文字x、y、aを通常の表記とし、太字に相当するx、y、Aをx1、y1、A1と表記する。
【0030】
さらに、以下の規則及びシンボルが上記の変数の上で使用される。明細書及び特許請求の範囲におけるシンボルは、明確にするために省かれる場合がある。カレット「^」は、内部推定値を表し、チルダ「〜」は精緻化された推定値を表し、バー「 ̄」は外部推定値を表す。
【0031】
測定システム
リアルタイムに変動する線形システムam,nを使用して、以下のようにスパースストリーミング信号x1を測定する。
【0032】
【数4】

【0033】
ここで、yは測定値のシーケンスであり、aは測定ベクトルのシーケンスである。システムは、xについて単位時間あたりN個の入力レート、及び単位時間あたりM=N/R個の測定値の測定(出力)レートを有し、ここでRは整数のダウンサンプリングレートを表す。本明細書において説明されるレート及び長さは、互いの整数倍である。非整数レートは、丸め演算子を適切に使用して容易に適合される。しかしながら、本発明の基本的な概念に何ら洞察を加えない場合、表記が煩雑になる。
【0034】
測定システムは、因果的であり、有限の応答長Lを有する。測定因果性は、任意のストリーミング定式化の重要な局面であるが、有限応答の長さは、数学的に便利であり、本発明に固有のものである。定式を無限長の応答を扱うように拡張することは容易であるが、表記が煩雑であるためここでは回避する。
【0035】
有限長のサポートを実施するためのいくつかのオプションが存在する。たとえば、時間スパース信号をサンプリングするとき、推奨される選択は、線形システムam,nが、以下に非ゼロサポートを有するということである。
【0036】
【数5】

【0037】
同様に、周波数スパース信号の場合、推奨される選択は、サポートが以下において非ゼロであるということである。
【0038】
【数6】

【0039】
そのような測定システムを実装するのに使用することができる多数のハードウェアアーキテクチャが存在する。たとえば、音響信号又は無線信号の場合、測定システムは、それぞれが測定期間LRで動作するL個のインターリーブされたランダム復調器を使用して実装することができる。ビデオ信号に関しても同様に、測定システムは、ストロービングカメラアーキテクチャを使用して実装することもできる。
【0040】
スライディング窓
従来のCSシステムにおいて行われているように、離散ブロック上のストリーミングデータを測定する代わりに、測定システムの実施の形態は、図1Aにおいて示されると共に、式(4)に記載されるような、ストリーミングデータを横切るように連続したスライディング窓201を使用する。各時間ステップ又は反復中、スライディングは、窓の前部においてR個の最も近時の値を含むように前方へ動かされ、窓の最後部においてR個の最も近時でない値が除去される。部分的に、計算は窓の内部の全ての値に対して実行され、測定ごとに単一の値が生成される。この値は、本質的に、ストリーミングデータの重み付けされた移動平均である。
【0041】
再構築
再構築は、現時点のシステム状態を捕捉する全体システムのスライディングスナップショットを使用して、一度にR個のサンプルで実行される。特に、後述するように、実施の形態は、実際に、スライディング内部作業係数推定値x(ハット)、スライディング外部作業係数推定値x(バー)、スライディング作業測定値y1、及び測定システムのスライディングスナップショットA1を含む、4つのスライディング構成を使用する。図2、図3A、図3Bを参照されたい。
【0042】
システムパラメーター
図1Aは、線形システムam,nの関連パラメーターを、時間の関数として要約する。影付きエリア201は、軸m及びnに対するシステムのサポートを示す。システム係数は、影付きエリア内では非ゼロであり、その他ではゼロである。
【0043】
スパース性モデル及びRIP
信号は、時間領域においてスパースであり、N個の信号係数の任意のシーケンスについて最大K個の非ゼロ係数を有する。スパース性レートSはK/Nである。
【0044】
図1Bに示すように、測定システムのためのRIPは、長さNの時間窓を検討する。各窓において、RIPは式(3)によって定義される。
【0045】
ランダム化された測定システムにおいて、L=O(K log(N/K))の場合、システム応答のいかなる任意の長さNの窓もRIPを満たす。システム係数は、分散1/L及び任意のサブガウス分布(たとえばガウス分布又はラーデマッヘル分布)でランダムに分布する。周波数領域スパース信号の場合、RIP状態は、M=O(K log(N/K))となる。信号スパース性の構造を与えられた固定長の窓にわたってRIPを確立することは、システム設計検討事項のうちの1つである。
【0046】
システムは、ローカル再構築誤りがいかなる後続の再構築にも伝播しないことを確実にするのに十分安定している。さらに、各窓における先頭のL個の測定値及び末尾のL個の測定値は、連続移動している窓の外側の信号成分による影響も受ける。本発明者らによる再構築方法は、これらの外側の信号成分を考慮に入れる。
【0047】
スパースストリーミング信号の再構築
図2は、本発明の実施の形態による再構築方法のための擬似コードを示している。図3A及び図3Bは、本方法によって使用されるパラメーターを示している。
【0048】
再構築される信号xは、W個の測定値、及び測定システムのW×Wの大きさのスナップショットを使用したW個の信号係数のスライディング窓の反復に対して推定される。各反復後、最も近時のR個の係数が係数窓内に含まれ、最も近時でないR個の係数が窓から除去され、再構築された信号の推定値として出力される。
【0049】
同様に、最も近時の測定値は、測定窓の末尾に組み込まれ、最も古い測定値は、先頭から除去される。さらに、作業測定窓は、コミットされた係数の効果がシステムのスナップショットにおける測定値から除去されるように更新される。すなわち、更新された測定値は、コミットされていない係数によってのみ特徴付けられる。
【0050】
i番目ごとの反復中に(ステップ1)、本方法は、x(ハット)で表される長さWの内部作業係数推定値、x(バー)で表される長さWの外部作業係数推定値、寸法W×Wの測定システムのスライディングスナップショットA1、及びy1で表される長さWの作業測定ベクトルを含むシステムのスナップショットを保持する。
【0051】
本方法は、図4に示す精緻化手順を使用して内部作業推定値を精緻化する(ステップ2)。次に、本方法は、精緻化された内部作業推定値x(チルダ)を、前回の反復からの外部作業推定値xi−1(バー)と組み合わせて、外部作業推定値x(バー)をリフレッシュ及びスライドする(ステップ3)。
【0052】
次に、リフレッシュされた外部推定値の最初のR個の係数が出力にコミットされる(ステップ4)。次に、本方法は、次の測定値yi+M及び次の測定ベクトルa{i+M},{R(i−1)+1,Ri}を受信し、システムの現在の状態のスナップショット、すなわち内部作業係数推定値x(ハット)、測定システムのスナップショットA1、及び作業測定ベクトルy1を更新する(ステップ5)。更新は、新たな測定値及び新たな測定ベクトルを組み込み、最も古い測定値及び最も古い測定ベクトルを、それぞれy1及びA1から除く。さらに、この更新は、y1を更新してコミットされた測定値及びシフトx(ハット)の効果を除去し、スナップショットの時間におけるスライディングを更新する。
【0053】
図3A及び図3Bに、測定行列A1及びシステムam,nに対する各反復後のこの行列の展開が示されている。これらは、真の測定値yが、作業行列A1の最初のL行に対応する作業測定値(y1){1,...,L}を必ずしも反映するわけではないことを示している。信号のコミットされていない部分と対応する作業測定値は、ステップ5の一部として更新される。
【0054】
コミットされる係数における任意の誤りが作業測定値に伝播されて戻り、後続の推定値における誤りが増大する。そのような誤りは、初期状態、測定システムのRIP失敗、又はスパース性モデルの、ストリーミング信号への不適合に起因し得る。それでもなお、SGP法は安定であると共に、そのような誤りから回復することを実証することが可能である。
【0055】
行列S、W、及びWは、信号の構造及びアプリケーションの要件に依拠して設定されるべきアルゴリズムパラメーターである。
【0056】
たとえば、信号が時間領域においてスパースである場合、外部作業推定値及び内部作業推定値は同じであり得る。このため、Wはゼロ行列でなくてはならず、かつWは恒等行列でなくてはならない。さらに、Sは信号をR個の係数だけシフトする左シフト演算子行列でなくてはならない。
【0057】
信号が周波数領域においてスパースであるか、又はアプリケーションが、外部推定値が内部推定値の平均であることを要求する場合、Wは、信号をR個の係数だけシフトする左シフト演算子行列でなくてはならず、Wは、この行列内の重み平均が主対角線である対角行列でなくてはならない。さらに、周波数領域スパース信号の場合、Sは、循環桁送り演算子行列でなくてはならない。概して、Sは、内部信号推定値のスパース性が変化しないようにならなくてはならない。
【0058】
信号推定及び精緻化
図2のステップ2における精緻化が図4に示されている。図4のステップ1において、本方法は、現在の作業測定窓内の未解明の残差を計算し、ステップ2において、この残差を解明する信号プロキシを形成する。ステップ3において、本方法は、T個の最大の係数を特定し、それらの係数のサポートセットを現在の信号推定値のサポートとマージする。
【0059】
次に、ステップ4において、本方法は、適切なスパース性領域におけるマージされたサポートにわたって最小二乗問題を解くことによって信号を再推定する。最後に、ステップ5において、本方法は、K個の最大の係数に対する解を切り捨てる。
【0060】
行列Bは、信号がスパースである領域を表す。たとえば、行列は、信号が周波数(フーリエ)領域においてスパースである場合、フーリエ変換行列とすることができるか、又は信号がウェーブレット領域においてスパースである場合、ウェーブレット変換行列とすることができる。この行列は、信号が時間領域においてスパースである場合、恒等行列とする(又は同等に、式から完全に除去する)こともできる。
【0061】
行列Vは、推定値を改善するために信号に適用される仮想窓を表す。行列Vは、この窓の係数がこの行列の主対角線上にある対角行列でなくてはならない。時間領域スパース信号の場合、この窓は通常、恒等に設定され(すなわち窓なし)、行列は式から除去することができる。周波数領域スパース信号の場合、アルゴリズムの性能は、カイザー窓、ガウス窓、ハミング窓、又はハニング窓のような平滑化窓を計算するようにVがセットされる場合に増加する。
【0062】
行列Wは、重みベクトルを表し、測定値がシステムに組み込まれるとき、及びRIPを満たすとき、この測定値の信頼度を反映する。
【0063】
行列A1は、システムパラメーターに依拠する行列であり、プロキシを計算するのに使用される。好ましい実施の形態は、これを、
【0064】
【数7】

【0065】
又は
【0066】
【数8】

【0067】
に設定する。ここで、(・)は擬似逆行列演算であり、(・)はエルミート転置であり、Wは対角重み行列である。前者の設定は、精緻化関数内で実行するのが計算的により簡単であり、一方で後者はより良好な精緻化を実行する。
【0068】
全ての反復においてサポートセットに潜在的に付加されるサポート要素Tの数は、信号のスパース性Kと比較して小さい。これによって、反復ごとの計算コストが小さいことが保証される。さらに、プロキシ及び最小二乗問題は、測定値に対し、最も近時のL個の測定値により小さい重みとなるように重みwを使用して計算することができる。これによって、係数によって影響を受ける測定値のうちのいくつかのみが利用可能であるとき、サポート内の最後のLR個の係数を付加することを阻止し、プロキシ及びこのプロキシの推定値の信頼度を下げる。
【0069】
これらの係数は、測定行列A1の右下のL×LR部分に対応する。これによって、図3Aの行列が、図1Bの行列と異なっている。固定作業窓Wによって、Lが増加するにつれ、より密度の高い信号についてRIPを満たす確率が増大し、推定が改善する。
【0070】
しかしながら、作業行列A1のより大きな部分が右下部分によって占有され、これによって推定値の信頼度が下がる。より長い作業窓Wによって効果が低減するが、計算コスト及び遅延が増大する。
【0071】
本発明を好ましい実施の形態の例として説明してきたが、本発明の精神及び範囲内で様々な他の適応及び変更を行うことができることは理解されたい。したがって、添付の特許請求の範囲の目的は、本発明の真の精神及び範囲内に入るすべての変形及び変更を包含することである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライディング窓を使用して、測定値の作業セット、測定システムの作業スナップショット、内部作業信号推定値、及び外部作業信号推定値を保持することによって、ストリーミング測定値からストリーミング信号xを再構築するための方法であって、
現在の測定値の作業セットを使用して、前記内部作業信号推定値、前記測定システムの前記作業スナップショット、及び信号スパース性のモデルを精緻化するステップと、
前記外部作業信号推定値をリフレッシュするステップと、
前記外部作業信号推定値の係数のサブセットを出力にコミットするステップと、
次のストリーミング測定値及び対応する次の測定ベクトルを受信するステップと、
前記測定値の作業セット、前記測定システムの前記作業スナップショット、及び前記内部作業信号推定値を更新するステップであって、前記次の測定値及び前記対応する測定ベクトルを組み込む、更新するステップと、
最も古い測定値及び対応する最も古い測定ベクトル、並びに前記コミットされた係数のサブセットの効果を除去するステップと、
を含むストリーミング測定値からストリーミング信号を再構築するための方法。
【請求項2】
前記スライディング窓における前記ストリーミング信号は、適切に変換される場合、スパースである請求項1に記載のストリーミング測定値からストリーミング信号を再構築するための方法。
【請求項3】
前記スライディング窓における前記ストリーミング信号は、適切に変換される場合、圧縮可能である請求項1に記載のストリーミング測定値からストリーミング信号を再構築するための方法。
【請求項4】
前記精緻化するステップは、
前記内部作業信号推定値、前記測定値の作業セット、及び前記測定システムの前記作業スナップショットを使用して、未解明の残差を計算するステップと、
前記未解明の残差を最も良好に説明する信号成分のロケーションを特定するステップと、
前記現在の内部信号推定値成分のロケーションと、前記未解明の残差を最も良好に説明する前記信号成分のロケーションとを組み合わせるステップと、
前記測定値の作業セット、及び前記測定システムの前記作業スナップショットを使用して、前記組み合わせるステップによって生成された、前記組み合わされたロケーションにわたって前記信号成分を推定するステップと、
最上位成分、及び前記推定するステップから関連付けられるロケーションのみを維持すると共に、前記内部作業信号推定値のための最上位成分を生成するステップと、
をさらに含む請求項1に記載のストリーミング測定値からストリーミング信号を再構築するための方法。
【請求項5】
前記リフレッシュするステップは、
次の外部作業信号推定値を、前回の外部作業信号推定値と、前記精緻化するステップによって生成された、前記精緻化された内部作業信号推定値との重み付けされた和に設定するステップをさらに含む請求項1に記載のストリーミング測定値からストリーミング信号を再構築するための方法。
【請求項6】
前記コミットするステップは、
前記出力において、前記外部作業信号推定値の最初のR個の係数を生成するステップであって、ここで、Rは整数のダウンサンプリングレートである、生成するステップをさらに含む請求項1に記載のストリーミング測定値からストリーミング信号を再構築するための方法。
【請求項7】
前記更新するステップは、
前記次の測定値を前記作業測定値のセットの末尾に付加するステップと、
前記測定システムの前記作業スナップショットの最後の列の後にゼロを含む(zero−content)列を付加するステップと、
前記測定システムの前記作業スナップショットの行の後に前記次の測定ベクトルを付加するステップと、
前記作業測定値のセットから前記最も古い測定値を除去するステップと、
前記測定システムの前記作業スナップショットから前記対応する最も古い測定ベクトルを除去するステップと、
前記測定システムの前記作業スナップショットから前記コミットされた係数に対応する最初のR個の列を除去するステップと、
前記作業信号測定値から前記コミットされた係数の効果を取り去るステップと、
前記内部作業信号推定値をR個の係数だけシフトするステップと、
をさらに含む請求項6に記載のストリーミング測定値からストリーミング信号を再構築するための方法。
【請求項8】
前記方法は、複数の信号に同時に適用される請求項1又は請求項4に記載のストリーミング測定値からストリーミング信号を再構築するための方法。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate


【公開番号】特開2011−137817(P2011−137817A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−288434(P2010−288434)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(597067574)ミツビシ・エレクトリック・リサーチ・ラボラトリーズ・インコーポレイテッド (484)
【住所又は居所原語表記】201 BROADWAY, CAMBRIDGE, MASSACHUSETTS 02139, U.S.A.
【Fターム(参考)】