説明

ストレッチ織物およびこれを用いた衛生用品

【課題】 ストレッチ性に非常に優れたポリ乳酸捲縮糸および/またはポリ乳酸ループヤーンを用いる織物を提供し、包帯などの衛生用品やファッション衣料を提供する。
【解決手段】 本発明のストレッチ織物は、少なくとも緯糸に、伸縮復元率(CR値)が25%以上、伸縮伸長率が90%以上、伸縮回復率が70%以上であるポリ乳酸捲縮糸および/またはポリ乳酸ループヤーンを用いる織物であって、前記織物の緯方向の伸長率が10〜200%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸捲縮加工糸またはポリ乳酸ループヤーンを用いるストレッチ織物に関する。更に詳しくは、大きなストレッチ性を有し、衛生材料、好ましくは包帯に用いることができるストレッチ織物に関する
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸繊維は自然環境中において分解する生分解性繊維として、また発色性や触感に優れた繊維として大きな注目を集めている。
【0003】
しかし、ポリ乳酸繊維を用いた織物にはストレッチ性がない。これらの織物を用いた布帛は、激しい身体の動きに追随しないため、場合によっては着用快適性に劣るという問題が生じることがあった。このため、ポリ乳酸繊維を用いた織物にストレッチ性を与えることが試みられている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
特許文献1には、ポリ乳酸繊維とスパンデックス(ポリウレタン繊維)からなるストレッチ織編物が提案されている。ポリウレタン弾性糸を含むことによって布帛の伸縮性は良好になる。しかし、ポリウレタン弾性糸に起因して布帛のドレープ性が悪化し、ぬめり感を有する風合いのものとなってしまうという欠点を有している。
【0005】
特許文献2には、特定のポリ乳酸捲縮加工糸を用いるストレッチ編物が開示されている。特許文献2に記載のストレッチ繊維では、一定のストレッチ性は得られる。しかし、このストレッチ繊維は、織物の伸長率が100%以上の織物は得ることができない。
【特許文献1】特開平11−293551号公報
【特許文献2】特許第3484516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
すなわち、本発明の目的は、ストレッチ性に非常に優れたポリ乳酸捲縮糸および/またはポリ乳酸ループヤーンを用いる織物を提供し、包帯などの衛生用品やファッション衣料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、特定のポリ乳酸捲縮糸またはポリ乳酸ループヤーンを用いることで、伸長率が100%以上の織物が得られることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0008】
本発明のストレッチ織物は、少なくとも緯糸に、伸縮復元率(CR値)が25%以上、伸縮伸長率が90%以上、伸縮回復率が70%以上であるポリ乳酸捲縮糸を用いる織物であって、前記織物の緯方向の伸長率が10〜200%である。
【0009】
また、本発明のストレッチ織物は、0.2mm以上のループ数が300個/m以上であり、かつ0.8mm以上のループ数が20個/m以下である、実質的に連続交絡を施した芯鞘2層構造のポリ乳酸ループヤーンを用いるストレッチ織物であって、前記ポリ乳酸ループヤーンが、緯糸に用いられる、あるいは経糸および/または緯糸に配列混用されている極低密度スパンライク織物であるであってもよい。このような極低密度スパンライク織物を用いると、包帯、ガーゼなどの衛生材料などのような極めて低密度織物であっても、目ずれを防止し、スパン風合いを得ることができる。したがって、本発明のストレッチ織物は、衛生用品に好ましく使用することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のストレッチ織物は、特定のポリ乳酸捲縮糸またはポリ乳酸ループヤーンを用いる。この結果、伸長率が100%以上のストレッチ性に優れた織物を得ることができる。
また、包帯、ガーゼなどの衛生材料などのような低密度織物についても、目ずれを防止し、スパン風合いを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0012】
[ポリ乳酸捲縮糸またはポリ乳酸ループヤーン]
本発明で用いるポリ乳酸捲縮糸またはポリ乳酸ループヤーンは、L−乳酸および/またはD−乳酸を主たる繰り返し単位とするポリ乳酸からなる繊維であって、捲縮加工が施されているものあるいは特定のループ構造を有するものである。
【0013】
(ポリ乳酸)
ポリ乳酸は、−(O−CHCH−CO)−を繰り返し単位とするポリマーであり、乳酸やラクチド等の乳酸のオリゴマーを重合したものである。乳酸にはD−乳酸とL−乳酸の2種類の光学異性体が存在する。ポリ乳酸の光学純度が高いほどポリ乳酸の融点も高く、すなわち耐熱性が向上するため好ましい。ポリ乳酸の光学純度としては、90%以上が好ましい。またポリ乳酸の融点としては、繊維の耐熱性を維持するために150℃以上であることが好ましい。
【0014】
また、ポリ(L乳酸)とポリ(D乳酸)とをブレンドして繊維に成形した後、140℃以上の高温熱処理を施してラセミ結晶を形成させたステレオコンプレックスにするとよい。これにより、融点を220〜230℃にまで高めることができる。この場合のポリ(L乳酸)とポリ(D乳酸)とのブレンド比としては、40/60〜60/40が、ステレオコンプレックス結晶の比率を高めることができ好ましい。
【0015】
また、通常、ポリ乳酸中には低分子量残留物として残存ラクチドが存在しうる。ポリ乳酸中の残存ラクチド量としては3000質量ppm以下が好ましく、より好ましくは1000質量ppm以下、さらに好ましくは300質量ppm以下である。ポリ乳酸中の残存ラクチド量を抑えることにより、延伸や仮撚加工工程での加熱ヒーター汚れや染色加工工程での染め斑等の染色異常を防ぐことができる。また、繊維の加水分解を防ぎ、耐久性を維持することができる。ポリ乳酸中の残存ラクチド量を低減させる方法としては、重合方法として固相重合を採用することや、ペレットを80℃程度の温水で洗浄することが挙げられる。
【0016】
また、ポリ乳酸の性質を損なわない範囲で、乳酸以外の成分を共重合していてもよい。共重合する成分としては、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレンエーテルグリコール、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリヒドロキシ酪酸やポリグリコール酸などの脂肪族ポリエステル、ポリエチレンイソフタレートなどの芳香族ポリエステル、及びグリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸、ラクトン、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸などのジカルボン酸、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコールなどのジオール、グリセリン、ペンタエリスリトール等の分子内に複数の水酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体などのエステル結合形成性の単量体が挙げられる。
【0017】
共重合成分は分子構造内に芳香環を含まないものであることが望ましい。また、良好な機械特性を維持するため、ポリ乳酸中80モル%以上がL−乳酸および/またはD−乳酸成分よりなることが望ましい。
【0018】
ポリ乳酸は、粒子、結晶核剤、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、エチレンビスステアリンサンアミドなどの滑剤等を含有していてもよい。
【0019】
また、溶融粘度を低減させるため、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリヒドロキシ酪酸のような脂肪族ポリエステルポリマーを内部可塑剤として、あるいは外部可塑剤として用いることができる。
【0020】
ポリ乳酸の重合方法としては、乳酸を有機溶媒及び触媒の存在下でそのまま脱水縮合する直接脱水縮合法や、少なくとも2種類のホモポリマーを重合触媒の存在下で共重合およびエステル交換反応させる方法や、乳酸を一旦脱水して環状二量体とした後に開環重合する間接重合法等を挙げることができる。
【0021】
ポリ乳酸の重量平均分子量としては、8万以上とすることが好ましく、より好ましくは10万以上、さらに好ましくは12万以上である。ポリ乳酸の重量平均分子量が8万未満であると、繊維の強度が低くなるため、紡糸時、延伸時に糸切れを生じたり、布帛の耐久性が不良となる傾向にあるため好ましくない。一方、ポリ乳酸の重量平均分子量は17万以下が好ましく、より好ましくは16万以下、さらに好ましくは15万以下である。ポリ乳酸の重量平均分子量が17万より大きいと、紡糸時、延伸時における分子配向が困難になるため斑を生じやすく、また溶融粘度を適切なレベルまで下げて紡糸すると熱分解物の発生が顕著となるため、好ましくない。
【0022】
ポリ乳酸は、分子鎖の一部のカルボキシル基末端が封鎖されていることが好ましい。ポリ乳酸の分子鎖の一部のカルボキシル基末端を封鎖することで、耐熱性や耐加水分解性を向上させることができる。
【0023】
ポリ乳酸の、残存モノマー及び残存オリゴマーの分も含めた、トータルカルボキシル基末端濃度としては、10当量/ton以下、好ましくは5当量/ton以下であるとよい。10当量/ton以下とすることで、耐熱性および耐加水分解性を向上させることができる。一方、製造コストや生産性の上では、1当量/ton以上とすることが好ましい。
【0024】
ポリ乳酸のカルボキシル基末端は、カルボジイミド化合物やグリシジル基を有する化合物(エポキシ化合物など)、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、アジリジン化合物、ジオール化合物、長鎖アルコール化合物などを添加することにより封鎖することができる。
【0025】
使用するカルボジイミド化合物としては例えば、ジフェニルカルボジイミド、ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジオクチルデシルカルボジイミド、ジ−o−トルイルカルボジイミド、ジ−p−トルイルカルボジイミド、ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、ジ−p−クロルフェニルカルボジイミド、ジ−o−クロルフェニルカルボジイミド、ジ−3,4−ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ−2,5−ジクロルフェニルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−o−トルイルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−p−クロルフェニルカルボジイミド、2,6,2′,6′−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド、ヘキサメチレン−ビス−シクロヘキシルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジフェニルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−o−トリイルカルボジイミド、N,N´−ジフェニルカルボジイミド、N,N´−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N´−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジ−tert
−ブチルフェニルカルボジイミド、N−トルイル−N´−フェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−トルイルカルボジイミド、N,N′−ベンジルカルボジイミド、N−オクタデシル−N′−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N′−フェニルカルボジイミド、N−オクタデシル−N′−トリルカルボジイミド、N−シクロヘキシル−N′−トリルカルボジイミド、N−フェニル−N′−トリルカルボジイミド、N−ベンジル−N′−トリルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−エチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−エチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジエチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2−エチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2−イソブチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリメチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリイソブチルフェニルカルボジイミドなどのカルボジイミド化合物、ポリ(1,6−ヘキサメチレンカルボジイミド)、ポリ(4,4′−メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(1,3−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(1,4−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(4,4′−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3′−ジメチル−4,4′−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)、ポリ(メチル−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)、ポリ(2,6,2′,6′−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド)などのポリカルボジイミドなどが挙げられる。
【0026】
中でも、ポリ(N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)、ポリ(2,6,2′,6′−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド)が好ましい。
【0027】
グリシジル基を有する化合物としては例えば、グリシジル基を有するモノマー単位からなるホモポリマーや、主鎖となる重合体に対してグリシジル基を有するモノマー単位がグラフト共重合された共重合体や、ポリエーテルユニットの末端にグリシジル基を有するものを挙げることができる。グリシジル基を有するモノマー単位としては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート等を挙げることができる。また、トリアジン環にグリシジル基を2個以上有する、トリグリシジルイソシアヌレート(TGIC)、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート(MADGIC)等も、耐熱性が高く好ましい。また、これらモノマー単位の他に、長鎖アルキルアクリレートなどを共重合して、グリシジル基の反応性を制御することもできる。
【0028】
グリシジル基を有する重合体あるいは共重合体の平均分子量としては、250〜30,000が好ましく、より好ましくは20,000以下である。当該範囲内とすることで、ポリ乳酸の溶融粘度の上昇を抑制することができる。
【0029】
ポリ乳酸のカルボキシル基末端封鎖剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
ポリ乳酸に対するカルボキシル基末端封鎖剤の添加量としては、0.1〜10質量%が好ましい。
【0031】
(ポリ乳酸捲縮糸)
本発明にかかるポリ乳酸捲縮糸は、伸縮復元率(CR値)が25%であることが良好な捲縮保持性の観点から好ましい。CR値が25%に満たない場合には、繊維の捲縮性が不十分となり、良好なストレッチ性が発現できない場合がある。
【0032】
ポリ乳酸捲縮加工糸の伸縮伸長率は、90%以上であることが好ましい。90%未満の場合には、CR値同様に繊維の捲縮性が不十分となり、良好なストレッチ性が発現できない場合がある。
【0033】
ポリ乳酸捲縮加工糸の伸縮回復率は、70%以上であることが好ましい。70%未満の場合には、伸びる織物ではあるが、縮むことがないため、衣料用途などでは使用できない。
【0034】
本発明において、ポリ乳酸繊維に捲縮性を付与させる方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。ポリ乳酸繊維に下撚り、上撚り、更に仮撚加工を施すことにより高捲縮性が得られることから好ましく用いられる。
【0035】
一般的にポリ乳酸繊維はポリエステル、ナイロンなどと比較して融点が低く単なる仮撚加工のみでは伸縮復元率、伸縮伸長率、伸縮回復率が極めて低い加工糸となる。これを改善するためにポリ乳酸繊維に下撚りを施した後、その下撚り糸を2本合糸して上撚りを施し、更に仮撚加工を施すことにより高捲縮がえられる。この方法でポリ乳酸繊維に捲縮性を付与させると、伸縮復元率(CR値)が25%以上、伸縮伸長率が90%以上、伸縮回復率が70%以上の特性を有するポリ乳酸捲縮糸を容易に得ることができる。
【0036】
織物のストレッチ性能については、直接的には織物の伸長率によって評価することができる。本発明のストレッチ織物においては、緯方向の伸長率が10〜200%であることが重要である。伸長率が10%に満たない場合にはストレッチ性はほとんど感じられず、通常の布帛と何ら変わるところがない。また、ストレッチ率が200%を越える布帛では、密度が高くなりすぎて重たい布帛となることがある。
【0037】
本発明の織物を一般衣料に用いる場合には、緯方向のストレッチ率が10〜40%であることが望ましい。一般衣料用途において40%を越えるストレッチ性は必ずしも必要とされず、場合によっては風合いの悪化を生じることがある。
【0038】
本発明の織物を包帯などの衛生材料として用いる場合は経方向のストレッチ率が100〜200%必要となってくる。200%を越える場合にはストレッチ性がありすぎて、包帯としてあるべきホールド性が保たれないため好ましくない。
【0039】
本発明のストレッチ織物は、緯糸としてポリ乳酸捲縮加工糸を用いるものである。また、経糸にもポリ乳酸捲縮加工糸を用いて経緯ともにストレッチを有する織物としてもよい。この経緯共にストレッチ性能を有する布帛は、高いストレッチ性を要求される衛生材料に好適である。
【0040】
(ポリ乳酸ループヤーン)
本発明のストレッチ織物において、上記ポリ乳酸捲縮加工糸に代えて、あるいは上記ポリ乳酸捲縮加工糸と共に、0.2mm以上のループ数が300個/m以上であり、かつ0.8mm以上のループ数が20個/m以下である、実質的に連続交絡を施した芯鞘2層構造のポリ乳酸ループヤーンを用いてもよい。一般に、包帯、ガーゼなどの衛生材料は織物密度が極めて低く、目ずれが生じやすく均斉な織物が得がたい。上記ポリ乳酸ループヤーンを用いることで、低密度で安定し、かつスパン風合いの織物が得られる。
【0041】
0.2mm以上のループ数を300個/m以上有することにより、糸条の表面に微細な凹凸を形成し、経糸と緯糸の交錯点のずれを防止できる。0.8mm以上のループ数が20個より多くなると糸条の表面が乱れて製織時にループヤーンのパッケージからの解除が困難となり使用できない。また、織物の外観、風合いが好ましくない。
【0042】
ポリ乳酸ループヤーンは、公知の方法により製造できる。例えば、ポリ乳酸繊維の2糸条を供給し、1糸条が芯糸となるべく低供給とし、他の1糸条が鞘糸となるべく過剰供給とし、その状態下でエアジェットノズルによる乱流処理により鞘糸にループを形成することができる。鞘糸の過剰供給量、エアジェットノズルのエア圧力などの条件により上記特性を有するループヤーンを容易に得ることができる。
【0043】
上記ポリ乳酸ループヤーンは、緯糸に用いるだけでなく、経糸および/または緯糸に他の繊維と配列混用して用いることができる。このようにして得られるストレッチ織物は、極低密度スパンライク織物である。配列混用する繊維として、上記ポリ乳酸捲縮糸を用いてもよい。
【0044】
本発明のストレッチ織物の経糸には、ポリ乳酸捲縮糸を用いてもよく、用いなくてもよい。また、ポリ乳酸捲縮糸とポリ乳酸ループヤーンとを配列混用したものを用いてもよい。ポリ乳酸捲縮糸を用いない場合には、経糸として捲縮を有さない延伸糸を用いてもよく、ポリ乳酸延伸糸のみではなく、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートおよびこれらの共重合体からなる芳香族ポリエステル繊維、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド繊維、ポリアクリロニトリルからなるアクリル繊維、セルロース繊維、レーヨン、テンセルなどの再生セルロース繊維、セルロースアセテートなどの科学繊維など、繊維の形態を有するものであれば使用に限定はない。経糸として捲縮を有さない繊維を用い、緯糸のみに捲縮を有さない延伸糸を用いたストレッチ性を有する織物は、シルエットの形態保持性が重視される高級衣料用途に好適である。
【0045】
[ストレッチ織物の製造]
本発明のストレッチ織物は、ポリ乳酸捲縮加工糸またはポリ乳酸ループヤーンを少なくとも緯糸に用いて生機を作成し、これを50〜100℃の熱水中でリラックス熱処理を行うことによって製造することができる。
【0046】
本発明のストレッチ織物を製織する際に使用する織機に関する制限は特になく、公知のエアジェットルーム、ウォータージェットルーム、レピアルームなどを用いることができる。
【0047】
本発明において、リラックス熱処理は精練工程を兼ねることができる。精練リラックス熱処理装置としては、特に制限するものではなく、織物の汚れ、油剤等を洗浄するための装置でも、揉み効果等を狙った風合い出し装置を用いてもよい。例えば拡布状で連続的に精練リラックスするいわゆる連続リラックス精練法あるいは液流染色機による非拡布でのバッチ精練リラックス法でもよいが、織物の収縮を十分に生じさせ、織物クリンプを深くするためにはできるだけ張力を掛けないで処理できるものが好ましい。中でも非拡布でのバッチ精練リラックス法は、液流による揉み効果が発現するため、織クリンプをより高度なものとすることができる。
【0048】
ポリ乳酸捲縮加工糸はポリエステル捲縮加工糸やナイロン捲縮加工とは異なり、リラックス熱処理によって大きく収縮して、織クリンプを容易に高めることができる。このことはポリ乳酸繊維に特異的な現象であり、この容易に織クリンプ率を高めることができる特性によって、高度なストレッチ性を有する新規なポリ乳酸ストレッチ織物を提供することができることとなる。この場合、織クリンプを効率的に向上させるためには、リラックス熱処理における緯方向の収縮率が10〜50%であることが好ましい。
【0049】
本発明の織物の組織には特に限定はなく、平織、綾織、朱子織の三原組織の他、これらの変化組織を採用することができる。リラックス収縮を弱めたい場合には組織点の多い平織組織を、リラックス収縮を強めたい場合には組織点の少ない綾織組織、朱子織組織を選択すればよい。
【実施例】
【0050】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0051】
[測定方法]
本発明および本実施例における特性の測定・評価は、以下に記載の方法を用いた。
【0052】
A.織りクリンプ率
JIS−1096,6.7.2(糸の織縮み率B法)に基づいて測定を行った。すなわち、織物の経または緯方向に20cmの幅で織物上に印を付けた後、織物を分解し経糸を取り出す。次いで取り出した糸に0.09cN/Dtexの荷重をかけて織クリンプ率を伸ばし、予め織物状態で付けておいた印の長さ(L)cmを測定し、次式により織りクリンプ率を求める。
織りクリンプ率(%)={(L−20)/20}×100
【0053】
B.織物の伸長率
JIS−1096,6.1.4.1(伸長率A法)に基づいて測定を行った。すなわち、織物を試料とし、初荷重の下チャック間の距離が20cmとなるように取り付け、引張速度が100%/分(20cm/分)の条件で荷重−伸長曲線を描き、この曲線から1.5kgf荷重時の伸長率(%)を求めて、3回の測定値の平均値をもって布帛の伸長率E(E1、E2)とする。
【0054】
C.捲縮加工糸の伸縮復元率(CR値)
捲縮加工糸を90℃10回巻きの綛状にし、90℃の温水中で20分間自由に収縮させる。一晩風乾した後、20℃の水中にて、繊維の表示dtexの0.036倍の初荷重と、繊維の表示dtexの1.8倍の実荷重を綛に掛け、2分後に長さを測定する(L0)。すぐに実荷重を取り外し、2分後に再度綛の長さを測定する(L1)。次式によって得られる値を伸縮復元率とした。
伸縮復元率(%)={(L0−L1)/L0}×100
【0055】
D.伸縮伸長率、伸縮回復率
捲縮加工糸を10回巻きの綛状にし、90℃の温水中で20分間自由に収縮させる。一晩風乾した後、繊維の表示dtexの0.036倍の初荷重を掛け、2分後に綛の長さを測定する(L0)。すぐに繊維の表示dtexの1.8倍の実荷重を綛に掛け、2分後に綛の長さを測定する(L1)。次いで再度、繊維の表示dtexの0.036倍の初荷重を掛け、2分後に綛の長さを測定する(L2)。次式によって得られる値を伸縮伸長率、伸縮回復率とした。
伸縮伸長率(%)={(L1−L0)/L0}×100
伸縮回復率(%)={(L1−L2)/L1−L0}×100
【0056】
E.ループヤーンのループ数
走行中の糸のループ数や毛羽数を計測する光電型毛羽測定器(TORAY FRAY COUNTER)を用いて、糸速50m/min、走行張力0.1g/dtexの条件で1分間測定し、1m当たりのループ数に換算した。ループ数が最も多く計測される位置を糸表面とし、例えば、糸表面から0.2mm離れた位置での測定値をループ長0.2mm以上のループ数とし、糸表面から0.8mm離れた位置での測定値をループ長0.8以上のループ数とした。
このような測定方法によって求められるループ長0.2mm以上0.8mm未満のループ数とは、
(ループ長0.2mm以上のループ数の値)―(ループ長0.8mm以上のループ数の値)
で求められる値である。
【0057】
F.沸騰水収縮率(沸収)
試料を10回巻きの綛に取り出し、0.1cN/dtexの荷重下で原長(L0)を測定する。このかせを98℃の沸騰水バス中で無荷重で15分間処理した後に取り出し、風乾した後、0.1cN/dtexの荷重下で処理後長(L1)を測定する。次式によって得られた値を沸騰水収縮率(沸収)とした。
沸収(%)={(L0−L1)/L0}×100
【0058】
E.布帛の風合い
試料の織物のストレッチ性、やわらかさ(がさつきのなさ)について官能試験による評価を行い、「極めて優れている」は◎、「優れている」は○、「普通」は△、「劣っている」は×とする4段階評価を行った。
【0059】
(参考例1) ポリ乳酸捲縮加工糸の作成
重量平均分子量12万であるポリL−乳酸のチップを、105℃に設定した真空乾燥機で12時間乾燥した。乾燥したチップをプレッシャーメルター型紡糸機にて、メルター温度220℃にて溶融し、紡糸温度220℃として溶融パックへ導入して、0.34mmΦ−0.50mmLの口金孔より紡出した。この紡出糸を20℃、30℃m/分のチムニー風によって冷却し、油剤を付与して収束した後、3000m/分で引き取って120dtex−26Fの高配向未延伸糸を得た。
【0060】
この高配向未延伸糸をホットローラ系の延伸機にて延伸ローラ温度90℃、熱セットローラ温度120℃、延伸倍率1.45倍の条件で延伸加工を行った。
【0061】
次いで、この延糸を下撚Z方向900T/Mを施し、次いで2本合糸し上撚S方向900T/Mを施し、更にZ方向2820T/M、ヒーター温度115℃の条件下で仮撚を行った。
【0062】
この加工糸は伸縮復元率35.6%、伸縮伸長率185.5%、伸縮回復率75.4%であった。
【0063】
(参考例2) ポリ乳酸ループヤーンの作成
参考例1と同様にして56dtex−40Fのポリ乳酸高配向未延伸糸を用いて、ホットローラ系の延伸機にて延伸ローラ温度90℃、熱セットローラー温度120℃、延伸倍率1.45倍の条件で延伸加工を行った。得られた延伸糸は捲縮のない生糸であり、繊度が56dtex、強度が4.0cN/dtex、沸騰水収縮率が4.8%であった。
【0064】
この延伸糸と参考例1の高配向未延伸糸を延伸し84Dtex−26Fとしたものを用いて、芯糸に84Dtex−26F、鞘糸に56dtex−40Fを配して、鞘糸構成糸を40%過剰供給し、エアジェットノズルにより芯糸と鞘糸を交絡させ、ループを形成したスパンライクな加工糸を得た。
【0065】
このループヤーンは繊度が160dtex−66Fであり、0.2mm以下のループ数が522個/m、0.8mm以上のループ数が11個/mであった。
【0066】
(実施例1)
上記参考例1で作成した168dtex−52Fの捲縮加工糸を緯糸に用いて、経糸にはナイロン56T−34を使用しエアジェットルームで平織りを製織した。更に該生機に通常のナイロン精錬、染色加工を施すことにより経糸密度110本/inch、緯糸密度92本/inchの織物を得た。
【0067】
この織物は緯方向の伸長率が23%であり、快適な着用感と均斉な外観、張り腰のある風合いが発現した織物となった。
【0068】
(実施例2)
上記参考例1で作成した168dtex−52Fの捲縮加工糸を経糸、緯糸両方に用いてエアジェットルームで平織りを製織した。更に該生機に常圧条件下で精錬、染色加工を施すことにより経糸密度95本/inch、緯糸密度91本/inchの織物を得た。
【0069】
該織物は経方向の伸長率が19%、緯糸方向の伸長率が25%であり、運動機能が要求されるスポーツ衣料などに適したツーウエイ織物となった。
【0070】
(実施例3)
上記参考例1(168dtex−52F)と参考例2(160dtex−66F)で作成した加工糸を経糸に1本交互に用い、参考例2で作成した加工糸のみを緯糸に用いテープ織機で平織りを製織した。更に該織物に常圧条件下で精錬加工を施すことにより経糸密度31本/inch、緯糸密度62本/inchの織物を得た。
【0071】
該織物は経方向の伸縮伸長率が103%であり、緯方向の伸長率はほとんどなかった。また、極低密度ながら均斉な織物外観を有し、従来のポリウレタンと綿糸で構成されている弾性包帯の特性に近似した織物が得られた。
【0072】
(実施例4)
上記参考例1(168dtex−52F)と参考例2(160dtex−66F)で作成した加工糸を経糸と緯糸にそれぞれ1本交互に配してエアジェットルームで平織りを製織した。更に該生機に常圧条件下で精錬加工を施すことにより経糸密度65本/inch、緯糸密度61本/inchの織物を得た。
【0073】
該織物は経方向、緯方向双方に伸長率が102%であり、また極低密度ながら均斉な外観を有する織物が得られた。これら特性は手術などに使用される弾性ネットと同等のものであった。
【0074】
(比較例1)
上記参考例1で下撚、上撚を施さない仮撚数Z方向2400T/M、ヒータ温度115℃の条件下で単なる仮撚加工糸を得た。この加工糸の伸縮復元率が19.8%、伸縮伸長率が73.5%、伸縮回復率が69.8%と、実施例1に比較して大幅に小さかった。
【0075】
この加工糸を緯糸に用いて、実施例1と同様な織物を製織し、精錬、染色加工を行った。更に該生機にナイロン精錬、染色加工を施すことにより経糸密度76本/inch、緯糸密度91本/inchの織物を得た。捲縮力が低いため経糸密度も小さく、織物の緯方向の伸長率が4.5%であり、ストレッチ性が劣るものであった。
【0076】
(比較例2)
上記参考例1で下撚、上撚を施さない単なる仮撚加工糸と上記参考例2のループヤーンを経糸に用いて、実施例3と同様な織物を製織した。更に該生機に常圧条件下で精錬加工を施すことにより経糸密度32本/inch、緯糸密度45本/inchの織物を得た。
【0077】
該織物は経方向の伸縮伸長率が42%であり、従来のポリウレタン/木綿の包帯には程遠いものであった。
【0078】
(比較例3)
実施例4において、上記参考例2のループヤーンの代わりに単なる仮撚加工糸を用いて平織を製織した。
【0079】
経糸、緯糸ともに密度が極めて低いため、織機上で目ずれが生じて均斉な織物は製織できなかった。また、織り上がった織物の取扱も困難であった。
【0080】
上記実施例1〜4、比較例1〜3の結果を表1に示す。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも緯糸に、伸縮復元率(CR値)が25%以上、伸縮伸長率が90%以上、伸縮回復率が70%以上であるポリ乳酸捲縮糸を用いる織物であって、
前記織物の緯方向の伸長率が10〜200%である、ストレッチ織物。
【請求項2】
0.2mm以上のループ数が300個/m以上であり、かつ0.8mm以上のループ数が20個/m以下である、実質的に連続交絡を施した芯鞘2層構造のポリ乳酸ループヤーンを用いるストレッチ織物であって、
前記ポリ乳酸ループヤーンが、緯糸に用いられる、あるいは経糸および/または緯糸に配列混用されている極低密度スパンライク織物である、ストレッチ織物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のストレッチ織物を用いた、衛生用品。




【公開番号】特開2010−126815(P2010−126815A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−298948(P2008−298948)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 博覧会名:中小企業総合展2008 in Kansai 主催者名:独立行政法人中小基盤整備機構 開催日:平成20年5月28日〜30日
【出願人】(597122792)原田商事株式会社 (4)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】