説明

スパイラルアンテナ

【課題】薄型化を図ると共に円偏波の旋回方向を給電する周波数に応じて変化でき、その現象を単一のアンテナで実現できるスパイラルアンテナを提供する。
【解決手段】反射板21上に誘電体22を積層し、誘電体22の上にスパイラル素子23を設ける。スパイラル素子23は、CRLH伝送線路を使用し、複数のユニットセル30により構成する。ユニットセル30は、セル25の前後に左手系キャパシタンスCを直列に設けると共にセル25と反射板21とを電気的に接続するビア26を挿入し、更にビア26と反射板21との間に左手系リアクタンスLを装荷してCRLH特性を実現する。CRLH伝送線路を使用したスパイラル素子23は、位相定数が周波数特性を持ち、位相定数が負になるときは左手系伝送線路として動作し、位相定数が正になるときは右手系伝送線路として動作する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばETC(Electronic Toll Collection)システムやGPS(Global Positioning System)等の車載アンテナに使用されるスパイラルアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のスパイラルアンテナは、広帯域の円偏波放射型アンテナであり、アームの回転方向により、偏波面の旋回方向が決定する。スパイラルアンテナ単体では、放射ビームが双方向性であり、反射板をスパイラル素子の後方に設置することにより単方向性の指向性を持たせることが可能である。
【0003】
図7及び図8は従来の単線式アルキメデススパイラルアンテナ10の構成を示したもので、図7はスパイラルアンテナ10の斜視図、図8は図7のP−Q線断面図である。
従来のスパイラルアンテナ10は、例えば正方形に形成された反射板11の上面に該反射板11と同じ大きさで厚さtの誘電体12が積層され、この誘電体12の上面に単線式アルキメデス型のスパイラル素子13が設けられる。また、スパイラル素子13には、外周側の端部と反射板11との間に終端抵抗14が設けられ、中心側の端部と反射板11との間に給電される。
【0004】
上記スパイラル素子13は、通常の線路で構成され、周波数に影響なく一定の旋回方向の円偏波をスパイラルの法線方向であるZ方向に放射する。
通常、スパイラル素子13と反射板11との間隔t(誘電体12の厚さ)は1/4λ(λは使用周波数における波長)が最適であるが、アンテナ高を低くする技術として、スパイラル素子13の最外周と反射板11との間に吸収材を装荷する方法と、反射板11の代わりに電磁気的バンドギャップ板を後方設置する方法が確立されている。その場合のスパイラル素子13と反射板11あるいは電磁気的バンドギャップ板との間隔tは、0.07λである。
【0005】
また、本発明に関連する公知技術として、例えばモノポールアンテナやダイポールアンテナ等の直線状のアンテナ素子にメタマテリアル(左手系素子)の技術を適用し、右手/左手系複合伝送線路(CRLH(Composite Right/Left Handed)伝送線路)で円偏波を実現する技術が知られている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0006】
図9は一般的なCRLH伝送線路の等価回路を示している。このCRLH伝送線路の等価回路は、線路に直列に設けられる右手系リアクタンスL(L=L/2+L/2)及び左手系キャパシタンスC(1/C=1/(2C)+1/(2C))、線路に並列に設けられる左手系リアクタンスL及び右手系キャパシタンスCによって構成される。
【0007】
上記CRLH伝送線路は、位相定数が周波数特性を持ち、位相定数が負になるときは左手系伝送線路として、正になるときは右手系伝送線路として動作する。一方、通常の伝送線路においては、左手系キャパシタンスC及び左手系リアクタンスLは存在せず、位相定数が一定であり、周波数に関係なく右手系伝送線路として動作する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−325118号公報
【特許文献2】特開2006−333429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように従来のスパイラルアンテナは、スパイラル素子13と反射板11との間隔tは1/4λが最適であるが、アンテナ高を低くする技術として、スパイラル素子13の最外周と反射板11との間に吸収材を装荷する方法、あるいは反射板11の代わりに電磁気的バンドギャップ板を後方設置する方法を用いることによって、スパイラル素子13と反射板11との間隔、又はスパイラル素子13と電磁気的バンドギャップ板との間隔を0.07λまで狭くすることが可能である。
【0010】
しかし、最近では車載アンテナの高さを更に低くことが要求されている。従来のアンテナ高を低くする技術を用いた場合、スパイラル素子13と反射板11との間の間隔tは0.07λが限度であり、それ以上狭くすることは困難である。
本発明は上記の課題を解決するためになされたもので、スパイラル素子をCRLH伝送線路にて構成することにより、周波数短縮効果を利用してアンテナ高を低くでき、かつ、円偏波の旋回方向を給電する周波数に応じて変化することが可能であり、しかも、その現象を単一のアンテナで実現することができるスパイラルアンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明に係るスパイラルアンテナは、反射板と、前記反射板上に積層される所定の厚さの誘電体と、前記誘電体の上面に形成されて円偏波を放射する複数のユニットセルからなるスパイラル素子と、前記スパイラル素子の一方の端部と前記反射板との間に給電する給電手段と、前記スパイラル素子の他方の端部と前記反射板との間に設けられる終端抵抗とを具備し、前記ユニットセルは、前記スパイラル素子の線路に直列にキャパシタンスを装荷すると共に、前記線路と前記反射板との間にリアクタンスを装荷して右手/左手系複合伝送線路を構成し、特定周波数未満で左手系伝送線路、特定周波数以上で右手系伝送線路として動作するようにしたことを特徴とする。
【0012】
第2の発明は、前記第1の発明に係るスパイラルアンテナにおいて、前記ユニットセルは、前記スパイラル素子の線路に直列に1対のキャパシタンスを装荷すると共に、前記1対のキャパシタンス間の線路と前記反射板との間にリアクタンスを装荷して右手/左手系複合伝送線路を構成したことを特徴とする。
【0013】
第3の発明は、前記第1又は第2の発明に係るスパイラルアンテナにおいて、前記誘電体の厚さを約0.01波長に設定したことを特徴とする。
第4の発明は、前記第1ないし第3の何れかの発明に係るスパイラルアンテナにおいて、前記リアクタンスは、前記スパイラル素子の線路と前記反射板との間に接続ピンを介して装荷したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、スパイラル素子と反射板との間を短縮してアンテナの薄型化を図ることができ、例えば車両の上部など、高さが制限された空間においても容易に使用することができる。また、右手/左手系複合伝送線路からなる複数のユニットセルによりスパイラル素子を構成することで、給電周波数に応じて円偏波の旋回方向を変化させることが可能であり、かつ、単一のアンテナで実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係るスパイラルアンテナの概略構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示したスパイラルアンテナのP−Q線断面図である。
【図3】(a)は同実施形態におけるスパイラル素子の一部を拡大して示す上面図、(b)は同スパイラル素子の断面図である。
【図4】同実施形態に係るスパイラルアンテナにおける位相定数の周波数特性示す図である。
【図5】同実施形態に係るスパイラルアンテナのVSWR特性(電圧定在波比特性)を示す図である。
【図6】(a)は同実施形態に係るスパイラルアンテナの2.6GHzの周波数における指向性を示す図、(b)は同スパイラルアンテナの3.6GHz周波数における指向性を示す図である。
【図7】従来のスパイラルアンテナの概略構成を示す斜視図である。
【図8】図7に示したスパイラルアンテナのP−Q線断面図である。
【図9】一般的なCRLH伝送線路の等価回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る3GHz帯の単線式アルキメデススパイラルアンテナ20の概略構成を示す斜視図、図2は図1に示したスパイラルアンテナ20のP−Q線断面図である。また、図3(a)はスパイラルアンテナ20におけるスパイラル素子の一部を拡大して示す上面図、(b)は同スパイラル素子の断面図である。
【0017】
図1に示すようにスパイラルアンテナ20は、例えば金属板を用いて正方形に形成された反射板21の上面に該反射板21と同じ大きさで厚さtの誘電体22が積層され、この誘電体22の上面に単線式アルキメデス型のスパイラル素子23が設けられる。このスパイラル素子23には、図2に示すように外周側の端部と反射板21との間に終端抵抗(純抵抗)24が接続される。この終端抵抗24は、入射インピーダンス、放射インピーダンスの広帯域特性の劣化を防ぐ作用を持ち、給電インピーダンスと同じ値例えば50オームに設定される。上記スパイラル素子23は、外周の一辺の長さLが例えば60mmで、外周長4Lは240mmに設定される。
【0018】
また、上記スパイラルアンテナ20は、図示しないが反射板21の下側中央部に設けられた同軸給電用コネクタを介して給電される。上記コネクタは、中心導体が反射板21及び誘電体22の中心部に設けられた透孔内を絶縁した状態で誘電体22の上面に導出されてスパイラル素子23の中心側端部に接続される。また、上記コネクタの外部導体は、反射板21に接続される。
【0019】
上記スパイラル素子23は、CRLH(Composite Right/Left Handed)伝送線路(右手/左手系複合伝送線路)を用いて構成したもので、線路に対して非常に小さい複数のコンデンサ例えばチップタイプのコンデンサを左手系キャパシタンスCとして所定の間隔で直列に設けている。
【0020】
また、スパイラル素子23は、図3(a)、(b)に示すように左手系キャパシタンスCで分割することにより複数のセル25を構成している。セル25には、スパイラル素子23と反射板21とを電気的に接続する所定長さのビア(接続ピン)26が挿入され、更にビア26と反射板21との間に左手系リアクタンスLが装荷される。この場合、ビア26は、セル25に対して例えば一つ置きに設けられる。上記左手系キャパシタンスC及び左手系リアクタンスLの定数は、CRLHのブロッホインピーダンス(CRLHの周期条件を考慮に入れた伝送線路の特性インピーダンス)が終端抵抗24と等しい50オームになるように調整される。
【0021】
上記スパイラル素子23は、図3に示すようにビア26が設けられたセル25と、その前後の1/2のセル25、25と、上記セル25の前後に設けられた1対の左手系キャパシタンスC及び左手系リアクタンスLによって1つのユニットセル30を構成し、CRLH(Composite Right/Left Handed)特性を実現している。
【0022】
上記ユニットセル30は、左手系キャパシタンスC、左手系リアクタンスL、ピッチ間隔p、線路幅w、誘電体22の厚さt、誘電体22の比誘電率εの値を例えば次のように設定し、3GHz未満では左手系線路、3GHz以上で右手系線路として動作するように調整する。
【0023】
=1.45pF
=3.99mH
p =10mm
w =4.2mm
=1.6mm
ε=2.6
なお、上記の値は一例を示したものであり、その他の値に設定してもよいことは勿論である。
上記スパイラルアンテナ20におけるユニットセル30の等価回路は、図9にて説明した一般的なCRLH伝送線路の等価回路と同様の構成となっている。すなわち、上記左手系キャパシタンスC(1/C=1/(2C)+1/(2C))及びユニットセル30の線路によって形成される右手系リアクタンスL(L=L/2+L/2)が線路に対して直列に設けられると共に、上記左手系リアクタンスL及びユニットセル30の線路と誘電体22を介して反射板21との間に形成される右手系キャパシタンスCが線路に並列に設けられる。
【0024】
上記CRLH伝送線路によって構成されるユニットセル30は、図4に示すように位相定数βpが周波数特性を持ち、位相定数βpが負になるときは左手系伝送線路として動作し、位相定数βpが正になるときは右手系伝送線路として動作する。図4は、上記スパイラルアンテナ20の分散特性(位相定数の周波数特性)を示している。
【0025】
この実施形態で示したスパイラルアンテナ20では、3GHzの周波数でバランス状態となるように設定され、3GHz未満の周波数で左手系伝送線路、3GHz以上の周波数で右手系伝送線路の特性を示すようになっている。具体的には、左手系伝送線路では2.6GHzの周波数、右手系伝送線路では3.6GHzの周波数で良好な特性が得られるように設定している。
【0026】
図5は上記実施形態に係るスパイラルアンテナ20のVSWR特性で、目的とする2.6GHzを含む2.0〜2.9GHzの周波数範囲、及び3.6GHzを含む3.1〜4GHzの周波数範囲におけるVSWRを測定して示したものである。上記図5から明らかなように、目的とする2.6GHzの周波数、及び3.6GHzの周波数では、「VSWR=2」以下となり、良好な値が得られている。
【0027】
図6は上記実施形態に係るスパイラルアンテナ20の水平面指向性を示したもので、(a)は2.6GHzの周波数における水平面指向性を示し、(b)は3.6GHzの周波数における水平面指向性を示している。また、図6(a)、(b)において、破線Eは左旋円偏波の指向性を示し、実線Eは右旋円偏波の指向性を示している。
【0028】
図6(a)に示す2.6GHzの周波数では、左旋円偏波Eにおいて利得の大きい単方向性の指向性を示し、右旋円偏波Eにおいては利得が小さく、かつ単方向性の指向性となっていない。
また、図6(b)に示す3.6GHzの周波数では、右旋円偏波Eにおいて利得の大きい単方向性の指向性を示し、左旋円偏波Eにおいては利得が小さく、かつ単方向性の指向性となっていない。
【0029】
従って、上記スパイラルアンテナ20は、2.6GHzの周波数では左旋円偏波用のアンテナとして作用させ、3.6GHzの周波数では右旋円偏波用のアンテナとして作用させることで、効率的に使用することができる。この結果、単一のアンテナにより、周波数に応じて右旋円偏波用、左旋円偏波用に変化させることが可能となる。
【0030】
また、上記実施形態に係るスパイラルアンテナ20では、誘電体22の厚さt、すなわち、反射板21とスパイラル素子23との間隔を1.6mm(約0.01λ)まで小さくでき、アンテナの薄型化を図ることができる。なお、上記λは使用周波数における波長であり、この場合の例では2.6GHzの周波数における波長を示している。
【0031】
なお、上記実施形態では、単線式アルキメデス型のスパイラルアンテナ20に実施した場合について示したが、その他の形状のスパイラルアンテナであっても実施することが可能である。
また、上記実施形態では、3MHz帯を使用したスパイラルアンテナ20に実施した場合について示したが、それ以外の周波数や用途に提供するように構成してもよいなど、本発明の要旨を逸脱しない範囲で各部の構成要素を適宜に変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0032】
20…スパイラルアンテナ、21…反射板、22…誘電体、23…スパイラル素子、24…終端抵抗、25、25、25…セル、26…ビア、30…ユニットセル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射板と、前記反射板上に積層される所定の厚さの誘電体と、前記誘電体の上面に形成されて円偏波を放射する複数のユニットセルからなるスパイラル素子と、前記スパイラル素子の一方の端部と前記反射板との間に給電する給電手段と、前記スパイラル素子の他方の端部と前記反射板との間に設けられる終端抵抗とを具備し、
前記ユニットセルは、前記スパイラル素子の線路に直列にキャパシタンスを装荷すると共に、前記線路と前記反射板との間にリアクタンスを装荷して右手/左手系複合伝送線路を構成し、特定周波数未満で左手系伝送線路、特定周波数以上で右手系伝送線路として動作するようにしたことを特徴とするスパイラルアンテナ。
【請求項2】
前記ユニットセルは、前記スパイラル素子の線路に直列に1対のキャパシタンスを装荷すると共に、前記1対のキャパシタンス間の線路と前記反射板との間にリアクタンスを装荷して右手/左手系複合伝送線路を構成したことを特徴とする請求項1に記載のスパイラルアンテナ。
【請求項3】
前記誘電体の厚さを約0.01波長に設定したことを特徴とする請求項1又は2に記載のスパイラルアンテナ。
【請求項4】
前記ユニットセルのリアクタンスは、前記スパイラル素子の線路と前記反射板との間に接続ピンを介して装荷したことを特徴とする請求項1ないし3の何れか1項に記載のスパイラルアンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−89992(P2013−89992A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225685(P2011−225685)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(504378814)八木アンテナ株式会社 (190)
【Fターム(参考)】