説明

スパッタリング装置及びクリーニング方法

【課題】前処理エッチング専用のチャンバーを別に設けることを不要し、さらには、前処理エッチングによる付着物からターゲット等を保護するシャッターの開閉専用の駆動系をも不要とするスパッタリング装置及びそのクリーニング方法を提供する。
【解決手段】同一のチャンバー内部で行われる複数のカソードを配置するマルチカソード型のスパッタリング装置であって、少なくとも一基のカソードの位置に前処理エッチング時の付着物を付着させるシールド13を設ける構成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願の発明は、基板の表面にスパッタリングにより薄膜を作成するスパッタリング装置に関するものであり、特に、成膜の前に基板の表面をエッチングする前処理を行うスパッタリング装置及びそれを用いたクリーニング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スパッタリング装置は、基板の表面に薄膜を作成する装置として産業の各分野で盛んに使用されている。特に、LSI、有機EL、TFT等をはじめとする各種電子デバイスの製造では、各種導電膜や絶縁膜等の作成にスパッタリング装置は多用されている。
【0003】
このような成膜技術においては、成膜の前に、基板の表面をエッチングする前処理クリーニング(以下、前処理エッチングという)を行うことがある。前処理エッチングは、多くの場合、基板の表面に形成されている薄膜を除去する処理である。
【0004】
例えば、基板の表面には自然酸化膜や保護膜が形成されていることがある。
このような薄膜が形成されている状態で成膜処理を行うと、作成される薄膜の品質が損なわれることがある。例えば、基板の表面に絶縁性の自然酸化膜や保護膜が形成されている状態で配線用の導電材料の成膜を行うと、下地である基板の表面と配線用の導電膜との導通性が悪くなる問題がある。
【0005】
また、自然酸化膜や保護膜がある状態で成膜を行うと、作成する薄膜の基板に対する密着性が悪くなることもある。さらに、基板の表面にゴミや汚れが付着している場合にも、基板に対する薄膜の密着性や導通性等が悪化する。
【0006】
このようなことから、成膜の前に基板の表面をエッチングし、表面の自然酸化膜、保護膜、又は、ゴミ等の異物を取り除く処理をしている。
前処理エッチングは、例えば、特開2002−309370号公報(特許文献1)に開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−309370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した特許文献1に開示される前処理エッチングは、通常、スパッタリングを行うスパッタチャンバーとは別に設けられたチャンバー内で行われる。スパッタチャンバー内で前処理エッチングを行うと、前処理エッチングの際に放出された自然酸化膜や保護膜の微粒子がスパッタチャンバー内を浮遊し、スパッタリングの際に作成される薄膜中に混入する等の基板の汚損の原因となり易いからである。
尚、このような基板を汚損する微粒子を本明細書ではパーティクルと総称する。
【0009】
本願の発明は、係る課題を解決するためになされたものであり、前処理エッチング専用のチャンバーを別に設けることを不要とするものであり、さらには、前処理エッチングによる付着物からターゲット等を保護するシャッターの開閉専用の駆動系をも不要とするスパッタリング装置及びそのクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明のスパッタリング装置は、パッタリングにより薄膜を作成する成膜処理機構と、成膜処理の前にエッチングする前処理エッチング機構が同一のチャンバー内部で行われる複数のカソードを配置するマルチカソード型のスパッタリング装置であって、少なくとも一基のカソードの位置に前処理エッチング時の付着物を付着させるシールドが設けられていることを特徴としている。
【0011】
ここで、マルチカソード型とは、カソード1個(またはターゲット1個)で一基のカソードを形成するもの、もしくは、同時にスパッタする同一種の複数のターゲットに対してそれぞれのカソードを一組にして一基のカソードを形成するものが、複数箇所配置されている状態のものをいう。
【発明の効果】
【0012】
本願発明のスパッタリング装置において、基板の配置は、ターゲットと対向していない両隣の基板に薄膜が付着し難くするため、基板ホルダーの回転方向に沿って90度ずつ角度を開けて配置されている。
【0013】
また、シールドは、回転軸の周りを回転する基板ホルダーと対向する、ターゲットが配置される位置に静止した状態で固定されることから、シールドに付着した基板からの前処理エッチング時の付着物は、パーティクルとなって飛散し難くさせることができる。
これにより、スパッタリングを行うスパッタリング室で前処理エッチングを行ってもパーティクルの問題を低減することができる。また、その結果、前処理エッチング専用のチャンバーを配置することが不要であるためフットプリント的に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本願発明の実施形態のスパッタリング装置によるスパッタリング時の側面概略図である。
【図2】本願発明の実施形態のスパッタリング装置による前処理エッチング時の側面概略図である。
【図3】本願発明の実施形態のスパッタリング装置の基板ホルダー上から見た概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本願発明の実施形態について説明する。
図1は、本願発明の実施形態のスパッタリング装置によるスパッタリング時の側面概略図であり、図2は、本願発明の実施形態のスパッタリング装置による前処理エッチング時の側面概略図である。
図3は、本願発明の実施形態のスパッタリング装置の基板ホルダー上から見た概略図で
ある。
【0016】
以下、図1乃至図3を参照して、本願発明のスパッタリング装置に関する実施の形態について説明するが、それぞれの図において、各構成要件の形状、大きさ及び配置関係については、この発明を理解できる程度に概略的に示してあるにすぎない。 特に、基板やターゲットの大きさ及び形状等、概略的に示してあるにすぎない。
【0017】
また、以下、この発明の好適な構成例につき説明するが、この発明は何らこの発明の好適例に限定されることなく、この発明の要旨を逸脱することなく多くの変形及び変更が可能である。
【0018】
スパッタリング室1は、気密な真空容器であり、ゲートバルブ6を介して基板11の出し入れが不図示の基板搬送系により行われるようになっている。
【0019】
不図示の排気系(符号8は排気方向)によりスパッタリング室1内を10−5〜10−7Pa程度まで排気できるよう構成されている。ガス導入配管3は、アルゴンのような不活性ガスを導入方向7で所定の流量で導入するようになっている。
ガス導入配管3によってアルゴン等のガスを導入し、不図示の排気系によってスパッタリング室1内を所定の真空圧力に維持した状態で、スパッタ電源21を動作させることにより、スパッタ放電が生じてターゲット12がスパッタされ、ターゲット12の材料の薄膜が基板11の表面に作成される。
【0020】
図1に表すように、基板ホルダー10の回転機構23により基板11とターゲット12は対向する位置に配置されており、この状態でスパッタリングにより薄膜が基板11上に形成される。
基板11が設置された基板ホルダ−10は、絶縁石2によりスパッタリング室1から電気的に絶縁されている。基板ホルダ−10の内側にはヒ−タ15があり、図示しない熱電対を用いて基板温度をモニターし、ヒ−タ15に投入する電力を制御して、基板11の温度を制御している。
【0021】
図3では、基板ホルダー10上に3枚の基板11が配置され、2枚の基板11は2基のターゲットと対向し、残り1枚の基板11はシールド13と対向している状態を表している。基板11の配置は、ターゲット12と対向していない両隣の基板11に薄膜が付着し難くするため、基板ホルダー10の回転方向14に沿って90度ずつ角度を開けて配置されるのが好ましい。必要であれば防着部材を備えることができる。尚、基板ホルダー10の形状は、円筒状に限定されるものではない。
【0022】
また、基板11は基板ホルダー10上に不図示の搬送系で配置されるが、パーティクル等の異物を考慮した場合、立てた状態で配置されるのが好ましい。
ターゲット11の背後(被スパッタ面とは反対側)には、マグネトロンスパッタを可能にする磁石ユニット(不図示)が設けられる。
【0023】
さらに、本発明の実施形態のスパッタリング装置では、スパッタ電源21による放電により、基板11に対する前処理エッチング用のプラズマを基板11とシールド13との間で形成できるようになっている。
【0024】
即ち、スパッタリングによる成膜前に前処理エッチングを行うときは、図2に示すように、スパッタ電源21からの電力は、切替器22により基板ホルダー用配線24を介して基板11に印加することによって前処理エッチングを行うことができる。
【0025】
ここで、シールド13は、回転軸の周りを回転する基板ホルダー10と対向する、ターゲットが配置される位置に静止した状態で固定されているため、シールド13に付着した基板11からの前処理エッチング時の付着物は、パーティクルとなって飛散し難い構成を採っている。シールド13自身は交換可能な構成を採っている。
【0026】
また、上記実施形態の構成では、シールド13は、金属製の本体の上に絶縁層を設けた構成でも良いし、シールド13全体が絶縁物から成る構成であっても良い。
【0027】
即ち、全体がアルミナやガラス(石英ガラス等)のようなセラミックスその他の絶縁物で形成されていても良い。また、全体が絶縁物からなるシールド13の場合、アース5に短絡されたとしても、内部に電位差が形成されたり、電気的に不安定になったりする場合がある。金属製の部材の上に絶縁層が形成された構成の場合、このような問題は少ない。
【0028】
上述の構成により、本実施形態のスパッタリング装置における前処理エッチングは、一例として、不図示の排気系によってスパッタリング室1内を10−5〜10−7Pa程度まで排気し、ガス導入配管3によって所定の流量のアルゴンガスを導入し、スパッタ電源21を動作させて前処理エッチングを行うことができる。
【符号の説明】
【0029】
1. スパッタリング室
2. 絶縁石
3. ガス導入配管
4. 排気系
5. アース
6. ゲートバルブ
7. ガスの導入方向
8. 排気方向
10. 基板ホルダー
11. 基板
12. ターゲット
13. シールド
14. 基板ホルダーの回転方向
15. ヒータ
21. スパッタ電源
22. 切替器
23. 回転機構
24. 基板ホルダー用配線
25. ターゲット用配線





【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリングにより薄膜を作成する成膜処理機構と、前記成膜処理の前にエッチングする前処理エッチング機構が同一のチャンバー内部で行われる複数のカソードを配置するマルチカソード型のスパッタリング装置であって、少なくとも一基の前記カソードの位置に、前記前処理エッチング時の付着物を付着させるシールドが設けられていることを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項2】
前記シールドは、前記前処理エッチング時、前記基板と対向し、かつ、立てられた状態であることを特徴とする請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のスパッタリング装置を用いたクリーニング方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−94165(P2011−94165A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246480(P2009−246480)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】