スパッタリング装置
【課題】回転自在に設けられた円筒状ターゲットの長さ方向の端部での局所消耗を抑制し、エロージョン領域を均一化し、その使用寿命を向上させることができるスパッタリング装置を提供する。
【解決手段】回転自在とされた円筒状ターゲット13を有し、前記円筒状ターゲット13の内側に設けられ、その長さ方向に沿って配置された磁場発生部材14を有するスパッタ蒸発源2の一対と、前記一対のスパッタ蒸発源2のそれぞれの円筒状ターゲット13を共にカソードとしてこれらに放電電力を供給するスパッタ電源3を備える。前記一対のスパッタ蒸発源2,2は、それぞれの円筒状ターゲット13が平行に対向して配置され、それぞれの磁場発生部材14,14は円筒状ターゲット13,13の表面を通り、互いに引き合う向きの磁力線を形成する磁場を発生させる。前記スパッタ電源は前記円筒状ターゲット間にペニング放電を発生させる。
【解決手段】回転自在とされた円筒状ターゲット13を有し、前記円筒状ターゲット13の内側に設けられ、その長さ方向に沿って配置された磁場発生部材14を有するスパッタ蒸発源2の一対と、前記一対のスパッタ蒸発源2のそれぞれの円筒状ターゲット13を共にカソードとしてこれらに放電電力を供給するスパッタ電源3を備える。前記一対のスパッタ蒸発源2,2は、それぞれの円筒状ターゲット13が平行に対向して配置され、それぞれの磁場発生部材14,14は円筒状ターゲット13,13の表面を通り、互いに引き合う向きの磁力線を形成する磁場を発生させる。前記スパッタ電源は前記円筒状ターゲット間にペニング放電を発生させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転自在に設けられた円筒状ターゲットを備えたスパッタリング装置に係り、前記円筒状ターゲットの使用寿命の向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スパッタリングは、物理的蒸着法の一種であり、真空チャンバに導入したスパッタリングガス(放電ガス)中で電気的にカソードとされたターゲットに放電電力を供給し、スパッタリングガスがプラズマ雰囲気中で分解して生じたイオンを前記ターゲットの表面に衝突させ、これによってターゲットから成膜粒子を放出させて基材に堆積させ、基材表面に皮膜を形成する方法である。
【0003】
近年、成膜粒子の堆積速度が高く、スパッタ蒸発源を構成するターゲットを効率的に用いるスパッタリング装置として、例えば特許文献1に記載されているように、いわゆるロータリーマグネトロンスパッタ蒸発源を備えたスパッタリング装置が提案されている。前記ロータリーマグネトロンスパッタ蒸発源31は、図10に示すように、回転自在に設けられた円筒状部材32と、当該円筒状部材32の外周部に付設された円筒状ターゲット33と、前記円筒状部材32の内側に設けられた磁場発生部材34を備える。前記磁場発生部材34は、前記円筒状部材32(および円筒状ターゲット33)の中心軸の方向に沿って直線状の中央磁石36とその回りを取り囲むように極性の異なる外周磁石37を有する。38は磁気的連結部材である。前記磁場発生部材34により、ターゲット33を貫いて中央磁石36と外周磁石37とをつなぐ磁力線が形成され、円筒状ターゲット33の中心軸方向に平行に形成された2本の直線部の両端が弧状部でつながれたレーストラック状磁場を発生させる。
【0004】
このロータリーマグネトロンスパッタ蒸発源31によれば、放電によって生じた電子が前記レーストラック状磁場に閉じ込められ、図11に示すように、円筒状ターゲット33の長さ方向にレーストラック状の放電プラズマPlが形成され、これにより前記円筒状ターゲット33の表面に形成されたレーストラック状のエロージョン領域から成膜粒子が効率よく放出されされる。そして前記円筒状部材32の回転により前記円筒状ターゲット33を前記レーストラック状放電プラズマPlに対して相対的に回転させることで、エロージョン領域を円筒状ターゲット33の外周全面に広げることができ、ターゲットの使用効率を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平3−68113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記レーストラック状磁場を形成するロータリーマグネトロンスパッタ蒸発源では、図12に示すように、円筒状ターゲット33のエロージョン領域の端部において消耗の激しい局所消耗部41が形成されるという問題がある。この問題が生じる理由は、円筒状ターゲット33が回転する際に、レーストラック状放電プラズマPlの180°回り込む弧状端部ではプラズマの投影長が長くなるため、直線部に対してエロージョンが促進されるからである。このため、円筒状ターゲット33の寿命は端部での局所的消耗によって決まり、円筒状ターゲット33の中央部では未だ使用可能な肉厚があるにも拘わらず、使用できないという問題があった。なお、円筒状ターゲットを製作する際に、端部の厚さを増やすことによって使用寿命の延長を図ることができるが、そのような特殊形状の円筒状ターゲットは製作が困難で実現性に難がある。
【0007】
本発明は、かかる問題に鑑みなされたもので、回転自在に設けられた円筒状ターゲットの長さ方向の端部での局所消耗を抑制し、円筒状ターゲットのエロージョン領域を均一化し、その使用寿命を向上させることができるスパッタリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のスパッタリング装置は、真空チャンバに導入したスパッタリングガス中でターゲット表面からスパッタ蒸発した成膜粒子を基材の表面に堆積させて皮膜を形成するスパッタリング装置であって、回転自在とされた円筒状ターゲットを有し、前記円筒状ターゲットの内側に設けられ、前記円筒状ターゲットの長さ方向に沿って配置された磁場発生部材を有するスパッタ蒸発源の一対と、前記一対のスパッタ蒸発源のそれぞれの円筒状ターゲットを共にカソードとしてこれらに放電電力を供給するスパッタ電源を備え、前記一対のスパッタ蒸発源は、それぞれの円筒状ターゲットが平行ないし略平行に対向して配置され、それぞれのスパッタ蒸発源に設けられた磁場発生部材は前記一対の円筒状ターゲットの表面を通り、互いに引き合う向きの磁力線を形成する磁場を発生させ、前記スパッタ電源は前記円筒状ターゲット間にペニング放電を発生させる。
【0009】
上記スパッタリング装置によると、各スパッタ蒸発源に設けられた磁場発生部材は前記一対の円筒状ターゲットの表面を通り、互いに引き合う向きの磁力線を形成する磁場を発生させるので、成膜の際にスパッタリングガスの分解によって発生した電子は、カソードを構成する円筒状ターゲット間に形成された磁場に拘束され、前記磁場領域にペニング放電が発生する。このペニング放電は、磁場の存在領域で強く発生すると共に、その外周部では電界に伴うプラズマのドリフトが生じるため、放電の存在領域においてほぼ均一な放電プラズマが生じる。これにより、従来のマグネトロン放電のように、2本の線状プラズマの端部をつなぐ弧状のプラズマ部が存在しないため、円筒状ターゲットを回転させて成膜することにより、プラズマ領域に対応した外周面から成膜粒子を速やかにかつ均一に蒸発させることができ、局所消耗が生じず、円筒状ターゲットの利用率、ひいては使用寿命を向上させることができる。
【0010】
さらに、成膜面では以下の利点を有する。すなわち、基材は放電領域から外れた位置に設置されるため、成膜中の皮膜にプラズマの強い照射が加わることが無く、イオン衝撃等を回避することができ、またターゲット表面で反射されるイオンや、ターゲット表面で生成される負イオンが基材を強く照射することも抑制できる。さらに、従来のロータリーマグネトロンスパッタ蒸発源ではターゲットの消耗に伴うターゲット表面の磁場強度の変化が大きいのに対して、本発明ではターゲット消耗時の磁場強度の変化が顕著ではないため、厚肉の円筒状ターゲットを用いることができ、一つのターゲットで成膜を長時間行うことができ、生産性を向上させることができる。
【0011】
また、上記スパッタリング装置において、一方のスパッタ蒸発源の磁場発生部材および/または他方のスパッタ蒸発源の磁場発生部材を磁力線が基材側に膨らむように設けることができる。この場合、一方のスパッタ蒸発源の磁場発生部材および/または他方のスパッタ蒸発源の磁場発生部材を磁力線の膨らみを可変とするように移動可能に設けることができる。
【0012】
このような磁力線が基材側に膨らむ磁場を形成することにより、プラズマの発生領域を円筒状ターゲットの間から基材側へずらした領域に形成することができる。このため、円筒状ターゲットの表面から蒸発したスパッタ蒸気が、一方向に偏って放出されるため、放出方向に配置した基材に対して成膜速度を高めることができる。また、一方および/または他方の磁場発生部材を磁力線の膨らみを可変とするように移動可能に設けることにより、プラズマの発生領域を調整することができ、基材への成膜速度を調整することができる。
【0013】
また、上記スパッタリング装置において、スパッタ電源として直流電源、電圧がゼロ又は逆極性の期間を繰り返し含む間欠的直流電源あるいは交流電源を用いることができる。いずれのタイプの電源であっても、一対の円筒状ターゲットが共に負電位になったときにペニング放電を発生させることができる。
【0014】
ところで、上記スパッタリング装置の参考形態として、前記二つのスパッタ蒸発源を一組とする蒸発源ユニットを二つ設け、前記スパッタ電源として交流電源を設け、前記スパッタ電源の一方の出力端を一方の蒸発源ユニットの一対の円筒状ターゲットに接続し、前記スパッタ電源の他方の出力端を他方の蒸発源ユニットの一対の円筒状ターゲットに接続することができる。このような二つの蒸発源ユニットを設けた構成とすることにより、いわゆるデュアルマグネトロンスパッタリング装置と同様に、酸化物などの絶縁性の皮膜を成膜する場合のアノード消失現象を抑制することができる。
【0015】
また、他の参考形態として、真空チャンバに導入したスパッタリングガス中でターゲット表面からスパッタ蒸発した成膜粒子を基材の表面に堆積させて皮膜を形成するスパッタリング装置であって、回転自在とされた円筒状ターゲットを有し、前記円筒状ターゲットの内側に設けられ、前記円筒状ターゲットの長さ方向に沿って配置された磁場発生部材を有するスパッタ蒸発源と、前記スパッタ蒸発源の円筒状ターゲットと平行ないし略平行に対向して配置された補助電極部材を有し、当該補助電極部材に外部補助磁場発生部材が付設された補助電極構造体と、少なくとも前記スパッタ蒸発源の円筒状ターゲットをカソードとしてこれに放電電力を供給するスパッタ電源を備え、前記スパッタ蒸発源に設けられた磁場発生部材と前記補助磁場発生部材は、前記円筒状ターゲットの表面を通り、互いに引き合う向きの磁力線を形成する磁場を発生させるようにすることができる。この装置においても、前記スパッタ蒸発源の磁場発生部材および/または前記補助磁場発生部材を磁力線が基材側に膨らむように設けることができる。この場合、前記磁場発生部材および/または補助磁場発生部材を磁力線の膨らみを可変とするように移動可能に設けることができる。
【0016】
上記他の参考形態に係るスパッタリング装置は、補助電極構造体を用いることにより、前記本発明に対してスパッタ蒸発源が一つでも同様の効果を期待することができる。なお、前記補助電極部材は、前記スパッタ蒸発源の円筒状ターゲットと共にカソードとしてスパッタ電極に接続してもよく、あるいは電気的にフローティングさせておいてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のスパッタリング装置によれば、成膜の際に一対の円筒状ターゲットの間の磁場領域にペニング放電を発生させることができ、これによって磁場領域においてほぼ均一な放電プラズマを閉じ込めることができる。このため円筒状ターゲットを回転させて成膜することにより、プラズマ領域に対向した円筒状ターゲットの外周面から成膜粒子を速やかにかつ均一に蒸発させることができ、円筒状ターゲットの表面を局所的に消耗させることがなく、その使用寿命を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態のスパッタリング装置の部分縦断面説明図である。
【図2】本発明のスパッタリング装置に係る成膜の際の放電領域を示す円筒状ターゲットの正面図である。
【図3】本発明のスパッタリング装置に係る円筒状ターゲットの消耗状態を示す同ターゲットの断面説明図である。
【図4】一対の円筒状ターゲットの間の形成される磁力線が基材側に膨らんだ第2実施形態のスパッタリング装置の部分縦断面説明図である。
【図5】一つの円筒状ターゲットを用いる参考形態のスパッタリング装置の部分縦断面説明図である。
【図6】二組の蒸発源ユニットを用いた他の参考形態のスパッタリング装置の縦断面説明図である。
【図7】フィルム状基材を成膜するための第1実施形態の変形例に係るスパッタリング装置の要部縦断面説明図である。
【図8】フィルム状基材を成膜するための第2実施形態の変形例に係るスパッタリング装置の要部縦断面説明図である。
【図9】円筒状基材を成膜するための第1実施形態の変形例に係るスパッタリング装置の一部断面要部平面説明図である。
【図10】従来のスパッタリング装置に用いられるロータリーマグネトロンスパッタ蒸発源の横断面説明図である。
【図11】従来のスパッタリング装置に係る成膜の際の放電領域を示す円筒状ターゲットの正面図である。
【図12】従来のスパッタリング装置に係る円筒状ターゲットの消耗状態を示す同ターゲットの断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の第1実施形態に係るスパッタリング装置を図面を参照して説明する。図1に示すように、このスパッタリング装置は、真空チャンバ1と、前記真空チャンバ1内に並設された一対のスパッタ蒸発源2,2と、前記二つのスパッタ蒸発源2,2に放電電力を供給するスパッタ電源3を備える。この実施形態では前記スパッタ電源3は直流電源が用いられており、負極が二つのスパッタ蒸発源の円筒状ターゲット13に接続され、正極が導電材で形成された前記真空チャンバ1に接続される。また真空チャンバ1は、真空チャンバ1内を所定のガス圧に維持するための減圧装置およびスパッタリングガス(放電ガス)供給装置が接続される。これらはいずれも周知構成であるため図示省略されている。
【0020】
前記一対のスパッタ蒸発源2,2は、それぞれ回転自在に設けられた円筒状部材12と、前記円筒状部材12の外周部に同心状に設けられた円筒状ターゲット13を備えており、一方のスパッタ蒸発源2の円筒状ターゲット13と他方のスパッタ蒸発源2の円筒状ターゲット13とが平行ないしほぼ平行に対向するように配置されている。また、前記円筒状ターゲット13,13の間の空間部から離れた位置で、前記空間部に対向するように、被成膜材である基材Wが配置されている。前記基材Wは図示省略した基材ホルダに着脱自在に設置される。
【0021】
前記スパッタ蒸発源2の円筒状部材12の内側には横断面が方形の棒状の磁石からなる磁場発生部材14が設けられている。磁場発生部材14は、長さ方向の両端が前記円筒状ターゲット13の両端よりもわずかに内側に位置するようにターゲットの長さよりもわずかに短く設定することが好ましい。一方、円筒状部材12の径方向の両端には磁極が形成されており、前記円筒状部材12すなわち円筒状ターゲット13の内面側の近傍に一方の磁極(以下、「内面側磁極」という。)が位置している。一方のスパッタ蒸発源2の磁場発生部材14の内面側磁極と他方のスパッタ蒸発源2の磁場発生部材14の内面側磁極とは互いに反対の極性とされ、一方と他方の磁場発生部材14,14との間の空間部には円筒状ターゲット13,13を通して磁力線が引き合うように磁場が形成される。さらに、この実施形態では前記円筒状部材12(円筒状ターゲット13)の横断面において、前記磁場発生部材2の磁極を結ぶ直線を磁極中心線と呼び、円筒状ターゲット13、13同士の中心軸を結ぶ直線を基準線と呼ぶとき、磁場発生部材14,14の磁極中心線と基準線とが一直線上に位置している。このように配置した磁場発生部材は、図1に示すように、一方と他方の磁場発生部材14,14とは磁力線が基準線を中心として対称に形成される。
【0022】
前記磁場発生部材14を構成する磁石の材料としては、サマリウムコバルトやネオジマグネットなどの残留磁束密度の大きいマグネットが好ましいが、フェライトマグネットや超伝導マグネットなどの他種のマグネットや電磁石も使用することができる。また永久マグネットと電磁石を組み合わせるなど、複数の磁気発生源を組み合わせた構成としてもよい。
【0023】
次に、上記スパッタリング装置による成膜方法について説明する。まず、真空チャンバ内を排気し、Ar等のスパッタリングガスを円筒状ターゲット間の空間に0.1〜10Pa程度導入し、並設した2本の円筒状ターゲット13,13をカソードとしてこれらにスパッタ電源3により負の電圧を加える。そうすると、円筒状ターゲット13,13間で放電によりスパッタリングガスが電離して発生した電子は、円筒状ターゲット13,13の間の空間部に形成された磁場に拘束されると共に負極性の電極として円筒状ターゲット13,13が存在するので、両電極間に閉じ込められて、いわゆるペニング放電が発生する。図1に示すように、ペニング放電は磁場の存在領域で強く発生すると共にその外周部では電界に伴うプラズマのドリフトが生じて、磁場の存在領域においてほぼ均一な放電が生成される。このため、図2に示すように、ペニング放電が発生している領域では長円状の放電プラズマPが形成され、これに対向する円筒状ターゲット13の表面がスパッタされる。スパッタによりターゲット表面から放出された成膜粒子は円筒状ターゲット13,13の間の空間部に対向して配置された基材Wに堆積し、皮膜が形成される。
【0024】
前記磁場発生部材14,14の位置関係を保持したまま、すなわち円筒状ターゲット13,13の間に形成された磁場の状態もそのままで、円筒状ターゲット13,13を回転させつつ成膜すると、ペニング放電の放電領域に閉じ込められた放電プラズマPに対向するターゲットの外周表面が消耗する。このため、図3に示すように、円筒状ターゲット13は、その外周面が放電領域の全長に渡ってほぼ均一に消耗する。本発明の放電形態は、マグネトロン放電の場合に形成されるレーストラック状プラズマが形成されず、すなわち円筒状ターゲット13の中心軸方向に形成された2本の直線状プラズマの端部をつなぐ弧状プラズマ部がないため、ターゲットの回転時に局所的にプラズマ照射の長い個所が存在せず、円筒状ターゲットの端部が局所的に消耗しない。このため、ターゲット材料の利用効率、使用寿命を向上させることができる。
【0025】
さらに、上記スパッタリング装置によると、成膜面で以下の利点を有する。すなわち、基材は放電領域から外れた部分に設置されるため、成膜中の皮膜にプラズマの強い照射が加わることが無く、イオン衝撃等を嫌う用途に好適である。また、スパッタが発生するターゲット表面に対向して基材が配置されないため、ターゲット表面で反射されるイオンや、ターゲット表面で生成される負イオンが基材を強く照射することも抑制でき、例えばターゲットで発生する高エネルギーイオンの悪影響が問題となるITOなどの透明導電膜などの成膜において皮膜特性の改善が期待できる。さらに、従来のロータリーマグネトロンスパッタ蒸発源ではターゲットの消耗に伴うターゲット表面の磁場強度の変化が大きいのに対して、本発明ではターゲット消耗時の磁場強度の変化は、マグネトロン磁場の場合より顕著ではないため、肉厚がより厚いターゲットすなわち長寿命のターゲットを利用することができる。
【0026】
上記実施形態において、スパッタリングガスとして、具体的にArガスを例示したが、通常のスパッタリング技術と同様、Arガスのほか、Ne,Kr,Xeなどの適宜の不活性ガスを用いることができる。また、ターゲット材料と導入するガスとによって反応性スパッタリングを行なう場合、スパッタリングガスと共に導入する反応ガスとしてO2,N2,CH4,H2O,NH3等のガスを導入して、ターゲット材と反応ガスとの化合物皮膜を形成することができる。また、ターゲット材料としては、円筒状ターゲットとして製作可能な限り、従来のマグネトロンスパッタ放電が可能な材料であれば何れの材料でも適用することができる。上記スパッタリングガス、反応性スパッタリング、ターゲット材料については、後述の他の実施形態のスパッタリング装置においても適用される。
【0027】
また、上記実施形態において、スパッタ電源3として直流電源を用い、一対の円筒状ターゲット13、13に負の電圧を印加するようにしたが、公知のスパッタ用の各種の電源を適用することができる。例えば、カソードを構成するターゲットに負電圧を間欠的に加えるパルス直流電源、負電圧を間欠的に加えると共にその間に絶対値の小さい正の電圧を印加する、いわゆるバイポーラパルス直流電源、波形として正弦波やパルス波形を含む高周波または中間周波の交流電源を用いることができる。これらの電源の何れを用いても、一対の円筒状ターゲットが同時に負電位になった際にペニング放電を発生させることができる。また、実施形態では、スパッタ電源の負極に接続される一対の円筒状ターゲットがカソード電極部材を構成し、スパッタ電源の正極に接続される真空チャンバがアノード電極部材を構成するようにしたが、専用のアノード電極部材を設け、スパッタ電源の正極をこれに接続するようにしてもよい。上記スパッタ電源とその接続については、使用すべき電源が特記されない限り、後述の他の実施形態のスパッタリング装置においても適用される。
【0028】
次に、第2実施形態にかかるスパッタリング装置を図4を参照して説明する。第2実施形態では、円筒状ターゲットの間に磁力線が基材側に膨らんだ磁場が形成される点が第1実施形態と異なっており、以下、この点を中心に説明し、第1実施形態のスパッタリング装置と同部材は同符号を付してその説明を簡略ないし省略する。
【0029】
第2実施形態における磁場発生部材14,14は、円筒状ターゲット13,13の中心軸に対して垂直な平面において、円筒状ターゲット13,13の中心軸を結ぶ基準線と磁場発生部材14の磁極中心線とが角度θを成しており、前記θは好ましくは0°<θ<60°、好ましくは10°≦θ≦45°程度に設定される。図例では一方の磁場発生部材14のなす角度θと他方の磁場発生部材14のなす角度θとは共に同角度に描かれているが、同角度にする必要はなく、少なくとも一方の磁場発生部材14のθが上記範囲を満足すればよい。この場合、他方の磁場発生部材14のθは0°でもよい。なお、第1実施形態は、両方の磁場発生部材14,14のθが0°の場合に該当する。
【0030】
前記磁場発生部材14、14をこのように基準線に対してθ傾けて配置することにより、一方の磁場発生部材14の内面側磁極と他方の磁場発生部材14の内面側磁極とを結ぶ磁力線が基材W側に膨らんだ磁場が形成される。これにより、円筒状ターゲット13,13の間に基材側に偏った磁場領域にペニング放電によるプラズマPが形成され、円筒状ターゲット13の消耗位置も基材側へ偏り、その位置で法線方向への成膜蒸気の飛散が優勢となるので、成膜粒子が基材側へ偏って放出される。このため、基材に対する成膜速度を向上させることができる。なお、図例では磁場発生部材14を円筒状ターゲット13に対して所定位置に固定しているが、円筒状ターゲット13の中心軸回りに移動固定可能に設けてもよい。これにより、磁場ひいてはプラズマの形態を制御することができ、成膜速度を調整することができる。
【0031】
次に、参考形態にかかるスパッタリング装置を図5を参照して説明する。この参考形態は、第2実施形態に対して、カソードとなる一方の電極部材がスパッタ蒸発源2の円筒状ターゲット13によって構成されるが、他方が補助電極部材23とこれに付設された補助磁場発生部材24とを備えた補助電極構造体21によって構成される。以下、これらを中心に説明し、第1、第2実施形態のスパッタリング装置と同部材は同符号を付してその説明を簡略ないし省略する。
【0032】
前記補助磁場発生部材24は、スパッタ蒸発源2の磁場発生部材14と同様の形態をなしており、スパッタ蒸発源2の円筒状ターゲット13の横断面において、円筒状ターゲット13の中心軸を通り、基材Wに平行な基準線に対して、スパッタ蒸発源2の磁場発生部材14の磁極中心線および補助磁場発生部材24の磁極中心線が共に角度θをなしている。前記θは第2実施形態と同様、磁場発生部材14あるいは補助磁場発生部材24の少なくとも一方が好ましくは0°<θ<60°、好ましくは10°≦θ≦45°程度に設定されるが、第1実施形態に対応するようにθ=0°としてもよい。補助磁場発生部材24においても、スパッタ蒸発源2の磁場発生部材14の内側磁極に対向する磁極(「内側磁極」という。)は極性が反対とされている。前記補助電極部材23は横断面が方形の帯板状をなしており、前記円筒状ターゲット13に対向して配置され、前記補助磁場発生部材24の内側磁極の前側に付設されている。
【0033】
前記参考形態のスパッタリング装置は、第2実施形態と同様、前記円筒状ターゲット13の内側に設けた磁場発生部材14と前記補助電極部材23の裏面側に設けた補助磁場発生部材24とによって前記補助電極部材23と円筒状ターゲット13の間の空間部に磁力線が基材W側に膨らんだ磁場が形成される。そして、真空チャンバ1内にAr等のスパッタリングガスを供給しつつ、円筒状ターゲット13および補助電極部材23に負極性の直流電圧を印加すると、前記磁場領域にペニング放電が発生し、その放電領域に発生したプラズマPにより回転する円筒状ターゲット13の表面を均一に消耗させることができる。なお、補助電極部材23の電圧は円筒状ターゲット13と同じレベルでもよいが、この場合はターゲットと同様にスパッタされるので、補助電極部材23の電圧の絶対値を円筒状ターゲット13よりも低い絶対値で印加することが好ましい。これにより補助電極部材23がスパッタされる量を抑制することができる。なお、補助電極部材23は電気的にフローティングとしてもよい。
【0034】
次に、他の参考形態のスパッタリング装置を図6を参照して説明する。この参考形態は、第2実施形態の一対のスパッタ蒸発源2,2を一組とする蒸発源ユニット5を二組備えており、各円筒状ターゲット13は直線状に配置され、これらに対向して成膜面積の大きい基材Wが設置されている。スパッタ電源3としては交流電源が用いられ、スパッタ電源3の一方の電極が一方の蒸発源ユニット5の一対の円筒状ターゲット13,13に接続され、他方の電極が他方の蒸発源ユニット5の一対の円筒状ターゲット13,13に接続されている。なお、図例では蒸発源ユニット5として第2実施形態のものを用いたが、第1実施形態の一対のスパッタ蒸発源2,2でもよく、また図5の参考形態のスパッタ蒸発源2と補助電極構造体21の組み合わせでもよい。
【0035】
図6の参考形態のスパッタリング装置によれば、いわゆるデュアルマグネトロンスパッタ装置と同様、二組の電極が交互に正極、負極となるので、ターゲットの酸化によるポイゾニングなどの影響を抑制することができる。例えば、SiターゲットからSiO2 のような絶縁性の皮膜の成膜を行う場合に、いわゆる陽極消失が発生せず、長時間安定放電が可能である。また、成膜面積の大きい大形基材に対して効率よく成膜することができる。
【0036】
上記本発明実施形態及び参考形態においては、一つの平板状の基材Wを一対のスパッタ蒸発源2,2の間の空間部、あるいは一つのスパッタ蒸発源2と補助電極構造体21との間の空間部に対向するように設けたが、第1実施形態においては図1の二点鎖線で示すように、前記空間部の両側に基材W,Wを配置することができる。また、図例ではいずれの基材Wも前記空間部に対向して固定して設置したが、前記空間部の前後を移動可能に設けてもよい。移動可能にすることにより、皮膜の均一性を向上させることができ、また長尺の基材に対して成膜することができるようになる。なお、基材の移動は、基材を保持した基材ホルダを移動自在に構成することにより行うことができる。
【0037】
また、フィルムやシートのようなフィルム状基材WFの成膜に適合した、第1実施形態のスパッタリング装置の変形例を図7に示す。この変形例の装置では、一対のスパッタ蒸発源2,2の円筒状ターゲット13,13の間の空間部に対向するように当該空間部の両側に、フィルム状基材WFが前記空間部側に巻き掛けられた成膜ロール26、26が設けられる。また、前記成膜ロール26の回転に応じて巻き取られたフィルム状基材WFを巻き出す巻き出しロール27と、前記成膜ロール26の回転に応じて成膜後のフィルム状基材WFを巻き取る巻き取りロール28を備える。この装置では、巻き出しロール27から巻き出されたフィルム状基材WFを成膜ロール26に巻き掛けて巻き取りロール28に掛け渡し、成膜ロール26の回転により成膜ロール26上の基材WFを順次下流側へ送りながら前記空間部に対向した領域でスパッタ成膜する。図例では、円筒状ターゲット13,13の間の空間部の両側に成膜ロール26、26や基材の搬送機構を設けたが、一方側にのみ設けてもよい。
【0038】
また、第2実施形態のスパッタリング装置の変形例を図8に示す。この変形例の装置では、フィルム状基材WFが巻き掛けられた成膜ロール26と、前記成膜ロール26に巻き掛けられたフィルム状基材WFの側に膨らんだ磁力線の磁場を形成させるように2組の蒸発源ユニット5、5が設けられている。各蒸発源ユニット5は、図4の一対のスパッタ蒸発源2,2で構成されている。また、前記成膜ロール26の回転に応じて巻き取られたフィルム状基材WFを巻き出す巻き出しロール27と、前記成膜ロール26の回転に応じて成膜後のフィルム状基材WFを巻き取る巻き取りロール28を備える。この装置では、各蒸発源ユニット5の円筒状ターゲット13は同材質でもよく、異材質でもよい。この変形例の装置においても、成膜ロール26を回転させながらフィルム状基材WFを搬送することで、二つの蒸発源ユニット5,5によって成膜することができる。
【0039】
図8では二組の蒸発源ユニット5,5を用いたが、一方だけでもよい。また、図例のように二つの蒸発源ユニット5,5を用いる場合、図6の参考形態のスパッタリング装置の変形例とすることができる。この場合、交流電源をスパッタ電源として用い、一方の電極に一方の蒸発源ユニット5の円筒状ターゲット13、13を接続し、他方の電極に他方の蒸発源ユニット5の円筒状ターゲット13、13を接続する。
【0040】
また、筒状基材WPの成膜に適合した、第1実施形態のスパッタリング装置の変形例を図9に示す。この変形例の装置では、外周部に複数の筒状基材WPを保持し、保持した筒状基材WPを自転させながら公転させる回転テーブル29を備える。前記回転テーブル29の回転中心部に一対のスパッタ蒸発源2,2が設けられる。これにより、一対の円筒状ターゲット13,13の間の空間部の両側から放出された成膜粒子が回転テーブル29上で公転しながら自転する筒状基材WPの外周面に堆積し、皮膜が形成される。なお、筒状基材WPの代わりに筒状基材ホルダを設け、これに適宜の基材を保持させるようにしてもよい。また、回転テーブル29の回転中心部に設ける蒸発源ユニットとしては、第2実施形態のものや、図5の参考形態のものを用いることができる。
【符号の説明】
【0041】
1 真空チャンバ
2 スパッタ蒸発源
3 スパッタ電源
13 円筒状ターゲット
14 磁場発生部材
W,WF,WP 基材
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転自在に設けられた円筒状ターゲットを備えたスパッタリング装置に係り、前記円筒状ターゲットの使用寿命の向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スパッタリングは、物理的蒸着法の一種であり、真空チャンバに導入したスパッタリングガス(放電ガス)中で電気的にカソードとされたターゲットに放電電力を供給し、スパッタリングガスがプラズマ雰囲気中で分解して生じたイオンを前記ターゲットの表面に衝突させ、これによってターゲットから成膜粒子を放出させて基材に堆積させ、基材表面に皮膜を形成する方法である。
【0003】
近年、成膜粒子の堆積速度が高く、スパッタ蒸発源を構成するターゲットを効率的に用いるスパッタリング装置として、例えば特許文献1に記載されているように、いわゆるロータリーマグネトロンスパッタ蒸発源を備えたスパッタリング装置が提案されている。前記ロータリーマグネトロンスパッタ蒸発源31は、図10に示すように、回転自在に設けられた円筒状部材32と、当該円筒状部材32の外周部に付設された円筒状ターゲット33と、前記円筒状部材32の内側に設けられた磁場発生部材34を備える。前記磁場発生部材34は、前記円筒状部材32(および円筒状ターゲット33)の中心軸の方向に沿って直線状の中央磁石36とその回りを取り囲むように極性の異なる外周磁石37を有する。38は磁気的連結部材である。前記磁場発生部材34により、ターゲット33を貫いて中央磁石36と外周磁石37とをつなぐ磁力線が形成され、円筒状ターゲット33の中心軸方向に平行に形成された2本の直線部の両端が弧状部でつながれたレーストラック状磁場を発生させる。
【0004】
このロータリーマグネトロンスパッタ蒸発源31によれば、放電によって生じた電子が前記レーストラック状磁場に閉じ込められ、図11に示すように、円筒状ターゲット33の長さ方向にレーストラック状の放電プラズマPlが形成され、これにより前記円筒状ターゲット33の表面に形成されたレーストラック状のエロージョン領域から成膜粒子が効率よく放出されされる。そして前記円筒状部材32の回転により前記円筒状ターゲット33を前記レーストラック状放電プラズマPlに対して相対的に回転させることで、エロージョン領域を円筒状ターゲット33の外周全面に広げることができ、ターゲットの使用効率を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平3−68113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記レーストラック状磁場を形成するロータリーマグネトロンスパッタ蒸発源では、図12に示すように、円筒状ターゲット33のエロージョン領域の端部において消耗の激しい局所消耗部41が形成されるという問題がある。この問題が生じる理由は、円筒状ターゲット33が回転する際に、レーストラック状放電プラズマPlの180°回り込む弧状端部ではプラズマの投影長が長くなるため、直線部に対してエロージョンが促進されるからである。このため、円筒状ターゲット33の寿命は端部での局所的消耗によって決まり、円筒状ターゲット33の中央部では未だ使用可能な肉厚があるにも拘わらず、使用できないという問題があった。なお、円筒状ターゲットを製作する際に、端部の厚さを増やすことによって使用寿命の延長を図ることができるが、そのような特殊形状の円筒状ターゲットは製作が困難で実現性に難がある。
【0007】
本発明は、かかる問題に鑑みなされたもので、回転自在に設けられた円筒状ターゲットの長さ方向の端部での局所消耗を抑制し、円筒状ターゲットのエロージョン領域を均一化し、その使用寿命を向上させることができるスパッタリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のスパッタリング装置は、真空チャンバに導入したスパッタリングガス中でターゲット表面からスパッタ蒸発した成膜粒子を基材の表面に堆積させて皮膜を形成するスパッタリング装置であって、回転自在とされた円筒状ターゲットを有し、前記円筒状ターゲットの内側に設けられ、前記円筒状ターゲットの長さ方向に沿って配置された磁場発生部材を有するスパッタ蒸発源の一対と、前記一対のスパッタ蒸発源のそれぞれの円筒状ターゲットを共にカソードとしてこれらに放電電力を供給するスパッタ電源を備え、前記一対のスパッタ蒸発源は、それぞれの円筒状ターゲットが平行ないし略平行に対向して配置され、それぞれのスパッタ蒸発源に設けられた磁場発生部材は前記一対の円筒状ターゲットの表面を通り、互いに引き合う向きの磁力線を形成する磁場を発生させ、前記スパッタ電源は前記円筒状ターゲット間にペニング放電を発生させる。
【0009】
上記スパッタリング装置によると、各スパッタ蒸発源に設けられた磁場発生部材は前記一対の円筒状ターゲットの表面を通り、互いに引き合う向きの磁力線を形成する磁場を発生させるので、成膜の際にスパッタリングガスの分解によって発生した電子は、カソードを構成する円筒状ターゲット間に形成された磁場に拘束され、前記磁場領域にペニング放電が発生する。このペニング放電は、磁場の存在領域で強く発生すると共に、その外周部では電界に伴うプラズマのドリフトが生じるため、放電の存在領域においてほぼ均一な放電プラズマが生じる。これにより、従来のマグネトロン放電のように、2本の線状プラズマの端部をつなぐ弧状のプラズマ部が存在しないため、円筒状ターゲットを回転させて成膜することにより、プラズマ領域に対応した外周面から成膜粒子を速やかにかつ均一に蒸発させることができ、局所消耗が生じず、円筒状ターゲットの利用率、ひいては使用寿命を向上させることができる。
【0010】
さらに、成膜面では以下の利点を有する。すなわち、基材は放電領域から外れた位置に設置されるため、成膜中の皮膜にプラズマの強い照射が加わることが無く、イオン衝撃等を回避することができ、またターゲット表面で反射されるイオンや、ターゲット表面で生成される負イオンが基材を強く照射することも抑制できる。さらに、従来のロータリーマグネトロンスパッタ蒸発源ではターゲットの消耗に伴うターゲット表面の磁場強度の変化が大きいのに対して、本発明ではターゲット消耗時の磁場強度の変化が顕著ではないため、厚肉の円筒状ターゲットを用いることができ、一つのターゲットで成膜を長時間行うことができ、生産性を向上させることができる。
【0011】
また、上記スパッタリング装置において、一方のスパッタ蒸発源の磁場発生部材および/または他方のスパッタ蒸発源の磁場発生部材を磁力線が基材側に膨らむように設けることができる。この場合、一方のスパッタ蒸発源の磁場発生部材および/または他方のスパッタ蒸発源の磁場発生部材を磁力線の膨らみを可変とするように移動可能に設けることができる。
【0012】
このような磁力線が基材側に膨らむ磁場を形成することにより、プラズマの発生領域を円筒状ターゲットの間から基材側へずらした領域に形成することができる。このため、円筒状ターゲットの表面から蒸発したスパッタ蒸気が、一方向に偏って放出されるため、放出方向に配置した基材に対して成膜速度を高めることができる。また、一方および/または他方の磁場発生部材を磁力線の膨らみを可変とするように移動可能に設けることにより、プラズマの発生領域を調整することができ、基材への成膜速度を調整することができる。
【0013】
また、上記スパッタリング装置において、スパッタ電源として直流電源、電圧がゼロ又は逆極性の期間を繰り返し含む間欠的直流電源あるいは交流電源を用いることができる。いずれのタイプの電源であっても、一対の円筒状ターゲットが共に負電位になったときにペニング放電を発生させることができる。
【0014】
ところで、上記スパッタリング装置の参考形態として、前記二つのスパッタ蒸発源を一組とする蒸発源ユニットを二つ設け、前記スパッタ電源として交流電源を設け、前記スパッタ電源の一方の出力端を一方の蒸発源ユニットの一対の円筒状ターゲットに接続し、前記スパッタ電源の他方の出力端を他方の蒸発源ユニットの一対の円筒状ターゲットに接続することができる。このような二つの蒸発源ユニットを設けた構成とすることにより、いわゆるデュアルマグネトロンスパッタリング装置と同様に、酸化物などの絶縁性の皮膜を成膜する場合のアノード消失現象を抑制することができる。
【0015】
また、他の参考形態として、真空チャンバに導入したスパッタリングガス中でターゲット表面からスパッタ蒸発した成膜粒子を基材の表面に堆積させて皮膜を形成するスパッタリング装置であって、回転自在とされた円筒状ターゲットを有し、前記円筒状ターゲットの内側に設けられ、前記円筒状ターゲットの長さ方向に沿って配置された磁場発生部材を有するスパッタ蒸発源と、前記スパッタ蒸発源の円筒状ターゲットと平行ないし略平行に対向して配置された補助電極部材を有し、当該補助電極部材に外部補助磁場発生部材が付設された補助電極構造体と、少なくとも前記スパッタ蒸発源の円筒状ターゲットをカソードとしてこれに放電電力を供給するスパッタ電源を備え、前記スパッタ蒸発源に設けられた磁場発生部材と前記補助磁場発生部材は、前記円筒状ターゲットの表面を通り、互いに引き合う向きの磁力線を形成する磁場を発生させるようにすることができる。この装置においても、前記スパッタ蒸発源の磁場発生部材および/または前記補助磁場発生部材を磁力線が基材側に膨らむように設けることができる。この場合、前記磁場発生部材および/または補助磁場発生部材を磁力線の膨らみを可変とするように移動可能に設けることができる。
【0016】
上記他の参考形態に係るスパッタリング装置は、補助電極構造体を用いることにより、前記本発明に対してスパッタ蒸発源が一つでも同様の効果を期待することができる。なお、前記補助電極部材は、前記スパッタ蒸発源の円筒状ターゲットと共にカソードとしてスパッタ電極に接続してもよく、あるいは電気的にフローティングさせておいてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のスパッタリング装置によれば、成膜の際に一対の円筒状ターゲットの間の磁場領域にペニング放電を発生させることができ、これによって磁場領域においてほぼ均一な放電プラズマを閉じ込めることができる。このため円筒状ターゲットを回転させて成膜することにより、プラズマ領域に対向した円筒状ターゲットの外周面から成膜粒子を速やかにかつ均一に蒸発させることができ、円筒状ターゲットの表面を局所的に消耗させることがなく、その使用寿命を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態のスパッタリング装置の部分縦断面説明図である。
【図2】本発明のスパッタリング装置に係る成膜の際の放電領域を示す円筒状ターゲットの正面図である。
【図3】本発明のスパッタリング装置に係る円筒状ターゲットの消耗状態を示す同ターゲットの断面説明図である。
【図4】一対の円筒状ターゲットの間の形成される磁力線が基材側に膨らんだ第2実施形態のスパッタリング装置の部分縦断面説明図である。
【図5】一つの円筒状ターゲットを用いる参考形態のスパッタリング装置の部分縦断面説明図である。
【図6】二組の蒸発源ユニットを用いた他の参考形態のスパッタリング装置の縦断面説明図である。
【図7】フィルム状基材を成膜するための第1実施形態の変形例に係るスパッタリング装置の要部縦断面説明図である。
【図8】フィルム状基材を成膜するための第2実施形態の変形例に係るスパッタリング装置の要部縦断面説明図である。
【図9】円筒状基材を成膜するための第1実施形態の変形例に係るスパッタリング装置の一部断面要部平面説明図である。
【図10】従来のスパッタリング装置に用いられるロータリーマグネトロンスパッタ蒸発源の横断面説明図である。
【図11】従来のスパッタリング装置に係る成膜の際の放電領域を示す円筒状ターゲットの正面図である。
【図12】従来のスパッタリング装置に係る円筒状ターゲットの消耗状態を示す同ターゲットの断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の第1実施形態に係るスパッタリング装置を図面を参照して説明する。図1に示すように、このスパッタリング装置は、真空チャンバ1と、前記真空チャンバ1内に並設された一対のスパッタ蒸発源2,2と、前記二つのスパッタ蒸発源2,2に放電電力を供給するスパッタ電源3を備える。この実施形態では前記スパッタ電源3は直流電源が用いられており、負極が二つのスパッタ蒸発源の円筒状ターゲット13に接続され、正極が導電材で形成された前記真空チャンバ1に接続される。また真空チャンバ1は、真空チャンバ1内を所定のガス圧に維持するための減圧装置およびスパッタリングガス(放電ガス)供給装置が接続される。これらはいずれも周知構成であるため図示省略されている。
【0020】
前記一対のスパッタ蒸発源2,2は、それぞれ回転自在に設けられた円筒状部材12と、前記円筒状部材12の外周部に同心状に設けられた円筒状ターゲット13を備えており、一方のスパッタ蒸発源2の円筒状ターゲット13と他方のスパッタ蒸発源2の円筒状ターゲット13とが平行ないしほぼ平行に対向するように配置されている。また、前記円筒状ターゲット13,13の間の空間部から離れた位置で、前記空間部に対向するように、被成膜材である基材Wが配置されている。前記基材Wは図示省略した基材ホルダに着脱自在に設置される。
【0021】
前記スパッタ蒸発源2の円筒状部材12の内側には横断面が方形の棒状の磁石からなる磁場発生部材14が設けられている。磁場発生部材14は、長さ方向の両端が前記円筒状ターゲット13の両端よりもわずかに内側に位置するようにターゲットの長さよりもわずかに短く設定することが好ましい。一方、円筒状部材12の径方向の両端には磁極が形成されており、前記円筒状部材12すなわち円筒状ターゲット13の内面側の近傍に一方の磁極(以下、「内面側磁極」という。)が位置している。一方のスパッタ蒸発源2の磁場発生部材14の内面側磁極と他方のスパッタ蒸発源2の磁場発生部材14の内面側磁極とは互いに反対の極性とされ、一方と他方の磁場発生部材14,14との間の空間部には円筒状ターゲット13,13を通して磁力線が引き合うように磁場が形成される。さらに、この実施形態では前記円筒状部材12(円筒状ターゲット13)の横断面において、前記磁場発生部材2の磁極を結ぶ直線を磁極中心線と呼び、円筒状ターゲット13、13同士の中心軸を結ぶ直線を基準線と呼ぶとき、磁場発生部材14,14の磁極中心線と基準線とが一直線上に位置している。このように配置した磁場発生部材は、図1に示すように、一方と他方の磁場発生部材14,14とは磁力線が基準線を中心として対称に形成される。
【0022】
前記磁場発生部材14を構成する磁石の材料としては、サマリウムコバルトやネオジマグネットなどの残留磁束密度の大きいマグネットが好ましいが、フェライトマグネットや超伝導マグネットなどの他種のマグネットや電磁石も使用することができる。また永久マグネットと電磁石を組み合わせるなど、複数の磁気発生源を組み合わせた構成としてもよい。
【0023】
次に、上記スパッタリング装置による成膜方法について説明する。まず、真空チャンバ内を排気し、Ar等のスパッタリングガスを円筒状ターゲット間の空間に0.1〜10Pa程度導入し、並設した2本の円筒状ターゲット13,13をカソードとしてこれらにスパッタ電源3により負の電圧を加える。そうすると、円筒状ターゲット13,13間で放電によりスパッタリングガスが電離して発生した電子は、円筒状ターゲット13,13の間の空間部に形成された磁場に拘束されると共に負極性の電極として円筒状ターゲット13,13が存在するので、両電極間に閉じ込められて、いわゆるペニング放電が発生する。図1に示すように、ペニング放電は磁場の存在領域で強く発生すると共にその外周部では電界に伴うプラズマのドリフトが生じて、磁場の存在領域においてほぼ均一な放電が生成される。このため、図2に示すように、ペニング放電が発生している領域では長円状の放電プラズマPが形成され、これに対向する円筒状ターゲット13の表面がスパッタされる。スパッタによりターゲット表面から放出された成膜粒子は円筒状ターゲット13,13の間の空間部に対向して配置された基材Wに堆積し、皮膜が形成される。
【0024】
前記磁場発生部材14,14の位置関係を保持したまま、すなわち円筒状ターゲット13,13の間に形成された磁場の状態もそのままで、円筒状ターゲット13,13を回転させつつ成膜すると、ペニング放電の放電領域に閉じ込められた放電プラズマPに対向するターゲットの外周表面が消耗する。このため、図3に示すように、円筒状ターゲット13は、その外周面が放電領域の全長に渡ってほぼ均一に消耗する。本発明の放電形態は、マグネトロン放電の場合に形成されるレーストラック状プラズマが形成されず、すなわち円筒状ターゲット13の中心軸方向に形成された2本の直線状プラズマの端部をつなぐ弧状プラズマ部がないため、ターゲットの回転時に局所的にプラズマ照射の長い個所が存在せず、円筒状ターゲットの端部が局所的に消耗しない。このため、ターゲット材料の利用効率、使用寿命を向上させることができる。
【0025】
さらに、上記スパッタリング装置によると、成膜面で以下の利点を有する。すなわち、基材は放電領域から外れた部分に設置されるため、成膜中の皮膜にプラズマの強い照射が加わることが無く、イオン衝撃等を嫌う用途に好適である。また、スパッタが発生するターゲット表面に対向して基材が配置されないため、ターゲット表面で反射されるイオンや、ターゲット表面で生成される負イオンが基材を強く照射することも抑制でき、例えばターゲットで発生する高エネルギーイオンの悪影響が問題となるITOなどの透明導電膜などの成膜において皮膜特性の改善が期待できる。さらに、従来のロータリーマグネトロンスパッタ蒸発源ではターゲットの消耗に伴うターゲット表面の磁場強度の変化が大きいのに対して、本発明ではターゲット消耗時の磁場強度の変化は、マグネトロン磁場の場合より顕著ではないため、肉厚がより厚いターゲットすなわち長寿命のターゲットを利用することができる。
【0026】
上記実施形態において、スパッタリングガスとして、具体的にArガスを例示したが、通常のスパッタリング技術と同様、Arガスのほか、Ne,Kr,Xeなどの適宜の不活性ガスを用いることができる。また、ターゲット材料と導入するガスとによって反応性スパッタリングを行なう場合、スパッタリングガスと共に導入する反応ガスとしてO2,N2,CH4,H2O,NH3等のガスを導入して、ターゲット材と反応ガスとの化合物皮膜を形成することができる。また、ターゲット材料としては、円筒状ターゲットとして製作可能な限り、従来のマグネトロンスパッタ放電が可能な材料であれば何れの材料でも適用することができる。上記スパッタリングガス、反応性スパッタリング、ターゲット材料については、後述の他の実施形態のスパッタリング装置においても適用される。
【0027】
また、上記実施形態において、スパッタ電源3として直流電源を用い、一対の円筒状ターゲット13、13に負の電圧を印加するようにしたが、公知のスパッタ用の各種の電源を適用することができる。例えば、カソードを構成するターゲットに負電圧を間欠的に加えるパルス直流電源、負電圧を間欠的に加えると共にその間に絶対値の小さい正の電圧を印加する、いわゆるバイポーラパルス直流電源、波形として正弦波やパルス波形を含む高周波または中間周波の交流電源を用いることができる。これらの電源の何れを用いても、一対の円筒状ターゲットが同時に負電位になった際にペニング放電を発生させることができる。また、実施形態では、スパッタ電源の負極に接続される一対の円筒状ターゲットがカソード電極部材を構成し、スパッタ電源の正極に接続される真空チャンバがアノード電極部材を構成するようにしたが、専用のアノード電極部材を設け、スパッタ電源の正極をこれに接続するようにしてもよい。上記スパッタ電源とその接続については、使用すべき電源が特記されない限り、後述の他の実施形態のスパッタリング装置においても適用される。
【0028】
次に、第2実施形態にかかるスパッタリング装置を図4を参照して説明する。第2実施形態では、円筒状ターゲットの間に磁力線が基材側に膨らんだ磁場が形成される点が第1実施形態と異なっており、以下、この点を中心に説明し、第1実施形態のスパッタリング装置と同部材は同符号を付してその説明を簡略ないし省略する。
【0029】
第2実施形態における磁場発生部材14,14は、円筒状ターゲット13,13の中心軸に対して垂直な平面において、円筒状ターゲット13,13の中心軸を結ぶ基準線と磁場発生部材14の磁極中心線とが角度θを成しており、前記θは好ましくは0°<θ<60°、好ましくは10°≦θ≦45°程度に設定される。図例では一方の磁場発生部材14のなす角度θと他方の磁場発生部材14のなす角度θとは共に同角度に描かれているが、同角度にする必要はなく、少なくとも一方の磁場発生部材14のθが上記範囲を満足すればよい。この場合、他方の磁場発生部材14のθは0°でもよい。なお、第1実施形態は、両方の磁場発生部材14,14のθが0°の場合に該当する。
【0030】
前記磁場発生部材14、14をこのように基準線に対してθ傾けて配置することにより、一方の磁場発生部材14の内面側磁極と他方の磁場発生部材14の内面側磁極とを結ぶ磁力線が基材W側に膨らんだ磁場が形成される。これにより、円筒状ターゲット13,13の間に基材側に偏った磁場領域にペニング放電によるプラズマPが形成され、円筒状ターゲット13の消耗位置も基材側へ偏り、その位置で法線方向への成膜蒸気の飛散が優勢となるので、成膜粒子が基材側へ偏って放出される。このため、基材に対する成膜速度を向上させることができる。なお、図例では磁場発生部材14を円筒状ターゲット13に対して所定位置に固定しているが、円筒状ターゲット13の中心軸回りに移動固定可能に設けてもよい。これにより、磁場ひいてはプラズマの形態を制御することができ、成膜速度を調整することができる。
【0031】
次に、参考形態にかかるスパッタリング装置を図5を参照して説明する。この参考形態は、第2実施形態に対して、カソードとなる一方の電極部材がスパッタ蒸発源2の円筒状ターゲット13によって構成されるが、他方が補助電極部材23とこれに付設された補助磁場発生部材24とを備えた補助電極構造体21によって構成される。以下、これらを中心に説明し、第1、第2実施形態のスパッタリング装置と同部材は同符号を付してその説明を簡略ないし省略する。
【0032】
前記補助磁場発生部材24は、スパッタ蒸発源2の磁場発生部材14と同様の形態をなしており、スパッタ蒸発源2の円筒状ターゲット13の横断面において、円筒状ターゲット13の中心軸を通り、基材Wに平行な基準線に対して、スパッタ蒸発源2の磁場発生部材14の磁極中心線および補助磁場発生部材24の磁極中心線が共に角度θをなしている。前記θは第2実施形態と同様、磁場発生部材14あるいは補助磁場発生部材24の少なくとも一方が好ましくは0°<θ<60°、好ましくは10°≦θ≦45°程度に設定されるが、第1実施形態に対応するようにθ=0°としてもよい。補助磁場発生部材24においても、スパッタ蒸発源2の磁場発生部材14の内側磁極に対向する磁極(「内側磁極」という。)は極性が反対とされている。前記補助電極部材23は横断面が方形の帯板状をなしており、前記円筒状ターゲット13に対向して配置され、前記補助磁場発生部材24の内側磁極の前側に付設されている。
【0033】
前記参考形態のスパッタリング装置は、第2実施形態と同様、前記円筒状ターゲット13の内側に設けた磁場発生部材14と前記補助電極部材23の裏面側に設けた補助磁場発生部材24とによって前記補助電極部材23と円筒状ターゲット13の間の空間部に磁力線が基材W側に膨らんだ磁場が形成される。そして、真空チャンバ1内にAr等のスパッタリングガスを供給しつつ、円筒状ターゲット13および補助電極部材23に負極性の直流電圧を印加すると、前記磁場領域にペニング放電が発生し、その放電領域に発生したプラズマPにより回転する円筒状ターゲット13の表面を均一に消耗させることができる。なお、補助電極部材23の電圧は円筒状ターゲット13と同じレベルでもよいが、この場合はターゲットと同様にスパッタされるので、補助電極部材23の電圧の絶対値を円筒状ターゲット13よりも低い絶対値で印加することが好ましい。これにより補助電極部材23がスパッタされる量を抑制することができる。なお、補助電極部材23は電気的にフローティングとしてもよい。
【0034】
次に、他の参考形態のスパッタリング装置を図6を参照して説明する。この参考形態は、第2実施形態の一対のスパッタ蒸発源2,2を一組とする蒸発源ユニット5を二組備えており、各円筒状ターゲット13は直線状に配置され、これらに対向して成膜面積の大きい基材Wが設置されている。スパッタ電源3としては交流電源が用いられ、スパッタ電源3の一方の電極が一方の蒸発源ユニット5の一対の円筒状ターゲット13,13に接続され、他方の電極が他方の蒸発源ユニット5の一対の円筒状ターゲット13,13に接続されている。なお、図例では蒸発源ユニット5として第2実施形態のものを用いたが、第1実施形態の一対のスパッタ蒸発源2,2でもよく、また図5の参考形態のスパッタ蒸発源2と補助電極構造体21の組み合わせでもよい。
【0035】
図6の参考形態のスパッタリング装置によれば、いわゆるデュアルマグネトロンスパッタ装置と同様、二組の電極が交互に正極、負極となるので、ターゲットの酸化によるポイゾニングなどの影響を抑制することができる。例えば、SiターゲットからSiO2 のような絶縁性の皮膜の成膜を行う場合に、いわゆる陽極消失が発生せず、長時間安定放電が可能である。また、成膜面積の大きい大形基材に対して効率よく成膜することができる。
【0036】
上記本発明実施形態及び参考形態においては、一つの平板状の基材Wを一対のスパッタ蒸発源2,2の間の空間部、あるいは一つのスパッタ蒸発源2と補助電極構造体21との間の空間部に対向するように設けたが、第1実施形態においては図1の二点鎖線で示すように、前記空間部の両側に基材W,Wを配置することができる。また、図例ではいずれの基材Wも前記空間部に対向して固定して設置したが、前記空間部の前後を移動可能に設けてもよい。移動可能にすることにより、皮膜の均一性を向上させることができ、また長尺の基材に対して成膜することができるようになる。なお、基材の移動は、基材を保持した基材ホルダを移動自在に構成することにより行うことができる。
【0037】
また、フィルムやシートのようなフィルム状基材WFの成膜に適合した、第1実施形態のスパッタリング装置の変形例を図7に示す。この変形例の装置では、一対のスパッタ蒸発源2,2の円筒状ターゲット13,13の間の空間部に対向するように当該空間部の両側に、フィルム状基材WFが前記空間部側に巻き掛けられた成膜ロール26、26が設けられる。また、前記成膜ロール26の回転に応じて巻き取られたフィルム状基材WFを巻き出す巻き出しロール27と、前記成膜ロール26の回転に応じて成膜後のフィルム状基材WFを巻き取る巻き取りロール28を備える。この装置では、巻き出しロール27から巻き出されたフィルム状基材WFを成膜ロール26に巻き掛けて巻き取りロール28に掛け渡し、成膜ロール26の回転により成膜ロール26上の基材WFを順次下流側へ送りながら前記空間部に対向した領域でスパッタ成膜する。図例では、円筒状ターゲット13,13の間の空間部の両側に成膜ロール26、26や基材の搬送機構を設けたが、一方側にのみ設けてもよい。
【0038】
また、第2実施形態のスパッタリング装置の変形例を図8に示す。この変形例の装置では、フィルム状基材WFが巻き掛けられた成膜ロール26と、前記成膜ロール26に巻き掛けられたフィルム状基材WFの側に膨らんだ磁力線の磁場を形成させるように2組の蒸発源ユニット5、5が設けられている。各蒸発源ユニット5は、図4の一対のスパッタ蒸発源2,2で構成されている。また、前記成膜ロール26の回転に応じて巻き取られたフィルム状基材WFを巻き出す巻き出しロール27と、前記成膜ロール26の回転に応じて成膜後のフィルム状基材WFを巻き取る巻き取りロール28を備える。この装置では、各蒸発源ユニット5の円筒状ターゲット13は同材質でもよく、異材質でもよい。この変形例の装置においても、成膜ロール26を回転させながらフィルム状基材WFを搬送することで、二つの蒸発源ユニット5,5によって成膜することができる。
【0039】
図8では二組の蒸発源ユニット5,5を用いたが、一方だけでもよい。また、図例のように二つの蒸発源ユニット5,5を用いる場合、図6の参考形態のスパッタリング装置の変形例とすることができる。この場合、交流電源をスパッタ電源として用い、一方の電極に一方の蒸発源ユニット5の円筒状ターゲット13、13を接続し、他方の電極に他方の蒸発源ユニット5の円筒状ターゲット13、13を接続する。
【0040】
また、筒状基材WPの成膜に適合した、第1実施形態のスパッタリング装置の変形例を図9に示す。この変形例の装置では、外周部に複数の筒状基材WPを保持し、保持した筒状基材WPを自転させながら公転させる回転テーブル29を備える。前記回転テーブル29の回転中心部に一対のスパッタ蒸発源2,2が設けられる。これにより、一対の円筒状ターゲット13,13の間の空間部の両側から放出された成膜粒子が回転テーブル29上で公転しながら自転する筒状基材WPの外周面に堆積し、皮膜が形成される。なお、筒状基材WPの代わりに筒状基材ホルダを設け、これに適宜の基材を保持させるようにしてもよい。また、回転テーブル29の回転中心部に設ける蒸発源ユニットとしては、第2実施形態のものや、図5の参考形態のものを用いることができる。
【符号の説明】
【0041】
1 真空チャンバ
2 スパッタ蒸発源
3 スパッタ電源
13 円筒状ターゲット
14 磁場発生部材
W,WF,WP 基材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバに導入したスパッタリングガス中でターゲット表面からスパッタ蒸発した成膜粒子を基材の表面に堆積させて皮膜を形成するスパッタリング装置であって、
回転自在とされた円筒状ターゲットを有し、前記円筒状ターゲットの内側に設けられ、前記円筒状ターゲットの長さ方向に沿って配置された磁場発生部材を有するスパッタ蒸発源の一対と、
前記一対のスパッタ蒸発源のそれぞれの円筒状ターゲットを共にカソードとしてこれらに放電電力を供給するスパッタ電源を備え、
前記一対のスパッタ蒸発源は、それぞれの円筒状ターゲットが平行ないし略平行に対向して配置され、それぞれのスパッタ蒸発源に設けられた磁場発生部材は前記一対の円筒状ターゲットの表面を通り、互いに引き合う向きの磁力線を形成する磁場を発生させ、
前記スパッタ電源は前記円筒状ターゲット間にペニング放電を発生させる、スパッタリング装置。
【請求項2】
前記一方のスパッタ蒸発源の磁場発生部材および/または他方のスパッタ蒸発源の磁場発生部材は、磁力線が基材側に膨らむように設けられた、請求項1に記載したスパッタリング装置。
【請求項3】
前記一方のスパッタ蒸発源の磁場発生部材および/または他方のスパッタ蒸発源の磁場発生部材を磁力線の膨らみを可変とするように移動可能に設けた、請求項1または2に記載したスパッタリング装置。
【請求項4】
前記スパッタ電源として、直流電源、電圧がゼロ又は逆極性の期間を繰り返し含む間欠的直流電源あるいは交流電源を用いる、請求項1から3のいずれか1項に記載したスパッタリング装置。
【請求項1】
真空チャンバに導入したスパッタリングガス中でターゲット表面からスパッタ蒸発した成膜粒子を基材の表面に堆積させて皮膜を形成するスパッタリング装置であって、
回転自在とされた円筒状ターゲットを有し、前記円筒状ターゲットの内側に設けられ、前記円筒状ターゲットの長さ方向に沿って配置された磁場発生部材を有するスパッタ蒸発源の一対と、
前記一対のスパッタ蒸発源のそれぞれの円筒状ターゲットを共にカソードとしてこれらに放電電力を供給するスパッタ電源を備え、
前記一対のスパッタ蒸発源は、それぞれの円筒状ターゲットが平行ないし略平行に対向して配置され、それぞれのスパッタ蒸発源に設けられた磁場発生部材は前記一対の円筒状ターゲットの表面を通り、互いに引き合う向きの磁力線を形成する磁場を発生させ、
前記スパッタ電源は前記円筒状ターゲット間にペニング放電を発生させる、スパッタリング装置。
【請求項2】
前記一方のスパッタ蒸発源の磁場発生部材および/または他方のスパッタ蒸発源の磁場発生部材は、磁力線が基材側に膨らむように設けられた、請求項1に記載したスパッタリング装置。
【請求項3】
前記一方のスパッタ蒸発源の磁場発生部材および/または他方のスパッタ蒸発源の磁場発生部材を磁力線の膨らみを可変とするように移動可能に設けた、請求項1または2に記載したスパッタリング装置。
【請求項4】
前記スパッタ電源として、直流電源、電圧がゼロ又は逆極性の期間を繰り返し含む間欠的直流電源あるいは交流電源を用いる、請求項1から3のいずれか1項に記載したスパッタリング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−193459(P2012−193459A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−161064(P2012−161064)
【出願日】平成24年7月20日(2012.7.20)
【分割の表示】特願2007−189471(P2007−189471)の分割
【原出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年7月20日(2012.7.20)
【分割の表示】特願2007−189471(P2007−189471)の分割
【原出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
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