説明

スピンコート用治具

【課題】メモリ素子の基板の表面にスピンコートによって薄膜を設けるときに前記基板を保持するスピンコート用治具において、薄膜を設ける作業を簡素化することができるものを提供する。
【解決手段】メモリ素子の基板W1の表面に、スピンコートによって薄膜W2を設けるときに基板W1を保持するスピンコート用治具1において、基部3と、複数の係合片5A,5Bで構成され、各係合片5A,5Bが基板W1に設けられている貫通孔h1に係合して基板W1を保持する係合部5と、各係合片5A,5Bと基部3との間に設けられている複数の弾性片7A,7Bで構成されている弾性部7と、弾性部7を弾性変形させるための外力を受ける外力受け部9とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピンコート用治具に係り、たとえば、ハードディスクドライブの基板に樹脂等の薄膜を設けるときに使用するものに関する。
【背景技術】
【0002】
図15(a)は、スピンコートがなされたハードディスクドライブの基板Wの概略構成を示す図であり、図15(b)は、従来のスピンコート用治具200の概略構成を示す図である。
【0003】
スピンコートがなされた基板Wは、たとえば、ガラスで構成された円板状の基板(プラッタ)W1の厚さ方向の両面に、樹脂等で構成された薄膜W2が設けられている。基板W1の中央には円形状の貫通孔h1が形成されている。スピンコートにより基板W1の両面に設けられた樹脂の薄膜W2に微細な凹凸で形成された転写パターンを型(図示せず)より転写し、この転写後に、種々の工程を経てハードディスクの基板が生成される。
【0004】
基板W1への薄膜W2の設置は、スピンコート用治具200を用いてなされる。
【0005】
スピンコート用治具200は、基材202と押さえ部材204とを備えて構成されている。基材202には雌ねじ206が形成されており、押さえ部材204には雄ねじ208が形成されている。
【0006】
そして、雌ねじ206に雄ねじ208を螺合させ、基材202と押さえ部材204とで基板W1を挟み込むことにより、基板W1がスピンコート用治具200に設置される。
【0007】
続いて、基板W1が設置されたスピンコート用治具200を、スピンコータに設置し、基板W1とスピンコート用治具200とを、中心軸C1を中心にして回転する。この回転をしているときに、図15(b)に各矢印A15a,A15bで示すように、流動体状の樹脂を基板W1に供給し、基板W1の両面に薄膜W2を設ける。
【0008】
この後、スピンコートがなされた基板W(基板W1と薄膜W2)とスピンコート用治具200とを、スピンコート用治具200が基板Wを保持している状態で、スピンコータから取り外す。この取り外しをした後、基材202から押さえ部材204を取り外し、スピンコート用治具200から基板Wを取り外す。
【0009】
スピンコート用治具200から取り外された基板Wは、上述したように、種々の工程を経てハードディスクの基板になる。一方、基板Wが取り外されたスピンコート用治具200は洗浄される。この洗浄は、1枚の基板W1に薄膜W2を設ける毎、もしくは、複数枚の基板W1に薄膜W2を設ける毎になされる。
【0010】
なお、上記従来の技術に関する文献として、たとえば、特許文献1を掲げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平4−221445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、上記従来のスピンコート用治具200を用いたスピンコート(基板W1の両面への薄膜W2の設置)では、スピンコートをする毎に、ねじ206,208を締めたり緩めたりして、基材202に部材204を設置し、もしくは、基材202から押さえ部材204を取り外す必要があるので、薄膜W2を設ける作業が煩雑になるという問題がある。
【0013】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、メモリ素子の基板の表面にスピンコートによって薄膜を設けるときに前記基板を保持するスピンコート用治具において、薄膜を設ける作業を簡素化することができるものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に記載の発明は、情報の記録が可能なメモリ素子の基板の表面に、スピンコートによって薄膜を設けるときに、前記基板を保持するスピンコート用治具において、基部と、複数の係合片で構成され、前記各係合片が前記基板に設けられている貫通孔に係合して前記基板を保持する係合部と、前記各係合片と前記基部との間に設けられている複数の弾性片で構成されている弾性部と、前記弾性部を弾性変形させるための外力を受ける外力受け部とを有するスピンコート用治具である。
【0015】
請求項2に記載の発明は、ハードディスクドライブの基板の表面にスピンコートによって薄膜を設けるときに、前記基板を保持するスピンコート用治具において、円柱状の本体部と、前記本体部の軸方向の中間部で、前記本体部の径方向の一方の側から他方の側に、前記本体部を貫通している貫通孔と、前記貫通孔から前記本体部の軸方向の先端部にわたる先端部側部位を半円柱状に2等分するように、前記先端部側部位に設けられたスリットとを有するスピンコート用治具である。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のスピンコート用治具において、底面の直径が前記本体部の外径よりも小さく、上面の直径が前記底面の直径よりも小さいテーパ状に形成され、中心軸が前記本体部の中心軸と一致するようにして、前記本体部の軸方向で前記本体部の先端部から突出して設けられた小径部を備えており、前記スリットが前記小径部に延長して形成されているスピンコート用治具である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、メモリ素子の基板の表面にスピンコートによって薄膜を設けるときに前記基板を保持するスピンコート用治具において、薄膜を設ける作業を簡素化することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係るスピンコート用治具が基板を保持している状態を示す斜視図である。
【図2】スピンコート用治具が基板を保持している状態を示す正面図等の図である。
【図3】基板設置・取り外し装置の概略構成を示す図である。
【図4】基板設置・取り外し装置を用いたスピンコート用治具への基板の設置動作を示す図である。
【図5】基板設置・取り外し装置を用いたスピンコート用治具への基板の設置動作を示す図である。
【図6】基板設置・取り外し装置を用いたスピンコート用治具への基板の設置動作を示す図である。
【図7】基板設置・取り外し装置を用いたスピンコート用治具への基板の設置動作を示す図である。
【図8】基板設置・取り外し装置を用いたスピンコート用治具への基板の設置動作を示す図である。
【図9】基板設置・取り外し装置の変形例を示す図である。
【図10】スピンコート用治具の変形例を示す図である。
【図11】変形例に係る基板設置・取り外し装置やスピンコート用治具等の概要を示す図である。
【図12】変形例に係る基板設置・取り外し装置やスピンコート用治具等の概要を示す図である。
【図13】変形例に係る基板設置・取り外し装置やスピンコート用治具等の概要を示す図である。
【図14】スピンコート用治具の変形例を示す図である。
【図15】従来のスピンコート用治具等を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係るスピンコート用治具1が基板W1を保持している状態を示す斜視図である。図2(a)は、スピンコート用治具1が基板W1を保持している状態を示す正面図であり、図2(b)は、図2(a)におけるIIB矢視図であり、図2(c)は、図2(a)におけるIIC矢視図である。
【0020】
基板W1には、従来の場合と同様にして、スピンコートにより薄膜W2が設置され、基板Wが生成されるようになっている。
【0021】
スピンコート用治具1は、情報の記録、記録されている情報の再生、記録されている情報の消去が可能なメモリ素子を製造するときに、このメモリ素子の基板(たとえば、ガラスで構成されている基板)W1の表面へ、スピンコートによって薄膜(たとえば、硬化前の流体状の薄い樹脂膜)W2を設けるときに、基板W1を保持するものである。
【0022】
スピンコートによって薄膜W2を設ける場合には、スピンコート用治具1とこのスピンコート用治具1が保持している基板W1とは、中心軸(スピンコート用治具1と基板W1との中心軸)C1を回転中心にして回転するようになっている。
【0023】
ここで、上記メモリ素子として、たとえば、ディスクリートトラック記録方式(垂直磁気記録方式)もしくは他の方式を採用したハードディスクドライブ(DTR−HDD)のメモリ素子を掲げることができる。
【0024】
基板W1は、たとえば円板状に形成されており、中央に円形状の貫通孔h1が形成されて円環状になっている。スピンコートによる薄膜W2の設置は、基板W1の厚さ方向の両面もしくは一方の面になされる。
【0025】
スピンコート用治具1は、基部3と係合部5と弾性部7と外力受け部9とを備えて構成されている。
【0026】
係合部5は、複数の係合片5A,5Bで構成されており、各係合片5A,5Bが基板W1に設けられている貫通孔h1に係合して(各係合片5A,5Bが貫通孔h1内に挿入され、各係合片5A,5Bのそれぞれが貫通孔h1の内周の異なる部位に当接し押圧して)基板W1を保持するようになっている。
【0027】
弾性部7は、各係合片5A,5Bと基部3との間に設けられている複数の弾性片7A,7Bで構成されている。より詳しくは、弾性片7Aが基部3と係合片5Aとの間に設けられており、弾性片7Bが基部3と係合片5Bとの間に設けられている。外力受け部9は、弾性部7を弾性変形させるための外力を受ける部位である。
【0028】
外力受け部9で外力を受けていないときには、係合部(たとえば、円柱状の係合部)5の外径が、基板W1の貫通孔h1の内径よりも僅かに大きくなっている。また、外力受け部9が所定の大きさの外力を受けた場合には、弾性部7が弾性変形して、係合部5の外径が、基板W1の貫通孔h1の内径よりも僅かに小さくなり、係合部5を基板W1の貫通孔h1に挿入できるようになっている。
【0029】
外力受け部9に所定の大きさの外力を加えた状態で係合部5を基板W1の貫通孔h1に挿入し、この挿入後に前記外力を取り去ると、弾性部7がある程度復元し、係合部5の外径が大きくなって貫通孔h1の内径Dと等しくなり、貫通孔h1の内壁に各係合片5A,5Bが所定の押圧力をもって当接し、係合部5で基板W1を保持できるようになっている。スピンコート用治具1が基板W1を保持した状態では、基板W1とスピンコート用治具1とは一体になり、中心軸C1の延伸方向と基板W1の厚さ方向とがお互いに一致し、また、上述したように、スピンコート用治具1の中心軸(基板W1の中心軸と一致している)C1を回転中心にして、基板W1とスピンコート用治具1とが回転し、スピンコートがなされるようになっている。
【0030】
スピンコート用治具1についてさらに詳しく説明する。
【0031】
スピンコート用治具1は、円柱状の本体部11と貫通孔13とスリット(スリット部)15とを備えて構成されている。なお、円柱状の本体部11の中心軸C1が、スピンコートで薄膜W2を設けるときにおけるスピンコート用治具1の回転中心軸になる。
【0032】
貫通孔13は、本体部11の軸方向(中心軸C1の延伸方向)の中間部で、本体部11の径方向の一方の側から他方の側(図2(a)の紙面に直交する方向)に、本体部11を貫通している。また、貫通孔13は、この貫通方向から見た場合、矩形状に形成されている(図2(a)参照)。貫通孔13の中心軸(貫通方向に延びている軸;図示せず)は、本体部11の中心軸C1と直交している。貫通孔13の幅(図2(a)における上下方向の寸法)B1は、スリット15の幅B2よりも大きくなっている。
【0033】
貫通孔13が形成されることにより、貫通孔13の幅方向の両側に残った本体部11の残存部位17(17A,17B)が、弾性片7A,7Bを構成している。また、応力集中を避けるため、矩形状の貫通孔13の四隅は円弧状に形成されている。さらに、本体部11の中心軸C1の延伸方向における、貫通孔13と本体部11の基端部との間の部位が、基部3を構成している。
【0034】
スリット15は、本体部11の中心軸C1の延伸方向において、貫通孔13と本体部11の先端部にわる先端部側部位(本体部11の中心軸C1の延伸方向で貫通孔13と本体部11の先端との間に位置している部位)19に設けられている。また、スリット15が設けられていることにより、本体部11の先端部側部位19が、半円柱状(半円柱状部位19A,19B)に2等分されている。
【0035】
半円柱状部位19Aは、底面や上面が半円状である柱状体である。より正確には、スリット15の幅が「B2」になっているので、半円柱状部位19Aは、平面に描かれた円を、この円の中心からわずかに離れて(「B2/2」の距離だけ離れて)前記平面に描かれた直線で2つの図形に分割し、これらの分割された各図形のうちの小さいほうの半円状の図形を、前記平面に直交する方向に所定の距離だけ移動したときに、前記半円状の図形の軌跡であらわされる立体になっている。半円柱状部位19Bも半円柱状部位19Aと同形状に形成されている。
【0036】
ここで、スリット15で分割された半円柱状部位19Aと半円柱状部位19Bとが(後述するテーパ部21や切り欠き部23を除く部位が)、係合部5を構成している。
【0037】
また、スリット15は、すでに理解されるように、本体部11の中心軸C1からわずかに離れかつ本体部11の中心軸C1と平行な第1の平面25Aと、本体部11の中心軸C1に対して第1の平面25Aに対称な第2の平面(第1の平面25Aに対して平行な平面)25Bとの間の空間で形成されている。また、スリット15の幅方向と貫通孔13の幅方向とはお互いが一致している。したがって、スリット15を構成している各平面25A,25Bと、貫通孔13の幅方向における各内壁27A,27Bとは、お互いが平行になっている。
【0038】
本体部11の中心軸C1の延伸方向で、先端部側部位19の中間部から本体部11の先端部にわたって、テーパ部21が設けられている。テーパ部21は、本体部11の先端部に向かうにしたがって外径が小さくなっている。なお、テーパ部21は本体部11の一部であるので、テーパ部21にもスリット部15が設けられている。
【0039】
本体部11の先端部側部位19には、一対の切り欠き部23(23A,23B)が設けられている。切り欠き部23が設けられていることにより、本体部11の先端部側部位19をこの中心軸C1の延伸方向から見ると、先端部側部位19の外周に、スリット15に対して対称な一対の円弧状部29(29A,29B)が形成されている。
【0040】
また、切り欠き部23によって一対の平面31(31A,31B)が形成されており、各切り欠き部23の平面31は、お互いが平行になっている。一方の切り欠き部23Aの平面31Aと本体部11の中心軸C1との距離と、他方の切り欠き部23Bの平面31Bと本体部11の中心軸C1との距離とはお互いが等しくなっている。また、各切り欠き部23の平面31と、スリット15を構成している各平面25A,25Bとは、お互いに直交している。さらに、切り欠き部23は、テーパ部21にも形成されている。なお、テーパ部21や切り欠き部23が削除されている構成であってもよい。
【0041】
また、スピンコート用治具1には、スピンコータ設置部33と小径部35とが設けられている。スピンコータ設置部33は、この外径が本体部11の外径よりも小さい円柱状に形成されている。また、スピンコータ設置部33は、この中心軸が本体部11の中心軸C1と一致するようにして、本体部11の中心軸C1の延伸方向の基端部でこの基端部から突出して設けられている。
【0042】
小径部35は、小径基端部側部位37と小径先端部側部位39とを備えて構成されている。小径基端部側部位37は、この外径が本体部11に形成されているテーパ部21の先端部の外径よりも小さい円柱状に形成されている。また、小径基端部側部位37は、この中心軸が本体部11の中心軸C1と一致するようにして、本体部11の中心軸C1の延伸方向の先端部で本体部11の先端部から突出して設けられている。
【0043】
小径先端部側部位39は、この底面の直径が小径基端部側部位37の外径と等しく上面の直径が小径基端部側部位37の外径よりも小さい円錐台状(テーパ状)に形成されている。また、小径先端部側部位39は、この中心軸が本体部11の中心軸C1と一致するようにして、本体部11の中心軸C1の延伸方向で小径基端部側部位37の先端部から突出して設けられている。スリット15は、延長されて小径部35にも形成されている。
【0044】
外力受け部9は、スリット15で2つに分割されている小径先端部側部位39で構成されている。なお、小径基端部側部位37を削除して、小径先端部側部位39を本体部11に直接設けた構成であってもよい。
【0045】
また、すでに理解されるように、スピンコート用治具1は、本体部11の中心軸C1と貫通孔13の中心軸とで規定される平面(図2(a)で示す中心軸C1を含んで、図2(a)の紙面に直交する方向に展開している平面)に対して対称に形成されている。また、スピンコート用治具1は、たとえば、ステンレス鋼等の金属で構成されており、素材を機械加工することにより形成されている。したがって、本体部11とスピンコータ設置部33と小径部35とは、一体で形成されている。
【0046】
次に、スピンコート用治具1への基板W1の設置、スピンコート用治具1からの基板W1の取り外しについて説明する。
【0047】
上記設置や取り外しは、たとえば、図3に示す基板設置・取り外し装置41を用いてなさなれるようになっている。また、スピンコート用治具1と基板設置・取り外し装置41とで、基板設置・取り外しシステムが構成されている。
【0048】
基板設置・取り外し装置41は、スピンコート用治具1に基板W1を設置し、もしくは、スピンコート用治具1に設置されている基板W1をスピンコート用治具1から取り外すため装置であり、基板載置部材43と、小径係合部材45とを備えている。
【0049】
基板設置・取り外し装置41の基板載置部材43に位置決めされて載置されている基板W1に、スピンコート用治具1を挿入するときに、スピンコート用治具1の小径部35が、小径係合部材45に係合し、小径部35が小径係合部材45から外力を受けて残存部位17(弾性部7)が弾性変形し、先端部側部位19の外径が、基板W1の貫通孔h1の内径よりもわずかに小さくなる。そして、スピンコート用治具1の先端部側部位19(係合部5)が基板W1の貫通孔h1に挿入されるようになっている。
【0050】
スピンコート用治具1の先端部側部位19の基板W1の貫通孔h1への挿入後に、小径係合部材45を移動させて、小径係合部材45を小径部35から離すと、残存部分17が復元し、先端部側部位19の外径が大きくなり、各半円柱状部位19A,19Bで基板W1の貫通孔h1の内壁を押圧し、スピンコート用治具1で基板W1を保持するように構成されている。
【0051】
基板設置・取り外し装置41についてさらに詳しく説明する。
【0052】
基板載置部材43は、たとえば、円筒状に形成されており、開口部の一方の端部である基端部(下部)がベース部材47に一体的に設けられている。基板載置部材43の上端からこの近傍にかけての内径は、基板W1の外径よりもごくわずかに大きくなっていると共に、基板載置部材43の他の部位の内径よりも大きくなっている。これにより、基板載置部材43の上端の近傍には、段差49が形成されている。
【0053】
段差49に基板W1を載置することにより、基板W1の中心軸と基板載置部材43の中心軸とがお互いに一致し、基板W1の厚さ方向が上下方向になる。そして、基板W1が位置決めされて載置されるようになっている。
【0054】
小径係合部材45には、小径先端部側部位39が入り込んで小径先端部側部位39の円錐台側面が面接触するテーパ状の凹部51が形成されている。また、小径係合部材45は、図示しないリニアガイドベアリングで支持されて、基板載置部材43に載置された基板W1の厚さ方向(たとえば上下方向;図3に矢印A3で示す方向)で、ベース部材47(基板載置部材43)に移動自在に設けられている。さらに、小径係合部材45は、シリンダ53等のアクチュエータにより、基板W1側の位置(上位置)と反基板W1側の位置(下位置)との間を移動し、前記上位置または前記下位置で位置決めされて停止するようになっている。
【0055】
次に、図4〜図8を参照しつつ、基板設置・取り外し装置41を用いたスピンコート用治具1への基板W1の設置動作について説明する。
【0056】
まず、図4で示すような初期状態においては、基板載置部材43に基板W1が載置されており、小径係合部材45は上位置に位置しており、スピンコート用治具1は、基板W1の上方に位置し、スピンコート用治具1の中心軸C1と基板W1の中心軸とはお互いが一致しているものとする。
【0057】
図4で示す初期状態から、スピンコート用治具1を下方(図4に矢印A4示す方向)に移動し、小径部35の小径先端部側部位39の側面を小径係合部材45のテーパ状の凹部51の内面に面接触させる(図5参照)。なお、図5(b)は、図5(a)におけるVB部の拡大図である。また、スピンコート用治具1に移動を、手動で行ってもよいし、ロボット等の装置を用いて自動的に行ってもよい。
【0058】
図5で示す状態では、小径部35は、何ら外力を受けておらず、弾性部7(残存部位17)は弾性変形していない。そして、スリット15の幅は「B2」になっており。先端部側部位(テーパ部21ではない円柱状の先端部側部位)19(係合部5)の外径は「d1」になっている。外径d1は、基板W1の貫通孔h1の内径Dよりも大きくなっている。小径部35は、基板W1の貫通孔h1を通り抜けて基板W1の下方に位置しており、スピンコート用治具1が基板W1に接触していない状態でテーパ部21が基板W1の貫通孔h1に入り込んでおり、係合部5は、基板W1の上方に位置している。
【0059】
続いて、図5で示す状態から、スピンコート用治具1を下方(図5に矢印A5示す方向)に所定の距離だけ移動すると、図6で示す状態になる。なお、図6(b)は、図6(a)におけるVIB部の拡大図である。
【0060】
図6で示す状態では、小径部35が、テーパ状凹部51から図6に矢印A6a,A6bで示す外力を受けており、弾性部7が弾性変形して、スリット15の幅が「B2」よりも小さい「B3」になっており、係合部5の外径が「d2」になっている。外径d2は、基板W1の貫通孔h1の内径Dよりも小さくなっている。また、係合部5が、基板W1の貫通孔h1に入り込んでいる。
【0061】
図5から図6に移行する途中の状態では、スリット15の幅や係合部5の外径は矢印A6a,A6bで示す外力を受けて、次第に小さくなるのであるのであるが、上記途中の状態において、係合部5が基板W1の貫通孔h1に入る前に、係合部5の外径が、基板W1の貫通孔h1の内径Dよりも小さくなっているものとする。
【0062】
続いて、図6で示す状態から、小径係合部材45を下方(図6に矢印A6示す方向)に所定の距離だけ移動すると、図7で示す状態になる。なお、図7(b)は、図7(a)におけるVIIB部の拡大図である。
【0063】
図7で示す状態では、小径係合部材45が小径部35から離れており、小径部35には外力がかかっておらず、弾性部7がある程度復元している。そして、係合部5の係合片5Aが基板W1の貫通孔h1の内壁の一方の側の部位に所定の面圧で接触しており、係合部5の係合片5Bが基板W1の貫通孔h1の内壁の他方の側の部位に所定の面圧で接触している。
【0064】
これにより、スピンコート用治具1の係合部5(先端部側部位19)で基板W1がスピンコート用治具1に保持されている。なお、図7(b)で示すスリット15の幅B4は、図5(b)で示す幅B2よりも小さく、図6(b)で示す幅B3よりも大きくなっている。また、図7(b)で示す係合部5の外径d3は、基板W1の貫通孔h1の内径Dと等しくなっている。
【0065】
続いて、図7で示す状態から、スピンコート用治具1を基板W1と共に上方(図7に矢印A7示す方向)に所定の距離だけ移動すると、図8に示す状態になり、スピンコート用治具1への基板W1の設置が終了する。
【0066】
この後、スピンコート用治具1と基板Wとは、スピンコータに設置され、図1に矢印A1で示すように、中心軸C1を中心にして回転し、スピンコートがなされ、薄膜W2が設置されるようになっている。なお、図1、図3〜図8においては、中心軸C1の延伸方向が上下方向になっているが、中心軸C1の延伸方向を図2で示すように水平方向にしてもよいし、斜めにしてもよい。
【0067】
基板W1に薄膜W2が設置されて形成された基板Wは、従来と同様にして、種々の工程を経てハードディスクの基板になる。なお、基板Wをスピンコート用治具1から取り外すときには、図4〜図8を用いて説明した動作とほぼ逆の動作をすればよい。
【0068】
スピンコート用治具1によれば、弾性部7を弾性変形させるだけで、スピンコート用治具1への基板W1の設置やスピンコート用治具1からの基板Wの取り外し(基板の着脱)をすることができるので、従来のスピンコート用治具200のように、基板の着脱に際してねじを締めたり緩めたりする必要がなく、基板W1に薄膜W2を設ける作業(特に、スピンコート用治具1での基板の着脱作業)を簡素化することができる。
【0069】
また、スピンコート用治具1によれば、図15(b)で示す従来のスピンコート用治具200のように基材202の段差と押さえ部材204とを用いて基板1を保持する構成ではないので、基板W1の中央部(貫通孔h1の縁;貫通孔h1の外周)のところにまで、スピンコートによって薄膜をW2設置することができる。
【0070】
また、スピンコート用治具1によれば、スリット15により、本体部11の先端部側部位19を2分割し、また、貫通孔13で残された残存部位17を弾性部7として、本体部11の先端部側部位19(係合部5)の外径を変更可能としている。さらに、本体部11の先端部側部位19に切り欠き部23を設けて、先端部側部位19(係合部5)の円弧状の2箇所の部位29A,29Bが基板W1の貫通孔h1の内壁に接触し、基板W1を保持するようになっている。また、スピンコート用治具1は、本体部11の中心軸C1と貫通孔13の中心軸とで規定される平面に対して対称に形成されている。
【0071】
したがって、基板W1の回転中心軸とスピンコート用治具1の回転中心とをお互いに一致させて精度良く基板W1を保持することができる。また、スリット15を1箇所のみに設けた構成であるので、スピンコートにより基板W1に薄膜W2を設けた後の洗浄がしやすくなっている。
【0072】
また、スピンコート用治具1によれば、本体部11の先端部に設けられている小径部35に外力(本体部11の中心軸C1に向かう一対の外力;図6(b)に各矢印A6a,A6bで示す力)を加えることで、弾性部7を弾性変形させて、基板W1を保持する係合部5の外径を変えるようになっている。ここで、小径部35が、弾性部7よりも基部3から離れているので、テコの原理を用い小さな外力で基板W1を保持する係合部5の外径を変えることができるようになっている。また、小径部35の小径先端部側部位39(円錐台状の部位)に、基板設置・取り外し装置41の小径係合部材45で外力を加えるので、スピンコート用治具1の中心軸C1をずらすことなく、係合部5外径を変えることができる。そして、基板W1をスピンコート用治具1で正確に保持することができる。
【0073】
ところで、基板設置・取り外し装置41において、図9(基板設置・取り外し装置41の変形例を示す図)で示すように、スピンコート用治具1用のストッパ57を設けてもよい。基板載置部材43に一体的に設けられているストッパ57にスピンコート用治具1が当接することにより、図6で示す位置に、スピンコート用治具1を確実に停止させることができる。
【0074】
また、図10(スピンコート用治具1の変形例を示す図)で示すように、スリット15や貫通孔13を「十」字状に形成し、弾性部7を4つの係合片7A,7B,7C,7Dで構成し、係合部5を4つの係合片5A,5B,5C,5Dで構成してもよい。
【0075】
また、図14(スピンコート用治具1の変形例を示す図)で示すように、スリット15や貫通孔13を「Y」字状に形成し、弾性部7を3つの係合片7A,7B,7Cで構成し、係合部5を3つの係合片5A,5B,5Cで構成してもよい。さらに、図14で示すように、係合部5の円弧状部29A,29B,29Cを短く形成してもよい。
【0076】
さらに、小径部35を削除して、代わりにテーパ部21を、図3で示したものよりも大きくした小径係合部材45のテーパ状凹部51に係合させ、係合部5の外径を変えるように構成してもよい。
【0077】
次に、基板設置・取り外し装置41やスピンコート用治具1の変形例(基板設置・取り外し装置41a,スピンコート用治具1a)を、図11〜図13を参照して説明する。なお、図12(a)は、図11におけるXIIA矢視図であり、図12(b)は、図11におけるXIIB矢視図である。
【0078】
変形例に係るスピンコート用治具1aは、図2等に示すスピンコート用治具1から小径部35を削除した形態に形成されている。なお、スピンコート用治具1aにおいて、図10、図14と同様な変更を行ってもよい。
【0079】
基板設置・取り外し装置41aは、ベース部材59と一対の外力付与部材61A,61Bとを備えて構成されている。ベース部材59の中央には、円柱状の孔63が設けられており、この孔63にスピンコート用治具1aのスピンコータ設置部33が入り込むことにより、スピンコート用治具1aが基板設置・取り外し装置41aの所定位置に位置決めされて設置されるようになっている。
【0080】
外力付与部材61Aは、ベース部材59に対して、スピンコート用治具1aの中心軸C1に対して直交する方向で移動自在になっている。外力付与部材61Bも外力付与部材61A同様にして、移動自在になっている。また、図示しないシリンダ等のアクチュエータと同期機構とにより、外力付与部材61Aと外力付与部材61Bとが同期してお互いが逆方向(図11に矢印A11a,A11bで示す方向)に移動するようになっている。外力付与部材61Aの先端部が、スピンコート用治具1aの先端部側部位19(一方の外力受け部9)に当接し、外力付与部材61Bの先端部が、スピンコート用治具1aの先端部側部位19(他方の外力受け部9)に当接し、スピンコート用治具1aの中心軸C1の位置が変化しないようにして、各外力付与部材61A,61Bでスピンコート用治具1aで挟み込むようになっている。そして、弾性部7を弾性変形させ、先端部側部位19(係合部5)の外径を小さくすることができるようになっている。
【0081】
基板W1は、たとえばロボットの基板保持部65に載置されるようになっている。また、基板保持部65は2つの部位(第1の部位65Aと第2の部位65B)とで構成されている。そして、基板保持部65が上下方向に移動し、また、各部位65A,65Bが開閉することにより、スピンコート用治具1aへの基板W1の設置、スピンコート用治具1aからの基板W1の取り外しをするようになっている。
【0082】
ここで、基板設置・取り外し装置41aと基板保持部65とを用いたスピンコート用治具1aへの基板W1の設置動作について説明する。
【0083】
まず初期状態として、図11で示すように、基板保持部65が基板W1を載置しており、基板保持部65が、基板設置・取り外し装置41aの上方に位置しており、基板設置・取り外し装置41aには、スピンコート用治具1aが設置されているものとする。また、初期状態では、各外力付与部材61A,61Bが、スピンコート用治具1aを押していないものとする。
【0084】
上記初期状態から、各外力付与部材61A,61Bを、図11に各矢印A11a、A11bの方向に移動して、各外力付与部材61A,61Bでスピンコート用治具1aを押圧し、弾性部7を弾性変形させて係合部5の外径を小さくする。
【0085】
続いて、図11に矢印A11cで示すように、基板W1を載置した基板保持部65を下降させて、基板W1の貫通孔h1に、スピンコート用治具1aの係合部5を挿入する。この場合、基板保持部65は基板設置・取り外し装置41aに干渉していない。
【0086】
続いて、各外力付与部材61A,61Bを、図11に各矢印A11a、A11bとは逆の方向に移動し、弾性部7を復元ささせて、スピンコート用治具1aで基板W1を保持する(図13参照)。
【0087】
続いて、基板保持部65の各部位65A,65Bを、図12(b)で示す各矢印A12a,A12bの方向に移動して開き、基板保持部65による基板W1の載置をやめ、基板保持部65を図13に矢印A13で示す方向(上方)に移動し、スピンコート用治具1aへの基板W1の設置を終了する。
【0088】
なお、基板Wをスピンコート用治具1aから取り外すときには、上述した動作とほぼ逆の動作をすればよい。
【符号の説明】
【0089】
1、1a スピンコート用治具
3 基部
5 係合部
5A、5B 係合片
7 弾性部
7A、7B 弾性片
9 外力受け部
11 本体部
13 貫通孔
15 スリット
19 先端部側部位
21 テーパ部
23 切り欠き部
35 小径部
37 小径基端部側部位
39 小径先端部側部位
C1 中心軸
h1 貫通孔
W1、W1 基板
W2 薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報の記録が可能なメモリ素子の基板の表面に、スピンコートによって薄膜を設けるときに、前記基板を保持するスピンコート用治具において、
基部と、
複数の係合片で構成され、前記各係合片が前記基板に設けられている貫通孔に係合して前記基板を保持する係合部と、
前記各係合片と前記基部との間に設けられている複数の弾性片で構成されている弾性部と、
前記弾性部を弾性変形させるための外力を受ける外力受け部と、
を有することを特徴とするスピンコート用治具。
【請求項2】
ハードディスクドライブの基板の表面にスピンコートによって薄膜を設けるときに、前記基板を保持するスピンコート用治具において、
円柱状の本体部と、
前記本体部の軸方向の中間部で、前記本体部の径方向の一方の側から他方の側に、前記本体部を貫通している貫通孔と、
前記貫通孔から前記本体部の軸方向の先端部にわたる先端部側部位を半円柱状に2等分するように、前記先端部側部位に設けられたスリットと、
を有することを特徴とするスピンコート用治具。
【請求項3】
請求項2に記載のスピンコート用治具において、
底面の直径が前記本体部の外径よりも小さく、上面の直径が前記底面の直径よりも小さいテーパ状に形成され、中心軸が前記本体部の中心軸と一致するようにして、前記本体部の軸方向で前記本体部の先端部から突出して設けられた小径部を備えており、
前記スリットが前記小径部に延長して形成されていることを特徴とするスピンコート用治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−96338(P2011−96338A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−251807(P2009−251807)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【出願人】(000003458)東芝機械株式会社 (843)
【Fターム(参考)】