説明

スピーカーユニット

【課題】スピーカーユニットに漆を利用することで、振動板の剛性(ヤング率)の向上と、内部損失の向上と、フレーム等の制振効果を高めることにより、自然で高忠実再生のできるスピーカーユニットを提供する。
【解決手段】スピーカーユニットを、振動板表面に一種類の漆層、もしくは複種類の漆積層、振動板内周部と外周部で厚みを変化させた漆層、及び漆の塗布されたフレーム等によって構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスピーカーユニットの製造方法に関する
【背景技術】
【0002】
スピーカーの振動板に要求される特性としては、高い剛性(ヤング率)、低い比重、高い内部損失が挙げられる。紙はこれらを適度なバランスで構成することができるため、これまで多く用いられてきている。また、近年では金属や合成樹脂、あるいはこれらの複合材も用いられる。
【0003】
一般に、高い剛性を持つ材料は、内部損失が不十分な傾向にあり、内部損失の大きな材料は、剛性が不十分な傾向がある。このため従来は、振動板の形状、大きさ、意図的な共振、エンクロージャー等の工夫、電気的な補正などによって解決を図ることが多く、より適切な振動板が依然望まれている。
【特許文献1】特開2003−348687号公報
【特許文献2】特開2004−193716号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
漆は天然素材及びこれの改良材料であるが、ひとによりかぶれやすく、硬化させるための雰囲気温度や湿度の管理がデリケートで、とかく扱いにくいイメージを持たれがちである。しかし、硬化前は延性や含浸性や紙との親和性により塗布材料として優れること、硬化前後の体積変化が比較的少ないこと、硬化後は比較的硬く軽量で、しかも適度な内部損失を有する材料である。また、漆は独特な色相、光沢、透明感、触感をも併せ持ち、自然材料としての漆の特性を生かした用途の拡大が望まれる。
本発明は、スピーカー振動板の問題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、漆の特性を生かすことによって、より自然で高忠実再生のできるスピーカーユニットを提供することにあり、以て漆の用途拡大を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成する手段として、本発明請求項1記載のスピーカー振動板では、基材を紙とし、生漆を塗布の後硬化させ、これを複数回繰り返し、適度な剛性と内部損失となる構成とする。
【0006】
請求項2記載のスピーカー振動板では、基材を紙とし、生漆を塗布の後硬化させ、次に黒漆、もしくは無機系添加材を含有する漆を塗布の後硬化させ、これを必要回数繰り返し、適度な剛性と内部損失となる構成とする。
【0007】
請求項3記載のスピーカー振動板では、基材を紙とし、生漆を中心ほど厚く塗布の後硬化させ、もしくは中心部ほど塗布回数を多く塗り重ね、適度な剛性と内部損失となる構成とする。
【0008】
請求項4記載のスピーカーユニットでは、漆をユニットのフレーム、もしくはマグネットに漆を塗布の後硬化させ、これを繰り返して必要な制振効果の現れる構成とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のスピーカー振動板においては、漆硬化層の高い剛性と、適度な内部損失により、振動板の固有音を減少し、忠実性の高い振動板にすることができる。
【0010】
漆の塗布回数を増減することにより、振動板の剛性と内部損失のバランスを調節することができる。
【0011】
複種類の漆を塗り重ねることにより、振動板の剛性と内部損失のバランスを調節することができ、併せて、色相の調節をすることができる。
【0012】
振動板の中心付近と外周部を塗り分けることにより、たとえば中心ほど剛性を上げるなどの調節ができる。
【0013】
以上のように、スピーカー振動板の剛性と内部損失をバランス良く改善することができるので、振動板の固有振動を抑制し、分割共振を抑制し、以て再生音の歪みを低減し、再生周波数幅を拡大することができる。
【0014】
スピーカーユニットのフレームやマグネットなどは、漆を適切に塗り重ねることにより、制振効果を発揮することができる。これにより、振動板等から伝達されたフレーム振動を抑制する効果が得られ、フレームからの付帯音を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面に基づいて本発明のスピーカーユニットを実現する形態を説明する。
【実施例1】
【0016】
本特許のスピーカー振動板は、図1に示すように、紙等を主原料とする基材1と、漆2を積層して構成する。基材1は漆との親和性の良い材料が良く、漆1を塗布したときに適度に基材1内部に染み込み、強固に付着されるのが良い。漆2と親和性の良い基材1の材料としては、和紙等の紙類が特に向くが、機能上支障がなければ他の材料でも良い。基材1の表面の平滑度は、漆2との付着性を向上させるため、高すぎないのが良い。また、漆2により、構成後の質量を考慮し、適切な基材1の質量とするのが良い。
【0017】
漆2は生漆、精製漆、及び色漆等を使用することができるが、硬化後の硬さや色相等を考慮して決定する。塗布には通常、漆専用の刷毛等を用いるが、機能上支障がなければこの限りでない。塗布の後、漆2の硬化に適する雰囲気内で養生し硬化させる。この際、コイル等に支障を来さないよう配慮する。通常、漆の塗布と硬化は、必要な漆2の厚さとなるまで複数回行う。
【0018】
このとき、塗布される漆は、図2に示すように、剛性、内部損失、及び色相等の要求により、異なる性質の漆3を積層して使用しても良い。通常の漆は、塗布後、数十時間で必要硬度に達するが、その後、数ヶ月にわたり徐々に硬度が増すことを考慮する。また、使用者の漆によるかぶれを防止するため、最終塗布後、数ヶ月の養生期間を与えるのが良い。
【0019】
漆2の塗布の際、図3に示すように、スピーカー振動板の漆2は、中央部を厚く外周部を薄くする場合は、粘度の低い漆を塗布し、振動板を仰向けに設置して養生して硬化させ、これを必要回数繰り返すか、中央部と外周部の塗布回数を異なるものとするか、もしくは中央部と外周部で塗布される漆の粘度等を異なるものとする。
【0020】
スピーカーシステムの設計にあたっては、スピーカー振動板に塗布された漆2、あるいは漆3の質量は、硬化するにつれて内在する水分の減少により減少し、その後、大気中の酸素の供給により増加することを配慮する。また、通常の漆は、紫外線により劣化するため、直射日光及び蛍光灯等からの紫外線をできる限りさける。
【実施例2】
【0021】
次に第2実施例に係わるスピーカーユニットを図4に示す。
本例では、漆2を、フレーム5の前面、内部フレーム、背面、マグネットに、誠心に必要な厚みになるまで塗布と硬化を繰り返したものである。フレーム5の材質は鉄やアルミ等を用いるが、漆2を塗布するフレーム5の表面は、漆2との付着性を高めるため、平滑度を極力落とし、表面の油分等を除去するのが良い。
【0022】
塗布の後、漆2の硬化に適する雰囲気内で養生し硬化させる。この際、コイル等に支障を来さないよう配慮する。通常、漆の塗布と硬化は、必要な漆2の厚さとなるまで複数回行う。通常の漆は、塗布後、数十時間で必要硬度に達するが、その後、数ヶ月にわたり徐々に硬度が増すことを考慮する。また、使用者の漆によるかぶれを防止するため、最終塗布後、数ヶ月の養生期間を与えるのが良い。
【0023】
漆2を複層とする場合は、図2に類似して、異なる性質の漆を積層しても良い。また、フレーム前面に塗布される漆2は、ユニット全体の色相や、取り付けられるエンクロージャとの色相的な調和を考慮して決定する。エンクロージャー内に隠れる部分の漆2については必要な内部損失等を満たせば良い。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1に係わるスピーカー振動板の拡大された断面図である。
【図2】実施例1に係わるスピーカー振動板の拡大された断面図である。
【図3】実施例1に係わるスピーカーユニットの断面図である。
【図4】実施例2に係わるスピーカーユニットの断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 基材
2 漆
3 漆2と異なる性質の漆
4 振動板
5 フレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
漆を基材に塗布するなどして複合化、あるいは漆のみによって構成したスピーカー振動板。
【請求項2】
使用する漆を、添加材の種類、及び添加材の有無、あるいはウルシオールなどの成分によって複種類用いて構成したスピーカー振動板。
【請求項3】
請求項1、もしくは請求項2を実現するときに、振動板の部位によって異なる材質や厚みで構成したスピーカー振動板。
【請求項4】
漆をフレーム、あるいはマグネットなどに塗布することによって構成されたスピーカーユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−97000(P2007−97000A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−285765(P2005−285765)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(305013219)
【Fターム(参考)】