説明

スピーカ装置

【課題】スピーカ背面から放射される音がエンクロージャー内で反射しコーンの背面を振動することにより、位相ずれの変調歪を伴った音が外部へ放射される。この反射音を消音する。
【解決手段】同一の特性を有する主スピーカ5aと副スピーカ5bを、点対称で構成された直方体である第1室3aに同軸上至近距離に背中合わせに配置し、電気的に逆極で駆動するスピーカ装置において、副スピーカ5bをアクティブ消音スピーカとして機能させ主スピーカ5a背面の低音を消音する。主スピーカ5a背面の中音以上の音は第1室3a内部全面に備えられた吸音材4で吸音する。副スピーカ5b背面から主スピーカ5a背面方向へ直進する音は、中心面吸音材4aで吸音し、スピーカ配置間の距離差に起因する位相ずれの音波による主スピーカ5aコーン背面への振動を抑制又は無くす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカ背面から放射される音をパッシブ消音とアクティブ消音により消 音するスピーカ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の技術で音を消音する方法は大きく2つに分類できる。パッシブ消音とアクティ ブ消音である。
【0003】
1つ目のパッシブ消音は吸音材、吸音ボード、反射板等を使用したものである。スピ ーカ装置でいえば吸音材を使用した密閉型、バスレフ型、また、反射板を使用したバッ クロードホーン型、ダブルバスレフ型等がある。スピーカ装置外ではマフラー、防音パ ネル等がある。
【0004】
2つ目のアクティブ消音は、消音する音と逆位相同音圧の音を発生させ波の干渉によ り消音するものであり、特に低音(200Hz以下の音を表し、以下低音という)の消 音には効果的である。スピーカ装置では低音補強目的のタンデム型スピーカ装置の1種 においてエンクロージャー内で低音がアクティブに消音されているといえる。スピーカ 装置外では専用のDSP(デジタルシグナルプロセッシング)制御装置を設けたエンジ ン排気音低減装置、空調機ダクト音低減装置、自動車の室内騒音低減装置等が実用化さ れている。
【0005】
パッシブ消音で使用される吸音材は高音(2KHz以上の音を表し、以下高音という )での吸音は顕著であるが、中音(200Hz〜2KHzの音を表し、以下中音という )では周波数が低くなるに従って徐々に効果が少なくなる。エンクロージャー内に吸音 材を増やしても特に低音では効果は少なく、低音はエンクロージャー内で反射を繰り返 し熱エネルギーに変換され音が消滅するまでスピーカコーンの背面を振動する。このこ とが原因で従来のスピーカ装置では外部へ放射される音が幾重にも位相遅れの変調歪を 伴った音となっている。
【0006】
この改善策として、外部へ音を放射するスピーカ背面から放射される1.5KHzよ り低い周波数の中音及び低音はアクティブに消音し、1.5KHz以上の中音及び高音 は吸音材でパッシプに消音し、外部へ音を放射するスピーカ(以下外部スピーカという )背面から放射される音を消音する。
【0007】
1.5KHzより低い周波数の中音及び低音をアクティブに消音する具体策を述べる 。外部スピーカと同一の物理的・電気的特性を有するスピーカをエンクロージャー内部 に外部スピーカの同軸上に背中合わせに配置し、同一方向に振動させる方式のタンデム 型スピーカ装置おいて、エンクロージャー内部に配置されたスピーカ(以下内部スピー カという)の背面から放射される逆位相同音圧の音をアクティブ消音の制御音として使 用することにより、内部スピーカをアクティブ消音用スピーカとして機能させ、外部ス ピーカの背面音をアクティブに消音する。
【0008】
しかしながら、上記タンデム型スピーカ装置の内部スピーカをアクティブ消音用スピ ーカとして使用するには新たな問題が発生する。外部スピーカと内部スピーカは設置間 の距離が存在する。そのことが原因で内部スピーカ背面音が外部スピーカ背面方向へ直 進し、外部スピーカ背面に到達(波の重ね合わせの原理による波の独立性)した時、1 .5KHz以上(外部スピーカと内部スピーカ設置間の距離により異なる)の中音、高 音で位相が180゜以上ずれ、この位相のずれた音で外部スピーカ背面のコーンを振動 することである。
【0009】
この振動を抑制するため、内部スピーカを外部スピーカの直角方向へ配置したタンデ ム型スピーカ装置も実用化されているが、干渉を無くすことは難しく、また、アクティ ブ消音効率は下がる。
【0010】
本発明は図1が示すように、主スピーカ5aと副スピーカ5bの中心面に中心面吸音 材4aを備え、副スピーカ5b背面から放射される500Hzの中音から中心面吸音材 4aにより吸音効果を持たせ、500Hz以上の音で主スピーカ5aコーン背面が振動 されることを抑制又は無くした。
【0011】
本発明と、エンクロージャーの構成方法、スピーカの設置方法、同一のスピーカを使 用する点、スピーカの駆動方法において類似構成が特開2002−369289号公報 で開示されている。その公報によれば、発明が解決しようとする課題の1つは「互いの スピーカの位相干渉によって生じる音圧周波数特性の山谷を防止すること」である。こ の課題をスピーカが背中合わせに設置されているエンクロージャーの容積を小さくする ことによって解決するとしている。
【0012】
本発明のスピーカ装置は、外部スピーカ背面から放射される1.5KHzより低い周 波数の中音及び低音は、内部スピーカ背面から放射される逆位相同音圧の音により、波 の干渉を積極的に利用しアクティブに消音する。外部スピーカ背面から放射される1. 5KHz以上の中音及び高音はエンクロージャー内の吸音材によりパッシブに消音する 。これらのアクティブ消音とパッシィブ消音を組み合わせることで、外部スピーカの背 面音を消音することを特徴としている。
【0013】
本発明のスピーカ装置は、外部スピーカと内部スピーカ設置間の距離差に起因する位 相ずれの音波による外部スピーカ背面のコーンを振動する問題は、中心面吸音材4aで 吸音することにより解決している。
【特許文献1】特開平10−224891号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
解決しようとする問題点は、スピーカ背面から放射された音がエンクロージャー内で 反射し、その反射音がコーンの背面を振動し位相ずれの変調歪みを伴った音が外部へ放 射される点である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
このような課題を解決するため請求項1の発明においては、エンクロージャー1は表 バッフル板1a、天板1b、地板1c、裏板1dと左右側板(表示せず)で構成された 密閉された直方体であって、エンクロージャー1内に表バッフル板1a、内バッフル板 2a、天板1b、内下板2b及び左右側板に囲まれた密閉された直方体である第1室3 aと、表バッフル板1a、内バッフル板2a、裏板1d、天板1b、内下板2b、地板 1c及び左右側板に囲まれた密閉されたL字型8面体である第2室3bが設けられ、第 2室3bの容積は第1室3aの容積より大きく形成され、第1室3aの内部面はスピー カ取り付け孔を除くすべての面に吸音材4が備える。
【0016】
請求項2の発明においては、第1室3aは中心点において点対称となるよう構成する 。
【0017】
請求項3の発明においては、第1室3aの表バッフル板1a又は内バッフル板2aに 平行な中心面に中心面吸音材4aを備える。
【0018】
請求項4の発明においては、表バッフル板1aに前向きに主スピーカ5aが配置され 、内バッフル板2aに同一の物理的・電気的特性を有する副スピーカ5bを主スピーカ 5aの同軸上に限りなく至近距離に背中合わせに配置されたスピーカ装置において、主 スピーカ5aと副スピーカ5bの電気的接続を逆極で音声増幅器に接続する。
【0019】
請求項5の発明においては、副スピーカ5bをアクティブ消音スピーカとして機能さ せる。
【発明の効果】
【0020】
従来のスピーカ装置によれば、外部へ音を放射するスピーカの背面音の消音は、吸音 材による吸音とエンクロージャー内部で反射を繰り返し消音するパッシブ消音のみであ り、低音の消音対策は取られてなかった。
【0021】
本発明によれば、スピーカ装置にアクティブ消音を採り入れ、外部へ音を放射するス ピーカの背面から放射される低音をアクティブに消音し、中音以上の音は吸音材により パッシブに消音することにより、反射音による外部へ音を放射するスピーカの変調歪み が無くなるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明のスピーカ装置はエンクロージャー内の低音を専用のDSP制御装置を設ける ことなく、アクティブ消音を実現したことにより低コストであり、また、既存の音声増 幅器が使用できる。
【実施例1】
【0023】
図1は本発明の実施例1を示したスピーカ装置の側断面図であり、第2室3bは副ス ピーカ5bの特性による密閉型所定の容積以上の容積で形成する。本図ではエンクロー ジャー1の奥行きを少なくするためL字型8面体としてあるが、直方体又は紡錘型への 変更は可能である。また、副スピーカ5bのQ0値によりバックロードホーン型とする 。
【0024】
第1室3aは密閉された直方体で構成され、容積は主スピーカ5aと副スピーカ5b を限りなく至近距離に同軸上に背中合わせに配置することにより決定される。第1室3 aの容積<第2室3bの容積で形成する。
【0025】
主スピーカ5aと副スピーカ5bは同一の物理的・電気的特性を有するスピーカで、 図3に示すように電気的に主スピーカ5aと副スピーカ5bの極性が逆極となるよう音 声接続器に接続する。よって主スピーカ5a背面と副スピーカ5bの背面から放射され る音は逆位相となり振動方向は同一方向となる。
【0026】
第2室3bは副スピーカ5bの特性による密閉型所定の容積以上の容積で形成されて いること、及び、第1室3aの容積<第2室3bの容積とされていることにより、主ス ピーカ5aと副スピーカ5bを駆動した時、主スピーカ5a前面の空気圧と副スピーカ 5b前面の空気圧が近似的に等しくなり、主スピーカ5a背面から放射される音と、副 スピーカ5b背面から放射される音が近似的に同音圧となる。
【0027】
第1室3aは中心点において点対称となるよう構成する。即ち表バッフル板1aと内 バッフル板2aの中心面において物理的構造が面対称、且つ、天板1bと内下板2bの 中心面において物理的構造が面対称となるよう構成する。よって、スピーカ間(放射さ れる音は周波数に係わらずコーンの先端位置とし、第1室3a内において、主スピーカ 5aコーンの先端位置から副スピーカ5bコーンの先端位置までの空間を表す)におい て、主スピーカ5a背面から放射される音の反射音と、副スピーカ5b背面から放射さ れる音の反射音が逆位相且つ近似的に同音圧で維持される。
【0028】
主スピーカ5a背面から放射される1.5KHzより低い中音及び低音の進行方向が 天板1bまたは内下板2b又は側板方向である時、その音の1次反射音又は2次反射音 ・・・又はn次反射音と、副スピーカ5b背面から放射される1.5KHzより低い中 音及び低音の1次反射音又は2次反射音・・・又はn次反射音の音道が図4で示した同 軸空間上(同軸空間上となる2つの例が太線、細線で示してある)となる時、又は図5 で示した近傍並行空間上となる時、反射音同士の進行方向は逆方向且つ逆位相、近似的 同音圧であり、また1.5KHz以下の周波数域の指向性は鋭くなく近傍音波はアクテ ィブに消音される。
【0029】
第1室3aの内部において、スピーカ取り付け孔を除くすべての面に吸音材4を備え ることにより、主スピーカ5a背面及び副スピーカ5b背面から放射される1.5KH z以上の中音及び高音の進行方向が天板1b又は内下板2b又は側板方向である時、反 射音は吸音材4により吸音される。
【0030】
副スピーカ5b背面から放射される音が主スピーカ5a背面方向へ直進し主スピーカ 5aの背面へ到達した時、主スピーカ5aの背面で放射される音と位相差が生じる。こ の位相差は周波数が高くなるにしたがって大きくなる。この位相差が起因しスピーカ間 において消音となる位置と増音(2つ以上の音波の干渉により音圧が上がることを表し 、以下増音という)となる位置が存在する。
【0031】
スピーカ間直線距離をA、主スピーカ5aから放射される波長をλとするとA<(λ /2)の時スピーカ間での消音量と増音量の平均は消音となり、A=(λ/2)の時消 音量と増音量は等しく、A>(λ/2)では消音となるとは限らない。よって、高い周 波数まで消音するには主スピーカ5aと副スピーカ5bを可能な限り至近距離に配置す る。
【0032】
副スピーカ5b背面から放射されるスピーカ間で消音となるとは限らないA>(λ/ 2)の中音及び高音が主スピーカ5a背面方向へ直進する時、第1室3aの中心面に中 心面吸音材4aを備えることによりA>(λ/2)の中音及び高音は吸音され、主スピ ーカ5aコーンの背面を振動することを無くすことができる。
【0033】
副スピーカ5b背面から主スピーカ5a背面方向へ放射される音の周波数がA<(λ /2)であって、スピーカ間で消音となる場合でも、音圧は下がるが、主スピーカ5a 背面へ到達し、位相の遅れた音で主スピーカ5aコーンの背面を振動する。この振動を 抑制するため中心面に備える中心面吸音材4aは低い周波数まで吸音効果が及ぶグラス ウール、高機能中綿素材等の吸音材を厚く(t=20mm以上)使用する。
【0034】
本発明による8cmフルレンジ使用の試作機では、スピーカ間の直線距離が11.5 cmであり消音効果のある周波数は低音から1,496Hzまでである。しかし、副ス ピーカ5b背面から放射される直進音が主スピーカ5a背面へ到達した時、主スピーカ 5a背面の音との位相差は例えば700Hzの時85゜であり主スピーカ5aコーンの 背面は位相の遅れた音で振動を受ける。タンデム型スピーカ装置の副スピーカ5bをア クティブ消音スピーカとして使用する場合、消音効果だけでなく外部へ放射する主スピ ーカ5aの音に歪を発生させないことが重要であり、歪を少なくするためには高音から 500Hz(位相差60゜)位までの周波数域を中心面吸音材4aで吸音する。本試作 機では低い周波数まで吸音できる高機能中綿素材を厚く(t=30mm)使用してある 。
【実施例2】
【0035】
図2は本発明の実施例2を示したスピーカ装置の側断面図であり、実施例2の目的は 広い周波数帯域を再生するためのものではなく、再生される周波数帯域が人の音声に限 定され、より明瞭度が要求される構内放送等のPA(パプリック・アドレス)用に適し たスピーカ装置である。なお、実施例1と同一部分は同一符号を付してある。
【0036】
実施例2の構成は実施例1の第1室3aの構成と同様である。
【0037】
主スピーカ5aと副スピーカ5bは同一の物理的・電気的特性を有するスピーカであ って、設置方法及び電気的接続方法は実施例1と同様である。
【0038】
主スピーカ5aと副スピーカ5bを駆動した時、主スピーカ5a前面の空気圧と副ス ピーカ5b前面の空気圧は同圧であり、主スピーカ5a背面から放射される音と、副ス ピーカ5b背面から放射される音は同音圧となる。
【0039】
主スピーカ5a背面から放射される音の反射音が、副スピーカ5bの背面から放射さ れる音の反射音によりアクティブに消音されること、又は、吸音材により吸音されるこ との説明は実施例1に同じであるため省略する。
【0040】
副スピーカ5b背面から主スピーカ5a背面方向へ放射される直進音により主スピー カ5a背面のコーンが振動を受けることを無くす、又は、抑制する説明は実施例1に同 じであるため省略する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施例1を示したスピーカ装置の側断面図である。
【図2】本発明の実施例2を示したスピーカ装置の側断面図である。
【図3】主スピーカ5aと副スピーカ5b及び音声増幅器の接続方法を示した説明 図である。
【図4】反射音同士が同軸空間上で消音される例を示した図である。
【図5】反射音同士が近傍並行空間上で消音される例を示した図である。
【符号の説明】
【0042】
1 エンクロージャー
1a 表バッフル板
1b 天板
1c 地板
1d 裏板
2a 内バッフル板
2b 内下板
3a 第1室
3b 第2室
4 吸音材
4a 中心面吸音材
5a 主スピーカ
5b 副スピーカ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンクロージャー1は表バッフル板1a、天板1b、地板1c、裏板1dと左右側板 (表示せず)で構成された密閉された直方体であって、エンクロージャー1内に表バッ フル板1a、内バッフル板2a、天板1b、内下板2b及び左右側板に囲まれた密閉さ れた直方体である第1室3aと、表バッフル板1a、内バッフル板2a、裏板1d、天 板1b、内下板2b、地板1c及び左右側板に囲まれた密閉されたL字型8面体である 第2室3bが設けられ、第2室3bの容積は第1室3aの容積より大きく形成され、第 1室3aの内部面はスピーカ取り付け孔を除くすべての面に吸音材4が備えられること を特徴とするスピーカ装置。
【請求項2】
第1室3aは中心点において点対称となるよう構成されることを特徴とする請求項1に 記載のスピーカ装置。
【請求項3】
第1室3aの表バッフル板1a又は内バッフル板2aに平行な中心面に中心面吸音材 4aを備えることを特徴とする請求項1又は2記載のスピーカ装置。
【請求項4】
表バッフル板1aに前向きに主スピーカ5aが配置され、内バッフル板2aに同一の 物理的・電気的特性を有する副スピーカ5bを主スピーカ5aの同軸上に限りなく至近 距離に背中合わせに配置されたスピーカ装置において、主スピーカ5aと副スピーカ5 bの電気的接続を逆極で音声増幅器に接続することを特徴とする請求項1〜3のいずれ かに記載のスピーカ装置。
【請求項5】
副スピーカ5bをアクティブ消音スピーカとして機能させることを特徴とする請求項 1〜4のいずれかに記載のスピーカ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−56588(P2010−56588A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−216116(P2008−216116)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【特許番号】特許第4341851号(P4341851)
【特許公報発行日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【出願人】(307038126)
【Fターム(参考)】