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スフィンゴ脂質の製造方法
説明

スフィンゴ脂質の製造方法

【課題】スフィンゴ脂質の製造方法の提供。
【解決手段】米又は大麦などの穀類を原料とし、焼酎麹菌を用いた焼酎の製造において生じる焼酎粕からスフィンゴ脂質を抽出する工程を含む、スフィンゴ脂質の製造方法を提供する。焼酎麹菌として、アスペルギルス・カワチ、アスペルギルス・サイトイ、アスペルギルス・アワモリ、アスペルギルス・ナカザキ、アスペルギルス・ウサミ、アスペルギルス・ルーチェンシス、 アスペリギルス・ニガーなど、あるいはリゾプス属に属する微生物、モナスカス属に属する微生物及びペニシリウム属に属する微生物などが使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼酎粕からスフィンゴ脂質を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スフィンゴ脂質は、長鎖アミノアルコールであるスフィンゴイド塩基を共通成分とする脂質の一群である。スフィンゴ脂質の一種であるセラミドは、皮膚の角質層における主要な脂質成分として存在し、保湿機能を果たすことが知られている。セラミドは加齢とともに不足するため、補填を目的としてスキンケア化粧品の分野で大きな需要がある。
スフィンゴ脂質は脳白質に多く存在し、これまで牛脳から主に採取されてきたが、狂牛病発生のため牛脳からの分離が困難となり、現在は、植物又は微生物由来の新しい供給源が求められている。
【0003】
スフィンゴ脂質の新しい供給源として、すでに酵母や米、大豆、麦などの穀物が利用されている。また、こんにゃくからスフィンゴ脂質の一種であるセラミドを抽出する技術(非特許文献1:A rapid method of total lipid extraction and purification. BLIGH EG, DYER WJ. Can J Biochem Physiol. 1959 Aug;37(8):911-7.)、あるいは、清酒麹菌と味噌麹菌Aspergillus oryzae, Aspergillus sojaeからのスフィンゴ脂質を生産する方法も開発されている(特許文献1:特開2010-154788号公報、特許文献2:特開2010-41972号公報)。
しかしながら、穀物や酵母を含む焼酎粕からのスフィンゴ脂質の存在は明確ではない。
また、クロロホルム・メタノールを使用してスフィンゴ脂質を抽出した後、抽出物を高圧二酸化炭素で洗浄する方法が知られている(特許文献3:特開2003-119492号公報)。また、製麹時間を長くするとともに、湿度を高めてスフィンゴ脂質の量を高める方法も知られている(特許文献4:特開2010-22279号公報)。
しかし、従来の方法では、食用に供するスフィンゴ脂質を製造する場合には使用する有機溶媒に制限があり、また、抽出されたスフィンゴ脂質の処理に高価な機器が必要とされていたため、より簡易な手法によるスフィンゴ脂質の製法の開発が望まれていた。
【0004】
一方、九州では年間数十万トンの焼酎粕が発生している。これまで焼酎粕は海洋投棄されていたが、環境問題への国際的な関心の高まりを受けて海洋汚染防止法の改正に伴い焼酎粕の海洋投棄が禁止されたため、その活用策が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-154788号公報
【特許文献2】特開2010-41972号公報
【特許文献3】特開2003-119492号公報
【特許文献4】特開2010-22279号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】A rapid method of total lipid extraction and purification. BLIGH EG, DYER WJ. Can J Biochem Physiol. 1959 Aug;37(8):911-7.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、焼酎粕から効率良くスフィンゴ脂質を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、焼酎粕中にスフィンゴ脂質が多量に含まれることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1)水分が除去された焼酎粕からスフィンゴ脂質を抽出する工程を含む、スフィンゴ脂質の製造方法。
(2)焼酎粕が、穀類を原料とし、焼酎麹菌を用いた焼酎の製造工程において生じるものである、(1)に記載の方法
(3)穀類が米又は大麦である、(2)に記載の方法。
(4)焼酎麹菌が、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)、アスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・ナカザキ(Aspergillus nakazawai)、アスペルギルス・ウサミ(Aspergillus usamii)、アスペルギルス・ルーチェンシス(Aspergillus luchensis)及び アスペリギルス・ニガー(Aspergillus niger)、並びにRhizopus属に属する微生物、Monuscus属に属する微生物及びPenicillium属に属する微生物からなる群から選択される少なくとも1種である、(2)に記載の方法。
(5)焼酎麹菌を培養し、その培養物から水分を除去し、得られる水分除去品からスフィンゴ脂質を採取する工程を含む、スフィンゴ脂質の製造方法。
(6)焼酎麹菌が、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)、アスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・ナカザキ(Aspergillus nakazawai)、アスペルギルス・ウサミ(Aspergillus usamii)、アスペルギルス・ルーチェンシス(Aspergillus luchensis)及び アスペリギルス・ニガー(Aspergillus niger)、並びにRhizopus属に属する微生物、Monuscus属に属する微生物及びPenicillium属に属する微生物からなる群から選択される少なくとも1種である、(5)に記載の方法。
(7)培養温度が30〜50℃である(5)又は(6)に記載の方法。
(8)培養方法が液体培養又は固体培養である(5)〜(7)のいずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、スフィンゴ脂質の製造方法が提供される。
本発明の方法により、焼酎粕からこれまでに知られているスフィンゴ脂質とは異なるスフィンゴ脂質を抽出することができる。また、本発明においては、焼酎麹菌を培養するだけで新たなスフィンゴ脂質を生産することができる。本発明によれば、安価で人体に無害なエタノールを使ってスフィンゴ脂質を抽出することができ、さらには、温度を高くして麹菌を培養することで、スフィンゴ脂質の生産量を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】焼酎粕スフィンゴ脂質に含まれるスフィンゴ脂質の位置を示す図である。
【図2】他のスフィンゴ脂質源との比較を示す図である。
【図3】焼酎粕スフィンゴ脂質の由来を示す図である。
【図4】麹菌の培養物からスフィンゴ脂質を抽出した結果を示す図である。
【図5】水分を除いてスフィンゴ脂質を抽出した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.概要
本発明は、焼酎粕に新規スフィンゴ脂質が含まれているという知見により完成されたものであり、焼酎粕からスフィンゴ脂質を抽出することを特徴とする。また本発明は、焼酎麹菌を培養することにより、その培養物(水分が除去されたもの)からスフィンゴ脂質を抽出することを特徴とする。
本発明において、スフィンゴ脂質の抽出は所定の有機溶媒を用いて行なうことができるが、その際、焼酎粕原料から水分を除去することを特徴とする。すなわち、焼酎粕原料を遠心等により水分を除き、残った固形部分からスフィンゴ脂質を抽出する。
また、焼酎麹菌により新規スフィンゴ脂質を生産することができる。さらに、この新規スフィンゴ脂質は、焼酎麹由来であることも明らかにした。
本発明において、麹菌からスフィンゴ脂質を製造する場合は、30℃〜50℃、好ましくは30〜45℃、さらに好ましくは40℃で麹菌を培養することを特徴とする。一般的に製麹温度の温度は32〜37℃で行われるため、通常はこれ以上の温度では培養は行なわれない。これに対し、本発明においては、通常の培養温度で培養することもできるが、38℃〜50℃、好ましくは38〜45℃、さらに好ましくは40℃で培養することで、効率良くスフィンゴ脂質を生産することが可能となった。本発明の方法によれば、例えば40℃で培養して得られた培養物から水分を除去した後にスフィンゴ脂質の抽出作業を行うと、単位原料あたり4mgのスフィンゴ脂質を得ることができる。この量は、従来の方法で得られる量と比較して1.2〜1.5倍の量であり、本発明の方法が極めて優れていることを示すものである。
【0012】
焼酎粕にスフィンゴ脂質が含まれているかについて解析した研究例は、これまで見出されていない。そこで本発明においては、焼酎粕の活用策の一環として焼酎粕のスフィンゴ脂質の検出とその量の評価・解析を行った。
常法に従って焼酎粕からスフィンゴ脂質を抽出した後、シリカゲル薄層クロマトグラフィーで展開し、検出を行った。その結果、マーカーとして使用した精製牛脳セレブロシドと似た位置にスポットを検出することができた(図1)。次にその量の評価を行い、乾燥重量として焼酎粕1g中に4.2-6.3 mg のスフィンゴ脂質が含まれることを明らかにした。本結果により、焼酎粕にスフィンゴ脂質が含まれることが初めて明らかになった。
【0013】
2.焼酎粕からのスフィンゴ脂質の製造
本発明の方法で使用される原料は、麹菌を生やして麹にできる穀類や根菜であれば特に制限されるものではなく、例えば米、大麦、小麦、甘藷芋、黒糖、そば、男爵などを使用することができる。特に大麦を使用することが好ましい。
【0014】
製造の対象となるスフィンゴ脂質は、スフィンゴイドに脂肪酸が酸アミド結合したセラミドを共通構造とし、それに糖がグリコシド結合したスフィンゴ糖脂質と燐酸および塩基が結合したスフィンゴ燐脂質とに分類される。本発明において、スフィンゴ脂質としては、特に限定されるものではないが、例えばセラミド、糖結合型スフィンゴ脂質、スフィンゴリン脂質、スフィンゴシン塩基が挙げられ、セラミドが好ましい。
【0015】
本発明の方法に用いることができる麹菌は、スフィンゴ脂質を生産できるものであれば特に限定されるものではなく、アスペルギルス属に属する微生物が挙げられる。
例えば、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)、アスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・ナカザキ(Aspergillus nakazawai)、アスペルギルス・ウサミ(Aspergillus usamii)、アスペルギルス・ルーチェンシス(Aspergillus luchensis)、 アスペリギルス・ニガー(Aspergillus niger)などが挙げられる。
また、本発明において使用できる微生物は、アスペルギルス属に属する微生物に限定されるものではなく、他の属、例えばRhizopus属に属する微生物、Monuscus属に属する微生物及びPenicillium属に属する微生物なども使用することができる。これらの属に属する微生物を以下に例示する。
リゾプス(Rhizopus)属に属する微生物:リゾプス・オリゼー(Rhizopus oryzae)、 リゾプス・オリゴスポラス(Rhizopus oligosporus)、リゾプス・ニヴェウス(Rhizopus niveus)、 リゾプス・ミクロスポラス(Rhizopus microspores)、リゾプス・ストロニファー (Rhizopus stolonifer)など
モナスカス(Monuscus)属に属する微生物:モナスカス・アンカ(Monuscus anka)、モナスカス・パープレウス(Monuscus purpureus)、 モナスカス・ルーバー(Monuscus ruber)、モナスカス・ピロサス(Monuscus pilosus)、 モナスカス・オーランチアクス(Monuscus aurantiacus)、モナスカス・カオリアン(Monuscus kaoliang)など
ペニシリウム(Penicillium)属に属する微生物:ペニシリウム・カマンベルティ(Penicillium camemberti)、ペニシリウム・ロックフォルティ(Penicillium roqueforti)、ペニシリウム・グラウカム(Penicillium glaucum)、 ペニシリウム・カゼイコラム(Penicillium caseicolum)など
本発明においては、これらの麹菌を1種単独で、又は複数種を組み合わせて使用することができるが、アスペルギルス・カワチが好ましい。
【0016】
具体的には、下記の市販品や寄託微生物を使用することができる。
A. kawachii:NRIB SC60
A. saitoi:NRIB2601
A. awamori: NIRB2013
A. nakazawai: NRIB2623
A. usamii:NIRB2004
Rhizopus属に属する微生物、Monuscus属に属する微生物及びPenicillium属に属する微生物は、食品の製造に使われる菌糸型の成長をする真菌という特徴を有することから、上記Aspergillus属菌と同様に本発明においても使用することができる。
【0017】
焼酎は以下の工程により製造される。すなわち、焼酎の麹の原料となる米を洗い、水に浸してさらに蒸す。この蒸米に上記麹菌を加えて麹を製造する。麹は、水及び酵母を混ぜて1〜30日程度寝かせて一次仕込みを行う。これにより一次もろみができる。次に、一次もろみに原料の穀類(大麦、小麦、米、芋等)と水を混ぜ、さらに1〜30日間寝かせて二次仕込みを行う。これにより二次もろみが製造される。一次もろみに混ぜる原料は、麦焼酎を製造する場合は麦を、米焼酎を製造する場合は米を使用する。続いて、二次もろみを単式蒸留器にかけて蒸留を行う。この蒸留工程では、アルコール分を蒸発させてから冷却して液体に戻すことで原酒が製造される。
蒸留によって得られた原酒をろ過により精製し、樽や甕などに貯蔵する。
上記工程において、焼酎粕は蒸留工程で蒸留された二次もろみの残りである。
本発明においては、焼酎の製造工程中の蒸留工程で発生した焼酎粕を使用することができる。
【0018】
焼酎粕には、多くの水分が含まれており、粕が水中に浮遊状態となっているか、あるいは含有率:30〜95%の状態で含水状態となっている。そこで本発明においては、このように多量の水分を含む焼酎粕から実質的に水分を除去する。「水分を除去する」とは、焼酎粕が水に浮遊しない状態であれば多少の水分が含まれていてもよい状態、焼酎粕がペースト状になった状態、あるいは水分が失われて固形又は粉末状の乾燥品となった状態のいずかの状態、すなわち、焼酎粕に含まれる水分含有率が20%以下にすることを意味する。水分を除去する方法は、特に限定されるものではなく、遠心分離、濾過などが挙げられるが、操作が簡易である点で遠心分離が好ましい。遠心分離の条件は、10〜10000×g、好ましくは3,000×gで1〜50分、好ましくは5分である。
このようにして焼酎粕から実質的に水分を除去し、沈殿物を得る。
上記焼酎粕は、そのまま、又は沈殿物にして加熱、スプレードライ又は凍結乾燥若しくは減圧乾燥することにより乾燥してもよい。本発明においては、上記実質的に水分が除去された焼酎粕を「乾燥品」ともいう。
焼酎粕からのスフィンゴ脂質の抽出は、上記焼酎粕の乾燥品を抽出溶媒に溶解して以下の通り行なう。
抽出溶媒は、脂質の抽出に使用するものであれば特に限定されるものではなく、例えばクロロホルム/メタノール抽出液、エタノールなどが挙げられる。食品に供されるスフィンゴ脂質を抽出する場合は、エタノール等で抽出することが好ましい。その後、有機層を除去して抽出脂質を得る。
【0019】
得られた抽出物の分析方法としては、例えば薄層クロマトグラフィーが挙げられる。スフィンゴ脂質は、グルコシルセラミドなどの市販標準品が存在するため、これを対照として分析することができる。市販のシリカゲル薄層プレートを用い、クロロホルム-メタノール系等の溶媒を用いて展開し、オルシノール試薬などを用いて発色させる。これにより、抽出物中のスフィンゴ脂質の定性分析を行うことができる。スフィンゴ脂質の定量分析及び構造解析は、高速液体クロマトグラフィー及び質量分析(LC/MS、GC/MS、HPLC 光散乱検出法)などを適宜組み合わせて行なうことができる。
また、得られたスフィンゴ糖脂質の組成物は、そのまま、凍結乾燥法、スプレードライなどの方法を用いて、固体化、粉末化して用いることができる。
本発明の方法(焼酎粕からの抽出)により得られたスフィンゴ脂質は、セラミド、糖結合型スフィンゴ脂質、スフィンゴリン脂質、スフィンゴシン塩基等であり、その収量は、原料1gあたり2〜8mgである。
【0020】
3.麹菌からのスフィンゴ脂質の製造
本発明においては、焼酎麹菌を培養し、得られる培養物から水を除き、その後、水分除去品からスフィンゴ脂質を採取することを特徴とするスフィンゴ脂質の製造方法も提供する。「培養物」とは、培養された麹菌の菌体、培養上清液、菌体破砕物のいずれをも意味するものである。
麹菌は、前記と同様、以下に示す微生物を、単独で、又は適宜組み合わせて使用することができる。
アスペルギルス(Aspergillus)属に属する微生物:アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)、アスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・ナカザキ(Aspergillus nakazawai)、アスペルギルス・ウサミ(Aspergillus usamii)、アスペルギルス・ルーチェンシス(Aspergillus luchensis)、 アスペリギルス・ニガー(Aspergillus niger)など
リゾプス(Rhizopus)属に属する微生物:リゾプス・オリゼー(Rhizopus oryzae)、 リゾプス・オリゴスポラス(Rhizopus oligosporus)、リゾプス・ニヴェウス(Rhizopus niveus)、 リゾプス・ミクロスポラス(Rhizopus microspores)、リゾプス・ストロニファー (Rhizopus stolonifer)など
モナスカス(Monuscus)属に属する微生物:モナスカス・アンカ(Monuscus anka)、モナスカス・パープレウス(Monuscus purpureus)、 モナスカス・ルーバー(Monuscus ruber)、モナスカス・ピロサス(Monuscus pilosus)、 モナスカス・オーランチアクス(Monuscus aurantiacus)、モナスカス・カオリアン(Monuscus kaoliang)など
ペニシリウム(Penicillium)属に属する微生物:ペニシリウム・カマンベルティ(Penicillium camemberti)、ペニシリウム・ロックフォルティ(Penicillium roqueforti)、ペニシリウム・グラウカム(Penicillium glaucum)、 ペニシリウム・カゼイコラム(Penicillium caseicolum)など
【0021】
麹菌の培養は、固体培養及び液体培養のいずれを採用することもできる。
固体培養の場合は、培地として蒸米や蒸麦などを用い、培養温度は20〜50℃で1日〜5日培養する。本発明においては、培養温度は30℃〜50℃が好ましく、30℃〜45℃がさらに好ましく、40℃が最も好ましい。培養温度が40℃のときの培養期間は、好ましくは1〜20日である。
液体培養の場合は、培地としてmodified Czapek-Dox medium (3% soluble starch or glucose, 0.1% NaNO3, 0.05% KCl, 0.1% KH2PO4, 0.05% MgSO4/7H2O, 0.001% FeSO4, pH 6.0)などを用い、培養温度は20〜50℃で1日〜5日培養する。本発明においては、培養温度は20℃〜50℃が好ましく、35℃〜45℃がさらに好ましく、40℃が最も好ましい。培養温度が40℃のときの培養期間は、好ましくは1〜20日である。
続いて、培養物からスフィンゴ脂質を抽出し、採取する。その際、特に液体培養の場合は培養物を遠心又は濾過することにより適宜濃縮する。これにより、培養物から実質的に水分が除去された水分除去品(乾燥品)を得ることができる。
抽出後のスフィンゴ脂質の分析は、前記の通り薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー及び質量分析(LC/MS、GC/MS、CE-MS MS、HPLC 光散乱検出法)などを適宜組み合わせて行なうことができる。
本発明の方法(麹菌の培養)により得られたスフィンゴ脂質としては、セラミド、糖結合型スフィンゴ脂質、スフィンゴリン脂質、スフィンゴシン塩基等であり、その収量は、原料1gあたり1〜10mgである。
【0022】
4.スフィンゴ脂質及びその用途
本発明の方法によって得られたスフィンゴ脂質は、飲食品、化粧品又は保湿剤の添加物として用いることができ、飲食品、化粧品又は保湿剤の製造工程又は製造後に添加又は配合することにより得ることができる。
このような飲食品は、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品などとして提供される。
【0023】
飲料としては特に制限されず、例えば、茶、紅茶、ウーロン茶、コーヒー、ジュース、スポーツ飲料、牛乳、ヨーグルトなどが挙げられる。
食品としては特に制限されず、例えば、麺類(うどん、そば等)、パン類、菓子類(クッキー、スナック菓子類、煎餅、チョコレート、アイスクリーム、プリン、ゼリー、飴、ガム等)、乳製品(チーズ等)、冷凍食品、魚肉練り製品(ハム、ソーセージ、かまぼこ等)、調味料(味噌、しょう油、ドレッシング、マヨネーズ等)、各種総菜類などが挙げられる。
但し、飲食品は上記例示品に限定されるものではない。
【0024】
また、化粧品としては、ファンデーション、メイクアップ化粧品、パック、クリーム(コールドクリーム、ナイトクリーム、バニシングクリーム、ハイゼニッククリーム、栄養クリーム、ホルモンクリーム、クレンジングクリーム、ハンドクリーム、リップクリーム等)、乳液、化粧水などが挙げられる。
飲食品や化粧品中に含めるスフィンゴ脂質の量は特に限定されるものではないが、例えば300mgあたり1μg〜 100μg、好ましくは30μg〜80μg、さらに好ましくは60μgである。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
試料は大麦焼酎粕を用いた。
焼酎粕を100℃で加熱することにより水分を除去(乾燥)した0.3gの試料(水分含量:0%)を得た。この試料を2.0mlのchloroform/methanol (1:1)で抽出し、2.0mlの0.8M KOH-methanolと混ぜ、42℃で30分incubateし、さらに5mlのchloroformと2.25mlの蒸留水と混ぜて2000rpm, 5min遠心し下層のorganic phaseを取り、これを抽出脂質とした。
抽出されたスフィンゴ脂質を、Silica gel TLCで展開し、orcinol-sulfateで検出した。位置の確認にはスフィンゴ糖脂質の一種である精製牛脳セレブロシドを用いた。
その結果、セレブロシドとほぼ同じ位置にスポットを検出することができ(図1)、得られたスフィンゴ脂質をHPLC (Inertsil SIL 100A 5 μm, 4.6 ( 250 mm; GL science Inc, Japan) chloroform:95%methanol (0min 100:0, 15min 75:25, 20min 10:90, 40min 100:0)で精製し、その主要なピークをBruker ESI-MS/MSのm/z(736.6)及びMS/MS (162.0, 254.3, 416.3, 416.3)によりセレブロシドのひとつであるD-Glucosyl-b-1,1’-N-2-hydroxylpalmitoyl-4,8-sphingadienineと同定した。
【0026】
次にその量の評価を行ったところ、乾燥重量として焼酎粕1g中に4.2-6.3 mgのスフィンゴ脂質が含まれることを明らかにした。
本結果により、焼酎粕にスフィンゴ脂質が含まれることが初めて明らかになり、さらにそれは大豆などこれまで報告されているスフィンゴ脂質源よりも多いスフィンゴ脂質を含んでいることが明らかとなった(図2)。
【0027】
現在スフィンゴ脂質源として利用されている大豆のスフィンゴ脂質含有量は約1.7 mg/gである(cerebroside相当量、Vesper et al., J. Nutrition, 1239-1250, 1999)。従って、焼酎粕には大豆に含まれるスフィンゴ脂質の約3.1倍のスフィンゴ脂質が含まれており、焼酎粕はスフィンゴ脂質の好適な供給源となることが示された。
【実施例2】
【0028】
本実施例では、大麦焼酎粕の原料である麦、麦麹及び焼酎酵母を用いて、大麦焼酎粕における脂質源の探索を行った。
実施例1と同様の方法で麦、麦麹及び焼酎酵母の乾燥試料(水分含量:0%)よりスフィンゴ脂質を抽出し、展開及び検出を行った。なお、麦麹作製の際には焼酎製造に用いられる白麹菌(Aspergillus kawachii)を使用し、焼酎酵母は協会焼酎用酵母2号を用いた。
結果を図3に示す。
図3より、焼酎粕に見られたスフィンゴ脂質はセレブロシドであり、主に麹菌由来であることが判明した。
【実施例3】
【0029】
本実施例は、焼酎麹菌を培養してスフィンゴ脂質を製造した例である。
米または麦にその重さの30%分を吸水させ、30分蒸し、室温まで放冷した後に麹菌(Aspergillus kawachii)を接種して30℃で3日培養した。
培養後、培養物を遠心(3000×g、5分)し、沈殿物を100℃で加熱することにより水分を除去し、乾燥させた。乾燥した0.3gの試料(水分含量:0%)を2.0mlのchloroform/methanol (1:1)で抽出し、2.0mlの0.8M KOH-methanolと混ぜ、42℃で30分incubateし、さらに5mlのchloroformと2.25mlの蒸留水と混ぜて2000rpm, 5min遠心し下層のorganic phaseを取り、これを抽出脂質とした。
抽出されたスフィンゴ脂質を、Silica gel TLCで展開し、orcinol-sulfateで検出した。
位置の確認にはスフィンゴ糖脂質の一種である精製牛脳セレブロシドを用いた。
その結果、セレブロシドと似た位置にスポットを検出することができ(図4)、採取されたスフィンゴ脂質はcerebrosideであることが判明した。
【実施例4】
【0030】
本実施例では、試料は大麦焼酎粕を用いた。
焼酎粕を遠心分離(3000rpm, 5min)で液体と固体に分け、水分含有量を20%にまで低めた。その後エタノールで固体部を5分間撹拌し、1日室温で置いた。エタノール分を乾固しTLC解析に供した。
結果を図5に示す。
図5において、レーン4は水分を除去してからエタノール抽出してエタノール部分を乾固したもの、レーン「大麦焼酎かす」はクロロホルム・メタノールで抽出したものを表す。Rf値5.5付近(赤丸で囲まれた部分)にcerebrosideに相当するバンドが認められた。
図5の結果は、焼酎粕を水分除去し、エタノール抽出することにより効率的にスフィンゴ脂質を抽出できることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、飲食品、化粧品又は保湿剤としての用途を有するスフィンゴ脂質の製造に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分が除去された焼酎粕からスフィンゴ脂質を抽出する工程を含む、スフィンゴ脂質の製造方法。
【請求項2】
焼酎粕が、穀類を原料とし、焼酎麹菌を用いた焼酎の製造工程において生じるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
穀類が米又は大麦である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
焼酎麹菌が、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)、アスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・ナカザキ(Aspergillus nakazawai)、アスペルギルス・ウサミ(Aspergillus usamii)、アスペルギルス・ルーチェンシス(Aspergillus luchensis)及び アスペリギルス・ニガー(Aspergillus niger)、並びにRhizopus属に属する微生物、Monuscus属に属する微生物及びPenicillium属に属する微生物からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
焼酎麹菌を培養し、その培養物から水分を除去し、得られる水分除去品からスフィンゴ脂質を採取する工程を含む、スフィンゴ脂質の製造方法。
【請求項6】
焼酎麹菌が、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)、アスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・ナカザキ(Aspergillus nakazawai)、アスペルギルス・ウサミ(Aspergillus usamii)、アスペルギルス・ルーチェンシス(Aspergillus luchensis)及び アスペリギルス・ニガー(Aspergillus niger)、並びにRhizopus属に属する微生物、Monuscus属に属する微生物及びPenicillium属に属する微生物からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
培養温度が30〜50℃である請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
培養方法が液体培養又は固体培養である請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−228246(P2012−228246A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−90774(P2012−90774)
【出願日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 佐賀大学農学部 生物環境科学科 資源循環生産学コース 「平成22年度卒業研究発表会要旨集」 平成23年2月22日発行、 社団法人日本農芸化学会 「日本農芸化学会2011年度 (平成23年度) 大会講演要旨集」 2011年3月5日発行
【出願人】(504209655)国立大学法人佐賀大学 (176)
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【Fターム(参考)】