説明

スプリンクラ消火設備

【課題】放水開始遅れ等の二次側に空気を封入する予作動式スプリンクラ消火設備の問題点を解消すると共にスプリンクラヘッドの破損による誤作動時の水損も防止できるスプリンクラ消火設備を提供する。
【解決手段】 予作動式スプリンクラ消火設備における警報弁1の二次側に接続される二次側配管3に、常温で液体であり、揮発性を有し、電気絶縁性があり、消火能力のある消火剤11を加圧充填してなることを特徴とする予作動式スプリンクラ消火設備。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプリンクラ消火設備、より詳しくは予作動式スプリンクラ消火設備に関する。
【背景技術】
【0002】
予作動式スプリンクラ消火設備は、火災感知器とスプリンクラヘッドの両方が作動したときに放水を開始する設備である(特許文献1参照)。このような予作動式スプリンクラ消火設備においては、警報弁(流水検知装置)の二次側に接続される二次側配管には、通常、圧縮空気を充填し、その圧力を監視することで二次側配管の漏れやスプリンクラヘッドの破損などがないことを確認している。予作動式スプリンクラ消火設備は、二次側配管内に水が入っていないことや、感知器とスプリンクラヘッドの一方が作動しただけでは放水しないため、破損や誤作動による水損に対して信頼性の高い設備であると言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3099233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、予作動式スプリンクラ消火設備には以下に示すような問題がある。
(a)スプリンクラヘッドが作動した時、二次側配管内の圧縮空気が放出しきるまで水がスプリンクラヘッドから出ないため放水開始が遅れる。
(b)放水開始遅れを低減するため、二次側配管の配管口径に基づいて二次側配管の配管ボリュームの上限が定められる。このため実設備に使用することを考慮すると警報弁や配管の口径が大きくなる。
(c)放水開始が遅れることによる火災拡大に対応するためスプリンクラヘッドの同時開栓個数を湿式スプリンクラ消火設備の1.5倍にする必要がある。このため水源水量が多くなる。
(d)二次側配管に充填する圧縮空気は、水などの液体と比較すると配管ねじ込み部などから漏れやすいため、このような微少な漏れを補うためエアコンプレッサ等の設備が必要である。
(e)下向きのスプリンクラヘッドを使用した場合、耐圧試験時などに通水した水が立ち下がり管に残り、スプリンクラヘッドを外さない限り排出することができず、この残り水と空気の喫水部分が腐食しやすい。
なお、二次側配管に水を充水する充水予作動式流水検知装置とした場合、二次側配管に圧縮空気を封入している予作動式スプリンクラ消火設備の上記のような問題点は解消できるが、外力などによりスプリンクラヘッドが破損した際に二次側配管内の水が放出されるため、僅かな水量とはいえ、電気機器や書類などに悪影響を及ぼす可能性がある。
【0005】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、二次側に空気を封入する予作動式スプリンクラ消火設備が有する放水開始遅れ等の問題点を解消すると共にスプリンクラヘッドの破損による誤作動時の水損も防止できるスプリンクラ消火設備を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明に係るスプリンクラ消火設備は、予作動式スプリンクラ消火設備における警報弁の二次側に接続される二次側配管に、常温で液体であり、揮発性を有し、電気絶縁性があり、消火能力のある消火剤を加圧充填してなることを特徴とするものである。
【0007】
(2)上記(1)に記載のものにおいて、前記消火剤は、炭素数3以上で、フッ素置換が行われているエーテルからなるものであることを特徴とするものである。
【0008】
(3)上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記二次側配管に、調圧弁を介して前記二次側配管に充填した消火剤の圧力よりも高圧で消火剤を充填したボンベを接続して、前記二次側配管内の消火剤の圧力が低下したときに前記ボンベ内の消火剤が二次側配管内に補充されるようにしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明においては、予作動式スプリンクラ消火設備における警報弁の二次側に接続される二次側配管に常温で液体であり、揮発性を有し、電気機器にかかっても電気機器がショートしない程度の、電気絶縁性があり、冷却作用および窒息作用による消火能力のある消火剤を封入したことにより、以下のような効果を奏することができる。
・火災時に放水が開始されるまでの間、消火剤を放出するため放水開始遅れを考慮する必要がない。
・放水開始遅れがないため、流水検知装置、配管などの口径を湿式スプリンクラ消火設備なみに小さくできるので、設備にかかる費用が抑えられる。
・放水開始遅れがないため、スプリンクラヘッドの同時開栓個数を湿式スプリンクラ消火設備と同様に出来、水源水量が少なく出来る。また二次側配管ボリュームの制限がなくなる。
・例えば外力によりスプリンクラヘッドを破損しても、消火剤に電気絶縁性があるので電気機器に悪影響を及ぼさない。また、揮発性を有しているので、書類に消火剤がかかってもすぐ蒸発するため、書類に悪影響を及ぼさない。
・流水検知装置ごとに消火剤を高圧加圧充填したボンベを設置すればよく、空気を封入する場合に必要となるエアコンプレッサが不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施の形態に係るスプリンクラ消火設備の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は本発明の一実施の形態に係る予作動式スプリンクラ消火設備の説明図である。本実施の形態に係る予作動式スプリンクラ消火設備は、警報弁1と、警報弁1の二次側に接続された二次側配管3と、警報弁1の一次側に接続された一次側配管5を備えている。そして、二次側配管3には閉鎖型スプリンクラヘッド7が設けられ、二次側配管3の末端には末端試験弁9が設けられている。そして、二次側配管3には、ドデカフルオロ-2-メチルペンタン-3-オンからなる消火剤11(以下、単に「消火剤11」という)を加圧充填している。また、一次側配管5には消火用水13が充水されている。
【0012】
また、二次側配管3には、二次側配管3から消火剤11が漏れた場合にその漏れ分の消火剤11を補充するための消火剤補充装置15が接続されている。この消火剤補充装置15は、二次側配管3に連通する消火剤補充管17と、消火剤補充管17の途中に設けられた調圧弁19と、消火剤補充管17の末端に接続されると共に消火剤を加圧充填した消火剤ボンベ21とを備えている。消火剤ボンベ21には二次側配管3内の圧力よりも高圧で充填された消火剤が充填されている。
また、消火剤補充管17には上記の機器類の他、逆止弁23、監視圧力低下警報用の圧力スイッチ25、開閉弁27が設けられている。
調圧弁19は、二次側配管3内の圧力を所定圧に設定するものであり、例えば、ボンベ内の消火剤の圧力が4Kg/cm2であった場合、これを1Kg/cm2に減圧して二次側配管3側に供給する。
なお、消火剤補充管17には動作試験を行なったときに充水された水を抜くための排水管29が連結され、この排水管には排水弁31が設けられている。
【0013】
ここで、二次側配管3に充填されるドデカフルオロ-2-メチルペンタン-3-オンからなる消火剤について説明する。
この消火剤は、本発明における(a)常温で液体、(b)沸点が低く(48℃〜80℃)、水と比べて揮発性が高い、(c)電気絶縁性が高い、(d)消火能力がある、という性質を有する消火剤の一例である。
ドデカフルオロ-2-メチルペンタン-3-オンは、CF3CF2C(O)CF(CF32という示性式で表されるフッ素系化学物質である。このフッ素系化学物質は、ODP(オゾン層破壊係数)が0であり、GWP(地球温暖化係数)が1に近く、絶縁性があるなどの物性の他に、沸点が常温帯域の近傍の48℃と低沸点であるため、通常利用される消火水と比べて揮発性が高く速乾性に優れているという物性を有する。本消火剤11は、上記薬剤に限定される必要はなく、上記物性を有した薬剤であれば良い。例えば、炭素数3以上、具体的には炭素数が4〜8程度で、フッ素置換が行われているエーテル等が挙げられる。
【0014】
再び、図1に基づいて本実施の形態の予作動式スプリンクラ消火設備について説明する。
警報弁1には、ピストン室33が設けられ、ピストン室33内の水圧が変化することによってピストン34が移動し、一次側と二次側を閉止したり連通させたりする。ピストン室33の水圧を変化させるための機構として、ピストン室33に一次側配管5の水を充水するための充水管35と、ピストン室33の水を排水するための排水管37とが設けられている。そして、充水管35にはオリフィス36が設けられている。また、排水管37は途中で二本に分岐しており、一方の配管には電磁弁38が設けられ、他方の配管には手動起動弁39が設けられている。分岐した配管は先端側で繋がっており、この繋がった後の配管には放水警報用の圧力スイッチ40が設けられている。
また、警報弁1には、放水警報の圧力スイッチの動作確認をするための試験弁41が設けられている。
【0015】
電磁弁38、放水警報用の圧力スイッチ40、監視圧力低下警報用の圧力スイッチ25、開閉弁27は制御盤43に電気的に接続され、信号の授受や動作制御が行われる。
また、火災感知器45の信号は火災受信機47に送られ、火災受信機47の信号が制御盤43に送られて警報弁1の動作が制御されることになる。
【0016】
以上のように構成された本実施の形態の作動を、監視時、試験時、火災時、誤作動時に分けて説明する。
<監視時>
監視時は、電磁弁38、手動起動弁39は閉じており、警報弁1のピストン室33にはオリフィス36を介して一次側配管5の消火用水13が入り、警報弁1は閉じた状態になっている。また、監視時には、開閉弁27が開いており二次側配管3には消火剤11が所定の圧力で充填されている。
監視時は長期間に亘るため、二次側配管3のいずれかの箇所から充填している消火剤11がもれ、圧力が低下することも考えられるが、このときには調圧弁19を介してボンベ内の消火剤が適宜充填される。
もっとも、充填している消火剤11が液体であることから、従来例の空気等の気体を充填している場合に比較して、消火剤自体が粘性を有しているので、漏れにくい。
【0017】
<試験時>
設備を設置した時に行われる放水試験時には、火災感知器45を加熱するなどして作動させ、その信号により火災受信機47及び制御盤43の動作を経て電磁弁38が開放する。電磁弁38が開放することで、ピストン室33内の水が排出され、ピストン室33の圧力が低下して警報弁1が開放する。警報弁1が開放したことは、放水警報用の圧力スイッチ40で感知され、警報弁1の動作確認、即ち、放水警報の有無の確認ができる。
警報弁1が開放して末端試験弁9を開放すると、一次側配管5内の消火用水13が二次側配管3内に流入する。この時、閉鎖型スプリンクラヘッド7と二次側配管3とを連結する立ち下配管内には消火用水13が充填されるが、その後二次側配管3内には消火剤11が充填される。したがって、放水試験を行った後、立ち下配管に水が残留しても、水との境目には消火剤11が充填されており、錆発生原因となる消火用水13と空気との境目ができなくなるので、従来例の二次側配管3に空気を充填する場合に懸念される錆の発生の心配がない。
【0018】
末端試験弁9を開いて、閉鎖型スプリンクラヘッド1個分のダミー放水を行い、最も遠地点における末端試験弁9に所定圧以上の圧力が出るか否かを調べる。この放水試験の後、電磁弁38を閉じることによりピストン室33内に消火用水13がされ、警報弁1を閉止し、二次側配管3内の水を末端試験弁9の開放によって排水する。その後、末端試験弁9を閉じ、警報弁1のまわりの排水弁31を開けて警報弁1直後の二次側垂直配管3内の消火用水13を排出する。
【0019】
二次側配管3から消火用水13の排水が完了すると、消火剤充填装置15の開閉弁27を開放することで、二次側配管3に消火剤11を充填する。このとき、二次側配管3内の消火剤11の圧力は調圧弁19によって所定の圧力に調整され、その後も維持される。
【0020】
上記の試験は予作動式スプリンクラ消火設備を設置した時に行うものであるが、設備を設置した後の通常の定期点検などにおいては警報弁1を開放すると二次側配管3内に充填している消火剤11が無駄になってしまう。そこで、このような通常の点検時においては、試験弁41を開放して放水警報用の圧力スイッチ40の作動確認を行うようにすればよい。
【0021】
<火災時>
火災が発生すると、試験時で説明したのと同様の作動により、警報弁1が開放する。警報弁1が開放すると、圧力水が二次側へ流入するとともに、放水警報を発する。更に、火災が拡大すると、その熱により閉鎖型スプリンクラヘッド7が開放し、消火剤11が放出される。消火剤11は、ドデカフルオロ-2-メチルペンタン-3-オンからなるものであり、それ自体に消火能力があるので、消火遅れの問題は生じない。
なお、火災を消火するための要素として、(a)熱を奪う、(b)可燃物(燃えるもの)を奪う、(c)酸素を奪う、これら3つに加えて、火災の連鎖反応を断ち切ることが挙げられる。本実施形態の消火剤11は酸素濃度を低下させることに加えて、消火剤11が気化する際に熱を奪い、火災の連鎖を断ち切ることができるため、初期消火には最適であると言える。つまり、予作動式スプリンクラ消火設備の二次側配管3内に消火剤11を充填することで、初期消火の遅れが生じないという消極的な効果ではなく、むしろ初期消火を確実にできるという積極的な効果を奏する。
【0022】
消火剤11の放出が終わった後、消火用水13の放水が開始される。そして、配管内の消火用水13の流水、放出により配管内圧力が降下すると、図示しない圧力空気槽に設けられた圧力スイッチが動作し、ポンプ起動用信号をポンプ制御盤に送り、該制御盤によりポンプが運転され、引き続いて放水消火される。
また、放水中は監視圧より高圧の消火用水13が流れているが、逆止弁23によって消火用水13が消火剤補充装置側に流入するのを防止できる。さらに、調圧弁19を設けているため、監視圧より高圧の消火用水13が流れている放水中においては、消火剤11が必要以上に二次側配管3側に流出するのを防止できる。
【0023】
<誤作動時>
例えば、スプリンクラヘッドが物理的な衝撃を受けて開放したような場合には、二次側配管3に充填されている消火剤11が放出されることになる。しかし、放出される消火剤11がドデカフルオロ-2-メチルペンタン-3-オンからなるものであり、水損の心配はない。
なお、このような誤作動の場合には、監視圧力低下警報用圧力スイッチの動作により、この信号を受けた制御盤43からの信号で開閉弁27を閉止するようにすることで、消火剤11が無駄になるのを防止できる。
【0024】
以上のように、本実施の形態によれば、二次側配管3内に消火能力のある消火剤11を充填し、初期消火時にこの消火能力のある消火剤11を放出するようにしたので放水開始遅れを考慮する必要がなく、このため警報弁1、配管などの口径を湿式スプリンクラ消火設備なみに小さくでき、またスプリンクラヘッドの同時開栓個数を湿式スプリンクラ消火設備と同様に出来るので水源水量が少なく出来る。
他方、外力によりスプリンクラヘッドを破損しても、充水式の場合のように電気機器や書類に悪影響を及ぼすことはない。
上記のような優れた効果は、消火剤11そのものが有している効果ではなく、消火剤11の有している効果に起因しているが、このような性質の消火剤11を予作動式スプリンクラ消火設備の二次側配管3にのみ充填するという構成によるものである。
【0025】
なお、上記の実施の形態で説明した消火剤ボンベ21は警報弁1ごとに設けてもよいし、消火剤ボンベ数台を1箇所にまとめて全ての警報弁1で共用するようにしてもよい。
【0026】
また、上記の実施の形態で説明した消火剤ボンベ内の消火剤は、点検時に残存量を確認し、残存量が僅かであればボンベごと交換するようにすればよい。
【符号の説明】
【0027】
1 警報弁
3 二次側配管
5 一次側配管
7 閉鎖型スプリンクラヘッド
9 末端試験弁
11 消火剤
13 消火用水
15 消火剤補充装置
17 消火剤補充管
19 調圧弁
21 消火剤ボンベ
23 逆止弁
25 監視圧力低下警報用の圧力スイッチ
27 開閉弁
29 排水管
31 排水弁
33 ピストン室
34 ピストン
35 充水管
36 オリフィス
37 排水管
38 電磁弁
39 手動起動弁
40 放水警報用の圧力スイッチ
41 試験弁
43 制御盤
45 火災感知器
47 火災受信機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予作動式スプリンクラ消火設備における警報弁の二次側に接続される二次側配管に、常温で液体であり、揮発性が高く、電気絶縁性があり、消火能力のある消火剤を加圧充填してなることを特徴とする予作動式スプリンクラ消火設備。
【請求項2】
前記消火剤は、炭素数3以上で、フッ素置換が行われているエーテルからなるものであることを特徴とする請求項1に記載の予作動式スプリンクラ消火設備。
【請求項3】
前記二次側配管に、調圧弁を介して前記二次側配管に充填した消火剤の圧力よりも高圧で消火剤を充填したボンベを接続して、前記二次側配管内の消火剤の圧力が低下したときに前記ボンベ内の消火剤が二次側配管内に補充されるようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の予作動式スプリンクラ消火設備。

【図1】
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【公開番号】特開2010−183999(P2010−183999A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29326(P2009−29326)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000233826)能美防災株式会社 (918)
【Fターム(参考)】