説明

スプレー塗装システムおよびマスキング冶具

【課題】 塗装工程にて使用されるマスキング冶具の数量を低減することができ、塗装領域とマスキング領域の間の見切りを鮮明なものに仕上げることができるスプレー塗装システムおよびマスキング冶具を提供する。
【解決手段】 被塗装体7を搬送可能な搬送手段2と、該被塗装体7の塗装面にマスキング冶具6を載置可能な載置手段3と、スプレー塗装手段4と、スプレー塗装後のマスキング冶具6を回収して洗浄する洗浄手段5とからスプレー塗装システム1が構成される。マスキング冶具6は洗浄後に再利用される。また、マスキング冶具6は磁性を有する弾性材をその構成要素としており、磁性を有する被塗装体7または搬送ベルト22または回転軸体21と相互に引き付け合うことができる。さらに、マスキング冶具6は被塗装体7と垂直ではない角度で交わる境界を塗装領域とマスキング領域の境界とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプレー塗装システムおよび該スプレー塗装システムに使用されるマスキング冶具に関するものであり、特に所定数のマスキング冶具にて連続的なスプレー塗装を実現することができ、塗装領域とマスキング領域の間の見切りを鮮明なものに仕上げることができるスプレー塗装システムおよびマスキング冶具に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークなどの被塗装体の塗装面に所定形状のスプレー塗装を行う際には、マスキング冶具を使用するのが一般的である。例えば、フィルム状のワークの場合には、ワークの連続搬送中にフィルム塗装面に複数のマスキング冶具が載置され、スプレー塗装を施された後にマスキング冶具をフィルム塗装面から取り外し、該塗装面は乾燥処理されることとなる。
【0003】
例えばフィルム状のワーク塗装面にマスキング冶具を載置してスプレー塗装する場合に問題となるのは、一つには所定形状の塗装領域を備えたマスキング冶具における塗装領域とマスキング領域の間の見切りが、マスキング冶具へのスプレーの回りこみによって不鮮明となってしまうということである。また、他の一つには、ワーク塗装面へのマスキング冶具の固定が不十分な場合には、該マスキング冶具がずれることにより所望箇所に塗装が行われなくなってしまうということである。特にフィルム状のワークのように連続的な塗装を実現するためにはワーク塗装面へのマスキング冶具の固定度が強固過ぎても塗装後の該マスキング冶具の取り外しが効率良く行われなくなることから、容易に取り外しが可能であるということも重要な要素となってくる。さらに、他の一つには、一連の生産ラインにてスプレー塗装を施す際に、多数のマスキング冶具を必要とするため、結果としてスプレー塗装に要するコスト高が招来されることである。
【0004】
上記する問題のうち、スプレー塗装の際に多数のマスキング冶具を使用することを解消するために、マスキング冶具の回動経路中に洗浄手段を設けてなる塗装装置に関する発明が特許文献1に開示されている。かかる塗装装置を使用することにより、所定数のマスキング冶具のみを使用することでワークへの連続塗装を実現することが可能となる。
また、特許文献2においては、粉体塗装のための塗装装置に関する発明が開示されており、かかる塗装装置によれば、マスキング冶具に付着した塗料をエアーブローにて飛ばした後に該マスキング冶具を再利用することが可能となる。
【0005】
また、特許文献3には、搬送ベルト上に載置された被塗装体である薄膜とマスキングベルトが搬送ベルト上で移動しないような液体塗布装置に関する発明が開示されている。すなわち、支持台上に設けられた複数の凸部と、その上の搬送ベルトとによって負圧室を形成し、該負圧室を負圧にすることにより搬送ベルトに設けられた細孔を介して該搬送ベルト上の薄膜およびマスキングベルトを吸引固定するものである。
【0006】
また、特許文献4には、薄膜の位置に応じてマスキングプレートの位置を移動させることにより、薄膜の所望位置に塗装することのできる液体塗布装置に関する発明が開示されている。マスキングプレートは薄膜位置検出センサに連動制御されており、センサの検知結果に応じて移動する構成としたものである。
【0007】
【特許文献1】実開昭64−12671号公報
【特許文献2】特開平11−253848号公報
【特許文献3】特開2001−70863号公報
【特許文献4】特開2002−166215号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の塗装装置によれば、マスキング冶具の回動経路中に設けられた洗浄手段により、所定数のマスキング冶具のみを使用することでワークへの連続塗装を実現することが可能となる。しかし、かかる塗装装置はワークが単品である場合を対象としており、搬入コンベアから搬入してきた単品ワークを回転可能なテーブル上に載置すること、および塗装後のワークを搬出コンベア上へ載置することをマニピュレータにて行う構成であり、例えばフィルム状のワーク塗装面に連続塗装をする場合などには対応することができないものと考えられる。したがって、かかる装置では、フィルム状のワーク塗装面の塗装に際して、塗装領域とマスキング領域との間の見切りを鮮明に仕上げることは極めて難しい。
【0009】
また、特許文献2の塗装装置によれば、マスキング冶具に付着した塗料をエアーブローにて飛ばした後に該マスキング冶具を再利用することが可能となる。しかし、かかるマスキング冶具の再利用については、生産ラインの中で塗装後のマスキング冶具の回収から洗浄、再利用までの流れが不明であり、仮にかかる一連の作業が、開示されるロボット装置などを使用してなされるものとすれば、生産ライン、中でも塗装ラインの効率的な流れを実現することは困難であると考えられ、歩留まりの低下が懸念される。さらに、かかる塗装装置においても塗装領域とマスキング領域との間の見切りの鮮明な仕上げに関しては難しいものと考えられる。
【0010】
また、特許文献3の塗装装置によれば、薄膜およびマスキングベルトをその下方の搬送ベルト下に形成された負圧室によって吸引固定するため、薄膜への塗装に際して、該薄膜およびマスキングベルトを確実に固定することができる。しかし、負圧室の形成は、支持台上に多数の凸部を形成すること、適度の負圧状態を維持するための負圧制御の必要性と負圧形成および負圧制御のための設備を要することなど、塗装工程における装置の製作コスト高の問題や、負圧管理などの作業手間を要するといった問題などがある。さらに、マスキングベルトの洗浄に関しては、開示される構成を勘案すると極めて困難なものと考えられ、マスキングベルトに塗装堆積物が蓄積する可能性が高く、したがって塗装の品質(塗装領域とマスキング領域との間の見切りの鮮明さ)の低下が懸念される。
【0011】
さらに、特許文献4の液体塗布装置によれば、薄膜の位置に応じてマスキングプレートを適宜の位置に移動させることができるため、薄膜の所望位置の塗装が可能となる。しかし、マスキングプレートを薄膜位置検出センサに連動制御させる構成であるため、塗布装置製作コストが嵩むといった問題がある。また、特許文献3に開示の塗装装置と同様にかかる液体塗布装置においても、その構成からマスキングプレートの洗浄が困難であり、したがって塗装の品質が懸念される。
【0012】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、塗装工程において使用されるマスキング冶具の数量を極力低減することのできるスプレー塗装システムを提供することを目的とする。また、例えばシート状のワーク塗装面の所望位置に確実にマスキング冶具を載置できるとともに、初期の載置位置から該マスキング冶具がずれることのないマスキング冶具およびスプレー塗装システムを提供することを目的とする。さらに、ワークの塗装領域とマスキング領域との境界の見切りを鮮明に仕上げることのできるスプレー塗装システムおよびマスキング冶具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成すべく、本発明によるスプレー塗装システムは、スプレー塗装される被塗装体を搬送可能な搬送手段と、該被塗装体の塗装面にマスキング冶具を載置可能な載置手段と、スプレー塗装手段と、スプレー塗装後のマスキング冶具を回収して洗浄する洗浄手段と、からなるスプレー塗装システムであって、前記洗浄手段によって洗浄された前記マスキング冶具を前記載置手段によって前記被塗装体の塗装面に載置することにより該マスキング冶具の繰り返し利用を可能としたことを特徴とする。
【0014】
上記システムでは、搬送手段によって搬送されてきた被塗装体の塗装面に、マスキング冶具の載置手段(例えば磁石を備えたマニピュレータや人力)によって該マスキング冶具を例えば適宜の間隔で載置する。マスキング冶具を載置した状態で搬送される被塗装体が、スプレー塗装ノズルまたはスプレーガンなどからなるスプレー塗装手段直下に位置した際に一時的に搬送手段は停止し、スプレー塗装が開始される。なお、塗装領域の大きさと一度にスプレー塗装できる塗装面積などとの調整により、搬送ベルトの停止を不要とすることもできる。スプレー塗装が終了すると搬送手段が始動し、塗装済みの被塗装体(の部分)およびスプレーを吹き付けられたマスキング冶具は、適宜の位置まで移動した後に、該搬送ベルトに並行するように設けられた洗浄用の搬送ベルトに移動させられる。かかる移動は、上記と同様に、磁石を備えたマニピュレータなど適宜の装置で移動できる他、人力でも行うことができる。洗浄用の搬送ベルトは、上記搬送手段の搬送方向と反対方向、すなわちマスキング冶具が搬送されてきた方向へ戻るように該マスキング冶具を搬送する。マスキング冶具は搬送途中で洗浄されて付着した塗装を洗い流すことができ、必要に応じて洗浄後の乾燥も行うことができる。洗浄または乾燥されたマスキング冶具は、載置手段によって再度搬送手段に戻されて再利用される。
【0015】
使用されたマスキング冶具を洗浄、乾燥させて再利用するシステムとすることにより、極めて少ない数量のマスキング冶具によって連続したスプレー塗装を実現することが可能となり、塗装ラインにおけるコストの低減化を実現することができる。さらには、マスキング冶具を洗浄することで、マスキング冶具のうち、マスキング領域と塗装領域との境界を画する箇所にスプレー塗装液の堆積物が残ることもなく、したがってマスキング領域と塗装領域との境界の見切りも鮮明なものとすることができる。
【0016】
また、本発明によるスプレー塗装システムの好ましい実施形態は、前記マスキング冶具および前記被塗装体が磁性を有していることを特徴とする。
【0017】
マスキング冶具は磁性を有する材質、例えばプラスチック磁石などから製作できる。また、例えばフィルム状の被塗装体を使用する場合に、該被洗浄体も磁性を有していることにより、マスキング冶具が直接被塗装体に引き付けられて密着することができる。したがって、上記する載置手段によって被塗装体の塗装面の適宜位置にマスキング冶具が載置された後は、搬送ベルトの移動時にもマスキング冶具はずれることなく所期の載置位置に載置し続けることができる。さらに、システムの構成要素(マスキング冶具や被塗装体)が備えた固有の特性である磁性によってマスキング冶具が被塗装体に引き付けてられているため、上記引用文献のように負圧室の形成および負圧の管理制御の必要もなく、さらには磁性による引き付け合いであることからマスキング冶具は適度の強さで被塗装体に密着することができ、スプレー塗装後にマニピュレータ等で該マスキング冶具を容易に取り外すことができる。
【0018】
また、本発明によるスプレー塗装システムの好ましい実施形態として、前記搬送手段は、前記被塗装体の搬送方向に所定間隔を置いて設けられた複数の回転軸体と、該回転軸体上を移動可能な搬送ベルトと、からなり、該回転軸体および/または該搬送ベルトおよび前記マスキング冶具が磁性を有していることを特徴とする。
【0019】
例えば、被塗装体が磁性を有していない場合において、搬送手段を構成する搬送ベルトや該搬送ベルトを移動させるための回転軸体が磁性を有していることにより、磁性を有するマスキング冶具を被塗装体に密着させることができる。ここで、搬送ベルトは、例えばマグネットゴムなどから製作することができる。また回転軸体はフェライト系の磁石やプラスチック磁石など適宜の磁石(材質)から製作できる。なお、搬送手段の構成部材が磁性を有している場合に、搬送される被塗装体も同様に磁性を有している場合があることは勿論のことである。
【0020】
また、本発明によるマスキング冶具は、前記スプレー塗装システムに使用される前記マスキング冶具であって、前記マスキング冶具は、該マスキング冶具に所要の剛性を付与するための第一部材と、該第一部材の一側面に備えられ、マスキング領域と塗装領域とを画する第二部材と、からなり、前記第二部材は磁性を有する弾性材からなることを特徴とする。
【0021】
マスキング冶具は、例えば鋼製材料やプラスチック製材料などからなるプレート状の第一部材と、該第一部材の一側面に接着等された弾性材である第二部材とから構成される。かかる弾性材は、適宜の弾力性を備えるとともに磁性を有した部材であり、例えばマグネットゴムなどから製作することで経済的にかかる所望特性を得ることができる。
【0022】
第一部材は、マスキング冶具全体の剛性を確保するための部材であり、上記で例示する材質などから製作されることにより、塗装領域の所望形状を確保することができる。一方、弾性材からなる第二部材は、該マスキング冶具によって形成されるマスキング領域と適宜の塗装形状の塗装領域とを画するとともに、該マスキング冶具を例えばフィルム状の被塗装体に確実に密着させるための部材である。
【0023】
ここで弾性材を使用する目的は、被塗装体の塗装面に微視的な凹凸が存在している場合でも、マスキング冶具と被塗装体との当接面に隙間が生じないように該弾性材がかかる凹凸に変形追従しながら隙間の発生を防止するためである。また、かかる弾性材が磁性を有していることにより、スプレー塗装システム内に備えられた適宜の磁性を有する部材(搬送ベルトや回転軸体、被塗装体)に該マスキング冶具が引き付けられることで、被塗装体上の適宜の位置からずれることなく塗装を行うことが可能となる。また、弾性材(第二部材)が適度の剛性を備えた第一部材に接着されているため、少なくともスプレー塗装の際には弾性材はその所期形状を確保することができ、したがって所望形状のスプレー塗装を行うことができる。
【0024】
また、本発明によるマスキング冶具のより好ましい実施形態として、前記第二部材は、マスキング領域と塗装領域との境界から前記第一部材との接続部に向かって末広がりに成形されている部分を備えていることを特徴とする。
【0025】
第二部材は第一部材の一側面に接着されて(塗装時は、第一部材と被塗装体との間に配置される)、マスキング領域と塗装領域とを画する部材である。ここで、例えば板状の第一部材の一側面に薄厚の弾性材(第二部材)が接着された実施形態において、該第一部材の外郭線の外側に塗装領域が形成される場合を想定してみる。この場合、上記する「マスキング領域と塗装領域との境界から前記第一部材との接続部に向かって末広がりに成形されている部分」とは、第一部材の外郭線から被塗装体の塗装面に向かって除々に外郭線の外側へ広がるように形成された部分を意味する。末広がりの形状としては、テーパー状のほか、滑らかな曲線形状であってフラットな被塗装体の塗装面に除々に漸近していくような形状など適宜の形状を選定できる。
【0026】
第二部材が弾性材であることから、その変形特性によって第二部材は被塗装体の塗装面の凹凸にも対応しながら密着することができ(したがって隙間の発生を防止でき)、したがってスプレー塗装時にスプレーが被塗装体とマスキング冶具の間に回りこむことを防止することでマスキング領域と塗装領域との間の見切りを鮮明なものに仕上げることができる。また、従来のマスキング冶具のように該マスキング冶具の肉厚面が塗装面と垂直に交わる場合には、スプレー塗装の特性として塗装形状が所望の形状よりも若干小さくなることが経験的に確かめられている。かかる観点から、例えばテーパー状の末広がりに成形されている部分が垂直ではない角度で塗装面と交わることにより、所望の塗装形状を実現することが可能となる。
【0027】
さらに、本発明によるマスキング冶具の他の実施形態において、前記第一部材は塗装領域を構成するための開口を備えた板材からなり、前記第二部材の前記末広がりに成形されている部分が前記開口を囲繞するように形成されていることを特徴とする。
【0028】
例えば、円形や矩形といった適宜の形状の塗装領域を形成する場合の実施形態であり、かかる適宜の塗装形状を備えた開口を有する板材からなる第一部材を使用する。この場合、第二部材のうち、マスキング領域と塗装領域との境界から前記第一部材との接続部に向かって末広がりに成形されている部分はかかる開口を囲繞するように成形されて第一部材に接着される。例えば円形の塗装領域を形成する場合は、第一部材はその中央に塗装される円形よりも若干大径の円形開口を備えており、かかる円形開口の輪郭線から円形の中心へ向かって傾斜するようなテーパー状の部分(末広がりに成形されている部分)を備えた第二部材が第一部材に接着され、該テーパー状の部分が被塗装体の塗装面と当接してなる輪郭形状が所望径を有する円形となるように構成される。
【発明の効果】
【0029】
以上の説明から理解できるように、本発明のスプレー塗装システムによれば、スプレーを吹き付けられたマスキング冶具を効率的に洗浄、乾燥しながら被塗装体の搬送ベルトへ戻す構成であるため、塗装工程において使用されるマスキング冶具の数量を極力低減することができる。また、かかるマスキング冶具の洗浄により、マスキング冶具のうち、マスキング領域と塗装領域との間を画する箇所にスプレー塗装液の堆積物が残ることもなく、したがってマスキング領域と塗装領域との境界の見切りも鮮明なものに仕上げることができる。また、本発明のスプレー塗装システムおよびマスキング冶具によれば、該マスキング冶具を被塗装体の塗装面上の所望位置に取り外し可能な適度の強さで載置させ続けることができる。さらに本発明のマスキング冶具によれば、マスキング冶具と被塗装体との間の隙間の発生を防止することができ、マスキング領域と塗装領域との境界の見切りを鮮明なものに仕上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明のスプレー塗装システムの概略構成を示した斜視図であり、図2は、図1のII部分の拡大図である。図3は、本発明のマスキング冶具と従来のマスキング冶具を使用してスプレー塗装する場合を比較した説明図であり、図3aは図2のIII−III矢視断面を、図3bは従来のマスキング冶具の断面をそれぞれ示している。なお、図示するマスキング冶具は板材の中央に矩形の開口を有する実施形態を示したものであるが、マスキング冶具の形状および開口形状がかかる実施形態に拘束されるものではないことは勿論のことである。また、搬送ベルトからマスキング冶具を回収する際と洗浄(または乾燥)後にマスキング冶具を搬送ベルトへ戻す際に、図示では磁石付きのマニピュレータを使用することとしているが、その他の装置手段や人力にて行うこともできる。さらには、洗浄手段も図示するような洗浄ノズルなど以外に人手による洗浄なども可能である。
【0031】
スプレー塗装システム1は、図1に示すように、被塗装体7を搬送する搬送手段2と、スプレー配管およびスプレーノズルなどから構成されるスプレー塗装手段4と、洗浄配管および洗浄ノズル53などからなる洗浄手段5と、洗浄後(または、洗浄および乾燥後)のマスキング冶具6を再度搬送手段2へ戻すための載置手段3と、から主に構成されている。なお、使用するマスキング冶具6は、後述するように磁性を有した弾性体を備えている。
【0032】
搬送手段2は、搬送方向に所定間隔を置いて設けられた複数の回転軸体21,21,…と、該回転軸体21によって回転往復する搬送ベルト22から構成される。また、洗浄手段5は、塗装されたマスキング冶具6を回収するためのマニピュレータ51(該マニピュレータ51の先端にはマスキング冶具6を回収可能な磁石52が取り付けられている)と、回収後のマスキング冶具6を搬送するための回転軸体55および搬送ベルト54と、搬送途中で洗浄する洗浄ノズル53(および洗浄配管)から構成される。さらに、載置手段3も上記と同様にその先端に磁石32を取り付けられたマニピュレータ31から構成される。
【0033】
図1は、被塗装体7としてロール巻きにされた薄膜シートの表面に矩形のスプレー塗装を行っている実施形態を示したものであるが、回転軸体21,21,…の回転によって搬送ベルト22がY方向に移動し、かかる搬送ベルト22の移動に伴ってロールがX方向に回転しながら搬送ベルト22上をY方向に移動(搬送)される。被塗装体7が磁性を有している場合は、かかる被塗装体7とマスキング冶具6とがともに引き付け合うことができ、搬送ベルト22の移動時にもマスキング冶具6はずれることなく所期の載置位置に載置し続けることができる。なお、図示する実施形態では、ロール巻きされた被塗装体7は受け脚23,23間の棒体に遊嵌されている。搬送中の被塗装体7の表面に所定間隔で矩形のスプレー塗装を連続して行う場合には、所定間隔を置いてマスキング冶具6,6,…が被塗装体7の表面に載置される。被塗装体7が搬送途中の適宜位置に到達すると、スプレー塗装手段4のスプレーノズルからスプレーが吐出される。塗装領域への塗装が完了し、更に所定位置までマスキング冶具6が搬送されると、マスキング冶具6は先端に磁石52を備えたマニピュレータ51によって被塗装体7の表面から回収され、該マニピュレータ51は図中のW方向に回転して搬送ベルト54上に載置される。ここで、搬送ベルト54は、搬送ベルト22と逆方向に回転往復しており、載置後のマスキング冶具6は図中のZ方向へ搬送される。なお、マスキング冶具6が回収されることで、所定間隔を置いて、所望形状(図中では矩形)の塗装部8が形成される。
【0034】
マスキング冶具6がZ方向へ搬送されて適宜位置に到達すると、洗浄ノズル53から高圧水が吐出され、マスキング冶具6の表面に付着したスプレー塗装を洗い流す。スプレー塗装を充分に洗い流すためには、付着したスプレー塗装が乾燥する前に洗浄するのが好ましい。したがって、スプレーの乾燥速度に応じて搬送ベルト22,54の移動速度などが決定される。なお、図1には図示していないが、洗浄後に強制的にマスキング冶具6を乾燥するための送風機などを設置してもよい。
【0035】
洗浄(および乾燥)後のマスキング冶具6は、マニピュレータ31(の先端に備えられた磁石32)によって搬送ベルト54から回収され、該マニピュレータ31はW方向に回転してマスキング冶具6を再び搬送ベルト22上に載置する。
【0036】
上記するようなマスキング冶具6の一連の流れを実現することで、所定数のマスキング冶具6,6,…のみで連続スプレー塗装を行うことが可能となる。
【0037】
上記するようにマスキング冶具6は磁性を有しているが、かかるマスキング冶具6が搬送ベルト22上でずれることなく載置し続けるために、搬送ベルト22または回転軸体21はマスキング冶具6を引き付けるための磁性を有した材質で製作されるのがよい。搬送ベルト22はマグネットゴムなどから、回転軸体21はプラスチック磁石などから製作することができる。尤も、搬送ベルト22と回転軸体21の双方が磁性を有した構成であってもよい。
【0038】
図2は、本発明のマスキング冶具6を示したものである。マスキング冶具6は、適度の剛性を有し、開口61a1を備えた第一部材61(板材61a)と、板材61aの下面に接着された弾性材からなる第二部材62とから構成される。第二部材62は、被塗装体7の表面から板材61aとの接合部までテーパー状に広がる部分(末広がりに成形されている部分621)を備えており、本実施形態においては、かかる末広がりに成形されている部分621が開口61a1を囲繞するように形成されている。かかる末広がりに成形されている部分621によって、塗装領域Pとマスキング領域Mとを画する境界Bが形成される。第一部材は鋼製材料やプラスチック製材料などから、第二部材はマグネットゴムなどからそれぞれ製作することができる。
【0039】
また、図示するようにマスキング冶具6の中央には、マスキング冶具6を載置する際の位置決め用の基準となる切り込み63,63を刻設しておくことで、該切り込み63,63を被塗装体7のセンターラインに合わせて載置することができる。
【0040】
次に、図3の説明図をもとに、本発明のマスキング冶具6を使用した場合と従来のマスキング冶具を使用した場合における、塗装領域Pとマスキング領域Mとの境界Bの見切りの鮮明度の相違を比較する。
【0041】
図3aは本発明のマスキング冶具6を使用した場合を示している。本発明のマスキング冶具6は、第一部材61(板材61a)の下面に弾性材からなる第二部材62を備えているため、例えば被塗装体7の塗装面に微視的な凸部Uが存在する場合でもかかる第二部材62が変形することで凸部Uを吸収でき、したがってマスキング冶具6は塗装面に確実に密着することができる。したがって、境界Bの見切りを極めて鮮明なものに仕上げることができる。さらに、第二部材62は末広がりに成形されている部分621を備えているため、マスキング冶具の開口内空面が塗装面に垂直に接する場合(図3bの従来例)に比べて正確な所望形状のスプレー塗装を実現することができる。
【0042】
一方、図3bに示す従来のマスキング冶具によれば、塗装面に微視的であれ凸部Uが存在することにより、マスキング冶具は塗装面と密着することができない。したがって、搬送ベルトの移動に伴ってマスキング冶具自体がずれてしまう可能性が極めて高い。さらに、図示するようにスプレー塗装時に、マスキング冶具と塗装面との間の隙間にスプレー塗装が入り込んでしまうため(図中のX方向)、塗装領域Pとマスキング領域Mとの境界の見切りはぼやけてしまうこととなり、したがって仕上がり品質が好ましくないものとなる可能性は高いと考えられる。
【0043】
以上のように、本発明のマスキング冶具6を使用することにより、適宜の剛性を備えた第一部材61によって所望形状の塗装領域Pを確保することができ、第二部材62によって塗装面に微視的凹凸が存在した場合でも確実に該塗装面に密着することができ、したがって塗装領域Pとマスキング領域Mとの境界Bの見切りを極めて鮮明なものに仕上げることができる。また、第二部材62はさらに磁性を有しており、磁性を有した被塗装体7または搬送ベルト22または回転軸体21と引き付け合うことができるため、位置決め後に載置された後はスプレー塗装後に回収されるまでずれることなく初期位置に載置し続けることができる。
【0044】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明のスプレー塗装システムの概略構成を示した斜視図。
【図2】図1のII部分の拡大図。
【図3】(a)は図2のIII−III矢視断面において、スプレー塗装を行っている状況を示した説明図。(b)は従来のマスキング冶具の断面を示したもので、スプレー塗装を行っている状況を示した説明図。
【符号の説明】
【0046】
1…スプレー塗装システム、2…搬送手段、3…載置手段、4…スプレー塗装手段、5…洗浄手段、6…マスキング冶具、7…被塗装体、21…回転軸体、22…搬送ベルト、61…第一部材、62…第二部材、61a…板材、61a1…開口、621…末広がりに成形されている部分、M…マスキング領域、P…塗装領域、B…境界、U…凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプレー塗装される被塗装体を搬送可能な搬送手段と、該被塗装体の塗装面にマスキング冶具を載置可能な載置手段と、スプレー塗装手段と、スプレー塗装後のマスキング冶具を回収して洗浄する洗浄手段と、からなるスプレー塗装システムであって、前記洗浄手段によって洗浄された前記マスキング冶具を前記載置手段によって前記被塗装体の塗装面に載置することにより該マスキング冶具の繰り返し利用を可能としたことを特徴とする、スプレー塗装システム。
【請求項2】
前記マスキング冶具および前記被塗装体が磁性を有していることを特徴とする、請求項1に記載のスプレー塗装システム。
【請求項3】
前記搬送手段は、前記被塗装体の搬送方向に所定間隔を置いて設けられた複数の回転軸体と、該回転軸体上を移動可能な搬送ベルトと、からなり、該回転軸体および/または該搬送ベルトおよび前記マスキング冶具が磁性を有していることを特徴とする、請求項1または2に記載のスプレー塗装システム。
【請求項4】
請求項2または3に記載の前記マスキング冶具は、該マスキング冶具に所要の剛性を付与するための第一部材と、該第一部材の一側面に備えられ、マスキング領域と塗装領域とを画する第二部材と、からなり、前記第二部材は磁性を有する弾性材からなることを特徴とする、マスキング冶具。
【請求項5】
前記第二部材は、マスキング領域と塗装領域との境界から前記第一部材との接続部に向かって末広がりに成形されている部分を備えていることを特徴とする、請求項4に記載のマスキング冶具。
【請求項6】
前記第一部材は塗装領域を構成するための開口を備えた板材からなり、前記第二部材の前記末広がりに成形されている部分が前記開口を囲繞するように形成されていることを特徴とする、請求項5に記載のマスキング冶具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−7071(P2006−7071A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−186645(P2004−186645)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】