説明

スプレー機構およびスプレー機構群

【課題】噴出される流体の原料の利用効率の向上を図る。
【解決手段】噴出口13から噴出領域に流体20を噴出するスプレーノズル10と、噴出口13が挿入される開口部31を有し、噴出口13からスプレーノズル10側とその反対側の噴出領域側とを仕切る仕切板30と、仕切板30の開口部31の近傍から噴出領域側に向けて、スプレーノズル10の軸方向に対して所定の角度で延設される側壁板40とを備える。側壁板40は、仕切板30および側壁板40を配置していない状態におけるスプレーノズルの集束前噴出領域の外側に配置される。スプレーノズル10から流体20を噴出させた際に、側壁板40と対向する側から集束前噴出領域に外気が流入することにより、噴出領域が側壁板40側に集束する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプレー機構およびスプレー機構群に関する。
【背景技術】
【0002】
スプレー機構は、厚膜および薄膜の形成用、または、冷却用などのその他の用途に広く使用されている。スプレー機構の主な利点としては、下記の点が挙げられる。
【0003】
(I)原料の種類によらず、噴霧することが可能である。たとえば、水系、有機系の原料および粘度の高い原料についても噴霧可能であり適用範囲が広い。(II)構造が簡単である。また、噴霧に関するパラメータが少ないため使用しやすく、メンテナンスの負担も少ない。このため、廉価な装置として構成することができる。(III)原料およびガスの噴出速度が高速であるため、周囲の気流などの影響を受けにくく、ターゲットに効率よく原料を到達させることができる。このため、原料の利用効率が高い。
【0004】
スプレー機構を備えた結晶性薄膜形成装置を開示した先行文献として特許文献1がある。特許文献1に記載された結晶性薄膜形成装置においては、加熱された基板に金属成分が溶解された溶液をスプレーノズルで噴霧して塗布する際に、溶液を予熱雰囲気を通過させて予熱している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−323823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スプレー機構においては、スプレーノズルから噴出される流体の噴出領域の形状が基本的に放射状になる。また、スプレーノズルから噴出される流体の噴出パターンは円状または楕円状となる。ここで、噴出領域の形状とは、噴出口から噴出された流体の流線群の外形である。噴出パターンとは、スプレーノズルの対面に位置する平面上における流体の噴出された形状である。
【0007】
矩形状の基板に薄膜を形成する場合、基板の角部付近に流体を噴出すると、噴出パターンが円上または楕円状であるため基板以外の余分な部分にも流体を噴出するため、原料の利用効率が低下する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に基づくスプレー機構は、噴出口から噴出領域に流体を噴出するスプレーノズルと、噴出口が挿入される開口部を有し、噴出口からスプレーノズル側とその反対側の噴出領域側とを仕切る仕切板と、仕切板の開口部の近傍から噴出領域側に向けて、スプレーノズルの軸方向に対して所定の角度で延設される側壁板とを備える。側壁板は、仕切板および側壁板を配置していない状態におけるスプレーノズルの集束前噴出領域の外側に配置される。スプレーノズルから流体を噴出させた際に、側壁板と対向する側から集束前噴出領域に外気が流入することにより、噴出領域が側壁板側に集束する。
【0009】
好ましくは、上記の所定の角度は、90°より小さい。
好ましくは、側壁板において仕切板と接している側の一方の端部から仕切板から離れている側の他方の端部までの長さをL、流体の動粘度をν、スプレーノズルから流体を噴出している際の他方の端部近傍における流体の平均流速をU、臨界レイノルズ数をRcとした場合、UL/ν<Rcの関係を満たす。
【0010】
本発明に基づくスプレー機構群においては、上記のいずれかに記載のスプレー機構を複数備えるスプレー機構群であって、複数のスプレーノズルが所定の間隔を置いて並列に配置される。複数の側壁板が所定の間隔を置いて平行に配置されている。
【0011】
好ましくは、複数のスプレーノズルの各々の噴出領域が、所定の平面内において連続している。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、噴出される流体の原料の利用効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態1に係るスプレー機構の構成を示す断面図である。
【図2】図1のスプレー機構を矢印II方向から見た図である。
【図3】仕切板および側壁板を配置していない状態におけるスプレーノズルの集束前噴出領域を示す図である。
【図4】同実施形態に係るスプレー機構における噴出領域を示す図である。
【図5】シミュレーションを行なったモデルの構成を示す概要図である。
【図6】シミュレーション結果を示す図である。
【図7】本発明の実施形態2に係るスプレー機構群の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態1に係るスプレー機構について図面を参照して説明する。以下の実施形態の説明においては、図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰返さない。
【0015】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るスプレー機構の構成を示す断面図である。図2は、図1のスプレー機構を矢印II方向から見た図である。
【0016】
図1,2に示すように、本発明の実施形態1に係るスプレー機構100は、噴出口13から噴出領域に流体を噴出するスプレーノズル10を有している。スプレーノズル10は、本体部11と、噴出口13に向かってテーパ状に細くなっているテーパ部12と、噴出口13とを含む。スプレーノズル10の内部には、噴出される流体20が充填されている。流体20は、図示しない流体供給装置から供給される。なお、流体20の動粘度はνである。
【0017】
流体20としては、たとえば、金属酸化物の薄膜を構成する原料を溶質として、これを溶媒に溶解させたものを用いることができる。その場合には、酢酸亜鉛を含む水溶液、酸化インジウム錫を含む水溶液および酸化錫を含む水溶液などを用いることができる。溶媒としては、水、メタノール、エタノールまたはブタノールなどを用いることができる。
【0018】
噴出口13の側方には、仕切板30が配置されている。仕切板30は、平板状の板状部材から構成され、開口部31を有している。スプレーノズル10の噴出口13は、仕切板30の開口部31に嵌合するように挿入されている。仕切板30は、噴出口13からスプレーノズル10側とその反対側の噴出領域側とを仕切っている。なお、噴出領域側とは、図1,2において、仕切板30の下方側である。
【0019】
仕切板30の開口部31の近傍から噴出領域側に向けて、スプレーノズル10の軸方向に対して所定の角度41で側壁板40が延設されている。側壁板40は、平板状の板状部材から構成されている。図1においては、スプレーノズル10の軸方向に平行な方向を点線14で示している。
【0020】
側壁板40は、仕切板30と接している側の一方の端部から仕切板30から離れている側の他方の端部まで、長さLで形成されている。上記所定の角度41は、90°より小さい。
【0021】
図3は、仕切板および側壁板を配置していない状態におけるスプレーノズルの集束前噴出領域を示す図である。図3に示すように、仕切板30および側壁板40を配置していない状態におけるスプレーノズル10から噴出された流体20は、噴出口13から角度50で放射状に広がって、集束前噴出領域60内の全体に拡散する。
【0022】
本実施形態のスプレー機構100においては、側壁板40は、集束前噴出領域60の外側に配置されている。また、上記の所定の角度41を角度50の略半分となるようにしている。そのため、側壁板40は、集束前噴出領域60の境界線に沿うように配置されている。
【0023】
このように側壁板40を配置することにより、側壁板40に噴出された流体20が付着することを抑制して、原料の利用効率を向上することができる。ただし、側壁板40の上記の所定の角度41は、上記に限られず、下記の作用を得られる角度であればよい。
【0024】
図4は、本実施形態に係るスプレー機構における噴出領域を示す図である。スプレーノズル10から流体20が噴出されると、噴出口13の近傍の外気も流体20に引きずられて流動するため、外気が少なくなった部分では圧力が低下する。圧力が低下した部分には、周囲の外気が流れ込む。
【0025】
スプレー機構100においては、側壁板40が設けられているため、側壁板40側の噴出口13の近傍は、上記のように周囲の外気が流れ込むことが阻害されて圧力が低い状態が維持される。一方、側壁板40と対向する側は開放されているため、仕切板30に沿って周囲の外気が流れ込む。
【0026】
このため、噴出された流体20は、側壁板40側の圧力の低い方に偏りながら流動する。また、噴出された流体20は、側壁板40の対向する側から流れこむ外気70によって側壁板40側に押さえつけられるため、流体20は側壁板40に沿ってあまり拡散することなく流動する。
【0027】
すなわち、図4に示すように、スプレーノズル10から流体20を噴出させた際に、側壁板40と対向する側から集束前噴出領域60に外気70が流入することにより、噴出領域61が側壁板40側に集束する。言い換えると、スプレーノズル10から噴出された流体20は、噴出口13から角度50より狭い角度51で放射状に広がって、噴出領域61内の全体に拡散する。噴出領域61を集束させることにより、噴出された流体20の到達距離を長くすることができる。
【0028】
本実施形態においては、スプレーノズル10から流体20を噴出している際の他方の端部近傍における流体20の平均流速をU、臨界レイノルズ数をRcとした場合、UL/ν<Rcの関係が満たされている。臨界レイノルズ数Rcは、側壁板40に沿って流体20が流動する際に、流体20の流れが層流から乱流に遷移するときのレイノルズ数である。
【0029】
上記の関係を満たすように側壁板40を構成することにより、噴出された流体20は側壁板40に沿って層流状態で流動するため、側壁板40と流体20との干渉を抑制して、流体20の側壁板40による流動抵抗の増加を低減することができる。ただし、側壁板40の構成は、必ずしも上記の関係を満たさなくてもよい。
【0030】
以下、本実施形態のスプレー機構100における流体20の流動状態についてシミュレーションした結果について説明する。
【0031】
図5は、シミュレーションを行なったモデルの構成を示す概要図である。図6は、シミュレーション結果を示す図である。図6においては、窒素が多く流動している部分ほどドット数を多くして表示している。
【0032】
図5に示すように、シミュレーションモデルにおいては、X方向に85cm、Y方向に60cmの大きさを有する設定領域80の上部中央に、スプレーノズルの噴出口13を配置した。設定領域80の上部境界の位置に、仕切板30を配置した。側壁板40をスプレーノズルの軸方向に対して30°の角度となるように配置した。側壁板40に対向する右側部分および下側部分は、開放空間の境界条件に設定している。この条件の下で、室温の窒素を噴出口13から、平均流束120m/sで−Y方向に向けて、スプレーノズルの軸に対して左右30°までの範囲に噴出させた。
【0033】
図6に示すように、噴出口13から噴出された窒素は、側壁板40に沿うように流動して、噴出領域が集束している。側壁板40を設けなかった場合のX方向の流速半値幅が11cmであるのに対して、側壁板40を設けた場合の流速半値幅は5cmであった。また、噴出口13から−Y方向に60cm離れた位置における窒素の最大流速は、側壁板40を設けなかった場合が14.7m/sであるのに対して、側壁板40を設けた場合は16.8m/sであった。
【0034】
上記のように本実施形態のスプレー機構100においては、流体20の噴出領域を集束させて、流体20をライン状の狭い範囲で遠くまで到達させることができる。よって、所望の位置に精度良く効率的に流体20を塗布することが可能となる。その結果、無駄になる流体の原料を低減することができ、原料の利用効率を向上することができる。
【0035】
従来のスプレー機構においては、流体20の噴出時に、噴出口13の近傍の周囲のすべての方向において圧力が低下するため、何らかの擾乱によって特定の方向で圧力変化などが起きた場合、噴出領域の形状および噴出パターンが時間的に不安定になりやすい。
【0036】
本実施形態のスプレー機構100においては、仕切板30および側壁板40により流体20の噴出領域の形状を集束できるため、噴出口13の周囲の擾乱の影響を受けにくくに、噴出パターンの安定性および再現性を向上することができる。
【0037】
本発明により、原料の利用効率および製造プロセスの安定性を向上させることができる。その結果、スプレー機構の適用範囲の拡大、量産化に対応してコスト削減、製造された製品の信頼性の向上を図れる。
【0038】
以下、本発明の実施形態2に係るスプレー機構群について図面を参照して説明する。以下の実施形態の説明においては、実施形態1のスプレー機構と同一の構成についてはその説明は繰返さない。
【0039】
(実施形態2)
図7は、本発明の実施形態2に係るスプレー機構群の構成を示す断面図である。図7に示すように、本発明の実施形態2に係るスプレー機構群200は、実施形態1のスプレー機構100を複数備えている。
【0040】
スプレー機構群200においては、複数のスプレーノズル10は、所定の間隔を置いて並列に配置されている。複数の側壁板40が所定の間隔を置いて平行に配置されている。各スプレーノズル10の噴出領域63はライン状に集束されているため、噴出口13から所定の距離だけ離れた平面90上において噴出領域63は連続させることができる。
【0041】
このように、スプレー機構群200を構成することにより、大基板上に連続したライン状に流体を噴出させることができる。その結果、安定した膜厚で効率よく厚膜または薄膜を大基板上に形成することができる。
【0042】
なお、今回開示した上記実施形態はすべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、上記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0043】
10 スプレーノズル、11 本体部、12 テーパ部、13 噴出口、20 流体、30 仕切板、31 開口部、40 側壁板、60 収束前噴出領域、61,63 噴出領域、70 外気、80 設定領域、90 平面、100 スプレー機構、200 スプレー機構群。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴出口から噴出領域に流体を噴出するスプレーノズルと、
前記噴出口が挿入される開口部を有し、前記噴出口から前記スプレーノズル側とその反対側の前記噴出領域側とを仕切る仕切板と、
前記仕切板の前記開口部の近傍から前記噴出領域側に向けて、前記スプレーノズルの軸方向に対して所定の角度で延設される側壁板と
を備え、
前記側壁板は、前記仕切板および前記側壁板を配置していない状態における前記スプレーノズルの集束前噴出領域の外側に配置され、
前記スプレーノズルから前記流体を噴出させた際に、前記側壁板と対向する側から前記集束前噴出領域に外気が流入することにより、前記噴出領域が前記側壁板側に集束する、スプレー機構。
【請求項2】
前記所定の角度は、90°より小さい、請求項1に記載のスプレー機構。
【請求項3】
前記側壁板において前記仕切板と接している側の一方の端部から前記仕切板から離れている側の他方の端部までの長さをL、前記流体の動粘度をν、前記スプレーノズルから前記流体を噴出している際の前記他方の端部近傍における前記流体の平均流速をU、臨界レイノルズ数をRcとした場合、UL/ν<Rcの関係を満たす、請求項1または2に記載のスプレー機構。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のスプレー機構を複数備えるスプレー機構群であって、
複数の前記スプレーノズルが所定の間隔を置いて並列に配置され、
複数の前記側壁板が所定の間隔を置いて平行に配置されている、スプレー機構群。
【請求項5】
複数の前記スプレーノズルの各々の前記噴出領域が、所定の平面内において連続している、請求項4に記載のスプレー機構群。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−157840(P2012−157840A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20455(P2011−20455)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】