説明

スペクトラム拡散発振回路

【課題】 ジッタを発生させることなくクロック信号をスペクトラム拡散させる。
【解決手段】 スペクトラム拡散発振回路10は、発生させた基準クロック信号を発生する基準発振器12とPLL回路14とを備えている。PLL回路14の可変分周器28は、拡散制御部18によって分周比が周期的に変化させられ、電圧制御発振器26の出力したクロック信号の周波数を分周して位相比較器22に入力する。位相比較器22は、基準発振器12の出力した基準クロック信号と可変分周器28の出力したクロック信号との位相差を求めて位相差信号を出力する。ループフィルタ24は、位相比較器22の出力した位相差信号に基づいた制御電圧を電圧制御発振器26に入力する。電圧制御発振器26は、制御電圧に応じた周波数のクロック信号を出力する。電圧制御発振器26の出力したクロック信号は、帯域フィルタ16を通過し、増幅器20によって増幅されて、外部に出力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基準クロック信号を所定の周波数帯域に拡散させて出力するスペクトラム拡散発振回路に関する。
【背景技術】
【0002】
電気製品は、あらゆる方面において電子化されている。これに伴い、各電子機器から放射される電磁波の他の電子機器に与える影響、いわゆるEMI(Electro Magnetic Interference:電磁障害)が問題となっている。特に、電子機器間における動作の同期を図り、同期してデータの授受を行なうために必須の基準クロック信号は、最も高速であって機器から電磁波を放射しやすい。このため、基準クロック信号による電磁波の放射を抑制するために、種々の対策がとられている。その1つとして、スプレッドスペクトラム(スペクトラム拡散)方式がある。
【0003】
このスペクトラム拡散方式は、所定周波数の基準クロック信号を予め定めた周波数帯域に拡散して出力し、特定の周波数における電磁エネルギーの集中を避けて、放射電磁波のエネルギーのピークを低下させるようにしている。そして、スペクトラム拡散を行なうための発振回路は、通常、発振回路において所定周波数の基準クロック信号を生成し、PLL(Phase Locked Loop)回路に設けた可変分周器の分周比を変えて、電圧制御発振器に与える制御電圧を時間的に変化させて基準クロック信号をスペクトラム拡散するようにしている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2002−305446号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
PLL回路は、電圧制御発振器の出力周波数を分周して出力する分周器を備えている。このため、PLL回路を用いて基準クロック信号をスペクトラム拡散させると、図4に示したように、分周器の出力する周波数の影響などにより、不要な周波数のスプリアスAが発生する。なお、図4は、スペクトラム拡散させた周波数帯域の中心周波数より上側波帯を模式的に示しており、横軸が周波数、縦軸がゲインである。
【0005】
このようなスプリアスは、クロック信号の高周波ジッタを生ずる。このため、CDR(Clock Data Recovery)方式のシリアルインターフェースにおいては、高周波ジッタを低減しないとCDRのPLL回路がクロック信号の変動に追従することができず、通信エラーを発生する。したがって、CDRシリアルインターフェースにおいては、高周波ジッタが多いPLL回路を用いたスペクトラム拡散発振回路を使用することができなかった。そして、CDRシリアルインターフェースを有する電子機器などにおいては、機器を電磁シールドなどして電磁波が外部に漏れないように工夫して、EMIに対処している。しかし、電磁シールドを設けることは、電子機器の小型化、高性能化を図る上で限界があり、適用できない場合もある。このため、クロック信号に高周波ジッタを生じずにスペクトラム拡散できるスペクトラム拡散発振回路の開発が強く望まれている。
本発明は、上記従来技術の欠点を解消するためになされたもので、ジッタを発生させることなくクロック信号をスペクトラム拡散させることができるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明に係るスペクトラム拡散発振回路は、発生させた基準クロック信号を、予め定めた周波数帯域に拡散させて出力するPLL回路を有するスペクトラム拡散発振回路において、前記PLL回路を構成している電圧制御発振器の出力側に、拡散させた前記周波数帯域を通過させる帯域フィルタを設けたことを特徴としている。
【0007】
このようになっている本発明は、拡散させた周波数帯域を通過させるフィルタを設けたことにより、拡散させた周波数帯域の外側に生ずるスプリアスを除去することができる。したがって、クロック信号のスプリアスに基づいた高周波ジッタをなくすことができ、スペクトラム拡散させたきれいなクロック信号を出力することができる。このため、CDRシリアルインターフェースを用いた電子機器などにおいて電磁シールドなどを必要とせず、電子機器の小型化を図ることができる。
【0008】
帯域フィルタは、弾性表面波フィルタであることが望ましい。弾性表面波フィルタは、通過帯域の外側の周波数を急速に減衰させるため、通過帯域外のスプリアスを確実に除去でき、良好なスペクトラム拡散させたクロック信号を得ることができる。しかも、弾性表面波フィルタは、通過帯域幅の広いフィルタを得られ、電子機器から放射される電磁波のエネルギーを容易に拡散させることができ、EMIを有効に防止することができる。帯域フィルタの出力側に増幅器を設けるとよい。抵抗やコンデンサなどの受動部品によって構成したRCフィルタや弾性表面波フィルタは、パッシブフィルタであるため、電圧制御発振器の出力したクロック信号が減衰する。そこで、帯域フィルタの出力側に増幅器を設けて高周波ジッタのないクロック信号を増幅して出力することにより、外部雑音などの影響を受けることのない、スペクトラム拡散させたクロック信号を出力することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に係るスペクトラム拡散発振回路の好ましい実施の形態を、添付図面に従って詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係るスペクトラム拡散発振回路の概略構成ブロック図である。図1において、スペクトラム拡散発振回路10は、基準発振器12、PLL回路14、帯域フィルタ16、拡散制御部18、増幅器20を有する。基準発振器12は、図示しない水晶発振器などから構成してあって、所定周波数の基準クロック信号を生成してPLL回路14に出力する。
【0010】
PLL回路14は、基準発振器12が出力したクロック信号が入力する位相比較器22、位相比較器22の出力側に設けたループフィルタ24、ループフィルタ24の出力側に設けた電圧制御発振器26、電圧制御発振器26が出力したクロック信号を分周して位相比較器22に入力する可変分周器28を備えている。位相比較器22は、基準発振器12が出力した基準クロック信号と、可変分周器28が出力したクロック信号との位相を比較し、両者の位相差に対応した位相差信号を出力する。ループフィルタ24は、位相比較器22の出力した位相差信号の高周波成分を除去し、位相差信号に応じた制御電圧を電圧制御発振器26に出力する。
【0011】
電圧制御発振器26は、ループフィルタ24の出力した制御電圧に対応した周波数のクロック信号を可変分周器28と帯域フィルタ16とに出力する。電圧制御発振器26の出力信号が入力する可変分周器28は、拡散制御部18が接続してあり、拡散制御部18によって分周比が設定されるようになっている。拡散制御部18は、可変分周器28の分周比を変えて、基準発振器12の出力した周波数fの基準クロック信号を予め設定した周波数帯域にスペクトラム拡散する。すなわち、拡散制御部18は、電圧制御発振器26の出力するクロック信号の周波数が、例えば図2に示したように、基準周波数fを中心として、fとfとの間を周期的に変化するように、可変分周器28の分周比を時間的に変化させて制御する。なお、図2は、横軸が時間、縦軸が周波数である。
【0012】
帯域フィルタ16は、実施形態の場合、弾性表面波(Surface Acoustic Wave:SAW)フィルタによって形成してある。帯域フィルタ16は、PLL回路14によってスペクトラム拡散させた周波数帯域を通過させるフィルタ特性を有している。そして、帯域フィルタ16の出力側に接続した増幅器20は、帯域フィルタ16を通過した信号を増幅して出力する。なお、実施形態の場合、図1の2点鎖線に示したように、PLL回路14、拡散制御部18、増幅器20は、一体の集積回路30として形成してある。
【0013】
このようになっている実施形態のスペクトラム拡散発振回路10の作用は、次のとおりである。基準発振器12は、所定周波数の基準クロック信号をPLL回路14に出力する。PLL回路14は、位相比較器22に基準発振器12の出力した基準クロック信号と、可変分周器28の出力したクロック信号とが入力するようになっている。位相比較器22は、基準発振器12から入力した基準クロック信号と、可変分周器28から入力したクロック信号との位相を比較し、両者の位相差に対応した位相差信号をループフィルタ24に出力する。なお、PLL回路14は、位相比較器22の入力側に分周器を設け、基準発信器12が出力したクロック信号を分周して位相比較器22に入力してもよい。
【0014】
ループフィルタ24は、入力した位相差信号の高周波成分を除去し、位相差信号に対応した直流の制御電圧を電圧制御発振器26に与える。電圧制御発振器26は、ループフィルタ24の出力した制御電圧に応じた周波数のクロック信号を出力する。電圧制御発振器26の出力したクロック信号は、帯域フィルタ16と可変分周器28とに入力する。
【0015】
可変分周器28が接続してある拡散制御部18は、可変分周器28の分周比を制御する。すなわち、拡散制御部18は、電圧制御発振器26の出力するクロック信号の周波数を、図2に示したように周期的に変化させるための分周比を内部記憶部に記憶しており、記憶している分周比を時間の経過とともに順次読み出して可変分周器28の分周比を設定する。可変分周器28は、拡散制御部18により設定される分周比に基づいて、電圧制御発振器26が出力したクロック信号の周波数を分周して位相比較器22に入力する。このため、位相比較器22に入力する可変分周器28からのクロック信号と、基準発振器12から入力する基準クロック信号との位相差が時間軸に対して周期的に変化し、位相比較器22の出力する位相差信号が周期的に変化する。したがって、電圧制御発振器26に入力するループフィルタ24からの制御電圧が周期的に変化し、電圧制御発振器26の出力するクロック信号は、周波数が基準発振器12の出力する基準クロック信号の周波数fを中心にして、fとfとの間を周期的に変化し、クロック信号の周波数がfとfとの間で拡散される。
【0016】
電圧制御発振器26の出力したクロック信号は、帯域フィルタ16に入力する。帯域フィルタ16は、PLL回路14が拡散させる周波数帯域を通過するように形成してあり、この周波数帯域の両側の周波数を減衰させるようになっている。このため、帯域フィルタ16を通過した信号は、図3に示したように、破線で示したスプリアスAが除去される。なお、図3は、周波数fを中心周波数とし、中心周波数fの高周波側の周波数特性を示した図であって、横軸が周波数、縦軸がゲインである。
【0017】
したがって、帯域フィルタ16を通過したクロック信号は、スプリアスAの基づく高周波ジッタを含んでおらず、きれいなクロック信号となる。しかも、実施形態の場合、帯域フィルタ16は、SAWフィルタによって構成してあるため、通過帯域の両側の周波数を急速に減衰させることができ、クロック信号のジッタの発生などを防ぐことができる。また、SAWフィルタは、中心周波数に対して、片側2%程度の通過帯域幅を有するフィルタとすることができ、広い周波数帯域にスペクトラム拡散を行なうことができる。
【0018】
帯域フィルタ16を通過した信号は、増幅器20によって増幅されたのち、外部に出力される。したがって、電圧制御発振器26の出力したクロック信号は、パッシブなSAWフィルタからなる帯域フィルタ16を通過して減衰しても、増幅器20によって増幅されるため、雑音などの影響を受けることがないクロック信号を出力することができる。そして、実施形態のスペクトラム拡散発振回路10は、高速ジッタを含まないクロック信号を出力できるため、CDRシリアルインターフェースなどを有する電子機器に適用することができる。
【0019】
なお、前記実施形態においては、帯域フィルタ16がSAWフィルタである場合について説明したが、帯域フィルタ16はRCフィルタやアクティブフィルタであってもよい。また、前記実施形態においては、基準発振器12の出力する周波数fを中心周波数として拡散させる場合について説明したが、周波数fを下限または上限の周波数とした周波数帯域に拡散させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施の形態に係るスペクトラム拡散発振回路の概略構成ブロック図である。
【図2】スペクトラム拡散の一例を示す説明図である。
【図3】実施の形態に係るスペクトラム拡散発振回路の作用を説明する図である。
【図4】従来のPLL回路を用いたスペクトラム拡散発振回路の周波数特性を示す図である。
【符号の説明】
【0021】
10………スペクトラム拡散発振回路、12………基準発振器、14………PLL回路、16………帯域フィルタ、20………増幅器、22………位相比較器、24………ループフィルタ、26………電圧制御発振器、28………可変分周器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発生させた基準クロック信号を、予め定めた周波数帯域に拡散させて出力するPLL回路を有するスペクトラム拡散発振回路において、
前記PLL回路を構成している電圧制御発振器の出力側に、拡散させた前記周波数帯域を通過させる帯域フィルタを設けたことを特徴とするスペクトラム拡散発振回路。
【請求項2】
請求項1に記載のスペクトラム拡散発振回路において、
前記帯域フィルタは、弾性表面波フィルタであることを特徴とするスペクトラム拡散発振回路。
【請求項3】
請求項1または2に記載のスペクトラム拡散発振回路において、
前記帯域フィルタの出力側に増幅器が設けてあることを特徴とするスペクトラム拡散発振回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−49330(P2007−49330A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−230405(P2005−230405)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】