説明

スライドドアの衝撃吸収用ダンパ

【課題】工作機械の加工空間を覆うカバーのスライドドアなどに用いる衝撃吸収用ダンパに関し、ダンパ構造を簡素にし、且つ、開閉スピードを向上する。
【解決手段】衝撃吸収・ドア引き込み機構5における衝撃吸収用ダンパ8のロッド12とダンパ内部のピストン(ダンパの抵抗を出す部品)を分離する。ピストンは戻しばね30によって戻し方向(前方)へ付勢されると共に、ピストンの前後を貫通させた圧力開放孔31を備え、ロッドを押し込む場合はロッドの先端部でピストンの圧力開放孔がふさがれてピストンの移動に抵抗が生じ、ロッドを引き抜く場合はピストンの追随にかまわず引き離すことにより、圧力開放孔を開放してピストンの移動抵抗を軽くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライドドアの衝撃吸収用ダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、図1に示す工作機械1では、加工空間をカバー2で覆い、切粉・クーラントが周囲に飛散することを防止している。その際、加工物の出し入れ等のため、スライドドア3(以下、ドア)を設置する場合がある。
【0003】
工作機械のドア3は、使用状況によっては、1日1000回以上の高い頻度で開閉する場合があり、また、生産効率を上げるため、大きな速度で開閉される場合もある。そのため、戸枠に取り付けられたドア3が、開閉にともなって戸枠と衝突する際の衝撃で、ドア3やカバー2が破損しないように、また、カバー2に設置された数値制御装置4等の機器が衝撃の影響を受けないように、衝撃を吸収する必要がある。
この衝撃緩和の方法の一つとして、衝撃吸収用ダンパ(ドア開閉時の衝撃を吸収し、同時にドアを開閉端まで引き込む機構)を取り付けることが有効である。
【0004】
図2,3,4は、衝撃吸収用ダンパが衝撃吸収・ドア引き込み機構5に使用されている一例を概略で示すものである。
衝撃吸収・ドア引き込み機構5は戸枠6にベースプレート7を介して固定されており(図2)、衝撃吸収用ダンパ8とカム機構9等により構成されている。
なお、図では左側がドア3の移動方向に関して前方(ドアが開く方向)とする。
【0005】
この衝撃吸収・ドア引き込み機構5は、ドア3に取り付けられたピン10と協働してドア閉鎖時の衝撃を衝撃吸収用ダンパ8によって吸収するものであり、衝撃吸収用ダンパ8は、シリンダー11とこれに出入するロッド12を備え、これらの軸線はドア3のスライド方向と平行に設定された中心軸線pと一致するように配置されている(図3)。
【0006】
カム機構9は、カム13と前記のベースプレート7に形成したガイド溝14及び引っ張りばね15などから構成されている。カム13は、下方のあご部16と上部の係合部17を基部18でほぼV字形に結合し、あご部16と係合部17の間に係合溝19を設けた形態である。そして、あご部16の先端部に第1のローラーフォロア20を設け、係合部17の中間部に第2のローラーフォロア21を設け、これらを前記のガイド溝14に嵌めている。また、カム13は、前記の第2のローラーフォロア21と同軸にロッド12の先端部と回動可能に連結され、基部18に引っ張りばね15の前端が係合されている。引っ張りばね15の他端はベースプレート7の後部に係合され、常時引っ張り状態に維持されている。
【0007】
ガイド溝14は、前方が水平から下方へ約90°屈曲した前方折れ曲り部22を有すると共にこれに繋がった後方部分が水平部23となったガイド溝であって、水平部23の長手方向軸線は前記の中心軸線pと一致している。
【0008】
ドア3が閉じ方向(後向き)の末端に到達する前の衝撃吸収作動の初期(図3)では、ピン10がカム13の係合溝19に入り込み、係合部17に衝突する。このとき、カム13は引っ張りばね15に後方へ引かれて第2のローラーフォロア21を中心に左回転方向に力を受けており、また、あご部16の第1ローラーフォロア20はガイド溝14の前方折れ曲り部22の底部近くに嵌りこんでいる。
【0009】
ドア3が引き続き閉じ方向へ移動すると、カム13は第2のローラーフォロア21を中心に右回転されて、第1のローラーフォロア20がガイド溝14の前方折れ曲り部22から脱し、水平部23に移行する。同時に、ドア3のピン10がカム13の係合溝19の溝底(基部18側)に係合される(図4)。
さらに、ドア3が閉じ方向へ移動すると、カム13は第1のローラーフォロア20と第2のローラーフォロア21がともにガイド溝14の水平部23に係合することによって、係合溝19の開口を上方へ向けた姿勢でガイド溝14の水平部23の後方へ移動する。このとき、ロッド12を通じて、衝撃吸収用ダンパ8内のピストン(図示していない)を圧力室内の減衰媒体(オイルなどの流体)内で移動させ、これにともなう減衰媒体の流動抵抗によって、ドア3の運動エネルギーを吸収する。
このようにして、ドア3が閉じるときの衝撃が緩和される。また、衝撃吸収作動の終期ではドア3の運動エネルギーは小さくなって減衰媒体の流動抵抗に打ち勝てないほどになるが、引っ張りばね15が、カム13を把持して末端位置まで後方へ引寄せることでドア3を完全に閉じることができる。
【0010】
ドア3を開くときは逆に、ドア3を開く操作でピン10がこれと係合したカム13を左方向(前方)へ移動させ、ロッド12がシリンダー11から抜け出てくる(図3)。ロッド12のこの移動は、シリンダー11内のピストンに逆止弁などの弁機構を設けて、ピストンが圧力室内の減衰媒体中を後方へ移動するときは減衰媒体の移動を絞るが、前方へ移動するときは減衰媒体の移動を開放するなどの手段により、軽く抜け出るように設定されている。
【0011】
ドア3の開き方向移動にともなってピン10に係合され、移動してきたカム13は、ガイド溝14の前端で第1のローラーフォロア20が前方折れ曲り部22に嵌り込むことにより、また、引っ張りばね15の作用もあって第2のローラーフォロア21を中心に左回転して係合溝19の開口が前方となる(図3)。この状態で、ピン10はカム13の係合溝19から前方へ容易に抜け出すことができ、これ以後、ピン10はカム13から離れ、衝撃吸収用ダンパ8とドア3との関係が切れる。このため、ドア3は開放方向へ向かって自由に移動する。なお、カム13の前方移動にともなって引き伸ばされた引っ張りばね15は、第1のローラーフォロア20がガイド溝14の前方折れ曲り部22に係合してカム13が移動できないため、その引っ張り状態が維持される。
【0012】
この種の衝撃吸収用ダンパとしては、特許第4436154号(特許文献1)があり、また、逆止弁などにより、前記ピストンの一方向移動時のみ衝撃を吸収する構造のオイルダンパとしては特許第3766970号(特許文献2)や特許4430577号(特許文献3)をあげることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第4436154号公報
【特許文献2】特許第3766970号公報
【特許文献3】特許第4430577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ドアが開閉される時の衝撃を吸収する衝撃吸収用ダンパは、ドアの閉端(あるいは、開端)で確実に衝撃を吸収し、一方、ドアを開く際の(あるいは、閉じる際の)抵抗は少ないことが必要である。そのためには、ダンパが一方向のみで抵抗となり、反対方向では抵抗とならないようにする必要がある。
【0015】
市販のショックアブソーバや一般のオイルダンパでは、ピストンに可動の弁体を設けて流体の流路を拡縮したり(特許文献1,2)、金属球によってふさがれる孔によって構成されるチェック弁をピストンに使用する方法(特許文献3)が採用されている。
しかし、可動の弁体を設けたり、チェック弁機構を用いたりすると、弁体を支持したり、金属球やその金属球の脱落を防止する構造が必要となったりするため、部品の形状が複雑になり、高コストになってしまう問題がある。また、ドアがダンパによって緩衝作用を受けて、例えば閉じ端に到達している位置から、その逆の開き方向へ移動させる操作をすばやく行えることもドア開閉のスピード化を図る上から必要なことである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
そこで、下記のようなダンパ機構を提案する。
ダンパのロッドとダンパ内部のピストン(ダンパの抵抗を出す部品)を分離する。ピストンにはピストンの前後を貫通させる圧力開放孔を設け、ロッドを押し込む場合はロッドの先端部でピストンの圧力開放孔をふさいでピストンの移動に抵抗を与え、ロッドを引き抜く場合はピストンの追随にかまわず引き離すことにより、前記の圧力開放孔を開放して減衰媒体をこの圧力開放孔を通して還流させることにより、ピストンの移動に抵抗が生じない構造とする。
【0017】
このダンパは、減衰媒体としての流体(油、水、空気等)の乱流抵抗・粘性抵抗(流動抵抗と総称する)を用いて衝撃を吸収するものであり、油を用いた場合はオイルダンパということになる。また、このダンパ機構では、ロッドでピストンを引くことができないので、ロッドをシリンダーから引いた後(抜いた後)、ピストンを元の位置に戻す付勢部材(バネやゴムなどの弾性体、封入された空気など)を用いる。その場合にピストンが前方(ドアの開き方向)へ移動するときの流動体抵抗は、ピストンに設けた前記の圧力開放孔によって大きく軽減される。逆に、ロッドを押し込む際には、ロッドの端部で圧力開放孔がふさがれ、圧力開放孔から減衰媒体は抜け出ることができず、例えば、ピストンの外周と、シリンダーとの間に設けたピストンの前後を連通させるオリフィスだけを通じて流体が流動する。このため、ピストンが後方へ移動するときの動作抵抗(流動体抵抗)は大きい。
【発明の効果】
【0018】
衝撃吸収用ダンパにおいて、ロッドとピストンを分離し、ピストンに圧力開放孔を設けたので、ロッドの押し込み移動時には、ロッドの先端部で圧力開放孔がふさがれ、ロッドの押し込み時にダンパの抵抗を大きくし、逆に、ロッドの抜き出し方向の移動ではピストンの復帰に先立ってロッドが抜け出し、このためピストンの圧力開放孔が開放されてピストンが復帰する場合の抵抗が減少する。すなわち、圧力開放孔をロッド端で開閉するので、チェック弁を用いる場合に比べ、簡素な構造となる。また、ロッドとピストンは分離しているので、ロッドの抜け出しに減衰媒体の流動抵抗をほとんど受けない。このため、ロッドが抜け出す方向(例えば、開き方向)の移動では、ドアを軽く、すばやく移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】工作機械の外観を示す斜視図。
【図2】ドア部分を概略で示す正面図。
【図3】衝撃吸収・ドア引き込み機構の概略を説明するための正面図(衝撃吸収作動の初期)。
【図4】衝撃吸収・ドア引き込み機構の概略を説明するための正面図(衝撃吸収作動の中期)。
【図5】本発明によるダンパの内部を示した一部断面図(第1の実施例、衝撃吸収作動の初期)。
【図6】ピストンの斜視図。
【図7】本発明によるダンパの内部を示した一部断面図(第1の実施例、衝撃吸収作動の終期)。
【図8】本発明によるダンパの内部を示した一部断面図(第1の実施例、ドアが開き方向に移動中)。
【図9】本発明によるダンパの内部を示した一部断面図(第2の実施例)。
【図10】本発明によるダンパの内部を示した一部断面図(第3の実施例)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図5,6,7,8は本発明による衝撃吸収用ダンパ24の実施例1を示している。この衝撃吸収用ダンパ24は、前記従来例としてあげた衝撃吸収・ドア引き込み機構5の衝撃吸収用ダンパ8として用いられるものである。以下、実施例は、前記の衝撃吸収・ドア引き込み機構5に組み込まれたものとして説明する。
【0021】
衝撃吸収用ダンパ24は、シリンダー11とロッド12及びピストン25を備える。シリンダー11は有底筒状で前方が開口し、後方に向かって大径、中径、小径の内部空間26a、26b、26cが形成されている。大径部26aから中径部26bの一部にわたりロッドガイド27が液密に装填され、中径部26bの後部にアキュムレータ28が装填されている。小径部26cは圧力室29とされており、戻しばね30(押しばね)が装填されると共に、その前方にピストン25が装填されている。
【0022】
ピストン25は中央に圧力開放孔31がピストン25を前後方向に貫通して形成されており、また、戻しばね30により常時前方へ付勢され、アキュムレータ28の後面に当接している。圧力室29には減衰媒体としてのオイルが充填されている。ロッドガイド27の中央にはロッド12が案内され、前後方向に移動が可能とされている。ロッド12はその軸線を前記の中心軸線pに一致させて配置され、また、ロッドガイド27とロッド12との間が液密にシールされている。そして、ロッド12の後端はピストン25の前面に当接して前記の圧力開放孔31をふさぐ配置とされている。
【0023】
ピストン25のシリンダー内壁と対面した外周面には前後方向に貫通した溝状のオリフィス32が複数本形成されている(図6)。オリフィス32の規模は吸収すべき衝撃の大きさと速度及び減衰媒体の粘度などにより定められる。
アキュムレータ28は、この実施例において可動シール板33と内部ばね34とからなり、内部ばね34の働きで可動シール板33が後方へ押圧されて中径部26bと小径部26cとの段差部に係合している。
【0024】
図5は、ドア3が閉じ方向の末端に至るまえの衝撃吸収作動の初期を示しており、ロッド12先端のカム13にドア3に固定されたピン10が到達した状態(図3)であり、ロッド12は、ドア3が閉じる方向の運動によって後方へ押され、ロッド12の先端部がピストン25の圧力開放孔31をふさいでいる。
ドア3が閉じ方向へさらに移動すると、ロッド12によって、ピストン25は戻しばね30を圧縮しながら圧力室29の後方へ移動する。このとき、ピストン25の圧力開放孔31はロッド12の先端部によりふさがれているので、圧力室29の減衰媒体(オイル)は、ピストン25外周のオリフィス32を通り抜けてピストン25の前方に移動する。このときの流体の流動抵抗と戻しばね30の抵抗とでドア3が閉じる方向の運動エネルギーが消費され、衝撃が吸収される。オリフィス32の数と流路断面積及び減衰媒体の粘度によって衝撃吸収時のピストン25の移動速度が調整される。
【0025】
ドア3の閉じ方向最終段階では、ドア3の運動エネルギーは殆どなくなり、閉じる動きが停まってしまうが、前記のようにカム13は引っ張りばね15によって常時後方へ付勢されているので、引っ張りばね15の付勢力でドア3は完全に閉じられる(図7の状態)。
なお、ドア3が閉じ方向へ移動すると、ロッド12が圧力室29に進入するので圧力室29内でその分の体積が増し対応する容積の減衰媒体がアキュムレータ28の可動シール板33を前方に押しやってピストン25の前方へ退避する(図7)。
【0026】
ドア3が開き方向に移動されると、カム13を介してロッド12がシリンダー11から引抜かれる。すると、ロッド12とピストン25とは当接しているだけなので、ロッド12がピストン25から離れて、ピストン25の追随にかまわず前方に移動される。この移動は減衰媒体からその流動抵抗の作用を受けないので軽く行われる(図8)。したがって、ドア3は開き方向へ軽く、すばやく移動する。ドア3の開き方向移動に伴ってカム13はガイド溝14を前方に移動し、その第1ローラーフォロア20がガイド溝14の前方折れ曲り部22に嵌り込んで停止する。これにともなってロッド12の抜け出し移動も停止する。そして、カム13がピン10との係合を解き、以後、ドア3は自由に開放端まで移動する。
一方、ピストン25は、戻しばね30の付勢で前方に押し戻される。このとき、ピストン25はロッド12と分離されることにより、圧力開放孔31が開口しているので減衰媒体の流動に抵抗が少なく、軽く、かつ、すばやく移動される。
可動シール板33を前方へ押しやって形成した空間(ピストン25の前方)に退避していた減衰媒体の一部は、ロッド12が抜け出ることによる圧力室29の減圧でもとの位置に戻される。これにともない可動シール板33は後方へ移動してもとの段差部に係合する。
そして、一連の衝撃吸収作動とドア開作動が終る。このときの状態は衝撃吸収作動の初期(図5)と同じである。
【0027】
図9は、本発明による衝撃吸収用ダンパ35の実施例2を示している。この衝撃吸収用ダンパ35は、前記従来例としてあげた衝撃吸収・ドア引き込み機構5の衝撃吸収用ダンパ8として用いられるものである。したがって、実施例1の構造と同様な説明となるので、共通部分には同じ符号を用いて概略に説明する。
衝撃吸収用ダンパ35は、有底筒状のシリンダー11の内部にインナーチューブ36を用いて圧力室29が形成され、その内部に戻しばね30とピストン25が装填されている。ピストン25は、ピストン25の前後を貫通した圧力開放孔31を有するが外周面にオリフィスは形成されていない。インナーチューブ36はシリンダー11の内部を内側の圧力室29と外側の退避室37とに区画する。インナーチューブ36の後端はシリンダー11の底壁によって閉じられ、前端は開放されて、退避室37とピストン25の前方空間が連通している。そして、シリンダー11の内部では圧力室29、退避室37を含め、全体に減衰媒体(オイル)が充填されており、インナーチューブ36の円筒壁に圧力室29と退避室37を連通するオリフィス孔38が数個形成されている。
【0028】
シリンダー11は大径部26a、中径部26b、小径部26cを有し、開口側の大径部26aから中径部26bの中間部にまでロッドガイド27が装填され、また、中径部26bにアキュムレータ28が装填され、さらに小径部26cに前記のインナーチューブ36による圧力室29と退避室37が形成されている。
ロッドガイド27にロッド12が液密に挿通され、その先端部がピストン25に当接しその圧力開放孔31をふさいでいる。
【0029】
図9は、衝撃吸収作動の初期を示しており、ドア3は閉じ位置の少し手前にあって、ロッド12先端のカム13にドア3に固定されたピン10が到達した状態である(図3)。この状態からさらにドア3が閉じ方向に移動してロッド12が後方に押されると、ピストン25は圧力開放孔31をロッド12の先端部でふさがれたまま後方へ移動するので、インナーチューブ36のオリフィス孔38から減衰媒体が退避室37側へ流動する。このときの流動抵抗で衝撃の吸収が行われる。また、ロッド12がシリンダー11の内部へ進入することによる内部体積の増加は、アキュムレータ28が体積の増加分だけ収縮することで吸収される。
【0030】
ドア3が開かれるときの作動は実施例1の場合と同様であり、ロッド12はピストン25の追随にかかわらず、これから離れて抜け出る方向に先行し、一方、ピストン25の圧力開放孔31が開放されるので、ピストン25は戻しばね30によって軽快に前方へ移動される。また、ロッド12の抜け出しとピストン25の前方への移動にともなう圧力室29内の減圧によって、退避室37に移動していた減衰媒体がピストン25の前方から圧力開放孔31を通じて圧力室29に還流し、アキュムレータ28はその形態を回復する。そして、ドア3はやがてカム13から開放され、以後、自由に開放端へ移動する。
【0031】
この構造においても、ロッド12の先端部でピストン25に設けた圧力開放孔31の開閉を行うので、ドア3の閉じ方向の衝撃吸収は確実に行われ、また、ドア3の開き方向への移動が軽快に行われる。そして、ロッド12の先端部でピストン25に設けた圧力開放孔31の開閉を行って、衝撃吸収作用及び減衰媒体による流動抵抗の解除を行うので、衝撃吸収用ダンパ35における弁構造が簡素である。
オリフィス孔38の断面積や減衰媒体の粘度などを調整することで衝撃吸収の程度を調整することができる。
【0032】
図10は、本発明による衝撃吸収用ダンパ39の実施例3を示している。この衝撃吸収用ダンパ39は、前記従来例としてあげた衝撃吸収・ドア引き込み機構5の衝撃吸収用ダンパ8として用いられるものである。したがって、実施例1及び実施例2と同様な構造の説明となるので、共通部分には同じ符号を用いて概略に説明する。
【0033】
衝撃吸収用ダンパ39は、シリンダー11、ロッドガイド27、アキュムレータ28、インナーチューブ36、ロッド12、ピストン25、戻しばね30を備える。シリンダー11の内部にインナーチューブ36を配置してその内部を圧力室29と退避室37に区画し、圧力室29に戻しばね30とピストン25を配置してある。ロッドガイド27にロッド12が液密に挿通されその後端部がピストン25の前面に当接している。ピストン25には中央部にピストン25の前方と後方を貫通させる圧力開放孔31が形成されている。ピストン25は戻しばね30で押圧されてロッド12の後端部に当接し、前記の圧力開放孔31がふさがれている。
【0034】
そして、この実施例3ではシリンダー11の後開口がオリフィス通路40を備えた栓体41で閉鎖されている。オリフィス通路40は圧力室29と退避室37を連通するものである。シリンダー11の内部空間には圧力室29、退避室37を含めて全体に減衰媒体(オイル)が充填されている。
また、インナーチューブ36の後端は栓体41に当接して閉鎖され、前端はアキュムレータ28後面との間に間隔を有している。この間隔は、退避通路37とピストン25の前方とを連通している。
【0035】
この構造においても、前記実施例2と同様にドア3が閉じるときの衝撃を、ピストン25がロッド12で押圧され、圧力室29内を後方へ移動するときに生じる減衰媒体の流動抵抗で吸収することができる。このとき、ロッド12の後端部がピストン25に設けた圧力開放孔31をふさいでピストン25を後方へ移動させるので、減衰媒体は後端の栓体41に設けたオリフィス通路40を抜けて退避室37に抜ける。このときの流動抵抗がドア3が閉じるときの衝撃を吸収する。アキュムレータ28の作用と機能は実施例2の場合と同じである。
また、ドア3が開くときの各部の動作も実施例2と同様であり、ロッド12がピストン25の移動にかまわず先に抜け出してピストン25の圧力開放孔31が開放され、戻しばね30によるピストン25の前方移動にともない、減衰媒体が退避室37側からピストン25の前方および圧力開放孔を経由して圧力室29へ還流する。
【0036】
この構造においても、実施例1,2と同様に、ドア3が閉じる際の衝撃を確実に吸収し、また、ドア3の戻りをすばやく行うことができる。同時に、ピストン25における圧力開放孔31の開閉をロッド12で行うので、減衰媒体によるピストンへの抵抗の付与と解除を簡単な弁構造で行うことができる。
【0037】
以上は実施例であって、本願の発明はこれらの実施例の構造に限定されない。
実施例は、工作機械1の加工空間を覆うカバー2に設けたスライドドア3の衝撃を吸収するための衝撃吸収用ダンパ8について説明しているが、スライドドア一般に適用できるものである。
実施例は、ドア3が閉じるときの閉じ端で生じる衝撃を吸収する設定で説明しているが、ドア3が開くときの開き端で生じる衝撃を吸収する場合も同様に構成することができる。
【0038】
衝撃を吸収するために、流動抵抗を大きくするオリフィスは、圧力室29の内面に形成してもよく、ピストン25に形成する細い貫通孔であっても良い。
圧力室29内にロッド12が進入することによる体積の増加を吸収するアキュムレータの構造は種々に考えられ、圧力の増加で縮小し、圧力の増加分が解除されると元に戻る構造のもので、耐久性があって、シリンダー11内にあって液密を維持できるものであればよい。
【符号の説明】
【0039】
1 工作機械
2 カバー
3 スライドドア(ドア)
4 数値制御装置
5 衝撃吸収・ドア引き込み機構
6 戸枠
7 ベースプレート
8 衝撃吸収用ダンパ(実施例1)
9 カム機構
10 ピン
11 シリンダー
12 ロッド
13 カム
14 ガイド溝
15 引っ張りばね
16 あご部
17 係合部
18 基部
19 係合溝
20 第1のローラーフォロア
21 第2のローラーフォロア
22 前方折れ曲がり部
23 水平部
24 衝撃吸収用ダンパ
25 ピストン
26a 大径部
26b 中径部
26c 小径部
27 ロッドガイド
28 アキュムレータ
29 圧力室
30 戻しばね
31 圧力開放孔
32 オリフィス
33 可動シール板
34 内部ばね
35 衝撃吸収用ダンパ(実施例2)
36 インナーチューブ
37 退避室
38 オリフィス孔
39 衝撃吸収用ダンパ(実施例3)
40 オリフィス通路
41 栓体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
戸枠に取り付けられたスライドドアが、前記戸枠と衝突する際の衝撃を吸収するためのスライドドア衝撃吸収機構に用いるダンパにおいて、減衰媒体が充填された圧力室を有するシリンダーと、該シリンダー内で摺動可能であり、前記シリンダー内の減衰媒体を加圧するピストンと、該ピストンが前記減衰媒体を加圧する方向とは反対の方向に前記ピストンを付勢するばねと、一端が前記スライドドアと共に移動する部材を受容するカムに連結され、他端が前記シリンダーに挿入されたロッドとを備え、該ロッドがシリンダーに押し込まれる際に前記ピストンに当接し、前記ロッドが引き抜かれる際にはロッドが該ピストンと分離することを特徴とするスライドドアの衝撃吸収用ダンパ。
【請求項2】
前記シリンダー内部がインナーチューブによって内側の圧力室と外側の退避室に区画され、前記インナーチューブの前端はシリンダー内部に開放されていると共に後端がシリンダーにより閉鎖されており、前記圧力室と前記退避室間に減衰媒体の流動抵抗を生じさせるオリフィスが形成されていることを特徴とした請求項1に記載のスライドドアの衝撃吸収用ダンパ。
【請求項3】
前記ピストンは該ピストンの前後を貫通させる圧力開放孔と該ピストンの前後を貫通させる流動抵抗孔を有し、前記ロッドが前記ピストンに当接した際に、前記ロッドにより前記圧力開放孔がふさがれることを特徴とする請求項1又は請求項2の何れか1つに記載のスライドドアの衝撃吸収用ダンパ。
【請求項4】
前記スライドドアは工作機械の加工空間を覆うカバーの戸枠に設けられたスライドドアであることを特徴とする請求項1〜3の何れか1つに記載のスライドドアの衝撃吸収用ダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−60721(P2013−60721A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198754(P2011−198754)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】