説明

スライド摺動面の修正装置

【課題】工作機械における刃物台などが摺動するスライドベースの摺動面の磨耗修正を行うための修正装置において、前記摺動面が工作機械の内側に位置する場合でもその修正を効率よく行うことを可能にする。
【解決手段】スライドレール5にスライド自在に支持される修正装置本体4が、その第一垂下部材11に対して上下移動可能に固定される第二垂下部材12と、第二垂下部材12に傾動可能に支持される保持部材19と、保持部材19に保持されるグラインダーGと、保持部材19及びグラインダーGの上下位置を決定する第一調節部材13と、保持部材19及びグラインダーGの傾動角を決定する第二調節部材14とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械における刃物台などが摺動するスライドベースの摺動面の磨耗修正を行うための修正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、スライドベース上で刃物台などを摺動させて機械加工を行う工作機械が広く知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−140711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、刃物台などが摺動するスライドベースの摺動面に磨耗が生じた場合、そのまま使用すると加工されるワークの精度が悪くなるため、定期的に磨耗部分を研削処理して平坦度を復帰させることが望ましい。
一方、狭い工作機械内では研削処理の実施が困難であるため、上記研削処理を行う際は、刃物台と共にスライドベースも取り外し、このスライドベースを単品状態で工作機械メーカーや社内の保全部門などに持ち込んで前記研削処理を行っている。
しかし、上述のような手順で研削処理を行うと、スライドベースの取り外しに時間がかかると共に、処理後のスライドベースを工作機械に取り付ける際にも、基準出しなど相当な時間が必要になる。また、工作機械メーカーに逐一出す場合は、コスト的にも多大な費用が必要になる。
【0005】
本発明は上記従来技術の課題を解消するためのものであり、工作機械における刃物台などが摺動するスライドベースの摺動面の磨耗修正を行うための修正装置において、前記摺動面が工作機械の内側に位置する場合でもその修正を効率よく行うことを可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決手段として、請求項1に記載した発明は、
工作機械(例えば実施形態の工作機械M)における工具支持台(例えば実施形態のベッドE)が摺動するスライドベース(例えば実施形態のスライドベース1)の摺動面(例えば実施形態の裏面9)を研削するためのスライド摺動面の修正装置(例えば実施形態の修正装置S)であって、
前記スライドベース上に前記摺動方向で互いに離間して固定される一対の懸架板(例えば実施形態の懸架板2)と、
前記各懸架板上に位置決めして架け渡されるスライドレール(例えば実施形態のスライドレール5)と、
前記スライドレールにスライド自在に支持される修正装置本体(例えば実施形態の修正装置本体4)と、
前記修正装置本体を前記スライドレール上でスライドさせるために前記スライドレール上に立設される支持棒(例えば実施形態の支持棒25)と、
前記支持棒に一端側を回転自在に支持されると共に他端側を前記修正装置本体の基板(例えば実施形態の基板10)に挟持部材(例えば実施形態の挟持部材23)を介して回転自在に支持される螺子杆(例えば実施形態の螺子杆26)と、を備え、
前記修正装置本体は、
前記基板に垂直状態で固定される第一垂下部材(例えば実施形態の第一垂下部材11)と、
前記第一垂下部材に上下位置を調整可能に固定される第二垂下部材(例えば実施形態の第二垂下部材12)と、
前記第二垂下部材に軸(例えば実施携帯の軸17)を介して傾動可能に支持される保持部材(例えば実施形態の保持部材19)と、
前記保持部材に保持される砥石ユニット(例えば実施形態のグラインダーG)と、
前記基板と前記第二垂下部材との間に設けられて前記保持部材及び砥石ユニットの上下位置を決定する第一調節部材(例えば実施形態の第一調節部材13)と、
前記第二垂下部材と前記保持部材との間に設けられて前記保持部材及び砥石ユニットの傾動角を決定する第二調節部材(例えば実施形態の第二調節部材14)と、を有することを特徴とする。
請求項2に記載した発明は、
前記保持部材には、前記砥石ユニットの砥石(例えば実施形態の砥石8)の芯材と前記摺動面との所定以上の近接を規制する規制部材(例えば実施形態の規制部材27)が設けられることを特徴とする。
請求項3に記載した発明は、
前記支持棒は、前記スライドレールの前記懸架板への取り付け孔(例えば実施形態の締結孔7)を利用して前記スライドレールに対して抜き差し自在であることを特徴とする。
請求項4に記載した発明は、
前記砥石ユニットは、その自重により前記第二垂下部材の軸を支点として前記砥石を前記摺動面に近接させるように傾動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、修正装置本体の第一及び第二垂下部材に砥石ユニットを支持し、かつ砥石ユニットを上下動及び傾動可能に設けることで、スライドベースの摺動面が工作機械の内側に回り込んで設けられるような構成であっても、スライドベースを取り外すことなく砥石を入り込ませると共に、この砥石を工具支持台の摺動方向に沿って移動させて、摺動面を精度良く修正することができる。
また、砥石が磨耗した際には規制部材が摺動面に当接することとなり、砥石の芯材が摺動面に接触することによる傷付きを防止できる。
さらに、支持棒を取り外して螺子杆と共に修正装置本体をスライドレールに沿って移動可能となり、簡単かつ小型の構成でスライドベースの全長に渡って摺動面を修正できる。
そして、砥石ユニットの自重を用いて砥石を摺動面に適度に押し当てて研削することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の実施形態における修正装置を右上方から見た斜視図である。
【図2】上記修正装置を左前上方から見た斜視図である。
【図3】上記修正装置を左後上方から見た斜視図である。
【図4】上記修正装置を左方から見た側面図である。
【図5】上記修正装置を用いる工作機械の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図5に示す工作機械(旋盤)Mにおいて、図中符号Wは紙面に直交する軸線を中心に回転する工作物を、符号Bは工作物Wを切削するバイトを、符号DはバイトBを支持する刃物台を、符号Eは刃物台Dを支持すると共に紙面に直交する方向で往復動するベッドを、符号ZはベッドEを往復動させるボール螺子をそれぞれ示す。
【0010】
ベッドEは、工作機械Mの例えば一対のスライドベース1上に水平方向に対して傾斜した姿勢で支持される。ベッドEの下面には、各スライドベース1の裏面(下面、摺動面)9まで回り込んで係合する一対の係止爪E1が設けられ、これら各係止爪E1の先端部が各スライドベース1の裏面9に摺接しつつ、ベッドE及び刃物台D等がスライドベース1に対して往復動する。
【0011】
図1〜4は、各スライドベース1の裏面9が劣化した際にこれを研削修正するための修正装置Sを示す。なお、図1〜4ではスライドベース1の上面(ベッドE支持面)を略水平にして示す。また、説明都合上、図中矢印FRは前方、矢印UPは上方、矢印LHは左方をそれぞれ示す。
【0012】
修正装置Sは、各スライドベース1上に前記刃物台D等の往復動方向(左右方向)と直交する方向(前後方向)に沿って架け渡される一対の懸架板2と、各懸架板2上に前記往復動方向に沿って架け渡されるスライドレール5と、スライドレール5上に前記往復動方向で摺動可能に支持される修正装置本体4と、を備える。
【0013】
各懸架板2は、前記刃物台D等の摺動方向(左右方向)で互いに離間して配置される。各懸架板2の前後端部は、ボルトやクランパーなどで各スライドベース1にそれぞれ固定される。各懸架板2の一側の裏面(下面)には基準部材3が固定され(図4参照)、この基準部材3が同側のスライドベース1に当接することで、各懸架板2の各スライドベース1に対する前後方向の位置決めがなされる。
【0014】
各スライドベース1上に固定された各懸架板2上に載置されるスライドレール5は、各懸架板2の前記一側の表面(上面)に固定した基準部材6(図4参照)に当接することで、各懸架板2上で前後方向での位置決めがなされる。この状態で、スライドレール5の締結孔7にボルト7aを挿通して各懸架板2に締結する等により、スライドレール5が各懸架板2に固定される。スライドレール5には、修正装置本体4の嵌着部10aが左右方向でスライド自在に嵌着される。
【0015】
修正装置本体4は、前記嵌着部10aと、前後方向に延びて後部が嵌着部10a上に固定される基板10と、基板10の前部下面に垂直状態で固定される第一垂下部材11と、第一垂下部材11の後面に上下位置を調整可能に固定される第二垂下部材12と、第二垂下部材12の下端部に左右方向に沿う軸17を介して傾動可能に支持される保持部材19と、保持部材19に回転軸を前後方向に沿わせた使用姿勢で保持されるグラインダーGと、第一垂下部材11(又は基板10)と第二垂下部材12との間に架設されて保持部材19及びグラインダーGの上下位置を決定する第一調節部材13と、第二垂下部材12と保持部材19との間に架設されて保持部材19及びグラインダーGの傾動角を決定する第二調節部材14と、を有する。
【0016】
修正装置本体4は、各スライドベース間の空間内にグラインダーGを前記使用姿勢から前下がりに傾斜させた姿勢で入り込ませ、その後にグラインダーGを前記使用姿勢に戻すことで、その前端に取り付けられた円筒状の砥石(リーマー)8を被切削部材たる一方のスライドベース1の裏面9の下方に位置させる。この状態で、修正装置本体4は、基板10後部上に係合する螺子杆26を回転させることで、スライドレール5上をこれに沿って任意に移動可能である。
【0017】
螺子杆26は左右方向に沿う棒状をなし、スライドレール5上に立設された支持棒25に一端側を回転自在に支持されると共に、他端側を修正装置本体4の基板10上に挟持部材23を介して回転自在に支持される。螺子杆26は、例えば一端側が支持棒25上部を貫通かつ螺合し、他端側が基板10上に左右方向で移動不能に保持される。支持棒25貫通後の螺子杆26の一端には、その回転操作用のハンドル22が設けられる。
【0018】
前述の如く砥石8をスライドベース1の裏面9の下方に位置させるように、修正装置Sを工作機械Mにセットした後、まず、第一垂下部材11及び第二垂下部材12同士を締結するボルト21を緩め、かつ第一調節部材13の調節ナット15及び第二調節部材14の調節ナット16をそれぞれ緩める。すると、砥石8が裏面9から離間すると共に、グラインダーGが自重により前上がりに傾動した状態となる。
【0019】
その後、第一垂下部材11及び第二垂下部材12間に設けられた第一調節部材13の調節ナット15を締め上げることで、保持部材19及びグラインダーGを上昇させて、砥石8をスライドベース1の裏面9に接触させる。すると、保持部材19及びグラインダーGが砥石8と裏面9とを互いに平行にするべく傾動する。そして、砥石8と裏面9との平行度を隙間ゲージ(不図示)により決定した後、調節ナット16を固定して保持部材19及びグラインダーGの傾動をロックする。
【0020】
その後、ボルト21及び調節ナット15を仮固定した状態で、エアバルブ20を開放してグラインダーGを作動させると共に、調節ナット15を締め上げる。これにより、砥石8による裏面9の研削量を決定した後、調節ナット15及びボルト21を固定し、もって保持部材19及びグラインダーGを固定する。この状態で、螺子杆26を回転させて修正装置本体4を移動させることで、スライドベース1の裏面9が所定範囲に渡って研削される。
【0021】
螺子杆26による移動量だけ修正装置本体4を移動させると、次いで、基板10に固定したボルト24及び挟持部材23を取り外し、スライドレール5の締結孔7を利用してこれに差し込まれていた支持棒25及びこれに螺合する螺子杆26を共に取り外す。そして、螺子杆26を逆転させて支持棒25との相対位置を前記研削前の状態に戻した後、支持棒25を隣接する他の締結孔7に差し込み、かつ螺子杆26を基板10にボルト24及び挟持部材23により保持する。
【0022】
これにより、スライドベース1の裏面9を所定範囲ずつ順次研削することが可能となる。
なお、スライドベース1の裏面9の磨耗が大きいときには、砥石8を荒仕上げ用と仕上げ用とで交換して実施してもよい。ここで、図中符号27は、砥石8の磨耗時にその使用限度を越えた状態で研削を行わないように(砥石8の鉄芯がスライドベースに接触しないように)、磨耗した砥石8に先立ってスライドベースに接触するように砥石8の両側に設けた規制部材を示す。
【0023】
上記構成によれば、砥石8のスライドベース1の裏面9への接触調整において、砥石8が常にスライドベース1の裏面9に近接するように傾動させるようにしたため、手などが少し入る程度の狭い空間での作業が容易になる。
【0024】
また、工作機械Mの刃物台Dなど最小限のユニットの取り外しで済むため、スライドベースを取り外して修正するような従来技術と比べて、休業休止時間が少なくて済むと共に、修正に掛かる全体の必要経費が少なくて済む。
【0025】
さらに、螺子杆26を取り外し自在にすると共に、その取り付け形態を簡素化したため、狭い場所での作業が容易になる。
しかも、砥石8を挟むように規制部材27を設けたため、砥石8の使用限界を越えた使用によるスライドベース1の裏面9への傷付きが確実に防止される。
【0026】
なお、上記実施形態における構成は本発明の一例であり、当該発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0027】
M 工作機械
E ベッド(工具支持台)
S 修正装置
G グラインダー(砥石ユニット)
1 スライドベース
2 懸架板
4 修正装置本体
5 スライドレール
7 締結孔(取り付け孔)
8 砥石
9 裏面(摺動面)
10 基板
11 第一垂下部材
12 第二垂下部材
13 第一調節部材
14 第二調節部材
17 軸
19 保持部材
23 挟持部材
25 支持棒
26 螺子杆
27 規制部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械における工具支持台が摺動するスライドベースの摺動面を研削するためのスライド摺動面の修正装置であって、
前記スライドベース上に前記摺動方向で互いに離間して固定される一対の懸架板と、
前記各懸架板上に位置決めして架け渡されるスライドレールと、
前記スライドレールにスライド自在に支持される修正装置本体と、
前記修正装置本体を前記スライドレール上でスライドさせるために前記スライドレール上に立設される支持棒と、
前記支持棒に一端側を回転自在に支持されると共に他端側を前記修正装置本体の基板に挟持部材を介して回転自在に支持される螺子杆と、を備え、
前記修正装置本体は、
前記基板に垂直状態で固定される第一垂下部材と、
前記第一垂下部材に上下位置を調整可能に固定される第二垂下部材と、
前記第二垂下部材に軸を介して傾動可能に支持される保持部材と、
前記保持部材に保持される砥石ユニットと、
前記基板と前記第二垂下部材との間に設けられて前記保持部材及び砥石ユニットの上下位置を決定する第一調節部材と、
前記第二垂下部材と前記保持部材との間に設けられて前記保持部材及び砥石ユニットの傾動角を決定する第二調節部材と、を有することを特徴とするスライド摺動面の修正装置。
【請求項2】
前記保持部材には、前記砥石ユニットの砥石の芯材と前記摺動面との所定以上の近接を規制する規制部材が設けられることを特徴とする請求項1に記載のスライド摺動面の修正装置。
【請求項3】
前記支持棒は、前記スライドレールの前記懸架板への取り付け孔を利用して前記スライドレールに対して抜き差し自在であることを特徴とする請求項1又は2に記載のスライド摺動面の修正装置。
【請求項4】
前記砥石ユニットは、その自重により前記第二垂下部材の軸を支点として前記砥石を前記摺動面に近接させるように傾動することを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のスライド摺動面の修正装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−161864(P2012−161864A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22824(P2011−22824)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】