説明

スラグのフォーミング鎮静材及びその鎮静方法

【課題】フォーミングするスラグを少ない使用量で迅速かつ確実に鎮静化させ、スラグの溢れ出しによる設備損傷を防止して、生産性の安定維持を実現できるスラグのフォーミング鎮静材及びその鎮静方法を提供する。
【解決手段】水分を30質量%以上60質量%以下、燃料分を35質量%以上65質量%以下含有する混合物が、不透水性の有機物で構成される容器に収納されているスラグのフォーミング鎮静材12を、酸化鉄濃度が15質量%以上25質量%以下の泡立っている溶融スラグS2中に投入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォーミング(泡立ち)しているスラグの鎮静材及びその鎮静方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶鋼を製造する過程において発生する製鋼スラグ(以下単にスラグと称す)は、精錬処理中あるいは精錬処理後に、溶鉄との界面あるいはスラグ自身の内部で発生するCO気泡により泡立ち(フォーミング)することがあり、激しい場合には、転炉、混銑車、排滓鍋などの精錬設備あるいは溶鉄やスラグの搬送容器から溢れ出すことがある。このスラグは、1300〜1650℃と高温であるため、溢れ出しにより設備を損傷した場合、その復旧に多大な時間と労力を必要とする。
このようなスラグの溢れ出しを回避する方法として、例えば、精錬処理の速度を下げるという方法、あるいは精錬処理を一時中断するといった方法があるが、これらは生産性に悪影響を与えるので好ましい方法とはいえない。
【0003】
上記したCO気泡の発生過程には、スラグ中のFeO(酸化鉄)と溶鉄中のCが界面で反応する場合と、同じくスラグ中のFeOとスラグ内部に含まれる粒鉄中のCが反応する場合の2通りがあるが、いずれの場合も、FeO濃度が高いスラグほどCO気泡が多量に発生するということが分かっている。従って、FeO濃度の高いスラグは、特に強いフォーミング性を有しており、急速に膨張して溢れ出し易い。
このように、フォーミングしたスラグの溢れ出しを防止するには、スラグに気泡が滞留した層(泡沫層)を破壊してスラグを収縮させ、鎮静化することが必要である。そのため、スラグ内でガス化する物質を投入し、その際の体積膨張エネルギーを泡沫層の破壊に利用する方法が、一般的に行われている。このような効果を有する物質を鎮静材と呼ぶ。
【0004】
また、近年、溶銑を精錬して溶鋼とするに際して、転炉で脱燐処理を行った後に炉内スラグの一部を炉下に設置した排滓鍋に排出し、引き続き脱炭処理を行うという方法(多機能転炉法)が行われている。
この方法では、転炉内においてスラグのFeO濃度を高め、溶銑中のCと、スラグと溶銑の界面で激しく反応させてフォーミングさせることで、スラグの排出性を良好にしている。このように、フォーミングさせたスラグ中には、スラグと溶銑の界面での激しいCO気泡の発生に伴って、粒鉄が多く巻き込まれている。このため、転炉から排出されたスラグは、排滓鍋に排出された直後から、スラグの内部に含まれる粒鉄中のCとFeOが反応してCO気泡を発生するので、急速にフォーミングし易い。また、一旦フォーミングを鎮静化させても、次々に排出されてくるスラグによって継続的にフォーミングし易い。
【0005】
従って、排滓鍋からのスラグの溢れ出しを防止しつつ、短時間で大量のスラグを転炉より排出するには、排滓鍋におけるフォーミングを鎮静化することがポイントであり、鎮静材の効果が重要な意味を持つ。
ここで、鎮静材の効果が小さい場合には、スラグの溢れ出しを回避するために排滓量を少なくせざるをえず、これは、排滓後の脱炭処理における復P(復燐)の増大や、スロッピングの発生につながり易い。また、この復P及びスロッピングを抑制するためには、CaO使用量を多くすればよいが、これでは、CaO濃度が高いスラグの生成量が増加することになり、精錬コストだけでなく、スラグ処理の観点からも好ましくない。
【0006】
そこで、例えば、特許文献1には、炉熱でガスを発生する物質として含水率20%以下のパルプ廃滓50〜90%、質量を増加する物質として転炉滓5〜25%、ベントナイト等の結合剤5〜25%を含む転炉用の固形鎮静材が開示されている。
また、特許文献2には、ガスを発生する物質として、石炭、石灰石、プラスチック、紙等の熱分解性物質40%未満と、微粒鉄粉、バインダーを混合してブリケット成形し、見かけ比重を2〜5とした鎮静材が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開昭54−32116号公報
【特許文献2】特開平11−50124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記従来の方法には、未だ解決すべき以下のような問題があった。
排滓鍋におけるフォーミングの鎮静化について、特許文献1の鎮静材は、パルプ廃滓の燃焼によって発生するCOやCOのガス及び水分からのHOガスを利用しているが、水分が20%以下と低いことから、投入直後のガス発生量が少ない。よって、フォーミングが速いスラグに対しては、多量に投入しなければならない。
また、特許文献2の鎮静材は、熱分解性物質から発生するCOやCOのガスを利用するものであるが、この熱分解性物質に比して微粒鉄粉の比率が高いことから、COやCOのガス発生量が少ない。よって、特許文献1の場合と同様に、フォーミングが速いスラグに対しては、多量に投入しなければならない。
これらの鎮静材のスラグへの多量投入は、1)精錬コストの増加、2)ガス発生した後の鎮静材の残渣が不純物としてスラグ内に残留する量の増加、3)残渣が白煙となって吹き上がる量が多くなることによる作業環境の悪化、を招くという問題がある。
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、フォーミングするスラグを少ない使用量で迅速かつ確実に鎮静化させ、スラグの溢れ出しによる設備損傷を防止して、生産性の安定維持を実現できるスラグのフォーミング鎮静材及びその鎮静方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するためになされた本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)水分を30質量%以上60質量%以下、燃料分を35質量%以上65質量%以下含有する混合物が、不透水性の有機物で構成される容器に収納されていることを特徴とするスラグのフォーミング鎮静材。
(2)前記容器に収納されている前記混合物の質量が1kg以上10kg以下であることを特徴とする(1)記載のスラグのフォーミング鎮静材。
【0011】
(3)前記(1)又は(2)記載のスラグのフォーミング鎮静材を、酸化鉄濃度が15質量%以上25質量%以下の泡立っている溶融スラグ中に投入することを特徴とするスラグのフォーミング鎮静方法。
(4)前記スラグのフォーミング鎮静材を、転炉より排出する前記溶融スラグの排出位置に、該溶融スラグの排出開始から30秒の間に投入することを特徴とする(3)記載のスラグのフォーミング鎮静方法。
【0012】
なお、上記したスラグのフォーミング鎮静材(以下、単に鎮静材ともいう)を構成する混合物中の水分と燃料分を、以下のように定義する。
水分は、100℃で2時間加熱したときに気化する物質であり、その含有質量%は、加熱前後の質量変化率から求められる。測定手法上、エタノールのように、HOより沸点が低い物質も水分と共に気化するが、鎮静材を製造する際に、このような低沸点の物質を多量に含むことはなく、また少量含んだとしても、HOの鎮静化に対する寄与を阻害するものではないから、これらを含めて本発明では水分と定義する。
【0013】
また、燃料分は、大気雰囲気下815℃で1時間加熱したときに燃焼して気化する物質であり、その含有質量%は、加熱前後の質量変化率(ガス化分)から前記した水分含有質量%を減じることで求められる。この燃料分は、固体あるいは固体と液体の混合物からなるものであり、例えば、パルプ廃滓中のセルロース、プラスチック、トレー、食用油、エンジンオイル等の廃油、及び含油スラッジのような有機物が該当する。
【0014】
上記した鎮静材を構成する混合物中の水分及び燃料分以外の残部は灰分といい、ガス発生後の残渣に相当するものである。この灰分は、混合物中に不可避的に少なくとも5質量%含まれるため、水分と燃料分の和は、最大でも95質量%となる。
以上に示した水分、燃料分、及び灰分の関係を示すと、以下の通りである。
(鎮静材を構成する混合物)=(水分)+(燃料分)+(灰分)=100(質量%)
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るスラグのフォーミング鎮静材及びその鎮静方法は、フォーミングした溶融スラグに対して、水分及び燃料分を所定量含有する混合物が不透水性の有機物の容器に収納された鎮静材を投入することにより、溶融スラグの泡沫層を効率良く破壊でき、鎮静材の投入量を従来よりも少なくしても、高い鎮静効果が得られる。従って、スラグの溢れ出しの防止による作業性の改善や、精錬工程における生産性の安定維持が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1は本発明の一実施の形態に係るスラグのフォーミング鎮静方法の説明図、図2はスラグのフォーミング鎮静材1kg当たりのガス発生速度の時間変化の一例を示す説明図である。
【0017】
本発明の一実施の形態に係るスラグのフォーミング鎮静材は、水分と燃料分とを有する混合物を、不透水性の有機物で構成される容器に収納したものである。以下、詳しく説明する。
少量の鎮静材で、溶融スラグのフォーミングを確実に鎮静化するには、この鎮静材の条件として、フォーミングしている溶融スラグ内で、迅速にガス発生が起こり、かつ、それがある程度継続する必要がある。
そこで本発明者らは、様々な物質のガス発生の迅速性と継続性を明らかにするため、種々の実験を行った。
【0018】
まず、水1kgをペットボトルに収納し、フォーミングしている溶融スラグ10トンに投入した。その結果、ガスは、水を溶融スラグへ投入した直後から発生し、投入後約1秒でガスの発生が終了した。
このことから、水分は、ガス発生の迅速性を満たすのに適していることが判明した。これは、溶融スラグ中に投入した水が、この溶融スラグの熱により爆発的に気化したためと考えられる。
【0019】
また、水分が5質量%以下となるように乾燥したパルプ廃滓1kgをペットボトルに収納し、フォーミングしている溶融スラグ10トンに投入した。このパルプ廃滓の主成分は、燃料分であるセルロースである。その結果、ガスは、パルプ廃滓を溶融スラグへ投入した約1秒後から発生し、投入の5秒後までガスの発生が継続した。なお、食用油、廃油、プラスチック(水分が5質量%以下となるまで乾燥)、あるいはこれら有機物の混練物のような他の燃料分についても、同様の試験を実施したが、パルプ廃滓と同様の結果が得られた。
このことから、燃料分は、ガス発生の継続性を満たすのに適していることが判明した。これは、燃料分が溶融スラグ中のFeOと酸化反応(燃焼)を起こして、CO、CO、HO等のガスを発生したためと考えられる。
【0020】
次に、含有水分量と燃料分量を種々変更した混合物を有する鎮静材を製造し、この鎮静材を、実機で排滓中にフォーミングする溶融スラグに対して投入する試験を行った。その結果、鎮静材の投入量を、排出した溶融スラグ量の1質量%程度の少量とした場合に、フォーミング抑制効果が現れた鎮静材と、抑制効果が現れない鎮静材があった。そこで、フォーミング抑制効果が現れた鎮静材のいくつかについて、以下の測定を行った。
この測定は、実験室において、電気炉内の坩堝でスラグ10kgを溶解し、坩堝に接続したガラス管に流量計を取り付け、鎮静材5gを上記したスラグに投入し、発生したガス体積の時間変化を連続的に測定することで行った。その結果の一例を図2に示す。なお、図2は、鎮静材を構成する混合物中の水分量が45質量%、燃料分量が35質量%の場合の結果である。図2から、鎮静材1kg当たりに換算したガス発生速度は、鎮静材の投入直後から2.0m/(秒・kg)以上となり、それが5秒以上継続していることが分かった。
【0021】
更に本発明者らは、混合物中の水分量及び燃料分量の好適な範囲を明確にするため、試験を継続した。その結果、混合物中の水分量は、30質量%以上60質量%以下が必要であることが判った。
ここで、混合物中の水分量が30質量%未満の場合、鎮静材の投入後1秒間における鎮静材1kg当たりのガス発生速度が2.0m/(秒・kg)未満となり、迅速なガス発生が難しくなる。一方、水分量が60質量%を超える場合、鎮静材の投入後1秒間における鎮静材1kg当たりのガス発生速度を2.0m/(秒・kg)以上にはできるが、後述する燃料分量が適正範囲から外れてしまい、継続的なガス発生が難しくなるものと推定される。また、混合物中の水分量が多過ぎると、水蒸気爆発を起こして周辺設備を損傷する危険性があるので、安全性の観点からも、水分量は本発明の範囲内とするのが良い。
以上のことから、混合物中の水分量を30質量%以上60質量%以下としたが、好ましくは、下限を35質量%、更には40質量%、上限を55質量%、更には50質量%とする。
【0022】
また、混合物中の燃料分量は、35質量%以上65質量%以下が必要であることが判った。
ここで、混合物中の燃料分量が35質量%未満の場合、鎮静材の投入の1秒後から5秒後までの鎮静材1kg当たりのガス発生速度が2.0m/(秒・kg)未満となり、継続的なガス発生が難しくなる。一方、燃料分量が65質量%を超える場合、前記した水分量が適正範囲から外れてしまい、迅速なガス発生が難しくなるものと推定される。
以上のことから、混合物中の燃料分量を35質量%以上65質量%以下としたが、好ましくは、下限を38質量%、上限を55質量%、更には50質量%とする。なお、燃料分は、前記したパルプ廃滓中のセルロース、プラスチック、トレー、食用油、廃油(例えば、エンジンオイル)、及び有機物(例えば、含油スラッジ)のいずれか1種又は2種以上を使用できる。
【0023】
以上に示したように、混合物は多くの水分を含むため、圧縮成形しても圧潰強度が低く、搬送等で振動あるいは衝撃を受けると形崩れし易い。そこで、溶融スラグ中に確実に潜り込ませ、その内部よりガスを発生させるため、混合物を不透水性の有機物からなる容器に収納する。
ここで、容器を不透水性とするのは、鎮静材を製造してから投入するまでの間に、水分量が減少するのを防止するためである。また、容器を有機物で構成するのは、溶融スラグ内で早期にガス化して消滅させるためであり、溶融スラグへの鎮静材の投入直後からガスを発生し易くし、より効率良く泡沫層を破壊し易くするためである。このような容器としては、例えば、ペットボトルやビニール袋などを使用できる。
【0024】
この容器に収納する混合物の質量は、1kg以上10kg以下とするのが好ましい。
鎮静材が軽過ぎる場合は、溶融スラグへの潜り込みが不十分となって、鎮静効果を得にくくなる。一方、鎮静材が重過ぎる場合は、鎮静材の製造あるいは搬送の際に取り扱いにくくなる。
従って、これらを両立させるという観点から、混合物の質量を1kg以上10kg以下としたが、下限を2kg、更には3kg、上限を8kg、更には7kgとするのが好ましい。
【0025】
続いて、本発明の一実施の形態に係るスラグのフォーミング鎮静方法を、多機能転炉法に使用した場合について、図1を参照しながら説明する。
まず、転炉10内で溶銑Pを脱燐した後、この転炉10内の溶融スラグS1を炉下に設置した排滓鍋11に排出する。なお、ここでは、3分程度の短時間で、10〜15トンの溶融スラグS1を排出するため、転炉10内での溶融スラグS1のFeO(酸化鉄)濃度を、15質量%以上25質量%以下の範囲内に高め、溶融スラグS1をフォーミングさせる(泡立たせる)ことで、その排滓性を良好にしている。
【0026】
このように、転炉10から排滓鍋11に排出された溶融スラグS2は、スラグの内部に含まれる粒鉄中のCとFeOが反応してCO気泡が発生し、急速かつ継続的にフォーミングし易い。このような、溶融スラグS2に対して使用する鎮静材12としては、溶融スラグS2の内部から外部に向かって瞬間的にガスを発生し、溶融スラグS2内に滞留したガスの抜け道を形成し易くするという特性を有することが好ましい。
このような特性を有する鎮静材12に、前記した本発明の一実施の形態に係る鎮静材を使用する。この鎮静材は、水分により投入直後の迅速なガス発生を可能としているので、COガスの抜け道を形成し易い。加えて、鎮静材に含まれる燃料分は、溶融スラグ中に多く含まれるFeOと酸化反応(燃焼)を起こしてガスを発生するので、FeO濃度が高いスラグに対してその効果を得やすいという利点がある。
【0027】
従って、前記した鎮静材を使用することで、水分が迅速に気化してCOガスの抜け道を形成し、続いて溶融スラグ中のFeOと反応して燃料分が継続的にガスを発生させるので、強いフォーミング性を有する高FeO濃度の溶融スラグであっても、効率的に鎮静化することが可能となる。
このように、FeO濃度が15質量%以上25質量%以下の溶融スラグに前記した鎮静材を投入することで、鎮静材の効果がより顕著に現れる。
【0028】
なお、溶融スラグS1の排滓開始から30秒の間は、排滓鍋11において、排出に伴う溶融スラグS2の撹拌が特に激しく、溶融スラグS2からCO気泡が多量に発生して泡立っている。よって、鎮静材12は、排滓開始から30秒の間に集中的に(例えば、一度に、又は連続的に、もしくは複数回に分けて)投入するのが好ましく、またその投入位置を、排滓鍋11への溶融スラグS1の排出位置とするのが好ましい。
これにより、鎮静材12をより確実に溶融スラグS2に潜り込ませ易くできる。また、鎮静材12の投入量は、排滓開始から30秒の間に、30kg以上とするのがより好ましく、30秒経過した後は、フォーミングの状況に応じて鎮静材12を更に投入すればよい。
なお、図1中の番号13は操業床であり、番号14は移動台車である。
【実施例】
【0029】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
鎮静材は、水分含有量が60質量%のパルプ廃滓と廃プラスチック(フレーク状に粉砕したペットボトル)に、必要に応じて、サラダ油と、製鋼スラグ(平均粒度:0.5mm)と、水分調整用の水を添加して混合した混合物を、ビニール袋又はプラスチックボトルの容器に収納して製造した。この鎮静材の混合物の原料配合比率を表1に示す。また、表1には、各原料配合比率を、水分、燃料分、及び灰分に換算して得た混合物の組成も記載している。更に、表1には、鎮静材1個当たりの質量も記載しているが、容器はビニール袋又はプラスチックボトルであり、その質量は、混合物量に対して僅かであるため、鎮静材1個の質量が、鎮静材1個当たりの混合物量となる。
【0030】
【表1】

【0031】
この表1に示した実施例1〜9、及び比較例1〜6の各鎮静材を、多機能転炉法において排滓時に排滓鍋へ投入した結果を、表2に示す。ここで、鎮静材は、脱燐処理を行った後に溶銑を炉内に残したまま転炉を傾転させ、炉体下方に設置した高さ4mの排滓鍋に、転炉炉口から溶融スラグを排出する際に、排滓開始直後から排滓終了まで、シュートを介して投入した。これにより、排滓鍋内でフォーミングする溶融スラグの鎮静化を図った。この溶融スラグの排出時間は、いずれも3分とした。なお、排滓中の溶融スラグの質量は、排滓鍋を設置する移動台車に取り付けた秤量器で測定した。
【0032】
【表2】

【0033】
実施例1〜9は、いずれも水分が30質量%以上60質量%以下、燃料分が35質量%以上65質量%以下である混合物を、不透水性の有機物で構成される容器に収納した鎮静材を使用したため、この鎮静材を120kg投入することでフォーミングを鎮静化でき、溶融スラグを10トン(目標値)以上排出できた。特に、実施例1では、FeO濃度が18質量%のスラグを排出するに際し、混合物をビニール袋に5kg収納した鎮静材を、排滓位置に排滓開始から30秒で40kg、更に30秒経過後から3分までの間に80kg投入したところ、鎮静化の効果が大きく、14トンの溶融スラグを排出できた。
【0034】
また、実施例2は、ビニール袋に収納した混合物の質量が0.8kg(1kg未満)の鎮静材を使用したため、実施例1と比較して溶融スラグへの潜り込みが若干浅くなり、溶融スラグの排出量が10トンとなった。
一方、実施例3は、ビニール袋に収納した混合物の質量を12kg(10kg超)とした鎮静材を使用したため、溶融スラグへの潜り込みは十分であり、実施例1と同じく14トンの溶融スラグを排出できた。ただし、鎮静材の質量が重過ぎるため、製造や搬送などの作業性が、実施例1より悪くなった。
【0035】
実施例4は、溶融スラグのFeO濃度が26質量%(25質量%超)と高かったため、フォーミング性がかなり強く、溶融スラグの排出量が11.5トンとなった。
また、実施例5は、鎮静材を排滓鍋の端付近に投入したため、実施例1と比較して、鎮静材を溶融スラグに潜り込ませにくくなり、溶融スラグの排出量が10トンとなった。
そして、実施例6は、排滓開始から30秒までの鎮静材の投入量を、実施例1〜5と比較して少ない24kgに留めたため、溶融スラグの排出量は11トンとなった。
【0036】
実施例7は、鎮静材を構成する混合物中の水分量が、実施例1〜6の鎮静材よりも低い鎮静材を使用したため、鎮静材の溶融スラグへの投入直後のガス発生速度が遅くなり、溶融スラグの排出量が11トンとなった。
一方、実施例8は、鎮静材を構成する混合物中の燃料分量が、実施例7の鎮静材よりも高い鎮静材を使用したため、ガス発生を継続させる効果が高められ、実施例7より多い12トンの溶融スラグを排出できた。
また、実施例9は、鎮静材を構成する混合物中の水分量が、実施例1〜6の鎮静材よりも高い鎮静材を使用したが、燃料分量が、実施例1〜6の鎮静材よりも低い鎮静材を使用したため、溶融スラグの排出量が実施例1に近い13トンであった。
【0037】
一方、比較例1、2は、鎮静材を構成する混合物中の水分量が30質量%を下回り、水分が不足したため、鎮静材の溶融スラグへの投入直後のガス発生速度が不十分となり、いずれも実施例1〜9と同じ投入量ではフォーミングを抑制しきれず、約1.5倍の鎮静材を投入する必要があった。なお、比較例2については、鎮静材を構成する混合物中の燃料分量を、実施例1〜9の鎮静材より多くしている(65質量%超)にも関わらず、鎮静材を過剰に投入する必要があった。
また、比較例3、4は、鎮静材を構成する混合物中の燃料分量が35質量%を下回り、燃料分が不足したため、ガス発生の継続性が不十分となり、いずれも実施例1〜9と同じ投入量ではフォーミングを抑制しきれず、約1.5倍の鎮静材を投入することが必要であった。なお、比較例3については、鎮静材を構成する混合物中の水分量を、実施例1〜9の鎮静材より多くしている(60質量%超)にも関わらず、鎮静材を過剰に投入する必要があった。
【0038】
そして、比較例5は、混合物を容器に収納することなく使用したため、フォーミングする溶融スラグへの鎮静材の潜り込みが小さく、鎮静効果が小さかった。このため、溶融スラグの溢れ出しを防止する目的から、溶融スラグの排出速度を抑えることが必要となり、溶融スラグの排出量が7.5トン(10トン未満)に留まった。
更に、比較例6は、混合物を透水性の紙袋に収納したため、鎮静材を溶融スラグへ投入する前に、水分量が24質量%まで低下してしまった。このため、溶融スラグの溢れ出しを防止する目的から、溶融スラグの排出速度を抑えることが必要となり、溶融スラグの排出量が9トン(10トン未満)に留まった。
以上のことから、本発明のスラグのフォーミング鎮静材及びその鎮静方法を使用することで、フォーミングするスラグを少ない使用量で迅速かつ確実に鎮静化させ、スラグの溢れ出しによる設備損傷を防止して、生産性の安定維持を実現できることを確認できた。
【0039】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明のスラグのフォーミング鎮静材及びその鎮静方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
また、前記実施の形態においては、スラグのフォーミング鎮静材により、多機能転炉法における排滓時のスラグフォーミングを鎮静化する方法について説明したが、スラグのフォーミング鎮静材の用途はこれに限られるものではなく、例えば、混銑車や転炉での精錬中に発生するスラグフォーミングの鎮静化にも使用でき、その効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施の形態に係るスラグのフォーミング鎮静方法の説明図である。
【図2】スラグのフォーミング鎮静材1kg当たりのガス発生速度の時間変化の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0041】
10:転炉、11:排滓鍋、12:鎮静材、13:操業床、14:移動台車、S1:転炉内の溶融スラグ、S2:排滓鍋に排出された溶融スラグ、P:溶銑

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分を30質量%以上60質量%以下、燃料分を35質量%以上65質量%以下含有する混合物が、不透水性の有機物で構成される容器に収納されていることを特徴とするスラグのフォーミング鎮静材。
【請求項2】
請求項1記載のスラグのフォーミング鎮静材において、前記容器に収納されている前記混合物の質量が1kg以上10kg以下であることを特徴とするスラグのフォーミング鎮静材。
【請求項3】
請求項1及び2のいずれか1項に記載のスラグのフォーミング鎮静材を、酸化鉄濃度が15質量%以上25質量%以下の泡立っている溶融スラグ中に投入することを特徴とするスラグのフォーミング鎮静方法。
【請求項4】
請求項3記載のスラグのフォーミング鎮静方法において、前記スラグのフォーミング鎮静材を、転炉より排出する前記溶融スラグの排出位置に、該溶融スラグの排出開始から30秒の間に投入することを特徴とするスラグのフォーミング鎮静方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−270178(P2009−270178A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123686(P2008−123686)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】