説明

スラグの鉛含有量低減方法

【課題】廃棄物を高温処理して得られるスラグを未加工のまま処理してスラグから溶融鉛塩を溶出させ、灰溶融炉のスラグの鉛含有量を低減することができる方法を提供する。
【解決手段】溶融出滓口の出口において、溶融鉛塩を含んだスラグをpH2〜5の酸水溶液で洗浄し、スラグから溶融鉛塩を溶出させる。酸水溶液による洗浄は、撹拌あるいは流動により40〜60分行うことが好ましい。酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、炭酸、シュウ酸、リン酸、ギ酸などが適当である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に都市ごみ焼却灰を高温処理して得られるスラグからの鉛の流出を防ぐためにスラグ中の鉛の含有量を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、廃棄物は焼却処理されて、生じた焼却灰や飛灰などの焼却残渣は最終処分場に埋立処分される場合が多い。しかし、最終処分場の逼迫から、焼却残渣の減容化を目的として、これを溶融処理する施設や、廃棄物を直接溶融処理する施設が増加している。この廃棄物溶融処理施設でスラグが生成されるが、このスラグは、元の焼却残渣や廃棄物に比べてはるかに減容化されて、最終処分場を延命化するのに有効であると共に、ダイオキシン類等の有害な有機物をほとんど含有せず、また、有害な重金属を安定に固定化し、その溶出をし難くする働きをする。このような理由から、廃棄物溶融炉から出るスラグは、土木資材、道路路盤材等への有効利用が進められている。しかしながら、スラグについて環境庁告示第19号の含有試験を行うと、鉛(Pb)が焼却残渣の組成の変動などに起因して、環境基準値付近、あるいはこれを上回る可能性がある。
【0003】
電気プラズマ式灰溶融スラグでは、スラグの表層に浮く溶融塩中のPbを主体とする重金属類は、スラグを水砕したときにクラック内に入り込み、将来Pbの溶出が生じる恐れがある。スラグの簡単な水洗では、スラグのクラック中に浸入したPb等は除去できず、スラグを微細にすり潰すことによりPb等の除去を助長させる。
【0004】
バーナ式灰溶融炉スラグは、スラグ層が薄く、排ガス量が多く、塩が揮散し易く、スラグ表層に溜まりにくい為、スラグからのPb類の溶出は比較的少ないが、原料灰組成によっては、電気プラズマ式灰溶融炉と同様のことが生じてしまう。
【0005】
従来、スラグから鉛を除去するには、水砕スラグを前後2段で水で洗浄する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−243047号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の方法では、低濃度の鉛ならば2段洗浄を用いれば鉛流出問題は解決できるが、高濃度になると2段洗浄では解決できない。
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、廃棄物を高温処理して得られるスラグを未加工のまま処理してスラグから溶融鉛塩を溶出させ、灰溶融炉のスラグの鉛含有量を低減することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、溶融出滓口の出口において、溶融鉛塩を含んだスラグをpH2〜5の酸水溶液で洗浄し、スラグから溶融鉛塩を溶出させる、灰溶融炉のスラグの鉛含有量低減方法を提供する。
【0009】
酸水溶液のpHが2未満であると、後で水で洗浄する場合に水の使用量を多くする必要があり不経済になり好ましくない。pHが5を越えると、スラグからの溶融鉛塩の溶出が十分行われない。
【0010】
酸水溶液による洗浄は、撹拌あるいは流動により40〜60分行うことが好ましい。洗浄時間が短すぎるとスラグからの溶融鉛塩の溶出が十分行われない。
【0011】
酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、炭酸、シュウ酸、リン酸、ギ酸などが適当であるが、これに限ったものではない。
【0012】
酸水溶液による洗浄の後、さらに水による洗浄を行うことが好ましい。
【0013】
本発明による方法では、未加工スラグをそのまま処理することができる。
【0014】
溶融鉛塩は例えばPbClの形態である。
【0015】
本発明方法により、溶融塩の鉛(Pb)は非検出のレベルに低減される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、廃棄物を高温処理して得られるスラグを未加工のまま、酸水溶液により洗浄し、後は水洗浄することにより、鉛の含有をない状態として、より安全性の高いスラグを製造することができ、得られたスラグは土木資材、道路用路盤材などに利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
つぎに、本発明を具体的に説明するために、本発明の実施例およびこれとの比較を示すための比較例をいくつか挙げる。
【0018】
実施例1
溶融鉛塩(PbCl)を含有した未加工スラグ(Pb含有量:743ppm)にpH5の塩酸水溶液をスラグの10倍容量投入し、撹拌を行った。その後はスラグを水により洗浄した。
【0019】
スラグ中のPb含有量を測定する蛍光X線分析を行ったところ、表1に示すように、30分後にはPb含有量は280ppmであり、40分後には非検出であった。
【0020】
実施例2
溶融鉛塩(PbCl)を含有した未加工スラグ(Pb含有量:743ppm)にpH2の塩酸水溶液をスラグの10倍容量投入し、撹拌を行った。その後はスラグを水により洗浄した。
【0021】
スラグ中のPb含有量を測定する蛍光X線分析を行ったところ、表1に示すように、30分後にはPb含有量は非検出であった。
【0022】
比較例1
溶融鉛塩(PbCl)を含有した未加工スラグ(Pb含有量:743ppm)にpH6の塩酸水溶液をスラグの10倍容量投入し、撹拌を行った。その後はスラグを水により洗浄した。
【0023】
スラグ中のPb含有量を測定する蛍光X線分析を行ったところ、表1に示すように、30分後にはPb含有量は674ppmであり、1時間後には640ppmであった。
【0024】
比較例2
酸化鉛(PbO)を含有した未加工スラグ(Pb含有量:1012ppm)にpH2の塩酸水溶液をスラグの10倍容量投入し、撹拌を行った。その後はスラグを水により洗浄した。
【0025】
スラグ中のPb含有量を測定する蛍光X線分析を行ったところ、表1に示すように、30分後にはPb含有量は1000ppm、1時間後には1010ppmとほとんど変わらなかった。
【表1】

【0026】
表1から明らかなように、本発明により洗浄処理されたスラグはPbを殆ど若しくは全く含まないことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融出滓口の出口において、溶融鉛塩を含んだスラグをpH2〜5の酸水溶液で洗浄し、スラグから溶融鉛塩を溶出させる、スラグの鉛含有量低減方法。
【請求項2】
洗浄を撹拌あるいは流動により40〜60分行う請求項1記載の鉛含有量低減方法。
【請求項3】
酸として塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、炭酸、シュウ酸、リン酸またはギ酸を用いる請求項1または2記載の鉛含有量低減方法。
【請求項4】
さらに水による洗浄を行う請求項1〜3のいずれかに記載の鉛含有量低減方法。
【請求項5】
未加工スラグをそのまま処理する請求項1〜4のいずれかに記載の鉛含有量低減方法。

【公開番号】特開2008−68156(P2008−68156A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−246410(P2006−246410)
【出願日】平成18年9月12日(2006.9.12)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】