説明

スラグフューミング方法

【課題】亜鉛及び/又は鉛製錬の熔錬炉から産出されるスラグから、ヒ素及びアンチモン含有量が少ない亜鉛と鉛を含むダストと、安定的に土壌環境基準を満足することができるスラグとが得られるスラグフューミング方法を提供する。
【解決手段】前記スラグを一旦保持炉に移送し、該保持炉に銅源を添加して銅共存下でスラグを保持した後、下記(イ)〜(ハ)のいずれかのやり方でスラグのフューミングを行ない、その後、スラグをセトリング炉に移送してスラグ中に懸垂する銅合金を沈降分離させることを特徴とする。
(イ)前記保持炉で生成されたスラグと銅合金をフューミング炉に移送し、銅共存下でスラグのフューミングを行なう。
(ロ)前記保持炉で生成されたスラグのみをフューミング炉に移送し、新たな銅源を添加して銅共存下でスラグのフューミングを行なう。
(ハ)前記保持炉で生成されたスラグのみをフューミング炉に移送し、スラグのフューミングを行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅共存下でのスラグフューミング方法に関し、さらに詳しくは、亜鉛及び/又は鉛製錬の熔錬炉から産出されるスラグ亜鉛と鉛を揮発分離するスラグフューミング方法において、ヒ素及びアンチモン含有量が少ない亜鉛と鉛を含むダストと、安定的に土壌環境基準を満足することができるスラグとが得られるスラグフューミング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛及び/又は鉛製錬において、Imperial Smelting Processと呼ばれる亜鉛と鉛を同時に製錬する熔鉱炉法が広く用いられている。前記熔鉱炉法で発生するスラグの処理方法は、スラグを熔鉱炉の前床に導いて含銅粗鉛と炉鉄を粗分離した後水砕して、セメント原料用等の製品スラグとされている。また、一般には、前記スラグは、亜鉛含有量が高く、鉛とともに、スパイスの成分であるヒ素、アンチモンその他の金属を含むため、フューミング炉に装入してスラグフューミングを行ったのち水砕して製品化される。
【0003】
前記スラグフューミングは、熔融状態のスラグを加熱還元することによって、スラグに含まれる亜鉛、鉛、ヒ素、アンチモン等の金属を揮発させるものである。これによって、スラグから亜鉛と鉛を回収するとともに不純物金属を除去することができ、清浄化されたスラグが得られる。ここで、スラグフューミング処理は、ガス吹き込み用のランス又は炉下部に羽口を備えた加熱炉を用いて行われる。例えば、ガス吹き込み用のランスを備えた炉を用いて、該炉内に装入したスラグにランスを浸漬してランス先端から重油、微粉炭等の炭素質燃料と空気を噴出させることにより、スラグ中の金属を還元し揮発させる処理である。処理後のスラグは前記炉底部から抜き出され、揮発された金属は前記炉頂部への移動の途中で空気を加えて酸化されて亜鉛と鉛を含むスラグフューミングダストとして回収される。
【0004】
しかしながら、スラグフューミング処理では、回収の主目的元素である亜鉛と鉛とともに、低沸点で蒸気圧の高いヒ素、アンチモンなどの15族元素が揮発し、回収した亜鉛と鉛ダスト中に濃縮する。これら15族元素は、回収した亜鉛と鉛とともに、例えば、前記熔鉱炉法の焼結工程に繰り返されるが、焼結工程で揮発して排ガス処理系統への負荷を増加させること、あるいは焼結塊とともに熔鉱炉内へ装入されると、高融点金属化合物であるスパイスを生成させる原因となって、熔鉱炉操業を困難にさせるという問題があった。
また、スラグフューミング処理のばらつきにより、鉛又はヒ素といった有害元素がスラグ中に残留した場合には、上記清浄化されたスラグの溶出試験において、土壌環境基準を満足することができないという問題がおこるので、安定的に土壌環境基準を満足する方法が望まれていた。
【0005】
この解決策として、スラグの改質方法が提案されており、代表的なものとしては、熔鉱炉産出のスラグを前床に導いて含銅粗鉛と炉鉄を粗分離した後、電気炉で加熱して含銅粗鉛と炉鉄を沈降分離して、その後フューミング炉で処理する2段処理(例えば、特許文献1参照。)が挙げられる。しかしながら、この方法では、スラグの亜鉛、鉛及びヒ素の含有量及びスラグの土壌環境基準は満足されるが、ヒ素とアンチモンの揮発については根本的な解決策は得られないという問題があった。
【0006】
以上の状況から、亜鉛及び/又は鉛製錬の熔錬炉から産出されるスラグのフューミング方法において、ヒ素及びアンチモン含有量が少ない亜鉛と鉛を含むダストを得るとともに、安定的に土壌環境基準(環境庁告示第46号による溶出試験でのPb、As溶出量:各0.01mg/L以下)を満足することができるスラグが得られるスラグフューミング方法が求められている。
【特許文献1】特開平11−269567号公報(第1頁、第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、亜鉛及び/又は鉛製錬の熔錬炉から産出されるスラグから亜鉛と鉛を揮発分離するスラグフューミング方法において、ヒ素及びアンチモン含有量が少ない亜鉛と鉛を含むダストと、安定的に土壌環境基準を満足することができるスラグとが得られるスラグフューミング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために、亜鉛及び/又は鉛製錬の熔錬炉から産出される亜鉛、鉛及びヒ素を含有するスラグのスラグフューミング方法について、鋭意研究を重ねた結果、スラグを保持炉で銅と共存させた後、スラグのフューミングを行ない、その後スラグをセトリング炉で処理したところ、ヒ素及びアンチモン含有量が少ない亜鉛と鉛を含むダストが得られるとともに、安定的に土壌環境基準を満足することができるスラグが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、亜鉛及び/又は鉛製錬の熔錬炉から産出されるスラグから亜鉛と鉛を揮発分離するスラグフューミング方法において、
前記スラグを一旦保持炉に移送し、該保持炉に銅源を添加して銅共存下でスラグを保持した後、下記(イ)〜(ハ)のいずれかのやり方で、スラグのフューミングを行ない、その後、スラグをセトリング炉に移送してスラグ中に懸垂する銅合金を沈降分離させることを特徴とするスラグフューミング方法が提供される。
(イ)前記保持炉で生成されたスラグと銅合金をフューミング炉に移送し、銅共存下でスラグのフューミングを行なう。
(ロ)前記保持炉で生成されたスラグのみをフューミング炉に移送し、新たな銅源を添加して銅共存下でスラグのフューミングを行なう。
(ハ)前記保持炉で生成されたスラグのみをフューミング炉に移送し、スラグのフューミングを行なう。
【0010】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、保持炉において銅共存下でスラグを保持する際の融体温度は、1075〜1500℃であることを特徴とするスラグフューミング方法が提供される。
【0011】
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、融体温度を1075〜1500℃に維持するとともに、スラグの酸素分圧を次式に示す範囲に制御しながら、フューミングを行なうことを特徴とするスラグフューミング方法が提供される。
−8>logPo>−11.5
(但し、式中、Poはatm単位によるスラグ中の酸素分圧を表し、かつ1400℃の温度基準に換算したものである。)
【0012】
また、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、融体温度を1075〜1500℃に維持しながら30〜90分間セトリングを行なうことを特徴とするスラグフューミング方法が提供される。
【0013】
また、本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、前記銅源として、保持炉、フューミング炉又はセトリング炉で生成される銅合金を繰り返し用いることを特徴とするスラグフューミング方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明のスラグフューミング方法は、亜鉛及び/又は鉛製錬の熔錬炉から産出されるスラグから亜鉛と鉛を揮発分離するスラグフューミング方法において、ヒ素及びアンチモン含有量が少ない亜鉛と鉛を含むダストとともに、安定的に土壌環境基準を満足することができるスラグが得られるので、その工業的価値は極めて大きい。また、保持炉の設置により、フューミングに際してのスラグ中のヒ素とアンチモンが低減されているので、フューミング炉の操業時間の短縮によるコスト削減が図れる。さらに、セトリング炉の設置により、スラグへの銅合金が混入を抑えられるので、スラグへの銅損失を減少させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明のスラグフューミング方法を、保持炉、フューミング炉、及びセトリング炉毎にその作用を詳細に説明する。
本発明のスラグフューミング方法は、亜鉛及び/又は鉛製錬の熔錬炉から産出されるスラグから亜鉛と鉛を揮発分離するスラグフューミング方法において、前記スラグを一旦保持炉に移送し、該保持炉に銅源を添加して銅共存下でスラグを保持した後、下記(イ)〜(ハ)のいずれかのやり方で、スラグのフューミングを行ない、その後、スラグをセトリング炉に移送してスラグ中に懸垂する銅合金を沈降分離させることを特徴とする。
(イ)前記保持炉で生成されたスラグと銅合金をフューミング炉に移送し、銅共存下でスラグのフューミングを行なう。
(ロ)前記保持炉で生成されたスラグのみをフューミング炉に移送し、新たな銅源を添加して銅共存下でスラグのフューミングを行なう。
(ハ)前記保持炉で生成されたスラグのみをフューミング炉に移送し、スラグのフューミングを行なう。
【0016】
本発明において、スラグを一旦保持炉に移送し、該保持炉に銅源を添加して銅共存下でスラグを保持した後、前記保持炉で生成されたスラグをフューミング炉で処理することと、フューミング後のスラグをセトリング炉に移送してスラグ中に懸垂する銅合金を沈降分離させることの二つが重要である。これによって、フューミング炉の操業時間を短縮して、ヒ素及びアンチモン含有量が少ない亜鉛と鉛を含むダストとともに、安定的に土壌環境基準を満足することができるスラグが得られる。
【0017】
すなわち、保持炉においてスラグに含有されるヒ素とアンチモンをそれらが安定して含有される銅合金の均一融体中に分配させた後、フューミング炉へ移送してスラグ中の亜鉛と鉛のフューミングを行なうことによって、フューミングの時間を短縮するとともに、ヒ素とアンチモンの揮発を抑制することができる。したがって、揮発生成される亜鉛と鉛を含むダストとフューミング後のスラグへのヒ素及びアンチモンの分布を低減することが達成される。また、セトリング炉においてフューミング後のスラグ中に懸垂する銅合金を十分に沈降分離させる時間を確保することによって、スラグへの銅損失を減少させることができる。さらに、銅合金にともなうヒ素及びアンチモンのスラグへの分布も低減される。
【0018】
1.保持炉
本発明においては、まず、前記熔錬炉から産出されるスラグを一旦保持炉に移送し、該保持炉に銅源を添加して銅共存下でスラグを保持することにより、Cu−Fe−Pb−As系銅合金の均一融体を生成させる。
【0019】
ここで、保持炉での銅合金の均一融体の生成について、図面を用いて、より詳しく説明する。図1は、銅―鉄二元系状態図を示す。
図1より、例えば、1350℃では、銅中に鉄が約15%まで熔融し、均一融体となることが分かる。すなわち、鉄スパイスが金属状の銅と共存した際には、鉄スパイスは銅中に熔融し、一部の鉛とともに銅主体のCu−Fe−Pb−As系銅合金均一融体を生成することになる。高銅品位領域では、均一融体を形成する銅に対する鉄の溶解量は温度によって変化し、温度が高いほど溶解量は増加する。したがって、高温度で行うほど、少ない銅量でも処理が可能であるというメリットを有する。
【0020】
上記保持炉は、熔錬炉から産出されるスラグが間欠的にタッピングされる場合には、スラグをフューミング炉へレードルで移送する際の温度低下を補償する役割を担うことができる。すなわち、スラグの一時預りとして保持炉を使用し、さらに、保持中に温度を上昇させることによって、フューミング炉における加熱のための負荷を軽減し、操業時間を延長することなく工程をスムーズに進めることができる。また、保持炉においてスラグをセトリングさせておくことで、鉛の一部を沈降させ、フューミング炉に持ち込む鉛量を減少させることができる。
【0021】
上記方法において保持炉で用いるスラグとしては、特に限定されるものではなく、亜鉛、鉛のほかにヒ素又はヒ素及びアンチモンを含有する還元性雰囲気で形成されたスラグが挙げられる。例えば、上記熔鉱炉法による熔鉱炉内においては、金属に還元された鉄及び銅は、ヒ素及びアンチモンと反応してスパイスと呼ばれる高融点の金属間化合物を形成し、スラグ層とメタル層の間に半溶融状又は固体状で存在する。
【0022】
すなわち、亜鉛及び/又は鉛製錬において産出されるスラグは、原料とフラックスの調合によって、例えば、FeO−SiO−Al−CaO−ZnO−PbO系の比較的低融点であるスラグ組成に調製される。そこで、スラグ温度は1200〜1350℃で操業される。このスラグには、多量の酸化物としての鉄が存在しており、例えば、熔鉱炉法のような還元性雰囲気においては、局部的な強還元性によって生成された金属鉄と、ヒ素とアンチモンがスパイスを形成する。
【0023】
この鉄スパイス中のヒ素とアンチモンは、著しく活量が低下しており、極めて安定化した状態にあることが知られている。そのため、ヒ素とアンチモンは、熔鉱炉法のスラグ温度がそれらの金属の沸点以上である1200〜1350℃であることにもかかわらず、スパイス相としてスラグ中に混濁した状態で存在することになる。
【0024】
上記方法において保持炉で用いる銅源としては、特に限定されるものではなく、金属銅のほか、例えば、銅スクラップ、及び銅製錬工程から得られる粗銅(銅品位98〜99重量%)等の中間物を用いることができる。
【0025】
上記方法において保持炉で用いるスラグに対する銅の使用量は、特に限定されるものではなく、スラグに含まれるスパイスと反応して、1075〜1500℃の温度範囲においてCu−Fe−Pb−As系銅合金の均一融体を形成する条件が選ばれるが、例えば、この温度範囲において均一融体中への鉄の溶解量は銅に対して5〜50重量%であり、用いる温度とスラグに含まれるスパイス中の鉄量に応じて、銅に対する鉄の溶解量から求められる銅量以上の使用量にすることが望ましい。
【0026】
具体的には、スラグに含まれるスパイス中の鉄量に応じて銅量を変化させるか、あるいは銅量を一定にして処理するスラグ量を変化させることによって、Cu−Fe−Pb−As系銅合金の均一融体を安定的に形成することができる。
また、Cu−Fe−Pb−As系均一融体の形成において、銅スパイス相の生成が懸念されるが、上記鉄の溶解量に基づいて選ばれる過剰の銅量の添加条件では、銅スパイス相の生成はおきないので、事実上は上記鉄の溶解量に基づいて調製される。
【0027】
ここで、スパイスと鉛リッチ相の生成について、図面を用いて、より詳しく説明する。図2は1200℃における銅−鉛−ヒ素三元系の状態図である(例えば、「資源と素材」1998年、第4号、p.218、第7図を参照。)。図2において、楕円形の領域の組成内で、スパイス相と鉛リッチ相の2液相分離範囲を形成することを示している。この領域以外では、均一相を形成し、たとえば、鉛が約10重量%含有する場合には、ヒ素が約20重量%含有する組成までスパイス相は生成しない。鉛量がそれ以下であれば、銅メタル近傍ではスパイスが生成しないことがわかる。
【0028】
上記方法において保持炉で生成された銅合金は、鉄、鉛、砒素、アンチモン等が飽和して吸収能が低下するまで銅源として繰り返し使用することができる。
【0029】
上記方法において保持炉で用いる温度としては、特に限定されるものではなく、1075〜1500℃であり、1200〜1400℃が好ましい。すなわち、銅融体とスラグ中に含有されるスパイスとを反応させて銅合金の均一融体を形成するためには、上記温度範囲が用いられる。温度が1075℃未満では、スラグの粘性が高すぎたり、あるいは固化するといった問題が生じる。一方、温度が1500℃を超えると、耐火物の損傷量が多くなり、あるいは、必要とされる熱エネルギーが大きくなるという問題が生ずる。
【0030】
上記方法において保持炉における保持時間は、特に限定されるものではなく、原料スラグの排出条件、フューミング炉の処理条件等により、適宜選ばれるが、十分に保持時間を確保した場合には、ほぼ全量のヒ素及びアンチモンを銅合金中に吸収させることができる。
【0031】
上記方法において用いる保持炉としては、特に限定されるものではなく、例えば、3相アーク式電気炉、反射炉等が挙げられる。
【0032】
2.フューミング炉
本発明においては、次いで、フューミング炉で下記(イ)〜(ハ)いずれかのやり方で、スラグのフューミングを行なう。
(イ)前記保持炉で生成されたスラグと銅合金をフューミング炉に移送し、銅共存下でスラグのフューミングを行なう。
(ロ)前記保持炉で生成されたスラグのみをフューミング炉に移送し、新たな銅源を添加して銅共存下でスラグのフューミングを行なう。
(ハ)前記保持炉で生成されたスラグのみをフューミング炉に移送し、スラグのフューミングを行なう。
【0033】
上記保持炉では、銅合金の均一融体とヒ素及びアンチモンの含有量が低減されたスラグが形成される。ここで、得られるスラグ中のヒ素及びアンチモンの含有量は、保持炉での銅の使用割合、保持時間、温度等の設定条件で異なるので、それらに応じて、フューミング炉での適切な処理方法、例えば、上記(イ)〜(ハ)いずれかのやり方が選ばれる。
【0034】
例えば、上記保持炉における保持時間が十分に確保された場合には、ほぼ全量のヒ素及びアンチモンが銅合金中に吸収されるので、フューミング炉においては、スラグ中の亜鉛と鉛をフューミングすればよい。したがって、(ハ)のやり方が選ばれることが好ましい。一方、スラグ中に、ヒ素及びアンチモンが残留する条件では、(イ)又は(ロ)のやり方で、銅共存下でフューミング処理を行なう。(ロ)のやり方では、銅の使用割合を勘案して、保持炉とともにフューミング炉においても銅源の添加を行なう。
【0035】
上記方法において、フューミングは、例えば、以下のように行うことができる。
ガス吹き込み用のランスを備えたスラグフューミング炉を用いて、炉内に装入したスラグ融体にランスを浸漬してランス先端から重油、天然ガス、微粉炭等と酸素含有ガスを噴出するガス吹錬を行い、これらを混合撹拌するとともに、融体内を還元性雰囲気として、亜鉛、鉛、ヒ素、アンチモン等を金属状態へ還元する。ここで、金属化された亜鉛の大部分と鉛の一部を揮発させてダストとして回収する。
【0036】
上記方法においてフューミングでの融体温度は、1075〜1500℃が好ましく、1200〜1400℃がより好ましい。スラグ中の亜鉛と鉛を十分に揮発させ、かつ銅とスパイスとを反応させて銅合金の均一融体を形成するためには、上記温度範囲が用いられる。すなわち、融体温度が1075℃未満では、Zn−ZnO平衡から亜鉛蒸気の形成が不十分なためスラグから亜鉛の揮発効率が悪化したり、又はFe−FeO平衡からFeOを含む安定したスラグの形成が不十分であるので、スラグの粘性が高すぎたりあるいは固化するといった問題が生じる。一方、融体温度が1500℃を超えると、耐火物の損傷量が多くなり、あるいは必要とする熱エネルギーが大きくなるという問題が生ずる。
【0037】
上記方法においてフューミングの雰囲気としては、特に限定されるものではなく、亜鉛、鉛、ヒ素及びアンチモンを金属状態に還元できる雰囲気を用いるが、この中で、特に、−8>logPo>−11.5(但し、式中、Poはatm単位によるスラグ中の酸素分圧を表し、かつ1400℃の温度基準に換算したものである。)で示す範囲の酸素分圧に制御することが好ましい。
【0038】
すなわち、Poが10−8atmを超えると、還元性が弱まるので、金属亜鉛の揮発が起りにくくなる。また、FeO−Fe平衡のPo依存性によって高融点であるFeがスラグ中に増加してスラグの流動性が悪化することによって、安定したスラグフューミング操業が困難になる。一方、Poが10−11.5atm未満では、Fe−FeO平衡のPo依存性によって鉄が金属状態で安定になり、炉鉄の生成が起り操業を阻害するので好ましくない。
【0039】
したがって、上記フューミングに際して、融体温度は1075〜1500℃であり、かつスラグの酸素分圧は上記の要件を満たすことが好ましい。これによって、炉鉄の生成を抑えて、なおかつ亜鉛の大部分を揮発回収することができる。
【0040】
上記方法においてフューミングの時間としては、特に限定されるものではなく、スラグ中の亜鉛及び鉛が所定値になるように行なわれる。例えば、上記保持炉の条件により、フューミングの時間の短縮が行なえる。ここで、上記保持炉のフューミング時間の短縮への効果を以下に説明する。熔鉱炉から産出された亜鉛品位9.1重量%及び鉛品位1.2重量%のスラグに所定量の銅とコークスを添加した混合物を、窒素雰囲気下で1400℃で熔融後、直ぐに窒素ガスを吹込んで2時間フューミングを行なって得られたスラグの亜鉛品位及び鉛品位はそれぞれ0.78重量%、0.02重量%であった。これに対して、保持炉を想定して前記混合物を窒素雰囲気下で1400℃で熔融後2時間保持した後、窒素ガスを吹込んで60分フューミングを行なって得られたスラグの亜鉛品位及び鉛品位はそれぞれ0.69重量%、0.02重量%であった。これより、保持炉を想定した場合、フューミング時間を半減しても同様のフューミング結果が得られることが分かる。
【0041】
上記方法においてフューミング炉から得られた銅合金の繰り返しは、ヒ素あるいは鉄が銅中へ固溶しなくなる、あるいは均一融体を形成できなくなるまで行うことができる。この際、ヒ素量に関しては、スラグ中の含有率が、通常、0.n重量%以下と低いので、事実上は鉄量によって制限される。また、銅合金中の鉄が飽和した場合でも、銅を継ぎ足すことで、その銅合金を継続して用いることができる。
【0042】
上記方法において、バッチ式のフューミング炉の場合には、フューミング終了後、フューミング後のスラグを炉内で一定時間セトリングすることにより懸垂している銅合金を沈降させることができる。すなわち、セトリングによりスラグと銅合金は比重差で比較的容易に分離する。しかしながら、バッチ式のフューミング炉の場合でも、フューミング炉内で十分なセトリング時間を取るためにはフューミング時間を短縮することになりフューミング操業に支障をきたす。ところが、セトリング時間が短すぎるとスラグ中の銅合金粒子が十分に沈降しないため、スラグへの銅損失が増加するとともに、銅合金中に含有される鉛、砒素、及びアンチモンによりスラグの無害化が損なわれるという問題が生ずることになる。さらに、銅合金中に含有される銀などの有価金属もスラグ損失となるので、処理コストを悪化させる。
【0043】
3.セトリング炉
本発明においては、最後に、フューミング後のスラグをセトリング炉に移送して、所定時間セトリングを行ない、スラグ中に懸垂する銅合金を沈降分離させる。これによって、フューミング後のスラグをフューミング炉内でセトリングする際の問題点を解消することができる。また、連続式のフューミング炉の場合には、フューミング炉内が常時撹拌状態でスラグ中に銅合金が懸濁された状態にあるので、セトリング炉を用いる方法は非常に有効である。
【0044】
上記方法においてセトリングの温度としては、特に限定されるものではなく、セトリングの間、スラグの融点以上の温度が維持されるが、1075〜1500℃が好ましい。
上記方法においてセトリングの時間としては、特に限定されるものではなく、セトリング炉の形状及び内容積、処理スラグの量、組成及び銅合金混入量、懸垂される銅合金の粒子径等の要因に応じて適切な時間が選ばれるが、30〜90分程度で十分な分離性能を得ることができる。
【0045】
上記方法においてセトリング炉から得られるスラグは、安定的に土壌環境基準を満足することができるスラグであり、セメント原料等へ使用することができる。上記方法においてセトリング炉から得られた銅合金は、銅源としてフューミング炉に繰り返して使用することができる。
【0046】
上記方法において保持炉、スラグフューミング炉又はセトリング炉で得られるCu−Fe−Pb−As系銅合金の均一融体は、比重差でスラグと分離し、炉の傾転あるいはタッピングにより銅合金として容易に回収できる。また、回収された銅合金は、例えば酸化雰囲気である銅製錬の転炉工程に投入することで、銅を回収するとともに、鉄をスラグとして除去し、鉛、ヒ素及びアンチモンをダストとして処理することが可能である。このように、既存プロセス工程での処理が可能であることから、回収された銅処理におけるコストの上昇も非常に少なくてすむ。
【実施例】
【0047】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いた金属の分析方法は、ICP発光分析法で行った。また、実施例及び比較例で用いた原料スラグは、熔鉱炉から産出したスラグを用いた。表1にその化学組成を示す。
【0048】
【表1】

【0049】
また、実施例及び比較例で用いたスラグのフューミング方法は下記の通りである。なお、同様のスラグフューミング装置を用いて、保持炉とセトリング炉の操作も行った。この際、融体に撹拌窒素用吹き込み管3による窒素の吹込みは行なわなかった。
[フューミング方法]
図3のスラグフューミング装置を用いた。スラグフューミング装置は、外熱式の電気炉9によって加熱され、温度制御用熱電対6と雰囲気担保用窒素吹き込み管1によって温度と電気炉内雰囲気が制御される。まず、反応に用いるアルミナるつぼ7に原料調合物を装入し、るつぼ保持用レンガ8の上に設置したセラミック外るつぼ5の中にアルミナるつぼ7を装入する。次に、加熱されて熔融状態の融体に撹拌窒素用吹き込み管3により窒素を吹きこみ、測温用熱電対4で反応温度を測定しながらフューミングを行う。なお、発生するダストは、ダスト回収用セラミック管2を通じて回収する。
【0050】
(実施例1)
上記スラグフューミング装置を用いて、保持炉、フューミング炉及びセトリング炉の操作を行なった。
(1)保持炉の操作
アルミナるつぼ内に、上記スラグ2000gと金属銅(銅品位99.99重量%)400gとともに炉内への混入酸素による酸化分を考慮したコークス(全炭素87.5重量%)40gを添加した原料調合物を入れた。まず、保持炉を想定して、窒素雰囲気下において1400℃で熔融し、スラグ熔融後2時間保持した。
【0051】
(2)フューミング炉の操作
次に、フューミング炉を想定して、上記フューミング方法にしたがって、窒素ガスで浴内を60分撹拌することでフューミングを行った。撹拌終了後、試料を冷却し、スラグ、銅合金及びダストを分離回収した。
(3)セトリング炉の操作
次いで、セトリング炉を想定して、得られたスラグをアルミナるつぼに入れ、窒素雰囲気下において1400℃で熔融しセトリングを行った。その後、冷却してスラグと銅合金を分離回収した。
【0052】
その後、セトリングから得られたスラグ、フューミングから得られた銅合金及びダストの化学組成を分析した。また、フューミングとセトリングでのスラグと銅合金の分離性は良好であった。結果を表2に示す。また、スラグに対し、環境庁告示第46号による溶出試験を行い鉛とヒ素の溶出量を測定した。結果を表3に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
表2より、操作は、本発明に基づいて行われたので、銅合金中の鉄が十分に低くヒ素とアンチモンが銅合金中に濃縮し、スラグ中の鉛とヒ素が低減し、かつヒ素とアンチモンはダストに分布しないことが分かる。
表3より、操作は、本発明に基づいて行われたので、鉛とヒ素の溶出量が低減し、安定的に土壌環境基準(Pb、As溶出量:各0.01mg/L以下)を満足できることが分かる。
【0056】
(実施例2)
上記スラグフューミング装置を用いて、保持炉、フューミング炉及びセトリング炉の操作を行なった。
(1)保持炉の操作
アルミナるつぼ内に、上記スラグ2000gと金属銅(銅品位99.99重量%)400gとともに炉内への混入酸素による酸化分を考慮したコークス(全炭素87.5重量%)40gを添加した原料調合物を入れた。まず、保持炉を想定して、窒素雰囲気下において1400℃で熔融し、スラグ熔融後2時間保持した。次に、冷却して、スラグと合金を採取した。また、生成ダストの回収を行った。
【0057】
(2)フューミング炉の操作
次に、アルミナるつぼ内に、得られたスラグ1500gと、金属銅(銅品位99.99重量%)300gとともに炉内への混入酸素による酸化分を考慮したコークス(全炭素87.5重量%)35gを添加した原料調合物を入れた。まず、上記フューミング方法にしたがって、窒素雰囲気下において1400℃で熔融し、窒素ガスで浴内を60分撹拌することでフューミングを行った。
(3)セトリング炉の操作
次いで、撹拌終了後、セトリング炉を想定して、炉内にアルミナるつぼを保持したまま徐冷し、スラグ、銅合金及びダストを分離回収した。その後、得られたスラグ、銅合金及びダストの化学組成を分析した。なお、得られたスラグ及びメタルの重量は、それぞれ1340g、320gであった。また、スラグと銅合金の分離性は良好であった。
【0058】
その後、セトリングから得られたスラグ、銅合金及びダストの化学組成を分析した。また、スラグと銅合金の分離性は良好であった。結果を表4に示す。また、スラグに対し、環境庁告示第46号による溶出試験を行い鉛とヒ素の溶出量を測定した。結果を表5に示す。
【0059】
【表4】

【0060】
【表5】

【0061】
表4より、操作は、本発明に基づいて行われたので、銅合金中の鉄が十分に低くヒ素とアンチモンが銅合金中に濃縮し、スラグ中の鉛とヒ素が低減し、かつヒ素とアンチモンはダストに分布しないことが分かる。
表5より、操作は、本発明に基づいて行われたので、鉛とヒ素の溶出量が低減し、安定的に土壌環境基準(Pb、As溶出量:各0.01mg/L以下)を満足できることが分かる。
【0062】
(比較例1)
上記スラグフューミング装置を用いて、保持炉及びフューミング炉の操作を行なった。
(1)保持炉の操作
アルミナるつぼ内に、上記スラグ2000gと金属銅(銅品位99.99重量%)400gとともに炉内への混入酸素による酸化分を考慮したコークス(全炭素87.5重量%)40gを添加した原料調合物を入れた。まず、保持炉を想定して、窒素雰囲気下において1400℃で熔融し、スラグ熔融後2時間保持した。
【0063】
(2)フューミング炉の操作
次に、フューミング炉を想定して、上記フューミング方法にしたがって、窒素ガスで浴内を60分撹拌することでフューミングを行った。撹拌終了後、アルミナるつぼを電気炉外に取り出して、鉄箱内にスラグの一部を注湯して急冷固化させた。これは、スラグのセトリングを行なわないことを意味する。
その後、フューミングから得られたスラグの化学組成を分析した。結果を表6に示す。
【0064】
【表6】

【0065】
表6より、フューミング後のスラグのセトリングを行なわず、本発明の条件と異なるので、セトリング炉の操作を行なった実施例1に比べてスラグの銅、ヒ素と鉛の分布量が大きくなることが分かる。
【0066】
(比較例2)
保持炉とセトリング炉の操作を行なわなかったこと、及びフューミング炉の操作において金属銅とコークスを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様に行なった。得られたスラグ及びダストの化学組成を分析した。結果を表7に示す。また、スラグに対し、環境庁告示第46号による溶出試験を行い鉛とヒ素の溶出量を測定した。結果を表8に示す。
【0067】
【表7】

【0068】
【表8】

【0069】
表7、8より、保持炉とセトリング炉の操作及びフューミング炉の操作において本発明の条件と異なるので、スラグとダストへのヒ素と鉛の分布が大きく、また、スラグのヒ素と鉛の溶出量も土壌環境基準(Pb、As溶出量:各0.01mg/L以下)より高く、満足すべき結果が得られないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上より明らかなように、本発明のスラグフューミング方法は、亜鉛及び/又は鉛製錬における熔錬炉から産出されるスラグ、例えば熔鉱炉法により熔鉱炉から産出されるスラグから亜鉛と鉛を揮発分離回収するスラグフューミング方法において、ヒ素とアンチモンの含有量が少ない亜鉛と鉛を含むダストを得ることができるので、ダストの溶錬炉への繰り返しに際してヒ素とアンチモンの負荷を軽減しコストの削減に寄与するものとして有用であり、また、鉛とヒ素を含有するスラグ中の鉛とヒ素を低減するスラグ改質方法として好適である。なお、改質されたスラグの用途はセメント用材等多岐に渡るものである。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】銅−鉄二元系状態図である。
【図2】1200℃における銅−鉛−ヒ素三元系の状態図である。
【図3】実施例に用いたスラグフューミング装置の概念図である。
【符号の説明】
【0072】
1 雰囲気担保用窒素吹き込み管
2 ダスト回収用セラミック管
3 撹拌窒素用吹き込み管
4 測温用熱電対
5 セラミック外るつぼ
6 温度制御用熱電対
7 アルミナるつぼ
8 るつぼ保持用レンガ
9 電気炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛及び/又は鉛製錬の熔錬炉から産出されるスラグから亜鉛と鉛を揮発分離するスラグフューミング方法において、
前記スラグを一旦保持炉に移送し、該保持炉に銅源を添加して銅共存下でスラグを保持した後、下記(イ)〜(ハ)のいずれかのやり方で、スラグのフューミングを行ない、その後、スラグをセトリング炉に移送してスラグ中に懸垂する銅合金を沈降分離させることを特徴とするスラグフューミング方法。
(イ)前記保持炉で生成されたスラグと銅合金をフューミング炉に移送し、銅共存下でスラグのフューミングを行なう。
(ロ)前記保持炉で生成されたスラグのみをフューミング炉に移送し、新たな銅源を添加して銅共存下でスラグのフューミングを行なう。
(ハ)前記保持炉で生成されたスラグのみをフューミング炉に移送し、スラグのフューミングを行なう。
【請求項2】
保持炉において銅共存下でスラグを保持する際の融体温度は、1075〜1500℃であることを特徴とする請求項1に記載のスラグフューミング方法。
【請求項3】
融体温度を1075〜1500℃に維持するとともに、スラグの酸素分圧を次式に示す範囲に制御しながら、フューミングを行なうことを特徴とする請求項1に記載のスラグフューミング方法。
−8>logPo>−11.5
(但し、式中、Poはatm単位によるスラグ中の酸素分圧を表し、かつ1400℃の温度基準に換算したものである。)
【請求項4】
融体温度を1075〜1500℃に維持しながら30〜90分間セトリングを行なうことを特徴とする請求項1に記載のスラグフューミング方法。
【請求項5】
前記銅源として、保持炉、フューミング炉又はセトリング炉で生成される銅合金を繰り返し用いることを特徴とする請求項1に記載のスラグフューミング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−307267(P2006−307267A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−129876(P2005−129876)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】