説明

スラスト軸受回転トルク検出装置

【課題】偏荷重を付与しても、安定して回転トルクを検出するスラスト軸受回転トルク検出装置を提案する。
【解決手段】回転軸22の一端側に連結されて回転し、第1スラスト軸受12mの一方側13と接触する第1回転部材24と、回転軸の他端側に軸方向ストローク可能に連結されて回転し、第2スラスト軸受12nの一方側13と接触する第2回転部材25と、回転軸が貫通する中心孔27を備え、第1回転部材および第2回転部材との間に配置されて、第1回転部材と対向する側の端面に第1スラスト軸受の他方側13と接触する座面26mを有し、第2回転部材と対向する側の端面に第2スラスト軸受の他方側13と接触する座面26nを有する中間部材26と、第2回転部材に軸方向荷重を付与する荷重付与機構32と、中間部材と連結されて、第1スラスト軸受12mおよび第2スラスト軸受12nから中間部材に入力される回転トルクを検出する手段28とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラスト軸受の回転トルクを測定する試験装置に関し、特に、コンプレッサ等のスラスト軸受に掛かる実機荷重条件に近い偏荷重を再現する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スラスト軸受の回転トルク評価として、これまでは、供試スラスト軸受の軌道輪に均一なスラスト荷重を付与して、回転トルクを検出していた。このような均一荷重を付与する従来一般のスラスト軸受回転トルク検出装置として、図10に示すような装置が知られている。この装置は、回転部材Aと、回転部材Aと対向するトルク検出部材Bと、トルク検出部材Bに荷重を与える機構Cとを備える。またトルク検出部材Bは、これら回転部材Aおよびトルク検出部材B間に取り付けられる供試スラスト軸受Sの回転トルクを検出する手段Gを有する。そして、これら回転部材Aとトルク検出部材Bとに、供試スラスト軸受Sの軌道輪の一方と他方をそれぞれ取り付けて、回転部材Aを矢印の向きに回転させるとともに矢印で示すスラスト荷重を与えることで、スラスト軸受Sの回転トルクを検出するものである。この装置によれば、軌道輪の接触応力が均一な荷重を軸方向に与えてスラスト軸受Sの回転トルクを測定することができる。
【0003】
一方で、スラスト軸受の使用方法も多様化してきており、実際は、スラスト軸受に接触応力が異なる不均一な荷重が付与される場合も多い。
【0004】
このような偏荷重を供試スラスト軸受に付与する試験装置しては従来、例えば、特開2003−120664号公報(特許文献1)に記載のごときものが知られている。
【0005】
特許文献1に記載の試験装置は、荷重伝達部材を回転主軸の軸心から偏心した位置に設け、この荷重伝達部材を介して供試スラスト軸受のスラストレースに偏荷重を付与して、スラスト軸受の回転性能を試験するものである。
【特許文献1】特開2003−120664号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来のような試験装置にあっては、以下に説明するような問題を生ずる。つまり特許文献1に記載の試験装置は、周方向の特定の位置に荷重伝達部材を介在させる必要があることから、部品点数および組立工数が増加してしまう。また、回転トルクを検出することができなかった。
【0007】
また、図10に示すような従来一般の試験装置にあっては、機構Cが静圧エアーを使用することから、均一荷重を付与する間は、静圧エアーの回転バランスが崩れることがなく、安定した回転トルクを検出することができる。しかしながら、機構Cが偏荷重を付与すれば、静圧エアーの回転バランスが崩れてしまい、安定した回転トルクを検出することができない。また偏荷重が大きい場合には、静圧部のエアーが押し潰されて回転トルクの検出が困難となる場合がある。
【0008】
本発明は、上述の実情に鑑み、組立工数を増やすことなく、コンプレッサ等のスラスト軸受に掛かる実機荷重を付与することが可能であって、安定した回転トルクを検出することができるスラスト軸受回転トルク検出装置を提案することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的のため本発明によるスラスト軸受回転トルク検出装置は、供試スラスト軸受の回転トルクを検出するスラスト軸受回転トルク検出装置を前提とし、回転軸の一端側に連結されて回転軸とともに回転し、第1スラスト軸受の一方側と接触するための第1回転部材と、回転軸の他端側に軸方向ストローク可能に連結されて回転軸とともに回転し、第2スラスト軸受の一方側と接触するための第2回転部材と、回転軸が貫通する中心孔を備えた円盤形状であり、第1回転部材および第2回転部材との間に配置されて、第1回転部材と対向する側の端面に第1スラスト軸受の他方側と接触するための座面を有し、前記第2回転部材と対向する側の端面に第2スラスト軸受の他方側と接触するための座面を有する中間部材と、第2回転部材に軸方向荷重を付与する荷重付与機構と、中間部材と連結されて、前記第1スラスト軸受および前記第2スラスト軸受から中間部材に入力される回転トルクを検出する手段とを備える。
【0010】
かかる本発明によれば、座面の凹凸形状を適宜選択することによって、様々な偏荷重を供試スラスト軸受に付与することが可能となり、実際の荷重条件に近い偏荷重を再現することができる。また、径方向で接触応力が異なるスラスト荷重をも供試スラスト軸受に付与することが可能となり、スラスト軸受のたわみやミスアライメントを考慮して回転トルクを検出することができる。しかも、荷重付与機構自体が偏荷重を付与する構造ではないため回転バランスが崩れることなく、安定した回転トルクの検出が可能となる。また、荷重伝達部材を、別途用いる必要がないことから、組立工数の増加を回避しつつ、安定した回転トルクを検出することができる。さらに、2個のスラスト軸受の回転トルクを同時に検出することから偏荷重を付与しても回転バランスが良く、安定した回転トルクを検出することができるとともに、検出精度が向上する。
【0011】
なお、スラスト軸受の両側に配置された一対の軌道輪が、互いに形状が異なる前面軌道輪および背面軌道輪からなる場合、以下に説明するようにスラスト軸受回転トルク検出装置に第1・第2スラスト軸受を取り付けるとよい。すなわち、中間部材の第1回転部材側の座面は、第1スラスト軸受の背面軌道輪と接触してこれを固定するためのものであり、中間部材の第2回転部材側の座面は、第2スラスト軸受の背面軌道輪と接触してこれを固定するためのものである。かかる実施形態によれば、1個の中間部材が2個のスラスト軸受の背面軌道輪と接触することから、2個のスラスト軸受を背面合わせで配置することが可能になり、第1スラスト軸受と第2スラスト軸受との軸方向の荷重バランスが崩れることを回避して安定した回転トルクを検出することができるとともに、検出精度が向上する。
【0012】
中間部材は一実施形態に限定されるものではなく、中間部材の第1回転部材側の座面と第2回転部材側の座面との間の軸方向厚みが、周方向におけるすべての部位で等しく、径方向における1の部位と他の部位とで異なってもよい。かかる実施形態によれば、例えば内径方向に向かうにつれて軸方向厚みを大きくすることにより、軌道輪の接触応力を内径方向に向かうにつれて大きくすることが可能になり、このような荷重条件での回転トルクを検出することができる。
【0013】
あるいは中間部材の第1回転部材側の座面と第2回転部材側の座面との間の軸方向厚みが、周方向における1の部位と他の部位とで異なってもよい。かかる実施形態によれば、軌道輪の特定の周方向部位に荷重を付与してスラスト軸受に偏荷重を付与することが可能になり、このような荷重条件での回転トルクを検出することができる。
【0014】
ここで好ましくは、中間部材の一端面が有する座面の凹凸形状と、他端面が有する座面の凹凸形状とが同じであり、かつ周方向において同位相である。かかる実施形態によれば、2個のスラスト軸受の荷重条件を同一にすることが可能となり、回転バランスが崩れることを回避して、安定した回転トルクを検出することができるとともに、検出精度が向上する。
【0015】
中間部材の座面は一実施形態に限定されるものではなく、回転軸を中心とする扇型の突出部を有してもよい。かかる実施形態によれば、2個のスラスト軸受にそれぞれ付与する偏荷重を同一にすることが可能となり、回転バランスが崩れることを回避して、安定した回転トルクを検出することができるとともに、検出精度が向上する。
【0016】
中間部材は一実施形態に限定されるものではなく、中間部材の第1回転部材側の座面と第2回転部材側の座面との間の軸方向厚みが一定であってもよい。かかる実施形態によれば、本発明の検出装置において、均一荷重付与時の回転トルクも検出することができる。
【0017】
好ましくは、中間部材の中心孔と、回転軸との間には、ラジアル転がり軸受が設けられ、この回転軸の外周面はラジアル転がり軸受の内輪と隙間を伴って嵌っている。かかる実施形態によれば、ラジアル転がり軸受にスラスト荷重が付与されることを回避して、ラジアル転がり軸受の回転トルクが中間部材に殆ど伝達することなく回転トルクの検出精度が向上する。
【発明の効果】
【0018】
このように本発明は、スラスト軸受の回転トルクを検出するスラスト軸受回転トルク検出装置を前提とし、回転軸の一端側に連結されて回転軸とともに回転し、第1スラスト軸受の一方側と接触するための第1回転部材と、回転軸の他端側に軸方向ストローク可能に連結されて回転軸とともに回転し、第2スラスト軸受の一方側と接触するための第2回転部材と、回転軸が貫通する中心孔を備えた円盤形状であり、第1回転部材および第2回転部材との間に配置されて、第1回転部材と対向する側の端面に前記第1スラスト軸受の他方側と接触するための座面を有し、前記第2回転部材と対向する側の端面に前記第2スラスト軸受の他方側と接触するための座面を有する中間部材と、第2回転部材に軸方向荷重を付与する荷重付与機構と、中間部材と連結されて、前記第1スラスト軸受および前記第2スラスト軸受から中間部材に入力される回転トルクを検出する手段とを備える。したがって、座面の凹凸形状を適宜選択することによって、片斜板タイプの斜板式コンプレッサなどの実機においてスラスト軸受に付与される偏荷重を再現することが可能となり、回転バランスが崩れることなく、スラスト軸受の回転トルクを安定して測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。図1は、本実施例になるスラスト軸受回転トルク検出装置を示す縦断面図である。
【0020】
スラスト軸受回転トルク検出装置21は、供試スラスト軸受12の回転トルクを検出する。供試スラスト軸受12は、両側にそれぞれ軌道輪を備えているものの他、一方側のみに軌道輪を備えているものであってもよく、いずれの側にも軌道輪を備えておらず、転動体および保持器から構成されるものであってもよい。本実施例では、一対の軌道輪13,13を備えた供試スラスト軸受12の場合を主に説明する。回転軸22は、図示しない駆動源によって細い矢印で示す方向に回転する。回転軸22の一端側は、外径方向に拡幅するフランジ23を備える。このフランジ23の端面に第1の回転部材24を固着する。つまり第1回転部材24は回転軸22の一端側と連結し、回転軸22とともに回転する。またフランジ23は回転軸22から第1回転部材24が抜け出ることを防止する。
【0021】
回転軸22の他端側には、第2の回転部材25を、軸方向ストローク可能に連結する。第2回転部材25は、回転軸22とともに回転する。
【0022】
これら第1回転部材24と第2回転部材25との間には、中間部材26を配設する。中間部材26は、回転軸22が貫通する中心孔27を中央に備えた環状の円盤部材である。
【0023】
スラスト軸受回転トルク検出装置21は、第2回転部材25の軸方向両側のうち中間部材26が位置する側と反対側に、荷重付与機構32を備える。荷重付与機構32は第2回転部材25に軸方向荷重を付与し、第2回転部材25を第1回転部材へ向けて矢印の向きに押圧する。これにより、第1回転部材24および第2回転部材25間を挟圧して、第1回転部材24および中間部材26間と、第2回転部材25および中間部材26間とにスラスト荷重を付与する。
【0024】
回転部材24,25の双方は、中間部材26との間に供試体となるスラスト軸受12を取り付けるための端面24m、25nをそれぞれ有する。それぞれの端面24m、25nは、内径側にある回転部材24,25の端面24c,25cよりも軸方向に段差を伴って窪んでおり、スラスト軸受12を取り付けるための空間を確保するとともに、軸線Oと同軸にスラスト軸受12を取り付けることを容易にする。
【0025】
荷重付与機構32が作動する間、同じ形状の2個のスラスト軸受12にスラスト荷重を付与する。つまり円盤形状の第1回転部材24の両端面のうち中間部材26側の端面24mは、第1スラスト軸受12mの軌道輪13の一方と接触して、第1スラスト軸受12mにスラスト荷重を付与する。座面25nも同様の構成であり、荷重付与機構32が作動する間、円盤形状の第2回転部材25の両端面のうち中間部材26側の端面25nは、第2スラスト軸受12nの軌道輪13の一方と接触して、第2スラスト軸受12nにスラスト荷重を付与する。
【0026】
中間部材26は、軸方向両側の端面に、軌道輪13の他方と接触してこの軌道輪13からのスラスト反力を受け止めるための座面26m、26nをそれぞれ有する。
【0027】
また中間部材26は、径方向に延在するロッド29を介して、検出部28と連結する。検出部28は、中間部材26の外周縁から延びるロッド29の先端を監視して、第1および第2スラスト軸受12m,12nの各軌道輪13から両座面26m、26nに入力される回転トルクを測定する。これら中間部材26およびロッド29は、回転軸22とともに回転するものではないが、回転トルクの測定のために若干の回動を許容される。
【0028】
次に、供試スラスト軸受12(12m,12n)の回転トルクの測定につき説明する。本実施例のスラスト軸受回転トルク検出装置21は、2個のスラスト軸受12(12m,12n)の回転トルクを同時に検出するものである。まず第1スラスト軸受12mについては、座面24mに軌道輪13の一方を接触させてこれを固定し、座面26mに軌道輪13の他方を接触させてこれを固定して、第1回転部材24と中間部材26との間に第1スラスト軸受12mを取り付ける。同様に第2スラスト軸受12nについても、座面25nに軌道輪13の一方を接触させてこれを固定し、座面26nに軌道輪13の他方を接触させてこれを固定して、第2回転部材25と中間部材26との間に第2スラスト軸受12nを取り付ける。次に、荷重付与機構32が第2回転部材25に荷重を付与して、第2回転部材25を第1回転部材24に向けて押圧し、2個のスラスト軸受12(12m,12n)にスラスト荷重を付与する。同時に回転軸22を回転させて、軌道輪13の一方と他方とを相対回転させる。このとき、中間部材26の両側に取り付けられた2個のスラスト軸受12から、中間部材26に回転トルクが入力される。
【0029】
そして、検出部28が検出した回転トルクを2分して、1個のスラスト軸受12当りの回転トルクを算出する。なおスラスト軸受12が軌道輪13を備えない場合、座面をスラスト軸受12の転動体(ころまたは玉)に接触させるとよい。
【0030】
荷重付与機構32から第2回転部材25に入力する軸方向荷重は、その中心および方向が軸線Oと一致する。図2は中間部材26の一例を示し、(a)は正面図、(b)は縦断面図である。この一例では、座面26mおよび座面26nを回転軸線に垂直な平面とし、円盤形状になる中間部材26の両座面26m,26n間の軸方向厚みを一定にする。これにより、スラスト軸受12に均一荷重を付与することができる。
【0031】
図3は中間部材26の他の例を示し、(a)は正面図、(b)は縦断面図である。この実施例では、座面26mおよび座面26nの一部26eを他の部分26fよりも軸方向に寸法Dだけそれぞれ突出させる。このように座面26m,26nの凹凸形状を後述するように適宜選定することにより、軌道輪13のうち突出部26eと接触する部位の接触応力を大きくすることが可能になり、偏荷重をスラスト軸受12に付与することができる。そして、実際の荷重分布に合わせた凹凸形状とすることにより、実機での回転トルクの確認が可能となる。偏荷重が付与されるスラスト軸受として、例えば、特開2006−200719号公報の図32および図33に示すスラスト軸受がある。特開2006−200719号公報は、片斜板タイプの斜板式コンプレッサにおけるカーエアコン・コンプレッサ用スラスト軸受を開示するものである。ここで、連結部材と斜板との間、あるいはピストンサポートとジャーナルとの間に介在するスラスト軸受には、ピストンの往復運動の際に、偏荷重が付与される。
【0032】
吸入、圧縮、排出のサイクルを繰り返すピストンを内部に備え、特開2006−200719に開示された斜板式コンプレッサを実機とする場合、本実施例のスラスト軸受回転トルク検出装置21によれば、この実機に使用されるスラスト軸受に付与される偏荷重を再現することができ、しかも安定した回転トルクを測定することができる。
【0033】
また本実施例のスラスト軸受回転トルク検出装置21は、中間部材26で偏荷重を付与するものであって、静圧エアーで偏荷重を付与するものではないことから、安定した回転トルクを検出することができる。
【0034】
さらに本実施例のスラスト軸受回転トルク検出装置21によれば、中間部材26を取り替えることで、様々な偏荷重をスラスト軸受12に付与することが可能になり、スラスト軸受12が使用される実機に近い荷重条件で回転トルクを検出することができる。また、特許文献1のような荷重伝達部材を周方向の特定の位置に介在させるものではなく、組立が容易になる。
【0035】
図4は、スラスト軸受回転トルク検出装置21に取り付けた2個のスラスト軸受12を拡大して示す縦断面図である。中央孔を備えたスラスト軸受12につき説明すると、軸方向の厚みを備えた環状の円盤を、互いに向き合うよう同軸配置しての一対の軌道輪13とし、これら軌道輪の間には、複数のころと、これら複数のころを周方向等間隔に保持する保持器とを収容した公知のものである。あるいは、スラスト軸受であれば、他の構造であってもよい。ころが転走しない側になる軌道輪13の外側表面13gは、軸方向に垂直な平面を形成する。
【0036】
一対の軌道輪13,13が、互いに形状が異なる前面軌道輪13aおよび背面軌道輪13bからなる場合、図4の縦断面図に示すように、中間部材26の軸方向両側の座面26m,26nは、これら2個のスラスト軸受12の背面軌道輪13bとそれぞれ接触するよう、スラスト軸受回転トルク検出装置21にスラスト軸受12を取り付けるのがよい。図1および図4に示すように、2個のスラスト軸受12,12を背中合わせに取り付けることによって、軸方向両側から中間部材26に入力される回転トルクが等しくなり、スラスト軸受12の荷重バランスを崩すことなく、安定した回転トルクを測定することができる。
【0037】
ここで付言すると、前面軌道輪13aの内周縁は、背面軌道輪13bに向かって軸方向に延出する。背面軌道輪13bは環状の薄肉円盤であり、軸方向には延出しない。なお図5に示すように、軸方向一方の座面26mに背面軌道輪13bを固定し、軸方向他方の座面26nに前面軌道輪13aを固定すれば、スラスト軸受12,12を背面合わせに取り付けることにならず、安定した回転トルクを測定することができない場合がある。
【0038】
なお図示はしなかったが、スラスト軸受回転トルク検出装置21で一方側のみに軌道輪を備えるスラスト軸受の回転トルクを検出する場合や、軌道輪を備えないスラスト軸受の回転トルクを検出する場合も、中間部材26に関して第1スラスト軸受12mと第2スラスト軸受12nとが対称に配置されるよう、これらスラスト軸受12,12をスラスト軸受回転トルク検出装置21に取り付ける。
【0039】
図6は中間部材26の他の例を示し、(a)は軸線O方向から見た正面図、(b)は軸線Oを含む面で切断した縦断面図である。この実施例では、円盤状の中間部材26の両座面26m,26nの軸方向厚みが、周方向におけるすべての部位で等しく、径方向における1の部位と他の部位とで異なる。具体的には、軸線Oを含む断面において座面26mおよび座面26nを軸方向内側に向かって窪んだ曲線で形成し、外径側に向かうにつれて軸方向厚みを大きくして、座面26m,26nの凹凸形状をそれぞれ、内径側ほど窪んだ形状とする。あるいは図7の縦断面図に示すように、軸線Oを含む断面において座面26m,26nを直線で形成し、外径側に向かうにつれて軸方向厚みを大きくして、座面26m,26nの凹凸形状をそれぞれ、内径側ほど窪んだ形状としてもよい。図6および図7に示す中間部材26によれば、内径側ほど軌道輪13の接触応力が小さくなる。これにより、スラスト軸受12の径方向撓みや、中間部材26の径方向撓みや、スラスト軸受12または中間部材26のミスアライメントを考慮して回転トルクを検出することができる。
【0040】
図8も中間部材26の他の例を示し、(a)は正面図、(b)は縦断面図である。この実施例でも、円盤状の中間部材26の両座面26m,26nの軸方向厚みが、周方向におけるすべての部位で等しく、径方向における1の部位と他の部位とで異なる、具体的には、軸線Oを含む断面において座面26mおよび座面26nを軸方向外側に向かって膨らんだ曲線で形成し、外径側に向かうにつれて軸方向厚みを小さくして、座面26m,26nの凹凸形状をそれぞれ、内径側ほど膨らんだ形状とする。あるいは図9の縦断面図に示すように、軸線Oを含む断面において座面26m,26nを直線で形成し、外径側に向かうにつれて軸方向厚みを小さくして、座面26m,26nの凹凸形状をそれぞれ、内径側ほど突出した形状としてもよい。図8および図9に示す中間部材26によれば、内径側ほど軌道輪13の接触応力が大きくなる。これにより、スラスト軸受12の径方向撓みや、中間部材26の径方向撓みや、スラスト軸受12または中間部材26のミスアライメントを考慮して回転トルクを検出することができる。なお座面26mおよび座面26nの形状は、図6〜図9に示すように軸線O方向に直角な直線に関して対称とする必要がある。軸方向の一方の座面26mと他方の座面26nとで凹凸形状が異なると、スラスト軸受12のスラスト荷重が第1スラスト軸受12mと第2スラスト軸受12nとで異なるものとなり、回転バランスが崩れ、安定した回転トルク測定が困難になるためである。
【0041】
スラスト軸受12が使用される実機を忠実に再現する場合は、図6(b)および図8(b)に示す他、座面26m,26nが実機の接触応力の変化に応じた凹凸形状である中間部材26を使用するとよい。例えば、座面26m,26nの断面が、単一円弧の断面であったり、幾つかの異なる円弧をつなげ合わせた複合円弧の断面であったりする中間部材26を使用するとよい。
【0042】
なお簡易的に、スラスト軸受12の取り付け誤差による影響を判断するには、図7および図9に示すように、座面26m,26nが直線の断面になる中間部材26を使用するとよい。
【0043】
次に、偏荷重をスラスト軸受12に付与することにつき詳細に説明する。
【0044】
前述した図3に示す実施例では、円盤形状の中間部材26の両座面26m,26n間の軸方向厚みが、周方向における突出部26eと非突出部26fとで異なる。具体的には、突出部26eを非突出部26fよりも軸線O方向に寸法Dだけ突出させて座面26m,26nの凹凸形状を形成する。そして、スラスト軸受12のうち突出部26eと接触する部位のみに荷重を付与し、スラスト軸受12のうち非突出部26fと向き合って接触しない箇所には付与しない。
【0045】
これにより、スラスト軸受12に偏荷重を付与することができる。したがって、座面26m,26nの突出させる部位を適宜選定することにより、スラスト軸受12が実際に使用される実機の荷重条件を再現することができる。
【0046】
好ましくは、円盤形状の中間部材26の一端面が有する座面26mの凹凸形状と、他端面が有する座面26nの凹凸形状とを同じとし、かつ周方向において同位相とする。つまり、一方側26mの軸方向突出量と他方側26nの軸方向突出量とを、すべての周方向部位において同じにする。具体的には、例えば図3に示すように、座面26mおよび座面26nは両方とも、同形状になる扇型の突出部26eを有する。突出量は両座面26m,26nとも寸法Dである。そして、座面26mの突出部26eと座面26nの突出部26eとは周方向位置において一致する。これによりスラスト軸受12に付与する偏荷重の回転バランスが崩れることなく、回転トルクを安定して検出することができる。特に両座面26m,26nの凹凸形状が複雑な場合には、両座面26m,26nの凹凸形状が同じであり、かつ周方向において同位相であることが、安定した回転トルクの検出に資する。
【0047】
なお、中間部材26の中心孔27内周面と、この中心孔27を貫通する回転軸22の外周面との間に、ラジアル転がり軸受30を設けると、回転軸22が中間部材26を案内してスラスト軸受回転トルク検出装置21内における中間部材26のアライメントが向上し、中間部材26を安定して支持することができる。この場合、好ましくは回転軸22の外周面はラジアル転がり軸受30の内輪31と隙間を伴って緩く嵌っているのがよい。また、回転軸22の外周面には、内輪31の軸方向両側でカラー33を設け、内輪31が回転軸22から抜け出ることを防止する。これにより、検出部28がラジアル転がり軸受30の回転トルクを検出することを回避して、スラスト軸受12の回転トルクを安定して検出することができるとともに、検出精度が向上する。
【0048】
これまで説明した図6(b)、図8(b)等に示す軸方向厚み変化は、本発明の理解を容易にするために誇張して描いたものであり、実際の厚み変化は、肉眼では判別し難いほど僅かである。
【0049】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係るスラスト軸受回転トルク検出装置は、スラスト軸受の回転トルクを検出する技術に有効に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施例になるスラスト軸受回転トルク検出装置を示す縦断面図である。
【図2】同実施例の中間部材を例示するものであり、(a)は正面図、(b)は縦断面図である。
【図3】同実施例の中間部材を例示するものであり、(a)は正面図、(b)は縦断面図である。
【図4】同実施例に取り付ける供試スラスト軸受を拡大して示す縦断面図である。
【図5】同実施例に取り付ける供試スラスト軸受の向きを説明するための参考図である。
【図6】同実施例の中間部材を例示するものであり、(a)は正面図、(b)は縦断面図である。
【図7】図6に示す中間部材の変形例を示す縦断面図である。
【図8】本発明の一実施例になる中間部材を例示するものであり、(a)は正面図、(b)は縦断面図である。
【図9】図8に示す中間部材の変形例を示す縦断面図である。
【図10】従来一般のスラスト軸受回転トルク検出装置を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0052】
12 供試スラスト軸受、12m 第1スラスト軸受、12n 第2スラスト軸受、13 軌道輪、21 スラスト軸受回転トルク検出装置、22 回転軸、24 第1回転部材、24m 端面、25 第2回転部材、25n 端面、26 中間部材、26m 座面、26n 座面、27 中心孔、28 検出部、30 ラジアル転がり軸受、31 ラジアル転がり軸受の内輪、32 荷重付与機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラスト軸受の回転トルクを検出するスラスト軸受回転トルク検出装置であって、
回転軸の一端側に連結されて回転軸とともに回転し、第1スラスト軸受の一方側と接触するための第1回転部材と、
回転軸の他端側に軸方向ストローク可能に連結されて回転軸とともに回転し、第2スラスト軸受の一方側と接触するための第2回転部材と、
前記回転軸が貫通する中心孔を備えた円盤形状であり、前記第1回転部材および前記第2回転部材との間に配置されて、第1回転部材と対向する側の端面に前記第1スラスト軸受の他方側と接触するための座面を有し、前記第2回転部材と対向する側の端面に前記第2スラスト軸受の他方側と接触するための座面を有する中間部材と、
第2回転部材に軸方向荷重を付与する荷重付与機構と、
前記中間部材と連結されて、前記第1スラスト軸受および前記第2スラスト軸受から中間部材に入力される回転トルクを検出する手段とを備えた、スラスト軸受回転トルク検出装置。
【請求項2】
前記第1スラスト軸受および前記第2スラスト軸受はそれぞれ、前記一方側および前記他方側に軌道輪を備え、
これら一対の軌道輪は、互いに形状が異なる前面軌道輪および背面軌道輪からなり、
前記中間部材の第1回転部材側の座面は、第1スラスト軸受の背面軌道輪と接触してこれを固定するためのものであり、
前記中間部材の第2回転部材側の座面は、第2スラスト軸受の背面軌道輪と接触してこれを固定するためのものである、請求項1に記載のスラスト軸受回転トルク検出装置。
【請求項3】
前記中間部材の第1回転部材側の座面と第2回転部材側の座面との間の軸方向厚みが、周方向におけるすべての部位で等しく、径方向における1の部位と他の部位とで異なる、請求項1または2に記載のスラスト軸受回転トルク検出装置。
【請求項4】
前記中間部材の第1回転部材側の座面と第2回転部材側の座面との間の軸方向厚みが、周方向における1の部位と他の部位とで異なる、請求項1または2に記載のスラスト軸受回転トルク検出装置。
【請求項5】
前記中間部材の一端面が有する座面の凹凸形状と、他端面が有する座面の凹凸形状とが同じであり、かつ周方向において同位相である、請求項4に記載のスラスト軸受回転トルク検出装置。
【請求項6】
前記中間部材の座面は、前記回転軸を中心とする扇型の突出部を有する、請求項5に記載のスラスト軸受回転トルク検出装置。
【請求項7】
前記中間部材の第1回転部材側の座面と第2回転部材側の座面との間の軸方向厚みが、一定である、請求項1または2に記載のスラスト軸受回転トルク検出装置。
【請求項8】
前記中間部材の中心孔と、前記回転軸との間には、ラジアル転がり軸受が設けられ、
前記回転軸の外周面は前記ラジアル転がり軸受の内輪と隙間を伴って嵌っている、請求項1〜7のいずれかに記載のスラスト軸受回転トルク検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−257879(P2009−257879A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−105860(P2008−105860)
【出願日】平成20年4月15日(2008.4.15)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】