説明

スルホン化ポリエーテルエーテルケトンケトン、これを用いたフィルム、およびその作製方法

【課題】スルホン化ポリエーテルエーテルケトンケトン、これを用いたフィルム、およびその作製方法を提供する。
【解決手段】シクロアルケニル基を含む一連の架橋反応可能なスルホン化ポリ(エーテルケトン)を芳香族求核置換反応(aromatic nucleophilic substitution reaction)により合成した。燃料電池用膜の膨潤を抑えるために、ラジカル重合によりこれらポリマーを架橋させることを検討した。これらポリマーフィルムは優れた熱および酸化安定性を示すと共に、熱水中で望ましい寸法安定性を示した。1実施例の室温におけるプロトン導電率は7.52×10−2S/cmにも達する。上記の結果より、シクロアルケニル基を含むこれら材料は、燃料電池の安価なプロトン交換膜用の材料になり得ることが分かる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、出願日を2008年12月26日とする台湾特許出願第097150829号の優先権を主張するものであり、その全体がここに参照として組み入れられる。
【0002】
[技術分野]
本発明はプロトン交換膜に関し、より詳細にはプロトン交換膜の膨潤度および寸法安定性を改善するための組成および処方に関する。
【背景技術】
【0003】
フィルム(film)または膜(membrane)は多くの工業分野において重要な要素である。フィルムは、電気分析、電解、透析、または燃料電池の選択透過膜(perm-selective membranes)、または所謂プロトン交換膜に適用される際には、それぞれ特定の性質を持つように作られる。燃料電池は化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換するもので、その陽極と陰極はプロトン交換膜により隔てられており、プロトンのみが該膜を通って動くことができるようになっている。
【0004】
スルホン化ポリ(エーテルケトン)(Sulfonated poly(ether ketone)s)はイオン交換膜の一種であり、動作温度が70℃未満の用途に用いられる。スルホン化ポリエーテルケトンイオン交換膜は化学的安定性、熱安定性、および機械的強度を備えるが、動作温度が70℃より高くなると、激しく膨潤し、ついには溶解してしまう。しかしその一方で、高温による寸法変化(dimensional deformation)の問題が解決できれば、スルホン化ポリ(エーテルケトン)イオン交換膜は、その優れた電気化学特性から、燃料電池のプロトン交換膜として非常に適したものとなり得る。
【0005】
したがって、高温燃料電池へ適用するべく化学的安定性および機械的強度が改善された新規なスルホン化ポリ(エーテルケトン)が求められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した事情に鑑みて、本発明の目的は、スルホン化ポリエーテルエーテルケトンケトン、これを用いたフィルム、およびその作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は下記式1で示される構造を有するスルホン化ポリ(エーテルエーテルケトンケトン)(sulfonated poly(ether ether ketone ketone))を提供する。
【化1】

式中、Rは下記式2で示される構造を有し、Arはそれぞれ独立にフェニル基、ナフチル基、アントリル基、またはフェナントリル基から選ばれたものであり、nは0から2の整数であり、aおよびbの比率はa:bの比で95:5から70:30である。
【化2】

【0008】
本発明はまた、上記スルホン化ポリ(エーテルエーテルケトンケトン)、およびラジカル開始剤を含むフィルム処方(film formula)をも提供する。
【0009】
本発明はさらに、上記フィルム処方を溶媒に溶かして溶液を作る工程、その溶液を基板上に形成し、エネルギーを与えてスルホン化ポリ(エーテルエーテルケトンケトン)をラジカル架橋反応させる工程、および溶媒を除去してフィルムを形成する工程、を含むフィルムの作製方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高温下での膨潤度および寸法変化率が有効に低減されたと共に、酸化安定性に優れたフィルムが得られる。かかるフィルムは燃料電池のプロトン交換膜として適用可能であり、かつ安価である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例のフィルムの吸水膨潤率対温度曲線である。
【図2】実施例のフィルムの寸法変化率対温度曲線である。
【図3】1実施例のフィルムのプロトン導電率対温度曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
添付の図面を参照にしながら、以下の実施形態においてより詳細な説明を行う。
【0013】
添付の図面を参照に下記の詳細な説明および実施例を読めば、本発明をより完全に理解することができる。
【0014】
以下の記載は本発明を実施するための最良の形態である。この記載は本発明の主要な原理を説明するためのものであり、限定の意味で解されるべきではない。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲を参照に判断されなくてはならない。
【0015】
本発明は、式1で示されるスルホン化ポリ(エーテルエーテルケトンケトン)(sulfonated poly(ether ether ketone ketone))(以下、SPEEKKという。)を提供する。
【化3】

式1中、Rは式2で示される構造を持つ。
【化4】

式1中、各Arはそれぞれ独立にフェニル基、ナフチル基、アントリル基、またはフェナントリル基から選ばれたものである。例えば、フェニル基(Ar)のヒドロキシル基およびスルホン化基(sulfonated group)の置換位置は、オルト、メタまたはパラであってよい。nは0から2の整数である。aおよびbの比率はa:bの比で95:5から70:30である。aの比率が高すぎるとラジカル架橋の程度が低くなって、高温下でのフィルムの吸水膨潤率(water uptake ratio)および寸法変化率(dimensional deformation ratio)が高くなる。aの比率が低すぎると、フィルムのプロトン導電率およびイオン交換能が低くなり、約10−3から10−2S/cmとなる。
【0016】
式1中のSPEEKKの合成は式3に示すとおりである。
【化5】

【0017】
次いで、上記SPEEKKとラジカル開始剤を溶媒に溶かし、その溶液を、スピンオンコーティング、スプレーコーティング、ディッピング、溶媒キャスティング(solvent casting)、またはローリングプロセスにより基板上に形成する。その溶液層にエネルギーを与えてラジカル開始剤を解裂させラジカルを発生させることで、シクロアルケニル基(R)の二重結合に架橋反応を起こさせる。該エネルギーのタイプは、ラジカル開始剤のタイプにより決める。例えば、熱開始剤の場合、エネルギーは熱、光開始剤の場合、エネルギーは適切な波長の光とする。
【0018】
光開始剤は、例えば2−メチル−1−(4(メチルチオ)フェニル)−2−モルホリノ−プロパン(2-methyl-1-(4(methylthio)phenyl)-2-morpholino-propane)、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(1-hydroxycyclohexyl phenyl ketone)、ジエトキシアセトフェノン(diethoxyacetophenone)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(2-hydroxy-2-methyl-1-phenyl-propane-1-one)、2−ベンジル−2(ジメチルアミノ)−1−[4−(モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン(2-benzyl-2(dimethylamino)-1-[4-(morpholinyl)phenyl]-1-butanone)、およびこれらと同類のものなどのアセトフェノンとすることができる。光開始剤としてさらに、 例えばベンゾインメチルエーテル(benzoin methyl ether)、ベンジルジメチルケタール(benzyl dimethyl ketal)、およびこれらと同類のものなどのベンゾインが挙げられる。適した光開始剤として、ベンゾフェノン(benzophenone)、4−フェニルベンゾフェノン(4-phenyl benzophenone)、ヒドロキシルベンゾフェノン(hydroxyl benzophenone)、およびこれらと同類のものを挙げることができる。また、光開始剤は、例えばイソプロピルチオキサントン(isopropyl thioxanthone)、2−クロロチオキサントン(2-chlorothioxanthone)、およびこれらと同類のものなどのチオキサントンとしてもよい。例えば2−エチルアントラキノン(2-ethylanthraquinone)およびこれと同類のものなどのアントラキノンも光開始剤として適している。上述した光開始剤は単独で、または感光速度をより速めるために組み合わせて用いてもよく、組み合わせの例としては、例えばイソプロピルチオキサントンおよび2−ベンジル−2(ジメチルアミノ)−1−[4−(モルホリニル)フェニル−1−ブタノンとすることができる。
【0019】
熱開始剤としては、例えば2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル(2,2’-azobis(2,4-dimethyl valeronitrile))、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(dimethyl 2,2’-azobis(2-methylpropionate))、2,2−アゾビスイソブチロニトリル(2,2-azobisisobutyronitrile, AIBN)、2,2−アゾビス(2−メチルイソブチロニトリル)(2,2-azobis(2-methylisobutyronitrile))、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)(1,1’-azobis(cyclohexane-1-carbonitrile))、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド](2,2’-azobis[N-(2-propenyl)-2-methylpropionamide])、1−[(シアノ−1−メチルエチル)アゾ]ホルムアミド(1-[(cyano-1-methylethyl)azo]formamide)、2,2’アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド(2,2’azobis(N-butyl-2-methylpropionamide))、2,2’−アゾビス(N−シクロへキシル−2−メチルプロピオンアミド(2,2’-azobis(N-cyclohexyl-2-methylpropionamide))、およびこれらと同類のものなどのアゾ化合物、例えばベンゾイルパーオキサイド(benzoyl peroxide)、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(1,1-bis(tert-butylperoxy)cyclohexane)、2,5−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−2,5−ジメチルシクロヘキサン(2,5-bis(tert-butylperoxy)-2,5-dimethylcyclohexane)、2,5−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−2,5−ジメチル−3−シクロヘキシン(2,5-bis(tert-butylperoxy)-2,5-dimethyl-3-cyclohexyne)、ビス(1−(tert−ブチルパーオキシ)−1−メチル−エチル)ベンゼン(bis(1-(tert-butylpeorxy)-1-methy-ethyl)benzene)、tert−ブチルヒドロパーオキサイド(tert-butyl hydroperoxide)、tert−ブチルパーオキシベンゾエート(tert-butyl peroxybenzoate)、クメンヒドロパーオキサイド(cumene hydroperoxide)、シクロヘキサノンパーオキサイド(cyclohexanone peroxide)、ジクミルパーオキサイド(dicumyl peroxide)、ラウロイルパーオキサイド(lauroyl peroxide)、およびこれらと同類ものもなどのパーオキサイドを挙げることができる。上述した熱開始剤は単独で、または必要であれば組み合わせて用いることが可能である。
【0020】
1実施形態では、フィルム処方のSPEEKK溶液とラジカル開始剤の重量比をSPEEKK溶液:ラジカル開始剤の比で、100:2として架橋を進行させる。1実施形態では、フィルム処方は、例えば二重結合を含むシラン、ジビニルベンゼン、もしくはアルケニルオリゴマーなどの二重結合化合物、および/または三重結合化合物をさらに含んでいてもよい。
【0021】
フィルム処方中のSPEEKKのシクロアルケニル基はラジカル開始剤によって架橋反応するため、高温下でのフィルムの膨潤度および寸法変化率が有効に低減される。さらに該フィルムは優れた酸化安定性をも備えることから、高温プロトン交換膜として適用可能である。
【実施例】
【0022】
《実施例1(シクロアルケニルジオール(cycloalkenyl diol)の合成)》
式4に示すように、p−ベンゾキノンをジクロロメタン中に溶解し、再結晶させて精製した。精製したp−ベンゾキノン(200mmol)21.62gをメタノール(95%)500mL中に溶解してから、−78℃でシクロペンタジエン(260mmol)17.55mLをゆっくり加えた。続いてその混合物を、−78℃からゆっくり攪拌しながら室温にし、次いで室温で8時間反応させてから、メタノールで再結晶し、31.36gの生成物を得た(収率90%)。式4の生成物の水素スペクトルは次のとおりであった。H NMR(200MHz in CDCl): δ1.23−1.26(dd,1H)、1.37−1.40(dd,1H)、3.18 (s,2H)、3.51(s,2H)、6.02(s,2H)、6.53 (s,2H,CH=CH)。
【化6】

【0023】
次いで、式5に示すように、式4の生成物をピリジン15mL中に溶解し、氷浴に入れて無水酢酸7.5mLをゆっくり加えた。次に、その混合物をゆっくり攪拌しながら室温(25℃)にした後、室温で7日間反応させて暗褐色の溶液を得た。得られた反応物に、等量の氷水を数回加え入れ、ビンの壁面をこすって結晶化を促してから激しく攪拌すると、ビン底に大量の暗赤色(dark red)の沈殿物が得られた。その沈殿物をエーテルに溶かし、エタノールで2回再結晶して3.82gの生成物を得た(収率20%)。式5の生成物の水素スペクトルは次のとおりであった。H NMR(200MHz in CDCl):δ2.22(s,2H)、2.31(s,6H)、3.89(s,2H)、6.65(s,2H,CH=CH)、6.80(s,2H)。
【化7】

【0024】
次いで、式6に示すように、式5の生成物(200mmol)13.5gを乾燥エーテルに溶かし、氷浴に入れてLAHをゆっくり加え、窒素環境下にてゆっくり攪拌してから、室温に置いて24時間反応させた。得られた反応物を氷浴に入れ、蒸留水を加えて未反応のLAHを中和した後、有機層が透明になるまで塩酸を加えた。その混合物を回転エバポレータ(rotation evaporator)で真空引きしてエーテルを除去し、次いでクロロホルムで再結晶して6.58gの生成物を得た(収率90%)。式6の生成物の水素スペクトルは次のとおりであった。H NMR(200MHz in CDCl):δ2.18−2.20(dd,1H)、2.23−2.25(dd,1H)、4.08(s,2H)、4.39(s,2H,−OH)、6.35(s,2H,CH=CH)、6.79(s,2H)。
【化8】

【0025】
《実施例2》
1,3−ビス(4−フルオロベンゾイル)ベンゼン(1,3-bis(4-fluorobenzoyl)benzene)(5.70mmol、アルドリッチ社より購入)1.85g、2,3−ジヒドロキシ−ナフタレン−6−スルホン酸モノナトリウム塩(2,3-dihydroxy-naphthalene-6-sulfonic acid monosodium salt)(5.14mmol、TCIより購入)1.35g、実施例1における式6のシクロアルケニルジオール生成物(0.57mmol)0.1g、および炭酸カリウム(8.61mmol)1.19gをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)10mLおよびトルエン10mLの共溶媒(co-solvent)に溶解した。その溶液を、160℃に加熱して4時間反応させた後、トルエンを留去した。そのNMP溶液を175℃に加熱して48時間反応させた。重合後、室温でメタノール100mLを加え、赤紫色(purple red)の固体を沈殿させろ過した。そのろ過ケーキ(filtered cake)を蒸留水およびメタノールで数回洗浄してから、真空オーブンで乾燥させて2.85gの生成物を得た(収率86%)。上述の反応は式7に示すとおりであり、式中のaおよびbのモル比はa:bの比で9:1である。式7の生成物の水素スペクトルは次のとおりであった。H NMR(300MHz in DMSO−d): δ8.18(s,1H)、7.84−7.97(m,6H)、7.57−7.72(m,6H)、7.04(s,4H)、6.82(s,2H)、6.72(s,2H)、3.79(s,2H)、2.15−2.20 (m, 2H)。(注:およびは、フェニルvs.シクロアルケニル部分(moieties)のモル比〜9:1を表す。)
【化9】

【0026】
《実施例3(フィルムの作製)》
実施例2のポリマー生成物(Na form)をNMPに溶解して10%NMP溶液を作った。そのNMP溶液に、開始剤として2wt%のAIBNを加え、溶媒キャスティングの方式によりガラス板上に滴下してから、勾配加熱(gradient heating)により溶媒をゆっくり揮発させて成膜させた。勾配加熱の工程は窒素環境下で進行し、かつ次に示すとおりに行った。つまり、85℃まで加熱して24時間ラジカル重合を進行させ、95℃まで加熱して6時間95℃に保ち、105℃まで加熱して6時間105℃に保ち、さらに120℃まで加熱して12時間真空引きし、フィルムを作った。
【0027】
そのフィルムを2M HCl溶液中に24時間浸漬することでスルホネート上のナトリウムイオンをプロトンに置き換えた。その酸性化したフィルム(acidified film)を蒸留水中に24時間浸漬し、フィルム表面に残留した酸を除去した。この際、pH値が酸性のレベルではなく、中性のレベルを呈するようになるまで、蒸留水を数回交換した。
【0028】
《実施例4》
実施例2に類似する。実施例4で相違するのは、2,3−ジヒドロキシ−ナフタレン−6−スルホン酸モノナトリウム塩と実施例1における式6のシクロアルケニルジオール生成物とのモル比(a:b)を8:2にしたことのみである。
【0029】
《実施例5》
実施例2のSPEEKKポリマーをNMPに溶解して10%NMP溶液を作った。そのNMP溶液に、熱開始剤として2wt%のAIBNを加え、ガラス板上に滴下してから、勾配加熱により溶媒をゆっくり揮発させて成膜させた。勾配加熱の工程は窒素環境下で進行し、かつ次に示すとおりに行った。つまり、70℃まで加熱しAIBNを熱的に解裂することによりラジカルを生じさせてSPEEKKのシクロアルケニル基を12時間架橋反応させ、80℃まで加熱して6時間80℃に保ち、90℃まで加熱して6時間90℃に保ち、さらに110℃まで加熱して12時間真空引きすることで溶媒を除去し、フィルムの作製を完成させた。
【0030】
《実施例6》
実施例5と類似する。実施例6で相違するのは、そのSPEEKK生成物を、実施例2ではなくて、実施例4より得られたものとした点のみである。実施例6のAIBNの比率および加熱工程は実施例5と同様である。
【0031】
《実施例7(比較例)》
実施例5に類似する。実施例7で相違するのは、AIBN熱開始剤を用いなかった点のみである。実施例7の加熱工程は実施例5と同様である。
【0032】
《実施例8(比較例)》
実施例6に類似する。実施例8で相違するのは、AIBN熱開始剤を用いなかった点のみである。実施例8の加熱工程は実施例6と同様である。
【0033】
実施例5および6のフィルムの化学構造は200℃をこえる温度で熱的に安定であることが、実験により示された。よって当該フィルムは、膜燃料電極(membrane fuel electrode)の熱プレス(thermal pressing)工程においてその化学構造を保持することができる。実施例5および6のフィルムのスルホン化率(sulfonated ratio)はそれぞれ90%および80%であるが、このように高いスルホン化率であっても、フィルムが過度に膨潤するまたは熱水中で溶解することはなかった。図1および2に示されるように、これらフィルムの25℃における吸水膨潤率(water uptake ratio)は24%から43%であり、寸法変化率は8%から14%であった。一方、式6のシクロアルケニル基を含まない従来のSPEEKKは、吸水膨潤率が高いために、60℃をこえる温度で膨潤および変形した。このように、本発明に係るシクロアルケニル基のSPEEKKでは、架橋することによって、吸水膨潤率と膨潤度を有効に低減させることができた。
【0034】
実施例7および8では、フィルム形成の処方中に例えばAIBNのような熱開始剤が欠けているため、シクロアルケニル基が部分的にしか架橋せずに、その架橋の程度が不十分なものであった。図1〜2に示されるように、実施例7および8のフィルムの吸水膨潤率と膨潤度は有効に下がらなかった。
【0035】
《実施例9》
実施例5から8のフィルムのイオン交換能(IEC)およびプロトン導電率を測定し、表1に示した。フィルムの寸法は5cm×5cm×0.01〜0.02cmとした。これらフィルムの室温でのプロトン導電率は10−2S/cm以上であった。図3に示されるように、実施例6のフィルムのプロトン導電率は7.52×10−2S/cmであり、かつ高湿・高温下でのプロトン導電率は0.2S/cmに近いものであった。実施例6のフィルムのスルホン化基(sulfonated group)の分解温度は205℃、ガラス転移温度(Tg)は226℃であった。
【0036】
フィルムの酸化安定性(oxidative stability)、をフェントン試験(Fenton’s test)により測定した。先ず、乾燥させたフィルムをフェントン試薬(Fenton’s reagent)に浸し、フィルムが溶解したかを調べた。フィルムが溶解しなかった場合は、フィルムの残渣重量を記録した。フェントン試薬は、2ppm FeSOを3% Hに溶かすことにより調製した。フェントン試験によって示されるように、実施例5〜6のフィルムは酸化安定性を備えており、よってこれらは高温プロトン交換膜として適用可能なフィルムである。
【0037】
【表1】

【0038】
以上、実施例および好適な実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらに限定はされないと解されるべきである。本発明は、(当業者には明らかであるように) 各種の変更および類似のアレンジが包含されるべく意図されている。よって、添付の特許請求の範囲は、かかる変更および類似のアレンジがすべて包含されるように、最も広い意味に解釈されなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式1で示される構造を有するスルホン化ポリエーテルエーテルケトンケトン(sulfonated polyether ether ketone ketone)。
【化10】

(式中、Rは下記式2で示される構造を有し、
Arはそれぞれ独立にフェニル基、ナフチル基、アントリル基、またはフェナントリル基から選ばれたものであり、
nは0から2の整数であり、かつ
aおよびbの比率はa:bの比で95:5から70:30である。)
【化11】

【請求項2】
下記式8で示される構造を有する請求項1に記載のスルホン化ポリエーテルエーテルケトンケトン。
【化12】

【請求項3】
請求項1または2に記載のスルホン化ポリエーテルエーテルケトンケトン、および
ラジカル開始剤、
を含むフィルム処方(film formula)。
【請求項4】
前記ラジカル開始剤が、光開始剤または熱開始剤を含む請求項3に記載のフィルム処方。
【請求項5】
二重結合化合物および/または三重結合化合物をさらに含む請求項3または4に記載のフィルム処方。
【請求項6】
前記二重結合化合物が、シラン、ジビニルベンゼン、またはアルケニルオリゴマーを含む請求項5に記載のフィルム処方。
【請求項7】
フィルムの作製方法であって、
請求項3のフィルム処方を溶媒に溶かして溶液を作る工程、
前記溶液を基板上に形成し、エネルギーを与えて前記スルホン化ポリエーテルエーテルケトンケトンをラジカル架橋反応させる工程、および
前記溶媒を除去してフィルムを形成する工程、
を含む方法。
【請求項8】
前記エネルギーが光または熱を含む請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記溶液に二重結合化合物および/または三重結合化合物を加える工程をさらに含み、前記ラジカル架橋反応させる工程において、前記スルホン化ポリエーテルエーテルケトンケトン、前記二重結合化合物および/または前記三重結合化合物を前記エネルギーによりラジカル架橋反応させる請求項7に記載の方法。
【請求項10】
請求項1のスルホン化ポリエーテルエーテルケトンケトンを架橋させた架橋物を含むフィルム。
【請求項11】
前記架橋物は、二重結合化合物および/または三重結合化合物をさらに共架橋させてなるものである請求項10に記載のフィルム。
【請求項12】
前記二重結合化合物が、シラン、ジビニルベンゼン、またはアルケニルオリゴマーを含む請求項11に記載のフィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−155968(P2010−155968A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228399(P2009−228399)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(390023582)財団法人工業技術研究院 (524)
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】195 Chung Hsing Rd.,Sec.4,Chutung,Hsin−Chu,Taiwan R.O.C
【出願人】(504007741)國立中央大學 (28)
【Fターム(参考)】