説明

ズームレンズ

【課題】ズームレンズを提供する。
【解決手段】ズームレンズ60は、物側から像側へ、前部レンズ群72と、制御可能なレンズ群62,66と、後部レンズ群74とを備え、前記制御可能なレンズ群62、66は電圧制御エレクトロウェッティング装置を備え、この装置は、異なる屈折率を有する第1の流体Aおよび第2の流体Bを含み、少なくとも2つの第1流体第2流体間界面を有する。これらの界面の曲率、従ってレンズ倍率を、装置の電極に電圧を供給することによって、独立して変化させることができるため、レンズ素子の機械的な移動を必要としない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも第1の固定レンズ群と、第2の固定レンズ群と、制御可能なレンズ群とを有するズームレンズに関する。
【0002】
本発明はまた、このようなズームレンズを備えるカメラ、およびこのようなカメラを備える手持ち式装置に関する。
【背景技術】
【0003】
従来のズームレンズは、固定屈折面曲率を有し、ガラスのような透明材料または透明プラスチックで作成された、いくつかの固体レンズ素子を含んでいる。これらのレンズ素子は、物側の前部レンズ群と、像側の後部レンズ群と、前部群と後部群との間の制御可能なレンズ群とにグループ分けされる。これらの各群は、1つ以上のレンズ素子からなってもよい。制御可能なレンズのレンズ素子は、ズームおよび焦点合わせを行うために互いに対して移動可能となっている。ズームとは、レンズ系の焦点距離を変化させることによって画像倍率を変化させること、即ち結像される物体風景の大きさを選択することを意味すると理解されている。ズームレンズの最大の設定は、物体風景の小さな部分が結像されるテレ構成、および物体風景の大きな部分が結像されるワイド構成である。制御可能なレンズ群のレンズ素子を移動させることによって、ズームレンズをこれら2つの極端構成とその間の構成との間で設定することができる。焦点合わせとは、選択された物体風景の焦点をズームレンズ系の構成ごとに合わせることを意味すると理解されている。
【0004】
レンズ素子の必要とされる機械的な動きのために、従来のズームレンズはその光軸に沿って大きな寸法を有しているので、小型化にはあまり適していない。エネルギーを消費する電気モーターを用いていくつかのレンズ素子を移動させる。ズームレンズが携帯電話のような小型の手持ち式且つバッテリー電力供給式の装置の一部を形成する小型カメラに使用される場合、ズームレンズを小型化させる必要がある。電気モーターは大量のバッテリー電力を消費し、機械的脆弱性が問題となるので、従来のズームレンズ設計はこのような使用には適していない。さらに、機械的なズームは一定の時間を要する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、小型カメラに適したズームレンズを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このズームレンズは、制御可能なレンズ群が電圧制御エレクトロウェッティング装置を備えることを特徴とし、この装置は、異なる屈折率を有する第1の流体および第2の流体を含み、且つ少なくとも2つの第1流体第2流体間界面を備えている。
【0007】
エレクトロウェッティング装置とは、流体チャンバ内に2つの流体を含む新型の光学部品であり、これらの流体は界面を介して接触している。装置の2つの電極の間に電圧を供給することによって、この界面の形状を変化させることができる。
【0008】
流体とは、あらゆる力に応じてその形状を変化させ、流動するまたはそのチャンバの外形に適合する傾向のある物質を意味すると理解されている。このような流体は、気体、液体、および固体と液体との流動可能な混合物であってもよい。
【0009】
レンズ群は1つのみのレンズ素子からなってもよいが、2つまたは3つのレンズ素子を含んでもよい。以下に説明するズームレンズの実施の形態においては、第1および第2のレンズ群はそれぞれ1つのレンズ素子に代表されているが、実際にはこれらの各群はより多くのレンズ素子を備えてもよい。
【0010】
エレクトロウェッティング装置を可変焦点レンズとして構成することができる。このようなレンズにおいて、流体は異なる屈折率を有し、それらの界面はメニスカスの形状を有している。この装置の電極に電圧を印加することによって、メニスカスによって形成された屈折面の曲率が変化し、従ってそのレンズ倍率が変化する。エレクトロウェッティング原理に基づき、2つの独立駆動メニスカスを備えるズームレンズによって、ズーム、即ちメニスカスの一方に関連する電極に供給される電圧を適合させることによってズームレンズの焦点距離を変化させることが可能となる。焦点合わせ、即ちテレとワイドの間のすべての構成で物体の焦点を合わせることは、他方のメニスカスに関連する電極に供給される電圧を適合させることによって行われる。
【0011】
このズームレンズ系においては、レンズ素子の移動を可能にするためにスペースを取る必要がないので、システムの軸方向寸法が大幅に縮小する。モーター駆動レンズ素子は必要とされなくなるため、非常に速いズームおよび焦点合わせを実現することができると共に、ズームおよび焦点合わせのための電力が大幅に低下し、それによってバッテリー電力供給に適したズームレンズ系となる。
【0012】
国際特許公開第97/36193号には、位置固定可変焦点レンズを有するズームレンズ系が記載されている点に注目されたい。これらのレンズはフレキシブルレンズであり、透明流体が満たされるレンズチャンバを形成する柔軟な膜を備えている。屈折レンズ面を形成する膜の曲率を、例えば圧電アクチュエータによって、または液量を変化させることによって変化させることができる。ズームおよび焦点合わせのためには、膜を強く変形させなければならない。変形は電圧によって直接制御されない。さらに、フレキシブルレンズへまたはフレキシブルレンズから流体を送るには電力が必要とされる。
【0013】
さらに、米国特許出願公開第2001/0017985号では、その光透過率を制御することができるエレクトロウェッティング光学素子が記載されている点に注目されたい。この素子は第1の導電性の液体および第2の液体を備え、これらはほぼ等しい屈折率を有しているが、透過率が異なっている。これらの液体は互いに混じり合うことはなく、それらの間の境界線が所定の形状を有するような状態で密閉容器内に入っている。電極を通してこれらの液体の間に電圧が印加されると、その一方が導電性液体と接触し、境界線の形状が変化し、それによって透過光の量が変化する。境界線形状の変化を利用して可変焦点レンズを実現してもよい。このようなレンズを、可変焦点レンズが前部レンズ群とリレーレンズ群との間に配置されるズームレンズ系に使用してもよい。このズームレンズ系はズームに用いられる可変焦点レンズを1つしか備えておらず、前部レンズ群を移動させることによって焦点合わせが行われる。
【0014】
従来のズームレンズ設計に最も近似している新たなズームレンズの実施の態様は、その物側の前部レンズ群と、その像側の後部レンズ群とを有する。この実施の態様は、第1のレンズ群が前部レンズ群であり、第2のレンズ群が後部レンズ群であり、エレクトロウェッティング装置が前記第1のレンズ群と前記第2のレンズ群との間に配置されていることを特徴とする。
【0015】
界面の数、およびエレクトロウェッティングセルでのこれらの界面の分布に関しては、ズームレンズのいくつかの実施の態様が可能である。
【0016】
第1の実施の態様は、前記エレクトロウェッティング装置が2つの第1流体第2流体間界面を有する1つのエレクトロウェッティングセルを備えることを特徴とする。
これは、ズームレンズに適したエレクトロウェッティング装置の最も小型の設計である。
【0017】
第2の実施の態様は、前記エレクトロウェッティング装置がそれぞれ少なくとも1つの第1流体第2流体界面を有する2つのエレクトロウェッティングセルを備えることを特徴とする。
この実施の態様はより大きな設計の自由を提供する。
【0018】
各エレクトロウェッティングセルが2つの第1流体第2流体間界面を有することをさらに特徴とする場合、この実施の態様の性能を大きく向上させることができる。
【0019】
従って、このズームレンズは4つの界面(メニスカス)を備え、それによって大きな設計の自由を提供し、より細かな調整およびより低い電圧の使用を可能にする。
【0020】
好ましくは、ズームレンズは、前記エレクトロウェッティング装置が、それぞれ1つの第1流体第2流体間界面を有する第1および第2のエレクトロウェッティングセルを備えること、および前記第1および第2のエレクトロウェッティングセルの間にレンズ絞りが配置されていることを特徴とする。
【0021】
4つの界面を有する実施の態様と同様の性能を、この実施の態様では、少ない数の界面で、従ってより簡単な装置で達成することができる。装置がより対称的に用いられることを利用しており、即ち第1および第2の界面の類似した表面積を用いて結像ビームを屈折させる。レンズ系内の絞りは、結像ビームの直径を制限するダイヤフラムである。
【0022】
その物側の前部レンズ群と、その像側の後部レンズ群とを有するこの実施の態様は、前記第1のレンズ群が前記前部群であり、前記第2のレンズ群が前記後部群であり、前記エレクトロウェッティング装置が前記第1のレンズ群と前記第2のレンズ群との間に配置されていることをさらに特徴としてもよい。
【0023】
または、この実施の態様は、1つのエレクトロウェッティングセルが前部レンズ群を形成し、前記第2のエレクトロウェッティングセルが後部レンズ群を形成すること、および前記第1のレンズ群および前記第2のレンズ群が前記エレクトロウェッティングセルの間に配置され、前記第1のレンズ群と前記第2のレンズ群との間に前記レンズ絞りが配置されていることをさらに特徴としてもよい。
【0024】
この実施の態様において固定されかつ制御可能なレンズ群の連続は、従来のズームレンズとは全く異なる。
【0025】
本発明の他の側面によれば、ズームレンズの組み込み高さを、このレンズがエレクトロウェッティングセルと前記第1および第2のレンズ群のいずれかとの間に配置された少なくとも1つの折り畳みミラーを備えることをさらに特徴とする場合に、さらに低くすることができる。
【0026】
この実施の態様は、カメラが組み込まれる装置の主面に平行なズームレンズを有するカメラの主要部の配置を可能にする。
【0027】
2つの折り畳みミラーを備え、一方はズームレンズの物側部分にあり、他方はズームレンズの像側部分にあることを特徴とする実施の態様によって、最小限の組み込みサイズが得られる。
【0028】
エレクトロウェッティングセルの可能な設計に関し、前記ズームレンズにおいて、エレクトロウェッティングセルは、
円筒壁を有し、第1の流体および軸方向に変位された少なくとも1つの第2の流体を含むほぼ円筒形の流体チャンバと、
円筒壁の内側に配置された流体接触層と、
前記流体接触層によって前記第1の流体および前記第2の流体と隔てられた第1の電極と、
前記第2の流体に作用する第2の電極と、を備え、
前記各流体は非混和性であり、メニスカス界面に渡って接触し、異なる屈折率を有し、
前記流体接触層は、前記第1の電極と前記第2の電極との間の電圧の印加の下で変化する前記第2の流体による湿潤性を有し、それによって前記メニスカスの形状が前記電圧に従って変化し、
前記第2の流体による前記流体接触層の湿潤性は、前記第1および第2の電極間に電圧が印加されていない時には、前記接触層との前記メニスカスの交差の両側でほぼ等しいことを特徴とすることが好ましい。
【0029】
交差の両側での前記流体接触層の等しい湿潤性によって前記第2の流体の比較的大きな移動が可能となり、その結果、前記メニスカスの曲率の比較的大きな変化が可能となる。これはズームレンズにとっては大きな重要性である。
【0030】
この種のズームレンズにおいて、エレクトロウェッティングセルの数、これらのセルにおける界面の数、および固定レンズ群およびセルの順序を、ここで上に説明したようにしてもよい。
【0031】
2つのエレクトロウェッティングセルを備えるこの種のズームレンズは、前記2つのセルが1つの流体チャンバを共有することをさらに特徴としてもよい。
【0032】
大幅に縮小した組み込み高さを有するこの種のズームレンズの実施の態様は、前記流体チャンバが、流体チャンバ壁の反射傾斜部分によって形成される少なくとも1つの折り畳みミラーを備え、前記ミラーはほぼ90°の角度で入射放射線を反射することを特徴とする。
【0033】
この実施の態様は、前記流体チャンバが2つの折り畳みミラーを備え、一方はズームレンズの物側部分にあり、他方はズームレンズの像側部分にあることをさらに特徴とすることが好ましい。
【0034】
この実施の態様は、前記像側部分の折り畳みミラーが前記前部レンズ群と一体化されていることをさらに特徴としてもよい。
このようにして、前記ズームレンズの素子の数が1つ減り、製造コストが低下する。
【0035】
上述の実施の態様のすべては、前記第1の流体が絶縁液体を含み、前記第2の流体が導電性液体を含むことをさらに特徴としてもよい。
【0036】
または、これらの実施の態様は、前記第1の流体が蒸気を含み、前記第2の流体が導電性液体を含むことを特徴としてもよい。
【0037】
前記ズームレンズが組み込まれるカメラは本発明によって提供される特徴によって従来のカメラとは区別されるため、このようなカメラは本発明の一部をなす。
【0038】
手持ち式装置にこのようなカメラを組み込むことによって、このような装置にズーム機能が備わり、このような装置も本発明の一部をなす。
【0039】
本発明のこれらおよび他の態様は、以下に説明する実施の形態を参照することによって限定することのない一例として明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】調節可能なレンズを構成するエレクトロウェッティングセル、および低電圧がその電極に供給される時のセルにおけるメニスカスの曲率を示している。
【図2】中間電圧が供給される時のメニスカスの曲率を示している。
【図3】高電圧が供給される時のメニスカスの曲率を示している。
【図4】2つの独立制御可能メニスカスを有し、ズームレンズに使用するのに適したエレクトロウェッティングセルを示している。
【図5】テレ構成の場合のこのセルを通るビーム光線の曲率および経路を示している。
【図6】ワイド構成の場合のこのセルを通るビーム光線の曲率および経路を示している。
【図7】それぞれ2つの界面を有する2つのエレクトロウェッティングセルを有するズームレンズ示している。
【図8】ワイド構成の場合のこのズームレンズを通るビーム光線のメニスカスの曲率および経路を示している。
【図9】テレ構成の場合のこのズームレンズを通るビーム光線のメニスカスの曲率および経路を示している。
【図10】前部に折り畳みミラーを有するズームレンズ示している。
【図11】後部にも折り畳みミラーを有するこのズームレンズ示している。
【図12】後部に一体化された折り畳みミラーおよびレンズ素子を有するズームレンズ示している。
【図13】ワイド構成の場合のこのズームレンズを通るビーム光線のメニスカスの曲率および経路を示している。
【図14】テレ構成の場合のこのズームレンズを通るビーム光線のメニスカスの曲率および経路を示している。
【図15】ワイド構成の1つの界面を持つ2つのエレクトロウェッティングセルを有する高性能ズームレンズの第1の実施の形態を示している。
【図16】テレ構成の1つの界面を持つ2つのエレクトロウェッティングセルを有する高性能ズームレンズの第1の実施の形態を示している。
【図17】このような高性能ズームレンズの第2の実施の形態を示している。
【図18】このような高性能ズームレンズの第2の実施の形態を示している。
【図19】本発明によるズームレンズを含むカメラが設けられた携帯電話を示している。
【図20】本発明によるズームレンズを含むカメラが設けられたラップトップコンピュータを示している。
【発明を実施するための形態】
【0041】
ズームレンズに可変レンズ素子として用いられることが好ましい可変焦点レンズの実施の一形態の第1の原理を説明することによって、本発明を最もよく明らかにすることができる。
【0042】
図1乃至3は、このようなレンズ1の断面を示している。このレンズは毛細管を形成する円筒形の第1の電極2を備え、透明前部素子4および透明後部素子6によって封止されて2つの流体を含む流体チャンバ5を形成する。電極2は、チューブ7の内壁に塗布された導電塗料であってもよい。
【0043】
この実施の形態において、前記2つの流体は、シリコンオイルまたはアルカン等の、ここではさらに「オイル」と呼ばれる電気絶縁第1液体A、および食塩水溶液等の電気絶縁第2液体Bの形態における2つの非混和性液体から構成される。これら2つの液体は等しい濃度を有するように配列され、それによって方向と無関係に、即ち2つの液体の間の引力の作用に依存せずにレンズが機能することが好ましい。これを、第1の液体成分を適切に選択することによって達成してもよく、例えば分子成分を添加することによってアルカンまたはシリコンオイルを変性させ、それによりそれらの濃度を高めて食塩水の濃度と一致させてもよい。
【0044】
使用されるオイルの選択に応じて、オイルの屈折率は1.25から1.60の間で変化してもよい。同様に、添加される食塩の量に応じて、食塩水の屈折率は1.33から1.48の間で変化してもよい。この実施の形態の流体は、第1の流体Aが第2の流体Bよりも高い屈折率を有するように選択される。
【0045】
第1の電極2は、通常1mmから20mmの内半径の円筒である。電極2は、金属材料から形成され、例えばパリレンの絶縁層8でコーティングされている。絶縁層は50nmから100μmの厚さを有し、通常の値は1μmから10μmである。
【0046】
絶縁層8は流体接触層10でコーティングされ、それによって流体チャンバの円筒壁とのメニスカスの接触角のヒステリシスが減少する。流体接触層は、デュポン(商標)によって製造されているテフロン(登録商標)AF1600等のアモルファスフッ化炭素から形成されることが好ましい。流体接触層10は、5nmから50μmの厚さを有している。AF1600コーティングは、電極2を繰り返し浸漬コーティングすることによって製造されてもよい。電極の円筒形の側面が円筒電極にほぼ平行であるので、ほぼ均一な厚さの材料の均一層がそれによって形成される。電極をその軸方向に沿って浸漬液に出し入れしながら電極を浸すことによって浸漬コーティングが行われる。化学蒸着によってパリレンコーティングを行ってもよい。第1および第2の電極間に電圧が印加されていない時には、第2の流体による流体接触層10の湿潤性は、接触層10とのメニスカス14の交差の両側でほぼ等しい。
【0047】
流体チャンバの一端に、この場合は後部素子6に隣接して第2の環状電極12が配置されている。第2の電極の少なくとも一部は流体チャンバ内に配置されているので、電極が第2の流体Bに作用する。
【0048】
2つの流体AおよびBは非混和性であるため、メニスカス14を間に挟んで2つの流体に分かれる傾向がある。第1および第2の電極2および12の間に電圧が印加されていない時、流体接触層は、第1の流体Aに関しては第2の流体Bよりも高い湿潤性を有する。エレクトロウェッティングのため、第2の流体Bによる湿潤性は、第1の電極と第2の電極との間に電圧が印加された時に変化し、それによって三相線でメニスカスの接触角が変化する傾向がある。三相線とは、流体接触層10と2つの液体AおよびBとの間の接触の線である。従って、メニスカスの形状は印加電圧に従って変化可能である。より高い屈折率を有する流体から見てメニスカスがくぼんでいる場合、第1の流体と第2の流体との間のメニスカスは凹形と呼ばれる。この流体がレンズと見なされる場合、前の分の定義によってメニスカスが凹形であると、このレンズは通常、凹形と呼ばれる。
【0049】
図1を参照すると、例えば0Vから20Vの低電圧Vが電極間に印加される時、メニスカスは第1の凹形メニスカス形状を採用する。この構成において、流体Bで測定されたメニスカスと流体接触層10との間の初期接触角θは、例えば、およそ140°である。第1の流体Aは第2の流体Bよりも高い屈折率を有しているので、ここではメニスカスレンズと呼ばれるメニスカスによって形成されるレンズは、この構成においては比較的高いマイナス倍率を有する。レンズ1を通過する平行ビームbは強く発散する。
【0050】
メニスカス形状のくぼみを小さくするためには、第1および第2の電極間により高い電圧が印加される。次に図2を参照すると、絶縁層8の厚さに応じて例えば20Vから150Vの中間電圧Vが電極間に印加される時、メニスカスは、図1のメニスカスと比較して大きな曲率半径を有する第2の凹形メニスカス形状を採用する。この構成においては、第1の流体Aと流体接触層10との間の中間接触角θは、例えば100°である。第1の流体Aは第2の流体Bよりも高い屈折率を有しているので、この構成におけるメニスカスレンズは比較的低いマイナス倍率を有する。平行ビームbは弱く発散する。
【0051】
凸形メニスカス形状を作るためには、第1および第2の電極間にさらに高い電圧が印加される。次に図3を参照すると、例えば150Vから200Vの比較的高い電圧Vが電極間に印加される時、メニスカスは、凸形メニスカス形状を採用する。この構成においては、第1の流体Aと接触層10との間の最大接触角θは、例えばおよそ60°である。第1の流体Aは第2の流体Bよりも高い屈折率を有しているので、この構成におけるメニスカスレンズはプラスの倍率を有する。このレンズは平行ビームbを収束ビームに変換する。
【0052】
比較的高い倍率を使用して図3の構成を実現することができるが、実際の実施の形態においては、上述のようなレンズを備える装置は、上述の範囲内の低および中間電圧のみを使用するように構成されることが好ましい点に注目されたい。即ち、絶縁層の電界強度が20V/μmよりも小さくなるように印加電圧が制限され、流体接触層の帯電、従って流体接触層の劣化を引き起こす過度の電圧は使用されない。
【0053】
さらに、初期の低電圧構成は、流体(液体)AおよびBのそれらの表面張力に応じた選択に従って変化する点に注目されたい。より高い表面張力を有するオイルを選択することによって、および/またはエチレングリコール等の成分を、その表面張力を低下させる食塩水に添加することによって、初期接触角を小さくすることができる。この場合、レンズは図2に示されたものに相当する低光学倍率構成、および図3に示されたものに相当する中間倍率構成を採用してもよい。いかなる場合でも、メニスカスが凹形になるように低倍率構成が保持され、過度の電圧を用いずに比較的広範囲のレンズ倍率を実現することができる。
【0054】
上記の例において、流体Aは流体Bよりも高い屈折率を有しているが、流体Aは流体Bよりも低い屈折率を有してもよい。例えば、流体Aは、水よりも低い屈折率を有する(過フッ素化)フッ素化オイルであってもよい。この場合、アモルファスフッ素重合体層はフッ素化オイル内で溶解する場合があるので、使用しないことが好ましい。他の流体接触層としては、例えばパラフィンコーティングがある。
【0055】
本発明は、従来のズームレンズの可動レンズ素子を図1乃至3に示された種類のレンズ素子と置き換えることによって新型のズームレンズを提供する。新型のズームレンズは、従来のズームレンズよりも実質的にコンパクトにすることが可能であり、ズーム動作および焦点合わせ動作のために消費する電力が実質的に小さい。これらの特性のため、このズームレンズは、例えば携帯電話、パーソナルデジタルアシスタント(PDA)、パーソナルコンピュータカメラ、内部通話装置および電子ゲーム等の小型および/または手持ち式および/またはバッテリー電力供給式装置の小型カメラに内蔵されるのに非常に適している。
【0056】
図4は、新たなズームレンズの制御可能なレンズ部の可能な構成の断面示しており、この部分は、エレクトロウェッティング装置の形態の2つの可変焦点レンズ24、26を備えている。この装置は導電材料のシリンダ22を備えている。シリンダは絶縁層28でコーティングされている。シリンダの内側には流体接触層30が設けられている。導電シリンダ22は、レンズ素子24および26のための共通第1電極を形成している。第1のレンズ素子24の第2の電極は、放射線を透過する中央透明領域を有する環状導電層32によって構成されている。下側の導電層34は第2のレンズ素子26の第2電極を形成している。透明層36および38はそれぞれ導電層32および34を覆ってもよい。シリンダの中央部分は第1の透明な非導電液体または蒸気Aで満たされる。液体Aの各側には、第2の透明な導電液体Bが存在し、この液体は第1の液体Aよりも低い屈折率を有している。上側の非混和性流体は、第1の可変焦点レンズ素子を形成する第1のメニスカス40によって分離されている。下側の流体AおよびBは、第2の可変焦点レンズ素子を形成する第2のメニスカス42によって分離されている。
【0057】
各メニスカスの曲率、従ってレンズ素子24および26の焦点距離を、それぞれ制御可能な電圧源44および46によって互いに独立して変化させることができる。ズーム、即ちズームレンズの焦点距離を変化させることは、電源44の電圧Vの適合によって第1のレンズ素子24のメニスカス曲率を変化させることによって行われる。焦点合わせ、即ち異なるズーム構成に鮮明な画像を維持することは、電源46の電圧Vの適合によって第2のレンズ素子26のメニスカス曲率を変化させることによって行われる。ズームインとは、ズームレンズ系の焦点距離を大きくすることを意味し、ズームアウトとは、この距離を小さくすることを意味する。
【0058】
図5は、図4の実施の形態と同様であるが、液体AおよびBが交換されているエレクトロウェッティング装置の実施の形態のテレ構成に対するメニスカスの曲率およびビーム光線の経路を示している。テレ構成においては、フィルムまたは電子センサ、例えばCCDまたはCMOSセンサに、風景の小さな物体が結像される。このズームレンズの構成では、第1のメニスカス40は比較的小さな半径を有する凸曲率を有しているため、レンズ素子24は比較的高い倍率を有する正の収束レンズ素子として働く。第2のメニスカス42は凹曲率を有しているため、第2のレンズ素子26は負の発散レンズ素子として働く。入射ビームの境界光線の経路は、図5においては実線で示されている。2つのレンズ素子の組み合わせは、破線52によって示されているように、その第2の主点をレンズの外側およびレンズの物側に有するレンズとして作用する。従って、テレ構成fTeleの組み合わせの焦点距離は比較的大きい。
【0059】
図6は、ワイド構成のズームレンズに対するメニスカスの曲率およびビーム光線の経路を示している。この構成においては、風景のより大きな物体が結像される。ワイド位置では、第1のメニスカス40の凸曲率は依然凸曲率を有しているが、その半径はテレ構成の半径よりも大きい。第2のメニスカス42の曲率は今度は凸形であるため、レンズ素子26は正の収束レンズ素子となる。破線54、56によって示されているように、レンズ素子24および26の組み合わせの第2の主点は、第2のレンズ素子26の付近に配置される。従って、ワイド位置fwideの焦点距離は比較的小さい。
【0060】
図7は、円筒構造体に収容された2つのエレクトロウェッティングレンズ素子またはセル62および66を備えるズームレンズ系60の実施の形態を示しており、この円筒構造体は、上述のように、導電シリンダと、絶縁層と、流体接触層と、第2の電極とを備えている。図7はシリンダ70のみを示している。シリンダは、物側では固体レンズ素子72の形態の前部群によって、像側では固体レンズ素子74の形態の後部群によって閉鎖されている。前部素子72は、屈折性の高いプラスチックの正の凸凸レンズ素子、例えばポリカーボネート(PC)または環状オレフィン重合体(COC)であり、所望の初期焦点特性を提供する。このレンズ素子は、ズームレンズの球面収差を修正する少なくとも1つの非球面を有してもよい。レンズ素子12の後には、液体B/液体A/液体B界面を有する第1のエレクトロウェッティングセル62が続いている。このセルは、ズームレンズの視野絞り80を含むPCまたはCOC等の透明プラスチックの平らなプレート78によって封止されてもよい。プレート78は、液体B/液体A/液体B界面の第2のエレクトロウェッティングセル66の前側を封止する。第2のエレクトロウェッティングセルは後部レンズ素子74によって封止されている。レンズ素子74は、PCまたはCOC等の、屈折性の高いプラスチックの正の凸凸素子である。このレンズ素子をフィールドフラットナーとして用いてもよく、その屈折面の少なくとも一方を非球面としてもよい。エレクトロウェッティングセルの液体Aを1.536の屈折率を有する(過フッ素化)フッ素化オイルとしてもよく、液体Bを1.336の屈折率を有する食塩水溶液としてもよい。COCの屈折率は1.536である。
【0061】
各エレクトロウェッティングセルは、それぞれ2つの液体界面またはメニスカス63、64および67、68を含み、それによってエレクトロウェッティングレンズ素子の両方の屈折面を変化させることができる。ズームまたは焦点合わせに必要とされるレンズ倍率の変化を2つの屈折面に分配することができるので、表面ごとに必要とされる変化はより小さい。即ち、液体界面を1つしか有していないエレクトロウェッティングレンズ素子に必要とされるよりも低い電圧で、必要とされている倍率変化を実現することができる。ズームレンズの2つのエレクトロウェッティングセル62および64を、図4のエレクトロウェッティングレンズ24および26と置き換えてもよい。
【0062】
図8および図9は、図7に示されたものと同様であるが、凹凸前部レンズ素子72’と凹平面後部レンズ素子74’とを有するズームレンズの実施の形態の光線追跡図を示している。図8はワイド構成を示し、図9はテレ構成を示している。界面63および64の両方はズームのために変化し、界面66および68の両方は焦点合わせのために変化することは図8および図9からすぐに明らかである。
【0063】
図8および図9のズームレンズの実際の実施の形態は以下のような特徴を示す。

テレ ワイド
焦点距離 7.11mm 3.35mm
Fナンバー 3.4 2.6
対角画角 28° 56°

このズームレンズは640×480画素且つ4.2μmの画素サイズを有するVGAS型のCMOSセンサ48と協働するのに適している。
【0064】
固体レンズ素子の代わりにエレクトロウェッティングセルを備えるズームレンズは、速いズーム(および焦点合わせ)速度を有し、直接電気駆動され、サイズが小さく、低コストで大量生産可能である。これらの特性によって、エレクトロウェッティングズームレンズは、いくつかの種類の装置、特に手持ち式のバッテリー電力供給式装置に組み込まれる小型カメラに用いられるのに非常に適したものとなる。
【0065】
携帯電話等の手持ち式装置に内蔵される小型カメラのズームレンズは、可能な限り小さな組み込み高さを有する必要がある。このようなカメラの前部レンズ素子は通常、装置の前面(ユーザが見る面)に収容され、これまで説明したズームレンズの組み込み高さは、ズームレンズの軸方向長さによって決定される。即ち、主にズームレンズの長さによって決定されるカメラの組み込み高さは、装置の奥行きに適合する必要があり、この奥行きは可能な限り小さいことが好ましい。
【0066】
本発明のさらなる側面によれば、ズームレンズの組み込み高さを、ズームレンズに折り畳みミラーを含めることによって大幅に減少させることができる。図10は、エレクトロウェッティングセル62の壁の一部を形成するこのようなミラー92を備えるズームレンズ90を示している。図10のズームレンズは図7のズームレンズと同じ素子を備え、これらの素子は同一の参照番号で示されている。物体風景からの光ビームbは、前部レンズ素子72に直角入射する。第1のエレクトロウェッティングセル62の界面63および64を通過した後に、ミラー92がビームbの主光線に対して45°の角度で配置されていれば、ビームはミラー92によって水平方向に反射される。ズームレンズの他の素子、即ち、絞り80を有する透明プレート78、第2のエレクトロウェッティングセル66、後部レンズ素子74、およびセンサ48は水平方向に配置されている。この水平方向は装置の前面に平行し、この前面にカメラ、即ちズームレンズおよびセンサ48を組み込まなければならない。このようにして、カメラの組み込み高さhは、ミラーの高さと、第2の界面64から前部レンズ素子72の外面までの光経路の幾何学的長さとの合計まで減少される。
【0067】
ミラーは、このミラーが利用できる十分な空間がある前部レンズ素子72に近接する第1の位置に配置されることが好ましい。第1の界面63が前部レンズに近接する図7の設計においては、この位置は第2の界面のすぐ後にある。ズームレンズの他の設計においては、前部レンズに可能な限り近い位置という条件で、他の位置に折り畳みミラーを配置することもできる。
【0068】
ズームレンズの後側に第2の折り畳みミラーを含めることによって、カメラの大きさ全体をさらに縮小することが可能になる。図11は、このようなミラー94を備えるズームレンズ100を示している。このミラーは、エレクトロウェッティングセル66を通過したビームbを垂直方向に反射するので、後部レンズ素子74およびセンサ48をこの方向に配置することができる。このようにして、水平方向におけるカメラの寸法が、その組み込み高さを増すことなく減少する。
【0069】
図12に示されているように、折り畳みミラーを後部レンズ素子と共にミラーレンズ素子96内に一体化することができる。このミラーレンズ素子は、ビームbの主光線に対して例えば45°の角度で配置された反射フラットベース面97と、レンズ素子の屈折面を形成する2つの曲面98および99を有している。このようにして、ズームレンズの素子の数、従ってその製造コストを低下させることができる。素子95の曲面の少なくとも1つを、図7、10および11の後部レンズ素子74の場合のように、非球面としてもよい。
【0070】
図13および図14は、図12の実施の形態と同様であるが、二重凸レンズ素子の代わりに、凹凸前部レンズ素子72”と凸凹後部レンズ素子96’とを有するズームレンズの実施の形態の光線追跡図を示している。図13はワイド構成を示し、図14はテレ構成を示している。界面63および64の両方はズームのために変化し、界面67および68の両方は焦点合わせのために変化することはこれらの図からすぐに明らかである。
【0071】
エレクトロウェッティング装置が、それぞれ2つの第1液体第2液体間界面を備える2つのエレクトロウェッティングセルを有する図7乃至14に示されたズームレンズの実施の形態は、優れた性能を有している。さらなる発明のステップによれば、高レベルの性能を維持しながら、界面またはメニスカスの数を4つから2つに削減することができる。このようなメニスカスの数の削減は、メニスカスの曲率の構成および制御の観点からすると、エレクトロウェッティング装置の大幅な簡略化を意味する。改良された設計によるエレクトロウェッティング装置は、それぞれ1つのメニスカスを有する2つのエレクトロウェッティングセルを備えている。改良された設計では、エレクトロウェッティングセルがレンズ絞りの異なる側に配置されることが不可欠である。レンズ系の絞りは、結像ビームの直径を制限し、迷放射線または不要な反射からの放射線が結像ビームに導入され、画像コントラストを低下させることを防止するダイヤフラムである。このようなダイヤフラムによってビーム直径がすべての結像ビーム部分で確実に同一となり、画像フィールドで照度および解像度が一定となる。エレクトロウェッティングセル間にレンズ絞りを配置することの効果は、2つの界面が対称的に用いられること、即ち結像ビームによって覆われる第1および第2の界面の中央表面積がほぼ同じ大きさを有することである。従って、セル内に第2の界面を必要としなくなる。
【0072】
図15および図16は、2つの界面のみを有する高性能ズームレンズの第1の実施の形態110のワイド構成およびテレ構成における光線追跡図を示している。このレンズは、物側(左)から像側(右)に、固定前部レンズ素子112と、第1のエレクトロウェッティングセル120と、第2のエレクトロウェッティングセルと、固定後部レンズ素子114とを含む固定前部レンズを備えている。第1のエレクトロウェッティングセル120は、メニスカス124の形態の界面を有し、液体AおよびBを保持する前部プレート126および後部壁128によって封止されたチャンバ132を備えている。第2のエレクトロウェッティングセル130は、メニスカス134の形態の界面を有し、液体AおよびBを保持する後部プレート136および前部壁138によって封止されたチャンバ132を備えている。ズームレンズの絞り116はセル120、130の間に配置されている。ズームレンズのワイド構成においては、メニスカス124は凹形であるため、第1のセル120は凹レンズ素子を形成し、メニスカス134は凸形であるため、第2のセル130は凸レンズ素子を形成する。テレ構成においては、メニスカス124は凸形であるため、第1のセル120は凸レンズ素子を形成し、メニスカス134は凹形であるため、第1のセル130は凹レンズ素子を形成する。
【0073】
図15および図16のズームレンズの実際の実施の形態は以下のような特徴を示す。

テレ ワイド
焦点距離 7.03mm 3.61mm
Fナンバー 3.4 2.6
対角画角 28° 56°

【0074】
図17および図18は、2つのメニスカスのみを有する高性能ズームレンズの第2の実施の形態140の、それぞれワイド構成およびテレ構成における光線追跡図を示している。第1のエレクトロウェッティングセル150は、今度はズームレンズの前側に配置され、第2のエレクトロウェッティングセルは後側に配置されている。第1および第2のレンズ素子142および144はセル150と160との間に配置されている。レンズ絞り146は、今度はレンズ素子142と144との間にある。第1のエレクトロウェッティングセル150は、メニスカス154の形態の界面を有し、2つの液体AおよびBを保持する前部プレート156および後部プレート158によって封止されたチャンバ152を備えている。第2のエレクトロウェッティングセル160は、メニスカス164の形態の界面を有し、液体AおよびBを保持する前部プレート168および後部プレート166によって封止されたチャンバ162を備えている。図17および図18からすぐに明らかなように、ワイド構成からテレ構成への切替えは、上述のように適切な電圧をセルの電極に供給することでメニスカス154および164の曲率半径を逆転および適合させることによってこの場合も行われる。
【0075】
図17および図18のズームレンズの実際の実施の形態は以下のような特徴を示す。

テレ ワイド
焦点距離 8.98mm 4.79mm
Fナンバー 3.5 2.8
対角画角 28° 56°

【0076】
そのように望まれる場合には、図15、図16のズームレンズおよび図17、図18のズームレンズに、1つまたは2つの折り畳みミラーを設けてこれらのレンズの組み込み高さを短くしてもよい。第1の折り畳みミラーは、図15、図16の実施の形態においては前部素子112と第1のセル120との間に配置され、図17、図18の実施の形態においては第1のセル150と第1の固定レンズ素子142との間に配置される。第2の折り畳みミラーは、図15、図16の実施の形態においては第2のセル130と後部レンズ素子114との間に配置され、図17、図18の実施の形態においては第2の固定レンズ素子144と第2のセル160との間に配置される。
【0077】
より精密なレンズの調整が要求されるズームレンズのいくつかの応用では、モータ等によって制御される可動レンズ群(1つ以上のレンズ素子)をズームレンズに含めてもよい。その場合でも、エレクトロウェッティング装置は上述のズームレンズと同じ利点が得られる。
【0078】
図19は、本発明のズームレンズを用いることができる手持ち式装置の一例を示している。この装置は、図19の正面図に示されている携帯電話170である。この携帯電話は、ユーザの声をデータとして入力するマイクロフォン172と、通信相手の声を出力するラウドスピーカー174と、通信波を送信および受信するアンテナ176とを有している。携帯電話はさらに、ユーザがダイアルする電話番号等のデータを入力する入力ダイアル178と、ディスプレイ180、例えば液晶ディスプレイパネルとを備えている。このパネルを用いて、通信相手またはユーザの写真を表示してもよく、またはデータおよびグラフィックを表示してもよい。入力データおよび受信データを処理するために、携帯電話にはデータ処理ユニット(図示せず)が含まれる。
【0079】
電話170には、相手またはユーザに伝達する風景、グラフィックまたはデータを撮影するための、上述のようなズームレンズを備える小型カメラ182が設けられている。このカメラでは、ズームレンズの第1のレンズ素子の入射面184のみが見えている。この素子は、それぞれ図4、図7、8、10、11、12、13および図15に示されているような前部レンズ素子24、72または112、または図17に示されている第1のエレクトロウェッティングセル150であってもよい。カメラの他の素子、即ち2つのエレクトロウェッティングセルおよび後部レンズ、または図17の実施の形態では2つの固定レンズ素子および第2のエレクトロウェッティングセル、およびセンサを、電話の前面に垂直な線に沿って、即ち図19の図面の平面に垂直な方向に、この方向の電話の寸法が十分に大きければ、配列してもよい。ズームレンズは少なくとも1つの折り畳みミラーを備えることが好ましい。従って、少なくとも2つの前記エレクトロウェッティングセル、または図17の実施の形態では少なくとも2つの前記レンズ素子は、比較的薄くてもよい電話の前面に平行な線に沿って配置される。
【0080】
本発明を実施してもよい他の手持ち式装置としては、小型カメラが設けられたパーソナルデジタルアシスタント(PDA)がある。上述のようなズームレンズを有するこのようなカメラを、携帯電話で説明したのと同じ方法でPDA内に配置してもよい。
【0081】
図20は、本発明を実施してもよい携帯装置の一例としてのラップトップコンピュータ(ノートブック)を示している。ラップトップコンピュータ190は基部192を備え、ここにキーボード195およびプロセッサユニットが組み込まれている。基部に対して回転させることができるカバー部196は、ディスプレイ198および小型カメラ200を含む。上述のようなズームレンズが設けられたこのようなカメラを、携帯電話で説明したのと同じ方法でラップトップ内に配置してもよい。
【0082】
本発明を、携帯電話、デジタルパーソナルアシスタント、ポケットコンピュータおよび電子玩具のような手持ち式装置、または携帯装置のカメラにのみならず、他の種類の内蔵カメラに用いてもよい。本発明を、デスクトップコンピュータのカメラ、内部通話装置のカメラ、およびポケットサイズまたは他のサイズのカメラ、例えばデジタルカメラのような非内蔵カメラに用いてもよい。カメラは静止画像(写真)カメラまたはビデオカメラであってもよい。カメラがフィルムを用いても、または電子センサ、例えばCCDセンサまたはCMOSセンサを用いても本発明には無関係である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第1の固定レンズ群と、第2の固定レンズ群と、制御可能なレンズ群とを有するズームレンズであって、
前記制御可能なレンズ群は電圧制御エレクトロウェッティング装置を備え、この装置は、異なる屈折率を有する第1の流体および第2の流体を含み、且つ少なくとも2つの第1流体第2流体間界面を備えることを特徴とする、ズームレンズ。
【請求項2】
前記ズームレンズは、その物側の前部レンズ群と、その像側の後部レンズ群とを有し、前記第1のレンズ群は前部レンズ群であり、前記第2のレンズ群は後部レンズ群であり、前記エレクトロウェッティング装置は、前記第1のレンズ群と前記第2のレンズ群との間に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載のズームレンズ。
【請求項3】
前記エレクトロウェッティング装置は、2つの第1流体第2流体間界面を有する1つのエレクトロウェッティングセルを備えることを特徴とする、請求項2に記載のズームレンズ。
【請求項4】
前記エレクトロウェッティング装置は、それぞれ少なくとも1つの第1流体第2流体間界面を有する第1のエレクトロウェッティングセルおよび第2のエレクトロウェッティングセルを備えることを特徴とする、請求項2に記載のズームレンズ。
【請求項5】
各エレクトロウェッティングセルは、2つの第1流体第2流体間界面を有することを特徴とする、請求項4に記載のズームレンズ。
【請求項6】
前記エレクトロウェッティング装置は、それぞれ1つの第1流体第2流体間界面を有する第1および第2のエレクトロウェッティングセルを備え、前記第1および第2のエレクトロウェッティングセルの間にレンズ絞りが配置されていることを特徴とする、請求項1に記載のズームレンズ。
【請求項7】
前記ズームレンズは、その物側の前部レンズ群と、その像側の後部レンズ群とを有し、前記第1のレンズ群は前記前部レンズ群であり、前記第2のレンズ群は前記後部レンズ群であり、前記エレクトロウェッティング装置は前記第1のレンズ群と前記第2のレンズ群との間に配置されていることを特徴とする、請求項6に記載のズームレンズ。
【請求項8】
1つのエレクトロウェッティングセルが前部群を形成し、前記第2のエレクトロウェッティングセルが後部群を形成し、前記第1のレンズ群および前記第2のレンズ群はこれらのエレクトロウェッティングセルの間に配置され、前記第1のレンズ群と前記第2のレンズ群との間に前記レンズ絞りが配置されていることを特徴とする、請求項6に記載のズームレンズ。
【請求項9】
エレクトロウェッティングセルと前記第1および第2のレンズ群のいずれかとの間に配置された少なくとも1つの折り畳みミラーを備えることを特徴とする、請求項1乃至8のいずれかに記載のズームレンズ。
【請求項10】
前記ズームレンズは2つの折り畳みミラーを備え、一方は前記ズームレンズの物側部分にあり、他方は前記ズームレンズの像側部分にあることを特徴とする、請求項9に記載のズームレンズ。
【請求項11】
エレクトロウェッティングセルは、
円筒壁を有し、第1の流体および軸方向に変位された第2の流体を含むほぼ円筒形の流体チャンバと、
円筒壁の内側に配置された流体接触層と、
前記流体接触層によって前記第1の流体および前記第2の流体と隔てられた第1の電極と、
前記第2の流体に作用する第2の電極と、を備え、
前記各流体は非混和性であり、メニスカス界面に渡って接触し、異なる屈折率を有し、
前記流体接触層は、前記第1の電極と前記第2の電極との間の電圧の印加の下で変化する前記第2の流体による湿潤性を有し、それによって前記メニスカスの形状が前記電圧に従って変化し、
前記第2の流体による前記流体接触層の湿潤性は、前記第1および第2の電極間に電圧が印加されていない時には、前記接触層との前記メニスカスの交差の両側でほぼ等しいことを特徴とする、請求項1乃至8のいずれかに記載のズームレンズ。
【請求項12】
前記ズームレンズは1つのエレクトロウェッティングセルを備え、第2の流体は第1の流体のいずれかの側に存在し、前記第1の流体および前記第2の流体は、各第1および第2のメニスカス界面に渡って接触していることを特徴とする、請求項11に記載のズームレンズ。
【請求項13】
前記前部レンズ群と前記エレクトロウェッティングセルとの間に折り畳みミラーが配置されていることを特徴とする、請求項12に記載のズームレンズ。
【請求項14】
前記エレクトロウェッティングセルと前記後部レンズ群との間に折り畳みミラーが配置されていることを特徴とする、請求項12または13に記載のズームレンズ。
【請求項15】
前記ズームレンズは2つのエレクトロウェッティングセルを備え、各セルは1つのメニスカス界面を有し、これらのセル間にレンズ絞りが配置されていることを特徴とする、請求項11に記載のズームレンズ。
【請求項16】
第2の流体が、各エレクトロウェッティングセル内の第1の流体のいずれかの側に存在し、前記第1の流体および前記第2の流体は、各第1および第2のメニスカス界面に渡って接触していることを特徴とする、請求項11に記載のズームレンズ。
【請求項17】
前記2つのセルは1つの流体チャンバを共有することを特徴とする、請求項15または16に記載のズームレンズ。
【請求項18】
前記流体チャンバは、流体チャンバ壁の反射傾斜部によって形成される少なくとも1つの折り畳みミラーを備え、前記ミラーはほぼ90°の角度で入射放射線を反射することを特徴とする、請求項17に記載のズームレンズ。
【請求項19】
前記流体チャンバは2つの折り畳みミラーを備え、一方は前記ズームレンズの物側部分にあり、他方は前記ズームレンズの像側部分にあることを特徴とする、請求項18に記載のズームレンズ。
【請求項20】
前記像側部分の折り畳みミラーは、前記前部レンズ群と一体化されていることを特徴とする、請求項13、14、18または19に記載のズームレンズ。
【請求項21】
前記第1の流体は絶縁液体を含み、前記第2の流体は導電性液体を含むことを特徴とする、請求項1乃至20のいずれかに記載のズームレンズ。
【請求項22】
前記第1の流体は蒸気を含み、前記第2の流体は導電性液体を含むことを特徴とする、請求項1乃至20のいずれかに記載のズームレンズ。
【請求項23】
請求項1乃至22のいずれかに記載のズームレンズを備えるカメラ。
【請求項24】
入力手段と、情報処理手段と、表示手段とを備える手持ち式装置であって、請求項23に記載のカメラが含まれる、手持ち式装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−181887(P2010−181887A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34090(P2010−34090)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【分割の表示】特願2004−546271(P2004−546271)の分割
【原出願日】平成15年10月17日(2003.10.17)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】