説明

セパレータおよび非水電解質電池、ならびに電池パック、電子機器、電動車両、蓄電装置および電力システム

【課題】 安価で引裂強度の高いセパレータを提供する。
【解決手段】 多孔質膜からなる基材と、基材の少なくとも一方の面に形成され、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体を含み、微小な空隙を多数有する表面層とを有するセパレータ。多孔質膜が、樹脂材料からなるフィルムが一軸延伸により延伸されて形成され、表面層が三次元網目構造を有することが好ましい。また、表面層におけるヘキサフルオロプロピレンの混合量が、共重合体中において5mol%以上15mol%以下であり、テトラフルオロエチレンの混合量が、共重合体中において10mol%以上40mol%以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、基材の強度を補い、全体の引裂強度を向上させる表面層が形成されたセパレータおよびそれを用いた非水電解質電池に関する。また、本技術は、この非水電解質電池を用いた電池パック、電子機器、電動車両、蓄電装置および電力システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ビデオカメラ、ノート型パーソナルコンピューター等の携帯情報電子機器の普及に伴い、これらの機器の高性能化、小型化および軽量化が図られている。これらの機器の電源には、使い捨ての一次電池や繰り返し使用できる二次電池が用いられているが、高性能化、小型化、軽量化、経済性等の総合的なバランスの良さから、二次電池、特にリチウムイオン二次電池の需要が伸びている。また、これらの機器では、更なる高性能化や小型化等が進められており、リチウムイオン二次電池に関しても、高エネルギー密度化が要求されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、その高容量化に伴ってエネルギー密度も増加するため、電池過熱時や内部短絡時において、大きなエネルギーが放出された場合の信頼性向上に対する要請も極めて大きくなっている。このため、このような試験に対する高い信頼性と、高容量化を両立させたリチウムイオン二次電池が強く求められている。
【0004】
一般的なリチウムイオン二次電池は、リチウム複合酸化物を含む正極と、リチウムイオンの吸蔵および放出が可能な材料を含む負極と、正極と負極との間に介在するセパレータと、非水電解質とを備えている。そして、正極と負極とがセパレータを介在して積層されるか、もしくは積層後に巻回されて柱状の巻回電極を構成したものである。セパレータは、正極と負極との間を電気的に絶縁する役目と非水電解質を保持する役目を持つ。このようなリチウムイオン二次電池のセパレータとしては、例えばポリオレフィン樹脂等の樹脂材料からなる多孔質膜を使用するのが一般的である。
【0005】
従来、セパレータは、耐熱性と強度とを両立する観点から、いわゆる湿式法で形成されることが多かった。湿式法は、セパレータを構成する樹脂材料に可塑剤等を混合し、例えば溶融押出成型法にて薄膜状に押出してフィルムを形成した後、フィルムから可塑剤を抽出し、可塑剤が存在していた部分を空隙とすることにより多孔化して多孔質膜を得る方法である。湿式法で作製したセパレータは、空隙が等方的に形成されるため、引裂強度も等方的である。そして、湿式法により形成されたセパレータを用いた電池においては、均一な電気化学反応、リチウムデンドライトの析出の抑制等の効果も有している。
【0006】
しかしながら、湿式法により形成されたセパレータは、可塑剤の配合や抽出を必要とし、微細で均一な孔径を有する多孔質膜するためには操作工程が複雑化するだけでなく、抽出液の処理等の問題がある。また、複雑な製造プロセスを経るため、非常に高価なものとなる。
【0007】
そこで、セパレータとしていわゆる乾式法を用いて形成された多孔質膜を用いることが提案されている。乾式法は、結晶化させたポリオレフィン樹脂を例えば溶融押出成型法にて薄膜状に押し出してフィルムを形成した後、フィルムをアニール(加熱)処理し、そのフィルムを一方向に延伸(一軸延伸)することにより多孔質化した樹脂膜を得る方法である。乾式法は、上述の湿式法のように可塑剤等を抽出する工程(すなわち、溶媒処理)を含まない。したがって、湿式法より本質的に簡略な工程で多孔質膜を形成することができる。このため、乾式法で形成されたセパレータは、湿式法で作製されたセパレータよりも一般的に安価である。一方で、一軸延伸により形成した多孔質膜は、延伸方向(MD方向:Machine Direction)の引裂強度が大きく、延伸方向に対して直角の方向(TD方向:Transverse Direction)の強度が小さいという問題を有する。このため、引裂強度に異方性があり、延伸方向に引張負荷がかかった場合に裂けやすくなってしまう。
【0008】
また、引裂強度に劣るセパレータは、セパレータ形成工程において異物があると簡単に裂けてしまい、歩留まりが低下する。また、電池内に異物が混入したり、落下衝撃等によっても裂けやすいという電池の安全性に問題がある。
【0009】
そこで、下記の特許文献1では、高密度ポリエチレン樹脂と、ポリプロピレン樹脂と、充填剤の3成分を含み、少なくとも一方向への延伸を行うことにより充填剤を基点とする空孔が設けられたセパレータが提案されている。特許文献1では、高密度ポリエチレン樹脂と、ポリプロピレン樹脂とを混合することにより、セパレータ自体の耐引裂性を向上させようとするものである。
【0010】
また、下記の特許文献2では、ポリプロピレン樹脂を主成分とする層と、ポリエチレン樹脂を含有する層とを有し、かつβ活性を有する積層多孔質膜をセパレータとして用いることが記載されている。特許文献2では、高融点、高強度のポリプロピレン樹脂を主成分とする層と、柔らかく、低融点のポリエチレン樹脂を含有する層とを積層しているため、強度を保ちつつ所定の温度でシャットダウン可能なセパレータを得ることができる。また、特許文献2では、力学特性のバランスを得るために、TD方向およびMD方向の引裂強度の比を所定の範囲内に設定している。
【0011】
さらに、下記の特許文献3では、引裂強度の高いセパレータとして、繊維およびパルプの少なくとも一方からなる基材と、この基材を被覆し、基材の空隙を充填するパラアミドポリマーを含む多孔質層とからなるセパレータが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−343937号公報
【特許文献2】特開2010−111096号公報
【特許文献3】特開2007−277580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1の方法では、セパレータを構成する樹脂材料の特性を向上させることにより、自身の耐引裂性を向上させているものの、乾式法で形成していることから大きな特性の向上は得られないものと考えられる。
【0014】
また、特許文献2でも同様に、延伸により多孔質膜を形成しているため、方向によって特性に差が生じてしまう。そして、特許文献2の実施例から分かるように、特許文献2の構成では、TD方向、MD方向の引裂強度の比が所定の範囲内であっても、一方向への引裂強度の絶対値が顕著に低くなっている。
【0015】
さらに、特許文献3では、実施例において、不織布基材を用いているため、一般的な多孔質樹脂膜よりも十分に高い引裂強度を有している。このため、基材を被覆するパラアミドポリマーを含む多孔質層である比較例1について検討すると、「引裂き開始抵抗は1.4kg/mm、引裂き強度伝播抵抗は読み取りができないほど荷重が小さく、ハンドリング性に劣る」との記載から、パラアミドポリマーを含む多孔質層は耐引裂性が著しく低いと考えられる。そして、例えば基材が一般的な多孔質樹脂膜であった場合には、引裂強度の低いセパレータとなると言える。
【0016】
本技術は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、引裂強度が高く、裂けにくいセパレータおよびこのセパレータを用いた非水電解質電池、ならびに電池パック、電子機器、電動車両、蓄電装置および電力システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記問題点を解消するために、本技術のセパレータは、多孔質膜からなる基材と、基材の少なくとも一方の面に形成され、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体を含み、微小な空隙を多数有する表面層とからなることを特徴とする。
【0018】
また、本技術の非水電解質電池は、正極と、負極と、非水電解質と、セパレータとを備え、セパレータが、多孔質膜からなる基材と、基材の少なくとも一方の面に形成され、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体を含み、微小な空隙を多数有する表面層とからなることを特徴とする。
【0019】
さらに、本技術の電池パック、電子機器、電動車両、蓄電装置および電力システムは、上述の非水電解質電池を備えることを特徴とする。
【0020】
本技術のセパレータは、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体を用いて表面層を形成している。この共重合体は、フッ化ビニリデンのホモポリマーと比較して柔軟性が高く、耐アルカリ性、耐酸化性に優れている。このため、セパレータの基材がセパレータに用いる多孔質膜として強度が劣る場合であっても、多孔質膜からなる基材の表面に上述の共重合体からなる表面層を形成することにより、表面層が基材の強度不足を補うことができる。また、基材が破断した場合であっても、表面層が引裂かれることなく伸びるため、セパレータが全体としては破断しにくくなる。
【発明の効果】
【0021】
本技術によれば、セパレータの引裂強度を向上させ、裂けにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本技術の第1の実施の形態に係るセパレータの構成を示す断面図である。
【図2】本技術の第1の実施の形態に係るセパレータの表面層の構成を示す、走査型電子顕微鏡(SEM)による二次電子像である。
【図3】本技術の第1の実施の形態に係るセパレータの製造方法を示す概略図である。
【図4】図4Aは樹脂濃度6質量%で形成した本技術の第1の実施の形態に係るセパレータの表面層の構成を示す走査型電子顕微鏡(SEM)による二次電子像であり、図4Bは樹脂濃度8質量%で形成した本技術の第1の実施の形態に係るセパレータの表面層の構成を示す走査型電子顕微鏡(SEM)による二次電子像であり、図4Cは樹脂濃度10質量%で形成した本技術の第1の実施の形態に係るセパレータの表面層の構成を示す走査型電子顕微鏡(SEM)による二次電子像である。
【図5】本技術の第2の実施の形態に係る非水電解質電池の構成を示す断面図である。
【図6】図5に示す非水電解質電池における巻回電極体の一部を拡大して示す断面図である。
【図7】本技術の第3の実施の形態に係る非水電解質電池の構成を示す分解斜視図である。
【図8】図7に示す巻回電極体のI−I線に沿った断面構成を表す断面図である。
【図9】本技術の実施の形態による電池パックの構成例を示すブロック図である。
【図10】本技術の非水電解質電池を用いた住宅用の蓄電システムに適用した例を示す概略図である。
【図11】本技術が適用されるシリーズハイブリッドシステムを採用するハイブリッド車両の構成の一例を概略的に示す概略図である。
【図12】引裂試験の試験方法を示す概略図である。
【図13】実施例1−1の試験時の状態を示す写真である。
【図14】図14Aは、実施例1−1の引裂き試験時における引裂き開始からセパレータ破断までの引裂力を示すグラフであり、図14Bは、参考例1−1の引裂き試験時における引裂き開始からセパレータ破断までの引裂力を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本技術を実施するための最良の形態(以下、実施の形態とする)について説明する。なお、説明は以下のように行う。
1.第1の実施の形態(本技術のセパレータの例)
2.第2の実施の形態(本技術のセパレータを用いた円筒型非水電解質電池の例)
3.第3の実施の形態(本技術のセパレータを用いたラミネートフィルム型非水電解質電池の例)
4.第4の実施の形態(非水電解質電池を用いた電池パックの例)
5.第5の実施の形態(非水電解質電池を用いた蓄電システム等の例)
【0024】
1.第1の実施の形態
第1の実施の形態に係るセパレータは、基材の少なくとも一方の面に表面層を形成したものである。このセパレータは、電池のセパレータ用途に限らず、耐引裂性を必要とする一般的な樹脂フィルム用途にも用いることができる。以下、本技術のセパレータについて詳細に説明する。
【0025】
(1−1)セパレータの構造
第1の実施の形態に係るセパレータ1は、図1に示すように、多孔質膜からなる基材2と、基材2の一方の面に形成され、セパレータ1全体の引裂強度の向上に優れる表面層3とを備える。セパレータ1を電池用途に用いる場合、セパレータ1は電池内において正極と負極とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止するとともに、非水電解質が含浸されものである。なお、図示は省略するが、セパレータ1は基材2の両面に表面層3が形成されていてもよい。すなわち、セパレータ1は基材2の少なくとも一方の面に表面層3が形成されたものである。
【0026】
[基材]
基材2は、イオン透過度が大きく、所定の機械的強度を有する絶縁性の薄膜から構成される多孔質膜である。また、本技術における基材2は、いわゆる乾式法を用いて、樹脂膜を一軸延伸することにより多孔質化させたものである。
【0027】
このような基材2を構成する樹脂材料は、例えばポリプロピレンまたはポリエチレン等のポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリエステル樹脂またはナイロン樹脂等を用いることが好ましい。特に、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状ポリエチレン等のポリエチレン、もしくはそれらの低分子量ワックス分、またはポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂は溶融温度が適当であり、入手が容易なので好適に用いられる。また、これら2種以上の多孔質膜を積層した構造、もしくは、2種以上の樹脂材料を溶融混練して形成した多孔質膜としてもよい。ポリオレフィン樹脂からなる多孔質膜を含むものは、正極と負極との分離性に優れ、内部短絡の低下をいっそう低減することができる。
【0028】
基材2の厚さは、必要な強度を保つことができる厚さ以上であれば任意に設定可能である。基材2は、正極および負極間の絶縁を図り、短絡等を防止するとともに、セパレータ1を介した電池反応を好適に行うためのイオン透過性を有し、かつ電池内において電池反応に寄与する活物質層の体積効率をできるだけ高くできる厚さに設定されることが好ましい。具体的に、基材2の厚さは7μm以上20μm以下であることが好ましい。また、上述のイオン透過性を得るために、基材2における空隙率は、35%以上50%以下であることが好ましい。
【0029】
[表面層]
表面層3は、基材2の少なくとも一方の面に形成されるものであり、基材2の耐引裂性を補う機能を有する。表面層3は、セパレータ1としてのイオン透過機能、非水電解質保持機能等を有する。このため、表面層3は、全体に微小な空隙が多数形成されており、三次元網目構造を有していてもよい。具体的に、図2に示すように、表面層3は、上述の共重合体がフィブリル化し、フィブリルが相互連続的に繋がった三次元的なネットワーク構造を有していることが好ましい。なお、図2は、表面層3の走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)による二次電子像である。
【0030】
本技術では、表面層3を構成する樹脂材料として、フッ化ビニリデン(VdF)−テトラフルオロエチレン(TFE)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体を用いる。この共重合体は、機械的強度が高く、加工性および熱安定性に優れるフッ化ビニリデン(VdF)に由来するモノマー単位と、耐アルカリ性、耐酸化性等の化学的安定性の高いテトラフルオロエチレン(TFE)に由来するモノマー単位と、柔軟性の高いヘキサフルオロプロピレン(HFP)に由来するモノマー単位とからなることにより、電池内での安定性が高く、また伸びがよく裂けにくい表面層3を形成することができる。
【0031】
また、上述の共重合体を用いることにより、高面密度で表面層3を形成することができ、引裂強度をより向上させることができる。これは、共重合体にテトラフルオロエチレン(TFE)に由来するモノマー単位を含むことから、表面層3形成時に樹脂がフィブリル化しやすく、高い樹脂濃度で多孔質層を形成することが可能なためである。
【0032】
さらに、上述の共重合体は弾性率が低いことから、セパレータ1のクッション性の向上につながる。そして、この共重合体を分散溶媒に溶解させた樹脂溶液と基材2との濡れ性が高くなるため、表面層3の形成性が向上する。また、フッ素基が多く含まれることによって摩擦が低下するため、表面層3の形成性が向上する。
【0033】
この共重合体は、共重合体を構成する各モノマー単位の含有量がそれぞれ下記の範囲内であることが好ましい。この共重合体は、フッ化ビニリデン(VdF)に由来するモノマー単位の含有量が45mol%以上85mol%以下の範囲であることが好ましく、テトラフルオロエチレン(TFE)に由来するモノマー単位の含有量が10mol%以上40mol%以下の範囲であることが好ましく、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)に由来するモノマー単位の含有量が5mol%以上15mol%以下の範囲であることが好ましい。
【0034】
上述の範囲外にテトラフルオロエチレン(TFE)に由来するモノマー単位の含有量が少ない場合、充分な化学的安定性を得ることができない。また、上述の範囲外にテトラフルオロエチレン(TFE)に由来するモノマー単位の含有量が多い場合、表面層3の柔軟性や表面層3形成時の加工性等が不十分となる。また、上述の範囲外にヘキサフルオロプロピレン(HFP)に由来するモノマー単位の含有量が少ない場合、充分な柔軟性を得ることができない。また、上述の範囲外にヘキサフルオロプロピレン(HFP)に由来するモノマー単位の含有量が多い場合、非水電解質に対して膨潤する等の問題が生じる。
【0035】
また、例えば耐熱性を向上させる目的で、上述の共重合体に対して耐熱性樹脂を混合、もしくは上述の共重合体からなる樹脂層と、耐熱性樹脂からなる樹脂層とが積層された表面層3としてもよい。ここで、本技術の共重合体に他の耐熱性樹脂等を混合する場合、共重合体の混合量が少なくなるにつれて表面層3の引裂強度が低下する。このため、耐熱性樹脂等を混合する場合には、適切に混合量を設定し、できるだけ少ない混合量とすることが好ましい。
【0036】
耐熱性樹脂としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等の含フッ素樹脂、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等の含フッ素ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体およびその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体およびその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体およびその水素化物、メタクリル酸エステル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等のゴム類、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエステル等の融点およびガラス転移温度の少なくとも一方が180℃以上の樹脂等が挙げられる。
【0037】
表面層3は、厚みが1.0μm以上であることが好ましい。厚みが1.0μm未満となった場合には、充分な引裂強度が得られず、表面層3の形成効果が小さくなる。また、表面層3は、厚みが厚いほど高い引裂強度を有するが、電池の体積効率が小さくなる。このため、必要に応じた厚みを適宜選択することが好ましい。
【0038】
また、表面層3は、基材2のイオン透過機能、非水電解質保持機能等を阻害しない様に、その空隙率が基材2の空隙率以上であることが好ましい。また、表面層3として必要とされる引裂強度を得るために、その空隙率が75%以下であることが好ましく、70%以下であることがより好ましい。
【0039】
また、表面層3は、厚みが大きくなるほど空隙率が小さくても基材2の強度不足を十分に補うことができる程度の引裂強度を得ることができる。このため、表面層3の厚みを十分に厚く設定可能な場合には、空隙率は上述の範囲に限られない。
【0040】
(1−2)セパレータの他の構成例
上述のセパレータ1の表面層3は、耐熱性、耐酸化性等を向上させる目的でセラミックスが含有されていてもよい。
【0041】
[セラミックス]
セラミックスとしては、電気絶縁性の金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物等を挙げることができる。金属酸化物としては、アルミナ(Al23)、マグネシア(MgO)、チタニア(TiO2)、ジルコニア(ZrO2)、シリカ(SiO2)等を好適に用いることができる。金属窒化物としては、窒化ケイ素(Si34)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化硼素(BN)、窒化チタン(TiN)等を好適に用いることができる。金属炭化物としては、炭化ケイ素(SiC)、炭化ホウ素(B4C)等を好適に用いることができる。これらセラミックスは、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0042】
セラミックスは耐熱性を有し、セパレータ1の収縮を抑制するため好ましい。また、セラミックスは耐酸化性を有し、電池用途に用いることで、電極、特に充電時の正極近傍における酸化環境に対して強い耐性を有する。このため、表面層3が酸化環境に晒されて劣化し、基材2の引裂強度を補ってセパレータ1全体としての引裂強度を向上させる効果が低減することを抑制することができる。このため、セラミックスが混合された表面層3が基材2の一方の面のみに形成されたセパレータ1を用いる場合、表面層3は、正極に対向する面に形成されることが好ましい。
【0043】
セラミックスの形状は特に限定されるものではなく、球状、繊維状およびランダム形状等の形状を有するセラミックスのいずれも用いることができる。
【0044】
セラミックスは、セパレータ1の強度に与える影響、塗工面の平滑性の観点から、一次粒子の平均粒径を数μm以下とすることが好ましい。具体的には、一次粒子の平均粒径が1.0μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましく、0.1μm以下であることがさらに好ましい。このような一次粒子の平均粒径は、電子顕微鏡により得た写真を、粒子径計測器で解析する方法により測定することができる。
【0045】
セラミックスの一次粒子の平均粒径が1.0μmを超えると、セパレータ1が脆くなり、塗工面も粗くなる場合がある。また、セラミックスを含む樹脂溶液を基材2上に塗布して表面層3を形成する場合、セラミックスの一次粒子が大きすぎる場合には、セラミックスを含む樹脂溶液が塗布されない部分が生じてしまうおそれがある。
【0046】
また、本技術では、表面層3中のセラミックスと表面層3を構成する本技術の共重合体との質量比が0:100〜80:20の範囲が好ましく、30:70〜80:20の範囲であることがより好ましい。なお、この範囲は、セラミックスを混合しない場合を含んでおり、セパレータ1の強度向上効果の観点からはセラミックスを添加しないことが好ましい。一方、さらに耐熱性を付与したい場合には、上記質量比の範囲、すなわち、表面層3におけるセラミックスの含有量が表面層3中のセラミックスおよび本技術の共重合体の総質量に対して0質量%超80質量%以下であることが好ましく、30質量%以上80質量%以下であることがより好ましい。表面層3がセラミックスを含む場合、耐熱性、耐酸化性等の表面層3におけるセラミックス含有効果が生じる。また、セラミックスの含有量がセラミックスおよび本技術の共重合体の総質量に対して80質量%以下の場合、表面層3の形成が容易となるため好ましい。
【0047】
(1−3)セパレータの製造方法
第1の実施の形態に係るセパレータ1の製造方法の一例を説明する。
【0048】
まず、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体をN−メチル−2−ピロリドン等の分散溶媒に添加し、溶解させて、樹脂溶液を得る。このとき、樹脂溶液中の共重合体の濃度は、4質量%以上10質量%以下であることが好ましい。この樹脂溶液は、表面層形成用スラリーとなる。なお、上述したように、共重合体を構成するモノマーとしてテトラフルオロエチレン(TFE)を含むことにより、高い樹脂濃度で多孔質樹脂層を形成することが可能となる。具体的には、樹脂材料としてポリフッ化ビニリデンを用いた場合、樹脂濃度を8質量%程度以上とすると水浴に入れて相分離する方法では均一で緻密な多孔質膜の形成が困難となる。本技術の共重合体を用いる場合には、8質量%以上の濃度でも均一で緻密な多孔質層を形成することができる。
【0049】
この後、ポリオレフィン多孔質膜等からなる基材2の片面または両面に、上述の表面層形成用スラリーをドクターブレード等により塗布し、乾燥させる。さらに、表面層形成用スラリーを塗布した基材2を、水浴に入れて相分離させる。
【0050】
図3に相分離の概略図を示す。図3に示すように、本願の共重合体を含む共重合体溶液を、共重合体に対して貧溶媒であり、かつ共重合体を溶解させる分散溶媒に対しては良溶媒である水等に接触させ、最後に熱風にて乾燥させることにより、基材2表面に表面層3が形成されたセパレータ1を得ることができる。
【0051】
このような方法を用いることにより、急激な貧溶媒誘起相分離現象により表面層3が形成され、表面層3は、共重合体による骨格が微細な三次元網目状に連結した構造を有する。すなわち、共重合体を溶解した樹脂溶液を、共重合体に対して貧溶媒であり、かつ共重合体を溶解させる溶媒に対しては親溶媒である水等の溶媒に接触させることで、溶媒交換が起こる。これにより、スピノーダル分解を伴う急激な(速度の速い)相分離が生じ、共重合体が独特の三次元網目構造を有するようになる。
【0052】
このようにして作製した表面層3は、貧溶媒による、スピノーダル分解を伴う急激な貧溶媒誘起相分離現象を利用することによって独特の多孔構造を形成している。さらに、この構造によって、優れた非水電解液含浸性およびイオン導電性を実現可能としている。
【0053】
図4は、樹脂溶液の共重合体濃度を変えて作製した表面層3の走査型電子顕微鏡(SEM)による二次電子像である。図4Aは、樹脂濃度6質量%で形成した表面層3であり、図4Bは、樹脂濃度8質量%で形成した表面層3であり、図4Cは、樹脂濃度10質量%で形成した表面層3である。図4Cのように、樹脂濃度が10質量%と高濃度であっても、三次元網目構造を有する表面層3が形成される。
【0054】
分散溶媒としては、本技術の共重合体を溶解することができる溶媒であればいずれも使用可能である。分散溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドンの他、ジメチルアセトアミド、ジメチルフォルムアミド、ジメチルスルフォキシド、トルエンおよびアセトニトリル等が用いられるが、溶解性および高分散性の観点からN−メチル−2−ピロリドンを用いることが好ましい。
【0055】
(1−4)セパレータの他の製造方法
セラミックスが含有された表面層3を形成する場合には、上述の貧溶媒誘起相分離現象を用いた方法に依らずに表面層3を形成してもよい。
【0056】
具体的に、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体をN−メチル−2−ピロリドン等の分散溶媒に添加し、溶解させて、樹脂溶液を得る。このとき、樹脂溶液中の共重合体の濃度は、後にセラミックスを添加することから(1−3)に記載した共重合体の濃度よりも低い濃度とすることが好ましい。具体的には、2質量%以上8質量%以下であることが好ましい。また、セラミックスを添加した樹脂溶液中におけるセラミックスおよび共重合体の合計の含有量が、2質量%以上30質量%以下であることが好ましい。濃度は、セラミックスが塗料中で均一に分散ができ、塗布が可能な状態に適時調整する。
【0057】
次に、本技術の共重合体を含む樹脂溶液に、セラミックスの微粉末を所定量添加し、粉砕用ミルにてさらに攪拌することにより、セラミックスが均一に分散した表面層形成用スラリーを得る。
【0058】
この後、ポリオレフィン多孔質膜等からなる基材2の片面または両面に、上述の表面層形成用スラリーをドクターブレード等により塗布し、熱風にて乾燥させて分散溶媒を除去する。これにより、基材2表面に表面層3が形成されたセパレータ1を得ることができる。
【0059】
表面層3を形成する際に、表面層形成用スラリーにセラミックスを添加した場合には、セラミックスと共重合体との間に、セラミックスと共重合体との相互作用に由来する微小な空隙が生じる。このため、上述の貧溶媒誘起相分離現象を用いた方法を用いずに表面層3に微小な空隙を形成することができる。
【0060】
2.第2の実施の形態
第2の実施の形態では、第1の実施の形態に係るセパレータを用いた円筒型非水電解質電池について説明する。
【0061】
(2−1)非水電解質電池の構成
[非水電解質電池の構造]
図5は、第2の実施の形態に係る非水電解質電池10の一例を示す断面図である。非水電解質電池10は、例えば充電および放電が可能な非水電解質二次電池である。この非水電解質電池10は、いわゆる円筒型と呼ばれるものであり、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、図示しない液体状の非水電解質(以下、非水電解液と適宜称する)とともに帯状の正極21と負極22とがセパレータ23を介して巻回された巻回電極体20を有している。巻回電極体20は、活物質層の膨張・収縮によって、セパレータの巻回方向に引張応力がかかりやすい。このため、本技術のセパレータは、巻回電極体20を有する非水電解質電池10に適用することが好ましい。
【0062】
電池缶11は、例えばニッケルめっきが施された鉄により構成されており、一端部が閉鎖され他端部が開放されている。電池缶11の内部には、巻回電極体20を挟むように巻回周面に対して垂直に一対の絶縁板12a、12bがそれぞれ配置されている。
【0063】
電池缶11の材料としては、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、ステンレス(SUS)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)等が挙げられる。この電池缶11には、非水電解質電池10の充放電に伴う電気化学的な非水電解液による腐食を防止するために、例えばニッケル等のメッキが施されていても良い。電池缶11の開放端部には、正極リード板である電池蓋13と、この電池蓋13の内側に設けられた安全弁機構および熱感抵抗素子(PTC素子:Positive Temperature Coefficient)17が、絶縁封口のためのガスケット18を介してかしめられることにより取り付けられている。
【0064】
電池蓋13は、例えば電池缶11と同様の材料により構成されており、電池内部で発生したガスを排出するための開口部が設けられている。安全弁機構は、安全弁14とディスクホルダ15と遮断ディスク16とが順に重ねられている。安全弁14の突出部14aは遮断ディスク16の中心部に設けられた孔部16aを覆うように配置されたサブディスク19を介して巻回電極体20から導出された正極リード25と接続されている。サブディスク19を介して安全弁14と正極リード25とが接続されることにより、安全弁14の反転時に正極リード25が孔部16aから引き込まれることを防止する。また、安全弁機構は、熱感抵抗素子17を介して電池蓋13と電気的に接続されている。
【0065】
安全弁機構は、電池内部短絡あるいは電池外部からの加熱等により非水電解質電池10の内圧が一定以上となった場合に、安全弁14が反転し、突出部14aと電池蓋13と巻回電極体20との電気的接続を切断するものである。すなわち、安全弁14が反転した際には遮断ディスク16により正極リード25が押さえられて安全弁14と正極リード25との接続が解除される。ディスクホルダ15は絶縁性材料からなり、安全弁14が反転した場合には安全弁14と遮断ディスク16とが絶縁される。
【0066】
また、電池内部でさらにガスが発生し、電池内圧がさらに上昇した場合には、安全弁14の一部が裂壊してガスを電池蓋13側に排出可能としている。
【0067】
また、遮断ディスク16の孔部16aの周囲には例えば複数のガス抜き孔(図示せず)が設けられており、巻回電極体20からガスが発生した場合にはガスを効果的に電池蓋13側に排出可能な構成としている。
【0068】
熱感抵抗素子17は、温度が上昇した際に抵抗値が増大し、電池蓋13と巻回電極体20との電気的接続を切断することによって電流を遮断し、過大電流による異常な発熱を防止する。ガスケット18は、例えば絶縁材料により構成されており、表面にはアスファルトが塗布されている。
【0069】
非水電解質電池10内に収容される巻回電極体20は、センターピン24を中心に巻回されている。巻回電極体20は、正極21および負極22がセパレータ23を介して順に積層され、長手方向に巻回されてなる。正極21には正極リード25が接続されており、負極22には負極リード26が接続されている。正極リード25は、上述のように、安全弁14に溶接されて電池蓋13と電気的に接続されており、負極リード26は電池缶11に溶接されて電気的に接続されている。
【0070】
図6は図5に示した巻回電極体20の一部を拡大して表すものである。以下、正極21、負極22、セパレータ23について、詳細に説明する。
【0071】
[正極]
正極21は、正極活物質を含有する正極活物質層21Bが、正極集電体21Aの両面上に形成されたものである。正極集電体21Aとしては、例えばアルミニウム(Al)箔、ニッケル(Ni)箔あるいは、ステンレス(SUS)箔等の金属箔を用いることができる。
【0072】
正極活物質層21Bは、例えば正極活物質と、導電剤と、結着剤とを含有して構成されている。正極活物質としては、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料のいずれか1種または2種以上を用いることができ、必要に応じて、結着剤や導電剤等の他の材料を含んでいてもよい。
【0073】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、リチウム含有化合物が好ましい。高いエネルギー密度が得られるからである。このリチウム含有化合物としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物や、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物等が挙げられる。中でも、遷移金属元素としてコバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)および鉄(Fe)からなる群のうちの少なくとも1種を含むものが好ましい。より高い電圧が得られるからである。
【0074】
正極材料は、例えば、LixM1O2あるいはLiyM2PO4で表されるリチウム含有化合物を用いることができる。式中、M1およびM2は1種類以上の遷移金属元素を表す。xおよびyの値は電池の充放電状態によって異なり、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10である。リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(LixCoO2)、リチウムニッケル複合酸化物(LiyNiO2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(LixNi1-zCoz2(0<z<1))、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LixNi(1-v-w)CovMnw2(0<v+w<1、v>0、w>0))、またはスピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(LiMn24)あるいはリチウムマンガンニッケル複合酸化物(LiMn2-tNit4(0<t<2))等が挙げられる。中でも、コバルトを含む複合酸化物が好ましい。高い容量が得られると共に、優れたサイクル特性も得られるからである。また、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO4)あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe1-uMnuPO4(0<u<1))等が挙げられる。
【0075】
このようなリチウム複合酸化物として、具体的には、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn24)等が挙げられる。また、遷移金属元素の一部を他の元素に置換した固溶体も使用可能である。例えば、ニッケルコバルト複合リチウム酸化物(LiNi0.5Co0.52、LiNi0.8Co0.22等)がその例として挙げられる。これらのリチウム複合酸化物は、高電圧を発生でき、エネルギー密度が優れたものである。
【0076】
更にまた、より高い電極充填性とサイクル特性が得られるという観点から、上記リチウム含有化合物のいずれかよりなる粒子の表面を、他のリチウム含有化合物のいずれかよりなる微粒子で被覆した複合粒子としてもよい。
【0077】
この他、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、酸化バナジウム(V25)、二酸化チタン(TiO2)、二酸化マンガン(MnO2)等の酸化物、二硫化鉄(FeS2)、二硫化チタン(TiS2)、二硫化モリブデン(MoS2)等の二硫化物、二セレン化ニオブ(NbSe2)等のリチウムを含有しないカルコゲン化物(特に層状化合物やスピネル型化合物)、リチウムを含有するリチウム含有化合物、ならびに、硫黄、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレンあるいはポリピロール等の導電性高分子も挙げられる。もちろん、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料は、上記以外のものであってもよい。また、上記した一連の正極材料は、任意の組み合わせで2種以上混合されてもよい。
【0078】
導電剤としては、例えばカーボンブラックあるいはグラファイト等の炭素材料等が用いられる。結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリロニトリル(PAN)、スチレンブタジエンゴム(SBR)およびカルボキシメチルセルロース(CMC)等の樹脂材料、ならびにこれら樹脂材料を主体とする共重合体等から選択される少なくとも1種が用いられる。
【0079】
正極21は正極集電体21Aの一端部にスポット溶接または超音波溶接で接続された正極リード25を有している。この正極リード25は金属箔、網目状のものが望ましいが、電気化学的および化学的に安定であり、導通がとれるものであれば金属でなくとも問題はない。正極リード25の材料としては、例えばアルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)等が挙げられる。
【0080】
[負極]
負極22は、例えば、対向する一対の面を有する負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bが設けられた構造を有している。なお、図示はしないが、負極集電体22Aの片面のみに負極活物質層22Bを設けるようにしてもよい。負極集電体22Aは、例えば、銅箔等の金属箔により構成されている。
【0081】
負極活物質層22Bは、負極活物質として、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種または2種以上を含んで構成されており、必要に応じて正極活物質層21Bと同様の結着剤や導電剤等の他の材料を含んで構成されていてもよい。
【0082】
なお、この非水電解質電池10では、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料の電気化学当量が、正極21の電気化学当量よりも大きくなっており、理論上、充電の途中において負極22にリチウム金属が析出しないようになっている。
【0083】
また、この非水電解質電池10は、完全充電状態における開回路電圧(すなわち電池電圧)が、例えば4.20V以上6.00V以下の範囲内になるように設計されている。また、例えば、満充電状態における開回路電圧が4.25V以上6.00V以下とされることが好ましい。満充電状態における開回路電圧が4.25V以上とされる場合は、4.20Vの電池と比較して、同じ正極活物質であっても単位質量当たりのリチウムの放出量が多くなるため、それに応じて正極活物質と負極活物質との量が調整される。これにより、高いエネルギー密度が得られるようになっている。
【0084】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、難黒鉛化性炭素、易黒鉛化性炭素、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維あるいは活性炭等の炭素材料が挙げられる。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスあるいは石油コークス等がある。有機高分子化合物焼成体というのは、フェノール樹脂やフラン樹脂等の高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものをいい、一部には難黒鉛化性炭素または易黒鉛化性炭素に分類されるものもある。これら炭素材料は、充放電時に生じる結晶構造の変化が非常に少なく、高い充放電容量を得ることができると共に、良好なサイクル特性を得ることができるので好ましい。特に黒鉛は、電気化学当量が大きく、高いエネルギー密度を得ることができ好ましい。また、難黒鉛化性炭素は、優れたサイクル特性が得られるので好ましい。更にまた、充放電電位が低いもの、具体的には充放電電位がリチウム金属に近いものが、電池の高エネルギー密度化を容易に実現することができるので好ましい。
【0085】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、また、リチウムを吸蔵および放出することが可能であり、金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として含む材料も挙げられる。このような材料を用いれば、高いエネルギー密度を得ることができるからである。特に、炭素材料と共に用いるようにすれば、高エネルギー密度を得ることができると共に、優れたサイクル特性を得ることができるのでより好ましい。この負極材料は金属元素あるいは半金属元素の単体でも合金でも化合物でもよく、またこれらの1種または2種以上の相を少なくとも一部に有するようなものでもよい。なお、本技術において、合金には2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含むものも含める。また、非金属元素を含んでいてもよい。その組織には固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物あるいはそれらのうちの2種以上が共存するものがある。
【0086】
この負極材料を構成する金属元素あるいは半金属元素としては、例えば、リチウムと合金を形成することが可能な金属元素または半金属元素が挙げられる。具体的には、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、パラジウム(Pd)あるいは白金(Pt)が挙げられる。これらは結晶質のものでもアモルファスのものでもよい。
【0087】
中でも、この負極材料としては、短周期型周期表における4B族の金属元素あるいは半金属元素を構成元素として含むものが好ましく、より好ましいのはケイ素(Si)およびスズ(Sn)の少なくとも一方を構成元素として含むものであり、特に好ましくは少なくともケイ素を含むものである。ケイ素(Si)およびスズ(Sn)は、リチウムを吸蔵および放出する能力が大きく、高いエネルギー密度を得ることができるからである。ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種を有する負極材料としては、例えば、ケイ素の単体、合金または化合物や、スズの単体、合金または化合物や、それらの1種または2種以上の相を少なくとも一部に有する材料が挙げられる。
【0088】
ケイ素の合金としては、例えば、ケイ素以外の第2の構成元素として、スズ(Sn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、銀(Ag)、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)およびクロム(Cr)からなる群のうちの少なくとも1種を含むものが挙げられる。スズの合金としては、例えば、スズ(Sn)以外の第2の構成元素として、ケイ素(Si)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、銀(Ag)、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)およびクロム(Cr)からなる群のうちの少なくとも1種を含むものが挙げられる。
【0089】
スズ(Sn)の化合物あるいはケイ素(Si)の化合物としては、例えば、酸素(O)あるいは炭素(C)を含むものが挙げられ、スズ(Sn)またはケイ素(Si)に加えて、上述した第2の構成元素を含んでいてもよい。
【0090】
中でも、この負極材料としては、コバルト(Co)と、スズ(Sn)と、炭素(C)とを構成元素として含み、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下であり、かつスズ(Sn)とコバルト(Co)との合計に対するコバルト(Co)の割合が30質量%以上70質量%以下であるSnCoC含有材料が好ましい。このような組成範囲において高いエネルギー密度を得ることができると共に、優れたサイクル特性を得ることができるからである。
【0091】
このSnCoC含有材料は、必要に応じて更に他の構成元素を含んでいてもよい。他の構成元素としては、例えば、ケイ素(Si)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、インジウム(In)、ニオブ(Nb)、ゲルマニウム(Ge)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、アルミニウム(Al)、リン(P)、ガリウム(Ga)またはビスマス(Bi)が好ましく、2種以上を含んでいてもよい。容量またはサイクル特性を更に向上させることができるからである。
【0092】
なお、このSnCoC含有材料は、スズ(Sn)と、コバルト(Co)と、炭素(C)とを含む相を有しており、この相は結晶性の低いまたは非晶質な構造を有していることが好ましい。また、このSnCoC含有材料では、構成元素である炭素(C)の少なくとも一部が、他の構成元素である金属元素または半金属元素と結合していることが好ましい。サイクル特性の低下はスズ(Sn)等が凝集あるいは結晶化することによるものであると考えられるが、炭素(C)が他の元素と結合することにより、そのような凝集あるいは結晶化を抑制することができるからである。
【0093】
元素の結合状態を調べる測定方法としては、例えばX線光電子分光法(XPS)が挙げられる。XPSでは、炭素の1s軌道(C1s)のピークは、グラファイトであれば、金原子の4f軌道(Au4f)のピークが84.0eVに得られるようにエネルギー較正された装置において、284.5eVに現れる。また、表面汚染炭素であれば、284.8eVに現れる。これに対して、炭素元素の電荷密度が高くなる場合、例えば炭素が金属元素または半金属元素と結合している場合には、C1sのピークは、284.5eVよりも低い領域に現れる。すなわち、SnCoC含有材料について得られるC1sの合成波のピークが284.5eVよりも低い領域に現れる場合には、SnCoC含有材料に含まれる炭素の少なくとも一部が他の構成元素である金属元素または半金属元素と結合している。
【0094】
なお、XPS測定では、スペクトルのエネルギー軸の補正に、例えばC1sのピークを用いる。通常、表面には表面汚染炭素が存在しているので、表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとし、これをエネルギー基準とする。XPS測定では、C1sのピークの波形は、表面汚染炭素のピークとSnCoC含有材料中の炭素のピークとを含んだ形として得られるので、例えば市販のソフトウエアを用いて解析することにより、表面汚染炭素のピークと、SnCoC含有材料中の炭素のピークとを分離する。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
【0095】
[セパレータ]
セパレータ23は、第1の実施の形態に係るセパレータ1と同様である。
【0096】
[非水電解液]
非水電解液は、電解質塩と、この電解質塩を溶解する非水溶媒とを含む。
【0097】
電解質塩は、例えば、リチウム塩等の軽金属化合物の1種あるいは2種以上を含有している。このリチウム塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6)、テトラフェニルホウ酸リチウム(LiB(C654)、メタンスルホン酸リチウム(LiCH3SO3)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、テトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl4)、六フッ化ケイ酸二リチウム(Li2SiF6)、塩化リチウム(LiCl)あるいは臭化リチウム(LiBr)等が挙げられる。中でも、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムおよび六フッ化ヒ酸リチウムからなる群のうちの少なくとも1種が好ましく、六フッ化リン酸リチウムがより好ましい。
【0098】
非水溶媒としては、例えば、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトンあるいはε−カプロラクトン等のラクトン系溶媒、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ビニレン、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルあるいは炭酸ジエチル等の炭酸エステル系溶媒、1,2−ジメトキシエタン、1−エトキシ−2−メトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフランあるいは2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、アセトニトリル等のニトリル系溶媒、スルフォラン系溶媒、リン酸類、リン酸エステル溶媒、またはピロリドン類等の非水溶媒が挙げられる。溶媒は、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0099】
また、非水溶媒として、環状炭酸エステルおよび鎖状炭酸エステルを混合して用いることが好ましく、環状炭酸エステルまたは鎖状炭酸エステルの水素の一部または全部がフッ素化された化合物を含むことがより好ましい。このフッ素化された化合物としては、フルオロエチレンカーボネート(4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン:FEC)およびジフルオロエチレンカーボネート(4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン:DFEC)を用いることが好ましい。負極活物質としてケイ素(Si)、スズ(Sn)、ゲルマニウム(Ge)等の化合物を含む負極22を用いた場合であっても、充放電サイクル特性を向上させることができるためである。なかでも、非水溶媒としてジフルオロエチレンカーボネートを用いることが好ましい。サイクル特性改善効果に優れるためである。
【0100】
(2−2)非水電解質電池の製造方法
[正極の製造方法]
正極活物質と、導電剤と、結着剤とを混合して正極合剤を調製し、この正極合剤をN−メチル−2−ピロリドン等の溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーを作製する。次に、この正極合剤スラリーを正極集電体21Aに塗布し溶剤を乾燥させ、ロールプレス機等により圧縮成型することにより正極活物質層21Bを形成し、正極21を作製する。
【0101】
[負極の製造方法]
負極活物質と、結着剤とを混合して負極合剤を調製し、この負極合剤をN−メチル−2−ピロリドン等の溶剤に分散させてペースト状の負極合剤スラリーを作製する。次に、この負極合剤スラリーを負極集電体22Aに塗布し溶剤を乾燥させ、ロールプレス機等により圧縮成型することにより負極活物質層22Bを形成し、負極22を作製する。
【0102】
[非水電解液の調製]
非水電解液は、非水溶媒に対して電解質塩を溶解させて調製する。
【0103】
[非水電解質電池の組み立て]
正極集電体21Aに正極リード25を溶接等により取り付けると共に、負極集電体22Aに負極リード26を溶接等により取り付ける。その後、正極21と負極22とをセパレータ23を介して巻回し巻回電極体20とする。正極リード25の先端部を安全弁機構に溶接すると共に、負極リード26の先端部を電池缶11に溶接する。この後、巻回電極体20の巻回面を一対の絶縁板12,13で挟み、電池缶11の内部に収納する。巻回電極体20を電池缶11の内部に収納したのち、非水電解液を電池缶11の内部に注入し、セパレータ23に含浸させる。そののち、電池缶11の開口端部に電池蓋13、安全弁14等からなる安全弁機構および熱感抵抗素子17をガスケット18を介してかしめることにより固定する。これにより、図5に示した本技術の非水電解質電池10が形成される。
【0104】
この非水電解質電池10では、充電を行うと、例えば、正極活物質層21Bからリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された非水電解液を介して負極活物質層22Bに吸蔵される。また、放電を行うと、例えば、負極活物質層22Bからリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された非水電解液を介して正極活物質層21Bに吸蔵される。
【0105】
3.第3の実施の形態
第3の実施の形態では、第1の実施の形態に係るセパレータを用いたラミネートフィルム型非水電解質電池について説明する。
【0106】
(3−1)非水電解質電池の構成
図7は、第3の実施の形態に係る非水電解質電池の構成を表すものである。この非水電解質電池は、いわゆるラミネートフィルム型といわれるものであり、正極リード31および負極リード32が取り付けられた巻回電極体30をフィルム状の外装部材40の内部に収容したものである。
【0107】
正極リード31および負極リード32は、それぞれ、外装部材40の内部から外部に向かい例えば同一方向に導出されている。正極リード31および負極リード32は、例えば、アルミニウム、銅、ニッケルあるいはステンレス等の金属材料によりそれぞれ構成されており、それぞれ薄板状または網目状とされている。
【0108】
外装部材40は、例えば、金属層の両面に樹脂層が形成されたラミネートフィルムからなる。ラミネートフィルムは、金属層のうち電池外側に露出する面に外側樹脂層が形成され、巻回電極体30等の発電要素に対向する電池内側面に内側樹脂層が形成される。
【0109】
金属層は、水分、酸素、光の進入を防ぎ内容物を守る最も重要な役割を担っており、軽さ、伸び性、価格、加工のしやすさからアルミニウム(Al)が最もよく使われる。外側樹脂層は、外観の美しさや強靱さ、柔軟性等を有し、ナイロンまたはポリエチレンテレフタレート(PET)等の樹脂材料が用いられる。内側樹脂層は、熱や超音波で溶け、互いに融着する部分であるため、ポリオレフィン樹脂が適切であり、無延伸ポリプロピレン(CPP)が多用される。金属層と外側樹脂層および内側樹脂層との間には、必要に応じて接着剤層を設けてもよい。
【0110】
外装部材40は、例えば深絞りにより内側樹脂層側から外側樹脂層の方向に向けて形成された、巻回電極体30を収容する凹部が設けられており、内側樹脂層が巻回電極体30と対向するように配設されている。外装部材40の対向する内側樹脂層同士は、凹部の外縁部において融着等により互いに密着されている。外装部材40と正極リード31および負極リード32との間には、外装部材40の内側樹脂層と、金属材料からなる正極リード31および負極リード32との接着性を向上させるための密着フィルム41が配置されている。密着フィルム41は、金属材料との接着性の高い樹脂材料からなり、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンや、これら材料が変性された変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂により構成されている。
【0111】
なお、外装部材40は、金属層がアルミニウム(Al)からなるアルミラミネートフィルムに代えて、他の構造を有するラミネートフィルム、ポリプロピレン等の高分子フィルムあるいは金属フィルムにより構成するようにしてもよい。
【0112】
図8は、図7に示した巻回電極体30のI−I線に沿った断面構造を表すものである。巻回電極体30は、正極33と負極34とをセパレータ35および非水電解質36を介して積層し、巻回したものであり、最外周部は必要に応じて保護テープ37により保護されている。
【0113】
[正極]
正極33は、正極集電体33Aの片面あるいは両面に正極活物質層33Bが設けられた構造を有している。正極集電体33A、正極活物質層33Bの構成は、上述した第2の実施の形態の正極集電体21Aおよび正極活物質層21Bと同様である。
【0114】
[負極]
負極34は、負極集電体34Aの片面あるいは両面に負極活物質層34Bが設けられた構造を有しており、負極活物質層34Bと正極活物質層33Bとが対向するように配置されている。負極集電体34A、負極活物質層34Bの構成は、上述した第2の実施の形態の負極集電体22Aおよび負極活物質層22Bと同様である。
【0115】
[セパレータ]
セパレータ35は、第1の実施の形態に係るセパレータ1と同様である。
【0116】
[非水電解質]
非水電解質36は、第3の実施の形態に係る非水電解質であり、非水電解液と非水電解液を保持する保持体となる高分子化合物とを含み、いわゆるゲル状となっている。ゲル状の電解質は高いイオン伝導率を得ることができると共に、電池の漏液を防止することができるので好ましい。
【0117】
高分子化合物としては、例えば、ポリエチレンオキサイドあるいはポリエチレンオキサイドを含む架橋体等のエーテル系高分子化合物、ポリメタクリレート等のエステル系高分子化合物あるいはアクリレート系高分子化合物、またはポリフッ化ビニリデンあるいはフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体等のフッ化ビニリデン重合体が挙げられ、これらのうちのいずれか1種または2種以上が混合して用いられる。特に、酸化還元安定性の観点からは、フッ化ビニリデン重合体等のフッ素系高分子化合物を用いることが望ましい。
【0118】
(3−2)非水電解質電池の製造方法
この非水電解質電池は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0119】
[正極および負極の製造方法]
正極33および負極34は、第2の実施の形態と同様の方法により作製することができる。
【0120】
[非水電解質電池の組み立て]
正極33および負極34のそれぞれの両面に、非水電解液と、高分子化合物と、混合溶剤とを含む前駆溶液を塗布し、混合溶剤を揮発させて非水電解質36を形成する。そののち、正極集電体33Aの端部に正極リード31を溶接により取り付けると共に、負極集電体34Aの端部に負極リード32を溶接により取り付ける。
【0121】
次に、非水電解質36が形成された正極33と負極34とをセパレータ35を介して積層し積層体としたのち、この積層体をその長手方向に巻回して、最外周部に保護テープ37を接着して巻回電極体30を形成する。最後に、例えば、外装部材40の間に巻回電極体30を挟み込み、外装部材40の外縁部同士を熱融着等により密着させて封入する。その際、正極リード31および負極リード32と外装部材40との間には密着フィルム41を挿入する。これにより、図7および図8に示した非水電解質電池が完成する。
【0122】
また、この非水電解質電池は、次のようにして作製してもよい。まず、上述したようにして正極33および負極34を作製し、正極33および負極34に正極リード31および負極リード32を取り付けたのち、正極33と負極34とをセパレータ35を介して積層して巻回し、最外周部に保護テープ37を接着して、巻回電極体30の前駆体である巻回体を形成する。次に、この巻回体を外装部材40に挟み、一辺を除く外周縁部を熱融着して袋状とし、外装部材40の内部に収納する。続いて、非水電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤等の他の材料とを含む電解質用組成物を用意し、外装部材40の内部に注入する。
【0123】
電解質用組成物を注入したのち、外装部材40の開口部を真空雰囲気下で熱融着して密封する。次に、熱を加えてモノマーを重合させて高分子化合物とすることによりゲル状の非水電解質36を形成し、図7および図8に示した非水電解質電池を組み立てる。
【0124】
4.第4の実施の形態
第4の実施の形態では、第1の実施の形態に係るセパレータを用いた非水電解質電池が備えられた電池パックについて説明する。
【0125】
図9は、本技術の非水電解質電池を電池パックに適用した場合の回路構成例を示すブロック図である。電池パックは、組電池301、外装、充電制御スイッチ302aと、放電制御スイッチ303aとを備えるスイッチ部304、電流検出抵抗307、温度検出素子308、制御部310を備えている。
【0126】
また、電池パックは、正極端子321および負極端子322を備え、充電時には正極端子321および負極端子322がそれぞれ充電器の正極端子、負極端子に接続され、充電が行われる。また、電子機器使用時には、正極端子321および負極端子322がそれぞれ電子機器の正極端子、負極端子に接続され、放電が行われる。
【0127】
組電池301は、複数の非水電解質電池301aを直列および/または並列に接続してなる。この非水電解質電池301aは本技術の非水電解質電池である。なお、図9では、6つの非水電解質電池301aが、2並列3直列(2P3S)に接続された場合が例として示されているが、その他、n並列m直列(n,mは整数)のように、どのような接続方法でもよい。
【0128】
スイッチ部304は、充電制御スイッチ302aおよびダイオード302b、ならびに放電制御スイッチ303aおよびダイオード303bを備え、制御部310によって制御される。ダイオード302bは、正極端子321から組電池301の方向に流れる充電電流に対して逆方向で、負極端子322から組電池301の方向に流れる放電電流に対して順方向の極性を有する。ダイオード303bは、充電電流に対して順方向で、放電電流に対して逆方向の極性を有する。なお、例では+側にスイッチ部を設けているが、−側に設けてもよい。
【0129】
充電制御スイッチ302aは、電池電圧が過充電検出電圧となった場合にOFFされて、組電池301の電流経路に充電電流が流れないように充放電制御部によって制御される。充電制御スイッチのOFF後は、ダイオード302bを介することによって放電のみが可能となる。また、充電時に大電流が流れた場合にOFFされて、組電池301の電流経路に流れる充電電流を遮断するように、制御部310によって制御される。
【0130】
放電制御スイッチ303aは、電池電圧が過放電検出電圧となった場合にOFFされて、組電池301の電流経路に放電電流が流れないように制御部310によって制御される。放電制御スイッチ303aのOFF後は、ダイオード303bを介することによって充電のみが可能となる。また、放電時に大電流が流れた場合にOFFされて、組電池301の電流経路に流れる放電電流を遮断するように、制御部310によって制御される。
【0131】
温度検出素子308は例えばサーミスタであり、組電池301の近傍に設けられ、組電池301の温度を測定して測定温度を制御部310に供給する。電圧検出部311は、組電池301およびそれを構成する各非水電解質電池301aの電圧を測定し、この測定電圧をA/D変換して、制御部310に供給する。電流測定部313は、電流検出抵抗307を用いて電流を測定し、この測定電流を制御部310に供給する。
【0132】
スイッチ制御部314は、電圧検出部311および電流測定部313から入力された電圧および電流を基に、スイッチ部304の充電制御スイッチ302aおよび放電制御スイッチ303aを制御する。スイッチ制御部314は、非水電解質電池301aのいずれかの電圧が過充電検出電圧もしくは過放電検出電圧以下になったとき、また、大電流が急激に流れたときに、スイッチ部304に制御信号を送ることにより、過充電および過放電、過電流充放電を防止する。
【0133】
ここで、例えば、非水電解質電池がリチウムイオン二次電池の場合、過充電検出電圧が例えば4.20V±0.05Vと定められ、過放電検出電圧が例えば2.4V±0.1Vと定められる。
【0134】
充放電スイッチは、例えばMOSFET等の半導体スイッチを使用できる。この場合MOSFETの寄生ダイオードがダイオード302bおよび303bとして機能する。充放電スイッチとして、Pチャンネル型FETを使用した場合は、スイッチ制御部314は、充電制御スイッチ302aおよび放電制御スイッチ303aのそれぞれのゲートに対して、制御信号DOおよびCOをそれぞれ供給する。充電制御スイッチ302aおよび放電制御スイッチ303aはPチャンネル型である場合、ソース電位より所定値以上低いゲート電位によってONする。すなわち、通常の充電および放電動作では、制御信号COおよびDOをローレベルとし、充電制御スイッチ302aおよび放電制御スイッチ303aをON状態とする。
【0135】
そして、例えば過充電もしくは過放電の際には、制御信号COおよびDOをハイレベルとし、充電制御スイッチ302aおよび放電制御スイッチ303aをOFF状態とする。
【0136】
メモリ317は、RAMやROMからなり例えば不揮発性メモリであるEPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)等からなる。メモリ317では、制御部310で演算された数値や 、製造工程の段階で測定された各非水電解質電池301aの初期状態における電池の内部抵抗値等が予め記憶され、また適宜、書き換えも可能である。 (また、非水電解質電池301aの満充電容量を記憶させておくことで、制御部310とともに例えば残容量を算出することができる。
【0137】
温度検出部318では、温度検出素子308を用いて温度を測定し、異常発熱時に充放電制御を行ったり、残容量の算出における補正を行う。
【0138】
5.第5の実施の形態
第5の実施の形態では、第2および第3の実施の形態に係る非水電解質電池および第4の実施の形態に係る電池パックを搭載した電子機器、電動車両および蓄電装置等の機器について説明する。第2〜第4の実施の形態で説明した非水電解質電池および電池パックは、電子機器や電動車両、蓄電装置等の機器に電力を供給するために使用することができる。
【0139】
電子機器として、例えばノート型パソコン、PDA(携帯情報端末)、携帯電話、コードレスフォン子機、ビデオムービー、デジタルスチルカメラ、電子書籍、電子辞書、音楽プレイヤー、ラジオ、ヘッドホン、ゲーム機、ナビゲーションシステム、メモリーカード、ペースメーカー、補聴器、電動工具、電気シェーバー、冷蔵庫、 エアコン、テレビ、ステレオ、温水器、電子レンジ、食器洗い器、洗濯機、乾燥器、照明機器、玩具、医療機器、ロボット、ロードコンディショナー、信号機等が挙げられる。
【0140】
また、電動車両としては鉄道車両、ゴルフカート、電動カート、電気自動車(ハイブリッド自動車を含む)等が挙げられ、これらの駆動用電源または補助用電源として用いられる。
【0141】
蓄電装置としては、住宅をはじめとする建築物用または発電設備用の電力貯蔵用電源等が挙げられる。
【0142】
以下では、上述した適用例のうち、本技術の非水電解質電池を適用した蓄電装置を用いた蓄電システムの具体例を説明する。
【0143】
この蓄電システムは、例えば下記の様な構成が挙げられる。第1の蓄電システムは、再生可能エネルギーから発電を行う発電装置によって蓄電装置が充電される蓄電システムである。第2の蓄電システムは、蓄電装置を有し、蓄電装置に接続される電子機器に電力を供給する蓄電システムである。第3の蓄電システムは、蓄電装置から、電力の供給を受ける電子機器である。これらの蓄電システムは、外部の電力供給網と協働して電力の効率的な供給を図るシステムとして実施される。
【0144】
さらに、第4の蓄電システムは、蓄電装置から電力の供給を受けて車両の駆動力に変換する変換装置と、蓄電装置に関する情報に基いて車両制御に関する情報処理を行なう制御装置とを有する電動車両である。第5の蓄電システムは、他の機器とネットワークを介して信号を送受信する電力情報送受信部とを備え、送受信部が受信した情報に基づき、上述した蓄電装置の充放電制御を行う電力システムである。第6の蓄電システムは、上述した蓄電装置から、電力の供給を受け、または発電装置または電力網から蓄電装置に電力を供給する電力システムである。以下、蓄電システムについて説明する。
【0145】
(5−1)応用例としての住宅における蓄電システム
本技術の非水電解質電池を用いた蓄電装置を住宅用の蓄電システムに適用した例について、図10を参照して説明する。例えば住宅101用の蓄電システム100においては、火力発電102a、原子力発電102b、水力発電102c等の集中型電力系統102から電力網109、情報網112、スマートメータ107、パワーハブ108等を介し、電力が蓄電装置103に供給される。これと共に、家庭内発電装置104等の独立電源から電力が蓄電装置103に供給される。蓄電装置103に供給された電力が蓄電される。蓄電装置103を使用して、住宅101で使用する電力が給電される。住宅101に限らずビルに関しても同様の蓄電システムを使用できる。
【0146】
住宅101には、家庭内発電装置104、電力消費装置105、蓄電装置103、各装置を制御する制御装置110、スマートメータ107、各種情報を取得するセンサ111が設けられている。各装置は、電力網109および情報網112によって接続されている。家庭内発電装置104として、太陽電池、燃料電池等が利用され、発電した電力が電力消費装置105および/または蓄電装置103に供給される。電力消費装置105は、冷蔵庫105a、空調装置105b、テレビジョン受信機105c、風呂105d等である。さらに、電力消費装置105には、電動車両106が含まれる。電動車両106は、電気自動車106a、ハイブリッドカー106b、電気バイク106cである。
【0147】
蓄電装置103に対して、本技術の非水電解質電池が適用される。本技術の非水電解質電池は、例えば上述したリチウムイオン二次電池によって構成されていてもよい。スマートメータ107は、商用電力の使用量を測定し、測定された使用量を、電力会社に送信する機能を備えている。電力網109は、直流給電、交流給電、非接触給電の何れか一つまたは複数を組み合わせてもよい。
【0148】
各種のセンサ111は、例えば人感センサ、照度センサ、物体検知センサ、消費電力センサ、振動センサ、接触センサ、温度センサ、赤外線センサ等である。各種のセンサ111により取得された情報は、制御装置110に送信される。センサ111からの情報によって、気象の状態、人の状態等が把握されて電力消費装置105を自動的に制御してエネルギー消費を最小とすることができる。さらに、制御装置110は、住宅101に関する情報をインターネットを介して外部の電力会社等に送信することができる。
【0149】
パワーハブ108によって、電力線の分岐、直流交流変換等の処理がなされる。制御装置110と接続される情報網112の通信方式としては、UART(Universal Asynchronous Receiver-Transceiver:非同期シリアル通信用送受信回路)等の通信インターフェースを使う方法、Bluetooth、ZigBee、Wi−Fi等の無線通信規格によるセンサーネットワークを利用する方法がある。Bluetooth方式は、マルチメディア通信に適用され、一対多接続の通信を行うことができる。ZigBeeは、IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)802.15.4の物理層を使用するものである。IEEE802.15.4は、PAN(Personal Area Network)またはW(Wireless)PANと呼ばれる短距離無線ネットワーク規格の名称である。
【0150】
制御装置110は、外部のサーバ113と接続されている。このサーバ113は、住宅101、電力会社、サービスプロバイダーの何れかによって管理されていてもよい。サーバ113が送受信する情報は、たとえば、消費電力情報、生活パターン情報、電力料金、天気情報、天災情報、電力取引に関する情報である。これらの情報は、家庭内の電力消費装置(たとえばテレビジョン受信機)から送受信してもよいが、家庭外の装置(たとえば、携帯電話機等)から送受信してもよい。これらの情報は、表示機能を持つ機器、たとえば、テレビジョン受信機、携帯電話機、PDA(Personal Digital Assistants)等に、表示されてもよい。
【0151】
各部を制御する制御装置110は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等で構成され、この例では、蓄電装置103に格納されている。制御装置110は、蓄電装置103、家庭内発電装置104、電力消費装置105、各種のセンサ111、サーバ113と情報網112により接続され、例えば、商用電力の使用量と、発電量とを調整する機能を有している。なお、その他にも、電力市場で電力取引を行う機能等を備えていてもよい。
【0152】
以上のように、電力が火力102a、原子力102b、水力102c等の集中型電力系統102のみならず、家庭内発電装置104(太陽光発電、風力発電)の発電電力を蓄電装置103に蓄えることができる。したがって、家庭内発電装置104の発電電力が変動しても、外部に送出する電力量を一定にしたり、または、必要なだけ放電するといった制御を行うことができる。例えば、太陽光発電で得られた電力を蓄電装置103に蓄えると共に、夜間は料金が安い深夜電力を蓄電装置103に蓄え、昼間の料金が高い時間帯に蓄電装置103によって蓄電した電力を放電して利用するといった使い方もできる。
【0153】
なお、この例では、制御装置110が蓄電装置103内に格納される例を説明したが、スマートメータ107内に格納されてもよいし、単独で構成されていてもよい。さらに、蓄電システム100は、集合住宅における複数の家庭を対象として用いられてもよいし、複数の戸建て住宅を対象として用いられてもよい。
【0154】
(5−2)応用例としての車両における蓄電システム
本技術を車両用の蓄電システムに適用した例について、図11を参照して説明する。図11に、本技術が適用されるシリーズハイブリッドシステムを採用するハイブリッド車両の構成の一例を概略的に示す。シリーズハイブリッドシステムはエンジンで動かす発電機で発電された電力、あるいはそれをバッテリーに一旦貯めておいた電力を用いて、電力駆動力変換装置で走行する車である。
【0155】
このハイブリッド車両200には、エンジン201、発電機202、電力駆動力変換装置203、駆動輪204a、駆動輪204b、車輪205a、車輪205b、バッテリー208、車両制御装置209、各種センサ210、充電口211が搭載されている。バッテリー208に対して、上述した本技術の非水電解質電池が適用される。
【0156】
ハイブリッド車両200は、電力駆動力変換装置203を動力源として走行する。電力駆動力変換装置203の一例は、モータである。バッテリー208の電力によって電力駆動力変換装置203が作動し、この電力駆動力変換装置203の回転力が駆動輪204a、204bに伝達される。なお、必要な個所に直流−交流(DC−AC)あるいは逆変換(AC−DC変換)を用いることによって、電力駆動力変換装置203が交流モータでも直流モータでも適用可能である。各種センサ210は、車両制御装置209を介してエンジン回転数を制御したり、図示しないスロットルバルブの開度(スロットル開度)を制御したりする。各種センサ210には、速度センサ、加速度センサ、エンジン回転数センサ等が含まれる。
【0157】
エンジン201の回転力は発電機202に伝えられ、その回転力によって発電機202により生成された電力をバッテリー208に蓄積することが可能である。
【0158】
図示しない制動機構によりハイブリッド車両200が減速すると、その減速時の抵抗力が電力駆動力変換装置203に回転力として加わり、この回転力によって電力駆動力変換装置203により生成された回生電力がバッテリー208に蓄積される。
【0159】
バッテリー208は、ハイブリッド車両200の外部の電源に接続されることで、その外部電源から充電口211を入力口として電力供給を受け、受けた電力を蓄積することも可能である。
【0160】
図示しないが、非水電解質電池に関する情報に基いて車両制御に関する情報処理を行う情報処理装置を備えていてもよい。このような情報処理装置としては、例えば、電池の残量に関する情報に基づき、電池残量表示を行う情報処理装置等がある。
【0161】
なお、以上は、エンジンで動かす発電機で発電された電力、或いはそれをバッテリーに一旦貯めておいた電力を用いて、モータで走行するシリーズハイブリッド車を例として説明した。しかしながら、エンジンとモータの出力がいずれも駆動源とし、エンジンのみで走行、モータのみで走行、エンジンとモータ走行という3つの方式を適宜切り替えて使用するパラレルハイブリッド車に対しても本技術は有効に適用可能である。さらに、エンジンを用いず駆動モータのみによる駆動で走行する所謂、電動車両に対しても本技術は有効に適用可能である。
【実施例】
【0162】
以下、本技術を実施例および比較例によりさらに詳細に説明する。
【0163】
<参考例1〜参考例5>
参考例1〜参考例5では、異なる樹脂材料を用いて形成した非多孔質樹脂フィルムを用いて樹脂フィルムの特性を評価し、本技術の共重合体の特性を確認した。なお、本技術のセパレータは、基材、表面層のいずれも空隙を有する構造であるため、以下の評価は参考例とした。
【0164】
<参考例1>
フッ化ビニリデン(VdF)−テトラフルオロエチレン(TFE)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体(ダイキン工業株式会社製:ネオフロンVT470)を用いて、厚さ32μmのフィルム状に形成し、樹脂フィルムとした。
【0165】
<参考例2>
質量平均分子量が63万であるポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製KFポリマーW♯7200)を用いて、厚さ30μmのフィルム状に形成し、樹脂フィルムとした。
【0166】
<参考例3>
質量平均分子量が100万であるポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製KFポリマーW♯7300)を用いて、厚さ31μmのフィルム状に形成し、樹脂フィルムとした。
【0167】
<参考例4>
質量平均分子量が50万であるフッ化ビニリデン(VdF)−マレイン酸モノメチルエステル(MMM)共重合体(株式会社クレハ製KFポリマーW♯9200)を用いて、厚さ29μmのフィルム状に形成し、樹脂フィルムとした。
【0168】
<参考例5>
質量平均分子量が50万であるフッ化ビニリデン(VdF)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)−マレイン酸モノメチルエステル(MMM)共重合体(株式会社クレハ製KFポリマーW♯9300)を用いて、厚さ30μmのフィルム状に形成し、樹脂フィルムとした。
【0169】
[樹脂フィルムの評価]
(a)引裂試験
上述の各参考例のセパレータについて、JIS K 7128−1に準拠したトラウザー引裂法により評価を行った。各参考例のセパレータを、長さ150mm、幅50mmの試験片に切断するとともに、試験片の一端から長さ75mmのスリットを入れた。
【0170】
続いて、試験片のスリットを挟む両端を精密万能試験機(島津製作所(株)社製:AG−100D)によりそれぞれチャックし、図12に示すように、引張試験機でそれぞれ異なる方向に引っ張った際の引裂力を測定した。このとき、試験速度は200mm/minとした。引裂強度は、下記の式から算出した。
引裂強度[N/cm]=引裂力N/試験片の厚さ
【0171】
(b)破断試験
上述の各参考例のセパレータについて、上述の精密万能試験機を用いてセパレータ両端に荷重を加え、セパレータが破断した際のセパレータの伸び量を求めた。破断伸びは、試験前の長さLoに対する破断時の伸び量(破断時の長さL−試験前の長さLo)の割合として求めた。
破断伸び[%]={(破断時の長さL−試験前の長さLo)/試験前の長さLo}×100
【0172】
下記の表1に、各試験例の評価結果を示す。
【0173】
【表1】

【0174】
表1から分かるように、本技術の共重合体を用いた参考例1の樹脂フィルムは、他の参考例2〜参考例5と比較して破断伸びが顕著に大きかった。また、引裂試験において、スリット部分から裂けが生じず、樹脂フィルムが伸びて引裂力の算出ができなかった。このように、本技術の共重合体は、基材の裂けやすさを補う機能を有する表面層に好適に用いられることが分かった。
【0175】
<実施例1−1〜実施例1−7、比較例1−1〜比較例1−8および参考例1−1>
実施例1−1〜実施例1−7、比較例1−1〜比較例1−8および参考例1−1では、基材の一方の面に表面層を設け、表面層の樹脂材料を変化させてセパレータの特性を評価した。
【0176】
<実施例1−1>
表面層に用いる樹脂材料として、フッ化ビニリデン(VdF)−テトラフルオロエチレン(TFE)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体(ダイキン工業株式会社製:ネオフロンVT470)を用いた。この共重合体を、N−メチル−2−ピロリドンに対して十分溶解させ、上述の共重合体が5.0質量%溶解された樹脂溶液を作製した。
【0177】
次に、上述の樹脂溶液を、卓上コーターにて基材である厚さ16μmのポリオレフィン多孔性樹脂膜の一方の面に塗布した。なお、基材としては、ポリエチレン多孔性樹脂膜の両面にポリプロピレン多孔性樹脂膜が形成されており、いわゆる乾式法(すなわち延伸方法としては一軸延伸)によりフィルム状に形成された積層構造を有する多孔性樹脂膜を用いた。続いて、樹脂溶液を塗布した基材を水浴に15分間浸漬して表面層を相分離させた後、熱風にて乾燥させることにより、総厚17.4μmのセパレータを得た。
【0178】
なお、完成後のセパレータの表面層は、厚さ1.4μmであり、面積密度が0.094mg/cm2、空隙率が65.2%であった。また、基材自体の空隙率は36.3%であり、表面層を形成したセパレータの透気度は471sec/100mlであった。
【0179】
空隙率は、次のようにして測定した。まず、セパレータを切り取り面積S[cm2]で切り取ってサンプルを形成し、質量(W[g])と厚み(D[cm])とを測定した。続いて、サンプル中の共重合体を構成するi種類(i=1,2・・・,n)のモノマー単位それぞれの質量(Wi[g]、i=1,2・・・,n)を計算により割り出した。さらに、それぞれのモノマー単位の質量(Wi[g])をそれぞれの真密度(di[g/cm3])で割り、それぞれのモノマー単位の体積を仮定して、次式より空隙率を算出した。
空隙率[%]=100−{(質量W1/真密度d1)+(質量W2/真密度d2)+・・・+(質量Wn/真密度dn)}/(切り取り面積S×厚みD)
【0180】
<実施例1−2>
上述の共重合体が6.0質量%溶解された樹脂溶液を用いて表面層を形成した以外は実施例1−1と同様の方法を用いて総厚17.6μmのセパレータを作製した。
【0181】
なお、完成後のセパレータの表面層は、厚さ1.6μmであり、面積密度が0.113mg/cm2、空隙率が63.4%であった。また、表面層を形成したセパレータの透気度は466sec/100mlであった。
【0182】
<実施例1−3>
上述の共重合体が7.0質量%溶解された樹脂溶液を用いて表面層を形成した以外は実施例1−1と同様の方法を用いて総厚17.8μmのセパレータを作製した。
【0183】
なお、完成後のセパレータの表面層は、厚さ1.8μmであり、面積密度が0.126mg/cm2、空隙率が63.7%であった。また、表面層を形成したセパレータの透気度は491sec/100mlであった。
【0184】
<実施例1−4>
上述の共重合体が8.0質量%溶解された樹脂溶液を用いて表面層を形成した以外は実施例1−1と同様の方法を用いて総厚17.7μmのセパレータを作製した。
【0185】
なお、完成後のセパレータの表面層は、厚さ1.7μmであり、面積密度が0.122mg/cm2、空隙率が62.8%であった。また、表面層を形成したセパレータの透気度は470sec/100mlであった。
【0186】
<実施例1−5>
上述の共重合体が10.0質量%溶解された樹脂溶液を用いて表面層を形成した以外は実施例1−1と同様の方法を用いて総厚18.1μmのセパレータを作製した。
【0187】
なお、完成後のセパレータの表面層は、厚さ2.1μmであり、面積密度が0.193mg/cm2、空隙率が52.4%であった。また、表面層を形成したセパレータの透気度は530sec/100mlであった。
【0188】
<実施例1−6>
実施例1−1よりも表面層を薄く形成した以外は実施例1−1と同様の方法を用いて総厚17.2μmのセパレータを作製した。
【0189】
なお、完成後のセパレータの表面層は、厚さ1.2μmであり、面積密度が0.063mg/cm2、空隙率が72.8%であった。また、表面層を形成したセパレータの透気度は450sec/100mlであった。
【0190】
<実施例1−7>
実施例1−2よりも表面層を薄く形成した以外は実施例1−2と同様の方法を用いて総厚16.5μmのセパレータを作製した。
【0191】
なお、完成後のセパレータの表面層は、厚さ0.5μmであり、面積密度が0.063mg/cm2、空隙率が34.7%であった。また、表面層を形成したセパレータの透気度は445sec/100mlであった。
【0192】
<比較例1−1>
実施例1−1の共重合体の代わりに、フッ化ビニリデン(VdF)−マレイン酸モノメチルエステル(MMM)共重合体(株式会社クレハ製KFポリマーW♯9200)を用い、上述の共重合体が5.0質量%溶解された樹脂溶液を用いて表面層を形成した以外は、実施例1−1と同様の方法を用いて総厚19.3μmのセパレータを作製した。
【0193】
なお、完成後のセパレータの表面層は、厚さ3.3μmであり、面積密度が0.096mg/cm2、空隙率が83.4%であった。また、表面層を形成したセパレータの透気度は561sec/100mlであった。
【0194】
<比較例1−2>
実施例1−1の共重合体の代わりに、フッ化ビニリデン(VdF)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)−マレイン酸モノメチルエステル(MMM)共重合体(株式会社クレハ製KFポリマーW♯9300)を用い、上述の共重合体が5.0質量%溶解された樹脂溶液を用いて表面層を形成した以外は、実施例1−1と同様の方法を用いて総厚17.2μmのセパレータを作製した。
【0195】
なお、完成後のセパレータの表面層は、厚さ1.2μmであり、面積密度が0.159mg/cm2、空隙率が24.3%であった。また、表面層を形成したセパレータの透気度は、表面層がフィルム化してしまい、測定することができなかった。これは、表面層に用いた共重合体の分子量が大きいためであると考えられる。
【0196】
<比較例1−3>
実施例1−1の共重合体の代わりに、質量平均分子量が100万のポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製KFポリマーW♯7300)を用い、上述のポリフッ化ビニリデンが5.0質量%溶解された樹脂溶液を用いて表面層を形成した以外は、実施例1−1と同様の方法を用いて総厚18.8μmのセパレータを作製した。
【0197】
なお、完成後のセパレータの表面層は、厚さ2.8μmであり、面積密度が0.120mg/cm2、空隙率が75.5%であった。また、表面層を形成したセパレータの透気度は536sec/100mlであった。
【0198】
<比較例1−4>
実施例1−1の共重合体の代わりに、質量平均分子量が100万のポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製KFポリマーW♯7300)を用い、上述のポリフッ化ビニリデンが6.0質量%溶解された樹脂溶液を用いて表面層を形成した以外は、実施例1−1と同様の方法を用いて総厚17.4μmのセパレータを作製した。
【0199】
なお、完成後のセパレータの表面層は、厚さ1.4μmであり、面積密度が0.124mg/cm2、空隙率が49.4%であった。また、表面層を形成したセパレータの透気度は、表面層がフィルム化してしまい、測定することができなかった。これは、表面層に用いた共重合体の分子量が大きく、樹脂溶液濃度も高かったためであると考えられる。
【0200】
<比較例1−5>
実施例1−1の共重合体の代わりに、質量平均分子量が63万のポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製KFポリマーW♯7200)を用い、上述のポリフッ化ビニリデンが5.0質量%溶解された樹脂溶液を用いて表面層を形成した以外は、実施例1−1と同様の方法を用いて総厚18.1μmのセパレータを作製した。
【0201】
なお、完成後のセパレータの表面層は、厚さ2.1μmであり、面積密度が0.076mg/cm2、空隙率が79.3%であった。また、表面層を形成したセパレータの透気度は509sec/100mlであった。
【0202】
<比較例1−6>
表面層に用いる樹脂材料として、ビニルアルコール(VA)のホモポリマーであるポリビニルアルコール(PVA、シグマアルドリッチ社製:質量平均分子量Mw=85000−146000)、可塑剤としてポリエチレングリコール(PEG、シグマシグマアルドリッチ社製:数平均分子量Mn=400)を用いた。まず、ポリビニルアルコール(PVA)を水に十分に溶解させた後、ポリエチレングリコール(PEG)を添加して樹脂溶液を作製した。樹脂溶液は、水に対してポリビニルアルコール(PVA):ポリエチレングリコール(PEG)を質量比20:80で溶解するとともに、樹脂溶液中におけるポリビニルアルコール(PVA)濃度が5.0質量%となるように調整して作製した。次に、上述の樹脂溶液を、卓上コーターにて基材である厚さ16μmのポリオレフィン多孔性樹脂膜の一方の面に塗布および乾燥させた。続いて、樹脂溶液を塗布し乾燥した基材をエタノール中に30分間浸漬してポリエチレングリコール(PEG)を抽出して多孔質とした後、熱風にて乾燥させて総厚17.0μmのセパレータを作製した。
【0203】
なお、完成後のセパレータの表面層は、厚さ1.0μmであり、面積密度が0.035mg/cm2、空隙率が65.7%であった。また、表面層を形成したセパレータの透気度は586sec/100mlであった。
【0204】
<比較例1−7>
実施例1−1の共重合体の代わりにエチレン(Et)−ビニルアルコール(VA)共重合体(シグマアルドリッチ社製:エチレン44mol%)、N−メチル−2−ピロリドンの代わりにジメチルスルホキシドを用い、上述のエチレン(Et)−ビニルアルコール(VA)共重合体が5.0質量%溶解された樹脂溶液を用いて表面層を形成した以外は、実施例1−1と同様の方法を用いて総厚18.0μmのセパレータを作製した。
【0205】
なお、完成後のセパレータの表面層は、厚さ2.0μmであり、面積密度が0.043mg/cm2、空隙率が67.4%であった。また、表面層を形成したセパレータの透気度は853sec/100mlであった。
【0206】
<比較例1−8>
表面層を設けず、実施例1−1の基材と同様の構成の多孔性樹脂膜をセパレータとした。セパレータの面積密度は0.978mg/cm2であり、空隙率は36.3%であり、透気度は440sec/100mlであった。
【0207】
<参考例1−1>
いわゆる湿式法(すなわち延伸方法としては二軸延伸)によりフィルム状に形成された厚さ16.0μmのポリエチレン多孔性樹脂膜(東燃化学株式会社製:E16MMS)をセパレータとした。セパレータの面積密度は0.983mg/cm2であり、空隙率は36.0%であり、透気度は304sec/100mlであった。
【0208】
[セパレータの評価]
(a)引裂試験
試験例1〜5と同様にして各実施例、各比較例および試験例の引裂力を測定し、引裂強度を算出した。なお、スリットは、試験片の延伸方向と水平な方向、すなわち延伸方向に引っ張った際に裂けが生じやすい方向に沿って形成した。
【0209】
図13に、引裂試験時における実施例1−1のセパレータの状態を示す。図12は、実施例1−1のセパレータの基材が裂けた後の様子を示す。図12中、白色で示される部分は基材であり、薄白色で示され、白色点線で囲まれた部分は表面層である。
【0210】
また、図14に、実施例1−1(図14A)と、参考例1−1(図14B)の引裂試験時における引裂開始からセパレータ破断までの試験力を示す。
【0211】
下記の表2に、実施例2の評価結果を示す。
【0212】
【表2】

【0213】
表2から分かるように、乾式法にて形成した多孔性樹脂膜のセパレータである比較例1−8と比較して、フッ化ビニリデン(VdF)−テトラフルオロエチレン(TFE)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体によって形成された表面層を有する各実施例は、透気度の上昇を抑制しつつ引裂強度が向上した。これは、表面層の裂けにくさに起因し、例え基材が破断した場合であっても、表面層が伸びるためである。
【0214】
なかでも、表面層の厚みが1μm以上の実施例では、引裂強度がより向上するため好ましい。また、表面層の空隙率が35%以上70%以下の場合、引裂強度がより向上するため好ましい。さらに、実施例1−7のように、基材の空隙率よりも表面層の空隙率が低い場合、イオン透過性が低下するという問題も生じると考えられる。
【0215】
一方、実施例とは異なる樹脂材料を用いた表面層を設けた比較例1−1〜比較例1−7のうち、比較例1−2および比較例1−4では、引裂強度が向上するものの、表面層がフィルム化してしまい、透気度が測定不可能な状態となってしまった。この場合、セパレータとして用いた場合にも、イオン透過性が顕著に低下、もしくは透過不可能な状態となることが考えられる。
【0216】
また、比較例1−1および比較例1−3ならびに比較例1−5〜比較例1−7は、透気度が測定不能となることはなかったものの、同じ樹脂濃度で表面層を形成した実施例1−1、実施例1−6と比べて引裂強度が向上しなかった。また、基材のみで形成した比較例1−8と比較して、引裂強度が低下するセパレータもあった。これは、表面層の引裂強度向上効果が小さい、もしくはほとんどなく、単位厚みあたりの引張力で表される引裂強度が低下したためである。
【0217】
さらに、参考例1−1と比較することにより、フッ化ビニリデン(VdF)−テトラフルオロエチレン(TFE)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体を用いた表面層を設けることにより、引張強度を従来の湿式法により形成されたセパレータに近づけることができた。そして、樹脂溶液中の共重合体濃度を上げることにより、参考例1−1よりも高い引張強度を有するセパレータを形成することができた。
【0218】
図14Bに示すように、参考例1−1のセパレータは、引裂き開始後に略一定の引裂力で引裂きが進み、引裂き終了時、すなわちセパレータ破断時に引裂力が0近辺に低下した。これに対して、図14Aに示すように、実施例1−1のセパレータは、試験が進むにつれて試験力が大きくなっていった。これは、基材が裂けても表面層が伸びているためである。また、図14Aにおいて試験力がピークに達した後、試験力が急激に低下した。これは、基材が完全に破断したためであるが、試験力が徐々に低下していることから、基材が破断した後も表面層が伸びてセパレータの完全な破断状態とはなっていないことを示している。
【0219】
また、比較例1−8より、引裂強度が12.5[N/cm]であることから、厚さ16.0μmの比較例1−8に示すセパレータの引裂力は12.5×16.0×10-4=0.02[N]である。これは、実施例1−1〜実施例1−7の基材のみの引裂力である。図14Aより、実施例1−1の本技術のセパレータは、乾式法により形成した比較例1−8のセパレータの引裂力を補って、高い引裂強度を有するセパレータとなっていることが分かった。
【0220】
<実施例2−1、比較例2−1および比較例2−2>
実施例2−1、比較例2−1および比較例2−2では、基材の一方の面に、セラミックスを含む表面層を設けた場合のセパレータ特性の向上を評価した。
【0221】
<実施例2−1>
実施例1−1と同様のフッ化ビニリデン(VdF)−テトラフルオロエチレン(TFE)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体が5.03質量%溶解された樹脂溶液に、セラミックスとして平均粒径500nmのアルミナ(Al23、住友化学工業株式会社製:AKP−3000)微粉末を添加した。アルミナは、上述の共重合体との質量比がアルミナ:共重合体=70:30となる量を添加し、ビーズミルを用いてさらに攪拌し塗布スラリーを作製した。塗布スラリー中におけるフッ化ビニリデン(VdF)−テトラフルオロエチレン(TFE)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体の濃度は4.5質量%であり、フッ化ビニリデン(VdF)−テトラフルオロエチレン(TFE)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体およびアルミナの合計の含有量は15.0質量%であった。この塗布スラリーを用いて表面層を形成した以外は、実施例1−1と同様の方法を用いて総厚20.9μmのセパレータを得た。
【0222】
なお、完成後のセパレータの表面層は、厚さ4.9μmであり、面積密度が0.600mg/cm2、表面層を形成したセパレータの透気度は471sec/100mlであった。また、表面層形成工程において塗布スラリー中のN−メチル−2−ピロリドンを除去した後の表面層中におけるセラミックス含有量は70質量%であった。
【0223】
<比較例2−1>
フッ化ビニリデン(VdF)−テトラフルオロエチレン(TFE)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体の代わりに、フッ化ビニリデン(VdF)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)−マレイン酸モノメチルエステル(MMM)共重合体(株式会社クレハ製KFポリマーW♯9300)を用いた以外は、実施例2−1と同様にして総厚23.9μmのセパレータを作製した。
【0224】
なお、完成後のセパレータの表面層は、厚さ7.9μmであり、面積密度が0.523mg/cm2、表面層を形成したセパレータの透気度は508sec/100mlであった。
【0225】
<比較例2−2>
比較例1−8と同様に、実施例1−1の基材と同様の構成の多孔性樹脂膜をセパレータとした。セパレータの透気度は440sec/100mlであった。
【0226】
[セパレータの評価]
(a)引裂試験
実施例1と同様にして実施例および各比較例の引裂力を測定し、引裂強度を算出した。
【0227】
下記の表3に、実施例3の評価結果を示す。
【0228】
【表3】

【0229】
表3から分かるように、実施例2−1のように、耐熱性、耐酸化性等を向上させる目的でアルミナ等のセラミックスを含む表面層を形成したセパレータを作製する場合にも、本技術のフッ化ビニリデン(VdF)−テトラフルオロエチレン(TFE)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体を用いて表面層を構成することにより、引裂強度を向上させることができた。
【0230】
また、比較例2−1のように、実施例2−1とは異なる共重合体を用いて表面層を形成した場合には、表面層を設けない比較例2−2のセパレータよりも引裂強度が低下してしまった。
【0231】
したがって、セラミックスを含む表面層を形成する場合であっても、引裂強度を向上させるために本技術の共重合体を用いることが好ましい。
【0232】
以上、本技術を各実施の形態および実施例によって説明したが、本技術はこれらに限定されるものではなく、本技術の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。例えば、多孔質膜を電池用セパレータとして用いる場合、多孔質膜の厚みおよび各材料の組成は、正極および負極の構成に合わせて設定すればよい。また、非水電解質電池は一次電池であっても良い。
【符号の説明】
【0233】
11…電池缶、12a,12b…絶縁板、13…電池蓋、14…安全弁、14a…凸部、15…ディスクホルダ、16…遮断ディスク、16a…孔部、17…熱感抵抗素子、18…ガスケット、19…サブディスク、20,30…巻回電極体、21,33…正極、21A,33A…正極集電体、21B,33B…正極活物質層、22,34…負極、22A,34A…負極集電体、22B,34B…負極活物質層、23,35…セパレータ、24…センターピン、25,31…正極リード、26,32…負極リード、36…非水電解質、37…保護テープ、40…外装部材、41…密着フィルム、100…蓄電システム、101…住宅、102a…火力発電、102b…原子力発電、102c…水力発電、102…集中型電力系統、103…蓄電装置、104…家庭内発電装置、105…電力消費装置、105a…冷蔵庫、105b…空調装置、105c…テレビジョン受信機、105d…風呂、106…電動車両、106a…電気自動車、106b…ハイブリッドカー、106c…電気バイク、107…スマートメータ、108…パワーハブ、109…電力網、110…制御装置、111…センサ、112…情報網、113…サーバ、200…ハイブリッド車両、201…エンジン、202…発電機、203…電力駆動力変換装置、204a,204b…駆動輪、205a,205b…車輪、208…バッテリー、209…車両制御装置、210…各種センサ、211…充電口、301…組電池、301a…二次電池、302a…充電制御スイッチ、302b…ダイオード、303a…放電制御スイッチ、303b…ダイオード、304…スイッチ部、307…電流検出抵抗、308…温度検出素子、310…制御部、311…電圧検出部、313…電流測定部、314…スイッチ制御部、317…メモリ、318…温度検出部、321…正極端子、322…負極端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質膜からなる基材と、
上記基材の少なくとも一方の面に形成され、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体を含み、微小な空隙を多数有する表面層と
を有するセパレータ。
【請求項2】
上記多孔質膜が、樹脂材料からなるフィルムが一軸方向に延伸された
請求項1に記載のセパレータ。
【請求項3】
上記表面層における上記ヘキサフルオロプロピレンに由来するモノマー単位の含有量が、上記共重合体中において5mol%以上15mol%以下である
請求項2に記載のセパレータ。
【請求項4】
上記表面層における上記テトラフルオロエチレンに由来するモノマー単位の含有量が、上記共重合体中において10mol%以上40mol%以下である
請求項3に記載のセパレータ。
【請求項5】
上記表面層が、三次元網目構造を有する
請求項4に記載のセパレータ。
【請求項6】
上記表面層の空隙率が、上記基材の空隙率以上かつ75%以下である
請求項4に記載のセパレータ。
【請求項7】
上記表面層の膜厚が、1.0μm以上である
請求項4に記載のセパレータ。
【請求項8】
上記表面層が、セラミックスを含む
請求項4に記載のセパレータ。
【請求項9】
上記表面層における上記セラミックスの含有量が、0質量%超80質量%以下である
請求項8に記載のセパレータ。
【請求項10】
正極と、
負極と、
非水電解質と、
セパレータと
を備え、
上記セパレータが、
多孔質膜からなる基材と、
上記基材の少なくとも一方の面に形成され、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体を含み、微小な空隙を多数有する表面層と
を有する非水電解質電池。
【請求項11】
上記正極および上記負極が上記セパレータを介して積層および巻回された巻回電極体を備える
請求項10に記載の非水電解質電池。
【請求項12】
請求項10に記載の非水電解質電池と、
上記非水電解質電池について制御する制御部と、
上記非水電解質電池を内包する外装とを有する電池パック。
【請求項13】
請求項10に記載の非水電解質電池を有し、
上記非水電解質電池から電力の供給を受ける電子機器。
【請求項14】
請求項10に記載の非水電解質電池と、
前記非水電解質電池から電力の供給を受けて車両の駆動力に変換する変換装置と、
上記非水電解質電池に関する情報に基づいて車両制御に関する情報処理を行う制御装置とを有する電動車両。
【請求項15】
請求項10に記載の非水電解質電池を有し、
上記非水電解質電池に接続される電子機器に電力を供給する蓄電装置。
【請求項16】
他の機器とネットワークを介して信号を送受信する電力情報制御装置を備え
上記電力情報制御装置が受信した情報に基づき、上記非水電解質電池の充放電制御を行う
請求項15に記載の蓄電装置。
【請求項17】
請求項10に記載の非水電解質電池から電力の供給を受け、または、発電装置もしくは電力網から上記非水電解質電池に電力が供給される電力システム。

【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−227066(P2012−227066A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95487(P2011−95487)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】