セメント系組成物及びセメント系混合物粉体
【課題】2種類の水溶性低分子化合物を組合わせて成る増粘性混和剤の機能を十分に発揮させることのできるセメント系組成物を提供する。
【解決手段】カチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性低分子化合物をシリカフューム表面に吸着させて乾燥させた第1の粉体と、アニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性低分子化合物から成る第2の粉体とを増粘性混和剤として用いるとともに、上記第1及び第2の粉体とセメントと細骨材と膨張材粉末とカルボキシル基系ポリエーテル系減水剤粉末とに加水して混練し、セメント組成物を製造する。このとき、水量を350〜380kg/m3、水と結合材との比を34.5〜48.0%、上記第1の粉体の配合量と第2の粉体の配合量との和を40.0〜49.5kg/m3、上記カルボキシル基系ポリエーテル系減水剤の配合量を2.05〜3.00kg/m3の範囲とする。
【解決手段】カチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性低分子化合物をシリカフューム表面に吸着させて乾燥させた第1の粉体と、アニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性低分子化合物から成る第2の粉体とを増粘性混和剤として用いるとともに、上記第1及び第2の粉体とセメントと細骨材と膨張材粉末とカルボキシル基系ポリエーテル系減水剤粉末とに加水して混練し、セメント組成物を製造する。このとき、水量を350〜380kg/m3、水と結合材との比を34.5〜48.0%、上記第1の粉体の配合量と第2の粉体の配合量との和を40.0〜49.5kg/m3、上記カルボキシル基系ポリエーテル系減水剤の配合量を2.05〜3.00kg/m3の範囲とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種類の水溶性化合物から成る粉体状の増粘性混和剤が配合されたセメント系混合物粉体とこのセメント系混合物粉体に加水し混練して成るセメント系組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、混和剤として、カチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性化合物とアニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性化合物から成る増粘性混和剤を添加した早強性耐水コンクリート組成物や、高流動モルタル組成物が提案されている。
上記第1の水溶性低分子化合物と第2の水溶性低分子化合物とがある一定の割合でセメント中に混入されると、上記第1の水溶性低分子化合物と第2の水溶性低分子化合物とが電気的に配列して擬似ポリマーを形成することにより、上記混和剤は増粘剤として機能して適度な粘性を確保することができるだけでなく、粘性がある程度高くなっても流動性を損なうことがない。したがって、上記添加剤を増粘性添加剤として用いれば、従来は両立が困難であった流動性とフレッシュコンクリート経時保持性とに優れたコンクリート組成物や、流動性とセルフレベリング性とに優れたモルタル組成物を得ることができる。
なお、上記第1の水溶性低分子化合物と第2の水溶性低分子化合物との配合の割合としては、1:1とした場合に最も優れた特性が得られる(例えば、特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開2005−281088号公報
【特許文献2】特開2005−281089号公報
【特許文献3】特開2006−176397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記第1の水溶性低分子化合物と上記第2の水溶性低分子化合物とを同時に添加すると、上記第1の水溶性低分子化合物と上記第2の水溶性低分子化合物とが不均質な状態で擬似ポリマーを形成してしまうので、擬似ポリマーを均質な状態で形成させて所望の特性を得るためには長時間の混練が必要となる。
そこで、上記早強性耐水コンクリート組成物を製造する際には、はじめに、セメント、水、細骨材に第2の水溶性低分子化合物を添加して混練して混練物を作製した後、上記混練物に第1の水溶性低分子化合物を添加して再度混練し、最後に粗骨材を加えて混練するようにしていたが、製造に時間がかかるだけでなく、上記第1の水溶性低分子化合物と上記第2の水溶性低分子化合物とは結合し易いので、再混練においてもセメントと十分に混合されない状態でポリマーを形成してしまい、そのため、増粘剤の機能を十分に発揮できないといった問題点があった。
このような問題は、上記早強性耐水コンクリート組成物や高流動モルタル組成物の製造に限らず、他のコンクリート組成物やモルタル組成物などの、上記増粘性混和剤を配合したセメント系組成物を製造する場合にも問題となっている。
【0004】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、2種類の水溶性低分子化合物を組合わせて成る増粘性混和剤の機能を十分に発揮させることのできるセメント系組成物と、このセメント系組成物を製造するために用いられるセメント系混合物粉体とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願の請求項1に記載の発明は、セメントと膨張材粉末とカチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性低分子化合物をシリカフューム表面に吸着させて乾燥させた第1の粉体とアニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性低分子化合物から成る第2の粉体とを含有する結合材と、細骨材と、カルボキシル基系ポリエーテル系減水剤粉末とを含有する混合物に加水して混練したセメント系組成物であって、水が350.0〜380.0kg/m3、水と上記結合材との比が34.5〜48.0%、上記第1の粉体の配合量と第2の粉体の配合量との和が40.0〜49.5kg/m3、上記カルボキシル基系ポリエーテル系減水剤の配合量が2.05〜3.00kg/m3の範囲にあることを特徴とするものである。
また、請求項2に記載の発明は、セメントと膨張材の粉末とカチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性低分子化合物をシリカフューム表面に吸着させて乾燥させた第1の粉体とアニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性低分子化合物から成る第2の粉体とを含有する結合材と、細骨材と、カルボキシル基系ポリエーテル系減水剤の粉末とを混合したセメント系混合物粉体であって、上記第1の粉体の配合量と第2の粉体の配合量との和が、セメントと膨張材粉末に対して、3.63〜6.79重量%であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、セメントと水と細骨材とを混練して成るセメント系組成物に添加する増粘剤である、カチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性低分子化合物とアニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性低分子化合物とを粉体の形態とし、この増粘剤の粉体の配合量を40.0〜49.5kg/m3の範囲になるようにしたので、上記増粘剤の添加による増粘効果を有効に発揮させることができ、適度な粘性と優れた流動性、材料分離抵抗性を有するとともに水中不分離性にも優れたセメント系組成物を得ることができる。上記第1の水溶性低分子化合物の粉体は、第1の水溶性低分子化合物をシリカフューム表面に吸着させて乾燥させて粉体化したものであり、上記第2の水溶性低分子化合物の粉体は、第2の水溶性低分子化合物をそのまま乾燥させて粉体化したものである。このとき、上記セメント系組成物の優れた特性を確実に実現するためには、単位体積当たりの水量を350.0〜380.0kg/m3の範囲に、水と上記結合材との比を34.5〜48.0%の範囲とするとともに、カルボキシル基系ポリエーテル系性減水剤を2.05〜3.00kg/m3添加する必要がある。
【0007】
また、セメントと膨張材の粉末とカチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性低分子化合物をシリカフュームに噴霧して吸着させて乾燥させた第1の粉体とアニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性低分子化合物から成る第2の粉体とを含有する結合材と、細骨材と、カルボキシル基系ポリエーテル系減水剤の粉体とを混合したセメント系混合物粉体(プレミックス粉体)を予め準備しておけば、これに粗骨材と水、もしくは、水を加えて混練するだけで、適度な粘性と優れた流動性、材料分離抵抗性を有するとともに水中不分離性にも優れたセメント系組成物を得ることができる。このとき、上記第1の粉体の配合量と第2の粉体の配合量との和を、セメントと膨張材粉末に対して、3.63〜6.79重量%とすることが肝要で、これにより、上記セメント系組成物の優れた特性を確実に実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の最良の形態に係るセメント系組成物について説明する。
本発明の最良の形態に係るセメント系組成物は、セメント、水、細骨材に、セメント混和剤を配合するとともに、増粘性混和剤として、カチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性低分子化合物と、アニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性低分子化合物とを含有する混和剤を用いたモルタル組成物である。
本例では、セメント及び細骨材に、上記第1の水溶性低分子化合物を、上記第1の水溶性低分子化合物をシリカフュームに噴霧して吸着させて乾燥させた粉体(第1の粉体)の形態で混合し、上記第2の水溶性低分子化合物を、上記第2の水溶性低分子化合物を乾燥させた粉体(第2の粉体)の形態で混合するとともに、これらに、セメント混和剤であるカルボキシル基系ポリエーテル系減水剤の粉末と、膨張材の粉末と、消泡剤の粉末とを添加して混合したセメント系混合物粉体を準備し、このセメント系混合物粉体に加水し混練してモルタル組成物を作製する。なお、消泡剤については必須要件ではないが、混練の際に泡が発生してモルタルの空気量が多くなり、強度の低下や比重の減少等が起こる場合があるため、消泡材を添加しておく方が好ましい。
本例では、第2の水溶性低分子化合物を乾燥させて粉体の形態としただけでなく、粉体になりにくい第1の水溶性低分子化合物についても、これを噴霧などによりシリカフューム表面に吸着させて乾燥させた粉体の形態とし、更に、セメント混和剤、膨張材、消泡剤も粉末として、セメント及び細骨材と混合した後加水・混練するようにしているので、従来の第1の水溶性低分子化合物と第2の水溶性低分子化合物とを別個に添加した場合に比較して、上記第1及び第2の水溶性低分子化合物とセメントとが均一に混合された状態で混練を行うことができる。したがって、増粘性混和剤の増粘効果を十分に発揮させることができるだけでなく、加水・混練作業が一回で済むので、セメント系組成物を効率よく製造することができる。
なお、本例では、上記第1の粉体と第2の粉体とを混合した増粘性混和剤粉体を予め準備し、セメントと細骨材に、上記増粘性混和剤粉体、カルボキシル基系ポリエーテル系減水剤の粉末、消泡剤の粉末、膨張材の粉末とを添加して混合し、プレミックス材を作製する。このとき、上記第1の粉体中の第1の水溶性低分子化合物と第2の粉体である第2の水溶性低分子化合物との比率が1:1となるように、上記第1の粉体と第2の粉体とを混合することが好ましい。
【0009】
本例に使用されるセメントとしては、特に限定されるものではなく、石灰石・粘土・酸化鉄などを原料とした普通ポルトランドセメント,早強ポルトランドセメント,中庸熱ポルトランドセメント,白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメントや、高炉セメント,フライアッシュセメント,シリカセメントなどの混合セメントを用いることができる。
また、上記細骨材としては、川砂から得られた珪砂などが主に用いられる。
本発明に用いられる第1の水溶性低分子化合物としては、4級アンモニウム塩型カチオン性界面活性剤が好ましく、特に、アルキルアンモニウム塩を主成分とする添加剤が好ましい。また、第2の水溶性低分子化合物としては、芳香環を有するスルフォン酸塩が好ましく、特に、アルキルアリルスルフォン酸塩を主成分とする添加剤が好ましい。
本例では、上記セメント混和剤としては、上記増粘性混和剤との相溶性に優れたカルボキシル基含有ポリエーテル系減水剤を配合している。
また、膨張材としては石灰複合系膨張材を、消泡剤としてはシリコン系の消泡剤を用いている。
【0010】
適度な粘性と優れた流動性、材料分離抵抗性を有するとともに水中不分離性にも優れたモルタル組成物を得るための好ましい配合を決定するため、増粘性混和剤、セメント混和剤、水結合材比、及び、単位水量をそれぞれ変化させたときのモルタル組成物の粘性、流動性、水中不分離性、空気量、材料不分離特性について評価試験を行い、上記各評価項目が下記の表1に示す評価値内になるように適性範囲を決定した。
以下の表1に、各評価項目、試験方法、及び、評価値を示す。
【表1】
なお、評価実験に使用した材料は以下の通りである。
セメント ;普通ポルトランドセメント:密度 3.16g/cm3
細骨材 ;珪砂:4号,5号,6号:密度 2.58g/cm3
膨張材 ;エントリガイト・石灰複合系膨張材(商品名;デンカパワーCSA)
:密度 3.10g/cm3
水 ;水道水:密度 1.00g/cm3
増粘性混和剤 ;アルキルアリルスルフォン酸塩基系及びアルキルアンモニウム系混合特殊分散剤(商品名;ビスコトップ100P)
セメント混和剤;カルボキシル基含有ポリエーテル系減水剤(商品名;マイティ21P)
消泡剤 ;シリコン系消泡剤(商品名;FSアンチフォームDC2-4248S)
【0011】
図1は増粘性混和剤(Vt)の使用量を変化させたときのモルタル組成物の配合を示す図で、W/Bは水結合材比、Wは水、Cはセメント、CSAは膨張材、Sは細骨材、Vtは増粘性混和剤、SPはセメント混和剤である。なお、水結合材比を一定にするため、増粘性混和剤の増加分だけセメントの量を減らした。
また、図2〜図5はそれぞれ、増粘性混和剤(Vt)使用量と20cmフロー時間、5分フロー、pH、及び、空気量との関係を示すグラフである。グラフ中の曲線または直線は上記関係を関数近似したもので、上記曲線または直線がそれぞれの評価項目の評価値内にあるときの使用量を、それぞれ増粘性混和剤(Vt)の適性使用量範囲とした。
図2〜図5から、粘性の評価値である20cmフロー時間の適性値を満足する増粘性混和剤(Vt)の適性使用量範囲は37.0〜49.5kg/m3であり、流動性の評価値である5分フローの適性値を満足する適性使用量範囲は35.0〜57.0kg/m3であることが分かる。また、水中不分離性の評価値であるpHの適性値を満足する適性使用量範囲は39.0〜60.0kg/m3、空気量の評価値を満足する適性使用量範囲は0〜51.5kg/m3であることが分かる。また、ブリーディングが0となる材料不分離特性に対する適性使用量範囲は40.0〜60.0kg/m3であった。
以上の結果から、増粘性混和剤(Vt)の使用量の範囲を40.0〜49.5kg/m3とすれば、得られたセメント系組成物の粘性、流動性、水中不分離性、空気量、材料不分離特性について、それらの評価値の全てを満足させることができることが分かる。
【0012】
また、図6はセメント混和剤(SP)の使用量を変化させたときのモルタル組成物の配合を示す図で、図7〜図10はそれぞれ、セメント混和剤(SP)の使用量と20cmフロー時間、5分フロー、pH、及び、空気量との関係を示すグラフである。
図7〜図10から、粘性の評価値を満足するセメント混和剤(SP)の使用量の範囲である適性使用量範囲は2.05〜3.25kg/m3で、流動性の評価値を満足する適性使用量範囲は1.65〜3.70kg/m3であることが分かる。また、水中不分離性の評価値を満足する適性使用量範囲は0〜3.00kg/m3、空気量の評価値を満足する適性使用量範囲は1.30〜4.00kg/m3であることが分かる。また、ブリーディングが0となる材料不分離特性に対する適性使用量範囲は0〜3.00kg/m3であった。
これらの結果を総合すると、粘性、流動性、水中不分離性、空気量、材料不分離特性の全てについて、それらの評価値を満足するセメント混和剤(SP)の適性使用量の範囲は、2.05〜3.00kg/m3であることが分かる。
【0013】
図11は水結合材比(W/B)を変化させたときのモルタル組成物の配合を示す図で、図12〜図15はそれぞれ、水結合材比(W/B)と20cmフロー時間、5分フロー、pH、及び、空気量との関係を示すグラフである。
図12〜図15から、粘性の評価値を満足する水結合材比の適性な範囲は34.5〜62.5%で、流動性の評価値を満足する適性範囲は33.0〜66.0%であることが分かる。また、水中不分離性の評価値を満足する適性範囲は30.0〜48.0%、空気量の評価値を満足する適性範囲は30.0〜61.0%であることが分かる。また、ブリーディングが0となる材料不分離特性に対する適性使用量範囲は30.0〜60.0%であった。
これらの結果を総合すると、粘性、流動性、水中不分離性、空気量、材料不分離特性の全てについて、それらの評価値を満足する水結合材比(W/B)の適性範囲は、34.5〜48.00%であることが分かる。
【0014】
また、図16は単位水量(W)を変化させたときのモルタル組成物の配合を示す図で、図17〜図20はそれぞれ、単位水量(W)と20cmフロー時間、5分フロー、pH、及び、空気量との関係を示すグラフである。
図12〜図15から、粘性の評価値を満足する単位水量(W)の適性な範囲は350.0〜387.5kg/m3で、流動性の評価値を満足する適性範囲は330.0〜380.0kg/m3であることが分かる。また、水中不分離性の評価値を満足する適性範囲は310.0〜397.5kg/m3、空気量の評価値を満足する適性範囲は317.5〜430.0kg/m3であることが分かる。また、ブリーディングが0となる材料不分離特性に対する適性使用量範囲は310.0〜390.0kg/m3であった。
これらの結果を総合すると、粘性、流動性、水中不分離性、空気量、材料不分離特性の全てについて、それらの評価値を満足する単位水量(W)の適性範囲は、350.0〜380.0kg/m3であることが分かる。
以上の結果をまとめたものを以下の表2に示す。
【表2】
なお、上記表では、増粘性混和剤の適正な配合量を、上記第1の粉体の配合量と第2の粉体の配合量との和で表わしているが、これを、上記第1の水溶性低分子化合物と上記第2の水溶性低分子化合物の単位水量に対する適正な配合割合にすると、0.52〜0.71重量%となる。
【0015】
このように、本実施の形態では、カチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性低分子化合物をシリカフューム表面に吸着させて乾燥させた第1の粉体と、アニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性低分子化合物から成る第2の粉体とを増粘性混和剤として用いるとともに、上記第1及び第2の粉体とセメントと細骨材と膨張材粉末とカルボキシル基系ポリエーテル系減水剤粉末とを混合したセメント系混合物粉体(プレミックス粉体)を準備し、このセメント系混合物粉体に加水して混練し、モルタル組成物を製造するようにしたので、増粘性混和剤の増粘効果を十分に発揮させることができる。このとき、上記モルタル組成物の単位体積当たりの水量を350.0〜380.0kg/m3、水と結合材(セメント、膨張材、第1及び第2の粉体)との比を34.5〜48.0%、上記第1の粉体の配合量と第2の粉体の配合量との和を40.0〜49.5kg/m3、上記カルボキシル基系ポリエーテル系減水剤の配合量を2.05〜3.00kg/m3の範囲とすることが肝要で、これにより、適度な粘性と優れた流動性、材料分離抵抗性を有するとともに水中不分離性にも優れたモルタル組成物を得ることができる。
また、本例では、結合材と、細骨材とを混合したプレミックス粉体を予め準備して、これに加水・混練してモルタル組成物を製造するようにしたので、製造効率を大幅に向上させることができる。
【0016】
なお、上記実施の形態では、増粘性混和剤が配合されたモルタル組成物について説明したが、これに限るものではなく、上記第1及び第2の粉体とセメントと細骨材と膨張材粉末とカルボキシル基系ポリエーテル系減水剤粉末とをプレミックスしたセメント系混合物粉体を準備し、このセメント系混合物粉体と粗骨材と水とを混合して混練すれば、流動性とフレッシュコンクリート経時保持性とに優れるとともに、水中不分離性、材料分離抵抗性にも優れたコンクリート組成物を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、増粘性混和剤の増粘効果を十分に発揮させることができるので、適度な粘性と優れた流動性、材料分離抵抗性を有するとともに水中不分離性にも優れたセメント系組成物を得ることができる。また、本願発明のセメント系混合物粉体はプレミックス材であることから、混練が1回で済むので、製造効率を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】評価試験に用いたモルタル組成物の配合を示す図である。
【図2】増粘性混和剤の使用量と20cmフロー時間との関係を示す図である。
【図3】増粘性混和剤の使用量と5分フローとの関係を示す図である。
【図4】増粘性混和剤の使用量とpHとの関係を示す図である。
【図5】増粘性混和剤の使用量と空気量との関係を示す図である。
【図6】評価試験に用いたモルタル組成物の配合を示す図である。
【図7】セメント混和剤の使用量と20cmフロー時間との関係を示す図である。
【図8】セメント混和剤の使用量と5分フローとの関係を示す図である。
【図9】セメント混和剤の使用量とpHとの関係を示す図である。
【図10】セメント混和剤の使用量と空気量との関係を示す図である。
【図11】評価試験に用いたモルタル組成物の配合を示す図である。
【図12】水結合材比と20cmフロー時間との関係を示す図である。
【図13】水結合材比と5分フローとの関係を示す図である。
【図14】水結合材比とpHとの関係を示す図である。
【図15】水結合材比と空気量との関係を示す図である。
【図16】評価試験に用いたモルタル組成物の配合を示す図である。
【図17】単位水量と20cmフロー時間との関係を示す図である。
【図18】単位水量と5分フローとの関係を示す図である。
【図19】単位水量とpHとの関係を示す図である。
【図20】単位水量と空気量との関係を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種類の水溶性化合物から成る粉体状の増粘性混和剤が配合されたセメント系混合物粉体とこのセメント系混合物粉体に加水し混練して成るセメント系組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、混和剤として、カチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性化合物とアニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性化合物から成る増粘性混和剤を添加した早強性耐水コンクリート組成物や、高流動モルタル組成物が提案されている。
上記第1の水溶性低分子化合物と第2の水溶性低分子化合物とがある一定の割合でセメント中に混入されると、上記第1の水溶性低分子化合物と第2の水溶性低分子化合物とが電気的に配列して擬似ポリマーを形成することにより、上記混和剤は増粘剤として機能して適度な粘性を確保することができるだけでなく、粘性がある程度高くなっても流動性を損なうことがない。したがって、上記添加剤を増粘性添加剤として用いれば、従来は両立が困難であった流動性とフレッシュコンクリート経時保持性とに優れたコンクリート組成物や、流動性とセルフレベリング性とに優れたモルタル組成物を得ることができる。
なお、上記第1の水溶性低分子化合物と第2の水溶性低分子化合物との配合の割合としては、1:1とした場合に最も優れた特性が得られる(例えば、特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開2005−281088号公報
【特許文献2】特開2005−281089号公報
【特許文献3】特開2006−176397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記第1の水溶性低分子化合物と上記第2の水溶性低分子化合物とを同時に添加すると、上記第1の水溶性低分子化合物と上記第2の水溶性低分子化合物とが不均質な状態で擬似ポリマーを形成してしまうので、擬似ポリマーを均質な状態で形成させて所望の特性を得るためには長時間の混練が必要となる。
そこで、上記早強性耐水コンクリート組成物を製造する際には、はじめに、セメント、水、細骨材に第2の水溶性低分子化合物を添加して混練して混練物を作製した後、上記混練物に第1の水溶性低分子化合物を添加して再度混練し、最後に粗骨材を加えて混練するようにしていたが、製造に時間がかかるだけでなく、上記第1の水溶性低分子化合物と上記第2の水溶性低分子化合物とは結合し易いので、再混練においてもセメントと十分に混合されない状態でポリマーを形成してしまい、そのため、増粘剤の機能を十分に発揮できないといった問題点があった。
このような問題は、上記早強性耐水コンクリート組成物や高流動モルタル組成物の製造に限らず、他のコンクリート組成物やモルタル組成物などの、上記増粘性混和剤を配合したセメント系組成物を製造する場合にも問題となっている。
【0004】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、2種類の水溶性低分子化合物を組合わせて成る増粘性混和剤の機能を十分に発揮させることのできるセメント系組成物と、このセメント系組成物を製造するために用いられるセメント系混合物粉体とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願の請求項1に記載の発明は、セメントと膨張材粉末とカチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性低分子化合物をシリカフューム表面に吸着させて乾燥させた第1の粉体とアニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性低分子化合物から成る第2の粉体とを含有する結合材と、細骨材と、カルボキシル基系ポリエーテル系減水剤粉末とを含有する混合物に加水して混練したセメント系組成物であって、水が350.0〜380.0kg/m3、水と上記結合材との比が34.5〜48.0%、上記第1の粉体の配合量と第2の粉体の配合量との和が40.0〜49.5kg/m3、上記カルボキシル基系ポリエーテル系減水剤の配合量が2.05〜3.00kg/m3の範囲にあることを特徴とするものである。
また、請求項2に記載の発明は、セメントと膨張材の粉末とカチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性低分子化合物をシリカフューム表面に吸着させて乾燥させた第1の粉体とアニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性低分子化合物から成る第2の粉体とを含有する結合材と、細骨材と、カルボキシル基系ポリエーテル系減水剤の粉末とを混合したセメント系混合物粉体であって、上記第1の粉体の配合量と第2の粉体の配合量との和が、セメントと膨張材粉末に対して、3.63〜6.79重量%であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、セメントと水と細骨材とを混練して成るセメント系組成物に添加する増粘剤である、カチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性低分子化合物とアニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性低分子化合物とを粉体の形態とし、この増粘剤の粉体の配合量を40.0〜49.5kg/m3の範囲になるようにしたので、上記増粘剤の添加による増粘効果を有効に発揮させることができ、適度な粘性と優れた流動性、材料分離抵抗性を有するとともに水中不分離性にも優れたセメント系組成物を得ることができる。上記第1の水溶性低分子化合物の粉体は、第1の水溶性低分子化合物をシリカフューム表面に吸着させて乾燥させて粉体化したものであり、上記第2の水溶性低分子化合物の粉体は、第2の水溶性低分子化合物をそのまま乾燥させて粉体化したものである。このとき、上記セメント系組成物の優れた特性を確実に実現するためには、単位体積当たりの水量を350.0〜380.0kg/m3の範囲に、水と上記結合材との比を34.5〜48.0%の範囲とするとともに、カルボキシル基系ポリエーテル系性減水剤を2.05〜3.00kg/m3添加する必要がある。
【0007】
また、セメントと膨張材の粉末とカチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性低分子化合物をシリカフュームに噴霧して吸着させて乾燥させた第1の粉体とアニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性低分子化合物から成る第2の粉体とを含有する結合材と、細骨材と、カルボキシル基系ポリエーテル系減水剤の粉体とを混合したセメント系混合物粉体(プレミックス粉体)を予め準備しておけば、これに粗骨材と水、もしくは、水を加えて混練するだけで、適度な粘性と優れた流動性、材料分離抵抗性を有するとともに水中不分離性にも優れたセメント系組成物を得ることができる。このとき、上記第1の粉体の配合量と第2の粉体の配合量との和を、セメントと膨張材粉末に対して、3.63〜6.79重量%とすることが肝要で、これにより、上記セメント系組成物の優れた特性を確実に実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の最良の形態に係るセメント系組成物について説明する。
本発明の最良の形態に係るセメント系組成物は、セメント、水、細骨材に、セメント混和剤を配合するとともに、増粘性混和剤として、カチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性低分子化合物と、アニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性低分子化合物とを含有する混和剤を用いたモルタル組成物である。
本例では、セメント及び細骨材に、上記第1の水溶性低分子化合物を、上記第1の水溶性低分子化合物をシリカフュームに噴霧して吸着させて乾燥させた粉体(第1の粉体)の形態で混合し、上記第2の水溶性低分子化合物を、上記第2の水溶性低分子化合物を乾燥させた粉体(第2の粉体)の形態で混合するとともに、これらに、セメント混和剤であるカルボキシル基系ポリエーテル系減水剤の粉末と、膨張材の粉末と、消泡剤の粉末とを添加して混合したセメント系混合物粉体を準備し、このセメント系混合物粉体に加水し混練してモルタル組成物を作製する。なお、消泡剤については必須要件ではないが、混練の際に泡が発生してモルタルの空気量が多くなり、強度の低下や比重の減少等が起こる場合があるため、消泡材を添加しておく方が好ましい。
本例では、第2の水溶性低分子化合物を乾燥させて粉体の形態としただけでなく、粉体になりにくい第1の水溶性低分子化合物についても、これを噴霧などによりシリカフューム表面に吸着させて乾燥させた粉体の形態とし、更に、セメント混和剤、膨張材、消泡剤も粉末として、セメント及び細骨材と混合した後加水・混練するようにしているので、従来の第1の水溶性低分子化合物と第2の水溶性低分子化合物とを別個に添加した場合に比較して、上記第1及び第2の水溶性低分子化合物とセメントとが均一に混合された状態で混練を行うことができる。したがって、増粘性混和剤の増粘効果を十分に発揮させることができるだけでなく、加水・混練作業が一回で済むので、セメント系組成物を効率よく製造することができる。
なお、本例では、上記第1の粉体と第2の粉体とを混合した増粘性混和剤粉体を予め準備し、セメントと細骨材に、上記増粘性混和剤粉体、カルボキシル基系ポリエーテル系減水剤の粉末、消泡剤の粉末、膨張材の粉末とを添加して混合し、プレミックス材を作製する。このとき、上記第1の粉体中の第1の水溶性低分子化合物と第2の粉体である第2の水溶性低分子化合物との比率が1:1となるように、上記第1の粉体と第2の粉体とを混合することが好ましい。
【0009】
本例に使用されるセメントとしては、特に限定されるものではなく、石灰石・粘土・酸化鉄などを原料とした普通ポルトランドセメント,早強ポルトランドセメント,中庸熱ポルトランドセメント,白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメントや、高炉セメント,フライアッシュセメント,シリカセメントなどの混合セメントを用いることができる。
また、上記細骨材としては、川砂から得られた珪砂などが主に用いられる。
本発明に用いられる第1の水溶性低分子化合物としては、4級アンモニウム塩型カチオン性界面活性剤が好ましく、特に、アルキルアンモニウム塩を主成分とする添加剤が好ましい。また、第2の水溶性低分子化合物としては、芳香環を有するスルフォン酸塩が好ましく、特に、アルキルアリルスルフォン酸塩を主成分とする添加剤が好ましい。
本例では、上記セメント混和剤としては、上記増粘性混和剤との相溶性に優れたカルボキシル基含有ポリエーテル系減水剤を配合している。
また、膨張材としては石灰複合系膨張材を、消泡剤としてはシリコン系の消泡剤を用いている。
【0010】
適度な粘性と優れた流動性、材料分離抵抗性を有するとともに水中不分離性にも優れたモルタル組成物を得るための好ましい配合を決定するため、増粘性混和剤、セメント混和剤、水結合材比、及び、単位水量をそれぞれ変化させたときのモルタル組成物の粘性、流動性、水中不分離性、空気量、材料不分離特性について評価試験を行い、上記各評価項目が下記の表1に示す評価値内になるように適性範囲を決定した。
以下の表1に、各評価項目、試験方法、及び、評価値を示す。
【表1】
なお、評価実験に使用した材料は以下の通りである。
セメント ;普通ポルトランドセメント:密度 3.16g/cm3
細骨材 ;珪砂:4号,5号,6号:密度 2.58g/cm3
膨張材 ;エントリガイト・石灰複合系膨張材(商品名;デンカパワーCSA)
:密度 3.10g/cm3
水 ;水道水:密度 1.00g/cm3
増粘性混和剤 ;アルキルアリルスルフォン酸塩基系及びアルキルアンモニウム系混合特殊分散剤(商品名;ビスコトップ100P)
セメント混和剤;カルボキシル基含有ポリエーテル系減水剤(商品名;マイティ21P)
消泡剤 ;シリコン系消泡剤(商品名;FSアンチフォームDC2-4248S)
【0011】
図1は増粘性混和剤(Vt)の使用量を変化させたときのモルタル組成物の配合を示す図で、W/Bは水結合材比、Wは水、Cはセメント、CSAは膨張材、Sは細骨材、Vtは増粘性混和剤、SPはセメント混和剤である。なお、水結合材比を一定にするため、増粘性混和剤の増加分だけセメントの量を減らした。
また、図2〜図5はそれぞれ、増粘性混和剤(Vt)使用量と20cmフロー時間、5分フロー、pH、及び、空気量との関係を示すグラフである。グラフ中の曲線または直線は上記関係を関数近似したもので、上記曲線または直線がそれぞれの評価項目の評価値内にあるときの使用量を、それぞれ増粘性混和剤(Vt)の適性使用量範囲とした。
図2〜図5から、粘性の評価値である20cmフロー時間の適性値を満足する増粘性混和剤(Vt)の適性使用量範囲は37.0〜49.5kg/m3であり、流動性の評価値である5分フローの適性値を満足する適性使用量範囲は35.0〜57.0kg/m3であることが分かる。また、水中不分離性の評価値であるpHの適性値を満足する適性使用量範囲は39.0〜60.0kg/m3、空気量の評価値を満足する適性使用量範囲は0〜51.5kg/m3であることが分かる。また、ブリーディングが0となる材料不分離特性に対する適性使用量範囲は40.0〜60.0kg/m3であった。
以上の結果から、増粘性混和剤(Vt)の使用量の範囲を40.0〜49.5kg/m3とすれば、得られたセメント系組成物の粘性、流動性、水中不分離性、空気量、材料不分離特性について、それらの評価値の全てを満足させることができることが分かる。
【0012】
また、図6はセメント混和剤(SP)の使用量を変化させたときのモルタル組成物の配合を示す図で、図7〜図10はそれぞれ、セメント混和剤(SP)の使用量と20cmフロー時間、5分フロー、pH、及び、空気量との関係を示すグラフである。
図7〜図10から、粘性の評価値を満足するセメント混和剤(SP)の使用量の範囲である適性使用量範囲は2.05〜3.25kg/m3で、流動性の評価値を満足する適性使用量範囲は1.65〜3.70kg/m3であることが分かる。また、水中不分離性の評価値を満足する適性使用量範囲は0〜3.00kg/m3、空気量の評価値を満足する適性使用量範囲は1.30〜4.00kg/m3であることが分かる。また、ブリーディングが0となる材料不分離特性に対する適性使用量範囲は0〜3.00kg/m3であった。
これらの結果を総合すると、粘性、流動性、水中不分離性、空気量、材料不分離特性の全てについて、それらの評価値を満足するセメント混和剤(SP)の適性使用量の範囲は、2.05〜3.00kg/m3であることが分かる。
【0013】
図11は水結合材比(W/B)を変化させたときのモルタル組成物の配合を示す図で、図12〜図15はそれぞれ、水結合材比(W/B)と20cmフロー時間、5分フロー、pH、及び、空気量との関係を示すグラフである。
図12〜図15から、粘性の評価値を満足する水結合材比の適性な範囲は34.5〜62.5%で、流動性の評価値を満足する適性範囲は33.0〜66.0%であることが分かる。また、水中不分離性の評価値を満足する適性範囲は30.0〜48.0%、空気量の評価値を満足する適性範囲は30.0〜61.0%であることが分かる。また、ブリーディングが0となる材料不分離特性に対する適性使用量範囲は30.0〜60.0%であった。
これらの結果を総合すると、粘性、流動性、水中不分離性、空気量、材料不分離特性の全てについて、それらの評価値を満足する水結合材比(W/B)の適性範囲は、34.5〜48.00%であることが分かる。
【0014】
また、図16は単位水量(W)を変化させたときのモルタル組成物の配合を示す図で、図17〜図20はそれぞれ、単位水量(W)と20cmフロー時間、5分フロー、pH、及び、空気量との関係を示すグラフである。
図12〜図15から、粘性の評価値を満足する単位水量(W)の適性な範囲は350.0〜387.5kg/m3で、流動性の評価値を満足する適性範囲は330.0〜380.0kg/m3であることが分かる。また、水中不分離性の評価値を満足する適性範囲は310.0〜397.5kg/m3、空気量の評価値を満足する適性範囲は317.5〜430.0kg/m3であることが分かる。また、ブリーディングが0となる材料不分離特性に対する適性使用量範囲は310.0〜390.0kg/m3であった。
これらの結果を総合すると、粘性、流動性、水中不分離性、空気量、材料不分離特性の全てについて、それらの評価値を満足する単位水量(W)の適性範囲は、350.0〜380.0kg/m3であることが分かる。
以上の結果をまとめたものを以下の表2に示す。
【表2】
なお、上記表では、増粘性混和剤の適正な配合量を、上記第1の粉体の配合量と第2の粉体の配合量との和で表わしているが、これを、上記第1の水溶性低分子化合物と上記第2の水溶性低分子化合物の単位水量に対する適正な配合割合にすると、0.52〜0.71重量%となる。
【0015】
このように、本実施の形態では、カチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性低分子化合物をシリカフューム表面に吸着させて乾燥させた第1の粉体と、アニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性低分子化合物から成る第2の粉体とを増粘性混和剤として用いるとともに、上記第1及び第2の粉体とセメントと細骨材と膨張材粉末とカルボキシル基系ポリエーテル系減水剤粉末とを混合したセメント系混合物粉体(プレミックス粉体)を準備し、このセメント系混合物粉体に加水して混練し、モルタル組成物を製造するようにしたので、増粘性混和剤の増粘効果を十分に発揮させることができる。このとき、上記モルタル組成物の単位体積当たりの水量を350.0〜380.0kg/m3、水と結合材(セメント、膨張材、第1及び第2の粉体)との比を34.5〜48.0%、上記第1の粉体の配合量と第2の粉体の配合量との和を40.0〜49.5kg/m3、上記カルボキシル基系ポリエーテル系減水剤の配合量を2.05〜3.00kg/m3の範囲とすることが肝要で、これにより、適度な粘性と優れた流動性、材料分離抵抗性を有するとともに水中不分離性にも優れたモルタル組成物を得ることができる。
また、本例では、結合材と、細骨材とを混合したプレミックス粉体を予め準備して、これに加水・混練してモルタル組成物を製造するようにしたので、製造効率を大幅に向上させることができる。
【0016】
なお、上記実施の形態では、増粘性混和剤が配合されたモルタル組成物について説明したが、これに限るものではなく、上記第1及び第2の粉体とセメントと細骨材と膨張材粉末とカルボキシル基系ポリエーテル系減水剤粉末とをプレミックスしたセメント系混合物粉体を準備し、このセメント系混合物粉体と粗骨材と水とを混合して混練すれば、流動性とフレッシュコンクリート経時保持性とに優れるとともに、水中不分離性、材料分離抵抗性にも優れたコンクリート組成物を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、増粘性混和剤の増粘効果を十分に発揮させることができるので、適度な粘性と優れた流動性、材料分離抵抗性を有するとともに水中不分離性にも優れたセメント系組成物を得ることができる。また、本願発明のセメント系混合物粉体はプレミックス材であることから、混練が1回で済むので、製造効率を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】評価試験に用いたモルタル組成物の配合を示す図である。
【図2】増粘性混和剤の使用量と20cmフロー時間との関係を示す図である。
【図3】増粘性混和剤の使用量と5分フローとの関係を示す図である。
【図4】増粘性混和剤の使用量とpHとの関係を示す図である。
【図5】増粘性混和剤の使用量と空気量との関係を示す図である。
【図6】評価試験に用いたモルタル組成物の配合を示す図である。
【図7】セメント混和剤の使用量と20cmフロー時間との関係を示す図である。
【図8】セメント混和剤の使用量と5分フローとの関係を示す図である。
【図9】セメント混和剤の使用量とpHとの関係を示す図である。
【図10】セメント混和剤の使用量と空気量との関係を示す図である。
【図11】評価試験に用いたモルタル組成物の配合を示す図である。
【図12】水結合材比と20cmフロー時間との関係を示す図である。
【図13】水結合材比と5分フローとの関係を示す図である。
【図14】水結合材比とpHとの関係を示す図である。
【図15】水結合材比と空気量との関係を示す図である。
【図16】評価試験に用いたモルタル組成物の配合を示す図である。
【図17】単位水量と20cmフロー時間との関係を示す図である。
【図18】単位水量と5分フローとの関係を示す図である。
【図19】単位水量とpHとの関係を示す図である。
【図20】単位水量と空気量との関係を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと膨張材粉末とカチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性低分子化合物をシリカフューム表面に吸着させて乾燥させた第1の粉体とアニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性低分子化合物から成る第2の粉体とを含有する結合材と、細骨材と、カルボキシル基系ポリエーテル系減水剤粉末とを含有する混合物に加水して混練したセメント系組成物であって、水が350.0〜380.0kg/m3、水と上記結合材との比が34.5〜48.0%、上記第1の粉体の配合量と第2の粉体の配合量との和が40.0〜49.5kg/m3、上記カルボキシル基系ポリエーテル系減水剤の配合量が2.05〜3.00kg/m3の範囲にあることを特徴とするセメント系組成物。
【請求項2】
セメントと膨張材の粉末とカチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性低分子化合物をシリカフューム表面に吸着させて乾燥させた第1の粉体とアニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性低分子化合物から成る第2の粉体とを含有する結合材と、細骨材と、カルボキシル基系ポリエーテル系減水剤の粉末とを混合したセメント系混合物粉体であって、上記第1の粉体の配合量と第2の粉体の配合量との和が、セメントと膨張材粉末に対して、3.63〜6.79重量%であることを特徴とするセメント系混合物粉体。
【請求項1】
セメントと膨張材粉末とカチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性低分子化合物をシリカフューム表面に吸着させて乾燥させた第1の粉体とアニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性低分子化合物から成る第2の粉体とを含有する結合材と、細骨材と、カルボキシル基系ポリエーテル系減水剤粉末とを含有する混合物に加水して混練したセメント系組成物であって、水が350.0〜380.0kg/m3、水と上記結合材との比が34.5〜48.0%、上記第1の粉体の配合量と第2の粉体の配合量との和が40.0〜49.5kg/m3、上記カルボキシル基系ポリエーテル系減水剤の配合量が2.05〜3.00kg/m3の範囲にあることを特徴とするセメント系組成物。
【請求項2】
セメントと膨張材の粉末とカチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性低分子化合物をシリカフューム表面に吸着させて乾燥させた第1の粉体とアニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性低分子化合物から成る第2の粉体とを含有する結合材と、細骨材と、カルボキシル基系ポリエーテル系減水剤の粉末とを混合したセメント系混合物粉体であって、上記第1の粉体の配合量と第2の粉体の配合量との和が、セメントと膨張材粉末に対して、3.63〜6.79重量%であることを特徴とするセメント系混合物粉体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2008−230903(P2008−230903A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−72882(P2007−72882)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]