説明

セメント組成物、セメント組成物を用いる注入材及びセメント組成物の使用方法

【課題】 長距離圧送性に優れ、速やかに増粘し、強度発現性に優れ、水中不分離性があり、さらに、溶出水が強アルカリとなるものでもないセメント組成物、これを用いる注入材、及びこの使用方法を提供する。
【解決手段】 セメント、鋳物ダストとともに、アルカリ増粘型ポリマーエマルジョン及び/又は硬化促進剤を含有するセメント組成物であり、また、これを用いる注入材である。さらに、これらの各種組み合わせの液を使用直前に混合することを特徴とするセメント組成物の使用方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木・建築分野で使用するセメント組成物、特に、鋳物ダストの有効利用方法に関するものである。地山の空洞や空隙部分の裏込め材、シールドセグメントの充填材、また、二重管単相又は複相の注入工法での瞬結性注入材、さらに、二重管ダブルパッカー工法でのシール材や一次注入材など、セメントミルク、セメントモルタル、又はコンクリートの粘度を急激に上昇させる必要がある用途に使用するセメント組成物、及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルの覆工において、施工時や施工後に、覆工コンクリート背面に空洞が発生する場合がある。
この空洞をそのまま放置すると、(a)空洞部への地山の崩落に伴い、地表面が沈下する、(b)地山崩落が激しい場合には、覆工コンクリートの変形や破壊、特に、トンネルの崩落が発生する、(c)空洞への地下水の流入により、覆工コンクリートが劣化する、(d)それに伴う劣化コンクリート片の走行車線への落下や、クラック部からの漏水により、冬季に走行車線が凍結するなどの課題があった。
【0003】
近年、施工件数が増加しているトンネル補修工事の中に、覆工コンクリート背面の空洞に注入材を充填する裏込め注入工法がある。
裏込め注入工法は、この空洞部へ注入材を充填し、トンネルの安定化を図るもので、ここで使用される注入材を裏込め材という。
従来、この裏込め材として、通常、セメント−ベントナイトが用いられてきたが、流動性が大きすぎ、裏込め材が遠方まで不必要に逸流したり、湧水があると裏込め材が流出したり、希釈されて物性が低下したりするなどの課題があった。
【0004】
そこで、セメントとベントナイトの主材に、高吸水性樹脂を添加して、その粘度を大きくする方法や、水ガラスを添加して硬化促進する方法が提案された(特許文献1、特許文献2)。
【0005】
しかしながら、いずれの方法も粘度が上昇するまでに時間がかかるうえ、高吸水性樹脂を添加する方法は高吸水性樹脂自体が高価であり、また、初めから注入材に投入して練混ぜると、主材の粘度が高くなるため、圧送距離を短くせざるを得ず、注入箇所が限定されるという課題があった。
一方、水ガラスを添加する方法は、水ガラスのpHが13以上と強アルカリであるため、作業が相当制限される、硬化体からの溶出水が環境に負荷を与える、及び硬化体の長期強度が低下するなどの課題があった。
【0006】
また、最近では裏込め材の持つ課題を解決する方法として、セメント−ベントナイトやセメント−石炭灰(フライアッシュ)の主材に、可塑化材としてポリマーを添加することにより瞬時に可塑化して、水中不分離性や安全性を改善したものが提案されている(特許文献1、特許文献3及び特許文献4)。
【0007】
一方、産業副産物のうち、有効利用されていないもののひとつとして鋳物ダストがある。鋳物ダストは、鋳物を鋳造する際に発生するダストである。鋳物ダストの利用法としては、セメントモルタルの混和材や泥水シールド工法の泥水用粘土、あるいはコンクリート原料として用いる提案がなされている(特許文献5、特許文献6)。
しかしながら、鋳物ダストは未だそのまま埋立廃棄処分されることが多く、その処分に多大な費用を要するため、さらなる利用方法の確立が望まれていた。
【0008】
【特許文献1】特開平10-237446号公報
【特許文献2】特開平11-61123号公報
【特許文献3】特開平10-238289号公報
【特許文献4】特開2000-280231号公報
【特許文献5】特開平8-206776号公報
【特許文献6】特開2003-300760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ベントナイトや高吸水性樹脂を使用した注入材より長距離圧送性に優れ、また、可塑化材添加後は速やかに増粘し、例えば、裏込め材などの空隙充填材が遠方まで不必要に逸流したり、湧水があっても空隙充填材が流出したり、希釈されて物性が低下したりすることなく、さらに、水ガラスのように溶出水が強アルカリとなるものでもないセメント組成物、そのセメント組成物を用いる注入材、及びそのセメント組成物の使用方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、種々検討を重ねた結果、特定のセメント組成物を用いることにより、急激な粘度上昇を示す、強度発現性に優れる、水中不分離性がある、pH値が水ガラスを用いた場合に比べて低くできるなどの知見を得て、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用するものである。
(1)セメント、鋳物ダストとともに、アルカリ増粘型ポリマーエマルジョン及び/又は硬化促進剤を含有してなることを特徴とするセメント組成物である。
(2)前記鋳物ダストがセメント100部に対して、30部以上500部以下であることを特徴とする前記(1)のセメント組成物である。
(3)前記アルカリ増粘型ポリマーエマルジョンが不飽和カルボン酸類とエチレン性不飽和化合物の共重合により得られるポリマーエマルジョンであることを特徴とする前記(1)又は(2)のセメント組成物である。
(4)前記硬化促進剤がアルミン酸塩及び/又は硫酸塩を含有してなることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか一項のセメント組成物である。
(5)前記(1)〜(4)のいずれか一項のセメント組成物を用いることを特徴とする注入材である。
(6)セメント、鋳物ダスト、及び水をあらかじめ混合してA液とし、硬化促進剤と水とを含有してなる混合物をB液とし、使用直前に、A液とB液を混合することを特徴とするセメント組成物の使用方法である。
(7)セメント、鋳物ダスト、及び水をあらかじめ混合してA液とし、アルカリ増粘型ポリマーエマルジョンと水とを含有してなる混合物をC液とし、使用直前に、A液とC液を混合することを特徴とするセメント組成物の使用方法である。
(8)セメント、鋳物ダスト、及び水をあらかじめ混合してA液とし、硬化促進剤と水とを含有してなる混合物をB液とし、アルカリ増粘型ポリマーエマルジョンと水とを含有してなる混合物をC液とし、使用直前に、A液、B液、及びC液を混合することを特徴とするセメント組成物の使用方法である。
(9)セメント、鋳物ダスト、及び水をあらかじめ混合してA液とし、アルカリ増粘型ポリマーエマルジョン及び硬化促進剤と水とを含有してなる混合物を混合してD液とし、使用直前に、A液とD液を混合することを特徴とするセメント組成物の使用方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のセメント組成物を用いることにより、急激な粘度上昇を示す、強度発現性に優れる、水中不分離性がある、pH値が水ガラスを用いた場合に比べて低いという特性を持つ裏込め材などの空隙充填材が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明でいう部や%は特に規定のない限り、質量基準である。
【0013】
本発明で使用するセメントは特に限定されるものではなく、通常のセメントが使用可能であり、具体的には、普通、早強、超早強、中庸熱、及び低熱等の各種ポルトランドセメント、これらのポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、又はシリカを混合した各種混合セメント、また、石灰石微粉末や高炉徐冷スラグ微粉末などを混合したフィラーセメント、廃棄物利用型セメント、いわゆるエコセメントなどが挙げられ、これらのうちの一種又は二種以上が併用可能である。
【0014】
本発明で使用する鋳物ダストは、鋳物を鋳造する際に発生するダストである。鋳物の鋳造は、まず、珪砂にバインダーとしてベントナイトや石炭粉、澱粉、あるいは、樹脂や有機スルホン酸などを添加して攪拌し、鋳型を造型する。その後、鋳込み、型バラシを行い、各工程でダストが集塵される。主成分は砂の微粉分であり、バインダーが含まれる。発生箇所によりばらつきがあるが、化学成分として一般的にはSiO2が70%以上であり、Al2O3や鋳物から混入するFe2O3、バインダーの燃焼によるCが含まれる。また、密度は2.2〜2.8g/cm3であり、ブレーン比表面積は2000〜5000cm2/g、平均粒径は35〜50μmである。
鋳物ダストの使用量は、鋳物ダストの品質により変わるため一義的に規定することはできないが、一般的には、セメント100部に対して30〜500部が好ましく、50〜300部がより好ましい。30部未満では粘度が上昇しない場合や、流動性が大きくなったり、水中不分離性が小さくなったりする場合があり、500部を超えると粘性が高くなりすぎ、セメント組成物の練混ぜが困難になる場合がある。
【0015】
本発明で使用するアルカリ増粘型ポリマーエマルジョン(以下、本エマルジョンという)は、アルカリにより増粘するポリマーエマルジョンをいう。
【0016】
本エマルジョンとしては、例えば、不飽和カルボン酸類、エチレン性不飽和化合物、不飽和カルボン酸類とエチレン性不飽和化合物の共重合物など、種々挙げられるが、より優れた効果を示す点で、不飽和カルボン酸類とエチレン性不飽和化合物の共重合により得られるポリマーエマルジョンが好ましい。
不飽和カルボン酸類とエチレン性不飽和化合物の重合方法としては、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、又は塊状重合などの方法により、共重合する方法などが挙げられる。
【0017】
不飽和カルボン酸類としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、アコニット酸、及びクロトン酸などの不飽和カルボン酸、無水マレイン酸や無水シトラコン酸などの不飽和カルボン酸無水物、並びにイタコン酸モノメチル、イタコン酸モノブチル、及びマレイン酸モノエチルなどの不飽和カルボン酸エステルが挙げられ、これらの中では、より増粘性に優れる点で不飽和カルボン酸が好ましく、アクリル酸及び/又はメタクリル酸がより好ましい。
【0018】
エチレン性不飽和化合物としては特に限定されるものではないが、より増粘性に優れる点でアクリル酸エステルモノマー及び/又はメタクリル酸エステルモノマーが好ましい。アクリル酸エステルとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、及びグリシジルアクリレートなどが挙げられ、メタクリル酸エステルとしては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、及びグリシジルメタクリレートなどが挙げられる。
【0019】
本エマルジョンの不飽和カルボン酸類とエチレン性不飽和化合物の共重合比は、より増粘性に優れる点で、不飽和カルボン酸類:エチレン性不飽和化合物=20:1〜1:20が好ましく、5:1〜1:5がより好ましい。この範囲外では良好なアルカリ増粘性が得られない場合がある。
【0020】
本エマルジョンの使用量は、セメント100部に対して、固形分換算で0.1〜2部が好ましく、0.2〜1部がより好ましい。0.1部未満では増粘効果が少なくなり、流動性が大きくなり、水中不分離性が小さくなる場合があり、2部を超えると初期強度発現性が小さくなる場合がある。
【0021】
セメント組成物の硬化が遅れると、材料分離の一種であるブリーディング(浮き水)が起こり、硬化後に空隙が生成して構造的な欠陥となる。本発明で使用する硬化促進剤は、セメント組成物の硬化を促進してブリーディングを低減し、空隙の生成を抑制するとともに、強度発現性に寄与する。
【0022】
硬化促進剤としては、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム、カリウム明礬、及び硫酸鉄などの硫酸塩、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、及び炭酸カリウムなどの炭酸塩、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カリウム、及び水酸化カルシウムなどの水酸化物、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及び塩化鉄などの塩化物、アルミン酸リチウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、及びアルミン酸カルシウムなどのアルミン酸塩、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、及びケイ酸カリウムなどのケイ酸塩、ジエタノールアミンやトリエタノールアミンなどのアミン類、ギ酸カルシウムや酢酸カルシウムなどの有機酸のカルシウム塩、並びにシリカゾルやアルミナゾルなどのコロイドなどが挙げられる。これらの硬化促進剤の一種又は二種以上を併用してもよい。これらの中では、硬化促進と強度発現性に優れる点でアルミン酸塩及び/又は硫酸塩が好ましく、アルミン酸塩と硫酸塩を併用したものがより好ましい。
【0023】
アルミン酸塩の中では、硬化促進と強度発現性の点でアルミン酸カルシウムが好ましい。アルミン酸カルシウムはカルシアを含む原料と、アルミナを含む原料等とを混合して、キルンでの焼成や電気炉での溶融などの熱処理をして得られる。CaOとAl2O3を主成分とする化合物を総称するものであり、具体例としては、CaO・2Al2O3、CaO・Al2O3、12CaO・7Al2O3、11CaO・7Al2O3・CaF2、3CaO・Al2O3、3CaO・3Al2O3・CaSO4等で表される結晶性のカルシウムアルミネート類や、CaOとAl2O3を主成分とする非晶質の化合物が挙げられ、いずれも使用できる。これらの中では、強度発現性の点で非晶質の12CaO・7Al2O3組成のものがより好ましい。
アルミン酸カルシウムの粉末度は、ブレーン比表面積で3000cm2/g以上が好ましく、5000cm2/g以上がより好ましい。3000cm2/g未満では初期強度発現性が小さい場合がある。
【0024】
硫酸塩の中では、硬化促進と強度発現性の点で硫酸カルシウム及び/又は硫酸アルミニウムが好ましい。
硫酸カルシウムとしては、無水石膏、半水石膏、又は二水石膏などが挙げられ、これらの中では、硬化促進と強度発現性の点で、無水石膏が好ましい。
硫酸塩の粉末度は、ブレーン比表面積で3000cm2/g以上が好ましく、5000cm2/g以上がより好ましい。3000cm2/g未満では強度発現性が小さい場合がある。
【0025】
硬化促進剤としてアルミン酸塩と硫酸塩を併用した場合、硫酸塩の使用量は、アルミン酸塩100部に対して、20〜500部が好ましく、50〜150部がより好ましい。20部未満では初期強度発現性が小さくなる場合があり、500部を超えると流動性が大きくなり、水中不分離性が小さくなり、長期強度発現性が小さくなる場合がある。
【0026】
硬化促進剤の使用量は、その種類によって異なるため、一義的に規定することはできないが、一般的には、セメント100部に対して1〜30部が好ましく、2〜20部がより好ましい。1部未満では流動性が大きくなり、水中不分離性が小さくなり、強度発現性が小さくなる場合があり、30部を超えると粘度が高くなり、圧送距離が短くなる場合がある。
【0027】
本発明のセメント組成物に、砂や砂利などの骨材、減水剤、及び防凍剤などを併用することも可能である。
【0028】
本発明でセメントと混合する水の量は特に限定されるものではないが、セメント100部に対して、100〜300部が好ましく、150〜200部がより好ましい。100部未満ではセメント組成物の練混ぜが困難になる場合があり、300部を超えると流動性が大きくなり、水中不分離性が小さくなる場合がある。
【0029】
本発明のセメント組成物は、セメント、鋳物ダスト、本エマルジョン及び/又は硬化促進剤を混合して得られる。
その混合方法は特に限定されるものではないが、セメントと鋳物ダストをあらかじめ水と混合したセメント−鋳物ダスト液をA液とし、硬化促進剤と水との混合物(以下、硬化促進剤液という)をB液とし、使用直前に、A液とB液を混合すること、セメント−鋳物ダスト液をA液とし、本エマルジョンと水との混合物(以下、本エマルジョン液という)をC液とし、使用直前に、A液とC液を混合することにより、あるいは、使用直前に、A液、B液、及びC液を混合することにより、あるいは、セメント−鋳物ダスト液をA液とし、本エマルジョン及び硬化促進剤と水との混合物をD液とし、使用直前に、A液とD液を混合することにより、粘度を急激に上昇させる方法が好ましい。
【0030】
本エマルジョンと硬化促進剤をあらかじめ水と混合して溶液又は懸濁液とすることは、混合性が良好となり、増粘性の点から好ましい。その場合の水の使用量は特に限定されるものではないが、本エマルジョンの場合は、本エマルジョンの固形分の5〜20倍の水で希釈することが好ましく、硬化促進剤の場合は、その1〜3倍の水で希釈することが好ましい。水の量がこれより少なくなると、粘度が高くなって混合性が小さくなる場合があり、水の量が多くなると、流動性が大きくなって水中不分離性が小さくなる場合がある。
本発明において、本エマルジョンと硬化促進剤を共に使用する場合には、セメント−鋳物ダスト液のA液と、本エマルジョン及び硬化促進剤と水との混合物のD液を別々に圧送し、ノズル先端で合流混合させて使用することも可能であるが、セメント−鋳物ダスト液のA液、硬化促進剤のB液、本エマルジョン液のC液の三種類の液を別々に圧送し、ノズル先端で合流混合させて使用することがより好ましい。
【0031】
また、硬化促進剤は、水と混合してから1時間以内に硬化する場合があるため、遅延剤を併用することが好ましい。遅延剤としては、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、及びリンゴ酸等のオキシカルボン酸又はそれらのナトリウム塩やカリウム塩などの金属塩、ホウ酸、トリポリリン酸塩、並びにピロリン酸塩などが挙げられ、これらの一種又は二種以上を併用することが可能である。これらの中では遅延効果が大きい点で、オキシカルボン酸及び/又はオキシカルボン酸塩が好ましく、クエン酸及び/又はクエン酸ナトリウムがより好ましい。
遅延剤の使用量は、セメント100部に対して、0.01〜10部が好ましく、0.05〜5部がより好ましい。0.01部未満では遅延効果が小さい場合があり、10部を超えると強度発現性が小さくなる場合がある。
【0032】
セメント組成物の合流混合の方法としては、Y字管などの混合管を使用する方法、三重管を使用する方法、及び硬化促進剤液のB液と本エマルジョン液のC液を、それぞれシャワー状にセメント−鋳物ダスト液のA液に合流混合させるためのインレットピースを使用する方法などが挙げられる。
また、セメント組成物をより均一に混合するため、合流混合後の管中にスパイラル状のミキサーをセットし、さらにセメント組成物を混合する方法も挙げられる。
【実施例1】
【0033】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
セメント100部に対して、表1に示す量の鋳物ダストと水をミキサーで練混ぜてA液を調製した。
次に、セメント100部に対して、硬化促進剤a5部と水10部を混合してB液とし、固形分換算で0.5部の本エマルジョンαと水5部を混合してC液とした。A液、B液、及びC液をミキサーに続けて投入して5秒間練混ぜた後、フロー、水中不分離性、及び圧縮強度を測定した。結果を表1に併記する。
【0035】
<使用材料>
セメント:普通ポルトランドセメント、市販品
鋳物ダスト:鋳造工場発生品、SiO2 74.6%、Al2O3 7.4%、Fe2O3 8.2%、C 5.4%、密度2.5g/cm3、ブレーン比表面積2900cm2/g、平均粒径42μm
エマルジョンα:本エマルジョン、固形分濃度30%、エチルアクリレート:メタクリル酸=45:55のエチルアクリレート/メタクリル酸共重合ポリマーエマルジョン
硬化促進剤a:アルミン酸塩(アルミン酸カルシウム、12CaO・7Al2O3組成、ガラス化率95%、ブレーン比表面積6000cm2/g)と硫酸塩(無水石膏、ブレーン比表面積5400cm2/g)を等量ずつ混合したもの
【0036】
<測定方法>
フロー:内径80mm×高さ80mmのシリンダーに練混ぜ後のセメント組成物を入れ、シリンダーを引き抜いた後の広がりを2分後に測定
水中不分離性:土木学会の水中不分離コンクリート設計施工指針付属書の水中分離度試験に準じて実施、水の濁りが全くない場合を優、水の濁りがわずかにある場合を良、水の濁りはあるが、実用可能の場合を可、材料が分離し、水の濁りが大の場合を不可とした。
圧縮強度:JIS R 5201に準じて測定
【0037】
【表1】

【0038】
表1より、セメント、鋳物ダスト、本エマルジョン、及び硬化促進剤を含有してなる実験No.1-2〜1-6の実施例のセメント組成物は、フロー値が低く、急激な粘度上昇を示し、水中不分離性であり、圧縮強度が高く、強度発現性に優れていることが分かる。
特に、鋳物ダストの含有量が、セメント100部に対して、50〜300部(実験No.1-3〜1-5)の場合に、優れた効果を奏することが確認された。
これに対して、鋳物ダストを含有しない実験No.1-1の比較例のセメント組成物は、フロー値が高く、水中で分離してしまい、圧縮強度も低いものであった。
【実施例2】
【0039】
セメント100部、鋳物ダスト200部、及び水180部をミキサーで練混ぜてA液を調製し、セメント100部に対して、硬化促進剤a5部と水10部を混合してB液とした。表2に示すエマルジョンと、エマルジョンの10倍量の水とを混合してC液としたこと以外は実施例1と同様に行った。
なお、比較のため、本エマルジョンの代わりにアルカリ増粘性を有さない非本エマルジョンを用いて同様に行った。また、C液を用いない場合は、A液、B液の順にミキサーに続けて投入して5秒間練混ぜた。結果を表2に併記する。
【0040】
<使用材料>
エマルジョンβ:本エマルジョン、固形分濃度30%、エチルアクリレート:メタクリル酸=45:55のエチルアクリレート/メタクリル酸共重合ポリマーエマルジョン70部と、エチレン:酢酸ビニル=18:82のエチレン/酢酸ビニル共重合ポリマーエマルジョン30部の混合物
エマルジョンγ:非本エマルジョン、固形分濃度30%、スチレン:2−エチルヘキシルアクリレート=45:55のスチレン/2−エチルヘキシルアクリレート共重合ポリマーエマルジョン
【0041】
【表2】

【0042】
表2より、鋳物ダスト及び硬化促進剤とともに、セメント100部に対して、本エマルジョン0.1〜2.0部を含有してなる実験No.2-2〜2-9の実施例のセメント組成物は、フロー値が低く、急激な粘度上昇を示し、水中不分離性であり、圧縮強度が高く、強度発現性に優れていることが分かる。
特に、本エマルジョンが、不飽和カルボン酸類とエチレン性不飽和化合物の共重合により得られるポリマーエマルジョンであり、その含有量が、0.2〜1.0部(実験No.2-3〜2-5)の場合に、優れた効果を奏することが確認された。
これに対して、鋳物ダスト及び硬化促進剤を含有するが本エマルジョンを含有しない実験No.2-1の実施例のセメント組成物、鋳物ダスト及び硬化促進剤を含有しアルカリ増粘性を有さない非本エマルジョンを含有してなる実験No.2-10の実施例のセメント組成物は、鋳物ダスト及び硬化促進剤とともに本エマルジョンを含有するセメント組成物と比較すると、フロー値はやや高かったが、水中不分離性であり、圧縮強度は高く、強度発現性に優れていた。
【実施例3】
【0043】
セメント100部、鋳物ダスト200部、及び水180部をミキサーで練混ぜてA液を調製し、セメント100部に対して、固形分換算で0.5部の本エマルジョンαと水5部を混合してC液を調製した。セメント100部に対して表3に示す硬化促進剤と、その2倍量の水、及び遅延剤0.1部を混合してB液としたこと以外は実施例1と同様に行った。なお、B液を用いない場合は、A液、C液の順にミキサーに続けて投入して5秒間練混ぜた。結果を表3に併記する。
【0044】
<使用材料>
硬化促進剤b:硫酸塩、硫酸アルミニウム、市販品
硬化促進剤c:炭酸塩、炭酸ナトリウム、市販品
硬化促進剤d:水酸化物、水酸化カルシウム、市販品
硬化促進剤e:アルミン酸塩、アルミン酸ナトリウム、市販品
硬化促進剤f:コロイド、シリカゾル、市販品
遅延剤:クエン酸、市販品
【0045】
【表3】

【0046】
表3より、鋳物ダスト及び本エマルジョンとともに、セメント100部に対して、硬化促進剤1〜30部を部含有してなる実験No.3-2〜3-12の実施例のセメント組成物は、フロー値が低く、急激な粘度上昇を示し、水中不分離性であり、圧縮強度が高く、強度発現性に優れていることが分かる。
特に、硬化促進剤として、アルミン酸塩と硫酸塩を併用(実験No.3-2〜3-7)した場合に、優れた効果を奏することが確認された。
また、硬化促進剤を含有しない実験No.3-1のセメント組成物は、初期強度は、やや低いが、材齢28日後の圧縮強度は、硬化促進剤を含有するが鋳物ダストを含有しない実験No.1-1の比較例のセメント組成物と比較して向上しており、また、フロー値が低く、急激な粘度上昇を示し、水中不分離性のものであるから、注入材等として用いる場合に効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のセメント組成物は、急激な粘度上昇を示す、強度発現性に優れる、水中不分離性がある、pH値が水ガラスを用いた場合に比べて低いという特性を持つものであるから、裏込め材などの空隙充填材(注入材)として有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、鋳物ダストとともに、アルカリ増粘型ポリマーエマルジョン及び/又は硬化促進剤を含有してなることを特徴とするセメント組成物。
【請求項2】
前記鋳物ダストがセメント100部に対して、30部以上500部以下であることを特徴とする請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項3】
前記アルカリ増粘型ポリマーエマルジョンが不飽和カルボン酸類とエチレン性不飽和化合物の共重合により得られるポリマーエマルジョンであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のセメント組成物
【請求項4】
前記硬化促進剤がアルミン酸塩及び/又は硫酸塩を含有してなることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のセメント組成物。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のセメント組成物を用いることを特徴とする注入材。
【請求項6】
セメント、鋳物ダスト、及び水をあらかじめ混合してA液とし、硬化促進剤と水とを含有してなる混合物をB液とし、使用直前に、A液とB液を混合することを特徴とするセメント組成物の使用方法。
【請求項7】
セメント、鋳物ダスト、及び水をあらかじめ混合してA液とし、アルカリ増粘型ポリマーエマルジョンと水とを含有してなる混合物をC液とし、使用直前に、A液とC液を混合することを特徴とするセメント組成物の使用方法。
【請求項8】
セメント、鋳物ダスト、及び水をあらかじめ混合してA液とし、硬化促進剤と水とを含有してなる混合物をB液とし、アルカリ増粘型ポリマーエマルジョンと水とを含有してなる混合物をC液とし、使用直前に、A液、B液、及びC液を混合することを特徴とするセメント組成物の使用方法。
【請求項9】
セメント、鋳物ダスト、及び水をあらかじめ混合してA液とし、アルカリ増粘型ポリマーエマルジョン及び硬化促進剤と水とを含有してなる混合物を混合してD液とし、使用直前に、A液とD液を混合することを特徴とするセメント組成物の使用方法。


【公開番号】特開2006−335585(P2006−335585A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−159284(P2005−159284)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】