説明

セメント組成物用膨張抑制剤及びセメント組成物

【課題】金属アルミニウムを含有するセメント組成物における硬化時の異常膨張を、簡便にかつ有効に抑制でき、しかも、アルカリ金属の塩及び/又はアルカリ土類金属の塩の使用量を少なくすることが可能なセメント組成物用膨張抑制剤、及び金属アルミニウムを含有する焼却灰やスラグを多く含みながら硬化の際の膨張が少ないセメント組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の金属アルミニウムを含有するセメント組成物用膨張抑制剤は、シリカ質微粉末と、アルカリ金属の塩及び/又はアルカリ土類金属の塩とを併用したことを特徴とし、本発明のセメント組成物は、該膨張抑制剤と、金属アルミニウムを含む、スラグ及び/又は灰と、セメントとを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属アルミニウムを含むセメント組成物における硬化物の膨張を有効に抑制することができるセメント組成物用膨張抑制剤、及び該抑制剤と、金属アルミニウムを含む、スラグ及び/又は灰とを含み、セメント硬化物の膨張を抑制しうるセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴミ焼却灰、RDF(Refuse Derived Fuel)灰、ゴミ焼却灰溶融スラグ、製鋼スラグ等の焼却灰やスラグを廃棄せず再利用する方法として、これらをコンクリート、モルタル等のセメントを含んだセメント硬化物の骨材、混和材等として用いることが従来より行われている。特に、社会生活に伴い多量に廃棄されるゴミ焼却灰やそれを処理して得られるスラグを、砂の代替材料としてセメント硬化物の骨材として利用することは、良質な骨材の枯渇に悩む建設業界にとって極めて有益である。
これらの焼却灰やスラグは、燃焼又は溶融方式、更にはその条件等により、金属マグネシウムや金属アルミニウムが残留する場合がある。このような焼却灰やスラグをセメント硬化物用の骨材や混和材料として使用する場合、特に金属アルミニウムを含むスラグ等を用いる場合、該金属がセメント硬化物中のアルカリ環境下において錆等の腐蝕をする。この過程で水素ガスが発生し、セメント硬化物のフレッシュ状態において膨張するため、該硬化物の異常膨張、強度低下、耐久性低下等の問題が生じる。
このようなアルミニウムを焼却灰やスラグから除去することは技術的にもコスト的にも非常に困難である。従って、かかる膨張を抑制するために、通常これらは、配合比率を一定以下とするべく、天然骨材等と共にセメント組成物に配合される。例えば、アルミニウムを含有したスラグの骨材をセメント組成物に配合する場合、骨材全体に対するアルミニウム含有スラグの割合は膨張を十分に抑制するため通常50質量%未満に制限される。この点は、大量の焼却灰やスラグを効率的に再利用する妨げになっている。
【0003】
そこで、非特許文献1には、アルミニウム含有スラグの配合割合を高くしながら硬化物の膨張を抑制する方法として、スラグを事前にアルカリ処理し、硬化物中で不安定なアルミニウムを安定化させることが提案されている。即ち、スラグを、アルカリ性のNaOH水溶液等に浸漬することによりアルカリ処理した後、スラグを取り出し、セメント組成物の配合に用いることで膨張を抑制することができる。
しかしながら、この方法では、処理工程数が増加する上、スラグ中にアルカリ性物質が残存することによりセメント組成物の溶存イオンの構成が変化するため、強度及び硬化速度等に変化をもたらすという問題がある。
また、特許文献1には、アルカリ金属の塩及びアルカリ土類金属の塩を含むセメント組成物用膨張抑制剤、並びに該抑制剤を含むセメント組成物が提案されている。
この抑制剤は、アルミニウム含有スラグ等を含むセメント組成物における硬化物の異常膨張等を有効に且つ簡易に抑制することができる。しかし、アルカリ金属の塩及びアルカリ土類金属の塩を両方用いることが必須であり、しかも、所望の効果を得るためには、セメント組成物へのこれら金属塩の添加量が多くなる。
【特許文献1】特開2002−326853号公報
【非特許文献1】農業土木学会論文集、No.192,pp.1-8(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、金属アルミニウムを含有するセメント組成物における硬化物の異常膨張を、簡便にかつ有効に抑制でき、しかも、セメント組成物へのアルカリ金属の塩及び/又はアルカリ土類金属の塩の添加量を少なくしても該異常膨張を抑制しうるセメント組成物用膨張抑制剤を提供することにある。
本発明の別の課題は、金属アルミニウムを含有する焼却灰やスラグを多く含みながら硬化の際の膨張が少なく、且つアルカリ金属の塩及び/又はアルカリ土類金属の塩の配合量を少なくしうるセメント組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、金属アルミニウムを含むセメント組成物用膨張抑制剤であって、シリカ質微粉末と、アルカリ金属の塩及び/又はアルカリ土類金属の塩とを含むセメント組成物用膨張抑制剤が提供される。
また本発明によれば、上記セメント組成物用膨張抑制剤と、金属アルミニウムを含む、スラグ及び/又は灰と、セメントとを含むセメント組成物が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明のセメント組成物用膨張抑制剤は、シリカ質微粉末と、アルカリ金属の塩及び/又はアルカリ土類金属の塩とを併用する構成を採用するので、金属アルミニウムを含む、例えば、スラグ及び/又は灰をセメント組成物中に多く配合した際の膨張を、簡便にかつ有効に抑制することができると共に、アルカリ金属の塩及び/又はアルカリ土類金属の塩の使用量を低減でき、更には、セメントやスラグの一部をシリカ質微粉末に置換することができる。
また本発明のセメント組成物は、金属アルミニウムを含む、スラグ及び/又は灰に加えて、上記特定の膨張抑制剤を含むため、該スラグ及び/又は灰を多く含む場合であっても硬化の際の膨張が抑制され、性能の良好な建築材料等を得ることができる。従って、金属アルミニウムを含む、スラグや灰等の廃棄物を安価に且つ効率的に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明の膨張抑制剤は、アルミニウムを含むセメント組成物用膨張抑制剤であって、シリカ質微粉末と、アルカリ金属の塩及び/又はアルカリ土類金属の塩とを含む。
本発明の膨張抑制剤においては、シリカ質微粉末と、アルカリ金属の塩及び/又はアルカリ土類金属の塩とを併用することで、シリカ質微粉末単独の使用や、アルカリ金属の塩及び/又はアルカリ土類金属の塩のみの使用に比べて相乗的に、アルミニウムを含む、スラグ及び/又は灰を含有するセメント組成物の硬化時等における膨張が有効に抑制されるので、該金属塩の使用量を少なくしても所望の効果が得られる。
【0008】
前記シリカ質微粉末は、シリカを多く含む、例えば、フライアッシュ等の石炭灰、高炉スラグ微粉末、ポゾラン物質又はこれらの混合物が挙げられる。
前記アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム又はこれらの2種以上が好ましく挙げられる。
前記アルカリ土類金属としては、例えば、カルシウム及び/又はマグネシウムが好ましく挙げられる。
前記アルカリ金属の塩及び/又はアルカリ土類金属の塩としては、例えば、硝酸塩、亜硝酸塩、ケイ酸塩、リン酸塩が好ましく、特に硝酸塩、又は硝酸塩と亜硝酸塩との混合物が好ましく挙げられる。
【0009】
本発明の膨張抑制剤において、シリカ質微粉末の配合割合は、アルカリ金属の塩及び/又はアルカリ土類金属の塩1質量部に対して、通常3質量部以上、好ましくは10質量部以上である。アルカリ金属の塩及び/又はアルカリ土類金属の塩1質量部に対するシリカ質微粉末の割合が、3質量部未満の場合には、これらを併用することによる所望の膨張抑制効果における相乗作用が低下し、アルカリ金属の塩及び/又はアルカリ土類金属の塩の使用量を低減するという効果が低下する恐れがある。一方、シリカ質微粉末の配合割合の上限は、該シリカ質微粉末の作用が、膨張抑制作用の他に、セメントやスラグの置換成分としても作用するので、セメント硬化物の強度等に影響を及ぼさない程度であれば特に限定されない。例えば、セメント組成物におけるセメントの通常40質量%以下、特に30質量%以下、更には20質量%以下置換するような上限値を設定することができる。
本発明の膨張抑制剤において、アルカリ金属の塩とアルカリ土類金属の塩とを併用する場合のこれらの割合は、アルカリ金属とアルカリ土類金属との割合で、アルカリ金属1モルに対してアルカリ土類金属が1〜10モルであることが好ましい。
【0010】
本発明の膨張抑制剤は、シリカ微粉末と、アルカリ金属の塩及び/又はアルカリ土類金属の塩とを別々にし、セメント組成物に別々に添加して混合することができる他、予め混合してセメント組成物に配合しても良い。別々にする場合のアルカリ金属の塩及び/又はアルカリ土類金属の塩の形態は、溶液等の液体、又は無水物若しくは水和物等の固体等、一般的にコンクリート用混和剤として提供されている各種の形態とすることができる他、シリカ微粉末以外の他の物質と混合した状態とすることもできる。
【0011】
本発明の膨張抑制剤は、金属アルミニウムを含むセメント組成物の膨張抑制に用いることができる。具体的には、後述する金属アルミニウムを含む、スラグ及び/又は灰等、金属アルミニウムを含有するセメント組成物の膨張抑制に用いることができる。
【0012】
本発明のセメント組成物は、前記セメント組成物用膨張抑制剤、金属アルミニウムを含む、スラグ及び/又は灰と、セメントとを含む。
金属アルミニウムを含む、スラグ及び/又は灰としては、金属アルミニウムを含有しており、セメント組成物中に配合し硬化させた際に膨張を発生しうる各種のスラグや灰を挙げることができる。特に、金属アルミニウムを多く含有する、スラグ及び/又は灰の場合、大きな膨張を発生するので、本発明のセメント組成物はこのようなスラグ等を再利用する上で好ましく使用できる。該スラグ又は灰としては、例えば、ゴミ焼却灰、RDF灰、ゴミ焼却灰溶融スラグ、製鋼スラグや、フェロニッケルスラグ、銅スラグ等の非鉄金属スラグ又はこれら2種以上の混合物等が好ましく挙げられる。
【0013】
ゴミ焼却灰としては、例えば、可燃性一般廃棄物又は産業廃棄物が挙げられる。
ゴミ焼却灰溶融スラグは、ごみを焼却し溶融させて得られる固化物である。例えば、社会生活から発生するごみを焼却し、生成した灰をバーナー式溶融炉若しくは電気炉等の溶融炉又はコークスベッド等を用いて1200〜1600℃程度の温度で熱処理して溶融し、水冷又は単に常温で放置すること等により冷却して得られる。また、前記焼却と溶融の工程を同時に行うことによっても得られる。
製鋼スラグ及び非鉄金属スラグとしては、それぞれ、製鋼、非鉄金属の精製、ニッケルの精製等の過程において副生するスラグが挙げられる。
【0014】
金属アルミニウムを含むスラグは、その発生の工程によって様々な粒径の物が得られる。例えば、ゴミ焼却灰溶融スラグの場合、灰の溶融物を冷却する際の速度が急激である場合は比較的粒径の小さいものが得られ、冷却速度が緩慢である場合は比較的粒径の大きいものが得られる。該金属アルミニウムを含むスラグは、その粒径に応じて、粗骨材、細骨材等の骨材として配合することができ、また、混和材として配合することもできる。
【0015】
本発明のセメント組成物は、前記膨張抑制剤、前記金属アルミニウムを含む、スラグ及び/又は灰、及びセメントの他に、粗骨材、細骨材、混和材、混和剤等の、通常のセメント組成物に配合される他の成分を含有させることができ、硬化させる際に水と混練して使用することができる。
【0016】
本発明のセメント組成物において、前記膨張抑制剤、金属アルミニウムを含む、スラグ及び/又は灰、及びセメントの配合割合は、基本的には、スラグ及び/又は灰中のアルミニウム含有割合、膨張抑制剤の種類、膨張抑制剤中のシリカ質微粉末、他の粗骨材、細骨材、混和材等の配合割合等に応じて、所望の効果が得られるように適宜調節することができる。
【0017】
本発明のセメント組成物において、前記膨張抑制剤の配合割合は、配合されるスラグ及び/又は灰全量中の金属アルミニウム量等に応じて適宜調整でき、金属アルミニウム量1質量部あたり、膨張抑制剤中の、アルカリ金属の塩及び/又はアルカリ土類金属の塩が、通常0.03〜1.5質量部程度、シリカ質微粉末が通常1質量部以上、好ましくは2質量部以上の割合で配合することにより、十分な膨張抑制効果を得ることができる。
アルカリ金属の塩及び/又はアルカリ土類金属の塩の前記割合が0.03質量部未満若しくはシリカ質微粉末の前記割合が1質量部未満の場合には、アルカリ金属の塩及び/又はアルカリ土類金属の塩の割合を低減して所望の膨張抑制効果を得ることが困難になる恐れがある。一方、アルカリ金属の塩及び/又はアルカリ土類金属の塩の前記割合が2質量部を超える場合には、有効な膨張抑制効果は得られるが、当該金属塩の使用量が多くなる恐れがある。シリカ質微粉末の前記割合の上限は、上述のとおり、セメントやスラグ等の置換成分として作用させることを考慮した場合、特に限定されず、所望のセメント硬化物が得られるように適宜選択することができる。
【0018】
本発明のセメント組成物において、前記スラグ及び/又は灰の配合割合は特に限定されないが、セメント組成物中の骨材及び混和材の全量を基準として通常10〜100質量%であり、セメント組成物を硬化させた際に、通常、硬化物1kg当たり50〜500g程度の割合となるように配合することができる。
また、前記スラグ及び/又は灰の配合割合は、通常、セメント100質量部あたり、80〜300質量部程度となるように配合することができる。
【0019】
本発明のセメント組成物の用途は、特に限定されず、アルミニウム含有スラグ等を配合しない、通常のコンクリート、モルタル等のセメント組成物と同様に用いることができる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例を参照して説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1〜8及び比較例1〜9
表1に示す組成のセメント組成物を調製し、底面直径5cm、高さ10cmの円筒形の型内にそれぞれ一杯に充填し、室温で1日間放置して硬化させた。次いで、得られた硬化物の高さを、型上に膨張した部分を含めて計測した。測定高さ(mm)−100(mm)を膨張量(mm)とした。結果を表1に示す。
尚、表1中のWは水、Cは普通ポルトランドセメント、Sは金属アルミニウムを含まないごみ溶融スラグ(表面溶融式)、Alはアルミニウム微粉末(和光純薬製)、FAはJIS II種相当品(電発フライアッシュ)のフライアッシュ、Mbは硝酸ナトリウム、硝酸カルシウム及び亜硝酸カルシウムを25〜45質量%含むアルカリ金属の塩とアルカリ土類金属の塩との混合物をそれぞれ示す。また、組成の数値の単位は質量部である。
【0021】
【表1】

【0022】
表1の比較例1〜5からFAの添加により膨張量が減少するが、その効果はFA量を増加させても十分でないことがわかる。一方、比較例6〜9より、Mbの量を増加すると膨張量が少なくなることがわかり、実施例1〜8より、FAとMbを併用することにより、Mb量を減少させて膨張量を抑制しうることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属アルミニウムを含むセメント組成物用膨張抑制剤であって、
シリカ質微粉末と、アルカリ金属の塩及び/又はアルカリ土類金属の塩とを含むセメント組成物用膨張抑制剤。
【請求項2】
シリカ質微粉末との配合割合が、アルカリ金属の塩及び/又はアルカリ土類金属の塩1質量部に対して3質量部以上である請求項1記載の膨張抑制剤。
【請求項3】
アルカリ金属がリチウム、ナトリウム、カリウム及びこれらの混合物からなる群より選択され、アルカリ土類金属がカルシウム、マグネシウム及びこれらの混合物からなる群より選択され、塩が硝酸塩、亜硝酸塩、ケイ酸塩、リン酸塩及びこれらの混合物からなる群より選択される請求項1又は2記載の膨張抑制剤。
【請求項4】
シリカ質微粉末が、フライアッシュ及び/又は高炉スラグ微粉末である請求項1〜3のいずれか1項記載の膨張抑制剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載のセメント組成物用膨張抑制剤と、金属アルミニウムを含む、スラグ及び/又は灰と、セメントとを含むセメント組成物。
【請求項6】
金属アルミニウムを含む、スラグ及び/又は灰が、ゴミ焼却灰、RDF灰、ゴミ焼却灰溶融スラグ、製鋼スラグ、非鉄金属スラグ、及びこれらの混合物からなる群より選択されるスラグである請求項5記載のセメント組成物。

【公開番号】特開2007−106651(P2007−106651A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−301266(P2005−301266)
【出願日】平成17年10月17日(2005.10.17)
【出願人】(303057365)株式会社間組 (138)
【Fターム(参考)】