説明

セメント製造工程からの鉛回収方法及び回収装置

【課題】セメントの品質に影響を与えずに、セメントの鉛含有率を効率よく低下させる。
【解決手段】セメント焼成設備に付設され、投入された鉛含有原料M等が含有する鉛を塩化揮発させる塩化揮発炉2と、同炉2の排ガスから鉛を回収する鉛回収手段3とを備える鉛回収装置。塩化揮発炉2において塩化源Cに含まれる塩素を利用して鉛含有セメント原料M中の鉛を揮発させ、揮発した鉛を鉛回収手段3で回収することにより、セメント製造工程から効率よく鉛を回収する。鉛回収手段3は、塩化揮発炉2の排ガス中のダストを集塵する集塵手段を備えてもよい。塩化揮発炉2の熱源として、セメント焼成設備からセメント焼成設備の排ガスを抽気し、塩化揮発炉2に導入してもよく、プレヒータの最下段サイクロン12から排出された原料の一部を塩化揮発炉42に供給してもよい。塩化揮発炉2、42の塩化源Cとして、都市ごみ焼却灰を有効利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント製造工程からの鉛回収方法及び回収装置に関し、特に、セメントの品質に影響を与えることなく、セメントの鉛含有率をより効率よく低下させることのできる方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セメント中の鉛(Pb)は固定化されるため、土壌への溶出はないと考えられてきた。しかし、近年のセメント製造工程におけるリサイクル資源の活用量の増加に伴い、セメント中の鉛の量も増加し、これまでの含有量を大幅に上回りつつある。濃度増加に伴い土壌への溶出の可能性もあるため、セメント中の鉛濃度をこれまでの含有量程度まで低減する必要がある。
【0003】
そこで、セメント中の鉛濃度を低減する技術として、例えば、特許文献1には、セメント製造工程に供給される廃棄物中の塩素分及び鉛分を効果的に分離除去するため、廃棄物の水洗工程と、濾別した固形分のアルカリ溶出工程と、この濾液から鉛を沈澱させて分離する脱鉛工程と、脱鉛した濾液からカルシウムを沈澱させて分離する脱カルシウム工程と、この濾液を加熱して塩化物を析出させて分離回収する塩分回収工程とを有する廃棄物の処理方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、飛灰等の廃棄物から鉛等を分別して除去するにあたって、カルシウムイオンを含む溶液を混合してスラリーを得た後、固液分離して、亜鉛を含む固形分と、鉛を含む水溶液とを得る工程と、鉛を含む水溶液に硫化剤を添加した後、固液分離して、硫化鉛と、カルシウムイオンを含む溶液とを得る工程を含む廃棄物の処理方法が記載されている。
【0005】
しかし、上記特許文献に記載の従来技術においては、塩素バイパスダスト等に含まれる鉛分を除去しているが、塩素バイパスダストから系外に除去される鉛の割合は、全体の30%程度に過ぎず、たとえ、塩素バイパスダスト中の鉛を100%除去したとしても、残りの70%程度は、依然としてセメントキルンから排出されるクリンカに取り込まれるため、セメントの鉛含有率を低下させるのは容易ではない。そこで、セメントキルン内の鉛の揮発を促進し、塩素バイパスダスト等の中への鉛の濃縮率を高めることが重要である。
【0006】
鉛の揮発を促進する技術として、塩化揮発法と還元揮発法が知られている。塩化揮発法は、鉛を塩化すると揮発しやすくなる性質を利用したものであり、原料等に含まれる鉛を塩化物(PbCl2)にして揮発させる。一方、還元揮発法は、炉内を還元雰囲気に調整し、酸化鉛(PbO)を還元して鉛(Pb)を揮発させる。
【0007】
そして、塩化揮発法を利用した技術として、特許文献3に、重金属含有廃棄物及び塩素含有廃棄物を経済的に処理して大部分の重金属を効率的に回収するとともに、回収困難な残留重金属分を高度に不溶安定化させるため、重金属含有廃棄物と塩素含有廃棄物とを混合し、混合物中の塩素含有量が混合物重量基準で2%以上となるように調節し、750℃以上の温度で高熱処理することにより、大部分の重金属を塩化揮発させて回収し、残留重金属分は不溶安定化させる重金属含有廃棄物の処理方法が提案されている。
【0008】
また、同じく塩化揮発法を利用した技術として、特許文献4には、重金属で汚染された土壌から高い除去率で重金属を除去することができるとともに、処理後に得られる固体分をセメント原料等として用いるため、鉛等の重金属を含む土壌に対して、該土壌中のCa/Siのモル比が0.1以上となる量のカルシウム源(例えば、消石灰)、及び塩素源(例えば、塩化カルシウム)を添加して成分調整された土壌を得る工程と、成分調整された土壌を800〜1400℃の温度及び2〜10%の水分含有率の条件下で加熱して、重金属を塩化揮発させるとともに、重金属が除去され、かつ塩素の含有率の低い焼成物を得る工程とからなる土壌の処理方法が開示され、得られた焼成物は、セメント原料等として用いられる。
【0009】
しかし、上記特許文献等に記載の塩化揮発法の場合には、塩素がセメント製造工程やセメントの品質に悪影響を及ぼすため、セメント焼成に適用するのは技術的に困難な状況にあった。一方、前記還元揮発法の場合には、残渣中の残留金属の問題により、炉内の温度を1300℃程度として滞留時間を数時間とかなり長くする必要があり、低濃度の鉛や亜鉛等の処理には、処理コストの面で問題があった。
【0010】
そこで、本出願人は、特願2006−288848(以下、「先願」という)において、セメントの品質に影響を与えずに、セメントの鉛含有率を効率よく低下させることのできる方法を提案した。
【0011】
この方法を実施するための装置の一つとして、図5に示すように、セメントキルン50の窯尻50a側(仮焼炉52及び最下段サイクロン53が備えられている端部側)に、粉状又はスラリー状の燃料又は可燃物を含む原料(以下、適宜「燃料等」という)Fをセメントキルン50内に噴射するためのノズル51を備える装置が提案されている。
【0012】
このノズル51には、燃料等Fの供給装置(不図示)と、ノズル51に供給された燃料等Fをセメントキルン50内に噴射するための噴射装置(不図示)が備えられ、ノズル51に供給された燃料等Fをセメントキルン50の奥まで供給することができる。
【0013】
一方、セメントキルン50には、図6に示すように、塩素バイパス設備が備えられ、セメントキルン50の窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路からの抽気ガスは、プローブ61において冷却ファン62からの冷風によって冷却された後、分級機63に導入され、粗粉ダストと、微粉ダスト及びガスとに分離される。粗粉ダストは、セメントキルン系に戻され、塩化カリウム(KCl)等を含む微粉ダスト(塩素バイパスダスト)は、集塵機64で回収される。尚、集塵機64から排出された排ガスは、排気ファン65を経て大気へ放出される。
【0014】
上記システムを用い、まず、図5において、ノズル51を用いて燃料等Fを、セメントキルン50の内径(相対向する耐火物表面間の距離)をD、セメントキルン50の窯尻50a側から長手方向にセメントキルン内部に向かう距離をLとした場合に、L/Dが0以上12以下の領域に噴射する。この領域は、セメントキルン50内の原料温度が800〜1100℃の領域であり、ノズル51から燃料等Fを噴射してこの領域を還元雰囲気にすると、鉛の揮発率が大幅に上昇する。
【0015】
セメントキルン50で揮発した鉛を含むガスは、図6において、プローブ61によって抽気されて冷却された後、分級機63に導入され、粗粉ダストと、微粉ダスト及びガスとに分離され、微粉ダストが集塵機64で回収される。この微粉ダストには、セメントキルン50内で鉛がより多く揮発した分、従来よりも鉛が多く濃縮されている。そこで、この鉛を回収することにより、セメントキルン50で製造されるセメントの鉛含有率を低下させることができる。
【0016】
【特許文献1】特開2003−1218号公報
【特許文献2】特開2003−201524号公報
【特許文献3】特開平8−182983号公報
【特許文献4】特開2004−306012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記のように、先願に記載の方法によって、セメントの鉛含有率を従来より低下させることは可能であるが、将来セメント焼成設備に供給される原料の鉛濃度が増加したり、鉛を多く含有する廃棄物のセメント製造工程での処理量が増加する場合等に備え、セメントの鉛含有率をより効率よく低下させることのできる技術が求められていた。
【0018】
そこで、本発明は、上記従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであって、セメントの品質に影響を与えることなく、セメントの鉛含有率をより効率よく低下させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するため、本発明は、セメント製造工程からの鉛回収方法であってセメント焼成設備に塩化揮発炉を付設し、該炉内を、アルカリに対する塩素の量がモル比で1を超えるように維持しながら、該炉内に鉛含有原料を投入し、該鉛含有原料に含まれる鉛を塩化揮発させ、該炉の排ガスから鉛を回収することを特徴とする。
【0020】
そして、本発明によれば、塩化揮発炉を利用して鉛含有原料中の鉛を塩化揮発させ、揮発した鉛を塩化揮発炉の排ガスから回収することにより、セメント製造工程から効率よく鉛を回収することができ、これによって、該セメント製造工程で製造されるセメントの鉛含有率を低減することができる。さらに、この方法によれば、塩素が鉛とともに除去されるため、セメントの品質に影響を与えることもない。
【0021】
前記セメント製造工程からの鉛回収方法において、前記排ガス中のダストを集塵することができ、集塵したダストから鉛を回収することができる。
【0022】
前記セメント製造工程からの鉛回収方法において、前記集塵を行う前に前記排ガスに大気を混入することにより、該排ガスの温度を低下させ、鉛を凝固させて回収することができる。
【0023】
前記塩化揮発炉の炉内温度を800℃以上1300℃以下とすることができ、これによって、鉛含有原料から鉛を塩化鉛(PbCl2)として効率よく回収することができる。
【0024】
前記セメント製造工程からの鉛回収方法において、前記セメント焼成設備から、温度が800℃以上の原料の一部を、該塩化揮発炉に供給することができる。これにより、最下段サイクロンから排出された原料を熱源として利用しながら、該原料に含まれる鉛を同時に塩化揮発炉で揮発させ、効率よく鉛を回収することができる。
【0025】
ここで、鉛を揮発させるには、数分(10分以下)程度の時間を必要とする。このため、セメントキルンの付設炉として常識的な設備規模に留めるには、前記セメント製造工程からの鉛回収方法において、前記原料の一部を、前記セメント焼成設備に付設したセメントキルンに投入する原料量の10質量%以下とすることが望ましい。
【0026】
また、少量で効率よく鉛をセメントキルンから除去するためには、前記原料に含まれる鉛の濃度を先願の手法を組み入れることにより、1000ppm以上とすることが望ましい。
【0027】
前記セメント焼成設備に付設した塩素バイパスシステムによって回収したダストを水洗脱塩処理して生成した脱塩ケーキ又は/及び重金属スラッジを、前記塩化揮発炉へ投入することができる。これによって、セメントキルンと塩化揮発炉とで鉛回収に関するカスケードシステムを形成することができ、塩化揮発炉単体での鉛揮発率及び鉛回収率を高く設定しなくとも、セメントキルンとの組み合わせで高い鉛回収率を達成することができるとともに、塩化揮発炉での残渣処理に関する問題を軽減することができる。
【0028】
前記セメント製造工程からの鉛回収方法において、前記塩化揮発炉から排出される残渣を、前記セメント焼成設備に付設したセメントキルンへ投入することができ、塩化揮発炉の残渣を系外に排出することなく、セメント製造工程において処理することができる。
【0029】
前記塩化揮発炉の塩素源として、カルシウム塩を含む都市ごみ焼却灰を使用することができる。これにより、カルシウム塩を含む都市ごみ焼却灰を処理しながら、セメント製造工程で製造されるセメントの鉛含有率を低減することができる。
【0030】
前記セメント製造工程からの鉛回収方法において、前記塩化揮発炉の熱源として、前記セメント焼成設備のキルン入口からプレヒータ出口までの領域から、該セメント焼成設備の排ガスの一部を抽気し、該塩化揮発炉に導入することができる。これにより、鉛含有率の高い廃棄物等をセメント原料として有効利用する際などにおいて、該廃棄物等を直接塩化揮発炉に投入して該廃棄物等に含まれる鉛を揮発させ、効率よく鉛を回収することができる。
【0031】
また、本発明は、セメント製造工程からの鉛回収装置であって、セメント焼成設備に付設され、投入された鉛含有原料中の鉛を塩化揮発させる塩化揮発炉と、該炉の排ガスから鉛を回収する鉛回収手段とを備えることを特徴とする。本発明によれば、上述のように、セメントの品質に影響を与えることなく、セメント製造工程から効率よく鉛を回収し、セメントの鉛含有率を低減することができる。
【0032】
前記セメント製造工程からの鉛回収装置において、前記鉛回収手段は、前記塩化揮発炉の排ガス中のダストを集塵する集塵手段を備えることができ、集塵したダストから鉛を回収することができる。
【0033】
前記セメント製造工程からの鉛回収装置において、前記塩化揮発炉の熱源として、前記セメント焼成設備の排ガスを抽気し、該塩化揮発炉に導入する排ガス導入手段を備えてもよく、前記セメント焼成設備から、温度が800℃以上の原料の一部を、該塩化揮発炉に供給する原料供給手段を備えるように構成することもできる。
【発明の効果】
【0034】
以上のように、本発明にかかるセメント製造工程からの鉛回収方法及び回収装置によれば、セメントの品質に影響を与えずに、セメントの鉛含有率を効率よく低下させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
図1は、本発明にかかるセメント焼成設備からの鉛回収装置の第1の実施の形態を示し、この装置は、粉状又はスラリー状の燃料又は可燃物を含む原料(以下、「燃料等」という)F1をセメントキルン10内に噴射するためのノズル1と、塩素バイパスダストを水洗脱塩処理することにより生成した脱塩ケーキ等を塩化揮発する塩化揮発炉2と、この塩化揮発炉2からの排ガスに含まれる鉛及びダストを回収する乾式の回収設備3とを備える。塩化揮発炉2及び回収設備3を備えた点が本発明の特徴である。
【0036】
塩化揮発炉2は、この炉2に供給される水洗脱塩設備4からの脱塩ケーキ及び重金属スラッジに含まれる鉛を塩化揮発させるために設けられ、これら脱塩ケーキ及び重金属スラッジに加え、直接供給される鉛含有セメント原料Mを、プレヒータから熱源として供給される燃焼ガス、直接供給される燃料等F2及び直接供給される塩化源Cで塩化揮発して鉛を揮発させる。ここで、鉛含有セメント原料Mは、焼却灰及び汚染土壌等であり、塩化源Cには、カルシウム塩を含む都市ごみ焼却灰を用いることができる。
【0037】
一方、セメントキルン10には、図2に示すように、塩素バイパス設備が備えられ、セメントキルン10の窯尻10a(図1参照)から最下段サイクロン12に至るまでのキルン排ガス流路からの抽気ガスは、プローブ31において冷却ファン32からの冷風によって冷却された後、分級機33に導入され、粗粉ダストと、微粉ダスト及びガスとに分離される。粗粉ダストは、セメントキルン系に戻され、塩化カリウム(KCl)等を含む微粉ダスト(塩素バイパスダスト)は、集塵機34で回収される。集塵機34からの排ガスは、排気ファン35を経て大気へ放出され、微粉ダストは、溶解槽36に供給される。溶解槽36において、微粉ダストは、温水と混合されてスラリーとなり、微粉ダストに含まれる水溶性の塩素が水に溶解する。このスラリーは、固液分離機37によって固液分離され、塩素分を含むろ液と、脱塩ケーキと重金属スラッジとに分離される。
【0038】
次に、上記構成を有する回収装置を用いた本発明にかかるセメント製造工程からの鉛回収方法について説明する。
【0039】
図1において、ノズル1を用いてセメントキルン10内に燃料等F1を供給し、セメントキルン10の窯尻10a側を還元雰囲気にし、鉛の揮発率を上昇させる。セメントキルン10で揮発した鉛を含むガスは、図2に示した塩素バイパス設備において、微粉ダスト(塩素バイパスダスト)に鉛が濃縮され、微粉ダストを温水と混合してスラリーを固液分離した脱塩ケーキと重金属スラッジに鉛が濃縮される。
【0040】
図1に示すように、上記鉛が濃縮された脱塩ケーキ及び重金属スラッジと、鉛含有セメント原料Mと、燃料等F2と、塩化源Cとを塩化揮発炉2に供給するとともに、熱源として、セメントキルン10の窯尻10aからプレヒータ出口までの領域から燃焼ガスを導入する。すると、塩化揮発炉2において、脱塩ケーキ及び重金属スラッジ並びに鉛含有セメント原料M等に含まれる鉛化合物が、塩化源Cとして投入した都市ごみ中の塩化カルシウム(CaCl2)と反応し、塩化鉛(PbCl2)として揮発する。
【0041】
ここで、図3に示すように、800℃〜1300℃において塩化鉛の揮発率が上昇するため、塩化揮発炉2内の温度をこの温度範囲に調節する。尚、このときに生成される酸化カルシウム(CaO)は、セメント原料として利用することができる。また、この際、酸化鉛(PbO)の揮発率も、同図に示すように温度上昇とともに上昇するため、鉛全体としての揮発率は実線で示すように推移する。
【0042】
次に、塩化揮発炉2からの揮発した鉛を含む排ガスを回収設備3に供給し、回収設備3の前段で大気を供給して排ガス温度を低下させることにより、排ガスに含まれる鉛を凝縮させ、ヒュームとして回収する。
【0043】
本実施の形態においては、鉛含有セメント原料Mを直接塩化揮発炉2に投入し、塩化揮発炉2において塩化源Cに含まれる塩素を利用して鉛の揮発率を上昇させるため、鉛含有セメント原料Mの鉛含有率が比較的高い場合に、より効果的に鉛を回収することができる。また、セメントキルン10内の還元雰囲気下で原料を焼成することによって、塩素バイパスダストに鉛が濃縮され、鉛が濃縮された脱塩ケーキ及び重金属スラッジを塩化揮発炉2に投入して再度鉛を揮発させるカスケードシステムを構成しているため、より効率的に鉛を回収することができる。
【0044】
次に、本発明にかかるセメント焼成設備からの鉛回収装置の第2の実施の形態について、図4を参照しながら説明する。
【0045】
この装置は、燃料等F1をセメントキルン10内に噴射するためのノズル1と、塩素バイパスダストを水洗脱塩処理することにより生成した脱塩ケーキ等を塩化揮発する塩化揮発炉42と、この塩化揮発炉42からの排ガスに含まれる鉛及びダスト等を回収する乾式の回収設備3とを備える。尚、塩化揮発炉42以外は、上記第1の実施の形態と同様の構成であるので説明を省略する。
【0046】
塩化揮発炉42は、この炉42に供給される水洗脱塩設備4からの脱塩ケーキ及び重金属スラッジに含まれる鉛を塩化揮発させるために設けられ、これら脱塩ケーキ及び重金属スラッジに加え、直接供給される鉛含有セメント原料Mと、プレヒータの最下段サイクロン12から熱源及び鉛除去対象物質として供給される原料(以下、「ボトム原料」という)とを、直接供給される燃料等F2、並びに直接供給される塩化源Cとで塩化揮発して鉛を揮発させる。ここで、塩化揮発炉42に供給されるボトム原料は、セメントキルン10に供給されるボトム原料の10質量%以下とする。
【0047】
本実施の形態では、最下段サイクロン12からのボトム原料を塩化揮発炉42に導入しているため、鉛含有セメント原料Mのみならず、ボトム原料に含まれる鉛を揮発させることができ、ボトム原料を熱源として利用しながら、該原料に含まれる鉛を同時に塩化揮発炉42で揮発させ、効率よく鉛を回収することができる。ここで、特にボトム原料に含まれる鉛の濃度が1000ppm以上と高い場合に、鉛回収効率が上昇し好ましい。
【0048】
尚、上記実施の形態においては、図1に示した塩化揮発炉2の熱源として、プレヒータからの燃焼ガスを、図4に示した塩化揮発炉42の熱源として、最下段サイクロン12からのボトム原料を利用する場合について説明したが、プレヒータからの燃焼ガスとボトム原料の両方を塩化揮発炉の熱源として利用してもよい。また、ボトム原料でなくとも、セメント焼成設備に沈降室等を新設し、温度が800℃以上の原料の一部を塩化揮発炉42に供給することもできる。
【0049】
さらに、上記実施の形態においては、セメントキルン10内に還元雰囲気を形成するとともに、塩化揮発炉2、42を設けて塩化揮発を行う場合について説明したが、必ずしもセメントキルン10内に還元雰囲気を形成する必要はなく、塩化揮発炉2、42における塩化揮発のみによって鉛を回収してもよい。
【0050】
また、上記実施の形態においては、塩化揮発炉2、42からの排ガスに含まれる鉛及びダストを回収する回収設備3が乾式の場合について説明したが、この回収設備3として湿式集塵機を利用し、鉛を水溶物として回収してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明にかかるセメント製造工程からの鉛回収装置の第1の実施の形態を示すフローチャートである。
【図2】図1の鉛回収装置とともに用いられる塩素バイパス設備を示すフローチャートである。
【図3】塩化揮発炉内の温度と鉛の揮発率の関係を示すグラフである。
【図4】本発明にかかるセメント製造工程からの鉛回収装置の第2の実施の形態を示すフローチャートである。
【図5】従来のセメント製造工程からの鉛回収装置の実施の形態を示すフローチャートである。
【図6】図5の鉛回収装置とともに用いられる塩素バイパス設備を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0052】
1 ノズル
2 塩化揮発炉
3 回収設備
4 水洗脱塩設備
10 セメントキルン
10a 窯尻
12 最下段サイクロン
31 プローブ
32 冷却ファン
33 分級機
34 集塵機
35 排気ファン
36 溶解槽
37 固液分離器
42 塩化揮発炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント焼成設備に塩化揮発炉を付設し、
該炉内を、アルカリに対する塩素の量がモル比で1を超えるように維持しながら、該炉内に鉛含有原料を投入し、
該鉛含有原料に含まれる鉛を塩化揮発させ、
該炉の排ガスから鉛を回収することを特徴とするセメント製造工程からの鉛回収方法。
【請求項2】
前記排ガス中のダストを集塵することにより、前記鉛を回収することを特徴とする請求項1に記載のセメント製造工程からの鉛回収方法。
【請求項3】
前記集塵を行う前に前記排ガスに大気を混入することにより、該排ガスの温度を低下させることを特徴とする請求項2に記載のセメント製造工程からの鉛回収方法。
【請求項4】
前記塩化揮発炉の炉内温度を800℃以上1300℃以下とすることを特徴とする請求項1、2又は3に記載のセメント製造工程からの鉛回収方法。
【請求項5】
前記セメント焼成設備から、温度が800℃以上の原料の一部を、該塩化揮発炉に供給することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のセメント製造工程からの鉛回収方法。
【請求項6】
前記原料の一部に含まれる鉛の濃度を1000ppm以上とすることを特徴とする請求項5に記載のセメント製造工程からの鉛回収方法。
【請求項7】
前記原料の一部を、前記セメント焼成設備に付設したセメントキルンに投入される原料量の10質量%以下とすることを特徴とする請求項5又は6に記載のセメント製造工程からの鉛回収方法。
【請求項8】
前記セメント焼成設備に付設した塩素バイパスシステムによって回収したダストを水洗脱塩処理して生成した脱塩ケーキ又は/及び重金属スラッジを、前記塩化揮発炉へ投入することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のセメント製造工程からの鉛回収方法。
【請求項9】
前記塩化揮発炉から排出される残渣を、前記セメント焼成設備に付設したセメントキルンへ投入することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載のセメント製造工程からの鉛回収方法。
【請求項10】
前記塩化揮発炉の塩素源として、カルシウム塩を含む都市ごみ焼却灰を使用することを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載のセメント製造工程からの鉛回収方法。
【請求項11】
前記塩化揮発炉の熱源として、前記セメント焼成設備の排ガスの一部を抽気し、該塩化揮発炉に導入することを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載のセメント製造工程からの鉛回収方法。
【請求項12】
セメント焼成設備に付設され、投入された鉛含有原料中の鉛を塩化揮発させる塩化揮発炉と、
該炉の排ガスから鉛を回収する鉛回収手段とを備えることを特徴とするセメント製造工程からの鉛回収装置。
【請求項13】
前記鉛回収手段は、前記塩化揮発炉の排ガス中のダストを集塵する集塵手段を備えることを特徴とする請求項12に記載のセメント製造工程からの鉛回収装置。
【請求項14】
前記塩化揮発炉の熱源として、前記セメント焼成設備の排ガスを抽気し、該塩化揮発炉に導入する排ガス導入手段を備えることを特徴とする請求項12又は13に記載のセメント製造工程からの鉛回収装置。
【請求項15】
前記セメント焼成設備から、温度が800℃以上の原料の一部を、該塩化揮発炉に供給する原料供給手段を備えることを特徴とする請求項12、13又は14に記載のセメント製造工程からの鉛回収装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−190019(P2008−190019A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−27972(P2007−27972)
【出願日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】