説明

セラミックシート

【課題】平板状固体電解質型燃料電池用の電解質膜や電極シートの如く、多数枚を積層した状態で大きな積層荷重や熱ストレスを受ける様なセラミックシートを対象として、大きな積層荷重や熱ストレスを受けたときでも、クラックや割れを生じ難く、しかも高精度の電極印刷を確実に実現できるセラミックシートとその製法を提供すること。
【解決手段】レーザー光学式三次元形状測定装置を使用し、シート面にレーザー光を照射してその反射光を三次元形状解析することにより求められるシートの最大反り高さが300μm以下であり、且つ該最大反り高さの最大外径長さに対する反り率が0.2%以下であり、電極印刷等に対して優れた適性を有すると共に、積層荷重と熱ストレスに対する耐クラック性と耐割れ性に優れたセラミックシートとその製法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセラミックシートとその製法に関し、特に平板状固体電解質型燃料電池の固体電解質膜や電極シートなどの素材として使用したときにクラックや割れなどを生じ難く、また表面平滑性が良好で電極塗布や回路形成のためのスクリーン印刷などの不均一を生じることのない品質安定性に優れたセラミックシートとその製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
平板状固体電解質型燃料電池の構造は、固体電解質の両面にアノード電極とカソード電極を付けたセル、または、電極の表面に電解質と更に対電極を付けたセルを縦方向に多数積層したセルスタックが基本であり、このとき各セルは互いに近接して配置され、且つ燃料ガスと空気が混じり合わない様にセパレーター(インターコネクター)が各セル間に配置されると共に、電解質膜やセルの周縁部とセパレーターはシール・固定される。また、電池セルの内部にマニホールドがある場合は、その周縁部でもシール・固定される。
【0003】
このセパレーターは、一般的に比重の大きい耐熱合金やセラミックで構成されており、かなり厚肉のシート状であるため相当の重量を有している。また、上記燃料電池の構成素材として用いられるセラミックシートは、相対的に軽量且つ薄肉であることが望まれている。更に、固体電解質型燃料電池の作動温度は800〜1000℃程度と高温であるので、その構成素材には大きな積層荷重がかかると共に相当の熱ストレスを受ける。
【0004】
一方、ジルコニアシートの如きセラミックシートは硬質で曲げ方向の外力に対して脆弱であるので、固体電解質膜や電極シートなどの燃料電池用構成素材として使用されるセラミックシートの表面に凹凸等があると、その個所に前記積層荷重や熱ストレスが集中してクラックや割れを起こし、発電性能が急激に低下してくる。
【0005】
そこで本発明者らは、燃料電池の固体電解質膜用等として用いられるセラミックシートの上記積載荷重や熱ストレスによるクラックや割れを低減し、燃料電池としての性能向上と寿命延長を期してかねてより研究を進めており、その研究の一環として、シートの反り量や最大ウネリ高さを所定値以下に抑えれば、上記クラックや割れの発生が可及的に抑えられることを確認し、先に提案した(特許文献1、特許文献2)。
【0006】
上記公開公報で提示したセラミックシートであれば、かなり大版のシートであっても相当の積層荷重と熱ストレスに耐えることから、燃料電池としての発電容量の大幅な増大が可能となり、燃料電池の工業的実用化に向けて極めて有効な技術として期待される。
【0007】
ところが本発明者らが更なる改良研究を進めるうち、下記の様な事実が次第に明らかになってきた。即ち前記公開公報に開示した反りの小さいセラミックシートであっても、セラミックシートのサイズと最大反り量との関係によっては、スクリーン印刷などにより電極形成を行なう際に、該印刷画像がかすれたり極端な場合は部分的に電極印刷ができない分が生じて商品欠陥となり、或いは積載荷重や熱ストレスの程度によってクラックや割れを生じることが確認された。
【0008】
特に、燃料電池の実用化に向けて発電容量を増大するため固体電解質膜などはますます大版化する傾向があり、この様な大版セラミックシートを例えば50枚、あるいは100枚程度以上重ね合わせて組付け燃料電池としたとき、該シートに大きな反りがあると、該最大反り部分およびその周辺部に局部的な内部応力が生じ、燃料電池の稼動時に積載荷重や熱ストレスを受けたときに当該個所にクラックや割れが発生し易くなる。
【0009】
また該セラミックシートを燃料電池の固体電解質膜や電極シートなどとして使用する際には、該シートに電極塗布や回路形成のためのスクリーン印刷を施す必要があるが、該シートに大きな反りが存在すると、印刷厚さが不均一になったり、極端な場合は一部がかすれて印刷されない部分ができることもあり、重大な製品欠陥を生じる原因になる。
【0010】
ところでセラミックシートの一般的な製法は、セラミック原料粉末と有機質バインダーおよび分散媒からなるスラリーを、ドクターブレード法、カレンダー法、押出し法等によってシート状に成形し、これを乾燥し分散媒を揮発させてグリーンシートを得、これを所定形状に打抜き加工してから焼成し、有機質バインダーを分解除去すると共にセラミック粉末を相互に焼結させる方法であり、グリーンシートは焼結過程で長さにして70〜90%程度、面積にして50〜80%程度に収縮する。従って、該焼結時にグリーンシート表面で有機質バインダーの分解除去速度が不均一になったり、あるいは焼結に伴う収縮がシート表面で不均一になると、得られるセラミックシート表面に大きな反りが生じる原因となり、これが上記の様な製品欠陥を引き起こすものと考えられる。
【0011】
セラミックシートを製造する際の焼成時の昇温プロフィールについては、低温焼成多層配線基板を対象として焼成雰囲気の多様性と高生産性の観点から種々検討されている。しかし、平板状固体電解質型燃料電池の電解質膜や電極シートに関しては、特許文献3に、ジルコニア系セラミックシートを焼成する際の昇温速度を特定し、一度の焼成のみで気密且つ平坦な膜を製造する焼成方法が開示されている程度である。
【0012】
しかしながら、工業的製造に必要な大型炉での焼成条件や、工業的実用化に向けて必要となる直径8cm程度以上のセラミックシートを得るための焼成条件については、より遅い昇温速度で脱脂を行なう必要があると指摘されているのみで具体的な条件については開示されておらず、大版セラミックシートを工業的に生産性良く量産化する製造方法としては尚不十分と言わざるを得ない。
【特許文献1】特開平8−151270号公報
【特許文献2】特開平8−151271号公報
【特許文献3】特開平4−37646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、特に平板状固体電解質型燃料電池に用いられる固体電解質膜や電極シートの如く、多数枚積み重ねて組付けられた状態で大きな積層荷重や熱ストレスを受ける様なセラミックシートを対象として、大きな積層荷重や熱ストレスを受けたときでもクラックや割れを生じることがなく、また電極印刷なども支障なく均一に行ない得る様なセラミックシートとその製法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決することのできた本発明にかかるセラミックシートとは、レーザー光学式三次元形状測定装置を使用し、シート面にレーザー光を照射してその反射光を三次元解析することにより求められるシートの最大反り高さが300μm以下であり、且つシート最大外径長さに対する反り率が0.2%以下であるところに要旨を有している。そしてこのセラミックシートは、反りが少なくて電極印刷などを精度良く確実に行なうことができ、しかも反りに起因する積層荷重や熱ストレスによるクラックや割れを起こし難いという特徴から、平板状固体電解質型燃料電池の電解質膜または電極シートとして極めて有用である。
【0015】
また本発明に係る製法は、上記特性を備えたセラミックシートを工業的に生産性よく製造することのできる方法として位置付けられるもので、セラミックグリーンシートを焼成してセラミックシートを製造する際に、該グリーンシート内に含まれる有機物成分が、該有機物成分全量に対して10〜90質量%減少する温度域(以下、脱脂温度域ということがある)の平均昇温速度を0.1〜3℃/分の範囲に制御すると共に、該グリーンシートの焼結完了までの全収縮量に対して10〜90%収縮する温度域(以下、焼結温度域ということがある)の平均昇温速度を0.5〜5℃/分に制御するところに要旨を有している。この方法を実施する際に、上記脱脂温度域で2〜120分間一定の温度で少なくとも1回保持し、また、上記焼結温度域で、2〜120分間一定の温度で少なくとも1回保持すれば、脱脂・焼結をシート全面に亘って一層均一に進行させることができ、反り高さおよび反り率を一段と小さくすることができるので好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明は以上の様に構成されており、セラミックシートの特に前記最大反り高さと反り率を特定することによって、平板状固体電解質型燃料電池用の固体電解質膜や電極シート等の構成素材として優れた電極印刷性を有すると共に、耐積層荷重性と耐熱ストレス性を与えて稼動時のクラックや割れの発生を可及的に抑えることができ、その結果として、例えば高性能で且つ耐久寿命の大幅に改善された燃料電池などを提供できる。しかも本発明の方法によれば、その様な形状特性を備えたセラミックシートを工業的に効率よく製造し得ることになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明者らは前述した様な解決課題の下で、特に平板状固体電解質型燃料電池の構成素材として用いられるセラミックシートについて、電極印刷不良などを生じることなく、燃料電池として稼動する際に生じるクラックや割れを抑制し、燃料電池の性能向上を図ると共に寿命延長を増進すべく、色々の角度から研究を進めてきた。
【0018】
その結果、前述した様な印刷不良およびセラミックシートに生じるクラックや割れは、セラミックシートの最大反り高さの絶対値と、該最大反り高さのシート最大外径長さ(最大外径長さとは、円形シートの場合は直径、正方形や長方形などの場合は対角線長さを意味する)に対する比率に大きく影響され、該最大反り高さを300μm以下、より好ましくは200μm以下、更に好ましくは100μm以下に抑えると共に、該最大反り高さの最大外径長さに対する比率(反り率)を0.2%以下、より好ましくは0.15%以下、更に好ましくは0.1%以下に抑えてやれば、印刷不良やクラック・割れの発生が可及的に抑えられることを確認し、上記本発明に想到したものである。
【0019】
ちなみに、先に説明した如く燃料電池用の固体電解質膜や電極シートとして使用する際に、前記最大反り高さと前記反り率はスクリーン印刷などを行なう際に印刷不良を生じる大きな原因になると共に、積層荷重を受けたときの内部応力の局部的な集中によるクラックや割れの発生にも直結しているからであり、これらの規定により、スクリーン印刷などによる電極形成等をより均一且つ精度よく行ない得ると共に、多数枚の積層による積層荷重や熱ストレスを受けた時の応力集中によって生じるクラックや割れを可及的に抑えることができ、燃料電池の構成素材などとして用いることにより、その性能向上と寿命の大幅な延長を実現し得るのである。
【0020】
上記最大反り高さとは、レーザー光学式三次元形状測定装置のワーク台にセラミックシートを載置し、該シート面にレーザー光を照射しながら最大外径線(円形の場合は直径、正方形や長方形の場合は対角線、五角形以上の多角形の場合はその中心点を通る直線の周端縁までの最大長さを表わす)上をスキャンさせて得られる最大高さ位置と最低高さ位置との差を意味し、前記反り率とは、レーザー光学式三次元形状測定装置のワーク台にセラミックシートを載置し、レーザー光を照射しながら最大外径線(同前)上をスキャンさせて得られる前記最大外径長さに対する最大反り高さの割合(百分率)を意味する。
【0021】
そして、該最大反り高さが300μmを超え或いは前記反り率が0.2%を超える場合は、該反りに起因する電極印刷不良欠陥や積層荷重時のクラックや割れの発生を確実に阻止することができず、本発明の目的を果たすことができないのである。
【0022】
尚上記レーザー光学式三次元形状測定装置とは、被測定対象となるセラミックシート面にレーザー光を照射してシート表面でフォーカスを結び、その反射光をフォトダイオード上に均等に結像させるとき、シート面が変位に対し像に不均等が生じると、即座にこれを解消する信号を発して対物レンズの焦点を常にシート面に合う様にレンズが制御される構造を備えた非接触式の微小三次元形状解析装置であり、その移動量を検出することによって、被測定対象となるシート面の凹凸を非接触的に検出することができる。その分解能は通常1μm以下、より好ましくは0.1μm以下のものが使用され、この様な装置を使用することによって、シートの反り高さを正確に検知できる。
【0023】
ところで、シートの反り高さや反り率が大きくなる原因は種々考えられるが、最大の原因は、グリーンシートを脱脂・焼結させてセラミックシートとする際の脱脂の不均一(バインダー成分や可塑剤などの有機物成分の熱分解による焼失速度の不均一)、あるいは焼結の進行に伴う前記収縮時の不均一等が挙げられる。
【0024】
従って、上記最大反り高さと反り率を抑えるには、脱脂時における有機物成分の焼失速度(分解ガスの放出速度)をシート全面で均一化すると共に、焼結をシート面内の全域で均一に進行させて収縮が万遍なく進行する様な条件設定が重要となる。
【0025】
そこで本発明者らは、脱脂時および焼結時の昇温速度が最大反り高さや反り率に与える影響を定量的に明らかにすべく研究を進めた。その結果、グリーンシート内に含まれる有機物成分が、該有機物成分全量に対して10〜90質量%焼失して減量する時の温度域(脱脂温度域)の平均昇温速度を0.1〜3℃/分、好ましくは0.2〜3℃/分、更に好ましくは0.4〜3℃/分の範囲に制御すると共に、該グリーンシートが脱脂後最終的に焼結して収縮する全収縮量に対して10〜90%収縮する時の温度域(焼結温度域)の平均昇温速度を0.5〜5℃/分、好ましくは1.0〜5℃/分、更に好ましくは2〜5℃/分の範囲に制御してやれば、脱脂および焼結時に生じる反りが可及的に抑えられ、きわめて平滑性の高いセラミックシートが得られることを確認した。
【0026】
ちなみに、上記脱脂温度域の平均昇温速度が0.1℃/分を下回り、或いは焼結温度域の平均昇温速度が0.5℃/分を下回る場合は、昇温速度が遅すぎるため脱脂または焼結に長時間を要し、生産性が極端に低下してくるため工業的実用化にそぐわなくなる。一方、脱脂温度域の平均昇温速度が3℃/分を上回り、或いは焼結温度域の平均昇温速度が5℃/分を上回る場合は、脱脂または焼結時の昇温速度が高すぎるためシート面内で温度不均一が生じて脱脂もしくは焼結の進行が局部的に不均一となり、反りが生じ易くなるばかりでなく、極端な場合はシートに割れが発生する恐れも生じてくる。
【0027】
そして、こうした好適昇温速度を、工業的な大量生産を可能にするために用いられる大容量焼成炉を用いた脱脂・焼結で確保するには、大容量焼成炉内の加熱有効部位における温度分布を、予め設定した温度プログラムに対して±30℃以内、より好ましくは±20℃以内、更に好ましくは±10℃以内に抑えることが有効となる。この時、上記脱脂温度域および/または焼結温度域で、2〜120分間一定の温度で少なくとも1回保持する保温工程を付加すれば、該保温工程で昇温速度の僅かな変動を吸収することができ、それによりシート全面における昇温速度を更に均一にすることができ、最終的に得られるセラミックシートの反りを一段と小さく抑えることができるので好ましい。
【0028】
なお、上記昇温速度制御が行なわれる脱脂温度域および/または焼結温度域を、それぞれ有機物成分全量中の10〜90質量%が減量(焼失)する時期、および全収縮量に対して10〜90%収縮する時期、と定めたのは、夫々の時期において有機物成分の焼失除去が急激に進行し、あるいは焼結が急激に進行するため、この時期の昇温速度を厳密に制御することが最も効果的であるからである。中でもこうした有機物成分の焼失除去は、全量中の30〜70質量%が焼失する時に最も顕著であり、また全収縮量に対して20〜80%収縮する時に最も顕著であるので、該温度域の昇温速度を可及的に遅くするか、或いは該温度域で少なくとも1回の定温保持を行なえば、反りを更に効果的に抑えることができるので好ましい。
【0029】
本発明で定める上記最大反り高さと反り率の要件を満たす平滑度のセラミックシートをより確実に得るには、脱脂・焼結時に使用するスペーサー或いはセッターとして多孔質シートを使用することが望ましく、更には多孔質シートとグリーンシート接触界面の滑りを良くすることが有効である。
【0030】
即ちグリーンシートの焼成時にスペーサーとして介装される多孔質シートは既に焼成されたものであり、グリーンシートの焼結工程では殆ど収縮しないのに対し、グリーンシートは脱脂・焼結の際に長さで70〜90%程度、面積率にして50〜80%程度に収縮するので、焼結過程では両シート面の間、特にシートの外周縁側には滑り方向のずれが生じる。この時、両シート面は殆ど密接しているので、脱脂・焼結温度条件下では該シート面で局部的な接合を起こす恐れがあり、かかる接合が起こるとその部分で滑りが阻害される結果、当該部分のグリーンシート面に圧縮力が作用すると共に、その近辺には引張力が作用し、それら局部的な圧縮力や引張力によってグリーンシート素材の移動量が不均一になり、これが反りを生じる原因になることがある。あるいは、成形に用いられる有機バインダーや可塑剤の特性から、セラミックグリーンシートが熱により粘着性を発現するものである場合、焼成中に多孔質シートと付着を起こす恐れがあり、上記と同様にグリーンシートの移動量が不均一になり、これが反りを大きくする原因にもなってくる。これら移動量の不均一は、グリーンシートにかかる荷重が大きいほど、またグリーンシートにかかる荷重が不均一なほど顕著に現われる。
【0031】
従って、こうした局部的な接合による反り発生原因を解消するには、該多孔質シートとグリーンシートの接触面に平均粒子径が0.3〜100μm程度の粉末を介在させ、該粉末によって接合を阻止すると共にシート面間の滑りを円滑にし、両シート接触面で前述した様な局部的な引張力や圧縮力が生じる現象を抑えることも極めて有効である。即ち、該粉末自体の滑り促進作用、更には該粉末の介在によってシート面間の隙間増大による分解ガスの放散促進作用とも相俟って、反りを一層小さく抑えることができる。
【0032】
その様な効果を期待して使用される粉末としては、平均粒子径が0.3〜100μmの範囲のものが好ましく、0.3μm未満の粉末では余りに微細であるため上記接合阻止作用や滑り促進作用、分解ガスの放散促進作用が有効に発揮され難く、また特に無機質粉末の場合は、焼結時に粉末自体が多孔質シートやセラミックシートに付着もしくは融着することがあり、一方100μmを超える粗粒物では、得られるセラミックシートの表面粗度が大きくなって、固体電解質膜用として実用化する際の電極印刷などに悪影響を及ぼす恐れがでてくる。こうした利害得失を考慮してより好ましい粉末の平均粒子径は1μm以上、80μm以下、更に好ましくは2μm以上、60μm以下である。粉末として特に好ましいのは、粗粒子の少ないものであり、90体積%の粒子が200μm以下、更に好ましくは100μm以下のものである。
【0033】
該粉末としては、有機質および無機質のいずれであっても構わないが、中でも特に好ましいのは有機質粉末である。しかして無機質粉末は、焼結処理後もシート表面に残存するばかりでなく、その種類によってはセラミックシート表面に融着することがあり、焼結後の除去が煩雑になる恐れがあるが、有機質粉末であれば、焼結条件下で焼失してしまうので後処理による除去作業などが不要であるからである。尚セラミックシートの焼結が完了した時点では、もはや多孔質シートとの接合を起こす恐れはなく、また有機質バインダー成分の放散も完了しているので、粉末が残存していなくても全く差し支えない。しかし、セラミックシートの種類によっては、有機質粉末と共に少量の無機質粉末を併用し、焼結の末期まで少量の粉末を残存させることも有効である。無機質粉末を併用する場合でも、好ましくは有機質粉末の使用量を50重量%以上、より好ましくは60重量%以上、更に好ましくは80重量以上とすることが望ましい。
【0034】
上記有機質粉末としては、上記の様に焼結条件下で焼失するものであればその種類の如何は問わず、天然有機質粉末もしくはアクリル樹脂粉末、メラミンシアヌレートなどの昇華性樹脂粉末などの合成有機樹脂粉末等を使用できるが、中でも特に好ましいのは、小麦粉、トウモロコシ澱粉(コーンスターチ)、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉等の澱粉質粉末である。しかして澱粉質粉末は、ほぼ球形で粒径の揃った微粉末であり、不純物なども殆ど含まれておらず、滑剤としての作用も非常に優れたものであるからである。これら有機質粉末は、単独で使用してもよく或いは必要により2種以上を適宜併用することが可能である。
【0035】
また無機質粉末の種類も特に限定されないが、好ましいのは天然もしくは合成の各種酸化物や非酸化物、例えばシリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、ムライトや、窒化ホウ素、窒化珪素、窒化アルミニウム、炭化珪素、カーボン等であり、これらも単独で使用し得る他、必要により2種以上を併用できるが、好ましくは使用するグリーンシートや多孔質シートの素材に応じて、これらに対して接合性の低い無機質粉末を選択使用するのがよい。
【0036】
これら粉末の好ましい塗布量は焼結対象となるセラミックグリーンシートの面積当たり0.0001cc/cm2以上、より好ましくは0.0002cc/cm2以上で、0.1cc/cm2以下、より好ましくは0.02cc/cm2以下とすることが望ましい。
【0037】
尚グリーンシートの焼成に当たっては、グリーンシート一枚に多孔質シートを載せて焼成することも可能であるが、複数のグリーンシートを多孔質シートと交互に重ね合わせて同時に焼結する方法を採用すれば、焼結作業をより効率よく実施できるので有利である。また、最上層の多孔質シートの重さを重くしたり、多孔質シートの上に更に重しを載せて焼成を行なえば、重しの効果も加わって一段と平滑で反りの少ないセラミックシートを得ることができるので好ましい。
【0038】
セラミックシートの素材となるセラミックとしては、ジルコニア、アルミナ、チタニア、窒化アルミニウム、コージェライト、ムライト、アルミナ/ホウ珪酸ガラス、コージェライト/ホウ珪酸ガラス、酸化ニッケル/ジルコニアなど様々の単独、混合もしくは複合酸化物が挙げられる。
【0039】
これらの中でも、固体電解質膜用として特に好ましいのはジルコニア系セラミックであり、具体的には、ジルコニアにMgO,CaO,SrO,BaOなどのアルカリ土類金属酸化物、Y23,La23,Ce23,Pr23,Nd23,Sm23,Eu23,Gd23,Tb23,Dy23,Ho23,Er23,Yb23などの希土類金属酸化物、更にはSc23,Bi23,In23などの安定化剤を1種もしくは2種以上含有するジルコニア系セラミックが挙げられ、その中には他の添加剤としてSiO2,Al23,Ge23,SnO2,Ta25,Nb25などが含まれていてもよい。
【0040】
この他、CeO2またはBi23にCaO,SrO,BaO,Y23,La23,Ce23,Pr23,Nd23,Sm23,Eu23,Gd23,Tb23,Dr23,Ho23,Er23,Yb23,PbO,WO3,MoO3,V25,Ta25,Nb25等の1種もしくは2種以上を添加したセリア系またはビスマス系、更にはLaGaO3の如きガレート系の固体電解質膜も好ましいものとして例示される。
【0041】
また電極シート用の構成素材としては、Ni,Co,Feあるいはこれらの酸化物等と、上記ジルコニア及び/又はセリアとのサーメット、更にはこれらにMgO,CaO,SrO,BaOなどのアルカリ土類金属酸化物やMgAl24などを添加したサーメットなどが、またカソード電極シートの構成素材としては、ぺロブスカイト型結晶構造を有するランタン・マンガネート、ランタン・コバルテート、あるいは、これらのうちランタンをCa,Srなどで一部置換し、もしくはマンガンをCo,Fe,Crなどで一部置換し、更にはランタンとコバルトの一部をCa,Sr,Co,Feなどで置換した複合酸化物などが例示される。
【0042】
なお、燃料電池の固体電解質膜用などとして使用されるセラミックシートにはより高度の熱的、機械的、電気的、化学的特性が要求されるので、こうした要求特性を満足させるには、2〜12モル%、より好ましくは2.5〜10モル%、更に好ましくは3〜8モル%の酸化イットリウムで安定化された酸化ジルコニウム(正方晶及び/又は立方晶ジルコニア)がより好ましいものとして推奨される。
【0043】
また、これらのセラミックシートを特に燃料電池用の固体電解質膜や電極用シートとして実用化する場合は、要求強度を満たしつつ電気抵抗を可及的に抑えるため、シート厚さを10μm以上、より好ましくは50μm以上で、500μm以下、より好ましくは300μm以下とするのが良い。
【0044】
またシートの形状としては、円形、楕円形、角形、R(アール)を持った角形など何れでもよく、これらのシート内に同様の円形、楕円形、角形、Rを持った角形などの穴を1つもしくは2つ以上有するものであってもよい。更にシートの面積は、50cm2以上、好ましくは100cm2以上である。なおこの面積とは、シート内に穴がある場合は、該穴の面積を含んだ総面積を意味する。
【0045】
これらセラミックシートの製造は、常法に従ってセラミック原料粉末と有機質もしくは無機質バインダーおよび分散媒(溶剤)、必要により分散剤や可塑剤などを含むスラリーを、ドクターブレード法、カレンダーロール法、押出し法等によって平滑なシート、例えばポリエステルシート上に適当な厚みで塗布し、乾燥して分散剤を揮発除去することによりグリーンシートを得、これを適当な大きさに打抜いた後、前述の様に多孔質シートを載せて、あるいは多孔質シートに挟んで棚板上に載置し、1,000〜1,600℃程度の温度で2〜5時間程度加熱焼成する方法が採用される。
【0046】
この時、出来上がりシートの均質性を高め、最大反り高さや反り率をより小さくするには、セラミックシートの原料粉末として平均粒径が0.1〜0.8μmの範囲で、且つできるだけ粒径の揃ったもの(粒度分布の小さなもの)、具体的には、該粉末の90体積%以上が5μm以下であるものを使用するのがよい。
【0047】
本発明で用いられるバインダーの種類にも格別の制限はなく、従来から知られた有機質もしくは無機質のバインダーを適宜選択して使用することができる。有機質バインダーとしては、例えばエチレン系共重合体、スチレン系共重合体、アクリレート系及びメタクリレート系共重合体、酢酸ビニル系共重合体、マレイン酸系共重合体、ビニルブチラール系樹脂、ビニルアセタール系樹脂、ビニルホルマール系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ワックス類、エチルセルロース等のセルロース類等が例示される。
【0048】
これらの中でもグリーンシートの成形性や打抜き加工性、強度、焼成時の熱分解性等の点から、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等の炭素数10以下のアルキル基を有するアルキルアクリレート類、およびメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート等の炭素数20以下のアルキル基を有するアルキルメタクリレート類、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート等のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキルアクリレートまたはヒドロキシアルキルメタクリレート類、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート等のアミノアルキルアクリレートまたはアミノアルキルメタクリレート類、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、モノイソプロピルマレートの如きマレイン酸半エステル等のカルボキシル基含有モノマーの少なくとも1種を重合または共重合させることによって得られる、数平均分子量が2,000〜200,000、より好ましくは5,000〜100,000の(メタ)アクリレート系共重合体が好ましいものとして推奨される。これらの有機質バインダーは、単独で使用し得る他、必要により2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。これらの中でも特に好ましいのは、イソブチルメタクリレートおよび/または2−エチルヘキシルメタクリレートを60重量%以上含むモノマーの共重合体である。
【0049】
また無機質バインダーとしては、ジルコニアゾル、シリカゾル、アルミナゾル、チタニアゾル等が単独で若しくは2種以上を混合して使用することができる。
【0050】
セラミック原料粉末とバインダーの使用比率は、前者100重量部に対して後者5〜30重量部、より好ましくは10〜20重量部の範囲が好適であり、バインダーの使用量が不足する場合は、グリーンシートの強度や柔軟性が不十分となり、逆に多過ぎる場合はスラリーの粘度調節が困難になるばかりでなく、焼成時のバインダー成分の分解放出量が多く且つ激しくなって均質なシートが得られ難くなる。
【0051】
またグリーンシートの製造に使用される分散媒としては、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1−ヘキサノール等のアルコール類、アセトン、2−ブタノン等のケトン類、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類等が適宜選択して使用される。これらの分散媒も単独で使用し得る他、2種以上を適宜混合して使用することができる。これら分散媒の使用量は、グリーンシート成形時におけるスラリーの粘度を加味して適当に調節するのがよく、好ましくはスラリー粘度が10〜200ポイズ、より好ましくは10〜50ポイズの範囲となる様に調整するのがよい。
【0052】
上記スラリーの調製に当たっては、セラミック原料粉末の解膠や分散を促進するため、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸アンモニウム等の高分子電解質、クエン酸、酒石酸等の有機酸、イソブチレンまたはスチレンと無水マレイン酸との共重合体およびそのアンモニウム塩あるいはアミン塩、ブタジエンと無水マレイン酸との共重合体およびそのアンモニウム塩等からなる分散剤;グリーンシートに柔軟性を付与するためのフタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル等のフタル酸エステル類、プロピレングリコール等のグリコール類やグリコールエーテル類からなる可塑剤など;更には界面活性剤や消泡剤などを必要に応じて添加することができる。
【0053】
かくして本発明によれば、セラミックシートの特に最大反り高さを300μm以下、より好ましくは200μm以下、更に好ましくは100μm以下に抑えると共に、前記反り率を0.2%以下、より好ましくは0.15%以下、さらにこのましくは0.1%以下に抑えることによって、平板状固体電解質型燃料電池用の固体電解質膜や電極シートなどの構成素材として安定した電極印刷適性を確保すると共に、優れた耐積層荷重性と耐熱ストレス性を有し、稼動時のクラックや割れの発生を可及的に抑えて寿命を大幅に延長することができ、また本発明の方法を採用すれば、その様な形状特性を備えたセラミックシートを生産性よく製造できる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0055】
なお下記実施例において、有機質粉末および無機質粉末の粒子径は、島津製作所社製のレーザー回折式粒度分布測定装置「SALD−1100」を使用し、試料粉末をメタリン酸水溶液に懸濁させて1分間超音波を当てて分散させてから測定した。
【0056】
実施例1
3モル%イットリア安定化ジルコニア粉末(第一希元素社製商品名「HSY−3.0」)100質量部に対し、メタクリル酸重合体からなるバインダー(平均分子量:40,000、ガラス転移温度:−8℃、固形分濃度:50質量%)固形分量で14質量部、可塑剤としてジブチルフタレート2質量%、分散媒としてトルエン/イソプロピルアルコール(質量比=3/2)の混合溶剤50質量部を、直径5mmのジルコニアボールが装入されたナイロンポットに入れ、臨界速度の60%の約60rpmで40時間混練してスラリーを調製した。このスラリーを濃縮脱泡して粘度を3Pa・s(23℃)に調整し、最後に200メッシュのフィルターに通してからドクターブレード法によりポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗工してグリーンシートを得た。
【0057】
このグリーンシートを使用し、グリーンシート内に含まれる有機物成分の熱分析を行なった。α−アルミナを参照としてサンプル70mgを取り、熱分析装置(MAC SCIENCE社製「TG−DTA2000S」)により、空気を流量5ml/分で流通させ、室温から450℃までの温度域を昇温速度0.2℃/分で昇温してグリーンシート内に含まれる有機物成分を熱分解させ、その減量曲線を求め、10%減量する温度と90%減量する温度を読み取って表1にまとめた。同様に空気を流量20ml/分で流通させ、昇温速度を2℃/分に設定して10%減量する温度と90%減量する温度を読み取り、表1にまとめた。
【0058】
また、このグリーンシートを使用し、グリーンシートの機械的分析による示差膨張を測定して収縮率を算出した。α−アルミナを参照としてサンプル70mgを取り、熱分析装置(MAC SCIENCE社製「TMA4000S」)を用いて、900℃から1500℃まで温度域を昇温速度1.5℃/分で昇温し、脱脂体が焼結されていく時のセラミックシートが、セラミックシート全収縮量に対して10%収縮する温度と90%収縮する温度を読み取って表1にまとめた。同様に、昇温速度を3℃/分に設定して10%減量する温度と90%減量する温度を読み取り、表1にまとめた。
【0059】
このグリーンシートを丸型に切断し、気孔率30%のアルミナスペーサーの間にサンドイッチ状に挟み込み、表2〜6に示す昇温プログラム1〜5に従って1mのスペリオキルンによって各々1800枚焼成し、直径150mmの3モル%イットリア安定化ジルコニアシートを得た。表2〜6に示した昇温プログラムのうち、表2〜4は本発明で定める好ましい昇温条件を満たす実施例、表5,6は好ましい昇温条件を外れる比較例である。
【0060】
各々1800枚のジルコニアシートについて、レーザー光学式非接触三次元形状測定装置(UBM社製商品名「UBM1−14型」マイクロフォーカス エキスパート)を使用し、シート面にレーザー光を照射してその反射光を三次元解析することにより、シートの最大反り高さとシートの最大外径長さ(150mm)に対する反り率を求めた。
【0061】
測定装置の主な仕様は、光源;半導体レーザー(780nm)、スポット径;1μm、垂直分離能;0.01μmであり、スキャン速度は0.1mmとした。結果は表7に示す通りであり、適正な昇温条件である昇温プログラム1〜3を採用したものでは、最大反り高さおよび反り率が何れも小さく、本発明の規定要件を満たしているのに対し、適正な昇温条件を外れる昇温プログラム4,5では、最大反り高さおよび反り率が本発明の規定範囲を超えている。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
【表3】

【0065】
【表4】

【0066】
【表5】

【0067】
【表6】

【0068】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光学式三次元形状測定装置を使用し、シート面にレーザー光を照射してその反射光を三次元解析することにより求められるシートの最大反り高さが300μm以下であり、且つシート最大外径長さに対する反り率が0.2%以下であることを特徴とするセラミックシート。
【請求項2】
平板状固体電解質型燃料電池の電解質膜または電極シートとして使用されるものである請求項1に記載のセラミックシート。

【公開番号】特開2006−104058(P2006−104058A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−365128(P2005−365128)
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【分割の表示】特願2000−61010(P2000−61010)の分割
【原出願日】平成12年3月6日(2000.3.6)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】