説明

セラミックス回路基板およびそれを用いた半導体モジュール

【課題】 セラミックス回路基板における耐ヒートサイクル性を向上させる。
【解決手段】 セラミックス基板11と、セラミックス基板11にろう材Aを介して設けられる回路形成用の金属板Mとを有するセラミックス回路基板10で、金属板Mの端部の側壁における上端部M2と下端部M1を結ぶ線gと、金属板Mの上面MSとのなす角θを95度以上、120度未満に規定する。併せて、ろう材Aを金属板Mの下端部M1より外側にはみ出させて、ろう材はみ出し部A1を形成し、マイグレーション防止膜を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセラミックス回路基板等の技術に関し、特に冷熱サイクルに対する高信頼性が求められるパワー半導体モジュールに有効に適用することができる技術である。
【背景技術】
【0002】
以下に説明する技術は、本発明を完成するに際し、本発明者によって検討されたものであり、その概要は次のとおりである。
【0003】
従来のパワー半導体モジュール等の半導体モジュールは、半導体素子を搭載したセラミックス回路基板を放熱ベースにはんだを介して接合した構成を有している。かかる半導体モジュールは、実際の使用環境下で確実にその動作が保証されるように、耐ヒートサイクル性が求められている。
【0004】
特にセラミックス回路基板では、熱膨張係数がそれぞれ異なるセラミックス基板と回路パターン形成用の金属板とがろう材を介して接合されているため、ヒートサイクル試験では、かかる熱膨張係数の差に基づく応力緩和が十分に働かないと、接合部にクラックが入る等してセラミックス回路基板の破壊が発生し易い。
【0005】
そこで、従来より、かかる耐ヒートサイクル性の向上を目的として、種々の提案がなされている。例えば、特許文献1には、セラミックス基板と回路パターン形成用金属板との接合界面において発生する熱応力が、金属板の側面形状に大きく依存していることに着目して、金属板の低端部と上端部を結ぶ線と、金属板の上辺とのなす角度は120度以上が良いと提案している。
【0006】
特許文献2では、特に金属板の外周部の形状をさらに厳密に規定することでより耐熱性の向上が図れることを見出し、セラミックス基板上に形成された金属板の端部において、端面が金属板の辺縁へ行くにしたがってセラミックス基板側へ近づくように傾斜させること等が提案されている。
【0007】
特許文献3では、金属板とセラミックス基板とを接合するろう材に着目して、ろう材が金属板の縁よりも少なくとも外にはみ出しているように接合することにより、クラックの発生を大幅に減少し得ると提案している。かかるろう材の接合層に関しては、金属板からのはみ出し量が金属板の厚みの0.1倍以上、1.0倍以下で、接合層とセラミックス基板とのなす角が90度以下となるように規定すること等を提案している。
【0008】
一方、特許文献4では、セラミックス基板に設ける回路パターン形成用の金属板表面のメッキ面の粗さが粗いと、半田等の接着材中に多数の空隙が形成され、かかる空隙が原因で半導体素子等の電子部品の作動時の発熱を効率よく逃がすことができず、場合によっては熱破壊等に至るため、金属板表面に設けるニッケルメッキ層の表面粗さを十点平均粗さで10μm以下と規定する提案がなされている。
【特許文献1】特開平11−233903号公報
【特許文献2】特開平11−322455号公報
【特許文献3】特開平10−190176号公報
【特許文献4】特開2001−24296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところがセラミックス回路基板における耐ヒートサイクル性等の向上技術に関しては、未だ以下の課題があり十分と言える解決に至っていない。
【0010】
特許文献1、2に記載の如く、セラミックス基板に接合させる回路パターン形成用金属板の端部を傾斜させ、その傾斜角度を例えば120度以上に設定すると、回路パターン形成時のパターニング精度不良となることが、本発明者の実施で確認された。パターニング精度不良とは、回路パターンの線幅が寸法公差範囲外になることである。線幅が寸法公差の上限を超え広くなると、回路間の絶縁距離が短くなり、回路間の絶縁不良が生じる。他方、回路の線幅が寸法公差の下限以下になると、回路の抵抗が大きくなり回路での発熱が多くなる。そこで、精度不良とならない範囲での角度設定が必要であると考えた。
【0011】
また、特許文献3に提案の如く、セラミックス基板と回路パターン形成用金属板との接合に使用するろう材をはみ出させることは有効ではあるものの、はみ出し部を大きくすることによりこの部分は腐食し易くなり、且つろう材中の金属のマイグレーションの懸念が増大する。すなわち、大きなはみ出し部があると、その個所が腐食され、結果として大きな面積の腐食個所が生じる。また、はみ出し部が大きいと回路間の距離が短くなり、電圧を印加時にろう材中のAgが移動し易くなり、回路間での導通が生じる問題がある。
【0012】
さらに、回路パターン形成用金属板の表面のメッキに関しては、特許文献4では、表面粗さを10μm以下と幅広く規定しているが、実際には10μm以下の広い範囲で一律に有効に使用できるのではないことを、本発明者は見出した。
【0013】
すなわち、本発明者は、従来より提案されているセラミックス回路基板の耐ヒートサイクル性向上に資する種々の技術においても、再度の見直しが必要と考え、より細かく見直すことにより、実効性のある耐ヒートサイクル性の向上が図れるものと考えた。
【0014】
本発明の目的は、回路の線幅が寸法公差以内に入る良好なパターニング性を有して高い工程能力を発揮し、回路間の高い電気絶縁性が確保されている耐ヒートサイクル性に優れたセラミックス回路基板およびこれを用いた半導体モジュールを提供することである。
【0015】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0017】
すなわち、本発明はセラミックス基板と、前記セラミックス基板にろう材を介して設けられる回路形成用の金属板とを有するセラミックス回路基板であって、前記金属板の端部の側壁における前記金属板の上端部と下端部を結ぶ線と、前記金属板の上面とのなす角が、95度以上、120度未満であることを特徴とする。
【0018】
下限を95度以上と規定することで、95度未満では、回路パターン形成用金属板の端部がほぼ鋭角となり電界が集中してスパークし易くなるのを防止することができる。また、ゲル封止時に、95度未満ではかかる角部に空隙が残り易く、封止に際して気泡が内在される虞があるが、95度以上に設定することでかかる問題の回避が図れる。
【0019】
さらに、120度未満と設定することでパターニング性の確保が図れる。かかる精度を測る一つの指標として工程能力指数(Cp値)がある。このCp値は規格幅に対する工程能力の程度を示しており、Cp=(上限値−下限値)/6σ(σ:標準偏差)と、寸法公差/6σで定義される。本発明では、このCp値を1.33以上とすることができパターニング精度が良好であると言える。
【0020】
本発明は、セラミックス基板と、前記セラミックス基板にろう材を介して設けられる回路形成用の金属板とを有するセラミックス回路基板であって、前記金属板の端部の側壁面のメッキ後の面粗さが、1μm以上、8μm以下であることを特徴とする。メッキ後の表面粗さは下地表面の粗さを反映しているものと考えて差し支えないが、1μm以下のメッキ表面の粗さでは、下地表面の粗さも1μm以下となっており、メッキ膜の密着強度確保が十分に行えない虞がある。下地表面の粗さを1μm以上と設定することで、十分なアンカー効果が確保でき、メッキ膜の密着性が確保できる。また、下地表面の粗さを8μm以下に設定しておけば、メッキ後の表面粗さを8μm以下に制御することができ、メッキ表面の粗さの凹凸を少なくして、回路間のスパーク性を低下させることができる。すなわち、メッキ膜の表面粗さが8μm以上であると、突起先端での電界集中が起き易く高電圧が印加されたとき、放電し易くなる。メッキ後の表面粗さを8μm以下とすることでこの点を抑制できる。
【0021】
本発明はセラミックス基板と、前記セラミックス基板にろう材を介して設けられる回路形成用の金属板とを有するセラミックス回路基板であって、前記ろう材の前記金属板の端部よりはみ出して設けられたろう材はみ出し部の表面には、マイグレーション防止膜が設けられていることを特徴とする。かかる構成では、前記ろう材はみ出し部は、はみ出し長さが0.25mm以上、1mm以下であり、はみ出し角度が20度以上、60度以下であることが望ましい。そして前記マイグレーション防止膜は、厚さが2μm以上、10μm以下で、リン濃度が5質量%以上、15質量%以下の無電解Ni-Pメッキであることが望ましい。
【0022】
ろう材はみ出し部のはみ出し長さが、0.25mm未満では、応力の緩和効果が小さく耐ヒートサイクル性が劣り、ろう材はみ出し部とセラミックスとの界面でクラックが発生し1mmを超えると、回路パターン間での電気絶縁性の低下が発生する。そこで、0.25mm以上、1mm以下が好ましいと判断した。さらには、マイグレーション防止膜をはみ出し部の表面に設けることで、例えば、ろう材中のAgのマイグレーションを効果的に防止することができる。マイグレーション防止膜としては、例えば、回路パターン形成用金属板の表面のNi-Pメッキを利用すれば、別種のメッキ膜を形成する場合と比べて格段に低コストでマイグレーション防止が図れる。Ni-Pメッキに代えてAuメッキで実施することも出来る。
【0023】
本発明の半導体モジュールは、上記いずれかの構成を有するセラミックス回路基板と、前記セラミックス回路基板の前記回路形成用の金属板上の搭載部に搭載された半導体素子と、前記セラミックス回路基板を搭載する放熱ベースと、を有することを特徴とする。セラミックス回路基板と放熱ベースとは、例えば、はんだを介して接合しておけばよい。かかる構成を採用することで、半導体モジュールの冷熱サイクルの耐性を向上させて、放熱効果を確保することができる。
【発明の効果】
【0024】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0025】
本発明を採用することで、耐ヒートサイクル性の向上したセラミックス回路基板を提供することができる。併せて、かかるセラミックス回路基板を用いることで、半導体モジュールの耐ヒートサイクル性を向上させることができる。
【0026】
本発明を採用することで、耐ヒートサイクル性を向上させると共に、ろう材からのAgマイグレーションを防止することができる。
【0027】
本発明を採用することで、回路の線幅が寸法公差以内に入る良好なパターニング性を有し高い工程能力を有したものとなり、回路間の高い電気絶縁性が確保される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0029】
図1は、本発明に係るセラミックス回路基板の全体構成を示す断面説明図である。図2はセラミックス回路基板における金属板の端部の様子を詳細に示す部分断面説明図である。
【0030】
本発明に係るセラミックス回路基板10は、図1に示すように、絶縁層として機能するセラミックス基板11と、セラミックス基板11の一方の面にろう材Aを介して接合された回路パターン形成用金属板12と、セラミックス基板11の他方の面にろう材Aを介して接合された放熱用金属板13とを有している。
【0031】
セラミックス基板11は、例えば、窒化珪素板(Si3N4板)11aに構成されている。セラミックス基板11の板厚は、例えば、実用的範囲として、0.2m以上、1mm以下に設定しておけばよい。
【0032】
回路パターン形成用金属板12は、例えば、Cu板12aに構成されている。回路パターン形成用金属板12の板厚は、例えば、実用的範囲としては、0.3mm以上、2mm以下に設定しておけばよい。尚、図1に示す場合には、回路パターン形成用金属板12は、エッチング処理により、回路パターンPが形成されている場合を示している。
【0033】
放熱用金属板13は、例えば、Cu板13aに構成されている。放熱用金属板13の板厚は、例えば、実用的範囲としては、0.3mm以上、2mm以下に設定されている。
【0034】
セラミックス基板11と回路パターン形成用金属板12、放熱用金属板13をそれぞれ接合するろう材Aには、例えば、Ag-Cu-Ti系の活性ろう材が使用されている。さらにInおよびSnなどの低融点金属を含有したAg-Cu-In-TiおよびAg-Cu-Sn-Ti系ろう材を用いた場合には、接合処理温度を低下させることができ、接合処理後のセラミックス回路基板の接合構造において、セラミックス基板への負荷応力を低減することができるので望ましい。
【0035】
かかる構成のセラミックス回路基板10における回路パターン形成用金属板12あるいは放熱用金属板13の端部の様子を、図2に拡大して示した。図2に示すように、回路パターン形成用金属板12あるいは放熱用金属板13と、セラミックス基板11とは、ろう材Aにより所定の態様で接合されている。
【0036】
以下の説明では、回路パターン形成用金属板12あるいは放熱用金属板13を、説明を簡単にするため、金属板Mで示すこととする。
【0037】
金属板Mの端部におけるろう材Aと接する下端部M1と、図2に示すように、上端部M2とを結ぶ線gと、金属板Mの上面MSとの成す角θは、95度以上、120度未満に設定されている。金属板Mの端部では、上記θが95度以上、120度未満となるように、金属板傾斜部MKの斜面が設けられている。かかる斜面の傾斜は、必ずしも線gに沿った傾斜でなくてもよく、図2に示すように、下端部M1と上端部M2とを結ぶ線が上記θを満たせばよく、内側に円弧状に窪んだ傾斜となっても構わない。
【0038】
かかる構成を採用することで、耐ヒートサイクル性の向上を図りつつ、回路パターン形成用金属板12のエッチング処理による寸法精度、すなわち工程能力Cpの値を1.33以上に確保することができる。
【0039】
図3に示すように、実施例1〜10までは、回路パターン形成用金属板12としてのCu板12aの厚さを0.3mm、0.6mm、1.5mmに設定し、θを95度以上、120度未満に設定した場合には、工程能力Cpが全て1.33以上で、良好な寸法精度を確保している状況が確認される。尚、上辺2寸法は金属板12の上辺をとっており、工程能力Cpとは前述したように規格幅に対する工程能力の程度を示すものである。この値Cpが1.33以上であればパターニング性が向上し歩留まりが99.7%以上を達成して生産効率も上がる。
【0040】
また、セラミックス回路基板を半導体モジュールとして構成する際には、搭載した半導体素子を含むインバータ回路を、シリコンゲルにより覆い、いわゆるゲル封止を行う。この際に金属板傾斜部MKの斜面が重要となる。ゲル封止の際にこの斜面部に気泡が内在されると気泡で熱伝導が低下し、熱の拡散が悪くなり発熱の問題が生じるからである。これらの点で上記θでは、ゲル封止に際して気泡が内在されないことも確認された。
【0041】
一方、比較例1〜6に見られるように、回路パターン形成用金属板12としてのCu板12aの厚さを0.3mm、0.6mm、1.5mmに設定しても、θを上記95度以上、120度未満の範囲外に設定した場合には、寸法精度あるいは気泡内在のいずれかが不良となることが分かる。
【0042】
また、ろう材Aは、図2に示すように、金属板Mの下端部M1よりも外側にはみ出している。ろう材はみ出し部A1のはみ出し長さLは、セラミックス基板11上を、金属板Mの下端部M1よりも0.25mm以上、1mmの範囲内ではみ出している。
【0043】
また、ろう材はみ出し部A1のセラミックス基板11に接する下端A2を通る、A1の接線を結んだ線hとセラミックス基板11の上面11Sとの成すはみ出し角度(α)が20度以上、60度以下に設定されている。
【0044】
かかる構成のろう材はみ出し部A1上には、図示はしないがマイグレーション防止膜が設けられている。かかるマイグレーション防止膜として、例えば、ろう材A中のAgのマイグレーションを防止するために、メッキ膜を設けておけばよい。ろう材はみ出し部A1を、上記はみ出し角度α、はみ出し長さLで設定することにより、ろう材はみ出し部A1のはみ出し表面が大きく形成されるため、かかるマイグレーション防止膜を、本発明で初めて設けることとした。
【0045】
図4にはみ出し角度αとはみ出し部のはみ出し長さLを変えたときの実施例と比較例を示す。実施例11〜15のようにはみ出し角度αが20〜60°、はみ出し長さLが0.25〜1mmではヒートサイクル試験後のクラックは無く、かつ基板間の放電も無かった。一方、比較例7、9、10のようにはみ出し角度が規定範囲内でも、Lが0.2mm以下であるとヒートサイクル後のクラックが発生する。また、比較例8、12のように、Lが1mm以上ではクラックの発生は無いが、基板間の放電が発生することが分かった。また、比較例11に示すようにはみ出し角度が60°以上であるとクラックが発生した。
【0046】
ところで、かかるマイグレーション防止膜としては、簡単には、エッチング処理により回路パターン形成用金属板12に回路パターンPを形成した後に設けるメッキ膜と同じ膜で構わない。すなわち、回路パターン形成用金属板12にメッキ膜を設ける際に、回路パターン形成用金属板12の上面から、金属板傾斜部MKを経て、ろう材はみ出し部A1にまで、メッキが及ぶようにしてかかるマイグレーション防止膜を形成すればよい。但し、かかるメッキ膜がマイグレーション防止膜として機能するためには、ろう材はみ出し部A1における膜厚は、2μm以上、10μm以下に設定する必要がある。
【0047】
かかるメッキ膜としては、例えば、リン濃度が5質量%以上、15質量%以下の無電解Ni-Pメッキ膜が考えられる。他には、Auメッキ膜、Pdメッキ膜、Crメッキ膜などが考えられる。
【0048】
また、かかるメッキ膜に関しては、金属板傾斜部MKでのメッキ表面の面粗さが、1μm以上、8μm以下に設定されている。かかる面粗さに設定しておくことで、例えば、溝状の回路パターンPの断面において、相対する金属板傾斜部MK間での放電の防止、メッキ膜剥がれを効果的に防止することができる。かかる面粗さは、例えば、超深度形状測定顕微鏡(KEYENCE VK-8510 レーザー顕微鏡)を使用し、メッキ後の回路パターン形成用金属板の回路パターンPに現れた金属板Mの金属板傾斜部MKと金属板Mの上面MSの面粗さ(最大粗さRmax)を測定して行った。
【0049】
この結果より、面粗さが8μmより大きいと、メッキ表面の凹凸が比較的粗くなり、ゲル封入時にゲルは粘性が高いので凹凸間に入り難く、その個所に気泡が多く発生する。その結果、熱放散性を低下させる。また、突起部に電界が集中して放電現象を起こし易くなる。
【0050】
他方、1μm以下では、メッキの下地表面の面粗さが1μm以下となっており、メッキ膜の密着性に関わるアンカー効果が十分に得られず、メッキ剥がれを起こし易くなる。
【0051】
かかる面粗さに関しては、図5にその効果を示した。すなわち、実施例16〜24までは、回路パターン形成用金属板12としてのCu板12aの厚さを0.3mm、0.6mm、1.2mm、1.5mmに設定し、θを95度以上、120度未満に設定して工程能力Cpが全て1.33以上になるようにした状態で、金属板傾斜部MKの面粗さを1μm以上、8μm以下に設定すると、メッキ膜の剥がれ、放電が発生しないことが分かる。因みに、メッキ膜の厚さは、2μm以上、10μm以下に設定した。
【0052】
一方、比較例13〜18に見られるように、回路パターン形成用金属板12としてのCu板12aの厚さを0.3mm、0.6mm、1.5mmに設定し、θを95度以上、120度未満に設定して工程能力Cpが全て1.33以上になるようにした状態でも、金属板傾斜部MKの面粗さを1μm以上、8μm以下の範囲外に設定するか、あるいはメッキ厚を2μm以上、10μm以下の範囲外に設定すると、メッキ膜の剥がれ、あるいは放電のいずれかが少なくとも発生することが確認された。
【0053】
金属傾斜部MKの面粗さが1μm以下では、メッキ膜が剥れ易く、10μm以上では、ゲル封入時に、ゲルが面の凹凸部に入りにくくなり、気泡ができやすく熱放散性を低下させる。またメッキ膜厚が10μm以上になると、膜応力が大きくなり剥れやすくなることが分かった。
【0054】
上記説明では、回路パターン形成用金属板12としてCu板12a、放熱用金属板13としてCu板13aをそれぞれ用いた場合を示したが、Cu合金板を用いても一向に構わない。Cu合金板としては、例えば、Cu-Mo合金を一例として挙げることができる。
【0055】
すなわち、回路パターン形成用金属板12と放熱用金属板13の双方にCu-Mo合金板を使用しても、あるいは、回路パターン形成用金属板12と放熱用金属板13のいずれか一方にCu-Mo合金板を使用し、他方にCu板を用いても構わない。
【0056】
かかる構成のセラミックス回路基板10を用いて構成した半導体モジュール100は、図6に示すように、セラミックス回路基板10を構成する回路パターン形成用金属板12の素子搭載部に半導体素子30が1番はんだ41を介して接合されている。半導体素子30は、回路パターン形成用金属板12に、金線31a等のワイヤー31でワイヤーボンディングされて電気的接続が形成されている。
【0057】
このように上に半導体素子30が搭載された回路パターン形成用金属板12を有するセラミックス回路基板10は、その放熱用金属板13が2番はんだ42を介して、放熱ベース20に接合されている。放熱ベース20には、ねじ止め用のねじ孔21が設けられている。
【0058】
2番はんだ42は、例えば、リフロー処理で行われる。リフロー処理で使用する2番はんだとしては、例えば、Sn-Pb系はんだ、あるいはSn-Ag-Cu系またはSn-Sb系のPbフリーはんだが使用されている。勿論、それ以外の組成のはんだを使用しても構わないが、かかる構成のはんだを用いると、よりセラミックス回路基板10と放熱ベース20との接合剥離を発生させない構成とすることができる。
【0059】
図6に示す構成では、例えは、セラミックス基板11は、0.3mm板厚の窒化珪素板11aに構成しているが、これを板厚0.6mmの窒化アルミニウム板に構成しても構わない。また、回路パターン形成用金属板12を板厚0.4mmのCu板12aに、放熱用金属板13は板厚0.2mmのCu板13aにそれぞれ構成しても構わない。窒化アルミニウム板に構成したセラミックス基板11と、回路パターン形成用金属板12、放熱用金属板13は、それぞれ図示はしないがろう材Aにより接合されている。
【0060】
以上に説明の本発明に係るセラミックス回路基板10の製造は、図7に模式的に示す手順で行う。すなわち、セラミックス回路基板10の構成原料、溶媒、分散材をステップS100でボールミル混合、粉砕する。混合、粉砕した原料に、バインダー、可塑剤を添加、混練し、スラリー粘度が所定の値になるように調整した後、ステップS200で、ドクターブレードで所定板厚でシート成形する。ステップS300で、成形後、さらに脱脂したシートを焼結炉内で1900℃の窒素雰囲気で焼結してセラミックス基板11として使用する窒化珪素板11aを焼結形成する。
【0061】
その後、ステップS400で、セラミックス基板11の一方の面にスクリーン印刷で形成したろう材を介して回路パターン形成用金属板12としてのCu板12aを、他方の面にろう材を介して放熱用金属板13としてのCu板13aをそれぞれ接合する。その後、ステップS500で、セラミックス基板11上の回路パターン形成用金属板12をエッチング処理して回路パターンを形成する。ステップS600で回路パターン形成後の回路パターン形成用金属板12上にメッキを施し、セラミックス回路基板10が製造される。
【0062】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明はセラミックス回路基板、及びそれを使用した半導体モジュールの分野で、耐ヒートサイクル性の向上に有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の一実施の形態であるセラミックス回路基板の全体構成を示す断面説明図である。
【図2】本発明の一実施の形態であるセラミックス回路基板における金属板端部の接合状況を詳細に示す部分断面説明図である。
【図3】寸法精度における本発明の有効性を表形式で示す説明図である。
【図4】ろう材のはみ出し角度等の規定の有効性を表形式で示す説明図である。
【図5】メッキ膜剥がれ、放電等における本発明の有効性を表形式で示す説明図である。
【図6】本発明の一実施の形態である半導体モジュールの全体構成を示す断面説明図である。
【図7】本発明に係るセラミックス回路基板の製造手順を模式的に示すフロー図である。
【符号の説明】
【0065】
10 セラミックス回路基板
11 セラミックス基板
11a 窒化珪素板
11S 上面
12 回路パターン形成用金属板
12a Cu板
13 放熱用金属板
13a Cu板
20 放熱ベース
20a Cu板
21 ねじ孔
30 半導体素子
31 ワイヤー
31a 金線
41 1番はんだ
42 2番はんだ
100 半導体モジュール
A ろう材
A1 ろう材はみ出し部
A2 下端
g 線
h 線
L はみ出し長さ
M 金属板
M1 下端部
M2 上端部
MK 金属板傾斜部
MS 上面
α はみ出し角度
θ 角
P 回路パターン
S100、S200、S300、S400、S500、S600 ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板と、前記セラミックス基板にろう材を介して設けられる回路形成用の金属板とを有するセラミックス回路基板であって、
前記金属板の端部の側壁における前記金属板の上端部と下端部を結ぶ線と、前記金属板の上面とのなす角が、95度以上、120度未満であることを特徴とするセラミックス回路基板。
【請求項2】
セラミックス基板と、前記セラミックス基板にろう材を介して設けられる回路形成用の金属板とを有するセラミックス回路基板であって、
前記金属板の端部の側壁面のメッキ後の面粗さが、1μm以上、8μm以下であることを特徴とするセラミックス回路基板。
【請求項3】
セラミックス基板と、前記セラミックス基板にろう材を介して設けられる回路形成用の金属板とを有するセラミックス回路基板であって、
前記ろう材の前記金属板の端部よりはみ出して設けられたろう材はみ出し部の表面には、マイグレーション防止膜が設けられていることを特徴とするセラミックス回路基板。
【請求項4】
請求項3記載のセラミックス回路基板において、
前記ろう材はみ出し部は、はみ出し長さが0.25mm以上、1mm以下であり、
はみ出し角度が20度以上、60度以下であることを特徴とするセラミックス回路基板。
【請求項5】
請求項3または4に記載のセラミックス回路基板において、
前記マイグレーション防止膜は、厚さが2μm以上、10μm以下で、リン濃度が5質量%以上、15質量%以下の無電解Ni-Pメッキであることを特徴とするセラミックス回路基板。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板と、
前記セラミックス回路基板の前記回路形成用の金属板上の搭載部に搭載された半導体素子と、
前記セラミックス回路基板を搭載する放熱ベースと、
を有することを特徴とする半導体モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−228918(P2006−228918A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−40055(P2005−40055)
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】