説明

セラミックス焼成体の製造方法

【課題】本発明は、ハニカム形状などの成形体形状を損なうことなく、焼成時の線収縮率(焼成収縮率)が大きい焼成体を製造しうる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、成形体を焼成する工程を含むセラミックス焼成体の製造方法であって、成形体の寸法に対する焼成体の寸法の線収縮率(線収縮率(%)=(成形体の寸法−焼成体の寸法)/(成形体の寸法)×100)が1%以上であり、成形体は、高熱伝導率セラミックスからなる敷物上に配置した状態で焼成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス焼成体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスは、その構成する元素によって種々のものが知られている。中でも、チタン酸アルミニウム系セラミックスは、構成元素としてチタンおよびアルミニウムを含み、X線回折スペクトルにおいて、チタン酸アルミニウムの結晶パターンを有するセラミックスであって、耐熱性、低熱膨張性に優れたセラミックスとして知られている。チタン酸アルミニウム系セラミックスは、従来からルツボのような焼結用の冶具などとして用いられてきたが、近年では、ディーゼルエンジンなどの内燃機関から排出される排ガスに含まれる微細なカーボン粒子を捕集するためのセラミックスフィルターを構成する材料として、産業上の利用価値が高まっている。
【0003】
チタン酸アルミニウム系セラミックスの製造方法としては、チタニアなどのチタニウム源化合物の粉末(以下において、チタニウム源粉末ということがある)およびアルミナなどのアルミニウム源化合物の粉末(以下において、アルミニウム源粉末ということがある)を含む原料混合物を焼成する方法が知られている(特許文献1)。
【0004】
しかし、チタン酸アルミニウムは、これをアルミニウム源粉末およびチタニウム源粉末を含む原料粉末または該原料粉末の成形体を焼成することにより調製する場合、焼成時に大きく収縮する、すなわち、焼成収縮率が高いという課題を有していた。焼成収縮率が高いと、焼成時に割れが発生しやすくなる。
【0005】
かかる課題を解決すべく、特許文献2には、特定の粒径分布特性を示すチタニア粉末、およびアルミナ粉末を含有する原料混合物をハニカム形状に成形し、該成形体を焼成することによりチタン酸アルミニウム質セラミックハニカム構造体を製造する方法が開示されている。
【0006】
また、一般にセラミックス焼成体の製造においては、上記のように焼成時に発生する割れを防止するための種々の方法が検討されている(たとえば、特許文献3など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第05/105704号パンフレット
【特許文献2】国際公開第08/078747号パンフレット
【特許文献3】特開2002−249384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方、チタン酸アルミニウム系セラミックスからなる焼成体を、たとえば上記セラミックスフィルターに適用する場合、フィルター性能(排ガス処理能力、高すす堆積能力、圧力損失等)向上の観点から、これを構成するチタン酸アルミニウム系焼成体には、多孔性に優れる(大きい細孔径および開気孔率を有する)ことが要求される。また、チタン酸アルミニウム系セラミックスからなる多孔質セラミックス成形体を、上記セラミックスフィルター、特には、ディーゼルエンジンの排ガスフィルター(ディーゼル微粒子フィルター;Diesel Particulate Filter、以下DPFとも称する)に適用する場合、該成形体には、適切に制御された細孔特性を有することが求められる。
【0009】
このようなフィルターは、図2の模式図に示すようなセラミックスハニカム構造体20を含む。図2に示すセラミックスハニカム構造体20は、複数の流路を形成する隔壁4と外周壁3とからなるハニカム形状を有し、複数の流路は互い違いに封止部7aにより封止されている。図2のIII−IIIに沿った断面図を図3に示す。上記セラミックスハニカム構造体20は、上流側が封止部7aにより封止された流路6と下流側が封止部7bにより封止された流路5とが交互に配置された構造を有する。図2および図3に示すように、セラミックスハニカム構造体の全体にわたりハニカム形状が正確に形成されていることで、フィルター性能がより高いものとなる。
【0010】
上記課題に鑑み、本発明の目的は、ハニカム形状などの成形体形状を損なうことなく、焼成時の線収縮率(焼成収縮率)が大きい焼成体を製造しうる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、セラミックス焼成体の製造方法に関し、成形体を焼成する工程を含むセラミックス焼成体の製造方法であって、成形体の寸法に対する焼成体の寸法の線収縮率(線収縮率(%)=(成形体の寸法−焼成体の寸法)/(成形体の寸法)×100)が1%以上であり、成形体を、高熱伝導率セラミックスからなる敷物上に配置した状態で焼成することを特徴とする。
【0012】
上記高熱伝導率セラミックスは、常温における熱伝導率が50W/m・K以上であることが好ましい。また、上記高熱伝導率セラミックスは窒化アルミニウムまたは炭化ケイ素を含むことが好ましい。
【0013】
上記成形体は、敷物上に配置される面の断面積が7850mm2以上であり、高さが50mm以上であっても、本発明の方法により焼成体を製造することができる。
【0014】
本発明の製造方法は、上記成形体を構成する原料中に有機物を質量比で10%以上含む場合に好適である。
【0015】
上記成形体の形状としては、たとえばハニカム形状とすることができる。上記成形体は、敷物上に配置される面に平行な断面における開口率が40%以上80%以下であり、隔壁の厚みが0.1mm以上1mm以下であることが好ましい。
【0016】
本発明の製造方法には、上記成形体は、アルミニウム源粉末およびチタニウム源粉末を含み、成形体は焼成によりチタン酸アルミニウム組成物を形成する態様が含まれる。
【0017】
また、本発明の製造方法には、上記成形体は、アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、およびマグネシウム源粉末を含み、成形体は焼成によりチタン酸アルミニウムマグネシウム組成物を形成する態様が含まれる。
【0018】
さらに、本発明の製造方法には、上記成形体は、アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末、およびケイ素源粉末を含み、成形体は焼成によりチタン酸アルミニウムマグネシウム組成物を形成する態様が含まれる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の製造方法によれば、大きな収縮率を有する成形体を製造する際に、割れを低減または防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】焼成工程における成形体の配置の一例を示す模式図である。
【図2】セラミックスハニカム構造体の一例を示す模式図である。
【図3】図2のIII−IIIに沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。なお、以下の実施の形態の説明では、図面を用いて説明しているが、本願の図面において同一の参照符号を付したものは、同一部分または相当部分を示している。また、本発明は図面に示される形態に限定されるものではない。
【0022】
<セラミックス焼成体の製造方法>
本発明におけるセラミックス焼成体は、成形体を焼成する工程(以下において焼成工程ということがある)を含むセラミックス焼成体の製造方法により製造される。本発明の製造方法には、後述のように、焼成工程の前に施される脱脂工程などの他の工程を含んでもよい。本発明において成形体とは、未焼成のセラミックス成形体をいい、成形後の乾燥工程や脱脂工程の後においても成形体に含まれる。
【0023】
図1は上記焼成工程における成形体の配置の一例を示す模式図である。本発明のセラミックス焼成体の製造方法は、図1に示すように、成形体10を、敷物1上に配置した状態で焼成する。本発明において上記敷物1が高熱伝導率セラミックスであることを特徴とする。敷物1は、少なくとも成形体10の底面積と同等するか、該底面積よりも大きいものとする。成形体10の底面全体を敷物が覆う大きさとすることで、焼成の際の熱伝導の効率を向上させることができる。
【0024】
敷物1は、図1に示すようにスペーサー2上に配置することが好ましい。スペーサーを用いることで、炉内底面からの輻射熱を利用し、成形体全体により効率よく熱を伝播させることができる。また、敷物1と成形体10との間に台座(不図示)を設けてもよい。台座としては、成形体と同様のハニカム形状である未焼成のセラミックスからなる生台座や、該生台座を焼成した焼台座などを用いることができる。
【0025】
<高熱伝導率セラミックス>
上記敷物を構成する上記高熱伝導率セラミックスとしては、上記成形体よりも常温における熱伝導率が高いものが好ましく、具体的には常温における熱伝導率が50W/m・K以上であることが好ましい。高熱伝導率セラミックスの常温における熱伝導率は75W/m・K以上であることがより好ましく、さらに好ましくは100W/m・K以上である。熱伝導率はより高いほうが焼成体において割れを発生させない点で好ましい。
【0026】
上記熱伝導率はたとえば、JIS規格のA1412やASTM−C518などに規定される測定法に準拠して測定することができる。
【0027】
高熱伝導率セラミックスとしては、窒化アルミニウム(AlN)または炭化ケイ素(SiC)を含むことがことが望ましい。これらのセラミックスの場合、上記熱伝導率を満たすものの入手が容易である。本発明における高熱伝導率セラミックスとしては、その他、窒化ケイ素(Si34)などのセラミックスであって、上記のような熱伝導率を満たすものを用いてもよい。
【0028】
上記敷物は、高熱伝導率セラミックスを含む材料により形成されていればよいが、敷物全体を1種または2種以上の高熱伝導率セラミックスにより構成することが望ましい。敷物全体の熱伝導率が上記のように高い場合は、焼成の際に成形体に係る熱応力を緩和することができる。
【0029】
上記高熱伝導率セラミックスを含む敷物は、市販の板材を所望の大きさに切り出すなどして得られる板状のものや、コウ鉢や箱サヤなどを用いることができる。また、本発明において上記敷物は成形体が配置される表面が高熱伝導率セラミックスで形成されていれば、たとえば常温での熱伝導率が20W/m・K以下の低熱伝導率のセラミックスや、従来用いられるムライトからなる敷板との積層構造を有するものであってもよい。
【0030】
<原料粉末>
本発明における焼成体は、たとえば、アルミニウム源粉末およびチタニウム源粉末などの原料粉末を含む原料混合物の成形体を焼成することにより製造することができる。上記原料混合物にはマグネシウム源粉末やケイ素源粉末を含んでもよい。原料粉末にアルミニウム源粉末およびチタニウム源粉末を含む場合は、焼成によりチタン酸アルミニウム組成物が形成される。原料粉末にアルミニウム源粉末、チタニウム源粉末およびマグネシウム源粉末を含む場合、またはさらにケイ素源粉末を含む場合は、焼成によりチタン酸アルミニウムマグネシウム組成物が形成される。本発明において、少なくともアルミニウム源粉末およびチタニウム源粉末を原料粉末に含む原料混合物を焼成することにより形成される組成物をチタン酸アルミニウム系焼成体という。このような原料混合物を用いて得られるチタン酸アルミニウム系焼成体は、チタン酸アルミニウム系結晶からなる焼成体である。
【0031】
本発明において用いられる原料混合物に含有されるアルミニウム源粉末は、チタン酸アルミニウム系焼成体を構成するアルミニウム成分となる化合物の粉末である。アルミニウム源粉末としては、たとえば、アルミナ(酸化アルミニウム)の粉末が挙げられる。アルミナの結晶型としては、α型、γ型、δ型、θ型、などが挙げられ、不定形(アモルファス)であってもよい。なかでも、α型のアルミナが好ましく用いられる。
【0032】
上記アルミニウム源粉末は、単独で空気中で焼成することによりアルミナに導かれる化合物の粉末であってもよい。かかる化合物としては、たとえばアルミニウム塩、アルミニウムアルコキシド、水酸化アルミニウム、金属アルミニウムなどが挙げられる。
【0033】
アルミニウム塩は、無機酸との無機塩であってもよいし、有機酸との有機塩であってもよい。アルミニウム無機塩として具体的には、たとえば、硝酸アルミニウム、硝酸アンモニウムアルミニウムなどのアルミニウム硝酸塩;炭酸アンモニウムアルミニウムなどのアルミニウム炭酸塩などが挙げられる。アルミニウム有機塩としては、たとえば、蓚酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウムなどが挙げられる。
【0034】
また、アルミニウムアルコキシドとして具体的には、たとえば、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムsec−ブトキシド、アルミニウムtert−ブトキシドなどが挙げられる。
【0035】
水酸化アルミニウムとしては、種々の結晶型のものを用いることができ、具体的な結晶型としては、たとえば、ギブサイト型、バイヤライト型、ノロソトランダイト型、ベーマイト型、擬ベーマイト型などが挙げられ、不定形(アモルファス)であってもよい。アモルファスの水酸化アルミニウムとしては、たとえば、アルミニウム塩、アルミニウムアルコキシドなどのような水溶性アルミニウム化合物の水溶液を加水分解して得られるアルミニウム加水分解物も挙げられる。
【0036】
本発明において、アルミニウム源粉末としては、1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0037】
上記のなかでも、アルミニウム源粉末としては、アルミナ粉末が好ましく用いられ、より好ましくは、α型のアルミナ粉末である。なお、アルミニウム源粉末は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0038】
上記アルミニウム源粉末としては、市販品をそのまま用いることもできるし、あるいは、市販品のアルミニウム源粉末に対して、たとえば次のような処理を施して所望の粒径分布を満たすアルミニウム源粉末を用いてもよい。
(a)市販品のアルミニウム源粉末を、篩い分け等により分級する。
(b)市販品のアルミニウム源粉末を、造粒機等を用いて造粒する。
【0039】
ここで、本発明においては、使用するアルミニウム源粉末の、レーザ回折法により測定される体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)は、20μm以上、60μm以下の範囲内であることが好ましい。アルミニウム源粉末のD50がこの範囲を満たす粉末を用いる場合は、優れた多孔性を示すチタン酸アルミニウム系焼成体が得られる。アルミニウム源粉末のD50は、より好ましくは30μm以上、60μm以下である。
【0040】
上記原料混合物に含有されるチタニウム源粉末は、チタン酸アルミニウム系焼成体を構成するチタン成分となる化合物の粉末であり、かかる化合物としては、たとえば酸化チタンの粉末が挙げられる。酸化チタンとしては、たとえば、酸化チタン(IV)、酸化チタン(III)、酸化チタン(II)などが挙げられ、酸化チタン(IV)が好ましく用いられる。酸化チタン(IV)の結晶型としては、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型などが挙げられ、不定形(アモルファス)であってもよい。より好ましくは、アナターゼ型、ルチル型の酸化チタン(IV)である。
【0041】
本発明で用いられるチタニウム源粉末は、単独で空気中で焼成することによりチタニア(酸化チタン)に導かれる化合物の粉末であってもよい。かかる化合物としては、たとえば、チタニウム塩、チタニウムアルコキシド、水酸化チタニウム、窒化チタン、硫化チタン、金属チタンなどが挙げられる。
【0042】
チタニウム塩として具体的には、三塩化チタン、四塩化チタン、硫化チタン(IV)、硫化チタン(VI)、硫酸チタン(IV)などが挙げられる。チタニウムアルコキシドとして具体的には、チタン(IV)エトキシド、チタン(IV)メトキシド、チタン(IV)t−ブトキシド、チタン(IV)イソブトキシド、チタン(IV)n−プロポキシド、チタン(IV)テトライソプロポキシド、および、これらのキレート化物などが挙げられる。
【0043】
本発明において、チタニウム源粉末としては、1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0044】
上記のなかでも、チタニウム源粉末としては、酸化チタン粉末が好ましく用いられ、より好ましくは、酸化チタン(IV)粉末である。なお、チタニウム源粉末は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0045】
チタニウム源粉末の粒径は、特に限定されないが、通常、レーザ回折法により測定される、体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)が0.1〜25μmの範囲内であるものが用いられ、十分に低い焼成収縮率の達成のためには、D50が1〜20μmの範囲内であるチタニウム源粉末を用いることが好ましい。なお、チタニウム源粉末は、バイモーダルな粒径分布を示すことがあるが、このようなバイモーダルな粒径分布を示すチタニウム源粉末を用いる場合においては、レーザ回折法により測定される、粒径が大きい方のピークを形成する粒子の粒径は、好ましくは20〜50μmの範囲内である。
【0046】
また、レーザ回折法により測定されるチタニウム源粉末のモード径は、特に限定されないが、0.1〜60μmの範囲内であるものを用いることができる。
【0047】
本発明においては、上記原料混合物中におけるAl23(アルミナ)換算でのアルミニウム源粉末とTiO2(チタニア)換算でのチタニウム源粉末とのモル比は、35:65〜45:55の範囲内とすることが好ましく、より好ましくは40:60〜45:55の範囲内である。このような範囲内で、チタニウム源粉末をアルミニウム源粉末に対して過剰に用いることにより、原料混合物の成形体の焼成収縮率をより効果的に低減させることが可能となる。
【0048】
また、上記原料混合物は、マグネシウム源粉末を含有していてもよい。原料混合物がマグネシウム源粉末を含む場合、得られるチタン酸アルミニウム系焼成体は、チタン酸アルミニウムマグネシウム結晶からなる焼成体である。マグネシウム源粉末としては、マグネシア(酸化マグネシウム)の粉末のほか、単独で空気中で焼成することによりマグネシアに導かれる化合物の粉末が挙げられる。後者の例としては、たとえば、マグネシウム塩、マグネシウムアルコキシド、水酸化マグネシウム、窒化マグネシウム、金属マグネシウムなどが挙げられる。
【0049】
マグネシウム塩として具体的には、塩化マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、ピロリン酸マグネシウム、蓚酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、サリチル酸マグネシウム、ミリスチン酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、ジメタクリル酸マグネシウム、安息香酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0050】
マグネシウムアルコキシドとして具体的には、マグネシウムメトキシド、マグネシウムエトキシドなどが挙げられる。なお、マグネシウム源粉末は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0051】
マグネシウム源粉末として、マグネシウム源とアルミニウム源とを兼ねた化合物の粉末を用いることもできる。このような化合物としては、たとえば、マグネシアスピネル(MgAl24)が挙げられる。なお、マグネシウム源粉末として、マグネシウム源とアルミニウム源とを兼ねた化合物の粉末を用いる場合、アルミニウム源粉末のAl23(アルミナ)換算量、および、マグネシウム源とアルミニウム源とを兼ねた化合物粉末に含まれるAl成分のAl23(アルミナ)換算量の合計量と、チタニウム源粉末のTiO2(チタニア)換算量とのモル比が、原料混合物中において上記範囲内となるように調整される。
【0052】
本発明において、マグネシウム源粉末としては、1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0053】
マグネシウム源粉末の粒径は、特に限定されないが、通常、レーザ回折法により測定される、体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)が0.5〜30μmの範囲内であるものが用いられ、原料混合物成形体の焼成収縮率低減の観点からは、D50が3〜20μmの範囲内であるマグネシウム源粉末を用いることが好ましい。
【0054】
原料混合物中におけるMgO(マグネシア)換算でのマグネシウム源粉末の含有量は、Al23(アルミナ)換算でのアルミニウム源粉末とTiO2(チタニア)換算でのチタニウム源粉末との合計量に対して、モル比で、0.03〜0.15とすることが好ましく、より好ましくは0.03〜0.12である。マグネシウム源粉末の含有量をこの範囲内に調整することにより、耐熱性がより向上された、大きい細孔径および開気孔率を有するチタン酸アルミニウム系焼成体を比較的容易に得ることができる。
【0055】
また、上記原料混合物は、ケイ素源粉末をさらに含有していてもよい。ケイ素源粉末は、シリコン成分となってチタン酸アルミニウム系焼成体に含まれる化合物の粉末であり、ケイ素源粉末の併用により、耐熱性がより向上されたチタン酸アルミニウム系焼成体を得ることが可能となる。ケイ素源粉末としては、たとえば、二酸化ケイ素、一酸化ケイ素などの酸化ケイ素(シリカ)の粉末が挙げられる。
【0056】
また、ケイ素源粉末は、単独で空気中で焼成することによりシリカに導かれる化合物の粉末であってもよい。かかる化合物としては、たとえば、ケイ酸、炭化ケイ素、窒化ケイ素、硫化ケイ素、四塩化ケイ素、酢酸ケイ素、ケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸ナトリウム、長石、ガラスフリットなどが挙げられる。なかでも、長石、ガラスフリットなどが好ましく用いられ、工業的に入手が容易であり、組成が安定している点で、ガラスフリットなどがより好ましく用いられる。なお、ガラスフリットとは、ガラスを粉砕して得られるフレークまたは粉末状のガラスをいう。ケイ素源粉末として、長石とガラスフリットとの混合物からなる粉末を用いることも好ましい。
【0057】
ガラスフリットを用いる場合、得られるチタン酸アルミニウム系焼成体の耐熱分解性をより向上させるという観点から、屈伏点が700℃以上のものを用いることが好ましい。本発明において、ガラスフリットの屈伏点は、熱機械分析装置(TMA:Thermo Mechanical Analyisis)を用いて、低温からガラスフリットの膨張を測定し、膨張が止まり、次に収縮が始まる温度(℃)と定義される。
【0058】
上記ガラスフリットを構成するガラスには、ケイ酸(SiO2)を主成分(全成分中50質量%以上)とする一般的なケイ酸ガラスを用いることができる。ガラスフリットを構成するガラスは、その他の含有成分として、一般的なケイ酸ガラスと同様、アルミナ(Al23)、酸化ナトリウム(Na2O)、酸化カリウム(K2O)、酸化カルシウム(CaO)、マグネシア(MgO)等を含んでいてもよい。また、ガラスフリットを構成するガラスは、ガラス自体の耐熱水性を向上させるために、ZrO2を含有していてもよい。
【0059】
本発明において、ケイ素源粉末としては、1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0060】
ケイ素源粉末の粒径は、特に限定されないが、通常、レーザ回折法により測定される、体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)が0.5〜30μmの範囲内であるものが用いられ、原料混合物の成形体の充填率をより向上させ、機械的強度のより高い焼成体を得るためには、D50が1〜20μmの範囲内であるケイ素源粉末を用いることが好ましい。
【0061】
原料混合物がケイ素源粉末を含む場合、原料混合物中におけるケイ素源粉末の含有量は、Al23(アルミナ)換算でのアルミニウム源粉末とTiO2(チタニア)換算でのチタニウム源粉末との合計量100質量部に対して、SiO2(シリカ)換算で、通常0.1質量部〜10質量部であり、好ましくは5質量部以下である。なお、ケイ素源粉末は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0062】
なお、本発明では、上記マグネシアスピネル(MgAl24)などの複合酸化物のように、チタニウム、アルミニウム、ケイ素およびマグネシウムのうち、2つ以上の金属元素を成分とする化合物を原料粉末として用いることができる。この場合、そのような化合物は、それぞれの金属源化合物を混合した原料混合物と同じであると考えることができ、このような考えに基づき、原料混合物中におけるアルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末の含有量が上記範囲内に調整される。
【0063】
また、原料混合物にはチタン酸アルミニウムやチタン酸アルミニウムマグネシウム自体が含まれていてもよく、たとえば、原料混合物の構成成分としてチタン酸アルミニウムマグネシウムを使用する場合、該チタン酸アルミニウムマグネシウムは、チタニウム源、アルミニウム源およびマグネシウム源を兼ね備えた原料に相当する。
【0064】
本発明における原料粉末は、上記のようなチタン酸アルミニウム系のセラミックスを形成する粉末に限られず、焼成工程を経て形成される従来公知のセラミックス源粉末を含むものとすることができ、たとえば、チタン酸バリウム粉末、チタン酸ジルコニウム酸亜鉛粉末、シリカ粉末、炭化ケイ素粉末、窒化ケイ素粉末、酸窒化アルミニウム(AlON)粉末、サイアロン(SiAlON)粉末、酸化イットリウム粉末、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)粉末、窒素ホウ素粉末などの原料粉末をセラミックス源粉末の全重量に対して50重量%以上含む場合も本発明の範囲に含まれる。
【0065】
<原料混合物>
本発明においては、上記アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末、ケイ素源粉末などの原料粉末を含む原料混合物を成形して成形体を得た後、当該成形体を焼成することにより、チタン酸アルミニウム系などのセラミックス焼成体を得る。成形してから焼成を行なうことにより、原料混合物を直接焼成する場合と比較して、焼成中の収縮を抑えることができることから、得られるセラミックス焼成体の割れを効果的に抑制でき、また、焼成により生成した多孔質性のチタン酸アルミニウム結晶などの細孔形状が維持されたチタン酸アルミニウム系などのセラミックス焼成体を得ることができる。成形体の形状は特に制限されないが、たとえば、ハニカム形状、棒状、チューブ状、板状、るつぼ形状等を挙げることができる。特に成形体および該成形体を焼成して得られる焼成体をハニカム形状とする場合に、本発明の製造方法による効果が顕著である。すなわち、本発明の製造方法によればハニカム形状における割れを阻止することができる。なお、ハニカム形状は図2に示すような正方形の格子状に限られず、菱型や六角の格子状などの形状も含む。
【0066】
上記ハニカム形状が、たとえば、図2における隔壁4と外周壁3とにより構成される、封止部7aによる封止がなされていない状態でのハニカム形状の開口率が40%以上80%以下であって、隔壁の厚みが0.1mm以上1mm以下のような形状であっても、本発明の製造方法によれば、高熱伝導率セラミックスを敷物として用いるので、焼成時の熱伝導性が向上し、成形体全体に均一な熱の伝播が行なわれ、焼成による割れ(目切れ)や亀裂のない焼成体を製造することができる。上記開口率は、敷物に配置される面の成形体の断面における、外周壁3の内周に沿った領域内側の面積SOUTに対する、SOUTから隔壁部分の面積SDIVを引いた残部の面積の割合(SOUT(%)=(SOUT−SDIV)/SOUT×100)をいう。
【0067】
上記成形体が、敷物上に配置される面の断面積が7850mm2以上(すなわち、断面積の直径が100mm以上)であり、高さが50mm以上であるような、排ガスフィルターとして比較的サイズの大きい場合であっても、本発明のセラミックス焼成体の製造方法によれば、焼成体の全体に割れの発生しない良好なフィルター性能を有する焼成体を製造することができる。このような焼成体においては、高さが高くなるにつれて割れなどの制御をすることが難しいことが知られているが、本発明の製造方法によれば、たとえば上記断面積を有し、50mm以上250mm以下の高さの成形体であっても、割れのない焼成体を得ることができる。
【0068】
原料混合物の成形に用いる成形機としては、一軸プレス、押出成形機、打錠機、造粒機などが挙げられる。押出し成形を行なう際には、原料混合物に、たとえば、造孔剤、バインダ、潤滑剤および可塑剤、分散剤、ならびに溶媒などの添加剤(有機物)を添加して成形することができる。このような有機物は焼成時に消失し、焼成体には実質的に存在しないものである。有機物の配合量が原料粉末100質量部に対して10質量部以上、すなわち原料粉末の合計質量の10質量%以上含まれる場合は、焼成体におけるハニカム形状の気孔率が比較的大きくなる。なお、上記原料粉末とは、焼成する工程において焼成体を形成するアルミニウム源粉末、チタニウム源粉末などの各元素源粉末の混合物をいう。
【0069】
上記造孔剤としては、グラファイト等の炭素材;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル等の樹脂類;コーンスターチなどのでんぷん類、ナッツ殻、クルミ殻、コーンなどの植物系材料;氷;およびドライアイス等などが挙げられる。造孔剤の添加量は、アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末などの原料粉末の合計量100質量部に対して、通常、0〜40質量部であり、好ましくは0〜25質量部である。
【0070】
上記バインダとしては、メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ナトリウムカルボキシルメチルセルロースなどのセルロース類;ポリビニルアルコールなどのアルコール類;リグニンスルホン酸塩などの塩;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等のワックス;EVA、ポリエチレン、ポリスチレン、液晶ポリマー、エンジニアリングプラスチックなどの熱可塑性樹脂などが挙げられる。バインダの添加量は、上記原料粉末の合計量100質量部に対して、通常、20質量部以下であり、好ましくは15質量部以下である。
【0071】
上記潤滑剤および可塑剤としては、グリセリンなどのアルコール類;カプリル酸、ラウリン酸、パルミチン酸、アラギン酸、オレイン酸、ステアリン酸などの高級脂肪酸;ステアリン酸Alなどのステアリン酸金属塩などが挙げられる。潤滑剤および可塑剤の添加量は、上記原料粉末の合計量100質量部に対して、通常、0〜10質量部であり、好ましくは1〜5質量部である。
【0072】
上記分散剤としては、たとえば、硝酸、塩酸、硫酸などの無機酸;シュウ酸、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、乳酸などの有機酸;メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類;ポリカルボン酸アンモニウム、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどの界面活性剤などが挙げられる。分散剤の添加量は、上記原料粉末の合計量100質量部に対して、通常、0〜20質量部であり、好ましくは2〜8質量部である。
【0073】
また、上記溶媒としては、たとえば、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノールなどのアルコール類;プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールなどのグリコール類;および水などを用いることができる。なかでも、水が好ましく、不純物が少ない点で、より好ましくはイオン交換水が用いられる。溶媒の使用量は、上記原料粉末の合計量100質量部に対して、通常、10質量部〜100質量部、好ましくは20質量部〜80質量部である。
【0074】
成形に供される原料混合物は、上記アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末、ケイ素源粉末などの原料粉末、および上記の各種添加剤をミキサーなどにより混合(混練)することにより得ることができる。
【0075】
チタン酸アルミニウム系焼成体の製造における焼成温度は、通常、1300℃以上、好ましくは1400℃以上である。また、焼成温度は、通常、1650℃以下、好ましくは1550℃以下である。焼成温度までの昇温速度は特に限定されるものではないが、通常、1℃/時間〜500℃/時間である。また、昇温は一定の昇温速度を所望の焼成温度まで維持してもよく、たとえば、段階的に昇温速度を変化させてもよい。たとえば、ケイ素源粉末を用いる場合には、焼成工程の前に、1100〜1300℃の温度範囲で3時間以上保持する工程を設けることが好ましい。これにより、ケイ素源粉末の融解、拡散を促進させることができる。原料混合物がバインダ等の添加燃焼性有機物を含む場合、焼成工程には、これを除去するための仮焼(脱脂)工程が含まれる。脱脂は、典型的には、焼成温度に至るまでの昇温段階(たとえば、150〜700℃の温度範囲)になされる。脱脂工程おいては、昇温速度を極力おさえることが好ましい。
【0076】
脱脂工程は、たとえば、成形体をスペーサー上に積載した台座上に配置して行なう。スペーサーにより設けられた空間から成形体の中央部分に熱風を送り込み、成形体全体の燃焼効率を向上させることが好ましい。上記台座は、生台座と焼成台座とを積層して用いてもよい。生台座は、通常、成形体と同様の材質とする。焼成台座は、特に限定されることなく、たとえば成形体を別途の工程で焼成したものを用いることができる。
【0077】
焼成は通常、大気中で行なわれるが、用いる原料粉末、すなわちアルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末、ケイ素源粉末などの原料粉末や、造孔剤、バインダ、潤滑剤および可塑剤の種類や使用量比によっては、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス中で焼成してもよいし、一酸化炭素ガス、水素ガスなどのような還元性ガス中で焼成してもよい。また、水蒸気分圧を高くまたは低くした雰囲気中で焼成を行なってもよい。
【0078】
焼成は、通常、管状電気炉、箱型電気炉、トンネル炉、遠赤外線炉、マイクロ波加熱炉、シャフト炉、反射炉、ロータリー炉、ローラーハース炉などの通常の焼成炉を用いて行なわれる。焼成は回分式で行なってもよいし、連続式で行なってもよい。また、静置式で行なってもよいし、流動式で行なってもよい。
【0079】
焼成に要する時間は、原料混合物の成形体がチタン酸アルミニウム系結晶などの結晶に遷移するのに十分な時間であればよく、原料混合物の量、焼成炉の形式、焼成温度、焼成雰囲気などにより異なるが、通常は10分〜24時間である。
【0080】
以上のようにして、目的の焼成体を得ることができる。このようなチタン酸アルミニウム系焼成体などの焼成体は、成形直後の成形体の形状をほぼ維持した形状を有する。得られたチタン酸アルミニウム系焼成体は、研削加工等により、所望の形状に加工することもできる。
【0081】
本発明により得られる焼成体は、たとえば、ルツボ、セッター、コウ鉢、炉材などの焼成炉用冶具;ディーゼルエンジン、ガソリンエンジンなどの内燃機関の排気ガス浄化に用いられる排ガスフィルターや、触媒担体、ビールなどの飲食物の濾過に用いる濾過フィルター、石油精製時に生じるガス成分、たとえば一酸化炭素、二酸化炭素、窒素、酸素などを選択的に透過させるための選択透過フィルターなどのセラミックスフィルター;基板、コンデンサーなどの電子部品などに好適に適用することができる。なかでも、セラミックスフィルターなどとして用いる場合、本発明における焼成体は高い細孔容積および開気孔率を有することから、良好なフィルター性能を長期にわたって維持することができる。
【0082】
上記焼成体がチタン酸アルミニウム系焼成体の場合、X線回折スペクトルにおいて、チタン酸アルミニウムまたはチタン酸アルミニウムマグネシウムの結晶パターンのほか、アルミナ、チタニアなどの結晶パターンを含んでいてもよい。なお、上記チタン酸アルミニウム系焼成体は、チタン酸アルミニウムマグネシウム結晶からなる場合、組成式:Al2(1−x)MgxTi(1+x)5で表すことができ、xの値は0.03以上であり、好ましくは0.03以上0.15以下、より好ましくは0.03以上0.12以下である。また、上記チタン酸アルミニウム系焼成体は、原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0083】
<セラミックス焼成体>
本発明の製造方法により得られるセラミックス焼成体は、主にチタン酸アルミニウム系結晶からなる多孔性のセラミックスとすることができる。「主にチタン酸アルミニウム系結晶からなる」とは、多孔性のセラミックス(多孔質セラミックス)を構成する主結晶相がチタン酸アルミニウム系結晶相であることを意味し、チタン酸アルミニウム系結晶相は、たとえば、チタン酸アルミニウム結晶相、チタン酸アルミニウムマグネシウム結晶相などであってよい。
【0084】
上記多孔質セラミックスは、チタン酸アルミニウム系結晶相以外の相(結晶相)を含んでいてもよい。このようなチタン酸アルミニウム系結晶相以外の相(結晶相)としては、多孔質セラミックスの作製に用いる原料由来の相などを挙げることができる。原料由来の相とは、より具体的には、多孔質セラミックスを上記した本発明のセラミックス焼成体の製造方法に従い製造する場合における、チタン酸アルミニウム系結晶相を形成することなく残存したアルミニウム源粉末、チタニウム源粉末および/またはマグネシウム源粉末由来の相などである。また、上記原料混合物がケイ素源粉末を含む場合、多孔質セラミックスは、SiO2成分を含むガラス相等のケイ素源粉末由来の相を含む。
【0085】
また、本発明におけるセラミックス焼成体は、主に炭化ケイ素系結晶からなる多孔質セラミックスとすることができる。このような焼成体は、公知の原料粉末の調整により所望の結晶相を含むものとすることができる。
【0086】
本発明におけるセラミックス焼成体の形状は、特に制限されず、ハニカム形状、棒状、チューブ状、板状(シート状)、るつぼ形状等であってよい。なかでも、本発明の多孔質セラミックス成形体をDPFなどのセラミックスフィルターとして用いる場合には、ハニカム形状とすることが好ましい。このような形状は、通常、成形体の形状により決定されることになる。
【0087】
本発明におけるセラミックス焼成体は、ガラス相を含んでいてもよい。ガラス相とは、SiO2が主要成分である非晶質相を指す。この場合、ガラス相の含有率は、5質量%以下であることが好ましく、また、2質量%以上であることが好ましい。ガラス相を5質量%以下含むことにより、DPFなどのセラミックスフィルターに要求される細孔特性を充足するセラミックス焼成体が得られやすくなる。
【0088】
上記のような細孔特性を備える、主にチタン酸アルミニウム系結晶からなる多孔性のセラミックス焼成体の製造には、上記本発明の製造方法を好適に用いることができる。すなわち、アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、ならびに任意で使用されるマグネシウム源粉末およびケイ素源粉末を含む原料混合物を成形して成形体を得た後、当該成形体を高熱伝導率セラミックスを含む敷物を敷いた状態で焼成することにより本発明の多孔性のセラミックス焼成体を得ることができる。
【0089】
ここで、主にチタン酸アルミニウム系結晶からなる多孔性のセラミックス焼成体に上記のような細孔特性を付与するためには、原料混合物にケイ素源粉末を含むことが好ましい。ケイ素源粉末としては前述したものを用いることができるが、なかでもガラスフリット、長石、またはこれらの混合物を用いることが好ましい。また、多孔性のセラミックス焼成体に上記のような細孔特性を付与するためには、ケイ素源粉末の含有量を、原料混合物中に含まれる無機成分中、2質量%以上5質量%以下とすることがより好ましい。原料混合物中に含まれる無機成分とは、多孔質セラミックス成形体を構成する元素を含む成分であり、典型的には、アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末である。ただし、原料混合物に含まれる添加剤(造孔剤、バインダ、潤滑剤、可塑剤、分散剤等)が無機成分を含む場合、それらも含まれる。
【0090】
また、多孔性のセラミックス焼成体に上記のような細孔特性を付与するためには、原料混合物は、マグネシウム源粉末を含むことが好ましい。原料混合物中におけるマグネシウム源粉末の好ましい含有量は、上記したとおりである。
【0091】
なお、本発明の製造方法が適用される成形体およびそれにより得られる焼成体は、成形体の寸法に対する焼成体の寸法の線収縮率(線収縮率(%)=(成形体の寸法−焼成体の寸法)/(成形体の寸法)×100)が1%以上である。このような熱による線収縮率の大きい成形体の場合は、従来の製造方法においては割れや亀裂が発生しやすいが、高熱伝導率セラミックスを含む敷物を用いる本発明の製造方法を適用する場合は、割れや亀裂のない焼成体を製造することができる。
【0092】
なお、上記線収縮率は、焼成前(押し出し成形後脱脂工程前)の成形体と、焼成後の成形体の押し出し断面方向(成形体における押し出し方向とは垂直な方向の断面)の長さ(隔壁ピッチ幅)を、それぞれ2点測定し、それらの値を平均することに得られる焼成前の平均長さ(成形体の寸法)および焼成後の平均長さ(焼成体の寸法)から、上記式に基づき算出する値とする。
【0093】
本発明のセラミックス焼成体の製造方法により製造される多孔性のセラミックス焼成体は、焼成工程において高熱伝導率セラミックスを含む敷物を用いることにより焼成の際の熱応力を緩和することができるので、得られる焼成体の全体にわたって割れのない、フィルター性能に優れたものとなる。
【実施例】
【0094】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0095】
<線収縮率>
焼成前(押し出し成形乾燥後)のハニカム形状の成形体と、焼成後の成形体の押し出し断面方向(成形体における押し出し方向とは垂直な方向の断面)の長さ(隔壁ピッチ幅)を、それぞれ2点測定し、それらの値を平均することに得られる焼成前の平均長さ(成形体の寸法)および焼成後の平均長さ(焼成体の寸法)から、下記式に基づき線収縮率を算出した。
線収縮率(%)=(成形体の寸法−焼成体の寸法)/(成形体の寸法)×100
(実施例1)
表1に示す組成に沿った原料をミキサーで混合し、成形体の原料混合物の前駆体混合物を得た。
【0096】
【表1】

【0097】
表1において、ユニルーブ(登録商標)は日油社製のポリオキシアルキレン系化合物である。また、表1における造孔剤、バインダおよび潤滑剤は、いずれも焼成により燃焼する成分(有機物)である。前駆体混合物に含まれる成分のうち上記燃焼する成分以外の成分(すなわち原料粉末)の合計量100質量部に対して、チタニア換算のチタニウム源粉末の配合量は49.0質量部、アルミナ換算のアルミニウム源粉末の配合量は41.8質量部、マグネシア換算のマグネシウム源粉末の配合量は5.2質量部、シリカ換算のケイ素源粉末の配合量は4.0質量部であった。この前駆体混合物169.3kgに対し水45kgを添加し、押出成形機により、ハニカム形状の成形体を得た。
【0098】
得られた成形体は、150mmφ、セル密度300CPSI(1平方インチあたり300セル)、隔壁の厚み0.3mmのハニカム形状であり、高さを230mmになるように切り出したハニカム形状の成形体である。これを、マイクロ波乾燥機を用いて、成形体の乾燥品を得た。乾燥品のハニカム形状の開口率は63.4%であった。
【0099】
<脱脂および焼成工程>
上記高さで切り出したハニカム形状の成形体を図1に示すように高さ200mmであるセラミックス製のスペーサー2上に積載した敷物1上に配置した。敷物1としては、常温の熱伝導率が100W/m・KであるSiC製の厚さ10mmの敷板を用いた。
【0100】
上記の配置で、空気雰囲気中に昇温速度10℃/hrで1500℃まで昇温して、続いて1500℃で5時間保持することにより、セラミックス焼成体を得た。
【0101】
実施例1における上記線収縮率は、12.7%であった。
(比較例1)
敷物として、常温における熱伝導率が20W/m・Kであるムライト製の敷物を用いた以外は、実施例1と同様の方法によりセラミックス焼成体を製造した。
【0102】
実施例1において高熱伝導率を有するSiC製の敷物上に配置して形成したセラミックス焼成体は、焼成体の高さ方向全体にわたり割れや亀裂は発生しておらず、焼成体から排気フィルターを切り出すことが可能であった。
【0103】
一方比較例1においてムライト製の敷物上に配置して形成した焼成体は、敷物に接する面に100mm以上の大きな亀裂が確認され、また外周面にも高さ方向に沿って約200mmの亀裂が発生していた。また、搬送時に焼成体を持ち上げると、ハニカム形状が崩壊した。
【0104】
これらの結果から、高熱伝導率セラミックスを敷物として用いる本発明の製造方法により、良好なハニカム形状を有するセラミックス焼成体を簡便な方法で製造できることが示された。
【0105】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0106】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0107】
1 敷物、2 スペーサー、3 外周壁、4 隔壁、5,6 流路、7a,7b 封止部、10 成形体、20 セラミックスハニカム構造体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形体を焼成する工程を含むセラミックス焼成体の製造方法であって、
前記成形体の寸法に対する前記焼成体の寸法の線収縮率(線収縮率(%)=(成形体の寸法−焼成体の寸法)/(成形体の寸法)×100)が1%以上であり、
成形体は、高熱伝導率セラミックスからなる敷物上に配置した状態で焼成することを特徴とするセラミックス焼成体の製造方法。
【請求項2】
前記高熱伝導率セラミックスは、常温における熱伝導率が50W/m・K以上である請求項1に記載のセラミックス焼成体の製造方法。
【請求項3】
前記高熱伝導率セラミックスは、窒化アルミニウムまたは炭化ケイ素を含む請求項1または2に記載のセラミックス焼成体の製造方法。
【請求項4】
前記成形体は、前記敷物上に配置される面の断面積が7850mm2以上であり、高さが50mm以上である請求項1〜3のいずれかに記載のセラミックス焼成体の製造方法。
【請求項5】
前記成形体は、該成形体を構成する原料中に有機物を質量比で10%以上含む請求項1〜4のいずれかに記載のセラミックス焼成体の製造方法。
【請求項6】
前記成形体はハニカム形状である請求項1〜5のいずれかに記載のセラミックス焼成体の製造方法。
【請求項7】
前記成形体は、前記敷物上に配置される面に平行な断面における開口率が40%以上80%以下であり、隔壁の厚みが0.1mm以上1mm以下である請求項6に記載のセラミックス焼成体の製造方法。
【請求項8】
前記成形体は、アルミニウム源粉末およびチタニウム源粉末を含み、焼成によりチタン酸アルミニウム組成物を形成する請求項1〜7のいずれかに記載のセラミックス焼成体の製造方法。
【請求項9】
前記成形体は、アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、およびマグネシウム源粉末を含み、焼成によりチタン酸アルミニウムマグネシウム組成物を形成する請求項1〜7のいずれかに記載のセラミックス焼成体の製造方法。
【請求項10】
前記成形体は、アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末、およびケイ素源粉末を含み、焼成によりチタン酸アルミニウムマグネシウム組成物を形成する請求項1〜7のいずれかに記載のセラミックス焼成体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−68517(P2011−68517A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−221185(P2009−221185)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】