説明

セラミックヒータの製造方法およびグロープラグの製造方法

【課題】 絶縁性セラミックからなる基体に、導電性セラミックからなり金属製ではない発熱部材が埋設された構造を備えたセラミックヒータにおいて、焼成課程に形成されうる残留気孔による不具合を解消するセラミックヒータの製造方法を提供する。
【解決手段】
基体材料に発熱部材材料を埋設して一体化した一体成形物を形成した後に、1700℃以上のホットプレス焼成を行い、その後、さらに1500℃以上1800℃以下、5MPa以上200MPa以下の窒素雰囲気にてHIP焼成を行う。この焼成手順の恩恵をより有効に得られる構成は、絶縁性セラミック基体に対して導電性セラミック発熱部材が占める体積割合を10%以上とした構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性セラミック製の発熱部材が絶縁性セラミック製の基体に埋設されてなるセラミックヒータの製造方法に関し、またそのセラミックヒータを備えたグロープラグを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの始動補助として用いられるグロープラグは、従来からヒータ部材として有底筒状の金属シース内に絶縁性セラミック粉末と金属製発熱コイルとを内装させてなるヒータを使用した、いわゆるメタルグロープラグが使用されてきた。近年では耐熱性や耐久性の観点からこのようなヒータに変わって絶縁性セラミック基体に導電性のセラミックからなる発熱部材を埋設させたセラミックヒータを使用したセラミックグロープラグが注目されつつある。セラミックヒータは長期間にわたる耐久性や急速昇温に対する耐久性に優れるためである。
【0003】
年々高まりつつある地球規模での環境意識の高まりからエンジンには排気ガスの低エミッション化の要求がある。低エミッション化を達成するためにはエンジン自身の改良にとどまらず、エンジンを如何に効率よく始動させ、また安定化させるかということも検討され、グロープラグにはより過酷な状況下・使用条件にも耐えうる性能を備えていることが望まれている。このような要求に応えるヒータとしてセラミックヒータがあげられる。
【0004】
セラミックヒータは絶縁性のセラミックと導電性のセラミックとが組み合わされ一体となって構成される。その種類も多岐にわたり、自身の表層に発熱する導電性セラミックを配置して表面が発熱するように構成したタイプ(たとえば特許文献1参照)、自身の表層は絶縁性セラミックとし、その内部に導電性セラミックからなる発熱部材と、その発熱部材への電力供給用リード線として金属線を内在させたタイプ(たとえば特許文献2参照)、電力供給用リード線をも導電性セラミックとして構成したオールセラミックタイプ(たとえば特許文献3)等、様々である。(なお、本明細書において特許文献1のようにヒータの表層が導電性セラミックである表面が発熱するタイプを"表面発熱タイプ"、特許文献2,3のようにヒータの表層が絶縁性セラミックであり、発熱部材がその絶縁性セラミックの内部に収容されたタイプを"内部発熱タイプ"と便宜的に呼称する。)
【0005】
表面発熱タイプのセラミックヒータは、導電性セラミックがヒータの表面を構成して露出しているので、ヒータ表面への付着物があるとヒータの特性が変わってしまうおそれがあったり、外部からの応力によって導電性セラミックに亀裂が入ったりしてしまうおそれがある。このため、特に耐久性の面では内部発熱タイプのセラミックヒータが優位性をもつ。このような観点においては内部発熱タイプのものが好ましいともいえる。
【0006】
ところでセラミックヒータの製造方法には、未焼成状態の絶縁性セラミックを基体とし、その内部に導電性セラミック(および金属線)を内在させ一体とした後に同時に焼成するという手法がある。絶縁性セラミックの内部に金属線を内在するタイプのものは金属線の熱膨張係数が絶縁性セラミックや導電性セラミックに比較して大きいため、クラック等を生じ不良を生じ得やすい。この観点においては内部発熱タイプのものでも特にオールセラミックタイプのものが製造工程上でも優位性を持つといえる。
【0007】
そしてその製造方法は、特許文献3によると概略次の通りである。
まず、基体となる窒化珪素粉末を種々の材料と混合・調製し、所望の形状に成形する。別途、発熱部材となる材料を混合・調製し、前記基体に所望の形状に発熱体パターンを形成する。こうして得られるヒータ成形体を、窒素圧1.5気圧以上の雰囲気中にて1700℃〜1900℃の範囲で焼成する。さらに、上記焼成後に、1000気圧以上の不活性雰囲気中で1600℃〜1900℃で熱間静水圧(HIP)焼成を行う。
【特許文献1】特表2003−503228
【特許文献2】特開2005−147533
【特許文献3】特開平10−106728
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の製造方法に従いセラミックヒータを作製すると、"良好に"作製できたものは優れた耐久性を持ち得ていた。しかしながら、本発明者等の試行によると"良好に"セラミックヒータを製造すること自体が困難であった。これは次のような相違に基づくものと考えられる。
【0009】
特許文献3では導電性セラミックをペースト状に印刷することによって発熱部材(ヒータ成形体)を得ることを当該製造方法の例とし、また発熱部材を「高融点金属化合物を発熱体形状に成形したもの」であってもよいとしている。そこで本発明者等は焼成後に発熱部材を構成する材料をあらかじめ形成しておき、その成形体を焼成後に絶縁性セラミック基体をなす材料に埋設し、一体としたものを特許文献3に記載の条件にてホットプレス焼成・HIP焼成をすることによってセラミックヒータを作製したが、かような方法にて作製したセラミックヒータは"良好に"作製できたものはわずかであった。
【0010】
この問題につき、本発明者等が鋭意研究・試行を重ねたところ次のような考察に至った。
セラミックヒータ、特にグロープラグに用いるものは急速昇温を行うため、セラミックヒータの全体が均一に加熱するようにするためには発熱部材の体積は比較的大きい方が有利であることから、埋設する導電性セラミックからなる発熱部材を比較的太く構成することが好ましく、そのような構成のセラミックヒータの作製を試みた。しかしながら、比較的太い発熱部材を内在するセラミックヒータの作製においてホットプレス焼成を行っても、セラミックヒータ全体に均一な圧力を与えた状態での焼成は困難である。そのため、セラミックヒータは不均一な圧力下での焼成となるため、残留気孔等を生じ、欠陥を持つセラミックヒータとなってしまう。このようなセラミックヒータに対してHIP焼成を行うことにより、基体が緻密化し、信頼性の高いセラミックヒータを得ることが期待できることが特許文献3による効果である。
【0011】
埋設された発熱部材がペースト状とは異なりある程度の太さを有すると、発熱部材の周囲では特に不均一な圧力による悪影響が生じやすい。HIP焼成によって上記欠陥を解消するためには、ペースト状に形成した発熱部材を用いたセラミックヒータと、あらかじめ太めに形成した発熱部材(成形体)を用いたセラミックヒータとでは同一の条件では良好なものを得ることは困難である。
【0012】
本発明者等は急速昇温に適したセラミックヒータを実現するために、特有の形状とその形状に対する特殊な焼成条件を見いだしたものである。本発明は、上記問題を解決するためのセラミックヒータの製造方法を提供することを目的の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は、
窒化珪素を主成分とする絶縁性セラミック基体に、導電性セラミックからなる発熱部材が埋設された構成を備えるセラミックヒータの製造方法であって、
前記構成を備えるように原料を一体成形して一体成形物を形成した後に、
前記一体成形物を1700℃以上でホットプレス焼成する第1焼成工程と、
前記ホットプレス工程後に1500℃以上1800℃以下、50MPa以上200MPa以下の窒素雰囲気でHIPを行う第2焼成工程と、
を備えることを特徴とする。
【0014】
さらに本発明は、
前記セラミックヒータが、前記絶縁性セラミック基体に対して発熱部材が占める体積割合を10%以上として製造するようにする。
【0015】
また、本発明により製造されるセラミックヒータの発熱部材の一端および他端に端子金具と主体金具とをそれぞれ電気的に接続してグロープラグを製造してもよい。
【発明の効果】
【0016】
上記のセラミックヒータの製造方法により急速昇温に適したセラミックヒータ、およびそのセラミックヒータを用いたグロープラグを製造することが可能となる。なお、請求項1に記載するセラミックヒータの製造方法では、絶縁性セラミック基体の内部において金属製のリード線と導電性発熱部材とが接続されていない構成を意とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1に本発明の製造方法により作製されるセラミックヒータ100を使用したグロープラグ500を示す。
【0018】
セラミックヒータ100は軸線O方向に伸びた棒状をなし、焼成されて絶縁性を備えるセラミックからなる基体10に、略U字状に焼成されて導電性を備えるセラミックからなる発熱部材20が埋設された構成を備える。発熱部材20の先端(図面下方)はU字状に後方へ曲げ返された形状であるとともに、後方へ向かって伸びるリード部21,22に比べて断面積が小さくなるように形状とされている。一方、発熱部材20のうちの後端側には電極取出部23,24がリード部21,22からそれぞれ軸線Oに垂直な径方向へ向かい、基体10の表面に露出するように形成されている。なお、基体10が請求項に記載する絶縁性セラミック基体であり、発熱部材20が導電性セラミックからなる発熱部材に相当する。
【0019】
この電極取出部23,24はたとえば図1に示すようなグロープラグ500として構成されるときに、電極取出部23、24のそれぞれにセラミックヒータ100を発熱させるための電源の正極と負極とが接続されるためのものである。図1の形態では電極取出部23は主体金具510と電気的に接続し、電極取出部24は中軸520と電気的に接続した状態にある。グロープラグ500は図示しないエンジンに雄ねじ部511が螺合されることにより発熱部材20の一端側(電極取出部23)が電気的に接地される。他方、中軸520の後端に固着されたピン端子530には図示しない電源(たとえばバッテリ)の正極が接続され、セラミックヒータ100に電力が供給されることによって、グロープラグ500は発熱する機能を果たす。
【0020】
さて、本発明のセラミックヒータ100の製造方法について説明する。
図2は、セラミックヒータ100の各製造工程を示すフローチャートである。なお、各ステップを「S」と表記する。セラミックヒータ100はこのフローチャートに示すように、まず材料が調製される(S1)。この材料調製工程S1では基体10の材料と発熱部材20の材料がそれぞれ別個に調製される。基体10の材料の調製工程は、平均粒子径が0.7μmの窒化珪素(Si)粉末と平均粒子径が1.0μmの焼結助剤としての希土類酸化物(Er)、さらにCrSi、WSiを窒化珪素玉石を使用し、エタノール中にて40時間の湿式混合粉砕を行う工程である。このようにして基体10の材料を得る。他方、発熱部材20の材料の調製工程は、平均粒子径0.7μmの窒化珪素(Si)粉末とタングステンカーバイド粉末(WC)さらに焼結助剤としての希土類酸化物(Er)および有機バインダを溶媒と混合し、泥漿を得、攪拌、乾燥を経るものであり、このようにして材料粉末を得る。
【0021】
S2はそれぞれ得られた材料をセラミックヒータ100の概形を成すように成形する工程である。S1にて得られた基体10の材料を図3に示す分割成形体310にプレス成型する。他方、発熱部材20の材料を図3に示す射出成形体320に射出成形する。
【0022】
次いで得られた分割成形体310,310と射出成形体320とをプレスし、一体成形体350を得る(一体プレス工程S3)。この工程は、一方の分割成形体の凹部に射出成形体320を収容し、対となる他方の分割成形体310で挟み込み、図示外のプレス機にてプレス加工を施し、一体成形体350を形成する工程である(図4に一体成形体350を示す。)。
【0023】
次の脱脂工程S4では、一体成形体350に含まれるバインダを取り除く工程である。この処理は一体成形体350に対し、800℃の窒素雰囲気下で、1時間の脱バインダ処理が施される。
【0024】
次に焼成が行われる。この焼成工程は第1焼成工程であるホットプレス焼成S5と第2焼成工程であるHIP焼成S6とが行われる。これら第1,第2焼成工程の詳細条件については後述する。焼成を経て焼成体400が得られる。
【0025】
次いで焼成体400の後端を切断する端部切断工程が行われる(S7)。この工程は、図5に示すように、焼成体400の後端が軸線に直交する断面で切断され、発熱部材20が閉路から開路とされる工程である。
【0026】
さらに、センタレス研磨工程S8を経てセラミックヒータ100は完成する。完成したセラミックヒータ100は基体10に対して発熱部材20が占める体積の割合が10%以上となるように構成されている。
【0027】
さて、前述の第1および第2焼成工程の焼成条件について説明する。
本発明は焼成条件により上記セラミックヒータ100が欠陥なく作製できるようにするものである。下表1に実施例1〜4および比較例1〜4として焼成条件を示す。なお、それぞれの実施例および比較例で作製したセラミックヒータ100の材料、寸法等はすべて上記説明したものと同一のものである。
【0028】
【表1】

【0029】
まず、比較のために一体成形体350を1780℃、25MPaの一軸加圧下にて2時間のホットプレス焼成を行う。次いで行うHIP焼成はそれぞれ焼成温度、焼成圧力を異ならせた窒素雰囲気下で行う(比較例1はHIP焼成自体を行わない)。焼成されたそれぞれの焼成体400についてその断面の観察を行い、気孔の残り度合い(残留気孔)および粒径の観察を行った。
【0030】
HIP焼成条件が1500℃以上1800℃以下、圧力5MPa〜200MPaであった実施例1〜4についてはいずれも残留気孔がわずかであり、異常粒成長したものもみられず、良好な焼成体400を得られた。一方、HIP焼成を行わなかった比較例1、HIP焼成温度が1300℃と1500℃未満であった比較例2については異常粒成長はみられないものの残留気孔が本発明の実施例である1〜4に比べると多かった。また、HIP焼成温度が1850℃と1800℃を超えた条件の比較例3については、残留気孔は少ないものの異常粒成長してしまっており、強度が低下しているおそれがある。また、HIP焼成圧力が0.9MPaと低い条件であった比較例4では、HIP焼成による残留気孔の減少の効果が少なく、比較例1,2同様に残留気孔が多くみられた。
【0031】
以上説明したように、導電性発熱部材が絶縁性セラミック基体に対して占める体積割合を10%以上とするような太い発熱部材を有するセラミックヒータを製造する際には、1700℃以上のホットプレス焼成後に行うHIP焼成の条件を1500℃以上1800℃以下とし、5MPa以上200MPa以下の窒素雰囲気とすることが有効である。
【0032】
このように作製したセラミックヒータを使用してグロープラグを製造すれば容易に良好なものを製造することができ、また、優れた耐久性をも備えるものとなる。
【0033】
また、本発明の製造方法のように、基体に対する発熱部材が占める体積割合が大きいセラミックヒータを製造する際、ホットプレス焼成後にHIP焼成を行うことによって、HIP焼成前までに発熱部材に形成されていたマイクロクラックや残留気孔を取り除き、良好なセラミックヒータを製造することが可能となる。その結果としてクラックが形成されていたために発熱部材の抵抗値がわずかに高く、ばらつきを生じていてもそれらの悪影響を減じることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の製造方法によって製造されるセラミックヒータ100の半断面図と、そのセラミックヒータ100を使用して製造されるグロープラグ500の半断面図である。
【図2】セラミックヒータ100の各製造工程を示すフローチャートである。
【図3】一体プレス工程において一体とされる前の基体310と射出成形体320とを示す斜視図である。
【図4】一体プレス工程後の一体成形体350を示す図である。
【図5】焼成工程後に行う端部切断工程を説明する図である。
【符号の説明】
【0035】
10 絶縁性セラミック基体
20 (導電性セラミック)発熱部材
100 セラミックヒータ
350 一体成形体
500 グロープラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化珪素を主成分とする絶縁性セラミック基体に、導電性セラミックからなる発熱部材が埋設された構成を備えるセラミックヒータの製造方法であって、
前記構成を備えるように原料を一体成形して一体成形物を形成した後に、
前記一体成形物を1700℃以上でホットプレス焼成する第1焼成工程と、
前記ホットプレス工程後に1500℃以上1800℃以下、50MPa以上200MPa以下の窒素雰囲気でHIPを行う第2焼成工程と、
を備えることを特徴とするセラミックヒータの製造方法。
【請求項2】
前記セラミックヒータは、
前記絶縁性セラミック基体に対して発熱部材が占める体積割合を10%以上として製造することを特徴とするセラミックヒータの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のセラミックヒータの製造方法によって製造したセラミックヒータに対し、
当該セラミックヒータの発熱部材の一端および他端に端子金具と主体金具とをそれぞれ電気的に接続してグロープラグを製造するグロープラグの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−141740(P2007−141740A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−336428(P2005−336428)
【出願日】平成17年11月21日(2005.11.21)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】