説明

セラミックマトリックス複合材(CMC)を含む蒸気タービン部材

【課題】蒸気タービンに関し、具体的には、セラミックマトリックス複合材(CMC)を含む蒸気タービン部材を提供する。
【解決手段】蒸気タービン部材はセラミックマトリックス複合材CMC110を含む。この部材は全体又は一部がCMC110でできていてもよい。CMC110は酸化の可能性をなくし、蒸気タービンの有用性(availability)及び信頼性を向上させる。第1の態様では、セラミックマトリックス複合材を含む蒸気タービン用蒸気タービン部材、固定部材を提供する。第2の態様では、セラミックマトリックス複合材を含む部材を含む蒸気タービンを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は広義には蒸気タービンに関する。具体的には、本発明はセラミックマトリックス複合材(CMC)を含む蒸気タービン部材に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービンでは、弁でタービンのセクション間の開口部を開閉し、圧力下で蒸気に暴露される。蒸気タービンの設計基準の一つは信頼性(reliability)であり、次いで有用性(availability)及び操作性(operability)である。弁軸(通例ニッケル合金製)は全蒸気圧力及び温度に付される。これらの圧力及び温度は現在の設計では24.8MPa(3600psi)及び621℃(1150°F)に達することもある。しかし、次世代の蒸気タービンでは29.6MPa(4300psi)及び760℃(1400°F)に達すると予測されている。こうした条件下では、ニッケル合金製の弁軸は酸化されて、酸化物が堆積する。弁軸は、同様の材料でできたブッシング内で上下運動をすると期待される。従って、弁軸とブッシングの両方で酸化物が成長しかねない。信頼性を保つには、軸の主要オーバーホール及び/又は交換(通例5〜10年)を実施するまで軸が滑らかに作動できるように、設計及び製造段階で十分なクリアランス(間隙)を維持する必要がある。この問題を解決する1つのアプローチは、酸化物のための追加のクリアランスを設けることである。残念ながら、過度のクリアランスを設けると、蒸気が漏れて性能が損なわれる。さらに、高い蒸気温度では、ニッケル基超合金上の酸化物の堆積のためにおそらく2〜4年以内に適度なエンジニアリングクリアランス(例えば半径方向で10mm)が消失して、弁軸のバインディング(固着)が起きて、弁が機能しなくなるおそれがある。軸が正常な弁開放条件でバインディングすると、その事象のために蒸気の流れを遮断できなくなり、タービンの過速度を生じるおそれがある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
蒸気タービン部材はセラミックマトリックス複合材(CMC)を含む。本部材は全体がCMCでできていても、一部がCMCでできていてもよい。CMCは、部分的又は完全な酸化物系セラミック/繊維複合材の層の下での酸化の可能性をなくし、蒸気タービンの有用性と信頼性を向上させる。
【0004】
本発明の第1の態様では、セラミックマトリックス複合材を含む蒸気タービン用蒸気タービン部材、固定部材を提供する。
【0005】
本発明の第2の態様では、セラミックマトリックス複合材を含む部材を含む蒸気タービンを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】図1は、蒸気タービンの部分切欠き斜視図である。
【図2】図2は、完全にセラミックマトリックス複合材(CMC)からなる弁軸の形態の蒸気タービン部材の断面図である。
【図3】図3は、部分的にCMCからなる弁軸の形態の蒸気タービン部材の断面図である。
【図4】図4は、蒸気に暴露される表面だけがCMCでできた弁軸の形態の蒸気タービン部材の断面図である。
【図5】図5は、テクスチャー外面を有するCMCでできた弁軸の形態の蒸気タービン部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、蒸気タービンに関する用途及び作動を例にとって、本発明の1以上の実施形態について説明する。ただし、本発明が適宜どのようなタービン及び/又はエンジンにも同様に応用できることは、本明細書の教示内容に接した当業者には明らかであろう。本発明の実施形態では、固定部材がセラミックマトリックス複合材(CMC)を含む蒸気タービン部材を提供する。
【0008】
図面を参照すると、図1は蒸気タービン10の部分切欠き斜視図を示す。蒸気タービン10は、回転シャフト14と複数の軸方向に離隔したロータホイール18とを備えるロータ12を含む。複数の回転動翼20が、各ロータホイール18に機械的に結合される。具体的には、動翼20は各ロータホイール18の周方向の列として配置される。複数の固定静翼22がシャフト14の周囲に周方向に配置され、軸方向には隣接動翼20列の間に位置する。固定静翼22は動翼20と協働してタービン段を形成し、タービン10を通る蒸気流路の一部を形成する。
【0009】
作動中に、蒸気24はタービン10の入口26に流入し、固定静翼22を通って流れる。静翼22は蒸気24を下流の動翼20に向ける。蒸気24は残りの段を通過し、動翼20に力を与えてシャフト14を回転させる。タービン10の少なくとも一端は軸方向にロータ12と遠位方向に延在していてもよく、特に限定されないが、発電機その他のタービンのような負荷又は機械(図示せず)に取付けることができる。
【0010】
図1に示す本発明の一実施形態では、タービン10は5つの段を含む。5段は、L0、L1、L2、L3及びL4として示す。L4段は第1段であり、5段のうちで最小(半径方向に)のものである。L3段は第2段であり、軸方向に次の段である。L2段は第3段であり、5段のうちの中央に位置するものとして示す。L1段は第4段であり、最後から2番目の段である。L0段は最終段であり、最大(半径方向に)のものである。5つの段は一例にすぎず、低圧タービンの段の数は4以下でも、6以上でもよい。また、本明細書に記載する通り、本発明の教示内容は複数段のタービンが必須というわけでもない。
【0011】
自明であろうが、蒸気タービン10は多数の部材を含む。便宜上、図2〜図4に示す固定弁軸102を参照して本発明を説明する。その他の固定部材としては、例えば、固定弁ブッシング104(図2〜図3)、ノズル、ケーシングなどが挙げられる。また、本発明の教示内容が弁頭又はローター動翼のような可動部材にも適用できることも自明であろう。部材100はセラミックマトリックス複合材(CMC)を含む。CMCは酸化に耐えることのできるセラミック材料であればよく、強化繊維又は織物を含んでいることもある。一実施形態では、CMCは、酸化をなくす作用をもつ酸化物系マトリックスを含む。例えば、CMC110は酸化アルミニウム(Al23)マトリックスを含む。別の実施形態では、CMC110は、硬さを増すため炭化ケイ素(SiC)繊維を含む。別の実施形態では、CMC110は酸化物系マトリックスとセラミック系繊維とを含む。例えば、酸化物系マトリックスは、酸化アルミニウム(Al23)、ホウ化チタン(TiB)及び炭化ケイ素(SiC)を含む。別の例では、酸化物系マトリックスは、Al23、二ホウ化チタン(TiB2)、炭化白金(PtC)又は炭化ケイ素(SiC)を含む。セラミック系繊維としては、上述の酸化物系マトリックスのいずれか又は炭化ケイ素(SiC)のようなセラミック系材料が挙げられる。その他のマトリックスとして、例えば、炭化ジルコニウム(ZrC)、炭化ハフニウム(HfC)、炭化チタン(TiC)、炭化タンタル(TaC)、及び炭化ニオブ(NbC)、並びにジルコニウム・ケイ素・炭素(Zr−Si−C)、ハフニウム・ケイ素・炭素(Hf−Si−C)又はチタン・ケイ素・炭素(Ti−Si−C)のような混合炭化物が挙げられる。その他の繊維としては、例えば、炭化ケイ素(SiC)、炭素(C)、並びに酸化イットリウム(Y23)及び酸化ジルコニウム(ZrO2)添加物を含むα−Al23、又はこれらの変形が挙げられる。いずれにせよ、CMC110は、部材100の延性又は材料系でのエネルギー吸収、さらには蒸気腐食耐性及び摩耗耐性を増大させるように作用すべきであり、場合によってはCMC110上に層又は繊維を設けてもよい。
【0012】
図2に示す一実施形態では、部材100は完全にCMCからなる。図3に示す別の実施形態では、部材100は部分的にCMCからなる。この例では、部材100は、金属コア114(鋼など)の上にCMC層112を含んでいる。この場合、熱膨張率の差を均衡させるためCMC層112と金属コア114の間に熱均衡接合部116が必要とされることもあろう。熱均衡接合部116としては、例えば、CMC層112と金属コア114の間のコンプライアント層が挙げられる。或いは、図4に示すように、部材100のうち蒸気に暴露される表面118だけがCMC110を含んでいてもよい。自明であろうが、本発明の技術的範囲内で様々な構成を用いることができる。
【0013】
部材100は現在公知の技術又は今後開発される技術のいずれを用いても形成することができる。例えば、強化材料のプリプレグを自立部材として又は金属コア114に固定した状態(図3)で作成し、プリプレグに繰返しセラミックを含浸し、セラミックを硬化させる。
【0014】
図5を参照すると、代替的な実施形態では、部材100の外面120はテクスチャー面120を含んでいてもよい。テクスチャー面120は、例えば、織物をプリプレグの外側部分として設け、織物によってテクスチャー面120が生じるようにすればよい。テクスチャー面120によって蒸気通路の表面積が増大すると、漏れが低減して効率が増大し得る。
【0015】
蒸気タービン用の弁軸に関して本発明の様々な実施形態を説明してきたが、本発明は蒸気タービン用の弁軸に限定されるものではない。特に、本発明は酸化が制限要因となる蒸気タービンのあらゆる部材に応用できる。例えば、本発明の教示内容はノズル、ケーシングなども適用できる。
【0016】
本発明は、酸化物の成長速度の低減を介して、次世代蒸気タービンに対する蒸気タービンの有用性を増大させる。
【0017】
本明細書における「第1の」、「第2の」などの用語は、順序、数量又は重要性を意味するものではなく、ある要素を別の要素から区別するためのものである。数量に関して用いる「約」という修飾語は、その数値を包含し、かつ文脈によって決まる意味を有する(例えば、その数量の測定に付随する誤差を含む。)。本明細書に記載された範囲は、上下限を含み、独立に組合せ自在である(例えば、「約25%以下、特に約5%〜約20%」との記載は「約5%〜約25%」の上下限及びあらゆる中間値を含む。)。
【0018】
本明細書では、様々な実施形態について説明してきたが、本発明の技術的範囲内で様々な要素の組合せ、変更及び改良を当業者がなし得ることは本明細書の記載から明らかであろう。また、本発明の技術的範囲内で、特定の状況又は材料を本発明の教示内容に適合させるための数多くの変更を行うこともできる。従って、本発明は、本発明を実施するための最良の実施形態として開示した特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的範囲に属するあらゆる実施形態を包含する。
【符号の説明】
【0019】
蒸気タービン 10
ローター 12
回転軸 14
ローターホイール 18
回転動翼 20
固定静翼 22
蒸気 24
入口 26
弁軸 102
弁ブッシング 104
部材 100
CMC 110
CMC層 112
金属コア 114
接合部 116
表面 118
テクスチャー面 120

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックマトリックス複合材(CMC)を含んでなる蒸気タービン(10)部材。
【請求項2】
CMC(110)が金属コア(114)上の層である、請求項1記載の蒸気タービン(10)部材。
【請求項3】
さらに、CMC(110)と金属コア(114)との間に熱均衡接合部(116)を含む、請求項2記載の蒸気タービン(10)部材。
【請求項4】
CMC(110)が酸化物系CMC(110)を含む、請求項1記載の蒸気タービン(10)部材。
【請求項5】
酸化物系CMC(110)が酸化アルミニウム(Al23)を含む、請求項4記載の蒸気タービン(10)部材。
【請求項6】
CMC(110)がさらに炭化ケイ素(SiC)を含む、請求項5記載の蒸気タービン(10)部材。
【請求項7】
CMC(110)が酸化物系マトリックス及びセラミック系繊維を含む、請求項1記載の蒸気タービン(10)固定部材。
【請求項8】
酸化物系マトリックスが酸化アルミニウム(Al23)、ホウ化チタン(TiB)及び炭化ケイ素(SiC)を含む、請求項7記載の蒸気タービン(10)固定部材。
【請求項9】
酸化物系マトリックスが酸化アルミニウム(Al23)、二ホウ化チタン(TiB2)、炭化白金(PtC)及び炭化ケイ素(SiC)を含む、請求項7記載の蒸気タービン(10)部材。
【請求項10】
CMC(110)が、
炭化ジルコニウム(ZrC)、炭化ハフニウム(HfC)、炭化チタン(TiC)、炭化タンタル(TaC)、炭化ニオブ(NbC)、ジルコニウム・ケイ素・炭素(Zr−Si−C)、ハフニウム・ケイ素・炭素(Hf−Si−C)及びチタン・ケイ素・炭素(Ti−Si−C)からなる群から選択されるマトリックス、並びに
炭化ケイ素(SiC)、炭素(C)、並びに酸化イットリウム(Y23)及び酸化ジルコニウム(ZrO2)を含むα−Al23からなる群から選択される繊維
を含む、請求項1記載の蒸気タービン(10)部材。
【請求項11】
部材の外面がテクスチャー面(120)を含む、請求項1記載の蒸気タービン(10)部材。
【請求項12】
部材が固定部材を含む、請求項1記載の蒸気タービン(10)部材。
【請求項13】
固定部材が、弁軸(102)、ノズル、及びブッシングからなる群から選択される、請求項12載の蒸気タービン(10)部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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