説明

セラミック電子部品

【課題】異なる材質の誘電体層を積層して形成しても、積層された誘電体層同士が互いに剥離してしまうことを十分に抑止することができるセラミック電子部品を提供すること。
【解決手段】本発明によるセラミック電子部品は、BaO、Nd23、及びTiO2を主成分として含む第1の誘電体層と、第1の誘電体層と異なる材質である第2の誘電体層と、第1の誘電体層と第2の誘電体層との間に形成された、Zn及びTiを含む境界層と、を含むものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話等の移動体通信機器、AV機器、及びコンピュータ機器等の分野では製品の小型化、及び高性能化が進み、それらに用いられている各種電子部品に関しても小型化、及び高性能化が要求されている。このような各種電子部品の小型化、及び高性能化に資するべく、内部に電極や配線等の導体(以下、電子デバイスの内部に備わる電極や配線等の導体を「内部導体」という)を備えた表面実装型デバイス(SMD:Surface Mount Device)が主流となっている。
【0003】
そして、材料特性の異なる複数種の磁器組成物を同時焼成して積層セラミック電子部品とすることで特性が改善された電子デバイスを作製する技術が研究されている。例えば、磁性体と誘電体とを組み合わせてなるLCフィルター、高誘電率材料と低誘電率材料とを組み合わせてなるコンデンサーを内蔵した回路基板(素子)等が挙げられる。
【0004】
LCフィルターの場合、L部を構成する部分のセラミック材料には自己共振周波数を高くとれるように高いQ値を有する低誘電率材料を、C部には温度特性が良く誘電率の高い材料を選択することで、Q値が高く、かつ温度特性が良いLC素子を実現できる。
【0005】
コンデンサーの場合、高誘電率材料と低誘電率材料とを組み合わせることで、高誘電率材料のみからなるコンデンサーに比して分布容量が低減でき、かつ低誘電率材料のみからなるコンデンサーに比して大容量化することができる。
【0006】
例えば、特許文献1には、マイクロ波帯での比誘電率が高く、かつ高Q値を有する絶縁層と、比誘電率が低い絶縁層とを同時焼成一体化してなる回路基板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−284807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、異なる材質の材料を同時焼成することによって複数の誘電体層を積層させた電子デバイスを形成すると、場合によっては誘電体層同士の接着性が不十分となり、誘電体層が剥離してしまうことがある。こうなると、電子部品とした際に誘電体層が剥がれてしまい製品不良の原因となる。そのため、組み合わせる誘電体層の材料について制限(制約)を受ける場合があり、かかる問題を解決し得る技術の開発が望まれている。
【0009】
そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、異なる材質の誘電体層を積層して形成しても、積層された誘電体層同士が互いに剥離してしまうことを十分に防止することができるセラミック電子部品を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記事情に鑑みて鋭意研究を行った結果、BaO、Nd23、及びTiO2を主成分として含む第1の誘電体層と、第1の誘電体層の材料と異なる材質である第2の誘電体層との間に、Zn及びTiを含む境界層を形成させることによって、意外にも、第1の誘電体層と第2の誘電体層が強固に積層されることを見出した。
【0011】
即ち、本発明のセラミック電子部品は、BaO、Nd23、及びTiO2を主成分として含む第1の誘電体層と、第1の誘電体層の材料と異なる材質である第2の誘電体層と、第1の誘電体層と第2の誘電体層との間に形成された、Zn及びTiを含む境界層とを含むものである。
【0012】
また、本発明では、BaO、Nd23、及びTiO2を主成分として含む第1の誘電体層と、その第1の誘電体層と異なる材質を含み、かつZnを含む誘電体材料とを同時焼成することによって、セラミック電子部品とすることが好ましい。この同時焼成によって、積層した誘電体層の間に、Ti及びZnを含む境界層を形成することができる。
【0013】
さらに、本発明では、第1の誘電体層が、Znを更に含むことが好ましい。これにより、第1の誘電体層と第2の誘電体層をより一層強固に積層させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、異なる材質の誘電体層を積層して形成しても、積層された誘電体層同士が互いに剥離することがないセラミック電子部品を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係るセラミック電子部品をLCフィルターとした場合の一実施形態の概念図である。
【図2】実施例10の一体化チップの境界付近におけるCOMPO像を示す図面代用写真である。
【図3】実施例10の一体化チップの焼成後チップでチップ中央部の境界付近におけるCOMPO像を示す図面代用写真である。
【図4】実施例10の一体化チップのZn成分についてのEDS像を示す図面代用写真である。
【図5】実施例10の一体化チップのTi成分についてのEDS像を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0017】
本実施形態のセラミック電子部品は、BaO、Nd23、及びTiO2を主成分として含む第1の誘電体層と、第1の誘電体層の材料と異なる材質である第2の誘電体層と、第1の誘電体層と第2の誘電体層との間に形成された、Zn及びTiを含む境界層とを含むものである。
【0018】
<第1の誘電体層>
本実施形態の第1の誘電体層は、BaO、Nd23、及びTiO2を主成分として含むものである。
【0019】
第1の誘電体層としては、主成分として、BaO、Nd23、及びTiO2を少なくとも含んでいるものであり、具体的にはBaO−Nd23−TiO2系、Bi23−BaO−Nd23−TiO2系等の誘電体セラミックスが挙げられる。ここで、BaO、Nd23、及びTiO2の各含有割合は限定されず、所望の物性等に応じて適宜好適な含有割合を選択することができる。
【0020】
BaO−Nd23−TiO2系化合物の場合、好ましくは、下記一般式(1)で表わされる組成式において下記(2)〜(5)で表わされる関係を満たすものが好ましい。
xBaO・yNd23・zTiO2 ・・・(1)
6.0≦x(モル%)≦23.0 ・・・(2)
13.0≦y(モル%)≦30.0 ・・・(3)
64.0≦z(モル%)≦68.0 ・・・(4)
x+y+z=100 ・・・(5)
【0021】
また、第1の誘電体層は、他の材質を主成分として更に含有してもよい。具体的には、例えば、フォルステライト(2MgO・SiO2)、エンスタタイト(MgO・SiO2)、ディオプサイド(CaO・MgO・2SiO2)が挙げられる。それらの中でもフォルステライト(Forsterite:フォレストライトともいう。化学式は、一般に、2MgO・SiO2 又はMg2SiO4で表わされ、本明細書においては前者を使用する。)が好ましい。2MgO・SiO2は、誘電損失を小さくする観点から、フォルステライト結晶の形態で誘電体層に含有されていることが好ましい。誘電体層にフォルステライト結晶が含有されているか否かは、X線解析装置(XRD)によって確認できる。
【0022】
BaO−Nd23−TiO2系化合物は、高い比誘電率εrを有し、その値は55〜105程度である。一方、2MgO・SiO2(フォルステライト)は、単体で低い比誘電率εrを有し、その値は6.8程度である。本実施形態のセラミック電子部品は、第1の誘電体層の主成分として、比誘電率εrが高いBaO−Nd23−TiO2系化合物と、比誘電率εrが低い2MgO・SiO2を含有することにより、第1の誘電体層の比誘電率εrを好適に下げることができる。
【0023】
また、BaO−Nd23−TiO2系化合物のQ・f値(単位:GHz)は、2000〜8000GHz程度である。一方、2MgO・SiO2(フォルステライト)単体のQ・f値は、200000GHz程度であり、2MgO・SiO2の誘電損失は、BaO−Nd23−TiO2系化合物の誘電損失に比べて小さい。本実施形態では、第1の誘電体層の主成分として、BaO−Nd23−TiO2系化合物と、BaO−Nd23−TiO2系化合物に比べて誘電損失の小さいフォルステライトとを含有させることで、誘電損失が小さい誘電体層とすることができる
【0024】
なお、Q・f値(単位:GHz)とは、誘電損失の大きさを表し、現実の電流と電圧の位相差と、理想の電流と電圧の位相差90度との差である損失角度δの正接tanδの逆数Q(Q=1/tanδ)と、共振周波数fとの積である。
【0025】
通常、理想的な誘電体磁器に交流を印加すると、電流と電圧は90度の位相差をもつ。しかしながら、交流の周波数が高くなり高周波となると、誘電体磁器の電気分極又は極性分子の配向が高周波の電場の変化に追従できず、あるいは電子又はイオンが伝導することにより、電束密度が電場に対して位相の遅れ(位相差)をもち、現実の電流と電圧は90度以外の位相をもつことになる。このような位相差に起因して、高周波のエネルギーの一部が熱となって放散する現象を、誘電損失と呼ぶ。誘電損失の大きさは、上述のQ・f値で表される。誘電損失が小さくなればQ・f値は大きくなり、誘電損失が大きくなればQ・f値は小さくなる。
【0026】
(副成分)
第1の誘電体層は、主成分以外の副成分を更に含んでいてもよい。副成分としては、特に限定されないが、例えば、亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、ビスマス酸化物、コバルト酸化物、マンガン酸化物、銅酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ガラス等が挙げられる。アルカリ土類金属酸化物としては、カルシウム酸化物がより好ましい。ガラスとしては、リチウム酸化物を含有するガラスが好ましい。
【0027】
上記の各副成分含有することによって、焼結温度を低下させることができるため、内部導体等として用いられるAg系金属からなる導体材の融点より低い温度で焼成することが可能となる。
【0028】
副成分の含有量は特に限定されないが、主成分の合計に対して副成分の合計が1.0
質量%〜20.0質量%であることが好ましい。
【0029】
副成分の一種である亜鉛酸化物の含有量は、亜鉛酸化物の質量をZnOに換算した場合の質量比率が、主成分100質量%に対して、0.1質量%以上7.0質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以上7.0質量%以下であることがより好ましい。
【0030】
副成分の一種であるホウ素酸化物の含有量は、ホウ素酸化物の質量をB23換算した場合の質量比率が、主成分100質量%に対して、0.1質量%以上3.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上2.5質量%以下であることがより好ましい。
【0031】
副成分の一種であるビスマス酸化物の含有量は、ビスマス酸化物の質量をBi23換算した場合の質量比率が、主成分100質量%に対して、1.0質量%以上4.0質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以上3.5質量%以下であることがより好ましい。
【0032】
副成分の一種であるコバルト酸化物の含有量は、コバルト酸化物の質量をCoOに換算した場合の質量比率が、主成分100質量%に対して、0.5質量%以上2.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上1.5質量%以下であることがより好ましい。
【0033】
副成分の一種であるマンガン酸化物の含有量は、マンガン酸化物の質量をMnO2に換算した場合の質量比率が、主成分100質量%に対して、0.3質量%以上1.5質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上1.0質量%以下であることがより好ましい。
【0034】
副成分の一種である銅酸化物の含有量は、銅酸化物の質量をCuOに換算した場合の質量比率が、主成分100質量%に対して、0.1質量%以上2.0質量%以下であることが好ましく、0.7質量%以上1.3質量%以下であることがより好ましい。
【0035】
副成分の一種であるアルカリ土類金属酸化物であるカルシウム酸化物の含有量は、カルシウム酸化物の質量をCaOに換算した場合の質量比率が、主成分100質量%に対して、0.1質量%以上1.5質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上1.5質量%以下であることがより好ましい。
【0036】
副成分の一種であるガラスの含有量は、主成分100質量%に対して、2.0質量%以上7.0質量%以下であることが好ましく、4.0質量%以上5.5質量%以下であることがより好ましい。
【0037】
<第2の誘電体層>
本実施形態の第2の誘電体層は、第1の誘電体層と異なる材質を含む誘電体層である。第2の誘電体層としては、第1の誘電体層と異なる材質であればよく、その種類は特に限定されず公知のものを用いることができる。具体的には、フォルステライト(2MgO・SiO2)、エンスタタイト(MgO・SiO2)、ディオプサイド(CaO・MgO・2SiO2)等が挙げられる。それらの中でも、比誘電率εrが低く、かつQ・f値が大きい観点から、フォルステライトを主成分とする誘電体層が好ましい。
【0038】
ここで、「第1の誘電体層と異なる材質を含む誘電体層」とは、第2の誘電体層の成分が、第1の誘導体層の成分と完全同一でなければよい。例えば、第1の誘導体層の成分の一部が、第2の誘電体層に含まれていてもよい。
【0039】
<境界層>
本実施形態の境界層は、第1の誘電体層と第2の誘電体層との間に形成され、Zn及びTiを含むものである。Zn及びTiを含む境界層が第1の誘電体層と第2の誘電体層との間に存在することにより、第1の誘電体層、境界層、及び第2の誘電体層を強固に積層することができる。この作用機序の詳細は未だ解明されていないものの、境界層にZn及びTiが含まれることにより、各材質に対し、反応性の良いZnTiO3系の結晶相が比較的低温で形成されることにより接合強度が向上するためと考えられる。
【0040】
Znとしては、特に限定されないが、亜鉛酸化物、硫酸亜鉛、塩化亜鉛等が挙げられる。それらの中でも、焼成後に残るアニオン類はチップの電気特性面,特に信頼性試験における寿命面への影響の観点から、ZnOが好ましい。
【0041】
Tiとしては、特に限定されないが、チタン酸化物、塩化チタン等が挙げられる。それらの中でも、焼成後に残るアニオン類はチップの電気特性面,特に信頼性試験における寿命面への影響の観点から、TiO2が好ましい。
【0042】
本実施形態において、Ti成分とZn成分の配合比率は特に限定されない。
【0043】
境界層は、その他の材質として、CuO、MgO、CoO、Fe23、NiOを含有してもよい。
【0044】
境界層の厚さは、第1の誘電体層と第2の誘電体層の材質等に基づいて適宜好適な厚さを選択でき、特に限定されないが、境界部付近の誘電特性を維持する観点から、上限値は10μmであることが好ましい。誘電体層をより強固に積層する観点から、下限値は1μmであることが好ましい。
【0045】
本実施形態において、境界層と第1及び第2の誘電体層の境界は必ずしも明確でなくてもよい。
【0046】
また、境界層の形成方法は特に限定されないが、第1の誘電体層と第2の誘電体層との同時焼成による反応によって形成されることが好ましい。これにより、第1の誘電体層と、境界層を構成し得る材質と、第2の誘電体層とが反応することよって、第1の誘電体層と第2の誘電体層との間に境界層を形成するとともに、第1の誘電体層と、境界層を構成し得る材質と、第2の誘電体層とを一体化させることができる。
【0047】
本実施形態では、BaO、Nd23、及びTiO2を主成分として含む第1の誘電体層と、第1の誘電体層と異なる材質を含み、かつZnを含む誘電体材料と、を同時焼成させることが好ましい。同時焼成によって、第1の誘電体と異なる材質を含みかつZnを含む誘電体材料中のZnと、第1の誘電体層中のTiとが反応することによって、Zn及びTiを含む境界層を形成するとともに、第2の誘電体層も形成することができる。その結果、第1の誘電体層と第2の誘電体層が、境界層を介して、強固に積層される。このZnは、焼結助剤として亜鉛酸化物等として誘電体材料に配合させることができる。
【0048】
本実施形態では、第1の誘電体層もZnを含むことが好ましい。第1の誘電体層もZnを含むことで同時焼成によって更に強固に誘電体層同士を積層することができる。このZnは、焼結助剤として亜鉛酸化物等の形態として第1の誘電体層に配合させることができる。
【0049】
反応条件は、特に限定されないが、例えば、870〜940℃で焼成させることが挙げられる。それらの中でも、900℃、2.5時間で焼成させることが好ましい。
【0050】
<セラミック電子部品>
本実施形態のセラミック電子部品は、例えば、高周波デバイスの一種である多層型デバイスの部品として好適に用いることができる。多層型デバイスは、内部にコンデンサー、インダクタ等の誘電デバイスが一体的に作り込まれた(一体に埋設された)複数のセラミック層からなる多層セラミック基板から製造される。この多層セラミック基板は、互いに誘電特性が異なる誘電体磁器組成物から形成されるグリーンシートにスルーホールを形成した後に、グリーンシートを複数積層し、これらを同時焼成して製造できる。他に製造可能な電子部品としては、ロー・パス・フィルタ(LPF)、バンド・パス・フィルタ(BPF)、ダイプレクサ(DPX)、カプラ(方向性結合器)、バルン(又はバラン:平衡不平衡インピーダンス変換器)等が挙げられる。
【0051】
本実施形態のセラミック電子部品をLCフィルターとした場合の一実施形態の概念図(模式断面図)を図1に示す。図1の符号10はLCフィルターを示す。LCフィルター10は、コンデンサーC1、C2、C3を有するコンデンサー部と、コイルLを有するコイル部とを備えている。コンデンサー部とコイル部とは、ビア(Via)12(ビア導体)によって接続されている。LCフィルター10のコンデンサー部は3層構造のコンデンサーから構成されているが、本実施形態のセラミック電子部品は、3層構造に限定されず、任意の多層構造をとり得る。本実施形態のセラミック電子部品は、SMDモジュール化した多層型デバイスとして、高周波LCフィルターに好適に用いることができる。
【0052】
多層型デバイスの製造においては、本実施形態の誘電体磁器組成物に、ポリビニルアルコール系、アクリル系、又はエチルセルロース系等の有機バインダー等を混合した後、得られた混合物をシート状に成形してグリーンシートを得る。グリーンシートの成形方法としては、シート法や印刷法等の湿式成形法を用いてもよく、プレス成形等の乾式成形を用いてもよい。
【0053】
次に、得られたグリーンシートと、これとは誘電特性が異なる他のグリーンシートとを、その間に内部電極となる導体材のAg系金属を配した状態で交互に複数積層し、この積層体を所望の寸法に切断してグリーンチップを形成する。得られたグリーンチップに脱バインダー処理を施した後に、グリーンチップを焼成して、焼結体を得る。焼成は、例えば、空気中のような酸素雰囲気にて行うことが好ましい。また、焼成温度は、導体材として用いるAg系金属の融点以下であることが好ましく、具体的には、860〜1000℃であることが好ましく、870〜940℃であることがより好ましい。得られた焼結体に外部電極等を形成することにより、Ag系金属からなる内部電極を備える多層型デバイスを製造できる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
<(1−1)BaNdTiO系酸化物(BaO−Nd23−TiO2セラミックス)材料の作製>
炭酸バリウム(BaCO3)24.36質量%と、水酸化ネオジム(Nd(OH)3)40.29質量%と、酸化チタン(TiO2)35.35質量%とを秤量(合計で100質量%とする)し、秤量粉体をナイロン製ボールミルに入れ、イオン交換水と市販分散剤を添加して25%濃度のスラリーを作製し、16時間混合した。
【0056】
混合したスラリーを回収し、120℃で24時間乾燥後、ウイレー粉砕機にて乾燥塊を解し、#30メッシュのふるいをパスさせる。回収した粉体をマグネシア製の匣鉢に詰め、電気炉にてAir中雰囲気で1270℃、2時間仮焼きを行い、母材の仮焼き粉(「一次仮焼き粉」と称す)を得る。
【0057】
一次仮焼き粉100質量%に対し、酸化ホウ素(B23)1.5質量%と、酸化亜鉛(ZnO)2.0質量%と、酸化銅(CuO)1.0質量%とを秤量し、秤量粉体をナイロン製ボールミル入れ、イオン交換水を添加して33%濃度のスラリーを作製し、16時間混合した。
【0058】
混合したスラリーを回収し、120℃で24時間乾燥後、ウイレー粉砕機にて乾燥塊を解し、#300メッシュのふるいをパスさせる。回収した粉体をマグネシア製の匣鉢に詰め、電気炉にてAir中雰囲気で750℃、2時間仮焼きを行い、母材と添加物の混合粉の仮焼き粉(「二次仮焼き粉」と称す)を得る。
【0059】
得られた二次仮焼き粉を99質量%秤量し、Ag粉末を1質量%秤量し、その粉体をナイロン製ボールミル入れ、アルコールを添加して33%濃度のスラリーを作製し、16時間混合して微粉砕した完成材を得た。
【0060】
混合したアルコールスラリーを回収し、80〜120℃で24時間乾燥後、ウイレー粉砕機にて乾燥塊を解し、#300メッシュのふるいをパスさせ完成材を得た。
【0061】
<(1−2)BaNdTiO系酸化物(BaO−Nd23−TiO2セラミックス)のシートの作製>
上述の方法にて得た完成材に、市販品のトルエン(1級)、アルコール(特級)、分散剤、アクリル樹脂ラッカーを所望量配合し、ポリエチレン製ボールミルに入れ、16時間混合し、シート成形用のスラリーを得た。これをドクターブレード法によってシート成形してシートを複数作成した。
【0062】
<(2−1)MgO・SiO2セラミックス材料の作製>
フォルステライト(2MgO・SiO2)100質量%に対し、酸化ホウ素(B23)を6.0質量%、酸化亜鉛(ZnO)を16.0質量%、酸化銅(CuO)を4.0質量%、炭酸カルシウム(CaCO3)を2.0質量%秤量し、秤量粉体をナイロン製ボールミルに入れ、イオン交換水を添加して33%濃度のスラリーを作製し、16時間混合した。
【0063】
混合したスラリーを回収し、120℃で24時間乾燥後、ウイレー粉砕機にて乾燥塊を解し、#300メッシュのふるいをパスさせる。回収した粉体をマグネシア製の匣鉢に詰め、電気炉にてAir中雰囲気で750℃、5時間仮焼きを行い、母材と添加物の混合粉の仮焼き粉を得た。
【0064】
得られた仮焼きを100質量%秤量し、炭酸リチウム(Li2CO3)を0.38質量%秤量し、その粉体をナイロン製ボールミルに入れ、アルコールを添加して33%濃度のスラリーを作製し、16時間混合して微粉砕した完成材を得た。
【0065】
混合したアルコールスラリーを回収し、80℃〜120℃で24時間乾燥後、ウイレー粉砕機にて乾燥塊を解し、#300メッシュのふるいをパスさせ完成材を得た。
【0066】
<(2−2)2MgO・SiO2セラミックス材料のシートの作製>
上述の方法にて得た完成材に、市販品のトルエン(1級)、アルコール(特級)、分散剤、アクリル樹脂ラッカーを所望量配合し、ポリエチレン製ボールミル入れ、16時間混合し、シート成形用のスラリーを得た。これをドクターブレード法によってシート成形してシートを複数作成した。
【0067】
<(3−1)BaNdTiO系酸化物と2MgO・SiO2セラミックスのコンポジット材料の作成方法>
炭酸バリウム(BaCO3)を24.36質量%、水酸化ネオジム(Nd(OH)3)を40.29質量%、酸化チタン(TiO2)を35.35質量%秤量(合計で100質量%とする)し、秤量粉体をナイロン製ボールミル入れ、イオン交換水と市販分散剤を添加して25%濃度のスラリーを作製し、16時間混合した。
【0068】
混合したスラリーを回収し、120℃で24時間乾燥後、ウイレー粉砕機にて乾燥塊を解し、#30メッシュのふるいをパスさせる。回収した粉体をマグネシア製の匣鉢に詰め、電気炉にてAir中雰囲気で1270℃、2時間仮焼きを行い、母材の仮焼き粉(「一次仮焼き粉」と称す)を得た。
【0069】
一次仮焼き粉68.4質量%に対し、フォルステライト(2MgO・SiO2)31.4質量%(一次仮焼き粉+フォルステライトで100質量%とする)、酸化ホウ素(B23)を2.48質量%、酸化亜鉛(ZnO)を6.67質量%、酸化ビスマス(Bi23)を3.14質量%、酸化コバルト(CoO)を1.12質量%、炭酸マンガン(MnCO3)を0.66質量%、炭酸カルシウム(CaCO3)を1.07質量%秤量し、秤量粉体をナイロン製ボールミル入れ、イオン交換水を添加して33%濃度のスラリーを作製し、16時間混合した。
【0070】
混合したスラリーを回収し、120℃で24時間乾燥後、ウイレー粉砕機にて乾燥塊を解し、#300メッシュのふるいをパスさせる。回収した粉体をマグネシア製の匣鉢に詰め、電気炉にてAir中雰囲気で750℃−2時間仮焼きを行い、母材と添加物の混合粉の仮焼き粉(「二次仮焼き粉」と称す)を得た。
【0071】
得られた二次仮焼き粉を100質量%秤量し、Ag粉末0.75質量%を秤量し、その粉体をナイロン製ボールミルに入れ、アルコールを添加して33%濃度のスラリーを作製し、16時間混合して微粉砕した完成材を得た。
【0072】
混合したアルコールスラリーを回収し、80℃〜120℃で24時間乾燥後、ウイレー粉砕機にて乾燥塊を解し、#300メッシュのふるいをパスさせ完成材を得た。
【0073】
<(3−2)BaNdTiO系酸化物と2MgO・SiO2セラミックスのコンポジット材料のシートの作製>
上述の方法にて得た完成材に、市販品のトルエン(1級)、アルコール(特級)、分散剤、アクリル樹脂ラッカーを所望量配合し、ポリエチレン製ボールミルに入れ、16時間混合し、シート成形用のスラリーを得た。これをドクターブレード法によってシート成形してシートを複数作成した。
【0074】
<実施例1〜10及び比較例1〜6>
上述で得た(1)BaNdTiO系酸化物、(2)2MgO・SiO2、(3)BaNdTiO系酸化物と2MgO・SiO2のコンポジットを用いて、表1に示す条件にて一体化チップを作製し、それらの境界反応層の拡散主成分、メッキ処理後の境界反応層への浸漬状況、境界反応層の厚み、及び誘電体層の剥がれ状況の有無について確認した。これらの結果を表1及び2にまとめて示す。一体化チップの作成方法及び評価方法は、表1及び2に示した条件を変化させたこと以外は、以下に例として示す実施例10における場合と同様とした。
【0075】
<実施例10>
(BaNdTiO系酸化物と2MgO・SiO2セラミックスのコンポジット材料のシートを用いての一体化チップの製造)
【0076】
(焼成まで)
BaO−Nd23−TiO2セラミックスシートにAgペースト(TDK社製)を所望のコンデンサパターン形状(焼成後にチップの形状が長手方向4.5mm、幅方向3.2mmであるパターン)に印刷し120℃、15分間乾燥させた。
【0077】
次に、2MgO・SiO2セラミックスシートを外層部分にあて、印刷したBaO−Nd23−TiO2セラミックスシートを内層部分にあてて、シートを積層(内層部としては4層品を形成)し、70℃、700kg/cm2、7分間の条件でプレスを行った。それを、湿式切断方式で所望のコンデンサー形状に切断し、バッチ炉にて350℃で1時間脱バインダー後、900℃、2.5時間にてAir雰囲気にて焼成し一体化チップを得た。
【0078】
(焼成以降〜めっきまで)
焼成した一体化チップの端部に外部端子を形成させるため、市販品のAgの外部端子ペーストを用いて端子両側に手動塗布、120℃15分で乾燥し、連続式焼成炉(LINDBERG(株)製)にて670℃で焼付け処理を行った。端部焼成したチップを社内所有品の電気めっき装置でCu−Ni−Snめっきを行い、各めっきにて所望厚膜値になるまでめっきを行い、一体化チップを得た。
【0079】
(一体化チップの境界部剥がれ有無の確認方法)
めっき後まで処理を施した一体化チップの3面(平面、側面、端面)を金属顕微鏡で確認し剥がれ等の異常が無いか試料毎にn=10(箇所)について確認した。
【0080】
(一体化チップの境界部の拡散厚みの確認方法)
めっき後まで処理を施した一体化チップをペンチで破断し、その破断した境界面を走査電子顕微鏡(日本電子データム(株)製、「JSM−T300」)により観察し、一体化焼成後の境界面のCOMPO(組成)像(2000倍)を撮影して境界部の拡散厚みを観察機付属のスケーラーで確認した。図2に、実施例10の一体化チップの境界付近のCOMPO像を示す。図2において、第2の誘電体層(2MgO・SiO2セラミックス材料)が上層として、第1の誘電体層(BaNdTiO系酸化物)が下層として形成されていることが認められた。そして、上層と下層との間に境界反応層(厚み:10μm)が形成されていることが認められた。即ち、同時焼成により上層と下層との間に反応によって境界反応層が形成されていることが確認された。
【0081】
(一体化チップの境界部の耐めっき性有無の確認方法)
めっき後まで処理を施した一体化チップをペンチで破断し、その破断した境界面を走査電子顕微鏡(日本電子データム(株)製、「JSM−T300))により観察し、一体化焼成後の境界面のCOMPO像(2000倍)を撮影して境界部の耐めっき性の有無を確認した。
【0082】
(一体化チップの境界部の拡散元素の確認方法)
焼成後の一体化チップを市販のエポキシ樹脂を用いて容器に埋め込み、研磨剤を用いて研磨し、鏡面研磨で仕上げた後、その研磨面を走査電子顕微鏡(日本電子データム(株)製、「JSM−6700」)によりSEM−EDS観察し、一体化焼成後の境界面のEDS像(2000倍)を撮影し、境界部の拡散元素分布状態について確認した。図3に、実施例10の一体化チップの焼成後チップでチップ中央部の境界付近におけるCOMPO像を示す。図4に、実施例10の一体化チップのZn成分についてのEDS像を示す。図5に、実施例10の一体化チップのTi成分についてのEDS像を示す。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【0085】
実施例1〜10は、いずれも境界反応層の拡散主成分がZnO及びTiO2であることが確認された。そして、第1の誘電体層と第2の誘電体層との一体化時の剥がれも認められず、めっき処理後の境界反応層への浸漬も認められなかった。一方、比較例1〜4はいずれも境界反応層の形成が認められなかった。そして、第1の誘電体層と第2の誘電体層との一体化時の剥がれが認められ、めっき処理後の浸漬も認められた。以上より、本実施例によれば、本実施形態のセラミック電子部品は積層された誘電体層同士が剥離することがない程度に強固に積層されていることが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明に係るセラミック電子部品は、LCフィルターや各種コンデンサー等といった各種の電子デバイスとして幅広い分野で利用できる。
【符号の説明】
【0087】
10 LCフィルター
12 ビア
C1、C2、C3 コンデンサー
L コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BaO、Nd23、及びTiO2を主成分として含む第1の誘電体層と、
前記第1の誘電体層と異なる材質である第2の誘電体層と、
前記第1の誘電体層と前記第2の誘電体層との間に形成された、Zn及びTiを含む境界層と、
を含む、セラミック電子部品。
【請求項2】
BaO、Nd23、及びTiO2を主成分として含む第1の誘電体層と、前記第1の誘電体層と異なる材質を含み、かつZnを含む誘電体材料と、を同時焼成してなる、セラミック電子部品。
【請求項3】
前記第1の誘電体層は、Znを更に含む、請求項2に記載のセラミック電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−226038(P2010−226038A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74428(P2009−74428)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】